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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

シャングリラ学園に中間試験の季節がやって来ました。試験の1週間ほど前から1年A組の一番後ろに机が増えて、会長さんが混ざっています。授業の方は居眠っているか、仮病で保健室に行っているかのどちらかで…休み時間にはアルトちゃんとrちゃんを口説きまくるのが日課でした。最近の会長さんは以前にも増して熱心です。
「だって。女の子って可愛いじゃないか。…そりゃフィシスには敵わないけど、つい手を出してみたくなるよね」
明日から試験という日の放課後、「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋で会長さんが微笑みました。
「出すな!!」
睨み付けたのはキース君。
「今のあんたならやりかねん。あれ以来、何を考えてるのか分からんからな。…サム、しっかり手綱を握っとけよ」
「俺、ブルーが幸せだったらそれでいいんだ」
会長さんの隣に座るサム君は今日もニコニコしています。休み時間に会長さんがアルトちゃん達を口説いていても、幸せそうに見てるだけ。これじゃ手綱を握るどころか、逃げられたって仕方ないのでは…。でも会長さんはサム君が気に入っているらしくって、公認宣言を撤回する気配はありません。それとは逆に徹底的に避けられているのが他ならぬ教頭先生でした。
「ブルー、古典の授業を1回も受けなかったよね」
パウンドケーキを頬張りながらジョミー君が指摘したとおり、会長さんは1年A組での古典の授業を全部サボッてしまいました。それも教頭先生が顔を出す前に逃げてしまって、会長さんの机はいつも空席。前は古典の授業は必ず出席して居眠りしたり、落書きしたり、わざと倒れて授業を中断させてみたりと好き放題だった筈ですが…。
「いいじゃないか、授業を受けなくても問題ないし。君たちの満点は保証するよ」
「…でも…」
マツカ君が口を挟みました。
「教頭先生に訊かれたんです。ずっとブルーに避けられているが、まだ根に持っているのだろうか、って」
最近の会長さんは教頭先生に会っても完全に無視。会釈どころか足早に立ち去り、呼び止められても知らん顔です。
名前を呼ばれているのに聞こえないふりをし、教頭先生なんか見えていないように振舞うのでした。これでは教頭先生がマツカ君に事情を聞こうとするのも当然と言えば当然で…。
「それで?…なんて答えたんだい、マツカ」
「いえ…。ぼくは何も聞いていません、と言いましたけど…」
「言っちゃえばよかったのに。ぼくはハーレイを怖がって逃げてるんだ、って。…ハーレイに薬を飲ませた時は君たちも現場に居たんだからさ。ノルディを呼んだ時には見えないギャラリーだったけどね」
ティーカップ片手に会長さんは唇を尖らせました。
「あんな記憶を後生大事に抱え込んでる担任だよ?どう考えてもセクハラじゃないか。しかもその後、思い切って嫁に来ないかって言ったんだ!…これで怒らない方が変じゃないかと思うけど」
「………。額面通りに受け取るのなら、それで正解なんだがな」
キース君が腕組みをして。
「あんたの場合、一筋縄ではいかないだろう?…アルトたちを派手に口説いているのは、あの件の反動じゃないかと思う。だが、教頭先生を無視しているのが分からない。いつもならとっくに仕返ししている」
言われてみればそうでした。ただひたすらに避けるだけなんて、会長さんらしくありません。けれど会長さんの顔に浮かんだのは儚げな笑み。
「…ぼくだって、たまには傷付くんだよ」
赤い瞳を静かに閉じて、会長さんはサム君の肩にもたれました。
「ハーレイがサムみたいに優しかったら、あんなとんでもない夢を持ったりしないと思うんだよね。単にぼくと一緒に暮らしたい…っていうだけだったら、何もかも丸く収まるのにさ。…だから大人って嫌いなんだ」
えっと。サム君は何もしないから安心だっていうことでしょうか?それに年齢だけでいったら会長さんだって立派な大人なのでは…。会長さんの考え方は私たちにはサッパリです。教頭先生が嫌われたらしいのは確かですけど、この先、いったいどうなるのやら…。

1位がお好きなグレイブ先生が監督する中、中間試験が始まりました。会長さんのお蔭で今回も答えがスラスラ書けます。初めて体験するクラスメイト達は「そるじゃぁ・ぶるぅ」の御利益なのだと聞かされていて、御利益を運んでくれた会長さんに感謝の言葉が降り注ぐ日々。今日で3日目、試験もいよいよ最終日ですが…。
「すまん、ブルーは来ているか?」
教頭先生に声を掛けられたのは、スウェナちゃんと廊下に出た時でした。1年A組以外のクラスは試験勉強に必死ですから、廊下はガランとしています。教頭先生、いつから待っていたんでしょう?
「…他の生徒には聞きにくくてな。ブルーは来たか?」
「はい。自分の席にいますけど」
「そうか。…それで、その…。ちゃんと元気にしているだろうか」
「元気ですよ?」
なんだか変な質問です。会長さんが出席してるかどうか、なんてグレイブ先生に後で確かめればいいのでは?それに元気かって…。私たちを待たなくたって他の生徒で十分なような。
「…ありがとう。時間を取らせて済まなかったな」
穏やかな笑顔でお礼を言われると悪い気持ちはしませんけれど、教頭先生の真意は謎でした。私たちが不思議そうに見詰めていると、教頭先生は咳払いをして。
「いや、ちょっと…。ブルーの様子を見に来ただけだ。元気だったらそれでいい」
なるほど。避けられているだけに気になる、というところでしょうか。教頭室のある本館の方へ向かう背中には哀愁の二文字が見えました。それを知ってか知らずか、試験が終わって「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に私たちが集まると、会長さんはにこやかに。
「ぶるぅ、ハーレイの所に行ってくれないかな。打ち上げパーティーのお金を用意してくれてると思うんだよね」
「…あの…」
スウェナちゃんがおずおずと口を開きました。
「教頭先生、ずいぶん心配しているみたい。お金を取りに行けば顔を見せてあげられるし…」
「…ぼくが?なんで出向かなきゃいけないのさ。ぼくの機嫌を取りたいんなら、届けに来ればいいじゃないか。この部屋のことはハーレイだって知ってるのに」
「あんたが立ち入り禁止にしてるんだろうが!…生徒以外はお断りって。まして避けられている教頭先生にすれば結界みたいなものだと思うぞ」
入りたくても入れないし、とキース君が言いましたけど、会長さんは涼しい顔。
「ここまで来いとは言ってないよ。生徒会室のぼくの机に置いて帰れば済むだろう?…そうしないってことは、ぼくが来るのを待ってるんだ。その手には引っ掛からないからね。ぶるぅ、行っておいで」
「オッケー♪」
飛び出して行った「そるじゃぁ・ぶるぅ」はすぐに熨斗袋を持って帰って来ました。
「足りなかったらハーレイの名前でツケにしといていいんだって!行こうよ、今日は個室で串カツだよ!活けの海老とか揚げてくれるし、美味しいんだから!」
うわぁ、高級そうな串カツ屋さん!私たちは教頭先生のことなんかすっかり忘れてタクシーに乗って街に繰り出し、食べて騒いで楽しく盛り上がったのでした。

それから数日が経って、試験結果の発表日。1年A組はもちろん学年トップでグレイブ先生はご満悦です。私たちも満点の答案用紙を返して貰って、放課後はキース君と柔道部の二人も一緒に「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋へ行こうと中庭を歩いていたのですが…。
「あなたたち、ちょっといらっしゃい」
待ち構えていたように現れたのはエラ先生。生活指導をなさってますが、私たち、何かマズイことでも…。もしかして串カツを食べに行った時、「そるじゃぁ・ぶるぅ」がチューハイを頼んでいたのがバレましたか!?どうしよう、停学になっちゃいますよ~!!
「あらあら、何か悪いことでもしたのですか?…みんな真っ青な顔をして。大丈夫、少しお話をしたいだけです」
その『お話』が怖いんです、と心で叫ぶ私たちが連れて行かれたのは生活指導室でした。ここへ来るのは全員、初めて。現役の1年生の頃ならともかく、何が悲しくて特別生の身で連行されなきゃいけないのでしょう。第一、チューハイを飲んだのは「そるじゃぁ・ぶるぅ」で、私たちはジュースとウーロン茶なのに!
「やあ、呼びつけて済まなかったね」
えっ、ヒルマン先生?…ゼル先生にブラウ先生も!?部屋の中には宇宙クジラ…いえ、シャングリラ号の長老と呼ばれる5人の内の4人までが揃っていたのでした。こんな面子に呼ばれたとなると、停学くらいで済まないのでは…。
「その顔つきでは後ろ暗いようじゃが、校則違反なぞどうでもいいわい。わしらの用事は別の話じゃ」
ゼル先生がぶっきらぼうに言い、エラ先生が。
「おかけなさい。…あなたたちに聞きたいのはソルジャー…いえ、ブルーのことです」
「「「えぇぇっ!?」」」
会長さんったら、何をやらかしてくれたんですか!ビクビクしながら椅子に座ると、ブラウ先生が緑茶を配ってくれました。ヒルマン先生はお饅頭を配りながら。
「君たちはブルーと親しいそうだが、最近、何か変わった様子はなかったかね?…悩んでいたとか、そういうことは?」
「えっ…」
会長さんに悩み、ですって?あの件以来、教頭先生を避けているのは事実ですけど、悩んでいるようには見えません。それに会長さんのことなら、私たちよりフィシスさんの方が詳しいのでは…。会長さんとフィシスさんが恋人同士なのは先生方もご存じです。キース君がそう言うと、即座にヒルマン先生が。
「もちろんフィシスにも尋ねたのだよ。だが、私たちの望む答えは得られなかった。それで今度は君たち7人に来てもらったというわけだ。ブルーが何をしていたのかはクラスメイトに聞くのが早そうだからね」
クラスメイトと言われても…。今年はまだ中間試験と入学式の日の実力テストでしか会長さんは私たちのクラスに来ていません。普段の授業中に会長さんが何処にいるのか、それすら知らない私たちです。多分「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋か、自分の家で好きに過ごしているんでしょうけど。
「ヒルマン。こういう話はズバッと言っちまうのが一番だよ」
回りくどいのは好きじゃない、とブラウ先生が割り込みました。
「あんたたちに尋ねたいのは試験期間中のブルーのことさ。…1年A組が全員満点を取っているのはブルーが混ざったお蔭だろ?なのに肝心のブルーときたら、全科目で0点を取ったんだ」
「「「0点!?」」」
「そう、0点。赤点なんて甘いモンじゃなくて、掛け値なしの0点なんだよ。無茶苦茶な答えが書いてあったり、白紙で出してあるのもあった。…こんなことは今まで一度も無かっただけに、あたしたちにもサッパリ理由が分からないのさ」
会長さんが…0点…。どう考えてもわざとです。追試になったりするのかな…。ゼル先生がフンと鼻を鳴らして。
「ブルー…いや、ソルジャーの実力を我々はよく知っておる。追試をしたらこれ見よがしに満点を取って馬鹿にするつもりかもしれんのだ。じゃが、馬鹿にされるようなことはしておらん。…しておらん…と思うのじゃが…」
「けれど、全科目0点だったのは事実です。理由も無しにそんな点数を取るでしょうか」
エラ先生が溜息をついて視線を膝に落としました。
「試験の1週間ほど前からブルーは1年A組に在籍していましたが、グレイブに尋ねても心当たりは無いそうです。
これ見よがしに0点で統一するなど、事情があるとしか思えません。悪戯にしてもやり過ぎですし、私たち教師に抗議したいことでもあったのでしょうか。…何か聞いてはいませんか?」
聞いてないかと言われても…。会長さんが0点を取ったというのは初耳ですし、そんなそぶりも皆無でした。何のために間違った答案や白紙を提出したのでしょう。確かに悪戯にしては酷すぎますけど、エラ先生がおっしゃるような抗議行動とも思えません。わざと0点を取って無言のアピールをするくらいなら、学校中にビラを撒きそうな気がします。それも捏造だらけの怪文書を。
「…君たちにも心当たりは無いかね」
困った顔のヒルマン先生に私たちは「すみません」と頭を下げるしかありませんでした。
「そうか…。では、もう一つ聞かせてほしい。…ハーレイのことだ」
「「「は!?」」」
会長さんの0点の次は教頭先生についてですか!?それって生徒に聞くようなこと…?職員会議の管轄では…。

「ハーレイがブルーの担任なのは知っているね。そして古典の教師でもある。ブルーの中間試験の答案なのだが、古典だけが白紙で提出されていたのだよ」
他は出鱈目でも解答が書いてあったのだ、とヒルマン先生は言いました。
「担任の担当する科目だけが白紙で他は無茶苦茶、結果は0点。これは担任に訴えたい何かがあったか、あるいは担任が気に入らないか。そのどちらかだと思われるのだが、決め手が無くてね。…そこで聞きたい。ハーレイとブルーの間で何か起こっていないかね?」
えっと。会長さんが教頭先生を無視しまくっていることくらい、学校中にバレバレなのでは…。私たちは顔を見合わせましたが、そこでハッタと気が付きました。他の先生や生徒の目がある時に会長さんが教頭先生と出くわしたことは無かったのです。タイプ・ブルーだけに、教頭先生の居場所を把握しながら自分の通路を選んでいたというわけでしょう。
「心当たりがありそうじゃな」
ゼル先生が髭を引っ張り、ブラウ先生が。
「あんたたちを呼んで正解だったよ。ダテに友達をやってないねえ」
「「「友達!?」」」
「そうさ。…あんたたち、ブルーの友達だろ?特別生は今までに何人もいたけど、ブルーの友達はいなかった。毎日ぶるぅの部屋に入り浸らせるほど仲良くなったケースは無いんだよ。よっぽど気に入ったんだろうねぇ、あんたたちが」
あれ?…それじゃフィシスさんやリオさんは?
「フィシスは最初から特別だったのさ。ブルーが恋人にしようと連れて来たんだし、友達とはちょっと違うんだ。リオの方は腰が低すぎてダメだね。悪戯好きのブルーには物足りなく見えるみたいだよ」
あんたたちは楽しい仲間らしい、とブラウ先生はウインクしました。
「で、ブルーは何をやっているんだい?…全科目で0点を取ってハーレイのメンツを潰そうっていう魂胆かい?」
「…そうするからには何か理由がある筈だ」
顎に手を当てるヒルマン先生。
「ブルーが全科目0点だったと職員会議で判明した時、ハーレイが顔面蒼白になった。担任だから無理もない、と思ったのだが、違ったのかもしれないな。…身に覚えがあった、ということもある。君たちの様子からして、その確率が高そうだ。…生徒に聞くのも妙だとは思うが、一度卒業した特別生だし、ここは大目に見てくれたまえ」
そして先生は声を潜めて。
「………ブルーはセクハラに遭ったのかね?」
「「「は!?」」」
せ、セクハラって…。教頭先生と会長さんの間に何かあった、というだけのことで何故にセクハラ!?
「これは失礼。君たちは知らなかったのか…。勘ぐりすぎてしまったようだ」
ヒルマン先生が言い訳を始める前に、ブラウ先生が「知らないってことはないだろう」と。
「ハーレイはブルーに一方的に惚れてるのさ。…知らなかったかい?」
どう返事すればいいのでしょう。首を横に振るべきか、縦に振るべきか。横に振ったら知らなかったことになるんでしょうか?困惑する私たちを見たエラ先生が。
「この様子では知っていますね。…ハーレイには私たちも困っているのですけど、ブルーが構わないと言うので見て見ぬふりをしてきました。でも、今回の0点がハーレイのせいだというなら、考え直さないといけません」
「そうじゃ、そうじゃ!…ハーレイが何かやりおったのじゃ。ブルーはわしらに知らせる代わりに、0点を取って注意を引こうと…。今から思えば修学旅行のアレも」
ハッと口を押さえたゼル先生に、他の先生方の視線が集中しました。
「……修学旅行がなんですって?」
エラ先生の咎めるような視線にゼル先生は頭を押さえ、仕方がない…というように。
「去年の修学旅行の時じゃ。わしが夜中に見回っておると、ブルーが泣きそうな顔で飛びついてきて、ハーレイに襲われそうになったと言いおってな…」
「ちょっと!そんな報告、聞いてないよ!!」
ブラウ先生を筆頭に先生方の非難の声が責め立てる中、ゼル先生は額に汗を浮かべて。
「ブルーが報告しないでくれと言ったんじゃ。表沙汰になると学校に居づらくなる、とな。…それに修学旅行が終わって暫くしてから、あれは自分の悪戯だったと謝りに来たし…」
「それは判断が難しいな。…本当にブルーの悪戯だったか、あるいはハーレイが悪戯だったと言わせたか。以前だったら間違いなく悪戯だったと言い切れたろうが、今回の0点を見てしまうと…」
疑いの目で見ざるを得なくなる、とヒルマン先生が言い、他の先生方も頷きました。修学旅行で起こった事件は私たちも『見えないギャラリー』として眺めていたので真相を知っているんですけど、魔がさしたとでも言うのでしょうか。教頭先生の潔白を証言する人は誰一人としていませんでした。

先生方は修学旅行の事件について話し合った後、私たちの方に向き直って。
「…教頭がセクハラだなんて、これが普通の学校だったら恥ずかしい限りなんだがね…」
ヒルマン先生が切り出しました。
「君たちも知ってのとおり、ここは特殊な学校だ。ブルーはソルジャーでハーレイはキャプテン。…その役職においては恋愛沙汰は全く問題ないのだよ。だからブルーの担任がハーレイであっても、誰も異を唱えはしなかった。それにハーレイが担任をするというのはブルーの希望でもあったしね」
なんと!教頭先生が会長さんの担任をやっているのはソルジャーとキャプテンという要職同士だからではなく、会長さんの趣味でしたか。自分に片想いしているヘタレの教頭先生をオモチャにするには、担任と生徒というのは極上の関係と言えるでしょう。私たちは溜息をつき、ヒルマン先生が苦笑いして。
「…エラの言うとおり、君たちもハーレイの気持ちを知っているようだね。では、改めて聞かせてもらうよ。…ブルーとハーレイの間で何があったか。……セクハラかね?」
「「「…………」」」
私たちは言葉に詰まってしまいました。別世界からのお客様のことを先生方はご存じありません。教頭先生が別世界へ修行に行ったお土産に凄い記憶を貰ってしまって、それが原因でドクター・ノルディまで巻き込む騒ぎになっただなんて、もちろん言える筈も無く…。
「…無理ですわ、ヒルマン。とてもデリケートな問題です。…教師には話しにくいでしょう」
エラ先生の助け船に、ホッと息をつく私たち。それで先生方には分かってしまったようでした。
「…やっぱり…。ハーレイも焼きが回ったねぇ」
「いつかこうなると思っていたんじゃ!…おのれハーレイ、よくもソルジャーに…」
呆れた顔のブラウ先生と、拳を震わせるゼル先生。エラ先生とヒルマン先生は眉間を押さえて深い溜息。
「…………。具体的に何があったかは聞かないことにしておこう」
長い長い沈黙の後、口を開いたのはヒルマン先生でした。
「ソルジャー……いや、ブルーはどうしているのかね?…我々の目には普段と変わりなく見えたのだが」
私たちは何度も視線を交わし、肘でつつき合い…キース君が代表に押し出されました。
「…教頭先生を徹底的に無視しています」
「無視?」
「はい。…呼ばれても聞こえないふり、顔を合わせても見えないふりです」
「それは随分と…酷いようだね。なるほど、それでハーレイの担当科目だけが白紙だったというわけか。見えていない問題ならば解答しようがないからな。そこまで嫌っているとは思わなかった」
事態はかなり深刻そうだ、とヒルマン先生。
「よっぽどのことをしたんだよ。…まだ1学期の半ばだけども、担任を変えた方がいいかもしれないね」
「…担任を変えるじゃと?…誰が担任するんじゃ、ブラウ!」
「適役がいるじゃないか。どうせブルーは今年もこの子たちのクラスに入り浸りさ。…グレイブだよ」
「あんな若造にソルジャーのお守が務まるかいっ!!」
ブラウ先生とゼル先生の議論が始まり、ヒルマン先生とエラ先生も難しい顔をしています。まさか担任を変更だなんて…。三百年間も会長さんを担任してきた教頭先生を外すだなんて、シャングリラ学園創立以来の大事件に違いありません。もしかして会長さんはそれを狙って0点を?…その為に教頭先生を無視?…そういえば古典の試験は初日でした。試験最終日に教頭先生が会長さんの様子を見に来ていたのは、白紙解答に驚いたからでしょう。
「…これはブルーに事情を聞くしかないですな」
「それが最善だと思います。…傷付けないよう、注意を払わなくてはなりませんけど」
結論が出たらしく、ヒルマン先生がエラ先生と頷き合ってから、私たちに。
「…貴重な情報をありがとう。ぶるぅの部屋に行こうとしている所だったかな?」
はい、と答えると言われたことは…。
「我々の用は終わったから、行きたまえ。もしブルーがいたら、此処に来るよう言ってほしい。留守だったら、ぶるぅに伝言を頼む。…私たちが話をしたがっているから、都合のいい日を教えてくれ…とね」
シャングリラ号の長老方が会長さんに…呼び出し。教頭先生を無視しまくって、中間試験で0点を取って、呼び出しを食らった会長さん。これが会長さんの狙いでしょうが、いったい何をする気ですか~!




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別世界のシャングリラに住むソルジャーから凄いお土産を貰ってしまった教頭先生。会長さんそっくりのソルジャーと大人の時間を楽しむという夢のような想い出らしいのですが、実際のところは向こうのキャプテンが体験した記憶をソルジャーにコピーされたもの。本物の教頭先生はソルジャーの艶姿に鼻血を出して失神してしまい、何も覚えていないんです。その『お土産』を後生大事に抱えようとした代償は…。
「ノルディが車に飛び乗ったよ。大急ぎで行くって言っていたから、猛スピードで走るだろうね。信号に引っかからずに走り抜けられたら、5分ちょっとで着くんじゃないかな」
窓の外を見下ろす会長さんに陥れられた教頭先生。煽り立てられた挙句、熱を冷ます為の薬だと見事に騙され、ソルジャーが「ぶるぅ」に持たせた催淫剤セットの中の2つの薬を自分に使ってしまったんです。飲むタイプが1つと塗るのが1つ。おまけに「1回イクまでどうにもならない」暗示までかけられているわけで…。
「ふふ、ハーレイは重症だ。ベッドの上で悶々として転がってるけど、ぼくの暗示は強力だから、そう簡単にはイけないんだよね。ノルディが着く方が絶対に早い」
「あんた、本気でエロドクターに…」
キース君の顔が青ざめ、会長さんはニヤリと笑って。
「診察させるつもりだけれど?…どんな診断をするかはノルディに任すよ。励ましてから立ち去るも良し、大物にチャレンジしてみるも良し」
お、大物にチャレンジって…!さっきのボランティア精神発言といい、本当に教頭先生をエロドクターの餌食にしようというのでしょうか。いくらなんでも可哀相です。そりゃあ…ソルジャーとの記憶を手放さなかった教頭先生も悪いんですけど…。
「ふぅん、可哀相だと思ってるんだ?自業自得とは思わないわけ?…それにハーレイがぼくにしたいと思ってることを自分で体験してしまったら、ぼくと結婚したいだなんて言わなくなるかもしれないし…。一度ひどい目に遭えばいいのさ」
「…もしかして…俺も…?」
消え入りそうな声でそう言ったのはサム君でした。
「俺、ブルーのことが好きだけど…ブルーは女の子の方が好きだし、俺もブルーには迷惑なのかな…。教頭先生みたいになりたくなければ忘れろっていう警告なわけ…?」
「サム…。違うよ、サムはハーレイとは違うから。全然押し付けがましくないし、思い込みだって激しくないし…サムには何もしないってば」
大真面目に答える会長さんにサム君は…。
「あのさ…。ブルー、怒るかもしれないけど…。俺、教頭先生を助けてあげたいんだ。ブルーが好きだっていうのは俺と同じだし、三百年もブルーのことを大事にしてきた人なんだろう?…エロドクターからブルーを守ろうと頑張ったのも知ってるし…。だから…」
「恋敵を助けたいって言うのかい?…サムって優しすぎるよね…。そんな所が好きなんだけど」
会長さんは溜息をつき、教頭先生の家の方角を眺めながら。
「あーあ、予定が狂っちゃったな。…誰も帰ってくれないし…サムにはお願いされちゃうし。…仕方ない、みんなで行くしかないか」
「「「は?」」」
みんなで行くって、もしかして…?
「ハーレイの家に決まってるだろ。その代わり、何を見ても文句は言わせないからね。とりあえず最初はギャラリーなんだ。十八歳未満の団体だからモザイクはかけてあげるけど」
「「「モザイク!?」」」
「そう、モザイク。…色々と目の毒だと思うよ、君たちみたいな子供には。ぶるぅ、みんなで飛ぶから手伝って。それと着いたらシールドだ」
「オッケー♪」
「ちょ、ちょっと…」
ちょっと待って、と言い終わる前に青い光が私たちを包み込みました。ギャラリーにモザイクって、いったいどうなっちゃうんですか~!!

瞬間移動させられた先は教頭先生の寝室でした。私たちは会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」も含めて全員シールドの中。会長さんが大好きな『見えないギャラリー』というわけですが、外の音声は聞こえます。さっきよりも更に荒くなっている教頭先生の息遣いがハァハァと…。
「一応努力はしてるようだね。…無駄じゃないかと思うけどさ」
会長さんの言葉に釣られてウッカリ見ちゃったベッドの上には、ランニングシャツと紅白縞のトランクスしか身に着けていない教頭先生の姿がありました。えっと、えっと…せわしなく動く両手の先をぼかしているのがモザイクってヤツ!?うわ~ん、とんでもない所に来ちゃいましたよ!スウェナちゃんと私は耳まで真っ赤。ジョミー君たちは硬直です。
「…だから帰れって言ったのに。見たくないなら目を瞑って耳も押えていたまえ」
そ、そんなことを言われても…怖いもの見たさと言うのでしょうか、それとも多感なお年頃なのがマズイのでしょうか。私たちはベッドから目を逸らしただけで、誰も目を瞑りはしませんでした。
「やれやれ、好奇心に満ちた子供は恐ろしいね。…ハーレイったら必死になっているけども…あの程度ではどうにもならない。記憶の中のブルーを思い浮かべて頑張るだけでは無理なんだ。ぼくの暗示は甘くはないよ。ブルーを抱いた記憶の持ち主に相応しい刺激が得られない限り、イけないようにしてあるし」
「なんだと?」
反応したのはキース君。この状況でも頭は冴えているようです。会長さんはクスッと笑って。
「よく考えてみてごらん。ブルーを恋人にしてるハーレイがヘタレていると思うかい?…数えきれないほどブルーを抱いている筈だ。まりぃ先生のイラストを眺めて盛り上がってるハーレイなんかとは違うのさ。ハーレイが満足できる程度の刺激でイッちゃうようでは、ブルーの相手は務まらないよ」
ハーレイにはブルー相手に頑張れるだけの根性を見せて貰わないと、と会長さんは言い放ちました。
「記憶の中のハーレイが耐え抜いたのと同じだけの快感をやり過ごすまでイけないように暗示をかけた。記憶の代償を身体で支払えっていうのは、そういう意味。…元々、あっちのハーレイと入れ替わってブルーを抱いてみたいと高望みしてたことだしね。さて、どのくらい時間がかかることやら…。イク前にノルディが来るんじゃないかな」
「ヤバイじゃねえか!」
サム君が叫びましたが、会長さんは雨戸の方を見ています。
「来た、来た。急いでるのは分かるけれども、住宅街は徐行すべきだよねぇ。緊急車両じゃないんだからさ。…おっと、門扉の鍵が閉まってたっけ。うん、これでいい」
どうやらサイオンを使って開けたようです。玄関は合鍵で開けてそのままですし、ドクターは到着したらすぐに入れるというわけで…。教頭先生はそんなこととは夢にも知らず、まして私たちがいるとも気付かず、荒い息遣いだけが響いています。防音になっているので外の音声は聞こえませんが、ドクターはもう、すぐそこに?
「車を止めて降りたとこ」
会長さんが答えた直後にチャイムの音が鳴りました。
「「「!!!」」」
教頭先生もビクッとしましたが、咄嗟に反応できないようです。チャイムは何回か鳴って終わりでした。ドクターは答えを待たずに突入することにしたのでしょう。ところが教頭先生はホッとした顔でさっきの続きを始めているではありませんか!
「ハーレイったら、訪問販売か宗教の勧誘だとでも思ったようだね。…ふふ、ノルディはもう階段の下まで来てるんだけど」
楽しそうな会長さんが言い終えるのと、寝室の扉がバン!と開いたのは同時でした。
「失礼します!!」
駆け込んできたドクターの腕から往診用の鞄がドサリと床に。
「…きゅ、…急患だと…聞いたのですが…」
呆れ果てた、という表情でドクターはベッドの上の教頭先生を眺めました。
「…お取り込み中でございましたか。やれやれ、悪戯電話に引っかかってしまったようです」
「い…たず…ら…電…話…?」
ハァハァと息をしながら途切れ途切れに尋ねる教頭先生。予期せぬ訪問者に身体はカチンコチンに固まっています。
「ええ、悪戯電話というヤツですよ。あなたの具合が悪いから往診してくれ、とブルーから電話があったのですが…サイオンで覗き見をしていたのでしょうね」
「…ブルー…が…?」
「そうです。あなたの大事なブルーからでした。…頼まれた以上、やはり診察しませんと」
ドクターは落とした鞄を拾い上げると、ベッドのそばに近付きました。
「まず問診をしましょうか。…この症状はいつからです?」

どう見ても病人ではない教頭先生を前に、ドクターは大真面目な顔で『お医者さんごっこ』をする気のようです。本物のお医者さんですから『ごっこ』というのは変ですけども、そも、病気ではないわけですし…『ごっこ』と呼ぶのが相応しいような。教頭先生は紅白縞のトランクスをゴソゴソ履き直し、掛け布団を首まで引っ張り上げました。私たちの視界からボケた部分が消え失せます。
「…布団を被られては困りますね。診察の時には剥がしますよ」
ドクターは教頭先生の顔を覗き込み、もう一度ゆっくり尋ねました。
「チャイムを無視なさるほど忙しかったようですが…いつからそんな状態ですか?…ブルーに覗きの趣味があるとは思えませんし、彼が関係しているのでは?」
「…い、いや…」
「ほほう。…無理強いをして逃げられたとか、それとも悪戯で誘惑されたか…。私の推理では後者です。艶姿をご覧になったのではないでしょうね?そんな良い光景を独り占めなさってはいけませんよ」
「…!!!」
ある意味、図星を突いた言葉に唾を飲み込む教頭先生。ソルジャーとの記憶が鮮明に蘇ったに違いありません。その一瞬をドクターは見逃しはしませんでした。
「当たりでしたか。…では、せっかくですから熱を測るついでに拝見させて頂きましょう」
スッと右手を教頭先生の額に置いて目を閉じるドクター。教頭先生の心を読む気なのでしょうが、そんなことをしたらあの記憶が…!
「………何故です………」
地を這うような低い声を絞り出し、ドクターはワナワナと震え出しました。
「…何故、あのブルーがあなたなんかと!!」
あらら。ソルジャーの存在を知らないドクターは、教頭先生が会長さんを抱いたと勘違いしてしまったようです。教頭先生は大慌て。
「ち、違う…!そ、それは…その記憶は…」
「…なんですって?…ブルーではない?」
詳しく聞かせて貰いましょうか、と凄んだドクターは次の瞬間、おかしそうに笑い出しました。
「ははは、サイオンとは便利なものですね。一部始終が分かりましたよ。…あなたの記憶に怒ったブルーが腹いせに私に電話をしてきたというわけですか。なるほど、なるほど」
使ったのはこの薬ですか、とドクターが手に取る前に飲み薬と塗り薬の小瓶がフッと消え失せます。それは会長さんの手の中にあり、そこから更に宙へと消えて…。
「ノルディには渡せないからね。分析して同じものを作ろうとするに決まってる。処分するのが一番なのさ」
そしてドクターの方も小瓶が消えた辺りを見つめて不敵な笑みを浮かべました。
「証拠隠滅ときましたか。…この絶妙なタイミング。今もブルーは何処かで観察しているようですね。これは私も頑張りませんと…。そうでしょう、ハーレイ?」
「…な、何を…」
「決まっているではありませんか。ブルーは私に治療を頼んできたのです。…務めを果たすまでですよ」
ドクターは掛け布団をバッと剥ぎ取り、下着姿の教頭先生を絡み付くような視線で眺めて。
「…私の好みからは外れていますが、守備範囲は広い方でしてね。体格差で尻ごみしていたのでは、経験値なぞ上がりません。…大丈夫、気を楽にしておいでなさい」
「…ちょ、ちょっと待て、ノルディ…!」
「この場合、治療が最優先です。あなたにも御協力いただかないと」
言うなりドクターは教頭先生の首に顔を埋めました。
「…うっ……ノ…ルディ…」
呻くように上がった声にドクターは指を滑らせながら。
「ああ、申し訳ありませんが…唇へのキスは無しにします。噛み付かれたら大変ですしね」
その分は他で楽しませて差し上げますから、と首筋に舌を這わせてゆくドクター。ものすごく危ない状況ですが、会長さんが動く気配はありません。教頭先生も薬が効いているせいなのか、払いのけることができないようでした。
「おい、このままだとマジでヤバイぞ」
キース君が焦り、サム君が会長さんの腕を引っ張って。
「ブルー、まずいよ。教頭先生、動けないんじゃ…」
「いいんだってば。…ここへ来る前に約束しただろ、何を見ても文句は言わない…って」
悠然と見ている会長さん。1回イクまでどうにもならない、という暗示を解く気も無さそうですし、助ける気なんて皆無なのかも…。

「…如何ですか、ブルーを抱くより前に御自分が抱かれる羽目になった御気分は?」
ドクターは教頭先生のランニングシャツを捲り上げて胸を指と舌で弄っているようでした。私たちにはボケていて見えませんけど、教頭先生が途切れ途切れに漏らす声の感じからして、かなりな腕の持ち主かと。…っていうか、教頭先生、あんな色っぽい声が出せたんですねぇ…。ちょっとビックリ。
「楽しいだろう?…ノルディが頑張ってくれてるんだし、しっかり見物しとかないとね。あ、君たちはモザイクつきだし、そうハッキリとは見えないか…」
クスクスと笑う会長さんは無修正で見ているようです。三百年以上も生きてるんですし、シャングリラ・ジゴロ・ブルーでフィシスさんとも深い関係がある人ですし、別に問題ないんですけど…悪趣味というか何と言うか。そしてドクターは興が乗ってきたらしく、とんでもないことを言い出しました。
「せっかくですから、あなたが貰ったという記憶の中の動きを全て再現してみましょうか?…ええ、勿論あなたがブルーの役で、私があなたを演じるのですよ」
ひえぇぇ!私たちは青ざめましたが、教頭先生は既に翻弄されまくっていて抗議の声も出せません。会長さんは「いい趣向だ」と頷いています。も、もう、ついていけないかも~!ドクターの手が紅白縞のトランクスにかかったのを見たらクラッと眩暈が…。
「…4人脱落」
頭を抱えて座り込むのと、会長さんの声が重なりました。他にも3人脱落したみたい。エロドクターの卑猥な台詞と教頭先生の喘ぎ声が折り重なる中、脱落者はいつの間にか7人全員に…。もはや見ているのは会長さんと、子供で意味が分かっていない「そるじゃぁ・ぶるぅ」だけでした。サム君が掠れた声で会長さんを呼びながら。
「…助けてやれよ、ブルー!…このままじゃ…このままじゃ、教頭先生が…」
「もうちょっと。…もうちょっとで面白いことになるんだからさ」
笑いを含んだ会長さんの声に重なってゆく教頭先生の激しく荒い息遣いと艶っぽい声。もうちょっとだなんて言われても…早く助けないとマズイのでは…。
「見てもいないくせに文句を言わない!ギャラリーの役に立っていないんだし、そこで大人しくしていたまえ。本当にもうちょっとなんだ。ねぇ、ぶるぅ?」
「んと…んと…。何が?」
「ごめん、聞いたぼくが馬鹿だった」
「それ、ぼく、ちょっと傷ついちゃう。…だけど、ハーレイ、獣みたいな声だよね」
獣ですって!絶妙な表現に会長さんが吹き出したのと、教頭先生の一際熱い叫びは同時でした。も、もしかして…イッちゃいましたか…?…エロドクターの声がねちっこく聞こえてきます。
「…いい顔を見せて頂きましたよ。ブルー役、よくお似合いで…。ふふ、お楽しみはこれからです」
ハァハァという呼吸は教頭先生なのか、ドクターなのか。もうヤバイなんてものではなくて、面白いなんてものでもなくて…。会長さんったら、何をどうするつもりなんですか~!と、私たちがシールドの中で絶叫した時。
「どりゃぁあああ!!!」
野太い声が部屋に響いて、重たいものが床にドスンと落ちました。こ、この気合と震動は…。
「…っっつぅ…」
痛そうな呻きはドクターのもので、思わず顔を上げる私たち。床の上にドクターが仰向けに倒れ、それを教頭先生が肩で息をしながら仁王立ちになって見下ろしています。ランニングシャツしか着てませんから、ちょっとモザイクかかってますけど。
「…いたたた……。よくも素人相手に…」
「それは私の台詞だ、ノルディ」
教頭先生は紅白縞のトランクスを拾い上げ、よいしょ、と履いて。
「私がイッたら治療は終わりの筈だろう。…ブルーが何と言ったか知らんが、これ以上は遠慮してもらう」
まだハァハァと息が乱れているのに、これだけの言葉を一気に喋れる教頭先生。鍛え方が半端じゃないのでしょう。ドクターは腰を擦りながら身体を起こし、天然パーマの頭を振って立ち上がると。
「…言われなくても退散しますよ。今のですっかり気がそがれました。この埋め合わせはいずれブルーに…。いえ、ブルーよりも…」
顎に手を当ててドクターはニヤリと笑いました。
「あなたの記憶で見せて頂いたブルーの方に一度手合わせ願いたいものです。…ああ、だからといってブルーを諦めたわけではないですよ?あちらのブルーも素敵でしょうが、嫌がるブルーを手なずけるのが私の積年の夢ですからね。今度もう一人のブルーにお会いになったら、宜しくお伝え頂きたい。もしも紹介して頂けたら、今日の治療費と打ち身の慰謝料は倍にしてお返し致しましょう」
合計でこれだけになります、とボッタクリな金額を告げるドクターに教頭先生は苦い顔をして財布を取り出し、代金を渡すと声をひそめて。
「払った以上、守秘義務はキッチリ守ってもらうぞ。…喋りまくられたのではたまらん」
「頼まれなくても言いませんよ。…私の趣味が疑われますし」
二人の間でバチバチと火花が飛び散り、しばらく睨み合いが続きましたが…。
「…では、くれぐれもお大事に」
「うむ。…気をつけて帰ってくれ」
流石は大人同士です。さっきまでのことは無かったようにお医者さんと患者の関係に戻り、ドクターは帰ってゆきました。えっと、これで円満解決かな…?

「お見事、ハーレイ。…あの態勢でよく投げ飛ばせたね」
パチパチパチと拍手が響き、会長さんが一人でシールドの外へ。ベッドに腰を下ろそうとしていた教頭先生は、突然現れた会長さんの姿に口をパクパクさせています。
「…み…見ていたのか…!まさか最初から…全部…?」
「うん、全部。…ノルディに電話をした後、すぐに来たんだ。本当に危なくなったら助けるつもりだったけど…ハーレイなら自分で撃退するかな、とも思ってた。予想以上に立ち直りが早くて驚いたよ」
「…そうなのか…」
ホッとしたような表情が教頭先生の顔に浮かびました。
「お前に見られていたというのは恥ずかしいんだが、ノルディを叩き出せてよかった。…あんな状態の時にお前が来たら、ノルディは矛先を変えるからな。正直、あの状況ではお前を守れる自信が無い」
「まったく、どこまでお人好しなんだか…。ノルディを呼び出したのは、ぼくなんだよ?」
「…それでも、だ。お前が危ない目に遭うよりはずっといい」
教頭先生は穏やかに微笑み、落ちていたズボンを履いてワイシャツも身に着けてゆきます。これが大人の余裕でしょうか?…会長さんは唇を尖らせ、不満そう。
「ちぇっ、なんだかつまらないな。…あの記憶を消去したくなるほど困らせようと思ったのに」
「確かに大いに困りはしたが…。いい勉強になったと思う。ノルディが配役を決めたお蔭で、よく分かった。私だけが気持ちよくなったのではダメなのだな。…お前を十分満足させられないといけないらしい」
「えっ…」
会長さんの目が点になり、それはシールドの中の私たちも同様で。そんな会長さんに気付かず、教頭先生はにこやかに笑って続けました。
「今回はお前が意識をブロックしていたせいで長いこと耐える羽目になったが、それだけの時間を耐え抜かないと本番では役に立たないようだ。…お前が嫁に来てくれないのも無理はない。夫婦生活に不安があったか…」
「ち、違うってば!ぼくにはそんな趣味は無いんだから!!」
「…私だってノルディにやられるまでは、やることばかり考えていたが…やられてみたら最悪というわけでもなかったぞ。気持ち良かった部分もある。…ブルー、お前も食わず嫌いは良くないな。私が修行を積んで自信をつけたら、思い切って嫁に来ないか?」
なんと!教頭先生はエロドクターに嬲られた末に開眼してしまったようでした。今まで以上に会長さんへの想いが募りそうです。会長さんは顔を引き攣らせ、床のクッションを拾い上げて。
「ハーレイの変態!!」
ボスッ、と顔を目がけて投げると、ポカンとしていた私たちまで一気に青いサイオンで包み込むなり瞬間移動。感情が昂ぶっていると「そるじゃぁ・ぶるぅ」の補助が無くても全員を連れて飛べるんですねぇ…。
「なんで裏目に出ちゃうのさ!…ハーレイったら、やる気満々じゃないか!!」
元のリビングに戻った会長さんは眉を吊り上げて叫びました。そこへすかさずキース君が。
「…何もかも、全部あんたが仕掛けたんだろうが。ヘタレ直しも、今度のことも」
「そりゃそうだけど、ノルディのヤツにオモチャにされたらショックを受けると思ったのに!…プライドが傷付いた所で釘を刺すつもりだったんだ。ハーレイがぼくに望んでるのはそれとおんなじ事なんだよ、って!!」
「なるほど。…致命的な読み違えをしてしまったわけだな。教頭先生は燃えているぞ。…どうやって修行をするつもりかは知らないが」
キース君の容赦ない言葉に会長さんはソファに突っ伏し、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が無邪気な声で。
「ねぇねぇ、遅くなったし、みんな晩御飯を食べて帰るよね?急いで用意するから待ってて。…それとね、教頭先生の修行、ぶるぅに頼めば出来ると思うな。ねぇ、ブルー。ヘタレ直し、また頼んでおく?」
「……ぶるぅ、ヘタレ直しも修行の話も綺麗サッパリ忘れるんだ。もう二度と頼まなくていい」
ソファに沈んだままの会長さんに「は~い♪」と元気よく返事を返して「そるじゃぁ・ぶるぅ」はキッチンに駆けてゆきました。会長さんの悪戯も今回ばかりは最悪な結果になったようです。エロドクターに食べられかけて持久力の必要性を悟った教頭先生。ヘタレ直しの修行と併せて、頑張りまくるに決まっています。
「ヤバイよね」
「うん、ヤバい」
私たちは顔を見合わせ、窓の外に光る一番星に心の中でお祈りしました。
『教頭先生のヘタレが永遠に直らないよう、お願いします』
お星様に私たちの心の声が届くでしょうか?…もしかしたら教頭先生が同じお星様に願掛けをしていたりして…。教頭先生、三百年越しの想いを遂げるべく、只今、絶賛修行中。ソルジャーとの記憶を大事に抱えて、目指すは会長さんとの甘い新婚生活です。会長さんもこれに懲りたら、少しは悪戯しなくなるかな…?




別世界のシャングリラ号へ『ヘタレ直し』の修行に行った教頭先生。その甲斐あって、会長さんに瓜二つのソルジャーと疲れるまで大人の運動をして、ソルジャーは「壊れちゃいそうだ」と言ったきりベッドから出てこなかったと「ぶるぅ」が証言していったとか。何かといえば鼻血ばかりの教頭先生のヘタレ根性が、そんなに急に直るでしょうか?事の真偽を確かめるべく、私たちは教頭先生の家に来ていました。
「ハーレイの寝室は二階の端で、防音になっているんだよ。ぼくたちの声は聞こえないから安心して」
会長さんは合鍵で玄関を開け、私たちを招き入れると先に立って歩き出します。
「寝室を防音にしてある理由が笑えるんだ。ぼくと結婚すると、もれなくぶるぅがついて来るだろ?…子供のぶるぅに遠慮しないで大人の時間を過ごせるように、って配慮なのさ。捕らぬ狸の皮算用にも程があるよね」
「ねぇ、ブルー」
馴れた様子で廊下を歩く「そるじゃぁ・ぶるぅ」が言いました。
「大人の時間とか、大人の運動とかって…どんなもの?…ぶるぅは恋をしたらできるよ、って言ってたし…。ぼくと恋をしようねって誘ってくれたし、ちょっと楽しみ」
「「「えぇぇっ!?」」」
とんでもない台詞に思わず叫んだ私たち。会長さんが「シッ」と人差し指を唇に押し当てて。
「聞かれる心配は無いと言ったけど、一応、忍び込んでる身だよ。もっと静かにしてくれないと」
「で、でも…」
有り得ないことを聞いちゃったし、と言い訳をするジョミー君。私たちもコクリと頷きます。
「気にしなくてもいいってば。あっちのぶるぅにブルーが言ったらしいんだ。…恋をするまで大人の時間も大人の運動もお預けだ、ってね。ませた子だけど理解しているわけじゃない。でなきゃ、ぶるぅを誘わないよ」
「だろうな」
キース君が幼児体型の「そるじゃぁ・ぶるぅ」を見下ろしました。
「まぁ、微笑ましい恋ができるかもしれん。運動したけりゃ公園もあるし」
「そっか、夜だから大人の運動なんだ」
納得した様子で呟く「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「公園って、夜は大人が多いよね。ぼくもぶるぅと恋をしようっと!…夜に遊んでる子供って誰もいないし、滑り台もブランコも二人で好きなだけ使えそう。くたくたに疲れちゃうまで遊ぶんだ♪」
大人の運動を勘違いしたようですけれど、誰も訂正しませんでした。子供にはこれで十分です。問題は教頭先生の方。本当にソルジャーと大人の運動を…?家の中は妙に静かで、人の気配もありません。
「食事もしてないみたいだね」
会長さんが勝手に冷蔵庫を開け、中身をチェックしています。
「帰ったら食べるつもりで置いといたのかな?…ご飯にトンカツ、どっちも今日のじゃなさそうだ」
「どれ、どれ?」
横から覗き込んだ「そるじゃぁ・ぶるぅ」が器にかけられたラップを外して検分して。
「うん、今日のご飯じゃないと思うよ。トンカツも揚げてから丸一日は経ってそう」
「なるほど。食事に降りてくる気も起こらないほど疲れ果てたっていうわけか…。そういう時こそ栄養を補給しないとダメなのにさ。この様子だとシャワーも浴びずに寝てるんだろうな」
なんだか会いたくなくなってきた、と額を押さえる会長さん。
「シャワーを浴びて帰ってきてると思いたいよ。そのまま帰ってきてベッドに潜ってるんなら最悪」
「だが、確かめに行くんだろう?」
キース君が言い、サム君は…。
「帰ろうぜ、ブルー。会いたくないなら会わずに帰るのが一番いいって!」
今なら十分引き返せるし、と会長さんの腕を引っ張りましたけど。
「…ううん、やっぱり確かめなくちゃ。ここまで疲れたっていうなら、なおのこと知っておかないと。ブルーとの間に何があったか、知らないままではいられないよ。…今後の対策を立てるためにもね」
溜息をついて階段に向かう会長さんの後ろに続く私たち。いよいよ教頭先生と御対面ということになりそうです。

階段を上ると廊下があって、突き当りの扉が寝室でした。会長さんは扉をじっと見つめて…。
「帰るなりベッドに潜り込んだっていうのは間違いないな。あれじゃスーツが台無しだ。今も布団にくるまって寝てる。…それじゃ行くから、万一の時はフォローを頼むよ」
サイオンで部屋を探って覚悟を決めた会長さんが扉の前で深呼吸してドアノブに手をかけました。鍵はかかっていなかったらしく、扉が静かに開きます。…どう見ても一人用には見えない大きなベッドの布団が盛り上がっていて、床にはスーツにワイシャツ、ネクタイや靴下が脱ぎ散らかされたままではありませんか。雨戸が閉まって薄暗い部屋の壁には会長さんのウェディング・ドレス姿の大きな写真が。
「ハーレイ!!」
会長さんが声を張り上げ、電灯のスイッチを入れました。パッと明るくなった部屋のベッドの上でモゾモゾと動く物体が…。
「来てあげたのに起きないのかい!?…朝だよ、ハーレイ!!」
「…うう……」
布団の頭の方が持ち上がり、寝ぼけ眼の教頭先生の顔が覗きます。髪の毛は乱れて寝癖まで…。会長さんは慎重に距離を取りながらベッドに近づき、バッと布団を剥ぎ取りました。白のランニングシャツと紅白縞のトランクスしか身に着けていない教頭先生がクシャクシャになったシーツの上に転がっている光景ときたら、憐れなような、間抜けなような。
「目が覚めた?…昨夜はお楽しみだったみたいだね」
会長さんの冷たい声と視線を浴びた教頭先生はサーッと青ざめ、大きな身体を縮こまらせて。
「……ブルー…。な、…なんでお前が…」
「言っておくけど、ぼくだけじゃないし。一人で来るほど馬鹿じゃないよ」
私たちの姿に気付いた教頭先生は慌てましたが、着る物は全て床の上。威厳も何もあったものではありません。
「す、すまん…こんな格好で。ちょっと待ってくれ、何か着るから」
「取り繕っても無駄だと思うな。…ハーレイが朝帰りして欠勤したのはバレてるんだ。あっちのぶるぅから全部聞いたよ。だからみんなを連れてきた。ぼくはあっちのブルーとは違う。ハーレイの相手をする気はないからね」
「………!!!」
教頭先生の顔が真っ赤になって、鼻を押さえたかと思ったら…ツーッと垂れたのは鼻血でした。えっと。真っ赤になるのは照れたということで通りますけど、鼻血って…。ソルジャーが壊れちゃいそうなほどやらかしたくせに鼻血だなんて、よほど鼻の血管が脆いのかな?
「……ハーレイ……?」
怪訝そうな顔の会長さん。教頭先生の方は気の毒なほど縮み上がってベッドの上で固まっています。ティッシュを取ることもできないらしく、押さえ切れなかった鼻血が白いランニングシャツにポタリと垂れて…。次の瞬間、会長さんがプッと吹き出し、おかしそうに笑い出しました。
「…そうか、そういうことなのか…。鼻血に阻まれちゃったんだ」
クックッと肩を震わせて笑い続ける会長さんと、ますます縮こまる教頭先生。いったい鼻血が何をしたと…?
「失神しちゃったんだよ、鼻血のせいで。…ハーレイの心を読んでみるかい?」
首を横に振る私たち。何が起こったか気にならないといえば嘘になりますが、朝帰りした教頭先生の心の中身を見たいとまでは思いません。どんな体験談が詰まっているのか分からないのに、ウッカリ覗いて後悔するのは御免です。
「…うーん、せっかく笑えるのに…。でも賢明な判断だとも言えるかな。今のハーレイは全く遮蔽が出来てないから、下手に読んだら君たちには刺激が強すぎるかも。まだ十八歳未満だしね」
「「「えぇぇっ!?」」」
それじゃ、やっぱり教頭先生はソルジャーを相手に頑張りまくっていたのでしょうか。十八歳未満お断りな中身が心の中にあるのだったら、そういう意味になりますし…。愕然とする私たちに、会長さんは笑いを堪えながら。
「違う、違う。…鼻血と十八歳未満お断りとは無関係だよ。密接に関係してると言えないこともないけれど」
鼻血を垂らして硬直している教頭先生を他所に、昨夜の顛末が語られ始めました。

「覗き見していたハーレイとぶるぅが見咎められた、ってことは話したよね。その後、ブルーがハーレイを誘ったんだ。修行に来たなら自分の相手をするように…って。ハーレイはヘタレを捻じ伏せてベッドに上がり、ブルーにのしかかったまではいいんだけれど、そこが限界。…ブルーの胸元に鼻血が垂れて、それを見て失神しちゃったのさ」
なんと!鼻血に阻まれたというのはソレでしたか。じゃあ、十八歳未満お断りとは?
「ぼくも見た瞬間は焦ったよ。本当にブルーとやっちゃったのか、って驚いた。ブルーを抱いてる記憶があって、しかも半端じゃないんだから。…でも、よく見たら変なんだよね。ブルーの反応がおかしいんだ。初心者相手というより、なんていうのかな…。いつもの相手としてるって感じ」
「「「???」」」
「つまり、向こうのハーレイ視点の記憶なんだ。失神したハーレイに呆れたブルーが流し込んだ偽の記憶だと思う。いくらブルーでも事の最中に相手の心は読めないだろうし、終わった後で記憶を読んで、それをハーレイに寸分違わずコピーしたのさ」
ひえぇぇ!それじゃ教頭先生の頭の中には、向こうのキャプテンがソルジャーと過ごした大人の時間の記憶がバッチリ植えられてしまっていると…。
「そういうこと。とても見事に刷り込まれてるし、記憶をしっかり正視しないと…ハーレイにも自分の記憶と全く区別がつかないだろうね。…そうだろう、ハーレイ?」
いきなり話を振られた教頭先生は飛び上がらんばかりに仰天すると、必死になって首を左右に振りました。
「嘘つき!!…勘違いしてパニックになって、今日は欠勤したんだろ?あっちのブルーを抱いた直後じゃ、ぼくの顔をまともに見られないもんね。で、真相に気付いた後はベッドの中で偽の記憶にドップリ浸っていたくせに」
会長さんは眉を吊り上げ、床に置かれていたクッションを掴むと、教頭先生の顔にボスッと投げつけて。
「ぼくが入ってきた時だってウトウトと夢を見てたんだろう?…記憶の中のブルーと思う存分やりまくる夢。ぼくのあんな姿が理想かと思うと、気持ち悪いったらありゃしない。ハーレイの変態!むっつりスケベ!!」
「ち、違う…!誤解だ、ブルー!」
「言い訳したって無駄だよ、ハーレイ。その記憶、最高なんだろう?…他人のだって分かってたって、しっかり根付いているんだからさ。ブルーがどんな声を上げたか、どんな身体をしていたか…自分が体験してきたようにハッキリ覚えている筈だ。極上のお宝を分けて貰えて幸せだよね」
赤い瞳に射すくめられて教頭先生は真っ青です。そして教頭先生の記憶を読んでしまった会長さんは、この上もなく不機嫌でした。実際には鼻血に阻まれて未遂に終わった『ヘタレ直し』の修行ですけど、教頭先生の頭の中に自分そっくりのソルジャーが抱かれる記憶が入っているのが不快だというわけでしょう。
「…本当に誤解だって言うんだったら、記憶を消去したっていいよね?…ブルーが流し込んだヤツなら、ぼくに消せないわけがない。それとも大事に持っているかい?…ぼくには決してしてあげられないサービスなんだし、記念に残しておきたいのなら無理に消すとは言わないけどさ」
記憶を消去すると迫られた教頭先生の顔は引き攣り、残してもいいと言われた途端に安堵の息が漏れました。分かりやすいのも、ここまでいけば天晴れです。三百年間も会長さんに片想いして、結婚したくて家族用の家や大きなベッドまで用意している教頭先生。その会長さんそっくりのソルジャー相手に「壊れちゃいそうだ」と言わせるほどの大人の運動をする記憶なんて、まさにお宝そのものですよね。
「…記憶を手放す気は無いっていうんだ?…だったら無理に消そうとすると弊害が出てしまうかもね」
会長さんは額を押さえて、大きな溜息をつきました。
「ぼくそっくりの顔と身体であんなことを…。ブルーの趣味は知っていたけど、現実を突きつけられると参っちゃうな。しかもハーレイに記憶を植え付けるなんて、どこまで悪戯好きなんだか…」
自分のことは棚に上げてしまっているようです。そもそも、会長さんが妙な悪戯を仕掛けなかったら、こんな事態に陥ったりはしないんですけど…言うだけ無駄というものでしょう。私たちは顔を見合わせ、苦笑するしかありませんでした。
「…仕方ない、記憶を消すのは諦めよう。その代わり…」
会長さんはベッドの上で動けないままの教頭先生をビシッと鋭く指差して。
「代償を払ってもらうからね。そう、その身体で支払うんだ。…いくら他人の記憶といっても、ブルーを抱いてきたんだろう?ぼくとブルーはそっくり同じだ。…ぼくの身体を好きにしたなら、ぼくに逆のことをされても文句は言えない立場だよねぇ?」
げげっ。代償って…身体で払えって、どういう意味!?…まさか会長さん、教頭先生を相手に大人の運動をしようというんじゃないでしょうね…?

「まずは準備をしなくっちゃ。…着替えてくるから、ハーレイが逃げ出さないよう見張っていて」
寝室を出て行こうとする会長さんをキース君が呼び止めました。
「ここで着替えればいいだろうが!何を着ようというのか知らんが、サイオンで着替えるのは得意なくせに」
「それじゃインパクトに欠けるんだ。ハーレイ、ちょっとバスルームを借りるからね!」
うっ、と呻いた教頭先生をサラッと無視して廊下に消える会長さん。何故に着替えにバスルーム…?私たちが首を捻っていると、教頭先生がベッドの上で縮こまりながら。
「…そ、そのぅ…シャツとズボンを着たいんだが…」
それくらいなら構わないかな、と誰もがチラッと思うより早く。
『却下!』
響いた思念は会長さんのものでした。
『そのままベッドにいるんだ、ハーレイ。…服を拾ってもらうのもダメ。自慢のトランクスを披露するチャンスなんだし、みんなにじっくり見せてあげれば?』
「「「……!!!」」」
青月印の紅白縞のトランクス。教頭先生は真っ赤になってランニングシャツの裾を引っ張り、少しでも隠そうと頑張っています。けれど隠せるわけがないので、滑稽というかなんというか。…お気の毒ですし、ここは目を逸らすのが礼儀っていうものでしょう。でも誰一人そうしないのは見張りを頼まれたからではなくて、野次馬根性のなせる業かも。だって滅多に見られませんよ、教頭先生のこんな惨めな格好なんて!
「ブルー、遅いなぁ…」
サム君が扉の方を眺めました。確かに時間が掛かりすぎです。サイオンを使えば一瞬のところを手作業で着替えているにしたって、なんだかちょっと遅すぎるような…。と、口を開いたのは「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「あのね、ブルーは準備中。何をしてるかは言っちゃダメって」
「「「準備中!?」」」
「うん。もうすぐ終わるし、それまで秘密」
バスルームで着替えで準備中。いったいどういう意味なんでしょう?やがて扉がガチャリと開いて…。
「お待たせ、ハーレイ。…どう?宝物の記憶を再現したよ」
現れた会長さんが着込んでいたのはバスローブでした。肌はほんのり上気していて、どう見てもお風呂上がりです。
「ふふ、一人暮らしのくせに無駄に広いよね、バスルーム。ゆったり入れていいけどさ。…でも、ぼくと一緒に入る日のために広いバスタブにしたんだっけ。一人で使って悪かったかな?」
悪いなんて思ってないくせに、と心で突っ込む私たち。しかし教頭先生ときたら、お風呂までこだわって選んだんですか!こんな会長さんを相手に、どこまで夢を見ていたんだか…。その会長さんからはフワリと良い香りが漂ってきます。教頭先生が薔薇の香りのソープセットを使ってたなんて、意外と言うか何と言うか…。
「ほら、この香り、覚えてない?…あっちのブルーと同じ香りのシャンプーとボディーソープを使ってきた。ハーレイのヤツはオジサンっぽくて好みじゃないし、香りの記憶って大事だし。これでブルーと見分けがつかなくなったと思うんだけど、感想は?」
薔薇の香りは教頭先生の愛用品ではなかったようです。ホッとしましたけど、ソルジャーと見分けがつかない格好って?…しかもお風呂上がりでバスローブ。とてつもなく嫌な予感がします。会長さんは私たちの間を横切り、大きなベッドに近づいていくと、教頭先生の前に寝転がりました。ビクッと身体を竦ませる教頭先生に瞳を向けて…。
「見られてると欲情する。それもお前に見られていると特別に」
「「「!!!」」」
とんでもない台詞に呆然とする私たち。会長さんはクスッと笑って起き上がり、教頭先生に身体を寄せて首に抱きつくと「きて」と耳元で囁きます。教頭先生の顔が赤く染まって、またまた鼻血が…。会長さんは赤い瞳をキラキラさせて更に身体を擦り寄せました。
「で?…これから先はどうするんだっけ、ねえ、ハーレイ?…失神できないように意識をブロックしたし、後はやるしかないわけだけど」
えっ?や、やるって…この状況でいったい何を?赤い瞳が悪戯っぽく輝いています。
「そう、失神はさせないよ。1回イクまでどうにもならない。ぼくの暗示は強力だから。…この続きは?」
「……うう……」
教頭先生も真っ赤でしたが、私たちも同じでした。い、イクまでって…教頭先生がってコトですよね?いえ、会長さんの方だったとしても、見てなきゃいけないわけですか?…そうなるまで…?
「イッてもらうのはハーレイさ。…宝物の記憶どおりに実行できれば問題ないけど、ほら、このとおり全身硬直中。でも脳内では順調に記憶を再現しているんだ。…見てごらん」
ピョンとベッドから飛び降りた会長さんが指さしたのは紅白縞のトランクス。うわぁ、とんでもないことに…って、スウェナちゃんも私もお嫁入り前の女の子なのに…!!
「あ、ごめん。…女の子が二人もいたんだっけ。これじゃイクまでってわけにはいかないね…。うっかりしてた」
素直に謝った会長さんはニコッと天使の笑みを浮かべて。
「ハーレイ、この子たちに免じて許してあげる。…これで解消する筈だ」
宙にフッと現れた小さな瓶が教頭先生の手に渡されました。

怪訝そうな顔で小瓶を見つめる教頭先生。会長さんに「1回イクまでどうにもならない」状況に追い込まれちゃったわけですが…それを解消するアイテムって?見覚えがあるような気もするんですけど…。
「一息に飲めばいいんだよ。こういう時の特効薬さ。…ああ、手が震えて上手く開かない?」
会長さんが横から手を伸ばして蓋を開けると、教頭先生は一気に中身を飲み干しました。文字通り流し込むような勢いです。切羽詰まっていたのがバレバレですよね…って、あれ?今の小瓶に入った綺麗な色の薬は…ソルジャーからのお土産のハート型の箱に入ってたヤツなんじゃあ!?
「…それじゃ退散させてもらうよ。ん?…もしかして治まらない…?」
息遣いが荒くなった教頭先生をまじまじと眺めた会長さんは。
「ごめん、薬を間違えちゃった。…どうしよう…。あ、そうだ、これ!これを塗ったらスッキリするから!…でも女の子も混じっているし、ぼくたちが帰った後で塗るといい。多めに塗った方が効くのが早いよ」
はい、と綺麗な色の薬を渡す会長さん。今度こそ全員が薬の正体を見抜きましたが、驚きの声を上げるより早く青い光が私たちを取り巻いて…。
「帰るよ、ぶるぅ。ぼくたちの家まで全員で飛ぶから手伝って」
フワッと身体が浮き上がってしまい、着地したのは会長さんの家のリビングでした。私たちのカバンが置かれています。会長さんはスタスタと部屋を出て行き、バスローブから私服に着替えて戻ってきました。
「今、ハーレイが薬を塗ったよ。気持ちよくなる魔法の薬」
クックッと笑う会長さんはサイオンで覗き見しているようです。
「あの薬、効果絶大なんだよね。…ブルーが寄越すだけのことはある。ぼくの暗示も解かなかったし、かなり苦しくなるだろうけど…こういう時ってお医者さんを呼べばいいのかな?」
「「「お医者さん!?」」」
「うん。身体のトラブルは専門の人に一任するのがベストだろう?」
言うなり会長さんは電話機に向かい、パパッと素早く操作して。
「ああ、ノルディ?…ぼくだ。ハーレイの具合が悪いらしい。すぐに往診して欲しいんだけど」
「「「!!!」」」
首尾よく往診を頼んだ会長さんが電話を切ります。ドクターは大急ぎで教頭先生の家に向かうそうですが、催淫剤をダブルで使った教頭先生を治す方法なんてあるんでしょうか…?
「さあね。ノルディは百戦錬磨だからさ、状況は把握できると思うよ。後は二人の問題かな。…ノルディがボランティア精神を発揮してくれれば、ハーレイの回復も早いんじゃないかと思うけど」
「お、おい…」
キース君が震える声で。
「教頭先生をエロドクターの餌食にする気じゃないだろうな?…代償は身体で支払えとか言ってたが…」
「ぼくが代償に希望したのは薬を2つ使うこと。…持て余した熱を自分で何とかするか、ノルディの世話になって解決するかはハーレイ次第。…これも1つの修行だよ。ぼくは結果を見届けるけど、君たちはもう帰りたまえ」
遅くなるしね、と帰宅を促す会長さん。でも、ここで言われるままに帰っちゃったら、教頭先生はとんでもない目に遭ってしまうような気がします。会長さんが本気で教頭先生をドクターの餌食にするかどうかは分かりませんが、限りなくヤバイのは確かなような。私たち、いったいどうすれば…?




 ※この作品はアルト様の女性向け短編「絶賛修行中」とのコラボになります。
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シャングリラ学園は今日も平和な時間が流れています。ただ、今までと違うのは…たまに別世界からの来客があることでしょうか。キース君が持ち込んだ掛軸がきっかけで知り合った、別の世界のシャングリラ号に住む会長さんそっくりのソルジャーや「そるじゃぁ・ぶるぅ」そっくりの「ぶるぅ」がヒョッコリ遊びに来るんです。
「ブルー、昨夜はブルーを泊めてやったってホントかよ?」
サム君がいつもの「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋で尋ねました。会長さんは授業に出なかったので、サム君は早く放課後にならないか…と一日中ソワソワしていたんです。
「うん、メールしたとおりだよ。時間が出来たとかで夕食前にフラッと来たから、ぶるぅと3人で食事して泊まっていってもらったんだけど」
「…そうか…。それで…その…」
言いにくそうに口ごもってしまうサム君。朝から様子が変ですけれど、ソルジャーが会長さんの家にお泊りすると何か問題があるのでしょうか?二人が入れ替わってしまう恐れが無いってことは既にハッキリしているのに…。
「ふふ、心配してくれてたんだ?…大丈夫、ブルーはぼくには興味ないから」
「「「えっ?」」」
意味不明な言葉に私たちは首を傾げましたが、サム君はホッと安堵の吐息をついています。今日はキース君はシロエ君やマツカ君と一緒に柔道部。ここにいるのはジョミー君とスウェナちゃん、それに私と少なめです。会長さんが「そるじゃぁ・ぶるぅ」が差し出す洋梨のタルトのお皿を受け取りながらクスッと小さく笑いました。
「サムはぼくが変なことをされていないか、気にしてくれていたんだよ。…ブルーにはあっちの趣味があるからね」
「「「!!!」」」
「だから何にもされてないって。…瓜二つっていうのも楽しいかもね、とは言われたけれど、それ以上は押してこなかったし…一緒に寝たけど平気だったし」
「ちょっ…。一緒に、って、ブルーの部屋で!?」
フォークを取り落としかけたサム君の慌てっぷりに、会長さんはおかしそうに。
「そうだよ。ベッドは1つしか無いし、もちろん二人で一緒に寝たさ。…ゆっくり話していたかったしね」
「ゲストルームならベッドが2つずつあるじゃねえか」
「…同じベッドだとダメなのかい?…フィシスだって使うベッドだよ」
「………!!!」
サム君はみるみる真っ赤になってしまいました。この純情さでは、会長さんとの初デートはまだまだ遠そうです。
「今ならサムと一緒に寝たって危ないことはなさそうだね。次の土曜日に泊まりに来る?」
「い、いや…。お、俺…」
「そういうところが好きなんだ。真面目で、安全」
会長さんはサム君の頬に軽くキスして、紅茶を一口飲みました。
「確かにサムよりブルーの方が危険と言えば危険かも。ぼくが女の子専門って知っているから、どうも興味があるらしくって。昨夜はぼくのキスが向こうのハーレイより上手いかどうか試してみたいな、なんて言ってたよ」
「ブルー!…なんで追い出さねえんだよ!」
「だって、あっちが女役ってわけだろう。…ぼくにその気は全くないし、間違いなんか起こらないさ」
「…あんたってヤツは…」
溜息をつくサム君の肩を会長さんが軽く叩いて「心配ないよ」と言っていますが、あのソルジャーなら何かのはずみで会長さんにキスするくらいは朝飯前かもしれません。たとえ冗談でも、瓜二つの人を相手に腕前を知りたいからキスしないかと持ちかけるなんて、どんな思考回路をしているんだか。軽い頭痛を覚えながらも昨夜の話を聞いていた所へ、部活を終えたキース君たちがやって来て…「そるじゃぁ・ぶるぅ」が焼きたてのピザを運んできました。えっと、とりあえず食べるのが先かな…?

運動してきた柔道部三人組のお相伴でピザも食べちゃった私たち。話題は自然と昨夜現れたというソルジャーの話に流れていって、会長さんが。
「そういえば、ハーレイなんだけど。…あっちの世界は恐ろしかった、って言ってる割に秘かに憧れているみたいだよ。あっちのハーレイはブルーとしっかり恋仲だから、それが羨ましいらしい。…この間、ちょっと用事があって教頭室に行ったんだ。そしたらボーッと窓の外を見てて、心の中身が零れ放題」
ぼくに気付くなり慌てて遮蔽したけれど、と会長さんは続けました。
「あっちのハーレイと一晩だけ入れ替わって過ごせたら…と凄い高望みをしていたよ。入れ替わってどうする気なんだろうね?…ぼくを抱こうとして挫折したくせに、ブルーの相手が出来るとでも?」
「…あんたが挫折させたんだろうが」
苦々しい顔のキース君。
「青の間の時は危なかったと俺は思うぞ。ぶるぅに妨害させてなければ、あのまま食われていたんじゃないか?」
「それは無理。…ハーレイの心を読んでいたんだ。あれがハーレイの限界だよ。ぶるぅが姿を現さなくても、鼻血を出してリタイヤするのは時間の問題」
なんといってもヘタレだから、と会長さんは過去の事例を並べ立てます。白ぴちアンダーで扇情的なポーズを取られて仮眠室に駆け込む羽目になったり、足つぼマッサージをしていて会長さんの艶っぽい声に煽り立てられてトイレに
立て籠もる結果になったり…。逃げ込んだ先で何をしてたかはバレバレですし、鼻血レベルの話ともなれば枚挙に暇がありません。
「だからハーレイがあっちの世界に行ったとしても、ブルーと…なんて夢のまた夢。三百年越しのヘタレが治るというなら別だけどね。…ん?これって、もしかして使えるかも…」
楽しいことを思いついたらしく、赤い瞳が悪戯っぽい光を湛えて。
「そうだ、ハーレイの夢を叶えてやろう。あっちの世界に送ってやって、修行をさせてやるんだよ」
「「「修行?」」」
「うん、修行。…お寺の修行なんかじゃなくて、ハーレイにはとても有意義なヤツ。ズバリ名づけてヘタレ直し!」
「「「ヘタレ直し!?」」」
話の見えない私たちですが、会長さんはノリノリでした。
「そう、ヘタレを直すために修行に行くのさ。…あっちのブルーとハーレイの夜をじっくり観察してもらう。目を逸らさずに頑張れたなら、少しはヘタレが直るかもね」
「それって、思い切り危ないじゃないか!」
サム君が会長さんの右手をギュッと掴みます。
「教頭先生が本気になったら、俺の力じゃ勝てっこないし…キースたちだって勝てないし!ヘタレが直って帰ってきたら、絶対すぐにブルーのこと…」
「攫って食べてしまうって?」
コクコクと頷くサム君の髪を会長さんはクシャッと撫でて。
「平気だってば。ハーレイのヘタレは、そう簡単には直りっこない。…修行は新手の悪戯なんだよ。ハーレイがどんな目に遭わされて帰ってくるか、考えただけで楽しいじゃないか」
三百年の経験に裏打ちされた会長さんの自信はケタ外れでした。おまけにタイプ・ブルーですから、心の動きの読み間違えなんて有り得ません。教頭先生は別の世界まで飛ばされた挙句にオモチャにされてしまうんでしょうか?
「…ぼくは表に出ない方がいいな。ハーレイに警戒されるし、ここはぶるぅに任せよう。…ぶるぅ、今度あっちのぶるぅが遊びに来たら、ハーレイを修行に連れてって欲しいと頼んでくれる?」
「いいけど、なんだかよく分からないや。ヘタレ直しって言えばいいの?…それでお話、通じるのかな?」
「ハーレイが一人前になるための修行なんだ、って言えばいいよ。鼻血を出さずにぼくの相手ができる身体にキッチリ仕込んでくれ、ってね。あのぶるぅには、それで通じる」
ぶるぅと違って余計なことに詳しいし、と意味深な笑みを浮かべる会長さん。そういえば「ぶるぅ」はおませな子供でした。きっと嬉々として修行のセッティングをしてくれるでしょう。それで、教頭先生は…?
「ぶるぅ、ハーレイの方も頼むよ。…いいかい、ハーレイの家に行ってこう言うんだ。…あっちの世界のハーレイはブルーと仲がいいって聞いたんだけど、ハーレイもブルーと仲良くしたい?…って。ハーレイは赤くなる筈だから、仲良くするコツを覚える修行をしてこないか、って勧めてごらん。あっちのぶるぅと話をしていて思い付いた、ってことにしてね。絶対に乗ってくる筈だ」
ぼくの名前は出さないこと、と会長さんは念を押しました。素直で無邪気な「そるじゃぁ・ぶるぅ」はニコニコ笑顔で頷いています。大事な役目を任されたのがよほど嬉しいらしいのですが、意味は絶対分かっていません。次に「ぶるぅ」が遊びに来たら、恐ろしいプランが動き出します。二つの世界を跨ぐ会長さんの悪戯企画、教頭先生の『ヘタレ直し』が始動する日はすぐそこかも。私たちは頭を抱え、サム君はオロオロしていたのでした。

それから十日ほどが経ったある日の放課後。柔道部の部活が早く終わったので、私たちは「そるじゃぁ・ぶるぅ」が焼いたシフォンケーキを食べながら賑やかにおしゃべりしていたのですが…。
「今日の部活は早かったね。ハーレイが出張にでも出かけたのかな?」
会長さんの問いに、マツカ君が。
「いえ、教頭先生は今日は急用だそうで…。朝練に顔を出された時には、今日の放課後は厳しく指導するから頑張れよ、っておっしゃっていたんですけれど」
「なるほど。…急用ね。休養の間違いじゃないかと思うんだけど。…休むって意味の方の休養」
「「「え?」」」
教頭先生が休養ですって?どこか具合が悪いのかも、と私たちは顔を見合わせました。
「だから文字通りの休養だよ。柔道部の部活も学校の用事も全部キャンセルして、非日常の世界でリフレッシュ。いや、まだ出発してはいないかな…」
ふふふ、と微笑む会長さんは何かを知っていそうです。非日常の世界でリフレッシュって、まさか…!でもでも、あれから「ぶるぅ」をの姿を見かけた覚えはないですし…。
「ぶるぅが君たちのいる時に来るとは限らないよ。ブルーだってそうだろう?ぼくがメールを送らなかったら、この間ぼくの家に泊まってたなんて知らずに終わっていたんじゃないかな」
「じゃ、じゃあ…もしかして…」
ジョミー君が口をパクパクとさせて「そるじゃぁ・ぶるぅ」を指差しました。
「あっちのぶるぅが遊びに来たわけ?…で、ぶるぅにあのとおり言わせたの?…あっちのぶるぅと教頭先生に…修行の話…」
「決まってるじゃないか。修行を思いついた次の日だったかな…。あっちのぶるぅが家に来たんだ。美味しいお菓子が食べたいな、って。だから、ぶるぅがキッチンに誘って、お菓子を作る間に頼んだらしい。オッケーが出たとぼくに報告してくれたから、その日の内にハーレイの家へ行かせたのさ」
得意そうな顔の会長さん。
「ハーレイはすぐに乗り気になったし、向こうの世界のぶるぅも頑張って下調べをしてくれたようだ。今日、君たちが授業を受けてる間に、ぶるぅが準備が出来たと迎えに来たから…教頭室に行くように言った。こっちのぶるぅにも様子を見に行かせたけど、ハーレイはいそいそと早退してったそうだよ」
もちろん「ぶるぅ」と一緒にね、と言って会長さんは優雅な仕草でティーカップを口に運びます。
「修行は夜にならないと無理だし、向こうのシャングリラの中を出歩くわけにもいかないし…。ぶるぅの部屋とやらでレクチャー中か、それともハーレイの家で腹ごしらえして、夜になってから出発か…。どっちにしても今夜はハーレイにとって忘れられない夜になると思うよ」
「…修行と言えば聞こえはいいが、とどのつまりは覗きじゃないか」
キース君の突っ込みに会長さんはニヤリと笑って。
「そういうこと。…まりぃ先生のイラストなんかじゃなくって、本物でしかも音声つき。ハーレイ、どこまで耐えられるかな?あ、ポケットティッシュを持つように根回しするのを忘れてた。シールドの中で見学なんだし、この前みたいにティッシュを分けてもらうわけにはいかないよねえ…」
「そっか、鼻血が出ないようにする修行だっけね」
頷いたのは「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「ティッシュが要るならぶるぅが用意してくれると思うよ。任せてね、って自信たっぷりだったもん」
「ライブラリで色々調べたって言ってたっけ。生中継が無いのが残念」
生中継って…!会長さんったら、覗きの現場を見物したかったらしいです。ソルジャーと向こうのキャプテンの夜を見てみたいのか、「ぶるぅ」と覗き見する教頭先生の反応が見たいのか…。後者の方だと思いたいですけど、好奇心旺盛な会長さんだけに、実は両方見たかったりして。
「とにかく明日には結果が分かるよ。放課後はみんなで教頭室に行ってインタビューだ」
明日は部活の無い日だし、と会長さんは上機嫌です。つまり私たちも巻き込まれるってことですね。とんでもない展開にならなければいいんですけれど…。覗きの感想をインタビューなんて、どう転んでも悪趣味ですよ!

翌日の放課後、私たちは戦々恐々として陰の生徒会室に出かけました。「そるじゃぁ・ぶるぅ」がアップルパイを出してくれますが、会長さんはソファに腰掛けて浮かない顔をしています。
「ブルー、具合でも悪いのか?」
サム君が隣に座って心配そうに覗き込むと、会長さんは「大丈夫」と微笑んで。
「ちょっとね、気がかりなことがあって。…ハーレイが欠勤してるんだよ。あっちのぶるぅが家に送ってくれたらしいんだけど、昨日の夜にいっぱい運動して疲れたっていうのが原因だって。帰るなりベッドに潜り込んだそうだ」
「…運動?」
眉を潜めるキース君。夜に運動って、もしかして…。
「大人の運動。ハーレイを送ってきたぶるぅはハッキリそう言った。自分も恋をしたらするんだ、とね」
「「「!!!!!」」」
目が点になった私たちに、会長さんはトドメの一言を付け加えました。
「あっちのブルーも今朝はベッドから出てこなかったらしい。おまけに壊れちゃいそうだと言ったんだってさ」
誰も言葉が出ませんでした。それって、修行が上手くいきすぎてヘタレが直ってしまった挙句に、教頭先生がソルジャー相手に頑張りまくったって意味なのでは…。
「真相はぼくにも分からないんだ。ぶるぅの思考を読もうとしたけど、何も見てないし聞いてないから無理だった。まだ大人じゃないからダメだと言われて防音土鍋の中にいたらしい」
「…ぶるぅはダメって…。シールドから出ちゃったってことですか?…ぶるぅも教頭先生も」
シロエ君の指摘に会長さんは大きな溜息をつきました。
「最初からシールドしなかったんだよ。その辺のことは読み取れた。…あっちのぶるぅは下調べして、見られていると燃えるという知識を仕入れてね…。ハーレイと二人でベッドの端から目から上だけを出して見ていたらしい」
そこを向こうのキャプテンに見咎められて、教頭先生は鼻血を出しつつ修行に来たことと目的を白状した…という所までは確かな事実。でもその後は謎なのです。鼻血を出してばかりの教頭先生が本当にあのソルジャーを…?
「ぼくだって信じたくないんだけれど、こんなお土産を貰ってはね…。ブルーからぼくへのプレゼントなんだ」
会長さんがテーブルの上に出してきたのはハート型の箱でした。蓋を開けて中身を1つずつ並べ始めます。どれも綺麗な色ですが…。
「これも、これも気持ちよくなる魔法の薬だそうだ。こっちは飲んで、こっちは塗る。それから…」
催淫剤以外の何物でもない薬の説明を終えた会長さんは「どう思う?」と困ったような顔で尋ねました。
「こんなお土産を寄越すってことは、ハーレイのヘタレが直ったから相手をしてやれって言ってるのかな?…ぼくは正気じゃ絶対にハーレイとなんか出来っこないし、薬を使えって意味なんだろうか…」
「なんでそこまでしなくちゃいけねえんだよ!?」
サム君が怒り出し、テーブルに並んだ小さな容器を次々と箱に戻します。
「ブルーがそうしたいならともかく、嫌なんだろ!?…嫌なのにこんな薬を使って教頭先生の相手をするなんて冗談じゃねえよ!教頭先生が我慢できないって言うんだったら、あっちのブルーに頼めばいいだろ!!」
箱に蓋をして忌々しそうに睨むサム君に、会長さんは柔らかな笑みを浮かべました。
「…ありがとう、サム…。そうだよね、ブルーに頼めばいいんだよね…。高くつくかもしれないけれど」
「あんたそっくりだし、ふっかけられるかもな」
キース君が頷いて。
「だが、ふっかけられようが借りができようが、教頭先生に食われるよりかはマシだろう?…大体、あんたが妙な悪戯を思い付いたのが元凶なんだし」
「…こうなるとは思わなかったんだ。あのハーレイが…ぼく相手でさえ本気になれない筋金入りのヘタレが、ぼくそっくりとはいえ赤の他人を…」
何度目か分からない溜息をついて、会長さんはすっかり冷めてしまった紅茶を一気に飲み干しました。
「ぶるぅの証言と、このお土産。ハーレイは限りなく黒に近いけど…。でも本人に確かめるまでは黒と決まったわけじゃない。…今からハーレイの家に行こうと思う。みんな、ついて来てくれるよね?」
「「「えぇっ!?」」」
「えぇっ、じゃないよ。…昨日の夜、運動しすぎて欠勤しているハーレイだよ?ぼくが一人で出かけていったら、修行の成果を発揮しようと襲ってくるかも…」
確かにそれは危険でした。サム君は会長さんが教頭先生に会うこと自体に反対でしたが、会わないと真相は闇の中だと言われて渋々承知し、私たちもボディーガードとして付き添うことに。
「いいか、俺の腕では勝てないぞ。…まずいと思ったら瞬間移動で逃げてくれ」
後は俺たちがなんとかする、とキース君が言っています。教頭先生は柔道十段の武道家だけに、会長さんを守り抜くのは至難の技かも。
「分かった。悪いけど、その時はお願いするよ。…ノルディと違ってテクニックは全然ダメだと思うし、振り切って逃げるくらいはできるだろうから」
会長さんが立ち上がり、私たちもカバンを持ちました。アップルパイのお皿は空ですけども、どこへ食べたのか全く記憶にありません。
「君たちのカバンは邪魔になるから、ぼくの家に送っておくよ。帰る時にまた取り寄せるから」
そう言って会長さんがカバンを移動させる間に「そるじゃぁ・ぶるぅ」が「ちょっと待ってて」と大急ぎでお皿とカップを洗って片付け、トコトコと走って戻ってきました。
「ぼくも行く。…だって、修行を頼んじゃったの、ぼくなんだし…責任あるし!それにブルーと二人なら、みんなを瞬間移動でハーレイの家に送れるよ。玄関前でいいんだよね?」
今なら人がいないみたい、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」は私たちを部屋の真ん中に立たせ、青い光が包み込んで…フッと身体が宙に浮きます。トン、と足が再び地に着くまでは一瞬でした。

初めて行った教頭先生の家は住宅街の中の庭付き一戸建て。ごくありふれた家ですけれど、向こうに見えるのは会長さんのマンションでは…。会長さんが二階建てが並んだ住宅街を指差して。
「この辺りはシャングリラ学園の関係者の家が多いんだ。あそこに見えるのがぼくの家」
瞬間移動で教頭先生の家の前庭に降りた私たちはキョロキョロと周囲を見回しました。門扉も開けずにいきなり庭に飛び込んでしまったわけですけども、警報が鳴り響くようでもありません。
「セキュリティは甘いよ、この家。盗られるような物も無いしね。…金庫の中身って、あの指輪しか無いんじゃないかな。給料の三ヶ月分だったとかいうルビーの…ぼくの婚約指輪」
「指輪を貰う羽目にならないように気をつけろよ」
キース君が言い、会長さんは「分かってる」と右手をキュッと握りました。
「この家、ハーレイが一人で住むには大きいだろ?…教頭だから大きい家を割り当てられてるわけじゃない。ぼくとぶるぅが引っ越してきても住めるように、っていうハーレイの希望と願望の結果」
ひえぇ!教頭先生ったら、ヘタレのくせに妙に手回しがいいようです。それとも夢見るタイプなのか…。
「夢に決まっているじゃないか。家の希望を聞かれた時に家族用って即答したんだ。家族のアテもないくせに…。いつも頑張って掃除してるよ、ぼくを迎える日のためにさ。本当にぼくと結婚したくてたまらないらしい」
家の中には宝物を隠してるしね、と会長さんは一階の窓を指差しました。
「あそこがハーレイの書斎なんだ。机の引き出しの中に、まりぃ先生のイラストのコピーが沢山入ってる。まりぃ先生ったら、プレゼントしては煽ってるのさ。…どんなイラストかは想像つくだろ?それを選んで寝室に持っていくのが秘かな楽しみ。ついでに言うと寝室の壁には写真が貼ってあるんだよ。ぼくのウェディング・ドレス姿の等身大の写真がね」
教頭室の戸棚に隠しているのと同じ写真を堂々と貼っているようです。その寝室にまりぃ先生の妄想イラストを持ち込んで…どうするのかは聞くだけ野暮というものでしょう。そこまで会長さんに惚れ込んでいる教頭先生が、昨夜、会長さんにそっくりのソルジャーを相手に積年の想いを遂げてしまったのか、違うのか。
「ハーレイったら、ぼくに合鍵までくれたんだ。…使う日が来るとは思わなかったな」
宙に取り出した銀色の鍵で玄関の扉を開ける会長さん。堂々と侵入しようというわけですが、寝室で寝ているらしい教頭先生に出会った瞬間、抱きすくめられてそのままベッドに…なんて事態になってしまうかもしれません。ソルジャーと熱い夜を過ごしたらしい教頭先生、ちゃんと理性が戻っていればいいんですけど…。




会長さんと教頭先生が「そるじゃぁ・ぶるぅ」そっくりの「ぶるぅ」に連れられ、別世界のシャングリラへと旅立った夜。私たちは家の窓から夜空に輝く満月を見てはメールをしたり、電話をしたり…と夜更かしをしていました。会長さんは「心配いらないから寝ているように」と言いましたけど、そんなのできっこありません。留守番をしている
「そるじゃぁ・ぶるぅ」が何度も思念を寄越します。
『まだ起きてるんだ。早く寝なさいってブルーが言ってたよ!』
『お前は心配じゃないのかよ!?』
あ、サム君だ。思念波ってこういう時には便利ですよね。
『ぼく、ブルーのこと信じてるもん。ブルーを連れてったぶるぅも悪い感じはしなかったもん』
お客様の「ぶるぅ」は会長さんの家で夕食を食べて帰っていったそうです。教頭先生も加えて二人も増えたので、朝から仕込んであったハヤシライスをアレンジしてドリア風に仕立てたんだ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」はいつもと変わらない様子でした。お留守番をしている間ものんびり土鍋に入っているみたい。でも…そろそろ午前2時。会長さんたちが出かけてから4時間以上も経っています。
『徹夜になったらどうしよう?』
ジョミー君の思念がみんなに届きました。
『…授業はパスして、報告だけ聞きに行きませんか?』
答えてきたのはシロエ君です。
『どうせブルーは授業に出ないんですし、何時頃に登校するのかを聞いて、それに合わせて登校すればいいんですよ。ほら、ぼくたち特別生って出席日数は関係ないじゃないですか』
なるほど。それなら徹夜になっても大丈夫です。ゆっくり寝てから登校したって全然問題ありません。
『シロエ!学生の本分は勉強だぞ。俺は明日の講義をサボるつもりはないからな!』
『キース、お前って真面目すぎ』
サム君が混ぜっ返して私たちが笑っていると。
『ただいま。やっぱり夜更かししてたか…』
『『『ブルー!?』』』
『ハーレイを家に送って帰ってきたんだ。…その間にろくでもない相談をしているのが聞こえてきたよ』
ひぃぃぃ!学校をサボろうという話が筒抜けになっていたようです。会長さんがクックッと笑う気配が伝わってきて、それから穏やかな思念波が。
『こんなことだろうと思ったからね、ちゃんとハーレイに言ってある。君たちは明日は学校関係の行事で欠席だ。グレイブにはハーレイが伝えてくれるよ。…ぼくが出かけた世界の話が気になるんだろ?そんな状態で授業に出たって意味ないさ。ぼくの家へ話を聞きにおいで』
お昼ご飯を御馳走するよ、と言う会長さんの思念はとても落ち着いていて、私たちはホッと一安心。恐ろしい世界へ出かけたのだし…と心配でしたが、これなら普段どおりです。
『それじゃ、待ってるからお昼頃にね。キースの講義、明日は1限目だけだろう?』
『ああ。一般教養の哲学だけだ。他は休講になってるからな』
『サボらなくて済んでちょうどよかった。講義が終わったら直接おいで』
そんな会話の後、『おやすみ』という優しい思念が届いて、私たちは誘われるように眠りに落ちていきました。

ママに「遅刻するわよ!」と起こされた私は「今日は特別でお休みだから」と答えて寝なおし、十時前に起き出してスウェナちゃんたちと連絡を取ると、待ち合わせをして会長さんのマンションへ。キース君は先に来てバス停で待っていましたが…今日もカバンは重たそう。講義が1つしか無くても大量の本を持ち歩いているのは流石です。
「何事も無かったようで良かったぜ。もしもブルーに何かあったら、サムに絞め殺されるからな」
「分かってるじゃねえか、キース。…だけど話の中身によっては、殴られるくらいは覚悟しとけよ」
まだ何も無かったと決まったわけじゃないんだし、とサム君は少し不安そう。
「だって…相手はブルーだぜ?俺たちを安心させようとして平気なふりをしてみせるくらい、あいつならするさ。畜生、俺がついてってやりたかったのに。…そりゃさ…足手まといになるだけだけどさ…」
落ち込むサム君を励ましながら私たちはマンションに向かい、最上階の会長さんの家のチャイムを押しました。
「かみお~ん♪いらっしゃい!ブルーが心配かけてごめんね」
出迎えてくれた「そるじゃぁ・ぶるぅ」が笑顔でリビングに案内してくれます。会長さんはゆったりとソファに座って紅茶を飲んでいるところでした。カップをテーブルに置き、ニッコリ笑って。
「やあ。…ずいぶん心配してたようだけど、生憎ぼくはピンピンしてるよ」
「ブルー!」
サム君が飛び出していって会長さんを抱き締め、いつもの照れっぷりなど忘れたように肩口に顔を埋めています。
「よかった…。ブルー、元気そうでホントによかった…。無理してねぇよな?どこもケガとかしてねえよな?」
「うん。心配かけてごめんね、サム…」
会長さんはサム君の背に腕を回してあやすように撫で、そっと身体を離すと頬に軽く口付けました。たちまちサム君は真っ赤になって、我に返ってアタフタと…。
「ご、ごめん…。俺…。俺、つい夢中で…!」
「ううん、心配してくれて嬉しかった。それにね…ちょっと正気に返りたかったんだ」
「「「は?」」」
正気に返りたい、って…それで何故にサム君?ポカンとしている私たちを放って会長さんはサム君を隣に座らせ、肩にもたれて目を閉じています。サム君は緊張のあまりカチンコチンですが、会長さんの身にいったい何が…?
「……シャングリラにはね……」
瞳を閉じたまま会長さんは呟きました。
「…ぼくが行ったシャングリラには、君たちに似た人はいなかった。直接会ったのは、ぼくにそっくりのソルジャーと…ハーレイそっくりのキャプテンと。だけど、誰が乗っているのかは分かる。ここはあそことは違うんだ…って、サムの想いに触れると実感するんだ。…ぼくの恋人はハーレイじゃない。ぼくの一番はフィシスだけども、男の恋人がいるとしたら…サムだものね」
えっと。…要するに惚気たいんでしょうか?会長さんが出かけた先はSD体制とかいうモノが敷かれた恐ろしい世界だったと思うんですけど、怖いものを見すぎて壊れちゃったとか?…私たちにはサッパリです。
「ぼくがおかしくなったと思ってるんだ?…そうじゃないよ。ただ、ちょっと…怖くてたまらなくなって。一つ間違えたら、ぼくがあのシャングリラで生きる羽目になってたのかなって…そう思うととても怖いんだ。世界が違うって考えるより、身近な人間が全く違う…って確かめる方が安心できる。あの世界にサムはいなかった。だから…サムがいてくれるのが嬉しいんだよ」
会長さんはサム君に寄りかかったまま。サム君が恐る恐る肩に腕を回すと、甘えるように更に身体を寄せました。赤い瞳はまだ閉じているので、どう見ても恋人同士です。
「おい。…野暮を言って悪いが、あんたにはフィシスがいるんだろうが」
キース君の言葉に会長さんは目を開け、「ああ」とだけ言ってサム君の腕の中。
「今度ばかりはフィシスはちょっと…ね。昨日来たぶるぅが言ってたとおり、あっちの世界のブルー…ぼくそっくりのソルジャーの恋人はハーレイだった。他のシャングリラでもそうだ、と言ってた。ぼくたちはお互いの記憶を見せ合ったんだ。…あっちの世界のブルーの記憶は、恐ろしいなんてものじゃなかった…」
君たちにはとても見せられない、と会長さんは拳をギュッと握りました。
「過酷な人体実験のせいで子供の頃の記憶が無いんだ。自分自身も酷い目に遭って、大勢の仲間も失って…それでもソルジャーとしてテラへ…地球へ行こうという希望を持ち続けている。その人を支えているのがハーレイだった。あんな状況だものね…一人ぼっちじゃ辛すぎる。で、その人に訊かれたんだ。ぼくにとってもハーレイは大切な恋人なんだろう、って」
「…………」
誰もなんにも言えませんでした。激しい迫害を受け、逃亡の末にソルジャーになった人には確かに支えが必要でしょう。でも会長さんにはそういう過去は全く無くて、教頭先生は恋人どころかオモチャです。馬鹿正直にそう答えたかどうかはともかく、教頭先生に片想いされている事実を今は忘れていたいのかも。フィシスさんと幸せに暮らしていることにも負い目を感じていそうです。
「…ハーレイが恋人じゃないってことは正直に言ったよ。そしたら、あの人は笑ってた。ミュウと人類が共存できる世界もテラも手にしていたら、ハーレイっていう存在は重要じゃないのかもしれないね…って。そう、あの人は強いんだ。ぼくの世界を羨むどころか、そんな世界があるのなら自分たちの夢もいつか叶うかもしれないって…嬉しそうに微笑んでいたよ。ぼくには出来ない。絶対に出来ない…」
赤い瞳が揺れ、会長さんはサム君の腕に縋り付きました。
「ぼくはあの世界では生きられない。…でも、あの人が…あまりにもぼくに似すぎてて。何かのはずみで入れ替わってしまったら、と…そう思うととても怖いんだ。ぼくとあの人の本質が決定的に違うのは恋人が誰か、ということだけ。フィシスのことも話したけれど、世界が違うとそうなるかもね…と受け流された。あの世界にはフィシスはいなかったから。…サムが…ハーレイと張り合おうっていうサムがいてくれるのだけが大きく違う点なんだ」
「…ブルー…?」
サム君が躊躇いながら会長さんの背中に腕を回しましたが、会長さんは振り払おうとはしませんでした。
「ぼくの恋人はハーレイじゃなくてサムだよね?…フィシスには敵わなくても…いいんだよね?」
「そ、そりゃ…。ブルーがそうだって言ってくれるなら、俺は全然…」
「よかった。やっぱりここがぼくの世界だ。…ぼくがぼくでいられる世界だ…。少しだけ…サム、少しだけこうしてて。ほんの少しの間でいいから…」
瞳を閉じてサム君の胸に身体を預ける会長さん。普段なら冗談としか思えない光景ですが、どうやらそうではないようで。…「そるじゃぁ・ぶるぅ」が昼食が出来たと呼びに来るまで、会長さんはサム君の腕に抱かれてじっと動かなかったのでした。

昼食は大皿に盛られたパスタと6種類ものパスタソースが用意されていて、好きなのを何種類でも食べられるように取り皿も沢山。ボンゴレだのカルボナーラだのと食べ放題で、会長さんもさっきとは打って変わって元気そうです。サム君の隣に座ってバジルソースのパスタを食べながら…。
「みんなで食事が出来るのって嬉しいよね。…やっと帰ってきたって気がする。サムにもお礼を言わなくちゃ。ぼくを引き戻してくれてありがとう。サムが抱き締めてくれなかったら、今も不安なままだったかも」
「…そんなに怖い所だったのか…。俺、ついてってやれなくてごめん」
「ううん、怖い目に遭ったわけじゃないよ。怖かったのはあの世界と…あの人の記憶。それが無ければ特に問題は無かったんだ。だって歓迎してくれたし」
会長さんは「ぶるぅ」に案内された別世界での出来事を話し始めました。
「最初は唖然とされちゃったよ。ソルジャーやキャプテンの服を着ていないから、仮装なのかと思ったらしい。制服の方が普通でソルジャーの服が非日常だ、って言ったら興味津々で…。そこでぶるぅが言ったんだよね。ぼくとハーレイはテラに住んでて、ミュウなんて言葉は無いんだ、って」
サイオンを持つのに迫害されず、しかもテラに住んでいると聞いて「ぶるぅ」の世界のソルジャーとキャプテンは驚愕したそうです。二人とも会長さんと教頭先生に瓜二つで、シャングリラ号での二人の服とそっくり同じものを着ていたとか。会長さんたちが持って行った服を見せ、シャングリラ号の存在を告げると更に驚き、それからお互いの記憶を見せ合ったのだということでした。
「ああ、でも…あっちのハーレイは補聴器を着けてたよ。細かい部分は色々と違うんだろうけれど…シャングリラの構造もまるで同じさ。ぼくとハーレイは向こうの二人と青の間で話をしてたんだ。ぶるぅが色々こっちの世界のことをしゃべったら、あっちのブルーが子供みたいにはしゃいじゃって。だけどハーレイがぼくの恋人じゃないっていうのは信じられなかったみたいだよ」
本当に違うのか、と何度も念を押されたんだ、と会長さんは苦笑しています。
「だからハーレイが一方的に熱を上げてるだけなんだ…って言ったんだよね。そしたらハーレイが真っ赤になって…。場所が同じ青の間だったせいかな。春休みに青の間でぼくをベッドに押し倒した時の情けない記憶を思念でうっかり撒き散らしちゃった。…ブルーは笑い転げてしまうし、向こうのハーレイは気まずそうに横を向いちゃうし…」
ついでだから普段のヘタレっぷりを全部バラしてやった、と会長さんは得意げでした。教頭先生にはお気の毒としか言えませんけど、バラされちゃったその後は…?
「ぼくがハーレイをからかって遊んでるっていうのは凄く新鮮だったらしい。で、あっちのブルーも…あんな世界で生きてきたくせに、ノリのいいタイプだったんだ。ハーレイがぼくに三百年越しの片想いだって知って、いったい何をやったと思う?」
首を傾げる私たち。会長さんをして「ノリがいい」と言わしめる人の行動なんて当てられるわけがありません。
「…向こうのハーレイとの熱い抱擁。そして濃厚なキスと…甘い囁き」
げげっ。それって会長さんはともかく、教頭先生にはちょっと刺激が強すぎるんじゃあ…。
「ハーレイったら訪問先で鼻血を出してティッシュを貰う羽目になったよ。…ベッドインまで見ていけばいい、と言われたけれど、ハーレイが失血死したら困るし帰ってきた」
クスクスと思い出し笑いをする会長さん。えっと…とりあえず友好的に交流できたってことでいいんでしょうか。
「それでね。…ブルーがテラを見たいんだって。都合がついたら遊びに来たいって言ってたよ」
「「「えぇっ!?」」」
「どうぞって返事しておいたから、近い内に来ると思う。…何を御馳走しようかな?地球ならではの食べ物を用意したいよねえ…」
なんと、会長さんはこの世界での再会を約束してきたみたいです。サム君に縋り付くほど恐ろしい世界だったのは確かですけど、そこのシャングリラで暮らす人たちは怖くないっていうわけですか。…まぁ、あの掛軸は封印されたんですし、私たちが巻き添えを食らわないのなら、どうぞご自由に…。
「ブルー。その…。大丈夫なのか?」
口を挟んだのはサム君でした。
「怖かったんだろう、向こうの世界。うっかり招待したばっかりに、あっちのブルーと入れ替わってしまったらどうすんだよ?…いや、向こうは入れ替わりたいって思ってるかもしれないぜ」
「それは無いよ。あの人は、あの世界ですべき事があるって言っていた。それは自分にしかできないんだ、って。どんなに厳しくて辛い世界でも、あそこが自分の世界だから…って。なのにぼくときたら、みっともないね。入れ替わってしまったら、と想像するだけで怖くてサムにしがみついて…。そんなこと、あの人が許さないだろうに。もし何かのはずみで入れ替わっても自分の世界に帰っていって、ぼくを強制送還してしまうさ」
あの人は本物のソルジャーだから、と会長さんは静かな笑みを浮かべました。シャングリラしか居場所が無いミュウの長で文字通りの戦士だという別世界のソルジャーってどんな人なのでしょう?茶目っ気もあるようですし、いつか会ってみたいような気がしないでもありません。私たちは会長さんの土産話に耳を傾けながら、サボッてしまった学校の下校時刻を遥かに過ぎた夕方までマンションにお邪魔していたのでした。

そんなことがあった週の金曜日。キース君は午後から授業に来ていて、柔道部は今日は朝練だけ。私たちは珍しく7人揃って放課後に「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋へ入っていったのですが…。
「かみお~ん♪今日はザッハトルテなんだ」
生クリームを泡立てながら「そるじゃぁ・ぶるぅ」はニコニコ顔。でもテーブルの上にザッハトルテは置かれておらず、代わりに貝殻が幾つも並べてあります。巻貝に二枚貝、小さな桜貝から宝貝まで。それを楽しそうに指先でつついているのは会長さん。その向かい側に座っているのも…会長さん。えぇっ、いったいどうなってるの!?
「こんにちは。…はじめまして、だよね」
貝殻を触っていた会長さんが軽く首を傾げた瞬間、私たちの頭を掠めたのは「ぶるぅ」。この人は掛軸から出てきた「ぶるぅ」と同じ世界から来た…ソルジャー・ブルー?
「うん。この前はぶるぅが驚かせちゃったみたいでごめん。今日はぶるぅは留守番なんだよ。向こうの世界で何かあったら、ぼくは帰らなくちゃならないから…連絡係に残してきた。貴重なタイプ・ブルーでもあるし」
会長さんそっくりのソルジャーは親しげに右手を差し出し、私たち全員と握手して。
「そうか、君がサムなんだね。…ブルーの恋人候補だって?恋人に昇格できるといいね。ハーレイの二の舞にならないように頑張って」
クスクスと笑う様子は会長さんと瓜二つです。恐ろしい世界で生きてきたというのに、この明るさは何なのでしょう?それだけ精神が強い人だってことなのかな…?
「言ったろう、ぼくよりも強い人だって。お昼前に突然ここに現れて…海が見たいって頼まれたんだ。ソルジャーの格好じゃ目立つから制服を貸して、ぶるぅも一緒にちょっと海まで行ってきた。貝殻はそこで拾ったんだよ」
会長さんが渡した箱にソルジャーは貝殻を1個ずつ大切そうに入れてゆきます。SD体制が敷かれた世界では地球は…テラは一旦死滅した世界で、選ばれた人しか住めないのだとか。海はテラの象徴みたいなもので、海の生物は憧れらしいんです。
「テラの海には沢山の貝がいるんだね。それに魚も。…いつか必ずテラに行ってみせる。この貝殻はそのお守り」
ふふ、と笑ったソルジャーに会長さんがウインクして。
「お守りだとか言っているけど、食べちゃったよね、サザエの壷焼き。あれも貝だよ?…美味しいって喜んでたお寿司のネタにも貝が色々あったっけ。赤貝にホタテ、アワビにトリガイ…」
「それとこれとは話が別。…だいたい君が言ったんじゃないか。テラに来たんなら海の食材を食べるべきだって」
「そうだっけね。お寿司が大丈夫だったんだし、次は活魚料理の店に踊り食いでも食べに行く?生きた海老とかをそのまま口に入れるんだけど」
お寿司も初めてだったらしい人にハードルの高そうな提案をする会長さんでしたが、ソルジャーは「面白そうだ」と微笑みました。
「…ぼくは食べるのが面倒で小食になりがちなんだけど…今日は思い切り食べたって気がするよ。こんな休日も悪くない」
そこへ「そるじゃぁ・ぶるぅ」がホイップクリームをたっぷり添えたザッハトルテのお皿を配り、ソルジャーは一口食べて嬉しそうに。
「美味しいね。ここのぶるぅは料理が上手で羨ましいな。ぼくのぶるぅは食べるの専門で、しかも大食い」
掛軸から飛び出してきた「ぶるぅ」は大食いで悪戯好きなのだ、とソルジャーは教えてくれました。こうして話していると、SD体制も成人検査も悪い冗談のように思えます。でも…本当のことなんですよね?会長さんの制服を着たソルジャーは私たちと普通におしゃべりをして、会長さんとふざけあって…アッという間に時間が過ぎて。
「もうシャングリラに帰らなきゃ。…夕方には戻るよってハーレイと約束してきたから」
立ち上がって奥の部屋に行ったソルジャーは、紫のマントが印象的な衣装に着替えて戻ってきました。貝殻を入れた箱を手に取り、部屋をぐるっと見回して。
「テラの海も、みんなと話すのも、食べるのも…楽しかったよ。ありがとう。また、ぶるぅが遊びに来たらよろしくね。ぼくも…いつか機会があれば…」
シャングリラをそう簡単に離れるわけにはいかないから、と言うソルジャーに会長さんが小さな箱を差し出して。
「そんなことじゃないかと思った。…ソルジャーだものね。だけど、出会ってしまったから…知らなかった頃のようにはいかない。また来て欲しいし、そうなるように…そして君がテラに行けるように祈ってる。開けてみて。これはぼくから贈るお守り」
「………?」
私たちが注目する中、ソルジャーが開けた箱の中には血のように赤い石が1つ入っていました。ソルジャーの襟元の赤い石と同じ大きさに見える真紅の石。
「珊瑚だよ。綺麗な海でしか育たない海の生き物。ほら、こんな姿。…知らないかな?」
会長さんが思念で情報を送ったらしく、ソルジャーは頷いて赤い珊瑚に視線を落とすと…。
「ぼくの世界では人工の水槽の中で育つものだ。…これは海で育った珊瑚なのか?」
「うん。養殖はしていない。君がここへ来たいと言った時、海を見たいと思っているのが分かったから…帰ってきてすぐに用意したんだ。ぼくの世界では珊瑚は幸運のお守りで、魔よけ。テラの海で育った珊瑚だからね、きっとテラへと導いてくれる。襟元の石と取り替えてもいいし、持っていてくれるだけでもいいよ」
真紅の珊瑚に会長さんがそっと手を触れ、青いサイオンでほんの一瞬、包み込んで。
「これがテラへの道しるべになるように…って祈っておいた。だからこの世界のテラにも、きっと来られる。せっかく会えたんだし、何度でも…君が飽きるまで何度でも遊びに来ればいい。そうだろう?」
「…そうだね。ぼくも本当は何度だってここに来たいんだ。ありがとう…大切にするよ、テラの珊瑚」
もったいなくて使えないかもしれないけれど、と小さく笑ったソルジャーは私たちに別れを告げてフッと姿を消しました。別の世界へ帰ったのです。「ぶるぅ」が天国のようだと喜んだ私たちの世界でほんの半日の休暇を過ごして、またソルジャーとして生きてゆくために。
「…行っちゃったね…」
ポツリと「そるじゃぁ・ぶるぅ」が呟き、キース君が。
「俺があの掛軸を持ち込まなければ、あの人はこんな世界を知らずに生きていけたんだよな。…くそっ、世の中には知らない方が幸せなことが沢山あるっていうのに、よりにもよって天国と地獄みたいな差を見せちまうなんて…」
「いいんだよ、キース。あの人はこの世界を知って希望が持てたと言っていたから。こんな世界に辿り着けるよう、その日まで頑張って生き抜くんだ…って。あの掛軸に力づけられたのさ」
憧れていた理想の世界を見たんだしね、と会長さん。掛軸に描かれた『月下仙境』から繋がった別の世界は思いも寄らない恐ろしい所で、私たちの世界の方が仙境の名に相応しくて。ミュウの未来を背負うソルジャーや、ソルジャーの友達を捜しているという「ぶるぅ」にまた会える日が来るでしょうか?…この世界で安らいで貰えるのなら何度でも遊びに来て欲しい…と私たちはソルジャーが消えた辺りを見つめて願わずにはいられませんでした。いつかまた、笑顔で再会できますように。待ってますからね、「ぶるぅ」、そしてソルジャー・ブルー…。




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