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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

 地球を目指して星の海を渡るミュウたちの白い船、シャングリラ。
 人類軍がモビー・ディック……『白い鯨』と呼ぶ優美な船体に秘められた戦闘能力は大きく、
それをサポートするナスカの子たちのタイプ・ブルーのサイオンの下、地球への道は今や確実に
拓けつつあった。


「まだだ。もっと引き付けてから一斉射撃!」
 人類軍の一大艦隊を前にキャプテン・ハーレイの指示が飛ぶ。
「右舷前方、攻撃、来ます!」
「グラン・パ!」
「頼む、トォニィ!」
 着弾前に爆発してゆく幾つものミサイル、四散し消滅するレーザー。ソルジャー・シンの
陣頭指揮に従うナスカの子たちと、ハーレイに従うブリッジ・クルーと。
「サイオン・キャノン、発射!」
 光の筋が敵艦隊へと吸い込まれてゆき、数ヶ所で起きた大爆発と、続く誘爆の連鎖の後に
もう敵艦の姿は見えない。これほどの大艦隊に遭遇することは以前は滅多に無かったのだが、
この一ヶ月ほどで急激に増えた。
 シャングリラを侮れないと知った人類側も必死になっているのだろう。


「やりましたね、ソルジャー!」
「ああ。みんな、よく頑張ってくれた。ありがとう」
 ソルジャー・シンの労いの声に歓声が上がり、続いてハーレイからの訓示を兼ねた重々しい
言葉が緩んだ空気を引き締める。それがいつもの光景だった。しかし…。
「「「キャプテン!?」」」
立っていたハーレイの身体がグラリと傾ぎ、そのまま床にくずおれる。ルリの悲鳴がブリッジを
劈き、エラとブラウが倒れたハーレイに駆け寄った。肩を揺すり、手首を握っても何の反応も
返らない。
「ドクターを呼べ!」
 医療チームもだ、とソルジャー・シンが叫び、先ほどまでとは違う緊張と慌ただしさとが
ブリッジの上を覆っていった。

 

 


「……ハーレイ?」
 不意に呼ばれたような気がして、ブルーは青の間を見回してみる。戦闘があったことは
承知していたが、今のブルーはソルジャーではない。ソルジャー・シンからの要請があるか、
或いはナスカの子たちの危機でも察知しない限り、戦線には出ないと決めていた。
『…ハーレイ…?』
 終わったのか、と思念波で呼び掛けてみたが応えは無い。恐らく戦闘の結果を踏まえて今後の
進路や作戦などを皆と検討しているのだろう。そういう時に思念を送っても返事が無いのは
いつものことだ。分かっていたのに…、と苦笑する。
(駄目だな…。ハーレイの邪魔をしてはいけない、と分かっているのに)
 ついうっかりと忘れてしまう。ソルジャーだった頃は決してこんな風に気安く呼んでみたりは
しなかったのに、退いて青の間に引き籠ってから弱くなった…、とブルーは腰掛けていたベッドの
傍らに視線をやった。そこに置かれたもう一つのベッド。


(……ハーレイ……)
 ベッドの主の名を心の中で呼んで、そっとシーツを指先で撫でる。
 ずいぶん遠い昔に思える、この手でメギドを沈めた日。あの日、奇跡にも似た形で救われて
以来、ブルーの傍らには常にハーレイが居た。
 夜も自分の部屋には戻らず、ブルーの病室に詰めたハーレイ。そのハーレイの祈りがブルーの
命を繋いでいる、と知ったソルジャー・シンたちが、このベッドを青の間に運び込んだ。
 ハーレイがいつもブルーを見守りながら眠れるように…、と。
(……でも……)
 形だけのベッドになっているよね、とブルーの頬がうっすらと染まる。
 ハーレイが自分のベッドを使っていた時期は確かにあったが、それはブルーがまだ本調子では
なかった頃。ブルーの容体が安定してからは、ハーレイはブルーを抱き締めて眠った。
 初めの間は文字通りただ腕の中にそっと閉じ込めるだけ。それが恋人同士の営みへと
変わったのはいつだったろう。ブルーの身体が弱り始めて以来、絶えて無かった熱い時間を
取り戻すように幾度も幾度も身体を重ねた。そうして、今は…。


(…ハーレイ、無理をしていないかい? 君が死んだように眠っている日が増えているように
思うのだけど…)
 ハーレイが青の間に戻る時間が日毎に遅くなってゆく。独りで夕食を終えて先にベッドに
入っているブルーの唇に口付けを落とし、シャワーを浴びて…。ベッドに潜り込んでブルーを
抱き寄せ、二言、三言を交わしたかと思うと、もう深い眠りに落ちている。
 そんな日が長く続いていた。ハーレイの温もりを感じられればブルーはそれで充分だったし、
抱いて欲しいと強請るつもりも無い。けれど、ハーレイの疲労の色が濃くなってゆくのが、
ただ心配で堪らなかった。
 無理をしすぎていないだろうか。休むようにと言うべきだろうか、と逡巡する内に扉が開く
気配を感じる。今日は早めに帰れたのか、と顔を上げたブルーの視線が凍り付き、ガクガクと
身体が震え始めた。
 嘘だろう、ハーレイ…。君に呼ばれたと思ったのに……!

 

 


「大丈夫です、ソルジャー。落ち着いて下さい」
 そう言ってくれた声は耳に馴染んだものではなくて、肩に置かれた手もドクターのもの。
ブルーが帰りを待ち焦がれていた褐色の身体は隣のベッドに横たわっていた。力が抜けたように
立ち上がれないでいるブルーの目の前で、ハーレイの腕に繋がれた点滴のチューブに滴がポタリと
落ちる。
「一通り検査を致しましたが、特に異常は見られません。連日、無理をしておられたようで…。
いわゆる過労と思われます。明日には意識が戻るでしょうが、当分は安静にして頂きます」
 ソルジャー・シンも了承しておられます、とドクターは言った。


「ソルジャー・シンも御存知ない時間まで仕事をなさっておられたとか。もっと早くに気付く
べきだった、と長老方も反省しきりでいらっしゃいます。ソルジャー、あなたにお任せしても
よろしいでしょうか?」
「えっ?」
「心身の安静が第一ですので、三日間ほどは面会謝絶にすべきであると考えます。ソルジャー・
シンや長老の皆様方がお越しになれば仕事が頭を掠めるでしょうし…。私と医療スタッフ以外は
立ち入り禁止にしたいのですが」
 ドクター・ノルディが何を求めているのか、ブルーはようやく理解した。ハーレイを看ていて
貰えないか、と言われているのだ。否と答えるわけがない。自分一人では心許ないが、ドクターと
医療スタッフも来てくれるのならば…。


「かまわないよ。どうせ一線を退いた身だ、こんな時くらいしか役に立てない」
「いえ、そんなことは…。ソルジャー、ありがとうございます」
 キャプテンのお身体なら御心配は要りませんから、とノルディは点滴のパックとチューブを
チェックし、交換の時間にはメディカル・ルームからスタッフを寄越すと約束した。
「もちろん、キャプテンの分の食事も運ばせます。明日の朝には様子を見に寄りますから、
夜間のことはスタッフに任せてお休み下さい」
 そう告げられて初めて夜であることに気が付いた。戦闘が始まる直前に軽い夕食を摂ったの
だったか…、と思い当たる。人類軍からの攻撃には昼も夜も無い。このところ、ハーレイは
夜中に飛び起きてブリッジに走ってゆくことも度々で…。
 倒れるほどに疲れていたのか、とハーレイの頬に手を伸ばす。触れた肌からは何の思念も
感じず、疲れの酷さと眠りの深さが察せられた。


「それでは、失礼いたします。ソルジャーもお疲れになりませんよう」
 ドクターが一礼して去って行った後も、ブルーは長い間、ハーレイの頬の辺りをそっと
擦り続けた。
少し伸び始めたらしい髭がチクチクと当たる。いつもシャワーのついでに剃っていたのか、と、
余計な手間を取らせていたことを悔いつつ、その気遣いが嬉しくて。
(ハーレイ…。暫くはぼくが世話をするから、ゆっくり休んで)
 もう二度と無理をするんじゃないよ、と補聴器が外された耳元に唇を寄せて囁き掛ける。
こんな非常時に、とは思うけれども、ハーレイと二人きりの時間が三日間。ハーレイの目が
覚めたら、久しぶりにゆっくり話をして…、と心躍る時に思いを馳せながらブルーは自分の
ベッドに戻った。

 

 


 ハーレイの腕と温もりが感じられないことは寂しかったが、独りで眠るには広すぎるベッドの
柔らかさは身体に心地良い。大きな枕に頭を凭せ掛けて間もなく、ハーレイの昏倒に驚きすぎた
心はゆるゆると眠りに誘われていった。
 明日、目を覚ましたらハーレイはもう起きているのだろうか? 起きていなければ寝顔を
見ながらゆっくり待とう、と夢の狭間にブルーは揺蕩う。それから食事を運んで貰って、
ハーレイがベッドから起き上がれないようならフォークやスプーンで口まで運んで…。
 ハーレイは何と言うだろう? 頬を赤らめて「自分で出来ますよ」と膨れそうだ…。


(………!??)
 ザァッ、と激しい風が吹き付け、渦を巻いた。目を閉じ、顔を庇ったブルーが瞼を開くと、
其処は青の間よりも遙かに眩い光が満ちた空間で。
「やはりお前か。ソルジャー・ブルー!」
 あの男が……黒髪の地球の男が銃口をこちらに向けていた。まさか、此処は…。
「此処まで生身でやって来るとは…。まさしく化け物だ。だが、此処までだ。残念だが、
メギドはもう止められない!」
 銃口が火を噴き、右肩に衝撃と痛みとが走る。止めなければ。メギドを止めなければ…!
 容赦なく撃ち込まれる弾丸に堪らず床に膝を付きつつ、反撃のチャンスとタイミングを計る。
残されたサイオンを極限まで高め、メギドと共にあの男をも…。


「これで終わりだ!」
 視界の半分が真っ赤に塗り潰された次の瞬間、サイオンを床へと叩き付けた。暴走した青い
光の輪が広がってゆき、地球の男を飲み込もうとする直前に。
「キース…!!!」
 飛び込んで来た人影が背後から地球の男を抱えるようにして消え去った。
 鮮やかな碧のサイオン・カラー。
 今の男は…ミュウだった……のか…? それならば。地球の男の傍らにすら、ミュウが
生き延びるだけの余地があるならば。
(ジョミー! …みんなを頼む!)
 このメギドだけは壊して逝くから。
 ミュウたちの生きられる場所を探して、君たちは地球へ…。


(…ハーレイ、君もどうか無事で…。ぼくの分まで、地球をその目で…)
 でも、ハーレイ…。もう一度だけ会いたかったよ、君の碧が見たかった。さっきのミュウを
見て思い出したんだ。ぼくだけの懐かしい、暖かく輝く碧の光を…。
 どうか最後に一目だけでも、と願った思いは叶わなかった。漆黒の奈落に囚われ、闇の底へと
引き摺り込まれる。もう会えない。自分は此処で闇黒に飲まれて、たった一人で…。
「ハーレイ…っ!!!」
 伸ばした手が空を切り、ブルーは底知れぬ冥暗の獄へと投げ出された。
 落ちる。落ちてゆくのだ、永遠に。会えなかった想い人の名を呼び続けながら、永劫の時を
泣き叫びながら、果てしなく何処までも、光すら届かぬ真の闇の中を……。

 

 


「ハーレイ! …ハーレイっ…!!」
 自分の泣き声で目が覚めた。落下は止まり、ベッドの天蓋が上の方に見える。
(……此処は……)
 青の間なのか、とホッと安堵し、全ては夢であったと悟った。けれどいつもなら抱き締めて
くれる腕が無い。
 「恐ろしい夢を見たのでしょう」と、「大丈夫ですよ」と頬を優しく撫でてくれる手も、
温かな口付けをくれる唇も…。


「……ハーレイ…?」
 もうブリッジに行ったのか、と身体を起こし、傍らのベッドに気付いて血の気が引いた。点滴の
チューブに繋がれ、死んだように眠っているハーレイ。点滴パックが満杯に近い状態だから、
寝ている間に医療スタッフが交換をしに来たのだろう。
 昨夜、過労で倒れたハーレイは多分、あれから一度も目覚めてはいない。目覚めたのなら
思念でブルーを呼ぶ筈だ。ブルーがどれほど心配したかは分かる筈だし、「ご心配をお掛けして
すみません」と一言必ず告げてくれる。


(…このせいかな……)
 酷い夢だった、とブルーは前髪を掻き上げた。
 メギドの悪夢は今でもたまにブルーを苛む。けれど最後には碧の光がブルーを包み込み、
ハーレイの許へと運んでくれるのが常だった。いつもハーレイが気付いて目覚め、夢が
恐ろしい方へと向かわないように優しく起こしてくれるのだから。
 その誘導が無いとこうなるのか、と身体を震わせたブルーの心にフッと不吉な翳が差す。
 体力の限界に達したハーレイ。
 ブルーをメギドから救い出して以来、その命の灯を決して消すまいと祈り続けてくれる
ハーレイ。彼の祈りだけで生かされていることは自覚していたし、無上の幸せでもあった。
 ただ、心の片隅に蟠っている疑問が一つだけ。


 ブルーの命を繋いでいるものは本当にハーレイの祈りだろうか? 祈りではなく、その祈りに
托されて流し込まれるハーレイの命で自分は生きているのではないか…。
 人の血を吸って永遠の命を得ていたという伝説の中の吸血鬼。彼らのように自分もハーレイの
命を啜り、削り取りながら今も生き永らえているのではないか…。
 それを一度だけ口にした時、ハーレイは豪快に笑い飛ばした。そんな器用なことは出来は
しないし、仮にそうなら自分はとっくの昔に死んでいますよ、と。
(そうでしょう、ブルー…、と、君は言ったね。本当ならば老衰で死んでいた筈のぼくを、
あれだけの傷を負って死にかけたぼくを今の状態まで戻すためには命が幾つあったとしても
足りないと…。でも……。君とぼくとが思った以上に、君の寿命は長かったのかもしれないよ…)


 限界が来たんじゃないのかい、とブルーはポツリと呟いた。
「過労だとノルディは言ったけれども、本当はぼくのせいかもしれない。君の命を削り続けて、
とうとう限界に近付いたのかも…。そうだとしたら、もういいよ」
 これ以上はもう祈らないで、とブルーは眠り続けるハーレイの唇に口付ける。
「君はシャングリラのキャプテンだ。ぼくよりもずっと、ミュウのみんなが必要としている
人間なんだよ。…だから、君の命は君のためだけに…。ぼくは充分に生きたから」
 メギドから連れ戻してくれてありがとう、とハーレイの手に額をつけて礼を言ったものの、
先刻の悪夢が蘇って来た。充分すぎるほど生きたけれども、またハーレイと離れて逝くのか…。


「ハーレイ…。せめて最期は手を握っていてくれるかい…? 戦闘の真っ只中だったとしても、
ぼくの側に居て手を握っていて欲しいんだ。それがぼくからの最後のお願い。…君の手があれば、
きっと最後まで幸せなままで旅立てるから…」
 ちょっと我儘すぎるだろうか、と微笑むブルーの瞳に涙の粒が盛り上がる。
 逝きたくはない。まだ逝きたくはないのだけれど、ハーレイ、君の命は受け取れないよ…。

 

 


 もうこれ以上、ハーレイの命は貰えない。
 ブルーは決意を固めはしたが、それをハーレイにどう告げたものか。
 二度と祈るな、と言おうものならハーレイは意地でも祈り続けることだろう。彼の命の灯が
燃え尽きるその瞬間まで、ブルーを決して離しはすまいと…。
 ハーレイの祈りを拒絶する術はブルーには無く、望まれるがままに生き続けるだけ。強引に
それを断とうとするなら、自分自身を害するしかない。ブルーが自ら命を絶てばハーレイの命は
守れるだろうが、ハーレイの心はどれほど傷つき血を流すことか…。


「…ハーレイ…。ぼくはどうすればいい? どうすれば君の命を守れる…?」
 分からないよ、とブルーの中で答えの出ない問いが廻り続ける。
 ハーレイのベッドの傍らを離れ、自分のベッドに仰向けに転がって見えない答えを探し続ける。
誰かに相談すべきだろうか? ソルジャー・シンならハーレイの祈りを強制的に遮断し、ブルーの
命を絶てるだろうか?
(…でも……。そうすれば君が困るよね、ジョミー…)
 ぼくを殺せと言うのも同じ、とブルーは両手で顔を覆った。


 アルテメシアでサイオンに目覚めたばかりのジョミーが自分を生かしたことがある。今の
ハーレイのように祈りと願いの力だけで。
 あれもジョミーの命によるものだったら、自分の命を一度は注いで生かしたブルーを殺せる
だろうか? たとえゆっくりと衰え死んでゆくのだとしても、ブルーの命を消せるだろうか…。
 ましてトォニィやナスカの子たちには頼めない。あの幼さで人の命を絶ち続けるのは戦場だけで
沢山だ。同じ船で生き、共に暮らしているブルーの命を子供ゆえの純粋な使命感だけで絶てたと
しても、いつか成長した暁には心の傷となりそうで…。


(…ハーレイ…。ぼくは死ねないよ…。死ねないけれど、死ななきゃならない。君のためには
死ぬしかないんだ。でも方法が見付からないよ……)
 ヒルマンなら何か分かるだろうか、と教授と呼ばれるシャングリラの碩学を思い浮かべる。
あるいは過去の歴史に詳しいエラあたりか。しかし、誰に相談しに行くにしても…。
 「三日間、頼むと言われたっけ…」
 ハーレイは三日間、面会謝絶だ。その間の看病を引き受けた以上、青の間を抜け出すわけには
いかない。ましてハーレイに自分の決意を見抜かれたりすれば、ただでも過労で倒れた身体に
更なる負担がかかってしまう。


「…あと三日だけ、夢を見るのがいいのかな…」
 三日くらいなら誤差の範囲か、とブルーは無理やり結論付けた。ハーレイに心を
読まれないよう、思考ごと遮蔽し封じると決める。自分自身でも思い出せない記憶の奥底に
決意を閉じ込め、解き放つ時は三日の後。
 ソルジャー・シンか、長老たちか。彼らの内の誰かが青の間を訪れるまで心の底へ、と
ブルーは思考の一部に固く鍵を掛けた。

 

 


 ブルー自身も忘れてしまった命への疑問。
 翌朝、何も知らずに目覚めたブルーは傍らにハーレイの温もりが無いことに驚き、隣のベッドで
独り眠っている想い人を見付けて昨夜の騒ぎを思い出した。
「まだ目が覚めてはいないんだよね…」
 ベッドから起き出し、ハーレイのベッドに腰掛ける。心なしか少し窪んだ頬へと手を
滑らせれば、昨日感じた髭の感触が思い起こされて。
「…また伸びてる…」
 そっと辿ってみた髭の生えた辺りは昨夜よりも強くその存在を主張していた。それが生命力の
証に思えて、ふっと頬が緩む。点滴のパックはさっき交換されたばかりのようだが、ハーレイが
目覚めればきっと食事も摂れるだろう。しかし、髭は自分で剃ることが出来るのだろうか?


(…食事はぼくが食べさせてあげられそうだけれど、髭はどうかな…)
 どうやって剃るのか分からないよ、とブルーは頭を悩ませる。着替えや身体を拭くのと同じで
医療スタッフに任せるべきか、この機会に挑戦してみるか。
(えーっと…。とりあえず、やり方を知らないことにはね…)
 少しだけ心を読んでもいいかな、とハーレイの寝顔を覗き込んだ時。
「……謹んで遠慮させて頂きますよ」
 切り傷も剃刀負けも御免です、と口にしながらハーレイがゆっくりと目を開けた。
「あなたはいったい、何をなさる気で…。………???」
 ハーレイの鳶色の瞳がブルーの顔と点滴パックと、自分の腕に刺さったチューブとを何度も
何度も見比べる。自分の身に何が起こっているのか、まるで分かっていない様子にブルーは
クスッと笑みを浮かべた。


「君は働き過ぎなんだよ。過労だってさ、昨日ブリッジで倒れたそうだ」
「で、では…。今のシャングリラはどうなって…」
 起き上がろうとするハーレイの肩をブルーの腕が押さえ付ける。
「急に動いちゃ駄目だろう! 点滴のチューブが外れてしまうよ、それにドクターに叱られる」
「…ドクター?」
「三日間、面会謝絶だと言っていた。ドクターと医療スタッフしか来ない。君の世話はぼくに
お願いします、と一任されたから任せておいて」
 食事を運んで貰う前に髭を剃ってみてもいいだろう、と茶目っ気たっぷりに微笑むブルーに
ハーレイは青ざめ、自分で剃れると逃げを打つ。攻防戦の末、ハーレイは点滴の台を
引き摺るようにしてバスルームへと歩いてゆき…。


「ふうん…。そうやって剃るんだ、髭って」
 興味津々で背後から鏡を覗き込むブルーに、ハーレイは剃刀を使いながら。
「シェーバーを使っている者たちも多いですよ」
「…シェーバーって?」
「いわゆる自動の髭剃り機ですね」
 私の好みではありませんが、と返されたブルーの胸がじんわりと少し熱くなる。
 まだハーレイについて知らない部分があるようだ。知れて嬉しい、と思うと同時にもっと
知りたい、と思いが募る。ハーレイのことをもっと幾つも、一緒に生きてゆく中で幾つも、
幾つも…。

 

 


 医療スタッフに三度の食事を運んで貰って、朝と夜とにドクターの診察。点滴のパックも
三日目の朝には外され、ブルーとハーレイはそれは穏やかな面会謝絶の期間を二人で過ごした。
 ハーレイが多忙を極めて以来、絶えて無かった二人だけの長くてゆったりとした時間。
 他愛もない話をしたり、ハーレイの髭を剃りたがるブルーと揉めたり、同じテーブルで
食事を摂ったりと、まるで蜜月であるかのように。


 これは後から知れた事実だが、キャプテンの疲労回復を妨げぬよう、ソルジャー・シンは
地球への進攻を一時中止し、フィシスの占いなども取り入れて人類軍のいない宙域を選んで
航行していたらしい。その甲斐あって、面会謝絶は四日目の朝に無事に解かれて。
「なんだい、思ったよりも元気にしてるんじゃないか」
 つくづくタフな男だねえ、と朝食後にブラウが訪れた。
 それは蜜月の終わりの合図。心の底深く秘められた鍵が外れて、遮蔽が解ける。
(……そうだった……)
 三日間だけの夢だったのだ、とブルーの胸の奥に冷たい氷の塊が出来た。
 ハーレイの命を削り続けて生きて来た自分。この忌まわしい命をどうやって絶つか、誰に
相談するべきなのか。ブラウは多分、適役ではない…。


「…ブルー? どうなさいました?」
 お顔の色が、とハーレイが心配そうに尋ね、ブラウがブルーの顔を覗き込んで。
「アレだね、看病疲れだろ。ハーレイ、あんた、色々我儘言ったね」
「いや、私は…」
「違うんだ、ブラウ。…そうじゃない」
 ハーレイは何も、と止めに入ったブルーの肩をブラウはポンと軽く叩いた。
「こんなデカイのの世話を三日もお疲れさま。…だけどアンタが元気そうにしてて良かったよ。
ハーレイが引っくり返った時には共倒れかと焦ったからねえ…」
「…共倒れ?」
 怪訝そうに訊き返すブルーに「そうですよ」と答えを返した人物は、朝の診察のために
入室してきたノルディだった。


「キャプテンがあなたの命を繋いでいることは疑いようのない事実です。ただ、それがどういう
形なのかが分からなかった。キャプテンは祈りだけだと仰いましたが…」
「正直、自分の命を分けているんじゃないかと誰もが心配していたわけさ」
 ブラウの言葉にブルーはギクリと自分の胸元に手を当てる。
 告げるまでも無く知られてしまった。それにハーレイも聞いている。これでは、自分は…。
「何をビクビクしてるんだい? はは~ん、さてはアンタも心配してたね?」
「…ブラウ…。頼む、ハーレイの前でその話は……」
 しないでくれ、と縋るようにブルーはノルディに視線を送った。面会謝絶が解けたばかりの
ハーレイに心労を与えてはまずい。日を改めて、と思念と瞳で哀願したが。


「ソルジャー、どうか御心配なく。…今回の騒ぎで分かりましたよ、キャプテンのお話が
正しいようです。もしも本当に命を分けておられるのならば、あなたも倒れておられた筈です」
「…そ、それは…。幾らかはストックがあっただろうし…」
 それで倒れずにいられただけだ、とブルーは声を絞り出す。けれどノルディは首を横に振った。
「お言葉ですが、命をストックするというのは恐らく無理かと思われます。仮に可能だったと
しても三日もの間、キャプテンが不調でおられたとなると影響が出ます。ですが、あなたは
普段と変わらず健康な状態でいらっしゃいましたし…。祈りで間違いなさそうですね」
「そういうことだよ、だから心配無用ってね。命を削ってるわけじゃないんだ、このデカブツは
長生きしそうだし、うんと長生きさせて貰いな」
 百年くらいは軽い、軽い、とブラウは声を立てて笑った。ハーレイは顔を真っ赤に染めつつ、
ブルーに優しく微笑みかける。


「…そんな御心配をお掛けしていたとは…。ブルー、申し訳ありません。お詫びに一度くらい
でしたら、私の髭を剃って下さっても…」
「おや、なんだい? 髭って何さ?」
 面白そうだねえ、とブラウが話に首を突っ込み、「剃っちまいな」とブルーを唆し…。やがて
訪れたソルジャー・シンや他の長老たちも交えて髭剃りは時ならぬ娯楽となった。
 誰もがブルーの命のことを気遣いつつも口に出来ずに秘めていた分、何の心配も無いと分かった
反動はシャングリラの船体をも揺るがしそうな笑いの渦へと広がっていって…。

 

 


「…ブルー、いささか痛むのですが…」
 やはり遠慮しておくべきでした、とハーレイが顎に手を滑らせる。面会謝絶は解けは
したものの、キャプテンはまだ当分は安静ということになっていた。
「構わないと言ったのは君だろう? 剃刀負けにはこれだ、とノルディも言ったし」
 塗ってあげるよ、とブルーは軟膏のケースを手に取り、中身を指先に掬い取る。
「ほら、じっとして動かない! 明日の朝にはきっと治るさ」
「いたたたた…。本当に髭剃りは二度と勘弁願いますよ」
「うん。ぼくには向いていないみたいだし…。自分で剃るのが一番だよね」
 でも疲れた日は剃らなくていい、とブルーはしっかり釘を刺した。
「シャワーだって次の日の朝で構わないんだよ、ぼくは全く気にしないから」
「…ですが、あなたと同じベッドで休むのですし…。休養期間が終わりましたら」
 それまでは別のベッドですが、と言うハーレイの手をブルーの白い手がギュッと握った。


「それなんだけど…。ドクターが診察に来る前に起きて移動でいいんじゃないかな」
「…ブルー?」
「君の命を削っているんじゃないかと怖かったんだ。君が倒れて、そうだと思った。君の側には
もう居られない、死ぬしかないと思っていたんだよ…」
 でも怖かった、とブルーはハーレイの胸に縋り付く。
「どうやって死ねばいいかも分からなかったし、君と離れるのも怖かった。君が最後まで手を
握っていてくれるなら…、とも思ったけれど……ずっと君の側に居たいとも思った」
 どれも選べなかったんだ、と訴え掛けるブルーの心からハーレイの中に思いの全てが流れ込んで
いった。命を繋ぐ祈りを捧げ続ける絆を通して逆流したと言うべきか…。


 自ら命を絶つことすらをも考えたほどに思い詰めていたブルーの深い嘆きと悲しみ。
 ハーレイの命を守るためだけに死にたいと願い、それでもハーレイの側に居たいと……最後まで
手を握って欲しい、と涙を零して心を固く封じたブルー。
 倒れたハーレイに余計な心痛をかけまいとして、辛い思いを、答えの出ない問いを心の奥底に
沈め閉じ込め、その封印が解ける瞬間まで柔らかく微笑み続けたブルー…。


 ハーレイは声も出せなかった。あまりの痛みに、その健気さに心が張り裂けそうになる。
 これほどの苦しみを負わせたのか、と。
 ただ守りたいとひたすらに願い、どんな苦痛も悪夢でさえも近付かせまいと大切にしてきた
つもりのブルーを、これほどまでに苦しめたのか……と。
 今度こそブルーを離しはすまい。
 二度とブルーを悲しませないよう、苦しめぬよう、華奢な身体を守らなければ…。ハーレイの
腕に力が籠もる。ブルーをその胸に閉じ込めるように。
「……ハーレイ……?」
「ブルー、あなたの仰せのままに……」
 ドクターが来る前に起きて移動を致しましょう、とハーレイはブルーを強く抱き締めた。
側に居たいと望むブルーが求めているであろう確かな温もり。ブルーが味わった悲しみと流した
涙の代わりと呼ぶにはあまりにもささやかなものだけれども、せめて腕の中で休ませたいと…。

 

 


 ハーレイと離れて逝かねばならぬ、と一度は決意したベッドの上でブルーは想い人の体温と
匂いに包まれる。
「……温かい……」
 君の身体は温かい、と胸に頬を擦り寄せるブルーの背をハーレイの手が優しく撫でる。
「…ブルー、申し訳ありません…。もう長いこと、ただ添い寝するだけの夜ばかりで…。それも
私が先に眠るなど、さぞかしお寂しかったでしょうに……」
 もう少し身体を気遣います、とハーレイはブルーに口付けた。
「すみません…。今はこれだけが精一杯で……。あなたが嫌だと仰るほどにお身体に私を
刻み付けられるよう、頑張って体力を取り戻しますよ」
「…そんなこと……。そんなのは無くてもいいんだよ。……ぼくは長い間、君を待たせた。
メギドから戻って来た後もそうだし、その前は十数年も待たせ続けて眠ったままで…」


 だから今度はぼくが待つよ、とブルーはハーレイに口付けを返す。触れるだけの口付けを
何度も、何度も、想いをこめて唇に、頬に、まだ痛むらしい剃り跡の傷を労わるように。
「君がすっかり元気になるまで、一緒に眠れるだけでいい…。明日はドクターが来る前に
ぼくが起こすよ、だから安心してゆっくり眠って……」
「…ブルー、あなたこそ…。辛い想いをなさったのです、今夜はどうぞ良い夢を…」
 明日の朝はごゆっくりお休み下さい、とハーレイは自分で起きると言い張った。互いに相手の
身体を気遣い、自分が起こす、と約束し合いながら、二人して眠りに落ちてゆく。
 先に眠ったのはハーレイだったか、それともブルーだったのか。
 固く抱き合い、寄り添い合ったままで眠り続ける恋人たちは気付かない。
 部屋を訪れたドクターが一つ溜息をついて、首を振りながら出て行ったことに。

 

 


 キャプテン・ハーレイ、過労につき当分は青の間で静養とする。
 入室する者は事前にドクターの許可を得るよう、との告知がシャングリラ全艦に流された。
 ソルジャー・シンや長老たちもその例外ではないらしい。
 そんな告知が出されたとも知らず、ハーレイとブルーは眠り続ける。
 二人が共に目覚めた時にはブルーの心を引き裂いた痛みも、ハーレイの顎の剃刀負けも
きっと癒えていることだろう。互いの温もりは何にも勝る特効薬で、それを上回るものは
無いのだから。
 地球への道は長く険しいけれども、二人は地球の夢を見る。
 青い星に二人で降りてゆく夢。
 夢はいつの日か、遠い未来に奇跡となって青い地球の上で叶う筈……。








                   奇跡の狭間で・了


  ≪作者メッセージ≫

  ハレブル別館にお越し下さってありがとうございました!


  『奇跡の狭間で』は、『奇跡の碧に…』と『奇跡の青から』の間の何処かが
  舞台になっているお話です。特に何話の辺りとは決めてませんねえ…。
  地球の座標は掴んだものの、まだまだ遠い宇宙を旅していた頃です。


  昨年の『奇跡の青から』でブルー生存EDを書き上げたくせに、いざ7月が
  近付いてくると「何かせずにはいられない」という損な性分。
  「ウチのブルーは生きてます!」と再確認&主張するために書いてみました、
  奇跡シリーズな『奇跡の狭間で』。


  ブルーを生かしているものが何であるかもハッキリさせておきたいですしね。
  ハーレイの命を貰っているわけではありませんから、御安心を。
  祈りという奇跡で生きているブルー。
  祈りを捧げ続けるハーレイ。
  そんな二人が青い地球まで星の海を渡ってゆくのです。


  青い地球の上に降り立つことが出来たブルーは、幸せに生きているでしょう。
  ハーレイと二人で穏やかな日々を、文字通り「ただのブルー」として。

  
  今年も「運命の17話」の放映日、7月28日が巡って来ました。
  アニテラでは叶わなかった未来だからこそ、ブルーを青い地球の大地の上へ。
  一連の『奇跡』シリーズは、そのためだけに存在します。


  ハーレイとブルー、二人の幸せな未来を祈りつつ…。
  7月28日ですから、黙祷。

 


        2013年7月28日(日)、アニテラ17話放映から6周年。





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※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
 バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。

 シャングリラ学園番外編は 「毎月第3月曜更新」 です。
 第1月曜に「おまけ更新」をして2回更新の時は、前月に予告いたします。
 お話の後の御挨拶などをチェックなさって下さいませv






シャングリラ学園には今日も平和な時間がゆったり流れていました。学園祭の準備なんかも始まりつつある秋ですけれど、「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋を公開するのが恒例になった私たちには慌ただしさなど無関係。ぶっつけ本番でも行けるというのが自慢です。
「今年も喫茶で決まりだよね?」
ジョミー君の問いに会長さんが頷いて。
「売り物はそこじゃないからねえ…。サイオニック・ドリームが売りだし、喫茶店とまで凝らなくっても缶ジュースだって無問題だよ」
「おい、ぼったくりな観光地価格は感心せんぞ」
キース君が突っ込みましたが、会長さんは。
「あれは最初にやった年からの伝統なんだよ? 遠隔地への旅を売りにするなら観光地価格はお約束さ。それが嫌なら仮装系だね、これなら均一価格でいける」
「まあな。あれはあれで人気が高いようだし、今年もアンケートで決める事にするか?」
仮装系とはサイオニック・ドリームを初めて売り出した年の後夜祭から派生したもの。サイオニック・ドリームで好みの衣装を体験出来るというヤツです。椅子に座って飲み物やカップ麺を食べる間だけしか着られない上、写真撮影も不可能なのに大人気で…。
「アンケートで行くか、儲け重視で世界の旅か。…今年はどっちにしようかなあ…」
急ぐわけではないからね、と会長さんが大きく伸びをした時です。ユラリと部屋の空間が揺れて、紫のマントが翻り。
「こんにちは。今日も暇そうにしているねえ」
お邪魔するよ、と現れたのはソルジャーでした。勝手知ったる様子で空いた席に腰掛け、「そるじゃぁ・ぶるぅ」に紅茶を注文しています。
「美味しそうだね、栗のミルフィーユ! やっぱり、おやつはこうでなくっちゃ」
「…要するに食べに来たってわけだね?」
またか、と顔を顰める会長さんに、ソルジャーは早速ミルフィーユにフォークを入れながら。
「だってさ、食べたくなるじゃないか。それともアレかい、別の用事の方が良かった? 君が嫌いな猥談とかさ」
「退場!」
会長さんがレッドカードを突き付けましたが、ソルジャーの方は余裕の笑み。



「まだ何も話していないんだけど? それに生憎と猥談のネタも無くってねえ…。ほら、ぼくとハーレイは円満だから特に刺激も求めていないし」
「その先、禁止!」
「だから無いんだってば、持ちネタが。…どうしてもって言うんだったら昨夜の話をしてもいいけど、ホントにいつものコースだよ? それでも幸せなんだけどね」
刺激が無くてもそれが幸せ、とソルジャーは惚気モードに入っています。かつてのドタバタっぷりが嘘だったかのように、結婚してからのソルジャーとキャプテンは絵に描いたようなバカップル。二人が揃うと御馳走様としか言いようのない光景になるのはお約束で。
「してみるものだね、結婚ってさ。…あのハーレイが日々、頑張ってくれるんだ。一生満足させてみせます、って誓った言葉はダテじゃなかった。だから君にもお勧めしたいな、結婚を」
「誰と!?」
「決まってるじゃないか、ハーレイだよ」
「お断りだってば!」
絶対嫌だ、と嫌悪感も露わな会長さん。これもよくあるパターンでした。ソルジャーは自分が幸せなだけに、会長さんも教頭先生と結婚すれば幸せになれると煽るのです。もう何度目の勧誘なんだか、と私たちは横目で見ながら紅茶やコーヒーを啜っていたのですけど。
「…うーん…。ハーレイの何処がダメなんだろうねえ、サムは大事にしているくせに」
「「「は?」」」
思わぬ言葉にサム君を含めた全員が『?』マークを浮かべる中で、ソルジャーは。
「サムだよ、ブルーの愛弟子にして公認カップル! ハーレイとの差は何なんだろう?」
顔が好みとか、性格とか…、と不思議そうに首を傾げるソルジャー。そう、会長さんとサム君は今も公認カップルなのです。朝のお勤めをデート代わりに付き合い続けて長いですよね…。



公認カップルが誕生したのは私たちが特別生になった年の春。ソルジャーと出会う前のことです。けれどソルジャーは公認カップル誕生に至るまでの事情をしっかりすっかり把握していて。
「…半ばブルーの冗談にせよ、公認カップルを名乗っていられる所がね…。サムがブルーに気に入られた理由は何処にあるのかなぁ? 頼りがいならハーレイの方が断然、上だと思うんだけど」
「頼りがいだって? ハーレイの何処が!」
あんな妄想爆発男、と会長さんはバッサリ切り捨てましたが、ソルジャーは。
「えっ、頼りがいはあるだろう? ノルディとは比較にならないけれど、ちゃんと大人で稼いでる。今までに君に貢いだ金額、サムには工面出来ないよね。…そうだろ、サム?」
「えーっと…。俺の全財産をはたいたとしても……多分、食事が一回くらいじゃねえのかな」
みんなで打ち上げに出掛ける時の、とサム君は真面目に答えています。ソルジャーは満足そうに頷き、微笑んで。
「ほらね、ハーレイの方が甲斐性がある。それとも財力と言い換えようか? 君を養う力があるのはハーレイの方だ。なのにどうしてサムが優遇されるわけ?」
「養う以前に何も想定してないからだよ!」
結婚だとか婚約だとか、と返したのは会長さんでした。
「サムは単純にぼくが好きだってだけで、ただそれだけ。結婚なんか夢見ちゃいないし、その先のことは更に夢見ていないわけ。…そもそも夢見ることもないしね」
「ああ、そうか。万年十八歳未満お断りってヤツだったっけ…。結婚生活がどうこう以前にサムには想像もつかない世界なわけだ。もしかして、そこがポイント高かったりする?」
「…まあね。害が無いのはいいことだよ」
安心してお付き合い出来るから、と会長さんがサム君を見詰めればサム君は頬を赤らめています。私たちの前では公認カップルの話題は滅多に出て来ませんから、照れるサム君を見るのは久しぶりかも…。



「なるほど、君の好みは草食系ってヤツなんだ? この言葉もとっくに死語みたいだけど…。要するにガッつく男は駄目、と。…でもさ、それだと永遠に結婚できないよ?」
寂しい独身人生だ、と溜息をつくソルジャーに会長さんは。
「前から何度も言ってるだろう! 結婚するならフィシスとするさ。だけど女神は結婚なんて俗なことには向いてないんだ。生活感が漂う女神はアウト! 今のまんまが最高なんだよ」
「そりゃあ君にはぶるぅもいるし、寂しくはないのかもしれないけれど…。ぼくのお勧めは結婚なのに、する気が無いのは悲しいねえ…。おまけにハーレイは選択肢にも入っていないだなんて」
守られてる感じがいいんだけどな、と零すソルジャー。
「結婚相手がフィシスだったら、守るのは君の方だろう? そうじゃなくって守られる生活! 自分の方が力は上でも、こう……守ってやりたい、守りたい、って思ってくれる人と暮らすというのは癒されるんだ」
「君の好みを押し付けないで欲しいね、ぼくはこれでも高僧だよ? 他人に癒しを求めるようでは僧侶失格と言うべきか…。とにかくハーレイは必要無いのさ、財布以外の意味ではね。あ、それと楽しく遊べるオモチャと」
その二つがあれば充分だ、と会長さんはキッパリと。教頭先生が会長さんの財布とオモチャに過ぎないことは分かってましたが、改めて口にされると気の毒な感じがググンとアップ。ソルジャーもフウと吐息をついて。
「…財布とオモチャねえ…。同じオモチャでも夜のオモチャならマシだったのに」
「退場!!」
レッドカードを持ち出す会長さんにソルジャーは肩を竦めながら。
「分かってるってば、君にはそっちの趣味が全く無いっていうのはさ。…だけどサムとはどうだろう? 少しは進展させてみようとか、そういう発想も出てこないわけ?」
「進展って…何さ?」
「ん? 朝のお勤めがデート代わりだって聞いているから、その辺をもっと普通の方向に修正するとか! デートもけっこう楽しいものだよ」
この間も夜景を見に来てたんだ、とソルジャーが語り始めたのはキャプテンとのデートの話でした。エロドクターから貰ったお金で私たちの世界のホテルで食事し、夜景が綺麗な展望台で二人で過ごしていたそうで…。
「他にもカップルが何組か居たね。…いきなり夜景はハードル高いし、とりあえず二人で公園とかから始めてみたら? 朝のお勤めがデートじゃねえ…」
夢もロマンも無いじゃないか、と言われてみればその通りかも。サム君が喜んで通ってますから朝のデートだと思ってましたが、普通のデートじゃないですよねえ?



朝のお勤めはデートではない、と異を唱えたソルジャーは公認カップルの仲をググッと進展させる気満々。曰く、進展させても結婚生活に繋がらない以上、実害は無いのでオッケーだとか。
「でもってサムとの仲が少しずつ進展していったらさ、ブルーも物足りなさを感じてくるかも…。ここでサヨナラじゃ名残惜しいと思っていたって、サムだとホテルに誘ってくれない! そこでハーレイの出番になるわけ」
「なんでハーレイ!?」
会長さんの悲鳴にソルジャーはニッコリ笑ってみせて。
「そりゃあ…。寂しくなった君を広い心でドッシリ受け止め、慰める役にはピッタリだろう? そういうことを繰り返す内に、君の心もハーレイの方に傾いていくと思うんだよね。そしていずれは結婚、と」
「無理すぎるってば!」
有り得ないし、と会長さんはテーブルを叩いて抗議しましたが、ソルジャーの方は馬耳東風。
「うん、我ながら素敵な案だという気がしてきた。ブルーも認めるサムとの仲を後押ししてれば、今の歪んだ構図が解消! いくらこっちのハーレイがヘタレだとしても、ブルーと結婚してしまったら努力を惜しまないのは間違いないよ」
ぼくのハーレイもそうだったし、とソルジャーは懐かしそうな顔。
「何度も家出して、夜の生活に効きそうな薬を色々飲ませて…。それでもヘタレが直らなかったのに、結婚してみたらヘタレるどころか正反対! きっと、こっちのハーレイだって似たようなものだと思うんだ。結婚生活には向かないサムを踏み台にしてさ、ハーレイとの結婚に踏み切ってみれば?」
「ちょ、そんな…! そもそも無茶だし、第一、サムの気持ちはどうなるのさ!」
踏み台だなんて、と会長さんが反対する隣でサム君が。
「…俺は踏み台でも構わねえかな…」
「「「えっ?」」」
あまりにも自虐的すぎるだろう、と誰もが耳を疑ったのに、サム君は人の好い笑みを浮かべると。



「俺さ、ブルーが幸せそうに笑ってるのを見るのが好きなんだ。隣にいるのが俺じゃなくても気にならないし、教頭先生と結婚するならそれでもいいって思えるもんな」
「おい、サム、落ち着け!」
話をちゃんと聞いていたか、と割って入ったのはキース君。
「お前は踏み台にされるんだぞ? おまけにブルーは教頭先生と結婚する気は全く無いんだし、踏み台以前の問題として振り回されるだけだと思うが」
「んー…。朝のお勤めでも構わねえんだけど、普通のデートってヤツもいいかもなぁ…って。でも、ブルーがその気になってくれなきゃダメなんだけどな」
元からダメに決まってるよな、とサム君は頭を掻いています。
「ごめん、ブルー。今までどおりに朝のお勤めで行くのがいいよな、ブルーだってさ。俺もその方が気楽でいいし…。デートなんてコースも分からねえから」
「確かにサムには似合わないよね」
身も蓋も無いことを言ってのけたのはジョミー君でした。
「ブルーはデートのエキスパートだし、そのブルーをデートに連れ出すなんてさ、きっと大恥かくだけだって! 教頭先生の方がずっとデートに向いてる筈だよ」
「そうですよね、データ集めにも励んでおられるでしょうし」
財力だってありますよ、とシロエ君が相槌を打てば、マツカ君も。
「サムには気の毒ですけれど…。ぼくも教頭先生の方がデート向きだと思います」
「うへえ…。みんな正直に言ってくれるよなあ…」
でも本当のことだよな、とサム君が苦笑し、笑い転げる私たち。サム君は踏み台になれるほどの器ではなく、それだけの欲も無さそうです。言い出しっぺのソルジャーは名案だと決めてかかってましたけれども、この話、見事にお流れですよ~。



会長さんと公認カップルを名乗るサム君を踏み台にして、教頭先生との仲を発展させようというのがソルジャーの案。ところが肝心のサム君は会長さんも認める無害さもあって、踏み台になる前に退場しようとしています。会長さんはサム君にウインクすると。
「ありがとう、サム。やっぱりサムは優しいね。…その気遣いがハーレイにもあれば、結婚云々って話はともかく、毟ったりとかオモチャにしたりとかはしなかったかも…」
「え? 俺は別に教頭先生と張り合うつもりは…。甲斐性もねえし」
踏み台にだってなれねえもんな、とサム君が照れ笑いした所へ。
「だったら、下僕なコースで踏み台!!」
響き渡ったのはソルジャーの声。
「「「下僕?」」」
なんですか、下僕なコースというのは? サム君も会長さんもキョトンとしてますし、私たちだって話が全く見えません。いったい何処から下僕なんて言葉が出るんでしょう? けれどソルジャーは得意げな顔で。
「下僕と言ったら下僕コースさ、甲斐性なしが通る道! サムには財力も無ければブルーをデートに引っ張っていくだけの甲斐性とかも無いんだろう? それって似てるよ、誰かにね」
「「「…誰に?」」」
「ぼくのハーレイ!」
ソルジャーは悪びれもせずに言い放ちました。
「結婚する前のハーレイがどんな風だったか覚えてる? ぼくに家出をされては土下座で、ヘタレと詰られては土下座三昧。でもって全てはぼくの言いなり、あれが下僕で無ければ何だと?」
「うーん、確かに…」
君の扱い方は酷かったよね、と会長さんが遠い目をしています。かつてのソルジャーは会長さんが教頭先生を酷い目に遭わせるのに負けず劣らず、キャプテンに無茶な要求をしては困らせまくって、我儘と文句の言い放題で…。



「思い出してくれた? 甲斐性が無ければ下僕でカバー! サムもひたすらブルーの言いなり、一所懸命にお世話してればブルーとの仲が進展するかもしれないよ」
「サムが下僕ねえ…」
何かが違うと思うけど、と会長さんは呟きましたが、ソルジャーの方は譲りません。デートで進展が望めないなら下僕あるのみという方針で…。
「騙されたと思って下僕コースでどうかな、サム? 踏み台になるのはいいんだろう?」
「そりゃそうだけど…。ブルーに迷惑は掛けられねえし…」
「下僕は迷惑を掛けないよ? ブルーに従うだけなんだからさ」
ここは男らしく頑張りたまえ、と主張し続けているソルジャー。とはいえ、いくら下僕なコースといえども、会長さんの方にその気が無ければ無理な注文というヤツです。下僕コースもお流れになるに決まってる、と私たちは思ったのですが…。
「仕方ない、下僕コースで行こう」
「「「えっ!?」」」
会長さんが出した答えに目が点になる私たち。…下僕コースと言ったんですか、会長さん? まさかサム君を自分の下僕に…?
「このままブルーを放っておいたら何を言い出すか分からない。ぼくとハーレイをくっつけようと実力行使に出られる前に、自主的に…ね。要はサムとの仲が進展するかどうかだろう? そうだよね、ブルー?」
「う、うん…。まあ、そうだけど?」
「だったら下僕コースをお試し期間で一週間! それで全く進展ゼロなら君の企画は白紙撤回ってことにしないかい? もちろん進展しちゃった場合は自然に任せるということで」
「いいね、それ。で、サムの意見は?」
ソルジャーに尋ねられたサム君は迷いもせずに。
「下僕コースで構わねえぜ。ブルーに従うだけだもんな」
楽しそうだ、と明るく笑うサム君を誰も引き止めはしませんでした。下僕コースの内容までは分かりませんけど、ソルジャーが一歩も譲らない今、下手に口出しして縺れるよりかは犠牲者一名の方がマシですもんねえ…。



公認カップルの仲を進展させるという企画を押し通したソルジャーは、栗のミルフィーユの残りをお土産に貰って自分の世界に帰りました。さて、これからが大変です。ソルジャーの得意な技は覗き見。会長さんが下僕コースを実行するかどうか、監視するのは確実で…。
「あんた、これからどうする気なんだ!」
下僕コースなんて、とキース君が怒鳴ると会長さんは。
「ああ、大体は決めてるよ。…サムは今日から住み込みだ」
「「「住み込み?」」」
「そう、泊まり込みとは意味合いが違う。ぼくの家に同居しながら家事一切をして貰おうかな」
「「「えぇぇっ!?」」」
それはあまりに酷すぎないか、と私たちが息を飲めば「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「かみお~ん♪ ぼくもお手伝いするから大丈夫だよね!」
「ダメだよ、ぶるぅ」
監督するのとチェックだけ、と会長さんが鋭く注意。
「ぶるぅも見たことあるだろう? 璃慕恩院の偉いお坊さんたちのお弟子さんは何をしてたっけ?」
「んーと、んーとね…。お部屋の掃除とお世話係?」
「よくできました。それも修行になってるんだよ、サムには同じ事をやらせるわけさ。だから修行の邪魔をしちゃダメだ」
「「「修行?」」」
下僕コースは修行でしたか! それなら住み込みも当然です。朝のお勤めコースが思い切りバージョンアップしちゃったわけで、一気にお泊まりなんですけども…。
「ぼくの家で一緒に暮らすわけだし、おまけに下僕だ。ブルーに文句は言わせない。サムの修行にも役立つコースで一石二鳥というものだろう? どうかな、サム?」
「お、おう! 一週間くらいの我慢が出来なきゃ本物の修行って出来ねえよな?」
「それはもう。住職の資格を貰うどころか、その前の段階で挫折だろうね。そういう話はキースが詳しい。どう思う、キース?」
話を振られたキース君は。
「一週間の侍者体験か…。修行より遙かにマシだろうな。師僧と一緒に暮らすわけだし、住環境も食生活も修行僧とは比較にならん。修行中の生活ってヤツは粗末な部屋と粗食が大前提だ」
「そうなんだよね。つまりサムは恵まれた環境で修行が出来るわけ。まずは早速、今夜の夕食作りからお願いするよ」
その前に一度家に帰って住み込み用の荷物をね…、と会長さんは笑っています。必要最低限の衣服と持ち物、それがサム君に許された荷物。いきなり始まる修行ライフにはサム君の御両親もビックリでしょうが、住み込む先はソルジャーの家。それに会長さんはサム君の師僧でもありますし…。
「下僕コースって、修行だったんだ…」
ぼくにはとても耐えられないけど、とジョミー君が呆れる横でサム君は鼻歌交じりに荷物リストを作成中。今日から一週間も公認カップルな会長さんと同居ですから、そりゃ鼻歌も出ますってば…。



会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」に連れられて住み込みな下僕コースに飛び込んで行った勇者、サム君。どうなったやら、と翌朝こわごわ登校してみれば顔色も良くて御機嫌で。
「おう、おはよう! なんだよ、俺の顔に何かついてるか?」
「い、いや…。今朝は何時に起きたんだ?」
キース君の質問にサム君は威勢よく。
「三時半! ブルーがさ、璃慕恩院の一番偉いお坊さんの弟子はそのくらいの時間に起きるモンだって言うからさ…。でもって四時に阿弥陀様にお茶とかをお供えしてからブルーを起こして」
役得、役得…と嬉しそうなサム君は会長さんの寝顔を見られて幸せ一杯らしいです。おまけに着替えも手伝ったのだそうで、教頭先生が耳にしたなら涎が出そうな役どころ。あまつさえ…。
「「「お風呂!?」」」
放課後、「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に出掛けた私たちを待っていたのは会長さんの衝撃的な発言でした。
「そうだよ、弟子の仕事は着替えの手伝いだけじゃない。お風呂で師僧の背中を流すのも大事な修行の一つでねえ…。ついでだからシャンプーとリンスもお願いしちゃった」
髪の毛のある坊主の特権、と銀色の髪に指を絡める会長さんの隣でサム君が真っ赤になっています。住み込みの修行なんて機会でも無ければ、会長さんの背中はともかく髪の毛は洗えないでしょう。朝から役得、役得と上機嫌だった理由が分かりました。下僕コースは美味しすぎです。
「でね、朝御飯もぶるぅの指導で美味しいオムレツを作ってくれたし、サムはとっても使えるよ。昨日の夕食も頑張ってたさ。…シチュー鍋の底が少し焦げたけど」
「かみお~ん♪ お掃除も一生懸命だったよ! 学校へ来る前に綺麗にお掃除したもんね♪」
「掃除機を使わせて貰えたしなあ…」
ホントは和室は箒だってな、と言うサム君は一日にして下僕コースに馴染んでいました。今夜は会長さんの肩や腰を揉んだりするのだとかで、もう見るからに心浮き立つといった風情です。ソルジャー御推奨の下僕コースはサム君にとっては旨味たっぷり、特典たっぷり。
「ふふ、サムでないとこうはいかないね。住み込みの弟子がジョミーだったら文句たらたらで使えないだろうし、キースだったら使えはしても面白みが無い」
「あんた、そういう基準で弟子とか侍者を選ぶのか!?」
噛み付いたキース君に、会長さんは。
「まさか。ただ、今回はブルーが色々とうるさかったし、実験的にやってみただけ。…ところが、これがなかなか癖になる。ぶるぅも一緒に自分の家で上げ膳据え膳、下へも置かぬおもてなしっていうのは気分がいいよね」
期間延長もいいかもしれない、と会長さんが差し出したカップにサム君が恭しく紅茶のお代わりを注いで砂糖を入れて…。御馳走様です、と言いたい気分を私たちはグッと飲み込みました。会長さんとサム君の仲が進展するとは思えませんけど、仲がいいことは疑いようのない事実です…。



下僕なサム君と会長さんの同居生活は順調に続き、ソルジャーとの約束の期限の一週間目を迎える頃には見事な師弟関係が。会長さんはサム君をこのまま住み込ませたいという意向でしたが、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が寂しそうに。
「えーと、えっとね…。サムがいるのは楽しいんだけど、ぼくのお仕事、なくなっちゃったの…。お洗濯もアイロンかけもサムがしちゃうし、このお部屋でしか何もお料理出来ないの!」
つまんないよう、と嘆く「そるじゃぁ・ぶるぅ」は家事万能なだけあって家事が趣味です。会長さんの広い家を隈なく掃除し、美味しい料理やお菓子なんかを作りまくるのが生甲斐で…。
「そこなんだよね…。ぶるぅがそろそろ限界なんだ。だからと言ってサムを家事から解放したら弟子入りという意味が無くなる。ちょっと困った状況なんだよ」
どうしようかな…、と会長さんが腕組みをして考え込んでいた時です。
「だったら、そのまま同居しちゃえば?」
「「「!!!」」」
前触れもなく出現したソルジャーがソファにストンと腰を下ろして。
「サムとの仲は同居を続けたいと思う程度に進展したってわけだろう? この先どうなるか分からないけど、一緒に暮らして家事だけ抜きで下僕コースを続けていれば更に進展する…かもしれない。シャンプーとリンスは王道なんだよ」
「「「は?」」」
「だからバスタイムの王道だってば、よくハーレイに洗わせてるんだ。気持ちよく洗って貰っている内に気分が乗ってさ、バスタブの中で第二ラウンド突入ってことも多いよね」
「ちょ、ちょっと…」
止めに入った会長さんをサラッと無視したソルジャーは。



「ブルーもその内にそういう気分になるんじゃないかな? シャンプーとリンスだけでは物足りないって感じるようになってきたなら大成功! 物足りなさを埋められるのはサムじゃなくってハーレイだしねえ」
「そっちの趣味は無いってば!」
「少しずつ目覚めてくると思うよ、ぼくとそっくりなんだから。…サム、今の調子で頑張りたまえ。いずれ最高に幸せそうなブルーの笑顔が見られるさ。ハーレイの所へ嫁ぐ時にね」
「お断りだよ!」
どうしてそういうことになるのだ、と会長さんはテーブルに拳を叩き付けましたが、ソルジャーは我関せずといった風で。
「いやもう、こういう事っていうのはデリケートでねえ…。ある日突然、恋に目覚めることもある。それに身体は正直なんだよ、サムのシャンプーが気持ちいいなら素質は充分あると思うな。…大丈夫だってば、君の場合は目覚めちゃってもハーレイがいるし」
振り向いてくれない相手だったら最悪だけど、と続けるソルジャーに会長さんの地を這うような声が。
「誰が素質があるんだって? シャンプーが気持ちいいのは普通のことだと思うんだけど?」
美容院でも気分がいいし、と会長さんは柳眉を吊り上げて。
「せっかく人が気持ちよく弟子を住まわせていれば、横から出てきてゴチャゴチャと…。君が言い出した下僕コースは一週間! 進展ゼロなら今回の企画は無かった事になる筈だよね?」
「進展ゼロじゃないだろう! サムと一緒に住みたい気持ちは、その方面に芽が出た証拠で!」
「それを言いがかりと言うんだよ! 見込みのある弟子を手元に置いて育てたくなるのは自然な感情! 現にぼくだって璃慕恩院に初めて入門を願い出た時、ぜひ老師の弟子にって言われたんだ!」
「そうだったんだ? じゃあ、もしかして、その老師とかいう人と…」
一緒にお風呂とかそれ以上とか、と興味津々で問いかけたソルジャーの顔面にヒットしたものは…。



「退場!!!」
よくも老師を侮辱したな、とレッドカードをソルジャーに叩き付けた会長さんは青いサイオンを背負っていました。これは本気で怒っています。
「老師こそ無縁でいらっしゃるんだよ、そういう下世話な世界とは! だけど君には言うだけ無駄だし、理解するとも思えない。…老師の名誉とぼくの平穏な日々のためにも、サムの住み込みは今日で終わりだ。残念だけれど潮時ってヤツ。…分かったね、サム?」
「はい。…一週間、御指導ありがとうございました!」
ソファから立ち上がり、絨毯に平伏して会長さんに御礼を述べるサム君は何処から見ても弟子でした。役得な日々に御機嫌だったサム君とは別人みたいな印象です。そして「そるじゃぁ・ぶるぅ」もホッと息をついて。
「よかったぁ~! これで今日から普通に戻るよ、お料理出来るし、お皿も沢山洗えるし! ありがとう、ブルー」
ピョコンと頭を下げた相手は会長さんではなくてソルジャーの方。
「えっ、なんで? お礼は君のブルーの方に…」
「ううん、ブルーが来てくれたからサムはお家に帰るんだよ! だってね、ブルー、朝からサムとお話してたの、今年いっぱい住み込まないか…って。だから御礼はブルーになの!」
懸命に御礼を言う「そるじゃぁ・ぶるぅ」の無邪気な瞳にソルジャーは言葉を失っています。会長さんはレッドカードを突き付けてますし、これには流石のソルジャーも…。
「わ、分かったよ! 良かったね、ぶるぅ。ブルーと末永くお幸せに…としか言えないかな?」
本当は其処にハーレイを混ぜて欲しいんだけど…、と言い残して消えた背中に向かって投げ付けられて、吸い込まれていったレッドカード。あちらの世界に届いたかどうかは謎ですが…。
「やれやれ…。もう少しサムを仕込もうかな、と思っていたけど、仕方ないねえ…。じゃあ、明日からは今までどおりに朝のお勤めコースってことで」
仏の道を目指して頑張ろう、とサム君を激励している会長さん。公認カップルの健全な日々が再びです。教頭先生が紛れ込む余地は何処にも無いと思いますけど、もしかしていつかはそんな日が…? 来ないといいなと切に祈りつつ、サム君の朝の仏道修行は今後も応援していきますよ~!




                  公認カップル・了



※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
 殆ど忘れられているであろう公認カップルを書いてみましたが、如何でしたか?
 来月は 「第3月曜」 更新ですと、今回の更新から1ヵ月以上経ってしまいます。
 ですから8月も 「第1月曜」 にオマケ更新をして、月2更新の予定です。
 次回は 「第1月曜」 8月5日の更新となります、よろしくお願いいたします。 
 
 そして今月はアニテラでのソルジャー・ブルーの祥月命日、7月28日が巡って来ます。
 7月28日に 『ハレブル別館』 の方に短編をUPする予定です。
 生きて青い地球に辿り着く前のブルーとハーレイのお話、読んで頂けると嬉しいです。
 毎日更新の場外編、 『シャングリラ学園生徒会室』 にもお気軽にお越し下さいませv



毎日更新な 『シャングリラ学園生徒会室』 はスマホ・携帯にも対応しております。
 こちらでの場外編、7月は大荒れの七夕を経ての夏休みです。さて、どうなる…?
←シャングリラ学園生徒会室は、こちらからv

 生徒会室の過去ログ置き場も設置しました。1ヶ月分ずつ順を追って纏めてあります。
 1ヵ月で1話が基本ですので、「毎日なんて読めない!」という方はどうぞですv








※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
 バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。

 シャングリラ学園番外編は 「毎月第3月曜更新」 です。
 第1月曜に「おまけ更新」をして2回更新の時は、前月に予告いたします。
 お話の後の御挨拶などをチェックなさって下さいませv







新しい年がやって来ました。とはいえ、私たちの日常がガラリと変わる筈も無く…。昨年の暮れはクリスマスだの「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお誕生日だのと賑やかに騒ぎ、年末年始は元老寺。年が明けてからは初詣やらシャングリラ学園恒例の闇鍋、かるた大会などの行事が続いて、今は一月半ばです。
「かみお~ん♪ いらっしゃい!」
今日も寒いね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が迎えてくれる放課後のお部屋。熱々の栗のスフレが出てきて、みんなでワイワイやっていると。
「……基本は百人前なんだよね……」
「「「は?」」」
唐突に呟かれた言葉の主は「そるじゃぁ・ぶるぅ」。誰もが顔に『?』マークを貼り付けています。百人前って、栗のスフレが?
「あっ、ごめん! えとえと、栗のスフレは違うの!」
そうじゃなくって、とワタワタしている「そるじゃぁ・ぶるぅ」の横から会長さんが。
「別のものだよ、ね、ぶるぅ?」
「うん、えーっと…。なんて言ったらいいのかなぁ…」
「そのまんま言えばいいじゃないか。スープだよ、って」
「「「スープ!?」」」
私たちは目を剥きました。基本が百人前のスープというのは何でしょう?
「なるほどな…。スープなら別に分からんでもない」
あれは大量に作るらしいし、とキース君。
「いわゆるスープストックだろう? そこから色々と作るんだよな?」
「ううん、そういうスープじゃなくって…。出来上がったスープが百人前なの!」
「宴会料理か? 大きなパーティーだったら充分にアリだ」
「そうなんだけど…。パーティーに出すには高すぎるかも…」
材料も手間もかかるんだよ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は言っていますが、パーティーってヤツはピンからキリまで。うんとゴージャスな宴会とかなら高いスープもアリなのでは?



「どうだかねえ…」
口を挟んだのは会長さんです。
「そのスープだってヤツを食べて来たから、ぶるぅは悩んでいるんだよ。本場のレシピで作りましたとは言っていたけど、いわゆるパチモノ。お値段はゴージャスだったんだけどね」
「いったい何のスープなんです? ウミガメですか?」
あまり見かけない食材ですよね、とマツカ君が尋ね、シロエ君が。
「ウミガメって食べてもいいんですか!? 保護されている動物なんじゃあ…?」
「ああ、それはね…」
クジラと同じさ、と会長さん。
「絶対にダメってわけではないんだ。一部の地域じゃ漁が許可されている。だけど市場には出回らないし、普通は亀のスープと言ったらスッポンだよね」
「そうなんだ…。で、ウミガメだったの?」
ジョミー君の問いに「そるじゃぁ・ぶるぅ」が首を横に振って。
「違うよ、オリオ・スープっていう名前なんだ」
「…コンソメ系か?」
きっとそうだな、とキース君が頷き、サム君が。
「なんでコンソメになるんだよ?」
「知らないのか? スパゲッティとかであるだろうが、アーリオ・オーリオってのが」
アーリオがニンニクでオーリオがオイルだ、とキース君は説明してくれました。
「オリーブオイルを指すらしいぞ。オイルを使うならコンソメ系のスープだろうと…。ミネストローネでもコンソメ系だと言えんことはない」
なるほど、流石はキース君! 名前だけで推理出来るというのが凄いです。言い出しっぺの「そるじゃぁ・ぶるぅ」も「すごーい!」と感心してますし…。なのにチッチッと指を左右に振ったのは会長さん。
「コンソメ系なのは正解だけどね、オイルってわけじゃないんだな。オリオ・スープはオラって言葉から来てるんだ。意味するところは煮込んだってこと」
「…そう来たか…。まあ、料理は俺の専門外だ。ついでに仏教と無関係な国の言語も無縁だ」
知ったことか、と言いつつ、キース君もオリオ・スープは気になるようで。
「それで、どういうスープなんだ? 材料も手間もかかるというのは煮込むからか?」
「うん! だから基本が百人前なの!」
その材料でないと作れないの、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が答えましたが、オリオ・スープっていうのは何物ですか?



基本は百人前なのだ、と主張している「そるじゃぁ・ぶるぅ」はオリオ・スープのレシピを持っている模様。けれどスープの作り方しか知らないようで、会長さんが苦笑しながら。
「元々は宮廷料理なんだよ。戦争する代わりに政略結婚という方針だった世界帝国の御自慢のスープさ。美味しい上に栄養たっぷり、舞踏会では一番疲れるダンスの後に出してたらしいね」
「スタミナ食か?」
キース君の突っ込みに会長さんは「ご名答」と微笑んで。
「オリオ・スープだけを専門に作る厨房があったという話だよ。そのくらい手間がかかるわけ。…それを出します、っていう案内状を貰ったのがクリスマス・シーズンでさ。ぶるぅと行って来たんだけれど…」
「それがパチモノ?」
遠慮も何も無いジョミー君。会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」は二人で顔を見合わせると。
「んーと、んーとね、…とっても美味しかったんだけど…」
「パンチが足りないって言うのかな? 本当にそれだけの素材と手間をかけたのか、って気がしちゃってねえ…」
反則のサイオンを使ったのだ、と会長さん。食事しながら意識を厨房に滑り込ませて、シェフの記憶を読んだのだそうで。
「それなりの素材は使っていたけど、百人前で仕込んだわけじゃなかった。ついでに手間と時間も採算が取れる範囲内でさ…。それ以来、ぶるぅは少しガッカリしてるんだ」
美味しかったのは本当だけどね、と語る会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」が食べたオリオ・スープは『美食家風』と冠されていたそうで、フォアグラや綺麗に切られた野菜、ハーブなどを盛ったお皿に別仕立ての熱々のスープを注ぐ形式。
「元がズッシリしたスープだから、口当たりを軽くするのに野菜とハーブかと思ったんだ。だけど違うって気がしたし…」
「あれでも美味しかったんだもの、本物はもっと美味しいスープの筈なんだよ。…食べてみたいなぁ、オリオ・スープ…」



でも基本が百人前なんだよね、と話す「そるじゃぁ・ぶるぅ」はオリオ・スープに未練たらたら。諦め切れない気持ちが顔に出ています。この調子では会長さんが何処かの店に百人前を特注するのでは、と私たちは考えたのですが…。
「ぶるぅ、チャレンジしちゃおうか? この面子ならなんとかなるさ」
「えっ、ホント!? 作っていいの!?」
百人前だよ、と念を押した「そるじゃぁ・ぶるぅ」に会長さんはニッコリと。
「余ったら冷凍しておけばいいし、それ以前に余らないかもしれない。おやつ代わりに一日に八杯って女帝もいたらしいよ? この人数が一人で八杯ずつ食べたとしたら、百人前でも残り僅か…ってね」
「ちょっと待て! そのスープとやらを食えというのか、俺たちに?」
それも八杯も、とキース君が叫びましたが、会長さんは涼しい顔で。
「食べるだけじゃないよ、作るんだよ。どうせならそっちの方が楽しい。労働の後の食事は美味しいものだし、みんなでドカンと百人前!」
「…作るわけ?」
ぼくは料理はダメなんだけど、とジョミー君がおずおずと言えば「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「お鍋の番も楽しいんじゃないかな、アクを掬うのは出来るでしょ?」
「それくらいなら……って、本気で作るの? 百人前も?」
冗談だよね、と訊き返したジョミー君に向かって、会長さんは。
「入試のシーズンまでまだ少しある。三学期は何かと慌ただしいけど、今が一番暇な時期! スープ作りで遊ぼうよ。途中で二日間寝かせるっていう過程があるから、今度の週末に食べるんだったら仕込みは明後日! 君たちは学校をサボりたまえ」
材料はそれまでに揃えておこう、と会長さんがブチ上げ、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が大歓声。私たちに反論する権利などある筈も無く、オリオ・スープ作りが決定しました。明後日は朝から授業をサボッて会長さんの家に集合です。欠席届を出すべきか否か、なんとも悩ましい所ですねえ…。



登校義務が無く、出欠も問われない特別生の私たち。それでも「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋で過ごす時間や部活などなど、学校に魅力満載なだけに登校し続けているのが実態です。サボるとなれば必要も無い欠席届を出してしまうのも、つい、習慣で…。
「お前は何って書いたんだよ?」
サム君がジョミー君に訊いているのは欠席理由。私たちは会長さんのマンションに近いバス停で待ち合わせ、マンションへと向かう途中です。
「えっ、そのままだよ? ブルーの家でスープを作るので休みます、って」
「うわーっ、マジかよ! 俺、法事だって書いちまった…。お前がそれならバレバレじゃねえかよ」
嘘なんか書いておくんじゃなかった、と嘆くサム君の後ろで吹き出しているのはキース君。月参りに行くと書こうとしたそうですけど、思い直してジョミー君と同じく本当の理由を書いたのだそうで。
「俺もスープ作りと書いたからには法事って理由はアウトだな。俺が月参りと書いていたなら、お前も見習いで同行ってことで逃げを打てたかもしれないが」
「あーあ、やっちまった…。グレイブ先生の心象、最悪…」
ズーンと落ち込むサム君の背中をシロエ君がポンと軽く叩いて。
「大丈夫ですって、サム先輩! 本来は要らない欠席届を出してるんです、それだけで好印象ですよ。作ったスープでグレイブ先生に何か被害があるならともかく、全く関係無いわけですし」
「そうそう、グレイブ先生はスープと関係無いもんね!」
だからキッチリ書いておいたよ、とジョミー君が明るく笑えばマツカ君が。
「…関係があるのは教頭先生なんですよね…」
「いつものパターンでスポンサーだっけ? うーん、どのくらいかかるんだろう…」
百人前だもんねえ、とジョミー君が首を捻る内にマンションの入口に着きました。管理人さんがドアを開けてくれ、エレベーターへ。ちなみに欠席届にスープ作りと記入したのはジョミー君とキース君だけだったりします。私は家族で外出と書き、スウェナちゃんとマツカ君が一身上の都合で、シロエ君は自主学習。
「七人中、二人が一身上の都合で、二人がスープ作りというのがな…」
どう考えてもスープ作りで決定だ、とキース君が可笑しそうに結論づけて会長さんの家の扉の脇のチャイムを鳴らすと、中から勢いよく扉が開いて。



「かみお~ん♪ 準備、バッチリだよ!」
頑張ろうね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が案内してくれた先はキッチンではなくてリビングでした。えっと…此処ってホントにリビング? いつものフカフカの絨毯やソファは?
「いらっしゃい。ビックリしただろ、無理もないけど」
スープ作りに備えて改造、と会長さんが得意そうに示す先には明らかに業務用のガスコンロなどが。巨大な鍋といい、こんなの何処から…? 私たちの疑問を読み取ったように、会長さんは。
「マザー農場から借りたんだよ。あそこは一般客向けの設備とは別に、シャングリラ号のクルーの交流会とかのパーティー用に厨房を設けているからね。使ってない分を借りて来たわけ」
ついでに食材もお願いしたよ、と会長さん。それなら教頭先生の負担は軽いかもしれません。なんと言ってもキャプテンですし、割引とかがあるのかも…。ホッと息をついた私たちですが、会長さんはニヤリと笑って。
「マザー農場の分は割引があるけど、食材は他にも要るからねえ…。それに全部をマザー農場ので賄うわけにはいかないんだ。なんと言っても宮廷料理! 最上級で揃えなくっちゃ。ねえ、ぶるぅ?」
「うん! バターも普通のバターじゃダメなの! 外国の王室で使ってるバターはコレだから」
ほらね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が見せてくれたのは包みが違うという点を除けばスーパーで普通に見かけるサイズのバター。ところがどっこい、お値段はなんと八倍だそうで。
「えっとね、最初はコレとマザー農場の子牛肉なの!」
最高級のお肉だよ、と抱えて来た塊は十キロもの重さ。それを切り分け、バターで軽く焼くところからオリオ・スープ作りが始まるのです。私たちは基本は見学、場合によっては手伝いという位置づけでエプロンなどを着け、思い思いの場所に立ったのですが。
「…やあ。面白そうなことを始めるんだって?」
「「「!!?」」」
紫のマントがフワリと揺れて、現れたのはソルジャーでした。料理は食べるの専門としか思えない人が出て来るなんて、どうしてこういうタイミングで…?



「オリオ・スープって言ったっけ? それってスタミナ食なんだよね?」
瞳を輝かせているソルジャーに、会長さんが冷たい口調で。
「君の魂胆は分かってるけど、今回は読みを間違えてるから! そっちのスタミナじゃないんだ、これは。どっちかと言えば栄養補給に近いかな? 精力増強が目的だったら漢方薬の店にでも相談したまえ」
「えっ…。それじゃ、ぼくのハーレイに飲ませても特に効果は見られないわけ?」
「そうなるね。…それに君は満足してるんだと思ってたけどな、結婚して以来」
「うん、ハーレイも頑張ってるしね。…なんだ、そういうスープじゃなかったのか…」
たまには刺激が欲しかった気も、と呟いたソルジャーは子牛肉の大きな塊を見詰め、王室御用達のバターとやらを検分してから。
「…スタミナの方は勘違いとしても、美味しいスープが出来るんだったら食べたいな。最上級の食材ってだけでも凄そうだしさ」
「だったら週末に出直せば? 今日は仕込みの段階なんだよ」
さっさと帰れ、と手をヒラヒラとさせた会長さんに、ソルジャーは。
「仕込みの日だっていうのは知ってる。だけど学校をサボッてまで作るスープって面白そうだよ、見学したって構わないだろう? それともアレかい、日頃SD体制の下で苦労している…」
「分かったってば! いてもいいけど、今日の食事は賄い食しか出せないからね。ぶるぅはスープに掛かりっきりになるし、ぼくたちだって手伝うんだ」
ああ忙しい、と会長さんが言い終える前にソルジャーは私服に着替えていました。会長さんの家に預けている服があるのです。会長さんはソルジャーにもエプロンを着けさせ、ついに始まったオリオ・スープ作り。子牛肉が切り分けられてバターで焼かれる香ばしい匂いがリビングに…。



「えっと、えっとね、お鍋に水! 三十リットル!」
誰か計って、という「そるじゃぁ・ぶるぅ」の声で柔道部三人組が大鍋へと。桁外れに大きな鍋もマザー農場からの借り物です。そこへ骨付きのスープ用肉を十五キロ。脂肪分の少ない牛肉といえども、これまたマザー農場で育てた高級なもので…。
「お野菜、お野菜…っと! ニンジン、セロリ、パセリにタマネギ~♪」
歌いながら野菜を刻む「そるじゃぁ・ぶるぅ」。大鍋の中に野菜たっぷりと最初に焼いた子牛肉とが入りました。これがスープの原液だそうで、アクを掬いながらコトコト煮るのです。
「なんだ、量は凄いけど単純だよね」
そう言ったジョミー君は鍋の番に回され、残った面子は並行してやるべき作業のお手伝い。えっ、五百グラムの栗を剥いて焼く? 更に同量の粉糖を混ぜて、スープの原液一リットルで一時間以上煮てから漉す?
「おい、ウサギなんかどうやって捌けというんだ! 頼む、ソテーの段階だけにしてくれ、ベーコンと一緒にやるんだよな? なんだと、それにスープを注いで煮てから漉せだと?」
無理だ、と叫ぶキース君の隣ではマツカ君とシロエ君がお手上げ状態。二人の前には山ウズラが二羽、野鴨が一羽。これも捌いて根菜類と一緒にソテーし、スープで煮込んで裏漉しです。他にも大量のカブをバターでソテーしてから煮込んで裏漉し、キャベツと根菜とベーコンをじっくり炒めてスープで煮込んで…。



「かみお~ん♪ レンズ豆は洗うだけでいいからね! でもって煮込んで裏漉しするの!」
いとも簡単に言ってのけてくれた「そるじゃぁ・ぶるぅ」はスウェナちゃんと私がモタモタと剥いていた栗をササッと仕上げ、ウサギの下ごしらえに移りました。でも…栗を焼くってどの程度まで? 煙が上がっちゃダメなのでしょうし、サッパリです。
「うへえ、誰だよ、単純だなんて言ったヤツはよ…」
俺も大鍋の係でいいや、とサム君が逃げ、マツカ君とシロエ君もジビエの前から敵前逃亡。結局、スープ作りを手伝ったのはウサギとベーコンのソテーに挑んだキース君と、キャベツなどを炒めた会長さんだけ。他はソルジャーも含めて全員、それぞれの鍋を煮込む時間のチェック係になり果てたという…。
「…スタミナ食って言われるわけだよ、作り手のスタミナを吸い取るスープとか言わないかい?」
見ていただけでも疲れ果てた、とソルジャーが口にした言葉は名言でした。全ての作業は終わって何種類ものスープが漉され、保存用の器に入れられています。大鍋で煮ていた原液も漉して、これも二日間、冷蔵保存。仕上げは土曜日のお楽しみですが…。
「スープ作りに使った体力を取り戻せるのが土曜日だという気がしてきたぞ」
俺も気力が尽き果てそうだ、とキース君がエプロンを着けたままでラーメンを啜り、私たちも同じくズルズルと。賄い食は土鍋で煮込んだ味噌ちゃんこでした。雑炊で締める予定が、ほぼ全員がスタミナ不足という悲惨な事態に前段階としてラーメンを追加。
「えとえと…。みんな、大丈夫? もっとニンニク入れた方がいい?」
元気が出るよ、と鍋を仕切っている「そるじゃぁ・ぶるぅ」は元気一杯、笑顔全開。これが若さと言うものでしょうか、子供は風の子、元気な子としか…。



オリオ・スープの仕込みで奪われた私たちのスタミナは戻るまでに一日かかりました。スープ作りでサボッた翌日はキース君を除いた全員が寝坊で遅刻。時間どおりに登校したというキース君は朝のお勤めを寝過ごしそうになってアドス和尚に叩き起こされたために間に合っただけで、授業中に居眠りを…。
「あいつが言ってた通りだぜ。…作り手のスタミナを吸い取るんだ、アレは」
まさか今頃になって居眠りするとは、と悔しがっているキース君。大学との掛け持ち時代でさえも一度も居眠りしなかっただけに、やってしまったショックは大きいでしょう。特別生だけに注意されてはいませんけれど、よりにもよってエラ先生の授業でしたし…。
「やあ。今日は全員、遅刻だって?」
放課後の「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋で出迎えた会長さんに「俺は違う!」と猛然と噛み付いたものの、キース君の居眠りの汚点は消えないわけで。
「たかが居眠り、されど居眠り…ってね。やっぱりスタミナは大切だよね」
土曜日にはしっかり取り戻そう! と会長さんが言い、出て来た飲み物はココアでしたが、なんだか普段と違う味わい。ワインにシナモン、バニラビーンズ、おまけに薔薇とジャスミンの花びらも加えてあるらしいのです。
「オリオ・スープと同じ国の宮廷風っていう所かな。ぶるぅが頑張って作ったんだよ、みんな昨日のスープ作りでバテちゃったから、って」
「かみお~ん♪ ちょっと反則しちゃった! ホントはね、薔薇とジャスミンをココアパウダーに混ぜたら二日間おかないとダメらしいんだけど、サイオンでフリーズドライしたんだ♪」
香りが移ればいいんだもんね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が教えてくれた宮廷風ココアのレシピは手が込んだもの。生クリームに牛乳、チョコレートなどを何段階にも分けて加えるもので…。
「…すまん。居眠りくらいで文句を言ってはいけないな…。ありがとう、ぶるぅ」
お前の方が小さいのにな、とキース君が頭を下げて、私たちも有難く特製ココアを頂いていると、部屋の空間がグニャリと歪んで紫のマントが翻り。



「そのココア、ぼくにもくれるかな?」
「「「………」」」
また来たのかい! と言いたい気持ちを私たちはグッと飲み込みました。ソルジャーは早速ココアを淹れてもらって、おやつのクグロフまで受け取っています。土曜日まで来ないと思っていたのに…。
「今日はお願いに来たんだよ」
「ココアを、かい? それともクグロフ? 昨日は賄い食しか出せないよって言ったじゃないか!」
それを承知で居座ったくせに、と会長さんが糾弾すれば、ソルジャーは。
「えっと、ココアはついでなんだ。ホントに元気が出そうな味だね、身体の芯から温まるし…。お願いしたいのはココアじゃなくて、昨日のオリオ・スープの方。土曜日に食べに来る時なんだけど、ぼくのハーレイも一緒にいいかな?」
「…スタミナ食の性質が違うと言ったけど?」
意味が無いよ、と会長さんに断られそうになったソルジャーですが。
「そうじゃなくって、美味しいスタミナ食っていうのが大切なんだよ! こんなに美味しくてスタミナたっぷり、とハーレイに教えておきたいんだ」
「それにどういう意味があるのさ?」
「ぼくの今後の食生活! ハーレイのぼくへの愛が本物だったら、ぼくの世界での食生活が劇的に改善されることになる……かもしれない」
食事というのは案外面倒で、とソルジャーは深い溜息をついて。
「こっちの世界だと美味しい食べ物が沢山あるし、いくらでも食べたくなるんだけれど…。あっちに帰るとあんまり食事をしたい気持ちにならないんだよね。前から言っているだろう?」
言われてみれば、そういう話もありました。実際に見たわけじゃないので真偽の程は分かりませんけど、ソルジャーは食事が嫌いなのです。お菓子だけあればそれで充分、何も食べたくないらしく…。栄養剤を打ってくれればそれでいい、とキャプテンに言ったとか言わないとか。
「だからさ、オリオ・スープってヤツが美味しかったら、作らせようと思うんだ。スープなら食べるのも面倒じゃないしね」
「…作るのが面倒なスープだってことは、身をもって知ったんじゃなかったかい?」
「専用キッチンを設けておけばいいんだろ? 専属の料理人が大勢いれば疲れないしさ」
作業の面倒さは人数でカバー、と言い切ったソルジャーはオリオ・スープ専用キッチンを自分の世界のシャングリラ号に作る気でした。スポンサーの教頭先生ですら呼んで貰えない試食会にキャプテン登場らしいです。オリオ・スープが美味しかった場合、どういう結果になるんだか…。



そして土曜日。会長さんの家のリビングで最後の仕上げが始まりました。ソルジャーとキャプテンも見守る中で赤身の牛肉一キロが切られ、十個分の卵白を混ぜた所に先日作って保存してあった全てのスープと原液が。コトコト煮込んで脂肪分を除き、根菜とキノコをたっぷり加えて煮詰めていって…。
「ブルーから聞いてはいましたが…。仕上げだけでも一仕事ですね」
いい匂いですが、と鍋を見ているキャプテンの横を「そるじゃぁ・ぶるぅ」がサッと駆け抜けながら。
「誰か、お鍋をかき混ぜてて! ぼく、鶏をソテーするから!」
「あ、ああ…。しかし…」
まだ入れるのか、とキース君が呆れたように鍋係を代われば「そるじゃぁ・ぶるぅ」は冷蔵庫から鶏を二羽取り出してきて捌いてソテー。それと羊のもも肉とが鍋に入れられ、これで終わりかと思いきや…。
「「「四時間!?」」」
「うん! 今から四時間、煮込むんだけど…。でもって最後に漉すんだよ。そしたら味を整えて、熱々の内に食べるんだ♪」
お喋りしながら煮込んでいれば四時間くらいはすぐだもんね、とニコニコ笑顔の「そるじゃぁ・ぶるぅ」と、初参加なのに既にゲッソリ疲れた顔のキャプテンとは見事に対照的でした。念願の百人前が基本のスープを作れて嬉しくてたまらない「そるじゃぁ・ぶるぅ」は他の料理を用意するのも抜かりなく…。
「わーい、完成! スープがメインだからテリーヌとお肉のパイ包みとにしてみたよ!」
ノルマは一人に八杯だよね、とダイニングに移動して注がれたスープは普通のコンソメよりも濃い目の深い褐色。八杯なんて絶対無理ですし、教頭先生にもお裾分けしてあげればいいや、と掬って口に運んでみれば。



「「「美味しい!!!」」」
頬っぺたが落ちそうとはこのことでしょうか。コンソメにしては濃厚なのに、少しもヘビーな感じがしません。癖になりそうと言うか、何杯でもお代わり出来そうというか…。テリーヌや肉のパイ包み、サラダをおつまみにして誰もがゴクゴク。会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」も満足そうで。
「うん、これでこそ本物だね。挑戦した甲斐があったね、ぶるぅ」
「お鍋とか借りなきゃ作れないのが残念だよう…。百人前が基本だなんて…」
毎日だって作りたいよ、と疲れ知らずな「そるじゃぁ・ぶるぅ」はオリオ・スープを一人用の土鍋に注いで蓋をし、『おすそわけです』と書いたメモを貼り付けて瞬間移動させました。送り先は教頭先生の家。会長さん曰く、土鍋の下には鍋敷き代わりに材料費の請求書を敷いたそうですが…。
「なんか凄い金額になっていそうだと思うんだけど…」
いくらだったの、というジョミー君の質問に、会長さんはクスッと笑って。
「食事の時に値段を訊くのはマナー違反だと思わないかい? 美味しければそれでいいんだよ。次にハーレイと出会った時に御馳走様と言えばいいのさ」
「「「………」」」
その台詞を言える度胸の持ち主は私たちの中にはいませんでした。マザー農場の最高級のお肉に、各国王室御用達のバター。その他も全部、最上級の材料を揃えたのですし、きっと考えない方が…。



「聞いたかい、ハーレイ? こっちのハーレイには御馳走様だけでいいらしい。…それでね…」
君のぼくへの愛の深さはどれくらいだろう、とソルジャーが赤い瞳を煌めかせて。
「思った以上に美味しいよ、これ。ぼくたちの世界じゃ素材が多少落ちるだろうけど、そこそこの味は出せると思う。…こんなスープが毎日出るなら、ぼくは食事をしてもいい」
「で、ですが…。山ウズラだの野鴨だのは…」
「大丈夫、ぼくが調達してくるから! 君は専用の厨房と料理人を手配してくれるだけでいいんだ。それにミュウにとっても悪い話じゃなさそうだけどねえ?」
虚弱体質の人が多いんだから、とソルジャーはキャプテンを見詰めています。
「ぼくが毎日八杯としても、九十人分ほど余るんだ。順番に配っていけば体質も改善出来るかも…。美味しい上に栄養満点、ソルジャー御用達の特製スープって士気も上がると思わないかい?」
キャプテンなら何とか出来るだろう、と期待に満ちた笑顔で迫られ、グッと言葉に詰まるキャプテン。食事をするのを嫌うソルジャーが「これさえあれば食べてもいい」と告げたスープは素晴らしい味で、栄養面でも文句無し。けれど作るには途轍もない手間と時間が必要で…。
「す、少し考えさせて下さい。…ヒルマンたちにも相談してみた上で結論を…」
「ヘタレ!」
何年振りかで聞いた単語がダイニングに響き渡りました。
「ぼくに満足な食事もさせられない男が伴侶だなんて泣けてくるよ。当分おやつしか食べてやらない! ついでに青の間にも立ち入り禁止だ!」
先に帰って反省してろ、とキャプテンを強制送還したソルジャーはオリオ・スープを何度もお代わり。本当に気に入ったみたいですけど、自分の世界で食事代わりに食べられる日は来るのでしょうか? キャプテンの愛が試されるのは構わないとして、スープ作りで疲れ果てるクルーが出て来ないよう、こっちで量産すべきですかねえ…?




                    究極のスープ・了



※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
 ドタバタとトンデモ展開が売りのシャングリラ学園ですけど、たまにはほのぼの。
 お料理大好き「そるじゃぁ・ぶるぅ」にスポットライトを当ててみました。
 作中に出てくるオリオ・スープは実在しますし、レシピもそれに基づいています。
 チャレンジなさりたい方は、どうぞ作ってみて下さい。

 そして今月はアニテラでのソルジャー・ブルーの祥月命日、7月28日が巡って来ます。
 当サイトはハレブルな生存EDを持ち、シャングリラ学園シリーズもソルジャー生存で
 完結しておりますから、追悼の必要は微塵も無かったりしますけど。
 節目の月だけに、今月は 「第1&第3月曜」 の月2更新にさせて頂きます。
 次回は 「第3月曜」 7月15日の更新となります、よろしくお願いいたします。

 更に7月28日には 『ハレブル別館』 の方に短編をUPする予定でございます。
 「ここのブルーは生きて青い地球に行けたんだっけ」と再確認して頂ければ幸いです。
 毎日更新の場外編、 『シャングリラ学園生徒会室』 にもお気軽にお越し下さいませv


毎日更新な 『シャングリラ学園生徒会室』 はスマホ・携帯にも対応しております。
 こちらでの場外編、6月はホタル狩りで大荒れでしたが、さて、7月はどうなりますやら。
←シャングリラ学園生徒会室は、こちらからv

 生徒会室の過去ログ置き場も設置しました。1ヶ月分ずつ順を追って纏めてあります。
 1ヵ月で1話が基本ですので、「毎日なんて読めない!」という方はどうぞですv









※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
 バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。

 シャングリラ学園番外編は 「毎月第3月曜更新」 です。
 第1月曜に「おまけ更新」をして2回更新の時は、前月に予告いたします。
 お話の後の御挨拶などをチェックなさって下さいませv






今年のお花見は例年以上に賑やかなことになりました。春が来るのが遅かったため、桜の見頃がソルジャーの世界とズレたのです。ソルジャーは桜の花が大好きとあって、私たちの世界でもお花見するのだと言い出して…。
「凄かったねえ、アルテメシア公園の夜桜! ぼくの世界じゃ、あそこまで派手に出来ないし…」
桜の木だって一本しか無いし、と私服のソルジャーが御機嫌で喋っているのは会長さんの家のリビング。ソルジャーの隣には同じく私服のキャプテンが腰掛け、ゆったりとお茶を啜っています。今日は土曜で学校はお休み、私たちはソルジャーたちと一緒にお花見に繰り出したのでした。
「こっちの桜は見ごたえがあるよ、公園どころか山ごとまるっと桜だとかさ。桜のお菓子も沢山食べたし、もう最高に幸せで…」
「ブルー、タコ焼きは要らないのですか?」
キャプテンが指差す先には夜店で買ってきたタコ焼きが。ソルジャーはもちろん「食べる!」と答え、キャプテンが早速、つまようじで一個プスリと刺して。
「どうぞ」
「…ん……。桜もいいけど、タコ焼きもいいね」
幸せそうに頬張るソルジャーに、キャプテンが二つ目のタコ焼きを差し出し、ソルジャーからもお返しが。ああ、またしても始まりましたよ、バカップル…。会長さんがそれを横目で見ながら。
「ふふ、ハーレイには目の毒かな? ぼくは絶対してあげないしね」
「う、うむ…。お幸せならばそれでいいのだが、やはり見ていて物悲しいな…」
ガックリと項垂れているのは言わずと知れた教頭先生。昼間のお花見は「そるじゃぁ・ぶるぅ」特製のお弁当を持ってのお出掛けでしたから、荷物運び要員として招集されてしまわれたのです。会長さんとのお花見とあって二つ返事でついて来られたわけですけれど、そこには余計なバカップルまで。
「はい、あ~ん♪」
「お好み焼きもありますよ、ブルー」
仲睦まじく食べさせ合いをしている二人は「ぶるぅ」すらも放置でした。もっとも「ぶるぅ」は食べ物さえあれば満足ですから、夜店で買ったフランクフルトやら串カツやらをガツガツと。同じ姿形の「そるじゃぁ・ぶるぅ」は冷めかけたヤツをお皿に移してレンジで温めたり、お茶を淹れたり…。
「かみお~ん♪ お花見、楽しかったね! 来年もみんなで行きたいな♪」
「そうだね、ハーレイが黄昏れるのを見るのも楽しいし…。ブルーたちはホントに仲がいいから」
結婚するまでは波乱万丈だったのに、と会長さんが笑えば、ソルジャーがクスッと笑みを零して。
「もうハーレイはぼくだけのものだし、ぼくもハーレイだけのもの! わざわざ愛情を確かめなくてもバッチリ絆があるんだからさ、これ以上、何を求めると? せいぜい夜のバリエーションかな」
「その先、禁止!」
余計なことを口にするな、と予防線を張った会長さんに、ソルジャーは。
「分かってるってば。ぼくのハーレイもシャイだからねえ、ハーレイの前でその手の話をする気は無いさ。…だけど結婚っていうのはいいよ? 君もハーレイと結婚すれば満たされた生活が出来ると思うな」
「なんでぼくが! 大体、思い込みだけで突っ走るような妄想男に愛情なんかがあるわけないだろ!」
ハーレイが夢見ているのは理想の結婚生活のみ、と会長さん。
「ぼくに色々と世話してもらって、おまけに身体も欲しいというのがハーレイなんだよ。結婚したら家事全般をぼくにやらせて、自分はゴロゴロしてるだけ…ってね」
「それは違う!」
教頭先生が血相を変えて割って入りましたが、会長さんは。
「何処が違うのさ、そのとおりだろ? 君の夢って、家に帰ったらぼくがエプロン姿で迎えて食事かお風呂かって訊くヤツじゃないか。ぼくは毎日、君が中心の生活を送る羽目になるわけ」
「そ、それは…。それは私の勝手な夢で、お前がそれを嫌がるのならば、家事は私が全部やる!」
一つ屋根の下で暮らせるだけで充分なのだ、と教頭先生は頬を赤らめておられます。
「お前が嫁に来てくれるのなら、家事が二倍に増えても構わん。もちろん、ぶるぅの面倒も見る。ぶるぅに家事をさせようなどとは思わないから、よく考えて返事をくれれば…」
「どさくさに紛れてプロポーズって? そういう所も気に入らないんだ、ぼくへの愛が感じられないし!」
もっと相手を思いやれ、と会長さんに言い返されてズーンと落ち込む教頭先生。めり込んでいる人がいる状態ではバカップルも調子が出ないらしくて、「あ~ん♪」の代わりにお茶を飲みつつ、何やら二人で話しています。それでも二人の世界ですから、教頭先生にはお気の毒としか…。



教頭先生の方をチラチラ見ながら話し込んでいたバカップル。やがて二人で頷き合うと、私たちの方に向き直りました。口を開いたのはソルジャーです。
「…ハーレイの愛情なんだけどさ。あ、ぼくのハーレイじゃなくて、こっちのだよ? ブルーへの愛があるのかどうか、確かめる方法が無いこともない」
「………。どうせ、いかがわしい方法だろう?」
不機嫌全開な会長さんの問いに、ソルジャーは首を左右に振って。
「ううん、全然。君は結果を確かめるだけで、頑張るのはひたすらハーレイなんだ」
「最悪じゃないか! それに鍛えても無駄だと思うよ、ヘタレは治らないからね。治ったとしても、ぼくは付き合うつもりはないし」
そっち方面の趣味は全く無い、と会長さんがキッパリ言い切り、ソルジャーが深い溜息を。
「…ヌカロクとかじゃないってば。ハーレイが頑張ることになるのは園芸だよ」
「「「演芸?」」」
なんのこっちゃ、と目を丸くする私たち。教頭先生、口説き文句を言う練習でもするのでしょうか? 愛情をこめて愛の言葉を語るにしたって、それを練習していたとなればお芝居の台詞と変わりません。会長さんに笑い飛ばされるか、大根役者と罵られて終わりっぽいですが…。
「無駄だね、芝居っ気たっぷりの愛の告白なんてお笑いだよ」
努力するだけ無理、無茶、無駄、と会長さんが突っぱねましたが、ソルジャーは。
「違う、違う、それはエンゲイ違い! 君のハーレイにオススメなのは同じエンゲイでも農業の方」
「「「は?」」」
「育てるんだよ、ブルーへの愛で」
愛をこめるのが重要なのだ、とソルジャーが突き出した手のひらの上にフワリと青い光が灯って、それが消えると一粒の種が。
「これはね、ぼくがサイオン研究所から持って帰った植物の種。ハーレイに育てさせたんだけども、その後、シャングリラに住んでる恋人たちの間で密かなブームになったわけ」
「「「???」」」
「育てる人のサイオンを吸収するんだ、この植物は。…そして花をつけ、実を結ぶ。どんな実がなるかは愛情次第というだけあって、ついた名前が『情熱の果実の樹』なんだよ」
一大ブームを巻き起こしたという小さな種をソルジャーはテーブルに置きました。
「こっちのハーレイにブルーへの愛があるなら、ちゃんと実がなる筈なんだ。ブルーを想って毎日世話さえしていれば…ね。どう、ハーレイ? 挑戦するなら種をあげるよ」
「…で、ですが…。そのぅ、それはあなたの世界のもので…」
しどろもどろな教頭先生にソルジャーはパチンとウインクして。
「こっちの世界への影響だったら無問題! この木は自家受粉で実を付ける上、日光も必須じゃないからね。そこそこの明るさがある部屋なら充分育つし、その性質上、育てる人の寝室なんかが最適な環境ってヤツなのさ。君の寝室に閉じ込めておけば生態系には影響ないだろ?」
「…は、はあ……」
「どうする、これを育ててみる? それとも結果が怖いかな? 来月には分かってしまうもんねえ…」
これは成長が早いんだ、と指先で種をつつくソルジャー。
「一ヶ月ほどで大きく育って花が咲くんだ。今から植えれば来月の末頃に実がなる勘定。それまでに枯れてしまえば愛情云々以前の話だし、花も実もなければブルーへの愛があるかどうかが怪しいよね」
愛しているのは身体だけかも、と言われた教頭先生は真っ青になり、思い切り腰が引けています。種の栽培に失敗したなら会長さんへの愛情はゼロで、成功したって花や実が無ければ疑われるというわけで…。
「…お、お気持ちは有難いのですが、やはり環境のことを考えますと…。私の寝室も完全に密閉された空間というわけではないですし…。万一、こちらの世界の動植物と接触したら、と…」
やめておいた方が良さそうです、と断った教頭先生の横からスッと出たのは会長さんの白い手でした。
「ふうん…。ハーレイのぼくへの愛が分かるって? 面白いじゃないか、協力しよう。ぼくのサイオンでハーレイの寝室をシールドしておけば生態系への問題は無い。…ぼくのシールドが張られていたって、中で育てる種の方には特に影響しないんだよね?」
会長さんに視線を向けられたソルジャーはコクリと頷いて。
「うん、その点は大丈夫。ぼくのシャングリラは常にぼくのサイオンが張り巡らされた状態だ。そこで色々な姿に育ってくれた種だからねえ、育てる人のサイオンだけに反応するのは間違いないよ」
「了解。…じゃ、そういうことで、今夜から早速育てたまえ」
種を摘み上げた会長さんが教頭先生の褐色の手のひらにそれを押し付け、ニッコリ微笑んでみせました。
「…君の愛情が本物かどうか、これが教えてくれるってさ。枯らすのも良し、最初から植えずに逃げるのも良し。…愛があるなら育てられると思うんだけれど、どうするんだい?」
「…そ、育て方が…。み、水やりなどのやり方が……」
学校の方もありますし、と必死に逃げを打つ教頭先生に向かって、ソルジャーが。
「ああ、その点は心配無用だよ。ぼくのハーレイもキャプテンの仕事で多忙だからねえ、部屋に戻れるのは夜だけくらいなものだったけれど無事に育った。そうだよね、ハーレイ?」
「ええ。…先輩として一つアドバイスするなら、鉢でしょうか。最終的には持ち上げるのも一苦労というほどの木になりますから、大きめの鉢を御用意下さい」
愛さえあれば大丈夫ですよ、とキャプテンに太鼓判を押された教頭先生は完全に退路を断たれました。楽しげに笑う会長さんと、愛と余裕に満ち溢れているソルジャー夫妻と。もはや否とは言えません。お花見転じて園芸家への道、頑張って進んで下さいとしか…。



教頭先生が『情熱の果実の樹』とやらの種を押し付けられて以来、頻繁に顔を見せるようになったのがソルジャー。忙しいから今日はお茶だけ、などと言いつつ放課後の「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋を訪れ、週末に会長さんの家にお邪魔していればヒョイと現れ…。
「今の所は愛情は足りているみたいだねえ?」
スクスク育っているじゃないか、とソルジャーがアプリコットのタルトを口に運びながら教頭先生の家の方角を眺めているのは二週間が経った日曜日のこと。
「発芽した時点でブルーへの愛があるのは間違いないんだ。ハーレイも大喜びで世話をしてるし、このままで行けばまず枯れない」
「……迷惑な……」
既に勘違いMAXなんだ、と会長さんは顔を顰めました。
「ぼくへの愛を試されるんだから、ハーレイはもう必死なんだよ。植物は愛情をこめて育てれば綺麗な花が咲くらしい、なんて情報をヒルマンから仕入れてきたから大変で…。毎日せっせと話しかけてる」
「それはそれは。…ぼくのハーレイが育ててた時も同じだったよ、音楽を聴かせたりもしていたねえ」
「…それもやってる。おまけにぼくへの愛が大切だからね、ぼくの写真にキスする回数が激増した上に抱き枕もしっかり抱いてるんだけど!」
思い出しただけで寒気がする、と肩を竦める会長さんに、ソルジャーは。
「君だって乗り気だったじゃないか。面白そうだって言ってたし」
「………失敗すると思ってたんだよ、もっとデリケートな植物なんだと信じてたから」
あんな愛情でも育つだなんて騙された、と会長さんは不快そうですが、ソルジャーの方はニコニコと。
「分かってないのは君の方だよ。ハーレイの愛は本物だってば、多少暴走しているだけでね。…だから確実に花が咲くだろうし、君への熱い想いを秘めた美味しい実がなると思うんだけど」
「……嬉しくない……」
「そう言わずにさ。あっ、そういえば実の話ってしてたっけ?」
今日のおやつは狙ってるけど、と尋ねられて顔を見合わせる私たち。情熱の果実の樹に実がなる話は聞いていますが、そのことでしょうか? でも、狙ってるって、どの辺が…?
「やっぱり話していなかったよね? それじゃホントに偶然なんだ…」
美味しいけれど、とソルジャーはお代わり用のタルトが載った大皿を指差して。
「あの種はね、とても小さいヤツだったけれど、一ヶ月ちょっとで実がなるという成長の速さが示すとおりに色々と掟破りなんだよ。どうやら基本はアプリコットらしい」
「「「えっ?」」」
「でなきゃプラムか、そういうモノ。バラ科サクラ属の植物を土台に作った植物なんだと思う。…なにしろ花が桜に似てるし、実だってアプリコットやプラムにそっくり。…まあ、その辺は育てた人間の個性が出るけど」
花の色とか実の色とかに、と微笑むソルジャーのためにキャプテンが育てた時には桜そっくりの花が咲いたそうです。桜といえばソルジャーが一番好きな花じゃないですか!
「うん。あれはホントに嬉しかったな、ハーレイが桜っぽい花を咲かせてくれたわけだし…。ただ、如何せん、研究所が作った植物だ。先に葉っぱが茂っちゃってて、桜っぽさは殆ど無かったね」
そこが残念な所なんだ、と語りながらもソルジャーはとても嬉しそうで。
「でもって実の色はサクランボみたいに艶やかな赤! ぼくへの愛なら青じゃないかとも思ったけれど、ハーレイが好きなのはサイオンの色よりも瞳らしいんだ。ほらね、この色」
これを映した実だったんだよ、とソルジャーが示したものは自分自身の赤い瞳で、私たちは御馳走様としか言いようがありませんでした。バカップルになって結婚する前からキャプテンの愛情は溢れまくっていたようです。だったら教頭先生も…?
「そうだねえ、こっちのハーレイが育ててる木も赤い実をつけることになるんじゃないかな? ブルーに贈ろうと買った指輪がルビーなんだし、瞳の色にも惚れ込んでるよ」
「……迷惑すぎる……」
そんな木の実は見たくない、と会長さんは呻いていますが、恐らく時間の問題でしょう。教頭先生が愛情をこめてお世話している情熱の果実の樹は只今順調に成育中。育てる前こそ恐れていた教頭先生も今となっては「元気に育てよ」と燃えているのは確実で。
「いいじゃないか、君に対するハーレイの愛が形になるっていうのはさ。実がなったら食べてみるといい。ハーレイの愛で甘く熟した赤い実を食べれば、君の胸にもハーレイへの愛が芽生えるかも…」
「お断りだよ!」
そんな毒リンゴは絶対嫌だ、と叫ぶ会長さんの頭にあるのは『白雪姫』が食べた毒リンゴ。そこまで酷くはないんじゃないかと思いますけど、食べたくない気持ちも分からないではありません。私たちだって御相伴する気は無いですし…。
「なんだ、食べてあげようとも思わないわけ? せっかくの愛の証で結晶なのに」
分からないねえ、と頭を振り振り、ソルジャーは姿を消しました。会長さんはアプリコットのタルトへの食欲が失せたらしくて、お代わり用が一切れ余る結果に。えっ、そのタルトはどうなったかって? 情熱の果実とは無関係な私たちがジャンケンしました、当然です~!



会長さんへの愛が足りなくて花も実もつかずに終わるのでは…、と心配していた教頭先生。けれど寝室の窓辺に置かれた鉢の植物はついに蕾をつけ、それに気付いた教頭先生は万歳三唱したのだとか。一方、会長さんは覗き見をする気にもなれないそうで…。
「えっ、今日も覗いていないのかい?」
綺麗な花が咲いたのに、と呆れ顔なのは例によって遊びに来たソルジャー。放課後の「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に顔を出す前に教頭先生の家に寄り、情熱の果実の樹を見て来たのです。
「あの花は君のイメージなのかな、それともハーレイの願望が入っているのかな? 桜と言うより桃の花に近いね、ピンクの色が濃いんだよ」
「…ハーレイの妄想の色だと思うな。ピンクというのはそういうイメージ。この世界じゃピンク映画って言うんだ」
口にしてからハッと息を飲み、「今のは無し!」と大慌てする会長さん。ピンク映画って何なんでしょう? ジョミー君たちと騒いでいると、キース君が。
「俺たちにはチケットが買えない映画だ。そのくらいのことは知っているさ」
これでも大学は出たんだからな、と教えてもらって納得です。なるほど、十八歳未満お断りの映画のことですね。でも……教頭先生が咲かせた花は本当にそんな映画のイメージ?
「違うんじゃないかと思うけどねえ…」
あれはハーレイの乙女趣味だろ、とソルジャーも異を唱え始めました。
「乙女って言うとアレだけれども、日頃から夢を見てるじゃないか。君との新婚生活はレースたっぷり、フリルたっぷりの薔薇色だよ? そういう気持ちが溢れ出た結果が桜よりも濃いめの色じゃないかと…」
「だったら薔薇色でいいだろう!」
思い切り深紅に咲かせればいい、と主張している会長さんにソルジャーは。
「…それが出来ればハーレイじゃないよ。深紅の薔薇色に咲かせたい所を恥じらった結果があれだってば」
「恥じらいだって!?」
おえぇっ、と胃袋が引っくり返りそうな声を上げ、会長さんはゲンナリとソファに…。
「まったく、なんてことを言ってくれるのさ…。あのハーレイが恥じらうかい? 毎晩ぼくの写真をオカズに妄想爆発、抱き枕を相手にサカッてるくせに」
「君を前にするとサカれないだろ、そこが恥じらい。…愛情の深さは証明されつつあるんだからさ、嫁に行けとまではまだ言わないから、婚約だけでも…。でもって少しずつ愛を深めれば、いつかは応えようって気にもなる。それがオススメ」
「嫌だってば!」
ぼくと君とは違うんだ、と怒鳴りつける会長さんの声はソルジャーには全く届いておらず。
「…こっちのハーレイに種をプレゼントした甲斐があったなぁ、ブルーへの愛が形になる日も遠くはないよ。赤くて瑞々しい実がついた時には盛大にお祝いしなくちゃね」
ブルーの家に鉢を運ぼう、とソルジャーはやる気満々でした。
「リビングの真ん中に鉢を据えてさ、みんなでシャンパンを開けて乾杯! ブルーとハーレイの前途を祝してパーティーなんかはどうだろう?」
「かみお~ん♪ パーティー、楽しそうだね!」
何も分かっていない「そるじゃぁ・ぶるぅ」はパーティーという単語にだけ反応しちゃったみたいです。そこをソルジャーが上手く丸め込み、実が熟しそうな今週末がパーティーの日に決定しました。花が咲いてから一週間も経たない内に実が熟すなんて、聞いていたとおりに掟破りな植物ですねえ…。



情熱の果実の樹が教頭先生の愛で見事な実をつけ、会長さんの家のリビングに瞬間移動で運び込まれたのは土曜日の昼前のことでした。サイオンを使ったのは無論、ソルジャー。その傍らにはキャプテンが立ち、鉢よりも先に到着していた教頭先生に笑顔を向けて。
「素晴らしい木をお育てになられましたね。…ブルーから毎日聞いていましたが、これほどとは…。私が育てた木より見事かもしれません」
「あ、ありがとうございます…」
頑張った甲斐がありました、と頬を染めた教頭先生の視線の先には仏頂面の会長さん。たわわに実った赤い果実に目を向けもせず、反対側の壁を睨み付けています。
「…ブルー、私はお前だけを想って頑張ったのだが…。見てくれないのか?」
「迷惑なんだよ、そんな形にされたって! 愛してます、って押し付けられても嬉しくないし!」
秘すれば花って言うだろう、と会長さんは唇を尖らせて。
「本当にぼくを想っているなら、結婚しようとか愛しているとか、言わないものだと思うけど? ぼくは何度も断ってるんだ、そっと陰から見守ってるのが本物の愛じゃないのかな?」
こんなのは愛情の押し付けなんだ、と糾弾された教頭先生は「悪かった…」と肩を落として。
「すまない、ブルー…。お前への愛を証明できる、と思った私が馬鹿だったのだな…。実が熟したらお前に贈ろうと、贈って愛を告白しようと楽しみに育てていたのだが…」
申し訳ない、と教頭先生が深く頭を下げた時です。
「「「あっ!?」」」
艶々と輝いていた赤い果実の表面がひび割れ、ピシピシと細かく割れ始めました。愛情で育った情熱の果実は教頭先生の心のヒビに耐えられなかったというのでしょうか?
「わ、割れちゃった…」
壊れちゃうの、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が泣きそうな声を上げたのですけど、真っ赤なプラムだかアプリコットだかはライチのような皮に変化しただけで砕け散ったりはしませんでした。それどころか…。
「「「えぇっ!?」」」
わしゃわしゃ、もしゃもしゃ。細かくひび割れた表皮から無数の毛が生え、四方八方に伸びて広がりまくって。
「……おい。これはランブータンだったのか?」
キース君の指摘が果実の現状を示しています。ぷるん、コロンと実っていた幾つもの実は今や毛だらけのランブータンと化し、見る影も無い状態に…。
「「「………」」」
何が起こったのかと鉢を見詰める私たちの沈黙を破ったのは会長さんで。
「…ハーレイ、これが君の本音で本性なんだ…?」
有り得ないよね、と冷ややかな瞳がランブータンもどきを蔑むように見ています。
「こんなに見事に実りました、って綺麗な外面を見せていたって、中身は毛だらけのケダモノってわけだ。ぼくへの愛情云々以前に、その先にある結婚生活だけを夢見て生きてるわけだね、要するに…?」
「ち、違う! わ、私はそんなつもりでは…!」
顔面蒼白の教頭先生が泣けど叫べど、艶やかな果実がランブータンもどきに変身したのは誰もが目撃した事実。会長さんは怒り狂って教頭先生を家から蹴り出し、ガチャリと鍵を掛けてしまいました。えっと、パーティーはどうなるんでしょう? お祝いの料理とシャンパンとかは…?



泣きの涙で玄関の扉を叩き続けていた教頭先生が諦めてションボリとエレベーターに乗り、駐車場から愛車で走り去るのを窓から見届けた会長さん。フンと鼻を鳴らし、怒り心頭の形相で。
「この鉢、割っていいのかな? それとも君が持ち帰って処分してくれるのかな?」
君の世界の植物だもんね、と会長さんに鉢と交互に見比べられたソルジャーは。
「…どっちでもいいけど、君は誤解をしているよ。ねえ、ハーレイ?」
「そうですね…。あなたが何も仰らないので、私も黙っていましたが…」
このままというのはどうなのでしょう、と眉間の皺を深くしたキャプテンに、会長さんが怪訝そうに。
「…何のことだい?」
「これですよ」
この実なんです、とキャプテンはランブータンもどきに手を触れて。
「最初からこの状態という実は幾つか見ました。こうなる前のひび割れた形も知っています。…どちらも良くあるパターンでしたね、私たちの船にいる恋人たちには」
「「「は?」」」
そんなにケダモノな人が多いのだろうか、と誰もが思ったのですが、キャプテンは。
「一気に二段階にも変化した実は初めてですよ。…恐らく最初は自信に溢れておいでになったと思われますが、迷惑だの何だのと罵られたためにナーバスになってしまわれたかと…。このタイプの実が出来るのはシャイな性格の人に多いんです」
「シャイだって!?」
ケダモノじゃないか、と会長さんが反論すれば、ソルジャーが。
「それが嘘ではないんだよ。…誤解してると言っただろう? ライチみたいにヒビ割れた皮はね、ライチの皮並みに固いんだ。愛情に溢れているけど、この愛情の実を食べて下さいって言える自信の無い内気なミュウだとアレになるわけ」
傷つかないための心の鎧かな、と言われてみればライチの皮は固いです。剥けばツルリと剥ける辺りが余計に心の鎧っぽい感じ。ソルジャー曰く、ライチタイプの果実の色は赤とは限らないそうですけども。
「それこそサイオンの色から本人の好み、あれこれと関係するからね。…でもって今のこの状態。毛だらけなのはケダモノじゃなくて心を隠すための蓑なんだよ。失敗したらどうしよう、愛情が通じなかったらどうしよう、って後ろ向きな気持ちが実を覆っちゃうとコレになるのさ」
「…それじゃハーレイは、ケダモノじゃなくて……」
「むしろ、その逆。君への愛はたっぷりだけど、その愛を君に受け取ってくれとか、押し付けたいとか、そういう気持ちは無いんだろう。…この木をせっせと育ててる間に勇気が出てきて普通の赤い実が出来たけど……本音はこっちの方だと思うよ、劇的に変化しちゃったからねえ」
可哀想に、とソルジャーが呟けば、キャプテンも。
「ええ、お気の毒なことをしました。愛情を確かめて貰うどころか、真逆になったようですし…。けれど誤解が解けたからには、少しは前進出来そうですね」
「却下!」
それとこれとは別物だ、と会長さんは突き放すように。
「ハーレイが逃げて帰った所が後ろめたさの証明だ。本当にケダモノっぽさが欠片も無いなら、普通にしてればいいだろう? なのに泣いたり許しを乞うのが汚れた心がある証拠。心当たりの一つや二つはあったってことさ、ケダモノのね」
ぼくにとっては大迷惑なケダモノ男、と会長さんは全く容赦しませんでした。教頭先生、会長さんへの思いの丈を素直に果実に反映し過ぎてドツボにはまったみたいです。ランブータンもどきに変化させなければ、ケダモノとまでは言われずに済んだと思うのですが…。
「とにかく、この木は処分して。パーティーは処分の打ち上げにするから」
会長さんの冷たい口調に、ソルジャーが渋々といった風情で。
「…仕方ないねえ、それじゃ向こうに送っておくよ。ハーレイ、それでかまわないよね?」
「もちろんです」
キャプテンが頷き、ランブータンもどきが実った情熱の果実の樹は鉢ごとソルジャーの世界の青の間へ送られてしまいました。その後は賑やかなパーティーが始まり、どんちゃん騒ぎだったのですけど。



「媚薬だって!?」
会長さんの悲鳴がリビングを貫いたのはお開きになる少し前。ソルジャーがキャプテンと手を握り合ってニッコリと…。
「そう、媚薬。情熱の果実の樹の実はね、贈り合った当人同士で食べれば普通に美味しい果物なんだ。…でもって無関係な恋人同士の二人に贈れば最強の媚薬になるらしい。流行ってた頃にそういう噂があったんだけど、残念ながら試す機会が無くて…」
なにしろ貴重な実なんだから、と話すソルジャーは他のミュウたちが育てた木の実を失敬しなかったみたいです。ソルジャーならではの自制心の賜物と言うべきでしょうか。
「だからね、君のハーレイが愛情こめて育て上げた木の実で楽しませて貰うよ、君も要らないって言ってたし…。ねえ、ハーレイ?」
「ええ、本当に効くか楽しみですね」
特別休暇を取りましょう、と濃厚なキスをしながらバカップルは消え失せ、残された会長さんが返せ戻せと叫んでいますが、情熱の果実の樹は二度と戻って来ませんでした。教頭先生の愛が育てたランブータン。会長さんに美味しく食べてもらいたかったと思うんですけど、報われないのはお約束かな…?



                 情熱の木の実・了



※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
 今回のお話、 『情熱の木の実』 には実は元ネタがあったりします。
 アルト様がハレブル無料配布本用に書かれた 『情熱の果実』 が元ネタです。
 作中に出てくる 『情熱の果実の樹』 の性質を更に大きく膨らませてみました。
 無料配布本をお持ちでしたら、ニヤリと笑って下さいです。
 お持ちでない方は「アルト様からの頂き物」のコーナーへどうぞ。
 以前、頂いたテキストが見つかりましたので掲載させて頂きましたv
 アルト様、ありがとうございます~!
 元ネタになったお話は、こちら→『情熱の果実

 そして来月はアニテラでのソルジャー・ブルーの祥月命日、7月28日が巡って来ます。
 ハレブルな生存EDを昨年に書き上げましたし、もう追悼の必要は無い…のですが…。
 節目ということで、7月は 「第1&第3月曜」 の月2更新にさせて頂きます。
 次回は 「第1月曜」 7月1日の更新となります、よろしくお願いいたします。

 更に7月28日には 『ハレブル別館』 の方に短編をUPする予定でございます。
 「ここのブルーは生きて青い地球に行けたんだっけ」と再確認して頂ければ幸いです。
 毎日更新の場外編、 『シャングリラ学園生徒会室』 にもお気軽にお越し下さいませv


毎日更新な 『シャングリラ学園生徒会室』 はスマホ・携帯にも対応しております。
 こちらでの場外編、今月はホタル狩りにお出掛けするようです。ホタル、捕れるかな?
←シャングリラ学園生徒会室は、こちらからv


 生徒会室の過去ログ置き場も設置しました。1ヶ月分ずつ順を追って纏めてあります。
 1ヵ月で1話が基本ですので、「毎日なんて読めない!」という方はどうぞですv









※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
 バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。

 シャングリラ学園番外編は 「毎月第3月曜更新」 です。
 第1月曜に「おまけ更新」をして2回更新の時は、前月に予告いたします。
 お話の後の御挨拶などをチェックなさって下さいませv






今や夏休みの恒例行事となったマツカ君の家の別荘への旅。海の別荘の方はソルジャーとキャプテン、「ぶるぅ」が一緒にくっついてくるのがお約束です。今年もしっかりそのパターン。出発を明後日に控え、今頃、ソルジャーとキャプテンは向こうの世界で大車輪で仕事を片付けている筈ですが…。
「ブルーもホントに頑張るよねえ…」
今年も来るとは、と会長さんが苦笑しています。
「たまには欠席すればいいのに、一度も欠席しないんだものね」
「そりゃそうだろう。今となっては来ないわけがない」
キース君がアイスコーヒーを一口飲んで。
「海の別荘はあいつらが結婚した場所なんだぜ? 結婚記念日と重ねたいから、と日付指定までしやがるじゃないか」
「それも迷惑な話だけどね…。まあ、一緒に祝えと押し付けられるわけじゃないからいいけどさ」
勝手にイチャイチャしてるだけだし、と会長さんが言うだけあってソルジャーとキャプテンは今もバカップルです。明後日からもベタベタやるのでしょうけど、目の毒な旅にももう慣れました。適当にスルーしておくべし、と私たちは会長さんの家のリビングを舞台に今年も誓っているわけで。
「そうそう、スルーするのが一番! …出来ないのが若干一名いるけど」
会長さんの言葉に、シロエ君が。
「教頭先生は仕方ないですよ…。今年もおいでになるんですよね?」
「ハーレイも海の別荘行きを毎年楽しみにしているからね。あそこで色々あったというのに、ぼくと一緒に旅行ってだけで食いついてくるのが笑えるよ」
本当によくも懲りないものだ、と会長さんが数えているのは教頭先生が海の別荘でかいた恥の数々。会長さんやらソルジャーやらの悪戯に引っ掛かった挙句に両手の指では足りないほどです。
「他にも忘れているヤツがあるかもね。あ、忘れるで思い出した。…ぶるぅ、改装はいつからだっけ?」
「えーっと…。確か来週だったかなぁ?」
「それはマズイな、忘れそうだ。…悪いけど、明日にでも行って来てくれる?」
「かみお~ん♪ 今から行って来る!」
お昼の支度は出来ているから、と言うなり「そるじゃぁ・ぶるぅ」は瞬間移動で消え失せました。えっと、行くっていったい何処へ…? 私たちの視線を一身に浴びた会長さんは。
「デパートだよ。いつもの売り場が改装で閉まっちゃうらしいんだよね。移転して営業するとは聞いているけど、売れ筋じゃないものは扱わないかもしれないし…」
「ああ、売り場面積が縮小するならそういうこともあるかもな」
在庫を置く場所が狭くなるから、とキース君が頷いています。会長さんが押さえておきたい品物というのは何なのだろう、と思いましたが、フィシスさんへのプレゼントとかなら聞くのは野暮。他のみんなも同じ考えに至ったようで、誰も追求しない間に「そるじゃぁ・ぶるぅ」がヒョイと戻って。
「買ってきたよ、いつもの紅白縞!」
「「「紅白縞!?」」」
それだったのか、と頭を抱える私たちの横で会長さんが包装された箱を受け取っています。青月印の紅白縞のトランクスを五枚。会長さんは新学期を迎える度にこの悪趣味な贈り物の箱を教頭室に届けるのでした。確かに紅白縞のトランクスなぞは売れ筋だとは思えません。
「……それを買う客は少ないだろうな……」
あんたくらいのものじゃないか、とキース君が疲れた口調で言えば、会長さんは。
「ハーレイも買っているだろう? ぼくが贈るのはとっておきのヤツで、普段用に自分でね。だけど他にも売れてるかどうか、そこはホントに謎だってば。取り寄せになっちゃった事もあるんだ。だから改装となれば早めに確保しておかないと」
これで二学期が来ても安心、と会長さんがポンと箱を叩いた所へ。
「そんなにレアなものだったのかい?」
不意に空間がユラリと揺れて、紫のマントが翻りました。ソルジャーは明後日からの旅に備えて忙しくしている筈だというのに、何故にいきなり来るんですか~!

「悪いね、御馳走になっちゃって」
狙ってたわけじゃないんだけれど、と口にするソルジャーに会長さんが深い溜息。
「どうなんだか…。おやつの時間と食事の時間は出現率が高いよね」
「美味しそうなモノを見ちゃうと、つい…ね。だけど今回は違うってば。でも美味しいや、これ」
ソルジャーが褒めているのは野菜たっぷりのトムヤムラーメン。スパイシーなトムヤムクンのスープがラーメンをグンと引き立てています。
「要するに食べに来たんだろう? やるべき仕事はどうなったわけ?」
「それはハーレイに押し付けて来た。だって紅白縞が気になるじゃないか、売れ筋じゃないって聞いちゃうとさ」
「売れ筋だと思っていたのかい!?」
「…そこそこ定番商品かなあ、って…」
いつも贈っているんだから、と答えたソルジャーに会長さんは額を押さえて。
「悪趣味だからプレゼントするんだってば! ぼくとお揃いだと思い込ませてあるんだってことも前に教えた筈だけど?」
「うん、その話は知ってるよ。…でもさ、店を改装している間は扱わないほど需要が無いとは思わなくって…。商品として売ってるからには一日に何枚かは売れるものだと…」
「売れないよ! 褌よりかは売れるかもだけど、何枚も替えを持つような人が好き好んで選ぶわけないだろう!」
もっとお洒落な柄が沢山ある、と会長さん。
「あんなのを喜んで履くハーレイの気が知れないね。百年の恋も醒めるってヤツだ。…想像してごらんよ、君のハーレイがアレを履いてたらどうするんだい?」
「…えっ、ハーレイはハーレイだろう? 肝心なのは中身であって、そっちがビンビンのガンガンだったら別に全く気にならないけど」
「その先、禁止!」
猥談をするなら今すぐ帰れ、と会長さんが眉を吊り上げましたが、ソルジャーは。
「うーん…。あれがダサイと思うかどうかは、文化の違いかもしれないよ? ぼくは事情を知っていたのに、ある程度の数は売れるものだと思ってた。ということは、ぼくにとってはダサくはないということだ」
「…思い切りダサイと思うけどねえ…」
「ぼくの世界じゃ紅白縞は売られていない。その辺の関係もあるのかな? ぼくのハーレイが履いていたって、こっちの世界で買ったヤツだなと思うだけだよ。ひょっとしたら逆にときめくかもねえ、なんと言っても地球の下着だ」
「…そうなるのかい?」
信じられない、と会長さんが呻き、私たちも口がポカンと開いたまま。紅白縞といえば笑いの対象でしかないというのに、ソルジャーはそれにときめくと…?
「可笑しいかなぁ? ぼくのシャングリラに持ち込んでみても笑われたりはしないと思うよ。…話を上手く持って行ったらブレイクだってするかもね」
「「「ブレイク!?」」」
「そう、シャングリラ中で紅白縞が大流行! 絶対に無いとは言い切れないさ、異文化なんだし」
世界が違えばセンスも別モノ、とソルジャーはトムヤムラーメンを啜り、スープも綺麗に飲み干してから。
「…ちょっと仕掛けてみようかな? 紅白縞が流行るかどうか」
「「「は?」」」
「ぼくのシャングリラで実験するんだ。地球で虐げられている可哀想な下着をブレイクさせるのも面白いよね。ファッションリーダーは勿論、ハーレイ!」
キャプテンが流行の最先端だ、とソルジャーは思い切りブチ上げました。
「ぼくとハーレイでデザインしました、って宣伝するのはどうだろう? 紅白縞の赤い色はさ、ほら、この襟元の石の色! 誰の服にもこの石はあるし、ミュウのシンボルみたいなものだ。でもって白はシャングリラの白! 誂えたようにピッタリじゃないか」
「「「………」」」
とんだ解釈もあったものです。けれどソルジャーはやる気満々、紅白縞を売り込むつもり。
「この際、憧れの地球を絡めてみるのもいいかもねえ…。明後日からは旅行じゃないか。その間にこっちの海辺を舞台にCMを撮影するんだよ。でもって、ぼくのシャングリラで全艦放送!」
イメージ戦略も大切だから、とパチンとウインクするソルジャー。
「撮影用の機材とかはさ、こっちのを使ってデータを変換すればいい。…マツカ、手配をお願い出来るかな?」
「え、ええ…。機材だけでいいんですか?」
「スタッフもお願いしたいところだけれど、ぼくは別の世界の人間だしねえ…。というわけで、撮影スタッフは君たちだ。腕もセンスも期待してるよ。そうそう、撮影用の紅白縞も何枚か買っておいてくれるかな? やっぱり新品で撮らないとね」
明後日からの旅をよろしく、と一方的に話を決めてソルジャーは帰ってしまいました。今年の海の別荘行きは紅白縞のCM撮影。全然嬉しくないんですけど、今更どうにもなりませんよね…?

紅白縞のCMの件を撤回しようにも機会が無いまま、別荘へ旅立つ日がやって来て。いつものようにアルテメシア駅に集合した私たちは数時間後にはマツカ君の海の別荘に…。
「海はいいねえ、何回来ても」
ソルジャーが大きく伸びをしているのはプライベートビーチ。まずはひと泳ぎ、と皆で出て来たわけです。砂浜にはお馴染みの竈が据えられ、「そるじゃぁ・ぶるぅ」がトウモロコシをジュウジュウと。
「かみお~ん♪ トウモロコシ、もう焼けてるよ! 次はホタテも焼く?」
「そうだね、今日は獲物がまだ無いし」
獲りに行くのは明日からかな、と会長さんが言えば教頭先生が。
「その辺でアワビが獲れる筈だぞ。皆を引率して行くとなったら遠征になるが、私一人ならサッと行って来るだけだしな」
先に食べ始めているといい、と教頭先生は網袋とアワビを剥がすための道具を持って泳いで行ってしまいました。少し先の岩場に網袋を引っ掛け、そこを基点に潜るようです。海中と岩場を往復すること十五分ほど、再び泳いで戻ってくると。
「どうだ、獲れたてのアワビとサザエだぞ。バター醤油も壺焼きも美味い」
「流石、ハーレイ。こういう時には役に立つよね。ぶるぅ、ぼくはアワビをバター醤油で」
会長さんの笑顔を教頭先生が満足そうに見ています。アワビもサザエも会長さんへの貢物でしょうが、それを気前よく分けてしまうのも会長さん。私たちは有難くお相伴にあずかり、ソルジャーやキャプテン、「ぶるぅ」も獲れたての海の幸を頬張って。
「うん、こういうのは新鮮さが命! ぼくの世界では出来ない贅沢」
そもそも海で遊べないから、とソルジャーは地球の海を満喫中。ソルジャーのシャングリラが在るアルテメシアという惑星には人工の海があるそうですけど、其処で遊べるのはIDを持つ市民だけ。ミュウと呼ばれて隠れ棲んでいるソルジャーたちには海辺のリゾートは無理なのです。
「この海を入れて撮影すればさ、それだけで思い切り非日常だよね。でもって字幕を入れたりするんだ、憧れの地球で過ごすひととき……なんて」
「「「!!!」」」
忘れたわけじゃなかったのか、と私たちの背筋がピキンと凍り、キャプテンが怪訝そうに首を傾げて。
「…なんの話です? 非日常だとか、撮影だとか」
「コマーシャルを撮影するんだよ。お前が主演で、舞台はこの地球」
「…コマーシャル…ですか?」
「たまにはファッションリーダーになってみるのもいいだろう? お前が履いてみせたパンツをシャングリラ中で流行らせるんだ」
ニッコリ笑ったソルジャーの唇が紡いだ言葉に、キャプテンはウッと息を飲み。
「……パンツ……。そ、それはいわゆるパンツなのですか、私はズボンと呼んでいますが」
「パンツだけど? こっちのハーレイが履いているだろ、赤と白の縞のパンツをさ。あれを流行らせたいんだよ」
「「は…?」」
キャプテンの声と教頭先生の間抜けな声が重なりました。そりゃそうでしょう、二人にとっては寝耳に水な話です。CMに出ろと言われたキャプテンも、紅白縞を愛用している教頭先生も、ソルジャーの妙な企画なんかはまるで知らないわけですから。
「こっちの世界じゃ紅白縞はあまりメジャーじゃないらしい。そしてブルーはそれが当然だと思ってる。そのマイナーな紅白縞がぼくの世界でブレイクしたら素敵じゃないか」
「…どうして私になるんです?」
キャプテンの疑問に、ソルジャーは。
「こっちのハーレイにそっくりだから、っていうのもあるけど、お前が履いたパンツが人気になったら嬉しいという気持ちもあるかな。…シャングリラ中で流行りのパンツを一番最初に履きこなした人物をパートナーに持つのは最高だろう? 中身の方も最高なんだって気分になるよね」
いろんな意味での中身だよ、とキャプテンに熱く囁くソルジャー。
「人物だけじゃなくて、パンツの中身もシャングリラで一番凄いんだ。ヌカロクなんかは朝飯前で、ぼくを一生満足させてくれるってわけ」
「退場!!!」
会長さんが叫ぶのと、教頭先生が鼻を押さえるのとは同時でした。またも出て来た謎の単語がヌカロクです。未だに意味が不明ですけど、猥談とセットで出て来るからにはディープな何かなのでしょう。ともあれ、ソルジャーがCM撮影を敢行する気でいるのは確か。これから一体、どうなるのやら…。

平和なビーチをブチ壊してくれた紅白縞がカメラの前に登場したのは夕食の後。まだキャプテンはCMに出るのを渋っていますが、ソルジャーの方は気にしていません。別荘の二階の広間にマツカ君が手配したカメラを運び込み、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が買い込んで来た紅白縞の内の1枚を出して。
「ハーレイ、これをよく見てごらんよ。赤と白とのストライプだ。…こっちの世界じゃ紅白はお祝い事のシンボルになっているんだけれど、ぼくたちの船でも赤と白には意味があるよね」
「…そうですか?」
首を捻るキャプテンに、ソルジャーは「分かってないなぁ…」と舌打ちをすると。
「キャプテンのくせにどうかと思うよ、その鈍さ! 赤はアレだろ、ぼくたちの服についてる石! デザインによって付けてる場所は変わってくるけど、誰でも1個は持っているんだ」
「…そ、そういえば、そうですね…」
「デザインしたのは服飾部でもさ、キャプテンとして把握していて欲しかったな。それじゃ白は? このくらいは君でも分かるだろう」
「ええ。あなたの上着の基本色です」
自信たっぷりに答えたキャプテンの見解にソルジャーは暫しテーブルにめり込み、正解を先に聞かされていた私たちは笑い転げました。ソルジャーと結婚したキャプテンの頭の中ではシャングリラよりもソルジャーが優先らしいです。仲が良いのはいいことですけど、シャングリラのキャプテンとしてはどうなんだか…。
「…ハーレイ、そこは違うだろう…」
ようやく復活したソルジャーが指をチッチッと左右に振って。
「お前にとっては白はそれかもしれないけどね、他のミュウたちに尋ねてみたら答えは全く別だと思うよ。白はシャングリラの船体の色だ」
「………。た、確かにシャングリラも白かったですね…。あまり外から見ないものですから…」
「それは言い訳として通用しない。シャングリラの船体は常に様々な角度からモニタリングされている。…そのデータは全てブリッジに向けて送られていると思ったが?」
「す、すみません……」
大きな身体を縮こまらせるキャプテンに向かって、ソルジャーは。
「鈍かった上に色ボケだなんて、シャングリラの皆が聞いたら泣くだろうねえ…。そんな最低なキャプテン像を払拭するためにも、ここは一発キメなくちゃ! 特別な色の赤と白とをあしらったパンツで華麗に登場! 憧れの地球の海辺を颯爽と歩いて男の魅力をアピールするんだ」
「…パンツで……ですか?」
「流行らせたいのはパンツなんだし、そうでなきゃ意味が無いだろう。カメラの向こうのぼくに向かってアピールする気で頑張るんだね。…あ、いくらぼくへのアピールと言っても、臨戦態勢になっちゃダメだよ? シルエットが崩れてしまうから」
臨戦態勢は二人きりの時に、とソルジャーが注意し、横から「ぶるぅ」が。
「かみお~ん♪ 大人の時間が始まる時にはパンツが窮屈になるもんね!」
「そうそう、ぼくには嬉しい変化だけどね」
今夜も期待してるんだ、と微笑むソルジャーの顔面に会長さんが叩きつけたのはレッドカード。
「退場!!!」
「ま、待ってよ、今夜は紅白縞の赤と白の意味をリポートしながら撮影を…」
「だったら真面目にやりたまえ! テーブルの上にそれを広げて!」
でないと部屋から叩き出す、と怒鳴り散らされたソルジャーはブツブツと文句を零しながらも紅白縞を1枚テーブルに広げ、縞の部分を指差しながら色にこめられたメッセージを説明し始めました。キース君がカメラを担ぎ、ジョミー君がマイク担当。シロエ君はモニターに向かってチェックし、会長さんが。
「カーット! …こんな感じでいいんじゃないかな」
「どれどれ? あ、しまった…。ぼく一人だと重みが無いよね、ハーレイの語りも入れるべきかも…」
ぼくとハーレイとでデザインしました、っていうのが売りだから、と主張するソルジャーのお蔭で撮った映像はリテイクとなり、振り回されるのは私たち。せめて台本を作って来てくれ、と会長さんが頼みましたが、ソルジャーはフレッシュな映像にこだわっています。
フレッシュ、すなわち、ぶっつけ本番。今後が思い切り心配ですけど、今夜の撮影はなんとか終了~。

翌日からは本格的にCM撮影が始まりました。撮影用の機材をビーチに運んで、ソルジャーの気が向くままに撮影開始。キース君たちを連れて素潜りに出掛けた教頭先生の姿で閃いたから、と撮りたがったのは『海風に紅白縞をはためかせて海辺を歩くキャプテン』で…。
「こ、此処でパンツに着替えるのですか?」
着替える場所がありませんが、と騒ぐキャプテンにソルジャーが差し出したものはバスタオル。
「これを腰に巻けばいいだろう? その下でゴソゴソ履き替えるのが基本なんだと聞いたけど? そうだよね、ブルー?」
「うーん…。ぼくはバスタオルを巻くくらいならサイオンでパパッとやるけどねえ? まあ、こっちのハーレイが他に人のいる所で履き替える時にはその方法かな」
「ほらね、問題ないだろう? さっさと着替えて!」
「し、しかし…」
まだ何か言いたそうな水着姿のキャプテンをソルジャーは強引に紅白縞に着替えさせましたが、そこで海辺に立たせてみれば。
「…あれ? はためかないなぁ、風はあるのに…」
おかしいなぁ、と風向きを調べているソルジャーと、スタンバイしている素人スタッフ。紅白縞は風をはらむ代わりに重そうに重力に従っています。
「えーっと…。こういう時に何か方法は無いのかい? ぼくは撮影には詳しくなくて」
ソルジャーに話を振られた会長さんが少し考えてからアドバイス。
「風力が足りない時には送風機だね。巨大扇風機だと思えばいいけど、そういう道具は此処には無いし…。いっそサイオンでなんとかすれば? それこそ君のイメージどおりになるんじゃないかな」
「サイオンで風を? そういう使い方は確かにあるけど、パンツ限定で使ったことが無いからねえ…」
大丈夫かな、と小首を傾げてソルジャーがサイオンを送った結果は。
「「「!!!」」」
キャプテンがバッと必死に股間を押さえ、会長さんの悲鳴がビーチに。
「やりすぎだってば!」
「ご、ごめん…。力加減が掴めなくって…」
ブワッと舞い上がった紅白縞の裾から、余計な何かが見えてしまった気がします。当然リテイク、撮影データは会長さんが速攻で消去。その間に判明した事実は、キャプテンが身体を拭く暇もなく着替えをさせられたせいで紅白縞が水を吸い、重たくなっていたということ。それでは絶対、はためきません。
「だから言ったんだよ、ぶっつけ本番じゃダメなんだって!」
台本を書け、と主張している会長さんの隣でキャプテンも。
「身体を拭いてから履き替えないと、と申し上げようとしたのですが…」
全く聞いて頂けませんでした、というキャプテンの訴えも、会長さんの提言もソルジャーの耳にはまるで入らず。
「フレッシュさと閃きが命なんだよ、こういうのはね。まだ風はあるし、乾いたパンツで撮り直しだ。ぶるぅが沢山買っておいてくれたし、紅白縞は山ほどあるんだからさ」
「かみお~ん♪ 濡れたヤツはお洗濯して干しておこうね!」
手洗いをして平たい場所に干すんだよ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は大真面目です。紅白縞を沢山買ったというのも、一日に洗って干せる枚数などを計算して考えた末のことだそうで…。
「あのね、夏はお日様が強すぎるから、日向だと色が褪せちゃうの! だけど陰干しできちんと乾かすためには時間がかかるし、沢山買っておくのが一番なの!」
「ありがとう、ぶるぅ。さあ、ハーレイ。今度はカッコよくキメていこうね」
ソルジャーに促されたキャプテンが海辺を歩かされ、海風にパタパタはためく紅白縞。あれが下着だと思わなければ、ダンディーなのかもしれません。会長さんの「カーット!」の声が勢いよく響き、撮れた映像を確認したソルジャーも納得の出来で、ホッと胸を撫で下ろす私たち。こんな調子で日が過ぎて…。

「あれっ? 今日もあっちに人がいるねえ」
何かあるのかな、とソルジャーの赤い瞳が向けられた先には松林。私たちのいるビーチからは相当な距離があるのですけど、三日ほど前から人影がチラチラ見えるのです。時々キラッと光の反射も。
「…バードウォッチングかと思っていたけど、それっぽい鳥は見当たらないね」
なんだろう、と会長さんも不思議そう。松林の中にいるのは主に女性で、双眼鏡を持っているらしいのですが…。光の反射は双眼鏡のレンズだとか。
「毎日となると気になってくる。ちょっと失礼しようかな」
普通の人の心を読むのは反則だけど、と口にした会長さんが一瞬の後にプッと吹き出し、堪え切れずに笑い始めてクスクス笑いが止まらなくなって…。
「お、お、お……」
「「「お?」」」
なんのこっちゃ、と顔を見合わせた私たちを他所に、会長さんはレジャーシートに突っ伏して。
「お、追っかけ…。さ、サイン希望の追っかけ集団……」
「「「はぁ?」」」
「プロと間違えられてるんだよ、毎日撮影してるから! あ、あわよくばサインを希望…」
チャンスを狙って待っているのだ、と涙を流して笑い続ける会長さんと、松林の中の人影と。ようやく意味が繋がりました。何かのはずみで撮影に気付いた地元の人が毎日見に来ているのです。此処がプライベートビーチでなければ、キャプテンはとっくの昔に取り囲まれていたでしょう。
「そうなんだ…。ハーレイの追っかけ集団ねえ…」
ソルジャーの瞳が悪戯っぽく煌めいて。
「じゃあさ、撮影が終わった時にさ、記念にサインもいいかもね? いつかブレイクする予定です、って」
サインしに行ってあげればいいよ、と笑うソルジャーは本気でした。松林の中のギャラリーは地味に増え続け、CM撮影が完了した日にキャプテンは紅白縞だけを纏った姿でソルジャーと一緒にゴムボートに乗り、キース君たち撮影スタッフが海へと漕ぎ出して松林に…。
「やってる、やってる。サインしてるよ、色紙とかに」
ブレイクも何も、と爆笑している会長さん。私たちや教頭先生に松林の中の光景は見えませんけど、キャプテンは色紙やTシャツ、バッグなんかにサインをしているみたいです。おまけに紅白縞一丁で記念撮影にツーショットにと…。
「だけど…。あんなことして大丈夫なの?」
別の世界から来てるのに、とスウェナちゃんが訊けば、会長さんは。
「その辺のことはブルーはプロだよ。ウィリアム・ハーレイとサインしてても、こっちのハーレイと同じ顔でも、気付かれないように情報を攪乱してるんだ。撮った写真のデータも同じさ。この世界よりも遙かに科学が進んだ世界で情報操作をしてきてるだけに、それくらいは朝飯前ってね」
なるほど、そういう理屈ですか! サインを貰った人たちの方はいつかキャプテンがブレイクしたらお宝になる、と喜びますし、ソルジャーだってパンツ一丁のキャプテンであっても自慢のパートナーを見せびらかしたくってたまらないわけで…。
「そうなんだよねえ、ぼくには全く理解不能さ。いくら追っかけがついてきたってフィシスにサインなんかさせないけどなあ…」
ぼくは一人占めするタイプ、と会長さんが呟く隣でスウェナちゃんと私は追っかけ魂の凄さについて語り合っていました。超絶美形のソルジャーがいるのに、サインや写真をねだられるのはキャプテンだなんて…。げに恐るべし、有名人。男は顔ではないんですねえ…。

こうしてソルジャーが完成させた紅白縞のコマーシャル。仕上げは別荘ライフが終わった後で、ソルジャーが自分の世界でテロップなどを入れて編集して…。
「そっか、こんなのになったんだ?」
パンツのCMには見えないね、とジョミー君が感心しています。試写会だとかで会長さんのマンションに呼ばれた私たちが見せられたものは、「地球へ行こう」というコンセプトで作られた見事なCM。青い地球とキャプテンがいる海辺とが交互に重なり、ちゃんと壮大な音楽までが。
「いいだろう? 海は架空の映像だってことにするけど、これで絶大な人気を呼べるさ、紅白縞は。シャングリラと赤い石も組み込んであるし、男ならきっと履きたくなるって!」
来週からオンエアするんだよ、と自画自賛しまくるソルジャーは服飾部の人が困らないように紅白縞の製作ノウハウを仕入れに行ってきたそうです。よりにもよって青月印の紅白縞の会社まで…。
「ブレイクしたら、こっちのハーレイにもシャングリラ製の紅白縞を届けようかな? ブルーが五枚贈ってるんだし、ぼくはドカンと五十枚! それだけあったら暫く買わずに済むと思うよ」
喜ばれるよね、と言うソルジャーに会長さんが。
「どうかなあ? ハーレイのこだわりは青月印だって気がするけれど…。まあ、それ以前の問題として、ブレイクしなけりゃ作れないだろ、五十枚なんて」
絶対無理に決まってる、と笑い飛ばした会長さんが泣きそうな顔でソルジャーに向かって土下座したのは三週間後のことでした。
「ごめん、あの時は悪かった! 君が凄いのは認めるからさ、シャングリラ印をプレゼントするのは絶対にやめて欲しいんだ。そんなのをハーレイが貰ったら…」
「いいじゃないか、究極の勝負パンツな紅白縞だよ? これを履かなきゃ男じゃない、って人気爆発のヤツなんだ。しかも流行らせたファッションリーダーはぼくと結婚しているんだし、君との結婚を夢見て履くなら青月印よりもシャングリラ印!」
それにコマーシャルの製作過程は君のハーレイも見学してた、と勝ち誇った顔で仁王立ちするソルジャーの後ろには紅白縞が五十枚詰まった立派な箱がドカンと鎮座しています。教頭先生の家にシャングリラ印の紅白縞が五十枚届くか、会長さんが阻止するか。
「…どうなるんだろうな?」
心配そうに声を潜めるキース君の隣で、シロエ君が。
「なんとかなるんじゃないですか? 最悪、ぶるぅの料理かおやつで懐柔すればいいんです。向こう十年ほど毎日ケーキを贈る羽目になるかもしれませんけど」
「「「………」」」
それは如何にもありそうだ、と首を振り振り、私たちは会長さんの涙の土下座を見守ることに。…ダサイとばかり思い込んでいた紅白縞はソルジャーのシャングリラで今や品切れするほどの大人気。キャプテンもファッションリーダーとして男を上げたらしいです。世の中ホントに分からないもの、紅白縞の未来に乾杯!



                  流行と仕掛け・了



※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
 教頭先生のトレードマークな紅白縞。所変われば品変わる……といった所でしょうか?
 4月、5月と月2更新が続きましたが、6月は月イチ更新です。
 来月は 「第3月曜」 6月17日の更新となります、よろしくお願いいたします。
 毎日更新の場外編、 『シャングリラ学園生徒会室』 にもお気軽にどうぞv
 番外編をしのぐ勢いで強烈なネタが炸裂中……かもしれません(笑)
 船長と遊べる 『ウィリアム君のお部屋』 の見本画像を下に載せてみました。
 よろしかったら、こちらにもいらして下さいね。


※毎日更新な 『シャングリラ学園生徒会室』 はスマホ・携帯にも対応しております。
 こちらでの場外編、今月は菖蒲の名所へお出掛け。またしてもソルジャー夫妻が乱入で…。
←『シャングリラ学園生徒会室』は、こちらからv

 『ウィリアム君のお部屋』 も、上記から。生徒会室の中にリンクがあります。
 見本画像はこちら↓


 船長に餌(ラム酒)をあげたり、撫でたり出来るゲームです。5分間隔で遊べます。
 元のゲームのプログラムをしっかり改造済み。ご訪問が無い日もポイントは下がりません。
 のんびり遊んでやって下さい、キャプテンたるもの、辛抱強くてなんぼです。

 サーチ登録してない強みで公式絵を使用しております。通報は御勘弁願います。
 1時間刻みで変わる絵柄が24枚、お世話の内容に対応した絵もございます。
 「外に出す」と5分で戻ってきますが、空き部屋を覗くとほんのりハレブル風味だとか…。
  

 生徒会室の過去ログ置き場も設置しました。1ヶ月分ずつ順を追って纏めてあります。
 1ヵ月で1話が基本ですので、「毎日なんて読めない!」という方はどうぞですv








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