シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
うちのペットvの「ぶるぅ」の誕生秘話?です。
悪戯大好きの大食漢。ブルーでさえ手を焼いている模様。
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起き上がった瞬間、後頭部に何かが当たり前のめりに倒れた。
少しだけ視線を上げれば大きな荷物を抱えた男が歩き去って行った。
(あの荷物が僕の頭を……)
自分を倒した憎き荷物を睨み付ける。
だが次の瞬間、
「これもだ」
首根っこを掴まれて摘み上げられた。
「やめろっ」
手足をバタつかせて叫べば、怪訝な顔が見て取れた。その顔は………。
「ブルー?」
ブルーと呼ばれた男、もとい青年は紅の瞳で自分が摘み上げたものをじっと見つめた。
「誰だ、お前」
「僕、僕、ぶるぅだよ!」
「知らないな―――あぁハーレイ丁度いい所にきた。これ、処分してくれ」
「きゃーーーーーっ!!」
悲鳴をあげて逃げ出そうとするが、ブルーがそれを許すはずがない。
こうなれば近づいてきたハーレイに救いを求めるしかない。
「キャプテン、キャプテン、僕、ぶるぅだよ。助けてよ」
「これは?」
「どうもここに沸いて出たようだ」
「ここに、ですか。青の間に侵入するとは危険ですね」
至近距離で見つめれば藻掻く手がハーレイの頬をひっかいた。
「その上、凶暴だ」
「じゃ、処分を頼む」
ハーレイに手渡すとブルーは青の間の奥へと姿を消した。
「キャプテン、やめて! 僕のこと忘れちゃったの?」
「忘れたも何も、今日初めて会うと思うが」
「えっ?」
「お前は自分のことをブルーと言ったな」
「違う違う、ぶるぅだよ」
「区別しにくいな。それで何故ここに?」
「お家に帰ろうとして、間違えたみたい」
「家はどこだ?」
「シャングリラ」
「ここだな」
「名前、同じだね」
にぃ、とぶるぅが笑った。
「……そういうことか」
合点がいったらしくハーレイはぶるぅを抱き直し、ブルーが消えた奥へと足を進めた。
「ねえ、何がそういうことなの?」
「いくつかの同じ世界があり、ここはその一つ。君がいた世界はここじゃない世界だ」
「……なんだか頭がごちゃごちゃになる」
「私もだ」
「ねえ、そしたらこっちにもぶるぅがいる?」
「いないな」
「ええっ? ブルーもキャプテンも別の世界にはいるんでしょ?」
「……………」
急に口を閉ざしたハーレイの顔をぶるぅは覗き込む。
「ねえ、どうしたの?」
「ぶるぅがいない理由は二つ。その世界にぶるぅが必要ないか、それとも……」
「それとも?」
「私の口からは言えん。ブルーから聞くといい」
青の間の奥の部屋のドアが開き足を踏み入れると、その中で寝転がっていたブルーの姿が目に入った。
「どうやら別の世界のぶるぅのようです」
「そうか。ここにはいないからな」
ブルーが答えると、ぶるぅはハーレイの腕からするりと抜け出し、ブルーの側に走り寄るとちょこんと座った。
「ここには何が理由で僕が……ぶるぅがいないの?」
ちら、とブルーがハーレイを見やる。
そして次の瞬間、ぶるぅが知っているブルーでは見たことない真剣な表情を見せ、
「この世界のぶるぅ、いや他の世界のぶるうのことを、君は知っているか?」
「ううん、知らないよ」
「ある世界のぶるぅはとっても元気な良い子で、ある世界では真面目な勉強家で、ある世界では観念世界で生きている」
「そう…なんだ…」
「君は知らないと思うけれど、ぶるぅは卵から生まれるんだよ」
「えっ???」
ブルーの半分程くらいしか身長のないぶるぅは目をまん丸にして驚く。
「サンタクロースが僕だけにくれるプレゼントなんだ」
「ブルーだけに?」
「そうだよ。そして一年間僕が温めて次のクリスマスに生まれるんだ」
「ブルーも温めたの?」
「そうだよ、僕も温めた。一年間ずっとね。どうしても出来ない時はハーレイが温めてくれたんだ」
言えばぶるぅの視線は一瞬ハーレイに向く。「ほんと?」と尋ねれば肯定が返ってきた。
「僕は楽しみにしていたんだ。どんなぶるぅが生まれるかと。次のクリスマスの日が待ち遠しかった。そしてその日、卵は割れた」
「う…うん」
「でも、ぶるぅはその中にいなかったんだ」
「どうして? どうして?」
「どうしてなのか、僕にも分からない。サンタクロースに聞いてみたけど、分からなかった」
「それでこの世界にぶるぅはいないのか……」
「そうなんだ」
言ってブルーは視線を落とした。
「ね、ねぇねぇそしたら僕、ここにいるよ。いてもいい?」
「君はどんなぶるぅ? 悪戯が大好きなぶるぅはちょっと困るな」
「………悪戯しないよ」
「食いしん坊も困るな」
「沢山食べないよ」
「そうか」
言ってブルーが両手を広げると、ぶるぅはぴょんと飛んでその腕の中に飛び込んだ。
(……あれ…?)
この感触に覚えがある。
どうしてだろうと考えようとしたが、ブルーに言葉をかけられ中断してしまった。
「じゃ、ここにいてもらおうかな?」
優しく向けられた微笑にぶるぅは「うん」と答えて目を閉じた。
《信じたようですね》
《まだ子供だからね。これで悪戯が減れば有り難い》
腕の中のぶるぅは昼間の船内中を混乱させた今年最後の悪戯に疲れたのか、もう寝息をたてていた。
■作者メッセージ
悪戯防止に芝居をしてみた長と船長。
…二人とも大根役者じゃなかった…かも?