シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
調理補佐・その1
マザー、「そるじゃあ・ぶるぅ」に餌をあげようとしたら様子が変になりました。こう、白い目で…睨みつけるように…。私が調理補佐になったので「餌に一服盛るのではないか」と警戒されたのかもしれません。「眠り薬を飲ませて丸まって眠る姿を存分に楽しみたい」「ついでにそのまま土鍋に入れて可愛い写真を撮りまくりたい」と思ったことが一切ないとは申しませんが、「そるじゃあ・ぶるぅ」に心を読まれているのでしょうか?
『ぶるぅ鍋』をやってみたくて土鍋の有無を尋ねたところ、「シャングリラは相撲部屋ではない」と叱られました。「調理補佐が何か分かっているのか?ちゃんこ当番の新弟子と間違えないように」だそうです。今日のノルマはジャガイモの皮むき百人前でした…。
調理補佐・その2
マザー、念願の調理師になれましたので『ぶるぅ鍋』用の土鍋を手に入れようと、マザーのお教えどおりにシャングリラ厨房の方々に「ちゃんこ鍋」の素晴らしさを伝えました。今回ほど思念波の便利さを感じたことはありません。全員一致で土鍋の購入が決まりました。が…。不意に後ろからブラウ様の声がしたのです。
「ふうん、『ぶるぅ鍋』だって?…面白そうじゃないか、ハーレイ」。
振り返ると食事を終えた長老の皆様が立っていらっしゃいました。ブラウ様は私に軽くウィンクをして、キャプテンにこうおっしゃったのです。
「この子の思念、拾えたかい?…ねこ鍋、ってのがあるんだねえ。動画にDVD、写真集…。可愛いじゃないか。ぶるぅでやったら楽しいだろうよ」。
ああぁ…マザー、わたくしは未熟者です。土鍋購入は長老方の快諾を頂けましたが、『ぶるぅ鍋』はブラウ様を筆頭に長老方がなさることになってしまいました。あの時、思念が漏れていなかったなら…。今はブラウ様のお言葉だけが救いです。
「いい動画が撮れたら、艦内一斉放送だねえ」って。
調理補佐・その3
マザー…「そるじゃあ・ぶるぅ」が寒いのは苦手です、と意思表示していたのに「遊ぼう」と誘って気のない返事をされてしまいました。「雪遊びをしたがってうずうずしていた頃」と同じように思っていたのがマズかったようです。意識下にあった「一緒に雪合戦」とか「そりに二人乗り」とかの雑念を読まれてしまったのでしょう。思念を読まれないよう、精進します。
今日はこれからシャングリラの「午後のおやつ」の時間に向けて、生クリームの泡立てだそうです。何人前かは怖くて訊けませんでした…。
調理補佐・その4
マザー、「そるじゃあ・ぶるぅ」のカラオケ練習、目撃しました。昨日、撫でようとして噛まれていますし、マザーのご命令の件もあるので、とりあえず「遊ぶ」を選択し、やる気なさげな態度を無視して十八番を尋ねてみたら…。
最近、ジョミー・マーキス・シンがカバーした有名な曲だそうです。「この曲を知らないとはモグリか」みたいな顔をされました。素人には「かみほ~♪」の「ほ~♪」の部分が「おーん」と聞こえるみたいです。…マザー、報告はこんな感じでよろしいでしょうか?
仕事探し中・その1
マザー、「そるじゃあ・ぶるぅ」がカラオケの練習をしているのを目撃してしまいました。外にはグルメの他にも誘惑が沢山あるようです。苦労人のキャプテンも、この際、一緒にカラオケに出かけてはどうかと思うのですが…艦を留守には出来ませんか?ならばシャングリラには劇場がありますし、ちょこっと手を加えれば存分に歌いまくれるかと…。
「そるじゃあ・ぶるぅ」の方は、練習中の姿を見られて激怒したらしく、思い切り噛まれてしまいました。カラオケが上達したら「もっと…聴いてって」と言い出しそうな気がしますけど、いつか達人になるのでしょうか?今は「おーん」としか聞こえませんが…。
仕事探し中・その2
マザー、今日も「そるじゃあ・ぶるぅ」が餌を食べていないはずなのに「食べすぎてすまないと思っている」と青ざめた顔で言っています。こっそり食べてミシュラン作りだかアイス番付だか知りませんけど、消化器官が弱いのではなかったのですか?それともアヒル君と仲良くしてるのも「最後に餌を食べた日」の表示と同じで「建前」、俗に言う偽装工作で…私たちは騙されているのでしょうか。
実は消化器官は元気印なのに「胃腸が弱い者と女子供は丁重に扱えと教えられていないか」と裏でニンマリ笑いつつ、「食べすぎてすまないと…」と同情票を稼ぎ「もっと…して」もらおうと思っているとかありませんか、マザー…!
皿洗い
マザー、「そるじゃあ・ぶるぅ」には相変わらず振り回されっぱなしの身ですが、シャングリラで皿洗いをさせて貰えるようになりました。ありがたいことです。
で、早速お皿を洗っていたら、先輩から「特に気をつけて洗うように。洗剤はこれを」と特製らしき自然素材の洗剤と、見るからに上等そうな器を手渡されました。もしや、と器を裏返してみると「BLUE」の文字が…!
ミュウの長でらっしゃるソルジャー・ブルー様には一度もお目にかかったことがございませんが、麗しいお姿は存じていますし、思い浮かべただけで胸がドキドキです。ああ、ソルジャー・ブルー様のお皿をこの手で洗えるなんて…なんて幸せなことでしょうか…。
と、ウットリ夢見る乙女になっていたのですけども。
先輩に「手がお留守になっている」と注意された上、「それは「そるじゃあ・ぶるぅ」のお皿よ。我侭だからとても気を遣うの」って爆笑されてしまいました。
マザー、頑張っていればソルジャー・ブルーのお皿を洗える時が来るのでしょうか?シャングリラの厨房はまだまだ奥が深そうです…。
シャングリラ新参者・その1
マザー、丸まってうとうとしている「そるじゃあ・ぶるぅ」に餌をあげようとしたら「太らせて食うつもりか?」と言われてしまいました。そんなぁ…。あんなに可愛く丸まって寝てる生き物を煮たり焼いたりできるはずないのに、どうして分かってくれないのでしょう。
あ。「丸まってる可愛い生き物」と、「煮る」。
マザー、一度『ぶるぅ鍋』を試してみてもいいですか?
シャングリラ新参者・その2
マザー、「そるじゃあ・ぶるぅ」が今日は餌を食べてない筈なのに「食べ過ぎてすまないと思っている」と言っています。やはり「最後に餌を食べた日」は建前のデータで、本当はランチにティータイムと外食三昧なのではないでしょうか。…ひそかに「ぶるぅミシュラン」とか作って発行していませんか?でなきゃ「ラーメン番付」とか。
シャングリラ新参者・その3
マザー…楽しい夢を見ている「そるじゃあ・ぶるぅ」を撫でてやったら「もうちょっと右」だと言われました。寝言だったのでしょうか?…でも起きている時に撫でても「もうちょっと右」とそっぽを向いてましたし、「もうちょっと右」に何があるのか気になります。
撫でてほしい場所が「もうちょっと右」…。肩こりで湿布でも貼っているのか、実は痒いのだけど「かいてくれ」と素直に言えないのか?彼の生態は本当に謎が一杯です、マザー!
「職業は一通りやってみてはどうか」と仰せなのですね。やはり成人検査で脱落すると適性診断はして頂けない運命ですか…。厨房が人手不足なら厨房に所属できるかも?
もしもシャングリラに「土鍋」があったら早速借りて『ぶるぅ鍋』をやってみたいと思います。「そるじゃあ・ぶるぅ」が土鍋に入って丸まって眠ってくれたら、きっととっても可愛いでしょうね!
成人検査脱落
マザー、成人検査に脱落してしまって申し訳ありません。それもこれも「憧れのブルー様のお世話をしたい」一心で…、げふげふげふ。
えっ、ブルー様、と聞こえましたか?とんでもございません、マザー!私は「そるじゃあ・ぶるぅ」の世話に日夜心を砕いております。一方的に心を砕かれまくっている気がしますが、「そるじゃあ・ぶるぅ」が噛むのはストレス発散のためと諦めることにいたしました…。
逃亡中
マザー、「そるじゃあ・ぶるぅ」が寝酒をたしなんでいたので遊ぼうとしたら「一緒にいたずらしよう」と誘われてしまいました。酒乱の気があるのでしょうか?メタボの次は酒癖が心配です。
ところで、マザー…。私、どこまで逃げればいいのでしょう。っていうか、ちゃんと処分されずに逃げ切れますか?
無事保護
マザー、寝起きが悪いという「そるじゃあ・ぶるぅ」を撫でたらそっぽを向かれ、遊んでやろうとしてもそっぽを向かれてしまいました。寝起きが悪いのだから仕方ないとは思うのですが、横っ面を張り飛ばせないのが残念です。キャプテンならやってくれそうだ、と期待するのは「苦労性のキャプテン」には酷でしょうか?
そして、わたくし、無事に保護されたようですけども。この先にどんな運命が待ち受けているのか不安です。新入りは「午前3時起床で食事は薄い御粥と漬物、一日3回の座禅とシャングリラ中の廊下の拭き掃除が必須」だったらどうしましょう…。
※こちらはアルト様の『ハレブル無料配布本』に掲載された作品です。
アルト様のサイトに『情熱の果実』は現在、掲載されておりません。
ところが、このお話に想を得たシャングリラ学園番外編が1話、生まれてしまい…。
テキストで頂いた『情熱の果実』が見つかったため、掲載させて頂きました。
アルト様の御好意に感謝いたします!
「廃棄してもよろしいでしょうか?」
医療室に呼び出されたハーレイは目の前に置かれた物をじっと見る。
「石と土に見えるが?」
「はい。他に葉や種子もあります」
見れば確かに土の塊ではなくて丸まった葉の塊で、小石ではなくて種子だ。
「廃棄するのは構わないが、何故私の許可が必要なのか分からない」
ハーレイの言葉にノルディは伝言を聞いていないのだろうか? と思ったが、それは口にせず、
「失礼致しました。こちらはソルジャーがお持ち帰りになったものです」
「ソルジャーが?」
「はい。正式には救出に外に出向いた際、ソルジャーの衣服、頭髪に付着していたものです」
「そうか。ではこれは検査済みなのだな」
「はい。危険な菌が検出されませんでしたので、このまま廃棄して問題ないと思われます」
そういう報告だということは、ノルディから伝言だと言ってきたブラウからは聞いていなかった。
二人の内どちらが省略したのかと考えればブラウである可能性の方が高い。
ハーレイは後で確認しなくてはと思いながら、
「ではそのように」
告げてブリッジに戻ろうとした。
「いや、ノルディ」
「はい」
「それは何の種子だろうか?」
種子が付着するような場所に行った話はブルーから聞いていない。と言う事はブルーはそれを秘密にしていたのだ。
場所に意味があるのか、植物に意味があるのか、ハーレイは気になった。
「さあ。そこまでの検査はしておりませんでした。調べてみましょうか?」
「育てても問題ないだろうか?」
「はい。ではヒルマン教授に……」
「私が」
「はい?」
「私が育ててみようと思う」
「――そうですか。では」
反対されるかと思えばあっさり容器に入れて種子を渡す。
それはハーレイの指先よりもとても小さいものだった。
「芽が出るだろうか?」
「どうでしょうか。しかし廃棄するものですから芽が出なくてもお困りになる必要はないかと思います」
「……そうだな」
容器の中の一粒の種子を見てハーレイは自分を納得させるように小さく頷いた。
「では」
ハーレイが退出したのを見届けると、ノルディがため息を吐き出した。
「お前が気に病む必要はない」
奥の部屋から出てきたのはブルーだった。
「……しかし」
「仕向けたのは僕だ」
「育てるのでしたらそれこそヒルマン教授にお願いする方が確実かと思いますが」
「うん。でもねハーレイが育てる事に意味があるんだ」
ブルーはクスリと笑う。
「あれが何の実なのか、ソルジャーはご存知なのですね」
「知ってる。でもノルディ、君の為を思って言っておく。あの実が何なのか調べてはいけないよ」
ブルーの微笑に背筋が冷たくなったような気がした。
「はい」
「協力ありがとう」
ノルディの返事を待たず、ブルーは瞬きする間にその場からかき消えてしまった。
種子を鉢に植えて数日で元気な芽が出た。
双葉が出て本葉が出て、世話をするハーレイはその成長を楽しみにしていた。
ブルーの秘密を育てている気持ちにすらなっていた。
花は艶やかに、秘密の香りがするのではないかと思う。
何色だろうか?
ブルーが気に入った花だろうか? そんなことを考えながら世話するのが楽しかった。
植物も愛情を込めれば美しい花が咲くとどこかの資料で見た気がする。美しい音楽も有用と知ってからは音楽を流すようにもしていた。
時折ブルーがハーレイの部屋を尋ねてくるが、ブルーは鉢に気づきもしない。
尋ねられてもなんだか返答に困ると思っていたハーレイには好都合だった。
そして一ヶ月。
部屋の奥に置かれた鉢。
それは今やハーレイが持ち上げるのも一苦労というほどの大きさになっていた。
よく見れば小さな蕾がいくつか付いている。
もし花が咲くようならば、その時ブルーに見せようと思っていたハーレイはひっそりと笑みを浮かべた。
毎日元気に育てよと声をかけてきた。
綺麗な花を咲かせるか?
それとも美味しい実をつけるか?
そんな事も語りかけてていた。
小さいながらも青々とした葉をつけた樹は訪れたブルーの目を引き、
「それは?」
問いかけにハーレイは経緯を話した。
と、ブルーは、
「これが実をつけたら僕のものだね」
「は?」
「僕が持って帰ってきた種だろう?」
「……いや」
「違うっていうのか?」
「いや待て」
ハーレイは気がついた。
ブルーは草花を育てることにあまり興味がない自分が育てていることに驚いていない。
驚いていない。
からかいもしない。
(……ということは)
「これはもしかして計略か?」
「人聞きの悪い……」
「計画的だな?」
「僕が育ててと言ってもお前は育てないだろう?」
「それは……」
植物を育てるということに興味があまりないハーレイは、ブルーが育ててくれと言えば枯らさないことを優先させ、種をそのままヒルマンに渡していたろう。
多忙や難しいということを理由にして。
「……しかし何の為に」
「僕が持ち帰った種子で、何か分からないという事をエサにしたんだ。お前は食いついた」
「…………」
「そしてお前が育てた」
「それにどんな意味が?」
「実がなれば分かる」
「しかし……部屋で育てるにはそろそろ限界が……」
「大丈夫。これ以上大きくならない」
「何の実か、分かっているのだな」
「もちろん」
ブルーは静かに笑みを浮かべ、
「お前に育てて欲しかったんだ」
「…………」
意味が分からないと言った風にハーレイは頭を振り、大きな大きなため息を吐き出す。
「知らずにお前が育てることに意味があったんだ」
「だがもう知ってしまった。終わりだろう?」
「うん。でももう大丈夫。そろそろ知りたいだろうしね」
ブルーはハーレイの心臓が壊れそうなほどの艶やかな笑みを見せ、
「実をならせて。僕のために」
ここまで育ててきたのだ、そんなことを言われなくても世話をする。
だがこの種子の一体何が特別なのかと思わざるを得なかった。
「検索しても出てこないよ」
「…………」
「特別だからね」
「どう特別なんだ?」
「知りたい?」
「当然だろう?」
「研究所が作り出した新種」
「研究所?」
「サイオン研究所。この植物はサイオンを吸収する」
「――――?」
「育てる者のサイオンを吸収するんだ」
「ブルー!」
怒声に近いかと思えば、ハーレイの表情は羞恥に赤く染まっていた。
「僕を思って育ててくれた植物がどんな実になるか、とても楽しみなんだよ、ハーレイ」
しばらくして、恋人たちの間で「情熱の果実の樹」として密かなブームになったことは言うまでもない。
情熱の果実・了
※このお話から生まれたシャングリラ学園番外編は、こちら→『情熱の木の実』