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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

カテゴリー「シャングリラ学園・番外編」の記事一覧

※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
 バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。




新しい年が明け、初詣も済んで冬休み終了。優勝すると指名した先生に闇鍋を食べさせられるイベント、お雑煮大食い大会なども教頭先生を巻き込んで終わり、なべてこの世は事も無し。受験シーズンまでは平穏かな、と思っていた私たち特別生七人グループですが。
「「「えぇっ!?」」」
放課後に訪れた「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋で全員がビックリ仰天、目が点と言うか、何と言うべきか。
「…そ、それは冗談じゃなくて本当なのか?」
そうなのか、とキース君の掠れた声。洋梨入りのモンブランを食べかかっていた手もフォークを持ったままで止まっています。
「かみお~ん♪ ちゃんと電話が来たんだよ!」
「し、しかしだな…!」
如何なものか、と呻くキース君に、会長さんが。
「もちろん電話は代わったよ、ぼくが。でもってキッチリ釘を刺したけど?」
「だろうな、だったらその件はそれで終わりということか」
「さあ…?」
どうなんだろうねえ、と首を捻っている会長さん。
「なにしろ動機が動機だからさ…。きちんと手順を踏め、と言っておいたから踏んで来るかも」
「「「はあ?!」」」
「だから手順だよ、未成年者をデートに誘うならまずは保護者の承諾だ、ってね」
「未成年どころか幼児だろうが!」
キース君の怒声が炸裂、私たちも揃って「うん、うん」と。けれど会長さんはケロリとした顔で。
「いいんじゃないかな、ぶるぅは三百歳を余裕で超えているわけだしさ…。その辺の幼児とはちょっと違うよ、家事だって万能なんだから」
「それはそうですが…」
そうなんですが、とシロエ君。
「そもそも、どうしてぶるぅなんです?」
今までにそんな話は一度も…、と言いたい気持ちは誰もが同じ。会長さんは「それはねえ…」と足を組み直して勿体を付けて。
「代理だよ、代理」
「「「代理!?」」」
ますますもって謎な方向へ。いったい誰の代理になったら、そういう話に…?



デートに誘われた「そるじゃぁ・ぶるぅ」。昨夜、電話がかかってきたそうで、電話の向こうは教頭先生だったとか。なんでデートで、しかも代理って…。顔を見合わせた私たちですが、会長さんは「分からないかなあ?」と自分の顔を指差して。
「コレだよ、コレ」
「「「は?」」」
「同じ顔だというわけだってば、ぼくとぶるぅと!」
「「「えぇっ!?」」」
どの辺が、と叫びたい気持ちを私たちはグッと飲み込みました。「そるじゃぁ・ぶるぅ」と会長さんは似ていますけれど、それは大まかな部分だけ。六歳以上になることはない「そるじゃぁ・ぶるぅ」が仮に高校生まで育ったとしても、超絶美形になれるかどうか…。
「ああ、そういうのは分からないねえ…」
ぶるぅは育たないからね、と会長さん。
「おまけに、ぼくが小さかった頃の写真とかは何も残っていないしね? なにしろ家ごと島と一緒に吹っ飛んだから」
「「「………」」」
そうだった、と沈黙が落ちて、キース君が左手首の数珠レットの珠を一つ、二つと繰っています。心でお念仏を唱える時のキース君の癖で、つまりは只今、お念仏中。
会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」が育った故郷の島、アルタミラは火山の噴火で一夜にして海に沈んだ島。瞬間移動で逃げた会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」以外は誰も助からず、会長さんがお坊さんの道へ進んだ理由がソレ。
早い話が「そるじゃぁ・ぶるぅ」くらいの年頃の会長さんを知る人は誰もいなくて、写真も無し。実は瓜二つだったんです、という衝撃の事実が無いとは言えず…。
「まあ、双子ってほどに似てはいないと思うけどねえ?」
だけど弟程度には似てる、と会長さんは「そるじゃぁ・ぶるぅ」に「ねえ?」と声を。
「可愛い弟が出来て良かったわね、と言っていたよね、ぼくのママとか」
「うんっ! お隣の人とか、親戚の子なの? って訊いてくれたよ!」
だから似てるの、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「それでね、ハーレイがデートに連れてってくれるの!」
「ぼくがオッケーすれば、だけどね」
予定は未定、と会長さんは言っていますが、「そるじゃぁ・ぶるぅ」はすっかりその気。教頭先生、どんな電話をしたんでしょう?



「えっと、えっとね…。ぼくが電話に出たんだけれど…」
いつも出てるし、と答える「そるじゃぁ・ぶるぅ」はとっても良い子。出前の注文なども自分で電話をかけてますから、もちろん電話に出られます。昨夜もいつも通りに受話器を。
「ハーレイって出てたし、用事かなあ、って」
「「「あー…」」」
教頭先生はシャングリラ号のキャプテンでもある重鎮です。電話番号は当然登録してあるでしょうし、電話が来たなら用事と思っても不思議ではなく。
「きっとブルーに用事だよね、って電話を取ってね、ブルーに代わるね、って言おうとしたら…」
「待てと慌てて叫んだらしいよ、あのスカタンは」
会長さんときたら、教頭先生をスカタン呼ばわり。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が電話に出る前、「ハーレイだあ!」と声を上げたらしく、会長さんは逃げる用意をしていたとか。
「出掛けてますとか、もう寝ましたとか…。とにかく居留守さ、お風呂だとは絶対に言ってあげないけどね」
勝手に妄想されてたまるか、とプリプリと。そりゃそうでしょう、教頭先生の日頃の妄想は私たちだって知る所。会長さんがお風呂だと聞けば、きっとあれこれ妄想爆発。
「ね、君たちだってそう思うだろ? だから適当に理由をつけて…、と身構えてたのに、なんだか様子がおかしくってさ」
「だって、誘ってくれたんだもの…」
土曜日に遊びに行かないか、というのがデートへのお誘い、第一段階。「そるじゃぁ・ぶるぅ」は「わぁーい、みんなで?」と大喜びで返事をしたのに、「いや、二人でだ」と返って来て。
「それでね、御飯を食べに行こうって…。お茶もお菓子も御馳走するって!」
「ぶるぅが「えっ、何処で?」とか「何処行くの?」とか言い出したからさ、受話器を引っ手繰ったわけ。そして問い詰めたらデートのお誘い」
実に危ない、と会長さんはブツブツブツ。
「小さな子供を食事だ、おやつだ、って誘い出してね、連れて行こうっていうのは危険すぎだよ」
そういうのを世間では誘拐と呼ぶ、と言われましても。
「知り合いだったら違うだろうが!」
「さあ、どうだか…」
キース君の怒鳴り声に「ハーレイだしねえ…」と会長さんは両手を広げてお手上げのポーズ。誘拐は違うと思いますけど、会長さんに惚れてる人だと危ないのかな?



「なんでぶるぅを誘ったんだ、って訊いたんだけどさ…。ぼくは脈なしだから気分だけでも、って動機が不純すぎるんだよ!」
「気分だけなら全く問題ないと思うが」
ぶるぅが食事に出掛けるだけだ、とキース君。
「教頭先生の奢りで食事とおやつだ、傍目には微笑ましい光景としか映らんだろう」
「だよねえ、何処かへ遊びに行っても親戚の叔父さんと甥っ子とかさ」
変じゃないよ、とジョミー君も。
「そうでしょ、みんなもそう思うでしょ?」
それにとっても楽しそうなの、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「ハーレイ、ぼくがシャングリラ号に乗った時には遊んでくれるし、デートも絶対、楽しいよ! だから行きたいと思ったのに…。ブルーが電話をガッチャン、って…」
「危ないと何度も言ってるだろう!」
相手はハーレイ、と会長さんが何度言っても、納得しないのが「そるじゃぁ・ぶるぅ」。誘拐と違ってデートなんだと、知らない大人について行くのとは違う、と残念そうで。
「ぼくはデートに行きたいのに…」
「手順を踏め、って言っておいたし、懲りずに来るとは思うけどねえ?」
だけど断る、と会長さんは素っ気なく。
「ぼくそっくりだからデートだなんて言い出す馬鹿にね、ぶるぅを貸したりしないから!」
「見張っていればいいんじゃないか?」
心配ならば、とキース君の意見。
「シールドに入って追いかけてもいいし、保護者だから、と少し離れて監視したっていいだろう。ぶるぅはデートに出掛けたいんだし、たまには自由に遊ばせてやれ」
「遊びとデートは違うから!」
「おんなじだもん!」
ブルーのケチ! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は頬っぺたをプウッと膨らませました。
「ぼくだってデート、してみたいもん! ブルーはいつもフィシスとデートをしてるんだもん!」
「ぶるぅ、デートは子供がするものじゃなくて…」
「ハーレイ、お子様コースでお出掛けしようって言ってたもん!」
絶対、行きたい! と譲らないお子様、「そるじゃぁ・ぶるぅ」。料理上手の「そるじゃぁ・ぶるぅ」が出掛けちゃったら、私たちは外食になってしまいますけど…。外食を兼ねて監視してれば特に問題なさそうな気も…?



デートに行きたい「そるじゃぁ・ぶるぅ」と、断固反対の会長さんと。私たちは日頃お世話になっている「そるじゃぁ・ぶるぅ」の希望を叶えてあげたい立場で、そのためならば外食も監視も受けて立とう、と思うわけで。
「あんた、ぶるぅが遊べるチャンスを潰してどうする」
デートだと思うから間違えるのだ、とキース君が真っ向勝負を挑みました。
「教頭先生がデートなのだと仰っても、だ。ぶるぅは子供だし、遊びにしかならん」
「…それはそうかもしれないけれど…」
「ならば遊びに行かせてやれ! 俺は喜んで監視係を引き受ける!」
お前たちもだよな、と問われて頷く私たち。本物のデートの監視は困りますけど、遊びだったら問題なし。ましてや「そるじゃあ・ぶるぅ」はお子様、行き先も知れているでしょう。
「ぼくも大いに賛成だねえ…」
行かせてあげて、と背後で声が。
「「「!!?」」」
振り返った先に優雅に翻る紫のマント。空間を超えて来たソルジャーはスタスタと部屋を横切り、空いていたソファに腰掛けて。
「ぶるぅ、ぼくにもモンブラン!」
「かみお~ん♪ それと紅茶だね!」
援軍到着に「そるじゃぁ・ぶるぅ」は大喜びで飛び跳ねて行って、ソルジャーのためのケーキのお皿には小さなマカロンが添えられるという歓待ぶり。
「あのね、マカロン、試作品なの! 味見にどうぞ!」
「嬉しいねえ…。ぼくは特別扱いなんだ?」
「うんっ! ブルーならブルーに勝てそうだもの!」
ホントにデートに行きたいんだもん、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」の瞳がキラキラ。試作品のマカロンとやらは美味しいに違いありません。数が少ないから私たちには出なかっただけで…。
ソルジャーはマカロンを頬張り、「ピスタチオ?」とニッコリと。
「そう! ピスタチオクリームたっぷりなの!」
「試作品を御馳走になったからには、ぼくからも御礼をしないとねえ…」
美味しかったしね、と微笑むソルジャー。
「というわけでね、ぼくからの御礼。ブルー、デートを許可したまえ」
ぼくも監視を手伝うから、と頼もしい言葉。普段は何かとトラブルメーカー、迷惑三昧のソルジャーですけど、こういう時には最強の味方になるんですねえ!



「こっちのハーレイが、ぶるぅとデート。実に微笑ましい光景だよ、うん」
何の問題も無いじゃないか、とソルジャーは私たちと同意見。
「君と同じ顔だと言っても、ぶるぅは小さな子供だしねえ? 知り合いなんだから誘拐も無いし」
「だけど、相手はハーレイなんだよ!」
頭の中でどんな妄想が爆発するか…、と会長さん。
「ぶるぅとデートで盛り上がっちゃって、ぼくのつもりでキスしちゃうとかさ!」
「…そこまで酷くはないと思うけどねえ、こっちのハーレイ…」
「君子危うきに近寄らずだよ!」
デートしなければ危険も無いのだ、と会長さんは一歩も引かず。ソルジャー相手に互角の言い争いを続けましたが、ソルジャーの方もマカロンの御礼とばかりに奮闘を。そして…。
「分かった。要は、ぶるぅがハーレイと一対一なのが心配なんだね?」
「そうだけど…。ぼくが一緒に行くとなったら、それこそハーレイの思う壺だよ!」
それくらいなら全員で行く、と会長さんの得意技。自分一人だと誘い出しておいてゾロゾロとお供がついていたことは過去に何度もあった悪戯。「そるじゃぁ・ぶるぅ」には悪いですけど、それでもいいかな、と思った所へソルジャーが。
「君の代理を増やせば解決するんじゃないかい?」
「「「はあ?」」」
会長さんの代理が「そるじゃぁ・ぶるぅ」で、教頭先生がデートに誘って来た相手。更に代理を増やすだなんてどうやって…、と派手に飛び交う『?』マーク。
「き、君はまさか…」
「ぼくが行こうって言うんじゃないよ?」
それじゃぶるぅが気の毒すぎる、と返すソルジャー。
「君そっくりのぼくが行ったら、こっちのハーレイ、ぼくに夢中になっちゃうからね? ぶるぅが忘れ去られてしまうか、希望のコースを外れてしまうか…。どっちにしたって気の毒だってば」
「だったら、誰が代理に立つわけ?」
「決まっているだろ、ぶるぅだよ!」
「「「ぶるぅ!?」」」
ゲッと仰け反る私たち。「ぶるぅ」と言えばソルジャーの世界のシャングリラ号に住む、「そるじゃぁ・ぶるぅ」のそっくりさん。大食漢の悪戯小僧で私たちも散々な目に遭って来ましたけど、その「ぶるぅ」をデートの面子に追加すると…?



「…ぶ、ぶるぅをデートに…」
会長さんの声が震えましたが、ソルジャーは「名案だろ?」と極上の笑顔。
「両手に花って言葉もあるから、両手にぶるぅ! ぶるぅも二人は悪くないよね?」
「んとんと…。ぶるぅもデートに来てくれるの?」
「ぶるぅが呼んで欲しかったらね」
「行くーーーっ!」
ぶるぅも一緒にデートするんだ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は大歓声。悪戯小僧の「ぶるぅ」とはいえ、「そるじゃぁ・ぶるぅ」とは大の仲良し、遊び友達。
「ぶるぅも行くなら凄く楽しみ! デート、行きたいーーーっ!」
「ほらね、ぶるぅも喜んでるし! ぶるぅが二人で、それとハーレイ。これで解決!」
ぼくのぶるぅはしっかりしてる、とソルジャーの言。
「君が心配する妄想とやらも、ぶるぅに任せておけば安心! ぶるぅは大人の時間の覗きで鍛えて心得もあるし、こっちのハーレイが暴走したって上手く躱すよ」
「そ、そういう点では頼もしいけど…」
でも、と会長さんは難しい顔。
「ハーレイがそれをオッケーするかな、ぶるぅが二人って」
「オッケーしなけりゃデートはチャラだし、君の最初の狙い通りに御破算だけど?」
「言われてみれば…」
デートを潰すか、ぶるぅを二人に増やすかなのか、と会長さん。
「なるほどねえ…。それならデートが実現したって安心かもねえ、ぶるぅつきなら」
「そうだろう? ぼくの方のぶるぅもデートと聞いたら喜ぶだろうし、こっちのぶるぅと遊べるし…。その方向で話を進めることがお勧め」
ハーレイが手順を踏んで来たなら提案すべし、とソルジャーは会長さんの背中をバンッ! と。
「どんな手順か知らないけれども、今度の土曜日にデートなんだよね?」
「そうだけど…。ハーレイは懲りずに頑張ってるかと」
「どういう手順?」
「店の予約とか、下調べとか…。人数が増えたら増えたでサッと対応してくれなくちゃ」
ぶるぅが二人なら二人分、と会長さんはソルジャーの案に乗っかりました。デートに行かせて貰えそうだ、ということで「そるじゃぁ・ぶるぅ」は御機嫌です。ソルジャーのお皿にマカロンの追加。試作品、色々あったんですねえ、ソルジャーがちょっと羨ましいかも…。



その日の夜。「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋で会長さんやソルジャーたちに「さよなら」をして、家で夕食を食べた私たちの所へ思念で連絡が届きました。
『もしもーし! みんな、部屋かな?』
会長さんの思念波です。私はちょうど部屋に居ましたし、他のみんなも。キース君だけが本堂の戸締りに出掛けていたようですけど、「すぐに戻る」という返事。
『それなら中継、オッケーだよね?』
『『『中継?』』』
『ハーレイが電話をかけて来たから、手順を踏めって家に呼んだわけ!』
これから来るんだ、と会長さん。デートの申し込みに家まで来いとは凄すぎですけど、やりかねないな、という気もします。教頭先生が到着なさったら中継開始というわけですか…。
『幸か不幸かブルーがいるしね、楽勝でみんなに生中継!』
『そう! SD体制の世界で場数を踏んだぼくに、ドンとお任せ!』
部屋で暫くお待ち下さい、とソルジャーからのご案内。此処がいいな、と思う辺りを眺めていれば中継画面が出るそうです。ベッドの向こうの壁がいいかな、と椅子に座って待っていると…。



「かみお~ん♪ いらっしゃい!」
玄関へ跳ねてゆく「そるじゃぁ・ぶるぅ」の可愛い姿が部屋の壁にパッと出現しました。画質も音質も極めて良好、流石はソルジャー。画面に教頭先生も現れ、舞台はお馴染みのリビングへと。
「頼む、是非ともぶるぅとデートに行かせて欲しいのだが…」
このとおりだ、と頭を下げる教頭先生。
「手順を踏めということだったし、昼食は店を予約した。午前中は私の車でドライブをしてだ、昼食の後はぶるぅの行きたい所へ行こうと思っている」
「ふうん…? 何処の店を予約したんだい?」
つまらない所じゃないだろうね、と会長さんが訊くと、教頭先生は自信たっぷりに。
「最近評判の店なのだが…。郊外の店で、地元の野菜をふんだんに取り入れたコース料理が自慢らしいぞ」
「ああ、あそこ…。ぶるぅ、今月はまだ行ってないよね、良かったね」
「同じ料理だと寂しいもんね!」
わぁーい! と喜ぶ「そるじゃぁ・ぶるぅ」ですが、会長さんは冷たい口調で。
「良かったねえ、ハーレイ、重ならなくて。…ぼくもぶるぅも評判の店には行きたい方でね、大抵の所は出掛けてるってね。そういう辺りに気が回らないとは残念だねえ…」
「…そ、そうか…。些か配慮が足りなかったか」
「君には全く期待してないし、夢も見てない。つまらない店ならデートの話も無かったことに、と思ったけれども、辛うじて合格といったトコかな」
「で、では…!」
デートを許してくれるのか、と教頭先生が言った所で。
「せっかくだからね、両手に花っていうのはどうだい?」
「両手に花?」
「ぶるぅそっくりの顔がもう一人、ってね。店の予約を増やせるんならね」
「もちろんだ!」
教頭先生は携帯端末を取り出し、店の番号をチェックして。
「大人をもう一人追加だな?」
「大人?」
「お前の分を増やすんだろう?」
実に素晴らしい両手に花だ、と大感激の教頭先生。まあ、普通はこういう勘違いになるんでしょうねえ、会長さんが狙えないから「そるじゃぁ・ぶるぅ」とデートを思い付いたんですしね?



教頭先生は店に電話するべく操作をし始めましたが、「ちょっと待った!」と会長さん。
「ぼくが行くとは言っていないよ、そこを間違えないように!」
「…お前では…ない……?」
はて、と首を傾げた教頭先生ですが、リビングには会長さんのそっくりさんのソルジャーの姿もあるわけで。ポンと手を打ち、「そうか、あっちか」と納得した様子。ソルジャーに微笑み掛けて、「よろしくお願いします」と一礼。
「ありがとうございます。私とデートをして下さるそうで…」
「どういたしまして」
お安い御用、とソルジャーは気さくな表情で。
「こちらこそよろしくお願いするよ。大人一名でかまわないけど、椅子は子供用で」
「は?」
「食べる量なら大人並みだけど、身体は小さな子供ってね! ぶるぅそっくり!」
悪戯小僧だけど頑張って、と言われた教頭先生の口がポカンと。
「…ま、まさか…。まさか両手に花というのは…」
「「ぶるぅだけど?」」
見事にハモッた会長さんとソルジャーの声。教頭先生はウッと仰け反り、「ぶ、ぶるぅ…」とタラリ冷汗。けれども会長さんは「何かマズイわけ?」と赤い瞳でまじまじと。
「両手に花でオッケーしたんじゃないのかい?」
「そ、それは…」
「ぼくもあれこれ考えたんだよ、ぶるぅ一人じゃ心配だしね? そしたらブルーがぶるぅを貸してくれるって言うから、そういうことなら、って許可を出そうと思ったんだよ」
ぶるぅが来るとマズイと言うならデートの話は無かったことに…、と会長さん。
「話はこれでおしまいってね。残念だったね、ぶるぅは行きたがっていたのにねえ…」
「いや、終わらせん!」
ぶるぅつきでもこの際、デートだ! と教頭先生はマッハの速さで立ち直りました。店に電話して子供用の席と大人用の料理をしっかりと追加。元々、「そるじゃぁ・ぶるぅ」用がそういう予約だったらしくて話はスムーズに通ったようです。
「よし、これで予約は完了だ。最近は大人用の料理を食べたがる子供も多いからな」
「ご苦労様。仕方ない、デートを許可しよう」
土曜日はちゃんと車で迎えに来るように、と会長さんが注文をつけて、教頭先生はペコペコとお辞儀しながらの御退場。この週末は教頭先生がデートなんですか、そうですか…。



ソルジャーの生中継のお蔭で分かった顛末。翌日の放課後、「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に行くと、お部屋の持ち主はニコニコ顔で。
「あのね、あのね! 土曜日はハーレイとデートに行くから、御飯は作っておくからね~!」
「「「えっ?」」」
「お昼御飯、温めるだけにしておくから! ちゃんとブルーに言っとくから!」
食べに来てね、とは健気すぎです。たまのお出掛けの間くらいは外食で充分と思ってたのに…。
「いいんだってば、ブルーも来るから!」
「「「は?」」」
「ぶるぅと一緒にブルーも来るの!」
そしてお家でお留守番なの、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。なんとソルジャーまで来る予定だとはビックリですけど、考えてみれば「ぶるぅ」の保護者。「ぶるぅ」がしっかりした子供でなければ、それこそ会長さんが言っていたように監視に行っても可笑しくはなくて…。
「そうなんだよねえ、ブルーも気になるらしいしね?」
だからぼくたちと一緒に家から監視、と会長さん。
「もしもハーレイが不埒なことをするようだったら、デートは中断! 即、殴り込む!」
そして二人のぶるぅを連れ帰るのだ、と会長さんはグッと拳を握りました。
「いくらぶるぅがしっかり者でも、相手は妄想ハーレイだしねえ? こっちのぶるぅは良い子すぎて簡単に丸め込まれてしまいそうだし、もう色々と心配で…」
「ぼく、ぶるぅも一緒だから大丈夫だよ!」
「ダメダメ、子供は大人にコロリと騙されるんだよ、どんなに賢い子供でもね」
用心に越したことはない、と会長さんは「そるじゃぁ・ぶるぅ」に。
「イカのお寿司という言葉もあるから、土曜日はちゃんと気を付ける!」
「…イカのお寿司?」
「一番最初に「知らない人に」とつくんだけどねえ、ついて行かない、車に乗らない、大声を出す、すぐに逃げる、何かあったら知らせる、というのを覚えさせる言葉!」
子供のためのお約束だよ、と紙に書き出した会長さんは「そるじゃぁ・ぶるぅ」に復唱させて。
「ハーレイとのデートはついて行く上に、車に乗るしね? イカのお寿司で気を付けないと」
大声を出してすぐ逃げるんだよ、という教え。それに「知らせる」と来ましたけれども、デートの相手は教頭先生。おまけに「ぶるぅ」も来るんですから、イカのお寿司の出番は無いんじゃないんですかねえ?



訪れた運命の土曜日の朝。私たちはバス停で集合してから会長さんの家へと向かいました。管理人さんにマンションの入口を開けて貰って、エレベーターで最上階へ。玄関脇のチャイムを鳴らすとドアがガチャリと中から開いて。
「かみお~ん♪ いらっしゃい!」
今日はゆっくりしていってね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお出迎え。お菓子や食事の用意はしっかり出来ているそうで、リビングに行けばソルジャーと「ぶるぅ」も到着済み。
「やあ、おはよう。ついに今日だねえ…」
「かみお~ん♪ ぼく、初デート~!」
地球でデートだあ! と「ぶるぅ」はワクワク、「そるじゃぁ・ぶるぅ」と手を取り合って踊り始めたり、飛び跳ねたり。今の所は悪戯の兆候はありません。間もなく教頭先生が迎えに来られて、二人のぶるぅはお揃いの服で元気に出発して行きました。
「「「行ってらっしゃ~い!」」」
「「行ってきまぁ~す!」」
玄関先からエレベーターに乗って行くのを見送り、会長さんが大きく手を振って。
「いいかい、イカのお寿司だよーーーっ!?」
「分かってるーーーっ!」
大丈夫! と胸を張って「そるじゃぁ・ぶるぅ」はお出掛けしたのですけど。



「…イカのお寿司って何なんだい?」
ソルジャーがリビングで尋ねました。会長さんは「そるじゃぁ・ぶるぅ」が作っておいてくれたティラミスを取り分けている最中でしたが、昨日と同じ説明を。ついて行かない、乗らない、エトセトラ。
「そういうことかあ…。ぶるぅが「なあに?」って訊いて来たから」
ちょっと返事を…、と言葉が途切れて「よし!」と一言。
「ぶるぅもお友達に訊けばいいのにねえ…。わざわざぼくに訊かなくっても」
「空気を読んでくれてるんだろ、デートの話題じゃないっぽい、と」
「ぶるぅに限って、それだけは無いね」
絶対に無い、とソルジャー、断言。
「面白そうな言葉だと思って訊いて来たんだよ、ネタになるかと」
「「「ネタ!?」」」
「そう、ネタ。ぶるぅにとっては、大切なものは食事と悪戯!」
そのためのネタを仕入れに常にアンテナを立てているのだ、と言われて真っ青。イカのお寿司が悪用されなきゃいいんですけど…。
「どうなるのかな? …ぼくにもぶるぅの悪戯心は読めないんだよ」
読めていたなら悪戯小僧になっていない、と怖すぎる答え。ソルジャーでさえも悪戯の中身は予測不可能、それゆえの悪戯小僧なのだ、と聞いて全員がブルブルです。
「きょ、教頭先生、大丈夫かな…?」
ジョミー君が窓の外に目をやり、サム君が。
「昼飯は絶対食いてえだろうし、そこまでは大人しくするとは思うけどよ…」
「食べ終わったら何が起こるか分からないのか…」
おまけにイカのお寿司なのか、とキース君が額を押さえています。
「行かない、乗らない…。それじゃデートにならないわよ?」
スウェナちゃんの言葉に見えた光明。デートは行くもの、車も乗って出掛けるもの。大丈夫かも、という希望の光が見えてきました。昼食の後は「そるじゃぁ・ぶるぅ」と「ぶるぅ」の行きたい所へお出掛けですから、イカのお寿司じゃ駄目ですよねえ…?



二人のぶるぅはドライブを楽しみ、道の駅とかに寄って貰っては冬でもアイス。そういえばアイスが好きだったっけ、と微笑ましくなる姿を会長さんとソルジャーが見せてくれました。教頭先生も御機嫌でドライブ、既に妄想モードだとか。
「ぶるぅが増殖しちゃったけどねえ、都合よく、ぼくが二人のつもりさ」
「らしいね、実に逞しいねえ…」
妄想力、とソルジャーも半ば呆れていたり。
「ぼくたちとぶるぅたちとじゃ見た目が全然違うんだけどね?」
「そこを気にせず当たって砕けろがハーレイなんだよ、でなきゃデートに誘いはしないよ」
気分だけでも本物の方とデートなのだ、と会長さん。
「しかも二人もいるからねえ? 美味しい眺めで、運転してても上機嫌ってね」
本当に馬鹿じゃなかろうか、と会長さんは言いたい放題ですけど、教頭先生が喜んでおられるのであれば無問題。会長さんには実害が無くて、「そるじゃぁ・ぶるぅ」と「ぶるぅ」は満足、教頭先生も大満足で全てが丸く収まるような…。
「まあね。これでハーレイが嬉しいんだったら、今後はこの手に限るかな」
「ダメダメ、いつかは君と結婚して貰わなきゃ! そのためにもデートで修行を積んで!」
本物の君とデートが出来るスキルを身に付けて貰おう、とソルジャー、力説。
「今日はとりあえず初回ってことで、ありがちなコースなんだけど…。今後は色々とバリエーションを! 本物の君でも行ってみたいと夢見るようなデートコースを!」
「有り得ないから!」
ぼくにそういう趣味は無いから、と会長さんは吐き捨てるように。
「行きたかったら君が行けばいいだろ、ハーレイの車でデートにドライブ!」
「…かまわないわけ? ぼくだとトコトン、行くかもだけど?」
「何処へ?」
「デートで必ず行くべき所!」
うんとゴージャスなのが好みだ、とソルジャーは胸を張りました。
「こっちのノルディに教えて貰って、ぼくのハーレイとあちこち出掛けてみたけれど…。やっぱりゴージャスな部屋がいいねえ、如何にもなホテルの部屋じゃなくって、ちゃんとしたホテル」
「「「ホテル!?」」」
「デートの締めにはホテルなんだよ、ノルディとだったらホテルで食事で終わりだけどね?」
部屋までは行ってあげないのだ、と威張り返っているソルジャー。会長さんは「最低だし!」と頭を抱えて、大却下。ソルジャーと教頭先生のデート、実現しそうにないですねえ…。



そうこうする内に、お昼時。私たちは「そるじゃぁ・ぶるぅ」が作って行ってくれたビーフストロガノフを温め直して、ピラフも添えてのお昼御飯で、教頭先生と二人のぶるぅは郊外のレストランでの豪華なコース料理です。
「いいねえ、あっちはリッチな食事で…」
ぼくのハーレイと今度出掛けよう、とサイオンで覗き見中のソルジャーが呟き、会長さんが。
「それならディナーがお勧めだよ。ハーレイはケチってランチだけれども、ディナーはランチよりも凝っているから」
「そうなんだ? だったらディナーで、ついでにホテルに泊まるのもいいね」
最近泊まりに来ていないから、とソルジャーは乗り気。「ぶるぅ」にシャングリラの番をさせておいて、キャプテンと二人でこっちの世界にお泊まりコースが定番だとは聞きますけれど…。
「そりゃあ、ディナーを食べたらホテル! お泊まりが必須!」
そうでなくてもデートはお泊まり、とブチ上げているソルジャー、何度「ぶるぅ」を放置で出掛けたのでしょう?
「えっ、ぶるぅ? それはもう、数え切れないほどで…」
だからぶるぅも知っているのだ、と大威張り。
「デートに行くならホテルでお泊まり! それをしないでどうすると!」
「ちょ、ちょっと待って!」
待って、と会長さんが遮りました。
「デートにはホテルがセットだって? それがぶるぅの常識だって?」
「常識だとまでは教えていないよ、ノルディの場合は除外だからね。ノルディはあくまでディナー止まりで、ホテルでお泊まりはハーレイ限定!」
ハーレイとのデートにはホテルが絶対欠かせないのだ、という台詞に嫌な予感が。二人のぶるぅとデートに出掛けた教頭先生、昼食の後は二人の行きたい所へ出掛けると言っていませんでしたか…?
「ま、まさか…」
「昼御飯の後って、まさかホテルに…」
ぶるぅが言い出さないだろうな、と顔を見合わせてみたものの。
「真昼間なんだし、大丈夫じゃねえか?」
「夕方には帰ると聞いてますしね」
大丈夫だな、とサム君とシロエ君の言葉で胸を撫で下ろしたのに。
「ラブホテルだと御休憩ってコトもあるしね?」
普通のホテルもデイユースのプランがあったりするね、とソルジャーの笑顔。このソルジャーと暮らしてる「ぶるぅ」、もしかしてそれが常識ですか!?



それから間もなく、昼食を終えた教頭先生たちはレストランの駐車場を出た模様。楽しくドライブを続けているようで、二人のぶるぅを乗せた車は郊外を走っているそうですけど…。
『いいんじゃないかな?』
ちょっと下見に行ってくれる? とソルジャーが妙な思念を紡ぎました。
「「「下見?」」」
「うん。ぶるぅが連絡して来たんだけど、良さそうな感じのラブホテルがね」
「「「ラブホテル!?」」」
「そうは見えないホテルなんだよ、ああいうタイプはハズレが無いから」
これは今までのぼくの経験、と得意げな顔のソルジャーですけど、下見って…。まさか教頭先生の車で、ドライブついでにラブホテルの下見!?
「らしいよ、この先を右に曲がればホテルへ真っ直ぐ、左だったら普通にドライブ、って言って来たから右へ行けと」
「その道、ホテルで行き止まりだったりしないだろうね!?」
会長さんの問いに、ソルジャーは「さあ…?」と。
「ぶるぅは何も言わなかったし…。あ、行き止まりなのか」
思念で追いかけたらしいソルジャー、アッサリと。
「ついでに、もうすぐ差し掛かる集落が最後に人家のある所だね。…えっ?」
「「「は?」」」
「いや、ぶるぅが窓を開けてるな、と…」
この寒いのに、と肩を震わせてみせるソルジャー。走行中の車の周りは雪もちらついているらしいです。そんな所で窓なんか開けてどうするのだろう、と不思議そうですが…。



『たーすーけーてーーーーっ!!!』
いきなり部屋を貫いた思念。何事だ、と思う間もなく、思念は二人分へと増殖。
『たーすーけーてーーーっ!!!』
『とーめーてーーーっ!!!』
誰か助けて、止めて、と響き渡る思念は「ぶるぅ」と「そるじゃぁ・ぶるぅ」でした。慌てて会長さんが出した中継画面には、全開になった車の窓から大声で叫ぶお子様が二人。
「「「…い、イカのお寿司…」」」
ヤバイ、と誰もが気付きましたが、叫んでいる「そるじゃぁ・ぶるぅ」は「ぶるぅ」と遊んでいるつもり。助けてごっこで、止めてごっこ。車の行き先に何があるのか知りませんから、あくまでお遊び、本気で助けてと言ってはいなくて満面の笑み。
ところが反対側の窓から叫ぶ「ぶるぅ」は嘘泣きと言うか、作った恐怖の表情と言うか。この世の終わりだと言わんばかりの形相で叫び、それに気付いた集落の人がバタバタと家へ駆け込んでゆきます。地元の人なら道の行き先に何があるかを知っているわけで…。
「「「きょ、教頭先生…」」」
通報されてしまったことは恐らく間違いないでしょう。しかもこの先、行き止まり。ラブホテルに着いて愕然としている間にパトカーや白バイがやって来た上、悪戯小僧な「ぶるぅ」がイカのお寿司を実行するという悪夢の展開。
「…き、君は…。シャングリラ学園の教頭を前科持ちの犯罪者にしたいわけ!?」
会長さんが怒鳴り、ソルジャーが。
「そ、そこまでは…! ごめん、なんとかフォローはするから!」
情報操作も記憶操作も頑張ってさせて貰うから、と叫ぶ一方、「ぶるぅ」にラブホテルの下見はするよう抜け目なく指示を。あの「ぶるぅ」ならば、警察官が山ほどいようがチョイと誤魔化して瞬間移動で下見にお出掛け出来るでしょうけど…。
「あっ、パトカー…」
来た、と中継画面を指差した人は誰だったのか。白バイとパトカーが凄い勢いで教頭先生が通って行った道を走り抜けて行き、教頭先生はラブホテルの駐車場で車をターンさせている真っ最中。二人の「ぶるぅ」はまだ叫んでます。
「「「現行犯…」」」
とりあえず逮捕劇までは観察するか、と開き直った私たち。なかなか見られるものじゃないですし、ソルジャーが後の始末をしてくれますし…。教頭先生ごめんなさいです、ちょっと見物、手錠とか見せて下さいね~!




           週末はデート・了

※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
 教頭先生が「気分だけでも」と申し込んだデートが、とんでもないことに。
 現行犯逮捕な結末ですけど、よく考えたら過去にも色々ヤバい目に遭っているかもです。
 使えないwindows10 は、大型アップデートを何とか乗り切りました、ホッと一息。
 次回は 「第3月曜」 6月18日の更新となります、よろしくです~! 

※毎日更新な 『シャングリラ学園生徒会室』 はスマホ・携帯にも対応しております。
 こちらでの場外編、5月は、お坊さんの世界の掟が話題になってますけど…。
 ←シャングリラ学園生徒会室は、こちらからv










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※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
 バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。




シャングリラ学園の秋は学園祭の季節です。とはいえ、まだまだ準備に入らないのが私たち特別生七人グループと会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」。何をやるかが決まっているため、直前の三週間があれば充分というのが例年ですが。
「かみお~ん♪ いらっしゃい!」
柔道部は今日も焼きそば指導? と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。放課後の「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋はキース君たち柔道部三人組が後から来ることが多いのです。今日もそのパターン。焼きそば指導は学園祭での模擬店に向けての年中行事で…。
「まあな。週に一度はやっておかんと、あいつらは一向に覚えてくれんし」
溜息をつくキース君。
「そるじゃぁ・ぶるぅ秘伝と銘打つからには失敗出来んし、口伝だからレシピも渡せんし…」
「誰だい、最初に口伝にしたのは」
会長さんが突っ込みました。
「その愚痴、毎年定番だけどさ…。有難味は凄く出るだろうけど、君たちは毎年、焼きそば指導で嘆いてるじゃないか」
「仕方ないだろう、あの頃の俺は先輩に逆らえなかったんだからな!」
本当に本物の先輩がいたのだ、とキース君は完全にお手上げのポーズ。
「俺たちの最初の同級生が三年生で主将だった年だしなあ…。俺たちとぶるぅの仲を見込んで焼きそば屋台を任せられた。それがそもそもの始まりで…」
「そうなんです。卒業して直ぐの間は先輩たちも学園祭に遊びに来ますしね」
其処であの味を褒められたんです、とシロエ君が。
「この味はいいと、柔道部の秘伝にしておけばいい、と。レシピを書いて残すんじゃない、と」
「ええ…。あれが全ての始まりでしたね」
マツカ君も相槌を打ちました。
「あの年に決まってしまったんです、レシピは口伝と」
「ついでに毎年、俺たちが指導するのもな」
そうして今に至るわけだ、という締めくくり。本当に本物の先輩さんの命令とあらば、カラスも白いのが体育会系の部活というもの。あんな頃からの伝統でしたか、毎年毎年、ご苦労様です、キース君たち…。



こんな感じでクラブやクラスごとの準備はとっくに始まっています。けれども私たちはサイオニック・ドリームを使ったバーチャル旅行が売りの喫茶店、『ぶるぅの空飛ぶ絨毯』が定番の催し物。直前に値段などを決めればいいだけ、この時期は特に用事もなくて。
「ぼくたちの方は暇だよねえ…」
ジョミー君がのんびりとカボチャのシフォンケーキを頬張り、サム君も。
「うんうん、旬の観光地とかはブルーが楽勝で押さえてるしよ」
「ですよね、会長、大抵の場所はぶるぅと遊びに行ってますもんねえ…」
瞬間移動って便利ですよね、とシロエ君。
「思い立ったが吉日って感じで、時差だけ考えればいいんでしょう? 何処へ行くにしても」
「そうなるねえ…。今の時間だとカフェとかに行くにはちょっと早いね」
お洒落な国のは、と会長さんが幾つか挙げて。
「近い所でエスニック料理ならお昼時かな、パッと出掛けて食べられるってね」
「かみお~ん♪ いつでもパパッと行けちゃうの!」
そして食べるの、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「レストランも屋台も食べ放題だよ、美味しい匂いが一杯なの!」
「そう、あの匂いが魅力の一つでねえ…」
今年はやろうかと思っているのだ、と会長さんの妙な発言。
「「「匂い?」」」
「そうだよ、ぶるぅの空飛ぶ絨毯! オプションで色々つけるだろ? それの一つで匂いつきっていうのもいいな、と」
其処に漂う匂いを再現、と会長さんは人差し指を立てました。
「何処にだって独特の匂いというのはあるものさ。砂漠だろうが、街だろうが…。似たような匂いを嗅いだ途端に蘇る記憶ってあるだろう?」
「ありますね…」
確かにあります、とシロエ君が頷き、キース君も。
「俺の場合は特に顕著だな、特に抹香臭いのが…。仏具屋に入ると大抵、それだ」
「ね? だから今年はやってみようかと」
特に難しい技術ではない、と会長さん。サイオニック・ドリームで匂いつきって、ホントに観光地まで出掛けて行った気分になれるかも~!



美味しそうな匂いや、スパイシーな匂い。いろんな匂いがついていたなら、ぼったくり価格でもバカ売れすること間違いなし。今年は早くから方針が決まった、と皆で喜んでいると。
「奇遇だねえ…」
「「「は?」」」
誰だ、と振り返った先に紫のマントがふうわりと。別の世界からのお客様です。
「こんにちは。ぶるぅ、ぼくの分のケーキも残ってる?」
「あるよ、座って待っててねー!」
ケーキと紅茶~! と飛び跳ねてゆく「そるじゃぁ・ぶるぅ」。注文の品はすぐに揃って、ソルジャーは空いていたソファに腰を下ろして御機嫌で。
「ぶるぅのケーキは美味しいねえ…。ぼくのシャングリラにも料理上手がいればいいのに。カボチャでお菓子を作るにしてもさ、なんだか定番ばっかりでねえ…」
なんだ、カボチャのお菓子の話でしたか。奇遇と言うから匂いの方かと思ったんですが…。
「えっ? ぼくが言うのは匂いだよ?」
そっち、とケーキを口へと運ぶソルジャー。
「最近、匂いに凝っているんだ。…匂いと言うか、香水と言うか」
「「「香水?」」」
「うん。今日はほんのり薔薇の香りで、とっても魅惑的な筈なんだけどね」
「「「…薔薇…?」」」
何処が、と誰もが考えたに違いありません。カボチャのシフォンケーキはカボチャの色をしてますけれども、そんなに強い匂いは無い筈。紅茶やコーヒーも薔薇の香水には負けるであろう、という気がするのに、全く匂いがしない薔薇。
「使い方を間違えていないかい?」
香水ってヤツにはつけ方があって、と会長さんがシャングリラ・ジゴロ・ブルーならではの薀蓄を披露し始めました。
「香水は体温で香るものだし、基本の場所なら今、言った通り。服につけるなら君の場合はマントにするか、上着の裾の裏につけておくか…。とにかく動きのある所だね」
その辺を間違えてつけてるだろう、という指摘。
「薔薇の香りが全然しないよ、それじゃ宝の持ち腐れってね」
「いいんだってば、匂わない方がいいんだからさ」
「「「え?」」」
香水をつけて、匂わない方がいいとはこれ如何に。それって意味が全然ないんじゃあ…?



つける所を間違えるどころか、香水の使い方を勘違いしていそうな目の前のソルジャー。ほんのり薔薇の香りとやらも分からない筈で、それで「凝ってる」と言われても…。
「凝ってるんだよ、実際の所」
日替わりメニューでつけているのだ、とソルジャーは胸を張りました。
「もうね、毎日、ブリッジの視察が楽しみで…。普段のぼくは面倒だから滅多に行かないんだけれど、この二週間ほどは皆勤賞! エラやブラウも喜んでいるよ」
ソルジャーがとても真面目になった、と非常に評判がいいのだとか。
「ただねえ…。ハーレイの評価が微妙なトコだね、ぼくの代わりに下がり気味でさ」
「そりゃまあ…。普段は行かない君が皆勤賞なら、キャプテンはもっと頑張れってことになるだろうしね」
気の毒に…、と会長さん。
「元々真面目にやってるだろうし、それ以上何を頑張れと、って気がするけどねえ?」
「…元々はね」
でも今は違う、とソルジャーから返った奇妙な答え。キャプテンに何かあったんでしょうか?
「ん? ぼくが現れると注意散漫、ミスが多発といった感じで」
「ソルジャーの視察中にかい!?」
「そうだけど? それで評価が下がらない方がどうかしてるよ、あの有様じゃあ」
「もしかして…」
会長さんがソルジャーの方をまじまじと。
「その原因、君じゃないだろうね?」
「決まってるだろう、ぼくが行くから注意散漫!」
魅惑的な恋人がブリッジをウロウロするんだから、とソルジャーは至極得意げに。
「今日だとほんのり薔薇の香りで、昨日はムスクの香りなんだよ。その前の日はジャスミンだったかなあ…。こう、色々とホントに日替わり」
「だから、全然香りがしないんだけど? 君のハーレイの注意散漫とかミスの原因、香水じゃなくって君の悪戯か何かだろう!」
「違うよ、ホントに香水だってば!」
分かる人には分かるのだ、と威張るソルジャー。キャプテンは鼻がいいのでしょうかね、香水を作る調香師って人は凄い嗅覚を持つと聞きますが…。
「ぼくのハーレイ? 普通だけど?」
見ての通りの鼻なんだけど、ということは…。香水はやはり意味無しなのでは…?



ソルジャーの世界に住むキャプテンと、私たちの世界の教頭先生は瓜二つ。鼻は確かに立派ですけど、鼻の大きさと嗅覚ってヤツは比例しないと思います。それにソルジャーもキャプテンの嗅覚は普通だと答えましたから…。
「分かるも何も…。君の香水、ぼくにはサッパリ分からないから!」
「俺にも全く分からんな」
職業柄、敏感な方なんだが…、とキース君。お寺ではお線香の他にも色々とお香を使いますから、嗅ぎ分けられると便利だそうです。上等のお香を使っているのかそうでないのか、そういったことも重要だとか。
「こう、知り合いの偉いお坊さんとかがウチの寺を訪ねたりして下さるだろう? そんな時にな、「御本尊様にご挨拶を」とお参りなさって、袂から自前の香を出したりなさるんでな」
アッと驚く高価なお香を焚いて下さる方もあるらしくって…。そうした時にはおもてなしも当然ランクアップで、お客様の方もそれで当然だという感じ。
その辺りの加減を見誤ったら大失敗かつ失礼というもの、同じ人でも「今日は普通の御飯でいいよ」な場合はお香の種類が違ったりする、と聞いてブルブル、実に恐ろしいディープな世界。
「お香の嗅ぎ分けも必須なのかよ、坊主には!」
サム君の引き攣った声に、キース君は。
「必須ではないぞ? ただ、分からないと恥をかくだけだ」
「それって必須ってことじゃねえかよ!」
また勉強が増えてしまった、と頭を抱えているサム君。一方、騒ぎの原因をもたらしたソルジャーはと言えば…。
「嗅ぎ分けねえ…。ぼくのハーレイにはその手の心得は無さそうだねえ…」
薔薇くらいは分かるだろうけれど、とノホホンと。
「薔薇と百合との区別がつくかな、それくらいは判別可能なのかな? …だけどライラックとか、チュベローズだとか…。漠然と花だと思う程度じゃないのかなあ…」
ムスクも花じゃないと分かってるんだかどうなんだか…、という話。そんなレベルのキャプテン相手に香水を毎日取っかえ引っかえ、注意散漫に陥らせるほどだと威張られても…。
「それはいわゆる自己満足だね」
まるで匂いがしないから、と会長さんは言い切りました。
「ぼくもキースと同業だからね、匂いについては敏感な方。そのぼくが全く分からない上、キースにも分からないと来た。君の香水はつけるだけ無駄、君のハーレイも全く反応しないね」
注意散漫は君の存在のせいだ、という意見。私たちも賛成、賛成です~!



「…分かってないねえ…」
分かってないのは君の方だ、とソルジャーが只今話題の鼻先でフフンと。
「この香水はね、特別製! 君たちにも嗅がせてあげたいんだけど、そうすると少しマズイかもねえ、ただの薔薇ではないからね?」
「「「は?」」」
「香り自体は薔薇なんだけどさ、他に色々と入っているから…」
万年十八歳未満お断りでも害が無いとは断言出来ない、とは何事でしょう。その香水って、何かヤバイ成分でも入ってますか…?
「フェロモン剤って言えば分かるかなあ? こっちの世界にもあるよね、そういうの」
「「「フェロモン剤!?」」」
そんな効能を謳った香水の広告だったら何度か見かけたことがあります。男性がつければ女性にモテモテ、女性がつければ男性が寄ってくるというヤツ。あんなのはどうせ紛い物だと、効くわけないのに騙されて買う人がいるというのが面白い、と話題にしたことも過去に何度か。
けれど相手はソルジャーです。SD体制が敷かれた別の世界に住んでいる人で、宇宙船もワープも当たり前。私たちの世界では「効かなくて当然」のフェロモン剤でも、「効いて当然」だったりしますか…?
「もちろん、効いて当然だねえ…」
でなきゃ売れない、と微笑むソルジャー。
「男性向けのも女性向けのも色々あるよ? ちなみに、ぼくのは女性向けでね」
男性を惹き付ける魅惑の香り、とソルジャーはうなじの辺りの髪をかき上げ…。
「この辺りにつけるのがオススメです、と書いてあったし、ソルジャーの衣装で肌が見える部分は限られてるしね? 此処にしっかり」
そして香りは朝につければ夜までバッチリ、という説明。
「トップノートがどうとかこうとか、ラストがどうとか…。つけてからの時間で同じ薔薇でも香りが変わっていくらしいけどね、そういったことはどうでもいいんだ」
要は男性をグイグイ惹き付け、その気にさせるのが目的だから…、とソルジャーは自分のうなじを指差して。
「そんな香りを振り撒きながら、ぼくがブリッジに登場するわけ! 注意散漫にならない方がどうかしてるし、ぼくが消えた後もハーレイは悶々と夜を待つんだな」
勤務終了と共に青の間にダッシュで、凄い勢いでベッドに押し倒しに来るのだ、と得意げなソルジャーですけれど。その香水の匂い、ホントのホントに分かりませんよ…?



男性を惹き付けるというソルジャーの香水。キャプテンがミスを多発するほどのアヤシイ効能があるそうですけど、匂いません。まさかシールドしてるとか?
「ピンポーン!」
大正解! とソルジャーは笑顔。
「ぼくはハーレイさえ釣れれば満足なんだし、他の男にモテても仕方ないだろう?」
シャングリラの中で浮気だなんて…、と例に挙がったゼル機関長だとかヒルマン教授。
「ブリッジにも男性クルーはいるから、ブロックしないと危険だよね? つまりはハーレイ限定で香りを提供してるわけ! 君たちが目指す学園祭のオプションみたいなものだよ」
お一人様限定プランなのだ、と言われて納得、匂わないのも理解出来ましたが…。そんな香水、つけてて毎日が楽しいんですか?
「楽しいねえ…。他のクルーの目があるから、と必死に冷静なふりをするハーレイを見るのも楽しいものだよ、ミスをする度に「どうしたんだい?」と覗き込んでやれば効果倍増!」
香りの源がグッと近くに…、とソルジャーの悪戯心は今がMAXみたいです。その内に飽きてやめるでしょうけど…。
「そうだねえ、わざわざ香水を奪いに出掛けようとも思わないしね?」
「「「えっ?」」」
「偶然の産物なんだよ、この香水は。ぼくも昔は人類の船から色々と物資を奪っていたな、と懐かしくなって、シャングリラの近くを通った船から荷物を失敬してみたら…」
それが香水だったのだ、とソルジャーはクスクス笑っています。瞬間移動で青の間に直送してしまったため、誰も知らないソルジャーの秘密の略奪品。
「ぼくとしてはね、お菓子とかが良かったんだけど…。来てしまったものは有効活用! ぼくのハーレイだってミスはともかく、夜の時間は張り切ってるしね」
だから当分やめる気はない、と語るソルジャーの部屋にはまだ香水がたっぷり揃っているそうです。日替わりメニューでガンガン使って半年くらいはいけるであろう、というほどの量。
「そうだ、君も使ってみないかい?」
よかったら、とソルジャーの視線が会長さんに。
「ぼくだけが使うんじゃもったいない。君も是非!」
「その香水、女性用だろう!」
男なんかはお呼びじゃない、と会長さんは即答ですが。
「だからさ、君もこっちのハーレイ限定!」
魅力をアピールしに行きたまえ、とソルジャーはウキウキしています。それって会長さんにとっては一番やりたくないことなんじゃあ…?



男性を惹き付ける香水をつけて、教頭先生に魅力をアピール。会長さんが絶対にやらないことは容易に想像出来ました。けれどソルジャーの方はキャプテンと結婚しているだけに、会長さんには教頭先生がお似合いなのだと信じて疑わないタイプ。
「ぼくの香水、分けてあげるよ。きっとこっちのハーレイも喜ぶってば!」
「喜ばせる趣味はぼくには無いから!」
お断りだ、と即座に却下。
「そんな香水、欲しくもないし!」
「ハーレイ限定ってトコが売りだよ、ゼルとかは寄って来ないんだよ?」
お目当ての人にだけ魅惑の香りをお届け、とソルジャーは諦め切れないようで。
「絶対、いいって! オススメだってば、ハーレイ限定で誘惑の日々!」
オモチャにするのでも別にいいから…、と少し譲歩を。
「こっちのハーレイ、見事な鼻血体質だしねえ…。学校の中でも君に会ったら鼻血を噴くとか、そんな風にも使えるよ?」
「…うーん…。ぼくに会ったらその場で鼻血かあ…」
「ちょっと素敵だと思わないかい? それにハーレイの目には君が一層、魅力的に映るわけだしねえ…」
熱烈なプロポーズというのもアリかも、とソルジャーの魂胆はそっちでした。会長さんの悪戯に加担しつつも、あわよくば教頭先生とのウェディングベルを、というのが見え見え。
「ぼくはプロポーズは要らないんだよ!」
「そう言わずにさ…。まずは鼻血で悪戯からだよ、何の香りがいい?」
薔薇にも色々、とソルジャーは種類をズラズラと。いったいどれだけ略奪したのか、考えるだけで頭が痛いです。しかも会長さん用にお裾分けだなんて、よっぽど会長さんを教頭先生と結婚させたいのでしょうが…。
「あっ、分かる? ぼくはね、こっちのハーレイを応援してるんだよね」
いつも報われないのを見ているだけに、機会があったら応援を…、とグッと拳を握るソルジャー。
「ハーレイ限定で魅惑の香り! ぼくのコレクションを幾らでも分けてあげるから!」
「要らないってば!」
鼻血コースは面白そうでもその後が…、と会長さん。
「プロポーズまで突っ走られたら迷惑なんだよ、それくらいなら最初から寄って来ない方がよっぽどマシだね!」
犬猫忌避剤ならぬハーレイ忌避剤が欲しいくらいだ、と凄い一言。そこまで言うほど要らないんですか、教頭先生のプロポーズ…。



家の周りに振り撒いておけば、犬や猫が寄らない犬猫忌避剤。会長さんなら教頭先生にでも使いかねない気がします。そういう代物が無くて良かった…、と思ったのですが。
「そうか、ハーレイ忌避剤か!」
これは使える、とポンと手を打つ会長さん。
「ぼくとしては非常に不本意だけれど、使いようによっては面白そうだ」
「「「は?」」」
「ハーレイ限定で魅惑の香りの逆バージョンだよ、サイオニック・ドリームを使ってね」
それなら身につける必要も無いし、と会長さんはクスクスと。
「いいアイデアをありがとう、ブルー。早速使うよ、ハーレイ忌避剤」
「何をやらかすつもりなわけ!?」
「君の逆だよ、ハーレイが逃げたくなる香り!」
ぼくが近付いたらそういう香りが立ち昇るのだ、と悪魔の微笑み。
「もう嗅いだだけで逃げたいと言うか、ぼくに触れたいとも思わないレベルと言うか…。そんな悪臭をさせるぼくでも、逃げたら全てがおしまいだしね?」
結婚どころか何もかもがパア、と会長さんは両手を広げました。
「少しでも嫌な顔をしようものなら、そこを突っ込む! ぼくへの愛はその程度かと!」
「ちょ、ちょっと…! ぼくのオススメは魅惑の香りで…!」
「閃いたんだよ、その話から! ちょうどサイオニック・ドリームの話もしてたし、まさに天啓! これを実行しない手はない!」
何にしようか、と鼻歌混じりの会長さんの笑みは実に楽しげ。
「悪臭だしねえ…。この世の中には色々あるよね、それを日替わりメニューで提供!」
「なんでそっちの方に行くわけ!?」
「君とぼくとは違うから!」
全く逆の人間だから、と会長さんは自信満々。
「君がハーレイを惹き付けるんなら、ぼくは寄せ付けないタイプ! ハーレイ忌避剤!」
凄い香りを纏ってやる、と決意のオーラが見える気がします。ソルジャーはウッと息を飲み込み、珍しく腰が引け気味で…。
「いいのかい? …それをやると君が臭いんだよ?」
「あくまでハーレイ限定でね」
身に纏う必要も全く無いから気分爽快、と言ってますけど。いくら自分は臭くなくても、悪臭を放つ姿を演出しようとは天晴としか…。



ソルジャーがキャプテン限定で纏う魅惑の香水。薔薇だの百合だのジャスミンだのと日替わりで纏っているというのに、会長さんが纏いたいものは教頭先生も逃げ出す悪臭。本気だろうか、と疑う気持ちと、やりかねないと思う気持ちが半々。
香水の話の言い出しっぺのソルジャーは「悪臭だなんて…」と頭を振り振り帰ってしまって、私たちも「そろそろ家に帰らないと」と解散で。次の日の放課後、「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋を訪ねてみれば。
「かみお~ん♪ いらっしゃい!」
「やあ。どうかな? 今のこの部屋の匂い」
「「「匂い…?」」」
鼻をクンクンさせてみましたが、甘い香りしかしませんでした。ケーキか、パイか、そういった匂い。皆で答えると、会長さんは満足そうに。
「よし。やっぱりハーレイ限定でしか使えないってね!」
仕掛けは完璧、と会長さんが指を鳴らして、「そるじゃぁ・ぶるぅ」がイチジクのタルトを運んで来ました。飲み物も揃って、美味しく食べる間も会長さんはニコニコと。
「タルトの匂いしかしないよね?」
「俺の場合はコーヒーの匂いもするんだが…」
しかし、と言葉を切ったキース君。
「あんた、本気で何かやったな?」
「やったと言うか、やってると言うか…。ぼくの特定のサイオンの波長を拾うと、ハーレイ忌避剤の香りがね」
サイオニック・ドリームの応用だよね、と会長さんは唇の端を吊り上げました。
「ぼくがその匂いを知らないことには再現不可能、だから不本意だと言った。だけどやるだけの価値はあるんだ、匂いはキッチリ仕入れて来たから!」
「「「仕入れた!?」」」
「そう。ちょっと野菜の…。いや、この先はやめておこう」
今はおやつの真っ最中だし、と匂いの仕入れ先は伏せられたものの。
「食べ終わったら、お出掛けだよ? とりあえず今日は教頭室まで」
用事は特に無いんだけどね、と言われなくても分かります。用事ではなく、教頭先生に会いにお出掛け。魅惑の香りとは真逆なタイプの、ハーレイ忌避剤とやらを纏って…。



タルトのおかわりもキッチリ食べた後、会長さんは「もういいかな」とうなじの辺りの銀色の髪をかき上げながら。
「ブルーのお勧めってわけじゃないけど、この辺りから香るのがいいかと思ってねえ…」
それと鎖骨の辺りに少し、と指差し。
「ぼくが前を向こうが後ろを向こうが、香りが自然と立ち昇るわけ! ハーレイ限定で!」
「…訊きたくもないが、何の匂いだ?」
キース君の問いに、私たちも揃ってコクコクと。おやつの最中には話せないほどで、仕入れ先は野菜に関係した何処か。会長さんが纏う香りは何なのでしょう?
「ああ、これかい? ぶるぅとも相談したんだけどねえ、タマネギが一番いいんじゃないかと」
「「「タマネギ?!」」」
「タマネギは腐ると臭いんだよ、うん」
ぶるぅは腐らせないけれど、という解説。なるほど、それで野菜の…卸売市場へでも?
「まさか。卸売市場じゃ腐っちゃいないよ、新鮮さが売り!」
「かみお~ん♪ 野菜の直売所の近所に行ったの、悪くなった野菜を捨ててるから!」
タマネギ専門、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「えとえと、ちょっと近付いただけでも凄かったよ? ぼくはシールドを張っちゃったけれど、ブルーはそのまま行っちゃったあ!」
「虎穴に入らずんば虎子を得ず、とも言うからねえ…。タマネギの腐った匂いが怖くてハーレイ忌避剤が作れるか、ってね」
とはいえ死んだ、と鼻をつまんでみせる会長さん。
「覚えなければ、と頑張ったけれど、多分、一分も嗅いではいない。そんなに嗅いだら確実に死ぬね、臭くてね」
それを纏った自分が行くのだ、と実行する気満々の会長さんは既にタマネギの腐った匂いを装着中と言うか、再現中。教頭先生に向けて振り撒くために教頭室まで出掛けるつもりで、そうなればきっと教頭室は…。
「臭いだろうねえ、部屋中に満ちる悪臭ってね。早く出て行けと言いたいだろうけど、それを言ったらおしまいだしね?」
今日はゆっくり滞在しよう、とソファから立ち上がる会長さん。
「君たちも御馳走になるといい。ハーレイ、ぼくに御馳走しようと思って紅茶を買っているんだからさ。たまには味わってあげないとねえ…」
「「「………」」」
鬼だ、と言いたい気持ちを私たちはグッと飲み込みました。下手に言ったら墓穴です。タマネギの腐った匂いとやらを食らいたいとは思いませんよ~!



「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋を後にして、中庭を抜けて本館へ。教頭室の重厚な扉を会長さんがノックして…。
「教頭先生、お邪魔します」
ガチャリと扉を開けて入れば、教頭先生の喜びの笑顔。しかし…。
「あれっ、ハーレイ、どうかした?」
一瞬で歪んだ教頭先生の顔に、会長さんが首を傾げて。
「たまには君とお茶でもしようと思ったんだけど…。今日は忙しかった?」
「い、いや…。お、お茶というのは…?」
「みんなで御馳走になろうかと思って。ぼくのために紅茶、買ってるよねえ?」
「あ、ああ…。あれな」
あれだな、と教頭先生は椅子から立ち上がって戸棚の方へ。会長さんはススス…と教頭先生に近付き、隣に並んで戸棚を覗き込みました。
「ふうん…。一種類だけじゃなかったんだ?」
「ま、まあ…。そうだが」
教頭先生が微妙に距離を開けたがっていることが分かる立ち方。上半身が少し傾いています。もちろん会長さんが立っているのとは逆の側に。会長さんはそれを承知で同じ方へと身体を傾け、棚の紅茶を品定めして。
「ぶるぅの部屋でも飲んできたから、軽めのがいいな。これでお願い」
「わ、分かった! すぐに淹れるから!」
あっちに座って待っていてくれ、と応接セットが示されました。全員が座るには足りませんけど、ジョミー君曰く、肘掛けなどにも座ればオッケー。
「なるほどね! じゃあ、君たちは先に座っててよ」
ぼくとハーレイの分を空けておいて、と会長さん。
「せっかく来たから、二人並んで座るのもオツなものだしね? ぼくは紅茶の淹れ方をちょっと指導してくる、ハーレイは基本がコーヒー党だし」
美味しい淹れ方を教えてあげる、と教頭先生の腕を引っ張り、備え付けのキッチンの方へと向かう会長さん。紅茶の缶を抱えた教頭先生の顔には途惑いの色がありあり、香水ならぬハーレイ忌避剤が効果を発揮しているものと思われます。
「ほら、ハーレイってば!」
「う、うむ…。よ、喜んで教えて貰うことにしよう」
漂っているだろう腐ったタマネギの壮絶な匂い。それを纏った会長さんに笑みを返せる教頭先生、只者ではないと言うか、御立派と言うか…。



会長さんが身体を張って仕入れて来たという凄い悪臭。恐らく紅茶の香りも吹っ飛ぶのでしょうが、教頭先生が会長さんの指導で淹れた紅茶は流石の香り高さでした。会長さんは教頭先生と並んでソファに座って、極上の笑みで。
「美味しいねえ…。うん、この香りがたまらないよ。ハーレイ、いいのを買ってるんだね」
「お前のためならケチらないぞ」
「そう? それで、どうかな? 普段よりも香りがいいんじゃないかと思うんだけどねえ?」
どう? と会長さんがティーカップを手に肩を摺り寄せ、ウッと仰け反る教頭先生。
「ハーレイ? 何かあったのかい?」
「い、いや…。いい香りだな、と思ってな…」
「それは紅茶が? それとも、ぼく?」
うわー…。いつもの会長さんが口にしたなら、教頭先生が舞い上がることは必至の台詞。けれども今の会長さんは紅茶どころか腐ったタマネギ、自分でも一分も耐えられないと言っていた悪臭を放っているわけで…。なのに。
「も、もちろんお前に決まってるだろう!」
教頭先生は男でした。男の中の男と言うべきか、惚れた弱みと言うべきか。会長さんは「そう?」と微笑み、更に密着。
「そう言われちゃうと、くっついてあげるくらいはねえ…。これは出血大サービスだよ?」
「う、うむ…。悪い気はせんな」
「もっとサービスしちゃおうか? 良かったら…だけど」
「…もっと…?」
ゴクリと唾を飲み込む教頭先生。腐ったタマネギでも密着されると嬉しいだなんて凄すぎな上に、もっとサービスと聞いて鼻の下が長めになってるなんて…。なんと凄いのだ、と呆れる私たちを他所に、会長さんは。
「君の膝に座ってあげようかなあ…、って。君の膝で紅茶を飲むのもいいよね」
「本当か!?」
是非、と膝をポンと叩いた教頭先生の膝に、会長さんは「よいしょ」と腰掛け、ゆったりと紅茶を楽しんでいます。ええ、本当に香り高い紅茶なんですが…。
「…ハーレイ? 遠慮しないでくっついてくれていいんだよ?」
密着サービスの時間だからね、と会長さん。それに応えて会長さんの腰に腕を回している教頭先生、どれほどの悪臭に耐えているのか、想像したくもないですってば…。



その日から会長さんはソルジャーお勧めの日替わりメニューで頑張りました。魅惑の香りのソルジャーの方は、訪ねて来ては「信じられない…」と絶句しています。私たちよりもサイオン能力が高い分だけ、会長さんが纏う香りも「その気になれば」分かるらしくって。
「…どれだけやったら気が済むんだい? ハーレイの愛はもう充分に確かめただろ?」
「愛だって!?」
あんなドスケベ、と会長さんは吐き捨てるように。
「密着サービスのために耐えてるだけだよ、内心は臭くてたまらないくせに!」
「だけど顔には出さないじゃないか」
初日だけで、と返すソルジャーは毎日覗き見している様子。
「最初の日だけは仰け反ってたけど、あれから後にはやっていないよ。君に「ちゃんと風呂には入っているか?」と訊きもしないし、君の匂いとして受け入れてるよ!」
「らしいね、有り得ない匂いのオンパレードをね!」
このぼくの身体が臭いだなんて、と自分でやっているくせに文句たらたら。ドブの匂いやら、今はレアものの汲み取りトイレの匂いやら…、と日替わりメニューの中身は聞かされてますが、嗅いだ勇者は一人もいません。ソルジャーがたまに嗅いでいる程度。
「…こういう匂いをさせてる君でも好きだと言えるのは愛じゃないかと思うんだけどね…」
「どうなんだか! ホントに恋人が臭いんだったら、匂いを消す方法をさりげなく提案するっていうのが本当の愛だと思うけどね、ぼくは」
この香水をつけてみないか、と消臭剤を兼ねたのをプレゼントとか…、と会長さん。
「ぼくの身体は臭いんだよ? それを指摘しないで放っておくのは、恋人に生き恥をかかせているのと全く同じじゃないのかな?」
「うーん…。本当のことを言ったら傷つく人だっているし…」
「だから、あくまでさりげなく! 傷つけないように悪臭を元から断ってやるのが本物の愛!」
愛が足りない、と主張している会長さん。
「我慢されても困るんだよ! ぼくが本当に恋人ならね! 君だって文句を言うと思うよ、ぼくとおんなじ立場だったら!」
「えーっと…。ぼくが臭くて、だけどハーレイが教えてくれなくて…。臭いだなんて気付かないままでシャングリラ中を歩いていたなら…」
どうだろう、と考え込んだソルジャーの結論は「腹が立つ」でした。恋人同士で夫婦だからこそ、言いにくいことも言って欲しいと思うそうです。妙な所で意見の一致を見たようですけど、それじゃ会長さんは自分自身が納得するまで悪臭を放ち続けると…?



いったい何処まで続くのだろう、と誰もが恐れた恐怖の悪臭日替わりメニュー。平日は放課後の教頭室で、休日は教頭先生のお宅のリビングで。会長さんは悪臭を纏って密着サービスを展開、教頭先生は悪臭に耐えつつ鼻の下を伸ばし…。
そんな日々への終止符を打つことになった代物は思いがけないものでした。ある土曜日のこと、会長さんは私たちと「そるじゃぁ・ぶるぅ」にソルジャーまで連れて、教頭先生のお宅を訪問。チャイムの音で出て来た教頭先生、初日以上に大きく仰け反り。
「な、なんだ、お前か。…まあ、入ってくれ」
「何かビックリしてたけど…。ああ、今日はブルーも来ているからだね」
一人分余計にお願いするよ、と会長さんは紅茶のリクエスト。例によって指導と称してキッチンへ一緒に行きましたけれど…。
「…今日の匂いは強烈らしいね」
ソルジャーがサイオンで覗き見していて、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「んとんと、今日はハーレイの匂いの筈なんだけど…」
「「「ええっ!?」」」
私たちは驚き、ソルジャーも。
「本当かい? 今日のは異様に臭かったよ?」
「でもでも、ハーレイの匂いなんだよ!」
本当だよう、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が叫ぶのと同時に、キッチンの方で派手に何かが壊れる物音が。ついでに「臭いんだよ!」と怒鳴る会長さんの声も。間もなく教頭先生がドタドタとリビングに駆け込んで来て。
「ち、違う! ブルー、私はだな…!」
「たまらん、って言うのを確かに聞いたよ、臭かったんだろ、このぼくが!」
ずうっと毎日臭かった筈だ、と追いかけて来た会長さんが教頭先生を激しく詰っています。
「仕掛けていたのはぼくだからねえ、ぼくが一番よく知っている! でもね、今日のが臭いってことは、つまりは君が臭いんだよ!」
自分でも耐えられない匂いを放つ身体で近付くんじゃない、とゲシッと蹴飛ばす会長さん。
「いいかい、今日のぼくの匂いは! 君の靴下の匂いだから!!」
「「「ひええっ!!!」」」
ソレか、と臭い理由も会長さんの怒りの理由も一発で把握出来ました。教頭先生は泣きの涙で謝罪しましたが、会長さんが聞く筈もなくて…。



「密着サービスは終わりだよ、うん」
君の好みは多分こっち、とソルジャーが前へと押し出されて。
「こっちのブルーは凄くいい匂いがするらしいよ? 今日のは何かな?」
「えっ、ぼくかい? フラワーブーケって書いてあったかな、花の香りが何種類か」
「そうだってさ! ついでに男なら誰でももれなく!」
惹かれるらしい、と会長さんにドンと背中を押されたソルジャー。悪戯心が芽生えて来たのか、教頭先生を哀れに思ったのか。
「仕方ないねえ…。臭かったらしいし、じゃあ、口直しに」
どうぞ、と特別サービスで提供されたキャプテン限定の魅惑の香り。教頭先生の身体はフラリとそちらに傾いてしまい、会長さんの「やっぱりね…」という冷たい声が。
「君は結局、より魅力的なものであったら誰でもいい、と。…ついでに自分でも耐えられないような臭さを放って生きてるわけだし、ぼくと釣り合うわけがないよね」
自分の匂いで反省しろ! と怒りの一声、バサバサバサ…と教頭先生の頭上に降り注ぐ靴下の山。どんな悪臭かを知った私たちは、後をも見ずに逃げ出して…。



「…こっちのハーレイ、あんなに靴下を溜めてたのかい?」
逃げ帰った先の会長さんの家で、ソルジャーが呆れ顔で尋ねました。自分も散らかす方だけれども、洗濯物は流石に溜めないと。あれでは愛想を尽かされても仕方ないのでは…、という意見だったのですが、会長さんは。
「まさか。靴下の山は洗濯済みだよ、ぼくが匂いを追加しただけで」
サイオニック・ドリームの応用だよね、と高笑いをする会長さん。
「だけどホントに臭かっただろ? ハーレイは未だにあの匂いの中!」
洗う気力も無いらしい、と嘲笑われている教頭先生のお気持ちは分からないでもありません。悪臭に耐えて、耐えまくったのに自分の靴下の匂いで全てがパアに…。
「報われないねえ、こっちのハーレイ…」
「元々は君が言い出したんだろ!」
「ぼくが勧めたのは香水だってば! こっちのハーレイもフラリと来てしまう魅惑の香り!」
それで出直せ、と言うソルジャーと、「お断りだよ!」な会長さんと。不毛な争いが続いてますけど、会長さんの匂いを操るサイオニック・ドリームが完璧なことは分かりました。学園祭の催し物は安泰、今年は匂いが売り物ですよ~!




            香り高き恋人・了

※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
 生徒会長が日替わりで纏う悪臭、それに耐えまくった教頭先生。男の中の男かも。
 なのに自分の靴下の匂いで、全てがパアに。気の毒すぎる結末ですよね、努力したのに…。
 シャングリラ学園は、去る4月2日で連載開始から10周年になりました。ついに10周年。
 アニテラは4月7日で放映開始から11周年、此処まで書き続けることになろうとは…。
 自分でもビックリ仰天ですけど、windows10 さえ無事に動けば、まだ書けそうです。
 次回は 「第3月曜」 5月21日の更新となります、よろしくです~!

※毎日更新な 『シャングリラ学園生徒会室』 はスマホ・携帯にも対応しております。
 こちらでの場外編、4月は、キース君から特別手当を毟り取ろうという計画が…。
 ←シャングリラ学園生徒会室は、こちらからv









※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
 バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。




夏はやっぱり暑いもの。今年の夏も厳しい暑さで、夏休みがどれほど待ち遠しかったことか。えっ、暑いなら休んでしまえばいいだろうって?
それは確かに正論ですけど、実行している特別生だっていますけど…。「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋を溜まり場にしている私たち七人グループにとっては、欠席イコール放課後の手作りおやつ無し。料理上手の「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお菓子が食べたきゃ行かなくっちゃあ!
「やあ、今日も朝から暑そうだねえ…」
待望の夏休み。会長さんの家が今日から居場所、と言いたい所ですけれど。
「暑いんだよ!」
思いっ切り不機嫌そうな顔のジョミー君。
「なのに明日から璃慕恩院だよ、クーラー無しの生活だってば!」
「俺たちの合宿も基本はクーラー無しなんだが?」
キース君の鋭い突っ込み。
「熱中症予防に使いはするがな、適度な使用がお約束だ。ついでにお盆の棚経にクーラーがセットじゃないのは分かっているよな?」
「うえー…。クーラー無しの家、まだあるわけ?」
「檀家さんの主義主張にお前が口を挟むな!」
言えた義理か、と叱るキース君によると、クーラー嫌いの家が何軒かあるそうです。棚経は朝早くから回りますから、そんな早朝には自然の風が一番とばかりにクーラーの代わりに打ち水のみ。軽装の檀家さんはともかく、法衣のキース君たちにしてみれば暑すぎなわけで。
「いいか、璃慕恩院の修行体験ツアーはそうした未来のケースも想定した上でのクーラー無しだ! 覚悟しておけ!」
「でもさあ…。麦飯と精進料理じゃバテるよ、ホントに」
「初日の夕食は豚カツだろうが!」
最初だけでも肉が食えるだけマシだ、とバッサリ切り捨て。今年もこういうシーズンかあ…、と皆で笑っていると。



「いいねえ、精進料理というのも」
慰労会の料理はそれにしようか、と会長さん。
「この間、ぶるぅと食べて来たんだ、お漬物寿司」
「かみお~ん♪ とっても美味しかったの!」
老舗のお漬物屋さんがやってるんだ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「今度はお漬物懐石も食べに行こうって言ってるんだもん!」
「そうなんだよねえ、煮物や揚げ物までお漬物尽くし! ちょっとお洒落で評判なんだよ」
このお店で…、と聞かされた名前は確かに老舗の有名店。そんなことまでやっていたのか、とビックリですが。
「お漬物も今や世界に羽ばたいてるしね、ヘルシーなピクルスっていうことで」
「それは食べたい気もしますね…」
シロエ君が話に食い付きました。
「柔道部の合宿はスタミナ一番、言わば肉だらけの世界ですから…。普段の生活に帰って来たな、って嬉しい気分になれそうです」
「そうだな、毎日肉料理だしな…。俺は戻ったらお盆に向かって卒塔婆書きだし、坊主らしい日々に切り替える料理にピッタリだ」
それでいこう、とキース君も。
「えっ、えええっ?」
ちょっと待ってよ、というジョミー君の悲鳴は無視されました。
「それじゃ、君たちが帰って来た後の慰労会にはお漬物寿司でいいんだね?」
「ええ、是非それでお願いします!」
「俺もそいつでよろしく頼む」
「かみお~ん♪ 美味しいお漬物、仕入れておくね!」
だから合宿頑張ってね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は大張り切り。男の子たちの合宿中には会長さんやフィシスさんとお出かけが常の私とスウェナちゃんの運命も決まりました。
「女子はぼくたちとお漬物寿司とお漬物懐石、それぞれ一回ずつでいいよね?」
「「はーい!」」
そういう食事も楽しそうです。ジョミー君の「帰って来ても精進料理…」という嘆きの声に耳を貸す人などいませんでした。お寺に行くなら精進料理は当たり前。存分に食べて来て下さいです~!



こうして翌日から男の子たちは柔道部の合宿に、修行体験ツアーにと出掛けてゆきました。スウェナちゃんと私は会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」、フィシスさんと一緒にプールに行ったり他にも色々。もちろんお漬物料理の店にも連れて貰って…。
アッと言う間に帰って来てしまった男の子たち。慰労会の日も朝から快晴、じりじりと照り付ける日射しとセミの大合唱の中、会長さんの家に集合です。
「今年も死んだ…」
痩せてもうダメ、とジョミー君は文句たらたらですけど、体重は減っていなさそう。修行ツアーに同行していたサム君によると「あいつ、一グラムも減ってはいないぜ」という話。
「飯の時間はガッツリ食うしよ、あれで痩せたら不思議だって!」
「痩せたってば! あんな麦飯と精進料理!」
どれも不味い、と恒例の不満。しかし…。
「かみお~ん♪ 今日のお昼は美味しい筈だよ!」
お漬物寿司、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「評判のお漬物、沢山買ったもん! お店の味にも負けないんだもん!」
「そうだよ、ぶるぅの腕に期待したまえ」
なにしろ評判のヘルシー料理、と会長さんが自慢し、とりあえず午前のティータイム。夏ミカンを丸ごとくり抜いて、果汁を搾って作った寒天を詰めたお菓子が一人に一個。それと冷たい緑茶です。ただ冷やすんじゃなくて、なんと氷で淹れるというもの。
「氷出しの茶は美味いんだがなあ…」
俺の家では飲む余裕がな、と零すキース君。
「俺が用意をしておくと、だ。頃合いに入った茶を誰とは言わんが持って行くヤツが…」
「「「あー…」」」
アドス和尚だな、と誰もが納得。でっぷり太ったアドス和尚は暑がりですから、氷で淹れた冷たい緑茶が出来ていたならゴクゴク飲んでしまうでしょう。誰の分かはお構いなしで。
「俺が文句を言うとだな、師僧に向かって何を言うかと抜かすんだ! 弟子は師僧にお茶を淹れるもので、自分が飲むのが当然なんだと!」
「仕方ねえぜ、それ…。実際、親父さんがお師僧だしよ」
「そうなんだがな…」
俺は親父の息子なんだが、とぼやくキース君をサム君が慰めています。氷出しの緑茶の手間を知っているだけに気の毒としか…。あれってお茶の葉を入れた急須に氷を入れては、溶けて減った分だけ足していくっていうヤツですもんねえ…。時間もうんとかかりますってば!



のんびりまったり、お茶を飲みつつ夏ミカン寒天に舌鼓。窓から見える暑そうな夏空もクーラーの効いた部屋には無縁で、ジョミー君の愚痴祭りも収束に向かいつつあった所へ。
「こんにちは」
暑中お見舞い申し上げます、と背後で声が。
「「「はあ?!」」」
振り返った先に私服のソルジャー。いえ、私服どころか…。
「今日も朝から暑そうだねえ…。だから暑中見舞い」
ぼくにもおやつ、と空いていたソファに腰を下ろしたソルジャーは浴衣を着ていました。涼しげですけど、何処から見たって女物。帯と結び方は男物にしか見えませんけど…。
「いいだろ、これ? ノルディに買って貰ったんだよ」
今度花火を見に出掛けるから、って、エロドクターと!?
「そうだけど? ハーレイと行こうと思っていたのに、シャングリラのメンテが入っちゃってさ。ワープドライブなんて使う予定も無いから先送りにしろって言ったんだけどね…」
「それは無責任発言だろう!」
会長さんの怒鳴り声。
「備えあれば患いなしっていうのが世間の常識、まして君みたいな境遇にいたら百パーセントを超える安全確保ってヤツが必要だろうと思うけど!?」
「君までハーレイとおんなじことを言うのかい? そりゃね、ワープドライブも大切だけどね…」
そうそう使うものではないのだ、とソルジャーは先刻までのジョミー君よろしくグチグチと。なんでもソルジャーの世界のシャングリラ号は雲海の中を飛行していて、其処から直接ワープは考えられない話だとか。
「惑星の重力圏内にいるんだよ? そんな所からワープをしたって前例は無い。つまりはワープ出来る場所まで移動しなくちゃならないってこと」
重力圏外まで逃げる間も追尾されるに決まっているし、とソルジャーは不満そうな顔。
「要するに、ぼくが瞬間移動でシャングリラを丸ごと飛ばした方が早いんだってば、ワープドライブに頼っているより!」
だから使えもしないモノのメンテを急ぐ必要は無い、と我儘全開ですけれど。その理屈がキャプテンに却下されたから花火見物がダメで、エロドクターとお出掛けなんですね?
「そういうこと! 浴衣まで買って貰っちゃったし、ハーレイと過ごす時間が楽しみ!」
浴衣でエッチは燃えるものだし…、と良からぬ発想の方も絶好調。見せびらかすために着て来たんですね、その浴衣…。



本来、昼間に纏うものではない浴衣。けれどソルジャーは会長さんに指摘されても全く気にせず、御自慢の浴衣を披露しながら居座り続けて。
「お昼御飯も出るんだよねえ?」
「…断ったら後が怖いからね」
もう諦めた、という会長さんの声を合図に皆でダイニングへと大移動。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が腕によりをかけたお漬物寿司が一人前ずつ、綺麗に盛られて出て来ました。
「へえ…。これが噂のお漬物寿司っていうヤツなんだね」
どんな味かな? と早速口へと運ぶソルジャー。
「うん、美味しい! サッパリしていて夏にピッタリ!」
「ホントだ、美味しい…。璃慕恩院の料理と全然違うよ」
これならいける、とジョミー君だって御満悦。スウェナちゃんと私が食べて来たお漬物懐石も他のみんなは興味津々、お漬物でも意外な美味しさがあるものだ、と盛り上がって。
「お漬物もね、時代に合わせて色々と変身していかなくちゃね?」
伝統を守りつつ改革も、と会長さん。
「好まれる味っていうのが変わってゆくのさ、その時々で。全く同じレシピで作ったのでは「何か違う」と思われちゃうこともあったりするんだ」
「えっ? でも、会長…。こういった老舗の味は同じじゃないですか?」
シロエ君の問いに、会長さんは「まあね」と答えたものの。
「この味だけは変えていません、と言いつつ、微妙な調整を…ね。発酵時間を変えてみるとか、塩分を少しずつ減らしていくとか。誰もが「美味しい」と思う味でないと売れないよ」
そのためにプロを雇っているのだ、という話ですが、老舗のお漬物を任されるような人って元からプロ集団では?
「そりゃそうだけど…。プロの中のプロって言うのかな? 味を覚えた熟練の人さ」
このお漬物の味はこう、と舌だけで判断出来るプロ。その道一筋ン十年とかで、味を変える時には必ず試食。プロの中のプロが「これで良し」と言うまで試行錯誤の日々らしく…。
「一子相伝とは少し違うけど、後継者は常に一人だけ! そのプロが見込んだ弟子がついてて、伝統の味を叩き込んでるらしいんだな」
そのプロが居てこそ大胆な革新も可能なのだ、と会長さん。新しいお漬物を開発する時も、やっぱり試食。「ウチの店の味ですね」と言って貰えるまで頑張る部下のプロ集団たち。そうやって出来た沢山のお漬物で美味しいお漬物寿司が出来ると聞いたら、もうビックリ~…。



「伝統は守りつつ革新かあ…」
なんか凄いね、とソルジャーは感動している様子。お漬物寿司が気に入ったらしいことは分かっていますが、この台詞。ワープドライブのメンテがどうこうと文句を言ってましたし、変な方向へと向かってなければいいのですけど…。会長さんも同じことを思ったみたいで。
「お漬物の味とワープドライブとは違うから! 其処は革新しなくていいから!」
「分かってるってば、新しい技術も出来てないのに革新しないよ、ワープドライブは」
その辺はゼルの管轄なのだ、という答え。
「なんと言っても機関長だし、アルタミラからの脱出以来の叩き上げ! プロの中のプロだね、ワープドライブに関しては」
任せて安心、と聞いて私たちの方もホッと安心。お漬物のせいでワープドライブが妙なことになったら、反省文だの土下座で済むようなレベルじゃないことは確実ですし…。
「当然じゃないか、ぼくの世界は常に危険と紙一重! 君たちが反省文を書いてくれても、土下座してくれても別の世界じゃ意味が無いしねえ…」
でも伝統と革新かあ…、と再びリピート。
「これは非常に魅力的だよ、ハーレイに是非、聞かせないと!」
「「「は?」」」
「ぼくのハーレイ! 今じゃマンネリでも気にしないけどね…。夫婦なんだし、特に刺激も求めてないけど、やっぱり努力はして欲しい!」
同じマンネリでも努力を重ねて同じ味を、って、その味とは…。
「大人の時間に決まってるだろう!」
他に何があると、とソルジャーは胸を張りました。
「ぼくたちの定番のコースがいわゆる伝統! 其処に改革を加えてみるのも新鮮かと!」
そしてこのぼくが味見するのだ、とソルジャー、ニッコリ。
「でもって、コレはぼくたちのセックスじゃないと文句をつけて却下するとか! コレはいいから取り入れようとか、もう色々と!」
時代の変化イコールぼくの好みの変化だよね、とカッ飛んだ理論が炸裂しました。
「ぼく自身でも気付かない内に、好みが変わっているかもだしねえ…。長持ちが一番だと思ってるけどテクが優先かもしれないし!」
「退場!!」
サッサと出て行け、と会長さんがテーブルにレッドカードを叩き付けたものの。それで出て行くソルジャーではなく、止まる喋りでもありませんってば…。



お漬物寿司から明後日の方へと突っ走ってしまった浴衣のソルジャー。素晴らしい思い付きだと自画自賛な上、伝統と革新を追い求める気持ちも半端ではなく。
「ぼくの世界だと色々と制限がありすぎでねえ…」
大抵の薬はもう効かないのだ、と自分の顔を指差して。
「君たちだって知っているだろう? こっちの世界で薬を調達してるってコトは」
「……スッポンとかね……」
会長さんの嫌そうな声。
「それで薬も革新したいと? 配合を変えて貰うとか?」
「もちろんだよ!」
そこは基本、とソルジャーはズラズラと漢方薬の素材の名前を挙げ始めました。外せないらしいスッポンとかオットセイだとか。他にも山ほど、いつの間にこれだけ増殖したのか、と溜息しか出ない私たち。
「それだけあったら充分に革新出来そうだよ…」
早く帰れ、と会長さんが手をヒラヒラと。
「ついでに帰りに店に寄ってね、配合の相談をしてくるといい」
「それはもう! ノルディの家にも寄ってこなくちゃ、漢方薬をガンガン買うなら予算もドカンと必要だから!」
とりあえず各種揃えて一週間分ほど…、とソルジャーはソファから立ち上がって。
「それとね、こっちのハーレイの協力も必要不可欠だよね」
「「「はあ?」」」
なんで教頭先生なのだ、とサッパリ分かりませんでした。伝統と革新はソルジャー夫妻の大人の時間に限定の筈。まるで無関係な教頭先生が何処に関係するのでしょう?
「分からないかな、モルモットだよ!」
「「「モルモット!?」」」
モルモットと言えば実験動物。それと教頭先生がどう繋がるのか意味不明ですが…?
「ぼくのハーレイは薬ってヤツが好きじゃないしさ、あれこれ試して副作用でも出ようものなら、次から新しいのを拒否しまくると思うんだよねえ…」
人体実験時代のトラウマだよね、とソルジャーはキャプテンの薬嫌いの理由をズバリと。
「だけど効くって分かった薬は喜んで飲むし、それでビンビンのガンガンなわけ!」
お蔭で夫婦円満の日々、と満ち足りた顔はいいのですけど。…副作用の有無を調べたいからと、教頭先生をモルモットに!?



「だって、おんなじ身体だしねえ…?」
ヘタレなだけで、と呟くソルジャー。
「鼻血体質で万年童貞、その辺はぼくのハーレイと全く違うけれどさ、身体の造りは同じじゃないかと…」
「薬の耐性が違うだろ!」
会長さんがビシイッと指を突き付けて。
「こっちのハーレイは薬嫌いになるようなトラウマを抱えてないしね、人体実験もされてないから薬に耐性は出来ていないと思うわけ! 同じじゃない!」
「分かってないねえ、君って人は…」
本当に何も分かっていない、とソルジャーは指をチッチッと。
「ぼくのハーレイは漢方薬なんかは投与されていないよ、アルタミラじゃね。こっちの世界じゃ漢方薬はメジャーだけれども、それでも高い。漢方薬の素材が希少なぼくの世界じゃどれほど高いか、何度も言ったと思うけどねえ?」
そんな貴重品を人体実験に使うわけがない、と吐き捨てるように言うソルジャー。
「ミュウは未だに人間扱いされてないしね、アルタミラじゃ酷いものだった。人体実験に割いた予算は膨大だろうと思うけれども、人類にとって貴重な薬を使った実験なんかはしない」
そういった薬は偉い人だけの御用達だ、と聞かされてみれば、スッポンなんかもそうだったような気が…。
「そうさ、スッポンはとっても高価! スッポン料理はごくごく一部のお偉いさんしか食べられないって話だよ」
ぼくだってこっちの世界でしか本物のスッポンは見たことがない、と続いてゆく話。
「けっこう簡単に養殖出来るスッポンでも貴重品なんだ。他の漢方薬のレア度は高いし、ぼくのハーレイへの実験に使ったわけがない。当然、耐性がある筈が無い!」
漢方薬に関してはどっちのハーレイも条件は同じ、とソルジャーの自信は絶大でした。
「だからね、まずはこっちのハーレイで試して、副作用が無いのを確認してからぼくのハーレイに渡すわけ! それでバッチリ!」
こっちのハーレイに頼まなくっちゃ、とウキウキする気持ちは分かりますけど。大人の時間に役立つ薬を教頭先生で試そうだなんて、それは酷いと言いませんか? 鼻血体質で万年童貞な教頭先生、しっかり健康体ですよ…?



キャプテンに漢方薬を色々投与したいのに、副作用は困ると言うソルジャー。まずは教頭先生で試し、大丈夫ならばキャプテンに…、という作戦を立ててますけど、問題は薬。大人の時間に役立つ薬の効果は当然…。
「君の考えは分かるけどねえ!」
ぼくの迷惑も考えてくれ、と会長さんがブチ切れました。
「怪しげな効果を持った薬をハーレイが次々試すんだろう? その度に何が起こるのさ!」
「えっ、ハーレイが元気になるっていうだけじゃないか」
大事な部分が元気モリモリ、と笑顔のソルジャー。
「ただそれだけのことだしねえ? 君が迷惑を蒙る理由は何も無いかと」
「大ありだよ!!!」
あのハーレイを舐めるんじゃない、と会長さん。
「普段はヘタレでどうしようもないのが基本だけれども、発情期があると言っただろう! いわゆるモテ期! 自分はモテると思い込む発作!」
「…言われてみればあったね、そういうのも」
「副作用でソレが出ないって根拠が何処にあるわけ!?」
相手は怪しげな漢方薬だ、と会長さんは眉を吊り上げています。
「もしも副作用でモテ期に入ったら、熱烈なアタックを仕掛けて来るから! 迷惑だから!」
「モテ期対策、一応あるんじゃなかったっけ?」
冷たくあしらった挙句に渡された花束を踏みにじるヤツ、とソルジャーは流石の記憶力。
「備えあれば患いなしって君が言ったよ、対策があるなら無問題!」
「そこまでの間が問題なんだよ!」
会長さんの方も負けじと。
「ヘタレなハーレイでさえ、モテ期になったら凄いんだ。漢方薬で元気モリモリな状態でモテ期に入っちゃったら、花束どころかホテルに引っ張り込まれそうだよ!」
「瞬間移動で逃げればいいだろ?」
「ぼくがトラウマになるんだよ!」
ハーレイに会ったら逃げたくなるとか…、と会長さんは既に逃げ腰。とはいえ、教頭先生は会長さんの大事なオモチャで、トラウマになって遊べなくなるのもつまらないらしく。
「そういうわけでね、副作用の危険を伴う元気モリモリはやめてくれたまえ!」
モルモットにするな、と禁止令。でも、ソルジャーが大人しく従いますかねえ…?



「…なるほど、君がトラウマになると…」
そしてハーレイから逃げたくなるのか、とソルジャーは顎に手を当てました。
「そういうのはぼくとしても困るね、君にはハーレイと幸せになって欲しいしねえ…」
「ならなくていいっ!」
でもトラウマになるのも嫌だ、と会長さん。
「とにかく、君も困るんだったら利害は一致してるから! モルモット禁止!」
「うーん…。ぼくは欲しいんだよ、こっちのハーレイの協力が…。だけど君がトラウマを抱えてしまって、ハーレイに近付けなくなるのも嬉しくないし…」
どうしたものか、と真剣に考え込んでいるソルジャー。夫婦円満で上手く行ってるなら、伝統だけで充分なのでは? 革新しなくても現状維持でいいのでは、と思いましたが。
「ダメダメ、せっかく素敵な話を聞いて閃いたんだしね? やっぱり革新も必要だよ、うん」
それでこそ夫婦の時間も充実、とソルジャーは全く聞く耳を持たず。
「…どうしようかな、こっちのハーレイ対策ねえ…」
元気モリモリをどうするかだね、と口にした直後。
「そうか、対策は元気モリモリ!」
「「「はあ?」」」
いきなり叫ばれても何のことだか。けれどソルジャーには解決策が見えているようで。
「薬で元気モリモリってトコをフォローしてあげれば、モテ期が来たって平気じゃないかな」
「どういうフォロー?」
会長さんの胡乱な瞳に、ソルジャーは。
「元気モリモリ解消グッズ!」
「「「解消グッズ?」」」
「そう! これで抜けます、って素敵なオカズをバッチリ差し入れ!」
「「「…おかず?」」」
どんな料理を差し入れるのだ、と私たちは首を傾げましたが、会長さんは憤然と。
「君の写真じゃないだろうね!?」
「それしかないだろ、抜けるグッズは!」
えーっと、何が抜けるんでしょう? そもそもソルジャーの写真の何処が料理だと?



理解不能な展開になりつつある話。会長さんとソルジャーはギャーギャーと派手に言い争いで、もう何が何だか…、といった状態。
「…おかずって何?」
ジョミー君が尋ね、キース君が。
「俺に分かるか! 漬物でないことは確かなようだが」
「お漬物なんかじゃないってば!」
ぼくの写真、と地獄耳なソルジャーが割って入りました。
「こっちのハーレイがそれを見ながら盛り上がれるように、うんとエッチな写真をね…。裸でもいいし、見えそうで見えないのもいい感じだよね」
恥ずかしい写真をドカンとプレゼント! とグッと拳を握るソルジャー。
「そういう写真で盛り上がっていれば、モテ期が来たって大丈夫! アタックする先がブルーからぼくに逸れると思うよ、恥ずかしい写真の先へ進みたい気分になるってね!」
「き、君は…!」
何という危険なことをするのだ、と会長さんが震え上がって。
「先に進みたい気分になったら、ハーレイはぼくを狙うじゃないか!」
「平気、平気! 恥ずかしい写真はぼくのだから!」
おまけにぼくならもれなくオッケー、とソルジャーは親指を立てました。
「モテ期のハーレイ、常軌を逸しているんだろう? 普段だったら君一筋だけど、タガが外れてしまった時なら何はともあれヤリたい気分! ぼくでもオッケー!」
そしてぼくなら相手が出来る、とソルジャー、ニコニコ。
「こっちのハーレイが是非にと言うなら、しっかりお相手、しっかり手ほどき! それから帰って、ぼくのハーレイと楽しく夫婦の時間を過ごすわけ!」
「浮気はしないって言ってなかった!?」
「伝統と革新のためなら多少のリスクも負うべきだってね!」
それにぼくには美味しい時間、と唇をペロリと舐めるソルジャー。
「ぼくのハーレイの伝統の味も気に入ってるけど、こっちのハーレイの初物っていうのも素敵じゃないか。それでこっちのハーレイに度胸がついたら、いつかは君とゴールインだよ!」
行け行け、ゴーゴー! と拳を突き上げるソルジャーに何を言っても無駄らしいことは明明白白。こうなった以上、副作用が出ないことを祈るしかありません。元気モリモリとやらだけならソルジャーの写真で解決可能という話ですし、それで何とか乗り切れれば…。



ソルジャーにお漬物寿司を御馳走したばかりに、この始末。女物の浴衣を纏ったソルジャーは大人の時間の伝統と革新のためにと、いそいそと帰ってしまいました。自分の世界へまっしぐらだったら構いませんけど、さにあらずで…。
「…やっぱり一番にノルディの家だよ…」
頭を抱える会長さん。思念でソルジャーの行方を追跡中で、今はソルジャー、エロドクターの家に滞在中とか。
「夫婦の時間の伝統と革新に協力お願い、と強請ってるんだよ、お小遣いを!」
「…それはアレだな、漢方薬を買う費用だな?」
キース君が訊けば、「うん」と答えが。
「色々と処方を変えてみたいから、と頼んでいるねえ…。こっちのハーレイをモルモットに仕立てる話まで披露しているよ。…ええっ!?」
「どうした!?」
何があった、とキース君。私たちだって知りたいです。いったい何が、と会長さんに視線が集中。会長さんは赤い瞳を零れ落ちそうなほどに大きく見開いていましたが…。
「……嘘だろ、ぶるぅだと思っていたのに……」
「かみお~ん♪ ぼくがどうかした?」
「えっと、ぶるぅが違うんだけど…」
「ああ、ぶるぅ! ぶるぅ、元気にしてるかなあ?」
海の別荘、とっても楽しみ! と顔を輝かせる「そるじゃぁ・ぶるぅ」。ソルジャーの世界に住む瓜二つの「ぶるぅ」は大親友で、会うと仲良く遊んでいます。夏休みの定番、マツカ君の海の別荘へのお出掛けの時は「ぶるぅ」も当然、やって来るわけで。
「今度はぶるぅがどうしたと?」
悪戯か、とキース君。「ぶるぅ」と言えば悪戯小僧の大食漢。エロドクターの家に降って湧いたかと思ったのに。
「…そうじゃなくって…。ぶるぅの出番だと思っていたら…」
ノルディだった、とソファに突っ伏す会長さん。えーっと、話が全然見えませんけど…?
「……恥ずかしい写真……」
消え入りそうな声が聞こえて来ました。恥ずかしい写真が何ですって?
「…ぶるぅに撮らせるんだと信じていたのに、ノルディだったんだよ…」
これから撮影会だって、と会長さんは激しく落ち込み中。自分そっくりのソルジャーがエロドクターに恥ずかしい写真を撮らせるんなら、死にたい気分になるかもですねえ…。



エロドクターのプレゼントだという女物の浴衣が乱れた写真やら、ヌードやら。更にはエロドクターが趣味で集めたエッチな衣装とやらも登場、ソルジャーは大量の恥ずかしい写真を撮って貰って御機嫌だとか。
「…救いはノルディが同じ写真を持ってないトコかな…」
そういう契約だったらしい、と語る会長さんの額に冷却シート。貼っていないと気が遠くなりそうなのだ、と愚痴りたい気持ちはよく分かります。ソルジャーはエロドクターの手元には一枚の写真もデータも残さずサヨナラ、花火見物の約束を改めて交わしただけで。
「今度はいつもの漢方薬の店に突撃中だよ…」
ソルジャー御用達の品を用意しようとした店員さんを止め、ああだこうだと相談中。スッポン多めだの、オットセイ多めだのと幾つもの処方を検討していて、決まったものから他の店員さんが配合を。今日の所は七種類ほど用意してくれと言っているそうで…。
「次は一週間後にまた、とか言ってる。お店の方でも上得意だからレアな薬を仕入れておくって約束してるよ、どうなるんだか…」
あんな薬でハーレイにモテ期が来てしまったら、と会長さんが泣けど嘆けど、止まらないのがソルジャーで。漢方薬店で七通りの配合をして貰った薬の袋を抱えて、大本命の教頭先生の家へとお出掛け。会長さんは額の冷却シートを押さえながら。
「…ぶるぅ、頼むよ。ぼくはもうダメ…」
「かみお~ん♪ 中継したらいいんだね!」
パアッと壁がサイオン中継の画面に変わって、浴衣姿のソルジャーが教頭先生の家の玄関チャイムを押している所。浴衣は綺麗に着付けられてて、変な写真を撮らせていたとは思えませんが…?
「…ああ、あれね…。ノルディの家には使用人も大勢いるってね…」
他の衣装で撮ってる間に綺麗にお手入れ、と会長さんの解説が。そうした部分までサイオンで覗き見してたんだったら、疲れ果てるのも無理はありません。「そるじゃぁ・ぶるぅ」は無邪気なお子様ですから、中継内容が何であろうと全く問題ないですし…。
タッチ交代と映し出された画面のお蔭で、会長さんの言葉で聞くより臨場感はグッと増しました。教頭先生が玄関を開けて、「どうぞ」とソルジャーを招き入れています。
「悪いね、突然お邪魔しちゃって」
「いえ、御遠慮なく。…暑いですから、冷たいお茶でも如何ですか?」
「それよりアイスクリームとか…。冷たくて甘いお菓子がいいねえ」
我儘放題なソルジャーの腕にはしっかりと漢方薬店の袋。教頭先生、どうなるんでしょう…?



「…ほほう、伝統と革新ですか…」
漬物の世界も深いのですねえ、とソルジャーの話に相槌を打つ教頭先生。甘いものが苦手な筈の教頭先生の家の冷凍庫にはお値段高めのアイスクリームが各種揃っていたようです。あまつさえパフェ専用の器に三種類を盛り、シロップ漬けのフルーツでトッピングまで。
「漬物も奥が深いだろう? あ、美味しいね、このアイスクリーム」
「ありがとうございます。本当に食べて欲しい人には素通りされているのですが…」
夏場はきちんと揃えています、と教頭先生が挙げたラインナップには甘いゼリーや寒天なども。ソルジャーは「いいね」と大きく頷き。
「この夏は無駄にならないよ、それ。ぼくが毎日来てあげるから!」
「は?」
「実はね、君の手を借りたくて…。正確に言えば身体かな? 毎日一種類ずつサンプルを試して欲しいんだよ」
「…サプリですか?」
教頭先生の質問はもっともなもの。ソルジャーは「ううん」と首を横に振ると、「これ!」と漢方薬店の袋を差し出しました。
「いつもお世話になってる店でね、ぼくのハーレイも愛飲していてビンビンのガンガン! その店で相談に乗って貰って、夫婦の時間の革新を目指して行こうかと」
「…はあ…」
「伝統は守りつつ、革新をね! ただ、ぼくのハーレイは基本が薬嫌いなものだから…。副作用でも出たら二度と別の薬を試そうって気にならないだろうし、君に協力して欲しくって」
アソコが元気モリモリなんだよ、とソルジャーは薬の袋をズズイと前へ。
「君が飲んでくれて平気だったら、その薬をぼくのハーレイが飲む。そうやって何種類もの薬を試して、これだと思う薬を見付けて革新を!」
「…し、しかし…。わ、私がそういった薬を飲んでもですね…」
「大丈夫! おかずは山ほど持って来たから!」
好きな写真を選んで抜いて、とソルジャーは懐から分厚い封筒を。
「あ、この場で抜くって言うんじゃないよ? 元気モリモリを抜くのに使える写真だからね」
ぼくの写真の詰め合わせセット、と嫣然と微笑まれた教頭先生は耳まで真っ赤に染まりましたが、鼻血の代わりに「素晴らしいです…」と感動の面持ち。
「分かりました、お手伝い致しましょう!」
「本当かい? それじゃ、今日からよろしく!」
今夜はコレで、と指示を残してソルジャーは消えてしまいました。そして…。



「ハーレイのスケベ!!」
会長さんの怒声が響き渡るのが日常となった夏休み。マツカ君の山の別荘へのお出掛けも済んで、もうすぐお盆の棚経です。それが終われば海の別荘、ソルジャー夫妻と「ぶるぅ」も一緒に海へ。
「このまま行ったら、海の別荘までスケベなハーレイのままなんだけど!」
「落ち着け、別荘での滞在中は薬はやめるとあいつが言ったぞ」
キース君が言う通り、ソルジャーは別荘ライフの間は新しい薬探しは一時休止で、のんびり休暇を楽しむとか。でも…。
「未だに見付かってないって所が問題なんだよ、革新的な薬ってヤツが!」
「…ああ、それねえ…」
会長さんが怒鳴った所へ、ヒョイと空間を超えて来たソルジャー。
「ぼくのハーレイとも話したんだけれど、やっぱり伝統が一番かなあ、って」
「「「は?」」」
「持ちが良くなる薬もあったし、朝まで疲れ知らずのも優れものだってあったけど…。ああいうのはたまに使うから良くて、こう、毎日の夫婦生活にはマンネリこそがいいのかな、とね」
革新もいいけど伝統なのだ、とソルジャーは語り始めました。お漬物と同じで美味しいものには飽きが来ないと、マンネリな日々も飽きていないなら美味しいのだ、と。
「そういうわけでさ、ぼくとしては実験の日々を打ち切ってもいい。ただ…」
「「「ただ?」」」
「ぼくが来るからと、こっちのハーレイが色々とデザートを買ってくれてて、それをまだ全部食べていないんだ」
それにまだまだ買ってくれる予定、と微笑むソルジャー。
「この夏限定ってお菓子もあってさ、予約してくれてる分も沢山あるから…。食べ終わるまでは実験継続! 運が良ければ革新的な薬!」
「ちょ、ちょっと…! そういう基準で実験継続!?」
会長さんが慌てましたが、ソルジャーは。
「そう! それにさ、漢方薬店で聞いたんだけどさ…。副作用が殆ど出ないっていうのが売りらしいしねえ、漢方薬は」
ハーレイのモテ期はきっと来ないさ、と自信たっぷりなソルジャーは目的を既にはき違えてしまっている様子。教頭先生はソルジャーの来訪と夜の薬がお楽しみになりつつあるようです。夏はまだまだ続くんですから、夏限定のデザートだって…。



「なんでこういうことになるのさーーーっ!!!」
会長さんの大絶叫を耳を塞いでかわしたソルジャーは来た時と同じでパッと消え失せ、取り残された形の私たちだけがワタワタと…。
「…まだ続くのかよ、人体実験…」
「そうらしいですね…」
夏っていつまででしたっけ? というシロエ君の言葉で眺めた壁のカレンダー。お盆の棚経がまだということは、八月の後半が丸ごと残っています。
「九月は制服も夏服だよね…」
夏なんだよね、とジョミー君が肩を落として、キース君が。
「暑さ寒さも彼岸まで、とか言うからなあ…」
「秋のお彼岸までは夏ってわけね…」
当分は夏ね、とスウェナちゃん。終わりそうにない夏と、夏限定のデザートと。ソルジャーがすっかり食べ尽くすまでは、教頭先生は怪しい薬のモルモットで…。
「…始まりは漬物だった筈だが…」
「何処で間違えたんでしょう?」
分からないね、と溜息をつく私たち。実験終了の日も分からなければ、ソルジャーの趣味も分かりません。伝統を守ると言ったかと思えば、運が良ければ革新だとか。夏の終わりまで続くかもしれない、迷惑な日々。教頭先生が楽しんでらっしゃるんなら良しとしておくべきですかねえ…?




           お漬物と伝統・了

※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
 お漬物の話から、とんでもない展開になってしまったわけですけれど…。
 作中の「お漬物寿司」は実在してます、けっこう美味しいお寿司でオススメ。
 シャングリラ学園シリーズ、4月2日で連載開始から10周年を迎えます。
 11周年に向けて頑張りますので、これからも、どうぞ御贔屓に。
 次回は 「第3月曜」 4月16日の更新となります、よろしくです~! 

※毎日更新な 『シャングリラ学園生徒会室』 はスマホ・携帯にも対応しております。
 こちらでの場外編、3月は、恒例の春のお彼岸。例によってスッポンタケの法要。
 ←シャングリラ学園生徒会室は、こちらからv









※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
 バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。




お花見シーズンが終わると暫くは静か。桜だ、屋台だと押しかけて来ていたソルジャー夫妻と「ぶるぅ」が来なくなるからです。ようやっと今年も終わってくれた、と思う一方、気が抜けたような寂しさも少し…。
「次の波乱はいつだと思う?」
ジョミー君の問いに「要らないから!」と、みんなで即答。放課後の「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋は平和でなんぼで、別の世界からのお客様が起こす波乱なんかは要りません。
「お前な…。こないだまで迷惑だと言ってたくせに」
喉元過ぎれば忘れるのか、とキース君。
「俺たちだけでの平和な花見は今年も不可能だったんだぞ!」
「そうでしたねえ…」
今年もですね、とシロエ君が深い溜息を。
「ぼくたちだけでのお花見っていうのは、もう永遠に不可能だって気がしてきましたよ」
「おいおい、弱気になるんじゃねえよ!」
言霊って言うぜ、とサム君が割って入りました。
「口に出したら負けなんだよ。こう、勝つんだっていう気持ちでいかねえと!」
「そうでしょうか…」
「仏の道だって同じなんだぜ、挫けてちゃ前に進めねえんだよ」
いくらお経が長ったらしくても覚えなければ、とサム君ならではの前向きな台詞。
「こんなの覚えられるかよ、って思ってたのも頑張れば覚えられるしよ…。要はやる気だぜ」
「でも…。お花見と仏道修行は別物ですよ」
お花見はレジャーで仏道修行は修行なんです、とシロエ君。
「修行は遊びじゃ出来ませんしね? ぼくたちはお花見をレジャーと捉えているわけで」
「だよね、修行は要らないよね!」
ジョミー君が乗っかったので、「お前が言うか!」とキース君が軽くゴツンと。
「お前が次の波乱と言うから、こういう話題になったんだぞ!」
「そうだっけ?」
「そうですよ!」
お前だ、お前だ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋は今日も賑やか。ソルジャーたちがいなくても充分賑やかだよね、と思っていたら…。



「こんにちは」
いきなり背後で聞こえた声。バッと振り返ると、フワリと翻る紫のマント。
「やあ。こないだのお花見以来だねえ」
ソルジャーが立っているものですから、会長さんが不機嫌な声で。
「何しに来たのさ?」
「ん? ちょっと…。ぶるぅ、今日のおやつは?」
「かみお~ん♪ イチゴとピスタチオのムースケーキだよ!」
上がイチゴで下がピスタチオ、と二層になったムースケーキを指差す「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「美味しそうだね、じゃあ、それと…」
「いつもの紅茶? ちょっと待っててねー!」
用意するね、とササッと出て来たケーキのお皿と紅茶のカップ。ソルジャーは空いていたソファにドッカリと座り、早速ケーキを頬張って。
「うん、美味しい! イチゴのムースもピスタチオもいいね」
「でしょ、でしょ? 色もとっても綺麗なの~!」
褒めて貰った「そるじゃぁ・ぶるぅ」は跳ねてますけど、会長さんが。
「ケーキはともかく…。君の用事は?」
「ああ、用ね! ちょうどタイミングがピッタリかな、と」
「「「タイミング?」」」
「そう! 修行がどうとか、レジャーがどうとか」
まさにそういう話をしたかったのだ、と言われて飛び交う『?』マーク。
「修行だって?」
「それにレジャーですか?」
レジャーはともかく、修行の方。ソルジャーが修行に興味があるとは思えませんけど…。
「あ、やっぱり? ぼくは修行は嫌いに見える?」
「当たり前だよ!」
コツコツ地道な努力というのは嫌いだろう、と会長さん。
「結果はパパッと出る方が好きで、努力の成果も直ぐに出ないと文句たらたらかと」
「まあね」
否定はしない、という答え。だったら何処から修行なんかが…?



「…ずいぶん前に聞いた話を思い出してね」
修行と聞いて、とソルジャーは紅茶を一口飲んで。
「ノルディとランチに行った時かな、それともディナーだったかな? ちょっと変わった修行が話題になったんだよ」
「滝行かい?」
会長さんの問いに「ううん」とソルジャー。
「滝に打たれるのは普通なんだろ、こっちの世界じゃ」
「…普通じゃないけど、まあ、スタンダード?」
「修行と聞いたらすぐに頭に浮かぶ図ではあるな」
俺はやらんが、とキース君が頭を振って、会長さんが。
「璃慕恩院ではやらないからねえ…。ぼくが一時期、行ってた恵須出井寺ではやるんだけどね」
「あんたもやっていたんだったな…」
でもってサイオンでズルだったな、と言われて蘇る会長さんの修行時代。滝行だの水垢離だのはサイオンシールドでズルをしていたと聞いています。それでも修行はしたんですから、伝説の高僧、銀青様が存在しているわけですが…。
「なるほど、ブルーも滝行をねえ…。でもね、ノルディの話はそんなんじゃなくて、武者修行だって言ってたよ?」
「「「武者修行!?」」」
それは武道の道だろうか、と思ったのですが。
「なんてったかなあ、何処かの会社の新人研修みたいなもの?」
「「「は?」」」
新人研修で武者修行。やはり武道か、と考えたのに。
「違う、違う! いきなり外国に放り出されて、この国の言葉は一切禁止! 喋ったらそこで研修終了、強制的に帰国させられた上、出世の道も断たれるらしいよ」
「「「えーーーっ!!!」」」
なんと恐ろしい会社なのだ、と震え上がった私たちですが。
「その研修でさ、逞しく生き残る方法は個人の自由なんだな。現地溶け込みでバックパッカーな生活も良しで、住み込みで料理修行とかもアリ」
そうやって楽しく自分を鍛えて修行を積むのだ、という話を聞いたら「面白そうだ」とも思えてきました。そっか、楽しい修行もあるんだ…。



ソルジャーがエロドクターから教えられたらしい、何処かの会社の新人研修。期間中に得て来た体験を元に、後に会社の企画を立てたりする人もあるのだそうです。一見トンデモな修行に見えても楽しい上に役に立つのか、と皆で感心していたら。
「それでね、前からちょっと考えていたことがあるんだよねえ…」
武者修行の話がヒントになって、と微笑むソルジャー。
「楽しく修行って素敵じゃないかい? しかも無事に終えたら御褒美だしね?」
出世への道が開けるのだ、とソルジャーは例の会社を挙げました。途中で投げたら出世コースはオジャンですけど、無事に終えれば誰でも漏れなく出世コースへのスタート地点に立てるとか。それまでの経歴も何も関係なくって出世への道。
「…それは美味しい話かもしれんな」
特に俺には羨ましいな、とキース君。
「坊主の道で出世するのは大変なんだ。スタート地点は出た学校で多少変わるが、後は一切、裏道無しだ。努力以外に方法は無いし、ついでに楽しい方法でもない」
「だろうね、本物の修行じゃねえ…」
「外国の仏教寺院で頑張ってみました、と言った所で何の評価もされないからなあ…」
坊主の階級とは無関係だ、というキース君の嘆き。
「ある程度の階級に達してからやれば、同じ外国の寺院行きでもググンと評価が上がるんだが…。上手く行ったら璃慕恩院でのお役目もつくが、ヒラの坊主ではどうにもならん」
出世のためには修行を積んで、ある程度階級を上げるしかないのだ、という厳しい世界。修行イコールお念仏とか、璃慕恩院とかの「本山」とつくお寺で開催される研修道場。中には住職の資格を取る時の道場と同じくらいにキツイ修行もあるのだそうで…。
「そいつを何回も繰り返すという猛者もいるがな、それでも階級は上がらない。あくまで積んだ修行の年数だ。年功序列の世界なんだ」
出世へのコースを楽しく開く方法は無い、と残念そうなキース君。お坊さんだから仕方ないんじゃあ、とも思いますけど…。
「まあな。坊主が楽して出世していたら、それこそアレだ」
「うんうん、坊主丸儲けってね。こっちの世界じゃそう言うらしいねえ…」
それで、とソルジャーが話を引っ張り戻して。
「楽しく修行で、終えたら御褒美! それもいいかな、と提案しにやって来たんだけれど」
どう? と訊かれても何が何だか。私たちに何処かで修行をしろと?



どこぞの会社の新人研修の武者修行。楽しそうではありますけれども、私たちには入社予定はありません。今後も多分、一生、シャングリラ学園特別生。会社とは縁が無さそうだよね、と頷き合っていると。
「えっ、君たちにやれって言うわけじゃないんだけれど?」
「じゃあ、誰が?」
ぼくはそこまで暇じゃないしね、と会長さん。
「ぶるぅの部屋で過ごす時間も大切、ぼくの家でのんびり過ごすのも大切。ぼくの女神と過ごす時間はもっと大事で、修行なんかはしてられないね」
楽しくってもお断りだ、と天晴な言葉。ところがソルジャーの方は「そうかなあ?」と首を捻っています。
「ある意味、楽しいと思うけどねえ? 修行をするのは君じゃないけど」
「誰なのさ、それ?」
「こっちのハーレイ!」
もちろん修行はうんと楽しく、とソルジャーは胸を張りました。
「常々、どうにかならないものかと…。あのヘタレっぷり!」
「ちょ、ちょっと…! ヘタレで修行って…!」
「ヘタレ直しに決まってるだろう!」
これぞ本当の修行なのだ、とソルジャー、ニコニコ。
「普通の方法じゃ挫折するのが見えているしね、武者修行コースがお勧めなんだよ」
「「「武者修行コース?」」」
「そう! 楽しく修行を積んでいってね、ゴールインしたら御褒美なわけ!」
楽しい修行と目の前のニンジン、この二つがあれば無事に乗り切れると踏んでいるのだ、とソルジャーは唱え始めました。
「ぼくの考えとしては、こっちの世界のラジオ体操? あれがいいかと」
「「「ラジオ体操?」」」
どう楽しくて修行なのだ、とサッパリ意味が不明でしたが、ソルジャー曰く、修行の過程を記録するのがラジオ体操方式だとか。
「こっちじゃアレだろ、夏休みとかに子供が参加した時はカードにスタンプが貰えるんだろ?」
「それはそうだが…」
「要はスタンプカードなんだよ、修行一回につきスタンプが一個!」
カードが埋まれば御褒美なのだ、という解説でやっと納得。なるほど、スタンプカードですか…。



「スタンプカードってヤツは全部埋まると色々あるよね?」
割引だとか粗品を進呈だとか、とソルジャーはなかなかに詳しい様子。エロドクターからせしめたお小遣いで買い物をしたりしていますから、スタンプカードも貰ったことがあるのでしょう。いい加減な性格をしているだけに、せっかくのカードも行方不明になりそうですけど。
「あっ、分かる? 何度も作って貰うんだけどねえ、埋まらないねえ…」
その前に青の間で埋まっちゃってね、と舌をペロリと。片付かない青の間のゴミに埋もれて消えるそうです、スタンプカード。
「だけどハーレイは律儀だからねえ、ぼくと違ってキッチリ管理! その辺はこっちの世界のハーレイも同じ性格だと見た!」
「うん、まあ…。そうではあるけど」
真面目にスタンプを集めているよ、と会長さん。教頭先生がお持ちのスタンプカードの代表は家の近所のパン屋さんだそうで、食パンなどを買えば金額に応じてスタンプがポンッ! と。
「全部埋まると金券になるんだ、頑張ってコツコツ集めているよ」
持って行くのを忘れた時にはレシートに印を付けて貰って次回にスタンプ、という話。
「へえ…! そこまで律儀なら武者修行コースも頑張れそうだね」
「その前に一つ訊きたいんだけど…」
どういう修行? と会長さんは正面から疑問をぶつけました。
「ヘタレ直しだとか言い出した以上、普通じゃないよね、その修行」
「だから楽しく!」
楽しく頑張ってヘタレ直し、とソルジャーは人差し指をピシッと立てて。
「いつかは君との結婚だよねえ、こっちのハーレイの未来の目標! それに備えてヘタレ直しで、スタンプが無事に埋まった時には君とのキスとか、一晩一緒に過ごすとか…」
「却下!」
なんでそういうことになるのだ、と会長さんは叫びましたが、ソルジャーが何かを思い付いたら一直線が毎度のコース。
「ぼくは素敵だと思うんだよ」
是非ハーレイに武者修行を! とグッと拳を握るソルジャー。
「修行の中身は楽しく覗き! ぼくとハーレイとの大人の時間!」
ガッツリ覗けばスタンプ一個、と飛び出した台詞に誰もが目が点。そりゃあ覗きは素敵でしょうけど、鼻血大王な教頭先生には無理なんじゃあ…?



「…ぼくも正直、難しいだろうとは思うけどさ」
思うんだけどさ、とソルジャーはニヤリと笑みを浮かべて。
「場数を踏むのも大切だしねえ、たとえ鼻血でも覗きに来たならスタンプでいいと思うわけ」
「…ぼくは手伝わないからね!」
そんな修行は手伝わない、と仏頂面の会長さん。
「ハーレイを覗きツアーに送り出すようなサイオンは持っていないから! 瞬間移動も空間移動もお断りだし、鼻血のフォローもお断りだよ!」
「ああ、その点なら問題ないから!」
ちゃんと話はつけてきたから、と笑顔のソルジャー。
「送り迎えは任せて安心、ついでにスタンプも押すってさ」
「「「誰が!?」」」
そんな協力者が何処にいるのだ、と驚きましたが。
「ぶるぅに決まっているだろう!」
ソルジャーは自信たっぷりに言い放つと。
「趣味と実益とを兼ねてるんだよ、ぶるぅにとっては。普段は何かと叱られがちな覗きを堂々と出来るわけだし、一緒に覗いてくれる仲間も出来るわけだし」
「「「………」」」
あの「ぶるぅ」か、と大食漢の悪戯小僧を思い浮かべて誰もが溜息。おませな「ぶるぅ」は大人の時間の覗きが大好き、いくらソルジャーに叱られようとも懲りずに覗くと聞いています。
「ぶるぅはホントに好きだからねえ、覗きってヤツが…。ぼくのハーレイは見られていると意気消沈なタイプだけにさ、ぼくも色々と気を遣うんだよ」
ぶるぅがいるな、と気付いた時にはシールドだとか、と語るソルジャー。
「とにかくハーレイに気付かれないよう、覗きの存在を隠さないとね? ずうっと昔は叱ってたけど、ぼくがぶるぅを叱った時点でハーレイはガックリ意気消沈だから…」
そのまま朝まで元気にならないことも多くて、と嘆き節。
「それでは話にならないからねえ、ぶるぅの存在を隠しておく方がマシだと気付いた。ぼくは見られていても平気で挙動不審にはならないからさ」
見られていると燃えるタイプでなくて良かった、と言われましても。見られていると承知で大人の時間を続行出来る神経、タフとしか言いようがないのでは…?



キャプテンとの時間を覗き見されても平気だと言い切るソルジャーのクソ度胸。「ぶるぅ」に教頭先生の世話を任せて、ついでに送り迎えもさせて。覗き一回でスタンプが一個、たまれば会長さんとのキスだか素敵な時間だか。
「ナイスアイデアだと思うんだよ!」
是非やりたい、とソルジャーは赤い瞳を煌めかせました。
「ちょうど新人研修の春! 春といえばヤバイ意味もあるしさ、この季節に是非!」
「「「…ヤバイ?」」」
春の何処がどうヤバイのだ、と頭の中を探ってみれども、答えは無し。入学式の季節で桜の季節。ピカピカのランドセルとか新入生とか、どの辺がヤバイということに…?
「分からないかな、人類最古の職業って説もあるんだけれど?」
「退場!!」
会長さんが突き付けているレッドカードも意味がサッパリ。人類最古の職業の何処がヤバイか、謎は深まる一方です。ソルジャーは「有名なんだよ」と笑みを深くして。
「いわゆる売春! 春をひさぐとか言わないかい?」
「「「………!!!」」」
ソレか、と流石に知っていた言葉。そうか、人類最古の職業なんだ…?
「そうらしい、って説が流れてるだけで裏付けは全く無いらしいけどね? 実際は他にあったんじゃないかと思うけどねえ、春を買えなくても死にはしないし」
同じ春なら食生活に直結している種イモだとか種の類を売るべきだろう、というのも一理。どうやら売春が人類最古の職業という説はただの俗説、事実じゃないな、とは思ったものの。
「ともあれ、春はそういう意味も持ってる言葉で最高の季節! ヘタレ直しの武者修行をするなら春がピッタリ!」
やっていいよね、と決め付けの世界。
「こっちのハーレイにはぼくから話を通すし、君たちは何もしなくていいよ。…とはいえ、それも退屈かなあ?」
「退屈じゃないし!」
どうでもいいし、と会長さんは怒鳴りましたが。
「そうだ、サイオン中継はどう? ぶるぅは喜んで中継係もすると思うよ、自分の腕前を自慢しまくるチャンスだからね」
ぼくの恥ずかしい写真を何度も撮影してきた熟練、と言われて頭を抱える私たち。「ぶるぅ」が覗きを中継だなんて、迷惑としか言いようがないですってば…。



絶対に嫌だ、お断りだと皆で断りまくって遠慮して。中継不要で一切関与はしないコースで、と切望どころか哀願したのに、頼むだけ無駄だった馬耳東風が基本のソルジャー。
「それじゃ、話はつけておくから! お楽しみにねー!」
週末から早速、武者修行! とソルジャーの姿がパッと消え失せ、会長さんが真っ青な顔で。
「…どうしよう…」
スタンプが埋まったらエライことに、と瞳に浮かんだ絶望の色。ソルジャーは御褒美まで勝手に決めてしまったのです。会長さんのキスでは押しが足りない、と素敵な一夜。会長さんと過ごす一夜をプレゼントする、と超特大のニンジンを用意。
「…なんとか逃げようはあるだろうが!」
サイオニック・ドリームを見させておくとか、とキース君。
「その辺はあいつも充分に承知してると思うが? あんたが真面目に相手をしないということくらいは計算済みかと」
「…それはそうだけど、そんなプレゼントはしたくない…」
ハーレイに美味しい思いをさせるのは嫌だ、と言いたい気持ちは分かるかも。でも…。スタンプカードが全部埋まったら特典がつくのが世の常で…。
「うーん…」
この際、特典を勝手に変えるのもいいだろうかと会長さんは言い出しましたが、それはソルジャーに筒抜けになると思います。「話が違う」と怒鳴り込まれるとか、無理やり教頭先生のベッドに送られるだとか、如何にもありそう…。
「やっぱりそうかな?」
「…そう思います…」
沈痛な顔のシロエ君。私たちもコクコク頷き、会長さんは。
「……仕方ない、スタンプが集まらないことを祈ろう」
スタンプカードが埋まらなかったら特典は貰えないのだし、と出ました、正論。
「そうか、その手があったのか!」
目から鱗だ、とキース君がポンと手を打ったものの。
「…でもねえ…。スタンプを押すのがぶるぅだからねえ…」
評価が思い切り甘いかもね、という見解。
「「「あー…」」」
甘いかもなあ、と悪戯小僧の大食漢を頭に思い描いて「駄目か」とガックリ。始まってみないことには分かりませんけど、覗き仲間が出来た嬉しさで気前よくポンポン押しそうですよ…。



そうこうする内に迎えた週末。ソルジャーが武者修行を始める日だと指定した土曜日です。自分の家でサイオン中継を食らうのだけは勘弁ですから、会長さんの家に泊めて貰うべく、みんなでお出掛け。お泊まり用の荷物を手にして訪ねてみれば。
「かみお~ん♪ いらっしゃい!」
入って、入って! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお出迎え。
「ブルーも来てるよ、お昼御飯はフカヒレ丼とシューマイ色々なの!」
「…そうか…」
そのメニューならアイツが湧くな、とキース君。特にイベントというものが無くても、豪華メニューや美味しそうな食べ物でソルジャーは湧いて出て来るもの。今日は中継初日なだけに湧くだろうとは思ってましたが、こんなに早くから湧かなくっても…。
肩を落としてトボトボとリビングへ入ってゆくと、噂のソルジャーが腰掛けていて。
「やあ。こんなのも作ってみたんだよ」
「「「………」」」
何なのだ、と訊くまでもなく答えはちゃんと分かっていました。これを一目見て分からなければ馬鹿だろうとも思いますけど…。
「なんなの、これ」
ジョミー君の問いに、ソルジャーは「見て分からない?」と呆れた顔。
「何処から見たって土鍋だろうと思うけどねえ?」
「「「……やっぱり……」」」
土鍋だったか、と見下ろす土鍋。冬場の鍋には欠かせないもので、「そるじゃぁ・ぶるぅ」と「ぶるぅ」のお気に入りの寝床でもある土鍋ですけど、なんと言おうか…。
「……超特大?」
スウェナちゃんが呟き、マツカ君が。
「そうとしか言えない大きさですね…」
「何の料理をするんだ、これで?」
何人前を作るつもりだ、とキース君が尋ねると、返った答えは。
「うーん…。あえて言うならハーレイ鍋かな?」
「「「ハーレイ鍋!?」」」
どんな料理だ、と想像もつかないハーレイ鍋。こんな大きな土鍋を使ってハーレイ鍋って、それはどういう料理でしょうか…?



「…料理じゃないけど?」
ハーレイ鍋と言ったらハーレイ鍋だ、とソルジャーは超特大の土鍋へと顎をしゃくって。
「これはぶるぅの土鍋と同じ仕様になってるんだよ、冷暖房完備の防音土鍋」
「「「…まさか…」」」
「そう、こっちのハーレイ専用の土鍋!」
避難場所として用意したのだ、とソルジャーは威張り返りました。
「スタンプを押しての武者修行の件、ハーレイは乗り気なんだけど…。ぶるぅと違って慣れないからねえ、覗くタイミングが難しい」
「それで?」
会長さんの不機嫌な声に、「それで土鍋の出番なわけだよ」とソルジャーがパチンとウインクを。
「ぶるぅに連れられて空間を超えたら、まずは土鍋でスタンバイ! ぶるぅが蓋を開けて呼ぶまで中で待つのさ、呼ばれたら出て来て覗きをする、と」
「そんな目的のために君は土鍋を!?」
「うん。急ぎの注文だけにクルーには迷惑かけちゃったねえ…」
不眠不休で土鍋作りになっちゃって、と全く悪いとも思っていない様子のソルジャー。迷惑をかけたと言うのだったら、お礼はきちんとしたんでしょうね?
「えっ、お礼? なんか要らないって慌ててたけど?」
「「「へ?」」」
不眠不休で作業したのに、お礼は要らないとはこれ如何に。ソルジャーは一番偉い立場なだけに「お礼をくれ」とは言い出せないとか? でも、それなら慌てる必要は…。
「お礼を貰ったら祟られると思っているんだろうねえ、土鍋だけに」
「「「はあ?」」」
ますます謎だ、と首を捻れば、「土鍋だから!」という返事。
「ぼくのシャングリラで大きな土鍋を使っているのはぶるぅだけ! その何倍も大きな土鍋を作らせたんだよ、ぶるぅの注文でなければ何だと!」
「「「ぶ、ぶるぅ…」」」
「そう! ちょっと訊くけど、ぶるぅからお礼を欲しいかい?」
「「「そ、それは……」」」
要らない! と叫んだ私たち。悪戯小僧の大食漢からお礼となったら何が来るやら分かりません。最悪、御礼参りもありそうです。ソルジャーの世界で超特大の土鍋を作った人たちの気持ちが飲み込めました。それは慌てて断りますってば、不眠不休の作業のお礼…。



超特大の土鍋の効能をソルジャーは得々と語ってゆきます。
覗きのタイミングを待つまでの間、防音だから何も聞こえなくて鼻血の心配が無用だとか。覗きをしていて鼻血が出たって、一旦退避してまた戻れるとか。
「なにしろ防音は完璧だしね? 鼻血が治まる頃にはクライマックスに突入してるって可能性もあるし、そこでもう一度覗けるといいよね」
「…覗いたら最後、即死じゃないかと思うけど?」
会長さんの冷たい一言。
「それで死んだらスタンプは無しって結果になるんだよねえ?」
「なんで? その辺はぶるぅが決めることだよ」
スタンプ係はぶるぅなんだし、とソルジャーはニコリ。
「こっちのハーレイがどのタイミングで鼻血を噴いたか、ぼくはそこまで感知してない。ぶるぅに任せたからには全てお任せ、ハーレイとの時間を楽しむのみ!」
キッチリ隠れろと言っておいた、と自信も満々。
「普段のぶるぅはシールドなんかは張りもしないで覗きをやらかしに出て来るけどねえ、こっちのハーレイの武者修行となればシールドなんかも必要だよ、うん」
「ぶるぅが言いつけを聞くのかい?」
「それはもう!」
報酬は毎日支払われるから、と斜め上な台詞。
「「「報酬?」」」
「ぼくが払うつもりでいたんだけどねえ、ダメ元でこっちのハーレイに訊いた。そしたら「武者修行をさせて頂けるのですし」と二つ返事でオッケーだったよ、ぶるぅの報酬!」
「……どんな報酬?」
会長さんがおっかなびっくり口にしたのですけど、ソルジャーは「普通!」と明快に。
「ぶるぅにお礼をするんだったら基本は胃袋! グルメな報酬!」
要は食べ歩きの費用を出せばいいのだ、とは至言で正論。教頭先生は「ぶるぅ」の食べ歩きのためにお小遣いを支払い、「ぶるぅ」は前払いで受け取った報酬でグルメ三昧をするそうです。
「今日の分を払って貰ったからねえ、どの店に行こうかとワクワクしてるよ。こっちの世界には美味しい食べ物が山のように揃っているものだから」
「「「あー…」」」
フカヒレ丼とかシューマイとかか、と「ぶるぅ」の行きそうな店が頭にポポン! と。今日は一日中華三昧とか、きっとそういうコースですよ…。



教頭先生の覗きに備えて、超特大の土鍋まで用意したソルジャー。会長さんの家に夕食時まで居座り、「ガーリック臭いキスでもいいよね?」などと言いつつ焼き肉パーティー。私たちがスタミナをつけるつもりで「そるじゃぁ・ぶるぅ」に頼んでいたのに…。
「あいつがスタミナをつけてどうする!」
火に油だ、とキース君が怒鳴った、ソルジャーが帰った後のダイニング。教頭先生が初の覗きにお出掛けなのに、大人の時間が派手に繰り広げられそうな気が…。
「教頭先生よりも前にだ、俺たちの方が問題なんだが!」
一部始終を中継されてしまうんだぞ、と言われて背中に冷たいものが。スタミナたっぷりでキャプテンと大人の時間なソルジャー。そんなものを延々と見せられましても…。
「断れないわけ?」
遮断するとか、とジョミー君が案を出しましたけれど、会長さんは。
「……ぼくの恥を晒すことになるけど、実はぶるぅにも勝てないんだ、ぼくは」
「「「えぇっ!?」」」
「…ぶるぅはブルーに丸投げされてシャングリラの面倒を見ていることもあるしね。サイオン全開だと三分間しか持たないだなんて言われているけど、経験値が高すぎなんだってば」
ゆえに中継の遮断は無理だ、と聞いて全員が仰ぐ天井。
「……見るしかないのか……」
キース君が呻いて、シロエ君が。
「…そうみたいですね…」
しかもこれから当分の間、という死刑宣告にも等しい言葉。スタンプカードは三十個押せる仕様なのだ、とソルジャーが自慢してましたっけ…。
「…スタンプを三十個ってコトになればよ…」
一ヶ月かかるってコトなんだよな、と嘆くサム君。
「それもぶるぅがバンバン押したら一ヶ月ってだけでよ、簡単に押してはくれなかったら…」
「…一ヶ月どころか半年になっても仕方ないのか…」
そこまでなのか、とキース君が唱える南無阿弥陀仏のお念仏。
「バンバン押して欲しいよ、スタンプ…」
ジョミー君の意見に賛成ですけど、バンバン押されて三十個目のが押されたならば。
「やめてくれよ、俺のブルーの立場が最悪なことにーーーっ!」
それだけは嫌だ、と頭を抱えるサム君は今も会長さんとは公認カップルな仲でした。朝のお勤めがデート代わりな健全極まりないお付き合いだけに、その展開は嫌でしょうねえ…。



泣けど叫べど、来るものは来る。それがこの世の習いというもの、避けて通れない道もあるもの。私たちが右往左往している間に「準備オッケー!?」と元気な思念が。
『えとえと、中継、始めていーい?』
「「「来たーーーっ!!!」」」
ぶるぅだ、ぶるぅだ、と走り回っても逃げ場は無し。それどころか無邪気なお子様、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が「ぶるぅだぁーっ!」と躍り上がって飛び跳ねて。
「んーとね、中継画面は何処でもいいよーっ!」
『分かったぁー!』
おっきいのがいいね、と思念が返って、ババーン! とリビングの壁一面に青の間が。
「「「あああ……」」」
もう駄目だ、と床に突っ伏しながらも好奇心で画面にチラリと視線。周りを見回せば誰もがチラチラ、なんだ、やっぱり気になるんじゃない! でも…。
「土鍋だね…」
「土鍋ですね…」
私たちの世界のシャングリラ号の青の間にそっくりなソルジャーの青の間。天蓋つきの大きなベッドが据えられた空間、其処の床にドドーン! と巨大な土鍋。あの中に教頭先生が、と思う間もなく「こんな感じーっ!」と透視で映された土鍋の中身。
「「「きょ、教頭先生…」」」
なんて姿に、としか言いようがありませんでした。「そるじゃぁ・ぶるぅ」と「ぶるぅ」の寝姿でお馴染みのコロンと丸くなっての猫もどきな土鍋の中での姿勢。教頭先生はそれを取っておられ、窮屈そうに身体を丸めておられます。
おまけに誰がそうしろと言ったか、スーツでもラフな服でもなくってキャプテンの制服。マントまで着けて丸まった姿は「ハーレイ鍋」以外の何物でもなく。
「…あの服、実は伸縮性がバッチリでねえ…」
あの姿勢で土鍋に入るんだったら最適だろう、と会長さん。
「カッチリした服に見えるんだけどね、なにしろ仕事がキャプテンだから…。場合によってはシャングリラの舵を握るわけだから、スーツみたいに動きにくくちゃ話にならない」
「…柔道着でも良かったんじゃあ?」
ジョミー君が訊けば、会長さんは。
「そりゃあ柔道着の方が動きやすいし丸まりやすいよ? だけどブルーの好みじゃなさそう」
ハーレイ鍋だと言ったからにはアレなんだろう、という会長さんの読み。そっか、ハーレイ鍋ですもんねえ…。



そんな会話をしている間に、青の間のベッドに現れた人影。奥のバスルームから仲良く出て来たソルジャー夫妻というヤツです。バスローブ姿で髪の毛が濡れているようですが…。
『えっとね、第一ラウンドはもう済んでるのーっ!』
バスルームで一発ヤった後なの、と「ぶるぅ」の思念波。
『だから余裕の第二ラウンドなの、覗きをするにはピッタリなのーっ!!』
二人の気分が盛り上がってるからいい感じなの、と「ぶるぅ」の解説。普段は見られないプレイを見られるかもとか、うんと濃厚な中身になるとか。
「…おい、耳を塞いでもいいと思うか?」
キース君が両手を耳にやり、シロエ君が。
「目を瞑ってもいいんでしょうか…」
こう、と目を閉じて両手で耳を押さえたシロエ君ですが。
「え? ええっ?」
「どうした、シロエ!」
「無駄みたいです、キース先輩!」
ぶるぅの力を舐めてました、という悲鳴で私も試してみました。目を瞑って両手で耳をギュウッと…。あれ? あれれ、全然関係ない!?
「見えるんですけど…」
マツカ君が呆然と呟き、スウェナちゃんも。
「聞こえてくるのよ、耳を塞いでも…」
「「「つ、つまり…」」」
どうしようもないということかーーーっ! と響き渡った大絶叫。「ぶるぅ」はモザイクをかけるサービスはしてくれましたが、止まらないのが口での解説。ああだこうだと専門用語を連発しまくり、それに被さるソルジャー夫妻の大人な時間の声の数々。
「…し、死にそう…」
「寝るな、ジョミー! 眠ると死ぬぞ!」
確実に死ぬぞ、と言われなくても容易に想像出来ました。ウッカリ眠ったら思念中継がダイレクトに脳に来るわけですから、本当に永眠しかねません。私たちは鼻血も出さない万年十八歳未満お断りですが、オーバーヒートはするんですってば…。



「うう……」
朝か、とキース君の呻き声で目が覚めて周りをキョロキョロと。朝日が射し込む会長さんの家のリビングは死屍累々で、亡骸が無い人は会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」だけ。
「…ぼくたち、死んでた?」
「そうらしい…」
やはり死んだか、とキース君が唱えるお念仏。どの辺で自分が討ち死にしたのか、覚えている人はいませんでした。
「…確か、ぶるぅが土鍋の蓋を…」
「開けるからね、って言ってましたね…」
でも、と考え込む私たち。超特大の土鍋の蓋が開く所は誰も目にしていないようです。その前に頭がオーバーヒートで、鼻血の代わりに煙がプシューッ! と。煮えたぎって煙を噴いた脳味噌はブラックアウトし、結果的に「ぶるぅ」の中継を遮断した模様。
「…スタンプが押されたか、そうでねえかも分からねえんだな…」
「俺たちでさえ、この有様だ。無理だったんじゃないかと思うが…」
まず無理だろう、とキース君が口にした時、リビングのドアがバアン! と開いて。
「かみお~ん♪ みんな、目が覚めたーっ!?」
朝御飯~っ! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が飛び込んで来て、その後ろには会長さんが。
「やあ、おはよう。…地獄の一丁目は終わったってね」
「「「一丁目?」」」
「残り二十九丁って勘定になるかな、三十丁目まで」
「「「じゃ、じゃあ……」」」
その先が出ない私たちに向かって、会長さんは「押されちゃったよ」と額を押さえて。
「ぶるぅはスタンプを押したんだ。ハーレイは土鍋から出るなり鼻血を噴いたわけなんだけれど、ぶるぅにとってはグルメ三昧をさせてくれる大事なスポンサーだしね?」
一個目のスタンプはサービスらしい、と大きな溜息。
「これで一個だから、残りはうんと頑張ってね! と言ってたよ」
「…だったら今後はサービスのスタンプは期待薄だということか?」
キース君の震える声に、会長さんは。
「そうらしい。…グルメ三昧の日々を続けたかったら、ぶるぅはスタンプを出し渋るだろう。地獄の三十丁目が遠ければ遠いほど、グルメな日々が続くんだしねえ…」
一ヶ月どころか一年かも、という怖すぎる話。私たちはいったい、何回死んだら…。



そうやって何度も死んで、死に続けて、それでも貯まらない教頭先生のスタンプカード。押されたスタンプは一個から増えず、教頭先生の武者修行は終わる気配も無いままで。
「…このままだと俺たちが先に死ねるな…」
「本当にお迎えが来そうですよね…」
いつか目が覚めない時が来るかも、というシロエ君の言葉に誰もがブルブル。こんな形で死ぬ日が来るとは夢にも思いませんでした。死んだ時には誰を恨めばいいのでしょう?
「…ぶるぅでしょうか?」
「そうじゃねえだろ、ブルーの方だろ!」
「だけど…。どっちも化けて出るだけ無駄っぽいわよ?」
「「「あー…」」」
うらめしや~、と出てもスルーをされそうな二人。ソルジャーも「ぶるぅ」もどこ吹く風で知らんぷりとか、サイオンでヒョイと散らされるとか…。
「駄目か…」
「あの二人は恨むだけ無駄でしょうねえ…」
「そうだ、教頭先生じゃないの?」
化けて出るなら其処なんだよ、というジョミー君の意見で「おおっ!」とばかりに光を見付けた私たちですが。
「…ちょっと待て。化けて出るより、教頭先生に武者修行をやめて頂くのが筋なんじゃないか?」
そうしたら誰も死なん筈だぞ、とキース君に言われて気付きました。夜な夜な超特大の土鍋へと出掛ける教頭先生をお止めしたなら、もう誰も…。



「…今頃になって気が付いたんだ?」
フワリと翻る紫のマント。現れたソルジャーは「はい」と右手を差し出して。
「これがこっちのハーレイのスタンプカード。君たちが買ったらカードは紛失、再発行は無しってね。大負けに負けて、こんなのでどう?」
「「「………」」」
たったそれだけの値段で買えるもののために死に続けたのか、と叫びたくなるワンコイン。まさに犬死に、教頭先生だけがいい目をなさっていたんじゃあ…?
「さあねえ? ハーレイの鼻血も楽しかったけど、君たちのオーバーヒートもねえ…」
クスクスクス…と笑うソルジャーに弄ばれたか、はたまた「ぶるぅ」とタッグを組んでの悪戯なのか。訊きたいですけど、それを訊いたらカードを売ってはくれないかも…。
「「「買います!」」」
教頭先生には悪いですけど、カードは紛失扱いで! 再発行は二度と無いそうですけど、ワンコイン、払わせて頂きますね~!




             武者修行の春・了

※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
 教頭先生が始めてしまった、とても迷惑な武者修行。付き合わされる方が大変。
 終わらせる方法、早く気付けよ、といった感じですよね、本当に…。
 そして相も変わらず使えないのがwindows10 、どんどん酷くなっているとか…。
 次回は 「第3月曜」 2月19日の更新となります、よろしくです~! 

※毎日更新な 『シャングリラ学園生徒会室』 はスマホ・携帯にも対応しております。
 こちらでの場外編、2月は、恒例の節分の七福神巡り。今年も、やっぱり…。
 ←シャングリラ学園生徒会室は、こちらからv









※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
 バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。




除夜の鐘も初詣も三が日も済み、冬休みも残り数日ですが。私たちは今日ものんびりまったり、会長さんの家で過ごしていました。お正月っぽい料理も飽きる頃だと今日のお昼は牡蠣とホウレンソウのグラタンなどなど。美味しく食べつつ、ワイワイガヤガヤ。
「教頭先生、今年もおせちを沢山用意してたとか?」
ジョミー君の問いに、会長さんが。
「決まってるだろう、用意してない筈がない。和洋中とドッサリ揃えていたよ」
「そうか、今年も無駄になったか…」
申し訳ないことをしたな、とキース君。教頭先生は私たちが年始回りに出掛けることを見越して例年、おせちを用意していらっしゃいます。役に立つ年もあればハズレ年あり、ハズレの年が圧倒的に多め。
「別に無駄にはなってないからいいじゃないか」
今年もしっかり有効活用、と会長さんに罪の意識は全く無し。私たちが行かなかった年のおせちはシャングリラ号のクルーに振る舞われると聞いています。シャングリラ号自体は宇宙でお正月を迎えてますから、交代要員で地球にいる現役クルーの皆さん用で…。
「いいかい、おせちの大盤振る舞いでハーレイの人気は高いんだよ? 問題ない、ない」
「そうだろうか…」
「そうだってば! おせちが残らなかった年には不名誉な噂も立っているしね」
金欠だということになるのだ、と会長さんは冷たい笑み。
「豪華おせちのパーティー無しだろ、そういう噂が立って当然! 新年早々麻雀で大負けしたとか、年末から負けが込んでいるとか、ロクなことにはならないんだってば」
ゆえに今年は名誉な年になったであろう、という話。そういうことなら別にいいかな…、と笑い合っていたら。
「新年早々、楽しそうだねえ…」
「「「!!?」」」
いきなり背後で聞こえた声。もしや、この声は…!
揃ってバッと振り返った先で優雅に翻る紫のマント。来たか、と思うよりも先に挨拶が。
「えーっと、あけましておめでとうかな?」
今年もよろしく、と出ました、ソルジャー。平和な冬休みは終わったかな…?



新年の挨拶をされたからには返すのが礼儀。仕方なく「あけましておめでとうございます」と返せば、「ハーレイからも今年もよろしく、って」とソルジャーからの伝言が。
「ハーレイは今日はちょっと抜けられなくってねえ…」
「今日はパーティーでも何でもないから!」
来なくていい、と会長さん。けれどソルジャーは澄ました顔で。
「用が用だし、ハーレイも居た方が良かったと言うか、居るべきというか…」
「「「は?」」」
「その前に、ぼくも昼御飯!」
其処のグラタンとか…、という注文に「そるじゃぁ・ぶるぅ」がキッチンへと。おかわり用だったらしいグラタンが間もなく焼き上がり、スープなども出て来てソルジャーは早速パクパクと。
「うん、美味しい! ニューイヤーのパーティーでも色々食べたけれども、やっぱり地球には敵わないねえ…」
「それで用事って何なのさ?」
会長さんが訊くと「食べてから!」という返事。まずは食事が優先なのか、と私たちも食事を続行しました。食卓の話題はソルジャーの世界のニューイヤーパーティーやら、私たちの年末年始やら。和やかに食べて話している内に用事などすっかり忘れ果ててしまい…。
「「「御馳走様でしたー!」」」
美味しかったあ! と合掌すれば、「そるじゃぁ・ぶるぅ」がパパッと手早くお片付け。リビングに移動し、食後のお茶を兼ねた飲み物とお菓子なんかがテーブルに。
「かみお~ん♪ ブルーもゆっくりしていってね!」
「うん、もちろん。最初からそのつもりだしね、ぼくは」
それにササッと済むような用でもないし…、と言われて思い出した用件とやら。
「ちょ、ちょっと待って。ホントに用があったのかい?」
言葉の綾ってヤツじゃなくて、と会長さんが尋ねると「そうだけど?」という返事。
「ちゃんと言ったよ、ハーレイからもよろしくと!」
「何なのさ、それ!」
「これ!」
ドンッ! とテーブルの上に置かれたバスケット。そういえば来た時に提げてたような…?



リビングのテーブルに籐製のバスケット。ソルジャーの持ち物にしては変ですけれども、現れた時に持っていたのをチラッと見かけた気がします。食事中は床に置いていたのか、はたまた先にリビング辺りに瞬間移動で飛ばしたか。
どちらにしても一瞬しか目にしなかった筈のバスケットがしっかり、ドッカリ。小さな子供が提げると丁度くらいのサイズの品で、お菓子なんかも詰めて売られるサイズです。キャプテンからも「よろしく」だったらお遣い物の一種でしょうか?
「えーっと…。これが何か?」
くれるのかい? と会長さんが口にした途端。
「貰ってくれる?」
「えっ?」
「いや、君が貰ってくれるんだったら万事解決、ぼくのハーレイも喜ぶってね」
「なんだって?」
解決って何さ、と会長さん。
「いわゆる貢物だとか? これを貰ったら君たちのために何かしなくちゃいけないとか?」
「うーん…。貢物とは違うんだけど…。まあ、お願いには違いないかな」
「「「お願い?」」」
「そう、お願い」
とにかく見てくれ、とソルジャーはバスケットの留金をパチンと外しました。
「「「………」」」
鬼が出るか蛇が出るか、はたまたオバケか。つづらの中から大量のオバケは『舌切り雀』の欲張り婆さんの末路だったか、と記憶しています。あれは大きなつづらですから、こんな小さなバスケットとなれば宝物を希望なんですが…。
誰もが息を詰めて見守る中で、バスケットの蓋がパカリと開いて。
「要は問題はコレなんだよ」
「「「へ?」」」
なんで、とバスケットの中身に視線が釘付けの私たち。其処にはクッションみたいなものが詰められ、その上にコロンと卵が一個。鶏の卵サイズの青い卵がコロンと一個…。
「ま、まさか、これって…」
「「「ぶるぅの卵?!」」」
会長さんの言葉に続いて叫んだ私たちですが。なんで「ぶるぅ」の卵なんかが?



鶏の卵サイズの青い卵は見慣れたと言うか、お馴染みと言うか。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が得意としている変身技で、新入生歓迎のエッグハントでは必ず化けます。そういった変身技とは別に、六年に一度の孵化イベント。卵に戻ってゼロ歳からやり直すという大切な節目の行事も…。
「えとえと…」
その「そるじゃぁ・ぶるぅ」がバスケットの中身を覗き込んで。
「ぶるぅ、卵になれたっけ?」
「「「さあ…?」」」
そうとしか答えられませんでした。ソルジャーの世界に住む「そるじゃぁ・ぶるぅ」のそっくりさんが「ぶるぅ」です。悪戯小僧の大食漢ですが、卵に化けられるかどうかは知りません。
「ぶるぅ、卵になっちゃったの? こないだ誕生日パーティーしたばかりなのに…」
ねえ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」の顔には不安が一杯。「そるじゃぁ・ぶるぅ」も「ぶるぅ」も誕生日はクリスマスですし、その日あたりにパーティーが恒例。去年の暮れにはクリスマス当日に盛大に祝い、クリスマスイブにもパーティーで盛り上がっていたのですが…。
「そるじゃぁ・ぶるぅ」は六年に一度卵に戻って、子供にリセット。ちゃんと記憶は引き継ぐくせに、永遠のお子様コースです。卵になってから孵化までの日数は早い時にはたったの一日だったりしますが、「ぶるぅ」の方はどうなのでしょう?
「ねえねえ、ぶるぅは卵になったらどうなるの? いつ出てくるの?」
「さあねえ…? 生憎、ぼくにも分からないねえ…」
実は用とはその件で、とソルジャーは卵を指差しました。
「ニューイヤーのイベントが終わった後でね、青の間で発見したんだよ、これを」
「「「発見?」」」
「いつものコースさ、ぼくの青の間は散らかり放題! 今日あたりお掃除部隊が突入するから、ってハーレイが頑張って片付けをしてて…。ほら、恥ずかしいモノとかが落ちてたら困るし」
大人の時間のアイテムとかね、と悪びれもせずに言われましても。
「そんなモノくらい片付けたまえ!」
みっともない、と怒鳴る会長さん。
「そういうモノをね、散らかしておこうっていう神経が全然分からないけど!」
「え、だって。盛り上がってる最中に片付けるなんて不可能じゃないか」
だから適当にその辺に…、と解説されても困ります。つまりはキャプテン、変なモノがゴミに紛れていないか、頑張って掃除をしてたんですね…?



「早い話がそういうことだよ。でもってコレを見付け出した…、と」
ゴミに紛れて落ちていたのだ、とソルジャーは指で卵をつつきました。
「君はぶるぅが消えていたって気が付かないわけ!?」
「そこまで酷くはないつもりだけど?」
「ゴミに紛れていたんだろう!」
そんな状態になるまで気付かないなんて、と会長さんは怒りを通り越して呆れた様子で。
「保護者失格にも程があるんだよ、これがぶるぅの親だなんて…」
「ぼくとハーレイ、どっちがママかは未だに決着がついてないしね」
親の責任と言われても困る、とソルジャーはいけしゃあしゃあと。
「その辺もあって、こっちの世界に相談に…ね」
「いつ孵化するのか訊きたいとか?」
「えっと…」
「孵化のタイミングは外からじゃ絶対分からないから!」
会長さんの言葉に私たちも揃って頷きました。ずうっと昔に初めて卵に戻った時。クリスマスに孵化させてあげないと、とソルジャーたちまで動員して泊まり込みで見守っていましたけれども、会長さんのお手製の検卵器で覗いても何も分からなかったのです。
「それはぼくだって覚えているよ。中身はぼんやりしていただけで…。何も無いな、と思っていたのに次の日に孵ったんだっけね」
「知ってるんなら、君も黙って待っていたまえ!」
「でもねえ…。ぼくの世界のぶるぅの卵は全く事情が違うものだから」
どうなるんだか、とソルジャー、溜息。
「なにしろ基本が石なんだってば。指先くらいの白い石が変化を遂げて卵になる。だから殻だって石で出来てるし、こっちのぶるぅの卵みたいに光で透かして見られないんだ」
「だけど見かけの問題だけだろ?」
「その後も違う。こっちのぶるぅは孵化する直前も同じサイズのままだよね? ぼくの方のぶるぅは卵がぐんぐん大きくなるから」
最終的にはこのくらい、と示されたサイズは両手で抱えるくらいの大きさ。それはデカイ、と思うと同時に、そこまで育つのに何日かかるか首を捻る羽目に陥りました。「そるじゃぁ・ぶるぅ」みたいに一日で育つこともあるのか、はたまた何日もかかるのか、どっち…?



「ぶるぅは一年かかったからねえ…」
クリスマスから次のクリスマスまでだ、とソルジャーは卵を指先でチョンチョンと。
「こっちのぶるぅは早けりゃ一日コースだよね?」
「そうだけど…。ぶるぅも最初に生まれて来た時は一年ほどかかったよ、孵化するまでに」
それで「ぶるぅ」は? と会長さん。
「卵に戻ってるって話は聞いたことが無いから、けっこう早いと思うんだけど?」
「早いも何も、一度も卵に戻っていない!」
だから全く分からないのだ、とソルジャーは胸を張りました。
「この卵がどのくらいで孵化するかなんて、ぼくにもハーレイにも全くの謎!」
「だったら、ぼくにも分からないってば!」
訊かれても困る、と会長さん。
「その辺は黙って待つしか無いねえ、孵化するまで。育ってくると言うんだったら、それで大体分からないかい? 孵化しそうな時期」
「面倒なんだよ、温めるのが! こっちのぶるぅは温めなくても孵化するらしいけど、ぼくの方のは…」
「………。温めたんだっけね、君とハーレイが」
それで未だに揉めていたっけか、と会長さんは頭を振って。
「御愁傷様としか言いようがないけど、そういうことなら孵化するまでは温めるんだね」
「ぼくとハーレイの大人の時間はどうなるんだい!?」
「元から気にしていないじゃないか!」
そのせいで凄いのが生まれただろう、と会長さん。「ぶるぅ」はソルジャーとキャプテンが大人の時間を繰り広げるベッドで一年間も温められた挙句に、胎教のせいか物凄い「おませ」。今も平気で大人の時間を覗き見している子供です。
「あんなのが生まれた勢いなんだし、どうせ普段から見られてるんだし? 孵化するまでの間も今までと同じでかまわないだろうと思うけど?」
「ぶるぅだったらそうするよ!」
「「「は?」」」
ソルジャー、なんて言いました? これは「ぶるぅ」の卵なのでは…?



「ぶるぅ」だったら大人の時間もお構いなしがソルジャーの流儀。しかし話が何処か変です。「ぶるぅ」だったらそうするのだ、って、この卵…。
「もしかして…。ぶるぅの卵じゃないのかい、これは?」
会長さんが目を丸くすれば、、ソルジャーは。
「残念ながら…。いくらぼくでも、ぶるぅがいなけりゃ気が付くよ、うん。ニューイヤーのイベント期間中はぶるぅもテンションが上がっているから、悪戯多めで」
シャングリラの何処かで騒ぎが起こる、という話。すると「ぶるぅ」が卵に戻ったとしても、ゴミに埋もれるほどの長い間は放置されないと言うか、流石に探し回るとか…?
「そういうことだね、姿を隠して超ド級の悪戯なんかを計画してたら大変だしね?」
「じゃあ、これは…」
「ズバリ言うなら、第二のぶるぅ!」
「「「ええっ!?」」」
まさかの二個目の「ぶるぅ」の卵? 悪戯小僧が更に増えると…?
「ぶるぅそっくりのが生まれて来るのか、大人しいのが生まれて来るかは謎なんだ。とにかく、ぶるぅの弟か妹が入ってるんだよ、この卵には」
「「「うーん…」」」
想定外としか言えない、この展開。「ぶるぅ」だけでも大概なのに、卵が二個目。「ぶるぅ」のママすら決まってないのに、卵が二個目…。
「どうするんだい、これ…」
一年間温めて孵すんだよね? と会長さんが訊くと、ソルジャーは。
「それで相談に来たんだってば、今後のことで!」
「胎教だったら、君たちのやり方はお勧めしないよ」
ぶるぅが増えるよ、と会長さん。
「弟か妹かは知らないけれども、孵化した後には覗きが二人になると思うね」
「……やっぱり?」
「ぶるぅで身をもって知ってるだろう! 絶対、ああなる!」
「そうなんだ…?」
それは非常に困るのだ、とソルジャーはバスケットの中の卵をチョンとつついて溜息再び。
「君たちにも何度も言っているとおり、ぼくのハーレイは見られていると意気消沈で…」
ぶるぅだけでも大変なのに…、と嘆くんだったら、今度はきちんと対処してみれば?



おませな「ぶるぅ」に悩まされているというソルジャー夫妻。「ぶるぅ」の件で懲りたのであれば、二個目の卵は慎重に温めて孵化させるのがベストでしょう。とんでもない胎教などは論外、身を慎んで温めてやれば「そるじゃぁ・ぶるぅ」みたいな良い子が生まれるかも…。
「禁欲生活あるのみだね」
会長さんがビシッと言い放ちました。
「孵化するまでに一年間なら、一年間! しっかり禁欲、そして良い子を孵化させるんだ」
「…いい子に育ってくれないと困る。困るんだけれど、禁欲も困る」
一年間も我慢できない、とソルジャーの本音。
「ぼくのハーレイだって同じなんだよ、だからよろしくと!」
「何をよろしく?」
温め方ならもう言った、と会長さん。
「君たちだって分かってるんだろ、それしかないっていうことは! 悪戯小僧を増やさないためにはキッチリ禁欲、増えていいなら好きにしたまえ」
「増えるのも禁欲も困るんだよ!」
だけど卵は来てしまったし、とソルジャー、ブツブツ。
「ぼくもハーレイも必死にあれこれ考えたんだよ、最悪、捨てるというのもアリかと」
「捨てるだって!?」
会長さんが叫び、「そるじゃぁ・ぶるぅ」も真っ青な顔で。
「ダメダメダメ~ッ! 捨てちゃダメだよ、死んじゃうよう!」
「…だろうね、放り出したらね」
だから捨てるのは断念した、とソルジャーはいとも残念そうに。
「捨てるのが一番早いんだけどね、解決策としては」
「殺生の罪はどうかと思うが…」
キース君が呟き、会長さんも。
「感心しないね、捨てるコースは」
「そうだろう? 仕方ないから考えた末に、ちょっといい方法が見付かったわけで」
「それについてぼくに相談したいと?」
「そのとおり!」
話が早い、とソルジャーは嬉しそうですけれど。いい方法とは何なのでしょう?



ゴミの中から発見されたという二個目の「ぶるぅ」の卵とやら。捨ててしまおうとまで考えたらしいソルジャー夫妻が見付けた「いい方法」とは…、と誰もが拳を握っています。相談に来たと言うのですから、場合によってはトバッチリとか、と警戒していれば。
「こっちの世界には居るよね、カッコウ」
「「「格好?」」」
格好をつけて禁欲を装い、その実、裏では…、という流れでしょうか?
「バレバレだろうと思うけどねえ、格好だけつけても君たちの本音は」
胎教を甘く見るんじゃない、と会長さんの厳しい視線。けれど…。
「違う、違う、そっちの格好じゃなくて…。鳥のカッコウ」
「ああ、あれか…」
いるね、と会長さんが頷き、キース君も。
「今の季節は鳴いていないが、俺の家の裏の山でもよく聞く声だな」
「それ、それ! そのカッコウがいいんじゃないかと…」
「どんな風に?」
会長さんの問いに、ソルジャーは。
「カッコウで卵の話なんだよ、分からないかな? ズバリ、托卵!」
「「「托卵?」」」
「カッコウって鳥は自分で卵を孵す代わりに他の鳥の巣に産んで行くんだろう? でもって卵を孵して貰って、世話もさせてさ」
「そうだけど…。って、君はまさか!」
その托卵を、と会長さんがブルブルと震える指で示したバスケット。
「相談と言えば聞こえはいいけど、ぼくたちに卵を預けようとか!?」
「ピンポーン♪」
大正解! と明るい声のソルジャー。
「ハーレイも賛成してくれていてね。それが最高の方法ですね、と」
「だ、誰に托卵…?」
「えっ? ぼくとしては誰でも気にしないけど?」
当番を決めて回してくれても…、とソルジャーはサラリと言ってくれましたが、ぶるぅの卵は回覧板とは違いますから~!



「「「……卵……」」」
どうするんだ、と顔を見合わせる私たち。こんな卵を押し付けられても困ります。「そるじゃぁ・ぶるぅ」の卵みたいに孵化が早くて鶏の卵サイズだったら、一万歩譲って回り持ちで世話も出来るでしょうが…。
「これは育つと言ったよね?」
会長さんが確認をすれば、「うん」という返事。
「最終的にはこのくらいだねえ…」
両手で示された大きなサイズに、そんな卵はとても回せないと思いました。バスケットに収まるサイズどころか、登山用のリュックか長期旅行用のバックパックが必要なサイズ。でなければ巨大風呂敷に包んで背中に背負うしかありません。
「順番に回すのは無理だよ、それ…」
ジョミー君が言って、サム君も。
「絶対無理だぜ、そんなデカイの学校に持っては来られねえよ」
「ですよね、会長かぶるぅが瞬間移動で運んでくれるんなら別ですけれど…」
シロエ君の意見に、スウェナちゃんが「シーッ!」と。
「解決策を喋ってどうするのよ!」
「そ、そうでした…」
「なるほど、ブルーが運んでくれるなら回すのもアリ、と」
それでもいいよ、とソルジャーは笑顔。
「ぼくたちでは面倒を見られないから、君たちにお願いしたいわけだし…。回してくれても親が増えるだけで、特にグレたりはしないと思うな」
要は覗きをしない子が育てば無問題だ、という話。おませでなければ他は問わない、と極論を述べるソルジャーはバスケットの中身を預ける気満々、押し付けて逃げて帰る気満々。
「とにかく、ぼくのハーレイからも是非よろしくと!」
「よろしくされても困るから!」
「困らないだろ、上手く行ったら刷り込みも出来るよ」
孵化した時に当番だった人が親になれるかも、と無責任発言をされましても。「ぶるぅ」の弟だか妹だかの親になりたい奇特な誰かが、この中にいるとは思えませんが…?



「…生みの親より育ての親か…」
そうは言うが、とキース君。
「あんた、そうなっても構わないのか? たとえば俺が親認定とか?」
「いいねえ、君がママなんだね」
とてもいい子が育ちそうだ、とソルジャーはキース君を見詰めて「うん、うん」と。
「ぼくとハーレイの極楽往生を日々、祈ってくれている君がママねえ…。親思いのいい子になると思うよ、間違っても覗きなんかはしないだろうね」
それどころかアイテムをプレゼントしてくれるかも…、とウットリした顔。
「ぶるぅは悪戯と大食いばかりでロクに役には立たないんだけど、親思いの弟か妹の方は大人の時間に役立ちそうなアイテムを探して来てくれるかもね?」
「俺はその手の胎教はせんぞ! 他のヤツらも絶対にしない!」
「ああ、そっち方面には期待してないよ。ぶるぅが色々教えると思うよ、お兄ちゃんとして」
だけど覗きは覚えない良い子、と都合よく解釈しているソルジャー。
「誰が親でも良い子だろうけど、キースが一番いいかもねえ…」
「お断りだ!」
「じゃあ、君たちはぶるぅが増えても構わないわけ?」
「「「うっ…」」」
悪戯小僧が二人になるのか、と誰もが絶句。「ぶるぅ」のせいで散々な目に遭わされたことは一度や二度ではありません。二人に増えたらパワーアップもさることながら、出没回数も増えるでしょう。平和な時間はガンガン削られ、戻ってくる可能性は限りなくゼロ。
「……それは困りますね……」
マツカ君が呟き、ジョミー君が。
「困るなんていうレベルじゃなくって、最悪だし!」
遠慮したいし、という気持ちは全員の心に共通でした。「ぶるぅ」を増殖させたくなければ、ソルジャー夫妻の最悪すぎる胎教を止めるしかないのですけれど。そうしたいなら、もれなく托卵。ソルジャー夫妻の思惑通りに、預かって温めるしか選べる道は無さそうですけど~!



ソルジャーが持ち込んで来た二つ目らしき「ぶるぅ」の卵。そもそも何が孵るのだろう、と見詰めていると、「多分、ぶるぅにそっくりの弟」とソルジャーの声。
「こっちのぶるぅも、ぼくのぶるぅもこういう卵から孵ったしね? ぶるぅの妹って線は無いんじゃないかと思ってる。ぶるぅそっくりの弟だな、って」
「「「はあ…」」」
「きっと可愛い子供だよ? 上手く育てばこっちのぶるぅと同じになるよ」
親次第だよ、とソルジャーは言っていますけど…。
「どうなんだか」
この親にしてこの子ありだ、と会長さん。
「血は争えないって言葉もあってね。自然出産が無い君の世界じゃ死語だろうけど、けっこう当たる。ついでに君は托卵しようとしてるしね?」
「いけないかい? 実際、ぼくもハーレイも卵の面倒を見ている暇は…」
「ぶるぅの時と条件は変わってなさそうだけど? それはともかく、君が言う托卵。カッコウが預けて回った卵から孵った子供はカッコウなんだよ」
親と全く同じなのだ、と会長さんは指摘しました。
「孵化して最初にやらかすことはね、他の卵を捨てること! でないと面倒見て貰えないしね、親鳥にね」
「…それはデータベースで見たけれど…」
「卵を預けようって親も親なら子供も子供! 自分だけがドドーンと巣に居座ってさ、お人好しの親鳥が世話をするんだ。だけど育った子供は親鳥の人の好さを受け継ぎもしないね」
メスだった場合はいずれは托卵に出掛けてゆくのだ、と説かれる自然の摂理。確かにカッコウの子供はカッコウであって、そうでなければ種族が続いてゆきません。
「早い話が、こうやって君が卵を手にした時点で中身は決まっているかもしれない。誰が孵しても、大食漢の悪戯小僧にしかならないかもねえ?」
「「「うわー…」」」
卵を順番に回して、せっせと温めて。悪戯小僧の誕生を食い止めるべく身体を張った挙句に、孵化した子供は悪戯小僧なオチですか!



割に合わねえ、とサム君がぼやいて、キース君が頭を抱えて。ジョミー君は天井を仰いでいますし、シロエ君とマツカ君は半ば呆然。スウェナちゃんと私は言わずもがなです。
「……最悪だな……」
キース君がようやっと絞り出した声に頷くだけで精一杯。こんな卵は御免蒙る、と放り出したいくらいですけど、そうなれば卵は死んでしまうわけで…。
「もう一度訊くけど…」
会長さんがソルジャーの瞳をまじっと見詰めて。
「本当に君たちは温めるつもりは無いのかい? まるで全然?」
「うん、全然!」
忙しいから、とソルジャーはしれっとした表情。
「ぶるぅの時と条件は変わってなさそうだ、って君は言うけど、全然違ってしまっているから! あの頃のぼくたちは夫婦じゃないしね、結婚なんかはしていなかった」
「「「………」」」
やべえ、と誰が言ったやら。ソルジャーが言う通り、「ぶるぅ」の卵を孵化させた時は結婚前の段階です。だって私たちの世界に一番最初にやって来たのは「ぶるぅ」でしたし、ソルジャーの結婚には私たちだって立ち合いましたし…。
「というわけでね、大人の時間は夫婦の時間に進化したわけ! 夫婦円満の秘訣はセックス!」
これが無ければ夫婦じゃない、とソルジャーは威張り返りました。
「ぶるぅの卵を温めた頃は大喧嘩をして口を利かないとか、ごくごく普通にあったしね? 今ではそういう事態になったら、即、セックスして仲直りってね!」
あの頃よりもずっと大人の時間に重きを置いた生活なのだ、と開き直りと言おうか居直りと言うか。要は卵を温めているような暇があったら大人の時間で、とても多忙だと言いたいらしく。
「ぼくたちは毎日忙しいから、卵なんかとても温められない。禁欲どころの騒ぎじゃなくって、もう最初っから無理な注文!」
今頃になって卵を貰っても困るのだ、と卵をくれたらしいサンタクロースにまで文句を言い出す始末。こんな無責任な親に卵を渡したサンタクロースも見る目があるのか、まるで無いのか。
「子はかすがい、って言うんだけどねえ…」
夫婦の絆を深めるためのプレゼントだと思うんだけどね、という会長さんの意見もスルーされてしまい、ただ「迷惑」の一点張り。まったく、どうして二個目の卵を授かることになったんだか…。



卵を温める気なんか毛頭無いらしいソルジャー夫妻。胎教が云々言い出す以前に、二個目の卵が邪魔だったのに決まっています。ゆえにキャプテンからの「よろしく」、ソルジャーが持参したバスケット。預かってくれ、と決めてかかって押し付けにやって来たわけで…。
「そうそう、ぶるぅは凄く楽しみにしてるから! 弟か妹が生まれるから、って!」
だから頼むよ、とズイと押し出されたバスケット。
「ぶるぅの悲しそうな顔は見たくないしね、卵は孵りませんでした、なんていう結末はね」
「だったら君たちが頑張るべきだろ!」
会長さんが怒鳴りましたが、ソルジャーは。
「ダメダメ、ぼくたちが夫婦仲良くしていることもね、ぶるぅは嬉しく思っているしね?」
卵を温めるのに忙しくなって夫婦の仲が悪くなったら本末転倒、とカッ飛んだ自説。
「夫婦円満と、ぶるぅの弟か妹と! 両立させるには托卵あるのみ!」
誰でもいいから温めてくれ、と押しの一手で、引き下がる気などさらさら無くて…。
「ホントに誰でもいいんだってば、誰の家で孵化して親認定で刷り込みされても文句は言わない」
ぼくたちは育ての親で充分、と酷い言いよう。
「実の親は誰か、ってコトになったら、其処はハーレイとぼくなんだけれど…。生まれた子供が間違えていても、ぼくたちはまるで気にしないから!」
本当のママの所へ行ってきます、と出て行かれたって構わないのだ、という身勝手さ。
「…本当のママって…」
「ぼくたちの中の誰かでしょうねえ…」
運が悪かった誰かですよ、とシロエ君。自分が当番に当たった時に卵が孵った不幸な誰か。その人が「ぶるぅ」の恐らくは弟であろう子供のパパだかママだか、刷り込みされて本当の親。
「「「…嫌すぎる…」」」
カッコウの子供はカッコウという説が当たれば、悪戯小僧。外れた場合は良い子かもですが、そうなった場合は本当の親と認定された人は慕われそうです。単独で遊びに来てくれるんなら歓迎ですけど、もれなく「ぶるぅ」も付いて来そうで…。
「どう転んでも、こっちで悪戯…」
「そうなるぞ…」
殺生な、と泣けど叫べど、卵は温めてやらないと死んでしまって殺生の罪。なんでこうなる、と恨みたくなるソルジャーの世界のサンタクロース。いくら「子はかすがい」でも、無責任な親に二個目の卵はプレゼントしなくて良かったんですよ!



将来的に悪戯されるのを覚悟で卵を温めるか、見捨てて殺すか。選ぶまでもなく答えは見えていて、もはや退路は断たれたかのように思えましたが。
「かみお~ん♪ 卵、一人いれば温められるんだよね?」
預けるってことは一人だよね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「ぶるぅも前に言ってたし! 基本はブルーが温めてたけど、たまにハーレイが温めたって!」
「…そうだけど?」
だから順番、と答えるソルジャー。
「これだけの人数が揃ってるんだし、順番に回してくれればそれでオッケー!」
「えとえと…。それならハーレイの家が良くない?」
「「「は?」」」
なんだ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」に視線が集中。そのお子様はニコニコとして。
「えっとね、卵から出て来た時にね…。本当のパパたちと全然別の顔の人がいるより、おんなじ顔をした人の方がいいって思うんだけど…」
「そういえば、こっちにもハーレイがいたねえ…」
「でしょ? ハーレイに頼めばいいと思うよ、卵もそっちの方が良さそう!」
孵ったらちゃんとパパかママの顔だよ、と無邪気な意見。私たちは「よっしゃあ!」と心の中でガッツポーズでしたが、顔には出さずに。
「うんうん、ぶるぅの言う通りだよな。知らねえ顔より、知った顔がいいよな」
「こっちが本当のパパなんですよ、って聞かされた時の衝撃が和らぎそうですよね!」
口々に利点を論っていれば、ソルジャーは。
「…其処はパパじゃなくってママだね。卵を温めるのはママの役目でいいんだよ、うん」
よし! とソルジャーはバスケットの青い卵に向かって。
「とりあえずママの所に行こうか、きっと温めてくれると思うよ、こっちのハーレイ」
なんと言ってもブルーそっくりのぼくからの頼み、と自信満々。
「おまけにハーレイがママだってことになったら、ぶるぅのママだって自動的にハーレイに決定しそうだしねえ? ぶるぅ、素晴らしい意見をありがとう!」
「んと、んと…。ぼくは卵の気持ちを考えただけで…」
「危うく間違える所だったよ、預け先! 托卵は正しく預けないとね」
変な親鳥に預けたら逆に卵を捨てられるそうだし…、とソルジャーはバスケットの蓋をパタンと閉めると、それを持って姿を消しました。行先は教頭先生のお宅でしょうけど、卵、どうなるかな…。



托卵の危機が去ってホッと一息、教頭先生の家の監視は会長さんのお仕事で。サイオンで覗き見していた結果、教頭先生は大喜びでバスケットを預かり、引き受けてしまわれたらしくって。
「うーん…。ハーレイは長期休暇に入るらしいね」
「「「は?」」」
「こんなに上手に子育てしました、ってアピールするわけ、このぼくに! 卵が孵化するまでは休職、理由はこれから考えるらしい」
一年間ほどハーレイで遊ぶのはちょっと無理かも…、と会長さん。
「でもまあ、遊び方は色々あるしね? 産休だか育児休暇だか…。お見舞いってことで遊びに行ったらいいんだよ、うん。例の卵が割れたりしない程度にね」
「「「………」」」
どう遊ぶのかは考えたくもありませんでしたが、例の卵の親と認定されるよりかは会長さんに付き合う方がマシ。それでいいや、と私たちは思考を放棄しました。



そうして数日後に迎えた新学期。学校に教頭先生の姿は無くって、恒例の闇鍋大会が平穏無事に終わるという珍事。もちろん1年A組が勝利を収めたわけですけれども、指名しようにも教頭先生がいなくては…。えっ、誰が代わりの犠牲者かって? それは言わぬが花ってもので。
新学期のお約束、紅白縞のトランクスを五枚は「そるじゃぁ・ぶるぅ」が教頭先生のお宅まで一人で届けに出掛けました。教頭先生は「すまんな」と笑っておられたそうです、ベッドの中で。
「…ホントに真面目に温めてるんだ…」
一年かあ…、とジョミー君。教頭先生は食事も簡単なもので済ませて卵に全てを賭けているとか。
「挙句に悪戯小僧なオチなんですよね、孵った卵は」
「さあな…。良い子の可能性もゼロではない」
その辺の事情を御存知ないというのがな…、とキース君が溜息を。教頭先生は美味しい話だけを聞かされ、御自分の都合のいいように解釈なさって卵の世話に懸命で。それもいいか、と放り投げておいて、一週間ほど経った頃のこと。
「「「孵化しない!?」」」
素っ頓狂な悲鳴が放課後の「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に木霊しました。
「…うん。ぼくもハーレイも今日まで綺麗に騙されててさ…」
こっちのハーレイになんて言おう、と苦悩のソルジャーに、会長さんが「さあね」と冷たく。
「潔く謝って、お詫びにデートでもしてくれば?」
「…それしかないかな…」
「君が自分で温めてればね、もっと早くに分かったんだよ!」
「……そうらしいね……」
どうしようか、と嘆くソルジャーが教頭先生に預けた卵は無精卵どころか真っ赤な偽物。悪戯小僧の「ぶるぅ」が何処かで見付けた石の卵で、ソルジャー夫妻に温めさせて笑うつもりで置いて行ったもので…。
「……教頭先生の長期休暇は?」
三学期はまるっと休むって届けが出てるんだよね、とジョミー君。
「その先の分も出した筈だよ、キャプテンの仕事も全部ひっくるめて一年分ほど」
自業自得と言うんだけども、と会長さん。一年分もの長期休暇を取った直後に撤回だなんて、信用の失墜、間違いなしです。しかも卵は孵らない上、何もかもが「ぶるぅ」の悪戯で…。



「…ぼくたちが預かるべきだった?」
「後悔先に立たずと言います、ジョミー先輩」
なるようにしかならないでしょう、とシロエ君。ソルジャーは教頭先生の所へお詫びに行くための手土産について「そるじゃぁ・ぶるぅ」に相談中で。
「…やっぱり、ぼくのハーレイも一緒にお詫びに行くべきなのかな?」
「えとえと…。ブルー、どうなの?」
「誠意を示すなら夫婦揃って行くべきだろうけど、君がどういうお詫びをしたいか、それにもよるよね」
お詫びにデートなら一人で行くべし、と会長さん。
「早めのお詫びがいいと思うよ、ぶるぅの悪戯でした、って」
「…このぼくも焼きが回ったのかなあ、騙されたなんて…」
あまりの展開に「ぶるぅ」を叱るタイミングも逃してしまったらしいソルジャー。こっちの世界まで巻き添えにしてくれた悪戯小僧が増殖しないことは嬉しいですけど、偽物の卵。私たちが順番に回す道さえ選んでいたなら、教頭先生の長期休暇は無かった筈で…。
「…俺たちも謝りに行くべきだろうか?」
「ややこしくなるからブルーだけでいいよ」
放っておこう、と会長さんは知らん顔。教頭先生の信用失墜、ソルジャーが預けた偽物の卵。諸悪の根源は「ぶるぅ」だったか、托卵を目論んだソルジャー夫妻か。教頭先生、真実を知っても強く生き抜いて下さいね~!




            迷惑すぎる卵・了

※新年あけましておめでとうございます。
 シャングリラ学園、本年もよろしくお願いいたします。
 ソルジャーが持ち込んだ青い石の卵、「ぶるぅ」の悪戯で良かったですよね。
 教頭先生には気の毒でしたけど、本物だったら「ぶるぅ」の弟か妹の誕生ですから。
 シャングリラ学園番外編は、今年もこんな調子で続いてゆきます。
 次回は 「第3月曜」 2月19日の更新となります、よろしくです~!

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 こちらでの場外編、1月は、雪の元老寺でのお寺ライフから。お寺という場所は…。
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