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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

学園生活は早くも4日目。グレイブ先生が晴れ晴れとした顔で教室に入ってきました。
「今日はクラブ見学日だ。お祭り騒ぎもいよいよ今日で終わりかと思うと実に嬉しい。やっと明日から授業ができる。…それはともかく、今日はあちこちでクラブ勧誘と実際の活動をやっているから、チラシだけでなく自分の目で見て判断するのがいいだろう」
先生は眼鏡を押し上げ、咳払いをして。
「ちなみに私は数学同好会の顧問で指導教員も兼ねている。だが、年々部員が減って存亡の危機だ。このクラスから入部希望者が殺到するのを期待しているぞ。…で、アルト君」
「え?…ええっ?」
突然指差された女の子がビクンと顔を上げました。
「入部してくれるかね?…君が一番の有望株だが」
「あの、その…謹んでお断りを……」
「そうか。残念だな。まぁ、学園生活はこれからだ。気が変わるのを楽しみにしている」
アルトさん、なんで目を付けられたんでしょう?もしかして凄く数学の成績がいいのかも。初日の実力テストでヤバイ目に遭った私としては羨ましい限りです。…数学同好会だけは御免ですとも!

さて、どこから見学しましょうか。廊下に出るなり、また集まってしまった7人組の意見はサッパリ纏まりませんでした。ジョミー君はサッカー部が見たいそうですし、キース君とシロエ君は柔道部です。そして私も含めた残り4人は特に希望がありませんでした。
「やっぱ最初はサッカー部だって!」
「いや、柔道部だ。…そうだ、マツカ。お前も柔道部に入らないか?スタンガンだの催涙スプレーだのを持ち歩かなくてもいい実力が身につくと思うが」
「あ、ああ…。そうでしょうか…?でも、ぼく…運動はからっきしで…」
「大丈夫ですよ!ぼくと先輩がちゃんと基礎から教えてあげますって」
なんだか身内で勧誘が始まっているようですが…まぁいいか。サッカー部に行くか、柔道部に行くかで揉めながら校内を歩いている間もあちこちから声がかかります。
「華道部です!フラワーアレンジメントも始めました。男性部員、強化中です。よろしくお願いしま~す!」
「演劇部で~す!新人公演、準備してます。舞台に立ってみませんか?ホールで舞台衣装の着装体験やってまぁ~す♪」
なんとも賑やかな勧誘と無差別チラシ攻撃に巻き込まれながら進んでいると…。
「そるじゃぁ・ぶるぅ研究会です!」
いきなりカラー印刷のチラシを渡されました。アイスキャンデーを手にして満面の笑みの「そるじゃぁ・ぶるぅ」の写真が刷られています。でも…視線がこっちを向いてませんし、もしかして隠し撮りでしょうか?
「我が部が誇る最高の写真です。シャングリラ学園のマスコット、そるじゃぁ・ぶるぅは滅多に姿を見せません。これは先々代の部長が夏休みに登校したとき、運よく撮影できたものです」
なるほど。研究会ができているほど「そるじゃぁ・ぶるぅ」は神秘の存在みたいですね。
「どうですか、ぼくたちと一緒に謎を追いかけてみませんか?充実した学園生活になりますよ!」
「…必要ない」
キース君がチラシをつき返しました。
「もう思い切り、間に合っている。他を当たってくれ」
「……間に合っている……?」
研究会の人は二人組の男の子でしたが、互いに顔を見合わせ、それから私たちをじっと眺めて。
「あーーーっっっ!!!」
ものすごい声で叫んでジョミー君を指差しました。
「7人グループで、金髪に緑の瞳の男子学生って聞いたっけ!男5人に女2人の新入生。見つけた、クレープ冷麺だぞ!」

「…クレープ冷麺…?」
昨日のゲテモノを思い出して顔をしかめたジョミー君は『そるじゃぁ・ぶるぅ研究会』の二人にガッチリ脇を固められています。
「写真、いいかな?会報に載せたいんだ」
一人が素早くカメラを取り出し、もう一人はメモ帳を出しました。いつでもどこでも取材体制は万全っていうことですね。…でなきゃ『そるじゃぁ・ぶるぅ研究会』なんてやってはいられないでしょう。なんたって「幻の存在」ですから。
「クレープ冷麺の感想を一言!そるじゃぁ・ぶるぅも不味さのあまり逃げ出すモノを完食したって聞いているけど」
「えっと…完食はしてないよ。残った汁はそるじゃぁ・ぶるぅに飲ませちゃったし。不味かったのは確かだけどね」
「なんと!そるじゃぁ・ぶるぅに無理やり飲ませたという話も本当だった、と…。君、才能があるんじゃないかな。あ、それから…」
メモを取っていた人がスウェナちゃんと私の方を振り向き、見比べてから言いました。
「みゆっていうのはどっちなのかな?」
「えっと…私です」
「そるじゃぁ・ぶるぅと文通してるんだって?キッカケは?どんなやりとりをしてるのかな?…そるじゃぁ・ぶるぅの手紙を持っているなら会誌に掲載させてほしいんだけど」
え。ど、どうしましょう…。
「たった7人のグループの中に、そるじゃぁ・ぶるぅと既に関係のある者が2人。これは驚くべき数字だよ。君たちが入会してくれれば、ぼくたちの研究は飛躍的に前進するだろう。他の部には絶対に渡さないぞ!」

研究会員さんはケータイで仲間を呼び出したらしく、私たちは包囲されていました。こんなに大勢いるなんて…。キース君とシロエ君の腕だけで包囲網を突破するのは難しそうです。ジョミー君とサム君は喧嘩なら負けていないでしょうけど、相手にケガをさせずに投げ飛ばすなんて無理っぽいですし。
「おい、まずいな…。シロエ、なんとかなりそうか?」
「無茶ですよ、先輩!ぼくたちだけなら逃げられますけど、女の子が2人もいるんですから」
「やばいよ、これ。もしかしてクレープ冷麺のせいで研究会にまで入れられちゃうとか?不味かっただけでは終わらないわけ!?」
ジョミー君がクレープ冷麺の調理人を罵ろうとした時、ヒュン!と何かが飛んできて研究会員さんの頭に当たりました。
「痛っ!」
ヒュン、ヒュン、ヒュンッ!続けさまに飛んできて研究会員さんたちを直撃したのは1個ずつラッピングされたマドレーヌ。そして…。
「かみお~ん♪」
忘れようもない雄叫びと共に、校舎の屋上に小さな影がスックと立っていたのです。逆光で顔は見えませんけど、背格好といい、風になびいているマントといい…。
「「「そるじゃぁ・ぶるぅだ!!」」」
研究会員さんたちが屋上を指差すのと「そるじゃぁ・ぶるぅ」がマドレーヌを投げて寄越したのは同時でした。
「最後の1個~!…ぐずぐずしてると回収しちゃうよ?ぼくの手作りマドレーヌ、食べたかったら急いでね!」
「なんだと!手作りマドレーヌだとぉ!?」
ワッ、と地面に屈んでマドレーヌの袋を拾い上げ、検分する研究会員さんたち。もう他のことは眼中にないようです。
「急げ、今の間に逃げるんだ!!!」
キース君がダッと駆け出し、私たちも続いて走りました。囲みは難なく突破でき、追ってくる様子もありません。よかった、危機一髪でした。『そるじゃぁ・ぶるぅ研究会』なんかに入会させられちゃったら、私たち、きっとモルモット扱いです。だって…全員「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に出入り自由なんですもの。

「だから助けに来たんだよ」
逃げ延びて裏庭に座り込んでいた私たちの前に「そるじゃぁ・ぶるぅ」が現れました。抱えていたクーラーボックスから取り出したのはアイスキャンデー。
「いっぱい走って汗だくでしょ?…いろいろ買ってきたから好きなの食べてね。今日もぼくのお部屋に遊びに来てくれると嬉しいな♪」
アイスキャンデーを配り終えると「そるじゃぁ・ぶるぅ」はフッと消え失せてしまいました。クラブ見学もなかなか楽ではないようです…。




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食堂で『クレープ冷麺』を食べさせられたジョミー君は激辛カレーで見事に復活しました。私たちは校内をあちこち見て回った後、「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋に行ってみることに。スウェナちゃんが宇宙クジラの件を知りたがっていたからです。生徒会室の壁の紋章を使って入った部屋では、会長さんが待っていました。
「やあ、やっと来たね。今日はスフレをご馳走するつもりだったんだけど…ぶるぅが…」
視線を追ってゆくと床に大きな土鍋があって、その中で「そるじゃぁ・ぶるぅ」が丸くなっています。どうやら寝ているみたいですね。
「うん、そうなんだ。クレープ冷麺がよほど不味かったらしい。お昼も食べずに寝込んでいるよ。スフレを作るんだって張り切っていたのにね」
「どうして土鍋で寝ているの?あそこにちゃんとベッドがあるのに」
そう言ったのはスウェナちゃんです。
「あれは昼寝用のベッドなんだよ。ぶるぅの本当の寝床は土鍋。一番くつろいで寝られるらしい」
「ふぅん、ねこ鍋みたいなものかな?…自分も寝込むような料理を食べさせるなんて迷惑なヤツ!凄く不味かったよ、クレープ冷麺」
プゥッと頬をふくらませたジョミー君の手に会長さんが食券のようなものを握らせました。
「すまない、ぶるぅは悪戯好きなんだ。これで許してやってくれないか?…教職員用ステーキランチの食券だ」
「えっ!先生用のメニューなの?そんなの生徒が食べちゃっていいの!?」
「ああ。…ぼくは特別だからいくらでも手に入る」
ニッコリ笑った会長さん。三百年間在籍しているという話は本当なのかもしれません。ジョミー君はクレープ冷麺の恨みも忘れて、狂喜しながら食券を財布にしまいました。

「さて。ぶるぅが寝込んでるから、買い置きのポテトチップスしか無いんだけども…宇宙クジラの何が知りたい?」
会長さんが徳用ポテトチップスの大袋を開けながら言いましたけど、私たち、宇宙クジラの話なんか此処でしてましたっけ?
「いいや。でも宇宙クジラのことで来たんだろう?それくらい分からないようじゃ、生徒会長なんかやっていないさ」
「…面妖な…。あんた、俺たちの心が読めるのか?」
キース君の不審そうな問いに会長さんは満面の笑みで頷きました。
「その通り。君は実に理解が早いね。ぶるぅの手形で仲間になったとは思えないくらい優秀だ」
「なんだと…?」
「ああ、まだあまり多くを語る時期ではないんだよ。君も仲間だということだけを心に留めておいてほしいな。今日は宇宙クジラについて少し話をしておこう」
胡散臭そうに見つめるキース君を片手で制して、会長さんは紅茶を淹れ始めます。サム君とシロエ君はもうポテトチップスに手を伸ばしていました。

「君たちは宇宙クジラについてどんな話を聞いている?」
「そりゃ…未確認飛行物体だろ?」
会長さんの問いに間髪を入れずに答えたのはジョミー君でした。
「おう、UFOってヤツだよな」
「たまに雑誌に載りますよね…ちょっとマニア向けの」
サム君とマツカ君もさすが男の子、好奇心一杯の目をしています。
「ぼくは信じていませんけども。錯覚ですよね、キース先輩」
「でなければ偶然の産物だな。小惑星などがそう見えたとか」
対照的に夢もロマンも無いのが柔道一直線コンビ。
「私はUFOじゃなくて宇宙で生きてるクジラだって説を信じるわ。真空でも息ができて、広い宇宙をどこまでも泳いでいくの。淋しそうに見えるけど、きっとどこかに仲間がいるのよ」
ロマンチストなのはスウェナちゃん。えっと…私はUFO派かな?
「なるほど。模範的な答えが揃ったな」
会長さんが満足そうに頷き、テーブルの上にスッと1枚の紙を差し出しました。ビッシリと何かが書かれています。
「これは過去数年間の宇宙クジラの目撃情報と、ある情報を重ね合わせた統計だ。この部分を見てくれたまえ。…宇宙クジラが頻繁に目撃される時期と、我がシャングリラ学園の教頭・ハーレイ先生の長期出張の時期は見事にピタリと重なるんだ」
「「「えぇぇっ!!?」」」
私たちは思わず叫んでいました。教頭先生と宇宙クジラにいったいどんな関連性が???
「もしかして教頭先生は宇宙人に人体実験されてるとか!?」
「げげっ、そうかも!ジョミー、恐ろしいことサラッと言うなよ」
「おいおい、それはないだろう。UFOなんて嘘っぱちだ」
「でも…統計が出てるんですよね…。ぼく、心配になってきました」
「きっと何かの陰謀ですよ!教頭先生は宇宙人の手先なのかもしれません。そう思いませんか、先輩たちは?」
「え…。私、そんなの怖いわ。宇宙クジラは神様のお使いかも、って思ってたのに…」
みんなワイワイ騒いでいます。私も頭の中が混乱しそうになっていました。教頭先生が実験体で、宇宙人の手先に改造されて、この星を密かに侵略中!?

「あははは、みんな想像力が豊かで実に嬉しいよ」
会長さんが愉快そうに笑い、ティーカップを優雅に傾けて。
「今、教えられることはここまでなんだ。想像を膨らませるも良し、忘れるも良し。…とにかく宇宙クジラは存在する。君たちが映像を見たことにもまた意味がある。…校内見学の時間はそろそろ終わりだ。また気が向いたら遊びにおいで。ね、ぶるぅ?」
土鍋の中からいつの間にか「そるじゃぁ・ぶるぅ」が覗いていました。ジョミー君を警戒しているようです。
「ごめん、ごめん。…さっきは悪かったよ」
ジョミー君は土鍋のそばに座ってポケットから棒付きキャンデーを取り出しました。
「これ、昨日のエッグ・ハントで貰ったんだ。まさか寝込むなんて思わなくって…。早く元気になっておくれよ」
「かみお~ん♪」
キャンデーを貰った「そるじゃぁ・ぶるぅ」は嬉しそうに叫び、早速ペロペロ舐め始めます。すっかり仲直りしたようですね、ジョミー君と。私たちは宇宙クジラの半端な謎を抱え込んだまま「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋から生徒会室に戻りました。そして教室に行って、終礼をして…。

「結局、なんだったんだろう、宇宙クジラって」
校門でまた集まった私たち7人は教頭室のある校舎の方をしばらくの間、眺めていました。教頭のウィリアム・ハーレイ先生と宇宙クジラの間にどんな関係があるのか、分かる日はまだまだ遠そうです…。




校内見学の次の行き先は食堂です。さすがプラネタリウムもあるシャングリラ学園、学食といえども広くて居心地がよさそうでした。私たちは8人用のテーブルに座り、壁に張り出してあるメニューとテーブルに備え付けのメニューを眺めましたが、ジョミー君がこだわる『クレープ冷麺』はありません。やっぱり冗談なんでしょうか?
「いらっしゃい。新入生さんね。テーブルは休み時間にはいつでも座っててくれて構わないけど、セルフサービスだから注文は取りに来ないわよ」
ママくらいの年に見える女性がそう言いながらも親切に水が入ったコップを7つ持ってきてくれました。
「ちょうどよかった。質問してもいいだろうか?…ジョミー、食券を貸してくれ」
素早く口を開いたのはキース君です。
「昨日、こんなものを貰ったそうだ。だが、メニューには無いようだな」
「え?…あら、本当に食券ね。ちょっと見せて」
女性はキース君が差し出した食券を受け取り、そこに書かれた文字を見ると悪戯っぽい笑みを浮かべて…。
「これは新入生歓迎用の隠しメニューよ。一食限定なんだけれども注文してみる?…お連れの人はクレープと冷麺、どっちかを無料で食べられるの」
「ふぅん…一食限定なんだ。じゃ、ぼくが頼めば他のみんなもクレープか冷麺をタダで食べられるわけなんだね?」
ジョミー君、既に頼む気満々のようです。
「ええ、そうよ。そしてあなたにはクレープ冷麺。ついでにセルフサービスじゃなくてテーブルまでのお届けになるわ」
「よ~し!じゃあ、ぼくは頼んでみるけど、みんなはどうする?クレープか冷麺ならタダで持ってきてくれるんだってさ」
無料サービス。これはまさしく魔法の言葉。私たちは全員、頷きました。せっかく無料で食べられるチャンスをフイにするのは愚の骨頂です。男の子は冷麺、私とスウェナちゃんがクレープに決めて注文が纏まると…。
「クレープ冷麺、入りまぁ~す!!」
女性は楽しそうな顔で食券を受け取り、厨房へ向かっていったのでした。

「隠しメニューだってさ。ぼくって、かなりラッキーかも」
ウキウキしているジョミー君。私たちもタダで食事ができるとあってワクワクするのを隠せません。そこへ…。
「かみお~ん♪…クレープ冷麺を頼んだの、誰?」
厨房の方から現れたのは割烹着を着込んで「おたま」を持った「そるじゃぁ・ぶるぅ」だったのです。
「え?ええぇっ!?…ぼ…ぼくだけど…」
「そっか。すぐ出来るから待っててね~♪」
クルリと背を向けて「そるじゃぁ・ぶるぅ」は厨房に消えていきました。も、もしかして『クレープ冷麺』を作るのは…?
「…昨日のクッキー、手作りだって言ってましたね…」
マツカ君が厨房の方を見ています。
「ああ。美味いクッキーだったが、あいつ、料理が趣味なのか?」
「どうでしょう。人は見かけによらないって言いますし」
キース君とシロエ君の言葉に私たちはコソコソと頭を寄せ合って不安と期待の入り混じった『クレープ冷麺』談義を始めました。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が作るんだとしたら、果たしてそれは美味なのでしょうか?悪戯好きだと聞いたような気が…。

「クレープ冷麺、お待たせ~!他の注文も出来てるよ。食堂で腕をふるうの、久しぶりで楽しかったぁ♪」
トコトコトコ。得意そうな顔の「そるじゃぁ・ぶるぅ」がお盆を持ってやって来ました。後ろには食堂係の人たちが私たちの分の料理を持ってついて来ています。
「はい、どうぞ。ぼく、クレープも冷麺も大好きなんだ」
ドンッ!とジョミー君の前に置かれたのはガラスの冷麺鉢でした。鉢一杯の冷麺の上に乗っかっているのはハムや卵やキュウリではなくて…イチゴと生クリームがたっぷり飾られたお菓子のクレープだったのです。そして冷麺はどう見ても普通の冷麺で…。
「な、なんだよ、これ!?」
「ぼくの好物をミックスした特製メニューだよ。…試食は一度もしていないけど、多分…きっと美味しいんじゃないかな♪」
そう言って「そるじゃぁ・ぶるぅ」は割烹着を着たまま、1つだけ空いていた席にちょこんと座ってしまいました。
「えっとね、他のみんなの冷麺とクレープもぼくが頑張って作ったんだ。どっちも凄く美味しいって、さっきブルーが味見してった。ね、食べて、食べて!ぼく、お料理が趣味なんだ~」
ニコニコニコ。無邪気に笑う「そるじゃぁ・ぶるぅ」は手料理の評判を楽しみにしているようでした。確かに苺クレープはとっても綺麗で美味しそうですし、冷麺もゴマ油のいい匂いがしています。でも…。

「…サム…。それって普通の冷麺?ちょっと食べてみてよ」
ジョミー君の言葉にサム君が勢いよく備え付けの割り箸を割り、ズズッと冷麺を啜ってみて…。
「うん、美味い!美味いよ、ジョミー!」
「そうですね。すごく美味しいです」
「素人料理とは思えないな」
「プロ並みかも…」
サム君、マツカ君、キース君、そしてシロエ君。冷麺を食べたみんなは揃って「そるじゃぁ・ぶるぅ」を褒め始めました。私とスウェナちゃんの苺クレープも絶品です。と、いうことは…。
「…冷麺に苺クレープを乗っけただけ?」
「うん!」
ひきつった顔のジョミー君の問いに「そるじゃぁ・ぶるぅ」が元気よく答えました。
「ぼくの自信作、食べてくれるよね?…食べてくれないんなら…押しちゃうよ、手形」
突き出されたのは恐怖の左手でしたが、ジョミー君は負けていませんでした。
「その手形。ダメっていうだけの印だろ?…旅行券は無効になったけど、グレイブ先生は今もピンピンしてるじゃないか」
「グレイブはもう馴れてるもん。これを押された人は消えるまで災難続きになっちゃうんだ。こないだのグレイブは…学校でも色々あったけど、帰りに犬の糞を踏んで滑ってドブに落ちたよ。で、家でシャワーを浴びようとしたらそのシャワーが壊れてて…」
「…わかったよ…。そんな目に遭いたくなければ食べるしかないってことなんだ?」
「そう。あ、食べ方を教えるの忘れてた。クレープと冷麺をよく混ぜてから食べてね、ビビンバみたいに♪」
ジョミー君はウッと息を詰まらせ、クレープ冷麺の鉢を睨み付けていましたが。
「くっそ~!意地でも完食してやる!!」
好奇心は猫を殺す。謎の食券にこだわったばかりにゲテモノを食べる羽目になったジョミー君を見ないようにしながら、私たちは美味しい冷麺やクレープに集中しました。

恐怖の隠しメニュー、『クレープ冷麺』。かき混ぜられてグチャグチャになったクレープと冷麺を凄い勢いで食べたジョミー君は、やおら冷麺鉢を持ち上げ、汁をズズーッと飲んでいます。とても不味いと思うんですけど、根性ですね。あと少しで飲み終わる、というその時です。
「やっぱりイヤだーーーっっっ!!!」
身体が青く発光したように見えたのは気のせいでしょうか?ジョミー君は冷麺鉢を持ったまま立ち上がって「そるじゃぁ・ぶるぅ」の席に駆け寄り、ガシッと左手で押さえつけると…。
「お前も飲めーーーっっっ!!!」
びっくりしてポカンと開いた「そるじゃぁ・ぶるぅ」の口にクレープ冷麺の残り汁を一気に流し込み、サッとキース君の後ろに隠れました。逆襲されたら投げ飛ばしてもらうつもりかも。しかし…。
「おえぇぇぇぇ!!!」
胃袋がひっくり返ったような悲鳴と共に「そるじゃぁ・ぶるぅ」はボワンと消え失せ、それっきり戻ってきませんでした。とりあえず食堂に平和が戻ったみたいです。
「うぇぇ…。酷い目にあっちゃった。ウガイしてくる」
そう言ったジョミー君は洗面所に直行しましたけれど、帰ってきた途端「口直しに」と激辛カレーライスを注文。そしてパクパクと食べる姿に私たちは溜息をつき、心配して損した……とテーブルに突っ伏したのでした。


   ※クレープ冷麺は私の大学の学食に実在したメニューです。
   話の種に食べておけばよかったかな、と後悔してます…。



     ※アルトちゃんレポートとは…
  シャングリラ学園連載当時、アルト様が「乱入」としてご好意で
  書いて下さった「お話」が幾つかあります。
  それを『アルトちゃんレポート』という形で掲載させて頂きます。
  乱入なだけに、私が書いた話と時間が前後することもあります。
  お祭り感覚ですので、ひとつよろしくお願いします。
 


「グレイブ先生!」
 苦虫を噛んだような表情で教室から出て行く背中に声をかけた。
「おや、君は……」
 眉間を人差し指でコンコンと叩き、何やら記憶を呼び覚ましているらしい。
(今度の試験の時にやってみようかな…)
 なんとなく思いながらもう一度呼ぶ。
「ああ、思い出した」
 本当に効果がありそうで、これは真剣に試してみる価値あり!だ。
「君は入学試験の数学が1点という史上最低の記録でパスしたアルトだな」
(ふわぁぁっ、やば)
 まさかそんなチェックが入っているとは思わず、声をかけたのを忘れて逃げ出そうとした。
「待て」
 手首を掴まれ逃走が阻まれる。
「待てません! 待ちません! それに手を掴むなんて、セクハラです!」
「あ~ら。生徒にセクハラなんて、聞き捨てなりません」
「ミシェル……いや、パイパー教諭」
 キリキリと強い表情で歩み寄ると、手首を掴む手をピシャリと叩いた。
「離しなさい」
「しかし。私は彼女の担任で、彼女は夢か幻かぶるぅの悪戯かと思えるあの点数の持ち主なんだ」
「それとこれと話が別。それに私が逃げさせません」
 反対の手首を掴まれてしまう。
「これはセクハラじゃないわよね、アルトさん」
「……は…はい…」
 そらならばとグレイブは手を離した。
「それで、セクハラの原因は何かしら?」
「セクハラではない」
 言い切ったグレイブをミシェルが正面から見上げれば、火花が散っていそうだ。
(こ、この先生たち……仲悪い…とか?)
「そもそもこの生徒の方から声をかけてきた」
「そうなの?」
「……は…はい」
「それで用件は何?」
「あの変なぶるぅっていう子のことを知りたくて……」
「そんなことなの」
 パッと手が離れる。
「教えてあげればいいのよ」
 大人の女の笑みが浮かべば、グレイブ先生にも大人の男の笑み…ではなくて、鬼教師の笑みが浮かんでいた。
「毎日補習の最後にテストを行う。その結果で少しずつ教えていってやろう」
「それってひどい!」
「一石二鳥だろう。成績が上がる、秘密を知ることが出来る」
 それを言われると誰だって弱い。
「1点から這い上がるのはそれほど難しいことではない。心配するな、きっちり仕込んでやる」
「謹んでお断りを……」
「寮生活だろう? 逃げ場はない」
 背筋に冷たいものが走った。
 もしかして1点で滑り込んだのは人生最大の間違いだったかもしれない……




学園生活も今日で3日目。教室に入ってきたグレイブ先生は思い切り不機嫌そうでした。
「今日は校内見学日だ。…ったく、いつになったら授業を始められるというのか…。この学園の気風とはいえ、私は未だに納得がいかん」
そりゃそうでしょうね。入学式の日に実力テストを始めるような先生です。授業もきっと厳しいだろうな…。
「だが、私の一存で変えられるような組織でもない。校長先生は絶対だ。校内見学、大いによし!と言っておこう。特にこれといった決まりはないから、各自、校内を自由に見学するように」
やったぁ!校内見学、楽しそうです。一緒に回るならやっぱりジョミー君たちですよね。昨日のカラオケも盛り上がりましたし。

校内見学は新入生全員の行事ですから、廊下に出るとすぐにサム君やシロエ君とも合流することができました。これからずっと7人グループってことで決まりでしょうか。まずは何処から見ていこうかな?
「食堂は何時からだっけ。まだ開いていないのかな」
「おいおい、ジョミー…。いきなり食堂って、腹が減ったのか?」
サム君が呆れた顔をし、私も食いしん坊だなぁ…と思ったんですけども。
「違うよ。昨日のエッグ・ハントで貰った食券に変なのがあってさ…本当にメニューにあるのかと思って」
「どんな料理だよ?」
「……クレープ冷麺」
「「「クレープ冷麺!!?」」」
私たちは思わず叫んでいました。そんなもの聞いたこともありません。
「嘘じゃないよ、ほら」
ジョミー君が財布から取り出した食券には確かに『クレープ冷麺』と書いてありました。え、えっと…間違いなく食券は存在しますね。
「俺は初耳だ。シロエ、お前は聞いたことがあるか?」
「ありませんよ。…でも食堂はまだ開いてませんよね」
キース君とシロエ君も興味がでてきたようですが…食堂は多分、お昼前にならないと開かないでしょう。クレープ冷麺は気になりますけど、まずは時間を潰さなくっちゃ。
「ジョミー、食堂の前にプラネタリウムに行ってみない?」
スウェナちゃんが言いました。
「私、プラネタリウム大好きなの。学校に小さなのがあるって聞いてずっと楽しみにしてたのよ」
「ああ、もしかしたら上映会をやっているかもしれませんね」
マツカ君の言葉が決め手になって、最初の見学先はプラネタリウムに決まりました。一番奥の校舎の最上階に天文教室があって、プラネタリウムはその隣です。エレベーターもありましたけど、柔道一直線のキース君は…。
「大した階段じゃないんだ、歩け、歩け!でないと筋力が衰えるぞ。そうだな、シロエ?」
「ええ。階段の上り下りはいい運動になるんですよ!」
そういうわけで5階まで階段で上ることになりました。あ~ん、いきなり運動ですよぉ…。

プラネタリウムに辿り着いてみると、見学者は誰もいませんでした。いきなり一番奥の最上階から回ろうという生徒は珍しいのかも。でもちゃんと担当の先生が待っていて下さり、照明を落として色々と解説しながら上映をして下さいました。
「プラネタリウムの機械は高価なので、生徒の皆さんに勝手に触っていただくことはできないのですが…天文教室の各種設備は授業などでも使いますから、見学していくといいですよ」
貸切状態でプラネタリウムを堪能した後、私たちは言われたとおり天文教室に入ってあちこち眺めていたのですが…。
「あら?…このモニター、勝手に電源が入ったわ!」
スウェナちゃんが指差したのは教卓の隣の机に置かれた先生用(多分)の大きなモニター画面でした。

「星だな…。いや、宇宙空間が映っているのか?」
キース君が言うとおり、真っ暗な空間に瞬かない星が散らばっています。天文学の教材でしょうか?
「先輩、ここに何かいますよ」
シロエ君が指差す場所に白い点がボウッと映っています。その物体に近づくようにモニターの星が流れていって、ぼんやりと形を取り始めると。
「…宇宙クジラ…?」
スウェナちゃんが呟きました。白いそれは輪郭がぼやけていますが確かにクジラのように見えます。
「マジかよ!宇宙クジラなんて嘘っぱちだろ?」
「ああ、UFOだとか言われてはいるが実在してはいないだろう。この映像は悪戯だな」
サム君とキース君が言いましたけど、スウェナちゃんは真剣に画面を見つめていました。
「でも、本物かもしれないわよ。本物だったらラッキーだわ。宇宙にクジラが泳いでるなんて、とても素敵だと思わない?」
「ちぇっ。スウェナはロマンチストだもんな」
ジョミー君が舌打ちをした時です。
「…スウェナが正しい。その映像は宇宙クジラだ」
背後からの声に振り返ってみると生徒会長さんが立っていました。いつの間に入ってきたのか全く気付きませんでしたけど。
「君たちにこれが見えたことにも意味がある。勝手に電源が入っただろう?…おや、他の生徒たちが来てしまったか…」
ガヤガヤと見学中の新入生グループが入ってきました。あっ、と思う間もなくモニターの電源が切れ、宇宙クジラの映像もそれきり消えてしまったのです。
「宇宙クジラもいなくなったことだし、ぼくは行くよ。君たちは校内見学を続けたまえ。気が向いたらぶるぅの部屋に来ていいからね」
生徒会長さんはキャーキャーと騒ぐ女子生徒たちをかき分けながら教室を出て行ってしまいました。凄い美形ですもん、騒がれるのも無理はありません。

「…会長さん、何が言いたかったんでしょう?」
マツカ君が首を傾げましたが、誰にも分かりませんでした。天文教室は混んできましたし、話すなら廊下に出なくては…。
「宇宙クジラだって言ってたわよね。会長さんは何か知ってるんだわ。生徒会室に行けば会えるかしら?」
「それもいいけど、そろそろ食堂が開くんじゃないかな」
「ジョミー、お前、食堂の話ばっかりだぞ」
「だって!気になるじゃないか、クレープ冷麺」
ジョミー君とサム君、スウェナちゃんが揉め始めたのを収めたのはキース君でした。
「そろそろ昼飯の時間ではある。…宇宙クジラの追求もいいが、まずは腹ごしらえだろう。腹が減っては戦はできぬ、と言うしな」
「さぁっすがぁ!キース、話が早いや」
「じゃ、次は食堂で決まりですね、キース先輩」
私たちはジョミー君の食券の謎を解き明かすべく食堂へ向かうことになりました。宇宙クジラとクレープ冷麺、どっちも気になる存在です…。




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