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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

タイプ・レッド  第1話

シャングリラ学園に特別生として再び入学した私たち。エッグハントが名物の新入生歓迎会や校内見学、クラブ見学といった一連の行事も終わって、今日から授業開始です。キース君、シロエ君、マツカ君はまた柔道部に入りました。放課後はもちろん今までどおり「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋が溜まり場で…。アルトちゃんとrちゃんは入学式の日だけのゲストで、それ以後はまだ来ていません。
「かみお~ん♪ブルーが待ってるよ!」
授業が終わって「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に行くと、会長さんがゆったりとソファに座っていました。テーブルの上にはリボンがかかった箱があります。こ、この箱は…もしかして…。
「年度始めって慌しいよね。去年までは一人で行っていたから、入学式の日だったんだけど…今年はぼくも最初から1年A組ってことになってるし」
入学式以来、一度もクラスに来ていないくせに、会長さんは1年A組を自分のクラスと決めてかかっているようです。まだ部活が始まっていないキース君が大きな溜息をつきました。
「…その箱の中身は例のヤツか。新学期の度に届けるという…」
「そう。青月印の紅白縞のトランクスだよ」
新学期の初めに会長さんが教頭先生にプレゼントする紅白縞のトランクス5枚。私たちが去年の2学期から付き合わされている行事です。
「で、また俺たちを連れて行くのか?…こんなことなら午後からキャンパスに行けばよかった。博士課程の先輩たちが寺院経営について語り合う催しがあったのに…」
キース君の大学の講義が始まるのはまだ先でした。受講の登録を済ませただけで、毎日シャングリラ学園の方に来ています。それが裏目に出ちゃったみたい。キャンパスに出かけていればトランクスのお届け物には付き合わなくて済んだんです。
「つまり付き合ってくれるんだよね。ありがとう、キース」
「………!!!」
墓穴を掘ったと気付いたキース君が青ざめましたが、後の祭り。今更キャンパスに行くとも言えず、渋々頷くしかありません。会長さんはニッコリ笑って箱を抱えて立ち上がります。
「それじゃ行こうか。ハーレイが首を長くして待っているよ、きっと」
私たち7人と「そるじゃぁ・ぶるぅ」を引き連れ、会長さんは意気揚々と教頭室のある本館へ…。

重厚な扉を会長さんがノックし、「失礼します」と入ってゆくと、机で書き物をしていた教頭先生が弾かれるように顔を上げました。
「…ブルー!?」
信じられない、という表情を浮べる教頭先生。会長さんはクスクスと笑い、リボンのかかった箱を机に置いて。
「お待たせ、ハーレイ。…遅くなっちゃったけど、いつもの青月印だよ」
「………くれるのか……?」
「うん。…もしかして、持ってこないと思ってた?」
小首を傾げる会長さんに、教頭先生が頷きます。
「どうして?」
「…そ、それは……」
そう言ったきり教頭先生は黙ってしまい、頬がみるみる内に真っ赤に。会長さんは教頭先生をじっと見ながら人差し指で自分の唇をゆっくりなぞって…。
「そうだね、あれっきり会ってないものね。シャングリラからの帰りのシャトルは一緒だったけど、あそこではソルジャーとキャプテンの延長だったし…。公の立場を離れて会うのは青の間以来ってことになるんだっけ」
なんと、会長さんはシャングリラから地球に帰還した後、一度も教頭先生に会わずに過ごしてきたようです。私たちが青の間でギャラリーをさせられた夜が私的に会った最後ってことは…教頭先生と会長さんの間の時間はあれ以来、止まったままというわけで…。
「ふふ、避けられてると思ったんだ?…からかうつもりで誘ったってまだ気付かないほど馬鹿じゃないだろうし、気付いたら立場が無いもんねぇ。ぼくにキスして、ベッドの上でのしかかって…あちこちキスして触っただけに、嫌われたって仕方ない。…そうだろう?」
「……………」
「大丈夫、ぼくはそんなに心が狭くはないから。ただ、ヘタクソだな…とは思ったよ。本当にぼくを手に入れたいなら、何処かで練習すべきだね。…まあ、練習出来る根性があれば、とっくの昔に強引に押し倒しに来ただろうけど。…まったく、なんでぼくしか見えてないんだか…」
会長さんが教頭先生の手にそっと自分の手を重ねました。
「馬鹿だね、ハーレイ。ぼくなんか追っかけ続けて、振られっぱなしでオモチャにされて。…青の間に呼び出した時、もう少しだけ頑張っていれば…何が見られたか知ってるかい?ハーレイとお揃いの白黒縞。どうせならそこまで見て欲しかったな」
げげっ。白黒縞って…トランクスのことですよね?それっぽく見える特注品のサーフパンツだったとしても、教頭先生が目にするためには会長さんのズボンに手をかけなくてはいけないわけで…。確かベルトも締めてましたし、かなりハードル高そうです。それとも本気モードだったら大したことではないんでしょうか?
「…ねえ、ハーレイ。ぼく、今日もちゃんと白黒縞のを履いてきたんだ。…仕切り直しのチャンスだよ」
「「「えぇぇぇっ!?」」」
教頭先生よりも先に絶叫したのは私たち7人の方でした。仕切り直しって、ひょっとして…。
「あの時、逃げて行っちゃっただろう。…もう一度…って思わないかい?もう一度最初から…二人だけで。仮眠室のベッドは十分広いし、シャワーもあるし。行こうよ、ハーレイ」
会長さんは教頭先生の手に重ねていた白い手を逞しい腕へと滑らせ、そのまま肩へ抱きつくように。
「…この部屋はぶるぅとジョミーたちに留守番をしてて貰えばいい。…みんな待っててくれるよね?」
え。待つって…まさか教頭先生と会長さんが仮眠室に行ってる間、ここで待ってろってことですか!?ギャラリーよりかはマシかもですが、でも…でも、仮眠室の中では会長さんと教頭先生が…。
「ちょっと待て!」
キース君が叫び、ジョミー君たちに合図して…仮眠室の扉の前に男の子5人が素早く立ち塞がりました。
「何を企んでいるか知らんが、行かせるか!…ここは通さん。さっさと教頭先生から離れるんだな」
「ふぅん…。人間バリケードなんだ?でも大事なことを忘れてないかい?…ぼくには扉なんか意味ないし」
ハーレイを連れて仮眠室へ瞬間移動することくらい朝飯前さ、とおかしそうに笑う会長さん。
「さあ、行こう、ハーレイ。…ぼくを…今度こそ抱きたいんだろう?…ヘタクソでも今日だけは許してあげるよ。こんなに大勢ギャラリーが居るし、恥をかきたくなければ頑張った方がいいだろうけど」
「…ギャラリー…?」
教頭先生がやっとのことで絞り出した言葉に、会長さんがクスッと笑って。
「そう、ギャラリー。…待ち時間って退屈だろう?この子たちもサイオンに目覚めたことだし、ぶるぅのサポートがあれば仮眠室の中で起こってることを見聞きするのは簡単なんだよ。…というわけだから、全力を尽くして抱いてごらん?首尾よく白黒縞まで辿り着けたら、ぼくをその気にさせられるかもね」
「……うう………」
脂汗を浮べる教頭先生。先日の青の間よりも状況は遥かに厳しいです。ベッドに「そるじゃぁ・ぶるぅ」が頬杖をついているのも大概ですが、7人もの生徒が生中継で見ているとなれば、衆人環視みたいなもので…。
「どうしたのさ、ハーレイ。…飛ぶよ、時間がもったいないから」
教頭先生の肩に抱きついた会長さんの身体の周りで青いサイオンの光が揺らめいて…。
「うわぁぁぁーーーっっっ!!!」
野太い悲鳴を上げた教頭先生が会長さんの腕を振り払って逃げ出しました。人間バリケードを築いていたジョミー君とサム君の間を走り抜け、突き飛ばされた二人が床に尻餅をつくよりも早く仮眠室に飛び込んで…。バタン!ガチャリ、と内側から鍵が掛かったようです。会長さんの身体から青い光が消え、スッと扉に近づいて。
「…逃げるんだ?ハーレイのヘタレ!」
答えは返ってきませんでした。
「隅っこで蹲ってるよ。ぼくが追ってくるかと思って怯えてるんだ。本当に情けないったら…」
扉の向こうをサイオンで覗いたらしい会長さんは。
「ハーレイ、ぼくは帰るからね!次のチャンスが巡ってくるまでにヘタレを直して、テクニックも磨いておくといい。…絶対できっこないだろうけど、期待しないで待っててあげるよ。甲斐性なしの役立たず!!」
立て籠もっている教頭先生を激しく罵り、物音一つしない仮眠室の扉にクルリと背を向け、会長さんは教頭室を出て行きます。ジョミー君とサム君が痛そうに腰を擦りながら続き、私たちもゾロゾロと…。大きな机の上にはリボンのかかったトランクスの箱。教頭先生が仮眠室から怖々出てきて箱を手にするのはいつになるやら…。

影の生徒会室に戻ると「そるじゃぁ・ぶるぅ」が何種類ものベルギーワッフルをお皿に乗せて持ってきました。
「出かける前に焼いたんだよ。好きなだけ食べてね♪」
会長さんの悪戯に付き合わされてゲンナリしていた私たちですが、それとこれとは話が別です。美味しいお菓子に、紅茶にコーヒー。早速ぱくついていると会長さんが。
「…今週の金曜日なんだけど…。夕方からぼくに付き合って欲しいんだ」
「「「えっ!?」」」
またギャラリーをさせられるのか、と顔がこわばる私たち。会長さんは「そうじゃないよ」とすぐに否定し、「どっちかといえばお願いかな」と小さな溜息をつきました。
「…さっきの悪戯で怒っちゃったんなら謝るから…ついて来てくれると嬉しいんだけど」
「どこに?」
尋ねたのはジョミー君。会長さんが謝罪の言葉を口にしてまで同行してくれと頼むだなんて、いったい何処へ行くのでしょうか?
「…ノルディの家…」
「「「えぇぇっ!?」」」
ノルディといえばドクター・ノルディ。会長さんを食べようと狙い続けている、とても危ないお医者さんです。そんなドクターの家へ何をしに?…まさか懲りずにからかいに…。私たちは万一の時の救助要員というわけですか?
「…救助要員じゃなくて用心棒だよ」
会長さんは何度目かの溜息をつき、紅茶で喉を潤して…。
「年に一度の健康診断に出掛けなくちゃいけないんだ。ぼくたちは特殊な人間だから、仲間であるノルディの病院にデータを管理して貰ってる。軽い風邪とかなら何処でもいいけど、大きな病気や怪我をした時は、事情を知ってる仲間の病院が一番だしね。…ノルディが院長をしてる病院、君たちも知っていると思うよ」
聞かされた名前はアルテメシアでも指折りの大きな総合病院でした。前に教頭先生がドクターはお金持ちだと言ってましたが、なるほど、あそこの院長だったらお金持ちなのは当然かも。
「…ノルディは自宅でも開業してるんだ。予約制で週に数回だけね。だから家にも設備はあるし、簡単な健康診断ならそっちで出来る。カルテも管理しやすいから、ってことで、ぼくたちの仲間はノルディの家で健康診断を受けて、詳しい検査が必要と判断されたら病院の方へ行くんだよ」
「…仲間ってことは、俺たちもか…?」
キース君の問いに会長さんは「いずれはね」と答えました。
「君たちはまだ力に目覚めたばかりだし…普通の病院で十分間に合う。実年齢と外見の差が開き始めたら、ノルディの病院を受診することになってるのさ。で、ぼくも年に一度の健康診断は欠かせない。ソルジャーともなれば、なおのことだ。…だけど…今回はどうしても気が進まなくて」
一人で行ったら何をされるか分からない、と顔を曇らせる会長さん。
「この間はハーレイが助けてくれたけれども、ノルディが諦めたとは思えないんだ。いつも健康診断の度に、ここぞとばかりに触りまくっているからね。…だからボディーガードを頼みたい。君たち全員がくっついて来たら、いくらノルディでも下手に手出しはできないだろう」
「フィシスさんに頼むか、ぶるぅを連れて行けばいいじゃありませんか」
シロエ君がそう言いましたけど。
「…フィシスには心配させたくないから頼めない。そして、ぶるぅじゃ全然ダメだ。…何も分かっていない子供なんだし、ノルディに上手く丸め込まれてニコニコ笑っていそうでさ…。言いかねないんだよ、ノルディなら。…ぼくは喜んでるんだから安心しろ、って」
げげっ。よ、喜んでるって…いったい何を!?この流れからして、答えは一つ。
「…癪だけど、ノルディは確かにテクニシャンだ。この前、うっかりつけられてしまったキスマーク…。あの時のことは今もハッキリ覚えてる。ノルディのヤツ、ダテに百戦錬磨じゃないらしい。…ぼくの弱い場所を狙ってきたよ。どうやって分かったんだろう…」
身体がビクッと震えたんだ、と会長さんは俯きました。
「ハーレイになら何度キスをされても、頭の中では余裕で笑ってられたんだけどね…。ノルディの方は全然違った。青の間でハーレイがぼくにしたようなことをノルディにされたら、ぼくは抗えないかもしれない。…多分、いいように翻弄されて…逃げ出せないんじゃないかと思う」
ひえぇぇ!それって、食べられちゃうってことですよね?…健康診断にやって来た会長さんを食べてしまうくらい、ドクターなら平気でやりそうです。それを見ている「そるじゃぁ・ぶるぅ」が『大人のお楽しみ』だと勘違いしてしまいそうなことも容易に想像がつきました。これは危険なんてものではなくて…。
「…分かってくれた?…健康診断の見学を兼ねて、一緒に来てくれるだけでいいんだ。キースとシロエ、マツカにはどうしても来て欲しい。柔道部で鍛えてるだけに腕っ節が立つからね」
「………。分かった。そういうことなら都合をつけよう」
キース君が頷きました。
「教頭室の件は忘れてやる。あんたが危ないと分かっていながら放置するのは、俺の信条に反するからな。困っている人間を見捨てるようじゃ、立派な坊主になれないし…。ボディーガードくらい、お安い御用だ。…夕方だったら午後の講義が終わってからでも間に合うだろう。何時にここへ来ればいい?」
「…約束したのは夕方の6時。だから5時過ぎまでに来てくれれば…」
ドクターの家まではタクシーで行けばいいから、と会長さん。
「みんなもぼくと来てくれるよね?…人数が多ければ多いほど安心できるし」
危険が迫っていると聞かされた以上、断るわけにはいきません。私たちはコクリと頷き、会長さんの健康診断に付き添うことになりました。スウェナちゃんと私はボディーガードなんてガラじゃないですけれど、揃って家に押しかけていけば、抑止力にはなるでしょうしね。

二十光年の彼方を航行中だったシャングリラの中で、教頭先生をからかうために青の間のベッドに誘った会長さん。傍目には危機一髪としか思えなかったあの状態でも平然としていた会長さんを、キスマーク1つで怯えさせるとはドクター・ノルディのテクニックは半端なものではなさそうで…。私たち、会長さんを無事に守れればいいんですけど、大丈夫かな?…教頭先生の方が適任なのでは…。そんな話を交わしていると。
「…ハーレイを連れて行ったら、それはそれでマズイんだ」
ボディーガードとしては有能だけど、と会長さんは苦笑いして。
「ぼくを欲しがってる二人が顔を合わせてしまうんだよ?…この間は無事に収まったけど、今度はどうなるか分からない。意気投合されてしまって、二人がかりで襲いかかられたらどうするのさ。ハーレイに押さえ込まれて、ノルディに好きに嬲られちゃったらおしまいじゃないか」
「「「!!!!!」」」
私たちの脳裏に蘇ったのは、まりぃ先生の妄想イラストでした。ドクターが登場した後、怪しげなのを沢山描いてましたっけ…。会長さんを二人がかりでオモチャにしている教頭先生とドクターの絵を。あんな世界が決して実現しない、と言い切れる根拠はありません。
「…分かったかい?だから君たちに頼むんだ。…本当に、ぼくとしたことが…」
あのキスマークさえ付けられなければ、と唇を噛む会長さんの顔を「そるじゃぁ・ぶるぅ」が覗き込んで。
「ブルー…。ぼくだと役に立たないの?健康診断、ついて行くよ?」
今までの会話は理解していないようですけれど、心配でたまらないのでしょう。会長さんは銀色の小さな頭を撫でて柔らかな笑みを浮べました。
「ぶるぅにもちゃんと来てもらうよ。…役に立たないなんて思ってないさ。ただ、ぶるぅは素直ないい子だから…ノルディに騙されちゃったら大変なことになっちゃうんだ。…うまく説明できないけれど」
「…そっか…。ぼく、大人のお話、分からないしね」
納得したらしい「そるじゃぁ・ぶるぅ」は私たちに「ブルーを守ってあげて」と何度も言って、小さな手で一人一人の手をギュッと握って回ります。ドクター・ノルディの魔手から会長さんを守り、健康診断を何事もなく終わらせねば、という使命感が生まれた瞬間でした。健康診断は金曜日。…十三日でも仏滅でもない金曜日ですし、きっとなんとか…なるんじゃないかと思いたいです。

 

 

 

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