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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

(うーん…)
 やっぱりダメか、と溜息をついた、ぼく。
 夕食もお風呂もとっくに済ませて、自分の部屋でパジャマなんだけど。寝るにはちょっぴり早い時間で、こんな夜にはたまに挑戦するんだけれど。
(今度のぼくは前のぼくとは違うのかな?)
 まだ小さいってことを除けば、見た目はそっくりだと思う。それに身体だって、アルタミラでは小さいままだった。脱出するまで成長を止めたままでいたから、今のぼくと同じだった筈。
 それなのに…。
(まるでダメだなんて、全然、似てない…)
 とことん不器用なぼくのサイオン。
 タイプ・ブルーとも思えないレベルの、前のぼくとは似ても似つかないぼく。



 小さい頃からそうだったせいで、特に気にしていなかったけれど。
 ハーレイに出会って前の生での記憶が戻って、ソルジャー・ブルーだったと思い出したから。
 そうなると今の不器用さが情けないから、何とかしたいって気持ちにもなる。
 ちょっと練習しようかな、って思った時にはコレが定番。
 勉強机の上に、水差しとコップ。
 夜中に水が飲みたくなりそうな気がする夜には、時々持ってくる、ぼく専用の。
 ぼくが寝込んでしまった時なら、ママが置いてってくれるけど。
 枕元に置いて、食事の度に水を取り替えてコップも洗ってくれるんだけれど。
 普段はぼくの部屋には水差しは無くて、コップだって無い。
 ぼくが自分で運んで来る日は、喉が渇きそうな気がした夜だけ。



 その水差しの水をコップに注いで、じーっと眺めて頑張ってみる。
 表面がちょっぴり動かないかと、さざ波は無理でもごくごく小さな揺れとか、波紋。
 だけど「揺れた?」と感じた時には、ぼくの身体も動いてた。夢中になって机に触ってたとか、足を動かしてしまっていたとか。
 まるで動いてくれない水。コップの中に澄ました顔して収まってる水。
 どんなに見てても何も起こらなくて、いつだって結局、飲む羽目になる。
 そのままコップに入れておいたら、零しちゃうかもしれないから。
 常夜灯しか点けてない夜中に起き出したりして、引っ掛けちゃうかもしれないから。



(今日も全然、ダメだったよ…)
 動いてくれなかった水をクイッと飲み干して、コップを置いた。
 コップの底に残った雫を、「濡れてますよ」って言わんばかりの雫を見詰めてみるけれど。
(…やっぱりダメかあ…)
 透明なガラスのコップの底に貼り付いて残った水。傾けても飲めない、ちょっぴりの水。
 明日の朝までにはすっかり乾いて痕跡さえも消えていそうな、コップを満たしていた水の名残。
(こんなにちょっぴりでもダメだなんて…)
 ガックリと肩を落としたぼく。
 雫さえも動いてくれやしない、と溜息しか出ない。
 水差しとコップを自分で部屋まで持って来た時のお決まりの行事。
 何度繰り返しても同じパターンになっちゃう行事…。



 覆水盆に返らず、だなんて言うけれど。有名な言葉なんだけど。
 前のぼくには、そんな言葉は意味が無かった。
 似たような意味の、類語って言うの?
 「後悔先に立たず」は何度も痛感したけど、「覆水盆に返らず」は無意味だったんだ。
 前のぼくには当てはまらない言葉だったから。それが当てはまりはしなかったから。
 覆水を盆に返せたぼく。
 引っくり返って零れちゃった水を、文字通りお盆に返せたぼく。
 だから今になって練習している、水差しとコップ。
 コップに注いだ水を元の水差しに戻せないかと、水差しの中に戻せないかと。
 未だに上手くいかないどころか、その気配さえも無いんだけれど。
 前のぼくなら簡単に出来た。
 水差しからコップに注がれた水を、一滴も残さずヒョイと水差しに戻せたんだ。
 もちろん、手なんか使ったりせずに。
 コップから水差しに手を使って注ぎ入れるんじゃなくて、一瞬の内にサイオンだけで。



(前のぼくがやった、一番最初は…)
 アルタミラから脱出してきた船を、シャングリラと名付けて間もない頃だったか。
 まだ小さかったぼくは、ハーレイにくっついてシャングリラの中を歩いてた。
 アルタミラがメギドの炎で燃え上がった時に、一緒に走って仲間を助けて回ったハーレイ。あの日に初めて会ったというのに、そんな気がしなかった優しいハーレイ。
 ぼくはハーレイが誰よりも好きで、心までが子供のままだったぼくには頼れる大人。身体だって大きくて、頼もしい大人。
 厨房で食事作りの責任者みたいな立場になったハーレイは、口癖のようにぼくに言ってた。
 「しっかり食えよ」って、「食わないと大きくなれないぞ」って。
 ハーレイが料理をしている時には覗きに行ったし、試作品の味見もさせて貰った。味見だけじゃハーレイに申し訳ないから、手伝ってジャガイモを剥いたりもした。
 出来上がった食事はいつでも、ハーレイと一緒に食べていた。
 それにブラウたち、後に長老と呼ばれた四人。
 ハーレイは料理作りの責任者って立場で、料理が完成してしまった後は暇になるから。
 後片付けだってしなくていいから、ぼくたちと食事が出来たんだ。



 厨房も食堂もあった初期のシャングリラだけど、船体は後の白い鯨よりも遥かに小さかった。
 その船の中で、飲み水はとても大切なもの。
 シャワーや洗濯に使う生活用の水は循環させて使っていたけど、飲み水は全くルートが違った。
 飲んだり、料理をするための水は別のルートで供給されるという仕組み。
 前のぼくたちが手に入れて乗り込んだ船は、そういう風に出来ていた。
 多分、宇宙を飛んでいた船はどれも似たようなものだろうけど。
 輸送船だって、客船だって。
 人類軍の艦船だって、そんな仕組みになってたろうけど…。



(生活用の水を使い回して、それを飲むだなんて嫌だものね)
 いくら綺麗に濾過してあっても、消毒されてても、シャワーとかの水を飲みたくはない。
 アルタミラの研究所に捕まっていた頃でさえも、飲み水はちゃんとあったんだから。
 前のぼくたちがシャングリラと名付けた船を造った人類だって、同じ考えだったんだろう。
(飲むための水は、別でなくっちゃ)
 飲用水は料理にも使って、食べた後の食器もその水で洗って。
 汚れてしまった水は浄化用のシステムへ送られていって、また飲み水へと姿を変える。
 だけど飲用水は料理専用ってわけじゃなくって、船のみんなも飲んでいるから。喉が乾けば水を飲むんだし、人間の身体は一日に大量の水分が必要なもの。
 厨房で使った水を浄化して循環させるだけでは、必然的に足りなくなる。そうならないように、生活用水の一部を高度に浄化するシステムも備わっていたんだけれど。
 要は、それだけ。
 前のぼくが奪って来るなら別だけれども、飲用水と呼べる水の量には限りがあった。
 生活用の水も、最初の内こそ量の加減が掴めなくって、シャワーを使うのに時間制限があったりしたけど、直ぐに慣れてそれは無くなった。
 大丈夫だって分かったから。生活用の水は充分にあって、好きに使えると分かったから。



 だけど、飲み水。
 システムの処理の限界量を超えてしまったら、無くなってしまう。
 節水を心がけると言っても、人間の身体が必要としている水分の量を減らせはしない。
 計算の上では、足りる筈だと結論が出てはいたんだけれど。
 もしもシステムが故障するとか、不測の事態を考えてゆけば飲み水はやっぱり貴重なもの。
 シャングリラが白い鯨になった頃には、予備のシステムも出来て心配無かった。
 でも、それよりも前の時代は…。
 「いざって時には、これを使えば」ってゼルたちが非常用の浄化システムを作り上げるまでは、飲み水は大事なものだったんだ。無くなってしまえば、生活用の水で代用するしかないから。
 きちんと消毒されてあっても、別のルートで出来た水しか無いんだから…。



 食事の時にコップに一杯分の水。
 もちろんおかわり出来たけれども、最初に全員に配られる分はコップに一杯。
 大切に飲もう、とみんなが思った。
 零さないように、うっかりコップを倒してしまって無駄になったりしないように。
 そうやって気を配る日々だったけれど。
 誰もが注意をしてたんだけど…。



「あっ、すまん!」
 ある日の食堂、バシャッと零れたハーレイの水。コップが隣のぼくの方へと倒れた。
 肘が当たったか何かだろうけど、「大変!」と咄嗟に思ったことは確か。
 だって、大切な水なんだから。
 零しても代わりは貰えるけれども、その分、船の飲み水の量が減るんだから。
「すまん、すまん。…お前、濡れちまったな」
 俺としたことが失敗だった、とハーレイが謝った相手は、ぼく。
 大慌てで走って行ったかと思うと、厨房のものらしきタオルを掴んで戻って来た。
「すっかり濡れてしまったか? 着替えた方がマシなくらいか?」
 ハーレイはぼくの隣に屈んで、服を拭こうとしてくれたけれど。
「ううん、濡れてないよ」
 ぼくはちっとも濡れていないよ、ほら、水なんかついてないでしょ?
「ありゃ?」
 思い切り零れたと思ったんだが…。殆ど飲んでいなかったからな、満杯に近かった筈なんだが。
「反射的に元に戻したんじゃないの?」
 ちゃんとコップに残ってるよ、水。
 ハーレイ、うんと反射神経がいいんだよ。
「そうかもなあ…」
 テーブルのコップには水が半分くらいは残ってた。
 一度は倒れて零れた証拠に、コップの外側には水滴がついて流れていたけど。
 床だって厨房の係が駆け付けて来て、モップで拭いていたんだけれど…。



「お前、本当に濡れなかったのか?」
 ちょっとした騒ぎになっていた事件が落ち着いた後で、ハーレイがぼくに訊いて来た。コップに新しい水を足して満たして、それを飲みながら。
「濡れなかったよ、ハーレイもぼくの服を見たでしょ?」
「しかし…」
 お前の方へと倒れたんだぞ、あのコップ。
 水は半分も零れちまったし、床にだって沢山零れてた。
 お前だって水を被ったとばかり思ったがなあ、濡れちまった床と同じくらいに。
「ぼくも飛んで来たと思ったけれども、ぼくには全然かかっていないよ」
 きっと此処まで飛ばなかったんだよ、零れた水。
 床に飛んじゃった分が全部で、ぼくには届かなかったんだよ。
「なら、いいが…」
 すまんな、危うく濡れ鼠にしちまうトコだった。
 貴重な水を零した上に、被害者まで出したら赤っ恥だ。
 当分の間は肩身が狭かったろうなあ、船が噂でもちきりってな。



 その時はぼくも全く気付いていなかった。
 ぼくに向かって飛んで来た水をサイオンでそっくり受け止め、コップに戻していたなんて。
 だけど、その次。
 そんな事件は忘れてしまって、平穏な日々が流れていた頃。
 食堂でハーレイがぼくの分と、自分の分とのおかわりの水を貰いに行ってくれた時。
 両方の手に水が入ったコップを持っていたハーレイに、通り掛かった仲間がぶつかった。
「おっと…!」
 危ない、とハーレイは揺れたコップを支えたけれど。
 傾いた拍子に飛び散った水をぼくは見ていた。コップの縁から飛び出した水を。
(水…!)
 零れちゃう、とぼくが思った途端に。
「うん…?」
 水が勝手に戻らなかったか、とハーレイがコップを持ったままで言った。
「勢いよく零れたように見えたが、コップに戻って来なかったか…?」
 零れるどころか一杯だぞ、水。
 ついでに床だって濡れていないし、水が自分で戻ったとしか…。



 周りのみんなも同じことを口々に言い出した。
 水は確かに戻っていったと、コップに向かって戻ったのだと。
「まさか、誰かがサイオンで…」
「出来るか、そんな器用なこと?」
 相手は水だぞ、おまけに予測不可能だったぞ?
 誰が咄嗟に反応するんだ、そんな速さで。
 光や音ほど速くはなくても、あんな速さに対応出来るか?
 有り得ないな、って会話が広がったけれど。
 船には一人だけ、桁外れなミュウが乗っかっていた。
「まさか…」
 みんなの視線がぼくに集まった。
 たった一人しか存在してない、宇宙空間だって生身で平気なタイプ・ブルー。
 宇宙空間を駆けて、人類の船から瞬間移動で物資を奪える最強のミュウ。



「そうか、ブルーか…」
 可能性ってヤツは大いにあるな、とハーレイがぼくの居たテーブルに戻って来て。
「ちょっと試すか、お前かどうか」
 ハーレイは自分のと、ぼくのコップをテーブルに置くと、厨房からトレイを持って来た。普段の配膳に使ってるヤツで、その上にコップがもう一つ。水が三分の一ほど入ったコップ。
「俺がこいつを引っくり返す。お前は水を受け止めてみろ」
 でもってコップに戻してみるんだ、さっきみたいに。
 お前、前にもやってたんじゃないか?
 俺がコップをお前に向かって倒した時に。
「無茶だよ、ハーレイ!」
 出来ないよ、そんな器用なこと!
 それに無駄になるよ、ハーレイが零しちゃった水…!
「安心しろ。そのためのトレイだ、こいつに充分、収まる量だ」
 お前が失敗しちまった時は、食器を洗った水と一緒に浄化システム行きってな。



 ハーレイがゴトンと倒したコップ。
 無理だよ、とぼくは悲鳴を上げたけれども。
 零れる筈の水は零れていなくて、ハーレイが素早く元通りに起こしたコップの中。
 トレイは濡れてもいなかった。零れた筈の水は全部コップに入ってた。
 みんなが「凄い」と叫んでる。手品みたいだと、流石はタイプ・ブルーだと。
(…ぼくがやったの?)
 意識してなんかいなかったのに。
 受け止めようなんて思っていなくて、サイオンを使った覚えも無いのに。
 貴重な水だと、無駄になっちゃうと慌てただけなのに、少しも零れなかった水。
 ぼくがコップに戻してしまったらしい、ハーレイが零したコップの水…。



 それが船のみんなが意識した最初の瞬間だった。
 零れた水さえ元に戻せる、前のぼくの力。
 食堂でおかわりの水を配って歩く係が足を滑らせた時も、水は綺麗に元に戻った。水を満たした大きな水差しの中に、何事も起こりはしなかったように。
 その時に派手に飛び散った水は、ハーレイが零してみせた量とは比較にならなかったから。
 ぼくのサイオンは凄い、と誰もがビックリしてた。
 あんな量の水でも操れるのかと、しかも心の準備も無しに…、と。
 そう、ぼくが集中していなくたって、「貴重なんだ」と瞬時に受け止められた水。
 意識すればもっと簡単に出来た。思い通りに水を操れた。
 シャワーから降り注ぐ水をサイオンで丸めて、大きな水玉を作ってみたり。
 逆に器に貯めておいた水を、無数の水滴に変えて宙へと浮かべてみたり。



 ぼくがそうやって遊んでいたことを、前のハーレイは知っていたから。
 「見て、こんなのも出来るんだよ」って得意になって見せたりしていたから。
 ハーレイだって面白がって、あれこれと話題にしたりする。
 「次はこんなのを試さないか」とか、「コップ無しでも水が飲めそうだよな」とか。
 そんな無駄話をしていた場所は、厨房だったりもしたんだけれど。
 ハーレイが料理の試作をしていて、他の係は別の所で下ごしらえをしてる時なんかも多かった。その日もハーレイはフライパンを握って試作の最中。
「お前、ホントに水なら何でも出来そうだよなあ、水の彫刻とかでもな。おっと…!」
 危ない、とハーレイがフライパンを揺すった、アルコール分を飛ばすフランベ。
 「これだけの材料、そうそう揃いはしないからな」と挑戦していた、肉のフランベ。
 ビックリするほど炎が上がって、ぼくも「危ない!」って叫んでたけれど。
 上がりすぎた炎は勝手に下がった。厨房の天井を焦がす代わりに、大人しいサイズに収まった。
「…今の、お前か?」
 お前、水だけじゃなかったのか。
 火と水ってのは性質がまるで違うモンだが、今のもお前がやったんだよな?
「…多分ね」
 天井が焦げちゃう、と思ったもの。
 でも、本当にぼくかどうかは分かんないよね。



 肩を竦めたぼくだったけれど、それで思い付いて試してみたら炎もちゃんと操れた。
 水だけじゃなくて、炎でも自由に操れたんだ。
 だけど…。
 やがてハーレイが厨房の責任者からキャプテンになって、船もすっかり落ち着いて来て。
 そうこうする内に、ぼくはソルジャー。
 リーダーと呼ばれる代わりに、ソルジャー。
 白い鯨は出来ていなくて改造案の段階だったけれども、シャングリラのみんなに制服が出来た。畑なんかも作り始めて、着々と未来への準備が始まる。
 シャングリラを本物の楽園にしようと、素晴らしい船に改造しようと。
 そのためには物資も必要だけれど、サイオンの研究もしなくちゃならない。
 せっかくサイオンを持ってるんだし、それを生かして色々なことが出来る筈だ、という話。
 シールドを張れる力が応用出来たら、船にだってシールドが張れる筈。
 更に進めれば、船の姿さえ消してしまうことも可能だろう。船の姿を消す、いわゆるステルス。
 タイプ・イエローが特に優れる攻撃力は武器に活用出来そうだった。
 今は武装さえしていない船に、ミュウならではの方法で武器を搭載出来る。普通の武器なら使う度に弾薬などの補給が必要だけれど、サイオンだったら補給は要らない。
 多くの可能性を秘めたサイオン。
 前のぼくの力に頼らなくても、ある程度ならば船を守っていけそうなサイオン…。



 そうして研究を進めてゆく中、サイオンを測定出来る装置を自作したのがゼル。
 ぼくだと針が振り切れるだとか言っていたけど、将来のためには役立つ装置。
 それを色々と改良する内に、前のぼくが食堂で披露してしまった水の事件を思い出したらしい。そこまでは良かったんだけど…。
 ある日、ヒルマンがぼくを訪ねて来た。「少し話があるのだがね」と。
「サイオンの相性?」
 なんだい、それは。話というのはそれなのかい?
「ゼルが新しい装置を作ったのだよ」
 どういった物質が個々人の能力を引き出すのに一番役立ちそうか、と調べる装置だ。
「ふうん…?」
「ちなみに、私とゼルの場合なのだが…」
 ヒルマンまでが開発に加わっていたらしい。案を出すだけかと思っていたのに。
「それって、結果が出てるってことは、人体実験したわけだよね?」
「せめて、試したと言ってくれないかね?」
 サイオンの研究をするには不可欠なのだよ、そういったことも。
 もちろんアルタミラの研究者のような無茶はしないさ、医療検査と似たようなものだ。
 一部の有志も測定してみて、どうやら有効らしいと分かった。
 それでだ、ソルジャーの場合は水と相性がいいのではないか、という話なのだが…。

 


「測定させてくれるかね?」という申し出。
 痛くないなら、とオッケーした。

 アルタミラで地獄を経験しちゃっているから、苦痛を伴う実験なんかは絶対に御免蒙りたい。
 だけど、その手の検査でないなら、引き受けなくてはならないだろう。
 なにしろサイオンの研究自体は、シャングリラの未来に関わることだから。
 相性とやらを調べて何にするのかは分からないけれど、仲間たちの役に立つかもしれないし…。



 では早速、と先に立ったヒルマンに案内されて出掛けた部屋。
 ゼルが待っていて、測定用らしき機械があった。その隣に置かれた簡易ベッド。
 服を脱ぐのかと思ったけれども、手袋を外して袖を捲り上げて。ブーツも脱いで、膝下辺りまでアンダーを捲って、現れた素肌に電極みたいなのを幾つか貼られた。それと、こめかみ。
 その状態でベッドに寝かされ、暫くの間、何か測っていたようだけれど。
 電流が流れてくるわけでもなく、特に何ということもなかった。ぼくはベッドに寝ていただけ。
 ヒルマンが「もう終わったから」と電極を外してくれて、ぼくが手袋とブーツを元の通りに身に着ける間に、測定結果は出ていたらしくて。
「…ふむ、やはり水か」
「火よりは水じゃな、他の何よりも水が一番上じゃわい」
 ヒルマンとゼルが話しているから、服を整えたぼくは機械を横から覗き込んだ。
「どんなデータ?」
「いや、まあ…」
 こういった感じなのだがね、とヒルマンに見せて貰ったグラフみたいなもの。
 これが水だ、と示された項目の数値は確かに他より高かったけれど…。
「…ちょっとだけだよ?」
 ほんの少ししか高くないじゃないか。誤差の範囲だと言えそうだけれど?
「そう言えないこともないのだが…。水ということでいいじゃないかね」
 せっかく作った装置なのだし、こういう結果が出たということで。
 ゼルと私の研究の成果だ、誤差の範囲でも一応、データは出ているのだよ。
「うむ、その通りじゃ」
 何の役にも立ちはせんがな、あえて言うなら水なんじゃ。
 水と相性がいいということじゃな、ソルジャーが持っておるサイオンは。



 それから間もなく、シャングリラ中にこんな噂が広がった。
 ぼくのサイオンは水と相性がいいと、ぼくの力を引き出すためには水が一番いいのだと。
 食堂での一件を覚えていた仲間が多かったことも、多分、災いしたんだろう。
 誰もが素直に納得しちゃって、ぼくには水だということになった。
 根拠になった例のデータを見もしないで。誤差の範囲だと気付きもしないで。
 だけど、あくまでゼルとヒルマンの個人的な研究みたいな代物。
 他の人たちのデータを測りもしないし、お遊びなんだと思っておいた。自分たちが作った装置を試してみたくてやったんだろうと、あれは一種の娯楽だろうと。
(…ホントに遊びだと思っていたのに…)
 そうした実験に付き合ったことさえ忘れていた頃、白い鯨に青の間を作られてしまったんだ。
 ぼくのサイオンは水と相性がいいのだから、と巨大な貯水槽付きで。
 前のぼくのサイオンを高めるための貯水槽だと、ソルジャーの部屋には必要なのだと。
 水と相性がいいと言っても、そんな部屋が役に立たないことはゼルもヒルマンも知ってたのに。ハーレイだって知っていたのに、作られてしまった巨大な青の間。
 ハーレイは面と向かっては言わなかったけど、青の間ってヤツはこけおどし。
 前のぼくを、ソルジャー・ブルーだったぼくを、派手に演出するための。



(…水だなんて、誤差の範囲だしね?)
 だけど、前のぼくが確かに見ていたデータ。
 他の物質との相性を示すものより、ほんのちょっぴり、高かった数値。
 だからサイオンの練習をするんだったら、水だと思っているんだけれど。
 水を相手に頑張ってみるのが一番だろうと思うんだけど。
(…それなのに、ピクリとも動かないってば!)
 今夜も動かせなかった水。
 水差しからコップに注いでみたけど、水差しに戻せなかった水。
 やっぱり今のぼくには無理かな、覆水を盆に返すのは…。




         水との相性・了

※前のブルーには簡単に出来た「覆水を盆に返す」こと。水と相性が良かったサイオン。
 誤差の範囲内だったというのに、大きな貯水槽があった青の間。演出も大事ですけどね…。
 ←拍手して下さる方は、こちらからv
 ←聖痕シリーズの書き下ろしショートは、こちらv







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「ハーレイ、分かる?」
 学校があった日の、夕食前の時間。仕事帰りに寄ってくれたハーレイと自分の部屋でテーブルを挟んで向かい合いながら、ブルーは頭を指差した。今日はちょっぴり御自慢の頭。
 学校が終わって帰宅した後、カットしに出掛けて行った髪。以前は休日に行ったものだけれど、今は平日が普通になった。それも毎回、事前に予約を入れておいて。
(だって、ハーレイが寄ってくれた時に家にいなかったら困るしね?)
 予約無しで出掛けて混んでいたなら、必然的に帰りが遅くなってしまう。仕事帰りのハーレイが訪ねて来てくれても、ブルーが留守では何にもならない。
 お茶でも飲んで待っていてくれれば問題は無いが、いつ戻るのかも分からないブルーを待つほどハーレイは暇ではないだろう。他にもやりたいことがある筈。例えば気ままにドライブだとか。
 せっかく来てくれたハーレイが帰ってしまったら悲しいから。
 そうならないよう、ブルーは予約を忘れない。もっとも、予約は母任せだけれど。



 おやつも食べずに急いでカットに出掛けた髪。
 ハーレイが来てくれるまでに、きちんと整えて貰った髪。
 髪型を変えたわけではないから印象は変わっていないけれども、それでも誇らしい気分。今日は綺麗に整っていると、プロに仕上げて貰ったのだ、と。
 その、髪の毛。今日、学校でハーレイに会った時より短くなっている筈なのだが。
 ハーレイは気付いてくれるだろうか?
 ほんの僅かな自分の変化に、ちゃんと気付いてくれるだろうか…?
「ふうむ…。今日はサッパリしているな」
 学校で見た時は普通だったが、ちょっと短くなったじゃないか。
「切ったの、分かった?」
「そりゃ分かるさ」
 恋人の見た目が変わったことにも気付かないようじゃ、話にならない。
 これが女性だと「鈍感すぎる」と文句を言われたりするらしいぞ。
 俺もせっかく気付いたからには、何か気の利いた褒め言葉でも出ればいいんだが…。
 生憎とお前の髪型ってヤツは、いつでもそいつのままだしな。
 「前よりもうんと可愛くなった」だの「その髪型も似合うじゃないか」だのと言いようがない。
 なんとも困った髪型だよなあ、前のお前だった頃から変わらないとはな。
「ふふっ」
 ちっちゃい頃からこれだったしね?
 パパもママも「ソルジャー・ブルーみたいだから」って言ってて、こればっかり。
 髪の色も目の色もそっくり同じじゃ、前のぼくみたいにしたくなるよね、似合いそうだもの。
 アルバムの写真は全部これだよ、赤ちゃんの頃は流石に違うけれども。



「そりゃまあ、なあ…。赤ん坊では無理だよな」
 髪の毛を伸ばすどころじゃないし。
 短いようでも、その髪型ってヤツにしたなら、赤ん坊には長すぎるしな。
「うん。だから、幼稚園に入る前くらいからかな、これになったの」
 今よりずっとチビのぼくでも、ちっちゃなソルジャー・ブルーみたいに見えるでしょ?
 パパやママがぼくを連れて出掛けた時には、大抵、声を掛けられてた、って。
 「可愛いわね」って頭を撫でて貰ったり、キャンディーとかをくれる人もいたって。
「なるほど、人気者だったってわけだ」
 俺もその頃のお前に出会いたかったな、さぞかし可愛い子供だったろうに。
 たとえ記憶が戻ってなくても、頭を撫でてやったと思うぞ。
 もっとも、俺は身体がデカイからなあ、お前の方では泣き叫んだかもしれないが。
「怖いよ、って?」
「そんなトコだ」
 まあ、そうはならなかったと思うがな。
 これでも子供には受けがいいんだ、ガキの頃から年下のヤツらの面倒を見ていたせいかもな。
 子供ってヤツは勘がいいから、子供好きかどうかを直ぐ見抜くってな。



 小さかった頃のお前に会いたかったな、とハーレイはブルーを見詰めながら。
「それで、その髪。二センチほどは切ったのか?」
 俺も切る時にはそのくらいなんだが。
 たった二センチでも伸びちまったという気がするしな。
「当たってる! 今日は二センチ」
 伸びましたね、って言って切ってくれたよ、いつもの人が。
 髪の毛は普通に伸びるのに…。
 どうして身長は止まってるんだろ、髪の毛みたいにぐんぐん伸びてくれればいいのに。
「おい、無茶を言うな」
 俺は背なんかもう伸びないって、誰が見たって分かるよな?
 それでも髪の毛は毎日伸びるし、伸びたら切りに行かなきゃならん。
 髪の毛ってヤツはそうしたものだぞ、それを背丈と一緒にするな。
「ハーレイの年だったら、それでも全然不思議じゃないけど!」
 ぼくは子供だよ、成長期だよ?
 まだまだ大きくなる予定なのに、背は伸びなくって髪の毛ばっかり。
 ハーレイと会ってから髪の毛は何度も切りに行ったけど、身長はちっとも伸びないんだよ!
「そう慌てるな」
 ゆっくり大きくなれと言っているだろ、いつも、何度も。
 急いで慌てて育たなくっても、のんびり育てばいいじゃないか。
 子供時代っていうのは楽しいモンだぞ、そいつを充分に味わっておけ。
「だけど…」
 ぼくは大きくなりたいんだってば、前と同じに。
 前のぼくと同じ背丈に早く育って、ハーレイと本物の恋人同士になりたいのに…。



 それなのにまるで伸びてくれない、とブルーは嘆いた。
 前の自分の身長との差は二十センチから縮まらないのだと、一ミリも縮んでくれないのだと。
「髪の毛だったら、二十センチくらいは簡単に伸びてくれそうなのに…」
 背だと無理だよ、髪の毛みたいに凄い速さじゃ伸びないよ。
 ハーレイと会ってから、止まらずに伸びてくれていたって、二十センチは遠いんだよ。
 ただでも遠いのに止まっちゃったよ、背が伸びるのが。
 伸び始めたって、二十センチも伸びるまでにはきっと時間がかかっちゃうんだ…。
「だろうな、相手は身長だしな」
 髪の毛みたいに単純な仕組みじゃないからなあ…。
 骨を伸ばして、周りの筋肉なんかもそれに合わせて伸ばしてやって。
 成長痛っていうのを知ってるか?
「…成長痛?」
「小さな子供に多いものだが、膝とかが酷く痛むんだ。病気ってわけじゃないんだけどな」
 成長期だから骨がぐんぐん成長するのに、そいつを周りの筋肉が強く引っ張る。
 すると軟骨に負担がかかって、痛みが出て来るという仕組みだな。
 お前くらいの年でも起こることがあるし、痛みはうんと酷いものらしい。
 小さな子供だと泣いちまうほどで、痛くて眠れないこともあるそうだ。
 俺は経験していないんだが、お前、やりたいか、成長痛?
 毎晩ベッドで「痛いよ」と膝とか擦っていたいか、半泣きになって。
「嫌だよ、そんなの!」
「なら、欲張るのはやめておけ」
 身長は髪の毛のようにはいかん。
 そうそう簡単に伸びやしないのさ、伸びる時期が来るまで大人しくしてろ。



 髪と背丈では伸びる仕組みが全く違う、と聞かされたけれど。
 背が伸びる時には成長痛などという怖いものもあると教えられたけれど。
 それでもブルーは髪の毛が伸びてゆく速度が羨ましい。背丈よりもずっと早く、毎日伸びる髪。
「髪の毛だったら、一年あったら二十センチでも伸びそうなのに…」
「そうだろうなあ、よく伸びる人なら夢ではないな」
「でしょ?」
 髪の毛が伸びる速さが羨ましいよ。
 ぼくの背だって、そんな風に伸びてくれればいいのに…。
 一年で二十センチも伸びるんだったら、直ぐに目標に届くのに。
 前のぼくの背と同じ背丈になれるのに…。



「髪の毛なあ…。確かに背よりは早く伸びるが…」
 あまり伸びるのが早すぎると…、だ。
 昔は嬉しくなかったらしいな、SD体制よりもずっと昔の時代のことだが。
「なんで?」
「髪の毛が早く伸びる人は、だ。助平だという俗説があった」
「スケベって、なに?」
「その、まあ…。なんだ、いわゆる好色。そういう人を指した言葉だ」
 根拠は全く無かったそうだが、そういう風に言われていた。
 だから嬉しくないってわけだな、「お前は助平だ」とからかわれたりするからな。
「えーっと…。ハーレイは早い?」
 ハーレイ、髪の毛、伸びるのは早い?
「お前、何かを期待してるな?」
 チビに手を出すほど飢えてはいないぞ、ついでに好色でもないが。
「ホント?」
 ねえ、本当に?
 キスをしたいとか、ぼくに触ってみたいとか。
 そんな気持ちにならない、ハーレイ?
「こら、煽るな!」
 そういう台詞はまだ早いんだ、とブルーの頭に拳がゴツンと下りて来た。
 力はこもっていないけれども、頭の真上に落ちた一撃。
 ブルーは「痛いよ!」と大袈裟に騒ぎ、それから赤い瞳でハーレイの瞳を覗き込んだ。



「…それでホントはどうなの、ハーレイ?」
 ハーレイの髪の毛、早く伸びるの?
 スケベかどうかは別の話で、ぼくの純粋な興味なんだけど。
「普通だと思うぞ、特に言われたこともないしな」
 いつも行ってる理容店でも、早い方だとは言われていない。
 俺がこの町にやって来て直ぐから、世話になってる店なんだが…。
 そう言うお前はどうなんだ?
 髪が伸びるの、早い方なのか?
「…早くない…。多分、普通だよ」
「ほら見ろ、つまりお前も助平なんぞとは無縁だってな」
 キスだの本物の恋人同士だのと騒いでいたって、そういう以前の問題だ。
 お前が自分で思ってるほどに、そういったことに縁は無いんだ。
 本当に我慢出来なかったら助平ってヤツで、髪の毛も早く伸びそうなもんだ。
「ハーレイ、それは俗説だって…!」
「そうではあるが、だ。今のお前には俺が当てはめておく」
 チビで髪の毛も普通の速さでしか伸びない間は、背伸びしなくてもいいってな。
 キスだの何だのと騒ぎ立てる前に、子供らしく生活しとけってことだ。



 諭されたブルーは唇を尖らせ、もう一度ハーレイに訴えてみた。
「早くなくても、髪の毛は普通に伸びるのに…」
 普通の速さで伸びてくれるのに、ぼくの背は全然伸びないんだよ。
 遅くてもいいから、ちょっとずつでも伸びて欲しいと思っているのに…。
「背だって伸びるさ、いつかはな」
 そうして前のお前とそっくり同じな姿になるんだ、俺もその日が楽しみだな。
「いつかって、いつ?」
 今年の内には伸び始める?
 それとも今年の間は無理なの?
 ねえ、いつになるの、ぼくの背がちゃんと伸び始めるのは?
「時が来たら、だ」
 お前が充分に子供時代の幸せってヤツを取り戻したなら、背も伸びるさ。
 前のお前が失くしちまった、成人検査よりも前の幸せな記憶。
 今みたいに本物のお父さんとお母さんではなかったが…。
 血の繋がっていない養父母だったが、前のお前にとっては親だった。
 その人たちと暮らした温かな家や、優しい思い出。
 機械に消されて失くしちまった幸せの分まで、今のお前が幸せな時を生きたなら。
 もう充分だと、沢山の幸せを手に入れたんだ、と満足したなら子供時代も終了だってな。



 ゆっくり幸せに育ってくれ、とハーレイはブルーの頭を撫でた。
 カットしたばかりの銀色の髪を、ブルーの手よりもずっと大きな褐色の手で。
 けれどもブルーは「早く伸びないかな…」と尚も続ける。
「前のぼくの背と同じ、百七十センチ。あと二十センチ…」
 十八歳までには間に合わせたいよ、ゆっくりだなんて言ってられないよ。
 だって、十八歳になったら結婚出来る年なんだよ?
 それまでにはちゃんと伸ばしたいのに…。
「どうだかな?」
 チビのままなら、十八歳になっても結婚どころじゃないんだが…。
 そいつは神様次第ってトコだな、お前が育つか、チビのままかは。
「…伸び始めてたら、結婚式の準備、してくれる?」
 ぼくの背が伸びるようになったら。
 結婚式を挙げられるように、ハーレイ、準備をしておいてくれる?
「その前にまずはプロポーズか?」
「うん」
 そうだよ、それが一番大切。
 今度はプロポーズをして貰えるんだもの、前のぼくたちの時と違って。
「お前の背丈が十八歳までに百七十センチになりそうならな」
「えーっ!?」
 早めにプロポーズしておいてよ、とブルーは強請った。
 百七十センチになってからでは間に合わないのだと、結婚式のための準備も要ると。



「あらかじめ準備をしておけってか…」
 百七十センチに届かない内からプロポーズか、とハーレイは腕組みをしてニヤリと笑った。
「俺に準備をしろと言うなら、お前の方でも準備しておけ」
「…何を?」
 怪訝そうなブルーにハーレイが答える。
「その髪の毛。今日、切って来たばかりの髪の毛だ」
 十八歳で結婚するなら、結婚式に間に合うように十センチほど伸ばしておくんだな。
「…なんで伸ばすの?」
「ウェディングドレスを着るんだろ?」
 それなら肩に届くほどは要る。
 でないとドレスに似合った髪が結えんし、余裕を見て伸ばしておいてくれ。
 十センチだったら半年くらいか…。
 間に少しは揃えるために切ったりするだろうから、半年ではちょっと足りないかもな。



 結婚に備えて髪を伸ばせ、と注文をされたブルーは驚いた。
 ブルーの誕生日は三月の一番末の日だったし、十八歳を迎える頃には義務教育を終えている。
 だから直ぐにでも結婚しようと考えていた。誕生日の日が結婚式でもかまわないと。
 ところが、結婚式を三月の末に挙げるのならば。
 それに合わせて髪を伸ばすなら、在学中から伸ばすしかない。それも半年近くの間。
「…ぼく、その髪の毛で学校に行くの?」
 肩まで届く長さに伸ばして、それで制服を着て学校に行くの?
「もちろんだ。卒業したら結婚するんだ、という夢を実現させたいのなら準備をせんとな」
 校則だと、長い髪の毛は束ねるんだったか?
 いや、肩までなら束ねなくてもかまわないのか…。
 そうだ、どうせなら二十センチ伸ばすというのはどうだ?
 お前の目標の二十センチだ、今のお前は背を二十センチ伸ばすってことが目標だろう?
「二十センチって…」
 そんなに伸ばしてどうするわけ?
 肩どころじゃないよ、背中まで届く長さだよ?
「白無垢を着るなら、そのくらい要るさ」
 お前、白無垢もいいなって前に言ってただろうが。
 二十センチあれば付け毛をすればな、綿帽子を被れる髪だって結える。
 大抵の人はカツラなんだが、自分の髪の毛で結ってみないか?



「…二十センチ…」
 ブルーにはまるで想像がつかない長さ。十センチだったら肩までか、少し過ぎるくらいか。
 けれども二十センチとなったら、今の長さの何倍だろう?
 それに…。
「ハーレイ、二十センチも伸ばすんだったら、一年くらいはかかってしまうよ?」
「そうなるだろうな、だから早めに準備をしろよ」
 卒業する学年が始まったら直ぐに伸ばし始めて丁度じゃないか?
 十七歳の誕生日から後は、揃える程度で伸ばしておけ。
「一年も…!?」
 そんなに伸ばすの、結婚式の準備をするために…?
 それに、校則…。そんな長い髪、束ねて学校に行かないと…。
「別にいいじゃないか、そういう男子生徒もいるし」
 要は個性だ、校則さえ守れば何も気にする必要は無いさ。
 背丈とセットで髪の毛も伸ばせ、お前の目標の二十センチで。



 十センチだの、二十センチだの。
 ハーレイは簡単に言ってくれるが、ブルーにとっては衝撃だった。
 前の生から同じ髪型、幼稚園に入る前から今の髪型。
 それを変えろと言われても困る。自分の姿がどんな風になるのか、全く想像出来ない世界。
 髪の毛を長く伸ばした自分は、前の自分と同じ姿形に見えるのだろうか?
 いくらハーレイと結婚式を挙げるためでも、今の姿を変えたくはない。
 前世の記憶が戻る前から「ソルジャー・ブルーみたいね」と言われた姿を変えたくはない…。
 けれどハーレイは「うむ、二十センチ伸ばしてみるのがいいな」などと言うから。
 ブルーは「嫌だよ!」とハーレイの言葉を遮った。
 結婚式の準備はしてみたいけれど、髪を伸ばすのは嫌なのだと。
 たとえ十センチでも伸ばしたくなくて、二十センチはもっと嫌だと。



「だって、ぼくの髪は…!」
 前からずっとおんなじなんだよ、今のぼくだって前とおんなじなんだよ!
 パパとママが決めて、小さい頃からこの髪型で。
 前のぼくと同じで過ごして来たのに、伸ばせだなんて言わないでよ…!
「ソルジャー・ブルーと同じ髪型のままにしておきたいのか?」
「そうだよ、それで結婚したいよ!」
「それはかまわないが、ドレスはどうする」
 お前、今の所は白無垢よりもドレスだったよな?
 白無垢だったらカツラでいけるが、ドレスもカツラを被って着るのか?
「カツラも嫌だよ、似合うように何とかして貰うよ!」
「うーむ…。プロならどうとでもするんだろうが…」
 花を飾るとか、そういった風に。
 ショートカットの花嫁っていうのも、いないってわけではないからなあ…。
 お前が髪型にこだわってるなら、其処の所は動かせそうにないな。



 とんだ制約が出来たもんだ、とハーレイは首を捻るけれども。
 ブルーには譲るつもりなど無く、真正面から宣言した。
「絶対、今と同じがいい。今の髪型、変えたくない!」
 どうしても伸ばさなきゃならないってことになったら、式が終わったら直ぐに元に戻す!
 切りに行くんだよ、今のぼくの髪型と全く同じに。
 ソルジャー・ブルー風でお願いします、って走り込むんだよ、切ってくれるお店に!
「おいおい、そこまでの勢いなのか?」
 何故、それほどに髪型にこだわる?
 今の髪型、そんなにお気に入りなのか?
「それもあるけど、前のぼくと同じがいいんだよ!」
 前のぼくとそっくり同じがいい。
 だって、前のぼくはハーレイと結婚出来なかった。結婚どころか、恋人同士なことさえ秘密。
 だから今度は、きちんとハーレイと結婚したい。
 前のぼくとそっくり同じ姿で、ハーレイと結婚したいんだよ。
 …前は叶わなかった分まで。
 前のぼくには出来なかった分まで、同じ姿でうんと幸せな結婚式を挙げたいんだよ…。



 メギドで散ったソルジャー・ブルー。
 ハーレイとの恋を誰にも明かせないまま、逝ってしまったソルジャー・ブルー。
 彼への想いは今もハーレイの内に残っているから。
 小さなブルーを前にしていても、未だに忘れることが出来ないほどに深く愛した人だったから。
 ハーレイは「…実は、俺もだ」と告白した。
「同じ結婚式をするなら、前のお前とそっくりな姿のお前がいい」
 俺だって、叶うものならば。
 前のお前と結婚式を挙げたかったし、その分をお前と取り戻したい。
 前は叶わなかった分まで、お前にきちんと誓いたいんだ。
 幸せにすると、今度こそ俺がお前を誰よりも幸せにしてやると。
 出来なかった誓いをやり直すんなら、前のお前とそっくりなお前に誓わないとな。
 髪型がドレスに似合っていようが、どうであろうが。
 前のお前と同じ髪型のお前に誓って、ちゃんと結婚しなくちゃな…。



 そう語った後、ハーレイはブルーの銀色の髪をクシャリと撫でた。
 カットしたばかりの銀色の髪を、ソルジャー・ブルーと同じ髪型をしているブルーの髪を。
「よし。お互い、この髪型がいいと言うんだったら、だ」
 ドレスに似合った髪ってヤツはだ、プロに任せておくとしようか。
 「こんなに短くては困ります」と言われようがだ、アレンジしてこそプロだしな?
 その代わり、頭が花だらけになっても文句を言うなよ?
 これでもかってくらいに沢山の花を、一杯に飾られちまってもな。
「うんっ!」
 花なら外せばそれで済むしね、伸ばしてしまった髪の毛みたいに急いで切りに行かなくっても。
 それに前のぼくとそっくり同じ姿で結婚出来るよ、花だらけでも。
 前のぼくだって、シャングリラの子供たちが作った花冠を被ってた。
 一度に幾つも被せられちゃって、ハーレイたちにも「お裾分けだよ」ってあげてたくらいに。
 あの頃よりもずっと幸せな世界に来たんだもの。
 花が増えたって、気にしない。
 花冠よりも沢山になった花の分だけ、幸せもドッサリ増えるんだから。



「そう来たか…。そう言えばあったな、花冠」
 俺も貰ったが、ゼルまで貰っていたっけな。お前のお裾分けの花冠を。
「そうでしょ? だから頭に花なら慣れてるんだよ、前のぼくだった頃から、とっくに」
 今度は花冠よりも豪華になるよね、ぼくの頭に乗っける花。
 それ専用に咲かせた花を幾つも、プロが飾ってくれるんだものね。
「そういうことになるわけだが…」
 だが、その前にだ。お前の背丈を前と同じにしないとな。
 でないと結婚どころじゃないんだ、頑張って伸ばせ。
「結局、そこに落ち着くの?」
「うむ、そこだ」
 しかしな、急ぐ必要は無いぞ?
 慌てなくっても、いつかはちゃんと大きくなる。前のお前とそっくりに育つ。
 その日までうんと幸せに生きろ、前のお前が失くしちまった子供時代というヤツを。
「いいな、ブルー? 焦るんじゃないぞ、背が伸びなくても」
 ゆっくりでいいから大きくなれよ、とハーレイは微笑む。
 前のお前とそっくり同じに育ったお前を嫁に貰う日を、俺は楽しみにしているから、と…。




           前と同じ髪型・了

※運命の17話放映から、9年目の7月28日です。定期更新日と被りました。
 生まれ変わって幸せなブルー、きっと普通が一番だよね、と。
 ソルジャー・ブルーだった頃から、変わっていないブルーの髪型。幼い頃から同じスタイル。
 結婚式を挙げる時にも、前と同じがいいそうですけど…。美容師さんは大変かも?

 「7月28日は、やっぱり特別なんだ!」と仰る方には、ハレブルじゃないですけど…。
 pixiv 専用サイト用にと書いてみた記念作品をどうぞ。タイトルをクリック。

 「青い星まで」:シリアスなショート。2016年7月28日記念創作。

 「老人とメギド」:ネタ系ショート、ブルー生存。こちらも記念創作です。

 ←拍手して下さる方は、こちらからv
 ←聖痕シリーズの書き下ろしショートは、こちらv








 

「今やすっかり普通になっちまったなあ…」
 ハーレイがふと零した言葉に、ブルーは「何が?」と首を傾げた。
 仕事帰りに寄ってくれたハーレイと両親も一緒の夕食を食べて、今はブルーの部屋のテーブルで食後のお茶。お菓子は無くてお茶だけだけれど、時間が許す限りはゆっくり話せる。
 そんな中で出て来た、何の脈絡も無い話。何が普通だと言うのだろう?
「ん? 何がって…。今日の晩飯さ」
 昼飯でもいいぞ、食堂で何か食べただろ?
「お昼御飯…?」
 ますますもって分からなかった。学校の食堂で摂った昼食。ランチ仲間と賑やかに食べた。
 その食堂にハーレイの姿は無かったと思う。
 食堂を利用することもあるハーレイだけれど、飛びぬけて立派なあの体格。何処かに居たなら、まるで気付かない筈が無い。たとえ自分とは遠く離れた席で、柔道部員たちとの食事だとしても。
 だからハーレイに会ってはいないし、昼食はヒントになりそうもない。
 けれど昼食と言われたからには、此処は考えねばならないだろう。



(今日のランチは…)
 日替わりランチは、今日はコロッケがメイン。それにスープとサラダがついた。
 トーストを添えるか、ライスにするかはその場で選べる。どちらにしようかと少し迷ってから、ライスに決めた。ブルーは大抵、ランチにはライスを選んでいた。
 トーストが食べたい気分の時とか、如何にもトーストが合いそうだとか。そういった時だけ選ぶトースト。普段はライス。コロッケだったから迷ったけれども、やっぱりライス。
 ブルーがライスをよく選ぶのには理由があった。その場で盛り付けて貰えるライス。好みの量を選べるライス。「少なめで」と頼んで盛られた量から「もっと減らして」と言えるのが強み。
 これがトーストだと、そうはいかない。
 厚みや枚数は注文出来ても、出て来たトーストを「多すぎるから」と減らせはしない。
 ライスだったら多すぎた分を釜に戻して、次のランチに盛れば済むこと。
 しかしトーストは焼けてしまえばそれでおしまい、多すぎる分を切って誰かに回せはしない。
 ブルーの昼食の定番と言えば、ランチセットのライスだけれど。



(…だけど昼御飯、他にも色々選べるよ?)
 食堂のメニューはレストランには及ばないまでも豊富にあった。
 人気のカレーライスや丼、パスタに麺類。もっとも、ブルーは滅多に注文しなかったが。
 注文しない理由は日替わりランチのトーストと同じ。量の加減が出来ないから。
(ぼくは大抵、ランチだけれど…)
 ハーレイの台詞と繋がらない。いったい何が普通なのかが。
(それに夕食…)
 さっき、ハーレイや両親と囲んだ食卓。
 テーブルの上にはお客様向けではない家庭料理の鮭のムニエル、野菜の煮物に味噌汁など。
 学校で食べたランチとは何の共通点も無く、考えるほどに分からない。
 コロッケとムニエルは全然違うし、サラダと野菜の煮物だって違う。スープと味噌汁ともなれば尚更、ハーレイの意図が全く掴めないから。
 思い切って訊いてみることにした。一人でぐるぐる考えていても、きっと答えは出ないだろう。



「ねえ、ハーレイ。普通って、何が普通なの?」
「もちろん飯だ」
 今日の昼飯。俺は弁当持参だったが、いつも持ってくる二段重ねのでっかいヤツだ。
 おかずはたっぷりが俺の基本だ、二段重ねは外せない。…まだ分からんか?
「ハーレイのお弁当まで出て来ちゃったら分からないよ!」
 お手上げだよ、とブルーは叫んだ。
 自分が食べた昼食と夕食の謎も解けていないのに、見てもいないハーレイのお弁当だなんて。
 けれどハーレイは「そうか?」と涼しい顔で続ける。
「ヒントは二段重ねの弁当箱だが」
「…豪華ってこと?」
 いろんなおかずが沢山入って、うんと豪華なお弁当?
「いや、俺が言うのは質よりも量だ」
 そりゃあ、質にもこだわりたいが…。
 栄養バランスと俺の気分とで、あれこれ詰めるのが楽しみなんだが。
「ますます謎だよ!」
「謎って…。同じ食うなら美味い飯の方がいいだろうが」
「そんなことを言われたら、もっと謎だよ!」
 美味しいだなんて言われても…。
 ぼくはハーレイの今日のお弁当、何が入ってたのかも知らないんだよ!
「今が一年で一番美味いが?」
「えっ…?」
 謎は一層、深まった。一年で一番美味しいとくれば、恐らくは旬のものなのだろうが。



 今の季節は実りの秋。様々な旬の食材が溢れるシーズン。
(鮭のムニエルはママが年中、作っているけど…)
 本来は鮭は秋だった筈。川で生まれた鮭が海で育って、産卵のために川を遡る時期。
 鮭だろうか、と考えたけれど、鮭はランチプレートの上には無かった。今日のランチはコロッケだったし、コロッケに鮭は入ってはいない。
「ハーレイ。今日の食堂の日替わりランチはコロッケだったよ?」
「コロッケなあ…。お前は、何を食ったんだ?」
「だから、ランチセット!」
 ハーレイだって知ってるくせに。
 ぼくは殆ど毎日ランチセットで、他のメニューは滅多に頼んでいないってこと!
「ふむ…。いつぞやは大盛りランチを頼んで、分厚いトーストを持ってはいたが、だ」
 食えもしないのに頼んでしまって途方に暮れていたよな、お前。
 残してた分を俺が食ったわけだが、あの時のトースト、例外だろう?
 お前、基本はライスだろうが。あれはいくらでも減らせるからな。
「そうだけど…」
 もっと減らして、って言ったら減らして貰えるけれど。
 だから大抵、ライスだけど…。



 ハーレイとは食堂でたまに顔を合わせるし、一緒に食べたことも何度かあった。
 身体測定を控えて背を伸ばそうと欲張って大盛りランチを頼んだ時が最初で、その後も何度か。
 ランチ仲間が周りに居るから、二人きりとはいかないけれど。
 ハーレイと二人で話したくても、生徒に人気の高いハーレイ。ランチ仲間に囲まれてしまって、ブルーだけとは話してくれない。ブルーもあくまで生徒の一人。
 それでもブルーは幸せだったし、特別なランチタイムになる日。
 何度も食堂で出会っていたから、ハーレイはブルーがライスを選ぶと当然知っているのだが…。



「ぼくがライスだと、どうかした?」
 分からないよ、ハーレイが言ってる話。
 何が普通で何が美味しくて、晩御飯とかお昼御飯とどう繋がるわけ?
 おまけにハーレイのお弁当だよ、何が何だかサッパリだよ!
「今が一番美味いと言ったぞ」
 それに俺の二段重ねの弁当箱は、だ。
 一段はおかずをギッシリ詰めるが、もう一段は飯が詰まるんだ。
 炊き込み御飯と洒落込むこともあるがな、飽きが来ないのは普通の飯だな。
 弁当を開ける頃には冷めちまっているが、おかずを食うには飯が欠かせません、ってな。
「…もしかして、御飯?」
 さっきからハーレイが言っているのは御飯なの?
 今だと新米を売っているから、一年で一番美味しいお米が食べられるけど…。
「そうさ、俺が普通だと言ったのは米さ」
 お前のランチに、俺の弁当。今日の晩飯にも白い御飯がついてただろう?
 今じゃ当たり前のように食ってる米だが、あれはシャングリラには無かったろうが。



 ブルーとハーレイが生まれ変わった地域は、遠い昔に日本と呼ばれた小さな島国が在った場所。地形はすっかり変わったけれども、画一的だったSD体制時代に消された文化を復活させる努力を続けて結果を出した。
 今も日本と呼ばれる地域。米食文化が根付いた地域。
 其処では米はあって当然、栽培も各地で行われている。様々な品種の米が栽培されている。
 けれども、遠い遥かな昔にブルーたちが暮らしたシャングリラ。
 ブルーが守った白い船。ハーレイが舵を握っていた船。
 其処に日本の文化などは無くて、米も無かったとハーレイはブルーに言うのだけれど。
 ブルーの記憶では米も育てた。白い鯨の広い農場には、米だってちゃんと植えられていた。



「えーっと…。シャングリラにもお米、あったよ?」
 ちゃんと育てて食べていたよ。
 もしかしてハーレイ、忘れちゃってる?
「いや、米があったことくらいは覚えているさ」
 農場で何を育てていたのか、知らないようではキャプテンなんぞは務まらん。
 収穫時期だの、採れた量だの、次の栽培の計画だのといった報告まで来るんだからな。
 しかしだ、シャングリラで育てて収穫した米。
 そいつでピラフだのリゾットだのを作ってはいたが、ただの白い飯は無かったろうが。
 米を水だけで炊き上げたヤツは無かったんだぞ、水と鍋があれば炊けるのにな。
「そういえば…」
 無かったね、とブルーは遠い昔の記憶を探った。
 シャングリラで採れた米はピラフに、リゾットなどに調理されたけれども。
 時には様々な野菜やハーブを刻んで混ぜ込んだ米を、くり抜いたトマトなどに詰めてオーブンで焼いた料理も作られたけれど、ただ白いだけの米は無かった。
 味付けもされず、具材も何も入ってはいない、ただの白い米。
 鍋と水さえあれば炊き上がる筈の、いわゆる「ご飯」は見なかった…。



 今のブルーには馴染みの「ご飯」。
 学校の食堂で「ライス!」と頼めば盛られて出て来て、家でも毎日のように炊かれる「ご飯」。
 あまりにも普通で、幼い頃から口にして来たものだったから。
 ハーレイが「すっかり普通になっちまったなあ」と言わなければ気付かなかっただろう。
 前の自分は白い御飯を知らなかったと、食べたことさえ無かったのだと。
「白い御飯、シャングリラに居た頃には無かったんだっけ…」
 ちゃんとお米を育てていたのに。
 リゾットとかピラフを食べていたのに、どうして普通に炊こうと思わなかったんだろう?
 白い御飯を食べるって文化、日本と一緒に消えちゃった?
 日本って国の文化が無くなった時に、白い御飯も消えちゃったの…?
「いや、消えちまったスケールってヤツは、もっとデカイな」
 白い飯は日本の文化と一緒に消えたんじゃない。
 日本と呼ばれた国だけじゃなくて、地球と一緒に消えたんだ。
「地球…?」
「そうだ、白い飯は地球と一緒に消えた」
 スケールがデカイと言っただろう?
 地球ごと滅びて消えちまったのさ、白い飯を食おうって食文化はな。



「どうして地球…?」
 ブルーは酷く驚いた。日本という小さな島国ならばともかく、母なる地球。
 白い御飯が地球と一緒に滅びただなんて、あまりにもスケールが大きすぎる話。日本で馴染みの白い御飯が、どうすれば地球ごと滅びるのだろう?
 確かに日本は、地球の一部であったけれども…。
「驚いたか? だが、本当の話だ、これは」
 お前、好き嫌いが無い上に、寿司は好きだろ?
「うん。お寿司は元から好きだったけれど、前のぼくの記憶を取り戻してからは、もっと好き」
 地球の海で獲れた魚とか貝が沢山だもの。
 青い地球まで来られたんだな、って実感出来る食べ物だもの。
「その寿司が、だ。日本で生まれて世界中に広がって人気だった時代があったんだ」
「お寿司が?」
「ああ。今もあちこちの地域で人気のようだが、その比じゃない」
 何処の国にも寿司を食べさせる店が沢山あったくらいに、寿司ってヤツは人気だったのさ。
 ところが、寿司は地球と一緒に消えちまった。
 それと一緒に寿司を乗っけてた白い飯も消えてしまったわけさ。
 もっとも、寿司に使う飯には酢を入れるがな…。だが、炊く時にはただの白い飯だ。
 そいつが姿を消してしまった。
 ついでに白い飯で食うのが基本の、日本の和食の文化もな。



「なんで…?」
 地球と一緒に
消えちゃうだなんて、どうしてなの?
 お寿司も和食も、どうして地球と一緒に消えてしまうの、お寿司は人気だったんでしょ?
 人気があるなら残りそうだよ、とブルーはハーレイに言ったのだけれど。
「残したくても、そうするわけにはいかなかったんだ」
 寿司ネタに欠かせない、魚や貝や。
 和食に使う出汁の元になる、昆布にカツオ。
 どれも海だろ?
 海から取れるものばかりだろ?
「うん」
「これで分からないか?」
 寿司も和食も、海ってヤツから切り離せない。
 生命を育む海が要るんだ、そいつが無ければ寿司も和食も作れないんだ。
「あっ…!」
 そうだったのか、と気付いたブルーの瞳が翳った。
 遥かな昔に滅びてしまって、前のハーレイが辿り着いた時には死の星だったと聞いている地球。
 今でこそ青い水の星として蘇ったけれど、一度は滅びてしまった地球。
 大気は汚染され、地下には分解不可能な毒素。
 生命の源、海からも魚影が消えて行った果てに、地球は滅びた。
 その地球を再び蘇らせるために、と人の未来を機械に委ねてSD体制の時代になった…。



「海が駄目になって消えたんだ、お寿司…」
 ブルーの瞳が悲しげに揺れる。
 愚かだった遠い昔の人々。地球を滅ぼしてしまった人々。
 彼らが地球を滅ぼしたせいで、前の自分たちは酷い目に遭わされ、生きる権利さえも奪われた。
 それでも尚も地球を目指して、いつか行こうと焦がれ続けた。
 地球が死の星のままだとも知らず、前の自分は仲間たちの命を守るためにとメギドで散った。
 今はもう遠く過ぎ去った時代のことだけれども、あの頃を思うとやはり悲しい。
 どうして人は地球を滅ぼしてしまったのかと、母なる星を死へと追いやったのかと。



 俯いてしまったブルーの頭を、ハーレイの褐色の手がポンポンと軽く優しく叩いた。
「落ち込むな、こら。…元々は寿司の話だろうが」
 それと、白い飯。
 前の俺たちには想像もつかなかった美味い飯がある世界に来たんだ、何もかも全部昔のことさ。
 青い地球だって今はあるんだ、海の中には魚も貝も山ほど棲んでいるんです、ってな。
「そうなんだけど…」
 青い海はちゃんとあるんだけれど、と返したブルーは「あれ?」と首を捻った。
 海ならばアルテメシアにもあった。人工の海ではあったけれども、魚も海藻も存在していた。
 昆布から作る出汁はともかく、寿司は作れたような気がする。
 けれども寿司は無かったから。地球と一緒に滅びたと聞くから、確認してみた。
「ハーレイ、アルテメシアにも海はあったよ?」
 ミュウの子供を救出する時に海に隠れたら、いつも魚が泳いでいたよ。
 あの魚でお寿司、多分、作れたと思うんだけど。
 アルテメシア以外の星にも海はあったし、お寿司は消えずに済みそうなのに…。
「そいつは前の俺たちの時代だったから、そう思うだけさ」
 SD体制が始まる前。
 人類は住める星を探して、植民惑星を幾つも作った。アルテメシアもその一つだな。
 だが、植民惑星に海を作れる技術はあっても、生態系を維持するだけで精一杯といった所だ。
 やっとのことで定着させた魚や貝などを食ってしまえるわけがない。
 もちろん養殖技術もあったが、食うための魚や貝は必要最低限でいい。食えればいい。
 海ってヤツから切り離せないような食文化は消すに限るんだ。
 SD体制とマザー・システムは、それを実行したわけだ。消してしまえと、滅ぼせばいいと。
 そうやって寿司は地球ごと滅びた。
 寿司も和食も、海が無ければ駄目な食文化は消えて行くしかなかったのさ。



「だったら、お米は? …白い御飯は?」
 海が無くても白い御飯は作れるよ?
 シャングリラでも多分、知っていたなら炊けた筈だよ、白い御飯を。
「白い飯だけじゃ美味くないだろう、って消えたんだろうな、寿司も和食も無いからな」
 もちろん白い飯を食ってた地域は日本の他にもあったわけだが。
 多様な文化は必要無い、というのがSD体制だ。
 地球を席巻していた大人気の寿司も消してしまったようなヤツらが残そうと思うわけがない。
 ヤツらが選んだ文化の他には何も要らない、宇宙の何処でも判で押したようにそっくりな世界。
 白い飯はヤツらに選ばれなかった。
 米はあっても、白い飯を食うって文化を残さなかった。
 美味くないと判断したんだろうなあ、寿司を作れない世界じゃな。
 もっとも、俺に言わせれば、だ。
 白い飯に酢を混ぜて寿司用の酢飯に仕立てなくても、ただの白い飯で充分に美味い。
 握り飯にして塩をパラリと振ったら、それだけで美味いものなんだがな。
「海苔を巻いたら、もっと美味しく食べられるよ?」
「その海苔が無かった時代だろうが」
 海苔も海だぞ、海が無ければ作れないんだぞ?
「そっか…」
 おにぎりに胡麻も美味しいけれども、白い御飯が無いんじゃね…。
 シャングリラで胡麻は育てていたけど、おにぎりは作れなかったんだね。
 前のぼくたち、白い御飯を知らなかったから。
 お米はリゾットやピラフにするもので、水で炊くだけなんて誰も思いもしなかったから…。



 地球と一緒に滅びた文化。数多の文化と共に食文化も滅びて消えて行った。
 今は食卓に当たり前にある白い御飯も、それに酢を混ぜた酢飯で作られる寿司も。
 青い地球と共に蘇った文化は、消えた食文化も連れ戻して来た。
 ブルーとハーレイが生まれ変わって来た地域には、寿司も和食も戻って来た。
 シャングリラでは誰も考えなかった、知りもしなかった米の食べ方。
 水で炊くだけで主食になる米。酢を混ぜてやれば寿司が作れる米。
 その上、海も魚たちを連れて戻って来た。寿司のネタに出来る魚たちを。



「ねえ、ハーレイ…。白い御飯もお寿司もある今って、とっても贅沢?」
「うむ。白い飯は繊細な味の料理を壊さないしな」
 ピラフとかではそうはいかんぞ、せっかくのおかずをブチ壊しちまう。
 でもって、寿司はだ。海の幸を山ほど食えるからなあ、地球の海で獲れた新鮮なのをな。
 前の俺たちには想像も出来なかった贅沢な飯だな、白いだけの飯は。
「白い御飯で食べると美味しいものね、コロッケとかでも」
 シャングリラだったら、コロッケにはパンがくっついてたのに。
 もしも白い御飯がくっついて来たら、きっとミスだと思ってたよね。
 ピラフを炊くのに失敗したなと、何も入れずに作っちゃったんだな、と。
「そうだな、俺もそう思っていただろうな」
 厨房のヤツらは何をしてるんだと、作り直してやろうかと。
 今の俺なら「今日は白い飯か」とバクバクと食って、「美味かった」と食器を返すんだが。
 白い飯にすっかり慣れちまったしなあ、単に「飯か」と思うだけだな。
 実に変われば変わるもんだな、所変われば品変わるってな。



 今や普通に主食になったな、とハーレイは笑う。
 シャングリラで暮らしていた頃なら失敗作かと思ったであろう、白いだけの御飯。色も無くて、具材の一つも入ってはいない白いだけの御飯。
 それを美味しく食べられる世界に来てしまったと、おまけに今では寿司までがあると。
「前のぼく、お寿司なんかは知らなかったよ」
 本で読んだからデータは知ってた。だけど食べたいとも思わなかったよ。
 白い御飯はよく分からないし、生の魚を乗っけるのも変。
 それにお醤油とワサビが全く想像出来なかったよ、どんなものだかサッパリだったよ。
「だろうな、あの時代には醤油も作られていなかったしな」
 寿司といえば、だ。
 今の俺はちらし寿司もけっこう得意なんだが、ついつい作りすぎりちまう。
 たまに食いたくなって作ると、下手すりゃ二日は白い飯の代わりに食う羽目になるな。
「その内にぼくが手伝うよ」
 結婚したら手伝ってあげるよ、ちらし寿司。
「食う方か、それとも作る方なのか?」
「どっちも手伝う!」
「いいな、そしたら手巻き寿司もやるか。こいつは一人じゃ出来ないからな」
 独身男が一人で手巻き寿司だと侘しいだろう?
 だから手伝え、お前が俺と結婚したらな。
「うんっ!」
 食べるのも用意も、どっちも手伝う。
 ちらし寿司も手巻き寿司も、どっちも作って一緒に食べるよ、いつかハーレイと結婚したら。



 シャングリラには無かった、水で炊いただけの米を食べる習慣。
 地球と一緒に滅びてしまった、白く炊き上がった色のついていない米。
 いつか結婚した時には…、とハーレイとブルーは指切りをする。
 ちらし寿司や手巻き寿司もいいのだけれども、普段の食事。
 白い御飯を二人分で炊くのが当たり前の時が来たならば。
 その幸せを感謝しようと、これが蘇った地球の恵みなのだと。
 シャングリラの中でしか生きられなかった時代は遥かな時の彼方へと去って、青い地球の上。
 其処には白い御飯が当たり前にあると、二人分の茶碗にそれをよそって食べるのだと。
 ハーレイの茶碗と、ブルーの茶碗。
 二つの御飯茶碗を食卓に置いて、「いただきます」と二人で声を揃えて…。




         消された食文化・了

※白い御飯も和食も無かったSD体制の時代。もちろん、お寿司もありません。
 けれど今では御飯が普通。いつか食卓に、ハーレイとブルーの御飯茶碗が並ぶのです。
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「ブルー。お前、レンコンは好物か?」
 ハーレイに訊かれて、ブルーは「えっ?」と赤い瞳を丸くした。
 夕食前のお茶の時間で、テーブルの上にレンコンは無い。紅茶と焼き菓子が載ったお皿だけ。
(えーっと…)
 ハーレイは仕事帰りに寄ってくれたから。
 このタイミングでレンコンが好物なのか、と尋ねられたからにはハーレイは此処に来てから多分レンコンを見たのだろう。
(…でも、レンコンって…)
 キッチンにレンコンはあっただろうか、と考えたけれど分からない。母がレンコンを買って来たなら、置き場所は恐らくキッチンの筈。
(レンコン、あった…?)
 学校から帰って、おやつを食べて。空になったお皿とカップをキッチンの母に渡しに行った。
 その時にキッチンに入ったわけだが、レンコンなどは見た覚えが無い。
(テーブルの上には無かったよね?)
 母が常温でも大丈夫な食材を置くテーブル。その日に使う、タマネギやジャガイモ。
 其処にレンコンは無かったと思う。
 食料品店の袋に入ったままなら、気付かなかったかもしれないけれど。



 それにしたって、ハーレイの言葉。
 ハーレイには今夜の夕食のメニューが分かるのだろうか?
 どんな料理になるかはともかく、レンコンを使った何かが出て来る筈だと。
(ママ、レンコンが入った袋を玄関とかに置きっぱなしにはしないよね?)
 買い物に出掛けた母は荷物が軽ければ勝手口から家に入るし、多い時でも玄関から入って置いたままにはしておかない。いつ来客があるか分からないから、直ぐに奥へと運んでいる。
(ぼくも運ぶのを手伝ったりもしているしね…)
 今日は「手伝ってくれる?」とは言われなかったし、帰った時には母は買い物を済ませていた。覗いた冷蔵庫に昨日は無かったものを見かけたのが証拠。
(あれからもう一度、買いに行ったりしないだろうし…)
 しかも、レンコン。
 常備しておく食材では無いから、使うつもりなら忘れずに買って来ただろう。
(やっぱり、レンコン、あったのかな?)
 けれども記憶に無いレンコン。キッチンで見かけなかったレンコン。
 ハーレイが「好物なのか?」と訊いて来たからには、きっと今夜はレンコンの料理。
 でも…。



(なんでハーレイ、ぼくも知らないレンコン料理だって分かるわけ?)
 玄関にレンコンが置いてあるのを見たのだったら、納得だけども。
 母に限って、それだけは無い。来客の目に入る所にレンコンを置いておいたりはしない。
(もしかして、透視…?)
 今のブルーには出来ないけれども、ソルジャー・ブルーだった頃なら簡単に出来た。青の間からブリッジの様子を覗いてみたり、公園や食堂や厨房だって。
 仲間のプライベートな空間を見ようなどとは思わなかったが、公共の場なら眺めていた。
 きっとそれだよ、と考えるブルー。ハーレイはキッチンを覗いたのだ、と。
「ハーレイ、此処からキッチン、見えるの?」
「いや、無理だが? 透視ってヤツだろ、前の俺にも出来なかったぞ」
 キッチンの様子はとんと分からん。集中したなら、ぼんやりと見えるかもしれないが。
「だったら、ママの心を読んだ?」
「読んでいないぞ、そういうのはマナー違反だからな」
 ついでに、お母さんはお前と違ってサイオンのコントロールが出来てる。
 心が零れていたりはしないし、思念の拾いようがない。



「えーっ?」
 透視でもなく、心を読んだわけでもないと言うのなら。
 ハーレイが今夜の夕食のメニューを知る方法は一つしか無い。
「レンコンって…。ハーレイ、それって、予知だったりする?」
「あながち外れというわけではないが」
 返って来た答えに、ブルーはビックリ仰天した。
「ハーレイ、今度は予知が出来るの!?」
 前のブルーにさえ、ほんの僅かにしか備わっていなかった予知能力。
 未来に何が起こるかは読めず、ただ漠然と嫌な予感や悪い予感を感じていただけ。虫の知らせと変わらないレベルで、周りの状況を考え合わせて「こうなるだろう」と予想していた。
 そう、前の自分の命がメギドで尽きてしまうということでさえも。
 本当の予知と呼べる力はフィシスだけしか持たなかった。タロットカードを繰り、未来を読んでいたフィシス。ミュウにとっても神秘の力で、それゆえに皆に頼りにされた。
 そのフィシスにしか無かった力を、今のハーレイは持っているのだろうか…?



「まさか。俺は前の俺とそっくり同じさ」
 予知なぞ出来ん、と可笑しそうに笑っているハーレイ。
 ならばどうしてレンコンなのか。何処からレンコンが出て来たのか。
「えーっと…。今日の晩御飯、ママはレンコンだって言ってた?」
「レンコンも何も、お母さんから晩飯の話は何も聞いてはいないぞ」
 ついでに家に入った時もだ、特に匂いはしていなかったな。
 仮に匂いがしていたとしても、俺の鼻ではレンコンの匂いなんぞは分からん。
 酢バスだったら、酢の匂いがツンと漂ってるから「酢バスかもな」と思いはするが…。
「それなら、なんでレンコンなの?」
「シーズンだしな?」
 食料品店で見かけたのだ、とハーレイは言った。
 本格的な旬はまだ先、十一月頃からの冬レンコンが名高いらしいのだけれど。
 秋口に採れる秋レンコンもまた、柔らかくてあっさりした味わいで美味なものだという。
「そうなんだ…」
「まあ、前の俺たちの頃にはレンコンなんかは無かったしな?」
 シャングリラに無かったというだけじゃなくて。
 レンコンを食うって文化自体が消えちまっていたな、蓮は観賞用だったようだ。
 あの頃の俺は特に調べもしなかったんだが、植物園だとか水と親しむ公園だとか。
 そういう所に植えて花だけ眺めていたんだ、根っこには見向きもしないでな。



 観賞植物だったらしい、前の自分たちの時代の蓮。
 地下茎が食用だったことさえ、忘れ去られていた時代。
 そのレンコンは今のブルーたちが暮らす地域では普通の食材なのだけれども。
 何故ハーレイに好物なのかと訊かれたのかが分からないから。
「それで、どうしてレンコンなの?」
 好き嫌いは無いから、もちろん嫌いじゃないけれど。
 はさみ揚げも、きんぴらも何でも食べるよ。酢バスも、煮物に入ってるヤツも。
「ふうむ…。その割に予知能力は皆無、と」
「予知能力?」
 なんで、何処から予知能力の話になるわけ?
「レンコンだ」
「レンコンって…。あれにそういう成分があった?」
 今のブルーが生まれてからは、まだ十四年にしかならないけれど。
 たった十四年しか生きていないけれど、レンコンで予知能力がアップするなどという話は一度も聞いたことがない。
 予知能力は今でも神秘の能力とされて、フィシスのような人材は皆無。能力があっても占い師として恋愛相談程度が限界、未来を完璧に読み取れはしない。
 未だにそういう状態なのだし、予知能力を強くするための食べ物も薬も無さそうなのだが…。



 しきりに首を傾げるブルーに、ハーレイは「うんと昔の話だがな」と笑みを浮かべた。
「この辺りが日本だった頃。レンコンは縁起物だった」
 縁起を担ぐと言うだろう。そいつの一種だ、レンコンは縁起がいいとされていたのさ。
 食べると先が見通せる、ってな。
「先…?」
「いわゆる未来だ、これから先の未来のことだ」
 それが見えると言われていた。
 レンコンには穴が幾つもあるだろう?
 あの穴を通して未来が見えると、向こうが見えると縁起を担いだ。
 商売をするには先が見えれば有利になるしな、人生だって先が読めたら便利ではある。
 そういったわけでレンコンなんだな、食べて未来を見通そうってな。



「…ホントに見えるの? レンコンで未来」
 昔から言われていたのなら、とブルーは期待したのだけれど。
「そういった例は俺は知らんな…」
 見えたという話も読んだことは無いな、と数多くの古典を目にしたであろうハーレイの答え。
「ただしだ、未来が見えると信じて食ったらアップするかもな、予知能力」
 鰯の頭も信心から、って古い言葉を知ってるだろう?
 思い込みの力は馬鹿には出来んぞ、信じて食ったらどうだ、レンコン。
「ぼくには元々、予知能力は無いんだよ!」
 フィシスにだってあげていないよ、フィシスが持ってた予知能力はぼくのじゃないよ!
「そうらしいな?」
 あれは副作用のようなものだ、と前のお前は話していたが。
「そうだよ、多分、そういうものだよ」
 前のぼくがフィシスにあげた力は、ミュウとして生きていくのに必要なだけのサイオンだよ。
 目が見えないって分かっていたから、それを補うための力も。
 そうして渡したサイオンの内のどれかが、フィシスの中の何かと結び付いたんだ。
 フィシスは無から生まれた生命体。
 常識では計り知れない変化が引き起こされても無理はないよね、前のぼくにも読めなかった。
 まさかフィシスがあれほどに強い予知の力を得るだなんて。



「そうだな、俺も驚いた。元は普通の人間だったんじゃなかったのか、と」
 普通と言っていいのかどうかは分からんが…。
 生まれ以外は、いわゆる人類と同じだった筈だ。
 前のお前もそう言っていた。サイオンは自分が与えたのだと、実はミュウではないのだと。
 それなのに、あれだけの予知能力だ。
 あの頃にレンコンを知っていたら、だ。
 先が見えるという縁起物を、フィシスに食わせてやりたかったな、と。
「…フィシスに?」
「ああ。レンコンを食えば、見えなくなった未来が見えるようになるかもしれないじゃないか」
「そっか…。前のぼくがいなくなった後…」
 フィシスのサイオン、消えてしまっていたんだっけ。
 地球でカナリヤの子供たちをシャングリラまで届けた時には、サイオンがあったらしいけど…。
 見えない目だって補えるだけの力はあったと聞いているけど、予知能力は…。
「うむ。フィシスは体調が優れないふりをしてはいたが、だ」
 俺はお前から聞いていたから、分かっていた。
 予知能力を失くしたんだと、占いたくても占う力が無いんだと。
 どうしてやることも出来なかったが、もしもレンコンがあったならなあ…。
 食べさせてやれば、心理的な効果くらいはあったかもな、と思ってな。



 先が見通せる、未来が見える縁起物。向こう側が見える穴が幾つも開いたレンコン。
 それをフィシスに食べさせたかった、とハーレイは語る。
 フィシスにサイオンを与えたブルーがいなくなったせいで、予知が出来なくなったフィシスに。
「でも、あの頃のハーレイは…」
 とても忙しかった筈だよ、地球を目指しての戦いが始まっていたんだから。
 朝から晩までブリッジに詰めて、ブリッジに居なければ作戦会議。
 キャプテンの部屋で寝てる時だって、人類軍の船が現れたらブリッジに走っていたんでしょ?
「そうさ、フィシスを訪ねるどころじゃなかった」
 たまにぽっかりと時間が空いたら、後悔ってヤツに押し潰されそうになっていたしな。
 どうしてお前を一人でメギドに行かせたのかと、どうして追わなかったのかと。
 青の間に出掛けて立ち尽くしていたり、レインが居たならお前の思い出を話していたり…。
 俺の時間は戦いと前のお前とに埋め尽くされていて、フィシスのことは忘れがちだった。
 第一、レンコンだって知らない。
 そいつを食ったら先が見えると、未来が見えるというレンコンを知らなかった。
 だがな、もしも何かのはずみに耳にしたならば。
 探しただろうな、シャングリラが立ち寄った先々の星で。



「ハーレイ、うんと忙しかったのに?」
 それでもレンコンを探したって言うの、フィシスのために?
 効くかどうかも分からないのに、縁起物だっていうだけなのに。
「もちろん探すさ、どんなに忙しかったとしてもな」
 前のお前の大事なフィシスだったんだ。
 「ぼくの女神だ」と言ってたっけな、青い地球を抱く女神なんだ、と。
 フィシスはお前に地球を見せていたし、お前はフィシスが欲しくて攫った。
 わざわざサイオンを分け与えてまで、ミュウだと嘘をついてまで。
 フィシスの正体は前の俺しか知らなかった。俺しか知らないままだった。
 メギドに飛ぶ前、お前はジョミーのことしか言い残しては行かなかったが…。
 あの時、もう少し時間に余裕があったなら。
 フィシスのことも俺に頼みたかったんじゃないのか、ブルー…?
「…ほんの少しね」
 少しだけだったよ、フィシスへの未練。
 前のぼくが言葉を残して行きたかった一番は前のハーレイだよ。
 時間があったらハーレイと名残を惜しみたかったよ、これが最後のお別れなんだ、って。
「それはそうかもしれないが…」
 フィシスだって忘れてはいなかったろうが。
 お前の女神だ、前のお前が無茶をしてまで手に入れて来た女神だったんだからな。



 前のブルーが遺した女神。
 サイオンを与えてミュウに仕立てた、青い地球を抱く神秘の女神。
 ブルー亡き後、長老たちは進むべき道を求めてフィシスの許を訪れたのだが、タロットカードは繰られなかった。予知の力を失くしたフィシスに、占いは出来はしなかった。
 何度訪ねても託宣を得られず、長老たちの足は遠のき、フィシスは忘れ去られていった。
 そうなるだろうと分かっていたのに、前のブルーには策が無かった。
 フィシスが自分に頼ることなく自らの足で歩んでくれれば、と祈ることしか出来なかったのに。



「…ハーレイ、もしもレンコンのことを知ったら、探しに行ってくれたんだ?」
 前のぼくが置いて行ったフィシスのために。
 ぼくが死んだせいで、予知能力を失くしてしまったフィシスのために…。
「探しただろうな、探すだけじゃなくて自分で採りに出掛けたかもしれん」
 食おうって文化が無かった時代だ、レンコンは植物園だか公園だかの池にしか無いしな?
 船のヤツらに採って来いとはとても言えんし、俺が行くしかないだろう。
 池の底を掘って、レンコンを採って。
 そしてフィシスに食わせただろうな、なんとか料理してみてな。
「…もう一度厨房に立つんだ、ハーレイ…」
 キャプテンになる前は厨房に居たけど、またフライパンを握るんだ…?
「さてなあ、レンコンを料理するとなったら、フライパンだか鍋なんだか…」
 しかしだ、キャプテンが怪しげなモノを料理していたと噂が立つのも考え物だし。
 レンコン掘りは「ちょっと興味が湧いたからな」と気分転換に出掛けたと言えばそれで通るが、そいつで料理を始めたとなればゼルやブラウに怪しまれそうだ。
 そいつを回避するためには、だ。
 昔を懐かしんで料理の試作だ、食えるかどうかを試すだけだ、と言い訳だな。
 あくまで俺の趣味の範囲でリフレッシュなんだと、食える保証は何処にも無い、と。
 だから厨房では調理出来んな、フィシスだけのための料理だからな?
 趣味のついでにメンテナンスをやっておく、と青の間のキッチンで作るのさ。
 フィシスをコッソリ呼び寄せておいて、このレンコンを食ってみろ、とな。



 何のためにレンコンを採りに行ったか、何のために調理しているのか。
 それさえも伏せてレンコン料理を作っただろう、とハーレイは遠い昔へと思いを馳せる。もしもレンコンを知っていたなら、フィシスにそれを食べさせたろうと。
「ハーレイがそこまでしてくれていたら…。戻っていたかもね、フィシスの力」
 未来が見える予知能力。
 先が見通せるレンコンを食べていたなら、予知能力が戻ったかも…。
「プラシーボ効果ってヤツだがな」
 レンコンにそんな成分は無いし、偽薬ってヤツと変わらんわけだが。
 それだけに効くって保証も無いしな、無駄骨に終わった可能性だって大きいんだが…。
「ううん、きっと効いた」
 前のぼくが放って行っちゃった分までフィシスを助けるんだ、って思ってくれているんだもの。
 忙しい中でもレンコンを掘って、料理までしてくれるんだもの。
 きっと効いたよ、フィシスが失くした予知能力はきっと戻って来たよ。
「実際の俺は何も出来ずに終わったわけだが…」
 レンコンは全く知らなかったし、フィシスだってろくに訪ねてやりもしないで。
 何一つとして助けてやらずに、今頃になって夢物語をやらかしてるってことなんだがな?
「夢物語でもいいんだよ。今、ハーレイが思い付いてくれたのが嬉しいんだよ」
 フィシスのことを大事に思ってくれていたんだ、って分かるから。
 あの頃は忙しくって何も出来なくても、ちゃんと気にかけてくれてたんだ、って。
「そりゃまあ、なあ…。前のお前の大事な女神だったんだしな?」
「うん…。ありがとう、ハーレイ…」
 だけど、ぼくが一番大事に思っていたのはハーレイだけどね。
 前のぼくはハーレイが一番だったし、今のぼくだってハーレイが一番。



 ハーレイが一番大好きだよ、とブルーは微笑む。
 前の自分はフィシスを女神と呼んだけれども、そのフィシスよりもハーレイなのだ、と。
 フィシスの正体を知っていながら、側に置くことを許してくれたハーレイが好き、と。
「それで、ハーレイ。…レンコンで本当に未来は見えるの?」
「さあな? そういう例は俺は知らん、と言っただろうが」
 だが、レンコンに開いている穴の話をするなら。
 とりあえず、俺は酒を飲んでみたい。
「えっ?」
 レンコンを肴に飲むのだろうか、とブルーは考えたのだけれども。
「知らないか? レンコンに限らず、蓮ってヤツはだ、穴だらけらしい」
「穴だらけ?」
「見た目に穴が開いているかは、生憎と俺も知らないんだが…」
 蓮の葉はお前も知ってるだろう?
 池に生えてる丸い葉っぱだ、でかいヤツなら子供の傘になりそうなヤツ。
 あの葉っぱの茎には穴が沢山開いてるらしいぞ、水を注げば通すほどにな。
 そいつを使って酒を飲もうって洒落た行事が象鼻杯だ。
「…ぞうびはい…?」
「象の鼻の杯と書くのさ、蓮の葉っぱが象の頭で、茎が鼻だと見立てるわけだ」
 蓮の葉っぱを切り取って来てだ、まずは葉っぱに酒を注ぐんだな。
 そいつが茎の穴を通ってストローみたいに流れて来るのを飲む催しだ。
 蓮の葉が一番勢いのある夏にやるんだ、暑気払いの蓮酒。
 一度飲みたいと思ってるんだが、まだ機会が無い。



「へえ…!」
 面白そうだね、とブルーは象鼻杯なるものを想像してみた。
 ハーレイが「こんな感じだ」と手を通してイメージも送ってくれた。大きな蓮の葉を杯代わりに酒が注がれ、それを茎から飲む人々。暑気払いになるという蓮酒。
「蓮ってホントに穴だらけなんだ、穴が開いてるのはレンコンだけかと思ってたのに…」
「うむ。こうして酒が飲めるくらいだ、水を通す穴はあるってことだな」
 この蓮酒。親父とおふくろは飲んだんだがなあ、二人仲良く出掛けて行ってな。
 俺もいつかはと夢見てるんだが、お前の守り役をしている間は無理そうだな。
「だったら結婚したら行こうよ、ぼくと二人で」
「おい、酒だぞ?」
 お前、酒には弱いだろうが。酔っ払っちまうぞ、たったあれだけの量でもな。
「平気だよ。ちょっとだけ飲んで、ハーレイに渡す」
 ぼくは気分と味見だけでいいんだ、蓮のストロー。
 どんな風かな、って分かればいいから、残りはハーレイに全部あげるよ。
「なるほどな…!」
 それならお前も酔っ払わないし、俺は二人分を飲めるってわけだ。
 あのイベントはうんと人気だからなあ、おかわりを下さいって言えそうもないが…。
 俺にはおかわりがあるってわけだな、象鼻杯。
 お前がちょっぴり口をつけただけの、おかわり用の蓮の葉っぱが。



 二人前をたっぷり飲めるわけか、と笑うハーレイ。
 人気が高いから蓮の葉っぱは一人に一本だろうけれども、自分は二本貰えそうだと。
 酒に弱くて直ぐに酔っ払うブルーの分まで、おかわりの蓮酒を味わえそうだと。
「いいアイデアでしょ? ハーレイの夢の蓮酒だしね?」
「うむ。子供ならともかく、大人だったら酒が飲めるかどうかも確認せずに配るだろうしな」
 一人一本です、と蓮の葉っぱを。
 でもって酒を注いでくれるし、そいつをお前が俺に回す、と。
「うん。ハーレイ、ぼくの分まで楽しんでよ。蓮の葉っぱに入ったお酒」
 いつか蓮酒を自分の分まで、二人前を飲ませてあげなくては、とブルーは思う。
 前の自分が置いて行ってしまったフィシスのことまで、考えてくれたハーレイだから。
 先が見通せるという縁起物のレンコン。
 それを前の自分が知っていたなら、と語ってくれた優しいハーレイ。
 フィシスのためなら、レンコンも探して料理しただろうと話してくれたハーレイだから…。




         予知とレンコン・了

※先を見通せるという縁起物のレンコン。知っていればフィシスに、と言うハーレイ。
 叶わなかったことですけれど、今の時代はレンコンも普通。いつかはブルーと象鼻杯ですね。
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 学校から帰ったら、ダイニングのテーブルにママのお茶会の名残。三段重ねのケーキスタンド。もちろんお皿はきちんと洗ってセッティングし直してあるんだけれど…。
(此処でお茶会してたのかな? それともリビング?)
 どっちなんだろう、と考えながらケーキスタンドを眺めてみる。これがあるってことは、ママはケーキもスコーンも用意した筈。
(えーっと、確か…)
 一番下のお皿にサンドイッチ。真ん中がケーキで、天辺がスコーンだったと思う。三枚のお皿は乗っけるものが違うんだ。ママは張り切ってあれこれ作って、これに乗っけたに違いない。
(ぼくのおやつは…)
 ケーキとスコーンを残しておいてくれてるだろう。サンドイッチは無いだろうけど。おやつにはあまり向かないから。ぼくにとってはサンドイッチは立派な食事でお菓子じゃない。
(だって、ホントに食事だものね?)
 どうしてママたちはお茶の時間にサンドイッチを食べられるのか、って不思議な気持ち。他にもスコーンやケーキがあるのに、三段重ねのケーキスタンドにはサンドイッチ。
(おまけにフルーツサンドじゃないんだもの…)
 果物とクリームをたっぷり挟んだフルーツサンドならお菓子だけれど、ママが作ってスタンドに乗っけるサンドイッチにはサーモンとかローストビーフとか。
(絶対、食事だと思うんだけどな…)
 紅茶がついたら朝食かランチ。そんな気がするサンドイッチ。
 いくらフィンガーサンドイッチって言う小さなサイズのサンドイッチでも、中身が食事向けだと思う。だってサーモンやローストビーフ。魚やお肉はお菓子とは違う。



(なんか変なの!)
 分かんないや、とケーキスタンドを見詰めていたら、キッチンの方からママの声。
「ブルー、おやつはケーキにする?」
 それともスコーン?
 どっちもあるわよ、ケーキは梨のコンポートのよ。
(梨のコンポート…)
 美味しそうだけど、スコーンの方も捨て難い。スコーンと梨のコンポートのケーキ。
 どっちにしようか、と暫く考えてから。
「スコーンにする!」
 えっとね、ハーレイのお母さんのマーマレードで!
「はいはい、すぐに用意するわね」
 キッチンでカチャカチャと食器が触れ合う音。お湯を沸かしている音も。
 椅子に座って待つぼくの前に、「どうぞ」ってママがスコーンのお皿を持って来てくれた。隣にマーマレードを盛った小さな器も。
 ハーレイのお母さんが作る、庭の夏ミカンのマーマレード。お日様をギュッと閉じ込めた金色。これを塗って食べるスコーンが大好きなぼく。スコーンにはハーレイのお母さんのマーマレードが絶対一番、だからスコーンに決めたんだ。
(ふふっ)
 ぼくは御機嫌でスコーンをパカッと割った。ママが温め直してくれたスコーンにたっぷり、夏のお日様の光のマーマレード…。



 ママが淹れてくれた紅茶をお供に、スコーンを美味しく頬張っていたら。
 向かいで紅茶を飲んでいたママが、「ブルー、知ってる?」っていきなり訊くから。
「何を?」
 なあに、とぼくは首を傾げた。学校に行っている間に何か大きなニュースでもあった?
 てっきりそういう話題なんだと思ったのに。
「スコーンにマーマレードは駄目、って話よ」
「ええっ!?」
 どうしてスコーンにマーマレードが駄目なんだろう。
 ハーレイのお母さんのマーマレードを初めて食べたの、スコーンだったのに。
 夏休みの終わりに庭で一番大きな木の下、白いテーブルと椅子でハーレイと二人で食べた。焼き立てのスコーンにマーマレードの金色を塗って、木漏れ日の下で。
 あの日からぼくは、スコーンとマーマレードの組み合わせが一番のお気に入りなのに…。



 ビックリしちゃって、目が真ん丸になったぼく。
 ママが言うには、SD体制が始まるよりもずうっと昔の地球での話。
 スコーンでお茶会をしていた国では、マーマレードは朝御飯に食べるものだった。カリッと焼き上げたトーストにマーマレードを塗るのが定番、大抵の家の朝御飯はそれ。
 朝御飯のものだから、お茶の時間にマーマレードはマナー違反だって言われても…。
「ママ、それって…。今でもなの?」
「まさか。そんなわけないでしょ、昔の話よ」
 この前、新聞のコラムにあったの。
 今日、お友達に訊いてみたけど、誰もそんなの知らなかったわ。
「そうだよねえ?」
「でも、ブルーなら知っているかと思ったんだけど」
「どうして? ぼくもコラムを読んでたかも、って?」
「違うわ、ソルジャー・ブルーだからよ」
 ママよりもうんと長い時間を生きてたソルジャー・ブルー。
 知識が豊富で、経験豊かで。だからこの話も知ってるかしら、と思ったのよ。
「ママ…。前のぼくはミュウの長ってだけだよ、ただのソルジャー!」
 お茶会なんて管轄外だよ、やっていた人はいたけれど…。
 でもシャングリラは前のぼくたちの船で、そんな厳しいマナーなんて無いよ。



 そう言った途端に、思い出したんだ。
 前のぼくの記憶。ソルジャー・ブルーだった頃の、懐かしい記憶。
「ママ。今度、ハーレイにお茶を出す時、お菓子じゃなくってサンドイッチにしてくれる?」
「えっ? ブルー、おやつにサンドイッチは食べないでしょ?」
「うん。だから、ローストビーフとかじゃなくって…」
 キュウリを挟んだサンドイッチ。
 キュウリだけが入ったフィンガーサンドイッチがいいんだけれど。
「それだけなの? 卵もハムも何にも無しで?」
「うん、それだけ」
 キュウリだけだなんて何があったの、ってママが言うから、教えてあげた。
 前のぼくの、ソルジャー・ブルーの記憶。
 ママは嬉しそうにニコニコ笑って、「キュウリね」と大きく頷いてくれた。



 次の日、仕事帰りのハーレイが寄ってくれたから。
 ママは約束を守ってくれた。お茶の支度がちょっぴり遅れたけれども、サンドイッチ。キュウリだけしか挟まっていない、小さなサイズのサンドイッチが乗っかったお皿。それと紅茶と。
「ほほう…。珍しいな、フィンガーサンドイッチか」
 お茶の時間にサンドイッチは初めてだな、ってハーレイがお皿に手を伸ばした。キュウリだけのサンドイッチを齧って、「こういうお茶もたまにはいいな」って。
 ぼくもキュウリのサンドイッチを齧ってみた。バターとマスタードを塗っただけのパンに、薄くスライスしたキュウリ。ほんのちょっぴり、塩と胡椒と。
「ハーレイ、何か思い出さない?」
「何をだ?」
「キュウリのサンドイッチだよ」
「はあ?」
 ハーレイが二つ目のサンドイッチを摘んだままでポカンとしてる。鳶色の瞳に怪訝そうな色。
「覚えていない?」
 シャングリラでやった、一番最初のお茶会だよ。
 キュウリだけしか入っていないサンドイッチで開いたお茶会。
「ああ、あったな…!」
 懐かしいな、とハーレイはサンドイッチを頬張った。あの時もキュウリだけだった、と。



 シャングリラがまだ白い鯨じゃなかった頃。
 人類のものだった船に名前だけ付けて、船体はそのままだった頃。
 この船を大きく改造しよう、とプランが進行し始めた。でも、改造の前にまずは第一段階。船の改造には技術だけじゃなくて物資が要る。人類から奪った物資で船を改造したって維持出来ない。
 それじゃ駄目だと、物資も自分たちで調達せねば、ということになった。
 物資の調達の練習を兼ねて、船の中で作ろうと決まった畑。自給自足を目指して畑。
 畑作りに必要な土や肥料が手に入る星を探して、採掘して。
 種や苗なんかは前のぼくが輸送船から奪って用意した。
 船の中の空いたスペースに土を運び入れ、耕して作った一番最初の畑。
 トマトにキュウリに、色々と植えた。
 育てやすい野菜を選んで植えたから、初心者ながらも立派に実った。



 船のみんなが頑張った畑。水をやったり肥料を足したり、余分な芽を摘んで世話したり。
 そうやって作物が出来てきたから、船の空気も浮き立っていた。
 後に長老と呼ばれる四人と、ハーレイと、ぼく。会議の席でブラウが言い出した。
「収穫祭と洒落込みたいねえ、せっかくだから」
「そんなに量は無いのだがねえ…」
 畑を見れば分かるだろう、とヒルマンが首を捻って、エラだって。
「少しずつ採れては来ていますが…。食事の大半は奪った食料ですものね」
「採れたものだけで収穫祭をするのは無理じゃろう」
 とても足りんぞ、とゼルも首を振った。
 だけど、船のみんなも考えていることはブラウと同じ。畑を見に行く時の足取りや、作物を見ている瞳の輝き。誰の心も弾んでる。
 ぼくたちの船で初めて出来た作物。畑に豊かに実った作物。
 嬉しくてたまらない気分なんだし、ちょっぴりお祭りしてみたい。初めての収穫を祝うお祭り。
 そんな気持ちが船に溢れているってことは、ぼくにもちゃんと伝わってたから。
「ヒルマン、何か方法は無いのかい?」
 少ししか無い作物だけれど、収穫祭をする方法。
 見付けてくれれば皆も喜ぶし、今後の励みになりそうだけどね。
「ふうむ…。エラと探してみるとしようか」
 古い資料を端から当たれば、何か見付かるかもしれん。
 あればいいのだがね、我々の役に立つものが。



 頑張ってみよう、とヒルマンが顎に手を当てていた日から数日が経って。
 いつもの定例会議じゃなくって、臨時の招集がかけられた。ヒルマンから。
 これは来たな、とぼくは会議用の部屋へと出掛けたんだけれど。
「ハーレイ、紅茶の在庫はどうなっているかね」
 ヒルマンの口から飛び出した言葉は、畑の作物とはまるで繋がらないものだった。紅茶なんかで何をするんだろう。料理に使えるとでも言うのだろうか?
 意味が分からないぼくを放って、ハーレイが紅茶の在庫はあると答えた。
「今ある量なら、全員が毎日飲み続けても一ヶ月分は充分賄えます」
「それは結構」
 ヒルマンが満足そうに頷き、今度はエラが口を開いた。
「パンの材料も足りていますわね?」
「もちろんですが…。紅茶とパンで何をするのです?」
 ハーレイがぼくの代わりに疑問を声にしてくれた。紅茶とパンなんて、どう考えても畑の作物に繋がりやしない。けれどヒルマンは穏やかな笑みを浮かべて。
「お茶会だよ」
「お茶会じゃと?」
 収穫祭の話じゃったと思ったが…。
 何処からお茶会の話になるんじゃ、ええ、ヒルマン?



 ゼルが噛み付いて、ブラウも「ちょっと違うんじゃないのかねえ?」と言ったんだけれど。
 ヒルマンとエラは自信満々、二人で説明し始めた。
 ずうっとずうっと昔、SD体制が始まるよりも千年以上も前の地球。一度滅びるよりも前の青い地球の上、イギリスという名の国が栄えていた頃。
 其処では貴族のご婦人たちがティーパーティーを楽しんでいた。
 午後に開かれる、優雅なお茶会。午後のお茶だからアフタヌーンティーと名付けられた。後には庶民にも広がっていったけれども、最初は王侯貴族だけのもの。特権階級だけのお茶会。
「そのお茶会に、だ。欠かせないものがキュウリのサンドイッチだったのだよ」
「キュウリなのかい?」
 どうしてキュウリ、と驚いた、ぼく。
 キュウリなんかは珍しくもない。輸送船には山と積まれてあったし、ごくごく普通にある野菜。データベースで戯れにレシピを検索したって、サラダなんかによく入ってる。
「それが、ソルジャー。当時のキュウリは今とは事情が違ったようで」
「ええ。とても貴重な野菜だったと資料に書かれていましたわ」
 こんな話が、とエラが教えてくれた当時のキュウリはぼくの理解を超えていた。



 貴婦人たちがお茶会を開いていた頃、イギリスとやらでキュウリはとっても珍しい野菜。
 もちろん市場で売られてはおらず、普通に植えても育たなかった。
 王侯貴族が暮らす家ではキュウリ専用の温室みたいなものを作って、庭師に育てさせたという。そんな温室、豊かでないと作れないから懐に余裕がある証。
「ですから、キュウリだけを使ったサンドイッチはステイタス・シンボルというわけです」
 自分の家には温室があると、キュウリを育てたから食べて下さいと披露するのです。
 とても貴重なキュウリですから、サンドイッチにはキュウリだけ。
 キュウリだけでサンドイッチを作れることは最高の贅沢だったそうです。
「キュウリがねえ…」
 ちょっと想像もつかないな、とキュウリを思い浮かべた、ぼく。
 このシャングリラでも育つキュウリが貴重な野菜だった時代があっただなんて…。
 だけど、エラの話には予想以上の続きがあって。
「お茶会には必ずキュウリのサンドイッチを出さなければ、と貴婦人たちは考えましたから…」
 何らかの事情があってキュウリのサンドイッチが出せなかったら。
 料理長の首が飛ぶということもあったそうです、主人に恥をかかせたと言って。
「そこまでキュウリにこだわったのかい?」
「ええ。正確にはキュウリのサンドイッチに、ということになりますわね」
 つまり、キュウリのサンドイッチさえ作れたなら。
 そのお茶会はとても贅沢なもので、王侯貴族のものなのですわ。



 キュウリのサンドイッチがあったらそれは立派なお茶会なのだ、という解説。
 貴婦人という部分が引っ掛かったから、訊いてみた。
「そのお茶会は女性限定じゃないのかい?」
「いいえ、ソルジャー、御心配なく」
 ヒルマンが「大丈夫ですよ」と、その後の歴史を話してくれた。
 貴婦人が始めたお茶会は庶民にも広まっていったけれども、後に男性まで巻き込んで行った。
 由緒あるホテルなんかが男性専用のアフタヌーンティーのメニューを設けていたほどに。
 そして王侯貴族が主催するガーデンパーティーなんかも、紅茶と一緒にサンドイッチ。
 他の料理ももちろんあるけど、キュウリだけで作ったサンドイッチは必須の料理。
「正式なお茶会になればなるほど、キュウリのサンドイッチだったのです」
 これが無ければ正式ではない、と言われていたと書かれていました。
 そのキュウリが畑に沢山あります。
 皆に行き渡るだけのサンドイッチが作れそうですが、お茶会は如何でしょうか、ソルジャー?



 正式なお茶会に欠かせなかったキュウリのサンドイッチ。
 最初は温室で作ったキュウリで、特権階級しか食べられなかったサンドイッチ。
 それをシャングリラで出来たキュウリで作ろうというアイデアは実に素晴らしかった。
 みんなの分のサンドイッチと紅茶さえあれば開けるお茶会。
 遥かな昔の王侯貴族になった気分になれるお茶会。
 ゼルもブラウも大賛成で、ぼくも反対するどころじゃない。
 素敵な資料を見付け出してくれたヒルマンとエラに御礼を言って、実行に移すことにした。
 せっかくだから、ガーデンパーティー風に。
 畑を眺められる所にテーブルを出して、キュウリで収穫祭をしようと。



 お祭りなんだし、ここは大いに盛り上げたい。
 エラが「収穫祭のお茶会」と銘打った招待状を作って、みんなに配った。
 日時と場所が書かれただけの招待状。
 それ以外の情報が何も無いから、探り出そうと誰もがあの手この手で、もう充分にお祭り騒ぎ。
 だけど厨房のクルーたちは「お茶会です」としか言わず、ブラウたちだって喋らない。
 シャングリラの中は「どんなお茶会なんだろう」って話題で持ち切り、挨拶代りにお茶会の噂。
 エラの狙いは見事に当たって、みんながドキドキワクワクしながら収穫祭の日を待った。
 そうして迎えた、お茶会の日。



「お茶はともかく、サンドイッチがキュウリだけだぞ?」
 畑の側に並べられた沢山のテーブル。
 紅茶のポットやティーカップが置かれて、キュウリのサンドイッチのお皿が幾つも。
 そう、サンドイッチのお皿は山ほどあるのに、どのお皿に載ったサンドイッチもキュウリだけ。
 案の定、出て来た不満の声。
 それはそうだろう、お茶会までの間に食べた朝食と昼食には卵やハムもあったのだから。
「他に具材は無いのかよ?」
「入れ忘れたんじゃないのか、厨房のヤツら」
 ワイワイと声が広がり始めた所で、ヒルマンがおもむろに咳払いをして。
「いや、キュウリしか無いサンドイッチで間違いはない」
 これが正式な料理なのだよ、遠い昔の地球のお茶会では。
 始まりはキュウリが貴重だった時代に遡るのだがね…。
 食べながら聞いてくれたまえ、とヒルマンはエラと交互にキュウリのサンドイッチに纏わる古い資料を披露した。
 今でこそ当たり前のキュウリが遠い昔には珍しかったと、王侯貴族の食べ物だったと。



「へえ…! 貴族様しか食べられなかったサンドイッチか…」
「庭に温室って、すっげえ贅沢だったんだろうな…」
 温室のキュウリでサンドイッチか、と、みんな一気に気分は当時の王侯貴族。
 自分たちだってキュウリを作ったと、温室じゃないけど船でキュウリを作ったと。
「王侯貴族ってどんなのだろうな、今の時代は王様も貴族もいないよなあ?」
「メンバーズみたいなモンじゃねえのか、お目にかかったことは一度もねえけどよ」
「会ったら俺たち、終わりじゃないかよ」
 ヤツらはマザー・システムの手先なんだぜ、って言いながらも、みんなは笑ってた。
 まだ人類には見付かっていなかった頃のシャングリラ。
 ステルス・デバイスなんかは無かったけれども、見付からないように飛んでたシャングリラ。
 だからメンバーズだって怖くはない。
 怖い連中だって分かっているけど、出会ってないから怖くない。
 アルタミラの地獄も何十年も前の話で、今はこうして船でお茶会。
 皆で作った畑の作物が無事に実ったと、次はシャングリラの改造なのだと賑やかに。
 キュウリのサンドイッチをつまみながら楽しく続いたお茶会。
 王侯貴族になった気分で、うんと豊かになった気分で。



「懐かしいなあ、キュウリのサンドイッチで収穫祭なあ…」
 ハーレイの目が懐かしそうに細められてる。遠いシャングリラを眺めている目。
「盛り上がったよね、あのお茶会」
 仕事のある仲間も交代で来たし、みんなで紅茶とサンドイッチで。
「うむ。キュウリのサンドイッチだけだったんだが、量はたっぷりあったしな」
 キュウリを薄くスライスっていうのが良かったんだな、一本のキュウリで幾つも作れる。
 あれが普通のサラダだったら、みんなが満足するだけの量は無理だったろうな、キュウリでは。
「そうだね、何か他の野菜を足さないと…」
 他の野菜をプラスしちゃったら、畑の作物が一気に減っちゃう。
 収穫祭のサラダだけでドカンと減ってしまって、見た目が寂しくなっちゃうよ。
「見た目で言えば、だ。サラダしか無い収穫祭なんか有り得んぞ」
 他にも料理を出さんとな?
 そうなると肉だの何だの出て来て、収穫祭と言うよりただの祭りだ。
 シャングリラで採れた作物をしっかり味わうどころか、あれこれと食って終わりだってな。
「そっか…。そういう意味でも、あの時のキュウリのサンドイッチって…」
「ヒルマンとエラは凄いアイデアを出したってことだ」
 みんなが船で採れたキュウリを食うことが出来て、おまけに由緒正しい料理だと来た。
 キュウリとパンだけで王侯貴族が食ってたサンドイッチだ、あの二人に感謝しないとな。



 キュウリだけしか入ってなくても、リッチな気分のサンドイッチ。
 遠い昔に王侯貴族が食べてたキュウリのサンドイッチ。
 船で初めて採れたキュウリで、それを作った。お茶会を開いて、みんなで食べた。
 名前だけだった頃のシャングリラが本物の楽園になってたパーティー。
 誰もが王侯貴族気分で、幸せ一杯だったお茶会。
 あれから少しずつ進歩してって、船を改造して白い鯨が出来たけれども。
 紅茶まで船で作れるようになったけれども、キュウリを挟んだサンドイッチだけしか食べる物が出ないというお茶会は、あの時の一回きりだった。
 次に収穫祭をやった時には作物も増えて、キュウリのサンドイッチに頼らなくても見栄えのする料理を作れたから。収穫祭らしくあれこれ並べて、色々なものを食べられたから。
 だけど、シャングリラで最初の収穫祭。
 キュウリのサンドイッチだけしか無かった収穫祭。
 あの日は確かに、シャングリラで一番の贅沢をした日だったと思う。
 自分たちの手で育てたキュウリで、遠い昔の地球の貴族たちが食べていた料理。
 キュウリだけしか無かったけれども、王侯貴族の気分になった日…。



「うむ、最高の贅沢だったな、あの頃の俺たちにとってはな」
 そして今では地球のキュウリで作ったサンドイッチを食ってます、ってな。
「うん」
 本物の地球で採れたキュウリだよ、地球の光と水と土とで育ったキュウリ。
「美味いな、これ」
「キュウリしか入ってないけどね」
「前の俺たちの収穫祭のと同じヤツだな、あの時もこんな味だっけな」
 シャングリラで作ったヤツじゃなかったが、バターとマスタードを塗って。
 塩はともかく、貴重な胡椒もパラリと振ってみました、ってな。
「だって、収穫祭だしね?」
「違いない」
 其処で出さなきゃいつ使うんだ、って時代だったしなあ、胡椒なんかは。
 そういう意味でも贅沢だったな、あの時のキュウリのサンドイッチは。
「美味しかったよ、凄く美味しいサンドイッチだった、って覚えているよ」
 地球のキュウリに負けないくらいに。
 うんと美味しく育ってる筈の、地球のキュウリのサンドイッチに負けないほどに…。



 今でもアフタヌーンティーと言ったら、キュウリのサンドイッチがついているけれど。
 前のぼくたちは自分たちで調べて、キュウリのサンドイッチを作った。
 キュウリがどんなに貴重だったか、そこまで調べてお茶会をした。
 前のぼくたちのキュウリのお茶会は、記念すべきミュウの最初のお茶会。
 歴史あるキュウリのサンドイッチは、ミュウの歴史で初のお茶会の主役を立派に務めた。
 でも、そのことについて書いてある本は何処にも無いんだ。
 ぼくも忘れていたほどだもの。
 ママには話しておいたけれども、きっとこれからも知られないまま、あのお茶会は幻のまま。
 前のハーレイは航宙日誌に「収穫祭をした」としか書いておかなかったから。
 ハーレイに訊いたら、そうだと話してくれたから。
 どおりで知られていない筈だよ、キュウリのサンドイッチの歴史に加わった新たな一ページ。
 初めての収穫でミュウが作ったと、初のお茶会の主役だったんだ、と。
 前のハーレイが「収穫祭」と書いたイベントは、ホントはお茶会。
 キュウリのサンドイッチで開いたお茶会だったよ、ねえ、ハーレイ…?




         収穫祭のキュウリ・了

※シャングリラで採れた初めての野菜、キュウリのサンドイッチで気分は王侯貴族。
 なんとも素敵なお茶会ですよね、ミュウの船でもアイディア次第で幸せがやって来るのです。
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