シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
校内のあちこちに『親睦ダンスパーティー』のポスターが張り出され、生徒会長さんと副会長のフィシスさんのダンスシーンの写真がお祭り気分を盛り上げています。私たちは「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋で毎日ワルツを練習していましたが、果たして成果を披露することが出来るのでしょうか?私とスウェナちゃんは抽選に当たらないと踊れませんし、他のみんなは投票で選ばれないとダメなんです。投票はもう締め切られ、あとは明日の発表を待つばかり。つまり男子はもう決まってしまっているわけですね。女子の抽選も終わっているのかな?
「女の子の抽選はダンスパーティー当日だよ」
手作りのプリンを食べながら「そるじゃぁ・ぶるぅ」が言いました。私たちのは普通のサイズでしたけど、自分だけバケツプリンです。
「みゆとスウェナは踊りたい?…抽選で当たるようにするのは簡単だけど」
え。確かに「そるじゃぁ・ぶるぅ」なら出来そうな気がします。でも…それって反則ですよね…。
「…踊りたいとは思うけど…正々堂々と当選したいな。手伝ってくれるっていうの、とっても嬉しいと思うけど…」
「私も同感。会長さんや他のみんなと、ここで毎日踊ってきたもの。当たらなくてもかまわないわ」
「そっか。じゃあ、ぼくの力は必要ないね」
残念そうな顔をした「そるじゃぁ・ぶるぅ」。悪いことしちゃったでしょうか?
「ううん、全然。明日はきっと楽しいパーティーになるよ。ワルツの稽古は今日でおしまいだけど、これからもぼくのお部屋に来てね♪」
賑やかに最後の練習が終わり、私たちは「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋を出ました。どうか抽選、当たりますように!
いよいよダンスパーティー当日。登校した私たちは浴衣に着替えて会場の体育館に行きました。シャングリラ学園の体育館はとても広いので、全校生が総踊りをしてもぶつかることはありません。ソーラン節、炭坑節、よさこい節に阿波踊り。どう見ても盆踊り大会にしか見えないのですが、どうやってワルツをねじ込むのでしょう?
「ジョミー、お前んち、学校から電話がかかってきたか?」
何度目かの阿波踊りの後、私たちのグループは壁際で一休みしていました。口を開いたのはサム君です。
「ううん、かかってきてないけど。なんで?」
「そっか…。こないだ噂を聞いたんだよな。投票でワルツを踊ることになった生徒の家には、タキシードを持ってくるようにって電話が来るんだってさ」
「なるほど。浴衣でワルツは確かに変だ」
「じゃ、キース先輩の家にもかかってこなかったんですね。先輩なら選ばれるかと思っていたのに」
「そうか?…俺はマツカが選ばれそうだと思っていたが」
「…ぼ、ぼくなんか…あり得ないです!」
「つまり。ぼくたち全滅ってことか♪」
言いにくいことをサラッと言ってジョミー君が立ち上がりました。
「ゆっくり休んだし、踊りに行こうよ。昼休み前にもうひと踊りしなきゃもったいないって!」
そうですね。せっかくのダンスパーティーですし、ここは踊って踊りまくるのが正しい学園生活でしょう。私たちは昼休みを挟んだ後も何度か休憩しては楽しく踊り続けました。会長さんが見事な阿波踊り…それも男踊りと女踊りの両方を披露して歓声を浴びてらっしゃるところを何回となく目撃しながら。
午後三時過ぎ。最後の阿波踊りの曲が終わって、いつの間にか浴衣からタキシードに着替えた教頭先生がマイクを持って登場なさいました。
「諸君、いよいよフィナーレだ。教職員有志によるワルツの時間だが、その前に…お楽しみの発表がある。投票で選ばれた男子9人の名前を呼ぶから、呼ばれた者は前に来るように」
会場がシーンと静まり返り、固唾を飲んで発表を待ちます。
「1年A組、キース・アニアン!」
え。キース君、電話はかかってきてないって…。嘘だったのかと思いましたが、キース君もポカンとしています。
「同じく、ジョミー・マーキス・シン!」
「ええっ!?…マジで…?」
ジョミー君の目がまん丸になったと思う間もなく…。
「同じく、ジョナ・マツカ!」
あらあらあら。こんなことがあっていいんでしょうか?
「次。1年B組、セルジュ・スタージョン!…1年C組、サム・ヒューストン!」
「えっ、俺!?」
「同じく、セキ・レイ・シロエ!」
「ぼく?…嘘…」
ひゃぁああああ!…私たちのグループの男の子は全員、指名されちゃったのです。ゾロゾロと前に出て行くみんなを見送りながら、スウェナちゃんと私は激しく後悔していました。こんなことなら「そるじゃぁ・ぶるぅ」に頼んでおけばよかったかも。
「かみお~ん♪…呼んだ?」
ひょこっ、と姿を現したのは「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「今なら抽選、間に合うよ。当たるようにする?」
そこへ。
「おい、出たぞ!そるじゃぁ・ぶるぅだ!」
「本物だ!!」
ワッ、と押し寄せてきたのはパパラッチかハイエナのような『そるじゃぁ・ぶるぅ研究会』のメンバーでした。私とスウェナちゃんは見事に巻き込まれ、浴衣や帯が引っ張られて…どうしよう、このままじゃ着崩れちゃって大変なことに…。その時です。
「ええい、控えい、控えい!控えおろう!!」
時代錯誤な台詞が炸裂しました。
「この紋所が目に入らぬか!」
声の主は小さな身体でふんぞり返った「そるじゃぁ・ぶるぅ」。紫のマントをなびかせ、左の手のひらをズイと突き出すと、『そるじゃぁ・ぶるう研究会』のメンバーがズザーッと後ずさりします。「そるじゃぁ・ぶるぅ」、水戸黄門なんか知ってたんだ…。
「みゆとスウェナを困らせるんなら…押しちゃうからね、ぼくの手形。そのまま真っ直ぐ後ろに下がって、二度と近づかないでほしいな」
「「「う、うわぁぁぁ!」」」
研究会の人たちは悲鳴を上げて、人混みに逃げ込んでいきました。
私たちの着崩れかかった浴衣は「そるじゃぁ・ぶるぅ」が放った青い光に包まれた…と思った瞬間、綺麗に直っていましたけれど。
「あ。…ごめん、みゆ、スウェナ。…抽選、終わってしまったみたい…」
ガックリと肩を落とした「そるじゃぁ・ぶるぅ」。教頭先生がマイクを持って女子の名前を読み上げ始めたところでした。
「1年A組!」
あ。もしかして、もしかすると。
「r!」
…残念。rちゃんかぁ、羨ましいな…。
「同じく…」
も、もしかして今度こそ!?
「アルト!」
あぁぁぁ…。そして次に名前を呼ばれたのはD組の子でした。私もスウェナちゃんもワルツを踊る権利を逃したのです。
「ごめん、ごめんね…。思念で聞けばよかったね…」
「「思念?」」
「えっとね、心の声のこと。…本当にごめん。ワルツ、踊らせてあげられなくてごめんね…」
「ううん、最初に断ったの、私たちだから。気にしないで」
スウェナちゃんと二人で元気づけると「そるじゃぁ・ぶるぅ」はコクンと頷き、フッと姿を消しました。
その間にワルツを踊る生徒が揃ったようです。女の子はrちゃんとアルトちゃんしか分かりませんが、男の子の方にはリオさんとジョミー君たちがいます。あとの3人は…セルジュ君とかいうB組の人と明らかに先輩と分かる人たち。
「ねえ、あの二人は誰かしら?先輩よね?」
「…会長さんとは全然違うタイプだけど…ああいう人たちが人気なのかなぁ?」
スウェナちゃんと話していると、先輩たちの声が聞こえてきました。
「やっぱりパスカルとボナールになったわね」
「会長が超絶美形だもんねぇ…。近づきがたい美形よりかは、手の届く気のいい三枚目よね」
「でもでも!1年生、ズラッと美形ばかりよ」
「けど、一人だけいるじゃない。美形グループの中の三枚目」
「サム・ヒューストンでしょ?私、1票、入れたんだ♪」
「私も入れたわ。他の2票はお仲間の美形に入れちゃったけど。てへっ☆」
なんと…。超絶美形の会長さんのせいで「手の届く気のいい三枚目」という人気カテゴリがあるようです。サム君はそこに分類されてワルツ出場の栄冠を…。私とスウェナちゃんは顔を見合わせ、この話はサム君には内緒にしようと誓ったのでした。
「でも、みゆ…。変だと思わない?ジョミーたち、タキシードを持ってきてないわ。電話なかったって言ってたもの」
「あ、そうだっけ。…まさか浴衣のままでワルツを…?」
そこへタキシードの会長さんと淡い紫のロングドレスのフィシスさんが出てきました。ジョミー君たちは浴衣です。まさか本当に浴衣でワルツ?
「電話は今年からなくなったんだよ」
ヒョイ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が現れました。
「女の子はドレスの用意をしなくていいのに、男の子だけタキシードを用意しろっていうのは変だっていう保護者が出たり、タキシードが年々華美になったりしたからね。だから公平に学校が用意することになったんだ。さぁ、お仕事、お仕事~♪」
そう言って「そるじゃぁ・ぶるぅ」は踊るような足取りで前へ出て行き、教頭先生の隣に立ちました。『そるじゃぁ・ぶるぅ研究会』のメンバーはおとなしくしているようです。教頭先生が再びマイクを持って…。
「では、ここでワルツを踊る諸君に学園からのプレゼントだ。男子には揃いのタキシードだが、女子は好みのドレスが着られる。そるじゃぁ・ぶるぅ、準備はいいか?」
「オッケーだよ。それじゃ、いくね!」
パァッ、と青い光が浴衣姿の出場者を包み、光が引いていった後にはタキシードに着替えた男子生徒と、華やかなとりどりの衣装を纏った女子生徒が立っていたのです。
「諸君、衣装は気に入ったかな?記念撮影をしたい者たちもいるだろう。ワルツに参加する教職員の準備が整うまで、しばらく自由に…」
教頭先生が言い終わる前にワッと歓声が上がり、あちこちでフラッシュが光りました。私もカメラを持ってくればよかったかも。その間に次々と先生方が自慢の衣装で登場します。ゼル先生もワルツを踊るんですね。ああ見えて往年の名手なのかもしれません。親睦ダンスパーティー、凄いフィナーレになりそうですよ!
あれ?…なんだか前の方でもめているようです。
「アルトっていう人、壁の花になりたかったんだって」
いつの間にか横に来ていた「そるじゃぁ・ぶるぅ」が言いました。
「せっかくドレス用意してあげたのに、どうするんだろうね?…追加の抽選はしないらしいし、アルトって人が踊らないんなら代わりに女の先生が入ることになるみたい」
えぇぇっ!?…なんてもったいない!
「アルトちゃん、絶対、踊るべきよ!」
「うん。踊らなきゃ、将来きっと後悔しそう」
でも、踊りが苦手ってこともありますし…。私も会長さんに特訓をしてもらわなかったら選ばれてもパニクッてたかもしれません。アルトちゃん、踊るのかな、踊らないのかな?壁の花なんて絶対もったいないんですけど…。