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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

カテゴリー「ハレブル」の記事一覧

 ハーレイの車。
 学校では教師専用の駐車場に置いてあるから、ブルーにはどれがそうなのか分からなかった。
 実は一度だけハーレイはブルーの家に車でやって来たのだが、それは二人が再会した日。学校で大量出血を起こして救急搬送されたブルーが帰宅した後、勤務を終えたハーレイが夜に訪れた。
 一刻も早くブルーの許へと急ぐハーレイは、夜の町を走って辿り着いた家の来客用のスペースに車を停めてブルーの部屋へ。
 ハーレイの来訪を待ち侘びていたブルーは再会を果たした恋人の腕に抱き締められ、僅かな時を共に過ごして、ハーレイは帰って行ってしまった。
 今の生では一緒に暮らすことも叶わず、一夜の逢瀬さえ叶わない。
 それがあまりにも寂しくて悲しかったから。ハーレイを玄関まで見送りたくても、昼間の大量の出血のせいで母に止められ、ブルーを気遣うハーレイもそれを許さなかった。
 だからブルーは二階の自分の部屋の窓からハーレイの車が去ってゆくのを見ていただけで、頬を伝う涙に濡れた瞳が捉えたものは滲んだ車のライトだけ。門灯や街灯が教えてくれる車体の色など見てはいないし、遠ざかってゆくテールライトに泣き濡れていただけだった。
 その後、週末に再び訪ねて来たハーレイは路線バスだったのか、運動を兼ねて歩いて来たのか。どちらにせよ車に乗ってはおらず、ブルーがハーレイの車を目にするまでには暫くかかった。
 ブルーの家を訪ねる時に雨が降っていれば、ハーレイは車でやって来る。週末ごとに会うようになってから、初めての雨の日。ハーレイはどうやって来るのだろうかと二階の窓から庭と表通りを見下ろして待っていたブルーは、走ってきた一台の車を見るなり思った。
 「ハーレイの車だ」と。
 運転席が見えたわけでもないのに、そうだと確信したブルー。
 車はブルーが見ている前でゆっくりと駐車スペースに入って、其処に停まって。運転席のドアが開くと待ち焦がれた恋人が現れ、雨を遮る傘を広げた。
 これがブルーとハーレイの車との本当の出会いで、如何にもハーレイらしい車だとブルーは胸を高鳴らせたものだ。いつかハーレイの隣に乗りたい。そしてドライブをしてみたい、と。
 残念なことにドライブどころかハーレイの家にすら行けなくなってしまったのだけれど、車には乗せて貰ったことがある。ほんの一度きり、夢のようだった短いドライブ。
 前の生でメギドを破壊した時の悪夢に襲われた夜に、無意識の内にハーレイの家へと瞬間移動をしていたブルー。目を覚ましたらハーレイのベッドの上に居て、朝食を食べさせて貰って、家まで車で送って貰った。
 運のいいことに土曜日だったから、ハーレイはそのままブルーの家で過ごしてくれて。
 朝一番にハーレイからの連絡を受けた両親は酷く恐縮していたけれども、ブルーにとっては幸せ一杯だった素敵な土曜日。ハーレイの車に初めて乗った日。



 それっきりハーレイの車に乗せては貰えず、乗れる機会も来そうにはない。
 ブルーの憧れのハーレイの車。休日に乗って来ることは滅多に無いし、乗って来ても雨が邪魔をして車体の色はくすんでしまう。
 仕事が早めに終わったからと学校帰りに寄ってくれる時は車だったが、これまた夜の暗さに邪魔され、車の色ははっきりしない。
 学校の駐車場に停まっているのを目にしたことは何度もあるのに、「ハーレイの車だ」と考えただけで胸が一杯、その色まではきちんと認識しなかったらしく…。
(あっ!)
 夏休みに入って、カラリと爽やかに晴れた日の朝。
 ハーレイが乗って来た車を窓から眺めて、ブルーの心臓がドキリと跳ねた。
 雨でもないのにハーレイは車。それは特別な時間が始まる合図。車のトランクからキャンプ用のテーブルと椅子が引っ張り出されて、庭で一番大きな木の下に据え付けられる。
 一番最初は六月の日曜日、ハーレイと二人、向かい合って過ごした木漏れ日の中。
 父や母からも見える場所だからハーレイの膝に座ったりすることは出来なかったが、デートだと言われて嬉しくなった。木の下のテーブルと椅子はハーレイとの初めてのデートの場所。夏休みが始まるとハーレイは早速再現してくれ、今日で二度目だ。
(…ふふっ)
 ブルーは車が停まるのを待って階段を駆け下り、「ハーレイ!」と叫んで庭へと飛び出した。
「おはよう、ブルー! 持って来てやったぞ、ちょっと待ってろ!」
 母が開けに行った門の向こうでハーレイが車のトランクを開けている。折り畳み式のテーブルを下ろし、抱えて庭の木の下へ。広げて設置し、安定を確かめ、お次は椅子で。
(…魔法みたいだ…)
 トランクから出て来るテーブルと椅子。二つ目の椅子が庭に置かれたらデートの準備完了、母が運んでくるアイスティーやお菓子でゆっくりと…。
(今日は何かな、ママのお菓子)
 そんなことを考えながら椅子を運び出すハーレイを見ていて、ふと車の色に目を留めた。
 落ち着いた深い緑色の車。
 前の生でハーレイが着けていたマントそのままの色。
 何故その色なのかは考えもせずに「ハーレイの色」だと思ったものだが、こうして夏の光の下で眺めていると、緑色がとても気になってきた。
 ハーレイはいつからこの色の車に乗っているのだろう?
 前の生の記憶など全く無かった筈だというのに、「ハーレイの色」なのは偶然だろうか?



 早速訊いてみなければ、と思ったブルーはテーブルの上にアイスティーと露を浮かべたガラスのポットと、お菓子が揃うのを待ち兼ねたように切り出した。母はもう家に入っている。
「ねえ、ハーレイ。…ハーレイの車、いつからあの色?」
「車?」
「うん。キャプテンのマントと同じ緑だけど、最初からなの?」
「そうだな、最初からあの色だったな」
 今の車じゃなかったんだが、とハーレイは庭の向こうの車の方へと目をやった。
「俺には似合っていないか、アレは?」
「ううん、ハーレイの車だと直ぐに分かった。…初めて見た時」
「俺のマントの色だったからか?」
「……多分」
 ブルーもハーレイの車を改めて見詰める。どうして最初に「ハーレイの車だ」と確信したのか、自分でも分からないけれど。…今にして思えばハーレイが言う通り車体の色のせいだろう。
 遠い昔に馴染んでいた色。大抵はハーレイがブルーを真正面から、あるいは背中から抱き締めていたから、ハーレイの背中を追い掛けた記憶はあまり無い。それでもブリッジでいつも見ていた。その大きな背に後ろから抱き付き、縋りたい衝動をこらえていた。
 ブリッジを出る時もブルーが先に立ち、ハーレイは後ろ。シャングリラの通路に人影が無い時の抱擁は背後からであり、そういう時にはどれほどの幸せに包まれたことか。それが欲しくて何度かハーレイの背中を追った。青の間から背後に瞬間移動し、不意に飛びついてキスを強請った。
 そんな時に目にしたハーレイのマント。ソルジャー・ブルーだった頃のブルーの身体でさえ腕を一杯に伸ばして抱き付いていた広い背中と、目の前を覆い尽くした緑と。
 あの懐かしい緑を忘れはしない。忘れるなんて、出来る筈もない。
 ハーレイの緑。
 キャプテンだったハーレイの背に翻っていたマントの緑…。



 深い緑色の車に二人して暫し見入っていた後、ハーレイがアイスティーに浮かぶ氷をストローで軽く揺らして音を立てながら。
「この色しかない、と思ったんだよなあ…」
 渋すぎる色だと皆に言われたが、今じゃ年相応になっただろう?
 問われたブルーは「渋すぎるかなあ?」と首を傾げたが、最初に車を買ったのが教師になった年だと聞いて納得した。その頃のハーレイは恐らく、前の生でアルタミラで出会った時よりも若い。深い緑色は褐色の肌には良く似合うけれど、若い青年の色ではない。
 どちらかと言えば明るい色が似合う年齢。黄色なんかでも似合いそうだ、と鮮やかな黄色の車を思い浮かべてみた、その瞬間に。
(…そうだ、白…!)
 ハーレイが運転するなら黄色よりも遙かに相応しい色がある。
 前の生でハーレイが舵を握っていた船。ブルーが守った楽園という名の美しい船。
 そう思ったから尋ねてみた。
「白は考えなかったの? …シャングリラの白」
「…白か? 白もな、勧められたんだがな…。嫌いってわけじゃなかったんだが、何故だかな…」
 惹かれたが気が乗らなかった、とハーレイは答えた。
「どうしてだか俺にも分からなかったが、今なら分かる。…次に買うなら白がいいなと思うんだ。お前を隣に乗せて走るなら、断然白の車がいい。何故だか分かるか?」
「え? …白はシャングリラの色だから?」
「そうだ。シャングリラにはお前が乗っていないとな。…俺が一人で乗っていたって意味がない。お前がいなくなったシャングリラは寂しすぎたんだ。好きな船だったが、好きじゃなかった」
 その記憶が何処かにあったのかもな、と鳶色の瞳がブルーを見詰める。
「俺は何もかも忘れちまってたが、それでも何処か前の好みと似ているもんだ。白い車に惹かれた俺は多分、シャングリラを見ていたんだろう。…だが、俺の隣にお前はいなかった。お前のいないシャングリラが嫌で、俺は緑に決めたんだろうな」
「……ごめん……」
 ぼくがメギドに行っちゃったから、とブルーはキュッと唇を噛んだ。
 前の生の最期に、ハーレイの温もりを失くした右の手が冷たいと独りで泣きながら死んだ。もうハーレイには二度と会えないのだと、泣きながら死んでいったソルジャー・ブルーだった自分。
 けれどハーレイはどうだったろう?
 自分は死んでしまって終わりだったけれど、残されたハーレイはどれほどに辛く苦しかったか。
 生まれ変わってさえ白い車を選べなかったほど、ハーレイの胸は悲しみで一杯だったのか…。



「……ごめん、ハーレイ…。ぼくのせいで……」
 ポロリと涙が零れそうになる。ハーレイと再会してからの日々でも、自分の想いだけで一杯で。右の手が冷たいと訴えはしても、置いて逝ったハーレイの胸の内までは思い至っていなかった。
 記憶を全く失くしていてさえ、白い車を避けたハーレイ。
 惹かれたけれども、気が乗らないと別の色の車を選んだハーレイ。
 そのハーレイが今では白い車に乗りたいと言う。ブルーを乗せるなら白い車だと。
 こんなにも強く自分を想い続けてきてくれたハーレイに、自分は何を返せるのだろう?
 まだ十四歳にしかならない小さな自分が、何を返せると言うのだろう…。
「馬鹿、そんな昔の話で泣くヤツがあるか。…お前は帰って来たんだろ? 俺の所に」
 泣くな、とハーレイが手を伸ばして指先でブルーの涙を拭った。
「お前のお母さんから丸見えなんだぞ、俺が泣かせたかと思われるじゃないか」
「…ごめん。ごめん、ハーレイ、ホントにごめん……」
ブルーの涙は止まらなくなった。ハーレイが優しすぎるから。優しすぎて胸が痛くなるから。
「だから泣くなと…。いいな、お前はいつか俺の運転する車に乗るんだ。乗せてやるから」
 楽しいことだけを考えるんだ、とハーレイはブルーの銀の髪を撫でた。
「そうすれば涙もじきに止まるさ。お前は俺の車で出掛けてゆくんだ、いろんな所へ」
 …分かるか、ブルー?
 俺が動かすというのはシャングリラと何も変わりはしないが、お前は守らなくてもいいんだ。
 ただ乗っかっていればいいのさ、のんびり景色を眺めたりしてな。
「俺の家から帰る時だってそうだっただろう? ん?」
 お前が飛んで来ちまった時さ、とクシャリと前髪を掻き上げられて。
「ドキドキしてたし、のんびりなんかしてられないよ!」
 ハーレイの車。初めて乗せて貰ったハーレイが運転する車。
 胸の鼓動がハーレイの耳に届かないかと心配になった、ブルーの家までの短いドライブ。
 それを思い出して叫んだブルーに、「よし」とハーレイが笑顔を見せた。
「止まったじゃないか、お前の涙。…もう泣くなよ?」
 穏やかに微笑んでハーレイは夢を語り始める。
 いつの日か自分の車にブルーを乗せて、二人でドライブする時のことを。



 いいか、ブルー。
 今度乗る時はドキドキしないで、のんびり俺の隣に乗ってろ。
 そして俺に強請ってくれればいい。
 「あれが食べたい」「此処で止めて」と、好き勝手に言ってくれればいい。
 ……シャングリラはお前の指示で動いたが、お前のために動いていたわけじゃなかった。
 俺が舵を握って動かしていたが、俺のために動いたわけでもなかった。
 だがな、俺の車は違うんだ。
 俺の車はお前と俺とのためだけに動いて、何処へでも走ってくれるんだ。
 俺とお前で行き先を決めて、お前は我儘を言えばいい。
 「もっと遠くへ」でも、「もう帰りたい」でも、何でも自由に言っていいんだ。
 俺はお前の願いどおりに運転をするし、車だって俺の言うことを聞いて走ってくれる。
 ハンドルを切れば曲がってくれるし、何処へだって俺たちを運んでくれる。
 お前と俺とを乗せるためだけに在る、そんな車で走って行くんだ、俺たちは。
 だから今度はそういう白い車が欲しいという気がするな。
 ……俺たちのためだけのシャングリラが。



 次の車は白に決めた、とハーレイはブルーに言ったのだけれど。
 ブルーは今の緑色の車も好きだった。
 キャプテンだった頃のハーレイのマントと同じ色をした、深い緑色のハーレイの車。
 一目で「ハーレイの車だ」と分かって、乗せて欲しいと憧れた車。
「ぼくは今のままの緑でもいいな。…この色の車に初めて乗せて貰ったから。ハーレイのすぐ横でドキドキしながら町を走って、ぼくの家まで乗って来たのがこの色だから」
「…そうか? 俺はシャングリラの白も捨て難いんだがな…」
 お前を乗せるなら断然白だ、とハーレイが先刻と同じ言葉を繰り返す。
「俺たちが乗るなら白だろう? シャングリラといえば白だったしな」
「白もいいけど、ぼくはハーレイのマントの色も好きだよ」
 どっちでもいいな、とブルーはガレージに停まったハーレイの車の方を見た。
 今と変わらない深い緑色も、とてもハーレイらしくて良く似合う。
 ハーレイがかつて惹かれたけれども買わなかったという白も、自分たちには似合うように思う。
 白か、それとも深い緑色か。
 シャングリラの白と、ハーレイのマントの色の緑と。
 どちらも好きで懐かしい色。二人で暮らした白い船の色と、大好きな背中に在った緑と。
 似た色同士なら選べるけれども、こうも違うと選べない。
 ハーレイもまた、同じ思いを抱いたようで。
「白か、緑か…。その時が来たら二人で決めるとするか。こいつもまだまだ現役だろうしな」
「そうだね、ハーレイは車も大事にしてそうだものね」
「おっ、分かるか? 俺としてはだ、こいつに向こう五年くらいは乗る予定なんだ」
 お前が十九歳になる頃までか、とハーレイはにこやかな笑みを浮かべた。
「そうなると俺たちの最初のドライブの時はこいつになるかな」
「うん。ぼくも、もう一度あれに乗りたいよ」
「ははっ、そうか! 少ししか乗っていなかったしな?」
「ほんの少しだよ、ハーレイの家から此処までだよ!」
 路線バスだと遠く感じる、何ブロックも離れたハーレイの家。
 しかし車に乗って走ればアッと言う間に着いてしまって、ブルーが普通の服ではなくてパジャマ姿であったことすら気付いた人はいなかっただろう。
 そんな短いドライブだったけれど、ブルーにとっては夢の時間で。
 きっといつかはハーレイと本当のドライブに出掛けるのだと、ガレージの車を何度も眺めた。
 ハーレイの車。深い緑色で、最初のドライブにも連れて行ってくれる予定のハーレイの車…。



(…早くハーレイの隣に座ってドライブしたいな…)
 最初のドライブは何処にするかな。
 ハーレイはそう言って笑ったものだが、夏休みの終わりに、ブルーには一つの目標が出来た。
 いつかハーレイが運転する車の助手席に乗って、ブルーは隣の町に行く。
 庭に夏ミカンの大きな木がある、隣町のハーレイが育った家。
 ブルーは其処まで出掛けてゆく。
 ハーレイの父と母とが暮らす家まで、自分たちの子が一人増えたと言ってくれた優しい人たちに会いに…。




       ハーレイの車・了


※ハーレイが乗っている緑色の車。ブルーとの最初のドライブはきっとこの車ですね。
 そしていつかは、シャングリラの色をした白い車に二人で乗るのです。
 二人だけのために走るシャングリラで、いろんな所へ…。

 ハレブル別館の拍手御礼ショートショートの再録場所を作りました。
 気まぐれに聖痕シリーズの書き下ろしショートも置きます、よろしくですv
 ←拍手部屋は、こちらv
拍手頂けると再録場所の方の書き下ろしショートが増える…かも?

 ←拍手御礼ショートショート再録場所は、こちらv






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 木漏れ日が射す木の下に据えられたテーブルと椅子。一階に居る母の目に入る場所だけに、二階の自分の部屋でするようにハーレイの膝に座ったりは出来ないのだが、ブルーのお気に入りの席。
 ハーレイがキャンプ用のテーブルと椅子とを持って来てくれて、初めて外でデートをした場所。
 夏休みに入ってからも何度か設けられた特別な席は、ブルーの父が白いテーブルと椅子を買ってくれて晴れた日の定番になった。
 七月の末の今日もブルーは其処で大好きなハーレイと二人で午前中のお茶を楽しんでいる。母が焼いた口当たりの軽いケーキと、よく冷えてグラスに露を浮かせたレモネード。
 向かい合わせで座るハーレイを見ているだけで、溢れ出す幸せが止まらない。来月はハーレイの誕生日。まだ一ヶ月近くあるのだけれど、何を贈るかブルーはとっくに決めていた。
(…ふふっ)
 ハーレイが喜んでくれそうなもの。うんと奮発して、ブルーのお小遣い一ヶ月分。
 夏休みでもハーレイは柔道部の指導や研修などで来られない日が時々あった。次にそういう日が訪れたら、町の中心部にある百貨店までプレゼントを買いに出掛ける予定だ。
(きっとハーレイ、ビックリするよね)
 早く贈って驚かせたい。喜ぶ顔を見てみたい。
 再会してから初めてのハーレイの誕生日。ハーレイは三十八歳になる。
 誕生日のお祝いはブルーの家で、と強請って約束を取り付けた。その日は母が御馳走を作って、バースデーケーキも用意して…。今から楽しみでたまらない。
 三月生まれのブルーの誕生日はまだずっと先のことになるから、まずはハーレイの誕生日祝い。
 来年の三月三十一日が来たら、今度はブルーが誕生日を祝ってもらう番。
 ハーレイよりもずっと遅れて生まれて来たから、十五歳にしかなれないけれど…。
 そういうことを考えていて、ブルーはふっと気が付いた。
 この地球に自分が生まれて来た時、ハーレイはとっくに地球の上に居た。八月二十八日が来たら二十四歳も年上になってしまうハーレイ。ブルーよりも先に生まれたハーレイ。
 ブルーが地球に生まれたその日に、ハーレイは何をしていたのだろう?
 とうに大人になっていた筈だけれど、何処に居て何をしていたのだろう…?
 一度知りたいと思い始めると止まらない。その日、ハーレイはどう過ごしたのかを。



 母からも見える庭のテーブルで訊くには、特別すぎることだったから。レモネードを飲み終え、ケーキのお皿も空になって二階の自分の部屋に移動した後、ハーレイの膝の上に座って尋ねた。
「ねえ、ハーレイ」
「なんだ?」
 ハーレイがブルーが膝から落っこちないよう、軽く腕を回して支えながら微笑む。
「ハーレイ、二十三歳の時って何をしてたの?」
「何って…。そうだな、教師生活の一年目ってトコか」
 毎日が新鮮で、初めてのことの連続で。慣れない仕事で忙しくても充実していた、とハーレイは懐かしそうに答えた。
「じゃあ、二十三歳の三月は?」
「ん? 新米教師の集大成だな、来たる新年度に向けて不安半分、期待半分だ」
「なんで不安?」
「そりゃ、お前…。そろそろ担任もするかもだしな?」
 教師生活も二年目になればクラス担任をするケースもある。一人前の教師として認められた証といえども、クラス担任の責任は重い。受け持ちのクラスの生徒に目を配り、自分が担当する教科の指導も抜かりなく。どちらも手抜きは許されないし…。
「ハーレイ、二年目から担任だったの?」
「いや、そういう話も出ては来たんだが…。柔道部がいい線を行っていたんでな」
 顧問だったハーレイは腕を見込まれ、そちらに専念することになった。教師生活二年目の段階でクラス担任とクラブ顧問を両立させることは難しい。まして柔道部で大会を目指すとなれば…。
「そっか…。それで、柔道部はどうなったの? 二年目」
「見事、大会に出場したぞ? 皆、いい成績を収めてくれてな、指導した俺も鼻高々だ」
 そのまま柔道の話になってしまいそうだったから、ブルーは慌てて話題を元に戻した。
「じゃあ、ハーレイ。…二年目に入る前の三月の末って、何してた?」
「そうだな…。とにかく不安を吹き飛ばそうと気分転換に泳ぎまくって、走っていたな」
「三月三十一日は?」
「明日から新年度だと気分を切り替えるべく…。待て、お前は何が言いたいんだ?」
 ハーレイはようやく話が自分の教師生活のことではないらしい、と気が付いたようで、瞳の色が深くなる。鳶色の瞳がブルーの瞳を覗き込み、「どうした?」と先を促した。
「妙に日付にこだわるな? そういえば三月の三十一日は…」
「うん。…そこ、ぼくが生まれて来た日なんだ…」
 何か予感は無かったの? とブルーは鳶色の瞳を見上げる。赤い瞳に期待をこめて。



 ブルーとハーレイ。
 今は普通の十四歳の子供と、その学校の教師だけれど。
 二人の前世はミュウの長のソルジャーと、ミュウたちを乗せた船の舵を握るキャプテンだった。
 ソルジャー・ブルーとキャプテン・ハーレイ。
 三百年近い時を共に生き、愛し、愛された恋人同士の二人は運命に引き裂かれるように別れて、長い時を経た後に蘇った青い地球の上に生まれ変わり、再び出会った。
 ブルーがハーレイを追うように生まれて来てから、再会するまでに十四年もの時が流れた。
 十四歳という年齢が重要な鍵になったのだろう、とブルーは思っているのだけれど…。十四歳を迎えるまではブルーの記憶は蘇ってくれず、再会は叶わなかったのだろうと思うけれども。
 それでも自分が生まれて来た日に、ハーレイは気付いてくれたのではないか。
 予感めいた何かがあったのではないか、と期待してハーレイの顔を見上げたのに。
「…すまん。俺は昔から鈍いからな」
 残念ながら何もなかった、とハーレイは済まなそうに言葉を紡いだ。
「実はな、俺もお前に出会って直ぐに調べてみたんだ。お前の生まれた日を勝手に調べて、お前を怒らせちまったが…。お前が生まれた日に何か無かったかと、その日の日記を読んでみた」
「…でも、何も起こっていなかったんだね?」
「ああ。いつもどおりの日記だったな、本当にすまん。せっかくお前がその日に生まれて来たのになあ…。俺のブルーが生まれて来たのに…」
 天から宝物が降って来る夢でも見られていれば良かったのに、とハーレイが悔しげな顔をする。
「でなきゃアレだな、富士山か鷹かナスの夢だな」
「えっ?」
 意味が掴めないハーレイの台詞に、ブルーの瞳が丸くなった。
「何、それ…」
「ははっ、お前は知らなかったか? 正月に見る初夢に出てくれば最高だという縁起物だぞ」
 富士山は昔の地球に在った美しい形の火山だ、とハーレイは鳶色の瞳を細めた。
「その富士山が一番縁起が良かったらしい。次が鷹だな、鳥の鷹だ。三番目が野菜のナスになる。なんで富士山で鷹でナスなのか、理由は色々あるんだが…。どれも見なかったことは確かだ」
「……そっか……」
 特別な夢すらも見てくれなかったらしいハーレイ。
 ブルーは心底ガッカリしたが、シュンと項垂れたブルーの頭をハーレイの手が優しく撫でた。
「すまんな、ブルー…。鈍い男で本当にすまん。俺も予感が欲しかったんだが」
 本当だぞ、とハーレイはブルーの瞳を見詰めた。
 何よりも大切な宝物のブルーが生まれて来たのに、知らなかった自分が情けないと。



 ブルーがこの地球に生まれて来た日も、ハーレイは普段通りに生きていた。
 翌日から始まる新年度に向けて心身をリフレッシュするべくプールに出掛けて存分に泳ぎ、その後は軽くジョギングをした。
 春の到来を告げる桜がチラホラと咲いていたかもしれない。その辺りは記憶していない。
 今より十四年分ほど若い身体で颯爽と走っていたコースの途中で、ブルーが生まれた病院の脇を掠めていたかもしれない。病院に急ぐブルーの父の車とすれ違っていたかもしれない。
 ブルーが生まれて来たことも知らず、足の向くままに走り続けていただけだけれど。
「本当に鈍い男だったな、俺ってヤツは…。俺の宝物が生まれて来たのに」
 つくづく馬鹿だ、とハーレイは嘆く。
「おまけに十四年間も気付かなかったとは恐れ入る。とっくにこの町に来ていたくせに」
 お前が生まれた日も町を走っていたんだ、と語ってから「待てよ」と暫し、考え込んで。
 少し経った後、ハーレイが口にした言葉は、それまでのものとは正反対だった。
「…ブルー。ひょっとしたら、俺は気付いていたのかもしれん」
「ハーレイ、何か思い出したの?」
「そういうわけではないんだが…。あえて言うなら、この町だな」
「町?」
 怪訝そうな顔をしたブルーに「この町さ」と返す。
「俺は、お前がこの町に生まれるという予感に引かれて来たのかもしれん」
「えっ…。でも、ハーレイには予知能力は…」
「無いさ、昔も今の俺もな。…だが、この町にこだわる理由は何処にも無かった。教師になるなら俺の生まれた町でも良かった。この町で教師になるにしたって、通えん距離でも無かったし…」
 隣町にあるハーレイが育った家までは車で一時間もかかりはしない。充分に通勤圏内だったし、現に通っている人も少なくはない。
「…それなのに、俺はこの町に来ちまったんだ。わざわざ家まで買って貰ってな」
 いつか嫁さんを貰う日のために子供部屋つきの立派な家を、とハーレイはブルーに微笑んだ。
「あの家に嫁さんは来ないだろうと思っていたのに、お前に出会った。…お前を嫁さんと呼べるかどうかはともかくとして、俺は結婚出来るんだ。いつかお前が大きくなったら」
 ……俺はお前に出会うためだけに、この町に来た。
 そういう気持ちがしてこないか?
 なあ、ブルー…。



 ハーレイの褐色の手に頬を包まれ、額に優しく口付けられて。
 ブルーの頬は赤く染まったけれども、それは恥ずかしさではなくて幸せが溢れそうだったから。
 ある意味、自分が生まれた日に特別な夢を見たと告げられるより嬉しかったかもしれない。
 予感があった、と聞かされるよりも遙かに嬉しかったかもしれない。
 この地球に自分が生まれる前から、母の胎内に宿る前からハーレイは待ってくれていた。
 生まれるよりも遙かに前から、この町に住んで待っていてくれた。
 新しい家族を迎える家まで買って貰って、ひたすらに待っていてくれたのだ。
 それが誰なのかを知らなかっただけで、ハーレイはずっと待っていた…。
 ブルーが生まれるずっと前から、教師としてこの町に来た十五年も前の時から、ずっと。



 ハーレイがこの町に住み始めてから、ブルーが生まれるまでに一年以上が経っている。
 そうしてブルーが地球に生まれて、出会うまでの間に十四年。
 十四年間も同じ町に住んで、それぞれの人生を生きて来たのだけれど。
 再会してから三ヶ月にも満たないけれども、もしかしたら…。
「ねえ、ハーレイ。ぼくたち、何処かですれ違っていたかもしれないね」
 十四年間もあったんだから、とブルーが見上げるとハーレイは「まさか」と苦笑した。
「お前みたいに印象的な子供を見たなら、俺は絶対に忘れないが」
「でも…。ぼくは小さい頃、大抵、帽子を被っていたよ? 大きいのを」
 母が日よけにと被らせた帽子。つばが広くて、顔が日陰になる帽子。
「それは分からんかもしれないなあ…」
「でしょ? 髪の毛も目の色も見えなかったら、帽子を被ったただの子供だよ」
「確かにな。すれ違っていても気付かんだろうなあ…」
 そう言ってハーレイは頭を掻いた。
 銀色の髪で赤い瞳のアルビノの子供は珍しいけれど、大きな帽子は珍しくもない。
 小さい頃に何処かで出会っていたかもしれない。
 もっと小さい頃、ハーレイが車の中から見かけたベビーカーにブルーがいたかもしれない。
「…そうだな、会っていたかもしれないなあ…」
「ハーレイ、知らずに手を振ってたかもしれないよ。ジョギングしながら」
「それは大いに有り得るな。俺は手を振ってくれる人には必ず振り返しているからな」
 うんと小さい子供だろうが、赤ん坊だろうが、とハーレイは穏やかな笑みを浮かべた。
「ね、ハーレイ? ぼくは小さすぎて覚えてないけど、本当に手を振っていたかも」
「実にありそうな話だな。子供はけっこう手を振ってくれるぞ」
 今でも走っていると手を振って応援してくれる、と笑うハーレイ。
 そんなハーレイが若かった頃に、ブルーも手を振っていたのかもしれない。
 前の生で心から愛した人とも知らずに、「頑張ってねー!」と無邪気に叫んで。
「うんと小さいお前の声援を受けて走っていたのか、俺は」
「そう考えると幸せな気持ちがしてこない?」
「ああ。…お互い気付かなかったと思っているより、うんと幸せな気分になれるな。…俺はお前に出会うためにこの町に来ていたのか。自分では全く気付かなかったが」
「きっとそうだよ、ぼくの学校にも来てくれたもの」
 何処にも証拠が在りはしないけど、そう思う。
 ハーレイはぼくを待つためにこの町に来て、ぼくに会うために今の学校に来た、と。



「しかしだ。…考えてみると不思議なもんだな」
 ハーレイがブルーを膝の上に抱いたまま、しみじみと言った。
「お前を待つためにこの町に来たんだろうと思うし、それで間違いないとも思う。それなのに俺はソルジャー・ブルーの写真を見ても別に何とも思わなかったぞ、お前と再会するまでは」
「今は?」
「…今か? 今は駄目だな、見ないようにしている」
「なんで?」
 赤い瞳を輝かせるブルーの頭をハーレイの拳がコツンと小突いた。
「お前、知ってて訊いてるだろう! 俺がソルジャー・ブルーの写真を見たらどうなるかを!」
「ふふっ」
 ブルーは小さく肩を竦めてクスッと笑うと。
「ぼくはね、キャプテン・ハーレイが少し怖かったよ。…うんと小さい頃は、だけどね」
 それは嘘ではなくて本当のこと。
 今よりも幼かった頃のブルーは、威厳に満ちたキャプテン・ハーレイの写真が怖かった。学校の先生たちよりも厳しそうだったし、叱られたら泣いてしまうと思った。
 そう話すとハーレイは「お前なあ…」と苦笑いをして。
「それで、その後はどうだったんだ?」
「意外に優しいおじさんかも、って」
「おじさんだと!?」
 ハーレイの声が引っくり返るとまではいかないものの、あまりのことに裏返りそうになる。
「だって、ハーレイ。…ぼくのパパとあまり変わらないよ? おじさんだよね」
「こらっ! それが恋人を捕まえて言うことか!」
 よりにもよって「おじさん」なのか、とハーレイはブルーを捕まえて銀色の頭を拳でグリグリと弄り、ブルーの軽やかな悲鳴が上がった。
「痛い、痛いよ、ハーレイ、痛いってば!」
「うるさい、俺をおじさんと呼んだお前が悪いっ!」
 今度言ったらもう結婚してやらないぞ、と苛めにかかる。おじさんに用は無いだろう、と。



 ハーレイをおじさん呼ばわりした罰を食らったブルー。
 銀色の髪はクシャクシャにされて、グリグリされた頭も痛かったけれど。
 お仕置きが済むとハーレイの大きな手で頭を撫でられ、広い胸に大切そうに抱き締められる。
 「俺のブルーだ」「俺の大切な宝物だ」と。
 温かな手と、逞しくて厚いハーレイの胸。
 前の生と何処も変わっていない。



 ソルジャー・ブルーだったぼくが愛したキャプテン・ハーレイ。
 もう会えないと、二度と会えないのだと凍えた右手の冷たさに泣いて、泣きながら死んでいった遠い日のぼく。
 それなのに、ぼくはハーレイに会えた。
 行きたいと焦がれ続けた青い地球の上で、もう一度ハーレイに会うことが出来た。
 なんて不思議な運命だろう。
 あの遠い日に切れたと思った運命の糸が、ハーレイをこの町に連れて来てくれた。まだ生まれていないぼくを待つために、隣の町から連れて来てくれた…。
 ぼくとハーレイとを繋ぎ続けた運命の糸。神様が結んで、切れないようにしてくれた糸。
 神様はぼくとハーレイが出会えるように色々な準備をしてくれた。
 その最高傑作がぼくの聖痕。
 ハーレイと再会した日に、ぼくの身体を血に染めた傷痕。
 あれっきり、二度と現れはしないし、もう出て来ることも無いのだろうけど…。
 この地球に生まれ変われて良かった。
 ハーレイと二人、地球の上で会えてホントに良かった。
 ぼくは本当に幸せだよ。ねえ、ハーレイ…。




        ぼくが生まれた日・了


※ブルーが地球の上に生まれて来た日。何の予感も無かったというハーレイですが…。
 そこは運命の二人ですから、まるで接点が無かったわけでもなかったかも?
 キーワードは、実は「サクラサク」。
 第79弾、『時の有る場所で』 がソレです、第17弾『時の無い場所で』と対のお話。 
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 夏休みも明日で終わってしまう八月の三十日。
 ぼくはハーレイから素敵なプレゼントを貰ってしまった。
 真夏の太陽の光を集めてギュッと閉じ込めたみたいな、綺麗な金色をしたマーマレード。
 昨日、ハーレイは夕食を食べずに早めに帰って行ったんだ。隣町にあるハーレイが育った家で、お父さんとお母さんが食事を作って待ってるから、って。
 誕生日の次の日だもの、仕方ないよね。誕生日はぼくが独占しちゃったんだもの。
 そしたら今日の朝、マーマレードの大きな瓶が入った紙袋を提げて訪ねて来てくれた。
「おふくろと親父が、持って行けってうるさくてな」
 ぼくの部屋のテーブルに瓶を置いて、アイスティーとお菓子を持って来たママにも説明をした。
「母が作ったマーマレードです。いつもお世話になっていますし、お召し上がり下さい」
「いえ、そんな…。お世話になっているのはブルーですのに」
「庭に夏ミカンの木があるんですよ。食べ切れないほど作ってますから、ご遠慮なく」
 お口に合えばいいんですが、ってハーレイは言うけど、きっと美味しいに決まってる。とろりと溶けた蜂蜜とお日様を混ぜた色。夏の光がいっぱい詰まったハーレイのお母さんのマーマレード。



 ママが直ぐに持って行こうとしたから、「待って」って止めた。
 せっかく貰ったマーマレード。ハーレイのお母さんの話も聞きたかったし、夏ミカンの木の話も聞きたい。作ってくれた人を思い浮かべながらマーマレードの瓶をよく見てみたい。
 後で下まで持って行くから、とテーブルの上に置いたままにしておいて貰った。本当にゆっくり見たかっただけなんだけれど、ママが部屋を出て、階段を下りて。足音が小さくなって消えたら、ハーレイがニッコリ笑ったんだ。「どうして分かった?」って。
「え、何が?」
「なんだ、知ってたわけじゃないのか。これはな、本当はお前に渡したかったんだ。…おふくろも親父もそうしたかったんだが、お前の家ではそれは通用しないしな…」
「何の話?」
 キョトンとしたぼくに、ハーレイはパチンと片目を瞑ってみせた。
「将来、俺の……その、なんて言うんだ? 嫁さんと言っていいのかどうか…。とにかく俺の結婚相手になるお前に、って親父とおふくろが持たせてくれたマーマレードなのさ」
 …お嫁さん。ぼくがハーレイのお嫁さん…。
 いつかハーレイと結婚するんだって決めているけど、パパにもママにも話していない。
 でもハーレイはお父さんたちに話してくれたんだ。ぼくのことを。ぼくと結婚することを…。
「お前のパパとママはそういう事情は知らないからなあ…。だから表向きは俺が世話になっている御礼ってコトにしといたが、本当はお前宛なんだよ。親父もおふくろも喜んでたさ」
 とても可愛い子供が一人増えた、ってな。
 そう聞いてぼくは真っ赤になった。
 ハーレイと結婚したら、ハーレイのお父さんとお母さんはぼくのお父さんとお母さんだ。
 まだ結婚もしていないのに、もう子供だって言って貰えた。お母さんが作ったマーマレードまで貰ってしまった。
 嬉しいけれど、ちょっと恥ずかしい。だから耳まで赤く染まった。
 ハーレイのお父さんとお母さん。ハーレイから時々、話を聞くだけのお父さんとお母さん。
 どんな人たちなんだろう? ぼくのためにってマーマレードをくれた人たちは…。



 ドキドキしながらハーレイに訊いた。ぼくのことをいつ話したの、って。
「ん? 前から話はしてあったがな…。事情があってチビの守り役をする、とな」
「チビは酷いよ!」
「お前、本当にチビだろうが。俺と会ってから少しも育たん」
 そう言ってハーレイは笑うけれども、昨日の夜にお父さんとお母さんの前で宣言したらしい。
 年を取るのはもうやめる、って。これからも誕生日を迎える度に年を取るけど、外見の方は今の姿で止めておく、って。
 その約束はハーレイがぼくと再会した時にしてくれた。キャプテン・ハーレイだった頃と同じに見える今の姿を保ってぼくが育つのを待つ、と。
 ハーレイが年を取るのをやめにするから、お父さんとお母さんも年を取るのを止めるんだって。
 流石ハーレイのお父さんたちだ。ハーレイはぼくに会わなかったらまだまだ年を取る予定だったと前に話してくれたし、年を取るのが好きな家系なのかな?
 今の時代はみんなミュウだから、若いままの人も多いのにね。ハーレイくらいの年になったら、自分のお父さんたちと見た目の年が変わらないなんて、ごくごく普通のことなのに。
 ハーレイのお父さんたちは、ハーレイがぼくの守り役になったことは知っていたけど、恋人とは思っていなかったから凄くビックリしたらしい。
 こんなに小さいのにもう恋人で、もう結婚すると決めているのか、と。
 ぼくの年には驚いたのに、ぼくが女の子じゃないってことは全く気にしていなかったって。
 ハーレイが一日遅れの誕生日を祝いに帰った家で、ぼくのことをきちんと話してくれたっていうのが嬉しかった。ハーレイのお父さんとお母さんが喜んでくれたことも。
 お父さんには「小さな子供に手を出すなよ」って釘を刺されたみたいだけどね。



 ハーレイ、ぼくの姿もちゃんと思念でお父さんたちに伝えてくれたんだ。
 「可愛いだろう」って自慢したって威張ってた。
 庭に大きな夏ミカンの木がある家のリビングで、ぼくの話をして、姿も伝えて。
 夏ミカンの実で作るマーマレードが自慢のお母さんは、ぼくが女の子じゃなかったことには少しガッカリしたかもしれない。マーマレード作りが好きな男の子は、ぼくの友達には一人もいない。ぼくもマーマレードを作りはしないし、ちょっぴり申し訳ない気がした。
 いつかハーレイと結婚したら。
 ハーレイと一緒に暮らせるようになったら、ハーレイのお母さんの家に出掛けてマーマレードの作り方を習わなくっちゃ。
 ぼくのために、ってマーマレードをくれたお母さんの隣でエプロンを着けてマーマレード作り。お鍋に沢山の金色が溢れて、庭ではハーレイが夏ミカンの実を採っているだろう。キッチンに次の夏ミカンの山が届けられたら、洗って、むいて、皮を刻んで…。
 そういう時間もきっと楽しい。
 ハーレイのお母さんも「女の子じゃなくても楽しいわね」って思ってくれると嬉しいな。
 幾つも並んだマーマレードが詰まったガラス瓶。
 ハーレイのお父さんたちが家で食べる分と、ぼくとハーレイとで食べる分。ぼくのパパとママに届けて食べて貰う分。
 うん、結婚してハーレイの家で暮らすんだったら、三軒分のマーマレードが要りそうだよね。
 夏ミカンの木はとても大きいらしいし、それだけ作っても余るんだろう。余った分はハーレイのお母さんが知り合いの人たちに配って回る。新しく出来た子供と一緒に作りました、って。
 想像しただけで胸がじんわり暖かくなった。
 ぼくはハーレイのお父さんたちの新しい家族になって、夏ミカンの大きな木がある家でテーブルを囲んで食事なんかも出来るんだ。隣町にあるハーレイが育った家で。



 ちょっとヒルマンに似ているっていうハーレイのお父さんは、ぼくを川遊びとかキャンプとかに連れて行きたいと言ってくれた。
 釣りが大好きなお父さん。海釣りもするけど、今の時期だと川でアユの友釣り。オトリのアユを使って釣る方法は本で読んだことがあるだけで、ぼくは普通の釣りさえしたことがない。
 ぼくの身体が弱いと聞いたお父さんは「可哀相にな」って心配してくれて、「そういう子供でも元気に遊べる川やキャンプ場に連れて行ってやりたいな」とハーレイに言ったらしいんだけど。
 ハーレイはぼくが大きくなるまで、お父さんたちに会わせてくれないんだ。
 「親父たちの家まで連れて行く途中と帰りの道とが大変だしな?」と頭をポンと叩かれた。
 二人きりで車に乗って出掛けることになるから、ハーレイの我慢の限界を超えてしまうって。
 キスを許してくれないのと同じで、二人きりのドライブも許してくれない。
 せっかくお父さんが釣りに誘ってくれているのに。ぼくは釣りをしたことが一度も無いのに。
 キャンプ場に行こうって、お父さんが言ってくれてるのに。
 ハーレイのケチ!



 マーマレードが自慢のお母さんは、小さなぼくと二人で散歩に行きたいんだって。
 一人息子のハーレイはとっくの昔にすっかり大きくなってしまって、連れて歩いても全然可愛く見えないから、って聞いたら可笑しくて少し笑ってしまった。
 天気のいい日は、あちこちの家の庭に咲いた花や実をつけた木とかを眺めながら歩いて、公園を幾つも回って歩くお母さん。散歩コースには知り合いの人が大勢いるんだって。
 「すっかりおばあちゃんになった私がこの子を連れて歩いたら孫みたいでしょ?」とハーレイにニッコリ笑って、ぼくを連れて行きたいと頼んだらしい。
 ぼくと二人で通り道にある家の庭を見ながら歩いて、公園に行って。公園に着いたら搾りたてのミルクで作ったソフトクリームを買って貰って、一休みして、また二人で歩いて。それから小さな喫茶店に入って、お母さんのお気に入りの美味しいものを食べて休憩するんだ。
 ホットケーキがうんと分厚いお店や、選んだ果物でフルーツパフェを作ってくれるお店とか。
 そういう所にぼくを連れて行きたい、ってお母さんは言ってくれたのに。
 季節の花とか果物の木を沢山見せて教えてあげたい、って言ってくれてるのに。
 これまたハーレイは許してくれない。
 ぼくと二人で隣町までドライブするのは絶対ダメだ、と許してくれない。
 お母さんと散歩をしてみたいのに。喫茶店にも行ってみたいのに。
 ハーレイのドケチ!



 庭に大きな夏ミカンの木がある、隣町のハーレイが育った家。
 その家だって見てみたい。
 ハーレイが子供だった頃には真っ白な猫のミーシャをお母さんが飼っていた。ハーレイがぼくに似ていると言ってた甘えん坊のミーシャ。登った木から下りられなくなってしまってミャーミャー鳴いて、お父さんが梯子をかけて助けに行った。
 ミーシャが下りられなくなった木はどんなのだろう?
 枝を四方に広げる木なのか、真っ直ぐ上に伸びる木なのか。ミーシャが下りられなくなった時はハーレイはまだ子供だったというから、木はその頃よりグンと大きくなっただろうか。
 夏ミカンの木はその木の隣にあるのかな?
 真っ白な花の匂いが風に乗って道まで届く大きな木。夏ミカンが枝いっぱいにドッサリ実って、沢山のマーマレードが作れる木。
 ぼくも夏ミカンをもいでみたいけど、ハーレイは「届かないぞ」と笑って言った。
 下の方の枝なら小さなぼくでも採ることが出来る。だけど夏ミカンが山ほど実る木はハーレイの背よりもずっと高くて、全部採るには長い柄がついた専用のハサミが要るらしい。それでも一番上まで届かないから、梯子の出番。
 ぼくの手が届きそうな辺りの夏ミカンはお母さんが採って一番最初のマーマレードが作られる。ハーレイはそれを貰いに出掛けて、お父さんと二人で残りの夏ミカンを全部採るんだ。
 つまり、ハーレイがぼくを連れて行ってくれても手の届く所に夏ミカンは無い。
「一つだけ残しておいてもらうか? お前用に」
 いつか行こう、とハーレイがぼくの頭を撫でる。
「大きくなったら連れて行ってやるさ。その年は下の方の枝に残しておくよう頼んでやろう」
「約束だよ? ぼくも採りたいんだから」
「ああ。…下の方の枝に一個ポツンと残っていたら、なんだか木守りみたいだな」
「木守り?」
 その言葉をぼくは知らなかった。
 実をつける木の天辺の方に実を一個だけ残すんだって。来年もよく実るようにと祈りをこめて。
 ハーレイの家の夏ミカンの木にも木守りの一個が残してあって、次の年の実が実る頃になってもまだ天辺にくっついてる年もあるそうだ。
 夏ミカンの実を全部もいでも、最後に一個だけ残ってる。ぼくの知らない、遠い遠い昔の地球にあったらしい実のなる木のためのおまじない。
 そういうことを大切にする家で育ったから、ハーレイは古典の先生の道を選んだのかな?
 七夕とか、端午の節句だとか。昔の習慣を教えてくれる授業は歴史じゃなくて古典だものね。



 天辺に木守りの実を一個残した夏ミカンの木。
 どのくらい大きな木なのか、その下に立って上を見上げる日が楽しみだ。
 ぼくが初めて出会う季節は花の頃かな、それとも実がまだ青い頃?
 夏ミカンは秋の終わりに黄色くなり始めるけれど、その時に食べても酸っぱいだけなんだって。すっかり熟して美味しくなるのは初夏の頃。だから夏ミカンと呼ばれるらしい。
 どの季節にハーレイが育った家の庭に立てるのか、夏ミカンの木に会えるのか。
 ハーレイのお父さんとお母さんに初めて会える日はいつなのか…。
 その時が来たら、ぼくはハーレイが運転する車で隣町に行く。ドライブと呼ぶには短すぎる距離でも、ぼくにとっては特別な旅になるんだろう。
 隣町に着いて、庭に夏ミカンの大きな木がある家に着いたら、新しいお父さんとお母さんになる人たちがぼくを迎えてくれる。
 ぼくの背が伸びてソルジャー・ブルーだった頃と同じになったら、その家に行ける。
 そしてハーレイと結婚するんだ、ハーレイの新しい家族になるために。
 今度こそ二度と離れないよう、手を繋いで歩いてゆくために…。



 ハーレイのお母さんが庭の夏ミカンで作った自慢のマーマレード。
 金色のお日様を閉じ込めた瓶を、ぼくの部屋でハーレイと過ごす間に何度も眺めた。ハーレイのお父さんとお母さんがくれたマーマレード。
 パパとママはぼくがハーレイと結婚するなんて思ってないから、表向きはハーレイがぼくの家で休日を過ごしたりしていることへの御礼で、家族みんなで食べるためのもの。
 でも、本当は違うんだ。
 ハーレイのお父さんとお母さんは、ぼくのためにとマーマレードをくれた。
 いつかハーレイと結婚するぼくにプレゼントしてくれたマーマレード。
 見ているだけで幸せな気持ちになってくる。ハーレイのお父さんとお母さんの優しさが詰まった金色に輝くマーマレード。どんなに甘くて美味しいんだろう?
 ハーレイは「夏ミカンだから少しビターだぞ。大人向けかもな」と言うけれど、きっと食べたら甘いと思う。
 だって、ハーレイのお父さんとお母さんがくれたんだもの。
 新しい家族になるぼくに、って。



 一日中、飽きずに瓶を眺めて、ハーレイと一緒に夕食を食べる時に持って下りてママに渡した。パパとママも同じテーブルで食べる夕食。このテーブルにハーレイのお父さんとお母さんも加わる日はいつになるんだろう?
 早くその日がくればいいな、と思いながらハーレイが「また、明日な」と帰ってゆくのを家の前まで出て見送った。大きな影が見えなくなるまで手を振り続けて、ハーレイが何度も振り返って。
 夏休みはまだもう一日ある。明日がハーレイと丸一日過ごせる最後の平日。
(…あと一日しか残ってないけど、まだ一日も残っているし!)
 明日はハーレイとどんな話をしようか。
 天気が良ければ庭の木の下の白いテーブルと椅子でゆっくり過ごすのもいいかもしれない。
 ぼくの家の庭に夏ミカンの木は無いし、猫のミーシャが下りられなくなった木ももちろん無い。だけどハーレイが作ってくれた特別な場所が木の下のテーブルと椅子なんだ。
 最初はハーレイが持って来てくれたキャンプ用のテーブルと椅子だった。それが夏休みの間に白いテーブルと椅子に変わって、今ではぼくのお気に入りの場所。
 夏休みの最後の一日だから、あの椅子にも座ってみたいよね…。
 ママに頼んでスコーンを焼いて貰おうかな?
 ハーレイのお父さんとお母さんがくれたマーマレードをたっぷりとつけて食べるんだ。
 木漏れ日が模様を描く木の下のテーブルで見たら、マーマレードはお日様の光そのものだろう。ママのスコーンと、ハーレイのお母さんのマーマレード。お母さんが二人分の味。
(…うん、いいかも…!)
 明日の朝、起きて晴れだったなら、ママにスコーンをお願いしなくちゃ!



 八月三十一日、ぼくの夏休みの最後の日。
 目を覚まして窓のカーテンを開けると空は綺麗に晴れていたから、ママにスコーンを焼いて貰うために急いで階段を下りて行った。生地を休ませる時間が要るから、早めに頼んでおかないと…。
「ママ、おはよう!」
 トーストが焼ける匂いがしてくるダイニングの扉を開けた瞬間、ぼくの目に信じられない光景が飛び込んで来た。テーブルの真ん中に昨日貰ったマーマレードの大きな瓶。蓋が開いてて、パパが齧ってるトーストの上にマーマレードが乗っかっている。
「おはよう、ブルー。美味いぞ、ハーレイ先生に貰ったマーマレード」
「……もう開けちゃったんだ……」
 ぼくのマーマレード、という言葉をグッと飲み込んだ。ハーレイのお父さんとお母さんがぼくにくれた夏ミカンのマーマレード。でも…。
「どうした、ブルー? こういうものはな、頂いたら早めに食べて御礼を言うもんだ」
「そうよ、ブルー。ハーレイ先生、今日も来て下さるでしょう?」
 美味しいわよ、と微笑むママのトーストにもマーマレードが塗られていた。ハーレイのお母さんの自慢のマーマレード。ぼくが貰ったマーマレード…。
 パパが言うことは間違いじゃないって分かってる。それに表向きはハーレイからパパとママへの御礼で、パパとママがぼくよりも先に食べていたって仕方ない。ぼくに文句を言う権利は無い。
 でも、ぼくが一番に開けたかったんだ。
 だって、ハーレイのお父さんとお母さんに貰ったマーマレード。ぼくが貰ったマーマレード…。
 ガッカリしたけど、俯いていたってどうにもならない。
「ブルー? ホントに美味しいマーマレードよ?」
 もう一枚トーストを食べたくなるわね、と嬉しそうなママと、二枚目のトーストを齧るパパと。二人揃って美味しい、美味しいと食べているから、ぼくも食べてみることにした。マーマレードの瓶を開けられてしまったことはショックだったけど、貰ったのはパパとママなんだから…。
 ママにトーストを焼いて貰って、金色のマーマレードをスプーンで掬って乗せた。齧ってみるとハーレイが言ってたとおりに少しビターで、でも蜂蜜の甘さが優しくて。
「……美味しい……」
「でしょ? ハーレイ先生に御礼を言わなくっちゃね」
 御機嫌なママと、「うん、美味かった。さて、行ってくるかな」と会社に出掛けるパパと。
 マーマレードの瓶は大きいけれども、こんな調子で食べられちゃったらアッと言う間に空っぽになってしまうかも…。
 あっ、いけない! ママにスコーンを頼まなくっちゃ!



「…なるほどな。それで先に食べられてしまっていた、と」
 ハーレイが可笑しそうに笑う姿を見ながら、ぼくは頬っぺたを膨らませた。
 庭で一番大きな木の下の白いテーブル、ママの焼きたてのスコーンとハーレイのお母さん自慢のマーマレードと。最高のティータイムになる筈だったのに、マーマレードの一番乗りをパパたちに取られてしまったぼく。金色のマーマレードが盛られたガラスの器が恨めしい。
「ハーレイ、笑いごとじゃないってば! せっかくぼくが貰ったのに…」
「お前用だとは確かに言ったが、表向きは違うとも言っただろうが」
「でも…! パパもママも美味しいって喜んでるから、すぐ無くなっちゃう…」
 せっかくハーレイに貰ったのに。
 ハーレイのお父さんとお母さんがぼくにくれたのに、アッと言う間になくなりそうだ。
 そう言ったら、ハーレイは割ったスコーンにマーマレードをたっぷりと乗せて頬張りながら。
「俺の家にまだまだ沢山あるぞ。無くなったらまた持って来てやるさ」
「そうじゃなくって!」
 どうして分かってくれないんだろう。
 同じマーマレードでも、全然違うということを。
 ぼくはハーレイのお父さんとお母さんがぼくにくれたマーマレードが嬉しかったのに…。
 ハーレイと結婚するぼくに、ってプレゼントしてくれた特別なマーマレードだったのに…。
「分かった、分かった。そう膨れるな、またその内に貰って来てやるさ」
「…パパとママとが食べちゃうのに?」
「負けないように沢山食べろ。前から言っているだろうが」
 しっかり食べて大きくなれよ、とハーレイがぼくの頭をクシャクシャと撫でた。
 髪の毛がスコーンとマーマレードの匂いになったかもだけど、嫌な気持ちは全然しない。
 ぼくの大好きなハーレイの手。
 この褐色の大きな手ならば、マーマレードの瓶だって簡単にポンと開けちゃうんだろう。
 パパとママとがうんと苦労して開けたと言ってた、固く閉まった瓶の蓋でも。



 明日から、また学校が始まっちゃう。
 ハーレイと毎日のように家で会えてた夏休みが今日で終わってしまう。
 それが残念でたまらないけど、ハーレイと結婚出来る日までの残り日数は夏休みの分だけ減って少なくなったんだ。そう思って我慢するしかない。
 開けられてしまったマーマレードも、減った分だけハーレイと結婚出来る日が近付いてくる。
 ぼくは少しずつしか食べられないから、パパとママに殆ど食べられちゃうけれど…。
 でもいつか、ハーレイのお父さんとお母さんが住む隣町の家の庭で、夏ミカンがドッサリ実った大きな木を見上げる日が来て、ぼくのために残しておいて貰った一個を採ることが出来る。
 その木にぼくが初めて出会う日は、白い花の頃か、青い実の頃か。それともマーマレード作りが始まる季節になるんだろうか…。
 ハーレイのお父さんとお母さんの家まで、ハーレイが運転する車でドライブする日。
 それまでに何度、この金色のマーマレードが詰まった瓶を貰うんだろう。
 早くパパとママに「これはぼくのだ」って言える日が来るといいんだけれど…。
 夏休みの間も、ぼくの背丈は一ミリさえも伸びてはいない。
 ソルジャー・ブルーだった頃のぼくと同じくらいに大きくなるには、食べなくちゃ。
 ハーレイのお父さんとお母さんに貰ったマーマレードで、トーストをおかわりしなくちゃね。
 うん、頑張って食べてみよう。
 少しビターだけど、蜂蜜たっぷりのマーマレード。
 お日様の光を集めたような金色を毎日しっかり食べたら、きっと大きくなれるよね?
 ねえ、ハーレイ…?




         マーマレード・了


※ハーレイのお母さんの手作り、夏ミカンの実のマーマレード。
 これから何度もブルーの家へと届けられることになるのでしょう。そして毎朝の食卓に。
 トーストにたっぷりと塗り付けるブルー君、きっと幸せ一杯ですねv

 毎日更新の「シャングリラ学園生徒会室」にて、作者の日常を公開中。
 公式絵のキャプテン・ハーレイと遊べる「ウィリアム君のお部屋」もそちらにあります。
 お気軽に覗いてやって下さい、拍手部屋の方もよろしくです~。
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御礼ショートショートが置いてあります、毎月1回、入れ替えです!

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「外へ出す」と、ほんのりハレブル風味になる仕様です~。




 パパに強請って買って貰った写真集。
 歴史の彼方に消えたシャングリラの写真を集めた豪華版。ぼくのお小遣いでは買えない値段。
「ほら、ブルー。お前が言ってた写真集だ」
「ありがとう、パパ!」
「…パパにはピンとこない本だが、お前はこの船に居たんだな」
「うんっ!」
 これがぼくの部屋、とページをめくって青の間を見せた。パパは「ほほう…」とビックリして。
「この家を丸ごと入れても余りそうだが、自分で掃除してたのか?」
「…ちょっとだけね」
「そうだろうなあ、こいつは掃除も大変そうだ。しかし、お前がソルジャー・ブルーか…」
「今はパパの子だよ」
 そう言ったらパパは嬉しそうな顔をして、ぼくの頭をクシャクシャと撫でた。
「うんうん、パパとママの大事な宝物だな。写真集、大切にするんだぞ」
「うん! それでね、此処がブリッジでね…」
 ぼくはリビングで写真集を広げて、パパとママとにうんと自慢した。
 ぼくが守った白い船。ハーレイが舵を握った船を。



 この写真集はハーレイが先に見付けて買ってて、ぼくに教えてくれたんだ。「ちょっと高いが、懐かしい写真が沢山あるぞ」って。
 自分の部屋に戻った後も、ぼくは写真集を夢中で眺めた。パパとママも一緒に見ていた時には、ぼくは船内の案内係。天体の間だとか公園だとか、船の設備を主に説明してたから…。
(んーと…。ホントに色々載ってるよね)
 ハーレイが航宙日誌を書いていた部屋や、ヒルマンが授業をしていた教室。いろんな写真の隅の隅までを見ると、様々なものが見えてくる。ハーレイの机には羽根ペンが小さく写っているし…。
(あっ、あった!)
 ジョミーが決めた次のソルジャー、トォニィの部屋にチョコンと小さな木彫りのウサギ。
 トォニィは前の生でぼくが眠っている間に自然出産で生まれた最初の子供で、ハーレイが誕生を祝って彫った木彫りがこのウサギだ。
 残念なことに、ソルジャー・ブルーだったぼくは木彫りのウサギを見ていない。
(…確か、お守りなんだよね?)
 ウサギは沢山の子供を産むから、ずっと昔は卵と同じで豊穣のシンボル。イースター・エッグとセットでイースター・バニーがあるほどだしね。
 そんなウサギをハーレイが彫って、一番最初の自然出産児だったトォニィに贈った。これからも沢山のミュウの子供が生まれますように、っていう願いがこもったウサギのお守り。
 シャングリラは流れた時間が何処かへ連れ去ってしまったけれども、ウサギは残った。
 今では宇宙遺産になってるハーレイのウサギ。ミュウの歴史に燦然と輝く御大層なウサギ。
 本物は地球で一番大きな博物館が所有していて、研究者だってそう簡単には見られない。
 一般公開は百年に一度、この前の公開は五十年ほど前のことだからハーレイだって見ていない。
 前のぼくが知らないハーレイのウサギ。
 彫っている所を見てみたかった。そしてトォニィに贈る所も…。



 宇宙遺産になってしまったハーレイのウサギ。
 どんな気持ちで何処で彫ったのか、知りたかったからハーレイに訊いた。ぼくの部屋でテーブルを挟んで向かい合いながら。
「ねえ、ハーレイ。…あのウサギって何処で彫ったの?」
「ウサギ?」
 ハーレイは変な顔をした。
「ウサギがどうかしたのか、ブルー?」
「ウサギだってば、ハーレイのウサギ! トォニィに彫ってあげた木彫りのウサギ!」
「…あ、ああ……。アレか」
 アレな、と返事をしてくれたけれど、なんだか困ったような表情。
「ハーレイ、変だよ? …ウサギの話は嫌だった?」
「い、いや…。その、なんだ……」
 ますますおかしい。どうしてだろう、と疑問が膨らむ。ハーレイをつついてみたくなる。
「なんでウサギで困るわけ? 宇宙遺産になっちゃったから恥ずかしいとか?」
「いや、そうじゃなくて…。アレはウサギじゃなくてだな…」
 ハーレイは頬っぺたを真っ赤にしながら、言いにくそうにこう言った。
「…ナキネズミのつもりだったんだ。今じゃウサギになっちまったが」
「嘘…。アレって、ウサギじゃなかったんだ…」
 何処から見ても立派なウサギ。宇宙遺産のハーレイのウサギ。
 なのに本当はナキネズミだなんて、それじゃお守りだっていうのも間違い?
「ウサギのお守りって聞いているけど…。ホントのホントにナキネズミなの?」
「悪かったな、ウサギにしか見えないヤツで!」
 あれでも精一杯頑張ったんだ、とハーレイは耳まで真っ赤になった。
「俺がブリッジで彫ってた時からブラウに馬鹿にされたんだ。「どの辺がどうナキネズミだい?」なんて言われて、笑われて…。トォニィに贈る時にも横からウサギだと言ってくれてな」
「ハーレイ、訂正しなかったの?」
「…お前、訂正出来ると思うのか? カリナが「ほら、トォニィ。ウサギさんよ?」とトォニィに触らせてやっているのに「ナキネズミだ」なんて誰が言えるか、場の雰囲気が台無しになる」
「それでそのままになっちゃったんだ…」
 ぼくの目は丸くなってたと思う。
 宇宙遺産の木彫りのウサギ。それがウサギじゃなかったなんて…。



 ナキネズミはウサギにされちゃったけれど、あれを彫った時のハーレイの気持ちは聞けた。
 トォニィが幸せになれますように、って思いをこめて彫られたウサギ。
 ウサギじゃなくってナキネズミだけど、トォニィの幸せを祈る気持ちは変わらない。
 ただ…。
「ミュウの子供が沢山生まれますように、っていうのは無しだったんだね?」
 宇宙遺産のウサギとセットの解説。確かめてみたら苦い笑いが返って来た。
「…まるで無かったとは言えんがな…。そうなるといいなと思ってはいたが、ナキネズミだしな? ウサギみたいに沢山子供を産むわけじゃないし、お守りの意味は全く無いな」
「じゃあ、解説とかが全部間違ってるんだ? 宇宙遺産のハーレイのウサギ」
「そうなるな。そもそもウサギじゃないんだからな」
 しかし俺には責任は無いぞ、とハーレイは腕組みをして開き直った。
「ウサギだと決めたヤツらが悪い。俺にとってはナキネズミだ」
「だけどウサギは宇宙遺産だよ?」
「勝手にウサギと決め付けるからだ! ナキネズミだったら宇宙遺産じゃなくてオモチャだ」
「…それはそうかも……」
 ハーレイが彫ったナキネズミ。ちゃんとナキネズミに見えていたなら、御大層な解説つきで宇宙遺産にされる代わりにオモチャ扱い、歴史の彼方に消えていたと思う。
 シャングリラが消えてしまったように。青の間が無くなってしまったように。
 でも、ナキネズミは立派に残った。ウサギになって宇宙遺産で、博物館が持っていて…。
 ソルジャー・ブルーだったぼくは見られずに死んじゃったけれど、今のぼくなら見に行ける。
 博物館の奥の収蔵庫に収められているナキネズミ。ウサギになったナキネズミを。
 百年に一度しか見られないウサギ。前の公開から五十年も経っていないし、まだ先だけど。
「ハーレイ。…次に公開される時には見に行かなくっちゃね、ハーレイのウサギ」
「ナキネズミだ!」
 俺が言うんだからナキネズミだ、とハーレイは頑として譲らない。
 ナキネズミってことにしてもいいけど、宇宙遺産のウサギはウサギだと思うんだけどな…。



 木彫りのウサギが公開されて見に行く頃には、ぼくはハーレイと結婚している。
 手を繋いで一緒に見に行けるんだ。
 そして展示用のケースを覗き込みながら喧嘩なんかもするかもしれない。
 「これは絶対にナキネズミだ」「絶対ウサギだ」って、傍から見たら馬鹿みたいなことで。
 宇宙遺産の木彫りのウサギ。
 ぼくの前世がソルジャー・ブルーで、ハーレイはキャプテン・ハーレイだったと公表したなら、ウサギは直ぐにナキネズミだと訂正出来るだろうけれど。
 そんな予定は当分無いから、ウサギはウサギのままなんだ。
 ウサギじゃなくってナキネズミなのに。



 宇宙遺産のハーレイのウサギ。
 本当はアレはナキネズミです、ってコトになったら大変だよね。
 ありとあらゆる歴史の本とか美術書だとか。アレを載せてる教科書なんかもあるだろう。それを全部ウサギからナキネズミに書き換えなくちゃいけない上に、意味までまるっと変わってしまう。
 ナキネズミはウサギみたいに沢山の子供を産まないし…。イースター・バニーって言葉まであるウサギとは別の生き物なんだし、お守りの意味が無くなってしまう。
 木彫り一つで学者も出版社も博物館も、上を下への大騒ぎ。
 ハーレイの木彫りの腕前が下手くそなことを放って凄い騒動になっちゃいそうだ。
 ウサギにしか見えないナキネズミを彫ったハーレイが悪いと思うけれども、ハーレイは悪いとも思っていない。勘違いした方が悪いとか、決め付けたブラウたちが悪いとか言って笑ってる。
 いったい、誰が悪いんだろう?
 ハーレイかな? それとも最初にウサギだと言ったブラウかな? 間違えたみんな?
 考えてみたけど分からない。
 ぼくもウサギだと思ってたんだし、やっぱりハーレイが一番悪い?



 ウサギになったナキネズミ。
 宇宙遺産になってしまった、博物館に居る木彫りのナキネズミ。
 百年に一度の公開だなんていう立派すぎるウサギがナキネズミだと知ってしまうと、この世界は色々と難しそうだ。自分にそういうつもりがなくても、周りが凄い勘違いをする。
 ハーレイが彫ったナキネズミがウサギに見えたばかりに宇宙遺産。
 こうなってくると、ぼくの前世がソルジャー・ブルーなことは伏せておいて正解だったと思う。
 何処かで勝手に勘違いされて、伝説が一人歩きをしていたりしたら恥ずかしいもの。
 ハーレイの木彫りが宇宙遺産になったみたいに、ぼくも何かをやったかも…。
 ぼくは何にも残してないけど…。
 多分、残していないんだけれど。
 死んでから今までの歴史の全部に責任を取れるようになるまで、黙っているのがいいのかな?
 ハーレイみたいに変な宇宙遺産を残しているとは思わないけれど。



 ウサギじゃなくてナキネズミだ、と言い張るハーレイを見ながら考え続けてハッと気付いた。
(いけない、ハーレイとぼくは恋人同士!)
 今の生でもまだ明かせないハーレイとの仲。それは教師と生徒だからで、ぼくが十四歳になったばかりの子供だからというのもある。ぼくがソルジャー・ブルーと同じくらいの姿に育って、今の学校を卒業したなら堂々と結婚出来るけれども、前の生では全く違った。
 ソルジャー・ブルーとキャプテン・ハーレイが恋人同士だったなんて誰も知らない。
 シャングリラを守るソルジャーだったぼくと、シャングリラの舵を握るキャプテンのハーレイ。ミュウの未来を左右する立場に居たぼくたちが恋人同士だと知れてしまったら、長老たちを集めた会議でさえも円滑に運びはしなかっただろう。
 ぼくが意見を出し、ハーレイがそれを承諾する。その逆もあったし、意見が分かれて纏まらないことも何度もあった。ソルジャーとキャプテンとして立っていたから、長老たちもシャングリラのクルーもぼくたちを信じてくれたけれども、恋人同士だとそうはいかない。
 意見は一致するのが当然、分かれる時は一種の痴話喧嘩。そう取られても仕方が無い。そういう風に見られたが最後、誰もぼくたちを心の底から信頼してはくれないだろう。
 だから恋人同士であることを伏せた。最後の最後まで隠し通したから、ぼくはメギドへ飛び立つ前にハーレイとキスすら交わせなかった。別れの言葉さえ告げられなかった。
 ソルジャー・ブルーとキャプテン・ハーレイは恋人同士。
 これが前世のぼくが抱え込んでいた最大の秘密で、明かせばそれこそ歴史が変わる。
 宇宙遺産の正体がナキネズミだったこととは比べようもない大きすぎる秘密。
 今のぼくには明かすだけの度胸も覚悟も無い。
 だって、ぼくはまだ十四歳の子供。
 三百年以上もの歳月を生きたソルジャー・ブルーがやったことまで責任なんか取れないよ…。



 今のぼくには背負い切れない前の生。
 とりあえず今はソルジャー・ブルーの生まれ変わりだと知っている人はハーレイを入れても四人だけだし、まだ責任は取らなくていい。
 でも、ちょっと待って。
 ぼくがハーレイと結婚してから「実はソルジャー・ブルーとキャプテン・ハーレイです」なんて言おうものなら、前の生でも恋人同士だったんだろうと思われるよね?
 前世のぼくたちは恋人同士じゃありません、って主張しても説得力が無い。
 ソルジャー・ブルーとキャプテン・ハーレイの評価が地に落ちるとまでは思わないけれど、影響無しとも思えない。好意的に受け止めて貰えるか、その逆なのか。
 ぼくには全く分からない。きっとハーレイにも分かりはしない。決めるのは他の人たちだから。



(…なんだか怖い……)
 やっぱり一生、黙っていようか。
 ぼくが誰なのか、ハーレイは本当は誰なのかを。
 そしたらハーレイが彫ったナキネズミは訂正出来ずにウサギのままで宇宙遺産だ。
 そう考えたらなんだか可笑しくなってくる。
 同じ前の生で出来た秘密でも、どうしてこうも違うんだろう。
 ぼくとハーレイが恋人同士だったことを公表しても、あるいは笑われて終わりかもしれない。
 終わり良ければ全て良しだと言ってくれる人だってあるかもしれない。
 ぼくもハーレイも、前の生ではやるべきことを全力でやった。
 メギドを沈めて死んでいったぼくと、シャングリラを地球まで運んで行ったハーレイと。
 自分の責任をちゃんと果たして、ぼくたちは地球に生まれ変わった。
 だから文句を言う人は無いかもしれない。
 いつか、覚悟が出来たなら…。
 きちんと本当のことを言おうか、「ぼくはソルジャー・ブルーでした」と。



 ハーレイが彫ったナキネズミのせいで、前の生まで考える羽目に陥ったぼく。
 そんなこととも知らないハーレイは、のんびり紅茶を飲んでいたから。お菓子もしっかり食べていたから、少し苛めてやろうと思った。
「ハーレイ、宇宙遺産のウサギだけれど…。やっぱりハーレイが悪いと思うな」
「どうしてそうなる?」
「下手くそなモノを作るからだよ、自分で酷いと思わない? 世界中の人を騙すだなんて」
 宇宙遺産のウサギを見るには入場料だって要るんだから。
 百年に一度の特別公開は入場料も高いんだから、と指摘してやった。
「宇宙遺産のウサギを見られた、って喜んだ人たちを騙したんだよ、ハーレイは! その人たちに返してあげてよ、入場料を! それと博物館までの交通費!」
 遠くから来た人は宿泊料だってかかってる。
 うんと沢山お金を払って、時間もかけて博物館まで。ウサギだったら値打ちもあるけど、ウサギじゃなくてナキネズミ。おまけにハーレイの下手くそな木彫りを見せられるんだ。
「酷い目に遭う人が増えないように、木彫りの趣味はもうやめてよね!」
 どうせ下手くそなんだから、と言ってやったら「今は木彫りはやってないぞ」だって。
 似ているようでも前の生とは何処かが違う、今のぼくたち。
 違うんだったら責任は取らなくていいのかな?
 ハーレイが宇宙遺産のウサギのことを「俺は知らん」と涼しい顔をしてるみたいに、ぼくたちが前の生で恋人同士だった大きな秘密も、放っておいてもかまわないのかな?
 そうだといいな、と思いたい。
 だって、宇宙遺産になったウサギを彫ったハーレイは知らん顔だもの。
 ぼくが苛めても「見る目が無いから騙されるんだ」なんて、平気な顔して言ったんだもの。



「ねえ、ハーレイ」
「なんだ?」
「ハーレイのウサギ、見に行きたいな」
 五十年後の公開までじっと待つのも楽しいけれども、レプリカだったら置いてるし…。
 強請ってみたら、案の定、「お父さんに連れてって貰え」と突き放された。
「引率の先生と生徒でもダメ?」
「ウサギに関しては、断固、断る。…自分を保てる自信が無いしな」
 教師として振舞うのを忘れそうだ、とハーレイは博物館にぼくを連れて行くのを断った。
 でも、見に行くならハーレイとがいい。
 絶対、ハーレイと二人で見たい。
 宇宙遺産なんて御大層なことになってしまった下手くそな木彫りのナキネズミ。
(そっか、当分、行けないんだ…)
 ぼくの背丈がソルジャー・ブルーと同じになるまで。
 本物の恋人同士になれる時まで、ハーレイと一緒に博物館には行けないらしい。
(…でも、それならそれで…)
 手を繋いで博物館でデートって、ちょっといいよね。
 ミュージアムショップでレプリカのウサギを買って帰って家に置こうよ、ねえ、ハーレイ?
「…分かった。ついでに五十年後だかの特別公開ってヤツも俺と一緒に見に行くんだな?」
「うんっ! 一番乗りで見ようね、ハーレイ」
「馬鹿か、お前。何日前から待つつもりなんだ、アレを見るための行列はだな…」
 博物館をぐるっと取り巻くくらいに人が並ぶらしい特別公開。
 それなら尚更、見なくっちゃ。
 うんと出世して宇宙遺産になってしまった木彫りのナキネズミ。
 ハーレイと二人で行列に並んで、展示ケースの前に立ったら覗き込んで喧嘩するんだよ。
 「やっぱりウサギだ」「いや、ナキネズミだ」って、周りの人たちに呆れられながら。
 だって、どう見てもウサギだもの。ナキネズミに見える方がおかしい。
 ハーレイ、それまでに訂正しておく?
 「あれは私が彫りました。正真正銘、ナキネズミです」って。
 そうするなら、ぼくも付き合うよ。「ぼくはソルジャー・ブルーでした」って。




        木彫りのウサギ・了


※宇宙遺産になってしまった木彫りのウサギ。訂正される日は来そうにないですねえ!
 次の特別公開の頃にはハーレイ先生は90歳前後、ブルー君も還暦超えです。
 全員がミュウな世界では、まだまだ若造。バカップルでも許されるよ、きっと。

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 ぼくの前世はミュウの長だったソルジャー・ブルー。
 でも、知っている人はパパとママと、ぼくを診てくれたハーレイという苗字のお医者さんだけ。
 そしてもう一人、お医者さんの従兄弟でぼくの学校の古典の先生、ハーレイもぼくの前世が誰か知っている。そのハーレイが前世でのぼくの恋人なんだ。もちろん今も恋人だけど。



 ぼくとハーレイは蘇った青い水の星、地球の上に生まれ変わって再会したんだ。
 今、ぼくたちが暮らす地域は遙かな昔に日本という国があった場所。
 前の生の頃、SD体制の時代には古い習慣とか伝統なんかは廃れていたように思われてるけど、そんな時代でも神様という概念はあってクリスマスもちゃんと残ってた。
 それから長い年月が経って、今、ぼくたちが暮らす地球では、SD体制よりも前の時代の色々な風習を復活させて味わい、楽しんでいる。
 例えば、ぼくがハーレイと再会した日の二日後は五月五日で端午の節句。
 五月の三日に前世の記憶を取り戻したぼくは、それと同時に血まみれになった。前の生の最期にメギドで撃たれた時の傷痕。お医者さんは聖痕現象と診断したけれど、身体には何の傷も無いのに沢山の血が流れ出したそれ。
 あまりに出血が酷かったからと、その週は学校を休むことになった。そのせいで五月五日も家に居たぼくは、ハーレイの授業を聞き損なって…。
 次の週にようやく登校出来て、友達に聞いてガッカリしたんだ。端午の節句について習う授業は歴史じゃなくて古典の管轄。ハーレイの授業で柏餅と粽が配られて、みんなで食べたんだって。
 柏餅と粽はお店で買えるけど、ハーレイと一緒に食べてみたかった。端午の節句の話を聞いて、柏餅と粽の由来を聞いて。
 「先生、桜餅にはどういう由来があるんですか!」なんて質問が飛び出したりして、凄く楽しい時間だったらしい。桜餅には何の由来も無かったけどな、と友達が笑って教えてくれた。
 柏餅も粽もハーレイが赴任してくる前から手配されてたお菓子で、ハーレイは古典の授業の一環として食べながら話しただけなんだけど…。授業なんだって分かってるけど、食べたかったな。
 だって、大好きなハーレイの授業。ハーレイの声を聞きながら一緒に食べられるだけで、柏餅も粽も特別な味になった筈だと思うから…。



 そういう少し変わった授業は当分何も無さそうだな、って思っていたら七夕の話を教わった。
 来週が七夕、恋人同士の二つの星が一年に一度、天の川を渡って会う星合いの日だと。
 彦星と織姫、アルタイルとベガ。
 今では銀河系の中の恒星だって分かってるけど、それを天に住む人だと信じた昔の人たちは幸せだったんだろうなと思う。
 その時代、地球は今と同じように、ううん、今よりももっと青くて綺麗だっただろうから。
 地球に人が住めない時代が来るなんて誰も思わなかっただろうから。
 生活は今よりもずっと不便で厳しい時代だったと思う。でも、地球の上に住んでいられるだけで人間はきっと幸せだったと思うんだ。自分では全く気付いてなくても。
 前の生でのぼくとハーレイには地球は無かった。
 地球を探して、地球に行きたくてシャングリラで宇宙を彷徨っていた。
 そんな記憶があるからだろうか、ぼくは地球に居られればそれで充分かな。友達は将来、何処か他の星で暮らしてみたいとか話してるけど、ぼくは地球しか知らなくてもいい。
 遠い昔にシャングリラが潜んだ雲海の星、アルテメシアにも行ってみたいとは思わないし。
 アルタイルもベガも、ぼくがシャングリラで長い眠りに就いていた間に地球を探して立ち寄ったらしい。地球が属するソル太陽系の座標が全く掴めなかったから、恒星はもれなく探索の対象で。
 だけどアルタイルもベガも、地球を連れてはいなかったんだ。



 ハーレイの授業でシャングリラの話が出るわけもなくて、習ったものは七夕に纏わる言葉など。
 ぼくたちの年ではもうやらないけど、小さな頃には七夕といえば笹飾りを作って家に飾った。
 折り紙の細工や、願い事を書いた短冊を吊るして七夕を待った。七月七日は晴れますように、と天気予報を心配してた。雨が降ると彦星と織姫は会えなくなるって聞いていたから。
 七月七日に降る雨のことを何と呼ぶのか、ハーレイの授業で初めて知った。催涙雨だって。天の川の水が増えてしまって会えない二人が泣くからだとか、二人が流す涙だとか。
 天の川を渡るための橋も何で出来てるのか知らなかった。カササギという鳥が翼を広げて一列に並んで作る橋。その橋を詠んだ遠い昔の人の歌も出て来た。
 一年に一度しか架からない橋。
 もしも、ぼくとハーレイが一年に一度しか会えなかったら?
 ぼくは前の生の終わりにハーレイの温もりを失くしてしまって、独りぼっちになってしまったと泣きながら死んだ。もう会えないと、ハーレイには二度と会えないんだと…。
 だから一年に一度しか機会が無くても、会えるのならそれで充分嬉しい。
 でもやっぱり……一年に一度しか会えないだなんて悲しいとも思う。
 きっと、ぼくは欲張りになったんだろう。
 この地球の上でまたハーレイに会えて、独りぼっちじゃなくなったから。
 ハーレイと二人で地球に居るのに、一年に一度じゃとても足りない。学校で会って、ぼくの家で会って、殆ど毎日会っているけど、それでもまだまだ足りないんだから…。



 七夕の授業があった週の土曜日、いつものようにハーレイが訪ねて来てくれて。
「ねえ、ハーレイ。七月七日は晴れるといいね」
 そう言ったら「昔は雨になることが多かったんだぞ」って教えてくれた。古典の授業の範囲じゃないけど、昔、この場所に在った日本という国では七月七日は雨の季節の真っ最中で。梅雨という言葉まで存在したほど、雨ばかり続いていたんだって。
「ふうん…。それだと一年に一度会うのも難しそうだね。もしかして毎年、催涙雨だった?」
「さあな? しかしだ、そのまた昔は雨の季節じゃなかったそうだぞ」
「えっ?」
 今のこの場所に梅雨が無いのはSD体制崩壊後の地殻変動で地形が変わったせいだと聞くのに、それよりも前に大規模な変動があったんだろうか?
 それは全然知らなかったな、と首を傾げたら。
「ブルー、変わったのは地形じゃなくて暦だ。カレンダーだな」
「え? …カレンダー?」
 一年が十二ヶ月のカレンダー。SD体制の前も、SD体制の頃も、今の時代もカレンダーは同じ十二ヶ月だと思ってた。地球の公転で決まる筈のそれが変わるだなんて初耳だけど…。
「ずっと昔はカレンダーが別のものだったんだ。今でも売っているだろう? 月のカレンダーを」
「…月齢カレンダーっていうヤツのこと?」
 あまり馴染みは無かったけれども、月の満ち欠けを書いたカレンダーなら知っている。
「そうさ、昔はそっちを使っていたんだ。その暦だと七夕の頃には雨の季節は終わった後だ」
「…そうだったんだ…」
 なんだか頭がぐるぐるしてきた。
 遙か昔のこの地域では、七夕は梅雨で雨ばかり。だけどそのまた前の時代は雨が降らない時期の七夕で、いったいどっちが正しいんだろう?
 太陽のカレンダーの方? それとも月のカレンダー?
 地球は太陽の周りを一年かけて回ってるんだし、太陽のカレンダーが正しいのかな?
 でも、でも、でも。
 太陽のカレンダーだと七夕が雨の季節になるなら、月のカレンダーの方がいいな、と思う。
 だって、雨の七夕ばかりが続くと彦星と織姫は何年も会えなくなっちゃうから。
 彦星はアルタイル、織姫はベガで、神様じゃなくて恒星なんだって分かってるけど…。
 でもでも、会えないより会える方がいい。
 催涙雨ばかりになってしまいそうなカレンダーより、断然、月のカレンダー。



 そう思ったから「月のカレンダーにしてあげたいな」とハーレイに言ったら「そうだな」という答えが返って来た。
 もしも、ぼくとハーレイとの間に天の川があって、一年に一度しか会えなかったなら。
 その日に雨が降ってしまったら、カササギは橋を架けてくれない。
 橋が無くても前のぼくならサイオンの力で飛び越えられたし、会えた筈。
 でも、今のぼくは空を飛ぶことも瞬間移動も出来ないんだから、飛び越えられない。
 天の川なんかがあったら困る。
 一年に一度しか会えない七夕の日が雨になったら、泣いて、泣いて、涙が催涙雨になる。
 だけど…。
「ハーレイなら天の川、泳いで渡ってしまえるかもね」
 水泳が大好きなぼくの恋人。
 学生時代は選手だったほどに泳ぎが上手くて、身体も丈夫なハーレイだったら…。
「お前に会うために泳ぐのか? それなら泳ぐさ、どんなに川幅があったとしてもな」
「…そっか…」
 自信あるんだ、と嬉しくなった途端にふと思い出した。
 七夕の日に天の川に架かる橋はカササギの橋。沢山の鳥が翼を広げて一列に並んで作る橋。
 カササギは小さな鳥だけれども、ハーレイみたいに大きな身体でも大丈夫かな? 重さに負けて潰れないかな、と少し心配になったから。
「…ハーレイは泳いだ方がいいかも…。カササギの橋、ハーレイの体重に耐えられるかな?」
「こら、お前!」
 コツン、と頭を小突かれた。
「俺がカササギの橋を踏み抜くってか?」
「踏み抜きそうだよ?」
「お前な…。お前、俺に会いたいのか、会いたくないのか、どっちなんだ」
 橋を踏み抜いたら俺はお前に会えないわけだが、とハーレイがぼくを睨んでる。腕組みまでして怖そうな顔をしてみせてるけど、怒っていないって分かってしまう。鳶色の瞳が笑ってるから。
「…ハーレイ、答え、知ってるくせに」
 天の川が大雨で溢れていたって、ぼくはハーレイを信じてるから泣かないよ。
 きっとハーレイなら泳いでくると思うから。
 カササギが橋を架けてくれなくっても、ぼくは泣かない。
 泣かずに待っていれば必ず、ハーレイが泳いで来てくれるから…。



「ずいぶんと信用されたもんだな、俺も」
 天の川を泳いで渡り切ろうってほどの勢いか、とハーレイは苦笑しているけれど。
「…来てくれないの?」
「いや、泳ぐ。お前が向こう岸に居るなら、どんな川でも俺は泳いで渡ってみせる」
 向こう岸が見えないような川でも泳ぎ渡る、と鳶色の瞳の色が深くなった。
「ブルー、お前に会えるんだったら、俺は必ず泳いで行く」
 ハーレイが右手を差し出してきて、ぼくの右の手をキュッと握った。
 前の生で最後にハーレイに触れた手。ハーレイの温もりを最期まで覚えていたかったのに、銃で撃たれた傷の痛みで温もりを失くしてしまった右の手。
 その手を握って、ハーレイはぼくを真正面から真剣な瞳で見詰めた。
「…本当はメギドまで追いたかったんだ。お前を追い掛けて飛びたかった」
「……それはダメだよ、ハーレイはキャプテンだったんだから」
「そう思いたかっただけかもしれん。全てを捨て去る覚悟があったら、あの時、俺は飛べたんだ」
 シャングリラもキャプテンの制服も何もかもを…、とハーレイが苦しげな顔になる。
 ぼくが飛び去って直ぐに追い掛けていれば、自分もメギドに行けた筈だと。
 そうすることが可能な船が格納庫に何機も在ったのだから、と。
「…あの時、俺とお前の間には溢れた天の川があったんだろう。…実際、宇宙があったんだがな。溢れた川を渡る勇気を俺は持ってはいなかった。そしてお前を喪ったんだ」
「違うよ、ハーレイ。…ぼくはジョミーを頼むと言ったよ、君はそのために残ってくれた」
「俺もそうだと思っていた。…しかしな、お前のことを最優先で考えるのなら、俺はお前を追うべきだった。俺がお前を追わなかったから、お前の右手は凍えてしまった」
 この手だ、とハーレイはぼくの右手を大きな両手で包み込んだ。
「俺は二度と後悔したくない。天の川を渡らなかった自分の馬鹿さ加減に涙するのはもう沢山だ。…だから俺は渡る。どんなに広い川であろうと、俺はお前の所まで泳ぐ。…いいな?」
「…うん……。ぼくも待ってる。ハーレイが来る、って信じて待ってる」
 催涙雨なんか降らせないよ、と言ったけれども。
 ぼくの瞳からは大粒の涙がポロリポロリと零れて落ちた。
 この涙はぼくの涙だけれども、ぼくはぼくでも前のぼくの涙。
 ハーレイと離れて独りぼっちで死んでいったソルジャー・ブルーが天の川のほとりで零した涙。
 もうハーレイには会えないのだと、右の手が凍えて冷たいと泣いた。
 だけど、向こう岸からハーレイが来る。泳いで渡って来てくれるのだ、と…。



 ハーレイとそんな話をしたから、少し切ない気持ちになった。
 天の川のほとりに立ち尽くしたまま、ハーレイが泳いでやってくるのを待った前の生のぼく。
 本当にハーレイが川を渡って来てくれたから、ぼくたちは地球の上で会えたんだと思う。
 だけどそれまでに、ソルジャー・ブルーは一人きりで何度泣いたのだろう。
 どのくらいの涙が瞳から零れて雨になったのか、どのくらい一人で待っていたのか…。
 前の生でのハーレイの命が尽きたら直ぐに会えたんだろうか?
 きっと会えたと思いたい。
 そうでなければ悲しすぎる。今年こそ会える、今年こそ…、って泣きながら待っているなんて。
 ソルジャー・ブルーがメギドを沈めた後、数年が経ってSD体制は崩壊した。
 だから前のぼくが独りぼっちで待った時間は数年だけだと思いたいけれど…。
 催涙雨は数年分しか降っていないと思いたいけれど、こればかりはぼくにも分からない。
 生まれ変わって来るまでの間は何処に居たのか、それすらも分からないんだから。



 翌日の日曜日には七夕も催涙雨もすっかり忘れてしまって普段どおりのぼくだったけれど、その週の半ば、学校からの帰り道で七夕飾りを見かけた。
 バス停から家まで歩く途中にある家の玄関先に、ぼくの背丈くらいの笹飾り。きっと小さい子が居る家だろう、色とりどりの紙の飾りや短冊が幾つも結んであった。
 それを見たら思い出したんだ。
 ハーレイと話した天の川のこと、天の川のほとりで涙を零していた前のぼくのこと。
 今のぼくはハーレイと毎日のように会えるけれども、会えなかったなら…。
 一年に一度しか会える日が無くて、その日に会えなかったなら。
 どれほど悲しくて寂しいだろう、と考えただけで涙が零れてしまいそうだから。
 青く晴れた夏の空を見上げて、心の中で願いをかけた。
 催涙雨が降りませんように。
 どうか今夜は晴れますように、って。
 だって、会えないだなんて寂しすぎるし、悲しくて辛い。
 ハーレイは天の川でも泳いで渡ると言ってくれたけど、彦星にそれは難しそうだ。
 彦星と織姫がカササギの橋を渡って会えるようにとぼくは祈って、七夕の夜は綺麗に晴れた。
 そして次の日に気が付いた、ぼく。
 七夕の笹に結ぶ短冊。お願い事を書いて吊るしておくのが七夕だった、と。
 背が伸びますようにと頼めば良かった。
 お願いするのを忘れただなんて、ちょっと間抜けで誰にも言えない。
 失敗だった、ぼくの七夕。
 でもハーレイには今日も会えたし、いつかは一緒に暮らせるんだから焦らなくても大丈夫。
 天の川でも泳いで渡るとハーレイは言ってくれたから。
 ぼくたちは二度と離れないから……。




        催涙雨・了


※天の川でも泳いで渡ろうというハーレイ先生。川幅、どのくらいあるんでしょうね?
 それでもハーレイは泳ぐのでしょう、二度と後悔しないために。

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