シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
- 2012.01.15 情熱の果実(アルト様作)
- 2012.01.15 母を訪ねて…(アルト様作)
- 2012.01.15 秘密のきっかけ(アルト様作)
- 2012.01.15 キャンディ・アルト様バージョン
- 2012.01.15 絶賛修行中・アルト様バージョン
※こちらはアルト様の『ハレブル無料配布本』に掲載された作品です。
アルト様のサイトに『情熱の果実』は現在、掲載されておりません。
ところが、このお話に想を得たシャングリラ学園番外編が1話、生まれてしまい…。
テキストで頂いた『情熱の果実』が見つかったため、掲載させて頂きました。
アルト様の御好意に感謝いたします!
「廃棄してもよろしいでしょうか?」
医療室に呼び出されたハーレイは目の前に置かれた物をじっと見る。
「石と土に見えるが?」
「はい。他に葉や種子もあります」
見れば確かに土の塊ではなくて丸まった葉の塊で、小石ではなくて種子だ。
「廃棄するのは構わないが、何故私の許可が必要なのか分からない」
ハーレイの言葉にノルディは伝言を聞いていないのだろうか? と思ったが、それは口にせず、
「失礼致しました。こちらはソルジャーがお持ち帰りになったものです」
「ソルジャーが?」
「はい。正式には救出に外に出向いた際、ソルジャーの衣服、頭髪に付着していたものです」
「そうか。ではこれは検査済みなのだな」
「はい。危険な菌が検出されませんでしたので、このまま廃棄して問題ないと思われます」
そういう報告だということは、ノルディから伝言だと言ってきたブラウからは聞いていなかった。
二人の内どちらが省略したのかと考えればブラウである可能性の方が高い。
ハーレイは後で確認しなくてはと思いながら、
「ではそのように」
告げてブリッジに戻ろうとした。
「いや、ノルディ」
「はい」
「それは何の種子だろうか?」
種子が付着するような場所に行った話はブルーから聞いていない。と言う事はブルーはそれを秘密にしていたのだ。
場所に意味があるのか、植物に意味があるのか、ハーレイは気になった。
「さあ。そこまでの検査はしておりませんでした。調べてみましょうか?」
「育てても問題ないだろうか?」
「はい。ではヒルマン教授に……」
「私が」
「はい?」
「私が育ててみようと思う」
「――そうですか。では」
反対されるかと思えばあっさり容器に入れて種子を渡す。
それはハーレイの指先よりもとても小さいものだった。
「芽が出るだろうか?」
「どうでしょうか。しかし廃棄するものですから芽が出なくてもお困りになる必要はないかと思います」
「……そうだな」
容器の中の一粒の種子を見てハーレイは自分を納得させるように小さく頷いた。
「では」
ハーレイが退出したのを見届けると、ノルディがため息を吐き出した。
「お前が気に病む必要はない」
奥の部屋から出てきたのはブルーだった。
「……しかし」
「仕向けたのは僕だ」
「育てるのでしたらそれこそヒルマン教授にお願いする方が確実かと思いますが」
「うん。でもねハーレイが育てる事に意味があるんだ」
ブルーはクスリと笑う。
「あれが何の実なのか、ソルジャーはご存知なのですね」
「知ってる。でもノルディ、君の為を思って言っておく。あの実が何なのか調べてはいけないよ」
ブルーの微笑に背筋が冷たくなったような気がした。
「はい」
「協力ありがとう」
ノルディの返事を待たず、ブルーは瞬きする間にその場からかき消えてしまった。
種子を鉢に植えて数日で元気な芽が出た。
双葉が出て本葉が出て、世話をするハーレイはその成長を楽しみにしていた。
ブルーの秘密を育てている気持ちにすらなっていた。
花は艶やかに、秘密の香りがするのではないかと思う。
何色だろうか?
ブルーが気に入った花だろうか? そんなことを考えながら世話するのが楽しかった。
植物も愛情を込めれば美しい花が咲くとどこかの資料で見た気がする。美しい音楽も有用と知ってからは音楽を流すようにもしていた。
時折ブルーがハーレイの部屋を尋ねてくるが、ブルーは鉢に気づきもしない。
尋ねられてもなんだか返答に困ると思っていたハーレイには好都合だった。
そして一ヶ月。
部屋の奥に置かれた鉢。
それは今やハーレイが持ち上げるのも一苦労というほどの大きさになっていた。
よく見れば小さな蕾がいくつか付いている。
もし花が咲くようならば、その時ブルーに見せようと思っていたハーレイはひっそりと笑みを浮かべた。
毎日元気に育てよと声をかけてきた。
綺麗な花を咲かせるか?
それとも美味しい実をつけるか?
そんな事も語りかけてていた。
小さいながらも青々とした葉をつけた樹は訪れたブルーの目を引き、
「それは?」
問いかけにハーレイは経緯を話した。
と、ブルーは、
「これが実をつけたら僕のものだね」
「は?」
「僕が持って帰ってきた種だろう?」
「……いや」
「違うっていうのか?」
「いや待て」
ハーレイは気がついた。
ブルーは草花を育てることにあまり興味がない自分が育てていることに驚いていない。
驚いていない。
からかいもしない。
(……ということは)
「これはもしかして計略か?」
「人聞きの悪い……」
「計画的だな?」
「僕が育ててと言ってもお前は育てないだろう?」
「それは……」
植物を育てるということに興味があまりないハーレイは、ブルーが育ててくれと言えば枯らさないことを優先させ、種をそのままヒルマンに渡していたろう。
多忙や難しいということを理由にして。
「……しかし何の為に」
「僕が持ち帰った種子で、何か分からないという事をエサにしたんだ。お前は食いついた」
「…………」
「そしてお前が育てた」
「それにどんな意味が?」
「実がなれば分かる」
「しかし……部屋で育てるにはそろそろ限界が……」
「大丈夫。これ以上大きくならない」
「何の実か、分かっているのだな」
「もちろん」
ブルーは静かに笑みを浮かべ、
「お前に育てて欲しかったんだ」
「…………」
意味が分からないと言った風にハーレイは頭を振り、大きな大きなため息を吐き出す。
「知らずにお前が育てることに意味があったんだ」
「だがもう知ってしまった。終わりだろう?」
「うん。でももう大丈夫。そろそろ知りたいだろうしね」
ブルーはハーレイの心臓が壊れそうなほどの艶やかな笑みを見せ、
「実をならせて。僕のために」
ここまで育ててきたのだ、そんなことを言われなくても世話をする。
だがこの種子の一体何が特別なのかと思わざるを得なかった。
「検索しても出てこないよ」
「…………」
「特別だからね」
「どう特別なんだ?」
「知りたい?」
「当然だろう?」
「研究所が作り出した新種」
「研究所?」
「サイオン研究所。この植物はサイオンを吸収する」
「――――?」
「育てる者のサイオンを吸収するんだ」
「ブルー!」
怒声に近いかと思えば、ハーレイの表情は羞恥に赤く染まっていた。
「僕を思って育ててくれた植物がどんな実になるか、とても楽しみなんだよ、ハーレイ」
しばらくして、恋人たちの間で「情熱の果実の樹」として密かなブームになったことは言うまでもない。
情熱の果実・了
※このお話から生まれたシャングリラ学園番外編は、こちら→『情熱の木の実』
それはハーレイが休憩時間に公園を散歩している時のことだった。
遊んでいた子供たちが一斉に駆けてきたのだ。
その勢いに傍らにいたブラウが「何事だろうね」とつぶやく。
「お前が目当てではないか? ブラウ」
「あたしかい?」
言われてみればハーレイは船長然としていて、子供たちが全力で駆け寄ってくるということは考えにくい。
故にハーレイのその指摘は正しかった。
しかし今回は例外だったらしい。
「キャプテン!」
「キャプテン!!」
子供たちが口々に叫ぶ。
「残念だねぇ。あたしじゃないみたいだよ」
肩をすくめて楽しげにハーレイに告げる。
「何だ?」
尋ねると子供たちは口を閉じた。
ハーレイの低くよく通る声に子供たちは威圧を感じ緊張してしまったからだ。
「キャプテン」
その様子を見てブラウが肘でこづく。
だがハーレイはにこやかに尋ね直したりはしなかった。
「――あのっ!」
集まった子供たちの中で最年長の男の子が意を決して声を出す。
こちらも両隣の女の子にこづかれてのことのようだ。
「何だ?」
「キャプテンとソルジャーのどちらがぶるぅを産んだんですか?」
その問いをハーレイは全く理解出来なかった。
いや理解は出来た。
だがどこをどうしたらそんな疑問が出てくるのか、そしてどうしてどちらかが産むことになるのか、全く全然これっぽっちも分からなかった。
「子供たちの疑問にきちんと答えるのが大人の義務だよ」
ブラウは思い切り楽しそうに子供たちの肩を持って言い添えた。
たっぷり時間をかけて考えたハーレイが「それは誰から聞いた?」と尋ねると、子供たちは「ぶるぅだよ」と元気よく答えた。
その時ぶるぅは「僕のママはどっちだと思う?」と尋ねてきて、誰も答えられなかったのだとも。
「そうだろうな」
と、ハーレイは呟く。
「キャプテンは絶対答えられる?」
確かめるように問いかけてきた子供の頭をハーレイは撫で、
「それは明日ぶるぅに聞いてみるといい」
「明日?」
「そうだ。明日だ」
「はいっ」
期待に満ちた笑顔で子供たちは礼をして走って行く。
どっちかなぁ? という言葉をそこに置いて。
「ハーレイ」
「……なんだ?」
「明日なんて期限を切って大丈夫だったのかい?」
「責任はとってもらう」
「ぶるぅにかい? それは無理だろう。あいつの頭の中は食べ物の事と悪戯の事しかないからね」
「この船にはもう一人ブルーがいる」
言い残してハーレイは足早に公園を出て行った。
「責任をとってもらう……ねぇ……。悪あがきじゃないかって思うけどね」
消えた後ろ姿を思い浮かべながら言うブラウの表情は、悪戯を思いついたぶるぅのように楽しげだった。
「ぶるぅにどう説明したのか、教えて欲しいのだが」
ブルーを前にするなりハーレイはいきなりそう口にした。
「どうって?」
「出生のことだ」
「ああ、卵から生まれたと言った」
「他には?」
「別に」
「そんなことはあるまい。きちんと説明していればあんな質問が出るはずもない」
「どんな質問だ?」
「どちらが卵を産んだのか、ということだ」
「どちらって?」
「お前か、私か」
ほんの少し怒気を含んだ真面目な表情で言い放つハーレイを見やり、ブルーは小さく吹き出して笑ってしまった。
「ブルー!」
「可愛い誤解じゃないか」
「見過ごして良いものとそうでないものがある」
「お前はこれがそうでないものだと言うのか?」
「そうだろう。我々は産む事は出来ない。そもそも人間は卵から孵化しない」
「じゃあぶるぅは人間じゃないんだ?」
「……………」
「ある日アレはここにあった。丁度クリスマスだった。誰かが僕にプレゼントしてくれた綺麗な石だと思った。正直、お前だと思ったんだけどね、ハーレイ」
「私ではない」
「それが石ではなく卵だと分かり二人で温めた。アレは少しずつ大きくなり一年後、割れてぶるぅが出てきた」
「そうだ。だが……」
「僕にもお前にも真実は分からない。だがぶるぅは信じている。僕かお前が卵を産んだのだと」
「有り得ん!」
ハーレイが言い放った時、青の間のベッドの向こうから泣き声が聞こえてきた。
それも聴覚を補う補聴器が悲鳴をあげるほどの大きさで。
「ぶ……ぶるぅ!」
補聴器を取り、耳を覆ってハーレイがベッドに駆け寄る。
「うわぁぁぁぁぁん」
「ぶるぅ」
「僕にはパパもママもいないんだ~~~っ」
「いいか、ぶるぅ……」
「わぁぁぁぁん」
泣き声が青の間中に響き、ハーレイの身体を揺さぶるほどだ。
「ぶるぅ、落ち着きなさい」
「うわぁぁぁぁん。ぼく……ぼく……ママに抱っこしてもらいたかったんだもん。ぎゅってしてもらいたかったんだもん」
泣きながらも懐から取り出したのは一冊の本だった。
データベースの中にあった古い古い子供向けの話を絵本にしたもので、内容はハーレイもよく知っている。
母親を捜して旅に出て、最後に出会うというものだった。
わんわんと泣き続けるぶるぅをハーレイは見つめ、そしてそっと抱き締めた。
と、ピタリと泣きやみ、
「ぎゅってして~、ハーレイ、ぎゅってして~」
言われるままに抱き締めるとぶるぅは涙の残る顔で嬉しそうに笑った。
翌日から『ぶるぅのママはハーレイである』という否定出来ない噂が流れ出したのは言うまでもない。
■作者メッセージ
と言うわけで、ぶるぅのパパママ戦争に決着がつきました。
…ハーレイの意志とは関係なく(笑)
さて、黒幕は誰でしょう?
という問いは必要ないと思いますv
《ブルー……まだか?》
《もう少しだ。頑張ってくれたまえ。君はぶるぅの父親だろう?》
青の間に生息する座敷童的存在――と表現するとぶるぅ本人が怒って噛み付いてくるのだが、実際そんな存在だ。
いつの間にか青の間にあった石。いつの間にか大きくなり、それが卵で暖める必要があると悟ったブルーはベッドに持ち込んだ。
だが一人で暖め続けられるはずもない。
指名されたのは当然ハーレイだった。
ベッドの中央で、時々は端っこで暖め、ついに孵化して出て来たのはちっちゃいブルーだった。だから「ぶるぅ」と名付けられた。
そしてぶるぅは最初に見たハーレイをパパと呼んだ。
それは理解出来る。
だが次に目にしたブルーを見て口を閉ざす。
生まれた瞬間、たくさんの情報がぶるぅの中で目覚めた。卵を暖めるのはパパとママの役目だと知っていたが、目の前にいるのはどう見てもパパとパパだったのだ。
そんな混乱をブルーは楽しんだ。
そしてパパとパパでもいいじゃないか、と提案した。
卵を暖めたのは確かにブルーとハーレイなのだから。
ママがいないことは残念だが、パパが二人なんてないことで、自分は特別なんだ!と思うぶるぅはウキウキとした。
だがブルーとハーレイはどちらが真に父親かという論争を今でもたまにしているのだ。
もちろん娯楽の一つとして。
父親の座を譲らないハーレイは今、ブリッジで苦悶の表情を浮かべている。
原因はハーレイを見ればすぐに分かる。
ハーレイの膝丈くらいの身長であるぶるぅが、ガブリとハーレイの腕に噛み付いてそのままブラブラと宙に揺れているからだ。
とにかくとんでもなく痛くて、いつもならば怒声を浴びせているところだが今日はそうはいかない。
理由を知っているブリッジクルーも何も言わず、ぶるぅを引きはがそうともしない。
――なんかへんだぞ?
そう思うが噛み付いたまま目をキョロキョロさせてぶるぅは様子を伺う。
《ハぁレイ》
思い切ってぶるぅは思念で尋ねてみる。
ちっさいブルーであるせいか、サイオンタイプもブルーなのだ。しかし出力全開は三分間というリミッター付なのだ。
全開でなければ思念波も普通に操ることが出来る。
《なんだ?》
《なんかヘンだよ?》
《そうか?》
《だって、ハぁレイ、離せって怒らないもん》
《そういえばそうだな》
《言う? 離せって言う?》
《言う。もう少ししたらな》
《どうして今じゃないの?》
《どうしてだろうか》
《ハぁレイにも分からないの?》
《ああ》
《じゃあブルーに聞いてみる?》
そうだな、とハーレイが答えようとした瞬間、まだ駄目、とブルーから思念が届いた。
《ぶるぅ。ブルーは今忙しいようだ》
《先に聞いてくれたの?》
《あ……ああ》
《さすが僕のパパ!》
そんなことで喜ぶぶるぅは可愛い。
可愛いと思うが歯は鋭すぎる。
腕の先でプラプラと揺れているぶるぅは嬉しそうにしている。
《あ……あ……ぶるぅ、うれしいのは分かるがそれ以上揺れるな。……痛い》
《ごめんなさい》
それきりしばらく話しかけてこなくなった。
できればこのまま時間をやりすごしたいと思ったがそ上手くはいかないように出来ているようだ。
《……ハぁレイ》
《なんだ?》
《腕、痛い?》
《痛いな》
《じゃあ何があるのか教えて》
《それは出来ん》
《出来ないってことは、何かはあるってことだよね?》
パタ、と床に落ちる音がする。
「ま……待て、ぶるぅ!」
まだブルーはOKしていない!
が、目の前でぶるぅの姿は消えた。
《すまん、ブルー》
《準備完了、危機一髪。それより早く》
ブルーの言葉にホッとしつつブリッジの出入り口から出ようとした瞬間、ハーレイは青の間にいた。
《……ブルー》
「ブリッジからここに来るのを待つ時間はないからね」
「そうだが……」
「ねえ、何? どうしたの?」
ブルーとハーレイの間でぶるぅが目をまんまるにして尋ねる。
「ハーレイにね、お願いしていたんだ。ぶるぅが青の間に来ないようにしてくれって」
「ああ! それで噛み付いても怒らなかったんだね? でも言ってくれればよかったのに」
「言ったら好奇心旺盛すぎるぶるぅは絶対に来るだろう?」
「もっちろん♪」
その場でくるりと一回転してぶるぅは答える。
「だからだよ」
「……どうして僕、来ちゃだめだったの?」
「それはね」
そう言いながらブルーはベッドの隣に置かれた大きな包みを指し示した。
「今日、あげたかったんだ」
「今日?」
「開けてみてごらん」
ブルーに促されて自分の身体よりちょっと大きい箱にかかった虹色のリボンを解き、箱を明けると……、
「かみお~ん♪」
喜びの雄叫びが青の間に響く。
「すごいやこれ。新しい土鍋だね!」
「そう。この土鍋で今夜、サンタクロースを待つといい」
「うん! 楽しみだなぁ」
言いながらぶるぅは土鍋の中に入る――と、しばらくして寝息が聞こえてきた。
「……土鍋の威力はすさまじい」
「ぶるぅが一番安心出来る場所だからね」
「ところでブルー。土鍋の用意にお昼までかかえるというのはどういうことだ?」
そのせいで噛まれていた左手は痛くて痛くてズキズキしているのだ。
「良く見てくれたまえ」
ブルーは土鍋を指さす。
「あ……ああ!」
用意すると言っていたのはアヒルの絵柄も土鍋だったが、今あるのはアヒル以外の絵も描かれている。
「せっかくだから描いたんだよ、お風呂隊を」
「ブルーが?」
「うん。僕が」
可愛いだろう?というブルーの問いを肯定しつつ、負けた気分になった。
これがきっかけでハーレイが木彫りを始めたということは、本人以外誰も知らない……はずだ。たぶん。
ノルディ×ブルー
どこからともなく囁かれるようになった言葉「エロドクター」
言わずと知れたみゆ様作のシャングリラ学園のドクターへの賛辞の言葉!?です。
いつの日かブルー(シャン学生徒会長)と甘い夜を…と思っているようですが……。
このお話は、拙作の「絶賛修行中」の中で教頭先生がうちのブルーとの素敵な経験の記憶を見てしまったことに端を発し、好奇心を抑えきれず『シャングリラ学園 → うちのブルーの元へ』という前提です。
さてエロドクター。うちのブルーを射止めることが出来るのか否か!
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「あ、ノルディ先生、いらっしゃい。健康診断の予定はないよね? あ、も…もしかして僕? 僕は元気一杯。全然元気。すっごく元気」
生徒会長であるブルーの側にいつもいる元気で小さな「そるじゃぁ・ぶるぅ」が答える。
病気、医者が嫌いなせいか、元気っぷりを強調するようぶるぅはにニコニコ笑いながら飛び跳ねる。
「いやいや、そういう用事ではないんだ。向こうのぶるぅと連絡取れるかな?」
「うん。いつでも大丈夫。僕たち仲良しだから♪」
「あちらの世界を是非とも見学したいのだが、どうだろう?」
「ん~。……あのね、ぶるぅがね、ブルーに聞いたらいいって。今行く?」
「今? 心の準備が…。いや、この誘惑に勝てようか。行く。連れて行ってくれ」
「いいけど、僕は行かないよ。パイ生地を作ってる最中だからね。ぶるぅに頼んでおくよ。ノルディ先生をよろしくねって」
「頼むよ」
「は~い♪ じゃ、行ってらっしゃい」
そしてノルディは旅立った。
「ではドクター、処置を」
声のした方を向けば至近距離に紅の瞳があった。
だが見慣れた色合いではなく、緊張を含んだものだ。
「ドクター?」
ハッとして周囲を見回した。
ここは格納庫。
煙が立ちこめ、焼けた臭いが鼻をつく。
目の前に横たわる青年はひどい火傷を負っており、それで一気に意識がはっきりした。
「大丈夫です。手当をします」
「頼む」
厳しい表情のブルーは駆け込んできたゼルと話をしている。
その横顔は今まで見たことがないほど鋭く冷たく美しい。
ソルジャー服を纏った姿は何度も見ているが、職務を忘れるほど見入ってしまったのは初めてだった。
思わず見とれた自分を心の内で叱責して、ノルディは負傷者の手当に没頭した。
「お疲れ様」
気がついた時、ノルディは青の間にいた。
いつの間に移動したのかと問おうとしたが、緩やかにマントを翻して歩み寄って来たブルーに見据えられて口が動かなくなってしまった。
「さすが手際が良い」
「……ブルー…」
「疲れたか? 少し休むといい」
そう言って示されたのはベッド。
青の間のブルーのベッドだった。
自分が住む世界の生徒会長であるブルーの方から誘ってきたことは一度もない。
それどころか逃げ回り、予防線を張りまくっているのだ。
教頭であるハーレイにならば数限りなく仕掛けているが、危険視されているノルディに生徒会長の方のブルーは誘いをかけたことはないのだ。
喉が鳴る。
期待に鼓動が早くなる。
「……いや、あり得ない。ブルーが私を誘うなど」
ノルディの呟きを拾ったブルーは、不審の表情を一瞬見せ、その後、喉の奥で笑い出した。
「記憶が飛んだか?」
ブルーの問いにノルディはようやく自分が別の世界にやってきたことを思い出した。
そう、ハーレイの記憶の中の別世界のブルーなら誘惑することもあるだろう。
しかし別人とは言い難い。
ソルジャー服を着たブルーと、全く変わりがないのだ。
先程の緊張した表情も見たことがある。
そして今、楽しげに笑う姿も見たことがある。
「違いを探してみるか? 君はドクターだから診察するといい」
言うとブルーは手袋を取り、マントを脱ぎ捨てる。
ブーツを脱ぎ、上着を床に落とし、アンダーのファスナーに手をかけたところで熱っぽい瞳のノルディを見つけた。
「診察の時は本人が脱ぐか、看護師が脱がせるかだけど、ドクターが脱がせてみる?」
負傷者を前にしていた時と正反対の笑みが浮かんでいる。
更に歩み寄ってノルディの手を取り、ファスナーに触れさせるが、動かない。
「視姦が好み?」
赤い舌を見せて尋ねると、ノルディの身体の芯がぞわぞわと泡立った。
快感の嵐の卵、竜巻の源。激しいものを予感させるに十分な感覚だった。
躊躇わずファスナーが下ろされる。
腕を抜き、肩を落としあっという間に全て脱ぎ去ってしまった。
「お前の欲しい人と同じか?」
裸体を惜しげもなく晒すブルーから視線を逸らせず、ノルディは考えるより先に行動に出た。
歩み寄り、ブルーをベッドに押し倒す。
戸惑いの色はなく、組み敷かれた下で微笑を浮かべていた。
両手をシーツに押しつけ、ノルディは首筋に舌を這わせる。
目眩がするほど甘い。
耳朶を舌先で舐めれば、腰が浮くほど反応し、しゃぶっては甘く噛んだ。
押さえつけたブルーの両手が震えている。
ああ、ここが弱いのか、と征服者の笑みを浮かべながら、ノルディは更にそこを嬲った。
微かに声が漏れ聞こえる。
自分の世界のブルーではあり得ないことだ。
嵐が吹き荒れ始めた感覚に、ノルディ理性が翻弄されてゆく。
執拗に耳朶を嬲りながら、指は胸を這い回り、ブルーの身体は本能的に逃れようとしていた。
「ああ、ブルー」
思わず零れた言葉に反応したのはブルーだった。
「……ノルディ」
愛撫することに没頭しているノルディは、視線だけをブルーに向けた。
「ねえ、ノルディ。僕はお前の覚悟が知りたい」
「覚悟……ですか?」
「ソルジャーである僕を抱く覚悟」
言いながらブルーはノルディの前に小瓶を差し出した。
「これは……」
「僕が君の世界のブルーに渡したお土産。これの正体が君には分かっているだろう? ノルディ」
「……媚薬…ですね。これを…どうしろ…と?」
「飲んで」
ブルーの瞳と同じ紅。それも透き通っている液体だ。
「苦くないと思う。僕は必要ないから飲んだことないんだ」
はい、と言って手渡す。
「私も……飲む必要はないと思いますが」
「淫乱ドクターなんだ。診察は拷問? それとも至福の時?」
「その時々でしょうか。ブルーの診察の時は拷問ですが」
「そうだろうね」
クスリ、とブルーが微笑した。
「飲まないんだね。じゃあ、頑張って」
いつの間にかノルディとブルーの位置が入れ替わっていたことにノルディは気付かなかった。
「――頑張る…とは?」
「すぐに分かる」
起き上がろうとしても身体が鉛のように重いことに気付いた。
ブルーは苦もなく身体の位置を反転させると、まだ堅さが十分でないノルディの昂ぶりを舌先で悪戯しはじめる。
「ソ……ソル…」
舐め始めるとブルーの身体が揺れ、目の前のブルー自身は半テンポ遅れて揺れる。
緩く握り込まれ、含まれ、熱に包まれるとノルディの感覚は一瞬にして一か所に集中した。
自分でも聞いたことのない自分の喘ぎが耳に届き、全身が熱くなる。
そして羞恥を初めて感じた自分に、更に快感が高まっていった。
身体は動かないが何とか舌は動くと分かると、ノルディは舌を伸ばして目の前のブルー自身に触れようとする。
揺れて一瞬触れては遠のき、焦燥すら感じながらそれに集中する。
ノルディの行動を見ていたかのようにブルーの腰が少し落ちると、先端だけを舐めることができた。
ビクとブルーが反応するとノルディの唇の端が持ち上がる。
ブルーもまた、ノルディを焦らしながらも欲しいのだと知ったからだった。
この手を差し伸ばして、腰を抱いて、引き寄せて……思うが身体はベッドに縛り付けられたように動かない。
ソルジャー、どうか、と言おうとした時、
「上から飲まないなら、下からだね」
ブルーの声が届き、ちゃぷん、と水音が響いた。
気がついた時、ノルディは見慣れたベッドの上にいた。
自宅のベッドだった。
起き上がって自分の身体を見れば、いくつか残る赤い痕。そして下肢部の痛み、怠さ。
記憶を辿って冷静に判断したノルディは驚きに息が止まった。
ソルジャーに組み敷かれる自分。
喘いで泣き、許しを乞う。
快感に翻弄され、最後は……。
医者として、自分の身体を観察した。
情事の痕がある。
認めたくないが痛みもあった。
そして解放された後の感覚も。
だが記憶がない。
達した時の記憶が全くない。ここに戻ってきた記憶も。
(どういう事だ?)
改めて記憶を探る。
と、そこに作為的なものを感じた。
(作られ、埋め込まれた記憶か? いや、途中までは真実のはず。一体どこまで…?)
何度も記憶を再生するが、真実と偽りの境は分からなかった。
■作者メッセージ
一体何が起こったのか!
とりあえずナイショらしいです(笑)
「僕はやってないから」とうちの長、笑いながら言っております。
……アヤシイ
ハーレイ+ハーレイ×ブルー
お一人目のハーレイは、クリスマス企画の掲示板で現在生徒会長のブルーに片想い中のハーレイ教頭先生。
彼はうちのハーレイが驚くほどの超強力ヘタレですv それがまたいじらしくて素敵なんです。(みゆ様作です)
そのみゆ様から『女性向とか18禁とか知っている、おませなアルトさんぶるぅのお話をお願いします』というキリリクが♪
みゆ様のぶるぅは家事カンペキで悪戯しない良い子ぶるぅなのですが、うちのは……(笑)
どうせならヘタレ教頭先生を拉致っちゃおうかな~?なんて思って書きました。
「ブルーを壊さないでね」と「昨夜はお疲れ気味だったの?」という過去に私が書いたぶるぅ台詞を入れることも忘れずに。
…が、ちょっと変則な台詞挿入になってしまいました。ごめんなさい。
悪のり大好き~なので遊んでみましたv
ヘタレ教頭先生、ごめんなさい。でもたぶん懲りないです(笑)
教頭先生の超強力ヘタレっぷりが楽しいので♪
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「この前は隠れてなかったから怒られちゃったんだ」
「……は…はぁ」
「だからね、これ以上頭をあげちゃ駄目なんだよ。分かった? キャプテン」
ベッドの端から目から上だけ出して、ぶるぅはチラリと隣で同じようにしているハーレイ教頭を見る。
「は…はい」
「その返事の仕方、僕、ちょっと心配」
「頭は上げませんが……、このままここにいてもよろしいのでしょうか?」
「大丈夫だよ。僕、ちゃんと調べたから」
「調べた?」
ハーレイ教頭は視線をぶるぅに移して尋ねたが、ぶるぅが変な顔をして見返していることに気付き「どうかしましたか?」と重ねて尋ねた。
「……キャプテンのスーツ姿って見慣れないから変」
「私は最近はこの服装の方が多いですから」
「そうなんだ。じゃあキャプテンって呼ぶよりハーレイの方がいいんだね。それとも教頭先生の方がいい?」
「あ……いや…どちらでも」
答えるハーレイの視線は今はもう隣のぶるぅにしっかり向けられていて微動だにしない。
聞こえてきた声に視線が動かせなくなってしまったのだ。
甘い声と誘う言葉。
衣擦れの音と肌を這う静かな水音。
ベッドの上の二人が気になって気になって、だが見てはいけないという気持ちも働き、結果ぶるぅだけを見るという結論に至ったのだ。
「どっちにしようかな~?」
ぶるぅが真剣な声でそう言った瞬間、ベッドの上のハーレイが動きを止めた。
「……ぶるぅ」
「なぁに?」
「お前もミュウだったと思ったが」
「そうだよ」
「それもタイプブルーだ。3分というリミッター付だが」
「そうなんだよね。全開だと3分しか力が使えないって、僕がまだ子供だからかなぁ?」
「その件はおいておいてだ。思念波で会話すること、シールドで姿を隠すことにリミットはないはずだ」
「うん。それはほとんど力を使わないからね」
「何故それを今使わない?」
「何でって、その方がいいかなと思って」
「理由を聞いている」
「この前ライブラリで調べてたら見つけたんだ。見られてると燃えるんだって」
うっと呻いたのはぶるぅの隣のハーレイ教頭だった。
「教頭先生?」
鼻を押さえたハーレイ教頭は、その奥がカッと熱くなるのを自覚した。
くすくすくすと笑い声が室内に響く。
成り行きを見守っていたブルーだったが、堪えきれなくなったのだ。
「お前の好奇心はどこまで行ってしまうんだろうね? ぶるぅ」
「好奇心じゃなくて探求心!」
「ああごめん。でも、見られて燃える人もいるけれど、僕たちは違うんだよ」
「みんな同じじゃないの?」
「僕は見られても平気。ハーレイは見られると意気消沈」
「縮んじゃうの?」
これは二人のハーレイが咳き込んでしまった。
「そう。気持ちが縮んじゃうんだよ」
「なんだぁ。じゃあ姿が見えちゃうと駄目なんだね」
「そうだよ」
「教頭先生が修行に行くからよろしくねってシャン学のぶるぅに言われたから色々調べたのに失敗だったのか。残念」
「修行……ですか?」
加えて一体どんな修行なのかと問いたいような問いたくないような声音でハーレイが尋ねれば、
「はひ」
鼻を押さえたままハーレイ教頭が答えた。
ハーレイのその思いを感じとったのか、それとも興味からか、ブルーが身を乗り出し、
「念のために聞くけど、どんな修行?」
「ヘタレ直し!」
すくっと立ち上がったぶるぅが声高らかに答えた。
げふ、と再びハーレイが咳込み、ハーレイ教頭は身体全体を縮ませた。
「あ、教頭先生が縮んだ……」
ぶるぅの指摘にブルーがまた笑う。
自分そっくりの……と言うより自分の分身が二人に遊ばれているようで少々不快になったが、それを指摘して反省するような二人ではない。
諦めろと自分に言い聞かせ、ベッドサイドからティッシュボックスを取り教頭に渡す。
「ず…ずびばせん」
受け取ると何枚か取り出し鼻を押さえた。
《そういえばお前は鼻血出したことなかったな。刺激が足りなかったってことか?》
ブルーが思念でハーレイに問う。
《……鼻血を出す暇もありませんでした》
馬鹿正直な返答にブルーの口元が緩む。
「ぶるぅ」
「は~い」
「土鍋」
「え?」
「聞こえなかったのか?」
「……だって僕が頼まれたのに」
「ここから先は大人の時間」
ビク、と反応したのはハーレイ教頭だった。
「大人って何年後? 十年後? 百年後? 二百年後?」
「恋をしたらね」
「………」
トトト、と部屋の隅に置いてある土鍋の中に入ると物音一つしなくなった。
「では今夜は私もこれで」
床に落ちていたバスローブを拾い上げようとしてブルーが止める。
「お前はここに」
「承伏致しかねますが」
「お前はお前自身を助けてやろうとは思わないのか? 成就出来ない恋を応援しようという気持ちはないのか?」
「私の助力の必要性を感じませんが、ソルジャー」
しばらく見つめ合う二人を、鼻を拭きながらハーレイ教頭は恐々とした思いで上目遣いでチラチラと見る。
やがてブルーが手を差し出すと、ハーレイはバスローブを拾い上げて手渡した。
きちんと着込んで再びベッドの上に上がると、ベッドの端を軽く叩いてハーレイに座るよう促し、溜息をつきながら腰を下ろしたハーレイを確認してからハーレイ教頭の前に寝転がった。
「訂正。見られてると欲情する。それもお前に見られていると特別に」
はいはいと小さく頷いたハーレイは諦めたようだった。
「修行に来たんだろう? 上がって」
言葉で誘っても動かないハーレイ教頭を見て、ブルーは身を寄せて首に抱きつくと「きて」と耳元で囁いた。
鼻の奥どころか、頭の芯まで熱に満たされた。
「こんにちは~!」
シャングリラ学園のぶるぅの部屋にぶるぅが元気に飛び込む。
「いらっしゃい。今日はアップルパイを焼いたんだよ」
「良い匂い」
「食べていってね」
エプロン姿のぶるぅが言うと、上機嫌で「うん」とぶるぅが答える。
そこに姿を現したのはシャングリラ学園生徒会長ブルーだった。
「分身してるな」
「お邪魔してます。分身じゃなくてあっちもこっちもぶるぅだよ」
「ごめんごめん。いらっしゃい。もしかして送ってきてくれたのかい?」
「うん。教頭先生疲れちゃったから、送ってあげなさいってブルーに言われたの」
「疲れたって何か運動したの?」
できたてのアップルパイをお皿にのせてキッチンから戻ってきたぶるぅが尋ねる。
「うん。昨日の夜、いっぱい運動したんだよ。ブルーがね壊れちゃいそうだって言ってた」
ありがとうと言いながらパイにかぶりついたぶるぅを見つめ、ブルーは眉をひそめる。
「それは本当なのか?」
「だって教頭先生、送ってきたらすぐにベッドに潜り込んじゃったし。ブルーもベッドから出てこないし」
「ねえねえ、どんな運動?」
「えっとね、大人の運動。僕も恋をしたらするんだ!」
エッヘンとパイを頬張ったまま威張る。
「いいなぁ。僕も大人の運動とか恋とかしたいな」
「じゃあさ、僕とする?」
「うん!」
二人のぶるぅが盛り上がっている中、真実を知ろうとブルーはぶるぅの思考を読もうとしたが出来なかった。
「僕、まだ大人じゃないから土鍋の中に入れって言われたから、何にも見てないよ。それに防音土鍋だし冷暖房も完備だし」
説明しながらおかわりのパイに美味しいと言ってかぶりつく。
「あ、これね、ブルーからお土産だよ」
テーブルの上に乗せられたハート型の箱にブルーは嫌な予感を感じた。
「何が入っているのかな~?」
「開けるな」
「駄目だよ。ちゃんと説明してきなさいって言われたから」
蓋を開け、一つずつ取り出して並べる。
「綺麗な色」
「これもこれも気持ちよくなる魔法の薬だよ。こっちは飲んで、こっちは塗るの。あとね」
「説明は必要ない」
「え? ブルーも持ってるの?」
「持ってない。持ってないが分かる」
「すごい。タイプブルーってすごいなぁ。僕は3分限定だから色々調べないと駄目なんだ」
「僕だってタイプブルーだけど、これ、全然見たことないし何だか分からないよ」
「分からなくていい」
「やっぱり恋をしないと駄目なんだ」
ブルーの言葉をきっぱり無視して結論づける。
「ぶるぅ。アップルパイをお土産に渡して、お帰り願ってくれ」
「もう? せっかく遊びにきてくれたのに」
「焼きたてを食べてもらいたいだろう?」
「あ、うん。そうだね。ちょっと待っててね」
準備していたのかキッチンに行ったかと思えば。ぶるぅはすぐに箱を持ってきた。
「ありがとう。じゃあね」
「ばいばい」
「ぶるぅ、僕と恋しようね」
「うん」
ぶるぅが消えると同時にブルーから大きな溜息が漏れた。
「美味しいよ。ハーレイ」
ベッドの中でパイを食べるブルーの傍らで、ハーレイはまた清掃チームに文句を言われると重いため息を吐き出した。
「そんなに甘くないから食べられると思うよ。ほら」
口を開けて、とブルーが勧める。
「少し……後ろめたいのですが」
「大丈夫。すぐにバレるから」
「ですが……」
「だって」
思い出してブルーはくすくす笑う。
「何とかベッドに上がって、僕の上に身体を乗せたら僕の胸元に鼻血が垂れて、それ見て失神しちゃうんだからさ。筋金入りのヘタレだよね」
「………」
「修行に来たのにそれじゃ何にもならないし、僕も満足出来ないからその後のお前との睦み合いを記憶に流したけど、教頭先生は正視出来ないだろうからしばらくは自分がと思っているだろうね」
「……ものすごく、恥ずかしいのですが」
「どうして?」
「あちらの方はすぐに気がつかれるでしょうし」
「ああ、お前、見られて煽られるタイプか」
「ちっ……違います」
「見られなくても大丈夫なら、ねえ」
絡みついてきたブルーの腕を振り払えなかった。