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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

 クー、クルックー。
 鳩か、とダイニングの窓から庭を眺めたハーレイは「おっ?」と顔を綻ばせた。
 朝食の途中、庭の方から聞こえた鳴き声。普通の鳩かと思ったのだけれど。
 公園などで見かける鳩。野生のキジバトとは鳴き声が違う。何処かの公園から飛んで来たな、と考えた鳩。予想通りの姿の鳩が庭の木の枝に止まってはいたが。
(伝書鳩か…!)
 珍しいな、と目を凝らした。鳩の片方の足にチラリと見えた、足の色とは異なった色。
 サイオンを使えば、ある程度の距離なら双眼鏡のように拡大して見ることが出来る。サイオンの扱いが不器用になってしまった小さなブルーには出来ないけれども。
(ふうむ…)
 やはり、とハーレイの笑みが深くなった。
 鳩の足に見付けた、色が異なっている部分。其処に異物がくっついていることが判別できた。
 そうではないか、と思ったからこそサイオンを使って見てみたわけだが。
 色が違って見えた部分の正体は足輪。
 鳥の個体の識別用に、と研究者が付けることも多いが、この種の鳩ならそうではない。鳩の飼い主が付けた足輪で、自分の鳩だと見分けるための認識票。
 その足輪に付けられた小さな筒。
 レース用の鳩かと思ったけれども、これならば違う。レース用の鳩なら足輪だけだ。
(こいつは本物の伝書鳩だぞ…!)
 愛好家が使う、通信用の伝書鳩。レース用とは違った鳩。
 ブルーに話してやらなければ、とハーレイは枝に止まった鳩の姿を頭にしっかり叩き込んだ。



 その日、運良く早めに終わった仕事。いそいそと学校の駐車場に停めた愛車に乗り込み、目指す家へと出掛けて行った。来客用のガレージに車を置いてチャイムを鳴らせば、二階の窓にブルーの姿。軽く手を振り、門扉を開けに来たブルーの母に案内されて二階へと。
 紅茶と、夕食に差し支えない程度の菓子と。
 テーブルに置かれたそれを前にしてブルーと二人で向かい合って座り、早速、話した。
「今朝、鳩を見たぞ」
「ぼくは雀も見かけたよ?」
 鳩だって見たよ、と得意げに庭を指差すブルーに訊いてみた。
 その鳩は足輪を付けていたか、と。
「…足輪?」
「お前ではちょっと見えないかもな」
 サイオンで遠くを見られないしな、付いてても分からないかもなあ…。
「ううん、其処の木の枝に止まっていたから、良く見えたよ」
 枝で羽繕いしていたけれども、足輪なんか付いていなかったよ。
「そいつは残念な話だな。俺の見た鳩とは違うようだ」
 俺の家とは離れてるからな、別の鳩が遊びに来てたんだろうな。



 足輪の話は予想通りにブルーの興味を引いたらしくて。
 赤い瞳を煌めかせながら、ブルーは問いを投げ掛けて来た。
「ハーレイの見た鳩、足輪が付いてた?」
「付いていたとも。おまけに筒もな」
「筒?」
 キョトンとしている小さなブルー。
 個体識別用の足輪ならばさして珍しくないが、筒などは付いていないから。
「手紙を入れておくための筒さ」
 伝書鳩ってヤツを知らないか?
 俺は今朝、そいつに出会ったんだが。
「伝書鳩?」
 知らないよ、とブルーは首を傾げた。
「ふうむ…。だが、レース鳩は知っているだろう?」
「なあに、それ?」
 どっちも、ぼくは聞いたことが無いよ。
 伝書鳩とか、レース鳩とか、それって鳩の種類なの?
「そうか、知らんか…。前の俺たちの時代には無かったからなあ、どっちの鳩も」
 種類としては、ごくごく普通の鳩なんだが。
 野生のじゃなくて、公園とかで飼ってるヤツだな。
 餌を撒いたらわんさと集まる、ああいった鳩と同じ鳩さ。



 どちらも知らない、と答えたブルーに、ハーレイは説明してやった。
 伝書鳩とはどういうものかを、思念ではなく、きちんと言葉で。
「今じゃ二種類あるんだがなあ、レース用の鳩と、伝書鳩と」
 元々はレース用の鳩はいなくて、伝書鳩の方だけだった。
 鳩の帰巣本能を使っているのさ、遠くで放すと自分の家へと飛んで帰って行くからな。そういう風に育てた鳩をだ、通信手段に役立てていたのが伝書鳩だ。
 足に手紙をくっつけてやれば、そいつを運んでくれるんだな。空を飛ぶからうんと早いし、通信手段が発達していなかった時代は重宝されていたらしい。
 ついでに手紙だけじゃなくって、荷物も運んでいたそうだ。背中に荷物を結んでおけば目的地にきちんと届けてくれる。鳩が背負える程度の重さの荷物しか駄目だが、凄かったんだぞ。
 人間じゃ簡単に辿り着けないような僻地へ、薬や血清を運んでいたのさ。沢山の人の命を救った偉い鳩なんだ、薬とかを運んだ伝書鳩は。
「へえ…!」
 ハーレイが見たのはどんな鳩なの、とブルーが訊くから、手と手を重ねて思念で伝えた。
 こんな鳩だと、これが足輪でこれが筒だ、と。



 伝書鳩の姿を知ったブルーは、「ぼくも見たかったな…」と羨ましそうで。
「この筒に手紙が入っているの?」
「そうなるな。うんと昔なら、秘密の暗号文とかな」
 SD体制よりも前の話だぞ、そんなのは。今の伝書鳩が運ぶ手紙は、ただの手紙だ。
 レース用の鳩が殆どなんだが、こういうのが好きな愛好家ってヤツもいるんでな。レースよりも手紙だ、昔ながらの伝書鳩だ。
 俺が見た鳩は、手紙を遠くへ運ぶ途中で休憩してたっていうことさ。
「面白いね。レース用の鳩は何をするの?」
「もちろんレースだ、目的地までの飛行時間を競うんだ」
 どれだけの時間をかけて着いたか、飛行時間で勝負が決まる。今じゃそっちが殆どだそうだ。
 前の俺たちの時代はどっちも無くって、今の世界ならではの遊びだが…。



 レース鳩には手紙を入れる筒などは無くて足輪だけだ、とハーレイはブルーに教えてやった。
「その足輪がまた、よく出来ていてな。鳩が家まで飛んで帰って着いた時間を記録するんだ」
 そういう仕組みになっているからズルは出来ない。
 放した時間も、着いた時間も正確なデータがあるんだからな。
 この仕掛け自体はSD体制より前の時代にも存在してたが、レース鳩ごと消えちまってた。SD体制の管理社会には役に立たない趣味だしな?
 レース鳩ってヤツも、伝書鳩が通信手段の発達で要らなくなったからこそ出来たんだが…。
 そのレース鳩も、伝書鳩の方も、前の俺たちが生きてた頃には無かった。
 今はあちこちの星にレース鳩を飼う愛好家がいるが、どの星の鳩が一番速いかはデータからしか割り出せないんだ。一緒に飛ばせて競わせることは不可能なのさ。
 なにしろ帰巣本能だしなあ、地球の鳩なら地球の上でしか使えない。他の星から鳩を連れて来てレースをするのは無茶ってもんだ。放した途端に迷子になるのがオチだしな。
 伝書鳩だって其処は同じだ、そいつが育った星の上でしか手紙を運んで行ったりは出来ん。
 ついでに片道のみってな。
 放された場所から自分の家まで、その逆は飛んで行けないんだ。



「そっか、片道だけなんだ…」
 返事は運んでくれないんだね、と納得していたブルーだけれど。
 突然、「そうだ!」と声を上げて瞳を輝かせた。
「伝書鳩だと片道だけど…。それ、ナキネズミだったら往復出来るよ」
 手紙や荷物を運んで、届けて。
 「受け取りました」って返事を持たせてやったら、ちゃんと戻って来るじゃない。
 片道じゃないよ、往復便だよ、ナキネズミ。
「ああ、ナキネズミな!」
 確かに往復出来ただろうなあ、あいつらだったら。
 伝書鳩よりも役立つわけだが、あいつらはもう何処にもいないな…。
「うん…」
 いなくなっちゃったね、ナキネズミ。
 動物園にも、何処の星にもナキネズミはもういないんだっけね。



 手紙や荷物を運んで往復出来そうだったナキネズミ。
 シャングリラに居た頃、ブルーたちが作り出した思念波での会話が可能な生き物。前のブルーが後継者に選んだジョミーにも一匹渡しておいたほどに、重要な役割を担った生き物だったけれど。
 そのナキネズミは消えてしまった。
 ハーレイとブルーが青い地球の上へと生まれ変わるまでの間に、時の彼方へ消え去った。二人が生まれた地球の上にも、何処の星にもナキネズミはもういなかった。
 前のブルーが幸せの青い鳥の代わりにと、青い毛皮の個体を育てさせたナキネズミ。
 地球の色と同じ青を纏った、大きな尻尾のナキネズミ…。



 何故ナキネズミがいなくなったか、ハーレイもブルーも知っていた。前世の記憶が戻る前から、学校で習ったミュウの歴史の一環として。
 ハーレイは「ナキネズミか…」と前の自分たちが作り上げた生き物の名を呟いた。
「生殖能力が衰えていったらしいな、世代が替わる度に少しずつ…な」
 そうして子供が滅多に生まれなくなって、生まれても次の世代が出来なかったり。
 頑張って繁殖させようとしても、まるで駄目だったと教わったっけな…。
「元が作った生き物だしね?」
 ちゃんと繁殖させるんだったら、遺伝子とかを操作してやらないと。
 でないと子供が生まれなくなるよ、繁殖させるために作ったわけじゃないんだから。
 だけど、絶滅させないために、って身体をいじるのは良くないよ。
「うむ。自然界に存在していた生き物だったら、手助けってことになるんだろうが…」
 ナキネズミはそうじゃないからな。
 動物愛護の観点から、ってコトで放っておいたようだな、新たに作り出したりもせずに。
 あいつらをどうやって作り出すのか、そうしたデータはあった筈だが。
「滅びていくのがナキネズミにとっては自然の法則ってヤツだったんだと思うけど…」
 最後のナキネズミは寂しかったろうね。
 仲間は一匹も残っていなくて、広い宇宙に独りぼっちで。
 雄だったって習ったけれども、お嫁さんもいなくて、子供もいなくて。
「さあな?」
 そいつはどうだか分からないぞ。
 大切に飼われていたって話で、飯は食い放題、遊び放題。
 自分はナキネズミなんだってことも忘れて、案外、元気にやってたかもな。
 こういう姿の人間なんだ、と思い込んでて、人間の友達を沢山作って。
「そうかもね!」
 そんな風に幸せに暮らしていたんだったら嬉しいな。
 前のぼくが作らせてしまったんだもの、ナキネズミっていう生き物を…。



 時の彼方へ消えてしまったナキネズミ。歴史の本やデータにしかいないナキネズミ。
 本物のナキネズミを見たことがある人も、とうに時の流れの向こうへと消えた。
 けれど、ブルーは知っているから。
 前の自分がナキネズミを作らせたことも、どんな生き物だったかも鮮やかに思い出せるから。
 ふと思い付いて、口にしてみた。
「ナキネズミ…。伝書鳩のことを知っていたなら、使いたかったな」
 前のぼくは伝書鳩もレース鳩も全く知らなかったんだけれど。
「どう使うんだ?」
 不思議そうな顔をするハーレイに、ブルーはニッコリ笑って返した。
「お使いだよ」
「…お使い?」
「そう、お使い!」
 前のぼく、ハーレイに出前を注文してたでしょ?
 青の間からブリッジに思念を飛ばして、「来る時にコレを持って来て」って。サンドイッチや、お菓子や、フルーツ。ハーレイに届けて貰っていたでしょ?
 それの代わりに、ナキネズミに手紙を持たせるんだよ。
 ブリッジのハーレイにラブレターとか。



「ラブレターだと!?」
 なんだそれは、とハーレイは仰天したのだけれど。ブルーは澄ました顔で続けた。
「ラブレターだよ、内緒の手紙」
 ナキネズミは思念波で伝言も伝えられたけれども、思念波、筒抜けだったしね?
 ぼくたちが声に出すのと同じで、周りのみんなに聞こえちゃうでしょ、伝言の中身。
 ナキネズミの思念波は人間と喋るための手段で、内緒の話には向いてなかった。
 だから個人的なお使いに使えないのが難点だったけど、手紙をくっつけておくのなら別。
 これを届けて、って相手を教えたら一直線だよ。
「そしてブリッジに寄越すのか?」
 ラブレターつきのナキネズミってヤツを、俺の所へ寄越そうってか?
「うん」
 いいアイデアだと思わない?
 ナキネズミに手紙を持たせるんなら、足輪じゃなくって首輪になるかな。
 首輪に筒をくっつけておいて、それに手紙を入れるんだよ。



「お前なあ…」
 ハーレイは特大の溜息をついた。
「ナキネズミに手紙を配達させる案は悪くないが、だ」
 手紙の中身が問題だ。
 お前から俺へのラブレターなぞを、ブリッジで読めると思うのか?
「ソルジャーからの伝言です、ってことにしとけば誰も見ないよ」
 覗き込んだりしないよ、きっと。
 ソルジャーがキャプテンに宛てて出した手紙だよ、特別な手紙に決まっているよ。
 キャプテン以外は読んじゃいけない、極秘の手紙が届くんだよ。
「機密事項というわけか…」
 確かに安全な伝達方法ではある。
 思念と違って漏れはしないし、通信のように傍受も出来んか。
「そう、シャングリラの最高機密」
 ぼくとハーレイの仲、誰も知らないしね?
 実はそういう仲なんです、って書いてあるのがラブレターだよ。
 それが最高機密でなければ何だって言うの、ホントのホントに極秘の中身。



 ソルジャー・ブルーとキャプテン・ハーレイが恋人同士だったことは誰も知らない。
 共にシャングリラの命運を左右する立場に居たから、明かせなかった。二人きりで過ごせる時を除けば、甘い言葉を交わせはしない。恋を語るなど、とても出来ない。
 ましてやシャングリラの中枢と言えるブリッジともなれば、恋人同士として振る舞うどころではないのだけれど。
 ブルーは其処へラブレターを届けさせると言い出した。ハーレイに宛てて書いたラブレターを、ナキネズミの首輪に付けた筒に入れて。
 ハーレイは「うーむ…」と眉間に皺を寄せると。
「前の俺たちの仲は必死に隠し通していたのに、そんな中で堂々と寄越すのか」
 よりにもよってブリッジの俺に、お前が書いたラブレターを。
「ブリッジにも思念波は送っていたよ?」
 出前を頼むついでに「愛してるよ」だとか、何度も送っていたじゃない。
 恋人なんです、って思念は何度も送ってたけど、それじゃつまらない。
 ラブレターっていうのがいいんだよ。ちゃんと形になってる手紙で、愛の告白。
「…俺は返事を書くのか、それに?」
 往復便とか言っていたよな、返事が要るんじゃないだろうな?
「要るに決まっているじゃない!」
 ナキネズミは青の間に戻ってくるんだよ?
 ぼくがラブレターを送っているのに、空っぽの筒を持たせて帰すつもりなの、ハーレイは?
 それって、恋人としては最低じゃない?



 ラブレターが仕込まれた筒を付けたナキネズミがハーレイの許へやって来たなら、返事が必須。書いて貰わねば、とブルーは言い張る。
 でなければ恋人失格なのだと、自分への愛が足りないと。
「ぼくが愛をこめて書いた手紙を無視ってことだよ、返事無しなら!」
 恋人だったら、直ぐに返事を書かなくちゃ。
 気の利いた言葉は期待しないけど、きちんと愛がこもった手紙を。
「…そうするよりも前に、まずは暗号の開発からだという気がするが」
 万一ってことも考えてみろ。
 暗号だったら誰も読めんし、何の心配も要らないが…。
 普通に書かれた手紙なんぞはどうかと思うぞ、お前から俺へのラブレターだぞ?
 ソルジャーとキャプテンは恋人同士だとバレたらどうする、シャングリラ中が大騒ぎだ。
「平気だってば」
 大丈夫だよ、ハーレイがぼくの書いた手紙を落としたりしない限りは絶対バレない。
 一人でコッソリと読んで、内ポケットに大事に仕舞っておいたら大丈夫だよ。
 落としたり、失くしてしまったり。
 そうならないよう、細心の注意を払っておいてよ、ぼくから届いたラブレター。
「俺にそこまでの責任を負えと!」
 バレないように手紙を読んで、部屋に戻るまで厳重に保管しておけと?
「そうだけど?」
 ついでに返事もちゃんとお願い。
 その辺のメモに書いたヤツでいいから、ラブレターの返事。
 ナキネズミの首輪の筒に入れておいてよ、ぼくが返事を待ちくたびれているんだから。



 ロマンティックだよね、とブルーは微笑む。
 人目があるどころの騒ぎではない、シャングリラの中枢部であるブリッジ。其処を舞台に誰にも言えない秘密の恋を語り合うために、ラブレター。ナキネズミに持たせたラブレター。
 ブルーが書いたラブレターを首の筒に入れて、ナキネズミがハーレイの所まで行く。ハーレイはそれを読み、返事を書く。返事はナキネズミの首に付いた筒に。
 そうしてナキネズミは青の間に戻り、ブルーが筒から返事を取り出す。ハーレイが書いてくれた手紙を、自分への想いが熱く綴られたラブレターを。
 ハーレイからのラブレターを読むブルーの側では、無事にお使いを終えたナキネズミが御褒美を貰っていることだろう。
 きっと、好物のプカルの実。普段は限られた数しか貰えないそれを、専用の器にたっぷりと。



「うん、プカルの実が一番いいよね、ナキネズミへの御礼」
 またお使いに行ってくれるよ、とブルーはハーレイに同意を求める。プカルの実はナキネズミのためだけに栽培されていた植物の実だが、お使い用に株を増やすのもいいと。
「毎日お使いして貰うんなら、それ専用に何本か植えておくとか…」
「おい、ラブレターは毎日来るのか!?」
「ハーレイ、毎日だと嬉しくないの?」
 邪魔だって言うの、ぼくからの手紙。
 ぼくがハーレイのためにって書いたラブレター、毎日届いたら嬉しくないの?
 ハーレイ、昼間はブリッジに居るから、会いに行っても恋人同士の話なんかは出来ないのに…。
 代わりにラブレターを出そうと言うのに、それ、要らないって言い出すの?
「い、いや…。そ、そんなことは…!」
「だったら、毎日」
 ぼくは毎日、ラブレターを書くよ。ナキネズミに毎日届けて貰うよ、そして返事を貰うんだ。
 ハーレイ、書いてくれるよね?
 返事を書いてナキネズミに持たせてくれるよね?
 ナキネズミが空っぽの筒をくっつけて帰って来たりしたら、うんと怒るよ?
 ハーレイが青の間に来た時に平手打ちだってしちゃうかもだよ、最低だ、って。
 恋人がくれたラブレターに返事を書かないだなんて、ホントのホントに有り得ないから!



 ナキネズミの首輪にくっついた筒には、必ず返事を入れておくこと。
 そうやってラブレターを交わし合ってこそのナキネズミだ、とブルーは力説して譲らない。
 片道だけしか手紙を運べない伝書鳩とは違ったナキネズミ。
 届けた先から返事を受け取り、持って帰れるナキネズミ。
 それを生かさない手は無いのだと、ラブレターには返事を書くものなのだと。
「せっかくお使いしてくれるんだよ?」
 手ぶらで帰すなんて、ナキネズミにだって失礼だよ。
 返事を書いたから届けてくれ、って頼むのが礼儀ってものだよ、ハーレイ。
「…俺はあの時代に伝書鳩を知らなくて良かったという気がして来たぞ」
 知っていたなら、ナキネズミのヤツが毎日ブリッジに来るんだろう?
 「ブルーの手紙を持って来たよ」と、筒をくっつけた首輪をつけて。
 俺はそいつは御免蒙る、手紙の内容がいつバレるかと生きた心地もしないじゃないか。
「そうかな、ぼくは素敵だと思うんだけれど」
 ハーレイがとんでもないヘマをしなけりゃ、手紙の中身はバレないよ?
 それに返事も、「機密事項だ」って言えば覗かれないから堂々とブリッジで書けるしね。
 ナキネズミのお使い、絶対にいいと思うけどなあ…。
 伝書鳩と違って、ナキネズミは往復してくれるんだし。



「頼むから、ラブレターだけは勘弁してくれ…!」
 伝書鳩代わりに使いたいなら、荷物を持たせて差し入れくらいにしておいてくれ、とハーレイは悲鳴を上げたけれども。
 首の筒に手紙を入れる代わりに、勤務中には厳禁とされるアルコール。合成ラムかウイスキーを少し、ほんのちょっぴり届けてくれ、と代替案。お菓子に入れる程度の量をコッソリ、ブリッジで頑張る自分に差し入れてくれ、と頼んだのだけれど。
「それでハーレイへの愛を示せるなら、それでもいいけど…」
 ぼくへの返事は何が届くわけ?
 ナキネズミのお使いは往復なんだよ、ぼくにも何かくれるんだよね…?
「それはマズくないか!?」
 ソルジャーがキャプテンを労うのならば話は分かるが、逆はどうなんだ。
 俺から何かを届けたりしたら、俺たちの仲を疑われるぞ…!
「それじゃ、帰りはラブレターでいいよ」
 ぼくからの愛を受け取りました、って手紙を書いてよ、ラブレター。
 お酒を入れておいた器に入れてくれていいから、ナキネズミに持たせて帰らせてよね。
「…どう転んでも俺はラブレターを書く羽目になるのか…!」
 差し入れが来ても、手紙が来ても。
 俺は書くしかないってわけだな、ラブレターを…。



 なんてこった、とハーレイが天井を仰ぎ、ブルーはコロコロと可笑しそうに笑う。
 往復が出来るナキネズミは手紙の返事を運んでこそだと、ラブレターを運ばせるべきだと。
 そうして二人で笑い合ったけれど、全ては遥かな遠い昔の話で夢物語。
 伝書鳩代わりになりそうだった、便利なナキネズミはもういない。
 青い地球にも、広い宇宙の何処を探しても…。




           伝書鳩・了

※伝書鳩ならぬ、伝書ナキネズミ。伝書鳩よりは役に立ちそうですけれど…。
 運ぶ手紙の中身によっては困り物。青の間とブリッジでラブレター交換、ハーレイは大変。
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 ←聖痕シリーズの書き下ろしショートは、こちらv







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 好き嫌いの無い、ぼくだけど。
 食べられる量はちょっぴりなくせに、食べられないっていう食べ物は無いんだけれど。
 うんと小さい頃からそうだし、今だってそう。
 パパとママは「何でも食べるから、大きな病気はしなかったのかも」って言ってるくらい。すぐ寝込んじゃう弱い身体でも、大きな病気はしたことが無い。
 好き嫌いが無い理由ってヤツは、どうやらぼくの前世が関係しているらしい。
 アルタミラの研究所に捕まってた頃は、食事どころか餌と水だけ。文字通りの餌。それを食べて命を繋いでいたから、脱出した後に出て来た食事は非常食でも美味しかったんだ。
 初期のシャングリラでは食材が偏ることもあったし、調味料だって限られていた。だけど調理がしてある食べ物。餌じゃなくって、人間の食べ物。
 本物の食事を味や食材で好きだの嫌いだのと言いやしないし、食べられるだけで充分、幸せ。
 そんな時代を経験したから、前のぼくには好き嫌いが存在しなかった。今のぼくも前世の記憶が戻る前から、それを引き継いでいたんだろう。



 そういったわけで、好き嫌いは全く無いぼくだけれど。
 前のぼくの記憶を取り戻してからは、時々、あれっと思ってしまうことがある。
 いつもの食卓、いつもの料理にいつもの食材。
 食べ慣れたもので、見慣れたもの。ママが作ってくれた食事で「あれっ?」と驚く。
 これ初めてだよ、とか、珍しいな、って。
 前のぼくの記憶が反応するんだ、「見たことない」とか「珍しいものだ」って。
 調理法はもちろん、食材にだって。
 前のぼくが知らなかった料理は山ほどあるけど、食材もそう。
 知っていたって、滅多に食べられなかった食材だとか。
 今のぼくとの間のギャップにビックリさせられる、料理や食材。でも新鮮な驚きではある。
 最初は確か、海老フライだった。
 ハーレイと再会して、聖痕現象を派手に起こして、記憶が戻って間もない頃。
 夕食のテーブルに普通に出て来た海老フライ。
 海老だなんて、と感動した。
 前のぼくは海老を知っていたけど、白い鯨が出来上がった後には食べた記憶が無かったから。




 海老は今では珍しくない。小さな海老から大きな海老まで、種類も色々。
 その海老を使って、ママが海老のチリソース炒めを作ってくれた。ハーレイも一緒の夕食の席。
 シャングリラでは一度も食べなかった味。チリソース炒めは食べてはいない。
 だから「海老だな」って、前のぼくの記憶が蘇って来て、食後のお茶の時にハーレイに訊いた。ぼくの部屋のテーブルで、向かい合わせに座りながら。
「ハーレイ、海老は覚えてる?」
「海老?」
「前のぼくが調達してた海老だよ、あったでしょ?」
 人類の船から奪って来てたよ、海老だって。
 海老を乗っけた輸送船があったら、ちゃんと失敬して来たんだから。
「ああ、海老な!」
 覚えてるぞ、とハーレイは直ぐに思い出してくれた。前のぼくが奪った海老のことを。



「前のお前、生簀ごと盗って来てたんだっけな、生きてるヤツだと」
「うん、魚も生きてたら生簀ごとだよ」
 沢山の量でも長持ちするしね、生きたままなら。
 これは使える、って判断した時はそっくり貰ってしまってたんだよ。
「あの海老は実にデカかったよなあ、一番最初に生簀ごと盗って来ちまったヤツ」
「ふふっ、伊勢海老?」
 だって、山ほど生簀に入っていたんだもの。
 みんながお腹いっぱい食べられそうだし、これは貰っておかなくっちゃね、って。
「…そいつで俺は苦労したんだぞ、痛かったし」
 ロブスターと違ってハサミが無いから、挟まれることは無かったが…。
 その代わり、殻が棘だらけみたいなモンだからな。
 前の俺は全く知らなかったが、うんと昔はアイツを使ってシェフの卵をしごいてたそうだ。
「ホント!?」
「うむ。SD体制よりもずっと昔の頃の話だな、この辺りが日本って国だった頃の」
 伊勢海老って名前は日本の地名がついてるほどだし、名産品だ。
 レストランでも出て来るわけだが、仕入れた伊勢海老を洗う係がシェフの卵さ。
 手袋なんかははめずに洗えと、綺麗に洗えて一人前だと大量の伊勢海老を洗わせるんだ。
「…痛そうだよ?」
「そりゃあ痛いさ、しかし一人前のシェフを目指すなら頑張らないとな?」
 痛いんです、と休んでるようじゃ料理を教えて貰えない。
 俺も伊勢海老でしごいてみれば良かったなあ…。厨房のヤツら。
「自分で洗っていたじゃない」
「タイプ・グリーンを舐めるなよ?」
 海老を傷めない加減が分かれば、手にシールドを張ればいいしな?
 ただ、その加減を掴むまでの間に素手で洗った伊勢海老の数が多すぎたんだ!



 俺の手でも実に痛かった、ってハーレイは自分の手を眺めてる。
 自分の手だって傷だらけになった伊勢海老なんだし、ぼくの手だったら大惨事だって。
「手の皮の厚みが違うからなあ、俺とお前じゃ」
「そうだね、ぼくも伊勢海老を洗うのを手伝おうとは思わなかったよ」
 ハーレイ、痛いって言っていたもの。それに見るからに痛そうだったし、伊勢海老の殻。
「まあ、苦労して洗った甲斐はあったがな。デカイ海老だけに」
「食べられる部分が沢山だものね。そう思ったから生簀ごと貰っておいたんだよ」
 でも、海老かあ…。
 シャングリラの改造が完成した後は、海老の料理はもう無かったよね。
「海老は養殖しなかったからな」
 魚と一緒に飼うのは無理だし、専用の場所を作らなければ、ってほどのモンでもないからな。
 生きて行くのに必須の食材じゃなかった所が大きいか…。
 そうか、海老を養殖してないってことは、食ったことのないヤツらもいたんだなあ…。
 ナスカで生まれた子供たちなんかは食ってないんだ、トォニィとかな。
 もっとも、アルテメシアを落とした後なら、食おうと思えば食えたんだが。
 手に入れた星じゃミュウも自由に出歩けたからな、案外、食っていたかもしれんな。
「そっか…」
 地球に辿り着く前でも、海のある星なら海老はいるしね。
 初めて見た、って言いながら何処かで食べていたかもね、トォニィたちも。



 想像したら、ちょっぴり嬉しくなった。
 前のぼくが会ったナスカの子たちは、地球に着くまでに欠けてしまったけれど。揃って地球には着けなかったけど、それまでの間に手に入れた星で自由時間はあったんだ。
 トォニィはアルテラたちと一緒に出掛けて、海老の料理を食べたかもしれない。こんな食べ物は見たことがないと、珍しいから食べてみようと。
「トォニィ、アルテラと一緒に海老を食べたかもね?」
「その可能性は大いにあるな。あいつらの中身は子供なんだし、好奇心ってヤツも旺盛だ」
 自由時間に何か食うなら、見慣れたものより知らない料理を食おうってな。
 海老は如何にも選ばれそうだが、あの時代だったら海老フライとかか…。
 生憎と海老天は無かったからな。
「天麩羅そのものが無かったものね…」
「和食の文化が消えていたからな」
「チリソース炒めはあったのかな?」
「さてなあ…」
 そいつは俺も調べていないな、どうなんだろうな?
 恐らくは消えていたと思うが…。
 海老のチリソース炒めを食わせる店がだ、地球の何処にでもあったとは考えられん。
 何処ででも食えて大人気だった寿司さえも消してしまったヤツらが、わざわざ残すか?
 SD体制時代の文化の基礎にと選ばれた国は、チリソース炒めの国じゃないんだからな。



 基本になる文化だけを残して、他の文化は消してしまったSD体制。
 それでもデータは残っていたから、シャングリラでもSD体制よりも前の時代の本が読めたし、色々と研究出来たんだけど。
 毎日の食事を変えていこうって発想はまるで無かった前のぼくたち。
 せっかく自由の身になったんだし、ミュウならではの食文化だって作れたのに。人類と全く同じ食材から違う料理を作れたというのに、そうしなかった。そういう風にはならなかった。
 きっと機械が意識の底深くに刷り込んでたんだ、逸脱していってしまわないように。
 自由になったようでも、SD体制の軛から逃れられなかった前のぼくたち。
 食文化を変えられなかった、ぼくたち…。



「ねえ、ハーレイ。シャングリラでは海老にはお塩だったね、一番最初は」
「焼いただけでな」
 伊勢海老を焼いて塩だけだなんて、もったいない話だったんだが…。
 いや、贅沢とも言えるかもしれんが、あれだけの数だ。
 うんと豪華に色々な料理を作れただろうな、今だったらな。
「シャングリラでも海老フライとかは作っていたよ?」
「卵があった時にはな」
 だが、海老と卵が揃うんだったら…。
 あの頃の俺が、天麩羅を知っていたならなあ…。
「どうするの?」
「ん? 海老フライの代わりに美味い天麩羅も作れるが、だ」
 小さな海老しか無かった時でも、デカい海老に見える天麩羅ってヤツを作れたのさ。
 もちろん、食ったら中身は小さいとバレるわけだが…。
 バレるまでは立派な天麩羅に見えるし、ちょっとした遊び心だな、うん。
「そんなの、あるんだ?」
 中身は小さいのに、大きな天麩羅。
 ねえ、どうやって作るの、ハーレイ?
「言っておくが、今は存在しないぞ。そういう海老の天麩羅は」
 そんなのを出せば文句を言われるからな。
 ずうっと昔にあった天麩羅さ、SD体制よりも遥かな昔の日本にな。
 海老が高価な食材だった頃に生まれたらしいぞ、海老よりも衣の方がデカイ天麩羅。



 ハーレイが教えてくれた、紛い物みたいな海老の天麩羅。最悪だと中身は尻尾くらいだって。
 丼に乗せたり、お蕎麦に入れたり、豪華に見せるための天麩羅。
 どうしてそんなの知っているの、と訊いてみた。古典の範囲じゃなさそうだから。
「あながち古典と無縁じゃないがな」
「えっ?」
「昔の本を読んでたんだが、そいつに謎の言葉が出て来た」
 天麩羅学生と書いてあってな、注釈を読めばそいつの意味は分かったが…。
 ついでだから、とデータベースで調べていた時に引っ掛けた。衣だけがデカくて、中身は小さい海老の天麩羅をな。
「天麩羅学生って、ぼくも初めて聞くけど…。なんなの、それ?」
「偽学生だ。その学校には通ってないのに、学生のふりをしているヤツだ」
「なんで天麩羅?」
「天麩羅はメッキの意味だったのさ」
 どんな食材でも包み込んで立派に見せちまう。
 そいつの極端な例がコレだ、と載っていたのが衣ばかりの海老の天麩羅ってわけだ。
「へえ…!」
 天麩羅にそんな意味があっただなんて、と驚いたけれど。
 メッキってことは、それは褒め言葉じゃないんだよね?
 天麩羅はとても美味しいのに。
 衣ばかりが大きいっていう海老の天麩羅だと、ガッカリしちゃうかもしれないけれど…。



「天麩羅、メッキって意味なんだ…」
 悪い意味だよね、そのメッキって?
 表面だけってことだもんね。
「うむ。シャングリラはメッキじゃ作れないってな」
 見かけだけ立派でも強度不足じゃ話にならん。
 中までキッチリ本物でこそだ、でなけりゃ丈夫な船は作れん。
「シャングリラは海老じゃなくって鯨だよ?」
「きちんと改造してあったからな」
 こけおどしの船なら、たとえ見た目が鯨であろうが海老の天麩羅と何も変わらん。
 本物の海老の天麩羅じゃなくて、衣ばかりのヤツのことだぞ?
 なりばかりデカくてどうにもならん、って辺りがそいつにそっくりだ。
 もっとも、シャングリラはそういう船ではなかったが…。
 人類軍の旗艦よりも遥かにデカイ船だったんだが、ちゃんとしっかりした船だった。
 人類の船にはついてなかったシールドも装備してたしな?
 おまけにステルス・デバイスつきだ。
 元の船には無かっただろうが、ステルスなんぞは。ついでにサイオン・キャノンとかもな。
「あの船、ゼルが頑張ったよね」
 サイオンを生かして、いろんな設備を付け加えて。
「ヒルマンもな。ゼルと二人であれこれやってたっけな」
 あいつらがいなけりゃ出来ていないさ、シャングリラは。
 白い鯨に仕上げるどころか、シールドさえ出来ていなかったかもな…。



 ぼくが守った白い船。ハーレイが舵を握っていた船。
 最初は白い鯨じゃなかった。人類のものだった船にシャングリラと名付けただけだった。
 それを巨大な船に改造して、完全な自給自足が出来る世界を作った。
 広い公園だの、展望室だのと皆の希望を詰め込んで。
 メッキじゃなくって、自分たちで採掘して来た資源を使った船体。元の船より丈夫な船体。
 装甲用に使った素材のせいで、シャングリラは白い鯨になった。
 白く輝く頑丈な船に、誰が言い出したんだったか…。
 遠い昔の地球の文字の一つ、ギリシャ文字。アルファベットの元になった文字で、その中にMと同じ文字があった。その字は「ミュー」と呼ぶそうだから、と船にあしらうことに決まった。Mのままでは「エム」と読めるから、独特な形の小文字の方で。
 それから、翼。何処へでも自由に飛んでゆくことが出来る翼の模様。



 ミュウを表す文字と、自由の翼と。
 この二つが船の上部に描かれたけれども、これとは別に、制服と同じシンボルマークも。
 ブリッジ関係者の制服に施す、羽根の形のシンボルマーク。由来はフェニックスだった。地球に伝わる伝説の鳥で、永遠に死ぬことがない。
 それにあやかろうと思ったけれども、フェニックスは架空の鳥だから。データベースで示される絵の羽根は色々、これだと決まったものが無かった。
 困っていたら、エラが探して来たデータ。昔の地球で高度な文化を築いたとされる東洋と西洋。フェニックスは西洋のものだけれども、東洋では鳳凰という鳥が霊鳥。不老不死の鳥。姿は細かく決まっているらしく、尾羽は孔雀なのだという。
 孔雀の尾羽なら一目で分かるし、それを使おうと決まったんだけど。制服の袖や手袋には金色の羽根があしらわれていたんだけれど。
 そのままのデザインではシャングリラの船体にしっくり来ないから、と簡略化された。ついでに金色一色ではなく、赤い色まで加わった。
 エラ曰く、孔雀の尾羽の模様は目玉。だから魔除けのぼくの目の赤。ミュウの制服についている石と同じで、赤い色の目玉の魔除けのお守り。それをシャングリラにもつけておこう、と。
 出来ればやめて欲しかったけれど、孔雀の羽根はとうにシンボルだったから。その羽根に目玉がつくに至った神話までをエラに持ち出されたから、仕方ない。
 そんなこんなで、シャングリラにまでぼくの瞳の色のお守りとやらがついてしまった。みんなの制服の石と違って、普段は目には入らない分、前のぼくも忘れがちだったけれど。
 白い鯨のデザインはとっても気に入ってたのに、あれだけは今でもちょっと癪に障る。
 前のぼくの瞳の色のお守り、シャングリラにまでつけなくったって…!



 それはともかく、シャングリラは見事に変身を遂げた。白い鯨が完成した。
 人類から物資を奪わなくても、自分たちだけで生きてゆける船。完全な自給自足が出来る船。
 発見されないためのステルス・デバイス、攻撃を受けた時に防げるサイオン・シールド。それに万一の時には迎撃可能なサイオン・キャノンも備わった。
 名前だけじゃない、本物の楽園になったシャングリラ。前のぼくたちの夢を詰め込んだ船に。
「…ハーレイ、改造中だった時のシャングリラは天麩羅みたいだと思わない?」
「天麩羅?」
「そう、天麩羅。どんどん大きくなっていくけど、ステルス・デバイスとかは無いしね」
 もちろんサイオン・シールドだって。
 中身はちょっぴり、外側だけが大きいんです、って海老の天麩羅そのものじゃない?
 ハーレイが言ってた、中身ちょっぴりの海老の天麩羅。
「言われてみれば天麩羅かもなあ…」
 前のお前が頑張っていたから、何も起こらなかったんだが。
 人類軍の船が近くを航行中でも、逃げられない時もあったしなあ…。
 ああいう時にはお前がシールドしてたんだっけな、ヤツらに発見されないように。
「無人の惑星に降ろしてた時も、シールドで隠してあったしね」
「宇宙空間では無理な作業もあったからなあ、重力が無いと」
 あの頃は確かに天麩羅だったな、お前のシールドっていうメッキの衣つきの。
「うん、鯨のまるごとの天麩羅だよ」
 だけど鯨は外側だけで、中身が詰まってないんだよ。
 スカスカの鯨で、衣だけが立派な海老の天麩羅みたいなものだよ、あの頃のシャングリラ。



「ふうむ、天麩羅のシャングリラなあ…」
 懐かしいな、とハーレイがぼくの目を見て笑ってる。そんな時代が確かにあったと、あの頃には色々苦労もしたと。
「鯨の天麩羅が出来上がって、だ。それで終わりじゃなかったからな」
 ステルス・デバイスが本当に役に立つのかどうかをチェックする必要があったしな?
 わざわざ人類の船の航路を横切って行こうというんだ、あれは俺でも怖かった。
 いざとなったらお前が何とかしてくれるとは分かっていても、だ。
 俺としてはサイオン・キャノンも使う覚悟でいたからなあ…。
「ハーレイ、やるって言ってたものね」
 普通の船でも、場合によっては撃ち落とすって。
「俺たちの存在を知られるわけにはいかんしな?」
 それくらいなら事故で消えて貰うさ、宇宙空間ではよくあることだ。
 操船ミスで爆発しちまう船だってあるし、そういった事故で片付くからな。
「だからと言って、人類軍の輸送船の航路を横切らなくてもいいと思うけどね?」
「いや、一般人が乗った船を落とすよりかは良心の呵責ってヤツが無いしな」
 ヤツらがミュウの船だと気付くかどうかはともかくとして。
 俺たちからすればヤツらは敵だし、撃ち落としたって問題無いだろうが。
「それで本気でやっちゃう所がハーレイだよ…」
 ステルス・デバイス、効かなかったら大変だったよ?
 サイオン・キャノンだってちゃんと照準を合わせて撃てたかどうか…。
「サイオン・シールドはとうにテストを済ませていたぞ」
 最初の攻撃はそいつで防げる。出来るだけお前に頼らずにやらねば、と思っていたな。
「結局、何も起こりはしなかったけどね?」
「上手く成功したんだよなあ、あんなにデカイ船が横切ってくのに…」
 ヤツら、気付きもしなかった。
 あれがシャングリラが本当の意味で楽園になった瞬間だったよな。



 前のぼくがシャングリラの船体の上に立ってハラハラする中、通って行った人類軍の輸送船。
 自分たちの航路を横切った船があるとも知らずに、その船がまだ居ると気付きもせずに。
 ゼルとヒルマンの指揮で搭載されたステルス・デバイスは完璧だった。
「人類の船に見付からない、っていうのは何より安心だものね」
「うむ。いくら頑丈な船を造っても、逃げ回ってばかりじゃどうしようもない」
 楽園どころの騒ぎじゃないしな、自給自足だって危ういモンだ。
 下手すりゃ修理ばかりに追われて、資材の補給に飛び回るとかな。
 そうならない船がついに出来たんだ、って嬉しかったな、あの時には。
「ぼくだってとても嬉しかったよ、これで安心して寝込めるって」
「そうだろうなあ、改造中はお前の負担が大きかったしな」
 他の船が来る度にシールドを張ったり、色々とな…。
 シャングリラが動けない時に限って通るんだよなあ、船ってヤツが。
「それは気のせいだと思うけどね?」
 普段はハーレイが早めに気付いて避けていただけで、船はいつでも飛んでたよ。
 だから、おあいこ。
 ハーレイの力じゃ避けられない時はぼくがシールド、普段はハーレイが避けるのが仕事。
「そうなのか?」
「うん、そうだったよ」
 ぼくはそうだと思っていたよ。
 もちろん、前のぼくだけど…。今のぼくはシールドどころじゃないしね。
「違いないな!」
 お前、とことん不器用だしな?
 まあいいじゃないか、その分、今度は俺がお前を守るんだからな。



 シャングリラで頑張ってくれていた分、のんびりしろよ、ってハーレイがぼくの頭を撫でる。
 もうシャングリラは守らなくていいと、白い鯨を守る必要は無いのだから、と。
 衣ばっかりの海老の天麩羅だったらしい、改造中だった頃のシャングリラ。
 大きいばかりで役に立たない、自力で船すら避けられなかった時さえもあったシャングリラ。
 だけどシャングリラは改造が済んで、立派な海老の天麩羅になった。
 衣で大きく見せるんじゃなくて、中身がしっかり、きっちり詰まったシャングリラ。
 シャングリラは本物の天麩羅になった。
 鯨だけれども、うんと立派な本物の海老の天麩羅に。
 そのシャングリラは、時の流れが遠くへ連れ去ってしまったけれど。
 ぼくはハーレイと青い地球の上、シャングリラの思い出を語り合ってる。
 あれは立派な天麩羅だったと、本物の海老の天麩羅だった、と…。




          船と天麩羅・了

※海老の天麩羅に例えられてしまったシャングリラ。改造中だと、衣ばかりの天麩羅です。
 けれど改造が済んだ後には、中身がしっかり詰まった天麩羅。ミュウの箱舟になりました。
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(うーん…)
 やっぱりダメか、と溜息をついた、ぼく。
 夕食もお風呂もとっくに済ませて、自分の部屋でパジャマなんだけど。寝るにはちょっぴり早い時間で、こんな夜にはたまに挑戦するんだけれど。
(今度のぼくは前のぼくとは違うのかな?)
 まだ小さいってことを除けば、見た目はそっくりだと思う。それに身体だって、アルタミラでは小さいままだった。脱出するまで成長を止めたままでいたから、今のぼくと同じだった筈。
 それなのに…。
(まるでダメだなんて、全然、似てない…)
 とことん不器用なぼくのサイオン。
 タイプ・ブルーとも思えないレベルの、前のぼくとは似ても似つかないぼく。



 小さい頃からそうだったせいで、特に気にしていなかったけれど。
 ハーレイに出会って前の生での記憶が戻って、ソルジャー・ブルーだったと思い出したから。
 そうなると今の不器用さが情けないから、何とかしたいって気持ちにもなる。
 ちょっと練習しようかな、って思った時にはコレが定番。
 勉強机の上に、水差しとコップ。
 夜中に水が飲みたくなりそうな気がする夜には、時々持ってくる、ぼく専用の。
 ぼくが寝込んでしまった時なら、ママが置いてってくれるけど。
 枕元に置いて、食事の度に水を取り替えてコップも洗ってくれるんだけれど。
 普段はぼくの部屋には水差しは無くて、コップだって無い。
 ぼくが自分で運んで来る日は、喉が渇きそうな気がした夜だけ。



 その水差しの水をコップに注いで、じーっと眺めて頑張ってみる。
 表面がちょっぴり動かないかと、さざ波は無理でもごくごく小さな揺れとか、波紋。
 だけど「揺れた?」と感じた時には、ぼくの身体も動いてた。夢中になって机に触ってたとか、足を動かしてしまっていたとか。
 まるで動いてくれない水。コップの中に澄ました顔して収まってる水。
 どんなに見てても何も起こらなくて、いつだって結局、飲む羽目になる。
 そのままコップに入れておいたら、零しちゃうかもしれないから。
 常夜灯しか点けてない夜中に起き出したりして、引っ掛けちゃうかもしれないから。



(今日も全然、ダメだったよ…)
 動いてくれなかった水をクイッと飲み干して、コップを置いた。
 コップの底に残った雫を、「濡れてますよ」って言わんばかりの雫を見詰めてみるけれど。
(…やっぱりダメかあ…)
 透明なガラスのコップの底に貼り付いて残った水。傾けても飲めない、ちょっぴりの水。
 明日の朝までにはすっかり乾いて痕跡さえも消えていそうな、コップを満たしていた水の名残。
(こんなにちょっぴりでもダメだなんて…)
 ガックリと肩を落としたぼく。
 雫さえも動いてくれやしない、と溜息しか出ない。
 水差しとコップを自分で部屋まで持って来た時のお決まりの行事。
 何度繰り返しても同じパターンになっちゃう行事…。



 覆水盆に返らず、だなんて言うけれど。有名な言葉なんだけど。
 前のぼくには、そんな言葉は意味が無かった。
 似たような意味の、類語って言うの?
 「後悔先に立たず」は何度も痛感したけど、「覆水盆に返らず」は無意味だったんだ。
 前のぼくには当てはまらない言葉だったから。それが当てはまりはしなかったから。
 覆水を盆に返せたぼく。
 引っくり返って零れちゃった水を、文字通りお盆に返せたぼく。
 だから今になって練習している、水差しとコップ。
 コップに注いだ水を元の水差しに戻せないかと、水差しの中に戻せないかと。
 未だに上手くいかないどころか、その気配さえも無いんだけれど。
 前のぼくなら簡単に出来た。
 水差しからコップに注がれた水を、一滴も残さずヒョイと水差しに戻せたんだ。
 もちろん、手なんか使ったりせずに。
 コップから水差しに手を使って注ぎ入れるんじゃなくて、一瞬の内にサイオンだけで。



(前のぼくがやった、一番最初は…)
 アルタミラから脱出してきた船を、シャングリラと名付けて間もない頃だったか。
 まだ小さかったぼくは、ハーレイにくっついてシャングリラの中を歩いてた。
 アルタミラがメギドの炎で燃え上がった時に、一緒に走って仲間を助けて回ったハーレイ。あの日に初めて会ったというのに、そんな気がしなかった優しいハーレイ。
 ぼくはハーレイが誰よりも好きで、心までが子供のままだったぼくには頼れる大人。身体だって大きくて、頼もしい大人。
 厨房で食事作りの責任者みたいな立場になったハーレイは、口癖のようにぼくに言ってた。
 「しっかり食えよ」って、「食わないと大きくなれないぞ」って。
 ハーレイが料理をしている時には覗きに行ったし、試作品の味見もさせて貰った。味見だけじゃハーレイに申し訳ないから、手伝ってジャガイモを剥いたりもした。
 出来上がった食事はいつでも、ハーレイと一緒に食べていた。
 それにブラウたち、後に長老と呼ばれた四人。
 ハーレイは料理作りの責任者って立場で、料理が完成してしまった後は暇になるから。
 後片付けだってしなくていいから、ぼくたちと食事が出来たんだ。



 厨房も食堂もあった初期のシャングリラだけど、船体は後の白い鯨よりも遥かに小さかった。
 その船の中で、飲み水はとても大切なもの。
 シャワーや洗濯に使う生活用の水は循環させて使っていたけど、飲み水は全くルートが違った。
 飲んだり、料理をするための水は別のルートで供給されるという仕組み。
 前のぼくたちが手に入れて乗り込んだ船は、そういう風に出来ていた。
 多分、宇宙を飛んでいた船はどれも似たようなものだろうけど。
 輸送船だって、客船だって。
 人類軍の艦船だって、そんな仕組みになってたろうけど…。



(生活用の水を使い回して、それを飲むだなんて嫌だものね)
 いくら綺麗に濾過してあっても、消毒されてても、シャワーとかの水を飲みたくはない。
 アルタミラの研究所に捕まっていた頃でさえも、飲み水はちゃんとあったんだから。
 前のぼくたちがシャングリラと名付けた船を造った人類だって、同じ考えだったんだろう。
(飲むための水は、別でなくっちゃ)
 飲用水は料理にも使って、食べた後の食器もその水で洗って。
 汚れてしまった水は浄化用のシステムへ送られていって、また飲み水へと姿を変える。
 だけど飲用水は料理専用ってわけじゃなくって、船のみんなも飲んでいるから。喉が乾けば水を飲むんだし、人間の身体は一日に大量の水分が必要なもの。
 厨房で使った水を浄化して循環させるだけでは、必然的に足りなくなる。そうならないように、生活用水の一部を高度に浄化するシステムも備わっていたんだけれど。
 要は、それだけ。
 前のぼくが奪って来るなら別だけれども、飲用水と呼べる水の量には限りがあった。
 生活用の水も、最初の内こそ量の加減が掴めなくって、シャワーを使うのに時間制限があったりしたけど、直ぐに慣れてそれは無くなった。
 大丈夫だって分かったから。生活用の水は充分にあって、好きに使えると分かったから。



 だけど、飲み水。
 システムの処理の限界量を超えてしまったら、無くなってしまう。
 節水を心がけると言っても、人間の身体が必要としている水分の量を減らせはしない。
 計算の上では、足りる筈だと結論が出てはいたんだけれど。
 もしもシステムが故障するとか、不測の事態を考えてゆけば飲み水はやっぱり貴重なもの。
 シャングリラが白い鯨になった頃には、予備のシステムも出来て心配無かった。
 でも、それよりも前の時代は…。
 「いざって時には、これを使えば」ってゼルたちが非常用の浄化システムを作り上げるまでは、飲み水は大事なものだったんだ。無くなってしまえば、生活用の水で代用するしかないから。
 きちんと消毒されてあっても、別のルートで出来た水しか無いんだから…。



 食事の時にコップに一杯分の水。
 もちろんおかわり出来たけれども、最初に全員に配られる分はコップに一杯。
 大切に飲もう、とみんなが思った。
 零さないように、うっかりコップを倒してしまって無駄になったりしないように。
 そうやって気を配る日々だったけれど。
 誰もが注意をしてたんだけど…。



「あっ、すまん!」
 ある日の食堂、バシャッと零れたハーレイの水。コップが隣のぼくの方へと倒れた。
 肘が当たったか何かだろうけど、「大変!」と咄嗟に思ったことは確か。
 だって、大切な水なんだから。
 零しても代わりは貰えるけれども、その分、船の飲み水の量が減るんだから。
「すまん、すまん。…お前、濡れちまったな」
 俺としたことが失敗だった、とハーレイが謝った相手は、ぼく。
 大慌てで走って行ったかと思うと、厨房のものらしきタオルを掴んで戻って来た。
「すっかり濡れてしまったか? 着替えた方がマシなくらいか?」
 ハーレイはぼくの隣に屈んで、服を拭こうとしてくれたけれど。
「ううん、濡れてないよ」
 ぼくはちっとも濡れていないよ、ほら、水なんかついてないでしょ?
「ありゃ?」
 思い切り零れたと思ったんだが…。殆ど飲んでいなかったからな、満杯に近かった筈なんだが。
「反射的に元に戻したんじゃないの?」
 ちゃんとコップに残ってるよ、水。
 ハーレイ、うんと反射神経がいいんだよ。
「そうかもなあ…」
 テーブルのコップには水が半分くらいは残ってた。
 一度は倒れて零れた証拠に、コップの外側には水滴がついて流れていたけど。
 床だって厨房の係が駆け付けて来て、モップで拭いていたんだけれど…。



「お前、本当に濡れなかったのか?」
 ちょっとした騒ぎになっていた事件が落ち着いた後で、ハーレイがぼくに訊いて来た。コップに新しい水を足して満たして、それを飲みながら。
「濡れなかったよ、ハーレイもぼくの服を見たでしょ?」
「しかし…」
 お前の方へと倒れたんだぞ、あのコップ。
 水は半分も零れちまったし、床にだって沢山零れてた。
 お前だって水を被ったとばかり思ったがなあ、濡れちまった床と同じくらいに。
「ぼくも飛んで来たと思ったけれども、ぼくには全然かかっていないよ」
 きっと此処まで飛ばなかったんだよ、零れた水。
 床に飛んじゃった分が全部で、ぼくには届かなかったんだよ。
「なら、いいが…」
 すまんな、危うく濡れ鼠にしちまうトコだった。
 貴重な水を零した上に、被害者まで出したら赤っ恥だ。
 当分の間は肩身が狭かったろうなあ、船が噂でもちきりってな。



 その時はぼくも全く気付いていなかった。
 ぼくに向かって飛んで来た水をサイオンでそっくり受け止め、コップに戻していたなんて。
 だけど、その次。
 そんな事件は忘れてしまって、平穏な日々が流れていた頃。
 食堂でハーレイがぼくの分と、自分の分とのおかわりの水を貰いに行ってくれた時。
 両方の手に水が入ったコップを持っていたハーレイに、通り掛かった仲間がぶつかった。
「おっと…!」
 危ない、とハーレイは揺れたコップを支えたけれど。
 傾いた拍子に飛び散った水をぼくは見ていた。コップの縁から飛び出した水を。
(水…!)
 零れちゃう、とぼくが思った途端に。
「うん…?」
 水が勝手に戻らなかったか、とハーレイがコップを持ったままで言った。
「勢いよく零れたように見えたが、コップに戻って来なかったか…?」
 零れるどころか一杯だぞ、水。
 ついでに床だって濡れていないし、水が自分で戻ったとしか…。



 周りのみんなも同じことを口々に言い出した。
 水は確かに戻っていったと、コップに向かって戻ったのだと。
「まさか、誰かがサイオンで…」
「出来るか、そんな器用なこと?」
 相手は水だぞ、おまけに予測不可能だったぞ?
 誰が咄嗟に反応するんだ、そんな速さで。
 光や音ほど速くはなくても、あんな速さに対応出来るか?
 有り得ないな、って会話が広がったけれど。
 船には一人だけ、桁外れなミュウが乗っかっていた。
「まさか…」
 みんなの視線がぼくに集まった。
 たった一人しか存在してない、宇宙空間だって生身で平気なタイプ・ブルー。
 宇宙空間を駆けて、人類の船から瞬間移動で物資を奪える最強のミュウ。



「そうか、ブルーか…」
 可能性ってヤツは大いにあるな、とハーレイがぼくの居たテーブルに戻って来て。
「ちょっと試すか、お前かどうか」
 ハーレイは自分のと、ぼくのコップをテーブルに置くと、厨房からトレイを持って来た。普段の配膳に使ってるヤツで、その上にコップがもう一つ。水が三分の一ほど入ったコップ。
「俺がこいつを引っくり返す。お前は水を受け止めてみろ」
 でもってコップに戻してみるんだ、さっきみたいに。
 お前、前にもやってたんじゃないか?
 俺がコップをお前に向かって倒した時に。
「無茶だよ、ハーレイ!」
 出来ないよ、そんな器用なこと!
 それに無駄になるよ、ハーレイが零しちゃった水…!
「安心しろ。そのためのトレイだ、こいつに充分、収まる量だ」
 お前が失敗しちまった時は、食器を洗った水と一緒に浄化システム行きってな。



 ハーレイがゴトンと倒したコップ。
 無理だよ、とぼくは悲鳴を上げたけれども。
 零れる筈の水は零れていなくて、ハーレイが素早く元通りに起こしたコップの中。
 トレイは濡れてもいなかった。零れた筈の水は全部コップに入ってた。
 みんなが「凄い」と叫んでる。手品みたいだと、流石はタイプ・ブルーだと。
(…ぼくがやったの?)
 意識してなんかいなかったのに。
 受け止めようなんて思っていなくて、サイオンを使った覚えも無いのに。
 貴重な水だと、無駄になっちゃうと慌てただけなのに、少しも零れなかった水。
 ぼくがコップに戻してしまったらしい、ハーレイが零したコップの水…。



 それが船のみんなが意識した最初の瞬間だった。
 零れた水さえ元に戻せる、前のぼくの力。
 食堂でおかわりの水を配って歩く係が足を滑らせた時も、水は綺麗に元に戻った。水を満たした大きな水差しの中に、何事も起こりはしなかったように。
 その時に派手に飛び散った水は、ハーレイが零してみせた量とは比較にならなかったから。
 ぼくのサイオンは凄い、と誰もがビックリしてた。
 あんな量の水でも操れるのかと、しかも心の準備も無しに…、と。
 そう、ぼくが集中していなくたって、「貴重なんだ」と瞬時に受け止められた水。
 意識すればもっと簡単に出来た。思い通りに水を操れた。
 シャワーから降り注ぐ水をサイオンで丸めて、大きな水玉を作ってみたり。
 逆に器に貯めておいた水を、無数の水滴に変えて宙へと浮かべてみたり。



 ぼくがそうやって遊んでいたことを、前のハーレイは知っていたから。
 「見て、こんなのも出来るんだよ」って得意になって見せたりしていたから。
 ハーレイだって面白がって、あれこれと話題にしたりする。
 「次はこんなのを試さないか」とか、「コップ無しでも水が飲めそうだよな」とか。
 そんな無駄話をしていた場所は、厨房だったりもしたんだけれど。
 ハーレイが料理の試作をしていて、他の係は別の所で下ごしらえをしてる時なんかも多かった。その日もハーレイはフライパンを握って試作の最中。
「お前、ホントに水なら何でも出来そうだよなあ、水の彫刻とかでもな。おっと…!」
 危ない、とハーレイがフライパンを揺すった、アルコール分を飛ばすフランベ。
 「これだけの材料、そうそう揃いはしないからな」と挑戦していた、肉のフランベ。
 ビックリするほど炎が上がって、ぼくも「危ない!」って叫んでたけれど。
 上がりすぎた炎は勝手に下がった。厨房の天井を焦がす代わりに、大人しいサイズに収まった。
「…今の、お前か?」
 お前、水だけじゃなかったのか。
 火と水ってのは性質がまるで違うモンだが、今のもお前がやったんだよな?
「…多分ね」
 天井が焦げちゃう、と思ったもの。
 でも、本当にぼくかどうかは分かんないよね。



 肩を竦めたぼくだったけれど、それで思い付いて試してみたら炎もちゃんと操れた。
 水だけじゃなくて、炎でも自由に操れたんだ。
 だけど…。
 やがてハーレイが厨房の責任者からキャプテンになって、船もすっかり落ち着いて来て。
 そうこうする内に、ぼくはソルジャー。
 リーダーと呼ばれる代わりに、ソルジャー。
 白い鯨は出来ていなくて改造案の段階だったけれども、シャングリラのみんなに制服が出来た。畑なんかも作り始めて、着々と未来への準備が始まる。
 シャングリラを本物の楽園にしようと、素晴らしい船に改造しようと。
 そのためには物資も必要だけれど、サイオンの研究もしなくちゃならない。
 せっかくサイオンを持ってるんだし、それを生かして色々なことが出来る筈だ、という話。
 シールドを張れる力が応用出来たら、船にだってシールドが張れる筈。
 更に進めれば、船の姿さえ消してしまうことも可能だろう。船の姿を消す、いわゆるステルス。
 タイプ・イエローが特に優れる攻撃力は武器に活用出来そうだった。
 今は武装さえしていない船に、ミュウならではの方法で武器を搭載出来る。普通の武器なら使う度に弾薬などの補給が必要だけれど、サイオンだったら補給は要らない。
 多くの可能性を秘めたサイオン。
 前のぼくの力に頼らなくても、ある程度ならば船を守っていけそうなサイオン…。



 そうして研究を進めてゆく中、サイオンを測定出来る装置を自作したのがゼル。
 ぼくだと針が振り切れるだとか言っていたけど、将来のためには役立つ装置。
 それを色々と改良する内に、前のぼくが食堂で披露してしまった水の事件を思い出したらしい。そこまでは良かったんだけど…。
 ある日、ヒルマンがぼくを訪ねて来た。「少し話があるのだがね」と。
「サイオンの相性?」
 なんだい、それは。話というのはそれなのかい?
「ゼルが新しい装置を作ったのだよ」
 どういった物質が個々人の能力を引き出すのに一番役立ちそうか、と調べる装置だ。
「ふうん…?」
「ちなみに、私とゼルの場合なのだが…」
 ヒルマンまでが開発に加わっていたらしい。案を出すだけかと思っていたのに。
「それって、結果が出てるってことは、人体実験したわけだよね?」
「せめて、試したと言ってくれないかね?」
 サイオンの研究をするには不可欠なのだよ、そういったことも。
 もちろんアルタミラの研究者のような無茶はしないさ、医療検査と似たようなものだ。
 一部の有志も測定してみて、どうやら有効らしいと分かった。
 それでだ、ソルジャーの場合は水と相性がいいのではないか、という話なのだが…。

 


「測定させてくれるかね?」という申し出。
 痛くないなら、とオッケーした。

 アルタミラで地獄を経験しちゃっているから、苦痛を伴う実験なんかは絶対に御免蒙りたい。
 だけど、その手の検査でないなら、引き受けなくてはならないだろう。
 なにしろサイオンの研究自体は、シャングリラの未来に関わることだから。
 相性とやらを調べて何にするのかは分からないけれど、仲間たちの役に立つかもしれないし…。



 では早速、と先に立ったヒルマンに案内されて出掛けた部屋。
 ゼルが待っていて、測定用らしき機械があった。その隣に置かれた簡易ベッド。
 服を脱ぐのかと思ったけれども、手袋を外して袖を捲り上げて。ブーツも脱いで、膝下辺りまでアンダーを捲って、現れた素肌に電極みたいなのを幾つか貼られた。それと、こめかみ。
 その状態でベッドに寝かされ、暫くの間、何か測っていたようだけれど。
 電流が流れてくるわけでもなく、特に何ということもなかった。ぼくはベッドに寝ていただけ。
 ヒルマンが「もう終わったから」と電極を外してくれて、ぼくが手袋とブーツを元の通りに身に着ける間に、測定結果は出ていたらしくて。
「…ふむ、やはり水か」
「火よりは水じゃな、他の何よりも水が一番上じゃわい」
 ヒルマンとゼルが話しているから、服を整えたぼくは機械を横から覗き込んだ。
「どんなデータ?」
「いや、まあ…」
 こういった感じなのだがね、とヒルマンに見せて貰ったグラフみたいなもの。
 これが水だ、と示された項目の数値は確かに他より高かったけれど…。
「…ちょっとだけだよ?」
 ほんの少ししか高くないじゃないか。誤差の範囲だと言えそうだけれど?
「そう言えないこともないのだが…。水ということでいいじゃないかね」
 せっかく作った装置なのだし、こういう結果が出たということで。
 ゼルと私の研究の成果だ、誤差の範囲でも一応、データは出ているのだよ。
「うむ、その通りじゃ」
 何の役にも立ちはせんがな、あえて言うなら水なんじゃ。
 水と相性がいいということじゃな、ソルジャーが持っておるサイオンは。



 それから間もなく、シャングリラ中にこんな噂が広がった。
 ぼくのサイオンは水と相性がいいと、ぼくの力を引き出すためには水が一番いいのだと。
 食堂での一件を覚えていた仲間が多かったことも、多分、災いしたんだろう。
 誰もが素直に納得しちゃって、ぼくには水だということになった。
 根拠になった例のデータを見もしないで。誤差の範囲だと気付きもしないで。
 だけど、あくまでゼルとヒルマンの個人的な研究みたいな代物。
 他の人たちのデータを測りもしないし、お遊びなんだと思っておいた。自分たちが作った装置を試してみたくてやったんだろうと、あれは一種の娯楽だろうと。
(…ホントに遊びだと思っていたのに…)
 そうした実験に付き合ったことさえ忘れていた頃、白い鯨に青の間を作られてしまったんだ。
 ぼくのサイオンは水と相性がいいのだから、と巨大な貯水槽付きで。
 前のぼくのサイオンを高めるための貯水槽だと、ソルジャーの部屋には必要なのだと。
 水と相性がいいと言っても、そんな部屋が役に立たないことはゼルもヒルマンも知ってたのに。ハーレイだって知っていたのに、作られてしまった巨大な青の間。
 ハーレイは面と向かっては言わなかったけど、青の間ってヤツはこけおどし。
 前のぼくを、ソルジャー・ブルーだったぼくを、派手に演出するための。



(…水だなんて、誤差の範囲だしね?)
 だけど、前のぼくが確かに見ていたデータ。
 他の物質との相性を示すものより、ほんのちょっぴり、高かった数値。
 だからサイオンの練習をするんだったら、水だと思っているんだけれど。
 水を相手に頑張ってみるのが一番だろうと思うんだけど。
(…それなのに、ピクリとも動かないってば!)
 今夜も動かせなかった水。
 水差しからコップに注いでみたけど、水差しに戻せなかった水。
 やっぱり今のぼくには無理かな、覆水を盆に返すのは…。




         水との相性・了

※前のブルーには簡単に出来た「覆水を盆に返す」こと。水と相性が良かったサイオン。
 誤差の範囲内だったというのに、大きな貯水槽があった青の間。演出も大事ですけどね…。
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「ハーレイ、分かる?」
 学校があった日の、夕食前の時間。仕事帰りに寄ってくれたハーレイと自分の部屋でテーブルを挟んで向かい合いながら、ブルーは頭を指差した。今日はちょっぴり御自慢の頭。
 学校が終わって帰宅した後、カットしに出掛けて行った髪。以前は休日に行ったものだけれど、今は平日が普通になった。それも毎回、事前に予約を入れておいて。
(だって、ハーレイが寄ってくれた時に家にいなかったら困るしね?)
 予約無しで出掛けて混んでいたなら、必然的に帰りが遅くなってしまう。仕事帰りのハーレイが訪ねて来てくれても、ブルーが留守では何にもならない。
 お茶でも飲んで待っていてくれれば問題は無いが、いつ戻るのかも分からないブルーを待つほどハーレイは暇ではないだろう。他にもやりたいことがある筈。例えば気ままにドライブだとか。
 せっかく来てくれたハーレイが帰ってしまったら悲しいから。
 そうならないよう、ブルーは予約を忘れない。もっとも、予約は母任せだけれど。



 おやつも食べずに急いでカットに出掛けた髪。
 ハーレイが来てくれるまでに、きちんと整えて貰った髪。
 髪型を変えたわけではないから印象は変わっていないけれども、それでも誇らしい気分。今日は綺麗に整っていると、プロに仕上げて貰ったのだ、と。
 その、髪の毛。今日、学校でハーレイに会った時より短くなっている筈なのだが。
 ハーレイは気付いてくれるだろうか?
 ほんの僅かな自分の変化に、ちゃんと気付いてくれるだろうか…?
「ふうむ…。今日はサッパリしているな」
 学校で見た時は普通だったが、ちょっと短くなったじゃないか。
「切ったの、分かった?」
「そりゃ分かるさ」
 恋人の見た目が変わったことにも気付かないようじゃ、話にならない。
 これが女性だと「鈍感すぎる」と文句を言われたりするらしいぞ。
 俺もせっかく気付いたからには、何か気の利いた褒め言葉でも出ればいいんだが…。
 生憎とお前の髪型ってヤツは、いつでもそいつのままだしな。
 「前よりもうんと可愛くなった」だの「その髪型も似合うじゃないか」だのと言いようがない。
 なんとも困った髪型だよなあ、前のお前だった頃から変わらないとはな。
「ふふっ」
 ちっちゃい頃からこれだったしね?
 パパもママも「ソルジャー・ブルーみたいだから」って言ってて、こればっかり。
 髪の色も目の色もそっくり同じじゃ、前のぼくみたいにしたくなるよね、似合いそうだもの。
 アルバムの写真は全部これだよ、赤ちゃんの頃は流石に違うけれども。



「そりゃまあ、なあ…。赤ん坊では無理だよな」
 髪の毛を伸ばすどころじゃないし。
 短いようでも、その髪型ってヤツにしたなら、赤ん坊には長すぎるしな。
「うん。だから、幼稚園に入る前くらいからかな、これになったの」
 今よりずっとチビのぼくでも、ちっちゃなソルジャー・ブルーみたいに見えるでしょ?
 パパやママがぼくを連れて出掛けた時には、大抵、声を掛けられてた、って。
 「可愛いわね」って頭を撫でて貰ったり、キャンディーとかをくれる人もいたって。
「なるほど、人気者だったってわけだ」
 俺もその頃のお前に出会いたかったな、さぞかし可愛い子供だったろうに。
 たとえ記憶が戻ってなくても、頭を撫でてやったと思うぞ。
 もっとも、俺は身体がデカイからなあ、お前の方では泣き叫んだかもしれないが。
「怖いよ、って?」
「そんなトコだ」
 まあ、そうはならなかったと思うがな。
 これでも子供には受けがいいんだ、ガキの頃から年下のヤツらの面倒を見ていたせいかもな。
 子供ってヤツは勘がいいから、子供好きかどうかを直ぐ見抜くってな。



 小さかった頃のお前に会いたかったな、とハーレイはブルーを見詰めながら。
「それで、その髪。二センチほどは切ったのか?」
 俺も切る時にはそのくらいなんだが。
 たった二センチでも伸びちまったという気がするしな。
「当たってる! 今日は二センチ」
 伸びましたね、って言って切ってくれたよ、いつもの人が。
 髪の毛は普通に伸びるのに…。
 どうして身長は止まってるんだろ、髪の毛みたいにぐんぐん伸びてくれればいいのに。
「おい、無茶を言うな」
 俺は背なんかもう伸びないって、誰が見たって分かるよな?
 それでも髪の毛は毎日伸びるし、伸びたら切りに行かなきゃならん。
 髪の毛ってヤツはそうしたものだぞ、それを背丈と一緒にするな。
「ハーレイの年だったら、それでも全然不思議じゃないけど!」
 ぼくは子供だよ、成長期だよ?
 まだまだ大きくなる予定なのに、背は伸びなくって髪の毛ばっかり。
 ハーレイと会ってから髪の毛は何度も切りに行ったけど、身長はちっとも伸びないんだよ!
「そう慌てるな」
 ゆっくり大きくなれと言っているだろ、いつも、何度も。
 急いで慌てて育たなくっても、のんびり育てばいいじゃないか。
 子供時代っていうのは楽しいモンだぞ、そいつを充分に味わっておけ。
「だけど…」
 ぼくは大きくなりたいんだってば、前と同じに。
 前のぼくと同じ背丈に早く育って、ハーレイと本物の恋人同士になりたいのに…。



 それなのにまるで伸びてくれない、とブルーは嘆いた。
 前の自分の身長との差は二十センチから縮まらないのだと、一ミリも縮んでくれないのだと。
「髪の毛だったら、二十センチくらいは簡単に伸びてくれそうなのに…」
 背だと無理だよ、髪の毛みたいに凄い速さじゃ伸びないよ。
 ハーレイと会ってから、止まらずに伸びてくれていたって、二十センチは遠いんだよ。
 ただでも遠いのに止まっちゃったよ、背が伸びるのが。
 伸び始めたって、二十センチも伸びるまでにはきっと時間がかかっちゃうんだ…。
「だろうな、相手は身長だしな」
 髪の毛みたいに単純な仕組みじゃないからなあ…。
 骨を伸ばして、周りの筋肉なんかもそれに合わせて伸ばしてやって。
 成長痛っていうのを知ってるか?
「…成長痛?」
「小さな子供に多いものだが、膝とかが酷く痛むんだ。病気ってわけじゃないんだけどな」
 成長期だから骨がぐんぐん成長するのに、そいつを周りの筋肉が強く引っ張る。
 すると軟骨に負担がかかって、痛みが出て来るという仕組みだな。
 お前くらいの年でも起こることがあるし、痛みはうんと酷いものらしい。
 小さな子供だと泣いちまうほどで、痛くて眠れないこともあるそうだ。
 俺は経験していないんだが、お前、やりたいか、成長痛?
 毎晩ベッドで「痛いよ」と膝とか擦っていたいか、半泣きになって。
「嫌だよ、そんなの!」
「なら、欲張るのはやめておけ」
 身長は髪の毛のようにはいかん。
 そうそう簡単に伸びやしないのさ、伸びる時期が来るまで大人しくしてろ。



 髪と背丈では伸びる仕組みが全く違う、と聞かされたけれど。
 背が伸びる時には成長痛などという怖いものもあると教えられたけれど。
 それでもブルーは髪の毛が伸びてゆく速度が羨ましい。背丈よりもずっと早く、毎日伸びる髪。
「髪の毛だったら、一年あったら二十センチでも伸びそうなのに…」
「そうだろうなあ、よく伸びる人なら夢ではないな」
「でしょ?」
 髪の毛が伸びる速さが羨ましいよ。
 ぼくの背だって、そんな風に伸びてくれればいいのに…。
 一年で二十センチも伸びるんだったら、直ぐに目標に届くのに。
 前のぼくの背と同じ背丈になれるのに…。



「髪の毛なあ…。確かに背よりは早く伸びるが…」
 あまり伸びるのが早すぎると…、だ。
 昔は嬉しくなかったらしいな、SD体制よりもずっと昔の時代のことだが。
「なんで?」
「髪の毛が早く伸びる人は、だ。助平だという俗説があった」
「スケベって、なに?」
「その、まあ…。なんだ、いわゆる好色。そういう人を指した言葉だ」
 根拠は全く無かったそうだが、そういう風に言われていた。
 だから嬉しくないってわけだな、「お前は助平だ」とからかわれたりするからな。
「えーっと…。ハーレイは早い?」
 ハーレイ、髪の毛、伸びるのは早い?
「お前、何かを期待してるな?」
 チビに手を出すほど飢えてはいないぞ、ついでに好色でもないが。
「ホント?」
 ねえ、本当に?
 キスをしたいとか、ぼくに触ってみたいとか。
 そんな気持ちにならない、ハーレイ?
「こら、煽るな!」
 そういう台詞はまだ早いんだ、とブルーの頭に拳がゴツンと下りて来た。
 力はこもっていないけれども、頭の真上に落ちた一撃。
 ブルーは「痛いよ!」と大袈裟に騒ぎ、それから赤い瞳でハーレイの瞳を覗き込んだ。



「…それでホントはどうなの、ハーレイ?」
 ハーレイの髪の毛、早く伸びるの?
 スケベかどうかは別の話で、ぼくの純粋な興味なんだけど。
「普通だと思うぞ、特に言われたこともないしな」
 いつも行ってる理容店でも、早い方だとは言われていない。
 俺がこの町にやって来て直ぐから、世話になってる店なんだが…。
 そう言うお前はどうなんだ?
 髪が伸びるの、早い方なのか?
「…早くない…。多分、普通だよ」
「ほら見ろ、つまりお前も助平なんぞとは無縁だってな」
 キスだの本物の恋人同士だのと騒いでいたって、そういう以前の問題だ。
 お前が自分で思ってるほどに、そういったことに縁は無いんだ。
 本当に我慢出来なかったら助平ってヤツで、髪の毛も早く伸びそうなもんだ。
「ハーレイ、それは俗説だって…!」
「そうではあるが、だ。今のお前には俺が当てはめておく」
 チビで髪の毛も普通の速さでしか伸びない間は、背伸びしなくてもいいってな。
 キスだの何だのと騒ぎ立てる前に、子供らしく生活しとけってことだ。



 諭されたブルーは唇を尖らせ、もう一度ハーレイに訴えてみた。
「早くなくても、髪の毛は普通に伸びるのに…」
 普通の速さで伸びてくれるのに、ぼくの背は全然伸びないんだよ。
 遅くてもいいから、ちょっとずつでも伸びて欲しいと思っているのに…。
「背だって伸びるさ、いつかはな」
 そうして前のお前とそっくり同じな姿になるんだ、俺もその日が楽しみだな。
「いつかって、いつ?」
 今年の内には伸び始める?
 それとも今年の間は無理なの?
 ねえ、いつになるの、ぼくの背がちゃんと伸び始めるのは?
「時が来たら、だ」
 お前が充分に子供時代の幸せってヤツを取り戻したなら、背も伸びるさ。
 前のお前が失くしちまった、成人検査よりも前の幸せな記憶。
 今みたいに本物のお父さんとお母さんではなかったが…。
 血の繋がっていない養父母だったが、前のお前にとっては親だった。
 その人たちと暮らした温かな家や、優しい思い出。
 機械に消されて失くしちまった幸せの分まで、今のお前が幸せな時を生きたなら。
 もう充分だと、沢山の幸せを手に入れたんだ、と満足したなら子供時代も終了だってな。



 ゆっくり幸せに育ってくれ、とハーレイはブルーの頭を撫でた。
 カットしたばかりの銀色の髪を、ブルーの手よりもずっと大きな褐色の手で。
 けれどもブルーは「早く伸びないかな…」と尚も続ける。
「前のぼくの背と同じ、百七十センチ。あと二十センチ…」
 十八歳までには間に合わせたいよ、ゆっくりだなんて言ってられないよ。
 だって、十八歳になったら結婚出来る年なんだよ?
 それまでにはちゃんと伸ばしたいのに…。
「どうだかな?」
 チビのままなら、十八歳になっても結婚どころじゃないんだが…。
 そいつは神様次第ってトコだな、お前が育つか、チビのままかは。
「…伸び始めてたら、結婚式の準備、してくれる?」
 ぼくの背が伸びるようになったら。
 結婚式を挙げられるように、ハーレイ、準備をしておいてくれる?
「その前にまずはプロポーズか?」
「うん」
 そうだよ、それが一番大切。
 今度はプロポーズをして貰えるんだもの、前のぼくたちの時と違って。
「お前の背丈が十八歳までに百七十センチになりそうならな」
「えーっ!?」
 早めにプロポーズしておいてよ、とブルーは強請った。
 百七十センチになってからでは間に合わないのだと、結婚式のための準備も要ると。



「あらかじめ準備をしておけってか…」
 百七十センチに届かない内からプロポーズか、とハーレイは腕組みをしてニヤリと笑った。
「俺に準備をしろと言うなら、お前の方でも準備しておけ」
「…何を?」
 怪訝そうなブルーにハーレイが答える。
「その髪の毛。今日、切って来たばかりの髪の毛だ」
 十八歳で結婚するなら、結婚式に間に合うように十センチほど伸ばしておくんだな。
「…なんで伸ばすの?」
「ウェディングドレスを着るんだろ?」
 それなら肩に届くほどは要る。
 でないとドレスに似合った髪が結えんし、余裕を見て伸ばしておいてくれ。
 十センチだったら半年くらいか…。
 間に少しは揃えるために切ったりするだろうから、半年ではちょっと足りないかもな。



 結婚に備えて髪を伸ばせ、と注文をされたブルーは驚いた。
 ブルーの誕生日は三月の一番末の日だったし、十八歳を迎える頃には義務教育を終えている。
 だから直ぐにでも結婚しようと考えていた。誕生日の日が結婚式でもかまわないと。
 ところが、結婚式を三月の末に挙げるのならば。
 それに合わせて髪を伸ばすなら、在学中から伸ばすしかない。それも半年近くの間。
「…ぼく、その髪の毛で学校に行くの?」
 肩まで届く長さに伸ばして、それで制服を着て学校に行くの?
「もちろんだ。卒業したら結婚するんだ、という夢を実現させたいのなら準備をせんとな」
 校則だと、長い髪の毛は束ねるんだったか?
 いや、肩までなら束ねなくてもかまわないのか…。
 そうだ、どうせなら二十センチ伸ばすというのはどうだ?
 お前の目標の二十センチだ、今のお前は背を二十センチ伸ばすってことが目標だろう?
「二十センチって…」
 そんなに伸ばしてどうするわけ?
 肩どころじゃないよ、背中まで届く長さだよ?
「白無垢を着るなら、そのくらい要るさ」
 お前、白無垢もいいなって前に言ってただろうが。
 二十センチあれば付け毛をすればな、綿帽子を被れる髪だって結える。
 大抵の人はカツラなんだが、自分の髪の毛で結ってみないか?



「…二十センチ…」
 ブルーにはまるで想像がつかない長さ。十センチだったら肩までか、少し過ぎるくらいか。
 けれども二十センチとなったら、今の長さの何倍だろう?
 それに…。
「ハーレイ、二十センチも伸ばすんだったら、一年くらいはかかってしまうよ?」
「そうなるだろうな、だから早めに準備をしろよ」
 卒業する学年が始まったら直ぐに伸ばし始めて丁度じゃないか?
 十七歳の誕生日から後は、揃える程度で伸ばしておけ。
「一年も…!?」
 そんなに伸ばすの、結婚式の準備をするために…?
 それに、校則…。そんな長い髪、束ねて学校に行かないと…。
「別にいいじゃないか、そういう男子生徒もいるし」
 要は個性だ、校則さえ守れば何も気にする必要は無いさ。
 背丈とセットで髪の毛も伸ばせ、お前の目標の二十センチで。



 十センチだの、二十センチだの。
 ハーレイは簡単に言ってくれるが、ブルーにとっては衝撃だった。
 前の生から同じ髪型、幼稚園に入る前から今の髪型。
 それを変えろと言われても困る。自分の姿がどんな風になるのか、全く想像出来ない世界。
 髪の毛を長く伸ばした自分は、前の自分と同じ姿形に見えるのだろうか?
 いくらハーレイと結婚式を挙げるためでも、今の姿を変えたくはない。
 前世の記憶が戻る前から「ソルジャー・ブルーみたいね」と言われた姿を変えたくはない…。
 けれどハーレイは「うむ、二十センチ伸ばしてみるのがいいな」などと言うから。
 ブルーは「嫌だよ!」とハーレイの言葉を遮った。
 結婚式の準備はしてみたいけれど、髪を伸ばすのは嫌なのだと。
 たとえ十センチでも伸ばしたくなくて、二十センチはもっと嫌だと。



「だって、ぼくの髪は…!」
 前からずっとおんなじなんだよ、今のぼくだって前とおんなじなんだよ!
 パパとママが決めて、小さい頃からこの髪型で。
 前のぼくと同じで過ごして来たのに、伸ばせだなんて言わないでよ…!
「ソルジャー・ブルーと同じ髪型のままにしておきたいのか?」
「そうだよ、それで結婚したいよ!」
「それはかまわないが、ドレスはどうする」
 お前、今の所は白無垢よりもドレスだったよな?
 白無垢だったらカツラでいけるが、ドレスもカツラを被って着るのか?
「カツラも嫌だよ、似合うように何とかして貰うよ!」
「うーむ…。プロならどうとでもするんだろうが…」
 花を飾るとか、そういった風に。
 ショートカットの花嫁っていうのも、いないってわけではないからなあ…。
 お前が髪型にこだわってるなら、其処の所は動かせそうにないな。



 とんだ制約が出来たもんだ、とハーレイは首を捻るけれども。
 ブルーには譲るつもりなど無く、真正面から宣言した。
「絶対、今と同じがいい。今の髪型、変えたくない!」
 どうしても伸ばさなきゃならないってことになったら、式が終わったら直ぐに元に戻す!
 切りに行くんだよ、今のぼくの髪型と全く同じに。
 ソルジャー・ブルー風でお願いします、って走り込むんだよ、切ってくれるお店に!
「おいおい、そこまでの勢いなのか?」
 何故、それほどに髪型にこだわる?
 今の髪型、そんなにお気に入りなのか?
「それもあるけど、前のぼくと同じがいいんだよ!」
 前のぼくとそっくり同じがいい。
 だって、前のぼくはハーレイと結婚出来なかった。結婚どころか、恋人同士なことさえ秘密。
 だから今度は、きちんとハーレイと結婚したい。
 前のぼくとそっくり同じ姿で、ハーレイと結婚したいんだよ。
 …前は叶わなかった分まで。
 前のぼくには出来なかった分まで、同じ姿でうんと幸せな結婚式を挙げたいんだよ…。



 メギドで散ったソルジャー・ブルー。
 ハーレイとの恋を誰にも明かせないまま、逝ってしまったソルジャー・ブルー。
 彼への想いは今もハーレイの内に残っているから。
 小さなブルーを前にしていても、未だに忘れることが出来ないほどに深く愛した人だったから。
 ハーレイは「…実は、俺もだ」と告白した。
「同じ結婚式をするなら、前のお前とそっくりな姿のお前がいい」
 俺だって、叶うものならば。
 前のお前と結婚式を挙げたかったし、その分をお前と取り戻したい。
 前は叶わなかった分まで、お前にきちんと誓いたいんだ。
 幸せにすると、今度こそ俺がお前を誰よりも幸せにしてやると。
 出来なかった誓いをやり直すんなら、前のお前とそっくりなお前に誓わないとな。
 髪型がドレスに似合っていようが、どうであろうが。
 前のお前と同じ髪型のお前に誓って、ちゃんと結婚しなくちゃな…。



 そう語った後、ハーレイはブルーの銀色の髪をクシャリと撫でた。
 カットしたばかりの銀色の髪を、ソルジャー・ブルーと同じ髪型をしているブルーの髪を。
「よし。お互い、この髪型がいいと言うんだったら、だ」
 ドレスに似合った髪ってヤツはだ、プロに任せておくとしようか。
 「こんなに短くては困ります」と言われようがだ、アレンジしてこそプロだしな?
 その代わり、頭が花だらけになっても文句を言うなよ?
 これでもかってくらいに沢山の花を、一杯に飾られちまってもな。
「うんっ!」
 花なら外せばそれで済むしね、伸ばしてしまった髪の毛みたいに急いで切りに行かなくっても。
 それに前のぼくとそっくり同じ姿で結婚出来るよ、花だらけでも。
 前のぼくだって、シャングリラの子供たちが作った花冠を被ってた。
 一度に幾つも被せられちゃって、ハーレイたちにも「お裾分けだよ」ってあげてたくらいに。
 あの頃よりもずっと幸せな世界に来たんだもの。
 花が増えたって、気にしない。
 花冠よりも沢山になった花の分だけ、幸せもドッサリ増えるんだから。



「そう来たか…。そう言えばあったな、花冠」
 俺も貰ったが、ゼルまで貰っていたっけな。お前のお裾分けの花冠を。
「そうでしょ? だから頭に花なら慣れてるんだよ、前のぼくだった頃から、とっくに」
 今度は花冠よりも豪華になるよね、ぼくの頭に乗っける花。
 それ専用に咲かせた花を幾つも、プロが飾ってくれるんだものね。
「そういうことになるわけだが…」
 だが、その前にだ。お前の背丈を前と同じにしないとな。
 でないと結婚どころじゃないんだ、頑張って伸ばせ。
「結局、そこに落ち着くの?」
「うむ、そこだ」
 しかしな、急ぐ必要は無いぞ?
 慌てなくっても、いつかはちゃんと大きくなる。前のお前とそっくりに育つ。
 その日までうんと幸せに生きろ、前のお前が失くしちまった子供時代というヤツを。
「いいな、ブルー? 焦るんじゃないぞ、背が伸びなくても」
 ゆっくりでいいから大きくなれよ、とハーレイは微笑む。
 前のお前とそっくり同じに育ったお前を嫁に貰う日を、俺は楽しみにしているから、と…。




           前と同じ髪型・了

※運命の17話放映から、9年目の7月28日です。定期更新日と被りました。
 生まれ変わって幸せなブルー、きっと普通が一番だよね、と。
 ソルジャー・ブルーだった頃から、変わっていないブルーの髪型。幼い頃から同じスタイル。
 結婚式を挙げる時にも、前と同じがいいそうですけど…。美容師さんは大変かも?

 「7月28日は、やっぱり特別なんだ!」と仰る方には、ハレブルじゃないですけど…。
 pixiv 専用サイト用にと書いてみた記念作品をどうぞ。タイトルをクリック。

 「青い星まで」:シリアスなショート。2016年7月28日記念創作。

 「老人とメギド」:ネタ系ショート、ブルー生存。こちらも記念創作です。

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「今やすっかり普通になっちまったなあ…」
 ハーレイがふと零した言葉に、ブルーは「何が?」と首を傾げた。
 仕事帰りに寄ってくれたハーレイと両親も一緒の夕食を食べて、今はブルーの部屋のテーブルで食後のお茶。お菓子は無くてお茶だけだけれど、時間が許す限りはゆっくり話せる。
 そんな中で出て来た、何の脈絡も無い話。何が普通だと言うのだろう?
「ん? 何がって…。今日の晩飯さ」
 昼飯でもいいぞ、食堂で何か食べただろ?
「お昼御飯…?」
 ますますもって分からなかった。学校の食堂で摂った昼食。ランチ仲間と賑やかに食べた。
 その食堂にハーレイの姿は無かったと思う。
 食堂を利用することもあるハーレイだけれど、飛びぬけて立派なあの体格。何処かに居たなら、まるで気付かない筈が無い。たとえ自分とは遠く離れた席で、柔道部員たちとの食事だとしても。
 だからハーレイに会ってはいないし、昼食はヒントになりそうもない。
 けれど昼食と言われたからには、此処は考えねばならないだろう。



(今日のランチは…)
 日替わりランチは、今日はコロッケがメイン。それにスープとサラダがついた。
 トーストを添えるか、ライスにするかはその場で選べる。どちらにしようかと少し迷ってから、ライスに決めた。ブルーは大抵、ランチにはライスを選んでいた。
 トーストが食べたい気分の時とか、如何にもトーストが合いそうだとか。そういった時だけ選ぶトースト。普段はライス。コロッケだったから迷ったけれども、やっぱりライス。
 ブルーがライスをよく選ぶのには理由があった。その場で盛り付けて貰えるライス。好みの量を選べるライス。「少なめで」と頼んで盛られた量から「もっと減らして」と言えるのが強み。
 これがトーストだと、そうはいかない。
 厚みや枚数は注文出来ても、出て来たトーストを「多すぎるから」と減らせはしない。
 ライスだったら多すぎた分を釜に戻して、次のランチに盛れば済むこと。
 しかしトーストは焼けてしまえばそれでおしまい、多すぎる分を切って誰かに回せはしない。
 ブルーの昼食の定番と言えば、ランチセットのライスだけれど。



(…だけど昼御飯、他にも色々選べるよ?)
 食堂のメニューはレストランには及ばないまでも豊富にあった。
 人気のカレーライスや丼、パスタに麺類。もっとも、ブルーは滅多に注文しなかったが。
 注文しない理由は日替わりランチのトーストと同じ。量の加減が出来ないから。
(ぼくは大抵、ランチだけれど…)
 ハーレイの台詞と繋がらない。いったい何が普通なのかが。
(それに夕食…)
 さっき、ハーレイや両親と囲んだ食卓。
 テーブルの上にはお客様向けではない家庭料理の鮭のムニエル、野菜の煮物に味噌汁など。
 学校で食べたランチとは何の共通点も無く、考えるほどに分からない。
 コロッケとムニエルは全然違うし、サラダと野菜の煮物だって違う。スープと味噌汁ともなれば尚更、ハーレイの意図が全く掴めないから。
 思い切って訊いてみることにした。一人でぐるぐる考えていても、きっと答えは出ないだろう。



「ねえ、ハーレイ。普通って、何が普通なの?」
「もちろん飯だ」
 今日の昼飯。俺は弁当持参だったが、いつも持ってくる二段重ねのでっかいヤツだ。
 おかずはたっぷりが俺の基本だ、二段重ねは外せない。…まだ分からんか?
「ハーレイのお弁当まで出て来ちゃったら分からないよ!」
 お手上げだよ、とブルーは叫んだ。
 自分が食べた昼食と夕食の謎も解けていないのに、見てもいないハーレイのお弁当だなんて。
 けれどハーレイは「そうか?」と涼しい顔で続ける。
「ヒントは二段重ねの弁当箱だが」
「…豪華ってこと?」
 いろんなおかずが沢山入って、うんと豪華なお弁当?
「いや、俺が言うのは質よりも量だ」
 そりゃあ、質にもこだわりたいが…。
 栄養バランスと俺の気分とで、あれこれ詰めるのが楽しみなんだが。
「ますます謎だよ!」
「謎って…。同じ食うなら美味い飯の方がいいだろうが」
「そんなことを言われたら、もっと謎だよ!」
 美味しいだなんて言われても…。
 ぼくはハーレイの今日のお弁当、何が入ってたのかも知らないんだよ!
「今が一年で一番美味いが?」
「えっ…?」
 謎は一層、深まった。一年で一番美味しいとくれば、恐らくは旬のものなのだろうが。



 今の季節は実りの秋。様々な旬の食材が溢れるシーズン。
(鮭のムニエルはママが年中、作っているけど…)
 本来は鮭は秋だった筈。川で生まれた鮭が海で育って、産卵のために川を遡る時期。
 鮭だろうか、と考えたけれど、鮭はランチプレートの上には無かった。今日のランチはコロッケだったし、コロッケに鮭は入ってはいない。
「ハーレイ。今日の食堂の日替わりランチはコロッケだったよ?」
「コロッケなあ…。お前は、何を食ったんだ?」
「だから、ランチセット!」
 ハーレイだって知ってるくせに。
 ぼくは殆ど毎日ランチセットで、他のメニューは滅多に頼んでいないってこと!
「ふむ…。いつぞやは大盛りランチを頼んで、分厚いトーストを持ってはいたが、だ」
 食えもしないのに頼んでしまって途方に暮れていたよな、お前。
 残してた分を俺が食ったわけだが、あの時のトースト、例外だろう?
 お前、基本はライスだろうが。あれはいくらでも減らせるからな。
「そうだけど…」
 もっと減らして、って言ったら減らして貰えるけれど。
 だから大抵、ライスだけど…。



 ハーレイとは食堂でたまに顔を合わせるし、一緒に食べたことも何度かあった。
 身体測定を控えて背を伸ばそうと欲張って大盛りランチを頼んだ時が最初で、その後も何度か。
 ランチ仲間が周りに居るから、二人きりとはいかないけれど。
 ハーレイと二人で話したくても、生徒に人気の高いハーレイ。ランチ仲間に囲まれてしまって、ブルーだけとは話してくれない。ブルーもあくまで生徒の一人。
 それでもブルーは幸せだったし、特別なランチタイムになる日。
 何度も食堂で出会っていたから、ハーレイはブルーがライスを選ぶと当然知っているのだが…。



「ぼくがライスだと、どうかした?」
 分からないよ、ハーレイが言ってる話。
 何が普通で何が美味しくて、晩御飯とかお昼御飯とどう繋がるわけ?
 おまけにハーレイのお弁当だよ、何が何だかサッパリだよ!
「今が一番美味いと言ったぞ」
 それに俺の二段重ねの弁当箱は、だ。
 一段はおかずをギッシリ詰めるが、もう一段は飯が詰まるんだ。
 炊き込み御飯と洒落込むこともあるがな、飽きが来ないのは普通の飯だな。
 弁当を開ける頃には冷めちまっているが、おかずを食うには飯が欠かせません、ってな。
「…もしかして、御飯?」
 さっきからハーレイが言っているのは御飯なの?
 今だと新米を売っているから、一年で一番美味しいお米が食べられるけど…。
「そうさ、俺が普通だと言ったのは米さ」
 お前のランチに、俺の弁当。今日の晩飯にも白い御飯がついてただろう?
 今じゃ当たり前のように食ってる米だが、あれはシャングリラには無かったろうが。



 ブルーとハーレイが生まれ変わった地域は、遠い昔に日本と呼ばれた小さな島国が在った場所。地形はすっかり変わったけれども、画一的だったSD体制時代に消された文化を復活させる努力を続けて結果を出した。
 今も日本と呼ばれる地域。米食文化が根付いた地域。
 其処では米はあって当然、栽培も各地で行われている。様々な品種の米が栽培されている。
 けれども、遠い遥かな昔にブルーたちが暮らしたシャングリラ。
 ブルーが守った白い船。ハーレイが舵を握っていた船。
 其処に日本の文化などは無くて、米も無かったとハーレイはブルーに言うのだけれど。
 ブルーの記憶では米も育てた。白い鯨の広い農場には、米だってちゃんと植えられていた。



「えーっと…。シャングリラにもお米、あったよ?」
 ちゃんと育てて食べていたよ。
 もしかしてハーレイ、忘れちゃってる?
「いや、米があったことくらいは覚えているさ」
 農場で何を育てていたのか、知らないようではキャプテンなんぞは務まらん。
 収穫時期だの、採れた量だの、次の栽培の計画だのといった報告まで来るんだからな。
 しかしだ、シャングリラで育てて収穫した米。
 そいつでピラフだのリゾットだのを作ってはいたが、ただの白い飯は無かったろうが。
 米を水だけで炊き上げたヤツは無かったんだぞ、水と鍋があれば炊けるのにな。
「そういえば…」
 無かったね、とブルーは遠い昔の記憶を探った。
 シャングリラで採れた米はピラフに、リゾットなどに調理されたけれども。
 時には様々な野菜やハーブを刻んで混ぜ込んだ米を、くり抜いたトマトなどに詰めてオーブンで焼いた料理も作られたけれど、ただ白いだけの米は無かった。
 味付けもされず、具材も何も入ってはいない、ただの白い米。
 鍋と水さえあれば炊き上がる筈の、いわゆる「ご飯」は見なかった…。



 今のブルーには馴染みの「ご飯」。
 学校の食堂で「ライス!」と頼めば盛られて出て来て、家でも毎日のように炊かれる「ご飯」。
 あまりにも普通で、幼い頃から口にして来たものだったから。
 ハーレイが「すっかり普通になっちまったなあ」と言わなければ気付かなかっただろう。
 前の自分は白い御飯を知らなかったと、食べたことさえ無かったのだと。
「白い御飯、シャングリラに居た頃には無かったんだっけ…」
 ちゃんとお米を育てていたのに。
 リゾットとかピラフを食べていたのに、どうして普通に炊こうと思わなかったんだろう?
 白い御飯を食べるって文化、日本と一緒に消えちゃった?
 日本って国の文化が無くなった時に、白い御飯も消えちゃったの…?
「いや、消えちまったスケールってヤツは、もっとデカイな」
 白い飯は日本の文化と一緒に消えたんじゃない。
 日本と呼ばれた国だけじゃなくて、地球と一緒に消えたんだ。
「地球…?」
「そうだ、白い飯は地球と一緒に消えた」
 スケールがデカイと言っただろう?
 地球ごと滅びて消えちまったのさ、白い飯を食おうって食文化はな。



「どうして地球…?」
 ブルーは酷く驚いた。日本という小さな島国ならばともかく、母なる地球。
 白い御飯が地球と一緒に滅びただなんて、あまりにもスケールが大きすぎる話。日本で馴染みの白い御飯が、どうすれば地球ごと滅びるのだろう?
 確かに日本は、地球の一部であったけれども…。
「驚いたか? だが、本当の話だ、これは」
 お前、好き嫌いが無い上に、寿司は好きだろ?
「うん。お寿司は元から好きだったけれど、前のぼくの記憶を取り戻してからは、もっと好き」
 地球の海で獲れた魚とか貝が沢山だもの。
 青い地球まで来られたんだな、って実感出来る食べ物だもの。
「その寿司が、だ。日本で生まれて世界中に広がって人気だった時代があったんだ」
「お寿司が?」
「ああ。今もあちこちの地域で人気のようだが、その比じゃない」
 何処の国にも寿司を食べさせる店が沢山あったくらいに、寿司ってヤツは人気だったのさ。
 ところが、寿司は地球と一緒に消えちまった。
 それと一緒に寿司を乗っけてた白い飯も消えてしまったわけさ。
 もっとも、寿司に使う飯には酢を入れるがな…。だが、炊く時にはただの白い飯だ。
 そいつが姿を消してしまった。
 ついでに白い飯で食うのが基本の、日本の和食の文化もな。



「なんで…?」
 地球と一緒に
消えちゃうだなんて、どうしてなの?
 お寿司も和食も、どうして地球と一緒に消えてしまうの、お寿司は人気だったんでしょ?
 人気があるなら残りそうだよ、とブルーはハーレイに言ったのだけれど。
「残したくても、そうするわけにはいかなかったんだ」
 寿司ネタに欠かせない、魚や貝や。
 和食に使う出汁の元になる、昆布にカツオ。
 どれも海だろ?
 海から取れるものばかりだろ?
「うん」
「これで分からないか?」
 寿司も和食も、海ってヤツから切り離せない。
 生命を育む海が要るんだ、そいつが無ければ寿司も和食も作れないんだ。
「あっ…!」
 そうだったのか、と気付いたブルーの瞳が翳った。
 遥かな昔に滅びてしまって、前のハーレイが辿り着いた時には死の星だったと聞いている地球。
 今でこそ青い水の星として蘇ったけれど、一度は滅びてしまった地球。
 大気は汚染され、地下には分解不可能な毒素。
 生命の源、海からも魚影が消えて行った果てに、地球は滅びた。
 その地球を再び蘇らせるために、と人の未来を機械に委ねてSD体制の時代になった…。



「海が駄目になって消えたんだ、お寿司…」
 ブルーの瞳が悲しげに揺れる。
 愚かだった遠い昔の人々。地球を滅ぼしてしまった人々。
 彼らが地球を滅ぼしたせいで、前の自分たちは酷い目に遭わされ、生きる権利さえも奪われた。
 それでも尚も地球を目指して、いつか行こうと焦がれ続けた。
 地球が死の星のままだとも知らず、前の自分は仲間たちの命を守るためにとメギドで散った。
 今はもう遠く過ぎ去った時代のことだけれども、あの頃を思うとやはり悲しい。
 どうして人は地球を滅ぼしてしまったのかと、母なる星を死へと追いやったのかと。



 俯いてしまったブルーの頭を、ハーレイの褐色の手がポンポンと軽く優しく叩いた。
「落ち込むな、こら。…元々は寿司の話だろうが」
 それと、白い飯。
 前の俺たちには想像もつかなかった美味い飯がある世界に来たんだ、何もかも全部昔のことさ。
 青い地球だって今はあるんだ、海の中には魚も貝も山ほど棲んでいるんです、ってな。
「そうなんだけど…」
 青い海はちゃんとあるんだけれど、と返したブルーは「あれ?」と首を捻った。
 海ならばアルテメシアにもあった。人工の海ではあったけれども、魚も海藻も存在していた。
 昆布から作る出汁はともかく、寿司は作れたような気がする。
 けれども寿司は無かったから。地球と一緒に滅びたと聞くから、確認してみた。
「ハーレイ、アルテメシアにも海はあったよ?」
 ミュウの子供を救出する時に海に隠れたら、いつも魚が泳いでいたよ。
 あの魚でお寿司、多分、作れたと思うんだけど。
 アルテメシア以外の星にも海はあったし、お寿司は消えずに済みそうなのに…。
「そいつは前の俺たちの時代だったから、そう思うだけさ」
 SD体制が始まる前。
 人類は住める星を探して、植民惑星を幾つも作った。アルテメシアもその一つだな。
 だが、植民惑星に海を作れる技術はあっても、生態系を維持するだけで精一杯といった所だ。
 やっとのことで定着させた魚や貝などを食ってしまえるわけがない。
 もちろん養殖技術もあったが、食うための魚や貝は必要最低限でいい。食えればいい。
 海ってヤツから切り離せないような食文化は消すに限るんだ。
 SD体制とマザー・システムは、それを実行したわけだ。消してしまえと、滅ぼせばいいと。
 そうやって寿司は地球ごと滅びた。
 寿司も和食も、海が無ければ駄目な食文化は消えて行くしかなかったのさ。



「だったら、お米は? …白い御飯は?」
 海が無くても白い御飯は作れるよ?
 シャングリラでも多分、知っていたなら炊けた筈だよ、白い御飯を。
「白い飯だけじゃ美味くないだろう、って消えたんだろうな、寿司も和食も無いからな」
 もちろん白い飯を食ってた地域は日本の他にもあったわけだが。
 多様な文化は必要無い、というのがSD体制だ。
 地球を席巻していた大人気の寿司も消してしまったようなヤツらが残そうと思うわけがない。
 ヤツらが選んだ文化の他には何も要らない、宇宙の何処でも判で押したようにそっくりな世界。
 白い飯はヤツらに選ばれなかった。
 米はあっても、白い飯を食うって文化を残さなかった。
 美味くないと判断したんだろうなあ、寿司を作れない世界じゃな。
 もっとも、俺に言わせれば、だ。
 白い飯に酢を混ぜて寿司用の酢飯に仕立てなくても、ただの白い飯で充分に美味い。
 握り飯にして塩をパラリと振ったら、それだけで美味いものなんだがな。
「海苔を巻いたら、もっと美味しく食べられるよ?」
「その海苔が無かった時代だろうが」
 海苔も海だぞ、海が無ければ作れないんだぞ?
「そっか…」
 おにぎりに胡麻も美味しいけれども、白い御飯が無いんじゃね…。
 シャングリラで胡麻は育てていたけど、おにぎりは作れなかったんだね。
 前のぼくたち、白い御飯を知らなかったから。
 お米はリゾットやピラフにするもので、水で炊くだけなんて誰も思いもしなかったから…。



 地球と一緒に滅びた文化。数多の文化と共に食文化も滅びて消えて行った。
 今は食卓に当たり前にある白い御飯も、それに酢を混ぜた酢飯で作られる寿司も。
 青い地球と共に蘇った文化は、消えた食文化も連れ戻して来た。
 ブルーとハーレイが生まれ変わって来た地域には、寿司も和食も戻って来た。
 シャングリラでは誰も考えなかった、知りもしなかった米の食べ方。
 水で炊くだけで主食になる米。酢を混ぜてやれば寿司が作れる米。
 その上、海も魚たちを連れて戻って来た。寿司のネタに出来る魚たちを。



「ねえ、ハーレイ…。白い御飯もお寿司もある今って、とっても贅沢?」
「うむ。白い飯は繊細な味の料理を壊さないしな」
 ピラフとかではそうはいかんぞ、せっかくのおかずをブチ壊しちまう。
 でもって、寿司はだ。海の幸を山ほど食えるからなあ、地球の海で獲れた新鮮なのをな。
 前の俺たちには想像も出来なかった贅沢な飯だな、白いだけの飯は。
「白い御飯で食べると美味しいものね、コロッケとかでも」
 シャングリラだったら、コロッケにはパンがくっついてたのに。
 もしも白い御飯がくっついて来たら、きっとミスだと思ってたよね。
 ピラフを炊くのに失敗したなと、何も入れずに作っちゃったんだな、と。
「そうだな、俺もそう思っていただろうな」
 厨房のヤツらは何をしてるんだと、作り直してやろうかと。
 今の俺なら「今日は白い飯か」とバクバクと食って、「美味かった」と食器を返すんだが。
 白い飯にすっかり慣れちまったしなあ、単に「飯か」と思うだけだな。
 実に変われば変わるもんだな、所変われば品変わるってな。



 今や普通に主食になったな、とハーレイは笑う。
 シャングリラで暮らしていた頃なら失敗作かと思ったであろう、白いだけの御飯。色も無くて、具材の一つも入ってはいない白いだけの御飯。
 それを美味しく食べられる世界に来てしまったと、おまけに今では寿司までがあると。
「前のぼく、お寿司なんかは知らなかったよ」
 本で読んだからデータは知ってた。だけど食べたいとも思わなかったよ。
 白い御飯はよく分からないし、生の魚を乗っけるのも変。
 それにお醤油とワサビが全く想像出来なかったよ、どんなものだかサッパリだったよ。
「だろうな、あの時代には醤油も作られていなかったしな」
 寿司といえば、だ。
 今の俺はちらし寿司もけっこう得意なんだが、ついつい作りすぎりちまう。
 たまに食いたくなって作ると、下手すりゃ二日は白い飯の代わりに食う羽目になるな。
「その内にぼくが手伝うよ」
 結婚したら手伝ってあげるよ、ちらし寿司。
「食う方か、それとも作る方なのか?」
「どっちも手伝う!」
「いいな、そしたら手巻き寿司もやるか。こいつは一人じゃ出来ないからな」
 独身男が一人で手巻き寿司だと侘しいだろう?
 だから手伝え、お前が俺と結婚したらな。
「うんっ!」
 食べるのも用意も、どっちも手伝う。
 ちらし寿司も手巻き寿司も、どっちも作って一緒に食べるよ、いつかハーレイと結婚したら。



 シャングリラには無かった、水で炊いただけの米を食べる習慣。
 地球と一緒に滅びてしまった、白く炊き上がった色のついていない米。
 いつか結婚した時には…、とハーレイとブルーは指切りをする。
 ちらし寿司や手巻き寿司もいいのだけれども、普段の食事。
 白い御飯を二人分で炊くのが当たり前の時が来たならば。
 その幸せを感謝しようと、これが蘇った地球の恵みなのだと。
 シャングリラの中でしか生きられなかった時代は遥かな時の彼方へと去って、青い地球の上。
 其処には白い御飯が当たり前にあると、二人分の茶碗にそれをよそって食べるのだと。
 ハーレイの茶碗と、ブルーの茶碗。
 二つの御飯茶碗を食卓に置いて、「いただきます」と二人で声を揃えて…。




         消された食文化・了

※白い御飯も和食も無かったSD体制の時代。もちろん、お寿司もありません。
 けれど今では御飯が普通。いつか食卓に、ハーレイとブルーの御飯茶碗が並ぶのです。
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