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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

カテゴリー「シャングリラ学園・番外編」の記事一覧

※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
 バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。

 シャングリラ学園番外編は 「毎月第3月曜更新」 です。
 第1月曜に「おまけ更新」をして2回更新の時は、前月に予告いたします。
 お話の後の御挨拶などをチェックなさって下さいませv






シャングリラ学園には今日も平和な時間がゆったり流れていました。学園祭の準備なんかも始まりつつある秋ですけれど、「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋を公開するのが恒例になった私たちには慌ただしさなど無関係。ぶっつけ本番でも行けるというのが自慢です。
「今年も喫茶で決まりだよね?」
ジョミー君の問いに会長さんが頷いて。
「売り物はそこじゃないからねえ…。サイオニック・ドリームが売りだし、喫茶店とまで凝らなくっても缶ジュースだって無問題だよ」
「おい、ぼったくりな観光地価格は感心せんぞ」
キース君が突っ込みましたが、会長さんは。
「あれは最初にやった年からの伝統なんだよ? 遠隔地への旅を売りにするなら観光地価格はお約束さ。それが嫌なら仮装系だね、これなら均一価格でいける」
「まあな。あれはあれで人気が高いようだし、今年もアンケートで決める事にするか?」
仮装系とはサイオニック・ドリームを初めて売り出した年の後夜祭から派生したもの。サイオニック・ドリームで好みの衣装を体験出来るというヤツです。椅子に座って飲み物やカップ麺を食べる間だけしか着られない上、写真撮影も不可能なのに大人気で…。
「アンケートで行くか、儲け重視で世界の旅か。…今年はどっちにしようかなあ…」
急ぐわけではないからね、と会長さんが大きく伸びをした時です。ユラリと部屋の空間が揺れて、紫のマントが翻り。
「こんにちは。今日も暇そうにしているねえ」
お邪魔するよ、と現れたのはソルジャーでした。勝手知ったる様子で空いた席に腰掛け、「そるじゃぁ・ぶるぅ」に紅茶を注文しています。
「美味しそうだね、栗のミルフィーユ! やっぱり、おやつはこうでなくっちゃ」
「…要するに食べに来たってわけだね?」
またか、と顔を顰める会長さんに、ソルジャーは早速ミルフィーユにフォークを入れながら。
「だってさ、食べたくなるじゃないか。それともアレかい、別の用事の方が良かった? 君が嫌いな猥談とかさ」
「退場!」
会長さんがレッドカードを突き付けましたが、ソルジャーの方は余裕の笑み。



「まだ何も話していないんだけど? それに生憎と猥談のネタも無くってねえ…。ほら、ぼくとハーレイは円満だから特に刺激も求めていないし」
「その先、禁止!」
「だから無いんだってば、持ちネタが。…どうしてもって言うんだったら昨夜の話をしてもいいけど、ホントにいつものコースだよ? それでも幸せなんだけどね」
刺激が無くてもそれが幸せ、とソルジャーは惚気モードに入っています。かつてのドタバタっぷりが嘘だったかのように、結婚してからのソルジャーとキャプテンは絵に描いたようなバカップル。二人が揃うと御馳走様としか言いようのない光景になるのはお約束で。
「してみるものだね、結婚ってさ。…あのハーレイが日々、頑張ってくれるんだ。一生満足させてみせます、って誓った言葉はダテじゃなかった。だから君にもお勧めしたいな、結婚を」
「誰と!?」
「決まってるじゃないか、ハーレイだよ」
「お断りだってば!」
絶対嫌だ、と嫌悪感も露わな会長さん。これもよくあるパターンでした。ソルジャーは自分が幸せなだけに、会長さんも教頭先生と結婚すれば幸せになれると煽るのです。もう何度目の勧誘なんだか、と私たちは横目で見ながら紅茶やコーヒーを啜っていたのですけど。
「…うーん…。ハーレイの何処がダメなんだろうねえ、サムは大事にしているくせに」
「「「は?」」」
思わぬ言葉にサム君を含めた全員が『?』マークを浮かべる中で、ソルジャーは。
「サムだよ、ブルーの愛弟子にして公認カップル! ハーレイとの差は何なんだろう?」
顔が好みとか、性格とか…、と不思議そうに首を傾げるソルジャー。そう、会長さんとサム君は今も公認カップルなのです。朝のお勤めをデート代わりに付き合い続けて長いですよね…。



公認カップルが誕生したのは私たちが特別生になった年の春。ソルジャーと出会う前のことです。けれどソルジャーは公認カップル誕生に至るまでの事情をしっかりすっかり把握していて。
「…半ばブルーの冗談にせよ、公認カップルを名乗っていられる所がね…。サムがブルーに気に入られた理由は何処にあるのかなぁ? 頼りがいならハーレイの方が断然、上だと思うんだけど」
「頼りがいだって? ハーレイの何処が!」
あんな妄想爆発男、と会長さんはバッサリ切り捨てましたが、ソルジャーは。
「えっ、頼りがいはあるだろう? ノルディとは比較にならないけれど、ちゃんと大人で稼いでる。今までに君に貢いだ金額、サムには工面出来ないよね。…そうだろ、サム?」
「えーっと…。俺の全財産をはたいたとしても……多分、食事が一回くらいじゃねえのかな」
みんなで打ち上げに出掛ける時の、とサム君は真面目に答えています。ソルジャーは満足そうに頷き、微笑んで。
「ほらね、ハーレイの方が甲斐性がある。それとも財力と言い換えようか? 君を養う力があるのはハーレイの方だ。なのにどうしてサムが優遇されるわけ?」
「養う以前に何も想定してないからだよ!」
結婚だとか婚約だとか、と返したのは会長さんでした。
「サムは単純にぼくが好きだってだけで、ただそれだけ。結婚なんか夢見ちゃいないし、その先のことは更に夢見ていないわけ。…そもそも夢見ることもないしね」
「ああ、そうか。万年十八歳未満お断りってヤツだったっけ…。結婚生活がどうこう以前にサムには想像もつかない世界なわけだ。もしかして、そこがポイント高かったりする?」
「…まあね。害が無いのはいいことだよ」
安心してお付き合い出来るから、と会長さんがサム君を見詰めればサム君は頬を赤らめています。私たちの前では公認カップルの話題は滅多に出て来ませんから、照れるサム君を見るのは久しぶりかも…。



「なるほど、君の好みは草食系ってヤツなんだ? この言葉もとっくに死語みたいだけど…。要するにガッつく男は駄目、と。…でもさ、それだと永遠に結婚できないよ?」
寂しい独身人生だ、と溜息をつくソルジャーに会長さんは。
「前から何度も言ってるだろう! 結婚するならフィシスとするさ。だけど女神は結婚なんて俗なことには向いてないんだ。生活感が漂う女神はアウト! 今のまんまが最高なんだよ」
「そりゃあ君にはぶるぅもいるし、寂しくはないのかもしれないけれど…。ぼくのお勧めは結婚なのに、する気が無いのは悲しいねえ…。おまけにハーレイは選択肢にも入っていないだなんて」
守られてる感じがいいんだけどな、と零すソルジャー。
「結婚相手がフィシスだったら、守るのは君の方だろう? そうじゃなくって守られる生活! 自分の方が力は上でも、こう……守ってやりたい、守りたい、って思ってくれる人と暮らすというのは癒されるんだ」
「君の好みを押し付けないで欲しいね、ぼくはこれでも高僧だよ? 他人に癒しを求めるようでは僧侶失格と言うべきか…。とにかくハーレイは必要無いのさ、財布以外の意味ではね。あ、それと楽しく遊べるオモチャと」
その二つがあれば充分だ、と会長さんはキッパリと。教頭先生が会長さんの財布とオモチャに過ぎないことは分かってましたが、改めて口にされると気の毒な感じがググンとアップ。ソルジャーもフウと吐息をついて。
「…財布とオモチャねえ…。同じオモチャでも夜のオモチャならマシだったのに」
「退場!!」
レッドカードを持ち出す会長さんにソルジャーは肩を竦めながら。
「分かってるってば、君にはそっちの趣味が全く無いっていうのはさ。…だけどサムとはどうだろう? 少しは進展させてみようとか、そういう発想も出てこないわけ?」
「進展って…何さ?」
「ん? 朝のお勤めがデート代わりだって聞いているから、その辺をもっと普通の方向に修正するとか! デートもけっこう楽しいものだよ」
この間も夜景を見に来てたんだ、とソルジャーが語り始めたのはキャプテンとのデートの話でした。エロドクターから貰ったお金で私たちの世界のホテルで食事し、夜景が綺麗な展望台で二人で過ごしていたそうで…。
「他にもカップルが何組か居たね。…いきなり夜景はハードル高いし、とりあえず二人で公園とかから始めてみたら? 朝のお勤めがデートじゃねえ…」
夢もロマンも無いじゃないか、と言われてみればその通りかも。サム君が喜んで通ってますから朝のデートだと思ってましたが、普通のデートじゃないですよねえ?



朝のお勤めはデートではない、と異を唱えたソルジャーは公認カップルの仲をググッと進展させる気満々。曰く、進展させても結婚生活に繋がらない以上、実害は無いのでオッケーだとか。
「でもってサムとの仲が少しずつ進展していったらさ、ブルーも物足りなさを感じてくるかも…。ここでサヨナラじゃ名残惜しいと思っていたって、サムだとホテルに誘ってくれない! そこでハーレイの出番になるわけ」
「なんでハーレイ!?」
会長さんの悲鳴にソルジャーはニッコリ笑ってみせて。
「そりゃあ…。寂しくなった君を広い心でドッシリ受け止め、慰める役にはピッタリだろう? そういうことを繰り返す内に、君の心もハーレイの方に傾いていくと思うんだよね。そしていずれは結婚、と」
「無理すぎるってば!」
有り得ないし、と会長さんはテーブルを叩いて抗議しましたが、ソルジャーの方は馬耳東風。
「うん、我ながら素敵な案だという気がしてきた。ブルーも認めるサムとの仲を後押ししてれば、今の歪んだ構図が解消! いくらこっちのハーレイがヘタレだとしても、ブルーと結婚してしまったら努力を惜しまないのは間違いないよ」
ぼくのハーレイもそうだったし、とソルジャーは懐かしそうな顔。
「何度も家出して、夜の生活に効きそうな薬を色々飲ませて…。それでもヘタレが直らなかったのに、結婚してみたらヘタレるどころか正反対! きっと、こっちのハーレイだって似たようなものだと思うんだ。結婚生活には向かないサムを踏み台にしてさ、ハーレイとの結婚に踏み切ってみれば?」
「ちょ、そんな…! そもそも無茶だし、第一、サムの気持ちはどうなるのさ!」
踏み台だなんて、と会長さんが反対する隣でサム君が。
「…俺は踏み台でも構わねえかな…」
「「「えっ?」」」
あまりにも自虐的すぎるだろう、と誰もが耳を疑ったのに、サム君は人の好い笑みを浮かべると。



「俺さ、ブルーが幸せそうに笑ってるのを見るのが好きなんだ。隣にいるのが俺じゃなくても気にならないし、教頭先生と結婚するならそれでもいいって思えるもんな」
「おい、サム、落ち着け!」
話をちゃんと聞いていたか、と割って入ったのはキース君。
「お前は踏み台にされるんだぞ? おまけにブルーは教頭先生と結婚する気は全く無いんだし、踏み台以前の問題として振り回されるだけだと思うが」
「んー…。朝のお勤めでも構わねえんだけど、普通のデートってヤツもいいかもなぁ…って。でも、ブルーがその気になってくれなきゃダメなんだけどな」
元からダメに決まってるよな、とサム君は頭を掻いています。
「ごめん、ブルー。今までどおりに朝のお勤めで行くのがいいよな、ブルーだってさ。俺もその方が気楽でいいし…。デートなんてコースも分からねえから」
「確かにサムには似合わないよね」
身も蓋も無いことを言ってのけたのはジョミー君でした。
「ブルーはデートのエキスパートだし、そのブルーをデートに連れ出すなんてさ、きっと大恥かくだけだって! 教頭先生の方がずっとデートに向いてる筈だよ」
「そうですよね、データ集めにも励んでおられるでしょうし」
財力だってありますよ、とシロエ君が相槌を打てば、マツカ君も。
「サムには気の毒ですけれど…。ぼくも教頭先生の方がデート向きだと思います」
「うへえ…。みんな正直に言ってくれるよなあ…」
でも本当のことだよな、とサム君が苦笑し、笑い転げる私たち。サム君は踏み台になれるほどの器ではなく、それだけの欲も無さそうです。言い出しっぺのソルジャーは名案だと決めてかかってましたけれども、この話、見事にお流れですよ~。



会長さんと公認カップルを名乗るサム君を踏み台にして、教頭先生との仲を発展させようというのがソルジャーの案。ところが肝心のサム君は会長さんも認める無害さもあって、踏み台になる前に退場しようとしています。会長さんはサム君にウインクすると。
「ありがとう、サム。やっぱりサムは優しいね。…その気遣いがハーレイにもあれば、結婚云々って話はともかく、毟ったりとかオモチャにしたりとかはしなかったかも…」
「え? 俺は別に教頭先生と張り合うつもりは…。甲斐性もねえし」
踏み台にだってなれねえもんな、とサム君が照れ笑いした所へ。
「だったら、下僕なコースで踏み台!!」
響き渡ったのはソルジャーの声。
「「「下僕?」」」
なんですか、下僕なコースというのは? サム君も会長さんもキョトンとしてますし、私たちだって話が全く見えません。いったい何処から下僕なんて言葉が出るんでしょう? けれどソルジャーは得意げな顔で。
「下僕と言ったら下僕コースさ、甲斐性なしが通る道! サムには財力も無ければブルーをデートに引っ張っていくだけの甲斐性とかも無いんだろう? それって似てるよ、誰かにね」
「「「…誰に?」」」
「ぼくのハーレイ!」
ソルジャーは悪びれもせずに言い放ちました。
「結婚する前のハーレイがどんな風だったか覚えてる? ぼくに家出をされては土下座で、ヘタレと詰られては土下座三昧。でもって全てはぼくの言いなり、あれが下僕で無ければ何だと?」
「うーん、確かに…」
君の扱い方は酷かったよね、と会長さんが遠い目をしています。かつてのソルジャーは会長さんが教頭先生を酷い目に遭わせるのに負けず劣らず、キャプテンに無茶な要求をしては困らせまくって、我儘と文句の言い放題で…。



「思い出してくれた? 甲斐性が無ければ下僕でカバー! サムもひたすらブルーの言いなり、一所懸命にお世話してればブルーとの仲が進展するかもしれないよ」
「サムが下僕ねえ…」
何かが違うと思うけど、と会長さんは呟きましたが、ソルジャーの方は譲りません。デートで進展が望めないなら下僕あるのみという方針で…。
「騙されたと思って下僕コースでどうかな、サム? 踏み台になるのはいいんだろう?」
「そりゃそうだけど…。ブルーに迷惑は掛けられねえし…」
「下僕は迷惑を掛けないよ? ブルーに従うだけなんだからさ」
ここは男らしく頑張りたまえ、と主張し続けているソルジャー。とはいえ、いくら下僕なコースといえども、会長さんの方にその気が無ければ無理な注文というヤツです。下僕コースもお流れになるに決まってる、と私たちは思ったのですが…。
「仕方ない、下僕コースで行こう」
「「「えっ!?」」」
会長さんが出した答えに目が点になる私たち。…下僕コースと言ったんですか、会長さん? まさかサム君を自分の下僕に…?
「このままブルーを放っておいたら何を言い出すか分からない。ぼくとハーレイをくっつけようと実力行使に出られる前に、自主的に…ね。要はサムとの仲が進展するかどうかだろう? そうだよね、ブルー?」
「う、うん…。まあ、そうだけど?」
「だったら下僕コースをお試し期間で一週間! それで全く進展ゼロなら君の企画は白紙撤回ってことにしないかい? もちろん進展しちゃった場合は自然に任せるということで」
「いいね、それ。で、サムの意見は?」
ソルジャーに尋ねられたサム君は迷いもせずに。
「下僕コースで構わねえぜ。ブルーに従うだけだもんな」
楽しそうだ、と明るく笑うサム君を誰も引き止めはしませんでした。下僕コースの内容までは分かりませんけど、ソルジャーが一歩も譲らない今、下手に口出しして縺れるよりかは犠牲者一名の方がマシですもんねえ…。



公認カップルの仲を進展させるという企画を押し通したソルジャーは、栗のミルフィーユの残りをお土産に貰って自分の世界に帰りました。さて、これからが大変です。ソルジャーの得意な技は覗き見。会長さんが下僕コースを実行するかどうか、監視するのは確実で…。
「あんた、これからどうする気なんだ!」
下僕コースなんて、とキース君が怒鳴ると会長さんは。
「ああ、大体は決めてるよ。…サムは今日から住み込みだ」
「「「住み込み?」」」
「そう、泊まり込みとは意味合いが違う。ぼくの家に同居しながら家事一切をして貰おうかな」
「「「えぇぇっ!?」」」
それはあまりに酷すぎないか、と私たちが息を飲めば「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「かみお~ん♪ ぼくもお手伝いするから大丈夫だよね!」
「ダメだよ、ぶるぅ」
監督するのとチェックだけ、と会長さんが鋭く注意。
「ぶるぅも見たことあるだろう? 璃慕恩院の偉いお坊さんたちのお弟子さんは何をしてたっけ?」
「んーと、んーとね…。お部屋の掃除とお世話係?」
「よくできました。それも修行になってるんだよ、サムには同じ事をやらせるわけさ。だから修行の邪魔をしちゃダメだ」
「「「修行?」」」
下僕コースは修行でしたか! それなら住み込みも当然です。朝のお勤めコースが思い切りバージョンアップしちゃったわけで、一気にお泊まりなんですけども…。
「ぼくの家で一緒に暮らすわけだし、おまけに下僕だ。ブルーに文句は言わせない。サムの修行にも役立つコースで一石二鳥というものだろう? どうかな、サム?」
「お、おう! 一週間くらいの我慢が出来なきゃ本物の修行って出来ねえよな?」
「それはもう。住職の資格を貰うどころか、その前の段階で挫折だろうね。そういう話はキースが詳しい。どう思う、キース?」
話を振られたキース君は。
「一週間の侍者体験か…。修行より遙かにマシだろうな。師僧と一緒に暮らすわけだし、住環境も食生活も修行僧とは比較にならん。修行中の生活ってヤツは粗末な部屋と粗食が大前提だ」
「そうなんだよね。つまりサムは恵まれた環境で修行が出来るわけ。まずは早速、今夜の夕食作りからお願いするよ」
その前に一度家に帰って住み込み用の荷物をね…、と会長さんは笑っています。必要最低限の衣服と持ち物、それがサム君に許された荷物。いきなり始まる修行ライフにはサム君の御両親もビックリでしょうが、住み込む先はソルジャーの家。それに会長さんはサム君の師僧でもありますし…。
「下僕コースって、修行だったんだ…」
ぼくにはとても耐えられないけど、とジョミー君が呆れる横でサム君は鼻歌交じりに荷物リストを作成中。今日から一週間も公認カップルな会長さんと同居ですから、そりゃ鼻歌も出ますってば…。



会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」に連れられて住み込みな下僕コースに飛び込んで行った勇者、サム君。どうなったやら、と翌朝こわごわ登校してみれば顔色も良くて御機嫌で。
「おう、おはよう! なんだよ、俺の顔に何かついてるか?」
「い、いや…。今朝は何時に起きたんだ?」
キース君の質問にサム君は威勢よく。
「三時半! ブルーがさ、璃慕恩院の一番偉いお坊さんの弟子はそのくらいの時間に起きるモンだって言うからさ…。でもって四時に阿弥陀様にお茶とかをお供えしてからブルーを起こして」
役得、役得…と嬉しそうなサム君は会長さんの寝顔を見られて幸せ一杯らしいです。おまけに着替えも手伝ったのだそうで、教頭先生が耳にしたなら涎が出そうな役どころ。あまつさえ…。
「「「お風呂!?」」」
放課後、「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に出掛けた私たちを待っていたのは会長さんの衝撃的な発言でした。
「そうだよ、弟子の仕事は着替えの手伝いだけじゃない。お風呂で師僧の背中を流すのも大事な修行の一つでねえ…。ついでだからシャンプーとリンスもお願いしちゃった」
髪の毛のある坊主の特権、と銀色の髪に指を絡める会長さんの隣でサム君が真っ赤になっています。住み込みの修行なんて機会でも無ければ、会長さんの背中はともかく髪の毛は洗えないでしょう。朝から役得、役得と上機嫌だった理由が分かりました。下僕コースは美味しすぎです。
「でね、朝御飯もぶるぅの指導で美味しいオムレツを作ってくれたし、サムはとっても使えるよ。昨日の夕食も頑張ってたさ。…シチュー鍋の底が少し焦げたけど」
「かみお~ん♪ お掃除も一生懸命だったよ! 学校へ来る前に綺麗にお掃除したもんね♪」
「掃除機を使わせて貰えたしなあ…」
ホントは和室は箒だってな、と言うサム君は一日にして下僕コースに馴染んでいました。今夜は会長さんの肩や腰を揉んだりするのだとかで、もう見るからに心浮き立つといった風情です。ソルジャー御推奨の下僕コースはサム君にとっては旨味たっぷり、特典たっぷり。
「ふふ、サムでないとこうはいかないね。住み込みの弟子がジョミーだったら文句たらたらで使えないだろうし、キースだったら使えはしても面白みが無い」
「あんた、そういう基準で弟子とか侍者を選ぶのか!?」
噛み付いたキース君に、会長さんは。
「まさか。ただ、今回はブルーが色々とうるさかったし、実験的にやってみただけ。…ところが、これがなかなか癖になる。ぶるぅも一緒に自分の家で上げ膳据え膳、下へも置かぬおもてなしっていうのは気分がいいよね」
期間延長もいいかもしれない、と会長さんが差し出したカップにサム君が恭しく紅茶のお代わりを注いで砂糖を入れて…。御馳走様です、と言いたい気分を私たちはグッと飲み込みました。会長さんとサム君の仲が進展するとは思えませんけど、仲がいいことは疑いようのない事実です…。



下僕なサム君と会長さんの同居生活は順調に続き、ソルジャーとの約束の期限の一週間目を迎える頃には見事な師弟関係が。会長さんはサム君をこのまま住み込ませたいという意向でしたが、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が寂しそうに。
「えーと、えっとね…。サムがいるのは楽しいんだけど、ぼくのお仕事、なくなっちゃったの…。お洗濯もアイロンかけもサムがしちゃうし、このお部屋でしか何もお料理出来ないの!」
つまんないよう、と嘆く「そるじゃぁ・ぶるぅ」は家事万能なだけあって家事が趣味です。会長さんの広い家を隈なく掃除し、美味しい料理やお菓子なんかを作りまくるのが生甲斐で…。
「そこなんだよね…。ぶるぅがそろそろ限界なんだ。だからと言ってサムを家事から解放したら弟子入りという意味が無くなる。ちょっと困った状況なんだよ」
どうしようかな…、と会長さんが腕組みをして考え込んでいた時です。
「だったら、そのまま同居しちゃえば?」
「「「!!!」」」
前触れもなく出現したソルジャーがソファにストンと腰を下ろして。
「サムとの仲は同居を続けたいと思う程度に進展したってわけだろう? この先どうなるか分からないけど、一緒に暮らして家事だけ抜きで下僕コースを続けていれば更に進展する…かもしれない。シャンプーとリンスは王道なんだよ」
「「「は?」」」
「だからバスタイムの王道だってば、よくハーレイに洗わせてるんだ。気持ちよく洗って貰っている内に気分が乗ってさ、バスタブの中で第二ラウンド突入ってことも多いよね」
「ちょ、ちょっと…」
止めに入った会長さんをサラッと無視したソルジャーは。



「ブルーもその内にそういう気分になるんじゃないかな? シャンプーとリンスだけでは物足りないって感じるようになってきたなら大成功! 物足りなさを埋められるのはサムじゃなくってハーレイだしねえ」
「そっちの趣味は無いってば!」
「少しずつ目覚めてくると思うよ、ぼくとそっくりなんだから。…サム、今の調子で頑張りたまえ。いずれ最高に幸せそうなブルーの笑顔が見られるさ。ハーレイの所へ嫁ぐ時にね」
「お断りだよ!」
どうしてそういうことになるのだ、と会長さんはテーブルに拳を叩き付けましたが、ソルジャーは我関せずといった風で。
「いやもう、こういう事っていうのはデリケートでねえ…。ある日突然、恋に目覚めることもある。それに身体は正直なんだよ、サムのシャンプーが気持ちいいなら素質は充分あると思うな。…大丈夫だってば、君の場合は目覚めちゃってもハーレイがいるし」
振り向いてくれない相手だったら最悪だけど、と続けるソルジャーに会長さんの地を這うような声が。
「誰が素質があるんだって? シャンプーが気持ちいいのは普通のことだと思うんだけど?」
美容院でも気分がいいし、と会長さんは柳眉を吊り上げて。
「せっかく人が気持ちよく弟子を住まわせていれば、横から出てきてゴチャゴチャと…。君が言い出した下僕コースは一週間! 進展ゼロなら今回の企画は無かった事になる筈だよね?」
「進展ゼロじゃないだろう! サムと一緒に住みたい気持ちは、その方面に芽が出た証拠で!」
「それを言いがかりと言うんだよ! 見込みのある弟子を手元に置いて育てたくなるのは自然な感情! 現にぼくだって璃慕恩院に初めて入門を願い出た時、ぜひ老師の弟子にって言われたんだ!」
「そうだったんだ? じゃあ、もしかして、その老師とかいう人と…」
一緒にお風呂とかそれ以上とか、と興味津々で問いかけたソルジャーの顔面にヒットしたものは…。



「退場!!!」
よくも老師を侮辱したな、とレッドカードをソルジャーに叩き付けた会長さんは青いサイオンを背負っていました。これは本気で怒っています。
「老師こそ無縁でいらっしゃるんだよ、そういう下世話な世界とは! だけど君には言うだけ無駄だし、理解するとも思えない。…老師の名誉とぼくの平穏な日々のためにも、サムの住み込みは今日で終わりだ。残念だけれど潮時ってヤツ。…分かったね、サム?」
「はい。…一週間、御指導ありがとうございました!」
ソファから立ち上がり、絨毯に平伏して会長さんに御礼を述べるサム君は何処から見ても弟子でした。役得な日々に御機嫌だったサム君とは別人みたいな印象です。そして「そるじゃぁ・ぶるぅ」もホッと息をついて。
「よかったぁ~! これで今日から普通に戻るよ、お料理出来るし、お皿も沢山洗えるし! ありがとう、ブルー」
ピョコンと頭を下げた相手は会長さんではなくてソルジャーの方。
「えっ、なんで? お礼は君のブルーの方に…」
「ううん、ブルーが来てくれたからサムはお家に帰るんだよ! だってね、ブルー、朝からサムとお話してたの、今年いっぱい住み込まないか…って。だから御礼はブルーになの!」
懸命に御礼を言う「そるじゃぁ・ぶるぅ」の無邪気な瞳にソルジャーは言葉を失っています。会長さんはレッドカードを突き付けてますし、これには流石のソルジャーも…。
「わ、分かったよ! 良かったね、ぶるぅ。ブルーと末永くお幸せに…としか言えないかな?」
本当は其処にハーレイを混ぜて欲しいんだけど…、と言い残して消えた背中に向かって投げ付けられて、吸い込まれていったレッドカード。あちらの世界に届いたかどうかは謎ですが…。
「やれやれ…。もう少しサムを仕込もうかな、と思っていたけど、仕方ないねえ…。じゃあ、明日からは今までどおりに朝のお勤めコースってことで」
仏の道を目指して頑張ろう、とサム君を激励している会長さん。公認カップルの健全な日々が再びです。教頭先生が紛れ込む余地は何処にも無いと思いますけど、もしかしていつかはそんな日が…? 来ないといいなと切に祈りつつ、サム君の朝の仏道修行は今後も応援していきますよ~!




                  公認カップル・了



※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
 殆ど忘れられているであろう公認カップルを書いてみましたが、如何でしたか?
 来月は 「第3月曜」 更新ですと、今回の更新から1ヵ月以上経ってしまいます。
 ですから8月も 「第1月曜」 にオマケ更新をして、月2更新の予定です。
 次回は 「第1月曜」 8月5日の更新となります、よろしくお願いいたします。 
 
 そして今月はアニテラでのソルジャー・ブルーの祥月命日、7月28日が巡って来ます。
 7月28日に 『ハレブル別館』 の方に短編をUPする予定です。
 生きて青い地球に辿り着く前のブルーとハーレイのお話、読んで頂けると嬉しいです。
 毎日更新の場外編、 『シャングリラ学園生徒会室』 にもお気軽にお越し下さいませv



毎日更新な 『シャングリラ学園生徒会室』 はスマホ・携帯にも対応しております。
 こちらでの場外編、7月は大荒れの七夕を経ての夏休みです。さて、どうなる…?
←シャングリラ学園生徒会室は、こちらからv

 生徒会室の過去ログ置き場も設置しました。1ヶ月分ずつ順を追って纏めてあります。
 1ヵ月で1話が基本ですので、「毎日なんて読めない!」という方はどうぞですv








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※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
 バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。

 シャングリラ学園番外編は 「毎月第3月曜更新」 です。
 第1月曜に「おまけ更新」をして2回更新の時は、前月に予告いたします。
 お話の後の御挨拶などをチェックなさって下さいませv







新しい年がやって来ました。とはいえ、私たちの日常がガラリと変わる筈も無く…。昨年の暮れはクリスマスだの「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお誕生日だのと賑やかに騒ぎ、年末年始は元老寺。年が明けてからは初詣やらシャングリラ学園恒例の闇鍋、かるた大会などの行事が続いて、今は一月半ばです。
「かみお~ん♪ いらっしゃい!」
今日も寒いね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が迎えてくれる放課後のお部屋。熱々の栗のスフレが出てきて、みんなでワイワイやっていると。
「……基本は百人前なんだよね……」
「「「は?」」」
唐突に呟かれた言葉の主は「そるじゃぁ・ぶるぅ」。誰もが顔に『?』マークを貼り付けています。百人前って、栗のスフレが?
「あっ、ごめん! えとえと、栗のスフレは違うの!」
そうじゃなくって、とワタワタしている「そるじゃぁ・ぶるぅ」の横から会長さんが。
「別のものだよ、ね、ぶるぅ?」
「うん、えーっと…。なんて言ったらいいのかなぁ…」
「そのまんま言えばいいじゃないか。スープだよ、って」
「「「スープ!?」」」
私たちは目を剥きました。基本が百人前のスープというのは何でしょう?
「なるほどな…。スープなら別に分からんでもない」
あれは大量に作るらしいし、とキース君。
「いわゆるスープストックだろう? そこから色々と作るんだよな?」
「ううん、そういうスープじゃなくって…。出来上がったスープが百人前なの!」
「宴会料理か? 大きなパーティーだったら充分にアリだ」
「そうなんだけど…。パーティーに出すには高すぎるかも…」
材料も手間もかかるんだよ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は言っていますが、パーティーってヤツはピンからキリまで。うんとゴージャスな宴会とかなら高いスープもアリなのでは?



「どうだかねえ…」
口を挟んだのは会長さんです。
「そのスープだってヤツを食べて来たから、ぶるぅは悩んでいるんだよ。本場のレシピで作りましたとは言っていたけど、いわゆるパチモノ。お値段はゴージャスだったんだけどね」
「いったい何のスープなんです? ウミガメですか?」
あまり見かけない食材ですよね、とマツカ君が尋ね、シロエ君が。
「ウミガメって食べてもいいんですか!? 保護されている動物なんじゃあ…?」
「ああ、それはね…」
クジラと同じさ、と会長さん。
「絶対にダメってわけではないんだ。一部の地域じゃ漁が許可されている。だけど市場には出回らないし、普通は亀のスープと言ったらスッポンだよね」
「そうなんだ…。で、ウミガメだったの?」
ジョミー君の問いに「そるじゃぁ・ぶるぅ」が首を横に振って。
「違うよ、オリオ・スープっていう名前なんだ」
「…コンソメ系か?」
きっとそうだな、とキース君が頷き、サム君が。
「なんでコンソメになるんだよ?」
「知らないのか? スパゲッティとかであるだろうが、アーリオ・オーリオってのが」
アーリオがニンニクでオーリオがオイルだ、とキース君は説明してくれました。
「オリーブオイルを指すらしいぞ。オイルを使うならコンソメ系のスープだろうと…。ミネストローネでもコンソメ系だと言えんことはない」
なるほど、流石はキース君! 名前だけで推理出来るというのが凄いです。言い出しっぺの「そるじゃぁ・ぶるぅ」も「すごーい!」と感心してますし…。なのにチッチッと指を左右に振ったのは会長さん。
「コンソメ系なのは正解だけどね、オイルってわけじゃないんだな。オリオ・スープはオラって言葉から来てるんだ。意味するところは煮込んだってこと」
「…そう来たか…。まあ、料理は俺の専門外だ。ついでに仏教と無関係な国の言語も無縁だ」
知ったことか、と言いつつ、キース君もオリオ・スープは気になるようで。
「それで、どういうスープなんだ? 材料も手間もかかるというのは煮込むからか?」
「うん! だから基本が百人前なの!」
その材料でないと作れないの、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が答えましたが、オリオ・スープっていうのは何物ですか?



基本は百人前なのだ、と主張している「そるじゃぁ・ぶるぅ」はオリオ・スープのレシピを持っている模様。けれどスープの作り方しか知らないようで、会長さんが苦笑しながら。
「元々は宮廷料理なんだよ。戦争する代わりに政略結婚という方針だった世界帝国の御自慢のスープさ。美味しい上に栄養たっぷり、舞踏会では一番疲れるダンスの後に出してたらしいね」
「スタミナ食か?」
キース君の突っ込みに会長さんは「ご名答」と微笑んで。
「オリオ・スープだけを専門に作る厨房があったという話だよ。そのくらい手間がかかるわけ。…それを出します、っていう案内状を貰ったのがクリスマス・シーズンでさ。ぶるぅと行って来たんだけれど…」
「それがパチモノ?」
遠慮も何も無いジョミー君。会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」は二人で顔を見合わせると。
「んーと、んーとね、…とっても美味しかったんだけど…」
「パンチが足りないって言うのかな? 本当にそれだけの素材と手間をかけたのか、って気がしちゃってねえ…」
反則のサイオンを使ったのだ、と会長さん。食事しながら意識を厨房に滑り込ませて、シェフの記憶を読んだのだそうで。
「それなりの素材は使っていたけど、百人前で仕込んだわけじゃなかった。ついでに手間と時間も採算が取れる範囲内でさ…。それ以来、ぶるぅは少しガッカリしてるんだ」
美味しかったのは本当だけどね、と語る会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」が食べたオリオ・スープは『美食家風』と冠されていたそうで、フォアグラや綺麗に切られた野菜、ハーブなどを盛ったお皿に別仕立ての熱々のスープを注ぐ形式。
「元がズッシリしたスープだから、口当たりを軽くするのに野菜とハーブかと思ったんだ。だけど違うって気がしたし…」
「あれでも美味しかったんだもの、本物はもっと美味しいスープの筈なんだよ。…食べてみたいなぁ、オリオ・スープ…」



でも基本が百人前なんだよね、と話す「そるじゃぁ・ぶるぅ」はオリオ・スープに未練たらたら。諦め切れない気持ちが顔に出ています。この調子では会長さんが何処かの店に百人前を特注するのでは、と私たちは考えたのですが…。
「ぶるぅ、チャレンジしちゃおうか? この面子ならなんとかなるさ」
「えっ、ホント!? 作っていいの!?」
百人前だよ、と念を押した「そるじゃぁ・ぶるぅ」に会長さんはニッコリと。
「余ったら冷凍しておけばいいし、それ以前に余らないかもしれない。おやつ代わりに一日に八杯って女帝もいたらしいよ? この人数が一人で八杯ずつ食べたとしたら、百人前でも残り僅か…ってね」
「ちょっと待て! そのスープとやらを食えというのか、俺たちに?」
それも八杯も、とキース君が叫びましたが、会長さんは涼しい顔で。
「食べるだけじゃないよ、作るんだよ。どうせならそっちの方が楽しい。労働の後の食事は美味しいものだし、みんなでドカンと百人前!」
「…作るわけ?」
ぼくは料理はダメなんだけど、とジョミー君がおずおずと言えば「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「お鍋の番も楽しいんじゃないかな、アクを掬うのは出来るでしょ?」
「それくらいなら……って、本気で作るの? 百人前も?」
冗談だよね、と訊き返したジョミー君に向かって、会長さんは。
「入試のシーズンまでまだ少しある。三学期は何かと慌ただしいけど、今が一番暇な時期! スープ作りで遊ぼうよ。途中で二日間寝かせるっていう過程があるから、今度の週末に食べるんだったら仕込みは明後日! 君たちは学校をサボりたまえ」
材料はそれまでに揃えておこう、と会長さんがブチ上げ、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が大歓声。私たちに反論する権利などある筈も無く、オリオ・スープ作りが決定しました。明後日は朝から授業をサボッて会長さんの家に集合です。欠席届を出すべきか否か、なんとも悩ましい所ですねえ…。



登校義務が無く、出欠も問われない特別生の私たち。それでも「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋で過ごす時間や部活などなど、学校に魅力満載なだけに登校し続けているのが実態です。サボるとなれば必要も無い欠席届を出してしまうのも、つい、習慣で…。
「お前は何って書いたんだよ?」
サム君がジョミー君に訊いているのは欠席理由。私たちは会長さんのマンションに近いバス停で待ち合わせ、マンションへと向かう途中です。
「えっ、そのままだよ? ブルーの家でスープを作るので休みます、って」
「うわーっ、マジかよ! 俺、法事だって書いちまった…。お前がそれならバレバレじゃねえかよ」
嘘なんか書いておくんじゃなかった、と嘆くサム君の後ろで吹き出しているのはキース君。月参りに行くと書こうとしたそうですけど、思い直してジョミー君と同じく本当の理由を書いたのだそうで。
「俺もスープ作りと書いたからには法事って理由はアウトだな。俺が月参りと書いていたなら、お前も見習いで同行ってことで逃げを打てたかもしれないが」
「あーあ、やっちまった…。グレイブ先生の心象、最悪…」
ズーンと落ち込むサム君の背中をシロエ君がポンと軽く叩いて。
「大丈夫ですって、サム先輩! 本来は要らない欠席届を出してるんです、それだけで好印象ですよ。作ったスープでグレイブ先生に何か被害があるならともかく、全く関係無いわけですし」
「そうそう、グレイブ先生はスープと関係無いもんね!」
だからキッチリ書いておいたよ、とジョミー君が明るく笑えばマツカ君が。
「…関係があるのは教頭先生なんですよね…」
「いつものパターンでスポンサーだっけ? うーん、どのくらいかかるんだろう…」
百人前だもんねえ、とジョミー君が首を捻る内にマンションの入口に着きました。管理人さんがドアを開けてくれ、エレベーターへ。ちなみに欠席届にスープ作りと記入したのはジョミー君とキース君だけだったりします。私は家族で外出と書き、スウェナちゃんとマツカ君が一身上の都合で、シロエ君は自主学習。
「七人中、二人が一身上の都合で、二人がスープ作りというのがな…」
どう考えてもスープ作りで決定だ、とキース君が可笑しそうに結論づけて会長さんの家の扉の脇のチャイムを鳴らすと、中から勢いよく扉が開いて。



「かみお~ん♪ 準備、バッチリだよ!」
頑張ろうね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が案内してくれた先はキッチンではなくてリビングでした。えっと…此処ってホントにリビング? いつものフカフカの絨毯やソファは?
「いらっしゃい。ビックリしただろ、無理もないけど」
スープ作りに備えて改造、と会長さんが得意そうに示す先には明らかに業務用のガスコンロなどが。巨大な鍋といい、こんなの何処から…? 私たちの疑問を読み取ったように、会長さんは。
「マザー農場から借りたんだよ。あそこは一般客向けの設備とは別に、シャングリラ号のクルーの交流会とかのパーティー用に厨房を設けているからね。使ってない分を借りて来たわけ」
ついでに食材もお願いしたよ、と会長さん。それなら教頭先生の負担は軽いかもしれません。なんと言ってもキャプテンですし、割引とかがあるのかも…。ホッと息をついた私たちですが、会長さんはニヤリと笑って。
「マザー農場の分は割引があるけど、食材は他にも要るからねえ…。それに全部をマザー農場ので賄うわけにはいかないんだ。なんと言っても宮廷料理! 最上級で揃えなくっちゃ。ねえ、ぶるぅ?」
「うん! バターも普通のバターじゃダメなの! 外国の王室で使ってるバターはコレだから」
ほらね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が見せてくれたのは包みが違うという点を除けばスーパーで普通に見かけるサイズのバター。ところがどっこい、お値段はなんと八倍だそうで。
「えっとね、最初はコレとマザー農場の子牛肉なの!」
最高級のお肉だよ、と抱えて来た塊は十キロもの重さ。それを切り分け、バターで軽く焼くところからオリオ・スープ作りが始まるのです。私たちは基本は見学、場合によっては手伝いという位置づけでエプロンなどを着け、思い思いの場所に立ったのですが。
「…やあ。面白そうなことを始めるんだって?」
「「「!!?」」」
紫のマントがフワリと揺れて、現れたのはソルジャーでした。料理は食べるの専門としか思えない人が出て来るなんて、どうしてこういうタイミングで…?



「オリオ・スープって言ったっけ? それってスタミナ食なんだよね?」
瞳を輝かせているソルジャーに、会長さんが冷たい口調で。
「君の魂胆は分かってるけど、今回は読みを間違えてるから! そっちのスタミナじゃないんだ、これは。どっちかと言えば栄養補給に近いかな? 精力増強が目的だったら漢方薬の店にでも相談したまえ」
「えっ…。それじゃ、ぼくのハーレイに飲ませても特に効果は見られないわけ?」
「そうなるね。…それに君は満足してるんだと思ってたけどな、結婚して以来」
「うん、ハーレイも頑張ってるしね。…なんだ、そういうスープじゃなかったのか…」
たまには刺激が欲しかった気も、と呟いたソルジャーは子牛肉の大きな塊を見詰め、王室御用達のバターとやらを検分してから。
「…スタミナの方は勘違いとしても、美味しいスープが出来るんだったら食べたいな。最上級の食材ってだけでも凄そうだしさ」
「だったら週末に出直せば? 今日は仕込みの段階なんだよ」
さっさと帰れ、と手をヒラヒラとさせた会長さんに、ソルジャーは。
「仕込みの日だっていうのは知ってる。だけど学校をサボッてまで作るスープって面白そうだよ、見学したって構わないだろう? それともアレかい、日頃SD体制の下で苦労している…」
「分かったってば! いてもいいけど、今日の食事は賄い食しか出せないからね。ぶるぅはスープに掛かりっきりになるし、ぼくたちだって手伝うんだ」
ああ忙しい、と会長さんが言い終える前にソルジャーは私服に着替えていました。会長さんの家に預けている服があるのです。会長さんはソルジャーにもエプロンを着けさせ、ついに始まったオリオ・スープ作り。子牛肉が切り分けられてバターで焼かれる香ばしい匂いがリビングに…。



「えっと、えっとね、お鍋に水! 三十リットル!」
誰か計って、という「そるじゃぁ・ぶるぅ」の声で柔道部三人組が大鍋へと。桁外れに大きな鍋もマザー農場からの借り物です。そこへ骨付きのスープ用肉を十五キロ。脂肪分の少ない牛肉といえども、これまたマザー農場で育てた高級なもので…。
「お野菜、お野菜…っと! ニンジン、セロリ、パセリにタマネギ~♪」
歌いながら野菜を刻む「そるじゃぁ・ぶるぅ」。大鍋の中に野菜たっぷりと最初に焼いた子牛肉とが入りました。これがスープの原液だそうで、アクを掬いながらコトコト煮るのです。
「なんだ、量は凄いけど単純だよね」
そう言ったジョミー君は鍋の番に回され、残った面子は並行してやるべき作業のお手伝い。えっ、五百グラムの栗を剥いて焼く? 更に同量の粉糖を混ぜて、スープの原液一リットルで一時間以上煮てから漉す?
「おい、ウサギなんかどうやって捌けというんだ! 頼む、ソテーの段階だけにしてくれ、ベーコンと一緒にやるんだよな? なんだと、それにスープを注いで煮てから漉せだと?」
無理だ、と叫ぶキース君の隣ではマツカ君とシロエ君がお手上げ状態。二人の前には山ウズラが二羽、野鴨が一羽。これも捌いて根菜類と一緒にソテーし、スープで煮込んで裏漉しです。他にも大量のカブをバターでソテーしてから煮込んで裏漉し、キャベツと根菜とベーコンをじっくり炒めてスープで煮込んで…。



「かみお~ん♪ レンズ豆は洗うだけでいいからね! でもって煮込んで裏漉しするの!」
いとも簡単に言ってのけてくれた「そるじゃぁ・ぶるぅ」はスウェナちゃんと私がモタモタと剥いていた栗をササッと仕上げ、ウサギの下ごしらえに移りました。でも…栗を焼くってどの程度まで? 煙が上がっちゃダメなのでしょうし、サッパリです。
「うへえ、誰だよ、単純だなんて言ったヤツはよ…」
俺も大鍋の係でいいや、とサム君が逃げ、マツカ君とシロエ君もジビエの前から敵前逃亡。結局、スープ作りを手伝ったのはウサギとベーコンのソテーに挑んだキース君と、キャベツなどを炒めた会長さんだけ。他はソルジャーも含めて全員、それぞれの鍋を煮込む時間のチェック係になり果てたという…。
「…スタミナ食って言われるわけだよ、作り手のスタミナを吸い取るスープとか言わないかい?」
見ていただけでも疲れ果てた、とソルジャーが口にした言葉は名言でした。全ての作業は終わって何種類ものスープが漉され、保存用の器に入れられています。大鍋で煮ていた原液も漉して、これも二日間、冷蔵保存。仕上げは土曜日のお楽しみですが…。
「スープ作りに使った体力を取り戻せるのが土曜日だという気がしてきたぞ」
俺も気力が尽き果てそうだ、とキース君がエプロンを着けたままでラーメンを啜り、私たちも同じくズルズルと。賄い食は土鍋で煮込んだ味噌ちゃんこでした。雑炊で締める予定が、ほぼ全員がスタミナ不足という悲惨な事態に前段階としてラーメンを追加。
「えとえと…。みんな、大丈夫? もっとニンニク入れた方がいい?」
元気が出るよ、と鍋を仕切っている「そるじゃぁ・ぶるぅ」は元気一杯、笑顔全開。これが若さと言うものでしょうか、子供は風の子、元気な子としか…。



オリオ・スープの仕込みで奪われた私たちのスタミナは戻るまでに一日かかりました。スープ作りでサボッた翌日はキース君を除いた全員が寝坊で遅刻。時間どおりに登校したというキース君は朝のお勤めを寝過ごしそうになってアドス和尚に叩き起こされたために間に合っただけで、授業中に居眠りを…。
「あいつが言ってた通りだぜ。…作り手のスタミナを吸い取るんだ、アレは」
まさか今頃になって居眠りするとは、と悔しがっているキース君。大学との掛け持ち時代でさえも一度も居眠りしなかっただけに、やってしまったショックは大きいでしょう。特別生だけに注意されてはいませんけれど、よりにもよってエラ先生の授業でしたし…。
「やあ。今日は全員、遅刻だって?」
放課後の「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋で出迎えた会長さんに「俺は違う!」と猛然と噛み付いたものの、キース君の居眠りの汚点は消えないわけで。
「たかが居眠り、されど居眠り…ってね。やっぱりスタミナは大切だよね」
土曜日にはしっかり取り戻そう! と会長さんが言い、出て来た飲み物はココアでしたが、なんだか普段と違う味わい。ワインにシナモン、バニラビーンズ、おまけに薔薇とジャスミンの花びらも加えてあるらしいのです。
「オリオ・スープと同じ国の宮廷風っていう所かな。ぶるぅが頑張って作ったんだよ、みんな昨日のスープ作りでバテちゃったから、って」
「かみお~ん♪ ちょっと反則しちゃった! ホントはね、薔薇とジャスミンをココアパウダーに混ぜたら二日間おかないとダメらしいんだけど、サイオンでフリーズドライしたんだ♪」
香りが移ればいいんだもんね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が教えてくれた宮廷風ココアのレシピは手が込んだもの。生クリームに牛乳、チョコレートなどを何段階にも分けて加えるもので…。
「…すまん。居眠りくらいで文句を言ってはいけないな…。ありがとう、ぶるぅ」
お前の方が小さいのにな、とキース君が頭を下げて、私たちも有難く特製ココアを頂いていると、部屋の空間がグニャリと歪んで紫のマントが翻り。



「そのココア、ぼくにもくれるかな?」
「「「………」」」
また来たのかい! と言いたい気持ちを私たちはグッと飲み込みました。ソルジャーは早速ココアを淹れてもらって、おやつのクグロフまで受け取っています。土曜日まで来ないと思っていたのに…。
「今日はお願いに来たんだよ」
「ココアを、かい? それともクグロフ? 昨日は賄い食しか出せないよって言ったじゃないか!」
それを承知で居座ったくせに、と会長さんが糾弾すれば、ソルジャーは。
「えっと、ココアはついでなんだ。ホントに元気が出そうな味だね、身体の芯から温まるし…。お願いしたいのはココアじゃなくて、昨日のオリオ・スープの方。土曜日に食べに来る時なんだけど、ぼくのハーレイも一緒にいいかな?」
「…スタミナ食の性質が違うと言ったけど?」
意味が無いよ、と会長さんに断られそうになったソルジャーですが。
「そうじゃなくって、美味しいスタミナ食っていうのが大切なんだよ! こんなに美味しくてスタミナたっぷり、とハーレイに教えておきたいんだ」
「それにどういう意味があるのさ?」
「ぼくの今後の食生活! ハーレイのぼくへの愛が本物だったら、ぼくの世界での食生活が劇的に改善されることになる……かもしれない」
食事というのは案外面倒で、とソルジャーは深い溜息をついて。
「こっちの世界だと美味しい食べ物が沢山あるし、いくらでも食べたくなるんだけれど…。あっちに帰るとあんまり食事をしたい気持ちにならないんだよね。前から言っているだろう?」
言われてみれば、そういう話もありました。実際に見たわけじゃないので真偽の程は分かりませんけど、ソルジャーは食事が嫌いなのです。お菓子だけあればそれで充分、何も食べたくないらしく…。栄養剤を打ってくれればそれでいい、とキャプテンに言ったとか言わないとか。
「だからさ、オリオ・スープってヤツが美味しかったら、作らせようと思うんだ。スープなら食べるのも面倒じゃないしね」
「…作るのが面倒なスープだってことは、身をもって知ったんじゃなかったかい?」
「専用キッチンを設けておけばいいんだろ? 専属の料理人が大勢いれば疲れないしさ」
作業の面倒さは人数でカバー、と言い切ったソルジャーはオリオ・スープ専用キッチンを自分の世界のシャングリラ号に作る気でした。スポンサーの教頭先生ですら呼んで貰えない試食会にキャプテン登場らしいです。オリオ・スープが美味しかった場合、どういう結果になるんだか…。



そして土曜日。会長さんの家のリビングで最後の仕上げが始まりました。ソルジャーとキャプテンも見守る中で赤身の牛肉一キロが切られ、十個分の卵白を混ぜた所に先日作って保存してあった全てのスープと原液が。コトコト煮込んで脂肪分を除き、根菜とキノコをたっぷり加えて煮詰めていって…。
「ブルーから聞いてはいましたが…。仕上げだけでも一仕事ですね」
いい匂いですが、と鍋を見ているキャプテンの横を「そるじゃぁ・ぶるぅ」がサッと駆け抜けながら。
「誰か、お鍋をかき混ぜてて! ぼく、鶏をソテーするから!」
「あ、ああ…。しかし…」
まだ入れるのか、とキース君が呆れたように鍋係を代われば「そるじゃぁ・ぶるぅ」は冷蔵庫から鶏を二羽取り出してきて捌いてソテー。それと羊のもも肉とが鍋に入れられ、これで終わりかと思いきや…。
「「「四時間!?」」」
「うん! 今から四時間、煮込むんだけど…。でもって最後に漉すんだよ。そしたら味を整えて、熱々の内に食べるんだ♪」
お喋りしながら煮込んでいれば四時間くらいはすぐだもんね、とニコニコ笑顔の「そるじゃぁ・ぶるぅ」と、初参加なのに既にゲッソリ疲れた顔のキャプテンとは見事に対照的でした。念願の百人前が基本のスープを作れて嬉しくてたまらない「そるじゃぁ・ぶるぅ」は他の料理を用意するのも抜かりなく…。
「わーい、完成! スープがメインだからテリーヌとお肉のパイ包みとにしてみたよ!」
ノルマは一人に八杯だよね、とダイニングに移動して注がれたスープは普通のコンソメよりも濃い目の深い褐色。八杯なんて絶対無理ですし、教頭先生にもお裾分けしてあげればいいや、と掬って口に運んでみれば。



「「「美味しい!!!」」」
頬っぺたが落ちそうとはこのことでしょうか。コンソメにしては濃厚なのに、少しもヘビーな感じがしません。癖になりそうと言うか、何杯でもお代わり出来そうというか…。テリーヌや肉のパイ包み、サラダをおつまみにして誰もがゴクゴク。会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」も満足そうで。
「うん、これでこそ本物だね。挑戦した甲斐があったね、ぶるぅ」
「お鍋とか借りなきゃ作れないのが残念だよう…。百人前が基本だなんて…」
毎日だって作りたいよ、と疲れ知らずな「そるじゃぁ・ぶるぅ」はオリオ・スープを一人用の土鍋に注いで蓋をし、『おすそわけです』と書いたメモを貼り付けて瞬間移動させました。送り先は教頭先生の家。会長さん曰く、土鍋の下には鍋敷き代わりに材料費の請求書を敷いたそうですが…。
「なんか凄い金額になっていそうだと思うんだけど…」
いくらだったの、というジョミー君の質問に、会長さんはクスッと笑って。
「食事の時に値段を訊くのはマナー違反だと思わないかい? 美味しければそれでいいんだよ。次にハーレイと出会った時に御馳走様と言えばいいのさ」
「「「………」」」
その台詞を言える度胸の持ち主は私たちの中にはいませんでした。マザー農場の最高級のお肉に、各国王室御用達のバター。その他も全部、最上級の材料を揃えたのですし、きっと考えない方が…。



「聞いたかい、ハーレイ? こっちのハーレイには御馳走様だけでいいらしい。…それでね…」
君のぼくへの愛の深さはどれくらいだろう、とソルジャーが赤い瞳を煌めかせて。
「思った以上に美味しいよ、これ。ぼくたちの世界じゃ素材が多少落ちるだろうけど、そこそこの味は出せると思う。…こんなスープが毎日出るなら、ぼくは食事をしてもいい」
「で、ですが…。山ウズラだの野鴨だのは…」
「大丈夫、ぼくが調達してくるから! 君は専用の厨房と料理人を手配してくれるだけでいいんだ。それにミュウにとっても悪い話じゃなさそうだけどねえ?」
虚弱体質の人が多いんだから、とソルジャーはキャプテンを見詰めています。
「ぼくが毎日八杯としても、九十人分ほど余るんだ。順番に配っていけば体質も改善出来るかも…。美味しい上に栄養満点、ソルジャー御用達の特製スープって士気も上がると思わないかい?」
キャプテンなら何とか出来るだろう、と期待に満ちた笑顔で迫られ、グッと言葉に詰まるキャプテン。食事をするのを嫌うソルジャーが「これさえあれば食べてもいい」と告げたスープは素晴らしい味で、栄養面でも文句無し。けれど作るには途轍もない手間と時間が必要で…。
「す、少し考えさせて下さい。…ヒルマンたちにも相談してみた上で結論を…」
「ヘタレ!」
何年振りかで聞いた単語がダイニングに響き渡りました。
「ぼくに満足な食事もさせられない男が伴侶だなんて泣けてくるよ。当分おやつしか食べてやらない! ついでに青の間にも立ち入り禁止だ!」
先に帰って反省してろ、とキャプテンを強制送還したソルジャーはオリオ・スープを何度もお代わり。本当に気に入ったみたいですけど、自分の世界で食事代わりに食べられる日は来るのでしょうか? キャプテンの愛が試されるのは構わないとして、スープ作りで疲れ果てるクルーが出て来ないよう、こっちで量産すべきですかねえ…?




                    究極のスープ・了



※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
 ドタバタとトンデモ展開が売りのシャングリラ学園ですけど、たまにはほのぼの。
 お料理大好き「そるじゃぁ・ぶるぅ」にスポットライトを当ててみました。
 作中に出てくるオリオ・スープは実在しますし、レシピもそれに基づいています。
 チャレンジなさりたい方は、どうぞ作ってみて下さい。

 そして今月はアニテラでのソルジャー・ブルーの祥月命日、7月28日が巡って来ます。
 当サイトはハレブルな生存EDを持ち、シャングリラ学園シリーズもソルジャー生存で
 完結しておりますから、追悼の必要は微塵も無かったりしますけど。
 節目の月だけに、今月は 「第1&第3月曜」 の月2更新にさせて頂きます。
 次回は 「第3月曜」 7月15日の更新となります、よろしくお願いいたします。

 更に7月28日には 『ハレブル別館』 の方に短編をUPする予定でございます。
 「ここのブルーは生きて青い地球に行けたんだっけ」と再確認して頂ければ幸いです。
 毎日更新の場外編、 『シャングリラ学園生徒会室』 にもお気軽にお越し下さいませv


毎日更新な 『シャングリラ学園生徒会室』 はスマホ・携帯にも対応しております。
 こちらでの場外編、6月はホタル狩りで大荒れでしたが、さて、7月はどうなりますやら。
←シャングリラ学園生徒会室は、こちらからv

 生徒会室の過去ログ置き場も設置しました。1ヶ月分ずつ順を追って纏めてあります。
 1ヵ月で1話が基本ですので、「毎日なんて読めない!」という方はどうぞですv









※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
 バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。

 シャングリラ学園番外編は 「毎月第3月曜更新」 です。
 第1月曜に「おまけ更新」をして2回更新の時は、前月に予告いたします。
 お話の後の御挨拶などをチェックなさって下さいませv






今年のお花見は例年以上に賑やかなことになりました。春が来るのが遅かったため、桜の見頃がソルジャーの世界とズレたのです。ソルジャーは桜の花が大好きとあって、私たちの世界でもお花見するのだと言い出して…。
「凄かったねえ、アルテメシア公園の夜桜! ぼくの世界じゃ、あそこまで派手に出来ないし…」
桜の木だって一本しか無いし、と私服のソルジャーが御機嫌で喋っているのは会長さんの家のリビング。ソルジャーの隣には同じく私服のキャプテンが腰掛け、ゆったりとお茶を啜っています。今日は土曜で学校はお休み、私たちはソルジャーたちと一緒にお花見に繰り出したのでした。
「こっちの桜は見ごたえがあるよ、公園どころか山ごとまるっと桜だとかさ。桜のお菓子も沢山食べたし、もう最高に幸せで…」
「ブルー、タコ焼きは要らないのですか?」
キャプテンが指差す先には夜店で買ってきたタコ焼きが。ソルジャーはもちろん「食べる!」と答え、キャプテンが早速、つまようじで一個プスリと刺して。
「どうぞ」
「…ん……。桜もいいけど、タコ焼きもいいね」
幸せそうに頬張るソルジャーに、キャプテンが二つ目のタコ焼きを差し出し、ソルジャーからもお返しが。ああ、またしても始まりましたよ、バカップル…。会長さんがそれを横目で見ながら。
「ふふ、ハーレイには目の毒かな? ぼくは絶対してあげないしね」
「う、うむ…。お幸せならばそれでいいのだが、やはり見ていて物悲しいな…」
ガックリと項垂れているのは言わずと知れた教頭先生。昼間のお花見は「そるじゃぁ・ぶるぅ」特製のお弁当を持ってのお出掛けでしたから、荷物運び要員として招集されてしまわれたのです。会長さんとのお花見とあって二つ返事でついて来られたわけですけれど、そこには余計なバカップルまで。
「はい、あ~ん♪」
「お好み焼きもありますよ、ブルー」
仲睦まじく食べさせ合いをしている二人は「ぶるぅ」すらも放置でした。もっとも「ぶるぅ」は食べ物さえあれば満足ですから、夜店で買ったフランクフルトやら串カツやらをガツガツと。同じ姿形の「そるじゃぁ・ぶるぅ」は冷めかけたヤツをお皿に移してレンジで温めたり、お茶を淹れたり…。
「かみお~ん♪ お花見、楽しかったね! 来年もみんなで行きたいな♪」
「そうだね、ハーレイが黄昏れるのを見るのも楽しいし…。ブルーたちはホントに仲がいいから」
結婚するまでは波乱万丈だったのに、と会長さんが笑えば、ソルジャーがクスッと笑みを零して。
「もうハーレイはぼくだけのものだし、ぼくもハーレイだけのもの! わざわざ愛情を確かめなくてもバッチリ絆があるんだからさ、これ以上、何を求めると? せいぜい夜のバリエーションかな」
「その先、禁止!」
余計なことを口にするな、と予防線を張った会長さんに、ソルジャーは。
「分かってるってば。ぼくのハーレイもシャイだからねえ、ハーレイの前でその手の話をする気は無いさ。…だけど結婚っていうのはいいよ? 君もハーレイと結婚すれば満たされた生活が出来ると思うな」
「なんでぼくが! 大体、思い込みだけで突っ走るような妄想男に愛情なんかがあるわけないだろ!」
ハーレイが夢見ているのは理想の結婚生活のみ、と会長さん。
「ぼくに色々と世話してもらって、おまけに身体も欲しいというのがハーレイなんだよ。結婚したら家事全般をぼくにやらせて、自分はゴロゴロしてるだけ…ってね」
「それは違う!」
教頭先生が血相を変えて割って入りましたが、会長さんは。
「何処が違うのさ、そのとおりだろ? 君の夢って、家に帰ったらぼくがエプロン姿で迎えて食事かお風呂かって訊くヤツじゃないか。ぼくは毎日、君が中心の生活を送る羽目になるわけ」
「そ、それは…。それは私の勝手な夢で、お前がそれを嫌がるのならば、家事は私が全部やる!」
一つ屋根の下で暮らせるだけで充分なのだ、と教頭先生は頬を赤らめておられます。
「お前が嫁に来てくれるのなら、家事が二倍に増えても構わん。もちろん、ぶるぅの面倒も見る。ぶるぅに家事をさせようなどとは思わないから、よく考えて返事をくれれば…」
「どさくさに紛れてプロポーズって? そういう所も気に入らないんだ、ぼくへの愛が感じられないし!」
もっと相手を思いやれ、と会長さんに言い返されてズーンと落ち込む教頭先生。めり込んでいる人がいる状態ではバカップルも調子が出ないらしくて、「あ~ん♪」の代わりにお茶を飲みつつ、何やら二人で話しています。それでも二人の世界ですから、教頭先生にはお気の毒としか…。



教頭先生の方をチラチラ見ながら話し込んでいたバカップル。やがて二人で頷き合うと、私たちの方に向き直りました。口を開いたのはソルジャーです。
「…ハーレイの愛情なんだけどさ。あ、ぼくのハーレイじゃなくて、こっちのだよ? ブルーへの愛があるのかどうか、確かめる方法が無いこともない」
「………。どうせ、いかがわしい方法だろう?」
不機嫌全開な会長さんの問いに、ソルジャーは首を左右に振って。
「ううん、全然。君は結果を確かめるだけで、頑張るのはひたすらハーレイなんだ」
「最悪じゃないか! それに鍛えても無駄だと思うよ、ヘタレは治らないからね。治ったとしても、ぼくは付き合うつもりはないし」
そっち方面の趣味は全く無い、と会長さんがキッパリ言い切り、ソルジャーが深い溜息を。
「…ヌカロクとかじゃないってば。ハーレイが頑張ることになるのは園芸だよ」
「「「演芸?」」」
なんのこっちゃ、と目を丸くする私たち。教頭先生、口説き文句を言う練習でもするのでしょうか? 愛情をこめて愛の言葉を語るにしたって、それを練習していたとなればお芝居の台詞と変わりません。会長さんに笑い飛ばされるか、大根役者と罵られて終わりっぽいですが…。
「無駄だね、芝居っ気たっぷりの愛の告白なんてお笑いだよ」
努力するだけ無理、無茶、無駄、と会長さんが突っぱねましたが、ソルジャーは。
「違う、違う、それはエンゲイ違い! 君のハーレイにオススメなのは同じエンゲイでも農業の方」
「「「は?」」」
「育てるんだよ、ブルーへの愛で」
愛をこめるのが重要なのだ、とソルジャーが突き出した手のひらの上にフワリと青い光が灯って、それが消えると一粒の種が。
「これはね、ぼくがサイオン研究所から持って帰った植物の種。ハーレイに育てさせたんだけども、その後、シャングリラに住んでる恋人たちの間で密かなブームになったわけ」
「「「???」」」
「育てる人のサイオンを吸収するんだ、この植物は。…そして花をつけ、実を結ぶ。どんな実がなるかは愛情次第というだけあって、ついた名前が『情熱の果実の樹』なんだよ」
一大ブームを巻き起こしたという小さな種をソルジャーはテーブルに置きました。
「こっちのハーレイにブルーへの愛があるなら、ちゃんと実がなる筈なんだ。ブルーを想って毎日世話さえしていれば…ね。どう、ハーレイ? 挑戦するなら種をあげるよ」
「…で、ですが…。そのぅ、それはあなたの世界のもので…」
しどろもどろな教頭先生にソルジャーはパチンとウインクして。
「こっちの世界への影響だったら無問題! この木は自家受粉で実を付ける上、日光も必須じゃないからね。そこそこの明るさがある部屋なら充分育つし、その性質上、育てる人の寝室なんかが最適な環境ってヤツなのさ。君の寝室に閉じ込めておけば生態系には影響ないだろ?」
「…は、はあ……」
「どうする、これを育ててみる? それとも結果が怖いかな? 来月には分かってしまうもんねえ…」
これは成長が早いんだ、と指先で種をつつくソルジャー。
「一ヶ月ほどで大きく育って花が咲くんだ。今から植えれば来月の末頃に実がなる勘定。それまでに枯れてしまえば愛情云々以前の話だし、花も実もなければブルーへの愛があるかどうかが怪しいよね」
愛しているのは身体だけかも、と言われた教頭先生は真っ青になり、思い切り腰が引けています。種の栽培に失敗したなら会長さんへの愛情はゼロで、成功したって花や実が無ければ疑われるというわけで…。
「…お、お気持ちは有難いのですが、やはり環境のことを考えますと…。私の寝室も完全に密閉された空間というわけではないですし…。万一、こちらの世界の動植物と接触したら、と…」
やめておいた方が良さそうです、と断った教頭先生の横からスッと出たのは会長さんの白い手でした。
「ふうん…。ハーレイのぼくへの愛が分かるって? 面白いじゃないか、協力しよう。ぼくのサイオンでハーレイの寝室をシールドしておけば生態系への問題は無い。…ぼくのシールドが張られていたって、中で育てる種の方には特に影響しないんだよね?」
会長さんに視線を向けられたソルジャーはコクリと頷いて。
「うん、その点は大丈夫。ぼくのシャングリラは常にぼくのサイオンが張り巡らされた状態だ。そこで色々な姿に育ってくれた種だからねえ、育てる人のサイオンだけに反応するのは間違いないよ」
「了解。…じゃ、そういうことで、今夜から早速育てたまえ」
種を摘み上げた会長さんが教頭先生の褐色の手のひらにそれを押し付け、ニッコリ微笑んでみせました。
「…君の愛情が本物かどうか、これが教えてくれるってさ。枯らすのも良し、最初から植えずに逃げるのも良し。…愛があるなら育てられると思うんだけれど、どうするんだい?」
「…そ、育て方が…。み、水やりなどのやり方が……」
学校の方もありますし、と必死に逃げを打つ教頭先生に向かって、ソルジャーが。
「ああ、その点は心配無用だよ。ぼくのハーレイもキャプテンの仕事で多忙だからねえ、部屋に戻れるのは夜だけくらいなものだったけれど無事に育った。そうだよね、ハーレイ?」
「ええ。…先輩として一つアドバイスするなら、鉢でしょうか。最終的には持ち上げるのも一苦労というほどの木になりますから、大きめの鉢を御用意下さい」
愛さえあれば大丈夫ですよ、とキャプテンに太鼓判を押された教頭先生は完全に退路を断たれました。楽しげに笑う会長さんと、愛と余裕に満ち溢れているソルジャー夫妻と。もはや否とは言えません。お花見転じて園芸家への道、頑張って進んで下さいとしか…。



教頭先生が『情熱の果実の樹』とやらの種を押し付けられて以来、頻繁に顔を見せるようになったのがソルジャー。忙しいから今日はお茶だけ、などと言いつつ放課後の「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋を訪れ、週末に会長さんの家にお邪魔していればヒョイと現れ…。
「今の所は愛情は足りているみたいだねえ?」
スクスク育っているじゃないか、とソルジャーがアプリコットのタルトを口に運びながら教頭先生の家の方角を眺めているのは二週間が経った日曜日のこと。
「発芽した時点でブルーへの愛があるのは間違いないんだ。ハーレイも大喜びで世話をしてるし、このままで行けばまず枯れない」
「……迷惑な……」
既に勘違いMAXなんだ、と会長さんは顔を顰めました。
「ぼくへの愛を試されるんだから、ハーレイはもう必死なんだよ。植物は愛情をこめて育てれば綺麗な花が咲くらしい、なんて情報をヒルマンから仕入れてきたから大変で…。毎日せっせと話しかけてる」
「それはそれは。…ぼくのハーレイが育ててた時も同じだったよ、音楽を聴かせたりもしていたねえ」
「…それもやってる。おまけにぼくへの愛が大切だからね、ぼくの写真にキスする回数が激増した上に抱き枕もしっかり抱いてるんだけど!」
思い出しただけで寒気がする、と肩を竦める会長さんに、ソルジャーは。
「君だって乗り気だったじゃないか。面白そうだって言ってたし」
「………失敗すると思ってたんだよ、もっとデリケートな植物なんだと信じてたから」
あんな愛情でも育つだなんて騙された、と会長さんは不快そうですが、ソルジャーの方はニコニコと。
「分かってないのは君の方だよ。ハーレイの愛は本物だってば、多少暴走しているだけでね。…だから確実に花が咲くだろうし、君への熱い想いを秘めた美味しい実がなると思うんだけど」
「……嬉しくない……」
「そう言わずにさ。あっ、そういえば実の話ってしてたっけ?」
今日のおやつは狙ってるけど、と尋ねられて顔を見合わせる私たち。情熱の果実の樹に実がなる話は聞いていますが、そのことでしょうか? でも、狙ってるって、どの辺が…?
「やっぱり話していなかったよね? それじゃホントに偶然なんだ…」
美味しいけれど、とソルジャーはお代わり用のタルトが載った大皿を指差して。
「あの種はね、とても小さいヤツだったけれど、一ヶ月ちょっとで実がなるという成長の速さが示すとおりに色々と掟破りなんだよ。どうやら基本はアプリコットらしい」
「「「えっ?」」」
「でなきゃプラムか、そういうモノ。バラ科サクラ属の植物を土台に作った植物なんだと思う。…なにしろ花が桜に似てるし、実だってアプリコットやプラムにそっくり。…まあ、その辺は育てた人間の個性が出るけど」
花の色とか実の色とかに、と微笑むソルジャーのためにキャプテンが育てた時には桜そっくりの花が咲いたそうです。桜といえばソルジャーが一番好きな花じゃないですか!
「うん。あれはホントに嬉しかったな、ハーレイが桜っぽい花を咲かせてくれたわけだし…。ただ、如何せん、研究所が作った植物だ。先に葉っぱが茂っちゃってて、桜っぽさは殆ど無かったね」
そこが残念な所なんだ、と語りながらもソルジャーはとても嬉しそうで。
「でもって実の色はサクランボみたいに艶やかな赤! ぼくへの愛なら青じゃないかとも思ったけれど、ハーレイが好きなのはサイオンの色よりも瞳らしいんだ。ほらね、この色」
これを映した実だったんだよ、とソルジャーが示したものは自分自身の赤い瞳で、私たちは御馳走様としか言いようがありませんでした。バカップルになって結婚する前からキャプテンの愛情は溢れまくっていたようです。だったら教頭先生も…?
「そうだねえ、こっちのハーレイが育ててる木も赤い実をつけることになるんじゃないかな? ブルーに贈ろうと買った指輪がルビーなんだし、瞳の色にも惚れ込んでるよ」
「……迷惑すぎる……」
そんな木の実は見たくない、と会長さんは呻いていますが、恐らく時間の問題でしょう。教頭先生が愛情をこめてお世話している情熱の果実の樹は只今順調に成育中。育てる前こそ恐れていた教頭先生も今となっては「元気に育てよ」と燃えているのは確実で。
「いいじゃないか、君に対するハーレイの愛が形になるっていうのはさ。実がなったら食べてみるといい。ハーレイの愛で甘く熟した赤い実を食べれば、君の胸にもハーレイへの愛が芽生えるかも…」
「お断りだよ!」
そんな毒リンゴは絶対嫌だ、と叫ぶ会長さんの頭にあるのは『白雪姫』が食べた毒リンゴ。そこまで酷くはないんじゃないかと思いますけど、食べたくない気持ちも分からないではありません。私たちだって御相伴する気は無いですし…。
「なんだ、食べてあげようとも思わないわけ? せっかくの愛の証で結晶なのに」
分からないねえ、と頭を振り振り、ソルジャーは姿を消しました。会長さんはアプリコットのタルトへの食欲が失せたらしくて、お代わり用が一切れ余る結果に。えっ、そのタルトはどうなったかって? 情熱の果実とは無関係な私たちがジャンケンしました、当然です~!



会長さんへの愛が足りなくて花も実もつかずに終わるのでは…、と心配していた教頭先生。けれど寝室の窓辺に置かれた鉢の植物はついに蕾をつけ、それに気付いた教頭先生は万歳三唱したのだとか。一方、会長さんは覗き見をする気にもなれないそうで…。
「えっ、今日も覗いていないのかい?」
綺麗な花が咲いたのに、と呆れ顔なのは例によって遊びに来たソルジャー。放課後の「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に顔を出す前に教頭先生の家に寄り、情熱の果実の樹を見て来たのです。
「あの花は君のイメージなのかな、それともハーレイの願望が入っているのかな? 桜と言うより桃の花に近いね、ピンクの色が濃いんだよ」
「…ハーレイの妄想の色だと思うな。ピンクというのはそういうイメージ。この世界じゃピンク映画って言うんだ」
口にしてからハッと息を飲み、「今のは無し!」と大慌てする会長さん。ピンク映画って何なんでしょう? ジョミー君たちと騒いでいると、キース君が。
「俺たちにはチケットが買えない映画だ。そのくらいのことは知っているさ」
これでも大学は出たんだからな、と教えてもらって納得です。なるほど、十八歳未満お断りの映画のことですね。でも……教頭先生が咲かせた花は本当にそんな映画のイメージ?
「違うんじゃないかと思うけどねえ…」
あれはハーレイの乙女趣味だろ、とソルジャーも異を唱え始めました。
「乙女って言うとアレだけれども、日頃から夢を見てるじゃないか。君との新婚生活はレースたっぷり、フリルたっぷりの薔薇色だよ? そういう気持ちが溢れ出た結果が桜よりも濃いめの色じゃないかと…」
「だったら薔薇色でいいだろう!」
思い切り深紅に咲かせればいい、と主張している会長さんにソルジャーは。
「…それが出来ればハーレイじゃないよ。深紅の薔薇色に咲かせたい所を恥じらった結果があれだってば」
「恥じらいだって!?」
おえぇっ、と胃袋が引っくり返りそうな声を上げ、会長さんはゲンナリとソファに…。
「まったく、なんてことを言ってくれるのさ…。あのハーレイが恥じらうかい? 毎晩ぼくの写真をオカズに妄想爆発、抱き枕を相手にサカッてるくせに」
「君を前にするとサカれないだろ、そこが恥じらい。…愛情の深さは証明されつつあるんだからさ、嫁に行けとまではまだ言わないから、婚約だけでも…。でもって少しずつ愛を深めれば、いつかは応えようって気にもなる。それがオススメ」
「嫌だってば!」
ぼくと君とは違うんだ、と怒鳴りつける会長さんの声はソルジャーには全く届いておらず。
「…こっちのハーレイに種をプレゼントした甲斐があったなぁ、ブルーへの愛が形になる日も遠くはないよ。赤くて瑞々しい実がついた時には盛大にお祝いしなくちゃね」
ブルーの家に鉢を運ぼう、とソルジャーはやる気満々でした。
「リビングの真ん中に鉢を据えてさ、みんなでシャンパンを開けて乾杯! ブルーとハーレイの前途を祝してパーティーなんかはどうだろう?」
「かみお~ん♪ パーティー、楽しそうだね!」
何も分かっていない「そるじゃぁ・ぶるぅ」はパーティーという単語にだけ反応しちゃったみたいです。そこをソルジャーが上手く丸め込み、実が熟しそうな今週末がパーティーの日に決定しました。花が咲いてから一週間も経たない内に実が熟すなんて、聞いていたとおりに掟破りな植物ですねえ…。



情熱の果実の樹が教頭先生の愛で見事な実をつけ、会長さんの家のリビングに瞬間移動で運び込まれたのは土曜日の昼前のことでした。サイオンを使ったのは無論、ソルジャー。その傍らにはキャプテンが立ち、鉢よりも先に到着していた教頭先生に笑顔を向けて。
「素晴らしい木をお育てになられましたね。…ブルーから毎日聞いていましたが、これほどとは…。私が育てた木より見事かもしれません」
「あ、ありがとうございます…」
頑張った甲斐がありました、と頬を染めた教頭先生の視線の先には仏頂面の会長さん。たわわに実った赤い果実に目を向けもせず、反対側の壁を睨み付けています。
「…ブルー、私はお前だけを想って頑張ったのだが…。見てくれないのか?」
「迷惑なんだよ、そんな形にされたって! 愛してます、って押し付けられても嬉しくないし!」
秘すれば花って言うだろう、と会長さんは唇を尖らせて。
「本当にぼくを想っているなら、結婚しようとか愛しているとか、言わないものだと思うけど? ぼくは何度も断ってるんだ、そっと陰から見守ってるのが本物の愛じゃないのかな?」
こんなのは愛情の押し付けなんだ、と糾弾された教頭先生は「悪かった…」と肩を落として。
「すまない、ブルー…。お前への愛を証明できる、と思った私が馬鹿だったのだな…。実が熟したらお前に贈ろうと、贈って愛を告白しようと楽しみに育てていたのだが…」
申し訳ない、と教頭先生が深く頭を下げた時です。
「「「あっ!?」」」
艶々と輝いていた赤い果実の表面がひび割れ、ピシピシと細かく割れ始めました。愛情で育った情熱の果実は教頭先生の心のヒビに耐えられなかったというのでしょうか?
「わ、割れちゃった…」
壊れちゃうの、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が泣きそうな声を上げたのですけど、真っ赤なプラムだかアプリコットだかはライチのような皮に変化しただけで砕け散ったりはしませんでした。それどころか…。
「「「えぇっ!?」」」
わしゃわしゃ、もしゃもしゃ。細かくひび割れた表皮から無数の毛が生え、四方八方に伸びて広がりまくって。
「……おい。これはランブータンだったのか?」
キース君の指摘が果実の現状を示しています。ぷるん、コロンと実っていた幾つもの実は今や毛だらけのランブータンと化し、見る影も無い状態に…。
「「「………」」」
何が起こったのかと鉢を見詰める私たちの沈黙を破ったのは会長さんで。
「…ハーレイ、これが君の本音で本性なんだ…?」
有り得ないよね、と冷ややかな瞳がランブータンもどきを蔑むように見ています。
「こんなに見事に実りました、って綺麗な外面を見せていたって、中身は毛だらけのケダモノってわけだ。ぼくへの愛情云々以前に、その先にある結婚生活だけを夢見て生きてるわけだね、要するに…?」
「ち、違う! わ、私はそんなつもりでは…!」
顔面蒼白の教頭先生が泣けど叫べど、艶やかな果実がランブータンもどきに変身したのは誰もが目撃した事実。会長さんは怒り狂って教頭先生を家から蹴り出し、ガチャリと鍵を掛けてしまいました。えっと、パーティーはどうなるんでしょう? お祝いの料理とシャンパンとかは…?



泣きの涙で玄関の扉を叩き続けていた教頭先生が諦めてションボリとエレベーターに乗り、駐車場から愛車で走り去るのを窓から見届けた会長さん。フンと鼻を鳴らし、怒り心頭の形相で。
「この鉢、割っていいのかな? それとも君が持ち帰って処分してくれるのかな?」
君の世界の植物だもんね、と会長さんに鉢と交互に見比べられたソルジャーは。
「…どっちでもいいけど、君は誤解をしているよ。ねえ、ハーレイ?」
「そうですね…。あなたが何も仰らないので、私も黙っていましたが…」
このままというのはどうなのでしょう、と眉間の皺を深くしたキャプテンに、会長さんが怪訝そうに。
「…何のことだい?」
「これですよ」
この実なんです、とキャプテンはランブータンもどきに手を触れて。
「最初からこの状態という実は幾つか見ました。こうなる前のひび割れた形も知っています。…どちらも良くあるパターンでしたね、私たちの船にいる恋人たちには」
「「「は?」」」
そんなにケダモノな人が多いのだろうか、と誰もが思ったのですが、キャプテンは。
「一気に二段階にも変化した実は初めてですよ。…恐らく最初は自信に溢れておいでになったと思われますが、迷惑だの何だのと罵られたためにナーバスになってしまわれたかと…。このタイプの実が出来るのはシャイな性格の人に多いんです」
「シャイだって!?」
ケダモノじゃないか、と会長さんが反論すれば、ソルジャーが。
「それが嘘ではないんだよ。…誤解してると言っただろう? ライチみたいにヒビ割れた皮はね、ライチの皮並みに固いんだ。愛情に溢れているけど、この愛情の実を食べて下さいって言える自信の無い内気なミュウだとアレになるわけ」
傷つかないための心の鎧かな、と言われてみればライチの皮は固いです。剥けばツルリと剥ける辺りが余計に心の鎧っぽい感じ。ソルジャー曰く、ライチタイプの果実の色は赤とは限らないそうですけども。
「それこそサイオンの色から本人の好み、あれこれと関係するからね。…でもって今のこの状態。毛だらけなのはケダモノじゃなくて心を隠すための蓑なんだよ。失敗したらどうしよう、愛情が通じなかったらどうしよう、って後ろ向きな気持ちが実を覆っちゃうとコレになるのさ」
「…それじゃハーレイは、ケダモノじゃなくて……」
「むしろ、その逆。君への愛はたっぷりだけど、その愛を君に受け取ってくれとか、押し付けたいとか、そういう気持ちは無いんだろう。…この木をせっせと育ててる間に勇気が出てきて普通の赤い実が出来たけど……本音はこっちの方だと思うよ、劇的に変化しちゃったからねえ」
可哀想に、とソルジャーが呟けば、キャプテンも。
「ええ、お気の毒なことをしました。愛情を確かめて貰うどころか、真逆になったようですし…。けれど誤解が解けたからには、少しは前進出来そうですね」
「却下!」
それとこれとは別物だ、と会長さんは突き放すように。
「ハーレイが逃げて帰った所が後ろめたさの証明だ。本当にケダモノっぽさが欠片も無いなら、普通にしてればいいだろう? なのに泣いたり許しを乞うのが汚れた心がある証拠。心当たりの一つや二つはあったってことさ、ケダモノのね」
ぼくにとっては大迷惑なケダモノ男、と会長さんは全く容赦しませんでした。教頭先生、会長さんへの思いの丈を素直に果実に反映し過ぎてドツボにはまったみたいです。ランブータンもどきに変化させなければ、ケダモノとまでは言われずに済んだと思うのですが…。
「とにかく、この木は処分して。パーティーは処分の打ち上げにするから」
会長さんの冷たい口調に、ソルジャーが渋々といった風情で。
「…仕方ないねえ、それじゃ向こうに送っておくよ。ハーレイ、それでかまわないよね?」
「もちろんです」
キャプテンが頷き、ランブータンもどきが実った情熱の果実の樹は鉢ごとソルジャーの世界の青の間へ送られてしまいました。その後は賑やかなパーティーが始まり、どんちゃん騒ぎだったのですけど。



「媚薬だって!?」
会長さんの悲鳴がリビングを貫いたのはお開きになる少し前。ソルジャーがキャプテンと手を握り合ってニッコリと…。
「そう、媚薬。情熱の果実の樹の実はね、贈り合った当人同士で食べれば普通に美味しい果物なんだ。…でもって無関係な恋人同士の二人に贈れば最強の媚薬になるらしい。流行ってた頃にそういう噂があったんだけど、残念ながら試す機会が無くて…」
なにしろ貴重な実なんだから、と話すソルジャーは他のミュウたちが育てた木の実を失敬しなかったみたいです。ソルジャーならではの自制心の賜物と言うべきでしょうか。
「だからね、君のハーレイが愛情こめて育て上げた木の実で楽しませて貰うよ、君も要らないって言ってたし…。ねえ、ハーレイ?」
「ええ、本当に効くか楽しみですね」
特別休暇を取りましょう、と濃厚なキスをしながらバカップルは消え失せ、残された会長さんが返せ戻せと叫んでいますが、情熱の果実の樹は二度と戻って来ませんでした。教頭先生の愛が育てたランブータン。会長さんに美味しく食べてもらいたかったと思うんですけど、報われないのはお約束かな…?



                 情熱の木の実・了



※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
 今回のお話、 『情熱の木の実』 には実は元ネタがあったりします。
 アルト様がハレブル無料配布本用に書かれた 『情熱の果実』 が元ネタです。
 作中に出てくる 『情熱の果実の樹』 の性質を更に大きく膨らませてみました。
 無料配布本をお持ちでしたら、ニヤリと笑って下さいです。
 お持ちでない方は「アルト様からの頂き物」のコーナーへどうぞ。
 以前、頂いたテキストが見つかりましたので掲載させて頂きましたv
 アルト様、ありがとうございます~!
 元ネタになったお話は、こちら→『情熱の果実

 そして来月はアニテラでのソルジャー・ブルーの祥月命日、7月28日が巡って来ます。
 ハレブルな生存EDを昨年に書き上げましたし、もう追悼の必要は無い…のですが…。
 節目ということで、7月は 「第1&第3月曜」 の月2更新にさせて頂きます。
 次回は 「第1月曜」 7月1日の更新となります、よろしくお願いいたします。

 更に7月28日には 『ハレブル別館』 の方に短編をUPする予定でございます。
 「ここのブルーは生きて青い地球に行けたんだっけ」と再確認して頂ければ幸いです。
 毎日更新の場外編、 『シャングリラ学園生徒会室』 にもお気軽にお越し下さいませv


毎日更新な 『シャングリラ学園生徒会室』 はスマホ・携帯にも対応しております。
 こちらでの場外編、今月はホタル狩りにお出掛けするようです。ホタル、捕れるかな?
←シャングリラ学園生徒会室は、こちらからv


 生徒会室の過去ログ置き場も設置しました。1ヶ月分ずつ順を追って纏めてあります。
 1ヵ月で1話が基本ですので、「毎日なんて読めない!」という方はどうぞですv









※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
 バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。

 シャングリラ学園番外編は 「毎月第3月曜更新」 です。
 第1月曜に「おまけ更新」をして2回更新の時は、前月に予告いたします。
 お話の後の御挨拶などをチェックなさって下さいませv






今や夏休みの恒例行事となったマツカ君の家の別荘への旅。海の別荘の方はソルジャーとキャプテン、「ぶるぅ」が一緒にくっついてくるのがお約束です。今年もしっかりそのパターン。出発を明後日に控え、今頃、ソルジャーとキャプテンは向こうの世界で大車輪で仕事を片付けている筈ですが…。
「ブルーもホントに頑張るよねえ…」
今年も来るとは、と会長さんが苦笑しています。
「たまには欠席すればいいのに、一度も欠席しないんだものね」
「そりゃそうだろう。今となっては来ないわけがない」
キース君がアイスコーヒーを一口飲んで。
「海の別荘はあいつらが結婚した場所なんだぜ? 結婚記念日と重ねたいから、と日付指定までしやがるじゃないか」
「それも迷惑な話だけどね…。まあ、一緒に祝えと押し付けられるわけじゃないからいいけどさ」
勝手にイチャイチャしてるだけだし、と会長さんが言うだけあってソルジャーとキャプテンは今もバカップルです。明後日からもベタベタやるのでしょうけど、目の毒な旅にももう慣れました。適当にスルーしておくべし、と私たちは会長さんの家のリビングを舞台に今年も誓っているわけで。
「そうそう、スルーするのが一番! …出来ないのが若干一名いるけど」
会長さんの言葉に、シロエ君が。
「教頭先生は仕方ないですよ…。今年もおいでになるんですよね?」
「ハーレイも海の別荘行きを毎年楽しみにしているからね。あそこで色々あったというのに、ぼくと一緒に旅行ってだけで食いついてくるのが笑えるよ」
本当によくも懲りないものだ、と会長さんが数えているのは教頭先生が海の別荘でかいた恥の数々。会長さんやらソルジャーやらの悪戯に引っ掛かった挙句に両手の指では足りないほどです。
「他にも忘れているヤツがあるかもね。あ、忘れるで思い出した。…ぶるぅ、改装はいつからだっけ?」
「えーっと…。確か来週だったかなぁ?」
「それはマズイな、忘れそうだ。…悪いけど、明日にでも行って来てくれる?」
「かみお~ん♪ 今から行って来る!」
お昼の支度は出来ているから、と言うなり「そるじゃぁ・ぶるぅ」は瞬間移動で消え失せました。えっと、行くっていったい何処へ…? 私たちの視線を一身に浴びた会長さんは。
「デパートだよ。いつもの売り場が改装で閉まっちゃうらしいんだよね。移転して営業するとは聞いているけど、売れ筋じゃないものは扱わないかもしれないし…」
「ああ、売り場面積が縮小するならそういうこともあるかもな」
在庫を置く場所が狭くなるから、とキース君が頷いています。会長さんが押さえておきたい品物というのは何なのだろう、と思いましたが、フィシスさんへのプレゼントとかなら聞くのは野暮。他のみんなも同じ考えに至ったようで、誰も追求しない間に「そるじゃぁ・ぶるぅ」がヒョイと戻って。
「買ってきたよ、いつもの紅白縞!」
「「「紅白縞!?」」」
それだったのか、と頭を抱える私たちの横で会長さんが包装された箱を受け取っています。青月印の紅白縞のトランクスを五枚。会長さんは新学期を迎える度にこの悪趣味な贈り物の箱を教頭室に届けるのでした。確かに紅白縞のトランクスなぞは売れ筋だとは思えません。
「……それを買う客は少ないだろうな……」
あんたくらいのものじゃないか、とキース君が疲れた口調で言えば、会長さんは。
「ハーレイも買っているだろう? ぼくが贈るのはとっておきのヤツで、普段用に自分でね。だけど他にも売れてるかどうか、そこはホントに謎だってば。取り寄せになっちゃった事もあるんだ。だから改装となれば早めに確保しておかないと」
これで二学期が来ても安心、と会長さんがポンと箱を叩いた所へ。
「そんなにレアなものだったのかい?」
不意に空間がユラリと揺れて、紫のマントが翻りました。ソルジャーは明後日からの旅に備えて忙しくしている筈だというのに、何故にいきなり来るんですか~!

「悪いね、御馳走になっちゃって」
狙ってたわけじゃないんだけれど、と口にするソルジャーに会長さんが深い溜息。
「どうなんだか…。おやつの時間と食事の時間は出現率が高いよね」
「美味しそうなモノを見ちゃうと、つい…ね。だけど今回は違うってば。でも美味しいや、これ」
ソルジャーが褒めているのは野菜たっぷりのトムヤムラーメン。スパイシーなトムヤムクンのスープがラーメンをグンと引き立てています。
「要するに食べに来たんだろう? やるべき仕事はどうなったわけ?」
「それはハーレイに押し付けて来た。だって紅白縞が気になるじゃないか、売れ筋じゃないって聞いちゃうとさ」
「売れ筋だと思っていたのかい!?」
「…そこそこ定番商品かなあ、って…」
いつも贈っているんだから、と答えたソルジャーに会長さんは額を押さえて。
「悪趣味だからプレゼントするんだってば! ぼくとお揃いだと思い込ませてあるんだってことも前に教えた筈だけど?」
「うん、その話は知ってるよ。…でもさ、店を改装している間は扱わないほど需要が無いとは思わなくって…。商品として売ってるからには一日に何枚かは売れるものだと…」
「売れないよ! 褌よりかは売れるかもだけど、何枚も替えを持つような人が好き好んで選ぶわけないだろう!」
もっとお洒落な柄が沢山ある、と会長さん。
「あんなのを喜んで履くハーレイの気が知れないね。百年の恋も醒めるってヤツだ。…想像してごらんよ、君のハーレイがアレを履いてたらどうするんだい?」
「…えっ、ハーレイはハーレイだろう? 肝心なのは中身であって、そっちがビンビンのガンガンだったら別に全く気にならないけど」
「その先、禁止!」
猥談をするなら今すぐ帰れ、と会長さんが眉を吊り上げましたが、ソルジャーは。
「うーん…。あれがダサイと思うかどうかは、文化の違いかもしれないよ? ぼくは事情を知っていたのに、ある程度の数は売れるものだと思ってた。ということは、ぼくにとってはダサくはないということだ」
「…思い切りダサイと思うけどねえ…」
「ぼくの世界じゃ紅白縞は売られていない。その辺の関係もあるのかな? ぼくのハーレイが履いていたって、こっちの世界で買ったヤツだなと思うだけだよ。ひょっとしたら逆にときめくかもねえ、なんと言っても地球の下着だ」
「…そうなるのかい?」
信じられない、と会長さんが呻き、私たちも口がポカンと開いたまま。紅白縞といえば笑いの対象でしかないというのに、ソルジャーはそれにときめくと…?
「可笑しいかなぁ? ぼくのシャングリラに持ち込んでみても笑われたりはしないと思うよ。…話を上手く持って行ったらブレイクだってするかもね」
「「「ブレイク!?」」」
「そう、シャングリラ中で紅白縞が大流行! 絶対に無いとは言い切れないさ、異文化なんだし」
世界が違えばセンスも別モノ、とソルジャーはトムヤムラーメンを啜り、スープも綺麗に飲み干してから。
「…ちょっと仕掛けてみようかな? 紅白縞が流行るかどうか」
「「「は?」」」
「ぼくのシャングリラで実験するんだ。地球で虐げられている可哀想な下着をブレイクさせるのも面白いよね。ファッションリーダーは勿論、ハーレイ!」
キャプテンが流行の最先端だ、とソルジャーは思い切りブチ上げました。
「ぼくとハーレイでデザインしました、って宣伝するのはどうだろう? 紅白縞の赤い色はさ、ほら、この襟元の石の色! 誰の服にもこの石はあるし、ミュウのシンボルみたいなものだ。でもって白はシャングリラの白! 誂えたようにピッタリじゃないか」
「「「………」」」
とんだ解釈もあったものです。けれどソルジャーはやる気満々、紅白縞を売り込むつもり。
「この際、憧れの地球を絡めてみるのもいいかもねえ…。明後日からは旅行じゃないか。その間にこっちの海辺を舞台にCMを撮影するんだよ。でもって、ぼくのシャングリラで全艦放送!」
イメージ戦略も大切だから、とパチンとウインクするソルジャー。
「撮影用の機材とかはさ、こっちのを使ってデータを変換すればいい。…マツカ、手配をお願い出来るかな?」
「え、ええ…。機材だけでいいんですか?」
「スタッフもお願いしたいところだけれど、ぼくは別の世界の人間だしねえ…。というわけで、撮影スタッフは君たちだ。腕もセンスも期待してるよ。そうそう、撮影用の紅白縞も何枚か買っておいてくれるかな? やっぱり新品で撮らないとね」
明後日からの旅をよろしく、と一方的に話を決めてソルジャーは帰ってしまいました。今年の海の別荘行きは紅白縞のCM撮影。全然嬉しくないんですけど、今更どうにもなりませんよね…?

紅白縞のCMの件を撤回しようにも機会が無いまま、別荘へ旅立つ日がやって来て。いつものようにアルテメシア駅に集合した私たちは数時間後にはマツカ君の海の別荘に…。
「海はいいねえ、何回来ても」
ソルジャーが大きく伸びをしているのはプライベートビーチ。まずはひと泳ぎ、と皆で出て来たわけです。砂浜にはお馴染みの竈が据えられ、「そるじゃぁ・ぶるぅ」がトウモロコシをジュウジュウと。
「かみお~ん♪ トウモロコシ、もう焼けてるよ! 次はホタテも焼く?」
「そうだね、今日は獲物がまだ無いし」
獲りに行くのは明日からかな、と会長さんが言えば教頭先生が。
「その辺でアワビが獲れる筈だぞ。皆を引率して行くとなったら遠征になるが、私一人ならサッと行って来るだけだしな」
先に食べ始めているといい、と教頭先生は網袋とアワビを剥がすための道具を持って泳いで行ってしまいました。少し先の岩場に網袋を引っ掛け、そこを基点に潜るようです。海中と岩場を往復すること十五分ほど、再び泳いで戻ってくると。
「どうだ、獲れたてのアワビとサザエだぞ。バター醤油も壺焼きも美味い」
「流石、ハーレイ。こういう時には役に立つよね。ぶるぅ、ぼくはアワビをバター醤油で」
会長さんの笑顔を教頭先生が満足そうに見ています。アワビもサザエも会長さんへの貢物でしょうが、それを気前よく分けてしまうのも会長さん。私たちは有難くお相伴にあずかり、ソルジャーやキャプテン、「ぶるぅ」も獲れたての海の幸を頬張って。
「うん、こういうのは新鮮さが命! ぼくの世界では出来ない贅沢」
そもそも海で遊べないから、とソルジャーは地球の海を満喫中。ソルジャーのシャングリラが在るアルテメシアという惑星には人工の海があるそうですけど、其処で遊べるのはIDを持つ市民だけ。ミュウと呼ばれて隠れ棲んでいるソルジャーたちには海辺のリゾートは無理なのです。
「この海を入れて撮影すればさ、それだけで思い切り非日常だよね。でもって字幕を入れたりするんだ、憧れの地球で過ごすひととき……なんて」
「「「!!!」」」
忘れたわけじゃなかったのか、と私たちの背筋がピキンと凍り、キャプテンが怪訝そうに首を傾げて。
「…なんの話です? 非日常だとか、撮影だとか」
「コマーシャルを撮影するんだよ。お前が主演で、舞台はこの地球」
「…コマーシャル…ですか?」
「たまにはファッションリーダーになってみるのもいいだろう? お前が履いてみせたパンツをシャングリラ中で流行らせるんだ」
ニッコリ笑ったソルジャーの唇が紡いだ言葉に、キャプテンはウッと息を飲み。
「……パンツ……。そ、それはいわゆるパンツなのですか、私はズボンと呼んでいますが」
「パンツだけど? こっちのハーレイが履いているだろ、赤と白の縞のパンツをさ。あれを流行らせたいんだよ」
「「は…?」」
キャプテンの声と教頭先生の間抜けな声が重なりました。そりゃそうでしょう、二人にとっては寝耳に水な話です。CMに出ろと言われたキャプテンも、紅白縞を愛用している教頭先生も、ソルジャーの妙な企画なんかはまるで知らないわけですから。
「こっちの世界じゃ紅白縞はあまりメジャーじゃないらしい。そしてブルーはそれが当然だと思ってる。そのマイナーな紅白縞がぼくの世界でブレイクしたら素敵じゃないか」
「…どうして私になるんです?」
キャプテンの疑問に、ソルジャーは。
「こっちのハーレイにそっくりだから、っていうのもあるけど、お前が履いたパンツが人気になったら嬉しいという気持ちもあるかな。…シャングリラ中で流行りのパンツを一番最初に履きこなした人物をパートナーに持つのは最高だろう? 中身の方も最高なんだって気分になるよね」
いろんな意味での中身だよ、とキャプテンに熱く囁くソルジャー。
「人物だけじゃなくて、パンツの中身もシャングリラで一番凄いんだ。ヌカロクなんかは朝飯前で、ぼくを一生満足させてくれるってわけ」
「退場!!!」
会長さんが叫ぶのと、教頭先生が鼻を押さえるのとは同時でした。またも出て来た謎の単語がヌカロクです。未だに意味が不明ですけど、猥談とセットで出て来るからにはディープな何かなのでしょう。ともあれ、ソルジャーがCM撮影を敢行する気でいるのは確か。これから一体、どうなるのやら…。

平和なビーチをブチ壊してくれた紅白縞がカメラの前に登場したのは夕食の後。まだキャプテンはCMに出るのを渋っていますが、ソルジャーの方は気にしていません。別荘の二階の広間にマツカ君が手配したカメラを運び込み、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が買い込んで来た紅白縞の内の1枚を出して。
「ハーレイ、これをよく見てごらんよ。赤と白とのストライプだ。…こっちの世界じゃ紅白はお祝い事のシンボルになっているんだけれど、ぼくたちの船でも赤と白には意味があるよね」
「…そうですか?」
首を捻るキャプテンに、ソルジャーは「分かってないなぁ…」と舌打ちをすると。
「キャプテンのくせにどうかと思うよ、その鈍さ! 赤はアレだろ、ぼくたちの服についてる石! デザインによって付けてる場所は変わってくるけど、誰でも1個は持っているんだ」
「…そ、そういえば、そうですね…」
「デザインしたのは服飾部でもさ、キャプテンとして把握していて欲しかったな。それじゃ白は? このくらいは君でも分かるだろう」
「ええ。あなたの上着の基本色です」
自信たっぷりに答えたキャプテンの見解にソルジャーは暫しテーブルにめり込み、正解を先に聞かされていた私たちは笑い転げました。ソルジャーと結婚したキャプテンの頭の中ではシャングリラよりもソルジャーが優先らしいです。仲が良いのはいいことですけど、シャングリラのキャプテンとしてはどうなんだか…。
「…ハーレイ、そこは違うだろう…」
ようやく復活したソルジャーが指をチッチッと左右に振って。
「お前にとっては白はそれかもしれないけどね、他のミュウたちに尋ねてみたら答えは全く別だと思うよ。白はシャングリラの船体の色だ」
「………。た、確かにシャングリラも白かったですね…。あまり外から見ないものですから…」
「それは言い訳として通用しない。シャングリラの船体は常に様々な角度からモニタリングされている。…そのデータは全てブリッジに向けて送られていると思ったが?」
「す、すみません……」
大きな身体を縮こまらせるキャプテンに向かって、ソルジャーは。
「鈍かった上に色ボケだなんて、シャングリラの皆が聞いたら泣くだろうねえ…。そんな最低なキャプテン像を払拭するためにも、ここは一発キメなくちゃ! 特別な色の赤と白とをあしらったパンツで華麗に登場! 憧れの地球の海辺を颯爽と歩いて男の魅力をアピールするんだ」
「…パンツで……ですか?」
「流行らせたいのはパンツなんだし、そうでなきゃ意味が無いだろう。カメラの向こうのぼくに向かってアピールする気で頑張るんだね。…あ、いくらぼくへのアピールと言っても、臨戦態勢になっちゃダメだよ? シルエットが崩れてしまうから」
臨戦態勢は二人きりの時に、とソルジャーが注意し、横から「ぶるぅ」が。
「かみお~ん♪ 大人の時間が始まる時にはパンツが窮屈になるもんね!」
「そうそう、ぼくには嬉しい変化だけどね」
今夜も期待してるんだ、と微笑むソルジャーの顔面に会長さんが叩きつけたのはレッドカード。
「退場!!!」
「ま、待ってよ、今夜は紅白縞の赤と白の意味をリポートしながら撮影を…」
「だったら真面目にやりたまえ! テーブルの上にそれを広げて!」
でないと部屋から叩き出す、と怒鳴り散らされたソルジャーはブツブツと文句を零しながらも紅白縞を1枚テーブルに広げ、縞の部分を指差しながら色にこめられたメッセージを説明し始めました。キース君がカメラを担ぎ、ジョミー君がマイク担当。シロエ君はモニターに向かってチェックし、会長さんが。
「カーット! …こんな感じでいいんじゃないかな」
「どれどれ? あ、しまった…。ぼく一人だと重みが無いよね、ハーレイの語りも入れるべきかも…」
ぼくとハーレイとでデザインしました、っていうのが売りだから、と主張するソルジャーのお蔭で撮った映像はリテイクとなり、振り回されるのは私たち。せめて台本を作って来てくれ、と会長さんが頼みましたが、ソルジャーはフレッシュな映像にこだわっています。
フレッシュ、すなわち、ぶっつけ本番。今後が思い切り心配ですけど、今夜の撮影はなんとか終了~。

翌日からは本格的にCM撮影が始まりました。撮影用の機材をビーチに運んで、ソルジャーの気が向くままに撮影開始。キース君たちを連れて素潜りに出掛けた教頭先生の姿で閃いたから、と撮りたがったのは『海風に紅白縞をはためかせて海辺を歩くキャプテン』で…。
「こ、此処でパンツに着替えるのですか?」
着替える場所がありませんが、と騒ぐキャプテンにソルジャーが差し出したものはバスタオル。
「これを腰に巻けばいいだろう? その下でゴソゴソ履き替えるのが基本なんだと聞いたけど? そうだよね、ブルー?」
「うーん…。ぼくはバスタオルを巻くくらいならサイオンでパパッとやるけどねえ? まあ、こっちのハーレイが他に人のいる所で履き替える時にはその方法かな」
「ほらね、問題ないだろう? さっさと着替えて!」
「し、しかし…」
まだ何か言いたそうな水着姿のキャプテンをソルジャーは強引に紅白縞に着替えさせましたが、そこで海辺に立たせてみれば。
「…あれ? はためかないなぁ、風はあるのに…」
おかしいなぁ、と風向きを調べているソルジャーと、スタンバイしている素人スタッフ。紅白縞は風をはらむ代わりに重そうに重力に従っています。
「えーっと…。こういう時に何か方法は無いのかい? ぼくは撮影には詳しくなくて」
ソルジャーに話を振られた会長さんが少し考えてからアドバイス。
「風力が足りない時には送風機だね。巨大扇風機だと思えばいいけど、そういう道具は此処には無いし…。いっそサイオンでなんとかすれば? それこそ君のイメージどおりになるんじゃないかな」
「サイオンで風を? そういう使い方は確かにあるけど、パンツ限定で使ったことが無いからねえ…」
大丈夫かな、と小首を傾げてソルジャーがサイオンを送った結果は。
「「「!!!」」」
キャプテンがバッと必死に股間を押さえ、会長さんの悲鳴がビーチに。
「やりすぎだってば!」
「ご、ごめん…。力加減が掴めなくって…」
ブワッと舞い上がった紅白縞の裾から、余計な何かが見えてしまった気がします。当然リテイク、撮影データは会長さんが速攻で消去。その間に判明した事実は、キャプテンが身体を拭く暇もなく着替えをさせられたせいで紅白縞が水を吸い、重たくなっていたということ。それでは絶対、はためきません。
「だから言ったんだよ、ぶっつけ本番じゃダメなんだって!」
台本を書け、と主張している会長さんの隣でキャプテンも。
「身体を拭いてから履き替えないと、と申し上げようとしたのですが…」
全く聞いて頂けませんでした、というキャプテンの訴えも、会長さんの提言もソルジャーの耳にはまるで入らず。
「フレッシュさと閃きが命なんだよ、こういうのはね。まだ風はあるし、乾いたパンツで撮り直しだ。ぶるぅが沢山買っておいてくれたし、紅白縞は山ほどあるんだからさ」
「かみお~ん♪ 濡れたヤツはお洗濯して干しておこうね!」
手洗いをして平たい場所に干すんだよ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は大真面目です。紅白縞を沢山買ったというのも、一日に洗って干せる枚数などを計算して考えた末のことだそうで…。
「あのね、夏はお日様が強すぎるから、日向だと色が褪せちゃうの! だけど陰干しできちんと乾かすためには時間がかかるし、沢山買っておくのが一番なの!」
「ありがとう、ぶるぅ。さあ、ハーレイ。今度はカッコよくキメていこうね」
ソルジャーに促されたキャプテンが海辺を歩かされ、海風にパタパタはためく紅白縞。あれが下着だと思わなければ、ダンディーなのかもしれません。会長さんの「カーット!」の声が勢いよく響き、撮れた映像を確認したソルジャーも納得の出来で、ホッと胸を撫で下ろす私たち。こんな調子で日が過ぎて…。

「あれっ? 今日もあっちに人がいるねえ」
何かあるのかな、とソルジャーの赤い瞳が向けられた先には松林。私たちのいるビーチからは相当な距離があるのですけど、三日ほど前から人影がチラチラ見えるのです。時々キラッと光の反射も。
「…バードウォッチングかと思っていたけど、それっぽい鳥は見当たらないね」
なんだろう、と会長さんも不思議そう。松林の中にいるのは主に女性で、双眼鏡を持っているらしいのですが…。光の反射は双眼鏡のレンズだとか。
「毎日となると気になってくる。ちょっと失礼しようかな」
普通の人の心を読むのは反則だけど、と口にした会長さんが一瞬の後にプッと吹き出し、堪え切れずに笑い始めてクスクス笑いが止まらなくなって…。
「お、お、お……」
「「「お?」」」
なんのこっちゃ、と顔を見合わせた私たちを他所に、会長さんはレジャーシートに突っ伏して。
「お、追っかけ…。さ、サイン希望の追っかけ集団……」
「「「はぁ?」」」
「プロと間違えられてるんだよ、毎日撮影してるから! あ、あわよくばサインを希望…」
チャンスを狙って待っているのだ、と涙を流して笑い続ける会長さんと、松林の中の人影と。ようやく意味が繋がりました。何かのはずみで撮影に気付いた地元の人が毎日見に来ているのです。此処がプライベートビーチでなければ、キャプテンはとっくの昔に取り囲まれていたでしょう。
「そうなんだ…。ハーレイの追っかけ集団ねえ…」
ソルジャーの瞳が悪戯っぽく煌めいて。
「じゃあさ、撮影が終わった時にさ、記念にサインもいいかもね? いつかブレイクする予定です、って」
サインしに行ってあげればいいよ、と笑うソルジャーは本気でした。松林の中のギャラリーは地味に増え続け、CM撮影が完了した日にキャプテンは紅白縞だけを纏った姿でソルジャーと一緒にゴムボートに乗り、キース君たち撮影スタッフが海へと漕ぎ出して松林に…。
「やってる、やってる。サインしてるよ、色紙とかに」
ブレイクも何も、と爆笑している会長さん。私たちや教頭先生に松林の中の光景は見えませんけど、キャプテンは色紙やTシャツ、バッグなんかにサインをしているみたいです。おまけに紅白縞一丁で記念撮影にツーショットにと…。
「だけど…。あんなことして大丈夫なの?」
別の世界から来てるのに、とスウェナちゃんが訊けば、会長さんは。
「その辺のことはブルーはプロだよ。ウィリアム・ハーレイとサインしてても、こっちのハーレイと同じ顔でも、気付かれないように情報を攪乱してるんだ。撮った写真のデータも同じさ。この世界よりも遙かに科学が進んだ世界で情報操作をしてきてるだけに、それくらいは朝飯前ってね」
なるほど、そういう理屈ですか! サインを貰った人たちの方はいつかキャプテンがブレイクしたらお宝になる、と喜びますし、ソルジャーだってパンツ一丁のキャプテンであっても自慢のパートナーを見せびらかしたくってたまらないわけで…。
「そうなんだよねえ、ぼくには全く理解不能さ。いくら追っかけがついてきたってフィシスにサインなんかさせないけどなあ…」
ぼくは一人占めするタイプ、と会長さんが呟く隣でスウェナちゃんと私は追っかけ魂の凄さについて語り合っていました。超絶美形のソルジャーがいるのに、サインや写真をねだられるのはキャプテンだなんて…。げに恐るべし、有名人。男は顔ではないんですねえ…。

こうしてソルジャーが完成させた紅白縞のコマーシャル。仕上げは別荘ライフが終わった後で、ソルジャーが自分の世界でテロップなどを入れて編集して…。
「そっか、こんなのになったんだ?」
パンツのCMには見えないね、とジョミー君が感心しています。試写会だとかで会長さんのマンションに呼ばれた私たちが見せられたものは、「地球へ行こう」というコンセプトで作られた見事なCM。青い地球とキャプテンがいる海辺とが交互に重なり、ちゃんと壮大な音楽までが。
「いいだろう? 海は架空の映像だってことにするけど、これで絶大な人気を呼べるさ、紅白縞は。シャングリラと赤い石も組み込んであるし、男ならきっと履きたくなるって!」
来週からオンエアするんだよ、と自画自賛しまくるソルジャーは服飾部の人が困らないように紅白縞の製作ノウハウを仕入れに行ってきたそうです。よりにもよって青月印の紅白縞の会社まで…。
「ブレイクしたら、こっちのハーレイにもシャングリラ製の紅白縞を届けようかな? ブルーが五枚贈ってるんだし、ぼくはドカンと五十枚! それだけあったら暫く買わずに済むと思うよ」
喜ばれるよね、と言うソルジャーに会長さんが。
「どうかなあ? ハーレイのこだわりは青月印だって気がするけれど…。まあ、それ以前の問題として、ブレイクしなけりゃ作れないだろ、五十枚なんて」
絶対無理に決まってる、と笑い飛ばした会長さんが泣きそうな顔でソルジャーに向かって土下座したのは三週間後のことでした。
「ごめん、あの時は悪かった! 君が凄いのは認めるからさ、シャングリラ印をプレゼントするのは絶対にやめて欲しいんだ。そんなのをハーレイが貰ったら…」
「いいじゃないか、究極の勝負パンツな紅白縞だよ? これを履かなきゃ男じゃない、って人気爆発のヤツなんだ。しかも流行らせたファッションリーダーはぼくと結婚しているんだし、君との結婚を夢見て履くなら青月印よりもシャングリラ印!」
それにコマーシャルの製作過程は君のハーレイも見学してた、と勝ち誇った顔で仁王立ちするソルジャーの後ろには紅白縞が五十枚詰まった立派な箱がドカンと鎮座しています。教頭先生の家にシャングリラ印の紅白縞が五十枚届くか、会長さんが阻止するか。
「…どうなるんだろうな?」
心配そうに声を潜めるキース君の隣で、シロエ君が。
「なんとかなるんじゃないですか? 最悪、ぶるぅの料理かおやつで懐柔すればいいんです。向こう十年ほど毎日ケーキを贈る羽目になるかもしれませんけど」
「「「………」」」
それは如何にもありそうだ、と首を振り振り、私たちは会長さんの涙の土下座を見守ることに。…ダサイとばかり思い込んでいた紅白縞はソルジャーのシャングリラで今や品切れするほどの大人気。キャプテンもファッションリーダーとして男を上げたらしいです。世の中ホントに分からないもの、紅白縞の未来に乾杯!



                  流行と仕掛け・了



※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
 教頭先生のトレードマークな紅白縞。所変われば品変わる……といった所でしょうか?
 4月、5月と月2更新が続きましたが、6月は月イチ更新です。
 来月は 「第3月曜」 6月17日の更新となります、よろしくお願いいたします。
 毎日更新の場外編、 『シャングリラ学園生徒会室』 にもお気軽にどうぞv
 番外編をしのぐ勢いで強烈なネタが炸裂中……かもしれません(笑)
 船長と遊べる 『ウィリアム君のお部屋』 の見本画像を下に載せてみました。
 よろしかったら、こちらにもいらして下さいね。


※毎日更新な 『シャングリラ学園生徒会室』 はスマホ・携帯にも対応しております。
 こちらでの場外編、今月は菖蒲の名所へお出掛け。またしてもソルジャー夫妻が乱入で…。
←『シャングリラ学園生徒会室』は、こちらからv

 『ウィリアム君のお部屋』 も、上記から。生徒会室の中にリンクがあります。
 見本画像はこちら↓


 船長に餌(ラム酒)をあげたり、撫でたり出来るゲームです。5分間隔で遊べます。
 元のゲームのプログラムをしっかり改造済み。ご訪問が無い日もポイントは下がりません。
 のんびり遊んでやって下さい、キャプテンたるもの、辛抱強くてなんぼです。

 サーチ登録してない強みで公式絵を使用しております。通報は御勘弁願います。
 1時間刻みで変わる絵柄が24枚、お世話の内容に対応した絵もございます。
 「外に出す」と5分で戻ってきますが、空き部屋を覗くとほんのりハレブル風味だとか…。
  

 生徒会室の過去ログ置き場も設置しました。1ヶ月分ずつ順を追って纏めてあります。
 1ヵ月で1話が基本ですので、「毎日なんて読めない!」という方はどうぞですv








※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
 バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。

 シャングリラ学園番外編は 「毎月第3月曜更新」 です。
 第1月曜に「おまけ更新」をして2回更新の時は、前月に予告いたします。
 お話の後の御挨拶などをチェックなさって下さいませv







シャングリラ学園、今日も平和に事も無し。会長さんが大活躍した一学期の中間試験の結果発表が終礼の時にあり、1年A組はぶっちぎりで学年一位でした。会長さんは出席していなかったため、私たち七人グループはクラスメイトに御礼の言葉を託されて「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋へと。
「かみお~ん♪ いらっしゃい!」
今日は抹茶のムースケーキにしてみたよ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」はニコニコ顔です。
「新茶が美味しい季節だもんね! もうすぐ梅雨になっちゃうけれど」
「あー、そっか…」
雨の季節か、とジョミー君は憂鬱そう。サッカー少年だけにグラウンドが使えなくなる梅雨は好みじゃないのでしょう。私たちだって登下校で雨に濡れるのは好きじゃありません。瞬間移動で登校してくる会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」には関係の無いことですが。
「おっと、話がズレる前に伝言だ」
キース君が流れを遮って。
「クラスの連中が礼を言っていたぞ。ブルー、あんたとぶるぅにだ。1年A組は今回も無事に学年一位だ」
「当然だろうね。でなきゃ出てった意味が無い」
そのために試験を受けたんだから、と会長さんは答えたものの、すぐに大きな溜息が。
「定期試験ってヤツはいいよね、いつも範囲が決まってる。ヤマをかけてもそこそこ行けるし、年々難しくなるってわけでもないし…。でもねえ…」
「なんだ、試験制度が変わりそうなのか?」
キース君の問いに、会長さんは。
「ううん、シャングリラ学園に関しては大丈夫。そりゃあ長年の間に少しずつは変わって来てるけど……生徒が対応できないほどに急な変化は遂げないさ」
「他所の学校のことですか? そんなニュースがありましたっけ?」
知りませんよ、とシロエ君が首を傾げると…。
「他の学校には違いないねえ、ちょっと毛色が変わってるけど。…キース、君なら聞いているんじゃないかな? 養成道場の入試内容が変わったらしい」
「ああ、アレか…。筆記試験が中心だったのが如法衣脱着と日常勤行も厳しく採点するとか何とか」
「「「は?」」」
なんのことやらサッパリです。何処の学校の入試でしょう? ん? 道場と言ってたような…?
「分からない? 養成道場は研修を受けてお坊さんを目指す人の専門学校みたいなものさ」
会長さんの説明にジョミー君がサーッと青ざめて。
「そ、それって鉄拳道場のこと? 一年間で全部習えるけど、殴る蹴るは指導員の愛でプライバシーは一切無いって…」
「そうだよ、ジョミー。なにしろ特別な道場だからね、もちろん入試も必要だ。ここがハードルを上げて来たとなると、キースの大学の僧侶専門コースの方も似たような道を辿るかも…」
ねえ? と話を振られたキース君は。
「有り得るな。今は面接と筆記試験だけだが、如法衣脱着の追加は充分考えられる」
「にょほうい…って?」
法衣は何度も着せられてるよ、とジョミー君が返しましたが、そこで会長さんが再び溜息。
「じゃあ、袈裟被着偈を唱えてみたまえ」
「えっ?」
「けさひちゃくげ。如法衣というのは袈裟のことだ。袈裟を着たり脱いだりする時に必須の偈文」
「そ、そんなのがあったわけ!?」
初耳だよ、と叫ぶジョミー君の隣でサム君が情けなさそうに首を振っています。
「普段から小声で唱えてるんだぜ、俺もキースも。今まで気付かなかったのかよ…」
「そうだぞ、俺も何度も教えた筈だが? 覚えていないか、出だしはこうだ。だいさいげだっぷく」
「し、知らない…」
聞いたことも無い、とポカンとしているジョミー君。お経を覚えられないことは知っていましたが、法衣を着るのに必須の言葉も全く覚えていませんでしたか…。

大哉解脱服、無相福田衣、被奉如戒行、広渡諸衆生。
会長さんがサラサラと紙に書き付けたのが袈裟被着偈というヤツでした。
「いいかい、読むよ? だいさいげだっぷく、むそうふくでんね、ひぶにょかいぎょう、こうどしょしゅじょう。…最低限、これは覚えて欲しいんだけど」
「む、無理だよ、そんなの! お経と変わらないじゃない!」
絶対無理、とジョミー君が喚き、会長さんはキース君と顔を見合わせて。
「これはダメかも…。面接と筆記試験だけの間に押し込んだ方がいいかもしれない」
「そうだな、今ならまだ間に合うしな」
「ちょ、ちょっと! なんでいきなり!」
お坊さんなんて、とジョミー君は顔面蒼白。キース君の母校の大学にも一年コースが出来るのですけど、今はまだ二年コースだけ。押し込まれてしまえば二年間はガッツリ全寮制の生活です。
「や、やめてよ、せめて一年コースが出来てから!」
「分かってないねえ、そこの入試が難しくなるかもしれないよ? 今なら余程のヘマをしない限り、もれなく入学出来るんだからさ。…開祖様のお名前を書き間違えたらアウトだけども」
そこさえ押さえれば大丈夫、と会長さんは太鼓判を押しました。開祖様の名前は大切なんてレベルではなく、他の部分が文句無しの出来であっても、それを間違えれば不合格になるらしいです。他の人には許されている再試験という救済策も通用しなくて、「また来年」と放り出されるのだとか。
「君の場合は今でさえも充分に危ないんだよ、開祖様のお名前があるからね。これ以上ハードルが上がらない内に覚悟を決めて入学したまえ」
「い、嫌だってば! みんなも笑って見ていないでよ! 誰か助けてー!」
ピンチなんだよ、と泣きそうな顔のジョミー君は素敵な見世物で、誰も助けはしませんでした。会長さんはキース君に来年度の願書の取り寄せ方を尋ねています。面接には師僧も一緒に行くそうですから、会長さんがついて行くのでしょう。ジョミー君もいよいよ本格的に仏門入りか、と感慨深く眺めていると…。
「こんにちは」
不意に空間がユラリと揺れて、紫のマントが翻りました。
「誰か助けてって叫んでるから来てみたよ。助けになればいいんだろう?」
「どうして君がやって来るのさ! 関係無いだろ、君は坊主と無関係だし!」
さっさと帰れ、と会長さんが怒鳴りつければ、ソルジャーは。
「お坊さんとは関係無いけど、ハードルが上がる件については助け舟が出せるかなぁ…と。ブルー、人にばっかり無理強いしてないで君も努力をするべきだよ」
「は? …なんでぼくが?」
「いつかハーレイと結婚するかもしれないだろう? ぼくが思うにハーレイの頭の中では妄想が膨らむ一方かと…。結婚したらアレもやりたい、コレもやりたいとね。だけどハーレイは君しか相手にしたくないらしいし…。ということは、君の努力が必要なんだよ」
頑張りたまえ、と片目を瞑ってみせるソルジャー。
「男同士は元々ハードルが高い。そのハードルが年々更に高くなるんだ、痛い思いをしたくなければ相応の努力をしておかないと」
「却下! 誰がハーレイと結婚なんか!」
「…だったらジョミーに無茶を言うのもやめたまえ。本人が覚悟を決めない限りは何事もモノになりやしないよ。結婚生活も修行も同じさ」
「………。同じレベルで語ってほしくないんだけれど……」
修行の最中は禁欲が鉄則、とブツブツ文句を口にしながらも会長さんは少し考えを改めたようで。
「分かった、ジョミーに無理強いはしない。…ただし覚悟はしておいて貰う。逃げ回る年月が長くなるほど、入試のハードルが上がりそうだとね」
「ふふ、助けに来た甲斐があったかな? 良かったね、ジョミー」
微笑むソルジャーにジョミー君が土下座で御礼を繰り返しています。ソルジャーもたまには役に立つのか、と笑い合いながら始まるティータイム。抹茶のムースケーキは味も香りも絶品です~!

そんな騒ぎがあってから間もない金曜日の朝、普段通りに登校してゆくと校門の前にジョミー君たちが。輪になって何か見ているようです。えーっと…?
「あ、おはよう!」
ジョミー君に声を掛けられ、「これ」と指差されたその足元には一匹の猫。子猫ではなく大人の白猫、青い瞳が綺麗ですけど、ジョミー君って猫を飼ってましたっけ?
「ぼくの猫じゃないよ、迷い猫だよ。バス停にいたから声をかけたらついて来ちゃったんだ」
「そうらしい。帰れと言っても帰らなくてな」
校内にペットは持ち込めないのに、とキース君が困っています。人懐っこい猫で歩くとついて来てしまうらしく、どうしたものかと思案中だとか。教室に猫を連れて行ったらグレイブ先生、怒りますよねえ…。
「いっそ蹴飛ばしたら離れていくかもしれないが…」
そうした方がいいのだろうか、とキース君が言い、サム君が。
「可哀想だけど、それしかねえよなあ…。守衛さんには預かれないって言われたもんなあ」
でも誰が、と押し付け合う間にも猫はみんなの足にスリスリと身体を擦り付けて懐いています。蹴飛ばすなんて出来るわけもなく、そこへキンコーンと予鈴の音が。これはもう猫と一緒にサボるしかない、と私たちが覚悟を決めた所へ。
「かみお~ん♪」
「おはよう。猫を拾っちゃったんだって?」
校門から歩いて出て来たのは「そるじゃぁ・ぶるぅ」と会長さんでした。
「ぼくとぶるぅで預かっておくよ。君たちは授業に行くんだろう?」
「え、でも…。ペットは学校に持ち込み禁止って…」
ダメなんじゃあ、と心配そうなジョミー君に、会長さんは。
「ぶるぅの部屋なら問題ないさ。可愛い猫だね、ぼくとおいでよ」
ヒョイと猫を抱き上げて校門を入ってゆく会長さんに守衛さんは何も言いません。そうえば守衛さんもサイオンを持った仲間だっけ、と納得しつつ、私たちはダッシュで教室へと。出席義務の無い特別生といえども、登校する以上は遅刻したくはないですからね。

放課後になって「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に行くと、会長さんが猫と遊んでいました。とっくの昔に飼い主を見付けて引き渡したと思っていたのに…。私たちの視線を一身に集めた会長さんは。
「難しいんだよ、動物ってヤツは。…人間ほど記憶がハッキリしないし、意思の疎通も上手くいかない。とりあえずバス停に張り紙かなぁ、と思うんだけど」
どんなデザインが目を引くだろう、と尋ねる間にも会長さんは猫に懐かれています。頬をペロペロと舐められ、「くすぐったいよ」とクスクス笑って首を竦めて…。と、フワリと部屋の空気が揺らいで。
「バター猫とは斬新だねえ…」
妙な台詞を口にしながら現れたのはソルジャーでした。
「年々ハードルが高くなるから努力しろとは言ったけどさ。犬の代わりに猫なのかい?」
「「「は?」」」
首を傾げる私たちの横で会長さんが柳眉を吊り上げて。
「関係無いっ! これは迷ってきただけの猫!」
「…なんだ、つまらない…。犬はイマイチ好みじゃないから猫に走ったのかと思ったのに」
「そういう趣味は無いってば!」
会長さんとソルジャーの会話が意味する所はサッパリでした。猫だの犬だのって何でしょう? キース君にも分からないようで、私たちにはお手上げです。そこでソルジャーがニヤリと笑うと。
「あ、知らない? バター犬っていうのがあってね、こう、身体にバターを塗り付けて…」
「ストーップ!!」
会長さんが拳でダンッ! とテーブルを叩き、猫がビックリしています。会長さんは「よしよし」と猫の頭を撫でると、膝に乗せてソファに座り直して。
「バター犬について語るつもりはないけどね…。バター猫なら語ってもいい。バター猫のパラドックスというのがあるんだよ。ブルーは知らないみたいだけれど」
「「「バター猫のパラドックス?」」」
それは初めて聞く言葉。ソルジャーも知らないらしいです。会長さんは楽しそうに微笑んで。
「ある高さから猫を落とすと足から先に着地するよね? それと同じでバターを塗ったトーストを落とすとバターが塗られた面が下になるらしい。…じゃあ、猫の背中にバターを塗ったトーストを……バターの面を上にして括り付けてから落としたら? どっちが先に着地するわけ?」
「「「えぇっ?」」」
猫の足が先か、バターが先か。どう考えても猫の足だろうと思いましたが、果たして本当にそうなのでしょうか? バターを塗られたトーストではないと言い切れるだけの根拠は何処にも無いような…。
「ね、面白い話だろう? 猫は浮いたままになるとか、反重力が生まれることになるとか、色々な説があるんだよ。論文を書いちゃった人までいたりする。…猫の方が遙かに高尚なわけさ、バターって単語が絡むとね」
「へえ…。それは有名な話なのかい?」
興味津々なのはソルジャー。会長さんは論より証拠とネットで結果を検索して見せ、私たちにも見せてくれました。各国語で解説されてますから知る人ぞ知る説なのでしょう。バタートーストを背中に括り付けられた猫のイラストもついています。
「かみお~ん♪ なんだか面白そうだね! でも…実験するのは可哀想だよね」
トーストはいつでも焼けるんだけど、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が猫の背中を撫で、ソルジャーが。
「どっちかと言えば、その猫をハーレイに差し入れた方が面白いことになるんじゃないかな? ブルー御用達のバター猫です、って」
「「「???」」」
なんのこっちゃ、と首を捻った私たちですが、会長さんは。
「…一瞬、猛烈に腹が立ったけど、それもいいかもしれないねえ…。ハーレイのことだから、バター猫のパラドックスを知っていたって、バター猫だと渡されちゃったら勘違いしてくれそうだ。その話、乗った! ぼくが自分で差し入れるのは嫌だけど」
「だったら、ぼくに任せてよ。今日は金曜だし、ハーレイも明日は休みだよね? もう絶好の差し入れ日和だと思うんだ」
おいで、とソルジャーが差し出した手に猫はスリスリしています。ソルジャーは猫を抱き上げ、頬ずりをして。
「ハーレイが家に帰った所で差し入れするのがベストだろうね。まだ早すぎるし、ぼくも飼い主探しを手伝うよ。張り紙もいいけど、もうちょっと…」
猫の記憶も探って探れないことはない、と頑張ったソルジャーのお蔭で猫が車に乗って来たことが分かりました。ということは御近所の人が飼っている猫では無さそうです。張り紙の効果があるのかどうか自信が無くなってきましたけれど、とりあえずバス停と校門の前と、その周辺に貼っておきますかねえ…。

猫の写真を載せて特徴を書いた張り紙をベタベタと貼って回った私たち。連絡先はシャングリラ学園の休日も繋がる番号です。係の職員さんには猫の話をしておきましたが、教頭先生には内緒の秘密。私たちは猫を連れ、ソルジャーも一緒に瞬間移動で会長さんの家にお邪魔して…。
「えとえと…。生のお魚はあげてもいいんだよね?」
お料理したのがダメなんだよね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」がお皿に入れた舌平目の切り身を猫が美味しそうに食べています。学校にいる間はキャットフードと猫缶でしたし、新鮮な味がするのでしょう。私たちの夕食は舌平目の白ワイン蒸しでした。もちろん他にもスープにお肉と盛りだくさん。
「さてと…。もう少ししたら出掛けようかな、ハーレイも食事をするようだ」
教頭先生の様子を窺っていたらしいソルジャーがニッコリ笑って。
「もちろん君たちも一緒に来るよね、見物しなくちゃ一生の損! ハーレイの一世一代の勘違いだよ?」
え。私たちもついて行くんですって? ここで中継を見るんじゃなくて? 会長さんの意見の方は…、と顔を窺えば笑みを湛えて頷いています。ということは、お出掛けですか…。そんなに凄い見世物なのでしょうか、バター猫って?
「まあね」
誰の思考が零れていたのか、会長さんがクスクス笑いを堪えながら。
「正直、ハーレイが何処までやるかは分からない。場合によっては女の子向けにモザイク必須なこともあるかも…。そういうものだよ、バター猫はね」
「あんた、パラドックスとか言わなかったか!?」
キース君がすかさず噛み付き、会長さんは。
「その前にブルーが言ってた筈だよ、犬の話を。…身体にバターを塗るとかなんとか」
「「「………」」」
「バター犬っていうのがあってね、そっちが身体にバターを塗る方。…猫はトーストでパラドックスだ。だけどハーレイが勘違いすれば猫だって犬と混同されるし、その時は立派な見世物だよね」
お楽しみに、と赤い瞳を煌めかせている会長さんは完全に悪戯モードでした。きわどいネタで教頭先生をからかう時の瞳です。ソルジャーの方は言わずもがなで、私たちは猫を拾ったばかりに大惨事に巻き込まれようとしている模様。バター犬だかバター猫だか知りませんけど、とんでもないことになりそうな気が…。

猫を抱いたソルジャーと、会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」も一緒にシールドに入って姿を消した私たちとが瞬間移動で教頭先生の家に押し掛けたのは一時間ほど後のこと。夕食を終えた教頭先生はリビングのソファで新聞を読みながら寛いで座っておられましたが。
「こんばんは、ハーレイ」
「…!?」
ソルジャーの服は会長さんの私服ですけど、それでも絶対に見間違えないのが教頭先生。新聞を置いてサッと立ち上がり、「こんばんは」と挨拶をして。
「どうなさいました、こんな時間に?」
「…ん、ちょっと……。君にお届け物があってさ」
これ、とソルジャーが猫を軽く揺すり、ニャーと可愛い鳴き声が…。
「猫…ですか?」
「うん。一晩君に貸そうかなぁ…って。実はね、これはブルーの猫で」
「ブルーの?」
「そう。ブルーが仕込んだ猫なんだけど、今夜はブルーが留守なんだ。それでさ、猫も寂しいだろうと…。君さえ良ければ一晩世話してみないかい?」
嘘八百を並べるソルジャーに教頭先生は頬を赤らめ、猫を眺めて。
「ブルーが猫を飼っていたとは知りませんでした。ですが…本当によろしいのですか? ブルーに知れたら大変なことになりそうな気がするのですが…」
「そうでもないよ? 多分…だけどね。君との結婚に備えて努力しておけ、って助言しといたら飼った猫だし、問題無いんじゃないかと思う」
「は? それはどういう…」
「結婚生活に向けての第一段階! まずはここから、ってことで挑戦したのがバター猫だった」
「……ば、バター猫……」
ツツーッと教頭先生の鼻から赤い筋が垂れ、プッと吹き出す会長さん。バター猫は予想に違わず万年十八歳未満お断りには無縁の世界の産物だったみたいです。耳にしただけで鼻血が出るとは…。ソルジャーは教頭先生が鼻にティッシュを詰める姿に「大丈夫かい?」と声を掛けて。
「その様子だと預かってもらうのは難しいかな? 普通に飼い猫として面倒を見てくれるだけでもいいんだけれど…。バター猫として使わなくっても」
「い、いえ…! ぜひ本来の姿を見たいと…! ブルーが飼っているバター猫なら!」
拳を握り締めた教頭先生に、会長さんがチッと舌打ちをして。
『…スケベ』
「………? 何か仰いましたか?」
キョロキョロしている教頭先生はシールドの中の私たちには気付いていません。代わりにソルジャーが「何も」と答え、教頭先生に猫を渡して艶やかな笑みを。
「それじゃ、一晩お願いするよ。あ、この子の名前は好きなようにどうぞ。…ブルーは特に名付けていないし、ブルーと呼ぶのも一興かもね。ねえ、ブルー?」
呼び掛けられた猫がニャアと嬉しそうに鳴き、教頭先生はボンッ! と一気に耳まで真っ赤に。
「そ、そうか…。お前の名前はブルーと言うのか…」
「ニャア?」
「ああ、ブルー…。今夜は私のベッドで寝ような、いつもブルーと寝ているのだろう?」
「ミャア~…」
すりすりすり。猫に頭を擦り寄せられた教頭先生は既にソルジャーが視界に入っていませんでした。バター猫の効果、恐るべし。
「ハーレイ? ぼくはこれで失礼するよ」
「…あっ、す、すみません! お、おかまいもしませんで…」
「気にしないでもいいってば。いい夜をね。…おやすみ、ハーレイ」
瞬間移動したと見せかけてソルジャーもフッとシールドの中に。猫と教頭先生の夜はまだ始まったばかりだというのに、なんだかとってもヤバそうな気配が…。

ソルジャーを見送った教頭先生が向かった先はバスルーム。その前に猫にミルクをやるべきかどうか思案した末に。
「…いや、ここでミルクをやってはいかんな。やはり空腹にしておかないと」
そう言ってバスルームに消えた教頭先生に「そるじゃぁ・ぶるぅ」が怒っています。
「酷いや、ハーレイ! お腹いっぱい食べさせてあげなきゃ!」
「うーん…。ぶるぅには難しすぎるかな? お腹いっぱいだとダメになっちゃうのさ、バター猫は」
ソルジャーの説明は私たちにも意味不明。どうして食べさせてはいけないのだ、と問い詰めましたが、「今に分かるよ」と笑われただけ。やがて教頭先生がバスローブを纏って出てきて、冷蔵庫から取り出したものはバターのケースで。
「行くぞ、ブルー。ベッドは二階だ」
「ニャ~オ」
すりすりすり。猫は教頭先生の足に身体を擦り付けながら二階へ上がってゆきました。私たちも追い掛けて教頭先生の寝室へ。会長さんの写真があちこちに飾られた中で一番目立つのはベッドの上の抱き枕です。会長さんの写真がプリントされたそれを教頭先生はギュッと抱き締め、キスをしてから。
「…さて、ブルーと有難く過ごさせて貰うか…。しかし…」
教頭先生はベッドに座ってバターのケースを開け、じっと見詰めて。
「バター猫など考えたこともなかったな…。ブルーが愛用しているバター猫というのは嬉しいのだが、やはり王道はあそこだろうか? しかし、ブルーにいきなり求めては嫌われそうな気もするし…。いや、猫のブルーは気にしないのだから、この際、思い切って頼むというのも…」
「「「???」」」
教頭先生の言っていることは全く分かりませんでした。どういう意味だ、と悩む私たちの隣では会長さんがギリギリと奥歯を噛み締めています。
「よ、よくも王道だの、いきなりだのと…。なんだってぼくが!」
「だから前にも言っただろう? 年々ハードルが高くなるよ、って。早い間に結婚しとけばいいのにさ」
そうしたまえ、とソルジャーに肩を叩かれた会長さんは。
「却下だってば!」
結婚なんかするもんか、と会長さんが怒っているとも知らない教頭先生、ベッドに上って来た猫の喉を指先で優しく撫でて。
「ブルー、お前は何処から舐めたい? 普段ブルーとどういう時間を過ごしているのか知らないのだが、初めてなら無難なのは胸なのだろうか?」
「ミャア!」
「そうか、頑張ってくれるのか。そう言われると悪い気はせんな。王道で行ってみるのが良さそうだ。…ブルー、お前ならさぞ巧いのだろう。…よろしく頼む」
なにしろ私は初めてなのだ、と恥ずかしそうに教頭先生の無骨な指がバターへと伸び、左手でバスローブの紐を解いて前を開け…。そこでモザイクがかかりました。ま、まさかバターを塗るというのは…!
「そのまさかさ」
ウッと息を飲む私たちの目の前で教頭先生はバターを塗り塗り。右手だけでは足りなかったらしく、左手までがバターを掬っています。たっぷりと塗り付け終わると、徐に猫を手招きして。
「…さあ、ブルー…。お前の番だ…」
「ミャア~オ…」
ペロペロペロ。差し出された教頭先生の指先についたバターを小さな舌が舐め始めた時。
「舐めちゃダメーっ!!!」
「「「!!!」」」
シールドの中から飛び出して行った「そるじゃぁ・ぶるぅ」が猫を抱き締め、教頭先生を睨み付けて。
「バターはお塩が多すぎるんだよ! ミルクでいいのに、酷いよ、ハーレイ!」
「…ぶ…、ぶるぅ…? ど、どうしてお前が…」
腰を抜かさんばかりの教頭先生の目の前でシールドが解かれ、ソルジャーに会長さんに私たちに…と勢揃いしたギャラリーの面子。教頭先生がパニックに陥りながらもバスローブの前をかき合せたのは至極当然の結果でしょう。バターまみれの大事な場所なんて、見せびらかすモノじゃありませんってば…。

「…まったくハーレイには呆れ果てるよ。バター猫のパラドックスを知らないどころか、猫にバターを食べさせるべきじゃないってことまで知らないとはねえ…。おまけにぼくがバター猫を飼って仕込んでるって? ハーレイとの結婚に備えて努力中だなんて、思い上がりにも程があるさ」
それなりに面白かったけど、と会長さんがクスクス笑っているのは土曜日の午後。私たちとソルジャーは昨夜は会長さんの家に泊めて貰って散々笑い転げたのでした。バター犬だの猫だのは今一つ分からないままですけれど、教頭先生が大人の時間に関わりのある勘違いをしたのは確かです。
「バター猫はぼくも最初に勘違いをしたし、猫の餌にも疎いけどさ…。あそこまで真面目に実行されると気分爽快ってヤツだよね。ハーレイが猫を飼わないことを祈っているよ」
心の底から、と言うソルジャーに会長さんが。
「その目的で飼うなら犬だろ?」
「ううん、最初の出会いが猫だったんだよ? 今更、犬には走れないと思う。飼うなら猫でそれも白いの、青い瞳で名前はブルーってね」
「大却下!!」
飼おうとしたら猫を保護する、と絶叫している会長さん。バター猫とやらが存在するのが許せないのか、ブルーという名前がダメなのか。それとも猫の身体に良くないというバターを舐めさせる行為が動物愛護の観点からしてアウトになるのか、どれが却下の理由でしょう?
「さあねえ、やっぱり名前がアウトじゃないのかな?」
何と言ってもブルーだから、とソルジャーが可笑しそうに笑っています。
「あの時のハーレイの大胆な台詞は凄かっただろう? お前ならさぞ巧いのだろうとか、お前の番だとか…。本物のブルーに向かって言いたい台詞が大爆発って所かな。…ブルーは巧いとか下手とか以前に一度も経験無しなのにねえ?」
ぼくは巧いよ、と自慢したソルジャーに会長さんがサイオンを使って投げ付けたのは未開封のバターの箱でした。
「巧いなら全部舐めたまえ! 舐め終わるまでは三時のおやつも夕食も無しだ!」
「ちょ、ちょっと…! ぼくは料理もしてないバターは…」
「それくらいの量なら楽勝だろ? 君のハーレイだと思うんだね。サイズ的にはバターの方が絶対、小さい!」
「ぼくはハーレイを食べ尽くしたりはしないってば!」
食べたいだけで、と騒ぐソルジャーが三時のおやつにありつけるのは何時になるのか分かりません。私たちは揃って囃し立て、リビングに無責任なエールが響き渡りました。
「「「バ・タ・ア! バ・タ・ア!!」」」
美味しいおやつには目が無いソルジャー、おやつのためならバターくらいは舐め尽くしそうな気もします。えっ、あの猫はどうなったかって? 張り紙を見た飼い主さんから電話があって無事に引き渡されました。マザー農場で飼われている猫で、食材納入のトラックに迷い込んじゃったらしいです。
「「「バ・タ・ア! バ・タ・ア!!!」」」
「うう…。いつかブルーをバター猫にしてみせるからね、それもハーレイ専属の!」
このバターに懸けて実現させてみせる、と呪いの言葉を吐いたソルジャーがギブアップしたのは半分も舐めない内でした。せめて砂糖が入っていれば…、と白旗を掲げる姿に誰もが爆笑。それから暫くバター・ソルジャーと呼ばれてましたが、これは名誉の称号なのか、不名誉なのか、どっちでしょうねえ?



            可愛い拾い物・了



※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
 今回、ちょっときわどいネタでしたけれど、「バター猫のパラドックス」なるモノは
 本当に存在いたします。気になる方は検索なさって下さいね。
 シャングリラ学園番外編は今月も月2更新です。
 次回は 「第3月曜」 5月20日の更新となります、よろしくお願いいたします。
 毎日更新の場外編、 『シャングリラ学園生徒会室』 もお気軽にお越し下さいませ。
 新コンテンツ、 『ウィリアム君のお部屋』 では公式絵の船長と遊べますv



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 こちらでの場外編、今月は…。お花見の旅に向かったソルジャー夫妻のその後は如何に?
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 『ウィリアム君のお部屋』 も、上記から。生徒会室の中にリンクがあります。
 船長に餌(ラム酒)をあげたり、撫でたり出来るゲームです。5分間隔で遊べます。
 元のゲームのプログラムをしっかり改造済み。ご訪問が無い日もポイントは下がりません。
 のんびり遊んでやって下さい、キャプテンたるもの、辛抱強くてなんぼです。

 サーチ登録してない強みで公式絵を使用しております。通報は御勘弁願います。
 1時間刻みで変わる絵柄が24枚、お世話の内容に対応した絵もございます。
 「外に出す」と5分で戻ってきますが、空き部屋を覗くとほんのりハレブル風味だとか…。
  

 生徒会室の過去ログ置き場も設置しました。1ヶ月分ずつ順を追って纏めてあります。
 1ヵ月で1話が基本ですので、「毎日なんて読めない!」という方はどうぞですv








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