シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
「ブルー。お前、レンコンは好物か?」
ハーレイに訊かれて、ブルーは「えっ?」と赤い瞳を丸くした。
夕食前のお茶の時間で、テーブルの上にレンコンは無い。紅茶と焼き菓子が載ったお皿だけ。
(えーっと…)
ハーレイは仕事帰りに寄ってくれたから。
このタイミングでレンコンが好物なのか、と尋ねられたからにはハーレイは此処に来てから多分レンコンを見たのだろう。
(…でも、レンコンって…)
キッチンにレンコンはあっただろうか、と考えたけれど分からない。母がレンコンを買って来たなら、置き場所は恐らくキッチンの筈。
(レンコン、あった…?)
学校から帰って、おやつを食べて。空になったお皿とカップをキッチンの母に渡しに行った。
その時にキッチンに入ったわけだが、レンコンなどは見た覚えが無い。
(テーブルの上には無かったよね?)
母が常温でも大丈夫な食材を置くテーブル。その日に使う、タマネギやジャガイモ。
其処にレンコンは無かったと思う。
食料品店の袋に入ったままなら、気付かなかったかもしれないけれど。
それにしたって、ハーレイの言葉。
ハーレイには今夜の夕食のメニューが分かるのだろうか?
どんな料理になるかはともかく、レンコンを使った何かが出て来る筈だと。
(ママ、レンコンが入った袋を玄関とかに置きっぱなしにはしないよね?)
買い物に出掛けた母は荷物が軽ければ勝手口から家に入るし、多い時でも玄関から入って置いたままにはしておかない。いつ来客があるか分からないから、直ぐに奥へと運んでいる。
(ぼくも運ぶのを手伝ったりもしているしね…)
今日は「手伝ってくれる?」とは言われなかったし、帰った時には母は買い物を済ませていた。覗いた冷蔵庫に昨日は無かったものを見かけたのが証拠。
(あれからもう一度、買いに行ったりしないだろうし…)
しかも、レンコン。
常備しておく食材では無いから、使うつもりなら忘れずに買って来ただろう。
(やっぱり、レンコン、あったのかな?)
けれども記憶に無いレンコン。キッチンで見かけなかったレンコン。
ハーレイが「好物なのか?」と訊いて来たからには、きっと今夜はレンコンの料理。
でも…。
(なんでハーレイ、ぼくも知らないレンコン料理だって分かるわけ?)
玄関にレンコンが置いてあるのを見たのだったら、納得だけども。
母に限って、それだけは無い。来客の目に入る所にレンコンを置いておいたりはしない。
(もしかして、透視…?)
今のブルーには出来ないけれども、ソルジャー・ブルーだった頃なら簡単に出来た。青の間からブリッジの様子を覗いてみたり、公園や食堂や厨房だって。
仲間のプライベートな空間を見ようなどとは思わなかったが、公共の場なら眺めていた。
きっとそれだよ、と考えるブルー。ハーレイはキッチンを覗いたのだ、と。
「ハーレイ、此処からキッチン、見えるの?」
「いや、無理だが? 透視ってヤツだろ、前の俺にも出来なかったぞ」
キッチンの様子はとんと分からん。集中したなら、ぼんやりと見えるかもしれないが。
「だったら、ママの心を読んだ?」
「読んでいないぞ、そういうのはマナー違反だからな」
ついでに、お母さんはお前と違ってサイオンのコントロールが出来てる。
心が零れていたりはしないし、思念の拾いようがない。
「えーっ?」
透視でもなく、心を読んだわけでもないと言うのなら。
ハーレイが今夜の夕食のメニューを知る方法は一つしか無い。
「レンコンって…。ハーレイ、それって、予知だったりする?」
「あながち外れというわけではないが」
返って来た答えに、ブルーはビックリ仰天した。
「ハーレイ、今度は予知が出来るの!?」
前のブルーにさえ、ほんの僅かにしか備わっていなかった予知能力。
未来に何が起こるかは読めず、ただ漠然と嫌な予感や悪い予感を感じていただけ。虫の知らせと変わらないレベルで、周りの状況を考え合わせて「こうなるだろう」と予想していた。
そう、前の自分の命がメギドで尽きてしまうということでさえも。
本当の予知と呼べる力はフィシスだけしか持たなかった。タロットカードを繰り、未来を読んでいたフィシス。ミュウにとっても神秘の力で、それゆえに皆に頼りにされた。
そのフィシスにしか無かった力を、今のハーレイは持っているのだろうか…?
「まさか。俺は前の俺とそっくり同じさ」
予知なぞ出来ん、と可笑しそうに笑っているハーレイ。
ならばどうしてレンコンなのか。何処からレンコンが出て来たのか。
「えーっと…。今日の晩御飯、ママはレンコンだって言ってた?」
「レンコンも何も、お母さんから晩飯の話は何も聞いてはいないぞ」
ついでに家に入った時もだ、特に匂いはしていなかったな。
仮に匂いがしていたとしても、俺の鼻ではレンコンの匂いなんぞは分からん。
酢バスだったら、酢の匂いがツンと漂ってるから「酢バスかもな」と思いはするが…。
「それなら、なんでレンコンなの?」
「シーズンだしな?」
食料品店で見かけたのだ、とハーレイは言った。
本格的な旬はまだ先、十一月頃からの冬レンコンが名高いらしいのだけれど。
秋口に採れる秋レンコンもまた、柔らかくてあっさりした味わいで美味なものだという。
「そうなんだ…」
「まあ、前の俺たちの頃にはレンコンなんかは無かったしな?」
シャングリラに無かったというだけじゃなくて。
レンコンを食うって文化自体が消えちまっていたな、蓮は観賞用だったようだ。
あの頃の俺は特に調べもしなかったんだが、植物園だとか水と親しむ公園だとか。
そういう所に植えて花だけ眺めていたんだ、根っこには見向きもしないでな。
観賞植物だったらしい、前の自分たちの時代の蓮。
地下茎が食用だったことさえ、忘れ去られていた時代。
そのレンコンは今のブルーたちが暮らす地域では普通の食材なのだけれども。
何故ハーレイに好物なのかと訊かれたのかが分からないから。
「それで、どうしてレンコンなの?」
好き嫌いは無いから、もちろん嫌いじゃないけれど。
はさみ揚げも、きんぴらも何でも食べるよ。酢バスも、煮物に入ってるヤツも。
「ふうむ…。その割に予知能力は皆無、と」
「予知能力?」
なんで、何処から予知能力の話になるわけ?
「レンコンだ」
「レンコンって…。あれにそういう成分があった?」
今のブルーが生まれてからは、まだ十四年にしかならないけれど。
たった十四年しか生きていないけれど、レンコンで予知能力がアップするなどという話は一度も聞いたことがない。
予知能力は今でも神秘の能力とされて、フィシスのような人材は皆無。能力があっても占い師として恋愛相談程度が限界、未来を完璧に読み取れはしない。
未だにそういう状態なのだし、予知能力を強くするための食べ物も薬も無さそうなのだが…。
しきりに首を傾げるブルーに、ハーレイは「うんと昔の話だがな」と笑みを浮かべた。
「この辺りが日本だった頃。レンコンは縁起物だった」
縁起を担ぐと言うだろう。そいつの一種だ、レンコンは縁起がいいとされていたのさ。
食べると先が見通せる、ってな。
「先…?」
「いわゆる未来だ、これから先の未来のことだ」
それが見えると言われていた。
レンコンには穴が幾つもあるだろう?
あの穴を通して未来が見えると、向こうが見えると縁起を担いだ。
商売をするには先が見えれば有利になるしな、人生だって先が読めたら便利ではある。
そういったわけでレンコンなんだな、食べて未来を見通そうってな。
「…ホントに見えるの? レンコンで未来」
昔から言われていたのなら、とブルーは期待したのだけれど。
「そういった例は俺は知らんな…」
見えたという話も読んだことは無いな、と数多くの古典を目にしたであろうハーレイの答え。
「ただしだ、未来が見えると信じて食ったらアップするかもな、予知能力」
鰯の頭も信心から、って古い言葉を知ってるだろう?
思い込みの力は馬鹿には出来んぞ、信じて食ったらどうだ、レンコン。
「ぼくには元々、予知能力は無いんだよ!」
フィシスにだってあげていないよ、フィシスが持ってた予知能力はぼくのじゃないよ!
「そうらしいな?」
あれは副作用のようなものだ、と前のお前は話していたが。
「そうだよ、多分、そういうものだよ」
前のぼくがフィシスにあげた力は、ミュウとして生きていくのに必要なだけのサイオンだよ。
目が見えないって分かっていたから、それを補うための力も。
そうして渡したサイオンの内のどれかが、フィシスの中の何かと結び付いたんだ。
フィシスは無から生まれた生命体。
常識では計り知れない変化が引き起こされても無理はないよね、前のぼくにも読めなかった。
まさかフィシスがあれほどに強い予知の力を得るだなんて。
「そうだな、俺も驚いた。元は普通の人間だったんじゃなかったのか、と」
普通と言っていいのかどうかは分からんが…。
生まれ以外は、いわゆる人類と同じだった筈だ。
前のお前もそう言っていた。サイオンは自分が与えたのだと、実はミュウではないのだと。
それなのに、あれだけの予知能力だ。
あの頃にレンコンを知っていたら、だ。
先が見えるという縁起物を、フィシスに食わせてやりたかったな、と。
「…フィシスに?」
「ああ。レンコンを食えば、見えなくなった未来が見えるようになるかもしれないじゃないか」
「そっか…。前のぼくがいなくなった後…」
フィシスのサイオン、消えてしまっていたんだっけ。
地球でカナリヤの子供たちをシャングリラまで届けた時には、サイオンがあったらしいけど…。
見えない目だって補えるだけの力はあったと聞いているけど、予知能力は…。
「うむ。フィシスは体調が優れないふりをしてはいたが、だ」
俺はお前から聞いていたから、分かっていた。
予知能力を失くしたんだと、占いたくても占う力が無いんだと。
どうしてやることも出来なかったが、もしもレンコンがあったならなあ…。
食べさせてやれば、心理的な効果くらいはあったかもな、と思ってな。
先が見通せる、未来が見える縁起物。向こう側が見える穴が幾つも開いたレンコン。
それをフィシスに食べさせたかった、とハーレイは語る。
フィシスにサイオンを与えたブルーがいなくなったせいで、予知が出来なくなったフィシスに。
「でも、あの頃のハーレイは…」
とても忙しかった筈だよ、地球を目指しての戦いが始まっていたんだから。
朝から晩までブリッジに詰めて、ブリッジに居なければ作戦会議。
キャプテンの部屋で寝てる時だって、人類軍の船が現れたらブリッジに走っていたんでしょ?
「そうさ、フィシスを訪ねるどころじゃなかった」
たまにぽっかりと時間が空いたら、後悔ってヤツに押し潰されそうになっていたしな。
どうしてお前を一人でメギドに行かせたのかと、どうして追わなかったのかと。
青の間に出掛けて立ち尽くしていたり、レインが居たならお前の思い出を話していたり…。
俺の時間は戦いと前のお前とに埋め尽くされていて、フィシスのことは忘れがちだった。
第一、レンコンだって知らない。
そいつを食ったら先が見えると、未来が見えるというレンコンを知らなかった。
だがな、もしも何かのはずみに耳にしたならば。
探しただろうな、シャングリラが立ち寄った先々の星で。
「ハーレイ、うんと忙しかったのに?」
それでもレンコンを探したって言うの、フィシスのために?
効くかどうかも分からないのに、縁起物だっていうだけなのに。
「もちろん探すさ、どんなに忙しかったとしてもな」
前のお前の大事なフィシスだったんだ。
「ぼくの女神だ」と言ってたっけな、青い地球を抱く女神なんだ、と。
フィシスはお前に地球を見せていたし、お前はフィシスが欲しくて攫った。
わざわざサイオンを分け与えてまで、ミュウだと嘘をついてまで。
フィシスの正体は前の俺しか知らなかった。俺しか知らないままだった。
メギドに飛ぶ前、お前はジョミーのことしか言い残しては行かなかったが…。
あの時、もう少し時間に余裕があったなら。
フィシスのことも俺に頼みたかったんじゃないのか、ブルー…?
「…ほんの少しね」
少しだけだったよ、フィシスへの未練。
前のぼくが言葉を残して行きたかった一番は前のハーレイだよ。
時間があったらハーレイと名残を惜しみたかったよ、これが最後のお別れなんだ、って。
「それはそうかもしれないが…」
フィシスだって忘れてはいなかったろうが。
お前の女神だ、前のお前が無茶をしてまで手に入れて来た女神だったんだからな。
前のブルーが遺した女神。
サイオンを与えてミュウに仕立てた、青い地球を抱く神秘の女神。
ブルー亡き後、長老たちは進むべき道を求めてフィシスの許を訪れたのだが、タロットカードは繰られなかった。予知の力を失くしたフィシスに、占いは出来はしなかった。
何度訪ねても託宣を得られず、長老たちの足は遠のき、フィシスは忘れ去られていった。
そうなるだろうと分かっていたのに、前のブルーには策が無かった。
フィシスが自分に頼ることなく自らの足で歩んでくれれば、と祈ることしか出来なかったのに。
「…ハーレイ、もしもレンコンのことを知ったら、探しに行ってくれたんだ?」
前のぼくが置いて行ったフィシスのために。
ぼくが死んだせいで、予知能力を失くしてしまったフィシスのために…。
「探しただろうな、探すだけじゃなくて自分で採りに出掛けたかもしれん」
食おうって文化が無かった時代だ、レンコンは植物園だか公園だかの池にしか無いしな?
船のヤツらに採って来いとはとても言えんし、俺が行くしかないだろう。
池の底を掘って、レンコンを採って。
そしてフィシスに食わせただろうな、なんとか料理してみてな。
「…もう一度厨房に立つんだ、ハーレイ…」
キャプテンになる前は厨房に居たけど、またフライパンを握るんだ…?
「さてなあ、レンコンを料理するとなったら、フライパンだか鍋なんだか…」
しかしだ、キャプテンが怪しげなモノを料理していたと噂が立つのも考え物だし。
レンコン掘りは「ちょっと興味が湧いたからな」と気分転換に出掛けたと言えばそれで通るが、そいつで料理を始めたとなればゼルやブラウに怪しまれそうだ。
そいつを回避するためには、だ。
昔を懐かしんで料理の試作だ、食えるかどうかを試すだけだ、と言い訳だな。
あくまで俺の趣味の範囲でリフレッシュなんだと、食える保証は何処にも無い、と。
だから厨房では調理出来んな、フィシスだけのための料理だからな?
趣味のついでにメンテナンスをやっておく、と青の間のキッチンで作るのさ。
フィシスをコッソリ呼び寄せておいて、このレンコンを食ってみろ、とな。
何のためにレンコンを採りに行ったか、何のために調理しているのか。
それさえも伏せてレンコン料理を作っただろう、とハーレイは遠い昔へと思いを馳せる。もしもレンコンを知っていたなら、フィシスにそれを食べさせたろうと。
「ハーレイがそこまでしてくれていたら…。戻っていたかもね、フィシスの力」
未来が見える予知能力。
先が見通せるレンコンを食べていたなら、予知能力が戻ったかも…。
「プラシーボ効果ってヤツだがな」
レンコンにそんな成分は無いし、偽薬ってヤツと変わらんわけだが。
それだけに効くって保証も無いしな、無駄骨に終わった可能性だって大きいんだが…。
「ううん、きっと効いた」
前のぼくが放って行っちゃった分までフィシスを助けるんだ、って思ってくれているんだもの。
忙しい中でもレンコンを掘って、料理までしてくれるんだもの。
きっと効いたよ、フィシスが失くした予知能力はきっと戻って来たよ。
「実際の俺は何も出来ずに終わったわけだが…」
レンコンは全く知らなかったし、フィシスだってろくに訪ねてやりもしないで。
何一つとして助けてやらずに、今頃になって夢物語をやらかしてるってことなんだがな?
「夢物語でもいいんだよ。今、ハーレイが思い付いてくれたのが嬉しいんだよ」
フィシスのことを大事に思ってくれていたんだ、って分かるから。
あの頃は忙しくって何も出来なくても、ちゃんと気にかけてくれてたんだ、って。
「そりゃまあ、なあ…。前のお前の大事な女神だったんだしな?」
「うん…。ありがとう、ハーレイ…」
だけど、ぼくが一番大事に思っていたのはハーレイだけどね。
前のぼくはハーレイが一番だったし、今のぼくだってハーレイが一番。
ハーレイが一番大好きだよ、とブルーは微笑む。
前の自分はフィシスを女神と呼んだけれども、そのフィシスよりもハーレイなのだ、と。
フィシスの正体を知っていながら、側に置くことを許してくれたハーレイが好き、と。
「それで、ハーレイ。…レンコンで本当に未来は見えるの?」
「さあな? そういう例は俺は知らん、と言っただろうが」
だが、レンコンに開いている穴の話をするなら。
とりあえず、俺は酒を飲んでみたい。
「えっ?」
レンコンを肴に飲むのだろうか、とブルーは考えたのだけれども。
「知らないか? レンコンに限らず、蓮ってヤツはだ、穴だらけらしい」
「穴だらけ?」
「見た目に穴が開いているかは、生憎と俺も知らないんだが…」
蓮の葉はお前も知ってるだろう?
池に生えてる丸い葉っぱだ、でかいヤツなら子供の傘になりそうなヤツ。
あの葉っぱの茎には穴が沢山開いてるらしいぞ、水を注げば通すほどにな。
そいつを使って酒を飲もうって洒落た行事が象鼻杯だ。
「…ぞうびはい…?」
「象の鼻の杯と書くのさ、蓮の葉っぱが象の頭で、茎が鼻だと見立てるわけだ」
蓮の葉っぱを切り取って来てだ、まずは葉っぱに酒を注ぐんだな。
そいつが茎の穴を通ってストローみたいに流れて来るのを飲む催しだ。
蓮の葉が一番勢いのある夏にやるんだ、暑気払いの蓮酒。
一度飲みたいと思ってるんだが、まだ機会が無い。
「へえ…!」
面白そうだね、とブルーは象鼻杯なるものを想像してみた。
ハーレイが「こんな感じだ」と手を通してイメージも送ってくれた。大きな蓮の葉を杯代わりに酒が注がれ、それを茎から飲む人々。暑気払いになるという蓮酒。
「蓮ってホントに穴だらけなんだ、穴が開いてるのはレンコンだけかと思ってたのに…」
「うむ。こうして酒が飲めるくらいだ、水を通す穴はあるってことだな」
この蓮酒。親父とおふくろは飲んだんだがなあ、二人仲良く出掛けて行ってな。
俺もいつかはと夢見てるんだが、お前の守り役をしている間は無理そうだな。
「だったら結婚したら行こうよ、ぼくと二人で」
「おい、酒だぞ?」
お前、酒には弱いだろうが。酔っ払っちまうぞ、たったあれだけの量でもな。
「平気だよ。ちょっとだけ飲んで、ハーレイに渡す」
ぼくは気分と味見だけでいいんだ、蓮のストロー。
どんな風かな、って分かればいいから、残りはハーレイに全部あげるよ。
「なるほどな…!」
それならお前も酔っ払わないし、俺は二人分を飲めるってわけだ。
あのイベントはうんと人気だからなあ、おかわりを下さいって言えそうもないが…。
俺にはおかわりがあるってわけだな、象鼻杯。
お前がちょっぴり口をつけただけの、おかわり用の蓮の葉っぱが。
二人前をたっぷり飲めるわけか、と笑うハーレイ。
人気が高いから蓮の葉っぱは一人に一本だろうけれども、自分は二本貰えそうだと。
酒に弱くて直ぐに酔っ払うブルーの分まで、おかわりの蓮酒を味わえそうだと。
「いいアイデアでしょ? ハーレイの夢の蓮酒だしね?」
「うむ。子供ならともかく、大人だったら酒が飲めるかどうかも確認せずに配るだろうしな」
一人一本です、と蓮の葉っぱを。
でもって酒を注いでくれるし、そいつをお前が俺に回す、と。
「うん。ハーレイ、ぼくの分まで楽しんでよ。蓮の葉っぱに入ったお酒」
いつか蓮酒を自分の分まで、二人前を飲ませてあげなくては、とブルーは思う。
前の自分が置いて行ってしまったフィシスのことまで、考えてくれたハーレイだから。
先が見通せるという縁起物のレンコン。
それを前の自分が知っていたなら、と語ってくれた優しいハーレイ。
フィシスのためなら、レンコンも探して料理しただろうと話してくれたハーレイだから…。
予知とレンコン・了
※先を見通せるという縁起物のレンコン。知っていればフィシスに、と言うハーレイ。
叶わなかったことですけれど、今の時代はレンコンも普通。いつかはブルーと象鼻杯ですね。
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学校から帰ったら、ダイニングのテーブルにママのお茶会の名残。三段重ねのケーキスタンド。もちろんお皿はきちんと洗ってセッティングし直してあるんだけれど…。
(此処でお茶会してたのかな? それともリビング?)
どっちなんだろう、と考えながらケーキスタンドを眺めてみる。これがあるってことは、ママはケーキもスコーンも用意した筈。
(えーっと、確か…)
一番下のお皿にサンドイッチ。真ん中がケーキで、天辺がスコーンだったと思う。三枚のお皿は乗っけるものが違うんだ。ママは張り切ってあれこれ作って、これに乗っけたに違いない。
(ぼくのおやつは…)
ケーキとスコーンを残しておいてくれてるだろう。サンドイッチは無いだろうけど。おやつにはあまり向かないから。ぼくにとってはサンドイッチは立派な食事でお菓子じゃない。
(だって、ホントに食事だものね?)
どうしてママたちはお茶の時間にサンドイッチを食べられるのか、って不思議な気持ち。他にもスコーンやケーキがあるのに、三段重ねのケーキスタンドにはサンドイッチ。
(おまけにフルーツサンドじゃないんだもの…)
果物とクリームをたっぷり挟んだフルーツサンドならお菓子だけれど、ママが作ってスタンドに乗っけるサンドイッチにはサーモンとかローストビーフとか。
(絶対、食事だと思うんだけどな…)
紅茶がついたら朝食かランチ。そんな気がするサンドイッチ。
いくらフィンガーサンドイッチって言う小さなサイズのサンドイッチでも、中身が食事向けだと思う。だってサーモンやローストビーフ。魚やお肉はお菓子とは違う。
(なんか変なの!)
分かんないや、とケーキスタンドを見詰めていたら、キッチンの方からママの声。
「ブルー、おやつはケーキにする?」
それともスコーン?
どっちもあるわよ、ケーキは梨のコンポートのよ。
(梨のコンポート…)
美味しそうだけど、スコーンの方も捨て難い。スコーンと梨のコンポートのケーキ。
どっちにしようか、と暫く考えてから。
「スコーンにする!」
えっとね、ハーレイのお母さんのマーマレードで!
「はいはい、すぐに用意するわね」
キッチンでカチャカチャと食器が触れ合う音。お湯を沸かしている音も。
椅子に座って待つぼくの前に、「どうぞ」ってママがスコーンのお皿を持って来てくれた。隣にマーマレードを盛った小さな器も。
ハーレイのお母さんが作る、庭の夏ミカンのマーマレード。お日様をギュッと閉じ込めた金色。これを塗って食べるスコーンが大好きなぼく。スコーンにはハーレイのお母さんのマーマレードが絶対一番、だからスコーンに決めたんだ。
(ふふっ)
ぼくは御機嫌でスコーンをパカッと割った。ママが温め直してくれたスコーンにたっぷり、夏のお日様の光のマーマレード…。
ママが淹れてくれた紅茶をお供に、スコーンを美味しく頬張っていたら。
向かいで紅茶を飲んでいたママが、「ブルー、知ってる?」っていきなり訊くから。
「何を?」
なあに、とぼくは首を傾げた。学校に行っている間に何か大きなニュースでもあった?
てっきりそういう話題なんだと思ったのに。
「スコーンにマーマレードは駄目、って話よ」
「ええっ!?」
どうしてスコーンにマーマレードが駄目なんだろう。
ハーレイのお母さんのマーマレードを初めて食べたの、スコーンだったのに。
夏休みの終わりに庭で一番大きな木の下、白いテーブルと椅子でハーレイと二人で食べた。焼き立てのスコーンにマーマレードの金色を塗って、木漏れ日の下で。
あの日からぼくは、スコーンとマーマレードの組み合わせが一番のお気に入りなのに…。
ビックリしちゃって、目が真ん丸になったぼく。
ママが言うには、SD体制が始まるよりもずうっと昔の地球での話。
スコーンでお茶会をしていた国では、マーマレードは朝御飯に食べるものだった。カリッと焼き上げたトーストにマーマレードを塗るのが定番、大抵の家の朝御飯はそれ。
朝御飯のものだから、お茶の時間にマーマレードはマナー違反だって言われても…。
「ママ、それって…。今でもなの?」
「まさか。そんなわけないでしょ、昔の話よ」
この前、新聞のコラムにあったの。
今日、お友達に訊いてみたけど、誰もそんなの知らなかったわ。
「そうだよねえ?」
「でも、ブルーなら知っているかと思ったんだけど」
「どうして? ぼくもコラムを読んでたかも、って?」
「違うわ、ソルジャー・ブルーだからよ」
ママよりもうんと長い時間を生きてたソルジャー・ブルー。
知識が豊富で、経験豊かで。だからこの話も知ってるかしら、と思ったのよ。
「ママ…。前のぼくはミュウの長ってだけだよ、ただのソルジャー!」
お茶会なんて管轄外だよ、やっていた人はいたけれど…。
でもシャングリラは前のぼくたちの船で、そんな厳しいマナーなんて無いよ。
そう言った途端に、思い出したんだ。
前のぼくの記憶。ソルジャー・ブルーだった頃の、懐かしい記憶。
「ママ。今度、ハーレイにお茶を出す時、お菓子じゃなくってサンドイッチにしてくれる?」
「えっ? ブルー、おやつにサンドイッチは食べないでしょ?」
「うん。だから、ローストビーフとかじゃなくって…」
キュウリを挟んだサンドイッチ。
キュウリだけが入ったフィンガーサンドイッチがいいんだけれど。
「それだけなの? 卵もハムも何にも無しで?」
「うん、それだけ」
キュウリだけだなんて何があったの、ってママが言うから、教えてあげた。
前のぼくの、ソルジャー・ブルーの記憶。
ママは嬉しそうにニコニコ笑って、「キュウリね」と大きく頷いてくれた。
次の日、仕事帰りのハーレイが寄ってくれたから。
ママは約束を守ってくれた。お茶の支度がちょっぴり遅れたけれども、サンドイッチ。キュウリだけしか挟まっていない、小さなサイズのサンドイッチが乗っかったお皿。それと紅茶と。
「ほほう…。珍しいな、フィンガーサンドイッチか」
お茶の時間にサンドイッチは初めてだな、ってハーレイがお皿に手を伸ばした。キュウリだけのサンドイッチを齧って、「こういうお茶もたまにはいいな」って。
ぼくもキュウリのサンドイッチを齧ってみた。バターとマスタードを塗っただけのパンに、薄くスライスしたキュウリ。ほんのちょっぴり、塩と胡椒と。
「ハーレイ、何か思い出さない?」
「何をだ?」
「キュウリのサンドイッチだよ」
「はあ?」
ハーレイが二つ目のサンドイッチを摘んだままでポカンとしてる。鳶色の瞳に怪訝そうな色。
「覚えていない?」
シャングリラでやった、一番最初のお茶会だよ。
キュウリだけしか入っていないサンドイッチで開いたお茶会。
「ああ、あったな…!」
懐かしいな、とハーレイはサンドイッチを頬張った。あの時もキュウリだけだった、と。
シャングリラがまだ白い鯨じゃなかった頃。
人類のものだった船に名前だけ付けて、船体はそのままだった頃。
この船を大きく改造しよう、とプランが進行し始めた。でも、改造の前にまずは第一段階。船の改造には技術だけじゃなくて物資が要る。人類から奪った物資で船を改造したって維持出来ない。
それじゃ駄目だと、物資も自分たちで調達せねば、ということになった。
物資の調達の練習を兼ねて、船の中で作ろうと決まった畑。自給自足を目指して畑。
畑作りに必要な土や肥料が手に入る星を探して、採掘して。
種や苗なんかは前のぼくが輸送船から奪って用意した。
船の中の空いたスペースに土を運び入れ、耕して作った一番最初の畑。
トマトにキュウリに、色々と植えた。
育てやすい野菜を選んで植えたから、初心者ながらも立派に実った。
船のみんなが頑張った畑。水をやったり肥料を足したり、余分な芽を摘んで世話したり。
そうやって作物が出来てきたから、船の空気も浮き立っていた。
後に長老と呼ばれる四人と、ハーレイと、ぼく。会議の席でブラウが言い出した。
「収穫祭と洒落込みたいねえ、せっかくだから」
「そんなに量は無いのだがねえ…」
畑を見れば分かるだろう、とヒルマンが首を捻って、エラだって。
「少しずつ採れては来ていますが…。食事の大半は奪った食料ですものね」
「採れたものだけで収穫祭をするのは無理じゃろう」
とても足りんぞ、とゼルも首を振った。
だけど、船のみんなも考えていることはブラウと同じ。畑を見に行く時の足取りや、作物を見ている瞳の輝き。誰の心も弾んでる。
ぼくたちの船で初めて出来た作物。畑に豊かに実った作物。
嬉しくてたまらない気分なんだし、ちょっぴりお祭りしてみたい。初めての収穫を祝うお祭り。
そんな気持ちが船に溢れているってことは、ぼくにもちゃんと伝わってたから。
「ヒルマン、何か方法は無いのかい?」
少ししか無い作物だけれど、収穫祭をする方法。
見付けてくれれば皆も喜ぶし、今後の励みになりそうだけどね。
「ふうむ…。エラと探してみるとしようか」
古い資料を端から当たれば、何か見付かるかもしれん。
あればいいのだがね、我々の役に立つものが。
頑張ってみよう、とヒルマンが顎に手を当てていた日から数日が経って。
いつもの定例会議じゃなくって、臨時の招集がかけられた。ヒルマンから。
これは来たな、とぼくは会議用の部屋へと出掛けたんだけれど。
「ハーレイ、紅茶の在庫はどうなっているかね」
ヒルマンの口から飛び出した言葉は、畑の作物とはまるで繋がらないものだった。紅茶なんかで何をするんだろう。料理に使えるとでも言うのだろうか?
意味が分からないぼくを放って、ハーレイが紅茶の在庫はあると答えた。
「今ある量なら、全員が毎日飲み続けても一ヶ月分は充分賄えます」
「それは結構」
ヒルマンが満足そうに頷き、今度はエラが口を開いた。
「パンの材料も足りていますわね?」
「もちろんですが…。紅茶とパンで何をするのです?」
ハーレイがぼくの代わりに疑問を声にしてくれた。紅茶とパンなんて、どう考えても畑の作物に繋がりやしない。けれどヒルマンは穏やかな笑みを浮かべて。
「お茶会だよ」
「お茶会じゃと?」
収穫祭の話じゃったと思ったが…。
何処からお茶会の話になるんじゃ、ええ、ヒルマン?
ゼルが噛み付いて、ブラウも「ちょっと違うんじゃないのかねえ?」と言ったんだけれど。
ヒルマンとエラは自信満々、二人で説明し始めた。
ずうっとずうっと昔、SD体制が始まるよりも千年以上も前の地球。一度滅びるよりも前の青い地球の上、イギリスという名の国が栄えていた頃。
其処では貴族のご婦人たちがティーパーティーを楽しんでいた。
午後に開かれる、優雅なお茶会。午後のお茶だからアフタヌーンティーと名付けられた。後には庶民にも広がっていったけれども、最初は王侯貴族だけのもの。特権階級だけのお茶会。
「そのお茶会に、だ。欠かせないものがキュウリのサンドイッチだったのだよ」
「キュウリなのかい?」
どうしてキュウリ、と驚いた、ぼく。
キュウリなんかは珍しくもない。輸送船には山と積まれてあったし、ごくごく普通にある野菜。データベースで戯れにレシピを検索したって、サラダなんかによく入ってる。
「それが、ソルジャー。当時のキュウリは今とは事情が違ったようで」
「ええ。とても貴重な野菜だったと資料に書かれていましたわ」
こんな話が、とエラが教えてくれた当時のキュウリはぼくの理解を超えていた。
貴婦人たちがお茶会を開いていた頃、イギリスとやらでキュウリはとっても珍しい野菜。
もちろん市場で売られてはおらず、普通に植えても育たなかった。
王侯貴族が暮らす家ではキュウリ専用の温室みたいなものを作って、庭師に育てさせたという。そんな温室、豊かでないと作れないから懐に余裕がある証。
「ですから、キュウリだけを使ったサンドイッチはステイタス・シンボルというわけです」
自分の家には温室があると、キュウリを育てたから食べて下さいと披露するのです。
とても貴重なキュウリですから、サンドイッチにはキュウリだけ。
キュウリだけでサンドイッチを作れることは最高の贅沢だったそうです。
「キュウリがねえ…」
ちょっと想像もつかないな、とキュウリを思い浮かべた、ぼく。
このシャングリラでも育つキュウリが貴重な野菜だった時代があっただなんて…。
だけど、エラの話には予想以上の続きがあって。
「お茶会には必ずキュウリのサンドイッチを出さなければ、と貴婦人たちは考えましたから…」
何らかの事情があってキュウリのサンドイッチが出せなかったら。
料理長の首が飛ぶということもあったそうです、主人に恥をかかせたと言って。
「そこまでキュウリにこだわったのかい?」
「ええ。正確にはキュウリのサンドイッチに、ということになりますわね」
つまり、キュウリのサンドイッチさえ作れたなら。
そのお茶会はとても贅沢なもので、王侯貴族のものなのですわ。
キュウリのサンドイッチがあったらそれは立派なお茶会なのだ、という解説。
貴婦人という部分が引っ掛かったから、訊いてみた。
「そのお茶会は女性限定じゃないのかい?」
「いいえ、ソルジャー、御心配なく」
ヒルマンが「大丈夫ですよ」と、その後の歴史を話してくれた。
貴婦人が始めたお茶会は庶民にも広まっていったけれども、後に男性まで巻き込んで行った。
由緒あるホテルなんかが男性専用のアフタヌーンティーのメニューを設けていたほどに。
そして王侯貴族が主催するガーデンパーティーなんかも、紅茶と一緒にサンドイッチ。
他の料理ももちろんあるけど、キュウリだけで作ったサンドイッチは必須の料理。
「正式なお茶会になればなるほど、キュウリのサンドイッチだったのです」
これが無ければ正式ではない、と言われていたと書かれていました。
そのキュウリが畑に沢山あります。
皆に行き渡るだけのサンドイッチが作れそうですが、お茶会は如何でしょうか、ソルジャー?
正式なお茶会に欠かせなかったキュウリのサンドイッチ。
最初は温室で作ったキュウリで、特権階級しか食べられなかったサンドイッチ。
それをシャングリラで出来たキュウリで作ろうというアイデアは実に素晴らしかった。
みんなの分のサンドイッチと紅茶さえあれば開けるお茶会。
遥かな昔の王侯貴族になった気分になれるお茶会。
ゼルもブラウも大賛成で、ぼくも反対するどころじゃない。
素敵な資料を見付け出してくれたヒルマンとエラに御礼を言って、実行に移すことにした。
せっかくだから、ガーデンパーティー風に。
畑を眺められる所にテーブルを出して、キュウリで収穫祭をしようと。
お祭りなんだし、ここは大いに盛り上げたい。
エラが「収穫祭のお茶会」と銘打った招待状を作って、みんなに配った。
日時と場所が書かれただけの招待状。
それ以外の情報が何も無いから、探り出そうと誰もがあの手この手で、もう充分にお祭り騒ぎ。
だけど厨房のクルーたちは「お茶会です」としか言わず、ブラウたちだって喋らない。
シャングリラの中は「どんなお茶会なんだろう」って話題で持ち切り、挨拶代りにお茶会の噂。
エラの狙いは見事に当たって、みんながドキドキワクワクしながら収穫祭の日を待った。
そうして迎えた、お茶会の日。
「お茶はともかく、サンドイッチがキュウリだけだぞ?」
畑の側に並べられた沢山のテーブル。
紅茶のポットやティーカップが置かれて、キュウリのサンドイッチのお皿が幾つも。
そう、サンドイッチのお皿は山ほどあるのに、どのお皿に載ったサンドイッチもキュウリだけ。
案の定、出て来た不満の声。
それはそうだろう、お茶会までの間に食べた朝食と昼食には卵やハムもあったのだから。
「他に具材は無いのかよ?」
「入れ忘れたんじゃないのか、厨房のヤツら」
ワイワイと声が広がり始めた所で、ヒルマンがおもむろに咳払いをして。
「いや、キュウリしか無いサンドイッチで間違いはない」
これが正式な料理なのだよ、遠い昔の地球のお茶会では。
始まりはキュウリが貴重だった時代に遡るのだがね…。
食べながら聞いてくれたまえ、とヒルマンはエラと交互にキュウリのサンドイッチに纏わる古い資料を披露した。
今でこそ当たり前のキュウリが遠い昔には珍しかったと、王侯貴族の食べ物だったと。
「へえ…! 貴族様しか食べられなかったサンドイッチか…」
「庭に温室って、すっげえ贅沢だったんだろうな…」
温室のキュウリでサンドイッチか、と、みんな一気に気分は当時の王侯貴族。
自分たちだってキュウリを作ったと、温室じゃないけど船でキュウリを作ったと。
「王侯貴族ってどんなのだろうな、今の時代は王様も貴族もいないよなあ?」
「メンバーズみたいなモンじゃねえのか、お目にかかったことは一度もねえけどよ」
「会ったら俺たち、終わりじゃないかよ」
ヤツらはマザー・システムの手先なんだぜ、って言いながらも、みんなは笑ってた。
まだ人類には見付かっていなかった頃のシャングリラ。
ステルス・デバイスなんかは無かったけれども、見付からないように飛んでたシャングリラ。
だからメンバーズだって怖くはない。
怖い連中だって分かっているけど、出会ってないから怖くない。
アルタミラの地獄も何十年も前の話で、今はこうして船でお茶会。
皆で作った畑の作物が無事に実ったと、次はシャングリラの改造なのだと賑やかに。
キュウリのサンドイッチをつまみながら楽しく続いたお茶会。
王侯貴族になった気分で、うんと豊かになった気分で。
「懐かしいなあ、キュウリのサンドイッチで収穫祭なあ…」
ハーレイの目が懐かしそうに細められてる。遠いシャングリラを眺めている目。
「盛り上がったよね、あのお茶会」
仕事のある仲間も交代で来たし、みんなで紅茶とサンドイッチで。
「うむ。キュウリのサンドイッチだけだったんだが、量はたっぷりあったしな」
キュウリを薄くスライスっていうのが良かったんだな、一本のキュウリで幾つも作れる。
あれが普通のサラダだったら、みんなが満足するだけの量は無理だったろうな、キュウリでは。
「そうだね、何か他の野菜を足さないと…」
他の野菜をプラスしちゃったら、畑の作物が一気に減っちゃう。
収穫祭のサラダだけでドカンと減ってしまって、見た目が寂しくなっちゃうよ。
「見た目で言えば、だ。サラダしか無い収穫祭なんか有り得んぞ」
他にも料理を出さんとな?
そうなると肉だの何だの出て来て、収穫祭と言うよりただの祭りだ。
シャングリラで採れた作物をしっかり味わうどころか、あれこれと食って終わりだってな。
「そっか…。そういう意味でも、あの時のキュウリのサンドイッチって…」
「ヒルマンとエラは凄いアイデアを出したってことだ」
みんなが船で採れたキュウリを食うことが出来て、おまけに由緒正しい料理だと来た。
キュウリとパンだけで王侯貴族が食ってたサンドイッチだ、あの二人に感謝しないとな。
キュウリだけしか入ってなくても、リッチな気分のサンドイッチ。
遠い昔に王侯貴族が食べてたキュウリのサンドイッチ。
船で初めて採れたキュウリで、それを作った。お茶会を開いて、みんなで食べた。
名前だけだった頃のシャングリラが本物の楽園になってたパーティー。
誰もが王侯貴族気分で、幸せ一杯だったお茶会。
あれから少しずつ進歩してって、船を改造して白い鯨が出来たけれども。
紅茶まで船で作れるようになったけれども、キュウリを挟んだサンドイッチだけしか食べる物が出ないというお茶会は、あの時の一回きりだった。
次に収穫祭をやった時には作物も増えて、キュウリのサンドイッチに頼らなくても見栄えのする料理を作れたから。収穫祭らしくあれこれ並べて、色々なものを食べられたから。
だけど、シャングリラで最初の収穫祭。
キュウリのサンドイッチだけしか無かった収穫祭。
あの日は確かに、シャングリラで一番の贅沢をした日だったと思う。
自分たちの手で育てたキュウリで、遠い昔の地球の貴族たちが食べていた料理。
キュウリだけしか無かったけれども、王侯貴族の気分になった日…。
「うむ、最高の贅沢だったな、あの頃の俺たちにとってはな」
そして今では地球のキュウリで作ったサンドイッチを食ってます、ってな。
「うん」
本物の地球で採れたキュウリだよ、地球の光と水と土とで育ったキュウリ。
「美味いな、これ」
「キュウリしか入ってないけどね」
「前の俺たちの収穫祭のと同じヤツだな、あの時もこんな味だっけな」
シャングリラで作ったヤツじゃなかったが、バターとマスタードを塗って。
塩はともかく、貴重な胡椒もパラリと振ってみました、ってな。
「だって、収穫祭だしね?」
「違いない」
其処で出さなきゃいつ使うんだ、って時代だったしなあ、胡椒なんかは。
そういう意味でも贅沢だったな、あの時のキュウリのサンドイッチは。
「美味しかったよ、凄く美味しいサンドイッチだった、って覚えているよ」
地球のキュウリに負けないくらいに。
うんと美味しく育ってる筈の、地球のキュウリのサンドイッチに負けないほどに…。
今でもアフタヌーンティーと言ったら、キュウリのサンドイッチがついているけれど。
前のぼくたちは自分たちで調べて、キュウリのサンドイッチを作った。
キュウリがどんなに貴重だったか、そこまで調べてお茶会をした。
前のぼくたちのキュウリのお茶会は、記念すべきミュウの最初のお茶会。
歴史あるキュウリのサンドイッチは、ミュウの歴史で初のお茶会の主役を立派に務めた。
でも、そのことについて書いてある本は何処にも無いんだ。
ぼくも忘れていたほどだもの。
ママには話しておいたけれども、きっとこれからも知られないまま、あのお茶会は幻のまま。
前のハーレイは航宙日誌に「収穫祭をした」としか書いておかなかったから。
ハーレイに訊いたら、そうだと話してくれたから。
どおりで知られていない筈だよ、キュウリのサンドイッチの歴史に加わった新たな一ページ。
初めての収穫でミュウが作ったと、初のお茶会の主役だったんだ、と。
前のハーレイが「収穫祭」と書いたイベントは、ホントはお茶会。
キュウリのサンドイッチで開いたお茶会だったよ、ねえ、ハーレイ…?
収穫祭のキュウリ・了
※シャングリラで採れた初めての野菜、キュウリのサンドイッチで気分は王侯貴族。
なんとも素敵なお茶会ですよね、ミュウの船でもアイディア次第で幸せがやって来るのです。
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(ふふっ)
綺麗だよね、とブルーは星の形の砂糖菓子を一つ、摘んで眺めた。
父に貰った色とりどりの金平糖。会社の誰かが何かのお祝いで配ったらしい。模様が綺麗だった陶器の器は母が貰って行ったけれども、金平糖はブルーが貰った。
透明な袋の中に詰まった砂糖菓子。手のひらに収まってしまうほどの小さな袋でも、可愛らしい金平糖の数は沢山ありそうだ。一つ一つが指先よりも小さいのだから。
(星の形かあ…)
金平糖は幼い頃から食べて来たけれど、前世の記憶を取り戻してからはこれが初めての出会い。以前は何とも思わなかった星の形が、今ではまるで違って見える。
(前のぼくが見てたら大感激だよ)
星の形をしたお菓子。ツンツン尖った角を生やした、沢山の色がある砂糖菓子。
金平糖がシャングリラにあったら、喜ばれただろうと思うけれども。
(無かったんだよね…)
こういう砂糖菓子は無かった。
口に入れてみれば暫くの間はキャンディーのようで、やがてホロリと崩れてゆく。甘くて儚い、束の間の夢を思わせる菓子。
一粒だけでは物足りないから、一つ摘んで、またもう一つ。
今までに食べた金平糖には一袋まるごと同じ味のもあったけれども、様々な味のものが詰まった袋の方が好きだった。
どれを食べようか、次はどれかと選べる楽しさ。ソーダ味やら、レモン味やら、他にも色々。
(シャングリラにもあれば良かったのに…)
きっと子供たちに人気があったことだろう。
子供好きだったゼルのポケットにも常備されたに違いない。
(ポケットの中には金平糖が一つ、ってね)
ゼルが得意だった、サイオンを使ったちょっとした魔法。
大勢の子供たちに取り巻かれる中、マントの上からポケットをポンと叩いてお菓子を出した。
「ポケットの中には金平糖が一つ、ポケットを叩くと金平糖は二つ…」
ブルーはゼルの真似をして懐かしい歌を歌ってみた。
元の歌詞では金平糖ならぬビスケット。ゼルもチョコレートなどに替えて歌っては、歌いながらポケットをポンと叩いた。其処から次々に出て来る菓子。子供たちが歓声を上げていた菓子。
(金平糖があったら喜ばれたのに…)
夜空に輝く星の形の砂糖菓子。雲海に潜むシャングリラからは見られない星。
シャングリラに迎えられて間もない頃の子供たちは星を見たがったものだ。
(どうしてシャングリラには空が無いの、って訊いた子供もいたっけね)
夜空どころか、青い空さえも何処にも無かったシャングリラ。雲海しか見えないシャングリラ。
子供たちはいつしか本物の星を忘れてしまって、天体の間で星を仰いでいた。
映し出される地球の星座を、作り物の夜空を仰いでいた…。
もしもシャングリラに金平糖があったなら。
星の形をした金平糖が常にあったら、子供たちは本物の星を覚えていてくれたろうか?
夜を迎えれば暗くなる雲海。
暗くなった雲の上には幾つもの星が瞬いていると、夜には星が輝くものだとシャングリラの外の世界を懐かしく思い出してくれただろうか。
その星々が広がる宇宙の何処かに地球があることも、いつかは其処へ旅立つのだとも。
(金平糖はただのお菓子だけれど…)
閉ざされた世界だったシャングリラの中なら、たった一粒の金平糖で夢を見られた。
夜空に輝く本物の星に思いを馳せ、遠い地球までも。
子供たちだけでなく、大人たちだって金平糖に夢を見ただろう。
いつか地球へと、星々が輝く宇宙を渡って青い地球へと。
(あれば良かったのにね、金平糖…)
砂糖菓子だから簡単に作れただろうと考えるけれど、シャングリラには存在しなかった。
前の自分も金平糖を知らなかった。
あの時代にはきっと作られておらず、何処にも無かったに違いない。
けれど…。
(あったら夢のお菓子だったよ、星の形の)
ハーレイも同じように思ってくれるだろう、と恋人の姿を思い浮かべた。
シャングリラのキャプテンだった恋人。
船の仲間を気遣い続けた彼ならばきっと、金平糖に同じ思いを抱いてくれる。
星の形の菓子は夢があると、シャングリラにもこれが欲しかったと。
次の日の夕刻、仕事帰りのハーレイが訪ねて来た。
夕食の支度が出来るまでの間、ブルーの部屋でお茶とお菓子を前に過ごすのが習慣だから。窓の側のテーブルを挟んで向かい合わせに座る間に、ブルーの瞳が金平糖を捉えた。
勉強机の上に置いてあった金平糖。父に貰った小さな袋。
そうだ、と思い出し、取って来てハーレイに「ほら」と袋ごと差し出してみれば。
「金平糖か…。これがどうかしたか?」
「シャングリラにあったら良かったと思わない?」
星の形のお菓子だよ。きっと子供たちに人気があったよ、大人でも喜んでくれたと思う。
だって星だよ、いつかは地球まで星の海を渡って行くんだよ?
「ああ、まあ…な」
予想に反して、ハーレイの反応は鈍かった。しかも嬉しそうな顔には見えない。
「どうかした?」
「…いや、その…」
困ったような顔をするから、ブルーはもう一度念を押してみた。
「星のお菓子だよ、星の形だよ?」
とても素敵なお菓子じゃないかと思うんだけど。
ハーレイは金平糖、あれば良かったとは思わないの?
星の形の金平糖。夢が広がる砂糖菓子。
何故ハーレイは直ぐに賛成してくれないのか、とブルーは首を傾げたのだけれど。
「そういえばお前は知らないのか…」
ならば無理もないか、と呟くハーレイ。
「何を?」
「思考機雷だ」
「…思考機雷?」
金平糖とはおよそかけ離れた代物だけに、ブルーの瞳は真ん丸になった。
思考機雷とは何だろう?
確かに自分は知らないけれども、どうしてそれが出て来るのだろう?
ポカンとするブルーに、ハーレイが「あれはな…」と苦々しい顔で語り始めた。
「思考機雷というヤツはだ。前の俺たちのために作られたような物騒な…」
いや、俺たちのためだろうな。
その名の通りだ、思考能力を持った機雷だ。目標を自分で探すんだ。
宇宙に適当に放ってあってな、サイオンを感知すると寄って来るという厄介なヤツだった。
恐らく普通の宇宙機雷にサイオン・トレーサーを載せたんだろう。
「それが?」
「少しばかりこいつに似ていたな、と」
金平糖だけでは思い出さんが、シャングリラと言われたら思い出した。
「どんな形?」
ブルーの問いに「こうだ」とハーレイが手に触れて思念で送り込んで来た形。
金平糖とはまるで似ていない、球体に棘のようなアンテナが何本か生えているだけの思考機雷。
「これが金平糖って…。そんなに似てる?」
「似ていないか?」
「うん」
どっちかと言えばウニに似てるよ、真っ黒だし。
だけど金平糖もウニも、思考機雷よりもずっと沢山、角とか棘がありそうだけど…。
全然違う、とブルーは金平糖と思考機雷が似ていないことを指摘した。
するとハーレイは苦笑いをして、「客観的には別物なのか」と金平糖の袋を指先でつつくと。
「…なら、アレだ。俺のトラウマってヤツなんだろうな」
散々な目に遭わされたからなあ、あちこちで。
人類軍のヤツら、至る所にこいつをバラ撒いて俺たちが網に引っ掛かるのを待っていたしな。
「ハーレイ、そんなに苦労したわけ?」
「苦労したとも。サイオン・キャノンで撃っても撃ってもキリが無いしな」
大抵はワープで逃げてたんだが、そのワープさえも間一髪って時があったさ。
こいつに囲まれ、後ろからは人類軍の船が追って来やがる。
しかも前には三連恒星と来たもんだ。凄い重力場で、もう太陽に投身自殺以外に無いってな。
重力の干渉点からワープして辛うじて逃げ延びたんだが、後でゼルたちから吊るし上げだ。
「三連恒星って…。聞いていたけど、あの時ってコレに追われてたんだ?」
「お前はのんびり寝ていたがな」
俺が頑張らなきゃ、前のお前もあそこでおしまいだったわけだが。
ベッドで寝たまま天国行きだな、何が起こったかも分からないままで。
「そっか…。ハーレイ、思考機雷で苦労したんだ」
金平糖も嫌いになるかも…、とブルーは溜息をついたのだけれど。
「安心しろ。今の俺は別に嫌いじゃないぞ?」
思考機雷さえ思い出さなきゃ、金平糖は可愛い菓子だ。
「ホント?」
「今の俺たちが住んでる地域の菓子だからなあ、愛着もあるさ」
これぞ日本の菓子ってな。伝統ある文化の一つだ、うん。
「金平糖って、古典に出て来る?」
「出て来ないことも無いが、縁が深いのは歴史の方だな」
金平糖ってヤツは、うんと昔に他の地域から来た菓子なんだ。
「これって、日本のお菓子じゃないの?」
「日本の菓子だが?」
「でも、他所からって…。他の地域から来たお菓子だ、って」
「他所から伝わった菓子ではあるが、だ」
独自の発展を遂げたわけだな、この地域で。
その点、前の俺たちと少し似ているかもしれないな。
シャングリラは元は人類の船だったんだが…。
人類の船にはサイオン・キャノンも、ステルス・デバイスも全く無かっただろうが。
元になった船に改造を重ね、形状はおろか、機能さえも別の物に変わったシャングリラ。
備えられていたサイオン・シールドは人類の船には無かったという。
地球を目指しての最後の戦いに挑んだ時さえ、人類軍の艦船はシールドを持たなかったと。
「そのせいで旗艦が危なかったようだな、傍受していた通信では」
「そうだったの?」
「うむ。操縦不能に陥った船が激突しかけたのを、他の船が砲撃して破壊し、防いだ」
「…味方なのに?」
酷い、とブルーは思ったけれども、戦争というのはそうしたもの。
シールドを開発しておかなかった人類軍だから、味方の船でも撃つしか無かった。
シャングリラならば、そういう時でもシールドで受け止められるのに。
味方の船なら壊すことなく、そのまま収容可能だったのに…。
まるで違った機能を備えた船になってしまったシャングリラ。
独自の発展を遂げて変わったシャングリラ。
金平糖が他の地域から来て、日本で発展していったように。日本の菓子に変わったように。
「前のぼくたちって、シャングリラを金平糖みたいに変えちゃったんだね」
「そうだな、まさに金平糖だな」
元になったものより凄くなった、というのが金平糖にそっくりだ。
金平糖の元になった菓子を作っていた地域。
其処ではSD体制よりもずっと前には、ちゃんとそいつを作ってた。
この辺りが日本だった時代に、元になった菓子も金平糖と同じように存在してたんだが、だ。
どういうわけだか、そいつには綺麗な角が無くって、こんな風に見事な星じゃなかった。
一本だけ妙に長くなったり、星みたいに尖っていなかったり、とな。
「へえ…!」
「不思議だろう?」
そのせいで金平糖は他の地域への土産物に喜ばれるという面白いことになっていたんだ。
自分の住んでいる所に元になった菓子があるというのに、喜んで買って帰るのさ。
これは凄いと、日本には綺麗な菓子があるな、と。
金平糖は日本で進化したんだ、元の菓子より優れた菓子にな。
「元のお菓子より凄いお菓子になっちゃったんだ…」
ブルーは金平糖の袋をまじまじと見詰め、それからポンと手を打った。
「金平糖って、なんだかミュウみたいだね」
「ミュウ?」
「うん。人類から派生した新人種がミュウってわけだったんでしょ、結局のところ」
前のぼくは知らずに死んじゃったけど。
前のハーレイは地球で見ていたんでしょ、キースの発表。
ミュウは進化の必然だった、っていう歴史的な映像が流れた時には地球に居たでしょ?
「あの映像なあ…。あれは驚いたな、俺たちは単なる異分子なんだと思っていたしな」
まさか人類から進化したとは思わなかったさ。
前の俺はその後を何も知らんが、キースのメッセージのとおりになったな。
今はミュウしかいない世界で、人間はみんなミュウへと進化しちまったってな。
なるほど、人類が金平糖の元になった菓子で、ミュウが金平糖だってか。
あの時代には元の菓子と金平糖とが混ざっていたのか、とハーレイは笑う。
金平糖はまだまだ数が少なくて、元の菓子だった人類の方が幅を利かせていた時代なのか、と。
「そうなってくると、前のお前は完成された金平糖だったというわけだな」
何と言っても最初は一人しかいなかったタイプ・ブルーだ。
サイオンだって最強だしな?
「どうだろう?」
ミュウなら誰でも完成品の金平糖だろうと思うけど…。
きっと味だけの問題じゃないかな、タイプ・ブルーだからソーダ味とか。
この袋の水色の金平糖はソーダ味だよ、水色がタイプ・ブルーだよ。
「そうなると俺はメロン味か?」
此処に緑のが入っているが…。こいつはメロン味だったか?
「うん、メロンだった。ゼルはタイプ・イエローだから黄色だね」
黄色の金平糖はレモンだったよ、レモン味がゼル。
「エラはイチゴだな?」
「うん、赤いのはイチゴ」
タイプ・レッドはイチゴ味だよ、これがエラの金平糖だけど…。
でも…。
でも、とブルーは金平糖の袋を眺めた。
「だけど他にも色が沢山、味も色々入っているから…」
シャングリラのみんなが金平糖なら、みんなの数だけ色があったかも。
サイオン・タイプで分けるだけじゃなくて、みんなの個性。
金平糖だって、どれも星の形に見えるけれども、よく見てみたら全部違うよ?
おんなじ形でそっくり同じってわけじゃないもの、型で作ってるわけじゃないしね。
「そういうものかもしれないなあ…」
見た目は同じ金平糖でも、みんな何処かが違うってな。
それでこそ立派な人間ってわけで、機械に管理されてた人類とは事情が全く違う。
人類は記憶まで機械に書き換えられては、都合のいいように動かされていた。
時には文字通り捨て駒にもされた。
今のお前なら知っているだろ、ジョミーの幼馴染だったサムがどうなったのか。
あんな風に機械に使い捨てられるヤツがいたって、人類ってヤツは機械に縋った。
もっとも、それもジョミーとキースが終わらせたがな。
忌まわしい時代はとっくの昔に終わっちまったな、とハーレイの目が細められて。
「知ってるか?」
綺麗な金平糖が出来るまでには、うんと時間と手間とがかかる。
核になるほんの小さなザラメに何度も何度も糖蜜をかけて、少しずつ大きくしてゆくんだ。
一日かけてたったの一ミリ、それだけしか大きくならないそうだ。
出来上がるまでの間、せっせと糖蜜をかけて育ててやって。
ようやくこうして袋に詰まって、俺たちの所へ来るってわけだな。
前の俺たちは長い長い時間をかけてミュウの存在を認めて貰えたわけだし、時間と手間って点を考えたとしても金平糖だと思わないか?
核になったのはザラメじゃなくって、前のお前で。
せっせと糖蜜をかけて育てていたのもソルジャーだった前のお前だ、金平糖を作ってたんだ。
ミュウは元々、金平糖だったかもしれないが…。
前のお前が店に出せるような立派なサイズに育てました、ってな。
お前がいなけりゃ、俺たちは地球まで辿り着けずにナスカで終わりになってたただろう。
せっかく生まれた金平糖でも、元の菓子よりも立派になる前におしまいだったさ。
「うーん…。金平糖だけで、そんなに大きな話になるの?」
壮大すぎるよ、とブルーは首を竦めた。
「ぼくは星の形のお菓子だな、って単純に思っただけなんだけど」
シャングリラにあったら良かったよね、って。
星の形のお菓子があったら、きっとみんなが喜んだよね、って…。
「金平糖を復活させた切っ掛けは前のお前だろ?」
「えっ?」
「前のお前がメギドを沈めなかったら、青い地球だって無いってな」
地球が蘇らなきゃ、地球の文化だって戻って来ない。
此処に日本って地域は無くって、死に絶えた星の荒れ果てた砂漠だっただろう。
そんな所に人は住めんし、金平糖だって出来ないままだ。
星の形の金平糖はお前のお蔭で蘇って来た。
ミュウっていう名の金平糖をだ、せっせと育てた前のお前のお蔭でな。
金平糖も、金平糖のようなミュウたちも。
前のブルーが始まりになって此処にあるのだ、とハーレイは言う。
ソルジャー・ブルーだった頃のブルーがいたから、青い地球とミュウが住む世界があるのだと。
「前のぼく、そこまで偉かったかな?」
「今でも伝説の英雄だろうが、ソルジャー・ブルーは」
「そうなんだけどね…」
ぼくにあんまり自覚はないや、と小さなブルーはクスッと笑って金平糖が詰まった袋を開けた。紅茶のカップをテーブルに置いて、空いたソーサーに金平糖の粒をコロコロと落とす。
夕食に差し支えが出ない程度に、ハーレイと二人でつまむ分だけ。
「それで、ハーレイ。この金平糖、今でも思考機雷だと思う?」
どう? と問われたハーレイは「いいや」と笑顔でブルーに応えた。
「ミュウだな、という気がするな」
こいつがエラで、こいつがブラウで。
ハーレイの褐色の指が金平糖を指す。それぞれのサイオン・カラーの色の。
「それじゃ、こっちはゼルにヒルマン?」
ブルーが真似ると、「うむ」と満足そうに頷くハーレイ。
「そんな感じだ、こいつはシドかもしれないな。こいつがリオで」
でもって、これがヤエでルリかな。
キムにハロルド、トキにショオンに、カリナにニナだな。
ハーレイの大きな指が指し示す度に、ソーサーの上にシャングリラの仲間が増えてゆく。
前のブルーは子供時代しか記憶に無いような者たちの名までが金平糖につく。
サイオン・カラーで選んでいたのは最初の内だけ、後は個性を考えて決めているのだろう。
仲間の名前がついてしまった金平糖では食べられないかも、とブルーは悩んだのだけど。
「気にせずに食っていいんじゃないか?」
ハーレイが片目をパチンと瞑った。
「俺たちは青い地球にいるんだ、その俺たちの血肉になったら無事に地球まで御到着ってな」
だが、まあ…。
第一号に誰を食うかって話になったら、俺はゼルから食っちまうがな。
勝敗がつくよりも前にお互い死んじまったし、此処で頭からバリバリと食うさ。
「あははっ、頭からなんだ?」
「別に尻からでもかまわんがな」
金平糖には尻も頭も無いだろうが。
こうして口に放り込んだら、ゼルを丸飲みにも出来るってな。
ハーレイは喧嘩仲間のゼルの名を付けた金平糖をつまみ、口にポイッと放り込んでしまった。
(食べちゃった…!)
舌触りを楽しんでいるらしいハーレイを見ながら、ブルーは悩む。
仲間の名前の金平糖を食べれば彼らが地球に着くと言うなら、自分はどれを食べるべきだろう?
「食わないと俺が食ってしまうぞ、次はシドにするか」
「えーっと、ぼくは…」
誰にしようか、とブルーは頭を悩ませた。
ソーサーの上の色とりどりの金平糖。
シャングリラで暮らした仲間たちの名をハーレイが付けた、星の形の砂糖菓子。
金平糖に仲間の名前が付くとは思わなかったと、ミュウに似ているとは思わなかった、と。
元になった菓子よりも進化したという金平糖。
星の形の砂糖菓子が辿った歴史と、ミュウの歴史が似ていたとは、と。
「ブルー、いいのか?」
食わないんだったら、次はヒルマンを食うが。
「あーっ!」
ヒルマンのサイオン・カラーの金平糖がハーレイの口の中へと消えた。
キャプテン・ハーレイの飲み友達だった、いつも穏やかだったヒルマン。
「食わないお前が悪いんだ。うん、ヒルマンもなかなか美味いぞ」
「そうなの?」
「ゼルには負けていないってな。こいつはブラウも期待出来そうだ」
「ブラウも食べるの!?」
ぼくの分は、と決めかねている間にハーレイはブラウと名付けた金平糖を口へと。
次のターゲットはエラらしい。「イチゴ味だっけな」とブラウを食べながら尋ねるハーレイ。
(エラまで食べられちゃったら、ぼくの知り合い…)
リオとかシドとか、と迷う端からハーレイの指につままれ、ヒョイヒョイと消えてゆく金平糖。
「うむ、どの金平糖も実に美味いな」
いい味だ、と笑顔のハーレイに全部食べて貰うのもいいかもしれない、とブルーは思った。
シャングリラを地球まで運んだハーレイ。
金平糖の仲間を青い地球まで運ぶ役目は、ハーレイにこそ相応しいかもしれないと。
(だって、ハーレイ、キャプテンだしね?)
ソルジャーだった自分は地球まで行けなかったし、仲間に地球を見せられなかった。
けれどハーレイは地球に辿り着き、キャプテンの役目を全うして逝った。
だから金平糖になった仲間たちもハーレイに任せておこう、と微笑むブルーにハーレイが訊く。
「おい、ブルー? 本当に全部食っちまうぞ?」
「いいよ、キャプテンはハーレイだから」
「はあ?」
「仲間を乗っけた船を運ぶのはハーレイの役目!」
運んであげてよ、青い地球まで。
みんな一緒に、青い地球まで運んであげてよ。
「そういうことか…。責任重大って気になるじゃないか、金平糖で」
「ハーレイがミュウに似てると言い出したんだよ、金平糖!」
「お前だろ? 俺が似ていると言ったのは思考機雷で…」
言った、言わない、と言い争いながら、金平糖がまだ沢山詰まった袋を二人で眺めて笑う。
青い地球まで二人で来たから喧嘩も出来ると、つまらないことで喧嘩が出来ると。
ソルジャー・ブルーもキャプテン・ハーレイも、もう今はいない。
そっくりな姿形の二人が金平糖を巡って言い争いをし、笑い合うだけ。
星の形の砂糖菓子。
金平糖がごく当たり前にある、青い地球の上のブルーの家で…。
金平糖・了
※お菓子の金平糖を眺めたら、思考機雷を思い出してしまったのがハーレイ。
けれど金平糖は個性的でもあるお菓子。ミュウの仲間たちのようにも見えるのです。
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(制服かあ…)
ママに渡して来ちゃったけれども、今日、学校で配られたもの。冬用の制服の販売のお知らせ。秋の間に注文しておけば、冬までに渡して貰える仕組み。
学校の制服には三種類あって、夏用と冬用と、春と秋に着る合服と。身体が丈夫だったら夏服と冬服があれば充分、シャツの袖丈とか上着の脱ぎ着でちゃんと調節出来るんだけど。
ぼくみたいな子は冬の厚手の制服を春や秋に着てたら熱を出しちゃうし、着ないと冷えすぎて風邪を引いてしまう。そういう子供のための合服、冬服よりも薄めの生地。
(だけど…)
買って貰えそうもない、今の合服より大きなサイズになった冬服。ママはお知らせのプリントを見るなり、「ブルーのサイズは今のでいいわね」って。
ぼくの背丈は伸びてないから。入学したての春の頃から、一ミリも伸びていないから。
(制服のサイズ…)
勉強机に頬杖をついて、ぼくは大きな溜息をついた。
こんな筈ではなかったのに。夏休みが終わった頃には小さくなっている筈だった合服。まだまだ背丈は伸びるだろうから、秋の間に大きいサイズで注文出来ると思った合服。
(春のがそのまま着られるだなんて…)
おまけに次のシーズン用の冬服までが春と全く同じサイズで注文されてしまいそう。ぼくの背が伸びてくれないから。百五十センチのままで伸びないから。
(予定と全然、違っちゃってる…)
秋には作れると思った合服。冬服のサイズは秋の合服よりも大きいサイズになると思ってた。
サイオンが外見に影響し始める年頃だから、制服の注文は季節ごと。夏休みの間にグンと伸びた子は、夏休み明けに新しいサイズで合服を作っていたりする。
ぼくもそうなると思っていたのに、春に作った合服のまま。冬服の注文の季節になっても、まだ新しいサイズを着られる背丈にならない。
(…最悪だよ…)
来年の春には合服を新しいサイズにしたいんだけど。大きなサイズのが欲しいんだけど。
夢で終わってしまうかもしれない、小さなぼく。
ちっとも背丈が伸びないぼく。
夏休み前には、新学期になったら制服を申し込むつもりだったのに。
春に作った合服が小さくなってしまった身体を、新しい合服で包んで御機嫌の筈だったのに…。
(いつになったら育つんだろう?)
新しいサイズの、大きなサイズの制服が早く欲しいのに。
少しでも早く背丈を伸ばして、前のぼくの背に近付きたいのに。
前のぼくと同じ百七十センチに育たない限り、大好きなハーレイとキスさえ出来ない。せっかく再会出来たというのに、キスも許してくれないハーレイ。
だから早く、とクローゼットに付けた印を何度見上げても、前のぼくの背丈はまだ遠い。
百五十センチから伸びない背丈。新しいサイズのが買えない制服。
(…家で着る服は、ママが「これ、いいでしょ?」って色々と買ってくれるのに…)
デザインや色が違っているから、サイズなんかは気にならない。
だけど制服はサイズが重要。身体に合わせて作られる服。
背が伸びないって現実を突きつけてくれる、この忌々しい制服なるもの。
(前のぼくはサイズなんか全然気にしていなかったのに…)
いつも決まった服を着ていた、前のぼく。
ソルジャーだけが着られる衣装で、あれも一種の制服だった。
前のぼくが外見の年齢を止めてしまってから出来た服だし、サイズはいつでも全く同じ。
新しいのを作る時にも採寸なんかはしていない。出来たものに袖を通しただけ。
(同じ制服でも、ぼくとは違うよ…)
月とスッポンって言うんだったか、こういうことを表す言葉。
前のぼくが着ていた制服が月で、今のぼくの情けない制服はきっとスッポンなんだ。
(いいなあ、月…)
サイズが全く変わらなくっても、前のぼくの制服は完成品。完璧に出来上がったもの。今のぼくみたいに「次に作る時は大きなサイズで作りたい」なんて思う必要さえもないもの。
(あれ以上、サイズは変わらないんだし、デザインもあれで完成品だし…)
なんて素敵な制服だろう。前のぼくがますます羨ましい、と月の制服を妬んでしまう。
(どうせ、ぼくのはスッポンなんだよ)
まだまだ改良の余地だらけ、と不満たらたらだったんだけど。
(…そういえば…)
前のぼくが着ていた、月だと羨んだソルジャーの衣装。あれは最初から月ではなかった。
デザインもサイズも同じだったけど、素材が違った。
そうだったっけ、と思い出した。
あの服はミュウの歴史と一緒にどんどん進化していったんだ…。
「…制服を作る?」
ソルジャーだったぼくが会議で聞かされた時は、背丈はすっかり伸びていた。アルタミラを脱出した直後みたいな子供じゃなくって、百七十センチに育った大人。
外見の年も止めちゃっていた。今が頂点なんだろう、と感じた頃合いで年齢を止めた。
要職に就いていた後の長老、ゼルやブラウたちは「ソルジャーが若い分、自分たちが重みのある姿で睨みを利かせていかないと」って年を重ねていったけれども、制服の話が出て来た時にはもう年齢を止めていた。
髭までたくわえて威厳たっぷりのヒルマンと、ツルツルに禿げてしまったゼルと。
ほどほどに年を取ったハーレイ、女性の中では年配と言えるブラウとエラ。
そんな五人とソルジャーのぼくが顔を揃える定例会議で、制服の案が飛び出したんだ。
「作りたいっていう意見があってね、あたしも何度も聞いてるんだよ」
「わしもじゃ」
「私の耳にも入っていますわ、制服が欲しいと」
「無視出来ないほどに増えているのだよ。材料は充分あるじゃないか、と」
ヒルマンが「どう思うかね?」と訊いて来た。
「それはそうだけど…」
材料は揃っているだろうけど、そこで制服になるのかい…?
あれこれ奪って生活していた前のぼくたち。人類の船が近くを通れば、絶好のチャンス。
輸送船か、あるいは民間の船か。人類軍の船だって航行している。
慣れない頃には艦種の識別が精一杯だったけど、慣れてしまえば簡単なこと。輸送船を探して、前のぼくが補給に飛び出して行った。瞬間移動でコンテナを幾つも失敬してきた。
最初の間は奪った物資が偏ってしまってキャベツ地獄やタマネギ地獄もあったけれども。
そういう事件もいつの間にやら笑い話で、ぼくは奪うのが上手になった。バランスよく奪って、余裕がある時は予定以外の物資も頂戴しておいた。
前のぼくが腕を上げる間に、船のみんなもやりくり上手になったから。
使えそうなものをきちんと見分けて、後で使えそうなものは整理して纏めて倉庫に保管。
(食料だって、保存食にしたりもしていたものね)
ハーレイの指揮の下、船の生活は快適なもの。食料も物資も充分にあった。
シャングリラをもっと大きな船にしよう、といった話も出て来るくらいに余裕のある日々。
そのための準備を少しずつ進め始めていた。
データベースから情報を引き出し、船の改造にはどういったものが必要なのかと調べていた。
いつかは着手するべき改造。シャングリラを本物の楽園に。
その前にまずは自給自足の生活の基本、畑作りだと思っていたんだけれど…。
「一番最初に作るべきものは、制服よりも畑だろう?」
そう言ったぼくに、ハーレイが真面目な顔で答えた。
「もちろん畑も大切ですが…。皆で畑を作ってゆくには団結力が必要です」
団結力を高めるためには、制服があれば効果的だと思われます。
それに畑は、今のシャングリラにある物資だけでは作れません。まだまだ時間がかかります。
ですから、畑作りをするよりも前に制服だろうと考えますが。
「ふうん…?」
そんなものかな、確かに布なら倉庫に山ほどあるだろうけど。
「裁縫が上手い連中がけっこういるからねえ…」
服飾部門って名乗るくらいだ、制服と聞けば大いに腕が鳴るってね。
やらせてみたらどうだい、ソルジャー。
ブラウの瞳は面白そうに輝いていたし、ハーレイは「うむ」と頷いている。
ゼルもヒルマンもエラも、口々に「やってみるべきだ」って。
とにかく作ってみたいらしい、ということだけは分かったから。
ゴーサインを出したら、直ぐにデザイン画が出来てきた。
ハーレイたちが集まる会議の席。其処でデザイン画を出したヒルマン。
「これが男性用の制服で、こちらが女性用になる」
「いいんじゃないかな」
船にある布で作れるんなら、ぼくは反対しないけど。
見せに来るってことは、船のみんなの意見はとっくに聞いた後なんだろうし。
「それで、此処にシンボルを付けようという話があってね」
「シンボル?」
「この石だよ、襟元に付いているだろう」
これくらいは船で合成可能だ。我々のシンボルとして誰もが付ける石にしようと。
「それが?」
「シンボルだからね、石の色を何にするかが重要なのだよ」
「色…?」
思い出したくもない色談義。赤か緑か、青かってこと。
服飾部門を名乗るみんなが出した意見は三つあったのに、ヒルマンが強引にこじつけて来た。
SD体制よりもずっと昔の地球にあったお守り、メデューサの目。
魔除けの青い目玉を象ったもので、シンボルの石はそのメデューサの目にあやかりたいと。
それなら青にすればいいのに、よりにもよってシンボルは赤。
前のぼくの瞳の色にされてしまった、シンボルの石。
ミュウたちを守る瞳の色だと、ぼくの目の色がお守りなんだと。
赤い石だけでも、ぼくには大概だったのに。
「まだ作る?」
制服を?
この前、決めたばかりじゃないか。
あれじゃ足りなくて、作業用の服でも作るのかい?
会議の席で訊き返したぼくに、ヒルマンが代表で答えを返した。
「ソルジャーの分と、キャプテンの分と。それに我々四人の分は別にしたいと、服飾部門に属する者たちが…」
「みんな同じでいいじゃないか」
それでこそ制服というものだろう。団結力とやらも、みんな揃いの服でこそだよ。
「だけど話が進んでるんだよ、こうだああだと」
「船を統率するキャプテンの服はこうあるべきだ、と資料を探している者もいます」
「そういうのもまた、団結力というヤツじゃろうて」
服飾部門に限定じゃがのう。しかしヤツらは頑張っておるぞ。
「まあいいけどね…」
船にあるもので何とかするなら。
これが要るから奪って来いとか、無茶を言わないなら何でもいいよ。
前のぼくはみんなを甘く見ていた。
基本の制服をアレンジすると聞いていたから、色が変わるとかそういうものだと。
なのに、会議の席でブラウが「出来て来たよ」とテーブルに置いたデザイン画。
「なんだい、これは?」
「ソルジャーの衣装なんだけれどね?」
ニヤニヤと笑うブラウが広げたデザイン画の服は、みんなの服とはかけ離れていた。
「…どの辺が基本の服だって?」
「此処と此処だよ」
アンダーは殆ど同じだってさ。それに模様も似てるけどねえ?
「冗談だろう?」
何処が基本の制服なのか、ぼくには理解しかねるけれど?
「あんたのはまだマシな方だよ、ハーレイはこうさ」
「…………」
見せられたデザイン画はぼくの想像を遥かに超えていた。
エラが言うには、船を統率するキャプテンの衣装は威厳が欠かせないらしい。
それにしたって、この服は…。
どっちが基本からかけ離れてるのか、咄嗟に判断出来なかった、ぼく。
ぼくの方が酷いか、ハーレイの方が酷いのか。
ポカンとしてたら、ゼルが別のデザイン画を持ち出して来た。
「でもって、わしらはこうなるんじゃ」
ちゃんとマントもついておるぞ、と得意げに見せられて呆然としている間に、ハーレイの声。
「では、賛成多数で可決ということでよろしいですね?」
これで進めるよう、服飾部門に言っておきます。
「…君はこの服でかまわないのかい?」
「皆がそのように望むのでしたら、特に反対は致しませんが」
「あたしたちもだよ」
みんなの希望が最優先だよ、せっかく制服を作るんだからね。
「要するにソルジャーだけが反対なんじゃ」
わしらは全員一致で可決じゃ、誰も文句は言っておらんわ。
「ぼくが却下したら?」
「生憎だけどね」
甘いよ、とブラウがフフンと笑った。
「制服くらいで特別票は認められないね」
あれはシャングリラの命運がかかった会議で使うものだろ、ソルジャーの特別票ってヤツは。
船の安全に関わる案件などでは、ぼくの票は二人分とか三人分とかにカウント出来た。
ぼく一人で全てを覆す決定は出来なかったけど、かなり強力な技ではある。
でも、制服。今の案件は、たかが制服。
こんな日常レベルの会議の席では特別票は使えない。使いたくても認められない。
(…案外、出来上がって来たらマシかも…)
デザイン画ではやたらと大層だけれど、仕上がりはそうでもないかもしれない。
この状況だと、そっちの方に期待するしか無いだろう。
諦めたぼくは、それっきり二度とデザイン画を見ようとしなかった。
だから一大事が進行していることにも気付かなかった。
デザイン画を提出させていたなら、事前に気付いて修正くらいは出来ただろうに。
制服が完成して、シャングリラのみんなに配られた日。
「ソルジャーの衣装をお持ちしました」と部屋に現れたハーレイの姿に唖然とした。
デザイン画よりも完成品の方がずっと凄くて威厳たっぷり、金色の肩章が輝いている。
(立派すぎだよ…!)
ハーレイでこれならぼくの立場は、と慄いた。
デザイン画を超える代物が登場すると言うなら、ぼくの制服はどうなるのだろう、と。
(…どうしよう…)
せめてハーレイほどには目立たない服でありますように、と祈るような気持ちでケースを開けてみたんだけれど。
服やマントが入っている筈のケースの蓋を開けたんだけれど。
(…これは?)
ケースに収められた衣装の山の一番上に変な物体。
ヘッドフォンを思わせる形の白い物体。
何に使うためのものなのだろう?
ブラウにデザイン画を見せられた時は、こんなパーツは無かったと記憶しているけれど…。
考えてみても分からないから、衣装ケースを持って来たハーレイに訊いた。
「なんだい、これは?」
「特別製の補聴器だそうです、ソルジャー」
直立不動で答えたハーレイ。
「…補聴器?」
「私も渡されたのですが…。キャプテン専用にデザインした、と」
着けてみましたが、まだ慣れないので外して来ました。
補聴器無しでも、特に苦労はしませんでしたし。
「ぼくも要らないけど!」
「ですが、ソルジャー…。それも衣装の一部ですから」
ソルジャーのための衣装に合わせてデザインしてある補聴器だそうです。
ですから着けて頂きませんと…。私も着けるように致しますから。
「こんな補聴器まで着けろって!?」
「服飾部門の意向ですから」
それにシャングリラの皆の意向でもあります、ソルジャー。
デザインは皆の意見を図って決定されたものですから。
(………)
放っておいたぼくが悪いんだけれど。
デザイン画を何度も提出させずに放置したから、自業自得と言うものだけれど。
白と紫が基調の立派すぎる服には、有無を言わさず補聴器までがくっついて来た。
ブーツと手袋はまだいいとして、みんなの制服には無い上着とマントに、おまけに補聴器。
「如何ですか?」と訊くハーレイは「早くそれを着ろ」と言わんばかりで、ぼくは仏頂面で袖を通すしかなく、アンダーを着けたら上着にマント。しかもマントはハーレイが背中に回って掛けてくれたから、ムカッと来た。そんなにこれを着せたいのか、と。
しっかり着せ付けられてしまって、補聴器も頭に載せるしかなくて。どうなったのか、と部屋の鏡を覗き込んだら予想よりも遥かに偉そうな衣装。これは酷い、と思ったから。
「色々と動きにくいんだけど…!」
服もそうだし、マントも邪魔だよ。どっちも重くて動きにくいよ!
「そういう衣装ではない筈ですが?」
伸縮性のある生地と、動きの邪魔にならないデザイン。
服飾部門で検討を重ねて出来上がったと聞いております。…如何でしょうか?
グッと言葉に詰まった、ぼく。
ハーレイの説明通りに動きやすいし、重くも無かった。
ぶつけた文句は言い掛かりでしかなく、何の根拠も無い子供の我儘みたいなもの。
ハーレイは「お分かり頂けましたでしょうか?」と空になった衣装ケースをパタンと閉じた。
「そしてその衣装は、これから色々と改良してゆく予定ですので」
「…改良?」
「シャングリラでの自給自足を目指す過程で、ソルジャーがお召しになる衣装の方も改良します」
今は普通の素材で出来ておりますが…。
いずれはサイオンの研究を重ね、それを生かせればと思っております。
ソルジャーのお身体をお守りするのに必要な強度を上げることが一番重要でしょうか。
それから手袋は着けておられることが分からないほど、皮膚の感覚に近いものへと。
なおかつ防御力は上げ、通す熱なども攻撃性の有無で分けられればと…。
人の温もりやカップの温もりなどは通して、炎やレーザーは弾くなどですね。
サイオンの研究を進めてゆけば、そういう素材も充分に開発可能であろうと…。
なんだか色々とプランを聞かされ、ドッと疲れた。
この御大層な衣装とやらは、この先もずっと改良されつつ追って来るらしい。こんなの嫌だ、と脱ぎ捨てようにも既に手遅れ、ぼくの制服は決まってしまった。
「ソルジャー、皆が待っております。昼食の席でお披露目ですので」
「お披露目だって!?」
冗談じゃない、と思ったけれども、それでも行かなきゃならない食堂。制服を纏った仲間たちが待っている食堂。
仕方ないから、ハーレイを従えて通路へと出た。食堂に着くまでに一人くらいは出会うだろうと考えてたのに、こんな時に限って誰にも会わない。誰一人として歩いちゃいない。
(これじゃ反応が分からないよ…!)
とんでもない服が似合っているのか、いないのか。
頭に乗っけた補聴器とやらが可笑しくはないか、みんなの視線を浴びるよりも前に予行演習。
一人だけでも顔を合わせて反応を見たいし、心の準備をしておきたいのに。
お披露目の前に誰か一人でも…、という切実な願いは叶わなかった。
それが何故かは食堂に入った途端に分かった。殆どの仲間が食堂に顔を揃えていたから。自分の持ち場を離れられない仲間以外は、全員食堂に集合していた。
「ソルジャーだ!」
「見ろ、ソルジャーがいらっしゃったぞ!」
ワッと大きな歓声が上がって、割れるような拍手。制服を纏ったみんなの拍手。
途惑っていたら、長老の制服を着けたヒルマンやエラたちが近付いて来た。
「うむ、なかなかに似合うじゃないかね」
「私たちの目に狂いはありませんでしたわね。補聴器も良くお似合いですこと」
ぼくの衣装のデザインについて誰がせっせと旗を振っていたのか、大体分かった。
補聴器に関してはエラなんだ。
最初のデザイン画には無かった補聴器自体を付け加えたのか、アドバイスしたか。
もしかしたらマントや上着の色とかも…、と心配になった。デザイン画の色は覚えてないけど、白と紫ではなかった筈。ここまで派手ではなかった筈…。
「紫は皇帝の色なんじゃぞ」
ゼルがマントに触って言うから。「皇帝って…?」と怖々、訊き返したぼく。「皇帝だとも」とヒルマンが笑顔で答えてくれた。
「紫は遠い昔の地球では、皇帝が身に着ける色だったのだよ」
私とエラとで紫にしようと決めたのだがね。上着の白はエラの意向だ。
「白は神様と縁が深いのです。天使の衣も真っ白でしょう?」
穢れの無い白こそ、ソルジャーの上着に相応しいかと思いますわ。
(…皇帝と神様…)
その二つには覚えがあった。
ぼくがソルジャーにされてしまう前、シャングリラで行われた船内投票。リーダーと呼ぶのでは誰か特定出来ないから、と候補を募ってぼくの称号を決めた時のこと。
候補に挙がったカイザーとロード。有力候補だったカイザーとロード。
カイザーは皇帝の意味でヒルマンの案。ロードは神様、これはエラの案。
どちらかに決まりそうな勢いだったから、ハーレイに助け舟を出して貰ってソルジャーの称号を得たんだけれど。戦士って意味しか無いソルジャーになったんだけど…。
(…カイザーとロード…)
ヒルマンとエラは覚えていたんだ。その二つを衣装にぶつけて来たんだ。
やられた、と心で呻いたけれども、時すでに遅し。
食堂に集まった仲間たちが揃いも揃って拍手喝采、ぼくは逃げられなくなった。
皇帝の紫の色のマントに、神様と縁が深い白の上着がソルジャーの衣装。
御立派すぎる由来をくっつけてくれたヒルマンとエラは、大いに満足そうだった。
それから本当に改良が重ねられていったソルジャーの衣装。
マントは高温や爆風に耐えられるようになり、もちろん上着やアンダーだって。
手袋はハーレイが言っていたとおり、体温などの優しい温もりはちゃんと通して、炎などの熱は遮る仕様に仕上がった。
補聴器もうんと頑丈になって、後にジョミーがグランド・マザーと戦った時にも壊れなかった。
ミュウならではのサイオンを生かした素材や、様々な工夫。
それらの集大成とも言えたソルジャーの衣装は、白い鯨が出来た頃には完成品になっていた。
色だのデザインだのはともかく、充分に頼もしいソルジャーの衣装だったけど…。
(…ぼくって、制服運が悪いの?)
前のぼくは酷い目に遭わされちゃったし、今のぼくはサイズで悩んでる。
制服なんて無ければいいのに、と文句を言おうとしたんだけれど。
(制服を着ないと学校に行けない…)
学校には制服を着て行く決まり。私服だと門をくぐれない。
ぼくが通っている学校。ハーレイが先生をしている学校。
その学校の中に入れなければ、ハーレイに会えない。ハーレイの授業にも出られない。
(…ハーレイが先生をしてくれていても、ぼくが生徒じゃなかったら…)
会えやしないし、会いに行けもしない。無事に再会出来たかどうかも分からない。
ぼくが制服を着ている生徒だったから、ハーレイに会えた。
あの日、教室でハーレイに会えた。
ぼくが記憶を取り戻した日。前のぼくが最期に負った傷痕が身体に浮かび上がったあの日。
それに、前のぼくが着ていたソルジャーの衣装の上着。
ハーレイのキャプテンの制服の上着とお揃いの模様だったっけ…。
(…ハーレイが絡むと制服に文句は言えないんだよ…)
前のぼくはハーレイとお揃いの模様の上着が嬉しかったし、大好きだった。お揃いだって気付くまでには、ずいぶん長く掛かったけれど。
今のぼくは制服のお蔭でハーレイに会えて、今だって学校でハーレイに会える。
だから制服には文句を言えない。制服運がいくら悪くても、文句を言ったらきっと罰が当たる。
(前のハーレイは制服に文句は無かったのかな?)
ぼくと同じで補聴器とセットの制服を押し付けられていたけれど。
キャプテンだから、って威厳がどうとか、肩章までついた凄い制服を着てたんだけど…。
(文句を言わずに真面目に着た分、今は制服から解放された?)
今のハーレイは制服なんかは着ていない。子供時代は着ただろうけど、今は着てない。
(スーツとネクタイは大人の制服なんだけど…)
色も形も決まっているってわけじゃない。
ちょっとした約束を守りさえすれば、自分で自由に選べる制服。
前のハーレイみたいに選ぶ余地も無いってわけじゃないから、うんと自由な今のハーレイ。
キャプテンの制服を着なくても済んで、好きにネクタイを選べるハーレイ。
(ぼくもあと少しの我慢なんだよ)
制服に「さようなら」って言える年になったら、結婚出来る。
卒業して十八歳の誕生日が来たら、大好きなハーレイと結婚出来る。
ぼくの制服は、あとちょっとだけ。
最期までソルジャーの衣装を着続けた前のぼくと違って、数年だけの我慢。
制服運が悪かったとしても、その間にはきっと大きなサイズの制服だって買えると思う。
(大きなサイズの制服になったら嬉しいしね?)
今のぼくの悩みはサイズなんだし、背丈が伸びて大きいサイズの制服が買えたら悩みは解消。
ソルジャーの衣装は改良されていったけれども、今のぼくの制服はサイズが変わる。
ぼくの背丈が伸びるのに合わせて、どんどん大きくなっていくんだ。
それに、今度は前のぼくと違って、周りのみんなと同じ制服。
学校の友達と同じ制服、みんなと同じの色とデザイン。
ソルジャー・ブルーと同じ背丈になっても、制服はみんなと同じで一緒。
一人だけ違う服を着るんじゃなくって、誰もが一緒。
(みんなと同じ制服だったら、前のぼくみたいな悩みは無いしね?)
御大層な服も、カイザーだのロードだのと妙な由来もくっついて来ない。
周りの友達はみんな同じ服、誰もが同じデザインの服。
そう思うと、ちょっぴり心が弾む。
制服運が悪くなかったら。ぼくの背丈が、順調に伸びてくれたなら。
今度はみんなと同じデザインの制服を着るんだ、ソルジャー・ブルーと同じ背丈で…。
生まれた制服・了
※シャングリラにいたミュウたちの制服や、ソルジャーの服はこうして出来たみたいです。
そしてソルジャーの衣装は、ハーレイとお揃いの模様なんですよね。公式設定でも。
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(前の俺とはまるで違うな…)
ハーレイは棚に並べたトロフィーや表彰盾などを眺めながら心で呟いた。夕食の片づけを終えてリビングでコーヒーを飲んでいた時、ふと目の端に留まったから。
それらはごく当たり前に其処にあるもので、学生時代までのハーレイの人生の記録。打ち込んだ柔道と水泳の大会や競技会などで勝ち取り、教師の道を選んでこの家に来る時も持って来た。
掃除の時には軽く払ってやり、磨いてやったりすることもある。数々の思い出が刻まれた品々。手に取らずとも見るだけで輝かしい日々が脳裏に蘇る品たち。
(こいつが一番最初だったな)
次がこれで…、と手に入れた順に目で追い、前にそれらを見ていた恋人を思い出した。
一度だけ招いてやったことがある小さな恋人。十四歳にしかならないブルー。
前の生から愛し続けた愛おしい人は、幼くなって戻って来た。少年の姿で戻って来た。あまりに幼く、心も身体も子供そのものになってしまったブルーだから。どんなにブルーに求められても、応えるわけにはいかないから。「大きくなるまで来てはいけない」と言い聞かせた。
それ以来、ブルーは訪れていない。一度だけ、前の生での最期を迎えた時を夢に見て、無意識の内に瞬間移動をして来たけれども、その一度きり。
(…あの時もあいつはリビングに居たな)
朝食の支度が整うまでの間、パジャマ姿のブルーをリビングのソファに座らせておいた。きっとあの日も、ブルーはこの棚を見ていただろう、という気がする。
(ずいぶん熱心に見ていたからなあ、前に説明してやった時に)
「凄いね」と、「とても沢山あるね」と棚に見入っていたブルー。
「いつ貰ったの?」と、「貰う所を見てみたかったな」と。
問われるままに説明してやったのだが、このトロフィーたちを得て来た今の自分。
好きな柔道と水泳に打ち込み、懸命に高みを目指した自分。
前の生とはまるで違うな、と考える。シャングリラではどちらもやらなかった、と。
ブルーが守った白い船。ハーレイが舵を握っていた船。
アルタミラから脱出して直ぐは皆が忙しくしていたものだが、落ち着いてくると時間が出来た。それぞれが持ち場と決めた場所を守り、其処での仕事が特に無ければ自由時間。
(身体がなまると思ったんだっけな)
実験動物として囚われていた間は狭い檻の中に閉じ込められていたし、運動などはしなかった。そういったものがあったことさえ忘れていたのに、何故、運動をせねばと思ったのか。
(…案外、前の俺も何かスポーツをやっていたのかもな?)
成人検査と人体実験とが奪い去ってしまった、ミュウと断定される前の記憶。
何一つ覚えてはいないけれども、十四歳の誕生日よりも前はスポーツ少年だったかもしれない。あの時代に柔道は無かったのだが、水泳ならやっていたかもしれない。
(ジョミーみたいにサッカーだったかもしれないなあ…)
体格は良かった筈なのだから、ラグビーなどの可能性もある。何かスポーツをやっていたなら、身体が覚えていただろう。競技自体は忘れてしまっても、運動せねばということを。
(身体ってヤツは動かしてやらんと駄目になるしな)
教師になった今も、日々の運動を欠かしてはいない。ブルーの守り役を引き受けた後も。
週末はブルーの家で過ごすのが常になっても、帰宅した後に軽い運動やストレッチ。
(前の俺も、きっと何かをやってたんだな)
トロフィーや表彰盾を貰えるほどのレベルだったかどうかはともかく、スポーツの類。
身体は動かさないと駄目になるものだ、と自然に思い付く程度には。
運動せねば、と身体が訴えて来たから、自由時間を運動に充てた。シャングリラと名付けた船の通路を足の向くままに走って行ったり、部屋で腕立て伏せなどをしたり。
どんな運動が身体を作るか、調べなくても知っていた。考えなくても身体が動いた。
(やはりスポーツ少年だったか…)
当時は深く考えもせずに運動していたし、仲間たちにも「一緒に軽く走ってみないか?」と声を掛けたりしたものだ。「軽く」と聞いてついて来た者は、置き去りにされてしまったけれど。
(大抵のヤツらは弱かったしなあ…)
ミュウは虚弱な者が多いから、ハーレイのように頑丈な者は例外だった。恐らく成人検査よりも前にスポーツなどはしていないだろう。
(その点はゼルも同じだったろうな)
ゼルとは喧嘩友達だったが、そのゼルも口が悪いというだけ。たまに手が出ても殴る拳に体重が上手く乗っていなくて、大したダメージにはならなかった。まともに食らっても倒れはしない。
(お蔭でデカブツと言われる始末だ、あいつのパンチが弱いだけなのに)
そんなわけだから、ゼルに一発お見舞いする時は手加減をした。倒れない程度に力を弱めた。
(俺と互角に喧嘩できるヤツさえいないんではなあ…)
柔道のような格闘技をしようと思いはしないし、始められもしない。
もっとも、船には格闘技を教えてくれるような者は一人もいなかったのだが。
白い鯨が出来上がった後は、船にプールが備わった。地上であれば競技会にも使えそうなほどの立派なプール。
そのプールでたまに泳いだけれども、あくまで心身のリフレッシュのため。キャプテンの仕事は気が張るものだし、開放感のある水の世界はリフレッシュにもってこいだった。
我流で泳いで、コースを何往復もして。今の自分に敵いはしないが、泳ぎを充分楽しんでいた。水を掻いて泳げば気持ちが良かった。
(ブルーが見に来ていたっけな)
泳いでいると、よくプールサイドから「凄いね」と声を掛けられた。ぼくは全然泳げないのに、と笑って見学していたブルー。
(前のあいつも水には入らなかったんだ)
十四歳の小さなブルーはプールに入る時間を制限されているらしいが、前のブルーも似たようなもの。虚弱な身体はプールで水と戯れられるほどに丈夫には出来ていなかった。
(その代わり、泳ぐどころじゃない凄い技を持っていたんだが…)
サイオンを使えば自在に浮くことも、潜ることも出来たソルジャー・ブルー。身体の周りに水の影響が及ばないようにシールドを張って。
それを応用して、前のブルーはプールの上を歩いてみせた。ハーレイが泳ぐ隣の水面に立って、「そんなに早くは歩けないよ」などと言いながら水の上を歩いて追いかけて来た。
(今のあいつにやれと言っても、沈むだけだな)
サイオンの扱いがとことん不器用になってしまった、小さなブルー。
前の生と同じタイプ・ブルーのくせに、思念波さえろくに紡げないレベル。もしもプールの上を歩こうとすれば、そのままドボンと沈んでしまってパニックに陥ることだろう。
アルタミラから脱出した直後とそっくりな容姿を持っていながら、能力はまるで違ったブルー。
(そもそも、人生、別物だしな?)
俺もブルーも、とハーレイは心の中で呟く。
前の生とは全く違うと、前はこんな風にトロフィーや表彰盾を並べ立ててはいなかったと。
成人検査を受ける前には持っていたかもしれない、そういった品。
スポーツ少年だったとしたなら、貰ったかもしれないトロフィーや盾。
けれども何も覚えていないし、前の自分の養父母だって、それらを捨ててしまっただろう。前の自分を成人検査に送り出したら、それらに用は無いのだから。
次の子供を迎える予定なら不要なものだし、そうでなくても息子は戻って来ないのだから。
(前の俺は持っていたんだろうか…)
トロフィーや盾、と考えてみても答えは出ない。アルテメシアを落とした後でテラズ・ナンバーから得た情報の中に、そこまでは入っていなかった。養父母の名前と写真はあったし、育てられた家の写真もあったが、前のハーレイがどんな子供で、どう育ったかのデータは無かった。
(考えても仕方ないんだがな?)
どうせ戻れはしない過去だし、前世の記憶が戻るよりも前は過去があったとも思わなかった。
自分がキャプテン・ハーレイだとも知らず、生まれ変わりだとも考えなかった。
あまりに姿が似ているから、と「生まれ変わりか?」と訊く者もあったが、あくまで冗談。
ハーレイ自身も「そうかもしれんぞ」などと笑って応じていただけ。
今の自分よりも前の自分が存在したとは、夢にも思いはしなかったのだ。
小さなブルーと出会ったあの日まで、記憶が戻った五月三日が訪れるまでは。
あの日が来るまで小さなブルーが何も知らずに生きて来たように、ハーレイも今の自分の人生を好きに生きて来た。前の自分を思い出しもせずに、三十七歳までは自由に生きた。
(もう少しで三十八年だったんだが…)
三ヶ月とちょっと足りなかったな、と指折り数えて苦笑するけれど、充分自由に生きたと思う。
釣り好きの父に連れられて海や川で泳いで、自然に水泳の道へと進んだ。
限られた季節しか泳ぐことが出来ない自然の水泳場では物足りなくなって、いつでも自由に水に入れるスポーツクラブに入会したのが切っ掛けだった。どうせ泳ぐなら、と教室に入り、みるみる腕を上げ、上のクラスへ、更に上へと。
柔道の方も父と無縁ではない。父の釣り仲間に「体格がいいから向いていそうだ」と勧められて道場へ見学に出掛けて行ったのが最初。水泳とはまるで違う世界に魅せられた。礼に始まって礼で終わる競技。一対一での真剣勝負。入門した後はひたすら努力し、上を目指した。
水泳も柔道も、鍛えるほどに成果が上がって上へと進める。努力しただけ結果が出せる。
勝って、勝ち進んで、幾つものトロフィーや盾を貰った。
前とはまるで違う人生。
前の自分の欠片すら無い、運動に打ち込んでいた自分。
(…待てよ?)
強くなりたいと思っていた。誰よりも強く。
守りたいのだと常に考えていた。だから柔道は性に合ったし、もっと強くと技を磨いた。身体を鍛えて持久力をつけ、筋力もつけて勝負に挑んだ。
負けは殆ど知らないと思う。始めた頃こそ負けたものだが、一通りの技を身につけてからは師と仰ぐ者と兄弟子以外に負けはしないし、調子が良ければ兄弟子でさえも倒すことが出来た。
強くなって、必ず守らなければ。いつもその思いが頭にあった。
だからこそ強く、もっと強くと努力出来たし、勝ち続けてトロフィーや盾を貰ったけれど。
(…誰を守りたかったんだ?)
いったい自分は誰を守りたかったのだろう。誰を守らねばと思い続けていたのだろう?
ただ漠然と「男だしな」と考えていたが、もしかしたら…。
(…前の俺なのか?)
ブルーを守ると何度も誓って、果たせなかった。
守ってやると何度誓ったか分からないのに、それは言葉の上だけだった。
ソルジャーの名の通り、ただ一人きりの戦える者だったソルジャー・ブルー。それに引き換え、前の自分は戦えるだけの力すらも持たず、ブルーの支援が精一杯で。戦いに赴いたブルーを決して見失わぬよう、シャングリラを操って追っていただけ。ただ追いかけて飛んでいただけ。
(俺は守れなかったんだ…)
守れる力を持たなかったから、ブルーを守れはしなかった。
何があろうと守ってやると誓ったブルーを守れなかった。だからブルーを失くしてしまった。
たった一人で死が待つメギドへと飛ばせ、愛おしい人を失くしてしまった。
それをどれだけ悔やんだことか。どんなに悔やみ続けたことか。
死の星だった地球に辿り着くまで、前の自分の生が終わるまで、悔やみ続けて自分を責めた。
どうして守れなかったのかと。
守りたかったと、その身を呈して最後まで守ってやりたかったと。
(まさか、俺は…)
自分が守りたいと思っていたのは、ブルーだったろうか?
前の生の記憶が戻る前から、ブルーを守ろうと努力して力をつけたのだろうか?
(まさかな…)
記憶も戻っていないのに、と一笑に付したい所だけれど。
考えてみれば、水泳の道も柔道の道も、プロとして歩もうとは思わなかった。どちらもプロから誘いがあったし、コーチや師からも進むべきだと何度も背中を押されたのに。
(水泳のプロは…)
外見の年齢を肉体の頂点で止めてしまえば、実年齢が許す限りは現役の選手を続けられる世界。第一線を退いた後も、現役の体力を保ったままで後進の指導をすることが出来る。
遣り甲斐があるとは考えたのだが、ハーレイは年を重ねたかった。若々しい青年の姿を保つのが大切な水泳のプロは向いていない、と選ばなかった。
自然に年を取ってゆきたいし、そうしたい。年を止めるにはまだ早いのだ、と。
(柔道のプロなら、それでも充分いけたんだ…)
礼を重んじる柔道の道は、外見の重みも尊ばれる世界。水泳と同じく実年齢で現役時代が終わるわけだが、若い青年の選手もいれば、初老の選手も少なくない。自然に年齢を重ねたいだけなら、柔道のプロを選べば良かった。
そちらの道に進んでいたなら、今も現役だっただろう。試合に出ながら後進も指導し、充実した選手人生を歩んでいたに違いない。
(何故、プロの道を選ばなかった…?)
自分には向いていないと思った、女性ファンたちに騒がれる選手人生。試合の度に大勢の女性が応援に来ては、声援や、時には差し入れなども。もちろん男性ファンも数多かった。
そうした騒ぎに巻き込まれるよりも黙々と競技に打ち込みたかったし、プロにはならずに趣味の道でいいと考えたのだが。
(…ファンだけだったら、道場には来るなと釘を刺しときゃ良かったんだ)
来るなと言えば追っては来ない。プロの選手に迷惑をかけてはいけないことくらい、ファンにも分かる。試合に声援は付きものなのだし、その雑音に負けるようではプロとは言えない。
そう、練習の場である道場さえ静かに保てていたなら、特に問題は無かった筈だ。プロの選手を抱えるような道場だったら、そうした手段も講じていた筈。
たった一言、「静かに練習したいのですが」と言いさえすれば解決したこと。
それを試みもしない内から、何故、自分は…。
どうして早々とプロの道を諦めてしまったのだろう、と当時の記憶を探ってゆく内に。
(…教師がいいな、と思ったんだっけな)
そうだった、と思い当たった今の自分へと繋がる記憶。
ある日、ふと教師になりたくなった。
仕事をしながら水泳と柔道を趣味で続けられて、後進の指導もしてゆける世界。まだ原石でしかない後進たちを育てて磨いて、可能性を伸ばして送り出せる世界。
そうするためには義務教育の最終段階の教師がいいだろう。十四歳から十八歳までの子供たちが通う学校、心身共に一番大きく伸びる時期。
(そういうつもりで選んだんだが…)
教師の道を選んで、必要な資格を取得して。
それでもプロへ、と誘いに来る声を全部端から断り続けて、この道に来た。
自分が育った隣町でも教師のポストはあったというのに、小さなブルーが住んでいる町を選んで職に就き、この町に家まで持ってしまった。
(もしかしたら…)
ブルーと、十四歳のブルーと出会うために自分は今の仕事に就いたのだろうか?
十四歳からの子供が通う学校の教師の職を選んで、この町にやって来たのだろうか…?
(…そうなのか?)
もしも教師でなかったなら。柔道か水泳のプロの選手になっていたなら。
十四歳のブルーと出会うことは恐らく出来たのだろうが、頻繁に会って話せはしない。仕事場で会うなど夢のまた夢、教師だからこそ学校でもブルーに会うことが出来る。ブルーの家に寄れない時でも、学校でブルーの顔を見られる。
ブルーの守り役という役目にしたって、プロの選手なら無理だった。
守り役自体は引き受けられても、ブルーに会うための時間が取れない。プロの選手は練習時間も多いものだし、試合のためには遠征もあった。地球の上だけでは済まない遠征試合。
(規模のデカイのになったら、一ヶ月くらいは軽く地球を留守にしちまうしな?)
大会の前の合宿に始まり、あちこちの星を転戦しながら試合を続けることもある。プロの道とはそうしたもの。自宅に長期間戻れなくても、それが当たり前の厳しい世界。
(…俺はともかく、ブルーは確実に泣いちまうな…)
せっかくハーレイに会えたのに、と涙を零す姿が目に浮かぶようだ。
「また試合なの」と、「次に帰ってくるのはいつ?」と。
(…もしかして、俺は…)
もしかしたら、と何度も頭で繰り返して来た言葉を纏め上げる形で組み上げた。
(ブルーを守るためにと柔道をやって、出会うために教師だったのか…?)
そうなのか、と自分自身に問い掛けてみたが、否という答えは返らなかった。
前の生から愛し続けて、再び出会った小さな恋人。
守ってやると誓っていたのに、前世では守り損ねた恋人。
その恋人を守るためにだけ強くなろうと努力を重ねて、プロになれるほどの技を身につけた。
プロへの道が開けていたのに、恋人に出会うためにその道を捨てて教師になった。
(…きっとそうだな)
そうなんだな、とハーレイは思う。
出会う前からブルーを守ろうとして柔道を始め、出会う日のために教師の道へと。
そうやって自分は今の生を生きて来たのだと…。
柔道と教師には意味が大いにあるようだけれど。
柔道よりも先に始めた水泳の方はどうなのだろう?
物心ついた頃には父に連れられて行った川や海辺で泳いでいた。「浅い所で泳ぐんだぞ」と父に見張られ、ごくごく浅い場所から始めた、今の自分の水泳人生。
(水泳には意味が無さそうだがな?)
せいぜい後の柔道のための体力作りの基礎くらいか、と考えてみて。
(待てよ…?)
身体が弱くて殆ど泳げないという小さなブルー。
長い時間は水に入っていられないブルー。
そんなブルーが水に落ちたなら、溺れるしかない。前のブルーのように水の上を歩けはしない。誰かが飛び込んで助けなければどうにもならない。
(まさか、水泳も…)
ブルーを守るために身につけた技の一つなのか、と思うけれども。
(…一つくらいは俺のための趣味があってもなあ?)
今は木彫りはやっていないのだし、その代わりだと思っておこう。
木彫りの代わりに、趣味の水泳。プロになれるレベルでも、あくまで趣味。
一つくらい、と今の自分だけの趣味にこだわりたくなった。
そうした趣味があってもいいと思ったのだが…。
いいさ、とハーレイは考えを変えた。
(全部がブルーのためでもいいさ)
前のブルーは仲間たちのためにだけ懸命に生きた。
仲間を守って、白い鯨を最期まで守って、たった一人で暗い宇宙に散ってしまった。
最期まで持っていたいと願ったハーレイの温もりさえも失くして、独りぼっちで右手が冷たいと泣きじゃくりながら。凍えて冷たいと泣きじゃくりながら…。
そのブルーを守ってやれるのならば。
小さな姿に生まれ変わって来た、愛おしいブルーを守れるのならば。
今度こそ守ってやるためであれば、何もかもがブルーのためでもいい。
自分のための趣味など要らない。
今の自分のためにだけある趣味も仕事も、無くてもいい。
全てはブルーのためだけでいいし、ブルーを守れればそれだけでいい。
(今度こそ俺が守ってやるから)
学校でも、いつか結婚して共に暮らす家でも、自分が守る。
今度の自分は前と違って強くなったし、本当にブルーを守ることが出来る。
何に脅かされることもない平和な世界ではあるのだけれども、守ろうと思えば守れる世界。
ブルーを守って生きられる世界。
(…それに年もな)
前の生ではブルーの方が年上だった。
アルタミラの研究所では心の成長さえも止めていたけれど、年が上なことは間違いなかった。
しかし今ではハーレイの方がブルーよりもずっと年上で、一緒に暮らすならハーレイが保護者。年が上であるハーレイが保護者。
いつかはブルーを伴侶に迎えて、名実ともに保護者になる。
ブルーを庇護して守る立場に立つことになる。
何処から見ても、誰が聞いても、ブルーを守るべき保護者になれる。
(あいつのための人生でいいさ)
何もかも全部、ブルーのためにある人生でいい。
愛おしくてたまらないブルーのためなら。
生まれ変わってもなお、自分だけを一途に想ってくれる愛おしいブルーのための生なら。
(今度こそ俺が守ってやるさ)
前の生で守れなかった分まで、今度は守る。
身につけてきた全ての技と力とでブルーを守る。
そのために強くなったのだから。守らなければと努力を重ねたのだから…。
守ってやるさ、とハーレイは今頃はベッドで眠っているだろう恋人に心で呼び掛けた。
俺が守ると、今度こそお前を守らせてくれと。
(なあ、ブルー…?)
棚に並んだトロフィーや盾はこれ以上増えはしないけれども、それでいい。
この品たちはブルーを守れる自分自身を作る過程で手に入れて来ただけのものだから。
プロの柔道の選手だったらまだ現役でいけたのだろうが、トロフィーや盾を増やすよりも。
栄誉あるメダルを手に入れるよりも、喝采を浴びているよりも。
(…ブルーさえいてくれればいい)
ブルーだけを守れればそれで充分なのだと思う。
今はまだこの家にブルーはいないけれども、いつかは自分が守るべき日が来るのだから…。
今の切っ掛け・了
※今のハーレイが出来上がった切っ掛け。…もしかしたら、前のブルーが影響しているのかも。
何もかもブルーのためだというなら、その人生でいいのがハーレイ。それで満足。
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