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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

校内見学・第2話

校内見学の次の行き先は食堂です。さすがプラネタリウムもあるシャングリラ学園、学食といえども広くて居心地がよさそうでした。私たちは8人用のテーブルに座り、壁に張り出してあるメニューとテーブルに備え付けのメニューを眺めましたが、ジョミー君がこだわる『クレープ冷麺』はありません。やっぱり冗談なんでしょうか?
「いらっしゃい。新入生さんね。テーブルは休み時間にはいつでも座っててくれて構わないけど、セルフサービスだから注文は取りに来ないわよ」
ママくらいの年に見える女性がそう言いながらも親切に水が入ったコップを7つ持ってきてくれました。
「ちょうどよかった。質問してもいいだろうか?…ジョミー、食券を貸してくれ」
素早く口を開いたのはキース君です。
「昨日、こんなものを貰ったそうだ。だが、メニューには無いようだな」
「え?…あら、本当に食券ね。ちょっと見せて」
女性はキース君が差し出した食券を受け取り、そこに書かれた文字を見ると悪戯っぽい笑みを浮かべて…。
「これは新入生歓迎用の隠しメニューよ。一食限定なんだけれども注文してみる?…お連れの人はクレープと冷麺、どっちかを無料で食べられるの」
「ふぅん…一食限定なんだ。じゃ、ぼくが頼めば他のみんなもクレープか冷麺をタダで食べられるわけなんだね?」
ジョミー君、既に頼む気満々のようです。
「ええ、そうよ。そしてあなたにはクレープ冷麺。ついでにセルフサービスじゃなくてテーブルまでのお届けになるわ」
「よ~し!じゃあ、ぼくは頼んでみるけど、みんなはどうする?クレープか冷麺ならタダで持ってきてくれるんだってさ」
無料サービス。これはまさしく魔法の言葉。私たちは全員、頷きました。せっかく無料で食べられるチャンスをフイにするのは愚の骨頂です。男の子は冷麺、私とスウェナちゃんがクレープに決めて注文が纏まると…。
「クレープ冷麺、入りまぁ~す!!」
女性は楽しそうな顔で食券を受け取り、厨房へ向かっていったのでした。

「隠しメニューだってさ。ぼくって、かなりラッキーかも」
ウキウキしているジョミー君。私たちもタダで食事ができるとあってワクワクするのを隠せません。そこへ…。
「かみお~ん♪…クレープ冷麺を頼んだの、誰?」
厨房の方から現れたのは割烹着を着込んで「おたま」を持った「そるじゃぁ・ぶるぅ」だったのです。
「え?ええぇっ!?…ぼ…ぼくだけど…」
「そっか。すぐ出来るから待っててね~♪」
クルリと背を向けて「そるじゃぁ・ぶるぅ」は厨房に消えていきました。も、もしかして『クレープ冷麺』を作るのは…?
「…昨日のクッキー、手作りだって言ってましたね…」
マツカ君が厨房の方を見ています。
「ああ。美味いクッキーだったが、あいつ、料理が趣味なのか?」
「どうでしょう。人は見かけによらないって言いますし」
キース君とシロエ君の言葉に私たちはコソコソと頭を寄せ合って不安と期待の入り混じった『クレープ冷麺』談義を始めました。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が作るんだとしたら、果たしてそれは美味なのでしょうか?悪戯好きだと聞いたような気が…。

「クレープ冷麺、お待たせ~!他の注文も出来てるよ。食堂で腕をふるうの、久しぶりで楽しかったぁ♪」
トコトコトコ。得意そうな顔の「そるじゃぁ・ぶるぅ」がお盆を持ってやって来ました。後ろには食堂係の人たちが私たちの分の料理を持ってついて来ています。
「はい、どうぞ。ぼく、クレープも冷麺も大好きなんだ」
ドンッ!とジョミー君の前に置かれたのはガラスの冷麺鉢でした。鉢一杯の冷麺の上に乗っかっているのはハムや卵やキュウリではなくて…イチゴと生クリームがたっぷり飾られたお菓子のクレープだったのです。そして冷麺はどう見ても普通の冷麺で…。
「な、なんだよ、これ!?」
「ぼくの好物をミックスした特製メニューだよ。…試食は一度もしていないけど、多分…きっと美味しいんじゃないかな♪」
そう言って「そるじゃぁ・ぶるぅ」は割烹着を着たまま、1つだけ空いていた席にちょこんと座ってしまいました。
「えっとね、他のみんなの冷麺とクレープもぼくが頑張って作ったんだ。どっちも凄く美味しいって、さっきブルーが味見してった。ね、食べて、食べて!ぼく、お料理が趣味なんだ~」
ニコニコニコ。無邪気に笑う「そるじゃぁ・ぶるぅ」は手料理の評判を楽しみにしているようでした。確かに苺クレープはとっても綺麗で美味しそうですし、冷麺もゴマ油のいい匂いがしています。でも…。

「…サム…。それって普通の冷麺?ちょっと食べてみてよ」
ジョミー君の言葉にサム君が勢いよく備え付けの割り箸を割り、ズズッと冷麺を啜ってみて…。
「うん、美味い!美味いよ、ジョミー!」
「そうですね。すごく美味しいです」
「素人料理とは思えないな」
「プロ並みかも…」
サム君、マツカ君、キース君、そしてシロエ君。冷麺を食べたみんなは揃って「そるじゃぁ・ぶるぅ」を褒め始めました。私とスウェナちゃんの苺クレープも絶品です。と、いうことは…。
「…冷麺に苺クレープを乗っけただけ?」
「うん!」
ひきつった顔のジョミー君の問いに「そるじゃぁ・ぶるぅ」が元気よく答えました。
「ぼくの自信作、食べてくれるよね?…食べてくれないんなら…押しちゃうよ、手形」
突き出されたのは恐怖の左手でしたが、ジョミー君は負けていませんでした。
「その手形。ダメっていうだけの印だろ?…旅行券は無効になったけど、グレイブ先生は今もピンピンしてるじゃないか」
「グレイブはもう馴れてるもん。これを押された人は消えるまで災難続きになっちゃうんだ。こないだのグレイブは…学校でも色々あったけど、帰りに犬の糞を踏んで滑ってドブに落ちたよ。で、家でシャワーを浴びようとしたらそのシャワーが壊れてて…」
「…わかったよ…。そんな目に遭いたくなければ食べるしかないってことなんだ?」
「そう。あ、食べ方を教えるの忘れてた。クレープと冷麺をよく混ぜてから食べてね、ビビンバみたいに♪」
ジョミー君はウッと息を詰まらせ、クレープ冷麺の鉢を睨み付けていましたが。
「くっそ~!意地でも完食してやる!!」
好奇心は猫を殺す。謎の食券にこだわったばかりにゲテモノを食べる羽目になったジョミー君を見ないようにしながら、私たちは美味しい冷麺やクレープに集中しました。

恐怖の隠しメニュー、『クレープ冷麺』。かき混ぜられてグチャグチャになったクレープと冷麺を凄い勢いで食べたジョミー君は、やおら冷麺鉢を持ち上げ、汁をズズーッと飲んでいます。とても不味いと思うんですけど、根性ですね。あと少しで飲み終わる、というその時です。
「やっぱりイヤだーーーっっっ!!!」
身体が青く発光したように見えたのは気のせいでしょうか?ジョミー君は冷麺鉢を持ったまま立ち上がって「そるじゃぁ・ぶるぅ」の席に駆け寄り、ガシッと左手で押さえつけると…。
「お前も飲めーーーっっっ!!!」
びっくりしてポカンと開いた「そるじゃぁ・ぶるぅ」の口にクレープ冷麺の残り汁を一気に流し込み、サッとキース君の後ろに隠れました。逆襲されたら投げ飛ばしてもらうつもりかも。しかし…。
「おえぇぇぇぇ!!!」
胃袋がひっくり返ったような悲鳴と共に「そるじゃぁ・ぶるぅ」はボワンと消え失せ、それっきり戻ってきませんでした。とりあえず食堂に平和が戻ったみたいです。
「うぇぇ…。酷い目にあっちゃった。ウガイしてくる」
そう言ったジョミー君は洗面所に直行しましたけれど、帰ってきた途端「口直しに」と激辛カレーライスを注文。そしてパクパクと食べる姿に私たちは溜息をつき、心配して損した……とテーブルに突っ伏したのでした。


   ※クレープ冷麺は私の大学の学食に実在したメニューです。
   話の種に食べておけばよかったかな、と後悔してます…。



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