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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

(ぼくみたい…)
 昔のぼく、とブルーが眺めてしまった子供。幼稚園くらいの男の子。
 学校が普段よりも早く終わった日の帰り道のこと、バス停から家まで歩く途中で出会った光景。
 これから何処かへ出掛けようというのか、でなければ子供が勝手に外してしまったのか。小さな頭に見合った帽子を母親が被せてやっていた。つばが広い帽子を。
 夏ほど日射しは強くないのに、男の子ならばスポーツ選手風の帽子の方が多いのに。
 だから思った、幼かった頃の自分のようだと。あの頃の自分がそうだったから。



(あの頃のぼく…)
 いつも被っていた帽子。母が頭に被せた帽子。
 幼稚園へと出掛ける時には、制服に合わせた揃いの帽子だったけれども、普段は違った。両親と一緒に出掛ける時や、母と散歩に行ったりする時は別の帽子を被せられていた。
 日射しがそれほど強くなくても、うららかに晴れた春の日などでも。
(あんまり好きじゃなかったけれど…)
 幼稚園での帽子を除けば、被っている子はあまりいなかったから。
 ファッションで帽子を被ろうという感覚が幼稚園児にあるわけがない。スポーツ選手風の帽子にしたって、ファッションではなくて憧れから。憧れの選手と同じ帽子だ、と被った子たち。
 それ以外の子たちは帽子なんかは滅多に被っていなくて、親も被せてはいなかったろう。帽子を被らせて送り出しても、忘れてくるのがオチだから。公園か何処かで脱いでしまって、その辺りにポンと置いておいたら、それっきり。家に帰る時には持って帰らず、頭に帽子は被っていない。
(公園のベンチに置いていたって…)
 其処から何処かへ移動したなら、帽子は置いてゆかれてしまう。子供には多い忘れ物。遊ぶ方が子供にとっては大切、遊び道具にもならない帽子は要らない存在。幼い子供には被せるだけ無駄、失くしてしまうか、忘れて帰るか。
(被ってない子が多かったんだけどな…)
 それなのに自分は被せられていた、他の子供が滅多に被っていない帽子を。
 おまけにスポーツ選手風ではなくて、つばの広い帽子。ぐるっとつばが取り巻く帽子。
 ぼくは帽子は好きじゃなかった、と母親と手を繋いだ子供を見送った。あの男の子も被せられた帽子が嫌いだろうか、と考えながら。



 家に着いても、頭に残っていた光景。帽子を被っていた子供。幼かった頃の自分のように。
 帽子だっけ、と遠い子供時代を思い返した。ダイニングでおやつを食べながら。
 遠い昔と言ってはみても、前の自分が生きた歳月の記憶を思えば、ほんの一瞬なのだけど。ついこの間の出来事に過ぎず、大して昔ではないのだけれど。
(ぼくは身体が弱かったから…)
 強い日射しは良くないから、と父と母とが被らせた帽子。日射しが柔らかい春や秋でも。まるで太陽から隠すかのように、つばが大きく広がった帽子。



 日射しが身体に悪いというのは、アルビノだったからではない。
 SD体制があった時代までは、人間が全てミュウになるよりも前の時代は、アルビノに生まれてしまった人間は大変だったと聞いている。日射しを受ければ酷い日焼けで、瞳も光に弱かった。
 ところが前の自分は違った、途中からアルビノに変化したのに。
 あの忌まわしい成人検査を受ける前までは金髪に青い目、アルビノなどではなかったのに。
 突然に起こった急激な変化、赤い瞳に銀色の髪。普通だったら、人体実験云々以前に困難に直面したことだろう。赤い瞳は光に弱くて、実験室の強い光で痛みを覚えていただろう。
 けれども、そうはならずに済んだ。肌も瞳も、光に焼かれはしなかった。
 サイオンが守ってくれていたから。無意識の内に身体をガードし、光の害を防いでいたから。
 研究所で嵌められた首のサイオン制御リングも、その力だけは封じなかった。あまりにも自然に身体の中を巡るサイオン、それまでは封じられなかった。
 アルビノゆえの欠点を補うための本能、ブルーの身体に備わった機能。呼吸などと同じで封じることなど出来はしないし、ブルー自身にも全く無かったサイオンを使っている自覚。
 今の自分もそれと同じで、肌も瞳も太陽を避ける必要は無い。避けなくてもいい、陽の光を。



(その点だけはサイオンに感謝…)
 とことん不器用なサイオンだけれど、身体だけはきちんと守ってくれた。
 本来は光に弱い筈のアルビノ、太陽は大敵の筈なのだけども、それで不自由をしたことは無い。前の自分と全く同じに、強い光でも平気な瞳。酷い日焼けを起こさない肌。
(ちゃんと補ってくれているんだよね)
 生まれた時から。産声を上げた瞬間から。
 アルビノの子供は今は誰でもそのための能力を備えているから、母たちも心配していなかった。ブルーがこの世に生まれる前から、母のお腹にいた時から。
 病院の検査でアルビノの子だと分かったけれども、両親は「男の子だから、ブルーという名前がいいだろう」と同じアルビノだった偉大なソルジャー・ブルーを連想しただけ、その程度のこと。
(それに、タイプ・ブルー…)
 これも検査で分かっていた。ソルジャー・ブルーと同じなのだと、最強のサイオンを持っている子が生まれて来ると。名前の候補は「ブルー」しか無かった、その時点で既に。



 偉大な英雄、ソルジャー・ブルー。
 彼と同じにアルビノの子供、タイプ・ブルーの男の子。生まれたならば名前は「ブルー」。
 両親がそう決めて待っていた子供、生まれる日を待ち侘びていた息子。
 どんなに器用にサイオンを使いこなすだろうかと思ったらしいが、それは外れた。ものの見事に外れてしまって、親戚の誰もが笑ったくらいに不器用な子供が生まれて来た。
 タイプ・ブルーの赤ん坊でなくても、少しくらいは思念波を使えるものなのに。泣き叫ぶ時には感情の欠片が零れて来るから、泣いている理由が漠然と分かるものなのに。
 赤ん坊だったブルーときたら、泣き叫ぶばかりで、母はお手上げ。簡単な意思表示が出来る頃になるまで、とんちんかんなことをしていたらしい。
 お腹が空いたと泣いているのに、オモチャを使ってあやすとか。眠くなってぐずっていることに気付かず、ミルクを与えて大泣きだとか。
 それくらいに使えなかったサイオン、タイプ・ブルーに生まれたというだけ。
(アルビノをカバー出来ただけでも…)
 マシだと思おう、それまで不器用だと目も当てられない。
 カバー出来なければ、太陽の光を受ければ酷い日焼けで、瞳は光に弱いのだから。



(そんなのだったら、帽子無しだと出歩けないよ)
 春や秋どころか、真冬でも、きっと。一番日射しの弱い冬でも。
 曇りや雨の日ならばともかく、太陽が顔を出している日は頭に帽子。つばがぐるりと取り巻いた帽子。幅の広いつばが。
 両親が一年中、被らせたろう帽子。幼いブルーには意味が分からず、嫌いだったろうに。それが身体を守るとも知らず、被っている子供が少ないからと被せられる度に嫌がったろうに。
(そうでなくても…)
 嫌いだった帽子。日射しは身体に良くないから、と被せられるのが嫌だった帽子。
 一年中被ったわけではないのに、冬は被らなくて済んだのに。
 でも…。



(あれ?)
 好きではなかった帽子の記憶。被せられるのが嫌だった帽子。
 そんな帽子の思い出だけれど、遠い記憶の中に一つだけ。お気に入りの帽子が一つだけあった。自分から進んで被った帽子が、御機嫌で被っていた帽子が。
(なんで…?)
 嫌いだった筈の帽子の中にお気に入り。好きだった帽子。
 何処かが他のと違ったろうか?
 その帽子だけは特別だったろうか、と考えたけれど、デザインが違った覚えは無い。つばの広い帽子で、素材もきっと似たようなもの。違う所があったとしたら…。
(リボンの色…?)
 帽子にくるりと巻き付けてあった、飾りのリボン。鮮やかな水色のリボンの帽子。
 それがついた帽子が大のお気に入り、小さくなって頭が入らなくなるまで被っていた。外に行く時は自分で被って、得意で頭の上に乗っけた。
 好きだった帽子、いつでも被っていたかった帽子。嫌いだった筈の帽子なのに。



(でも、次のも…)
 お気に入りの帽子が見付かったのなら、その次からは母は同じ帽子を買っただろう。デザインや素材がそっくりのものを、「これがブルーの好きな帽子」と。
 けれども記憶に無い帽子。好きだった帽子はあの一つだけで、他の帽子の思い出は無い。喜んで被った帽子の記憶も、得意だったという記憶も。
 お気に入りの帽子は本当に一つ、あの一つだけ。水色のリボンが鮮やかだった帽子。
(水色のリボン…)
 はっきりと記憶に残っているのはリボンの色だけ、他はぼやけているけれど。
 何故、気に入っていたのだろうか?
 リボンの色が好みだったか、被り心地が良かったのか。
 嫌いな筈の帽子たちの中の特別な一つ、それが特別になった理由がどうにも不思議で、探っても全く掴めないから。手掛かりさえも見付からないから、困っていた所へ通り掛かった母。
 これはチャンスだと呼び止めて訊いた。「ぼくの帽子を覚えている?」と。



 お気に入りだった、水色のリボンがくっついた帽子。自分から進んで被った帽子。
 母は帽子を覚えていた。そういう帽子が確かにあった、と。
「ママ、その帽子…。ぼくがどうして好きだったのかも知っている?」
 ぼくは全然覚えてないけど、ママは理由を知ってるの?
「ええ、もちろん。初めて被った日のせいなのよ」
「えっ?」
 思いもよらない意外な答え。初めて帽子を被ったその日に、ブルーは機嫌が良かったらしい。
 それ以来、帽子がお気に入りになって、外へ行く時には被りたがったと話す母。
「どうしてかしらね、あの日のブルーは本当に御機嫌だったのよ」
 公園に出掛けただけなんだけれど…。
 あの帽子を初めて被せてあげた日は、公園に寄ったのと病院だけよ。



 初めて帽子を被った日。水色のリボンがついた帽子を初めて被せて貰った日。
 ブルーが生まれた病院の近くの大きな公園、そこへ遊びに行ったという。母に連れられて病院へ出掛け、小児科の健診を受けた帰りに。一年ごとの健診だったらしいから。
「じゃあ、春なの?」
 ぼくは三月生まれだし…。三月の末だし、その頃のこと?
「そうなるわねえ…。誕生日が過ぎてから行く決まりだから、四月だけれど」
 四月の間に行けばいい健診、注射をされるわけではなかった。身長や体重を測ったりするだけの健診だけれど、ブルーは機嫌が悪くなるから。白衣の医者を見ただけで御機嫌斜めだから。
 健診の帰りは公園に寄って、遊んで帰る。公園の鳩に餌をやったり、ブランコに乗ったり。
 たったそれだけ、特別な何かがあったわけではないらしい。幼いブルーが大喜びしそうな遊具があるとか、公園ならではのお菓子を買って貰っただとか。
 人気の遊具で遊ぶにはブルーは小さすぎたし、お菓子はとても食べ切れないから。
 ただ公園へ行ったというだけ、鳩に餌をやって、ブランコに乗って…。



「それじゃ、帽子は…」
 どうしてその日に被っていたの?
 特別なお出掛けってわけじゃないのに、その日から初めて被ったなんて…。
「お誕生日を過ぎてすぐのことでしょ、使い初めに丁度いいじゃない」
 帽子を被る季節が始まる頃だし、お誕生日を元気に迎えたからこそ健診に行けるわけでしょう?
 新しいものをおろす時には、特別でなくても素敵な日。
 ブルーにもママにも記念の日だから、新しい帽子を被せたのよ。健診の記念。
「…水色のリボンは?」
 ぼくはそれしか覚えてないけど、水色、あれが初めてだった?
「違うわ、水色のリボンはいつもと同じよ」
 ブルーの名前には青って意味もあるでしょう。それに男の子だものね。だからリボンは水色よ。最初の帽子からずっと水色、色の濃さもいつでも同じくらいで。
「それなら、ぼくが気に入ってた帽子…」
 他の帽子と何も違いは無かったわけ?
 デザインがいつもと違っていたとか、違う素材の帽子だったとか。
「それがねえ…。本当に特に何も無いのよ、これというのを思い付かないの」
 あの日に初めて被せて行ったら、とても御機嫌が良かっただけで。それも公園に行った後。
 だから公園でよっぽど嬉しいことがあったのよ、ブルーにとっては。
 ママには全く分からないけれど、子供ってそういうものでしょう?
 大人から見たらなんでもないこと、それが嬉しくてたまらないとか、楽しいだとか。



 結局、母にも謎だった帽子。お気に入りの理由。
 おやつの後で部屋に戻って考えたけれど、手掛かりは公園くらいなもので。
(鳩の餌やりとか、ブランコは定番…)
 滑り台などもよく遊んでいた。楽しかったけれども、特別とまでは思えない。被っていた帽子がお気に入りになるほど、素晴らしい思い出をくれたとまでは。
(……公園……)
 あそこの公園、と風景を思い浮かべていたら、頭を掠めていった考え。公園は人がいる場所で。
(まさか、ハーレイ?)
 会ったのだろうか、今よりもずっと若い姿のハーレイに。
 幼い自分が健診の帰りに母と寄った日に、あの公園で。
 前にハーレイから聞いていた。ジョギングコースの一つなのだと、公園を走ってゆくのだと。
 もしかしたらハーレイと出会っただろうか、あの帽子の日に、それと知らずに。
 手を振って貰った思い出の帽子だったろうか、お気に入りだったあの帽子は…?



(そうだったの…?)
 ゼロとは思えない可能性。
 あの病院から退院した日も、春の雪の中、生まれて初めて外に出た日も、ハーレイと病院の前で出会っていたかもしれないと聞いた。それらしき子供をジョギングの途中に見たというハーレイ。母親の腕の中、ストールに包まれた赤ん坊を。
(…公園でだって、会っていたかも…)
 確かめてみたい、と思い始めた所で聞こえたチャイム。来客を知らせるチャイムの音。鳴らした人は、と窓から見下ろせば、手を振るハーレイ。
 応えて大きく手を振り返しながら、訊こうと思った。帽子を被った自分に会ったか。



 部屋に来たハーレイとテーブルを挟んで向かい合わせ。お茶とお菓子もそこそこにして、自分の向かいのハーレイに訊いた。
「ハーレイ、水色のリボンの帽子を覚えてる?」
「はあ?」
 俺はリボンがついた帽子を持っちゃいないが…。お前か、夏に被ってたっけか?
 俺の前では被っちゃいないが、帽子があるのは確かに見たな。あれのことなのか、その帽子?
「…ううん、今の帽子のことじゃなくって…」
 小さい頃だよ、今よりもうんと小さくてチビだった頃。
 ぼくは帽子が嫌いだったけど、お気に入りの帽子が一つだけ…。それのリボンが水色なんだ。
 幼稚園の頃に、ママに連れられて生まれた病院へ健診に行って…。
 帰りに公園で遊んだんだよ、ママが連れてってくれたから。新しい帽子を初めて被って。
 その時に公園でいいことがあって、帽子がお気に入りになっちゃったみたい。
 だけどママには心当たりが何も無くって、ぼくにも無くて…。
 考えている内に思い出したんだ、あの公園はハーレイのジョギングコースの一つだってこと。
 ハーレイ、ぼくを見かけなかった?
 四月なんだよ、水色のリボンがついた帽子を被った小さな子供に出会わなかった…?



「ふうむ…。あの公園で四月頃か…」
 ついでに水色のリボンの帽子のチビか、と腕組みをして考え込んだハーレイ。
 四月頃なら桜もあるとか、花壇の花は何があるかと挙げてゆくから。
「…思い出した?」
 花のついでに、ぼくの帽子のこと。水色のリボンがくっついた帽子。
 えっとね、今のと同じでつばの広い帽子だったんだけど…。ぐるっとつばが取り巻いた帽子。
「…いや…。生憎と帽子は覚えていないな…」
 ファッションチェックをしながら走っているわけじゃないし、出会った人間も数えてないし。
 俺の目の前ですっ転んだとか、そういうのがあれば覚えもするが…。
 公園を走っていてチビが目に付く時ってヤツはだ、噴水に入って水遊びだとか、そういうのだ。でなきゃ木登り、とにかく元気のいいヤツらだな。
 チビのくせして頑張ってるな、と思えば自然と目も行くもんだが…。
 お前、どっちもやってないだろ、噴水に入るのも、木に登るのも。



 帽子を被って大人しくしているような子供は目に付きにくい、と言ったハーレイだけれど。
 水色のリボンの帽子も覚えていないと言われたけれども、「しかし…」と口にした言葉。自分が走っていた可能性はあると、それも比較的高いのだ、と。
「その時期だったら、けっこう走っていたからな」
 なにしろさっきも挙げた通りに公園に花が溢れる季節だ。見物がてら走って行くのに丁度いい。
 おふくろは花が好きだからなあ、俺もそこそこ分かるんだ。
 知らない花でも札を見ればいいし、春になったと実感出来るし…。春はやっぱり公園だな。他のコースを走りに行っても、方向を変えて寄ってみたりな。
「学校の仕事は?」
 健診があった日、平日なんだと思うけど…。
 春休みの間なら会えるだろうけど、その他の日だと駄目だよね?
「そうと決まったわけでもないぞ。休みの日だってあるもんだ」
 年度初めでも、特に忙しいって仕事が無ければ休みは取れる。もちろん他の時期でもな。お前のクラスの担任の先生、休んでいないか?
 その気になったら週に一回、休みを取れるって決まりなんだが。
「そういえば…。研究日です、って聞いているけど、あれがお休み?」
 先生は研究をしてるんじゃなくて、ホントのホントにお休みだったの?
 それでお土産が貰えたりするの、クラスのみんなにお菓子だとか。
「…お前、研究だと信じていたのか…」
 先生が勉強に出掛ける方なら研修だ。研究日ってヤツは自分の自由に使える日。研究好きなら、本気で研究するんだろうが…。大抵はただの休暇だな。日帰り旅行に出掛けてみたり。
 俺だって休もうと思えば休める、週に一回。
 お前に出会ってからは一度も休んでないがな、お前に会える可能性を捨てたくないからな。
 研究日で休んでお前の家に行くっていうのはあんまりだしなあ、だから休んでいないだけだ。



 どうやら週に一回くらいは取れるらしい休み。
 ハーレイはそれを使って走っていたという。年度初めの平日でも。幼かったブルーがあの帽子を被って公園にいた日も、ジョギングしていた可能性があると。
「じゃあ、あの日のぼくはハーレイに…」
 走って来たハーレイに公園で会ったの、ぼくは覚えてないけれど。
 ハーレイも見覚えは無いって言うけど、会ってないとも言えないんだね?
「うむ。可能性がゼロってわけではないしな、会ったかもしれん」
 花壇の側だか、鳩が沢山いる辺りだか。それともブランコか滑り台か…。
 花の季節なら公園の中を隈なく走ったりもするし、お前が何処に居たって出会える。ブランコに乗ってるチビがいるなと、鳩に餌をやってるチビもいるなと、ただ走ってゆくだけだがな。
「ぼく、ハーレイに手を振ったかな?」
 走って来る人がいるって分かったら、ブランコから降りて手を振ったかなあ?
 鳩の餌やりの途中でも。鳩がビックリして飛び立っちゃっても、頑張って走っている人は凄いと思って眺めるだろうし、手を振るのかな?
 何処まで行くのか分からないけど、頑張って元気に走って行ってね、って。
「チビのお前か…。手を振って貰ったのなら、振り返したな」
 俺は応援には応える主義だ。どんなチビでも、礼儀正しく応えないとな?
 振って貰った手に振り返せないような、余裕の無い走り方はせん。応援されたら笑顔を返すし、もちろんきちんと手を振って行くさ。



 少し遠くから振られてもな、と穏やかな笑みを浮かべたハーレイ。
 自分に応援の声が届けば、手を振る姿を目にしたならば、必ず応えて手を振ってゆくと。どんな小さな子供であろうが、無視して走って行きはしないと。
(あ…!)
 それを聞いて蘇って来た記憶。幼かった頃の自分の記憶。
 出会った場所は多分、公園。帽子の自分に手を振りながら颯爽と走って行った人。リズミカルに地面を踏みしめながら、タッタッとペースを乱しもせずに。
(だけど、笑顔で手を振ってくれたんだよ)
 手を振った自分に笑顔で応えてくれた人。眩しかった笑顔と、振って貰った手と。
 生憎と顔は思い出せなくて、肌の色さえ覚えていなくて。
 あの帽子を初めて被った日なのか、別の日だったか、それすらも定かではないけれど…。
「ぼく、走ってた人に手を振ったよ」
 あそこの公園だったんじゃないかな、なんだかそういう気がするから。
 笑顔で手を振り返してくれた人だったんだよ、そして元気に走って行ったよ。
「ほほう…。そいつは俺だったか?」
 チビのお前に手を振って行ったの、俺みたいな肌の人間だったか?
「分からない…。全然、覚えていないんだけど…」
 男の人だったことと、笑顔と、手を振り返して貰ったことしか。
 それだって今まで忘れてたほどで、ハーレイだったのか、別の人なのか、分からないよ。
 とても残念、ハーレイだったら良かったのにね…。



 もしもあの時の出会いがハーレイならば、と惜しくてたまらない気持ち。
 肌の色も顔立ちも、体格さえも覚えていない自分がもどかしい。
 けれども、幸せだった思い出。幼かった胸が弾んだ思い出。
 自分の姿を見て貰えたと、一人前に扱って貰えたのだと。
 幼くてチビで、幼稚園に通う自分だけれども、ちゃんと手を振って貰えたと。まるで大人と同じ扱い、一人前に見て貰えたと。
(それで帽子…!)
 手を振った後で、振り返して貰って、走ってゆくその人の後姿を見送った後で。
 頭の帽子を持ち上げて被り直したのだった、この帽子で気付いて貰えたのだ、と。他の子供とは少し違った帽子で、被っている子が少ない帽子。水色のリボンもよく目立つから。
(帽子のお蔭なんだ、って…)
 いつもは嫌々被る帽子を自分で被った、被り直した。一人前の扱いをして貰えた帽子。頼もしい帽子。この帽子は特別な帽子なんだ、と得意になって。
 その日から帽子はお気に入り。何処に行くにも喜んで被った、被って出掛けた。
 手を振ってくれた人にまた会えるかも、と。
 また会えたら元気一杯に大きく手を振らなくてはと、あの人に手を振るんだから、と。



(あの帽子なんだ…!)
 幼かった自分のお気に入りの帽子。水色のリボンがついていた帽子。
 似たような帽子はその前も、後にも被ったけれども、どの帽子も好きにはなれなくて。どんなに形が似通っていても、どれも嫌いな帽子ばかりで。
 たった一つだけ好きだった帽子は、公園でいいことが起こった帽子。初めて被って健診のために出掛けた帰りに、病院の近くの公園で出会った素敵な出来事。
 母は覚えていなかったけれど、自分も忘れていたけれど。
 公園で走っていた人に向かって手を振った。その人が笑顔で振ってくれた手、子供扱いしないで振ってくれた手。
 それが嬉しくて、帽子のお蔭だと頭から信じて、お気に入りになったあの帽子。
 また会いたいから、手を振りたいから、お気に入りの帽子を被っていた。
 この特別な帽子を被れば一人前だと、あの人の目には一人前に映るのだから、と。



「ハーレイ、思い出したよ、ぼくの帽子のこと…!」
 水色のリボンがくっついた帽子。
 あの帽子を初めて被って公園に行ったら、走って来た人に会ったんだ。ぼくは手を振って、その人も笑顔で手を振ってくれて…。
 間違いなくあの日のことだったんだよ、初めて帽子を被った日。
 帽子のお蔭で一人前に扱って貰えたんだ、って嬉しくて…。それで帽子がお気に入りになって。
 またあの人に会えるかも、って自分で帽子を被っていたよ。帽子は嫌いだったのに…。
 あの帽子だけがホントに特別、またあの人に会いたいよ、って被って待っていたんだ、ぼくは。
 わざわざ待ってたくらいなんだもの、あれはハーレイだったんだよ。
 ぼくは覚えていないけれども、肌の色も顔も覚えてないけど、あれはハーレイ。
 きっとハーレイだったと思うな、嫌いだった帽子がお気に入りになるくらいなんだから。



「なるほどなあ…。チビのお前が俺にまた会おうと待っててくれた、と」
 そいつは実に光栄だな。出会った時の帽子までが気に入りになっちまうほど、チビのお前が感激した出会いだったんならな。
「やっぱりハーレイに会ったんだと思う?」
 顔も肌の色も思い出せなくても、あの日に会ったのはハーレイだった?
 チビだったぼくに手を振ってくれて、笑顔で走って行っちゃった人。
「お前がもう一度会いたいと思ってたんなら、俺なんじゃないか?」
 走りながら手を振るヤツは多いが、お前がそこまで感動しちまったんならなあ…。
 帽子のお蔭だと思い込んじまって、その帽子をせっせと被り続けて。
 また会いたいと思っていてくれたんなら、俺だったんだと考えるのが自然だろう。
 いくらチビでも、赤の他人をそこまで頑張って追い掛けはせんさ。
 お前も俺も記憶が無くても、前の記憶が無い状態でも、そいつがいわゆる運命ってヤツだ。
 俺とお前は一瞬とはいえ、運命の出会いをしたんだな。お互い、気付いていなくってもな…。



「あの帽子を被って待っていたぼく…」
 また会いたいな、って待っていたぼく、ちゃんとハーレイに会えたのかなあ?
 何処かの街角とか、あの公園とかを走るハーレイ、ぼくはもう一度会えたのかな?
「どうだかなあ…?」
 そいつは俺にもサッパリ分からん。
 そもそも、お前の気に入りの帽子。それの記憶が無いからなあ…。
 お前と運命の出会いを果たしたつもりではいるが、俺の方には何の記憶も残っちゃいない。
 四月の公園、走った回数は数え切れないくらいだし…。日記にもコースは全く書いていないし、お前が健診に出掛けた日付が分かった所で、何の証拠も見付からないぞ。
 休みを取って走っていたなら、なおのこと書いちゃいないんだ。俺の日記は覚え書きだしな。
「そっか…。もう一度会えたかも分からない上に、あれがハーレイだっていう証拠だって…」
 出て来ないんだね、探してみても。
 ぼくが健診に行ったっていう日、ママに訊いたら分かるだろうけど…。
 ハーレイの方に記録が無いんじゃ、休みと綺麗に重なっていても、公園に行ったかどうかが全く謎ってわけだね。何処かを走っていたかも、ってだけで。



 見付かりそうにない証拠。あの日、ハーレイに出会ったのだと確認することは出来ないけれど。
 証拠は何処にも無いのだけれども、お気に入りの帽子だったから。
 あの日、初めて被った帽子は忘れられない思い出の帽子、それを被って待っていたから。
 被っていればまた出会えると、手を振ってくれたあの人に会おうと待っていたから。
(きっとハーレイ…)
 顔も、肌の色さえも覚えていないけれど、あの時に会ったと思いたい。
 笑顔で手を振って走ってゆく人に、前の生から恋した人に。
(うん、ハーレイに会ったんだよ…)
 ハーレイが言うように運命の出会い、一瞬だけ交差して、手を振って別れた。
 互いに気付いていなかったけれど、それでもきっと出会っていた。
 お気に入りになった帽子を初めて被った、あの春の日に。
 ハーレイが公園を走っていた日に、広い公園の中の何処かできっと…。




           好きだった帽子・了

※被せられる帽子が好きではなかった、幼かった頃のブルー。被らなくてはいけなくても。
 けれど、一つだけあったお気に入りの帽子。きっとハーレイに出会えたのです、被った日に。
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(先っぽがお辞儀しているんだよ)
 うん、とブルーが眺めた糸杉。学校からの帰り、バス停から家まで歩く道の途中。
 道沿いに並ぶ家の一軒、其処の庭にすっくと聳える糸杉。いつも目にする木なのだけれど。毎日前を通るけれども、ふと目に付いた木の天辺。
 糸杉らしくヒョロリと伸びた天辺、それが少しだけ曲がっていた。まるでお辞儀をしているかのように。天辺もそうだし、注意して見れば他にも先だけ曲がった枝が何本か。
 曲がると言ってもほんの少しだけ、注意しないと分からない程度。ごくごく控えめなお辞儀。
 それでも糸杉はお辞儀する木で、この木だって、ちゃんと。



(うん、いつもお辞儀をしている木…)
 面白いよね、と足を止めて糸杉を観察している内に。お辞儀した枝を探す間に、浮かんだ疑問。
(…誰に教わったんだっけ?)
 糸杉のお辞儀。木の天辺が曲がっていること。
 いつの間にやら知っていた知識、糸杉を見たらぽっかりと浮かび上がった知識。なんとも思わず木の天辺を眺めたけれども、お辞儀を確認したけれど。
 前には全く知らなかった気がする、糸杉のお辞儀。そう思って見上げたことが無い。
(パパとかママに教わったんなら…)
 きっと何度もお辞儀を見た筈、幼い頃なら自分もペコリとお辞儀を返したことだろう。なにしろ幼い子供なのだし、相手が木だってお辞儀する。お辞儀していると教えられたなら。
(うん、きっと…)
 気付けば、自分も「こんにちは」と。礼儀正しく、ピョコンと、ペコリと。
 ところがそういう覚えなどは無くて、糸杉はただの糸杉だった。そういう名前で呼ばれる庭木。天辺なんかは気にしていなくて、お辞儀に気付く筈も無い。
 そうなってくると…。



(前のぼく?)
 自分の記憶ではなかったのだろうか、糸杉のお辞儀。天辺が曲がっているということ。
 前の自分の記憶だったら頷けるけれど、今日まで全く気付かないのも納得だけれど。
(でも、糸杉…)
 美味しい実をつける果樹とは違うし、糸杉はただの庭木に過ぎない。この家のように高く聳える木に仕立てるか、もっと低めに刈り込んで並べて生垣にするか、そういった庭木。
 シャングリラでは役に立ちそうもなくて、綺麗な花だって咲きはしないし…。
(…公園向けってわけじゃないよね)
 どう考えても、白い鯨には似合わない。使えそうにない糸杉の木。
 それとも自分が覚えていないだけで、糸杉は木材向けだったろうか。固くて丈夫で何かと便利な木だからと植えられていたか、成長が早くて使いやすかったか。
(…どうだったかなあ?)
 シャングリラで木材にするための木を切る時はお祭り騒ぎで、自分も手伝っていたけれど。変な方へ倒れて怪我人が出てはいけないから、と万一に備えて見ていたけれど。
 糸杉を切った記憶は無かった、ただの一度も。切られていたのは、もっと他の木。
(なんで糸杉?)
 分からないや、と糸杉のお辞儀を見上げて首を捻って、それから家へと帰って行った。



 自分の家まで辿り着いても、思い出せない糸杉の記憶。糸杉のお辞儀。
 着替えを済ませて、ダイニングでおやつを食べる間も糸杉が頭から離れない。
(先っぽがお辞儀…)
 何のためだったろうか、糸杉のお辞儀。
 道ゆく人に挨拶するのか、仲間同士で挨拶するのか。さっき見た木は庭に一本きりの糸杉、他に仲間はいなかったけれど、何処かの仲間に「こんにちは」と頭を下げているとか…?
(天辺がほんの少しだけ…)
 知らなかったら気付かないままでいそうなお辞儀。ほんの僅かだけ曲がった天辺。
(なんだか猫の尻尾みたいだ…)
 猫が真っ直ぐ立てた尻尾の先っぽが曲がっていることがある。猫の気分で、ほんのちょっぴり。猫の尻尾は自由に曲がるし、気取って先だけ曲げていることも。
 糸杉のお辞儀は猫の尻尾を連想するけれど、尻尾と違ってその日の気分で曲がりはしない。木に神経は通っていないし、曲げるための骨組みも入っていない。
 それでもお辞儀している木。糸杉はお辞儀をしているもの。いつも、いつでも、どんな時でも。
 何のために…、と考え込みながら紅茶のカップを傾けた途端、ハッと気付いた。
 シャングリラだ、と。
 あの白い船にも糸杉があったと、いつもお辞儀をしていたのだと。



 おやつを食べ終えて、自分の部屋に戻って取り出したシャングリラの写真集。
 ハーレイとお揃い、父に強請って買って貰った豪華版。それのページを順にめくっていって。
(あった…!)
 開いたページに墓碑公園。白いシャングリラの居住区の中、鏤められた幾つもの公園の一つ。
 亡くなった仲間の名前を刻んだ真っ白な墓碑があった公園、其処に糸杉が写っていた。今日まで何度も眺めていたのに、素通りしていた糸杉の木。
 あまりにも自然に溶け込んでいたし、墓碑とセットだと思っていたから。糸杉と真っ白な墓碑がセットで、二つで一つと言っていいほどに馴染んだ光景だったから。
 糸杉の他にも公園に相応しい木が植えられていたし、草花だって。
 そうした全てをひっくるめた形で墓碑公園だと見ていただけで、糸杉の木には気付かなかった。
 とても大切な木だったのに。墓碑と糸杉とが、墓碑公園の主役だったのに。
 どうして自分は忘れていたのか、一本だけあった糸杉の木を。お辞儀する木を…。



(ハンスの木…)
 最初はそういう名前の木だった。墓碑公園に植えられた一本だけの糸杉。
 ハンスではなくて、「ハンスの木」。そう呼ばれていた、白いシャングリラの仲間たちに。白い鯨が出来上がる前から船で一緒だった、アルタミラからの脱出組に。
 船にハンスはいなかったけれど。名前の持ち主はアルタミラを離陸した時に船から投げ出されてしまって、燃え盛る地獄へ真っ直ぐに落ちて行ったのだけれど。
 宇宙船の操船などは誰もが初めての経験、閉め忘れてしまった乗降口。
 ハンスは其処から落ちてしまった、船の外へと。ゼルが懸命に掴んでいた手も離れてしまった。
 救い出せずに喪ったハンス、ゼルの弟。
 せっかく船まで走って来たのに、ゼルと一緒に乗り込んだのに。



 その事故から長い歳月が流れて、船の改造が決まった時。白い鯨を造る時。
 様々な設備や施設の案が出される中、いつかは必要になるであろうと言われた墓碑。亡くなった仲間を悼む施設もいずれは要ると、いつか作らねばならないと。
 まだまだ先の話だけれども、そういうスペースを設けておこう、と議題が出された時。
「いつかじゃと?」
 今要るんじゃ、と声を荒げたゼル。ヒルマンやブラウ、後に長老と呼ばれる者たちが集った席。どういった案を採用するか、と検討していた会議の席で、ゼルがテーブルを拳で叩いた。
 いつかどころか、とうに一人死んでしまったと。
 弟だったと、この船に乗れずに燃える地獄に落ちて行ったと。
「ああ…。そうだったっけね、ハンスがいたんだ」
 ごめんよ、ゼル。あんたの弟だったんだっけね…。
 忘れていたわけじゃないんだけどね、とブラウが詫びて、ブルーも含めて皆が謝った。
 いつかではなくて、今すぐに作ってもかまわないくらいの墓碑なるもの。ハンスのために。遠い昔に亡くしたハンスを悼む施設が必要だった。
 この船に乗っていないばかりに、その影が薄れがちだったハンス。墓碑と言われても浮かばないほどに、ピンと来る者がゼルの他にはいなかったほどに。
 あれほどに悲しく、痛ましい最期だったのに。
 自由に向かって飛び立つ船から、他の仲間たちを乗せた船から、独りきりで落ちて行ったのに。



 そんなわけで決まった墓碑公園。
 亡くなった者たちが寂しくないよう、居住区の中の公園の一つを使おうと決めた。気が向いたらフラリと立ち寄れるように、憩いの場としても使えるように。
 作るとなったら墓碑ももちろん必要だけれど、それを据えただけでは片手落ち。墓碑に手向ける花がいつでも咲いているよう、様々な季節の花を沢山植えておかねば。
 けれども、花なら他の公園にも咲くのだから。
 もっと特別な何かが欲しい。墓碑のある公園に相応しい何か。
 とはいえ、公園らしい雰囲気も壊したくないし、出来れば樹木の類で何か、と。



 墓碑公園に合いそうな木は…、とヒルマンとエラがデータベースを調べに出掛けて。
 見付けて来た木が糸杉だった。その木がピッタリに違いないと。
「…糸杉だって?」
 何故、とブルーが尋ねてみれば、「そうです」とエラが示した写真。空に向かって伸びた糸杉。
「この写真の此処をご覧下さい。木の天辺が少し曲がっておりますでしょう?」
 糸杉はお辞儀するのだそうです、こういった風に木の天辺が。
 常に頭を垂れるそうです、と言ったエラの言葉をヒルマンが引き継いで話し始めた。
「糸杉は哀悼の木なのだよ」
 死者を悼んで永遠に頭を下げ続けるそうだ、ギリシャ神話から来た話だがね。
 キュパリッソスという名の少年がいてね、その少年は鹿と友達だった。ところがある時、誤ってその鹿を槍で殺してしまったのだよ。
 少年は酷く嘆き悲しんで、「永遠に悲しみ続けることをお許し下さい」と神に願った。
 そうして少年は糸杉に姿を変えて貰って、今も頭を垂れ続けている。…そんな話があるそうだ。
 だから、糸杉はサイプリスとも言うね。ギリシャ語でキパリス、キュパリッソスの意味だ。



 永遠に頭を下げ続ける木。死者を悼んで頭を垂れる木。
 SD体制が始まるよりも昔、人間が地球しか知らなかった時代の墓地には多かったらしい糸杉。哀悼の糸杉に囲まれた島を描いた名画もあったという。「死の島」という名の。ヒルマンとエラはその絵のデータも持って来ていた、ベックリンなる画家が描いた絵。
 それだけのデータが揃ったからには、反対する理由は何処にも無くて。
「じゃあ、それにしよう」
 糸杉を植えることにしよう、とブルーが同意し、ゼルもブラウもハーレイも賛成。
 墓碑公園には糸杉を一本、亡くなった仲間を永遠に悼み続けてくれる木を。
 ただ、シャングリラは船だから。白い大きな鯨に改造をしても、宇宙船には違いないから。
 「地面に植えた糸杉のように、伸ばし放題というわけにはいかないがね」とヒルマンが言った。白い鯨で一番大きな公園になる場所なら可能だけれども、居住区では、と。
 それでも糸杉は上手い具合に、手入れさえすれば樹高を低く保てる木。生垣に出来るくらいだと言うから、居住区の中の墓碑公園でも充分育ててゆくことが出来る。
 天辺を常にお辞儀させたいなら、そのように刈り込んでやりさえすれば。



 こうして決まった墓碑公園の木。哀悼の意を表す糸杉。永遠にお辞儀をし続ける糸杉。
 白い鯨が完成した後、ブルーが人類の施設から苗木を奪って植えた。
 墓碑公園に据えられた白い墓碑の側に。
 人類も来ないような星から採掘して来た本物の大理石の墓碑。真っ白な墓碑の、その隣に。
 苗木とはいえ、ハーレイの背よりも少し高いくらいの木だったから。その天辺は少し曲がって、さながらお辞儀をしているようで。
「本当にお辞儀するんだねえ…」
 一人前に、とブラウが感心したら。
「ハンスのためにお辞儀してくれているんじゃ」
 ハンスの木じゃ、と言ったゼル。今の所は、と。
 白い墓碑にはハンスの名前しか無かったから。刻まれた名前はハンスのものだけ。
 後は銘文、アルタミラで亡くなった名前も分からないミュウたちを悼み、捧げる文章。
 アルタミラではミュウは一人ずつ檻に入れられ、互いに会うことも無かったから。実験のために引き出される時ですら、決して顔を合わせぬようにと別の通路を歩まされたから。
 何人のミュウがアルタミラで死んだか、彼らの名はなんと言ったのか。分からないから、名前を呼べるのはハンスだけ。顔を見知った者がいたのもハンスだけ。
 ゆえに糸杉はゼルが言うままにハンスの木。その名でいいと、誰も反対しなかった。



 それから平穏な時が流れて、ハンスの木は大きく育っていった。日毎に伸びて丈を伸ばした。
 すくすくと伸びるハンスの木。ゼルが手入れをしてやっていた。
 公園などの木々の管理は管轄外なのに、係の者たちが手入れする時には手伝って。枝の剪定や、年に何度かの肥料を与える作業など。暇でさえあれば、ゼルは出掛けて行った。
「此処にハンスが乗っておるような気がしてのう…」
 世話をせずにはいられんのじゃ、と照れたような笑いを浮かべたゼル。
 ただの木だとは思えないのだと、弟の名前がついた木ならば兄が面倒を見てやらねば、と。



 白い鯨が出来上がってから歳月が経って、墓碑の名前は幾つか増えた。
 寿命の長いミュウだけれども、全体的に虚弱な種族。病には勝てず、神の許へと旅立って行った仲間たち。彼らの名前が新たに刻まれ、ハンスだけではなくなってしまった墓碑の持ち主。
 ハンスの木は他の仲間のためのものにもなったのだけれど、ゼルは手入れを欠かさなかった。
 糸杉に名前を付けた頃のままに、「元はハンスの木だから」と。
「この木はのう…。わしの弟の代わりなんじゃ」
 ハンスを船に乗せてはやれなかったが、ハンスは今でも此処におるんじゃ。この木になって。
 きっとこの船に乗っておるわい、わしが生きておる間はのう…。
 なあ、と糸杉の幹を叩いていたゼル。まるでハンスが糸杉に変身したかのように。
 皆を見守るのがハンスの役目じゃ、とも言っていた。
 アルタミラから飛び立った後の船の仲間を、皆を天から見守っていると。
 自分の代わりに長生きしてくれと、いつかはきっと青い地球まで行ってくれと。



(ハンスの木…)
 シャングリラの写真集に収められた墓碑。糸杉の木と白い墓碑がある墓碑公園。
 前の自分の、ソルジャー・ブルーの名前も其処にあるのだろう。ジョミーたちの名も。
 白いシャングリラはトォニィの代に継がれたのだし、きっと墓碑には前の自分やハーレイたちの名前も刻まれた筈。
 この写真集では分からないけれど。
 プライベートな空間以外は拡大して見ることが出来る仕様の本だけれども、墓碑公園は対象外。個人の名前が刻まれたからか、あるいは死者への敬意なのか。ルーペで拡大出来はしなくて、何も読み取ることは出来ない。真っ白な墓碑があるというだけ。
(前のぼくの名前…)
 どんな風に刻んであるのだろう?
 御大層な墓碑が立つ記念墓地とは違うような気がする、ひっそりと刻まれているのでは、と。
 他の仲間たちの名前と何ら変わらず、文字の大きさもまるで同じで。
 データベースで調べてみたなら、きっと答えはあるだろうけれど。
 求める写真がある筈だけれど、同じ確認するならば…。



(ハーレイに訊きたい…)
 前の自分の名が刻まれた墓碑を、ハーレイは見ている筈だから。見なかったとは思えないから。
 そう思っていたら、チャイムが鳴った。窓に駆け寄り、見下ろしてみれば手を振るハーレイ。
 丁度いい所へ来てくれた、と早速訊いてみることにした。母がお茶とお菓子を置いて行った後、テーブルを挟んで向かい合わせで。
「ねえ、ハーレイ。…ハンスの木のこと、覚えてる?」
 墓碑公園にあった糸杉、ゼルがせっせと世話をしていたハンスの木だよ。
「ああ、あれな。もちろん俺も覚えているが…」
 どうかしたのか、ハンスの木が?
「えっとね…。ハンスの木を思い出したんだけど…。糸杉を見たら思い出したんだけれど…」
 ハンスの木じゃなくて、あれとセットの墓碑の方。
 あの墓碑に前のぼくの名前も刻んであったと思うんだけど…。どんな風かな、と思っちゃって。
 ソルジャーらしく立派だったか、他の仲間と全く同じに刻んであったか。
 ぼくはみんなと同じ扱いだった方が嬉しいけれども、本当の所はどうなのかなあ、って。
 ハーレイは見たでしょ、前のぼくの名前が刻んであるのを。



 どう刻んだの、と尋ねたら。
 立派だったか控えめだったか、どちらなのかと尋ねてみたら。
「…それがな…」
 答える代わりに口ごもったハーレイ。言いにくいことでもあるかのように。
「どうしたの?」
 前のぼくの名前、立派すぎたの?
 みんなと同じ方が良かった、って言ったけれども、立派でもいいよ?
 ハーレイたちがそう決めたんなら、ちゃんと気持ちがこもっているもの。それで充分。
「いや、それが…」
 皆と同じになってしまった、とハーレイの顔が悲しそうに歪んだ。
 文字の大きさが皆と同じなのは仕方ないとして、俺が刻んでやれなかった、と。
「え?」
 ぼくの名前が特別扱いじゃなかったことは分かったけれど…。
 刻んでやれなかったっていうのは、なあに?



 どういう意味なの、と問い掛けてみれば。
 何のことかと確認してみれば、文字通りに名前を刻むという意味。
 前のブルーが長い眠りに就いていた間に辿り着いたナスカ。
 其処で生まれた初めての自然出産児、トォニィの父はユウイと言った。若い世代のミュウだったけれど、事故で命を落としたユウイ。格納庫での誘導中に、ギブリの暴走に巻き込まれて。
 そのユウイの名を墓碑に刻んだのが、妻のカリナとユウイの友人たちだった。それ以来、墓碑の名前は親しかった者が刻むことになっていたらしい。
 亡くなった者への思いをこめて、その魂が安らかであるようにと。



「…ぼくが眠っちゃう前には、そんな決まりは…」
 聞いたことが無いよ、ただの一度も。墓碑公園の責任者が刻んでいただけで…。
「無かったさ、お前の言う通り」
 ユウイの時からだと言っただろうが。カリナが刻みたいと言ったんだ。ユウイの名前を。
 そのユウイはナスカに墓が作られたんだが、墓碑にも刻むと説明をしたら、自分がやると…。
 どうしても、と頼み込まれちゃ断れないしな?
 大理石を彫るには専門の道具も必要になるが、と言っても聞きやしなかった。無理そうだったら少しだけでも、ほんの少しでも彫りたいんだ、と。
 実際の所、カリナだけでは彫れなくってな、ユウイの友達だった男たちの出番になったんだが。



 ナスカで生まれた新しい習慣。
 墓碑公園に死者の名前を刻む時には、親しかった者たちが彫るというもの。
 赤いナスカがメギドの炎で滅ぼされた後、ナスカで亡くなった多くの仲間たちの名も、ゆかりの者たちがそれぞれ刻んだ。友人や、仕事仲間などが思いをこめて。
 けれどもブルーの名前だけは…。
 ナスカで亡くなった者たちの名前の一番最初に刻まれたブルーの名だけは違った。以前の通りに墓碑公園の責任者が刻み、縁ある者たちは墓碑に触れさえしなかった。
「…みんな忙しすぎたんだ。俺も、ジョミーも、ゼルたちもな」
 とにかく合同で葬儀はしたがだ、それさえも俺たちは仕事の合間に駆け付けたって具合でな…。
 墓碑にまで頭が回らなくって、任せると言ったか言わなかったかさえも覚えていない。
 一段落して、そうだった、と墓碑公園まで出掛けて行って…。
 刻まれたお前の名前を見付けて、やっと気付いたという有様だ。大切な仕事を忘れていた、と。



 ハーレイが墓碑を前にした時には、とうに刻まれていたという名前。ブルーの名前。
 文字の大きさこそ他の仲間たちと同じだったけれど、ソルジャーだからと、最優先で。
 亡くなった順番からすれば最後であろうに、ナスカで亡くなった誰よりも先に。
「…すまん。俺がウッカリしていたばかりに…」
 苦しそうに顔を歪めるハーレイ。「すまん」と、本当にすまないと。
「なんで?」
 どうしてハーレイが謝るわけ?
 謝ることなんか何も無いでしょ、ハーレイが指図して立派すぎるのを彫らせたんならともかく。
 そういうのはぼくの好みじゃないから、謝ってくれてもいいんだけれど…。
「…俺が刻んでやれなかったからだ、お前の名前を」
 お前の恋人だったのに…。誰よりも親しい仲だったのに。カリナがユウイの名を刻んだのと全く同じに恋人同士で、俺が刻むのが正しいやり方だったのに…。
 もちろん、恋人だったからとは言えん。しかし、お前の友人としてなら刻むことが出来た。他の誰よりも親しかったと、一番古い友達なんだと。
 そう言いさえすれば、俺が刻めたんだ。仕事の合間に刻みに行っては、心でお前と話しながら。
 それなのに俺は、考え付きさえしなかった。俺がお前にしてやれる最後のことだったのに…。
「…ほんのちょっぴり残念だけど…」
 ハーレイに名前を刻んで貰えるチャンスは逃したけれども、ぼくはちっとも気にしないよ。
 そういう決まりが出来ていたことも知らないし…。
 ハーレイがとっても忙しかっただろうってことも、ぼくにはちゃんと分かっているから。



 それにハンスの木があるしね、と微笑んだ。
 墓碑の側にはハンスの木があって常にお辞儀をしていたのだから、ハンスが一緒、と。
「そうなのか…?」
 お前、ハンスと一緒にいたのか、死んじまった後は?
「分からない…」
 一緒にいたのか、いなかったのか。死んだ後の記憶は何も無いしね、分からないよ。
 メギドでハーレイの温もりを失くして、泣きじゃくりながら死んだけど…。それっきりだけど。
 まるでなんにも覚えてないけど、生まれ変わる前はハーレイと一緒だったに決まっているよ。
 ハーレイが死ぬ前は、もしかしたらハンスと一緒だったかもしれないね。
 でも、そんなことはもう、どうでもいいんだ。ハーレイと地球に来られたから、いい。
「…そうか?」
 本当にそれだけでいいのか、俺はお前の名前を刻み損なっちまったのに…。
 恋人だったくせに、言い訳の一つも思い付くどころか、刻むことさえ忘れてたのに。
「いいんだよ。だって、ぼくは今、幸せだから」
 もしもハーレイがぼくの名前を刻んでくれても、こうして会えなかったなら。
 そんな墓碑には何の意味も無いよ、ただの記念碑みたいなもので。



 そうは言ったけれど、少しだけ気になる白い墓碑。白い鯨の墓碑公園。
 シャングリラはトォニィが解体を決めて、宇宙から消えてしまったから。遥かに遠い時の彼方に去ってしまったから、墓碑公園は、墓碑は、どうなったろう?
「ねえ、ハーレイ…。あの墓碑、今も何処かにあるの?」
 それとも、消えて無くなっちゃった?
 歴史資料で何処かにあるのか、残ってないのか、ハーレイ、知ってる?
「あれなあ…。ずいぶん前に調べたんだが、今でも残っているそうだぞ」
 俺やジョミーの名前まで増えて、アルテメシアの記念館にな。
 ミュウの歴史の始まりの星だっていう位置付けだしなあ、アルテメシアは。シャングリラの森もあると言ったろ、シャングリラにあった木を沢山移植した森が。木は代替わりしちまったが…。
 そういう星だし、あの墓碑もアルテメシアにあるんだ。見に行きたいか?
 いつかお前と結婚したなら、懐かしの星まで旅をしてみるか…?
「ううん、アルテメシアには行かなくていいよ」
 他にも用事があるなら行くけど、あの墓碑とかを見るだけだったら。
 そんな所までわざわざ出掛けて行く価値が無いよ、ぼくの名前があるってだけでしょ?



 ハーレイが刻んでくれた名前だったら見たいけれど、とクスッと笑った。
 どんな風になったか眺めてみたいし、刻んだ時の裏話なども聞けそうだから、と。
 けれども、そうではなかった墓碑。ハーレイどころかゼルたちすらも刻んではおらず、ゆかりの者は誰も関わってはいなかった名前。
 それではただの墓碑というだけ、見に出掛けても感慨も何も無さそうだ、と。
「アルテメシアとかノアにある記念墓地と同じでどうでもいいよ」
 ぼくのお墓だけど、ぼくのだっていう感じがしないし…。
 いつかホントについでがあったら、あれに名前が刻んである仲間たちに挨拶しに行く程度かな。
「俺もだな」
 お前以上に遠慮したいな、お前の名前を刻めなかったっていう罪悪感が押し寄せてくるからな。
 ハンスや早くに逝っちまった仲間に挨拶出来たら充分だ。
 ただし、そのためだけに、はるばるアルテメシアまで旅をしようとも思わないがな。
 ハンスたちには心で挨拶すればいいんだ、思い出した時に心をこめて。
 その方がヤツらもきっと喜ぶ、青い地球からメッセージが届くって勘定だからな。



「それはそうかも…。出掛けて行くより、地球からだね」
 ハンスだってきっと、地球へ行きたいと思った時代があったんだろうし…。
 成人検査で記憶が消えても、地球への憧れは消えないんだし。
 青い地球までちゃんと来たよ、ってお祈りするのが一番だよね。
「うむ。産地直送の土産を貰った気分なんじゃないのか、地球からの祈り」
 本当に本物の地球だからなあ、昔のまんまに青い水の星に戻った地球。
「…今度のぼくたち、地球にお墓が出来るんだね」
 それにハーレイと一緒のお墓。ぼくはハーレイのお嫁さんだし、そうなるんでしょ?
「間違いなくな」
 お前が嫌だと言い出さない限りは、俺とお前で二人で一つ。
 そういう墓に入るってことになるんだろうなあ、まだ用意してはいないがな。
「用意してたらビックリだよ…!」
 今からそんなの用意している人なんか無いよ、平均寿命まで三百年以上もあるんだよ?
 何が何でも此処がいいんだ、って決めてる場所があって、予約する人はあるかもだけど…。
 それでも多分、予約止まりで、お墓までは用意してないよ…!



 青い地球の上、今度はハーレイと二人で一つのお墓に入る。
 ハンスの木は植わっていないけれども、今度は離れずにハーレイと一緒。二人で一つ。
 もしかしたら、糸杉を側に植えるかもしれないけれど。白い大理石の墓碑を作って、前と同じに演出するかもしれないけれど…。
「だけどぼくたち、其処にはいないね」
 お墓があっても中身はきっと空っぽなんだよ、ハーレイと二人で行ってしまって。
 天国か何処か知らないけれども、ハーレイと二人、手を繋いで。
「だろうな、また何処かへ行ってしまうんだろうなあ、お前と二人で」
 この地球に来る前に二人で居た場所、其処へ還って行くんだろう。俺にも記憶が全く無いが…。
 其処での暮らしに飽きちまったら、また二人して地球に来るとするか。
「うんっ!」
 ハーレイと二人で地球に来ようよ、やっぱり地球が一番だもの。
 ぼくたちがいつか還って行く場所、とても素敵かもしれないけれど…。
 だけど、飽きたら、二人で地球。この次も地球に生まれるんだよ。



 青い地球に二人で帰って来よう、と約束してから。
 指切りしてから、ブルーはプッと小さく吹き出した。
「もう次の約束をしてるだなんて…。気が早すぎ…!」
 これから三百年以上もあるのに、今からそんな先のことまで約束しちゃってどうするんだろ?
「まったくだ」
 お互い、気が早いにもほどがあるってな。
 俺たちの時間はまだまだこれから、結婚してさえいないってのに…。
 そういや、例のハンスの木。…面白いことを思い出したぞ。
「なに?」
 ハンスの木のことなの、それとも糸杉?
「糸杉の方だ。あれの小さいのはクリスマスツリーにもなるんだよな」
 本物のクリスマスツリーはモミの木なんだが、糸杉もそれっぽい形だろうが。
 クリスマス前には飾り付けてだ、花屋なんかに並んでいるぞ。ミニサイズの糸杉。
「そうなの? じゃあ、お墓に糸杉を植えて貰うよりも前にそっちだね!」
 クリスマスツリーの糸杉もいいね、小さかったらテーブルとかにも飾れるし…。
 結婚したなら、それも欲しいな。
 大きなクリスマスツリーはもちろんだけれど、ちょっと飾っておけるミニサイズのも。



 ハーレイと二人でクリスマス、と小さな糸杉のクリスマスツリーを思い浮かべる。
 小さくても天辺は少し曲がっているのだろうか?
 クリスマスツリーの天辺には星を取り付けるのだし、曲がっていても分からないだろう。
 だからこそ糸杉でもクリスマスツリーで、哀悼の木ではなくて飾りが沢山。
(…ふふっ、ハーレイと二人でクリスマス…)
 二人きりの家で迎えるクリスマスはどんなに素敵だろうか、と頬が緩んだ。
 天辺が曲がっている糸杉。お辞儀していたハンスの木。
 お辞儀する木はまだ要らない。
 青い地球の上、幸せを沢山積み重ねながら、ハーレイと生きてゆくのだから…。




           ハンスの木・了

※ブルーが思い出した、「ハンスの木」。それにシャングリラの墓碑公園のこと。
 前のブルーが眠っていた間に、生まれた習慣。辛い思いをしたハーレイですけど、今は幸せ。
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 ←聖痕シリーズの書き下ろしショートは、こちらv









(本当に年下になっちまったな…)
 正真正銘チビで年下、とハーレイはブルーの写真を眺めた。
 今日はブルーの家には寄れなかったけれど、学校で見かけて挨拶された。「ハーレイ先生!」と声を掛けて来て、ペコリとお辞儀をしたブルー。小さなブルー。
 書斎の机の上に飾ったフォトフレームの中、自分とブルーが写った写真。自分の左腕にブルーが両腕でギュッと抱き付いて、笑顔。それは嬉しそうに、弾けるように。
(チビなんだよなあ…)
 こうして見ると本当に小さい、背丈も低いし身体も細い。まだまだ子供といった感じで。
(…でもって、年下と来たもんだ…)
 教師と教え子、もうそれだけで充分な年の差、ブルーの方がずっと年下。
 それが不思議で、けれども嬉しい。今度は自分が守る立場だと実感出来る年の差だから。二人で何処へ出掛けて行っても、自分の方が保護者だろうから。
 小さなブルーが前と同じに育ったとしても、やはり自分の方が年上。変わらず年上。
(二人一緒に飯を食っても、俺が支払うのが自然だしな?)
 そう考えるだけで顔が綻ぶ。自分がブルーの保護者になれると、守ってやれると。
(今も守り役ではあるんだが…)
 既にそういう立場だよな、とコーヒーのカップを傾けた。愛用の大きなマグカップ。淹れ立ての熱いコーヒー片手に、書斎で寛ぐ食後のひと時。
 ブルーの写真を前にしながら、小さなブルーを想いながら。



 前の生でもブルーは自分より若い姿で、出会った時からそうだった。アルタミラがメギドの炎に滅ぼされた日に閉じ込められていたシェルターの中で、前のブルーと初めて出会った。
 出られはしないと思ったシェルター、それをサイオンで破壊したブルー。
 凄い子供だと驚嘆しつつも、座り込んでいたブルーに声を掛けたのが全ての始まり。崩れてゆく地面を二人で走って、幾つものシェルターを開けて仲間を逃がした。
 てっきり子供だと思っていたから、懸命に庇って走り続けて。アルタミラから辛くも逃げ出した船の中でも、年上らしくブルーの世話をしてやった。こんなに小さいのだからと。
 ところが、落ち着いた頃に知ったブルーの年。ブルーが覚えていた、生まれた年。研究者たちが実験の度に口にするから、ブルーも記憶していたらしい。
 それを聞いたら仰天した。年下の小さな子供どころか、とんでもない年上だったブルー。外見は幼い少年そのもの、心も身体も成長を止めたままでいたから気付かなかった。
(何処から見たって、チビで年下…)
 年上なのだと分かった後にも、そういう風には扱えなくて。
 いつでもブルーを子供扱い、もっと大きく育ててやろうと頑張っていた。アルタミラの檻の中でブルーが失くした未来への希望、それがある世界へ来たのだから。自由を手に入れたのだから。



(あいつがソルジャーになっちまった後も…)
 キャプテンとして敬語で話さねばならない立場になった後でも、まるで無かったブルーが年上という感覚。自分よりも年が遥かに上だという感覚。
 単にブルーが偉くなったから、ソルジャーと呼ばれるようになったから、使った敬語。年長者に対するものではなかった、ただの一度も。キャプテンとしての立場ゆえに敬語で話し続けた。
(…俺の他に敬語に切り替えたヤツは、エラくらいだしな?)
 礼儀作法にうるさかったエラ。仲間たちにも「ソルジャーには敬語で」と徹底させた。
 けれども、後に長老と呼ばれるようになったブラウとゼルとヒルマンと。脱出直後からブルーと親しくしていた彼らは、敬語を忘れがちだった。使わなかったと言ってもいいくらいに。
(しかしなあ…。俺はキャプテンだったからなあ…)
 シャングリラの仲間を纏める存在、皆の手本にならねばならない。ソルジャーのブルーに自分が気安く口を利いていたら、それでいいのだと思う仲間も出て来るから。
 それはマズイ、と敬語を使い続けた、どんな時でも。ウッカリ崩れてしまわないよう、ブルーと恋仲になった後にも。
(あいつがソルジャーだったから、敬語…)
 年長者を敬う敬語ではなくて、ソルジャーに対する礼儀だった敬語。年上だとは思わなかった。頭でそうだと理解していても、心の中では常に年下。守るべき存在、幼かったブルー。
 ソルジャーになっても、すっかり大きく育った後にも、出会った時の印象そのまま。



 とはいえ、ブルーは年上だった。その事実だけは変えられなかった。
 自分よりも先に生まれていた分、早く迎えてしまった寿命。外見の年齢が如何に若くても、命の灯火はまた別物で。
 死んでしまう、と泣きじゃくったブルー。もうすぐハーレイと離れてしまう、と。
 結局、ブルーは寿命ではなくて、メギドで死んでしまったけれど。
 共に逝くと何度も誓った自分を独り残して、「ジョミーを頼む」と白いシャングリラで生きろと縛って、一人きりで逝ってしまったけれど…。



(今度は俺が先に逝くんだ)
 順番からすれば、そういうこと。
 前と違って、今度は自分が年上だから。外見通りに立派に年上、先に寿命を迎える筈。
 小さなブルーは、共に逝くと言っているけれど。
 二人同時でなければ嫌だと、残されて一人で生きるのは嫌だと。
 だから心を結んでおこう、と何度も何度も頼まれている。結婚したなら、心の一部をサイオンで結んでおいて欲しいと。そうすればきっと、鼓動が同時に止まるからと。
 サイオンの扱いが不器用なブルーに出来はしないし、それをするのは自分の役目。
(そのつもりではあるんだが…)
 願いを聞いてやろうと思うし、自分もブルーと共に逝けるのなら幸せだけれど。
 ブルーの寿命が縮んじまうな、と心がツキンと痛んでしまう。いくらブルーの望みであっても、まだ生きられる筈のブルーの命を奪うのだから。
 二十四歳も年下のブルー、二十年以上も生きてゆける筈のブルーの命を。



(二十四歳か…)
 それだけ大きく開いた年の差、今のブルーは遥かに年下。
 小さなブルーが自分の誕生日を迎えてくれれば、二十三歳の差になるけれど。
 この地球の上で出会った時と同じ、二十三歳の差に戻るけれども。
(…俺の誕生日が来ちまったからな…)
 夏休みもあと三日で終わる、という日に迎えた誕生日。ブルーに羽根ペンを貰った日。あの日に年の差が広がった。それまでの差より一年余分に、一年多めに。
 今の自分は三十八歳、十四歳のブルーの年の倍よりもまだ多い年。プラス十歳という勘定。
 ブルーの年を二倍してみても二十八歳、三十八歳には十歳も足りない。
(大した差だ…)
 とんだ年の差だ、と苦笑が漏れた。
 今度の自分はブルーよりも上で、二十四年も年上で。二十四年ということは…。
(二ダースだな)
 年はダースで数えないけれど、二十四年の差ならば二ダース。
 十二年が二回、二ダース分もの大きな違いで、ブルーはそれだけ小さくて…。



(…ん?)
 待てよ、と指を折ってみた。二十四年の違いで、十二年が二回。二ダースの年の差。
 何度か数えて数え直して、それから「うーむ…」と低く唸った。
(俺としたことが…)
 間抜けだった、と自分の頭に拳をゴツンと一発。
 今日まで気付いていなかった。
 この偶然に、いや、運命といった所だろうか。
 古典の教師をしているからには、もっと早くにピンと来ていても良さそうなのに。馴染んだ古い書物の中には、何度も出て来るものなのに。
 十二年が二回、年の差が二ダース。
 遠い昔にこの地域にあった小さな島国、日本の古典を読むのだったら欠かせない知識、十二年がセットになっているもの。



(同じ干支だ…)
 小さなブルーと、自分の干支。
 生まれ年を示す十二の動物、十二年で一回りしてくる干支。年の差が二ダースあるというなら、自分とブルーの干支は同じで。
 今は使われない古い暦だと、自分とブルーは同じ動物、お揃いの干支。
 自分が卯年で、ウサギなのだということは…。



(あいつ、本物のウサギだったか…)
 ウサギになりたかった小さなブルー。幼い頃にはウサギになろうと夢見たブルー。
 白い毛皮に赤い瞳のウサギになりたかったのだ、と聞かされた時には可笑しかったけれど。子供らしい夢だと思ったけれども、ブルーはウサギ年だった。
 もしもブルーがウサギの姿になっていたなら、人間をやめてウサギになると言った自分も。
(わざわざウサギにならなくっても、元からウサギだったんだ…)
 ブルーも自分も二人揃って、生まれながらのウサギ年。本物のウサギ。
 そういう姿はしていないけれど、二人とも同じウサギ年。



(白いウサギと茶色いウサギか…)
 ウサギの姿になったとしたなら、前にブルーと話した通りに白いウサギと茶色いウサギ。一つの巣穴で一緒に暮らして、ウサギのカップル。
 お揃いの好きなブルーが知ったら、どれほど喜ぶことだろう。生まれた時からお揃いなのだと、同じ干支だと聞かされたなら。
(明日は土曜日だし…)
 丁度いいな、と紙を取り出して書き付けた。
 十二の干支を表す漢字を。今は使われていない暦の、十二の動物を指し示す文字を。



 明くる日は爽やかに晴れた土曜で、歩いてブルーの家に出掛けて。
 二階の部屋でテーブルを挟んで向かい合って座ると、ブルーに質問を投げ掛けた。
「お前、自分の生まれた年を知ってるか?」
 何年生まれですか、って訊かれた時に答えるヤツだが。
「うん、知ってるよ」
 もちろんだよ、と返った答え。小さなブルーの生まれ年。
「俺が生まれた年も知っているよな?」
「当たり前だよ、忘れるわけがないじゃない」
 ハーレイが生まれた年なんだもの、と誕生日付きで返って来た。三十八年前に生まれた年が。
 得意げな顔をしているブルーに、「その二つ…」と切り出してみる。
「実は二つとも同じなんだが…」
 お前が生まれた年と、俺が生まれた年。まるで同じだ、俺も昨日まで気付かなかったが。
「同じって…。何処が?」
 何が同じなの、何かの記念の年だった?
 ぼくは全く心当たりが無いんだけれども、ハーレイ、何に気が付いたの?



 キョトンとしている小さなブルー。
 赤い瞳をパチクリとさせて、思い当たる何かを懸命に探しているようだけれど。そうそう気付く筈もないから、種明かしをしてやることにした。
「お前、干支というのを知ってるか?」
 古典の授業でたまに出るだろ、ナントカの年、といった具合に。
「少しだけ…」
 確か動物の名前なんだよね、虎とか龍とか。
「そう、それだ。…その干支、全部で幾つあった?」
「んーと…?」
 羊でしょ、犬っていうのもあったし…。猫は入っていなかったかな?
 どうなんだろう、と数え始めたブルー。どうやら覚えていそうもない。全部の干支も、一回りで十二年になるということも。
「猫は干支には入っちゃいないな。いいか、全部で十二だ、十二」
 ほら、と昨夜に書いておいた紙をテーブルに置いた。
 これが干支だと、これだけある、と。



「干支ってヤツはな、毎年、順番に変わって行くんだ」
 今じゃカレンダーにも載っていないが、俺は職業柄、調べてみたりもしているからなあ…。
 今年はこいつだ、こいつの年だ。
「…なんて読むの、これ?」
 ブルーの疑問はもっともなもの。とても動物とは思えない文字、習っていなければ読めない上に意味も掴めないことだろう。
「巳だな、巳と読む。蛇の意味だ」
「ふうん…?」
 他のも動物に見えない字ばかり並んでいるけど…。干支の話がどうかしたの?
「大いに関係があるんだがなあ、お前と俺とが同じってヤツに」
 まだ分からないか、とクッと笑った。
 干支は全部で十二あるんだが、お前と俺との年の差は幾つだ、と。
「二十四歳でしょ、ハーレイが三十八歳だから」
 ぼくの誕生日が来たら二十三歳違いになるけれど…。あっ!?
 ぼくとハーレイ、もしかしたら干支っていうのが同じ?
「そうさ、お前と俺とは同じだ」
 生まれた年の干支が全く同じなわけだな、二十四歳違いだからな。



 この年だ、と卯の字を指差した。
 卯と書いてウサギ、俺もお前もウサギ年だ、と。
「…ぼくもハーレイもウサギ年なの?」
 ウサギの年に生まれたってことになるわけ、二人とも?
「うむ。二十四年違いで生まれて来たってことはだ、干支も同じだ」
 十二年ごとに同じのが回って来るんだからなあ、同じ干支でなきゃおかしいだろうが。
「ホントに同じ?」
 ホントのホントにハーレイとぼくと、同じウサギの年に生まれたの?
「ああ、お揃いというわけだ」
 お前もウサギで、俺もウサギだ。二人揃ってウサギなんだな、お揃いでウサギ。
 お前、お揃い、大好きだろうが。凄いお揃いだったってことだ、干支がお揃いなんだからな。
 同級生って言うならともかく、そうでもないのに干支はなかなか揃わんぞ?
 普通は十二歳も年が違えば、話題からして合わなくなったりしちまうからなあ…。
 そこを同じと来たもんだ。しかも二十四歳も違うと言うのに。



 厳密に言うと全く同じではないんだがな、と補足してやった。
 十二の干支を書き付けた紙に、十干十二支、と愛用のペンで十と十二を書き足して。
「なに、これ?」
 干支に数字が入っちゃったけど、こうすると何か意味が変わるの?
「変わると言うより、より詳しくと言った所か。暦を表すのは十二の動物だけじゃないんだ」
 こいつは十干、その名の通りに十個ある。五行と言ってな、世界を構成する五つの要素が火とか水とか。それぞれに二つ、兄と弟、それで十干。
 その十干と干支を組み合わせて毎年の暦が変わって行くのさ、火の年の兄と巳の年だとか。
 もっとも、火とか水とかをそのまま文字に書くわけじゃないが…。
 干支の巳だとか卯とかと同じで、火の兄だったら丙って具合に読みにくい字を当てるんだがな。



 十干十二支は六十年かけて一回りだ、とブルーに教えた。
 六十年かけてやっと一巡、そこで初めて十干と干支の組み合わせが再び重なるのだ、と。
「だからだ、お前と俺とは同じウサギでも微妙に変わってくるってことだ」
 この十干ってヤツが違うわけだな、お前と俺じゃ。
「それって、意味があったりするの?」
 そこが違うと何か違うの、同じウサギの年生まれでも?
「性格とかに影響するんだ、と遠い昔には言ってたらしいが…」
 例えば、午年。同じ馬でも、丙午の女性は気が強すぎて、嫁に貰うには向かないだとかな。
 だが今は…。そんな話は誰もしないな、そもそも干支なんぞは誰も気にしていないし。
 SD体制が始まるよりも前の時代に廃れちまって、機械が計算しているだけだ。SD体制が崩壊した後、文化を復活させるついでに干支も遡って計算し直しはしたが…。
 俺みたいに興味のあるヤツだけしかデータベースを見てはいないな、今年が何年なのか、とな。
 銀河標準時間はあっても、それぞれの星で一年の長さも変わるわけだし…。
 地球で生まれれば干支の通りに暦が回るが、そうでなければ実感ゼロな代物だろうが。
 銀河標準時間の通りに暮らしている星、地球の他には無いんだからな。



「そっか…。じゃあ、地球生まれのぼくたちだと…」
 意味があるのかな、その十干とかいうものも?
「いや、無いだろ。あるんだったらSD体制が始まる頃までそういう暦が続いていたさ」
 だがなあ…。干支の方には意味があるかもな、俺たちの場合はウサギ年だが。
 お前、ウサギになりたかったんだろう、と言ってやったら。
「そうだけど…。そのせいかな?」
 ウサギ年だったから憧れたのかな、ぼくもウサギになりたいな、って。
「違うと思うぞ。同じウサギ年に生まれた俺はだ、そうは思わなかったんだからな」
 一度も思ったことは無いなあ、ウサギになってみたいとは。あるいは忘れただけかもしれんが。
 しかしだ、俺も確かにウサギだ。
 お前と同じでウサギなんだ、と自分の顔を指差した。
 自分が茶色の毛皮のウサギで、ブルーが白い毛皮のウサギ。同じウサギ年で茶色のウサギと白いウサギのカップルになるぞと、ウサギ同士で丁度いいじゃないか、と。



「ハーレイと同じウサギ同士でカップル…」
 茶色のウサギと白いウサギなの、ぼくとハーレイ?
「そうさ、いいとは思わないか?」
 干支がお揃いだからこそ出来ることだぞ、ズレていたら妙なことになる。同じウサギ同士で揃う代わりにウサギと蛇とか、ウサギと羊のカップルだとか。
 それだと絵にもなりはしないし、誰もカップルだとは思ってくれん。俺もお前もウサギ年だから茶色いウサギと白いウサギで揃うんだ。うんと似合いのカップルだぞ。
「…前のぼくたちは?」
 前もウサギのカップルなのかな、それとも羊や馬だったのかな?
「計算してみたい気持ちは分かるが、生憎と前の俺たちは…」
 年の差が十二の倍数じゃないぞ、同じ干支ではなかったわけだな。俺かお前か、どっちかが今と全く同じにウサギだった可能性もゼロではないが…。
「そうだったっけね、干支は同じじゃなかったんだね…」
 ぼくかハーレイ、どっちかがウサギだったとしても…。
 ウサギとはまるで似合わない動物とカップルになって、見た目にとんでもなかったかもね。



 前のぼくたちの干支は計算しても意味が無いね、と頷くブルー。
 ハーレイとお揃いの干支でないなら、同じ動物同士のカップルになってくれないのなら、と。
「…今のぼくたち、お揃いでウサギ年だけど…。おんなじ干支に生まれたけれど…」
 これって、やっぱり神様が合わせてくれたのかなあ?
 お揃いの干支になれるように、って二十四歳違いで生まれるようにしてくれたのかな?
「どうだかなあ…」
 そいつは俺にもサッパリ分からん。神様かもしれんし、違うかもしれん。
 お前に聖痕を下さった神様が生まれた国には、干支なんていうものは無かったからなあ…。
 とはいえ、その神様はSD体制があった頃にも消えずに残った神様だったし…。
 前の俺たちが生きてた時代の唯一の神様だったわけだし、干支も御存知なのかもしれん。今度の俺たちを送り出す時に、きちんと合わせて下さったかもな。
 あるいは全くの偶然ってヤツで、神様も今頃「そうだったのか」と驚いて暦を見ておられるか。
 そればっかりはどうにも分からないなあ、神様に訊いてみないとな。



 ブルーには謎だと言ったけれども、青い地球の上で再び出会えたブルー。
 二人揃って生まれ変わって、こうして出会えた小さなブルー。
 自分は年を取るのを止めたけれども、今の姿はキャプテン・ハーレイだった頃の自分と瓜二つ。この外見でブルーと巡り会えた。早すぎることも、遅すぎることもない年で。
 ブルーはこれから前と同じに育ってゆく。恐らくは四年ほどかけて。
 それを思えば、ブルーも四年ほど早く生まれていてもいいのに。
 前とそっくり同じ姿に育っていたなら、すぐに結婚出来たのだろうに。
 そうはならずに、二十四歳違いで生まれて来たブルー。小さな姿で出会ったブルー。
 この年の差で、同じ干支。同じウサギの年に生まれた、ブルーも自分も。
 そうなったことは運命だろうと思えてしまう。
 前の生からの運命で絆、今度は干支まで同じなのだと。
 遥かな昔に廃れたとはいえ、干支は干支。自分たちが生まれて来た地域に遠い昔にあった島国、日本で使われていた暦。それで言うなら同じウサギで、まるで同じに生まれたからと。



 そういったことに思いを巡らせていたら、ブルーが「ねえ」と呼び掛けて来た。
「前のぼくたちの時も、お揃いの干支に生まれていたなら良かったのにね…」
 そしたら結婚出来てなくても、カップル。心の中ではカップルだったよ、ウサギとかで。
 ハーレイもぼくもウサギなんだ、って思えて幸せだっただろうにね…。
「おいおい、さっきも話してやったが…」
 あの時代に干支の概念は無いぞ、マザー・システムが消してしまってな。
 データベースの古い本には載っていただろうが、誰も気にしちゃいなかった。ヒルマンもエラも調べちゃいないぞ、前の俺たちが生きていた時代の干支を。
 調べ物好きのヤツらが一度も調べていないってことは、調べようという気にならない時代。
 そんな時代に生きたってことだ、前のお前も俺も、みんなも。
 計算出来るだけの機械はあったし、その気になったら新年の度に今は何年かが分かったろうに。
 新年を迎えるイベントの時に、ヒルマンやエラが「今年はウサギ年です」と宣言するとかな。
 しかし、そいつは無かったんだし…。
 前のお前と俺の干支もだ、分からないままで良かったのさ。どうせ同じじゃなかっただろうが。



 今だからこそ干支なんだ、と微笑んでやれば。
「うん、今だから…。それに地球の上に生まれたからだね」
 干支の暦が使える地球。…干支が載ってるカレンダーは見たことないけれど…。
 だけど計算してるって言うし、ぼくもハーレイもウサギ年だし…。
 あっ、そうだ!
「どうしたんだ?」
 干支のカレンダーが見たいと言うなら、データベースの調べ方を教えてやってもいいが…。
 まずはお前が干支を覚えんとな、十二の干支をスラスラと順に言える程度に。
「そうじゃなくって、今が巳年で蛇なんでしょ?」
 ぼくたちが結婚する年の干支って、どの動物になるんだろう?
 ウサギ年のぼくたちに似合う干支かな、それとも似合っていないのかなあ…?



 どうなるだろう、とブルーが訊くから。
 結婚の予定も立てていないのに、気になってたまらないようだから。
「そうだな、お前がしょっちゅう言ってる通りに、十八歳で結婚するのなら…」
 四年後ってことだろ、今から順に数えて行くと、だ。
 今が巳年で、来年が午年。次が未で、その次が申で…。うん、酉年だな。
 これだ、と紙をトンと叩いた。「酉」と書いた文字を。
「鳥…。それって、鶏?」
 鶏のことなの、酉っていうのは。干支の酉なら、普通の鳥じゃなくて。
「そうだが…。酉年と言ったら鶏なんだが…」
 音だけ聞いたら、空を飛んでる鳥と全く変わらんなあ…。
 そっちの鳥なら、前の俺たち。…色々と御縁があったんだっけな、シャングリラでな。
 ついでに鶏、シャングリラで飼ってた大切な動物だったっけか…。卵を幾つも産んでくれたし、肉にもなったし、実に頼もしい存在だったな、鶏ってヤツは。
 そうしてみるとだ、シャングリラと酉年、やたらと縁が深そうだよなあ…。



 白いシャングリラにあしらわれていた、自由の翼。
 ミュウを表す文字と一緒に描かれた翼は鳥の翼で、自由の象徴でもあった。広い空を何処までも飛んでゆける鳥、その鳥の翼のように自由に、と。
 ミュウのシンボルマークでもあったフェニックスの羽根にしても、そう。フェニックスの羽根は今一つハッキリしない、と鳳凰の尾羽根になったけれども。孔雀の羽根を真似たけれども。
 シャングリラの甲板に描かれていた鳥、あれもフェニックスのつもりではあった。あの絵の元になった絵はハチドリだけれど、普通の絵ではなかったから。誰が描いたのかも謎のままに消えた、SD体制に入るよりも前に消えてしまったナスカの地上絵、それのハチドリ。
 そう、シャングリラは白い鯨だったけども、あちこちに鳥の姿があった。空を自由に飛んでゆく鳥、その鳥のように地球へ行こうと、青い地球まで飛んでゆこうと。



「うーむ、シャングリラは鳥の絵が溢れた船だったっけな…」
 こう、考えてみればみるほど、やたらと鳥だ。シンボルマークも、船に描かれた絵も。
 普段は意識していなかったし、鳥だとも思っていなかったんだが…。
 そのシャングリラの世話になってた、俺とお前が結婚しそうな時期に酉年が回って来るとは…。
 これも運命かもしれないな。俺たちの干支が同じウサギになったのと同じで、運命の干支。
「それじゃ、酉年に結婚出来る?」
 酉年が運命の干支なんだったら、その酉年に。
 ぼくが十八歳になる年の干支が酉になるっていうんでしょ?
 結婚出来そうな感じの干支だよ、ううん、その年に結婚しなさい、って神様が選んでくれそうな感じ。ハーレイとぼくが結婚するなら酉年ですよ、って。
 ぼくは何度も言っているじゃない、十八歳になったら結婚したい、って。
 きっと最初から決まってるんだよ、ぼくがハーレイとおんなじウサギ年に生まれて来た時から。
「そうだな、結婚出来るといいな」
 俺もお前と早く結婚したいとは思っているんだが…。
 お前、未だにチビだからなあ、チビのお前を嫁さんに貰うというのもなあ…。
 いくら神様が酉年ですよ、と仰ったってだ、お前の背丈がチビのままでは難しいってな。
 運命の酉年に結婚したいと言うんだったら、お前もきちんと努力しろ。
 しっかりと食って、前のお前と同じ姿になるように育つ。それが一番大事なことだ。



 頑張って背を伸ばしておけよ、と小さなブルーに言い聞かせたけれど。
 ブルーも真剣な顔で「うん」と頷いているのだけれども、今から四年後。今はまだ十四歳にしかならないブルーが結婚出来る十八歳を迎える年が、酉年なのだと言うのなら。
 シャングリラと、前の自分たちが暮らした白い船との縁が深い年に当たるのならば。
(今と変わらないチビでも結婚してやるか…)
 そうしようかと思わないでもない。
 万一、ブルーが育たなくても、ブルーの両親が結婚を許してくれたなら。
 小さなブルーを自分と結婚させてもかまわない、と言ってくれるならば、結婚しようか。
 酉年はどうやら運命の干支だと思えて来たから、白いシャングリラを思わせる年に。
 シャングリラのあちこちに鏤められていた、鳥との縁が深そうな年に。



(よし、四年後だな)
 そのつもりで準備しておこう、と心のメモに書き付けた。
 小さなブルーには言わないけれども、自分の中では四年後と決める。
 四年後の酉年、シャングリラと縁の深い年。
 その年にブルーと結婚しようと、ウサギのカップルになることにしよう、と。
 今度は二人、まるで同じの干支だから。
 運命のように同じウサギ年で、お揃いの干支に生まれて来たから。
 きっと結婚する時も、干支。
 今は使われない干支の御縁で、シャングリラを思わせる酉年にブルーと結婚式を…。




          お揃いの干支・了

※今のブルーとハーレイの年の差は、二十四歳。同じ干支になる勘定です。
 そして二人ともウサギ年。ウサギのカップルになるらしいです、白いウサギと茶色のウサギ。
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 ←聖痕シリーズの書き下ろしショートは、こちらv







(あ…)
 引越しの車、とブルーは乗っていたバスの窓から覗いた。
 学校からの帰り、いつもの路線バスの中。信号待ちで止まった所へ横に並んだトラックが一台。さほど大きくはないのだけれども、引越し用の荷物を専門に運ぶトラック、そうだと分かる。
(ふうん…)
 引越し用だと何が載せられているのだろう。それとも荷物を下ろした帰りで空っぽなのか。興味津々、気になる中身。けれども透視は出来ない車。ブルーでなくても、他の誰でも。
(プライバシー…)
 今の時代は、人間はみんなミュウだから。サイオンを持った者ばかりだから、透視能力を備えた人も多くて、そういう人ならトラックの荷台くらいは覗き放題、見放題。
 トラック以外の車でも。普通に走っている乗用車でも中を見られるのが透視能力者で、それでは誰もが落ち着かない。いくら見ないのがマナーと言っても、幼い子供の能力者もいる。
 ゆえに車には透視出来ない仕組みが施され、タイプ・ブルーでも覗けないらしい。小さい頃からそう聞いているし、社会の常識。
 サイオンの扱いがとことん不器用なブルーでなくても、引越しトラックは覗けない。中に荷物が載っているのか、空で走っているのかさえも。



(でも、例外…)
 透視が出来る引越し用の車があるのだという有名な話。誰もが知っている話。透視しようとするサイオンを遮る仕組みを無効に出来る引越しトラック。一時的に仕組みを解いたトラック。
 それが来たなら、誰でも中身を透視していい。荷台に何が載っているのか、覗いても誰も咎めはしない。むしろ覗き見大いに歓迎、そんなトラックにはマークがつく。
 どうぞ中身を見て下さいと、透視出来る人は覗いて下さい、と知らせるマークが。
(花嫁さんの引越しの車…)
 引越しと呼ぶのかどうかは知らないけれども、結婚して新しく住む家へ荷物を運びたい時に頼む車で、結婚式よりも前に走るのが普通。結婚したら直ぐに使えるようにと運んでおく荷物。
 新しく買った様々な家具や、新居で使うための道具や、それは沢山の花嫁の荷物。幸せの荷物。
 それを大勢の人に見て欲しいから、見て祝福をして貰いたいから、透視歓迎、覗き見歓迎。
 気付いたら中を見て下さいね、と専用のマークをつけて走ってゆく引越しトラック。



(四つ葉のクローバーなんだよね…)
 そういう時だけ、引越しトラックにつけられるマーク。目立つ所にペタリと貼って。
 幼い頃から何度も出会った、父と母とに教えて貰った。あれは花嫁さんの車のマーク、と。
 ところがブルーには透視能力など無いものだから、無いに等しいものだから。
 中を覗けると教えられても、トラックの荷台は透けてくれない。前の自分の記憶が戻る前だし、どんな具合に透けて見えるのか、イメージさえも掴めなかった。
 けれど、お祝い事の車なのだとは分かったから。幼いなりに理解したから、手を振っておいた。花嫁さんが幸せになれますように、とマークをつけたトラックに向けて。
(あんまり走っていないんだけど…)
 どうせ透視は出来はしないし、と思っていたから、気付いていないだけかもしれない。引越しの車が走って来たな、と横目で眺めているだけで。
 花嫁の荷物を載せているマーク、四つ葉のマーク。しかも四枚の葉っぱの内の一枚だけがハートらしくピンク色になっていたりする。四つ葉の緑にピンクのハート。
(とっても幸せそうなんだよ…)
 これから結婚するんです、という花嫁の幸せに溢れた心をそっくり表しているようで。ピンクのハートに幸せが詰まっているようで。
 幸せの四つ葉のクローバーのマーク、花嫁の荷物を載せている印。
 このトラックにはついていない、とバスの窓から観察した。普通の引越しトラックなんだ、と。



 赤だった信号が青になったら、引越しトラックはバスよりも先に走って行った。バス停で止まる間に行ってしまって、見えなくなった。
 それきり追い付くことも無いまま、家の近所のバス停に着いて。バスを降りたら、歩いて家へ。
 母に「ただいま」と挨拶を済ませ、部屋で着替えて、ダイニングでおやつ。引越しのトラックを目にしたことなど綺麗に忘れて、ケーキを食べてホットミルクも飲んで。
 キッチンの母に「御馳走様」とお皿やカップを返して、部屋に戻って勉強机の前に座った。何をしようか、本でも読もうかと考えていたら、頭を掠めた引越しトラック。帰りのバスで見た車。



(引越しの車…)
 なんとなく見ていただけだったけれど。
 どうせ荷物は見えはしないと、透視能力があったとしても無理な車だと見ていたけれど。花嫁の荷物の車でもない、と眺めたけれども、今頃気付いた。
 いつか自分もお世話になるのだと、引越しトラックを頼むのだった、と。
(だって、ハーレイのお嫁さん…)
 結婚した後はハーレイの家に住もうと決めていた。ハーレイは「俺がこの家に来たっていいぞ」などと冗談めかして言うのだけれども、それはちょっぴり恥ずかしい。
(パパとママがいる家でお嫁さんなんて…)
 本物の恋人同士の時間をハーレイと過ごすのが結婚生活、両親と一緒だと恥ずかしすぎる。頬が真っ赤に染まってしまう。それは困るし、結婚するならハーレイの家へ。
 そうなってくると必要な引越し、ハーレイの家まで荷物を運ぶのに引越しの車を頼まなければ。
 花嫁の荷物を載せています、という四つ葉のマークをつけた車を。
 道ゆく人々が祝福してくれる、ピンクのハートが一枚混じった四つ葉のマークがついた車を。



(だけど、引越し…)
 車を頼むのはいいけれど。花嫁になって引越すからには、引越し用の車だけれど。
 自分の部屋をぐるりと見回し、小さなブルーは首を傾げた。
(何を載せて行くの?)
 引越し用の車に載せる荷物は、何を選べばいいのだろう?
 家具も道具も、ハーレイの家には色々揃っている筈だから。一人暮らしが長い分だけ、持ち物も充実しているだろうし、足りないものなど無さそうで。
(子供部屋まであるような家…)
 遊びに出掛けた時に見せて貰った家の中。ガランとしていた印象は無い。つまりは家具も揃っているということ、あの家に見合った大きさの家具が。ハーレイが使っても余るほどの家具が。
 クローゼットにしても、食器棚にしても、きっと余裕はたっぷりとあって。
 ブルーの分の荷物が増えても、溢れずに仕舞えるに違いない。
 大抵のものは今ある分だけで充分間に合う、買い足さなくても問題無い筈。
 ハーレイの家に何でもあるというなら…。



(もしかして、要らない?)
 引越し用のトラックなどは。花嫁の荷物のマークの車は。
 載せてゆくだけの荷物が無いから、運んで貰うような荷物を持っていないから。
(なんだか残念…)
 せっかくお嫁に行くというのに、荷物無しだなんて。
 見かけた人たちが祝福してくれる、幸せのマークの引越しトラックを頼めないなんて。
(ぼくの荷物も、少しはあるけど…)
 服や身の回りのこまごまとしたもの、後はせいぜい本くらい。トラックを頼む量ではない。箱に詰めたら、普通の車で運べる程度のささやかな荷物。
(ハーレイの車で運べばおしまい…)
 一度に全部は運べなくても、何往復かすれば充分。たったそれだけしかない荷物。引越しの車を頼めない荷物。
(…それって、とっても寂しいんだけど…)
 花嫁の荷物を運ぶ車の出番が無いまま、結婚式。
 ピンクのハートが一枚混じった、四つ葉のマークをつけた車で荷物を運んでゆけないなんて。
 大好きなハーレイと結婚するのに、今度は結婚出来るのに。



(引越しの荷物…)
 ハーレイの車に載せてゆくには大きすぎる荷物が何か無いか、と考えていて。
 部屋にある家具などを端から眺めて、クローゼット、と思い付いた。ハーレイの家には代わりの家具があるだろうけれど、このクローゼットは特別だから。秘密の印がついているから。
 ハーレイもきっと気付いてはいない、鉛筆で微かに引いた線。前の自分の背丈と同じ高さの所に引いた線。それが目標、そこまで自分の背丈が伸びたら…。
(ハーレイとキスが出来るんだよ)
 その日が来るまで、何度見上げることだろう。鉛筆で微かに引いてある線を。ハーレイとキスが出来る背丈を教えてくれる小さな印を。
 このクローゼットは持って行ってもいいかもしれない。印のことをハーレイに話せば、賛成してくれることだろう。「お前の思い出の家具なんだな」と。持って来ればいいと、きっと笑顔で。



(他に何か…)
 クローゼットだけではトラックの荷台が余るだろうから、かさばりそうな思い出の荷物。他にも何か、と部屋のあちこちに視線を投げ掛ける内に目に入った窓。いつもハーレイに手を振る窓。
 その窓を見て気が付いた。窓から見下ろせる庭に置かれた大切な家具に。
(テーブルと椅子…!)
 庭で一番大きな木の下、据えられた白いテーブルと椅子。出しっ放しにしておける家具。雨風に強くて丈夫な存在、軽く拭くだけで汚れも落ちる。買った時と同じに真っ白なまま。
 あれを持って行こう、引越しの車に載せて貰って。
 ハーレイと初めてのデートをした場所、忘れられない思い出の場所。何度も二人でお茶を飲んだ場所、今でも晴れた休日の午後には外でティータイムをすることもあるし…。
(うん、あのテーブルと椅子は持って行かなくちゃ!)
 頑丈に出来た屋外用だから、結婚する頃にも新品同様、剥げていたりはしない筈。小さな傷なら出来ているかもしれないけれども、その傷にも思い出が詰まるのだろう。
 いつの間に出来た傷なんだろう、とハーレイと二人で指でなぞったり、眺めたりといった。



(でも…)
 白いテーブルと椅子は引越しの車に載せられるけれど、梱包して載せて貰えるけれど。
 お気に入りの場所ごと持っては行けない。あのテーブルと椅子が置いてある場所、その場所ごと車に載せてはゆけない。
(あの木はトラックに載せられないよ…)
 庭で一番大きな木。運ぶとしたなら、それこそ専用の大きなトラックが要ることだろう。花嫁の荷物を運ぶ車とは別に、庭木の手入れを専門に手掛ける業者の車が。
 そこまでして家から運んでゆけない、ハーレイの家の庭に植え替えることも出来ない。あの木はこの家の庭が居場所で定位置なのだし、知らない家に連れてゆかれても困るだろう。それに根付くとも限らないから、枯らしてしまったら可哀相だし…。
(ハーレイの家に…)
 白いテーブルと椅子を置くのにピッタリの場所はあるのだろうか?
 あの木の代わりに木陰を提供してくれるような、頼もしい木はあっただろうか?



(どうだったっけ…)
 ハーレイの家の建物に夢中で、ろくに見ないで帰って来た庭。広さは充分あったけれども、木も何本もあったけれども、白いテーブルと椅子を置いても大丈夫な場所の記憶が無い。
(木の大きさを覚えていないよ…)
 より正確に言うなら、枝ぶり。枝を周囲に広げない種類の木も色々とある。そういった木なら、いくら大きくても木陰を作り出してはくれない。真っ直ぐに上へと伸びるだけの木。
 ハーレイの家の庭はどうだったろうか、と考え込んでいたら、チャイムが鳴った。窓から覗けば手を振るハーレイ。門扉の前で、こちらに向かって。
 これはハーレイに訊かねばなるまい、庭の持ち主なのだから。



 部屋に来てくれたハーレイと二人、お茶とお菓子が置かれたテーブルを挟んで向かい合わせ。
 早速、窓を指差して訊いた。あそこの白いテーブルと椅子はハーレイの家の庭に置けるか、と。
「あれか? もちろん置けそうな場所ならあるが…」
 なんだ、突然、どうしたんだ?
 あのテーブルと椅子をどうするつもりだ、俺の家の庭に置けるか、って…。
「…お嫁さんの車…」
「はあ?」
 鳶色の瞳が丸くなった。全く意味が分からない、と言わんばかりの表情だから。
「えっとね、引越しの車のことだよ。あるでしょ、花嫁さんの荷物を運ぶ車が」
 四つ葉のマークをつけたトラック。中を透視したってかまわない車。
「あるな、お前には透視は出来そうもないが…。見たのか、花嫁さんの車を?」
 あのマークをつけて走ってる車、行きか帰りのバスから見たのか?
「ううん、普通の引越しトラック…」
 帰りに乗ったバスの隣に止まってたんだよ、信号待ちの間。
 その時は花嫁さんの荷物の車じゃないな、って思っただけで帰って来たけど…。



 でも、とブルーは説明した。
 花嫁の荷物を運ぶ車には、自分もいつかはお世話になるから、荷物を考えていたのだ、と。同じ引越すなら花嫁の荷物だと示すマークをつけた車を頼みたい、と。
「ぼくの荷物は少しだけだし、ハーレイの車で運べないこともないんだろうけど…」
 それじゃ、やっぱり寂しいよ。お嫁さんらしく、あの車で荷物を運びたいよ…。
「気の早いヤツだな、今から引越しの算段なのか?」
 でもって、荷物が少なすぎるからと、かさばる荷物を探している、と…。
「駄目…?」
 引越しトラックを頼みたいからって荷物を増やすというのは駄目?
「駄目とは言わんが…。嫁に来るなんて、一生に一度のことなんだからな」
 特別なトラックを頼みたい気持ちは分からんでもない。無理やり荷物を増やしてでもな。
 それで、あそこのテーブルと椅子がどうしたって?
 あれも荷物の候補だと言うのか、お前の嫁入り道具ってヤツの?



 ハーレイの口から「嫁入り道具」という言葉。ブルーの心臓がドキリと跳ねた。花嫁の荷物だと思っていたのだけれども、そういう言葉もあったのだった。嫁入り道具。
 なんて素敵な響きだろう、と胸を高鳴らせて、嫁入り道具にしたい白いテーブルと椅子を置ける場所があるかをもう一度訊いた。
「えっと…。あのテーブルと椅子を持って行きたいけど、置ける場所、ある?」
 ハーレイの家の庭にあるかな、あれを置ける場所。
「そりゃあ、あるが…。さっきも言った通りにな」
 いくらでもあるぞ、置けそうな場所は。俺の家の庭は無駄に広いし。
 俺が最初の頃に持って来ていた、キャンプ用のテーブルと椅子があっただろう?
 あれは俺の家の庭で使うヤツだぞ、置き場所に困ったことは一度も無いな。
「それじゃ、大きな木とかはある?」
 ぼくの家であれを置いているような、いい具合に木漏れ日が射し込む所。
 そんな風に枝を広げている木は、ハーレイの家の庭にもあるの?
「なるほどなあ…。置き場所というのは、そういう意味か…」
 お前がのんびりお茶を飲むのに向いている場所、と言いたかったのか。
 あのテーブルと椅子を持って来るだけの価値がある場所の有無ってわけだな。そういうことなら俺も悩むな、場所はいくらでもあるんだが…。



 実は試してみたことがない、とハーレイは苦笑交じりに答えた。
「あの家に住んで長いんだが…。庭とも長い付き合いなんだが、一人でお茶は飲まんしな?」
 俺が女性なら、そういった気にもなったんだろうが、生憎と男の一人暮らしだ。庭にテーブルを出して一人でお茶と洒落込むよりかは、書斎でコーヒーなんだよなあ…。
 ついでに、俺の家でキャンプ用のテーブルと椅子を持ち出す時には太陽の下だ。柔道部員だの、水泳部員だのが押し掛けるんだぞ、木陰でお茶ってわけじゃない。ヤツらにお茶は似合わんさ。
 バーベキューとかだ、と語るハーレイ。眩しい日射しが似合いなのだと。
 だからハーレイは知らないらしい。白いテーブルと椅子を置けそうな木陰というものを。
「…じゃあ、あのテーブルと椅子を持って行っても…」
 置けそうな場所は無いかもしれないの?
 ハーレイの家の庭にも木はあるけれども、ぼくが気に入りそうな木陰は?
「いや、そうと決まったわけでもないぞ。まるで木陰が無いわけじゃないし…」
 あれが置けるような場所を探せばいいだろ、きっと何処かにあるだろうさ。



 お前の好みにピッタリの場所、と微笑まれた。
 白いテーブルと椅子にお似合いの木陰、そういった場所が庭の何処かに隠れているぞ、と。
「…隠れているの?」
「うむ。俺が今まで気付かないんだ、それは隠れているからだろう?」
 木は何本も植えてあるから、もちろん木陰だってある。俺が気にしていなかっただけで。
 お前の気に入る場所が見付かるまで、あちこち探して移動はどうだ?
 今日はこっちで、次はあっち、と。テーブルと椅子を俺が運んで。
「…お茶の度に場所を変えるわけ?」
「そうさ、テーブルと椅子を運ぶくらいは俺には何でもないからな」
 ヒョイと持ち上げて移動するだけだ、お茶の時間の途中でも。
 思った以上に眩しすぎるぞ、なんて時には、ティーセットとかを避難させてから移動だな。
 場所を変えたら、またセッティングをすればいいんだ。それからお茶を続行する、と。



 今から俺が探しておくという手もあるが…、とハーレイは鳶色の瞳を片方瞑って。
「どうせだったら、お前も一緒に探したいだろ?」
 なんと言っても、お前が住むようになる家にくっついている庭なんだ。
 その庭にどんな場所があるのか、どういう風に陽が当たるのか。そいつを自分の目で確かめたいとは思わんか?
 俺に任せてしまうよりかは、二人で一緒にお茶にピッタリの場所を探してみるのが。
「そうだね、その方が楽しそう!」
 此処だから、って案内されても嬉しいけれども、まだ見付かっていないなら…。
 ハーレイも見付けていないんだったら、その場所、二人で探したいな。
「よし、それだったら決まりだな。俺と二人で庭を回って木陰の旅だ」
 これからよろしく、っていろんな場所に挨拶をして回るといい。俺と二人でお茶を飲みながら。
 あのテーブルと椅子を持って来るなら、庭のあちこちでお茶にしようじゃないか。
「うんっ!」
 お茶の途中で移動するなら、ぼく、ティーセットくらいは運んで行くよ?
 ハーレイがテーブルと椅子を運んで、ぼくはティーポットとカップとお菓子。
「ほほう、そいつは頼もしいな。まあ、その程度ならお前でも充分、持てるだろうし…」
 お前のお母さんだって二階まで運んで来るんだからなあ、お茶とお菓子を。
 だったら、そっちはお前に任せておくことにするか。だが…。



 この家に残しておくのも一つの手だぞ、とハーレイに言われた白いテーブルと椅子。
 今の木の下に、お前の居場所に、と。
「え…?」
 居場所ってなあに、どういう意味なの?
「そのままの意味だ。お前がたまにこの家に帰って来た時、居場所が無いと困るだろう?」
 お前が住んでた部屋は荷物ごと引越しちまって空っぽ、庭も空っぽ。…寂しくないか?
 せっかく家に帰って来たのに、自分の居場所が無いんじゃなあ…。
「そっか…。言われてみればそうかもね…」
 お気に入りの本とか、丸ごと引越しちゃうんだし…。この部屋もガランとしちゃうんだね。
「分かったか? お前の部屋の家具だけは残しておく手もあるが…」
 それでも中身は空っぽだしなあ、やっぱり寂しくなると思うぞ。
「ぼくの家具…。クローゼットは持って行きたいんだけど…」
「あれをか? 確かに服とかを入れたままで運べるサービスもあるし、便利ではあるか…」
 ブルーが書いた背丈の印を知らないハーレイは、勝手に納得したようで。
 一人で使えるクローゼットもいいかもしれないと、持って来るといいと頷いた。
「ホント? クローゼットは持って行ってもいいんだね?」
「もちろんだ。…しかし、あれが無くなると部屋が一気に寂しくなるなあ…」
 ベッドは残しておくにしたって、見慣れた景色が変わっちまうぞ。
 勉強机も多分、置いては行くんだろうが…。



 それでも部屋の印象がかなり…、と見回すハーレイの視線を追っている内にブルーの目に付いたもの。まるで気付いていなかったもの。
「あっ、そうだ!」
 いきなりブルーが声を上げたから、ハーレイが「どうした?」と問い掛けて来た。
「どうかしたのか、何か用でも思い出したか?」
「そうじゃなくって…。このテーブルと椅子も持って行かなくちゃ!」
 今、ハーレイと使っているヤツ。これは絶対、持って行かなきゃいけないんだよ。
 いつもハーレイと使ってるんだし、持って行きたいよ。ぼくとハーレイとの思い出の場所。
「忘れていたのか、こいつの存在?」
 置いて行くとか、持って行くとか、そういう以前に忘れていた、と…。
 そんな所か、今の様子じゃ?
「…うん…」
 ホントにすっかり忘れちゃっていたよ、その椅子、ハーレイの指定席なのに。
 こっちの椅子がぼくの指定席で、それとテーブルとでセットのもの。
 とても大事なテーブルと椅子なのに、頭に浮かびもしなかったなんて…。



 庭の白いテーブルと椅子に気を取られちゃってた、と白状した。
 同じテーブルと椅子ならこっちの方が遥かに思い出深くて、絶対に持って行きたいのに、と。
「だけど…。これも持って行っちゃうと、ぼくの部屋、ホントに寂しくなるね」
 クローゼットが無くなっちゃって、此処のテーブルと椅子も無くなって…。
 本棚は殆ど空っぽだろうし、ぼくの部屋だって感じがしなくなるかも…。
 ベッドと机は置いてあっても、ハーレイが言う通りに寂しい感じ。ぼくの部屋なんだけど、ぼくらしい感じがしないって言うか…。
「ほらな、そういうものなんだ。俺にも経験が無いこともない」
「…経験?」
「隣町の親父の家のことさ。あそこにも俺の部屋があるんだ、俺が使っていた部屋が」
 この町に引越ししてくる時にな、家具はそっくり新しくしたが…。
 たまに帰った時に使えばいいさ、とベッドも机も置いて来たんだが、やっぱり何かが違うんだ。俺の気に入りの本とかがゴッソリ消えちまっただけで、気分は他人の部屋ってトコか。
 親父の家に泊まる時には使っちゃいるがだ、昔のようには落ち着かん。元の俺の部屋でのんびり過ごす代わりにリビングにいたり、ダイニングやキッチンに居座ってたり…。
 要は昔のまんまの場所がいいんだな、家具とかは多少変わっていても。
 親父とおふくろが前と同じに生活していて、同じような匂いがする場所がな…。



 だから、とハーレイは窓の向こうの庭に目を遣って。
「お前も寂しくならないようにだ、あそこのテーブルと椅子は置いといちゃどうだ?」
 そうすりゃ、あそこは変わらないままだ。今と同じにお前の居場所だ、花壇の花とかが違う花になっても。お前があそこに座った時には、前と同じに迎えてくれるぞ、テーブルと椅子が。
「…どうしようかな…」
 ハーレイが話してくれた経験、分かる気がするよ。
 あのテーブルと椅子を持って行きたいな、って思った時にね、木は運べないって気が付いて…。
 あそこに生えてる庭で一番大きな木。庭のテーブルと椅子はあの木とセットで、あれごと持って行きたいんだけど…。
 それがハーレイの言ってる昔のまんまっていうヤツなんだね、あの木の下が。
「そういうことだな、あの木の下がお前の居場所ってわけだ」
 あの木を俺の家の庭に持って来たって、お前の居場所にはならんと思うぞ。
 たとえ上手に植え替えられても、お前は「違う」と思うだろう。あそこにあるからこそなんだ。この家の庭にどっしりと立って、お前の居場所を作っているのがあの木なんだな。
 そこに気付いたなら、テーブルと椅子は残しておくのがお勧めだ。お前が此処に帰って来た時、庭に出るだけで昔と変わらない居場所があるっていうわけだからな。



 あちこちウロウロ探さなくても庭に出るだけで落ち着くぞ、と言われたけれど。
 一理あるとは思うのだけれど、白いテーブルと椅子をハーレイの家に持って行けたら、また別の居場所が見付かるのだと聞いていたから。
 ハーレイと二人で似合う木陰を探して回って、庭に挨拶したい気持ちもあったから。
「テーブルと椅子…。置いておきたい気もするけれども、持って行きたい気もするし…」
 あれを持って行ってハーレイの家の庭にも挨拶したいよ、これからよろしく、って。
 あのテーブルと椅子が似合う場所を探しに、ハーレイと庭をあちこち回って。
「なら、それ用に新しく買って持って来たらどうだ?」
 花嫁さんの荷物ってヤツは新品の家具が多いんだ。しかし、お前はクローゼットだの、この椅子だのと言ってるし…。新品どころか馴染みの家具ばかり積み込む気だろ?
 庭用のテーブルと椅子くらいは新品でどうだ、値段も大して高くはないしな。結婚祝いに、って頼まなくてもお父さんが買ってくれると思うぞ、あれとそっくり同じヤツを。
 俺の家は新しい家じゃないがだ、庭に新品の白いテーブルと椅子が来たなら立派に新居だ。
 新しいのを買って持って来い、今のはそのまま残しておいて。
「そっか、同じのを買って貰えばいいんだよね…!」
 パパとママに頼んで、あれと同じの。
 結婚する頃にもきっと同じのを売っているよね、それがあったらハーレイの家の庭でもお茶。
 庭に挨拶して回ってから、ハーレイの家にもぼくの居場所を作れるよね。ぼくの家のテーブルと椅子はそのまま残して、ぼくの居場所に取っておいて。



 花嫁の荷物を運ぶ車に、四つ葉のマークをつけた車に、新しい白いテーブルと椅子。
 載せてゆくのもいいかもしれない、ハーレイの家の庭の木陰に置くために。
 ハーレイと初めてのデートをした場所、それはこの家にそのまま残して、思い出の場所を新しく探して作り出すために。ハーレイの家の庭でお気に入りの場所を見付けて、据えて。
(それもいいよね…)
 庭で使うための白いテーブルと椅子。それを引越しの車に載せる。
 この部屋に置いてある、今、ハーレイと向かい合わせでお茶を飲んでいるテーブルと椅子も。
(やたらテーブルと椅子だらけだけど…)
 それにクローゼット、それだけあったら引越し用の車。一番小さなサイズの車には充分お世話になれそうだから。
 ハーレイの車で何回か往復、それで終わりの引越しには決してならないから。
 花嫁の荷物を運ぶ車で引越しが出来る、ハーレイの家へ。四つ葉のマークをつけた車で。



(テーブルと椅子…)
 部屋のと、庭用の白いテーブルと椅子と。
 庭で一番大きな木の下、ハーレイと初めてのデートで座った場所。その白いテーブルと椅子とをどうしよう?
 庭にあるのを車に載せるか、新しく買って積んで貰うか。
(ぼくの居場所を残すんだったら、庭のはそのまま…)
 今日はそういう気分だけれども、明日になったらどうなっているか分からない。持って行きたい気分かもしれない、今ある白いテーブルと椅子を。
(…最初はあれを持って行こうと思ってたんだし…)
 どうしようかな、と悩ましいけれど、まだまだ考える時間はたっぷりとある。結婚出来る十八歳までは何年もあるから、まだ来ないから。
 けれど、その日が待ち遠しい。
 新しいテーブルと椅子を買うにしても、今のをそのまま積み込むにしても。
 花嫁の荷物が載っているのだ、と周りに知らせる四つ葉のマーク。
 それをつけた引越し用の車を頼んで、荷物を運んで貰える日が。
 ハーレイの花嫁になるための荷物をトラックに積んで、この家から送り出せる日が。
 その日が来たなら、結婚式はすぐそこだから。ハーレイと結婚出来るのだから…。




             花嫁の荷物・了

※ブルーが見かけた、花嫁さんの荷物のトラック。いつか自分もお世話になるんですけど…。
 庭にある白いテーブルと椅子を、ハーレイの家に持って行くべきか。悩む時間はたっぷり。
 ←拍手して下さる方は、こちらからv
 ←聖痕シリーズの書き下ろしショートは、こちらv








※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
 バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。




新しい年が明け、初詣も済んで冬休み終了。優勝すると指名した先生に闇鍋を食べさせられるイベント、お雑煮大食い大会なども教頭先生を巻き込んで終わり、なべてこの世は事も無し。受験シーズンまでは平穏かな、と思っていた私たち特別生七人グループですが。
「「「えぇっ!?」」」
放課後に訪れた「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋で全員がビックリ仰天、目が点と言うか、何と言うべきか。
「…そ、それは冗談じゃなくて本当なのか?」
そうなのか、とキース君の掠れた声。洋梨入りのモンブランを食べかかっていた手もフォークを持ったままで止まっています。
「かみお~ん♪ ちゃんと電話が来たんだよ!」
「し、しかしだな…!」
如何なものか、と呻くキース君に、会長さんが。
「もちろん電話は代わったよ、ぼくが。でもってキッチリ釘を刺したけど?」
「だろうな、だったらその件はそれで終わりということか」
「さあ…?」
どうなんだろうねえ、と首を捻っている会長さん。
「なにしろ動機が動機だからさ…。きちんと手順を踏め、と言っておいたから踏んで来るかも」
「「「はあ?!」」」
「だから手順だよ、未成年者をデートに誘うならまずは保護者の承諾だ、ってね」
「未成年どころか幼児だろうが!」
キース君の怒声が炸裂、私たちも揃って「うん、うん」と。けれど会長さんはケロリとした顔で。
「いいんじゃないかな、ぶるぅは三百歳を余裕で超えているわけだしさ…。その辺の幼児とはちょっと違うよ、家事だって万能なんだから」
「それはそうですが…」
そうなんですが、とシロエ君。
「そもそも、どうしてぶるぅなんです?」
今までにそんな話は一度も…、と言いたい気持ちは誰もが同じ。会長さんは「それはねえ…」と足を組み直して勿体を付けて。
「代理だよ、代理」
「「「代理!?」」」
ますますもって謎な方向へ。いったい誰の代理になったら、そういう話に…?



デートに誘われた「そるじゃぁ・ぶるぅ」。昨夜、電話がかかってきたそうで、電話の向こうは教頭先生だったとか。なんでデートで、しかも代理って…。顔を見合わせた私たちですが、会長さんは「分からないかなあ?」と自分の顔を指差して。
「コレだよ、コレ」
「「「は?」」」
「同じ顔だというわけだってば、ぼくとぶるぅと!」
「「「えぇっ!?」」」
どの辺が、と叫びたい気持ちを私たちはグッと飲み込みました。「そるじゃぁ・ぶるぅ」と会長さんは似ていますけれど、それは大まかな部分だけ。六歳以上になることはない「そるじゃぁ・ぶるぅ」が仮に高校生まで育ったとしても、超絶美形になれるかどうか…。
「ああ、そういうのは分からないねえ…」
ぶるぅは育たないからね、と会長さん。
「おまけに、ぼくが小さかった頃の写真とかは何も残っていないしね? なにしろ家ごと島と一緒に吹っ飛んだから」
「「「………」」」
そうだった、と沈黙が落ちて、キース君が左手首の数珠レットの珠を一つ、二つと繰っています。心でお念仏を唱える時のキース君の癖で、つまりは只今、お念仏中。
会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」が育った故郷の島、アルタミラは火山の噴火で一夜にして海に沈んだ島。瞬間移動で逃げた会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」以外は誰も助からず、会長さんがお坊さんの道へ進んだ理由がソレ。
早い話が「そるじゃぁ・ぶるぅ」くらいの年頃の会長さんを知る人は誰もいなくて、写真も無し。実は瓜二つだったんです、という衝撃の事実が無いとは言えず…。
「まあ、双子ってほどに似てはいないと思うけどねえ?」
だけど弟程度には似てる、と会長さんは「そるじゃぁ・ぶるぅ」に「ねえ?」と声を。
「可愛い弟が出来て良かったわね、と言っていたよね、ぼくのママとか」
「うんっ! お隣の人とか、親戚の子なの? って訊いてくれたよ!」
だから似てるの、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「それでね、ハーレイがデートに連れてってくれるの!」
「ぼくがオッケーすれば、だけどね」
予定は未定、と会長さんは言っていますが、「そるじゃぁ・ぶるぅ」はすっかりその気。教頭先生、どんな電話をしたんでしょう?



「えっと、えっとね…。ぼくが電話に出たんだけれど…」
いつも出てるし、と答える「そるじゃぁ・ぶるぅ」はとっても良い子。出前の注文なども自分で電話をかけてますから、もちろん電話に出られます。昨夜もいつも通りに受話器を。
「ハーレイって出てたし、用事かなあ、って」
「「「あー…」」」
教頭先生はシャングリラ号のキャプテンでもある重鎮です。電話番号は当然登録してあるでしょうし、電話が来たなら用事と思っても不思議ではなく。
「きっとブルーに用事だよね、って電話を取ってね、ブルーに代わるね、って言おうとしたら…」
「待てと慌てて叫んだらしいよ、あのスカタンは」
会長さんときたら、教頭先生をスカタン呼ばわり。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が電話に出る前、「ハーレイだあ!」と声を上げたらしく、会長さんは逃げる用意をしていたとか。
「出掛けてますとか、もう寝ましたとか…。とにかく居留守さ、お風呂だとは絶対に言ってあげないけどね」
勝手に妄想されてたまるか、とプリプリと。そりゃそうでしょう、教頭先生の日頃の妄想は私たちだって知る所。会長さんがお風呂だと聞けば、きっとあれこれ妄想爆発。
「ね、君たちだってそう思うだろ? だから適当に理由をつけて…、と身構えてたのに、なんだか様子がおかしくってさ」
「だって、誘ってくれたんだもの…」
土曜日に遊びに行かないか、というのがデートへのお誘い、第一段階。「そるじゃぁ・ぶるぅ」は「わぁーい、みんなで?」と大喜びで返事をしたのに、「いや、二人でだ」と返って来て。
「それでね、御飯を食べに行こうって…。お茶もお菓子も御馳走するって!」
「ぶるぅが「えっ、何処で?」とか「何処行くの?」とか言い出したからさ、受話器を引っ手繰ったわけ。そして問い詰めたらデートのお誘い」
実に危ない、と会長さんはブツブツブツ。
「小さな子供を食事だ、おやつだ、って誘い出してね、連れて行こうっていうのは危険すぎだよ」
そういうのを世間では誘拐と呼ぶ、と言われましても。
「知り合いだったら違うだろうが!」
「さあ、どうだか…」
キース君の怒鳴り声に「ハーレイだしねえ…」と会長さんは両手を広げてお手上げのポーズ。誘拐は違うと思いますけど、会長さんに惚れてる人だと危ないのかな?



「なんでぶるぅを誘ったんだ、って訊いたんだけどさ…。ぼくは脈なしだから気分だけでも、って動機が不純すぎるんだよ!」
「気分だけなら全く問題ないと思うが」
ぶるぅが食事に出掛けるだけだ、とキース君。
「教頭先生の奢りで食事とおやつだ、傍目には微笑ましい光景としか映らんだろう」
「だよねえ、何処かへ遊びに行っても親戚の叔父さんと甥っ子とかさ」
変じゃないよ、とジョミー君も。
「そうでしょ、みんなもそう思うでしょ?」
それにとっても楽しそうなの、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「ハーレイ、ぼくがシャングリラ号に乗った時には遊んでくれるし、デートも絶対、楽しいよ! だから行きたいと思ったのに…。ブルーが電話をガッチャン、って…」
「危ないと何度も言ってるだろう!」
相手はハーレイ、と会長さんが何度言っても、納得しないのが「そるじゃぁ・ぶるぅ」。誘拐と違ってデートなんだと、知らない大人について行くのとは違う、と残念そうで。
「ぼくはデートに行きたいのに…」
「手順を踏め、って言っておいたし、懲りずに来るとは思うけどねえ?」
だけど断る、と会長さんは素っ気なく。
「ぼくそっくりだからデートだなんて言い出す馬鹿にね、ぶるぅを貸したりしないから!」
「見張っていればいいんじゃないか?」
心配ならば、とキース君の意見。
「シールドに入って追いかけてもいいし、保護者だから、と少し離れて監視したっていいだろう。ぶるぅはデートに出掛けたいんだし、たまには自由に遊ばせてやれ」
「遊びとデートは違うから!」
「おんなじだもん!」
ブルーのケチ! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は頬っぺたをプウッと膨らませました。
「ぼくだってデート、してみたいもん! ブルーはいつもフィシスとデートをしてるんだもん!」
「ぶるぅ、デートは子供がするものじゃなくて…」
「ハーレイ、お子様コースでお出掛けしようって言ってたもん!」
絶対、行きたい! と譲らないお子様、「そるじゃぁ・ぶるぅ」。料理上手の「そるじゃぁ・ぶるぅ」が出掛けちゃったら、私たちは外食になってしまいますけど…。外食を兼ねて監視してれば特に問題なさそうな気も…?



デートに行きたい「そるじゃぁ・ぶるぅ」と、断固反対の会長さんと。私たちは日頃お世話になっている「そるじゃぁ・ぶるぅ」の希望を叶えてあげたい立場で、そのためならば外食も監視も受けて立とう、と思うわけで。
「あんた、ぶるぅが遊べるチャンスを潰してどうする」
デートだと思うから間違えるのだ、とキース君が真っ向勝負を挑みました。
「教頭先生がデートなのだと仰っても、だ。ぶるぅは子供だし、遊びにしかならん」
「…それはそうかもしれないけれど…」
「ならば遊びに行かせてやれ! 俺は喜んで監視係を引き受ける!」
お前たちもだよな、と問われて頷く私たち。本物のデートの監視は困りますけど、遊びだったら問題なし。ましてや「そるじゃあ・ぶるぅ」はお子様、行き先も知れているでしょう。
「ぼくも大いに賛成だねえ…」
行かせてあげて、と背後で声が。
「「「!!?」」」
振り返った先に優雅に翻る紫のマント。空間を超えて来たソルジャーはスタスタと部屋を横切り、空いていたソファに腰掛けて。
「ぶるぅ、ぼくにもモンブラン!」
「かみお~ん♪ それと紅茶だね!」
援軍到着に「そるじゃぁ・ぶるぅ」は大喜びで飛び跳ねて行って、ソルジャーのためのケーキのお皿には小さなマカロンが添えられるという歓待ぶり。
「あのね、マカロン、試作品なの! 味見にどうぞ!」
「嬉しいねえ…。ぼくは特別扱いなんだ?」
「うんっ! ブルーならブルーに勝てそうだもの!」
ホントにデートに行きたいんだもん、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」の瞳がキラキラ。試作品のマカロンとやらは美味しいに違いありません。数が少ないから私たちには出なかっただけで…。
ソルジャーはマカロンを頬張り、「ピスタチオ?」とニッコリと。
「そう! ピスタチオクリームたっぷりなの!」
「試作品を御馳走になったからには、ぼくからも御礼をしないとねえ…」
美味しかったしね、と微笑むソルジャー。
「というわけでね、ぼくからの御礼。ブルー、デートを許可したまえ」
ぼくも監視を手伝うから、と頼もしい言葉。普段は何かとトラブルメーカー、迷惑三昧のソルジャーですけど、こういう時には最強の味方になるんですねえ!



「こっちのハーレイが、ぶるぅとデート。実に微笑ましい光景だよ、うん」
何の問題も無いじゃないか、とソルジャーは私たちと同意見。
「君と同じ顔だと言っても、ぶるぅは小さな子供だしねえ? 知り合いなんだから誘拐も無いし」
「だけど、相手はハーレイなんだよ!」
頭の中でどんな妄想が爆発するか…、と会長さん。
「ぶるぅとデートで盛り上がっちゃって、ぼくのつもりでキスしちゃうとかさ!」
「…そこまで酷くはないと思うけどねえ、こっちのハーレイ…」
「君子危うきに近寄らずだよ!」
デートしなければ危険も無いのだ、と会長さんは一歩も引かず。ソルジャー相手に互角の言い争いを続けましたが、ソルジャーの方もマカロンの御礼とばかりに奮闘を。そして…。
「分かった。要は、ぶるぅがハーレイと一対一なのが心配なんだね?」
「そうだけど…。ぼくが一緒に行くとなったら、それこそハーレイの思う壺だよ!」
それくらいなら全員で行く、と会長さんの得意技。自分一人だと誘い出しておいてゾロゾロとお供がついていたことは過去に何度もあった悪戯。「そるじゃぁ・ぶるぅ」には悪いですけど、それでもいいかな、と思った所へソルジャーが。
「君の代理を増やせば解決するんじゃないかい?」
「「「はあ?」」」
会長さんの代理が「そるじゃぁ・ぶるぅ」で、教頭先生がデートに誘って来た相手。更に代理を増やすだなんてどうやって…、と派手に飛び交う『?』マーク。
「き、君はまさか…」
「ぼくが行こうって言うんじゃないよ?」
それじゃぶるぅが気の毒すぎる、と返すソルジャー。
「君そっくりのぼくが行ったら、こっちのハーレイ、ぼくに夢中になっちゃうからね? ぶるぅが忘れ去られてしまうか、希望のコースを外れてしまうか…。どっちにしたって気の毒だってば」
「だったら、誰が代理に立つわけ?」
「決まっているだろ、ぶるぅだよ!」
「「「ぶるぅ!?」」」
ゲッと仰け反る私たち。「ぶるぅ」と言えばソルジャーの世界のシャングリラ号に住む、「そるじゃぁ・ぶるぅ」のそっくりさん。大食漢の悪戯小僧で私たちも散々な目に遭って来ましたけど、その「ぶるぅ」をデートの面子に追加すると…?



「…ぶ、ぶるぅをデートに…」
会長さんの声が震えましたが、ソルジャーは「名案だろ?」と極上の笑顔。
「両手に花って言葉もあるから、両手にぶるぅ! ぶるぅも二人は悪くないよね?」
「んとんと…。ぶるぅもデートに来てくれるの?」
「ぶるぅが呼んで欲しかったらね」
「行くーーーっ!」
ぶるぅも一緒にデートするんだ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は大歓声。悪戯小僧の「ぶるぅ」とはいえ、「そるじゃぁ・ぶるぅ」とは大の仲良し、遊び友達。
「ぶるぅも行くなら凄く楽しみ! デート、行きたいーーーっ!」
「ほらね、ぶるぅも喜んでるし! ぶるぅが二人で、それとハーレイ。これで解決!」
ぼくのぶるぅはしっかりしてる、とソルジャーの言。
「君が心配する妄想とやらも、ぶるぅに任せておけば安心! ぶるぅは大人の時間の覗きで鍛えて心得もあるし、こっちのハーレイが暴走したって上手く躱すよ」
「そ、そういう点では頼もしいけど…」
でも、と会長さんは難しい顔。
「ハーレイがそれをオッケーするかな、ぶるぅが二人って」
「オッケーしなけりゃデートはチャラだし、君の最初の狙い通りに御破算だけど?」
「言われてみれば…」
デートを潰すか、ぶるぅを二人に増やすかなのか、と会長さん。
「なるほどねえ…。それならデートが実現したって安心かもねえ、ぶるぅつきなら」
「そうだろう? ぼくの方のぶるぅもデートと聞いたら喜ぶだろうし、こっちのぶるぅと遊べるし…。その方向で話を進めることがお勧め」
ハーレイが手順を踏んで来たなら提案すべし、とソルジャーは会長さんの背中をバンッ! と。
「どんな手順か知らないけれども、今度の土曜日にデートなんだよね?」
「そうだけど…。ハーレイは懲りずに頑張ってるかと」
「どういう手順?」
「店の予約とか、下調べとか…。人数が増えたら増えたでサッと対応してくれなくちゃ」
ぶるぅが二人なら二人分、と会長さんはソルジャーの案に乗っかりました。デートに行かせて貰えそうだ、ということで「そるじゃぁ・ぶるぅ」は御機嫌です。ソルジャーのお皿にマカロンの追加。試作品、色々あったんですねえ、ソルジャーがちょっと羨ましいかも…。



その日の夜。「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋で会長さんやソルジャーたちに「さよなら」をして、家で夕食を食べた私たちの所へ思念で連絡が届きました。
『もしもーし! みんな、部屋かな?』
会長さんの思念波です。私はちょうど部屋に居ましたし、他のみんなも。キース君だけが本堂の戸締りに出掛けていたようですけど、「すぐに戻る」という返事。
『それなら中継、オッケーだよね?』
『『『中継?』』』
『ハーレイが電話をかけて来たから、手順を踏めって家に呼んだわけ!』
これから来るんだ、と会長さん。デートの申し込みに家まで来いとは凄すぎですけど、やりかねないな、という気もします。教頭先生が到着なさったら中継開始というわけですか…。
『幸か不幸かブルーがいるしね、楽勝でみんなに生中継!』
『そう! SD体制の世界で場数を踏んだぼくに、ドンとお任せ!』
部屋で暫くお待ち下さい、とソルジャーからのご案内。此処がいいな、と思う辺りを眺めていれば中継画面が出るそうです。ベッドの向こうの壁がいいかな、と椅子に座って待っていると…。



「かみお~ん♪ いらっしゃい!」
玄関へ跳ねてゆく「そるじゃぁ・ぶるぅ」の可愛い姿が部屋の壁にパッと出現しました。画質も音質も極めて良好、流石はソルジャー。画面に教頭先生も現れ、舞台はお馴染みのリビングへと。
「頼む、是非ともぶるぅとデートに行かせて欲しいのだが…」
このとおりだ、と頭を下げる教頭先生。
「手順を踏めということだったし、昼食は店を予約した。午前中は私の車でドライブをしてだ、昼食の後はぶるぅの行きたい所へ行こうと思っている」
「ふうん…? 何処の店を予約したんだい?」
つまらない所じゃないだろうね、と会長さんが訊くと、教頭先生は自信たっぷりに。
「最近評判の店なのだが…。郊外の店で、地元の野菜をふんだんに取り入れたコース料理が自慢らしいぞ」
「ああ、あそこ…。ぶるぅ、今月はまだ行ってないよね、良かったね」
「同じ料理だと寂しいもんね!」
わぁーい! と喜ぶ「そるじゃぁ・ぶるぅ」ですが、会長さんは冷たい口調で。
「良かったねえ、ハーレイ、重ならなくて。…ぼくもぶるぅも評判の店には行きたい方でね、大抵の所は出掛けてるってね。そういう辺りに気が回らないとは残念だねえ…」
「…そ、そうか…。些か配慮が足りなかったか」
「君には全く期待してないし、夢も見てない。つまらない店ならデートの話も無かったことに、と思ったけれども、辛うじて合格といったトコかな」
「で、では…!」
デートを許してくれるのか、と教頭先生が言った所で。
「せっかくだからね、両手に花っていうのはどうだい?」
「両手に花?」
「ぶるぅそっくりの顔がもう一人、ってね。店の予約を増やせるんならね」
「もちろんだ!」
教頭先生は携帯端末を取り出し、店の番号をチェックして。
「大人をもう一人追加だな?」
「大人?」
「お前の分を増やすんだろう?」
実に素晴らしい両手に花だ、と大感激の教頭先生。まあ、普通はこういう勘違いになるんでしょうねえ、会長さんが狙えないから「そるじゃぁ・ぶるぅ」とデートを思い付いたんですしね?



教頭先生は店に電話するべく操作をし始めましたが、「ちょっと待った!」と会長さん。
「ぼくが行くとは言っていないよ、そこを間違えないように!」
「…お前では…ない……?」
はて、と首を傾げた教頭先生ですが、リビングには会長さんのそっくりさんのソルジャーの姿もあるわけで。ポンと手を打ち、「そうか、あっちか」と納得した様子。ソルジャーに微笑み掛けて、「よろしくお願いします」と一礼。
「ありがとうございます。私とデートをして下さるそうで…」
「どういたしまして」
お安い御用、とソルジャーは気さくな表情で。
「こちらこそよろしくお願いするよ。大人一名でかまわないけど、椅子は子供用で」
「は?」
「食べる量なら大人並みだけど、身体は小さな子供ってね! ぶるぅそっくり!」
悪戯小僧だけど頑張って、と言われた教頭先生の口がポカンと。
「…ま、まさか…。まさか両手に花というのは…」
「「ぶるぅだけど?」」
見事にハモッた会長さんとソルジャーの声。教頭先生はウッと仰け反り、「ぶ、ぶるぅ…」とタラリ冷汗。けれども会長さんは「何かマズイわけ?」と赤い瞳でまじまじと。
「両手に花でオッケーしたんじゃないのかい?」
「そ、それは…」
「ぼくもあれこれ考えたんだよ、ぶるぅ一人じゃ心配だしね? そしたらブルーがぶるぅを貸してくれるって言うから、そういうことなら、って許可を出そうと思ったんだよ」
ぶるぅが来るとマズイと言うならデートの話は無かったことに…、と会長さん。
「話はこれでおしまいってね。残念だったね、ぶるぅは行きたがっていたのにねえ…」
「いや、終わらせん!」
ぶるぅつきでもこの際、デートだ! と教頭先生はマッハの速さで立ち直りました。店に電話して子供用の席と大人用の料理をしっかりと追加。元々、「そるじゃぁ・ぶるぅ」用がそういう予約だったらしくて話はスムーズに通ったようです。
「よし、これで予約は完了だ。最近は大人用の料理を食べたがる子供も多いからな」
「ご苦労様。仕方ない、デートを許可しよう」
土曜日はちゃんと車で迎えに来るように、と会長さんが注文をつけて、教頭先生はペコペコとお辞儀しながらの御退場。この週末は教頭先生がデートなんですか、そうですか…。



ソルジャーの生中継のお蔭で分かった顛末。翌日の放課後、「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に行くと、お部屋の持ち主はニコニコ顔で。
「あのね、あのね! 土曜日はハーレイとデートに行くから、御飯は作っておくからね~!」
「「「えっ?」」」
「お昼御飯、温めるだけにしておくから! ちゃんとブルーに言っとくから!」
食べに来てね、とは健気すぎです。たまのお出掛けの間くらいは外食で充分と思ってたのに…。
「いいんだってば、ブルーも来るから!」
「「「は?」」」
「ぶるぅと一緒にブルーも来るの!」
そしてお家でお留守番なの、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。なんとソルジャーまで来る予定だとはビックリですけど、考えてみれば「ぶるぅ」の保護者。「ぶるぅ」がしっかりした子供でなければ、それこそ会長さんが言っていたように監視に行っても可笑しくはなくて…。
「そうなんだよねえ、ブルーも気になるらしいしね?」
だからぼくたちと一緒に家から監視、と会長さん。
「もしもハーレイが不埒なことをするようだったら、デートは中断! 即、殴り込む!」
そして二人のぶるぅを連れ帰るのだ、と会長さんはグッと拳を握りました。
「いくらぶるぅがしっかり者でも、相手は妄想ハーレイだしねえ? こっちのぶるぅは良い子すぎて簡単に丸め込まれてしまいそうだし、もう色々と心配で…」
「ぼく、ぶるぅも一緒だから大丈夫だよ!」
「ダメダメ、子供は大人にコロリと騙されるんだよ、どんなに賢い子供でもね」
用心に越したことはない、と会長さんは「そるじゃぁ・ぶるぅ」に。
「イカのお寿司という言葉もあるから、土曜日はちゃんと気を付ける!」
「…イカのお寿司?」
「一番最初に「知らない人に」とつくんだけどねえ、ついて行かない、車に乗らない、大声を出す、すぐに逃げる、何かあったら知らせる、というのを覚えさせる言葉!」
子供のためのお約束だよ、と紙に書き出した会長さんは「そるじゃぁ・ぶるぅ」に復唱させて。
「ハーレイとのデートはついて行く上に、車に乗るしね? イカのお寿司で気を付けないと」
大声を出してすぐ逃げるんだよ、という教え。それに「知らせる」と来ましたけれども、デートの相手は教頭先生。おまけに「ぶるぅ」も来るんですから、イカのお寿司の出番は無いんじゃないんですかねえ?



訪れた運命の土曜日の朝。私たちはバス停で集合してから会長さんの家へと向かいました。管理人さんにマンションの入口を開けて貰って、エレベーターで最上階へ。玄関脇のチャイムを鳴らすとドアがガチャリと中から開いて。
「かみお~ん♪ いらっしゃい!」
今日はゆっくりしていってね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお出迎え。お菓子や食事の用意はしっかり出来ているそうで、リビングに行けばソルジャーと「ぶるぅ」も到着済み。
「やあ、おはよう。ついに今日だねえ…」
「かみお~ん♪ ぼく、初デート~!」
地球でデートだあ! と「ぶるぅ」はワクワク、「そるじゃぁ・ぶるぅ」と手を取り合って踊り始めたり、飛び跳ねたり。今の所は悪戯の兆候はありません。間もなく教頭先生が迎えに来られて、二人のぶるぅはお揃いの服で元気に出発して行きました。
「「「行ってらっしゃ~い!」」」
「「行ってきまぁ~す!」」
玄関先からエレベーターに乗って行くのを見送り、会長さんが大きく手を振って。
「いいかい、イカのお寿司だよーーーっ!?」
「分かってるーーーっ!」
大丈夫! と胸を張って「そるじゃぁ・ぶるぅ」はお出掛けしたのですけど。



「…イカのお寿司って何なんだい?」
ソルジャーがリビングで尋ねました。会長さんは「そるじゃぁ・ぶるぅ」が作っておいてくれたティラミスを取り分けている最中でしたが、昨日と同じ説明を。ついて行かない、乗らない、エトセトラ。
「そういうことかあ…。ぶるぅが「なあに?」って訊いて来たから」
ちょっと返事を…、と言葉が途切れて「よし!」と一言。
「ぶるぅもお友達に訊けばいいのにねえ…。わざわざぼくに訊かなくっても」
「空気を読んでくれてるんだろ、デートの話題じゃないっぽい、と」
「ぶるぅに限って、それだけは無いね」
絶対に無い、とソルジャー、断言。
「面白そうな言葉だと思って訊いて来たんだよ、ネタになるかと」
「「「ネタ!?」」」
「そう、ネタ。ぶるぅにとっては、大切なものは食事と悪戯!」
そのためのネタを仕入れに常にアンテナを立てているのだ、と言われて真っ青。イカのお寿司が悪用されなきゃいいんですけど…。
「どうなるのかな? …ぼくにもぶるぅの悪戯心は読めないんだよ」
読めていたなら悪戯小僧になっていない、と怖すぎる答え。ソルジャーでさえも悪戯の中身は予測不可能、それゆえの悪戯小僧なのだ、と聞いて全員がブルブルです。
「きょ、教頭先生、大丈夫かな…?」
ジョミー君が窓の外に目をやり、サム君が。
「昼飯は絶対食いてえだろうし、そこまでは大人しくするとは思うけどよ…」
「食べ終わったら何が起こるか分からないのか…」
おまけにイカのお寿司なのか、とキース君が額を押さえています。
「行かない、乗らない…。それじゃデートにならないわよ?」
スウェナちゃんの言葉に見えた光明。デートは行くもの、車も乗って出掛けるもの。大丈夫かも、という希望の光が見えてきました。昼食の後は「そるじゃぁ・ぶるぅ」と「ぶるぅ」の行きたい所へお出掛けですから、イカのお寿司じゃ駄目ですよねえ…?



二人のぶるぅはドライブを楽しみ、道の駅とかに寄って貰っては冬でもアイス。そういえばアイスが好きだったっけ、と微笑ましくなる姿を会長さんとソルジャーが見せてくれました。教頭先生も御機嫌でドライブ、既に妄想モードだとか。
「ぶるぅが増殖しちゃったけどねえ、都合よく、ぼくが二人のつもりさ」
「らしいね、実に逞しいねえ…」
妄想力、とソルジャーも半ば呆れていたり。
「ぼくたちとぶるぅたちとじゃ見た目が全然違うんだけどね?」
「そこを気にせず当たって砕けろがハーレイなんだよ、でなきゃデートに誘いはしないよ」
気分だけでも本物の方とデートなのだ、と会長さん。
「しかも二人もいるからねえ? 美味しい眺めで、運転してても上機嫌ってね」
本当に馬鹿じゃなかろうか、と会長さんは言いたい放題ですけど、教頭先生が喜んでおられるのであれば無問題。会長さんには実害が無くて、「そるじゃぁ・ぶるぅ」と「ぶるぅ」は満足、教頭先生も大満足で全てが丸く収まるような…。
「まあね。これでハーレイが嬉しいんだったら、今後はこの手に限るかな」
「ダメダメ、いつかは君と結婚して貰わなきゃ! そのためにもデートで修行を積んで!」
本物の君とデートが出来るスキルを身に付けて貰おう、とソルジャー、力説。
「今日はとりあえず初回ってことで、ありがちなコースなんだけど…。今後は色々とバリエーションを! 本物の君でも行ってみたいと夢見るようなデートコースを!」
「有り得ないから!」
ぼくにそういう趣味は無いから、と会長さんは吐き捨てるように。
「行きたかったら君が行けばいいだろ、ハーレイの車でデートにドライブ!」
「…かまわないわけ? ぼくだとトコトン、行くかもだけど?」
「何処へ?」
「デートで必ず行くべき所!」
うんとゴージャスなのが好みだ、とソルジャーは胸を張りました。
「こっちのノルディに教えて貰って、ぼくのハーレイとあちこち出掛けてみたけれど…。やっぱりゴージャスな部屋がいいねえ、如何にもなホテルの部屋じゃなくって、ちゃんとしたホテル」
「「「ホテル!?」」」
「デートの締めにはホテルなんだよ、ノルディとだったらホテルで食事で終わりだけどね?」
部屋までは行ってあげないのだ、と威張り返っているソルジャー。会長さんは「最低だし!」と頭を抱えて、大却下。ソルジャーと教頭先生のデート、実現しそうにないですねえ…。



そうこうする内に、お昼時。私たちは「そるじゃぁ・ぶるぅ」が作って行ってくれたビーフストロガノフを温め直して、ピラフも添えてのお昼御飯で、教頭先生と二人のぶるぅは郊外のレストランでの豪華なコース料理です。
「いいねえ、あっちはリッチな食事で…」
ぼくのハーレイと今度出掛けよう、とサイオンで覗き見中のソルジャーが呟き、会長さんが。
「それならディナーがお勧めだよ。ハーレイはケチってランチだけれども、ディナーはランチよりも凝っているから」
「そうなんだ? だったらディナーで、ついでにホテルに泊まるのもいいね」
最近泊まりに来ていないから、とソルジャーは乗り気。「ぶるぅ」にシャングリラの番をさせておいて、キャプテンと二人でこっちの世界にお泊まりコースが定番だとは聞きますけれど…。
「そりゃあ、ディナーを食べたらホテル! お泊まりが必須!」
そうでなくてもデートはお泊まり、とブチ上げているソルジャー、何度「ぶるぅ」を放置で出掛けたのでしょう?
「えっ、ぶるぅ? それはもう、数え切れないほどで…」
だからぶるぅも知っているのだ、と大威張り。
「デートに行くならホテルでお泊まり! それをしないでどうすると!」
「ちょ、ちょっと待って!」
待って、と会長さんが遮りました。
「デートにはホテルがセットだって? それがぶるぅの常識だって?」
「常識だとまでは教えていないよ、ノルディの場合は除外だからね。ノルディはあくまでディナー止まりで、ホテルでお泊まりはハーレイ限定!」
ハーレイとのデートにはホテルが絶対欠かせないのだ、という台詞に嫌な予感が。二人のぶるぅとデートに出掛けた教頭先生、昼食の後は二人の行きたい所へ出掛けると言っていませんでしたか…?
「ま、まさか…」
「昼御飯の後って、まさかホテルに…」
ぶるぅが言い出さないだろうな、と顔を見合わせてみたものの。
「真昼間なんだし、大丈夫じゃねえか?」
「夕方には帰ると聞いてますしね」
大丈夫だな、とサム君とシロエ君の言葉で胸を撫で下ろしたのに。
「ラブホテルだと御休憩ってコトもあるしね?」
普通のホテルもデイユースのプランがあったりするね、とソルジャーの笑顔。このソルジャーと暮らしてる「ぶるぅ」、もしかしてそれが常識ですか!?



それから間もなく、昼食を終えた教頭先生たちはレストランの駐車場を出た模様。楽しくドライブを続けているようで、二人のぶるぅを乗せた車は郊外を走っているそうですけど…。
『いいんじゃないかな?』
ちょっと下見に行ってくれる? とソルジャーが妙な思念を紡ぎました。
「「「下見?」」」
「うん。ぶるぅが連絡して来たんだけど、良さそうな感じのラブホテルがね」
「「「ラブホテル!?」」」
「そうは見えないホテルなんだよ、ああいうタイプはハズレが無いから」
これは今までのぼくの経験、と得意げな顔のソルジャーですけど、下見って…。まさか教頭先生の車で、ドライブついでにラブホテルの下見!?
「らしいよ、この先を右に曲がればホテルへ真っ直ぐ、左だったら普通にドライブ、って言って来たから右へ行けと」
「その道、ホテルで行き止まりだったりしないだろうね!?」
会長さんの問いに、ソルジャーは「さあ…?」と。
「ぶるぅは何も言わなかったし…。あ、行き止まりなのか」
思念で追いかけたらしいソルジャー、アッサリと。
「ついでに、もうすぐ差し掛かる集落が最後に人家のある所だね。…えっ?」
「「「は?」」」
「いや、ぶるぅが窓を開けてるな、と…」
この寒いのに、と肩を震わせてみせるソルジャー。走行中の車の周りは雪もちらついているらしいです。そんな所で窓なんか開けてどうするのだろう、と不思議そうですが…。



『たーすーけーてーーーーっ!!!』
いきなり部屋を貫いた思念。何事だ、と思う間もなく、思念は二人分へと増殖。
『たーすーけーてーーーっ!!!』
『とーめーてーーーっ!!!』
誰か助けて、止めて、と響き渡る思念は「ぶるぅ」と「そるじゃぁ・ぶるぅ」でした。慌てて会長さんが出した中継画面には、全開になった車の窓から大声で叫ぶお子様が二人。
「「「…い、イカのお寿司…」」」
ヤバイ、と誰もが気付きましたが、叫んでいる「そるじゃぁ・ぶるぅ」は「ぶるぅ」と遊んでいるつもり。助けてごっこで、止めてごっこ。車の行き先に何があるのか知りませんから、あくまでお遊び、本気で助けてと言ってはいなくて満面の笑み。
ところが反対側の窓から叫ぶ「ぶるぅ」は嘘泣きと言うか、作った恐怖の表情と言うか。この世の終わりだと言わんばかりの形相で叫び、それに気付いた集落の人がバタバタと家へ駆け込んでゆきます。地元の人なら道の行き先に何があるかを知っているわけで…。
「「「きょ、教頭先生…」」」
通報されてしまったことは恐らく間違いないでしょう。しかもこの先、行き止まり。ラブホテルに着いて愕然としている間にパトカーや白バイがやって来た上、悪戯小僧な「ぶるぅ」がイカのお寿司を実行するという悪夢の展開。
「…き、君は…。シャングリラ学園の教頭を前科持ちの犯罪者にしたいわけ!?」
会長さんが怒鳴り、ソルジャーが。
「そ、そこまでは…! ごめん、なんとかフォローはするから!」
情報操作も記憶操作も頑張ってさせて貰うから、と叫ぶ一方、「ぶるぅ」にラブホテルの下見はするよう抜け目なく指示を。あの「ぶるぅ」ならば、警察官が山ほどいようがチョイと誤魔化して瞬間移動で下見にお出掛け出来るでしょうけど…。
「あっ、パトカー…」
来た、と中継画面を指差した人は誰だったのか。白バイとパトカーが凄い勢いで教頭先生が通って行った道を走り抜けて行き、教頭先生はラブホテルの駐車場で車をターンさせている真っ最中。二人の「ぶるぅ」はまだ叫んでます。
「「「現行犯…」」」
とりあえず逮捕劇までは観察するか、と開き直った私たち。なかなか見られるものじゃないですし、ソルジャーが後の始末をしてくれますし…。教頭先生ごめんなさいです、ちょっと見物、手錠とか見せて下さいね~!




           週末はデート・了

※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
 教頭先生が「気分だけでも」と申し込んだデートが、とんでもないことに。
 現行犯逮捕な結末ですけど、よく考えたら過去にも色々ヤバい目に遭っているかもです。
 使えないwindows10 は、大型アップデートを何とか乗り切りました、ホッと一息。
 次回は 「第3月曜」 6月18日の更新となります、よろしくです~! 

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 こちらでの場外編、5月は、お坊さんの世界の掟が話題になってますけど…。
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