シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。
クリスマスも近い、と浮かれ気分のシャングリラ学園ですけれど。それよりも前に期末試験で、怯えている人も多いです。ところがどっこい、私たちの1年A組は「そるじゃぁ・ぶるぅ」の不思議パワーこと、会長さんのサイオンのお蔭で全員満点に決まってますから…。
「今度の期末も学年一位はいただきだよな!」
「グレイブ先生も喜ぶぜ!」
クリスマスに向けてカラオケの腕を磨いておこう、と努力の方向がズレているクラスメイトたち。今朝も試験勉強なんかは全くしていない中、予鈴が鳴って、グレイブ先生の足音が。
「諸君、おはよう」
本鈴と同時にガラリと教室の扉が開けば、グレイブ先生ご登場で。カツカツと軍人みたいに靴の踵を鳴らして教卓まで行くと、出席簿を開いて出席を取って。
「よし、今日は全員出席、と…。本日は一つ、お知らせがある」
「「「???」」」
今頃の時期にお知らせとなれば、テスト科目の日程変更か何かでしょうか? 無敵の1年A組にとっては大したことではありませんけど、他のクラスには一大事。一夜漬けで勉強するにしたって、組み合わせが変われば予定だって…。
「言っておくが、試験のことではない。…多少は試験に関係するが」
グレイブ先生は黒板に日付を書き付けました。試験の最終日のようですが…。
「この日に行事をすることになった。参加者にはテストとは別の点数がつく」
「「「えっ?」」」
「いわゆる内申と言うべきか…。大学に入る時には多少は役に立つかもしれない」
人物の評価が上がるのでね、とグレイブ先生。たちまちザワつく教室の中。グレイブ先生はチョークを握って新しい文字を。今度は四文字、その文字とは。
「「「制服交換!?」」」
何ですか、と飛んだ質問にグレイブ先生が「知らないのかね?」と呆れたように。
「一時期、話題を呼んだのだがね? まあいい、諸君の頭の程度は期待していない」
制服交換というものは…、と始まった説明。なんでも男女で制服を交換、それを着て登校するというイベント。価値観を見詰め直すための授業とされて、人気を博していたらしく。
「我が校でもやってみようということになった。ただし、無駄な騒ぎは避けたいものだし…」
登校時間が短めで授業も無い日に試験的に、と選ばれた日が期末試験の最終日。参加者は三日後までに制服のサイズを書いて申し込みをすれば、自分サイズの制服が家に届くそうです。卒業生の協力もあるとのことで、自分サイズの制服は間違いなくゲット出来るのですが…。
「どうするかな、アレ…。申し込んだ方がいいと思うか?」
試験の点数とは別となったら、と朝のホームルームが終わった後の教室の中は大騒ぎ。会長さんが試験をフォローするのは1年A組の間だけですし、来年以降は自分で努力あるのみです。大学に推薦で入るにしたって、人物評価は大きいわけで。
「やっぱ、申し込まないとマズイんじゃないか、マイナス評価にされるとか」
「それは困るわ、マイナスだけは!」
「このイベントには会長、無関係なんだよな? 今日、来ていないっていうことはさ…」
クラスメイトは冷静に把握していました。会長さんが教室に現れなければ、その日に何が行われようが、発表されようが、ノータッチだということを。
制服交換などという初のイベントが開催されるのに、教室の一番後ろが定位置の会長さんの机は今朝は増えなくて、会長さんも現れなくて。つまりは一切、関知しないということです。
「会長が絡まないとなったら、制服交換の点数だか評価だかは自力ってことか…」
「うん、弄ってはくれないだろうな、どういう評価にされてもな」
「それじゃ、やるしかねえってことか…。制服交換っていうヤツを」
「そうみたいねえ、女子はズボンになるだけだからまだマシだけれど…」
男子にはキツイ行事だわね、と女子たちが見詰める男子の足元。
シャングリラ学園の制服は男子はズボンで女子はスカート、これだけは厳しく徹底されています。学校によっては女子用ズボンもある御時世に女子はスカート一本槍で。
「そ、そうか、俺たちはもれなくスカートなのか…!」
「グレイブ先生、サイズは必ずあるって言っていたしな、あるんだろうなあ…」
俺のサイズでも、と自分の顔を指差す、一番ガタイのいい男子。長年、特別生をやってますけど、あそこまでガタイのいい女子生徒は目にした覚えがありません。先輩から借りると言いつつ、サイズの無い分は作るんだろうな、と容易に想像がつきました。
「スカートとはひでえな、この寒いのによ…!」
「あら、分かってるんなら女子の気分を味わいなさいよ、ちゃんと制服交換をして!」
価値観を見詰め直すんでしょ、と女子の突っ込み。そういう価値観ではないような気がしますが、スカートだとズボンよりも冷えることは事実。それもあって冬の今なのかも、と思ったり…。
「仕方ねえなあ、申し込むかな、制服交換」
「会長が来ないようならな…」
人物評価がつくとなったらマイナスだけは非常にマズイ、と男子も女子も顔を見合わせて頷いています。会長さん、未だに影も形も見えませんよね…?
1年A組の頼みの綱の会長さんは昼休みにも来ず、その後も来ず。終礼の時にグレイブ先生が例のイベントの申込書を持って来ました。
「さて、諸君。朝から考える時間を与えたわけだが、この申込書はどうするのかね?」
締め切り自体は三日後だからまだ考える時間はあるが、とグレイブ先生。
「ただし、申込書の配布は今日のみだ。明日以降になって欲しいと言っても、二度目は無い」
希望者は今から取りに来るように、との告知にクラス中の生徒が一斉に立ち上がり、教卓に向かって殺到する勢い。こうなってくると、私たちも…。
「一応、貰った方がいいかな?」
アレどうする? とジョミー君が教室の前を指差し、キース君が。
「俺はとっくに大学を出たし、内申も何も無いんだが…。これも世間の付き合いってヤツか?」
貰うだけ貰っておくとするか、という意見。
「卒業の予定すら無い俺たちだが、この勢いだと、当日になって浮きかねん」
「ぼくは浮いてもいいんですが…!」
スカートは遠慮したいんですが、と言いつつもシロエ君も椅子を引いています。申込書だけは貰っておこうと、それから考えればいいという姿勢。
「俺もスカートは似合わねえけど、貰っとくかな…。ブルーがどう言うか分からねえし」
ブルーに嫌われたくねえし、と小声で呟くサム君は今も会長さんとは公認カップル、清い仲ながらも惚れているわけで。会長さんからマイナス評価を貰わないよう、場合によっては制服交換も辞さないという天晴な覚悟。
「皆さん、やっぱり貰う方ですよね…」
ぼくも貰っておきますよ、とマツカ君が立ち、スウェナちゃんも。私も貰おうと決めました。どうせ制服交換したってスカートがズボンになるだけですしね。
「なら、行くか。どうやら俺たちが最後のようだぞ」
殆どのヤツらは貰ったようだ、とキース君が言う通り、申込書の配布待ちの列は残り数人まで減っています。私たちが列の後ろに並ぶと、グレイブ先生が満足そうに。
「諸君、ご協力感謝する。特別生の諸君も申込書を貰ったとなれば、皆も真面目に考えるだろう」
受け取りたまえ、と先頭のキース君から順に貰った申込書。教室を見回してみると、同じく特別生で内申も卒業も無関係な筈のアルトちゃんとrちゃんも申込書を手にしていました。
「いいかね、諸君。締め切りは三日後の終礼だ」
申し込み用の箱は職員室の前に置いてあるから、とグレイブ先生。教室で回収しないってことは、あくまで生徒の自主性に任せるっていうことですね…?
終礼が済んで、迎えた放課後。試験前で柔道部の部活もお休みですから、みんな揃って生徒会室の奥に隠されている「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に行くと。
「かみお~ん♪ いらっしゃい!」
今日のおやつはタルトタタンのミニバージョン! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が一人用サイズの可愛らしいタルトタタンをお皿に乗っけて出してくれました。おかわりも沢山あるそうです。
「リンゴが美味しい季節になったし、たまにはミニのもいいかと思って!」
たっぷり食べた感じがするでしょ、と言われてみれば、切り分けたものより丸ごとサイズのミニ版もリッチな気がします。ホールで食べるみたいな感じで。早速フォークを入れていると。
「…今日は面白いものを貰ったんだって?」
ぼくは貰っていないけどね、と会長さんがスッと手を差し出して。
「誰のでもいいから現物を見たいな、例の申込書」
「だったら、あんたも貰いに来れば良かっただろうが!」
そうすれば一枚貰えたんだ、とキース君が自分の鞄から制服交換の申込書を引っ張り出すと。
「こいつが申込書ってヤツだ、あんたは貰いに来なかったがな!」
「え、だって。…ぼくが行ったらシャングリラ・ジゴロ・ブルーのメンツが丸潰れだよ」
申込書を貰っただけで制服交換のイメージがつくし、と会長さん。
「このぼくが女子の制服だよ? それだけは絶対、有り得ないってね!」
「価値観を見詰め直すイベントだという話だったぞ、見詰め直すべきだと思うがな?」
そういう台詞が出るようではな、とキース君が毒づきましたが、会長さんは。
「いいんだってば、ぼくは昔からこうだから! 三百年以上もこれで来たから!」
何を今更、と涼しげな顔。
「ところで、君たちはどうするんだい? 全員、これを貰っていたようだけれど…」
会長さんはキース君から受け取った申込書に視線を落とすと。
「参加するなら名前とクラスを書くだけか…。後は制服のサイズってヤツと」
必要事項を記入してから職員室の前の箱に入れるという仕組みなのか、と眺めてますけど、このイベントには会長さんはノータッチですか?
「そうだけど? そもそも、ぼくは参加しないしね。もちろん、ぶるぅも」
これに関しては傍観者に徹する、とクールな表情。
「内申も卒業も、ぼくには全く関係ないし…。君たちだって条件は同じ筈だけど?」
それでも参加するのかい、と顔をまじまじと覗き込まれて、グラリと気持ちが揺らぎました。制服交換、スルーするべき…?
「あんた、面白がってるな? これは大事なイベントだろうと思うんだが…」
学園を挙げての一大行事だ、とキース君が真面目に返しましたが。
「どうだかねえ…。相手はシャングリラ学園だよ? 今回に関してはホントに評価がつくんだろうけど、来年以降もあるのかどうか…」
思い付きだけのイベントっぽいよ、と会長さん。
「毎年恒例の行事になるなら、特別生の君たちだって付き合うだけの価値があるだろう。ノリの良さというのも大切だしねえ、丸ごと無視っていうのは良くない。でも…」
今年限りのイベントだったら後世まで恥を残すだけだ、と怖い台詞が飛び出しました。たった一度の制服交換、そこで披露したスカート姿が後々までも残るのだと。
「スウェナたちはズボンになるだけなんだし、学園祭とか運動会の応援団だと男装する女子も珍しくないし…。それは少しも可笑しくないけど、男子はねえ…」
もれなくスカート姿だからね、と会長さんはキース君たちをしげしげと。
「毎年やるなら、笑いものにする方が間違っているし、来年以降も特に話題にはならないだろう。でもねえ、今年限りで一回だけなら、君たちの場合、スカート姿はレアものだよ?」
ずっとシャングリラ学園にいるんだし…、と会長さん。
「実は昔にこんなイベントが、と画像付きで語り継がれた時はどうする? 自分もやったことは棚に上げてさ、あの特別生にはこんな過去が、と!」
「「「うわー…」」」
それはコワイ、とドン引きしているキース君たち。確かに一回こっきりのイベントだった場合、その可能性も大いにあります。今の1年A組のクラスメイトたちが二年生、三年生と順に上へと上がってゆくわけで、卒業記念にと画像をバラ撒いて去ってゆくというケースだって…。
「…お、俺たちはやめておくか?」
来年以降が無いんだったら、とキース君の声が震えて、ジョミー君が。
「そういうシナリオ、ヤバすぎだって! 卒業した途端に画像をバラ撒きそうな友達、ぼくには山ほど心当たりが…!」
「ぼくもです…。柔道部の後輩たちはともかく、其処から先輩に流出したら…」
本物の先輩だっていますからね、とシロエ君もブルブル。
「一度流れたら回収不能ってよく言いますよね、ああいう画像」
「…うーん…。消して消せないわけじゃないけど、高くつくよ?」
ぼくのサイオンの使用料にプラス技術料、と会長さんがメモにサラサラと書き付けた数字は実にお高いものでした。こんな金額、私たちには出せませんってば…!
どうやら恥のかき損らしい、制服交換イベントとやら。会長さんの読みはまず外れませんから、私たちは申込書を出さないコースを選択しました。とはいえドキドキ、おっかなびっくり。
「今日で締め切りですけれど…。本当に誰も出さないんですね?」
コッソリ提出は無しですよ、とシロエ君が昼休みに疑いの眼差しをキース君たちに。大賑わいの食堂は避けて、調理パンだのサンドイッチだのを買い込んで来ての昼食中。教室で適当に机を集めて、並べてテーブル代わりにして。
「少なくとも俺は出さないな。阿弥陀様に誓って、俺は出さない」
申込書自体を持って来てはいない、とキース君が誓った相手は阿弥陀様。お坊さんの身で仏様に誓いを立てた以上は嘘をついてはいないでしょう。他のみんなも口々に。
「俺も出さねえぞ、俺はブルーを信じているしな。赤っ恥な末路は避けたいしよ」
「ぼくも出さない。一人だけ恥はかきたくないしね」
「ぼくも出しませんよ、コッソリ出すような真似はしません」
「私だってそうよ、ズボンだから恥はかかないけれど…。みんなを裏切ったりはしないわ」
スウェナちゃんの言葉に、私も大きく頷きました。男子よりはマシな格好だから、と裏切ったのでは仁義に反するというものです。申込書は家のゴミ箱にとっくに捨ててしまいましたし…。
「なら、いいです。ぼくも先輩たちを信じることにしますよ」
これは無かったことにします、とシロエ君がポケットから取り出した紙は折り畳まれた制服交換の申込書でした。セキ・レイ・シロエの名前と1年A組、制服サイズまでが記入済みの。
「ちょ、お前…! 俺たちを信じていなかったのかよ!」
なんだよコレ、とサム君が詰れば、シロエ君は「ですから、信じていますよ」と。
「先輩たちの言葉を信じて、この申込書は処分します」
ビリビリビリッと真っ二つに裂かれた申込書。それをクシャリと丸めて固めて、教室の後ろのゴミ箱めがけてポイッと遠投、見事に入りましたけど。
「シロエ、お前な…。何処まで性根が腐っているんだ、一人だけ書いてくるとはな!」
見下げ果てたぞ、とキース君が眉を吊り上げましたが、シロエ君の方は。
「こういったことは基本でしょう? 保険をかけておくってこと」
ぼくは慎重にやったまでです、と嘯いたシロエ君の頭にキース君以下、男子の拳がゴツン、ゴツンと。マツカ君だけは拳はお見舞いしませんでしたが…。
「ぼくもどうかと思いますよ。もっと信じて欲しかったですね」
それとも、ぼくの精進が足りないのでしょうか、と控えめすぎるマツカ君。此処は殴っていいんですってば、人を疑ってかかるような生意気な真似をする後輩は…!
こうして迎えた期末試験の最終日。いつも学校前のバス停あたりでキース君たちと顔を合わせるんですが、其処に至る前に既にクラクラ。私と同じ路線バスに乗っているシャングリラ学園の生徒たちは全員、制服交換の犠牲者と言うか当事者と言うか。
「「「………」」」
乗り合わせた乗客の無言の視線が制服交換をしている生徒に突き刺さりまくり、私の姿と見比べているのが分かります。悪いことをしちゃったでしょうか、私だけが普通の格好ってコトは、学校を挙げてのイベントだとは思って貰えないかも…。
でもでも、制服交換自体はグレイブ先生によれば一時期流行ったらしいのです。それを知らない乗客が悪い、と吊り革を握ってキリッと立つ内に、やっと学校前に到着。
「おはよう!」
今日も寒いね、とジョミー君の笑顔が迎えてくれて、その後にサム君のこういう台詞が。
「うん、寒いよなあ、いろんな意味でよ」
もうバスの中が氷点下、という空気の寒さを表す言葉に、キース君が。
「甘いな、あれは絶対零度と言うんだ。せめてだ、制服交換実施中というアナウンスでもあれば事情は違ってくるんだろうが…」
「それもですけど、ぼくたちが普通の制服なのもマズイんですよ」
他の生徒の異質さってヤツが浮き彫りになってしまうんです、とシロエ君。間もなく、私たちと同じくいたたまれない表情のスウェナちゃんとマツカ君も到着しました。その間にもバス停に停まるバスから降りて来る制服交換の生徒たち。
「…試験最終日で良かったな」
まだ気が逸れる、とキース君が言う通り、みんなの手には暗記用のカードやら、読み込むための教科書やら。バスの中でも勉強だったら、無言の視線はそれほど酷くは…。
「でもですね…。帰りに羽を伸ばせませんよ?」
あの格好じゃあ、というシロエ君の指摘はもっともでした。制服交換は家を出てから帰宅するまで、すなわち一度は家に帰らないと取り替えた制服を脱げないのです。試験が済んでもカラオケどころか、一目散に逃げ帰るしかないわけで…。
「なるほどな…。その辺もあって今日だったのかもしれないな」
先生方の手間が減るしな、とキース君が校門をくぐりながら声を潜めて、私たちも揃ってコクコク、無言の賛同。
生徒の心理的な負担が少ないようにと選ばれた試験最終日ですが、打ち上げに出掛けた生徒の指導に先生方が手を焼くのもまた、最終日。一石二鳥の日だったんですね、今日という日は…。
制服交換に参加しなかった生徒は、私たち七人グループを含めた特別生しかいませんでした。同じ特別生でもアルトちゃんとrちゃんは男子の制服を着ていましたが…。
けれども、クラスメイトたちは自分の内申や人物評価が大事だとばかり、私たちの裏切りを責めるでもなく粛々と朝のホームルームや続く試験を終えたのですけど。試験終了のチャイムが響き渡って、終礼が済んで…。
「「「自由だーーーっ!!!」」」
大歓声が上がったのも束の間、シンと静まり返った教室。みんなの視線が隣近所の生徒の姿と自分を見比べ、誰からともなく。
「…自由なんだけど、自由じゃない…」
「この格好でカラオケなんかに出掛けて行ったら晒し者じゃねえかよ!」
「…大人しく家に帰るしかないのかな…。俺の家、帰るだけでバスで1時間かかるんだけど…」
「くっそお、カラオケに行くんだったら、家に帰るより近いのに!」
でも行けない、と諦めの声と嘆きが入り混じる1年A組、他のクラスも似たようなもの。先生方の計算通りに打ち上げに出掛ける生徒はいなくて、男子も女子も急いで下校で。
「…こんな試験の最終日ってヤツは初めて見るな」
長年生徒をやっているがな、とキース君が感慨深げに呟くとおりに、校内は見事に生徒の影すら見えません。みんな慌てて下校してしまって、打ち上げに出掛ける相談の輪さえも無い状態。
「ぼくたちもアレに申し込まなくて良かったよね…」
申し込んでいたら今頃は…、とジョミー君が肩をブルッと震わせ、シロエ君が。
「ぼくも先輩たちを信じた甲斐がありましたよ。信じなかったら下校組です、スカートで」
「「「うーん…」」」
その姿はちょっと見たかったかも、とシロエ君を眺めて、ドッと笑って。それから「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋へ出掛けてゆくと…。
「かみお~ん♪ 試験、お疲れ様~っ!」
お腹、減ったでしょ! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が熱々のカレーグラタンを用意していてくれました。さあ食べるぞ、とスプーンを握ったら。
「こんにちはーっ!」
「「「!!?」」」
誰だ、と振り返った先に優雅に翻る紫のマント。別の世界からのお客様ですが、カレーグラタンがお目当てでしょうか、冬野菜たっぷりで美味しそうですけど、それだけのために降って湧くような人でしたっけ…?
ぼくにもカレーグラタンを、と言い出したソルジャーの分のカレーグラタンは「そるじゃぁ・ぶるぅ」が用意していました。本来はおかわり用だったという話ですが、こうした事態も普段から想定しているのでしょう。ソルジャーは空いていた席に座って、早速スプーンで掬いながら。
「いやあ、面白かったねえ、制服交換! 君たちの分を見られなかったのは残念だけど…」
「あれは見世物ではないからな!」
学校行事の一環なんだ、とキース君。けれどソルジャーは「どうなんだか…」とクスクスと。
「ぼくは最初から見ていたんだよ、君たちが申込書を貰ったトコから。…もしもブルーの意見を聞かなかったら、制服交換の予定だったよね?」
「それはまあ…。そうなんだが…」
「そこで交換しないで終わった、それが見世物の証明だってね! 少なくとも君たちにとっては見世物扱いされるリスクが高い学校行事であった、と」
来年以降に実施されるかどうかは謎の…、と笑うソルジャーは他の生徒の似合わない格好を楽しく眺めていたようです。自分の世界のシャングリラから。
「それでね、学校行事というのと、制服交換っていうので思い付いたんだけど…。実施されたのを見た瞬間に閃いたんだけど、今年のクリスマスパーティーのテーマはアレでどうかな?」
「「「アレ?」」」
「ズバリ、制服交換だよ!」
きっと素敵なパーティーになるよ、と言われましても。それって仮装パーティーですかね、あまつさえ今日は披露しないで済んだ男子のスカートだとかが容赦なく必須になってくるとか…?
「仮装パーティーと言われればそうかな、制服を交換するんだからね。でもね、君たちにスカートを履けとは言わないよ。それはあまりに気の毒すぎる」
単なる制服交換でどう? と訊かれましたが、女子が男子に、男子が女子になる道の他にどういう制服交換があると?
「制服と言ったら制服だよ! 制服そのものを交換しちゃえば全て解決、無問題ってね!」
こっちの世界にもシャングリラは存在しているだろう、と指を一本立てるソルジャー。
「でもって、シャングリラのクルーには制服がある筈だ。ぼくの世界のとそっくり同じなデザインのヤツが、男子用のと女子用のでね。…そうだろ、ブルー?」
「あ、うん…。それはあるけど…?」
「そのシャングリラのクルーの制服を着ればいいんだよ、君たちは! 男子は男子用、女子は女子用! 制服のサイズ、それこそ簡単にどうとでもなると思うんだけど!」
借りて来るとか作るとか…、と言ってますけど、そんな制服でパーティーですか?
シャングリラのクルーの制服を着てクリスマスパーティーなんだ、と提案されても、どう素敵なのかがサッパリ謎です。あれを着ただけで宇宙の旅に出られるわけじゃなし、シャングリラ号に乗れるわけじゃなし…。
「分かってないねえ、君たちの制服はオマケだよ! テーマは制服交換だってば!」
ぼくはハーレイと交換するんだ、とソルジャーはニッコリ微笑みました。
「価値観を見詰め直すっていうイベントだったろ、制服交換! だからね、ぼくはハーレイが着ているキャプテンの制服を着るんだよ。そしてハーレイがぼくの服を!」
「「「そ、それは…」」」
笑う所なのか、感心するべき所なのか。どう反応を返せばいいのか悩んでいたら、ソルジャーが。
「そこは笑えばいいんだよ! ぼくの世界のシャングリラでだって、大いに笑いが取れる筈だし、今年のクリスマスはコレで決まりだよ、制服交換!」
まずは自分の世界で笑いを取って…、と算段しているソルジャーのクリスマスのスケジュールは、毎年お決まりのパターンでした。自分の世界で昼間にパーティー、それから抜け出して私たちの世界で豪華なディナーパーティー。
クリスマス・イブの翌日、クリスマスは「そるじゃぁ・ぶるぅ」と「ぶるぅ」の誕生日ですから、パーティの後はそのままお泊まり、次の日が合同バースデーパーティーという運びです。
「ぼくとハーレイの制服交換は、ぼくのシャングリラで披露してから、こっちでも! 今年のクリスマスパーティーのテーマはコレにしようよ、絶対、楽しく遊べるから!」
「…君の方はそれでいいんだけどねえ…」
ぼくの立場はどうなるのさ、と会長さんがぼやきました。
「クリスマスパーティーには、ハーレイも毎年来ているんだよ? 君が制服を交換するのは勝手だけどねえ、ぼくはハーレイなんかと交換する気は無いからね!」
誰が着るか、と吐き捨てるような台詞が口から。
「あんなスケベな男の制服、ぼくは着たいと思わないから! ぼくのサイズで新しく仕立てた服であっても、デザイン自体は変わらないんだし!」
間違ったって着たくない、と顔を顰める会長さんに、ソルジャーが。
「着たくないものは別に着なくていいと思うよ、ぼくも着ろとは言わないし…。君の場合もシャングリラの制服を着ればいいんだ、いわゆるソルジャーの衣装ってヤツを」
普段は学校の制服なんだし…、と言われれば一理ある話。私たちだって学校の制服の代わりにシャングリラのクルーの服だというんですから、会長さんだってソルジャーの服でいいわけです。でも、そんなパーティーで楽しいですかねえ、ソルジャー夫妻は楽しそうですが…。
ソルジャーとキャプテンが制服を取り替えた姿は一見の価値があるとは思えるものの。他の面子は一見の価値があるのか無いのか、なんとも微妙な所です。
「えーっと…。キースにシャングリラのクルーの服っていうのは…」
似合うかな? とジョミー君が首を傾げて、キース君が。
「同じ着るなら、シド先生のがいいんだが…。上着付きなのがカッコイイしな、あれを希望だ」
「ああ、アレな! キースに似合うかもしれねえなあ…!」
俺は普通のヤツでいいかな、と頷くサム君。
「上着は欲しいと思わねえしよ…。別にどれでもかまわねえかな、袖の模様があっても無くても」
「ぼくは模様が欲しいですねえ、あの羽根の形のマークでしょう?」
ちょっと違うのがいいんですよ、とシロエ君。そういえば、アレってブリッジクルーの制服にしか付かないヤツだったかな?
「私はタイツがある方がいいわ、タイツ無しのは脚に自信が無いからいいわよ」
それにスカート丈が短すぎるんだもの、とスウェナちゃん。私だって同じのを希望です。タイツの有無は大きなポイント、タイツ無しなんて着こなす度胸はありません。
そんな具合で盛り上がったものの、こんな程度で楽しいクリスマスになるのでしょうか?
「なるに決まっているじゃないか! テーマは制服交換なんだし!」
若干一名忘れているよ、とソルジャーが。
「こっちのハーレイが交換する制服、誰も話題にしていないしね?」
「それは鬼門だからだろう!」
ブルーの手前、とキース君がズバリ。ソルジャー夫妻がお互いの制服を交換する以上、教頭先生が着る服は会長さん専用のソルジャーの衣装というヤツです。会長さんは交換を拒否してソルジャーの衣装を選びましたし、それはすなわち、ソルジャーの衣装が大小で揃うというわけで…。
「ええっ? なんでそういうことになるわけ、ソルジャーの衣装が二セットだなんて!」
それはカッ飛び過ぎてるから、とソルジャーは即座に否定しました。だったら、教頭先生が着る制服はキャプテンの服になるわけですか? ますます面白味に欠けているような…。
「君たちはホントに頭が固いね、もっと柔軟な発想ってヤツは出来ないのかな?」
テーマは制服交換だよ、とソルジャーがズイと膝を乗り出し。
「元々は男子と女子の制服を交換しようってイベントなんだろ、ハーレイもしかり!」
「「「はあ?」」」
どういう意味だ、と首を捻るしかない私たち。男子と女子の制服を交換ってトコで教頭先生の名前が出て来る余地は微塵も無いと思うんですがねえ…?
「固い! 君たちの頭は固すぎる!」
絶望的に固い、とソルジャーは頭を振って派手に嘆いてみせて。
「ハーレイの制服を女子用にしようってコトなんだけどね、誰も考えていなかったわけ?」
「「「え?」」」
教頭先生の制服を…女子用にって、どんな制服?
「決まってるだろう、キャプテンのアレ! ぼくのハーレイも着てるアレだよ、あれの女子用!」
「「「…へ?」」」
そんな制服、ありましたっけ? キャプテンは教頭先生だけですし、女性バージョンは無いと思います。それとも私たちが知らないだけで、ソルジャーの世界のシャングリラ号にはあるんでしょうか? 実は女性の副船長がいたりしますか、あっちの世界は?
「副船長もいなけりゃ、キャプテンの制服の女性バージョンも無いけれど?」
そんなモノは一切存在しない、とソルジャーはアッサリ否定しましたが、それじゃ何処から女子用なんかが出て来ると…?
「これから作るのに決まってるじゃないか、クリスマスパーティーに向けて!」
もちろん基本のデザインとしてシャングリラの女性クルーの制服のラインは崩せない、とソルジャーはグッと拳を握り締めて。
「女性クルーの制服は袖なし、長手袋! そして身体にぴったりフィットで、スカート丈はうんと短め、もう見えそうなくらいの丈で! ハーレイの場合はタイツは無しだね!」
ご自慢の紅白縞のトランクスが見えなくなっちゃうからね、と恐ろしすぎるアイデアがソルジャーの口から飛んで出ました。想像するのも怖そうな服が、とんでもなさすぎるデザインが。
「いいかい、キャプテンの制服をそういう形にアレンジ! 色はあのまま、模様もアレをそのままあしらうべきだと思うんだけどね! マントとかもつけて!」
「…そういう服を作ってハーレイに着せろと?」
考えただけで笑えるんだけど、と会長さんが訊くと、ソルジャーは。
「ぶるぅが作るか、こっちの世界のプロに任せるか…。とにかく作って、今年のクリスマスパーティーのテーマは制服交換に決まったから、と家に届ければハーレイは着るね!」
それで着なければ男じゃない! とソルジャーがブチ上げ、会長さんも「うん」と。
「ぼくたちも制服交換だから、と言っておいたら間違いなく着るよ、ハーレイだけに。…ぼくもソルジャーの衣装でミニスカートでタイツ無しだとか、自分にいいように解釈してね」
「そうだろう? だから是非!」
これで行こう、とソルジャーがパチンと片目を瞑って、決まってしまったみたいですよ…?
かくして今年のクリスマスパーティーは仮装パーティー、制服交換ということに。私たちはシャングリラのクルーの制服を用意して貰い、キース君は憧れの上着付きを。試着も済ませて、パーティーの日は会長さんの家で着替え用の部屋を貸して貰って…。
「かみお~ん♪ みんな、よく似合ってるね!」
シャングリラ、発進! と飛び跳ねている「そるじゃぁ・ぶるぅ」は幼稚園の制服を着ていました。前から気になっていた近所の幼稚園の制服らしくて、会長さんに買って貰ったとか。
「あのね、幼稚園鞄も買って貰ったの、お弁当袋はアヒルちゃんなの!」
パーティーの時には要らないんだけれど欲しかったから、と御機嫌です。会長さんはソルジャーの衣装をピシッと纏ってパーティー会場のチェックに余念がありません。クリスマスツリーやリースや、御馳走たっぷりのテーブルなどなど。其処へ…。
「メリー・クリスマス! ぼくの方のパーティー、抜けて来たよ!」
「こんにちは。今年もお世話になります」
「かみお~ん♪ ぶるぅ、久しぶりーっ!」
ソルジャーが細身に仕立てられたキャプテンの制服で現れ、キャプテンの方は会長さんのと同じものだとは思えないほど大きなサイズのソルジャーの衣装に紫のマント。「ぶるぅ」はシャングリラのクルーのミニサイズかな、と思ったら子供用の制服があるのだとか。
「うわあ、今年も御馳走だねえ…。テーブル一杯って感じだね」
美味しそうだ、とソルジャーが褒めると「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「キッチンにまだまだあるからね! これはホントにちょっとだけなの、全部出したらテーブルの上に乗っからないの!」
今年もみんなで楽しくやろうね、とニコニコ笑顔の「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「ぶるぅのお洋服、よく似合ってるね! それにキャプテンとかソルジャーの服も!」
「うんっ! パパとママの服を取り替えたんだよ、取り替えても似合うのが凄いよねーっ!」
流石はぼくのパパとママ! と御満悦な「ぶるぅ」のママが誰かは未だに決まっていませんでした。ソルジャーだとも、キャプテンだとも。その二人は制服交換で取り替えた衣装がすっかりお気に入りのようで。
「ねえ、ハーレイ。この服は笑いを取ったけれどさ、君に包まれてるみたいだねえ…」
こうして着てると、とソルジャーが笑みを浮かべれば、キャプテンも。
「私の方こそ、あなたの中にいるようですよ。ええ、身体ごとすっぽりと…」
「そこの二人!!」
その先を言ったら退場だ、と会長さんの右手にレッドカードが。今の発言、怪しかったかな?
ワイワイガヤガヤ、交換した制服も身体に馴染んで談笑する中、ピンポーンと玄関チャイムの音が響いて、幼稚園児な「そるじゃぁ・ぶるぅ」が駆けて行って。
「かみお~ん♪ ハーレイが来たよーっ!」
「メリー・クリスマス!」
お邪魔します、とコートを着込んで入って来た教頭先生はバッとコートを脱ぎ捨てました。きっと周りの状況なんかは見ていなかったに違いありません。だって…。
「「「わはははははは!!!」」」
ソルジャーばかりか、キャプテンまでが大爆笑。教頭先生はキャプテンの制服の上着だけと言ってもいいようなデザインの服を着込んでいました。裾を延ばしてミニスカート丈、もちろんスカートはちゃんとスカートの形をしています。タイツは無しで足にフィットした黒いブーツ。
上着の袖も袖なしになって、上着と共布の長い手袋、なんとも破壊的な制服はマントと肩章だけが辛うじて原型を留めている状態で。
「…せ、制服交換だと聞いたのだが…!」
自信を持って着て来たのだが、と焦りまくる教頭先生に向かって焚かれたフラッシュ。ソルジャーと会長さんが立派なカメラを構えています。
「はい、ハーレイ! 笑って、笑って! メリー・クリスマス!」
「こっちにもとびきりの笑顔を頼むよ、記念の一枚!」
メリー・クリスマス! と会長さんに微笑み掛けられた教頭先生、条件反射でニッコリ笑顔。たちまち切られるカメラのシャッター、光るフラッシュ。
「いいクリスマスになりそうだねえ…」
あのハーレイだけでワインが何本いけるやら、とソルジャーが笑えば、会長さんも。
「この記念写真をバラ撒くぞ、って言えば小遣い稼ぎも出来るよ、実に素敵なクリスマスだよ」
「バラ撒くのかい? だったら、こういうショットもね!」
床からアオリで撮ってみましたー! とソルジャーはミニスカートの下の紅白縞を激写しちゃったみたいです。教頭先生は何が何だか分からないままに笑顔をサービス中ですし…。
「…誰だ、制服交換なんかを言い出したのは?」
シャングリラ学園の方のイベント、とキース君が額を押さえて、ジョミー君が。
「さあ…? でもさ、この状況を作り出しちゃった犯人はさ…」
アレだよね、と指差す先にキャプテンの制服を纏ったソルジャーという名のカメラマン。教頭先生だけが大恥をかいたクリスマスパーティーの制服交換、もう笑うしかないんですけど…。せっかくのパーティー、食べなきゃ損、損。御馳走に乾杯、メリー・クリスマス!
制服を替えて・了
※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
新年早々、何故かクリスマスのお話でしたが、そこの所は御愛嬌で。問題は制服交換です。
すっかり騙された教頭先生、とんでもない姿を披露することに…。視覚への暴力かも?
次回は 「第3月曜」 2月17日の更新となります、よろしくです~!
※毎日更新な 『シャングリラ学園生徒会室』 はスマホ・携帯にも対応しております。
こちらでの場外編、1月は、元老寺でのお正月に始まりまして、只今、小正月。
←シャングリラ学園生徒会室は、こちらからv
※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。
観光の秋、行楽の秋。とはいえ、今日は会長さんの家でのんびり、土曜日の過ごし方の定番です。紅葉見物にはまだ早いですし、行きたいスポットも現時点ではありません。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が作るお菓子と美味しい食事が一番とばかり、朝から居座っているのですけど。
「こんにちはーっ!」
誰だ、と一斉に声が聞こえた方へと視線を向ければ、リビングに見慣れた人物が。言わずと知れた会長さんのそっくりさんで、紫のマントじゃなくって私服で。
「なんだ、君たちは出掛けてないんだ?」
秋はお出掛けにピッタリなのに、と近付いて来たソルジャー、ソファにストンと腰掛けると。
「ぶるぅ、ぼくにもおやつはある?」
「ちょっと待ってね、すぐ用意するねーっ!」
パタパタと駆けて行った「そるじゃぁ・ぶるぅ」はパン・デピス風だとかいうケーキをお皿に乗っけて来ました。シナモンたっぷり、蜂蜜たっぷり、それにナッツも。どっしりとしたケーキです。それにソルジャーの好きな紅茶も。
「はい、どうぞ! 今日のケーキはスパイシーだよ!」
「ありがとう。ちょうど刺激的なものが食べたくってさ…」
うん、美味しい! と頬張るソルジャー。刺激的なものが食べたかったなら、お昼時に来れば良かったのに…。タンドリー風スパイシーチキンにホウレン草カレー、ナンも食べ放題だったんです。けれどソルジャーはと言えば。
「えっ、お昼? そっちはノルディと食べて来たしね?」
今日も豪華なフルコース、と御満悦。それじゃ刺激的だというのは…。
「決まってるじゃないか、デートコースの中身の方で!」
「退場!」
会長さんがレッドカードを突き付けました。イエローカードをすっ飛ばして。
「なんだい、これは?」
「出て行ってくれ、と言ってるんだよ!」
どうせこの先はレッドカードだ、と会長さんが素っ気なく。
「ぶるぅ、ケーキの残りを包んであげて! お客様のお帰りだから!」
「かみお~ん♪ それじゃ、ぶるぅたちにお土産もだね!」
「そうだね、しっかり箱に詰めてあげてよ」
そして帰って貰おうじゃないか、という指示で「そるじゃぁ・ぶるぅ」がキッチンへ走ろうとしたのですけれど…。
「ちょっと待った!」
誰が帰るか、とソルジャーが紅茶をコクリと一口。
「ケーキのお土産は嬉しいけどねえ、イエローカードもレッドカードも出されるようなことはしていないから!」
「これからするだろ、デートコースの中身とやらで!」
よくもノルディとデートなんぞを、と会長さんはレッドカードでテーブルをピタピタ。
「ノルディの魂胆は分かってるくせに、君ときたら…。おまけに刺激的だって?」
「そうだけど? 今日のデートは実に楽しくて面白かったよ」
「さっさと帰る! もう喋らずに!」
刺激的なデートの話なんかは聞きたくもない、という点は私たちにしても同じでした。どうせロクでもない内容で、意味が不明に決まっています。そういったことをやらかしたのか、単に会話をしただけなのかは謎ですが…。
「えっ、デートだよ? そりゃあ、もちろん話もしたけど…」
「いいから、出て行く! ケーキのお土産が足りないんだったら追加するから!」
一人一切れの所を二切れ、と会長さんが言ったのですけど。
「…君たちは何か勘違いってヤツをしてないかい?」
ぼくが行ったのは植物園だよ、と予想外の行き先が飛び出しました。植物園って……あのぅ、温室とかがある植物園? 花が一杯の、花壇だらけの…。
「そうだけど? ノルディと二人で植物園をゆっくり散歩!」
そろそろ秋薔薇の季節だってね、とソルジャーは笑顔。えっと、本気で植物園ですか?
「植物園だよ、アルテメシアの。ノルディに聞いたけど、桜の季節は穴場だってね?」
色々な種類の桜が一杯、なのに見物客が少なめ、と語られる植物園情報。なんだって植物園なんかでデートをしていたのやら…。
「あっ、それはね…。ノルディが薀蓄を披露したくなったみたいでさ!」
「もういいから!」
その薀蓄がヤバそうだから、と会長さんが止めに入ったのに。
「いいんだってば、あの植物園では無理だから! それっぽい場所が全く無いから!」
「「「は?」」」
「なんかね、お城なんかの大きな庭だと植え込みで作った迷路とかが沢山あるんだってねえ!」
そういう所がデートスポットらしいのだ、という話ですが。それがエロドクターから聞いた薀蓄なんですか?
「もちろんさ! ノルディは実に知識が豊かだよねえ、まさにインテリ!」
ぼくの世界のノルディじゃああいうわけにはいきやしない、とソルジャーは残念そうな顔。同じノルディでああも違うかと、ぼくの世界のノルディの方は仕事の鬼で面白くないと。
「そっちの方が理想的だから!」
遊び好きな医者は最低だから、と会長さんが文句をつけていますが、エロドクターの場合は腕だけは確か。ゆえに病院は繁盛していて、リッチに暮らしているわけで…。
「遊び好きなノルディ、ぼくは大いに歓迎だけどね? それでさ、迷路の話だけどさ…」
「デートスポットなんだろう! もうその先は言わなくていい!」
「君は知ってるみたいだけれどさ、他の面子はどうなのかな?」
知っていた? と訊かれて、首を左右に。お城の庭のデートスポットなんかは知りません。マツカ君なら他の国のお城が別荘なだけに、知っているかもしれませんが…。
「マツカのお城は…。どうなんだろう? 大勢の人が集まるお城の定番らしいしね?」
いわゆる宮殿、という台詞にマツカ君が。
「…そのレベルのお城は流石に無いですよ。ぼくの家のはごく普通ですし」
「ああ、そう? それじゃ迷路も無かったりする?」
「一応、無いこともないですが…。デートスポットではないですね」
そもそも公開していませんから、と真っ当な意見。プライベートな空間だったらデートスポットにはならないでしょう。観光地の類じゃないんだから、と納得していれば。
「違うよ、観光客じゃなくって、お城に住んでる人とかのためのデートスポット!」
ちょっと迷路の奥とかに入れば大きなベンチなんかがあって…、と説明が。
「そこで語り合って、ムードが高まればその場で一発!」
「退場!!」
レッドカードが炸裂したのに、ソルジャーの喋りは止まらなくって。
「本来、そういう場所らしいんだよ、迷路とか、それっぽい植え込みだとか! だからカップルがそこに入って行ったら、もう暗黙の了解で!」
他の人は入るのを遠慮するのだ、とエロドクター仕込みの薀蓄が。なるほど、そういう話をしたくて植物園でデートをしてた、と…。
「そうなんだよ! あそこの庭は広いからねえ、こういう所に植え込みがあれば、とか、迷路があれば、とノルディが色々語ってくれてね…」
有意義なデートだったのだ、と満ち足りた表情ですけれど。刺激的な話がどうとか言ってましたし、シャングリラに迷路を導入するとか…?
「違うよ、刺激的だった方はオマケなんだよ」
植物園デートの単なるオマケ、と意外な言葉が。それじゃシャングリラに迷路を作るとか、エロドクターと迷路でデートごっこをしていたわけではないんですね?
「うん。せっかくの植物園デートだからねえ、あれこれ見なくちゃ損じゃないか」
「それで?」
お気に召すものでもあったのかい、と会長さんはまだ警戒を解いていません。レッドカードをいつでも出せるように構えていますが、ソルジャーは。
「ちょっとね、面白いものを見たものだから…。なんて言ったかな、ハエ取り草?」
「「「ハエ取り草?」」」
「それからモウセンゴケだっけ? ウツボカズラは凄かったねえ…!」
どれも餌やり体験をさせて貰ったのだ、と誇らしげなソルジャー。
「普通は餌やり、やらせて貰えないらしいんだけど…。そこはノルディの顔ってことで!」
ハエとかを食べさせて遊んで来た、と楽しそう。ということは、ハエ取り草だのモウセンゴケだのって、やっぱり食虫植物ですか?
「そうだよ、ぼくも実物を見たのは初めてでさ…! まさか植物が餌を食べるなんて!」
最高に刺激的な見世物だった、とソルジャーは食虫植物の餌やりを満喫して来たらしく。
「あんなのを楽しく見て来た後はさ、食べ物も刺激的なのがいいよね!」
「なんだ、そういうことだったのか…」
レッドカードを出すタイミングを間違えた、と会長さんが深い溜息。
「あんまり早くに出し過ぎちゃって、肝心の所で外しちゃった、と…」
「らしいね、慌てる乞食は貰いが少ないって言うんだろ? こっちの世界じゃ」
フライングすると失敗するのもお約束、とソルジャーはケーキをパクパクと。
「というわけでさ、ぼくは退場しなくていいから、ケーキのおかわり!」
「オッケー!」
どんどん食べてね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」がソルジャーのお皿におかわりを。このケーキ、けっこうお腹にたまるような気がするんですけど…。おかわりまでして平気かな?
「平気、平気! 甘いお菓子は別腹だから!」
このケーキだってホールでいける、と言われてビックリ、ソルジャーの胃袋。あちらの世界の「ぶるぅ」の胃袋が底抜けなことは知ってましたが、ソルジャーも負けていませんでしたか…。フルコースを食べて来た上にケーキも二切れ、まだまだ居座りそうですねえ?
植物園で見た食虫植物が最高だった、と喜ぶソルジャーは、エロドクターが薀蓄を披露したかった迷路だか植え込みだかのデートスポットはどうでも良かったみたいです。エロドクターも御愁傷様、と思っていたら。
「それでね、ぼくは考えたんだよ」
ケーキのおかわりを頬張りながら、ソルジャーの瞳がキラキラと。
「…何を?」
会長さんがレッドカードを持って身構え、ソルジャーは。
「食虫植物は餌をおびき寄せるのに色々と工夫をするって聞いてさ…」
「するだろうねえ、でないと飢えてしまうしね?」
「そういうアイテム、こっちの世界じゃ色々と売られているみたいだよね」
「「「は?」」」
食虫植物が売られているなら分かりますけど、アイテムって…なに?
「アイテムだよ! 美味しそうな匂いとかで獲物を引き寄せて、逃げないようにガッチリ捕獲!」
「…そんな物は売られていないと思うが」
食虫植物の方ならともかく、とキース君が言うと。
「ああ、君の家には無いかもねえ! お坊さんやお寺は生き物を殺しては駄目だと聞くし」
「あんたにしてはよく知ってるな?」
「君に何度も聞かされたからね、戒律がどうとかこうとかって」
「生き物を殺さないのは基本だな。あれは殺生戒と言って、だ」
時ならぬ法話が始まりそうだったのを、ソルジャーが「そこまででいいよ」と遮って。
「とにかく、君の家にはそういう決まりがあるっていうから、アレも無いかも…」
「アレではサッパリ分からんのだが?」
「ほら、アレだってば、えーっと…。なんていう名前だったかなあ…」
思い出せない、とソルジャーは何度か頭を振ると。
「アレだよ、粘着シートだよ! こう、ゴキブリだとかネズミだとかを退治するための!」
「「「あー…」」」
アレか、と一気に理解しました。会長さんの家では見かけませんけど、いわゆるゴキブリホイホイとかです。組み立ててから餌をセットし、粘着シートで有害動物をくっつけて捕獲、ゴミ箱へポイと捨てるアレ…。
「分かってくれた? アレをね、使えないかとね…」
食虫植物で閃いたんだ、と言ってますけど、ゴキブリホイホイで何をすると…?
ソルジャーの閃きとやらはサッパリ分からず、ゴキブリホイホイ以上の謎。食虫植物からどう繋がるのだ、と悩んでいれば。
「餌だよ、餌! それでフラフラとおびき寄せられて、そのまま捕まっちゃう所!」
これを使って遊ぼうじゃないか、と妙な発言。ゴキブリだかネズミだかを捕りたいんですか?
「遊ぶも何も、ぼくの家にはそういったモノはいないから!」
ゴキブリもネズミも住み着いていない、と会長さんが床をビシィッ! と指して。
「君がおやつを食べ散らかしても、ぶるぅがきちんと掃除するから! ゴキブリもネズミも出てこないから!」
「それはそうかもしれないけれど…。ゴキブリを捕るとは言っていないよ?」
ネズミでもないし、とソルジャーはニヤリ。
「もっと大きくて凄いものだよ、ぼくが捕ろうと思っているのは」
「ドブネズミだって出ないから!」
会長さんが怒鳴って、キース君が。
「ドブネズミは流石にアレでは捕れんぞ、ドブネズミを捕るなら罠が要るな」
「ふうん…。殺生は駄目だと言ってる割には詳しくないかい?」
君の家でも捕るのかな、とソルジャーに訊かれたキース君は苦悶の表情で。
「俺の家にはドブネズミは出ないが、住職がいなくて普段は閉めてあるような寺なら出るんだ! そしてそういうケースはやむなく…」
「捕獲するのかい?」
「業者に頼むか、檀家さんが有志を募ってやるんだがな」
それであんたは何を捕るんだ、という質問。
「くどいようだが、俺の家にもドブネズミは出ない。その手のヤツを捕りたいと言うなら、ドブネズミ対策で難儀をしている寺をいくらでも紹介するが」
「それが、ドブネズミでもないんだな」
もっと大きくて素敵なものだ、とソルジャーは壁の方へと人差し指を。
「あの辺りに居る筈なんだけど…」
「ぼくの家にはネズミはいないと言ってるだろう!」
アライグマも住み着いてはいない、と会長さん。そういえばアライグマも害獣でしたか、屋根裏とかに住むんでしたっけ。後はイタチとか、そういったモノ。でも、どれも…。会長さんの家の壁の中なんかに住んでいるとは思えませんが…?
「分かってないねえ、壁の中ではなくって、向こう!」
壁の向こうだ、と言われた会長さんはキッと柳眉を吊り上げて。
「何もいないってば、この家にはペットも住んでないしね!」
「…ある意味、ペットに似ていないこともないけれど? 君のお気に入りの」
「どんなペットさ!」
ぼくはペットを飼ったこともない、と会長さん。けれど、ソルジャーは「そうかなあ?」と。
「いつも楽しそうに遊んでいると思ったけどねえ、アレと一緒に」
「アレって言われても分からないよ!」
「あの方角に住んでるアレのことだけど? …アレはアレだよ」
デカくてチョコレート色をしているのだ、という発言に嫌な予感が。さっきソルジャーが示した方角、教頭先生の家がある方では…?
「ピンポーン!」
それで正解、と明るい声が。まさかホントに教頭先生のことなんですか、アレとやらは?
「他に何があると? ブルーもお気に入りのペットで、デカくてチョコレート色をしたモノ!」
アレを捕ろう、とソルジャーは膝を乗り出しました。
「巨大ゴキブリホイホイと言うか、ハーレイホイホイと言うべきか…。餌を仕掛けて、おびき寄せてさ…。粘着シートで捕まえるんだよ!」
「ちょ、ちょっと…!」
あんなモノを捕ってどうするのだ、という会長さんの問いに、ソルジャーは。
「もちろん、食虫植物だってば! 食べるんだよ!」
「「「ええっ!?」」」
食べるって…。それはソルジャーが教頭先生を美味しく食べるという意味ですか?
「それ以外にどういう食べ方があると言うんだい? ハーレイを捕ったら、食べるのみだよ!」
「無理だから!」
君が食べたくても相手はヘタレ、と会長さんが反論を。
「ハーレイホイホイで捕まえたってね、ヘタレなんかは直らないから!」
「さあねえ、その辺はぼくにも謎で…。でもねえ、捕るのが面白いような気がしないかい?」
餌におびき寄せられてフラフラと…、と指を一本立てるソルジャー。
「そのままベッドにダイブしたなら、粘着シートっていうオチなんだけど!」
真っ裸なハーレイが粘着シートならぬ粘着ベッドにベッタリくっつく! という恐ろしいアイデアが飛び出しました。本気で教頭先生ホイホイ…?
「素っ裸で粘着シートにベッタリかあ…」
しかもベッドか、と会長さんが顎に手を当て、ソルジャーが。
「ベッタリくっついているわけだしね? ハーレイからは何も出来ない所がミソかな」
ぼくが食べようが、君があれこれ悪戯しようが…、と酷い台詞が。
「ほら、ぼくたちはサイオンで粘着シートを避けられるしね?」
「なるほどね! だったら、ぼくたちが餌になってもいいわけか…」
「そう、そこなんだよ、ぼくの狙いは!」
ベッドの上で餌になるのだ、とソルジャーは我が意を得たりという表情。
「ベッドまで来るように餌は撒くけど、最終的には本物の餌がベッドの上に! これでベッドにダイブしなけりゃ、どうすると!」
「…ダイブするだろうね、ハーレイならね」
「そしてベッタリくっつくんだよ! もう全身で!」
くっついたら最後、もう取れないのだ、と強烈すぎる教頭先生ホイホイとやら。ソルジャーが言うには、好みの部分に悪戯出来るよう、粘着液はデローンと伸びる仕様だそうですが…。
「ほら、水飴って言ったっけ? あんな感じで」
でも、くっついた獲物は逃さない! とソルジャーがブチ上げ、会長さんも。
「それはいいねえ、君の世界にそういうヤツがあるのかい?」
「あるねえ、ハーレイホイホイを作るんだったら持ってくるよ、アレ!」
ぼくのシャングリラの倉庫にたっぷりあるから、と頼もしいんだか、酷すぎるんだか分からない提案がソルジャーの口から。
「いい話だねえ…。わざわざ買ったり工夫したりって手間が要らないのは」
「そう思うだろ? 作ったらいいと思うんだけどね、ハーレイホイホイ!」
しかして、その実態は食虫植物! とグッと拳を握るソルジャー。
「ゴキブリホイホイとかに捕まったら、後は駆除されるだけなんだけど…。ハーレイホイホイは食べられる方で、運が良ければ天国に行ける仕組みなんだよ!」
死ぬ方じゃない天国だから、と注釈が。
「ぼくに食べられて見事に昇天、男冥利に尽きるってね!」
「…そうでなければヘタレで鼻血で失神なんだ?」
「君が思う存分、悪戯するのもアリなんだけどね!」
素っ裸な上に動けないから何をするのも自由なのだ、とソルジャーに煽られた会長さんは大いに心を揺さぶられた様子。教頭先生ホイホイなアイデア、どうなるんでしょう?
「その話、乗った!」
会長さんが叫ぶまでには五分とかかりませんでした。ハーレイホイホイ、もしくは教頭先生ホイホイなるもの、ソルジャーの世界の接着剤の力を借りて作られるそうで。
「…ゴールは粘着ベッドなんだね?」
それはこの家ではやりたくないな、と会長さん。
「面白いけど、ぼくの家のベッドの一つをハーレイなんかに提供したくはないからねえ…」
「えっ、でも…。クリスマスパーティーの時には泊まってないかい?」
ゲストルームに、とソルジャーが返すと、会長さんは。
「普通のゲストと、エロい目的でやって来るモノとは違うんだよ! だからベッドが問題で…」
何処かのホテルの部屋でも借りようかな、という呟きに、ソルジャーが。
「ぼくとしては、君の家を使うつもりでいたんだけれど…。ハーレイの家でもいいんじゃないかな、出掛けてる間に細工をすればね」
「そうか、ハーレイの家があったっけ!」
無駄にデカイ家と無駄に広いベッド、と会長さんがポンと手を打って。
「ハーレイのベッドも充分デカイし、あれなら迷惑を蒙るわけでもないからねえ…」
「ついでに、そのまま放置したって平気だよ、うん」
家の住人はハーレイだから、とソルジャーも大きく頷きました。
「君の家だと遊んだ後には剥がさなくっちゃいけないけどねえ、ハーレイの家なら放置もオッケーということになるし、よりゴージャスに!」
「遊べそうだねえ、思いっ切りね!」
あの家をハーレイホイホイにしよう、と結託してしまった悪人が二人。そうと決まればガンガン出て来るハーレイホイホイを巡るアイデア、ああだこうだと盛り上がった末に。
「うん、ノルディとのデートは実に有意義だったよ、食虫植物!」
「植物園デートのついでだろ、それ?」
「ノルディはそういう気なんだろうけど、ぼくの魂はアレに魅入られちゃったんだよ!」
素敵な餌やりタイムに乾杯! とソルジャーは自分に酔っ払っています。
「しっかり観察させて貰った甲斐があったよ、ハーレイホイホイを作れるなんてね!」
「ぼくの方こそ、いい思い付きに混ぜて貰えそうで嬉しいねえ…。それで、明日なんだね?」
「そう、こういうのは思い立ったが吉日だからね!」
誘引用の餌もたっぷり用意しよう、とソルジャーが言えば、会長さんが「接着剤の方も頼むよ」と声を。教頭先生の家が丸ごとハーレイホイホイとやらに化ける日、明日らしいですよ?
翌日は青空が高く広がる日曜日。会長さんのマンションから近いバス停に集まり、歩き始めた私たちの足は非常に重たいものでした。
「…教頭先生ホイホイだよね?」
本気だよね、とジョミー君が嘆けば、キース君が。
「あいつらだけでやってくれればいいものを…。なんで俺たちまで呼ばれるんだ!」
「ギャラリーだと言っていましたよ?」
いなければ張り合いが無いだとか…、とシロエ君。
「とりあえず、ぼくたちにお役目はついていないというのが救いですよ」
「そうなんだけれど…。相手は教頭先生ホイホイなのよ?」
どうせいつものモザイクコースよ、とスウェナちゃんが溜息をついて、私もフウと。教頭先生が真っ裸でベッドにダイブとなったら、スウェナちゃんと私はモザイクの世界。男の子たちはモザイクなんかは要らないでしょうが…。
「モザイク無しっていうのもキツイぜ、俺に言わせればよ」
パンツくらいは履いてて欲しいと思っちまうな、とサム君は言っていますけど。
「サム…。教頭先生のパンツ、アレだよ?」
例の紅白、とジョミー君が指摘し、サム君は青空を仰ぎました。
「あちゃー…。そうか、どう転んだって変な方にしかいかねえんだよな、こういうのはよ」
「そういうことだ。諦めるしかないんだが…」
だがキツイ、とキース君。
「そして、あいつら。とっくに準備を始めてやがるといった所か?」
「どうなんでしょう? まだ早いですし、これからなのかも…」
出来れば済んでて欲しいんですが、とシロエ君がぼやいて、マツカ君も。
「終わった後だと思いたいですね…」
なにしろアイデアがアレですから…、と遠い目を。そうする間にも会長さんの家との距離はどんどん縮まり、マンションの前に着いてしまって、管理人さんにドアを開けて貰って…。
エレベーターで上った最上階。キース君が玄関の横のチャイムを鳴らすと。
「かみお~ん♪ いらっしゃい!」
入って、入って! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお出迎え。
「ブルーも来てるの、みんなが来るのを待ってるよ!」
「「「………」」」
教頭先生ホイホイの制作、終わっているのか、これからか。それがとっても気になります~!
飛び跳ねてゆく「そるじゃぁ・ぶるぅ」の後ろに続いてリビングに行くと、会長さんと私服のソルジャーが待っていました。テーブルの上には封筒があって。
「やあ、おはよう。ブルーが色々持って来てくれてね」
「おはよう! 接着剤も持って来たけど、こっちを見てよ!」
ぼくと「ぶるぅ」のコラボなんだ、と封筒の中から写真がズラズラ。ソルジャーが青の間で「ぶるぅ」に撮らせたのでしょう、紫のマントの正装を順に脱いでゆく写真。
「ハーレイを釣るにはコレだと言っておいたよね、昨日! 思った以上にいい出来で!」
この写真とコレとがセットなのだ、と取り出された矢印のマークが書かれた紙。矢印に従って歩いて行ったら、ソルジャーの写真が次々と服を脱いでゆく仕組み。
「そして終点がハーレイの寝室、其処に粘着ベッドなんだよ!」
接着剤の方は見えないようにサイオニック・ドリームで誤魔化すのだ、と悪辣すぎるソルジャーのアイデア。ダイブしたならベッタリくっつく仕掛けなのに…。
「ぼくもぶるぅと一緒に用意しておいたよ、ベッドの天蓋!」
ムードたっぷりに演出しなきゃね、と会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」がインテリアショップで時間外に調達して来たものは天蓋だとか。青の間のベッドにもありますけれども、あれよりももっとロマンティックにレースたっぷりに出来ているそうで。
「こんな感じに準備は出来たし、後はハーレイを追い出すだけだね」
ハーレイホイホイを作ってる間は立ち入り禁止、と会長さんが宣言すると、ソルジャーが。
「買い出しにでも行かせておけばいいのかな?」
「そんなトコだね、近所の店でいいと思うよ。でなきゃ本屋とか」
「ああ、本屋! そっちの方が時間の調整が便利そうだね」
キリのいいトコで本と意識を切り離してやれば戻って来るし、と頷くソルジャー。
「それじゃ本屋に行かせておくよ。えーっと…」
ハーレイの意識をチョイと弄って…、と独り言が聞こえ、間もなく「よし!」と。
「丁度ハーレイも本屋に行きたい気分だったらしくて、出掛ける用意は整ってたから…。ぼくが思念で合図するまで、立ち読みコースにしておいたよ」
「なるほど、出掛けたみたいだね。…それなら、そろそろ…」
「ぼくたちの方も出掛けなくっちゃね!」
ハーレイホイホイを作りに行こう! とソルジャーが拳を高く突き上げ、「そるじゃぁ・ぶるぅ」も高らかに。
「かみお~ん♪ しゅっぱぁ~つ!」
パアアッと迸る青いサイオン。私たちは逃げる暇さえ与えられずに、瞬間移動で教頭先生のお宅に向かって出発です~!
ドサリと放り出されるように着地した教頭先生の家のリビング。会長さんとソルジャーは早速、仕事に取り掛かりました。まずは写真と矢印から。
「玄関を入って直ぐに目に付く所となると…。この辺りかな?」
「ダメダメ、君はハーレイの身長の高さを分かっていない。此処だよ、此処!」
この高さ! とソルジャーが一枚目の写真を壁にペタリと。まだソルジャーの衣装を脱いではいなくて、補聴器だけを外して両手で持っている写真。
「ハーレイがどの辺を見るかも分かっていないだなんて…。君のハーレイへの愛はまだまだ足りていないね、もっと愛してあげないと!」
「そんな気があったら、ぼくはこの企画に乗ってないけど?」
ハーレイホイホイを作るだなんて、と会長さん。
「君はハーレイを食べる気満々かもしれないけどねえ、ぼくは悪戯する方だから!」
「ハーレイもホントに報われないねえ…。まあ、言い出しっぺはぼくなんだけど」
ついでに誘うのもぼくなんだけど、とソルジャーは写真の真下に矢印をペタリ。
「でもって、次の写真がこの辺り、とね」
マントの襟元を外した写真が壁に貼られて、ついでに矢印。そんな調子で写真と矢印がセットで貼られて玄関先から階段へ誘導、二階に上がれば寝室の方へとまっしぐらで。
「うん、いいねえ…! 我ながら惚れ惚れするストリップだよ」
「ぼくはこんなのは御免蒙るけどねえ…」
こんな写真は撮りたくもない、と会長さんがそっぽを向いていますが、ソルジャーは。
「ぼくは好きだな、こういうのもね! ぶるぅも覗きが大好きだからさ、カメラマンとしては最高なんだよ」
どんな恥ずかしい写真でも撮ってくれるし、と寝室の扉に貼られた写真は全裸のソルジャー。辛うじて腰の辺りにマントの端っこが纏わりついているといった感じで。
「これを見てグッと来なけりゃ男じゃないね! 絶対、扉を開けたくなるって!」
「だろうね、マント無しバージョンの写真を拝みに」
でも寝室の中に入ると…、と会長さんが扉を開けて寝室へと。明かりを点けて部屋をグルリと見回し、チッと舌打ち。
「相変わらずの部屋だね、妄想まみれの…。ぼくの抱き枕まで転がってるし!」
「あの抱き枕も長持ちだねえ…。流石はサイオン・コーティングだよ」
でも本日はコレに用事は無し、とソルジャーがベッドからどけた会長さんの抱き枕。そういう代物もあったんだっけ、と意識を手放したくなる部屋ですよねえ…。
寝室での作業は天蓋をセットすることから始まりました。男の子たちも手伝わされて枠を組み立て、教頭先生の大きなベッドにジャストなサイズの天蓋が。レースひらひら、真っ白なもの。それを天蓋にくっついた紐で持ち上げ、ベッドの中が覗けるように。
「ブルー、入ってみてくれる? ぼくが外から確認するから」
会長さんに声を掛けられ、ソルジャーが「うん」とベッドの上に乗っかって。
「この辺りかな? 君も一緒に座る予定だし、こんな風?」
流石はソルジャー、自分の隣に会長さんの幻影を作り出しました。会長さんは二人分の人影を眺めて「もうちょっとかな…」などと天蓋の開き具合を調整して。
「よし、出来た! これで最後の仕上げだけってね」
「ハーレイホイホイにはコレが無くちゃね!」
任せといて、とソルジャーが宙から取り出したバケツ。それの中身をベッドの上へとバシャリとブチまけ、教頭先生の広いベッドは一瞬の内に粘着ベッドに早変わりで。
「「「…やっちゃった…」」」
どう見てもベタベタ、触ったら最後、私たちもベッドに捕まるのでしょう。ハエ取り草だのモウセンゴケだの、ウツボカズラだのに捕まってしまった虫みたいに。しかも…。
「はい、総仕上げ~!」
種も仕掛けもございません! とソルジャーが何処で聞いて来たやら、見事な口上。粘着ベッドの接着剤はパッと消え失せ、普通のベッドが目の前に。これってサイオニック・ドリームですよね、触ったらベタリと貼り付きますよね?
「その通り! 触っちゃ駄目だよ、ハーレイホイホイに別のがかかっちゃ意味が無いから!」
「別の物体がくっつくって結末、ぼくたちの世界じゃ王道だけどね」
他の虫ならまだしも靴下、と会長さんが笑って、ソルジャーが目を丸くして。
「靴下って…。なんで、そんなのがくっつくわけ?」
「そりゃね、ゴキブリホイホイを置く場所は床だから…。もちろん隅の方に置くけど、ウッカリしてると人間が足を突っ込んじゃってさ」
「それで靴下! 分かった、君たちも靴下にならないように!」
下がって、下がって! と言われなくても、距離を取りたい粘着ベッド。ギャラリーの居場所はこの部屋なんだ、とソルジャーに凄まれてしまいましたし、教頭先生ホイホイなんかの発動現場に居合わせるなら、出来るだけ離れていたいですってば…。
ギャラリーの役目は見物すること。教頭先生が気付いてヘタレてしまわないよう、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が私たちの周りにシールドを張ってくれました。「そるじゃぁ・ぶるぅ」も一緒です。教頭先生の目に入るものは会長さんとソルジャーだけで。
「もうハーレイを戻らせていいよね、本屋から」
「オッケー! ぼくたちは此処でポーズを取るとして…」
会長さんとソルジャーが粘着ベッドの上に上がり込み、お互いにチェックしながら服の襟元などを乱して「誘う」ポーズとやらを取る準備を。
私たちの前には「そるじゃぁ・ぶるぅ」が中継画面を用意してくれ、間もなく教頭先生が玄関を入る姿が映し出されて。
「おおっ!?」
なんだ、と教頭先生の視線が玄関先の写真に釘付け。補聴器を取ったソルジャーです。
「この矢印は…。何の印だ?」
こっちへ行くのか、と進んだ先にはマントを外そうとするソルジャーの写真。「ほほう…」と見惚れて矢印に沿って更に進めばマントが無くなり、教頭先生はゴクリと唾を。
「矢印の通りに歩いて行ったら、ストリップが拝める仕組みなのか?」
これは美味しい、とウキウキ、ドキドキ、階段を上がって寝室の方へとズンズンと。寝室の扉にはマントで辛うじて腰が隠れるソルジャーの写真なわけですから…。
「これを開けたら裸なのだな!」
バアン! と勢いよく扉を開けた教頭先生だったのですが。
「な、なんだ!?」
ベッドの上に真っ白な天蓋、しかもその下に…。
「おかえり、ハーレイ」
「ぼくのストリップはお気に召したかな?」
ゴールは一応、此処なんだけど…、とベッドの上から手招くソルジャー。私服姿の襟元が開いて、白い胸元がチラリチラリと。隣には会長さんが並んで座っていて。
「ブルーが提案したんだよねえ、たまにはこういう誘いもいいよね、って。それでね…」
ぼくもその気になっちゃって、と思わせぶりな視線を投げ掛ける会長さんも襟元のボタンが外れて鎖骨がチラリ。教頭先生の喉仏がゴクンと上下して。
「で、では…。そのぅ、このベッドは…」
「素敵な時間を過ごすためにと、天蓋まで用意したんだけどね?」
脱いでくれるなら来てもいいよ? という会長さんの誘い文句に、教頭先生はガッツポーズで。
「うおおおーーーっ!!!」
パパパパパーッ! と擬音が聞こえそうな勢いで服を脱ぎ捨て、紅白縞のトランクスをも脱いでしまった教頭先生、マッハの速さでベッドへとダイブ。その勢いで会長さんとソルジャーを二人纏めて食べる気だったか、会長さんだけのつもりだったかは知りませんが…。
「「「ひいいっ!!」」」
やった、と私たちが上げた悲鳴はシールドに覆われて部屋には響かず、代わりにベチャーン! と間抜けな音が。教頭先生、粘着ベッドに頭からダイブ、大の字でへばりついておられて。
「ううううう~~~」
うつ伏せに貼り付いておられますから、言葉はくぐもって聞こえません。思念波を使うことさえ頭に無いらしく、ひたすらパニック、もがけばもがくほど貼り付くベッド。
「どうかな、ハーレイホイホイの味は?」
会長さんが教頭先生の背中をチョンチョンとつつけば、ソルジャーが。
「こういう時にはお尻だってば! せっかく剥き出しなんだからねえ、触ってなんぼ!」
いい手触り! と、ソルジャーの手が教頭先生のお尻を撫で回しています。
「うー! むむむ~~~!」
「あっ、感じちゃった? それじゃ早速、ぼくからサービス!」
この接着剤は伸びが良くって、とソルジャーは教頭先生をサイオンでゴロンと転がし、仰向けに。スウェナちゃんと私の視界にはモザイクが入りましたが、教頭先生の身体の前面は接着剤にベッタリ包まれていて…。
「ふふっ、大事な所も接着剤まみれになっちゃってるけど…。ご心配なく、ぼくは御奉仕のプロだから! この状態でもプロ魂で!」
天国にイカせてあげるから、とソルジャーが教頭先生の身体に被さり、会長さんの方は。
「ブルーが天国を目指すんだったら、ぼくは悪戯を極めようかな? まずは足の裏!」
笑いながら天国に行きたまえ、とコチョコチョ、コチョコチョ、くすぐるのですから、教頭先生はどうにもこうにもならない状態。
「むむむむむ~~~っ!」
笑ってるんだか、鼻血なんだか、歪んだ顔では分からない境地。そうこうする内、声がしなくなって、ソルジャーが。
「…昇天しちゃったみたいだねえ?」
「笑い死にだと思うけど?」
どっちにしたってハーレイホイホイの役目は果たした、と会長さん。
「この手のヤツはさ、駆除してなんぼのアイテムだしね?」
「うん。食虫植物も食べてなんぼで、虫を殺してなんぼなんだよ」
これで完璧! と手を打ち合わせるそっくりさんたちは、教頭先生を放置で帰る気らしいです。この接着剤、三日は取れないらしいんですけど、えっと、明日からの学校は? 教頭先生、無断欠勤な上にゼル先生とかに見付かっちゃったら…。
「…ヤバくないか?」
キース君が青ざめ、ジョミー君が。
「ヤバイってば!」
助けなくちゃ、と思いましたが、助けに行ったら私たちまで貼り付く結末。ゴキブリホイホイにくっついた靴下みたいな末路は避けたいですし…。
「そこの君たち! ハーレイは放っておいて帰るよ、そろそろお昼の時間だろう?」
ソルジャーの声に「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「かみお~ん♪ お昼御飯、みんな、何が食べたい?」
「「「………」」」
もういいか、と教頭先生をチラリ眺めて、お昼御飯のリクエスト。教頭先生、悪いですけど失礼させて頂きます。ハーレイホイホイからのご無事の脱出、心からお祈り申し上げます~!
捕まれば最後・了
※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
ソルジャーが食虫植物から思い付いたのが、ハーレイホイホイ。ゴキブリホイホイと同じ。
そして実行されてしまって、教頭先生、捕まってベッドにベッタリと。脱出不可能…?
これが2019年ラストの更新ですけど、「ぶるぅ」お誕生日記念創作もUPしています。
来年も続けられますように、どうぞよろしくお願いします。それでは皆様、良いお年を。
次回は 「第3月曜」 1月20日の更新となります、よろしくです~!
※毎日更新な 『シャングリラ学園生徒会室』 はスマホ・携帯にも対応しております。
こちらでの場外編、12月は、キース君が疫病仏だと評価されてしまって…。
←シャングリラ学園生徒会室は、こちらからv
※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。
毎夏恒例、マツカ君の海の別荘行き。今年もみんなでやって来ました、お天気も良くて最高です。お盆を乗り切ったキース君はのびのびと羽を伸ばしていますし、棚経のお供をこなしたサム君とジョミー君もホッと一息、海を満喫しているのですが。
「…あのバカップルはどうにかならない?」
もう嫌だ、とジョミー君が指差す先にバカップル。ビーチへ出て来てもイチャイチャベタベタ、そうでなければ部屋にお籠りというソルジャー夫妻が。
「どうにか出来たら困りませんよ」
あんなモノ、とシロエ君が毒づき、キース君も。
「もういい加減、諦めろ。あいつが日程を仕切り始めた時から全ては終わっているんだ」
「だよなあ、結婚記念日にぶつけて来やがるんだよなあ…」
毎年、毎年…、とサム君の口から嘆き節。
「此処で結婚したんだから、って譲らねえしよ、結婚記念日が絡んでいちゃなあ…」
「どう転んだってバカップルですよ…」
諦めましょう、とシロエ君。
「それより泳いできませんか? あんなのはビーチに放っておいて」
「いいな、教頭先生のご指導で遠泳といくか」
キース君が「お願い出来ますか?」と教頭先生に訊けば、「もちろんだ」という返事が返ったものの、その目はバカップルの方に向いていて。
「…実に羨ましい雰囲気なんだが…。ブルー、お前も一緒に来ないか?」
泳ぎに行こう、と会長さんにお誘いが。けれど…。
「なんで行かなきゃいけないのさ!」
ぼくはビーチでお留守番、と会長さんは一蹴しました。
「ビーチでのんびりがぼくの基本で、体力馬鹿な遠泳なんかはしない主義だよ。ねえ、ぶるぅ?」
「かみお~ん♪ ちょっと泳いでバーベキューとかが楽しいもんね!」
アワビにサザエ! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。海の別荘はプライベートビーチでバーベキューをするのもお楽しみの内で、男の子たちが獲った獲物やトウモロコシなんかを「そるじゃぁ・ぶるぅ」が焼いてくれます。悪戯小僧で大食漢な「ぶるぅ」もこれさえあれば御機嫌麗しく。
「ぼくも断然、バーベキュー!」
泳がないも~ん、と「ぶるぅ」までが。かくして教頭先生は男の子たちだけを引き連れ、遠泳に出掛けてゆかれました。目の毒なバカップルは無視するのが吉、バーベキューに混ざって「あ~ん♪」とやられても無視するのが吉…。
そういう海の別荘ライフ。今日はソルジャー夫妻の結婚記念日、夕食は別荘のシェフが腕を奮った豪華フルコースに舌鼓。お相伴すること自体はゴージャスなメニューだけに文句など無く、デザートが済んだら部屋に引っ込むソルジャー夫妻をお見送りするのが常なのですが。
「えーっと…。君たちは今夜も大広間かな?」
ソルジャーに訊かれ、キース君が。
「まあ、そうだが…。それがどうかしたか?」
「うん、せっかくの結婚記念日だしねえ…。毎年こもってばかりもアレかな、と賑やかにパーティーでもしようかと」
「「「パーティー?」」」
「そう! ぼくはパーティーが大好きなんだよ」
なのにシャングリラでは滅多にチャンスが無くて…、とぼやくソルジャー。
「お祝い事が少ない上に、食料だってそうそう揃えられないし…。たまには結婚記念日パーティーなんかもいいんじゃないかと思ったわけで」
「パーティーだったら、今、済んだけど?」
会長さんがテーブルに置かれたメニューを指でチョンチョンと。「結婚記念日祝賀会」という文字が刷られています。お料理の名前も「結婚記念日の海の幸」とか、それっぽい名前が並んでいますし、どう考えてもパーティーっぽく…。
「違うね、これは晩餐会!」
パーティーではない、とソルジャーは否定。テーブルに着いて食事するだけのものはパーティーなどではなくって、晩餐会だという解釈で。
「それじゃイマイチ、賑やかさってヤツに欠けるんだよねえ…」
「今、賑やかに食べたじゃないか」
「だから晩餐会だってば!」
ぼくの理想のパーティーじゃない、と言うソルジャー。曰く、パーティーとは決まった席から動かないという代物ではなく、自由に歩き回ってこそなのだそうで。
「ああ、なるほど…。立食形式が良かったんだ?」
「そうでもないけど…。こういう豪華な地球の食事も好きなんだけど!」
たまにはパーティー! とソルジャーは拳を突き上げて。
「実はね、昼の間にちょっとお願いしておいたんだよ、夜にパーティーしたいから、って!」
「「「ええっ!?」」」
いつの間に決まっていたんでしょうか。別荘の主のマツカ君まで驚いてますよ…。
パーティー大好きらしいソルジャー、準備の方は抜かりなく。私たちが毎晩集まっては騒ぐ大広間の方に軽食などが用意されることになっているとか。是非来てくれ、と何故か招待されてしまって、お風呂にも入ってゆっくりした後、いつもの広間へと出掛けてゆけば。
「かみお~ん♪ いらっしゃーい!」
パーティーの用意が出来てるの! と悪戯小僧の「ぶるぅ」がニコニコお出迎え。
「えっとね、お料理もお菓子も一杯! ご自由にやって下さい、って!」
上手く言えたかなあ? と訊かれてコクコク、けっこうサマになってます。まるで「そるじゃぁ・ぶるぅ」みたいで、悪戯小僧とは思えない感じ。
「やったあー! ゆっくりしていってねー!」
今夜はパーティー! と飛び跳ねている「ぶるぅ」の向こうには浴衣姿のソルジャー夫妻が。別荘に備え付けの浴衣で、サイズはきちんと合っています。
「やあ、いらっしゃい。パーティー、楽しんで行ってよね」
「私たちの結婚記念日ですから、どうぞごゆっくり」
ソルジャーとキャプテンに言われましたが、マツカ君の別荘が舞台なだけに、費用の方はマツカ君の負担になるのだろうな、と思っていたら。
「違うよ、今夜のパーティーは別! ぼくが払うわけ!」
ノルディに貰ったお小遣いもかなり貯まったから、と実に気前がいいソルジャー。
「だからどんどん食べて騒いで、遠慮なくパーティーしてくれれば…」
「そうなのかい? じゃあ、お言葉に甘えて御馳走になるよ」
会長さんが先頭に立って、みんな揃って大広間へと。パーティーとあって、浴衣姿の教頭先生も御一緒です。大広間は畳敷きなのですけど、料理や飲み物が揃ったテーブルが壁際にズラリ。
「どれでも自由に取って食べてよ、料理もお菓子も沢山あるから」
減って来たら補充もして貰えるし、とソルジャーが早速、乾杯の音頭を取ろうとしています。私たちは好みのジュースをグラスに注いで、会長さんと教頭先生、「そるじゃぁ・ぶるぅ」はシャンパンのグラス。ソルジャー夫妻もシャンパンで…。
「「「かんぱーい!」」」
結婚記念日を祝して! と始まった本日二度目のパーティー、いえ、ソルジャーに言わせればパーティーはこれが一回目。夕食はただの晩餐会だということですし…。
「そうだよ、パーティーはこうでなくっちゃ!」
賑やかにいこう! と主催者のソルジャーが言うんですから、大いに飲み食いすべきでしょう。料理もお菓子もホントに沢山、これは徹夜で騒げるかもー!
こうして始まったパーティーという名のドンチャン騒ぎ。未成年の私たちがいるだけに飲めや歌えの大宴会とはいきませんけど、ソルジャー夫妻や会長さん、教頭先生なんかはお酒の方も。マツカ君が言うには、別荘の自慢のいいワインとかもバンバン出ているみたいです。
「まさに大盤振る舞いだな…」
俺たちには恩恵が無いようだが、とキース君が残念そうに。大学まで行ったキース君ですけど、お酒の付き合いは最低限に留めたとかで量は殆ど飲めません。ゆえに凄いワインのボトルが開いたと聞いても味見でおしまい、美味しくてもクイッといけないわけで。
「だけど、キースはまだいいよ! 味見で利き酒やってるから!」
他の面子は全然だよ! とジョミー君。
「ぶるぅは普段からチューハイとかも飲んでいるしさ、そこそこ飲んでるみたいだけれど…」
「ぼくたちは飲んだら終わりですしね…」
酔っ払うか寝るかの二択ですよ、とシロエ君も。
「そうなったら料理もお菓子も楽しめませんし、お酒の方は諦めましょう」
「分かっちゃいるけど、なんか見てると羨ましいよなあ…」
美味そうだぜ、とサム君が。お酒を飲める面子は次々に杯を重ね、それは賑やかにやっているだけに羨ましい気もしてきます。食べたり飲んだり楽しそうだな、と思っていると…。
「そ、それはちょっと!」
会長さんの声が上がりました。それに続いてソルジャーが。
「ぼくのお酒が飲めないとでも?」
「そ、そうは言わないけど、もっと別ので! そのお酒はちょっと…」
遠慮したい、と逃げ腰になっている会長さん。どんなボトルが開いたんだか、と一斉に注目したんですけど、ブランデーだかウイスキーだか、そういう感じのお酒ですねえ…。
「これは高級品なんだよ」
ぼくでも滅多に飲めないお酒、とソルジャーがボトルを示せば、キャプテンも。
「ええ、そうです。シャングリラでは酒は合成なのですが…。これは合成の酒の中でも一番手間暇がかかるものでしてね、大量生産は出来ないのですよ」
ですからパーティーの時くらいしか…、と説明が。
「ブルーが是非ともパーティー用に、と言うものですから、データを誤魔化して参りました」
「そうなんだよ! ハーレイがキャプテン権限でやってくれてね!」
だからこんなに持ち出せちゃって、とボトルが沢山ドッカンと。ソルジャーの世界のお酒だというのは分かりましたが、会長さんは何故に逃げ腰…?
お酒には強い会長さん。酔っ払った姿はまだ見たことがありません。ソルジャーの世界のお酒くらいは平気だろうと思うんですけど…。
「甘いよ、君たちの考え方は! キースならきっと分かると思う!」
分かってくれ、という会長さんの悲鳴にも似た声に、キース君が。
「…チャンポンか?」
「そう、それだってば!」
「「「チャンポン?」」」
それはラーメンに似た麺の一種では…、と顔を見合わせる私たち。麺の類は伸びちゃいますから、パーティー料理には向きません。出すんだったら屋台が必要、取りに来た人に調理して渡す形式でないと不味くなるだけに、今夜のパーティーには麺などは無くて。
「…チャンポンって何処にありましたっけ?」
シロエ君が見回し、サム君も。
「気が付かねえけど…。注文したら厨房から来るとか、そういうのかよ?」
「そうじゃなくって! 頼むよ、キース!」
説明よろしく、と会長さんが叫んで、キース君が。
「俺が言うのは麺のチャンポンではなくてだな…。いわゆる酒の用語なんだが、何種類もの酒を一度に飲むことをチャンポンと言う。こいつが実に厄介で…」
組み合わせがマズイと悪酔いするのだ、とキース君は教えてくれました。会長さんたちはワインもウイスキーも飲んでいますが、其処に出て来たソルジャーの世界の合成酒。どんな代物だか分からないだけに、飲まないのが賢明な選択らしく。
「迂闊に飲んだら真面目に終わりだ、そういう理由で逃げてるわけだな」
「「「あー…」」」
悪酔いコースは避けたいだろう、と全く飲めない私たちでも理解出来ます。二日酔いはキツイと聞いてますから、妙なお酒は飲まないのが吉。
「妙なお酒と言うのかい、これを!?」
ホントに高級品なのに、とソルジャーはボトルを一つ掴んで。
「ここのラベルをちゃんと見てよね、最高級の印がきちんと!」
「そうなのです。このお酒にしか付かないマークで、ラベル自体が限られた数しか作られないという逸品ですよ」
もう本当に高級品です、とキャプテンも保証していますけれど。なんと言っても相手は異世界のお酒、なおかつ合成品ですよ…?
「そのお酒…! そもそも原料は何なのさ!」
書いてないし! と会長さんが限定ラベルを指差して怒鳴ると、キャプテンが。
「書かないようにしているのですよ、合成ですから。書いてしまうと合成だと分かって興ざめですしね、そういう仕様になっております」
「そうなんだよねえ、雰囲気重視! あえて聞きたいと言うんだったら、メインはクリサリス星系由来の…」
ソルジャーがズラズラと挙げた原料は意味不明でした。クリサリス星系とやらはソルジャーの世界のシャングリラがある惑星アルテメシアを含む星系らしいのですが…。
「そんな説明だと分からないから! こっちの世界の成分とかに置き換えてよ!」
会長さんの注文ですけど、ソルジャーは。
「うーん…。一部は置き換え可能だけれども、メインの方がねえ…」
似たようなものを思い付かなくて、とトンデモな話。つまりは原材料が不明のお酒が出て来たわけで、飲んだら最後、チャンポンなのかもしれないわけで…。
「ああ、その点なら大丈夫! ぼくもハーレイも平気だからね!」
「かみお~ん♪ ぼくだって酔っ払わないもーん!」
美味しく飲むもん! と「ぶるぅ」も証言。けれども、ソルジャーもキャプテンも「ぶるぅ」も、元から合成のお酒に慣れた人種で、会長さんは今回が初の出会いで。
「…で、でも、ぼくはちょっと…」
「ぼくたちの結婚記念日を祝うお酒が飲めないと!?」
こんなに沢山持って来たのに、と凄むソルジャー。
「これだけの量をちょろまかすのはね、ホントに大変なんだから! もしもバレたら、ぶるぅが飲んだと言っておくけど、ホントのホントに高級品で!」
「シャングリラでは自慢の酒なのですが…」
駄目でしょうか、とキャプテンもかなりガッカリしています。でもでも、飲んだらチャンポンの危機で、大丈夫という保証は何処にも無くて…。
「と、とにかく、ぼくには無理だから…!」
「そう言わずに!」
「いくら美味しくても、ヤバすぎるから…!」
泥酔するのも二日酔いコースもお断りだ、と必死に逃げを打つ会長さんと、是非にと勧めるソルジャーと。結婚記念日のパーティーなだけに、あんまり断り続けているのもマズイと思うんですけれど…。失礼だろうと思うんですけど、どうすれば…?
ソルジャー持参の怪しげなお酒。シャングリラで作った自慢の高級品だと力説されてもヤバイものはヤバく、さりとて断り続けていたなら座が白けます。どうなるんだろう、と私たちだって戦々恐々、おっかなびっくり見守っていれば。
「…その杯。よろしかったら、私が頂きます」
ブルーの代わりに、と教頭先生が名乗りを上げました。
「これでも一応、シャングリラ学園の教頭ですから…。生徒の保護者的な立場になるかと」
「ふうん…? 君がブルーの代わりに飲む、と」
いいけどね、とソルジャーは納得した風で。
「君もいずれはブルーと結婚するんだろうから、夫婦となったら一心同体! ちょっと早いけど未来の夫婦ってことでブルーの代理にしておこうかな、うん」
「こ、光栄です…!」
ブルーと夫婦と認定だとは…、と教頭先生は感無量。いつもだったらこんな時には会長さんが怒り狂うのが定番ですけど、今日はチャンポン回避のためだとグッと我慢をしているらしく。
「…じゃあ、ハーレイ。ぼくの代わりに飲んでおいてよ」
「うむ、任せておけ!」
頂戴します、と教頭先生がグラスを差し出し、ソルジャーがやおらボトルを開けて。
「はい、どうぞ。高級品だよ、それなりにいける味なんだ」
トクトクトク…、と注がれたお酒を教頭先生はグイと一気に飲み干して。
「これは…! 言われなければ合成品とは分かりませんねえ…!」
「そうだろう? だから今回、持って来たんだよ。他の合成酒はサッパリだけど…」
これだけは自信を持ってお勧め出来るのだ、とソルジャーはそれは誇らしげに。
「ぼくのシャングリラの自慢の味だよ、どんどんやってよ」
「ええ、喜んで…!」
こういう酒もいいものですね、と応じる教頭先生の舌にはソルジャーの世界の合成酒とやらが合ったようです。お世辞ではなくて本当に美味しいと感じるらしくて、勧められるままにクイクイ、グイグイ。
「うんうん、なかなかいける口だねえ! ぼくのシャングリラでも生きて行けるよ」
「これほどのお酒を作れる技術は凄いですねえ…」
実に美味いです、と教頭先生。キャプテンもシャングリラの技術を褒められて嬉しそうに。
「そう言って頂けると、キャプテン冥利に尽きますよ。今夜は大いに飲んで下さい」
どうぞ、とキャプテンからも注がれるお酒。うーん、あれって美味しいんだ…。
別の世界から持ち込まれて来た、ソルジャーのシャングリラ自慢の高級酒。何で出来ているのかサッパリ不明な合成酒ですが、教頭先生はお気に召した模様。ソルジャー夫妻と差しつ差されつ、宴たけなわ。会長さんはチッと舌打ちをして。
「…てっきりチャンポンかと思ったけれども、あれだけ飲めるなら大丈夫なのかな?」
「かみお~ん♪ ブルーも飲んでみる?」
持ってくるよ、と「ぶるぅ」が取って来ようとしましたが。
「いいよ、次のチャンスがあったら、ってことで…。一度断っておいて飲むのもねえ…」
申し訳ないし、と会長さんが言った所へ、地獄耳だったらしいソルジャーが。
「ううん、ぼくは全然気にしないから! 良かったら君も一緒に飲もうよ!」
「でも…」
「気にしない、気にしない!」
ぼくたちの結婚記念日を是非祝ってくれ、とソルジャーは至極御機嫌です。会長さんも「それなら、ぼくも少しだけ…」と腰を上げかけたのですけれど。
「暑いですねえ…」
教頭先生がグラスを置いて、浴衣の襟元をグイとはだけて手でパタパタと。
「冷房の効きが悪くなったんですかね、どうも暑くて…」
「そうですか? 私の方はそれほどでも…」
特に暑いとも思いませんが、とキャプテンが教頭先生にボトルを。
「まあ飲んで下さい、酒はまだまだありますから」
「遠慮なく頂戴いたします」
いや美味い、とゴクゴク、グイグイ。そして「暑い」と浴衣の前をはだけてしまった教頭先生。会長さんはそれをチラリと眺めて。
「…飲もうと思ったけど遠慮しとくよ、あんなハーレイと一緒ではねえ…」
「おや、駄目かい?」
ソルジャーが訊くと、会長さんの冷たい瞳が教頭先生をジロジロと。
「なんと言うかね…。こういう席で脱ぐっていうのはデリカシーに欠けているっていうか…。でなければマナー違反と言うか」
みっともない、と軽蔑の眼差し。
「浴衣はキチンと着てこそなんだよ、ああいう男と飲みたくはないね」
「そうかなあ? ぼくには素敵に見えるけどねえ?」
あの胸板が素晴らしいよ、とソルジャーの方はウットリと。えーっと、教頭先生なんですが?
冷房の効きがイマイチだから、と教頭先生、はだけた浴衣から胸板が丸出し。帯で締めてるすぐ上くらいまで露出していて、会長さんには見るに堪えない光景らしく。
「日頃、うるさく言ってるくせにね、柔道部員に」
柔道着はキッチリ着込んでおけと、と会長さんが罵りましたが、ソルジャーはと言えば。
「男らしいと思うけど? こう、さりげなく筋肉をアピール!」
ちょっと触ってみたくなるよね、と言うなり教頭先生たちの方へと戻って行って。
「えーっと…。ハーレイ?」
「はい?」
キャプテンが即座に応えましたが、「違う!」と一言。
「こっちのハーレイに用事なんだよ。…君の筋肉、なかなか凄いね」
「あ、ありがとうございます…」
日頃から鍛えておりますので、と返した教頭先生の前にストンと座ったソルジャー、右手を伸ばして教頭先生の胸板を指でツツツツツーッと。
「うん、固くっていい感じ! これぞ筋肉!」
「そう言われると嬉しいですねえ…」
鍛えた甲斐がありますよ、と教頭先生は浴衣の袖をまくって右腕をググッと。たちまち盛り上がる腕の筋肉、ソルジャーはもう惚れ惚れとして。
「いいねえ、腕も筋肉モリモリ! これじゃさぞかし…」
「それはもう! よろしかったら御覧になりますか?」
肩の方はこんな感じですよ、と右袖を抜いた教頭先生、上半身の右側がモロ出しに。逞しい筋肉はいいんですけど、こんな調子で披露しちゃうようなタイプでしたっけ?
「…なんか変じゃねえ?」
サム君が首を捻って、シロエ君も。
「教頭先生らしくないですね? いつもだったら赤くなるとか…」
「だよねえ、なんだかおかしい気がする」
変だ、とジョミー君が頷き、キース君だって。
「筋肉自慢をなさるタイプではない筈だが…。どうも妙だな」
そういう言葉を交わす間にも、教頭先生はソルジャーのリクエストに応じてポージングを。筋肉ムキムキ、挙句の果てに。
「もっと御覧になりたいですか?」
脱ぎましょうか、と帯に手を。やっぱりホントに変ですってば~!
筋骨隆々の上半身を披露しただけでは飽き足りなくなった教頭先生、浴衣を脱いで全身の筋肉を見せたくなったようですが。此処はソルジャー夫妻の結婚記念日を祝うパーティーの席で、ソルジャーもようやく思い出したらしく。
「んーと…。普段だったら見たいんだけどね、今日はちょっとね…」
「どうかなさいましたか?」
何か不都合でも、と教頭先生。
「不都合と言うか…。ぼくには一応パートナーがいるし、今日は結婚記念日だし…。そっちの裸も拝まない内に、君の裸というのはねえ…」
「そうでした! 今日はおめでたい日でしたねえ!」
ウッカリ忘れておりました、と教頭先生はペコリと頭を。
「誠に申し訳ございません。結婚記念日ともなれば、もうやることは一つですよね!」
「もちろんだよ! パーティーが済んだら、記念に一発! ううん、六発は欲しいよね!」
今夜のベッドが楽しみで…、とソルジャーが言うと、「そう仰らずに」と教頭先生。
「後ほどだなどと仰らずに…。こうしてパーティーもしているのですし、こちらでなさればよろしいのでは?」
「えっ、こちらって…。此処のことかい?」
「そうですが?」
スペースは充分にございますし、と教頭先生は満面の笑顔。
「お幸せな結婚生活をご披露なさるのもいいと思いますよ。私もあやかりたいですし…」
「あやかりたいって…。それに披露って、此処でヤれと?」
「ええ。ギャラリーも大勢おりますからねえ、結婚記念日に相応しいかと」
披露なさってなんぼですよ、と教頭先生が拳でトントンと叩く大広間の床。畳敷きながらも絨毯だって敷かれていますし、その絨毯がまた上等で。
「如何でしょうか? この絨毯は肌触りもいいと思うのですが」
「…ふうん?」
ソルジャーの手が毛足の長い絨毯を撫でて、「いいね」と頬を擦り付けてみて。
「なるほどねえ…。結婚記念日のセックスは披露してなんぼ、と」
此処でヤるのもいい感じかも、と絨毯の上に仰向けにパタリ。浴衣姿で足をパタパタ、そんなソルジャーに教頭先生が。
「絨毯の上もお似合いですよ? 是非とも拝見したいものですねえ…」
結婚記念日の熱い一発! と仰ってますけど、これってホントに教頭先生…?
教頭先生と言えばヘタレが売り。何かと言えばツツーッと鼻血で、倒れてらっしゃることもしばしばです。その教頭先生が覗きどころか見る気満々、大広間での大人の時間をソルジャーに勧めていらっしゃるなど、どう考えても変ですが…?
「…教頭先生、変なスイッチ入っちゃってる?」
有り得ないことになってるけれど、とジョミー君が怖々といった顔つきで尋ね、サム君が。
「酒じゃねえのか、もしかしたら?」
あのナントカいう合成酒、という指摘。成分不明の合成酒だけに会長さんが逃げてしまって、教頭先生が代わりに飲んでらっしゃいましたけど…。あれがスイッチ入れたんですか?
「うーん、チャンポンでスイッチなのか…」
そう来たか、と呻く会長さん。
「てっきり悪酔いコースなのかと思ったんだけど、信じられない方向に向かって酔っちゃうとはねえ…。ヘタレ返上だか、クソ度胸だか」
そしてブルーが悪乗りしそうだ、という会長さんの読みは当たりました。絨毯の寝心地を確かめたソルジャー、ガバリと起き上がるなりキャプテンにパチンとウインクを。
「ハーレイ、こっちのハーレイの素晴らしいお勧めを聞いたかい? 此処でヤれって!」
結婚記念日の一発を熱く披露しようよ、とソルジャーは最早すっかり乗り気。
「シャングリラ学園の教頭先生の御提案だし、生徒も見学してくれるんだよ! 此処でヤらなきゃ男が廃るというものだろう!」
君も男でぼくも男、とキャプテンの側ににじり寄るなり、両腕を首にグイと回して熱いキス。
(((………)))
バカップルのキスは見慣れているものの、そこから先はあずかり知らない世界です。披露されても困るんですけど、ソルジャーはその気、教頭先生も見学する気。ソルジャーの方は浴衣の裾が乱れるのも構わず、キャプテンの背中に片足を絡めて体重をかけて引き倒し…。
「ほら、ハーレイ! 此処で一発!」
「で、ですが、ブルー…!」
「結婚記念日だよ、パーティーの席で披露するのもいいものだよ!」
大勢の人が見てくれてるし、と言われたキャプテン、顔面蒼白。
「わ、私は見られていると駄目な方でして…!」
「気にしない、気にしない! ぶるぅが増えただけだと思えば!」
遠慮しないで大いにヤろう、とソルジャーが足でグイグイとキャプテンの腰を引き寄せ、キャプテンは引っ張られまいと踏ん張ってますが。私たち、これからどうすれば…?
ソルジャーの世界の合成酒で酔っ払ってしまった教頭先生、ヘタレ返上、覗き根性大爆発。このまま行ったらソルジャーとキャプテンが結婚記念日の記念に一発披露しそうで、私たちはコッソリ逃げるべきかと後ずさりを始めたのですけれど。
「そこのギャラリー! 逃げちゃ駄目だから!」
せっかくの記念の一発だから! とソルジャーの一喝。
「教頭先生も許可してるんだよ、大いに覗きをするべきだってね! そうだよね、ハーレイ?」
「ええ、こんなチャンスは年に一度しかありませんしね、記念日だけに」
結婚記念日の熱い時間をお楽しみ下さい、と教頭先生はキョロキョロと部屋を見回して。
「…残念です。カメラの用意が無いようですねえ、あれば撮ろうと思うのですが…」
「君がカメラマンをしてくれるのかい? 録画とかも?」
それは素晴らしい! とソルジャーが大きく頷いて。
「ぶるぅ、カメラを調達して来て! 別荘の人に頼めばあるだろ?」
「かみお~ん♪ 大人の時間を録画するんだね!」
行ってくるーっ! と姿を消した悪戯小僧はアッと言う間に戻って来ました。別荘へ来たお客様が使えるように、と用意されていたらしいプロ仕様のカメラ。教頭先生は「ぶるぅ」の手からカメラを受け取り、「いいカメラだ」と微笑んで。
「これで録画もバッチリですよ。お任せ下さい、記念日に相応しいのを撮りますから」
「ありがとう! 聞いたかい、ハーレイ、録画もお任せ出来るってさ!」
それじゃヤろうか、とソルジャーがキャプテンの浴衣の前をはだけて、指でツツーッと。
「こっちのハーレイはこれでスイッチが入ったけれど…。君はどうかな?」
「む、無理です! …ぶ、ぶるぅだけでも無理なのですが…!」
ぶるぅどころかこんなに大勢、とキャプテンは懸命に足腰を踏ん張り、ソルジャーの上へ倒れ込まないように頑張っています。倒れたら最後、録画開始で、ソルジャーのペースに巻き込まれてしまってヤる羽目に陥りそうですし…。
「ブルー、お願いですから離して下さい…!」
「ダメダメ、結婚記念日だからね! 熱い一発、録画つき!」
こんなチャンスを逃す手は無い、とソルジャーの方も足でキャプテンの腰をグイグイ、早くヤろうと焦れている様子。教頭先生はカメラを構えて今か今かと待っておられます。
「ハーレイ、早く! 後は君だけ!」
君だけ用意が出来てないんだ、とソルジャーが足でグイグイグイ。用意も何も、この状況でヤる気になれたら、それはキャプテンではないような…?
ヤる、ヤらないでソルジャーとキャプテンがもめている中、教頭先生は「まだですか?」と欠伸をしながら自分のグラスに例のお酒をトクトクと。手酌で呷ってはまたトクトクトク、私たちはもう気が気ではなくて。
「あ、あれってスイッチ入らないわけ?」
ジョミー君が肘でキース君をつつけば、つつかれた方も。
「俺が知るか! そういうのは常識で考えてくれ!」
「さ、さっき酔っ払ってスイッチ入ったんだし、もっと酔ったらどうなるんだか…」
考えたくない、とジョミー君が肩を震わせ、シロエ君が。
「スイッチだけに、ブレーカーが落ちるってコトもありますけどね?」
「「「そうか、ブレーカー!」」」
落ちてしまえば何も起こらない、と一筋の光明が見えた気がしました。ソルジャー夫妻がヤるのヤらないのと騒いでいる間に、教頭先生が更に酔ってしまってブレーカーが落ちれば閉幕です。私たちはギャラリーなんかはさせられないで無事に逃走出来ますし…。
「教頭先生、早くブレーカーが落ちないかしらね?」
もっと早いペースで飲ませたいけど、とスウェナちゃんが呟き、それを聞いていた悪戯小僧の「ぶるぅ」が「やる!」と飛び跳ねて。
「ブレーカーって何か分かんないけど、面白そうーっ!」
今より楽しいことになるんだ! と「ぶるぅ」は見事に勘違い。ブレーカーが落ちたら教頭先生はもう動かないと思うんですけど、勘違い小僧はボトルを抱えて教頭先生の前にチョコンと。
「はい、飲んで、飲んでーっ!」
「おや。注いで下さるのですか、お忙しいのに」
「えっとね、覗きは大人の時間が始まるまでは暇なの、だから始まるのを待ってるの!」
ハーレイも始まるのを待ってるんだよね、と悪戯小僧。
「んとんと…。出待ち、入り待ちだったっけ? そんな感じで待ち時間だよね!」
「そうですね。入れるのを待っているのですから、入れ待ちでしょうか」
「じゃあ、入れ待ちで、仲良くしようよ!」
飲んで、飲んで! と「ぶるぅ」がトクトク、教頭先生がグイグイと。
「いい酒ですねえ、何杯飲んでも」
「そうでしょ、そうでしょーっ! それでね、ブルーとハーレイの大人の時間も凄いの!」
入れ待ちをする価値はバッチリだから、と勧め上手な「ぶるぅ」のお蔭で教頭先生、ハイペース。ソルジャー夫妻がもめてる間に、ブレーカー落ちて下さいです~!
ソルジャー夫妻の「入れ待ち」とやらで「ぶるぅ」と盛り上がっている教頭先生。どんどん杯を重ね続けて、ソルジャー夫妻に「まだですか?」と催促をして。
「まだなんだよねえ、君からも何とか言ってやってよ!」
このヘタレに、とソルジャーがキャプテンの腰を絡み付かせた足でグイと引けば。
「そうですねえ…。如何でしょうか、この際、私も混ざるというのは」
「「「は?」」」
教頭先生は何を言ったのか、とキョトンとしていれば、ソルジャーが。
「素晴らしいねえ、三人でって?」
「はい! 入れ待ちをしている間に、そういう気分になってきまして…。結婚記念日の一発だとは重々承知しておりますが、私も混ざっていいですか?」
「大歓迎だよ!」
それでこそ記念の一発と言える、とソルジャーは歓喜の表情で。
「ハーレイ、混ざってくれるって! 君も二人なら怖くないだろ、ギャラリーくらい!」
「な、なんですって!?」
「だ・か・ら! こっちのハーレイも一緒なんだよ、いわゆる3P!」
これぞ記念日の熱い一発! とソルジャーはキャプテンの腰を引っ張っていた足を離して、代わりに腕をガッシリ掴んで。
「逃げちゃ駄目だよ、こっちのハーレイが来てくれるまで…ね。ぶるぅ、こっちのハーレイの代わりにカメラをお願い!」
「オッケー! もう撮ってもいい?」
「うん! 記念すべき時間はたっぷり撮らなきゃ!」
夢の3P! とソルジャーが教頭先生を手招き、逃げそうなキャプテンを捕獲中。教頭先生は入れ待ちの間に更に緩んだ浴衣を帯だけで腰に引っ掛け、いそいそと。
「では、始めてもいいでしょうか?」
「そうだね、ぼくのハーレイと息が合ったらいいんだけれど…」
「無理です、私にはとても無理ですーっ!」
ただヤるだけでも無理なんですが、とキャプテンは泣きの涙でした。なのに教頭先生乱入、ソルジャー言う所の3Pとやら。会長さんは頭を抱えてうずくまっていますし、「ぶるぅ」はカメラを回していますし…。
「ブレーカーどころか、スイッチに段階があったわけ?」
ジョミー君の問いに答えられる人はいませんでした。こんなの想定外ですよう~!
教頭先生にもっと飲ませろ、と飲ませたばかりにスイッチオン。ヘタレな筈の教頭先生は浴衣を脱ぎ捨て、キャプテンに激を飛ばしていました。
「いいですか、これはチャンスですよ? 結婚記念日ならではですから…!」
「いや、しかし…! 結婚記念日だからこそ、夫婦で静かに…!」
「ハーレイ、まだあ…?」
どっちでもいいから早く来てよね、とソルジャーがキャプテンを脱がせにかかって、教頭先生はソルジャーの浴衣を脱がせるべく手を掛けています。カメラマンの「ぶるぅ」はウキウキと。
「わぁーい、3P! 見るの初めて!」
もっとハーレイにエネルギー! とカメラをサイオンで宙に固定し、例のお酒のボトルを抱えてピョンピョンと。教頭先生にグラスを渡して「飲んで!」とグイッと空けさせましたが…。
「「「…あれ?」」」
教頭先生が暫しフリーズ、それからバタンと仰向けに倒れ、たちまちグオーッと大イビキ。もしやブレーカー、落ちましたか? 今の一杯でバッチンと?
「うーん…」
夢の3Pがパアになった、とソルジャーが浴衣を直しながら文句をブツブツ、キャプテンは「助かりました」と安堵の溜息。
「ブルー、続きは私たちの部屋で致しましょう。結婚記念日ですからね」
「でも…。此処までの映像は貴重だからねえ…」
お宝に取っておきたいのだ、とソルジャーがカメラに手を伸ばせば、横から会長さんが。
「ちょっと待った! お宝だなんてとんでもない!」
この映像をネタにハーレイから毟らずにどうするのだ、という強烈な意見。
「いくら酔っ払ってやったことかは知らないけどねえ、ただエロいだけのオッサンだから! こんなハーレイ、ぼくとしては顔を見たくもないから!」
だけどオモチャは有効に…、と怖い台詞が。
「今後もぼくと付き合いたいなら、この映像を消してやるから金を出せ、ってトコなんだよ」
「消すだなんて…! ダビングして持っておけばいいだろ、脅迫用に!」
ぼくはお宝が欲しいんだ、とソルジャーが喚き、会長さんは「寄越せ」と騒いでいるのですけど。
「んーと…」
どのタイミングで言えばいい? と「ぶるぅ」が真剣に悩んでいました。
「どうかしたわけ?」
ジョミー君が尋ねてみれば、「ぶるぅ」は「殺されそうだよ」と肩を落として。
「…録画に失敗しちゃったみたい…」
「「「ええっ!?」」」
「サイオンでカメラを固定した時、なんか失敗しちゃったみたいで…」
「撮れてない!!?」
しかもその前のも消えたのか! とソルジャーの激しい雷が落ちて、「ぶるぅ」はお尻を百回叩かれるみたいです。教頭先生は大イビキですし、今の間に…。
「逃げた方がいい?」
「うん、多分」
トンズラあるのみ! と私たちは広間から逃走しました。教頭先生に妙なスイッチを入れたと噂の合成酒。キース君が言うには、他のお酒との飲み合わせなんかもあるようですが…。あんなのは二度と御免です。高級品でも次に見かけたら即、廃棄。異世界のお酒はお断り~!
異世界の美酒・了
※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
ソルジャーが持ち込んだ異世界のお酒で、ヘタレが吹っ飛んだ教頭先生。凄いレベルで。
もしもブレーカーが落ちなかったら、どうなったのやら…。録画は失敗ですけれど。
さてシャングリラ学園、11月8日に番外編の連載開始から11周年の記念日を迎えました。
11年も続けただなんて、自分でもビックリ仰天です。12年までいけるでしょうか…?
次回は 「第3月曜」 12月16日の更新となります、よろしくです~!
※毎日更新な 『シャングリラ学園生徒会室』 はスマホ・携帯にも対応しております。
こちらでの場外編、11月は、キース君が温厚なキャラを目指すらしくて…。
←シャングリラ学園生徒会室は、こちらからv
※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。
春爛漫。ソルジャー夫妻と「ぶるぅ」も交えて桜見物、今年も豪華にお弁当を持って。今日はあっちだ、次はこっちだと渡り歩いて桜の舞台は北の方へ移り、お花見の旅も終了です。ソルジャーとキャプテン、それに「ぶるぅ」は旅を続けているかもしれませんが…。
「今年の桜も綺麗だったよね!」
今日だと何処の桜だろうか、とジョミー君。シャングリラ学園は年度始めの一連のお祭り騒ぎも終わって通常授業が始まっています。よって本日は真面目に授業で、放課後に「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に来ているわけですけれど。
「うーん…。何処だろうねえ、ぼくがザッと見た所では…」
賑わってる場所はこの辺り、と会長さんが挙げた有名どころ。かなり北の方、けれど名前は知らない人がないほどの名所。桜前線、ずいぶん北上したようです。会長さんはサイオンで遠くの桜名所をチェックしているようですが…。
「あれ?」
「どうかしたのか?」
何かあったか、とキース君。会長さんは「まあ…」と答えて。
「いつものお花見ツアーだよ。ブルーたちが行ってるみたいだね」
「なるほどな。俺たちは通常運転の日々だが、あいつらは未だに花見気分か」
桜好きだしな、という言葉に頷く私たち。ソルジャーは桜の花が一番好きなのだそうで、自分のシャングリラの公園にも植えてあるようです。それを貸し切っての宴会なんかもやらかすくせに、私たちの世界の桜も大好き。機会さえあればせっせとお出掛け。
「桜があったら湧くヤツだからな、特に不思議でもないと思うが」
わざわざ声に出さずとも…、とキース君が言うと会長さんは。
「桜見物だけならね」
「何か余計なことをしてやがるのか、あいつらは?」
猥談の類はお断りだぞ、と先手を打ったキース君。桜名所でのイチャつきっぷりを披露されても困りますから、妥当な判断と言えるでしょう。けれど、会長さんは「そうじゃなくって」と。
「ただの買い物なんだけど…。いわゆる露店で」
「それがどうかしたか?」
「お気に召さないみたいなんだよ、商品が」
その割に前にじっと立ってる、とサイオンの目を凝らしている様子。暫しそのまま沈黙が続いていますけれども、ソルジャーは何の露店の前に?
露店と言えばお祭りの花。色々なものが売られますけど、いわゆる老舗や名店の類とは違います。アルテメシアのお花見の場合は、そうしたお店の出店なんかも見かけることはありますが…。基本的に何処か抜けてるというか、期待しすぎると負けなのが露店。
「お気に召すも何も…。露店だろうが」
そうそう洒落た商品があるか、とキース君が突っ込み、スウェナちゃんも。
「食べ物にしても、お土産にしても、普通のお店とは違うわよねえ?」
「店によっては衛生的にも問題大ってケースもありますからね」
公園の水道で水を調達しているだとか、とシロエ君。
「そういった店に出会ったんでしょうか、見るからに水道水っぽいとか?」
「どうだかなあ…。あいつ、サイオンが基本だしよ…」
店主の心が零れてたかもな、とサム君も。
「水道水でボロ儲けだとか、そんな思念を拾っちまったら、店の前で睨むかもしれねえなあ…」
「チョコバナナだけど?」
水道水も何も、と会長さんが沈黙を破りました。
「「「チョコバナナ?」」」
「そう、チョコバナナ。…まだ寒いだけに、食べようかどうか迷ってるのかと思ったけれど…」
「それはあるかもしれないな」
あれは温かい食い物ではない、とキース君。
「しかし甘いし、あいつが好きそうな食い物ではある」
「ぼくもそう思って見てたんだけど…。どうも何かが違うらしくて」
「「「は?」」」
「じーっと露店を見ていた挙句に、買わずに立ち去ったトコまではいい。ただ…」
その後の台詞がなんとも不思議で、と会長さんは首を傾げています。
「あいつは何とぬかしたんだ?」
「それがさ…。あっちのハーレイに笑い掛けてさ、「まだまだだよね」と」
「「「へ?」」」
チョコバナナの何が「まだまだ」なのか。それだけでも充分に意味不明なのに、会長さんが言うにはキャプテン、「そうですね」と笑顔で頷き返したらしく。
「…チョコバナナでか?」
分からんぞ、とキース君が呟き、私たちも揃って困り顔。ソルジャー夫妻がチョコバナナの露店にうるさいだなんて、そんな現象、有り得ますか…?
「念のために訊くが、チョコバナナだな?」
キース君が確認を取って、会長さんが。
「うん、間違いなくチョコバナナだよ。振り返って露店の方を見てたし、間違いないね」
「チョコバナナって…。キャプテン、そんなの食べるかなあ?」
うんと甘いよ、とジョミー君。キャプテンは教頭先生のそっくりさんで、甘い食べ物が苦手な所も同じです。チョコバナナなんかは一度食べれば二度と食べそうにないんですけど…。
「食わねえと評価出来ねえんじゃねえの?」
まだまだとか判断出来ねえぜ、とサム君の非常に冷静な意見。
「どういう理由か分からねえけど、チョコバナナに燃えているんじゃねえかな…」
「ブルーたちがかい?」
そうなんだろうか、と会長さんが首を捻ると「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「えとえと…。お花見であちこち出掛けてた時、チョコバナナの露店、見ていたよ?」
買って食べてはいないけど、という証言が。
「欲しいのかな、って思ったんだけど…。なんか、小さめ?」
「「「小さめ?」」」
バナナが小さすぎたでしょうか。ああいう露店のバナナの大きさ、ほぼ同じだと思いますけど。
「んーとね、あっちのハーレイに言ってたよ? 小さいよね、って」
「「「はあ?」」」
ますます分からん、と私たち。やはりキャプテンはチョコバナナの味に目覚めたとか?
「ぼくにも分かんないんだけど…。なんて言ったかなあ、君の方がずっと立派、だったかな?」
「ちょっと待った!」
ぼくはそんなの聞いてないけど、と会長さんが「そるじゃぁ・ぶるぅ」に。
「その話、ヒソヒソ話だったのかい?」
「えっとね…。ブルーがハーレイの袖を引っ張って、小さな声で言ってたよ?」
「もういい、大体のことは分かった」
それはバナナが違うんだ、と会長さんは顔を顰めました。
「ブルーが言うのはチョコバナナのバナナのことじゃなくって、全く別物…」
「「「別物?」」」
「言いたくないけど、あっちのハーレイの大事な部分の話なんだよ!」
「「「あー…」」」
分かった、とゲンナリした顔の私たち。キャプテンのアソコのサイズとバナナを比べてましたか、それで「まだまだ」だというわけですね…?
猥談の類はお断りだと思っていたのに、無邪気なお子様、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が食らわせてくれたバナナ攻撃。チョコバナナの話は忘れるに限る、と記憶を手放し、迎えた週末。会長さんの家に出掛けてワイワイ楽しくやるんですけど。
「かみお~ん♪ 今日はしっとりオレンジケーキ!」
今が旬なの、と春のオレンジを使ったケーキが出て来ました。オレンジのスライスも乗っかっていて綺麗です。紅茶やコーヒーなども揃って、さあ食べるぞ、とフォークを握った所へ。
「こんにちはーっ!」
遊びに来たよ、と背後で声が。私服のソルジャー登場です。エロドクターとデートなのかな?
「え、この服かい? お花見の帰りに寄ったからだよ、ハーレイとぶるぅは先に帰ったよ」
混んでくる前に桜見物、と相変わらずお花見ツアー中。いいお天気の中で桜を眺めて、キャプテンはブリッジへお仕事に。「ぶるぅ」はソルジャー不在のシャングリラの留守番をしつつ、買って帰ったお弁当グルメだそうですけれど。
「ぼくは大好きな地球でゆっくり! ケーキ、ぼくのもあるんだよね?」
「あるよ、おかわり用もあるから食べてってね!」
ちょっと待ってねー! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」がキッチンに跳ねてゆき、すぐにケーキとソルジャー好みの熱い紅茶が。ソルジャーは空いていたソファに腰を下ろして。
「いいねえ、地球で過ごす時間は! ぼくのハーレイは仕事だけどさ」
「君の仕事は?」
会長さんが訊けば、ソルジャーはケロリとした顔で。
「あるわけないだろ、ぼくの仕事は少なめの方がいいんだよ。仕事すなわち戦闘だしね!」
平和に越したことはないのだ、という正論。
「この所はずいぶん平和だからねえ、ちょっと趣味なんかも始めてみたり…」
「ふうん? それはいいことだね、暇だからとノルディとランチやディナーでは芸がないしね」
趣味が出来れば毎日も充実してくるだろう、と会長さん。
「君にしてはマシな思い付きだよ、趣味を持とうという発想は」
「あっ、分かる? ぼくにピッタリな趣味を見付けたものだから…」
最近はそれに凝っているのだ、とソルジャーは得意満面で。
「ハーレイの趣味とも重なっているし、これがなかなか素敵なんだよ」
「へえ? 夫婦で共通の趣味を持つのはいいことだよね」
お互いに評価し合えるし、と会長さんもソルジャーの趣味を褒めてますけど。ソルジャーの趣味って何なのでしょうね、キャプテンは確か木彫りでしたが…?
キャプテンの趣味と重なるらしい、ソルジャーが始めた趣味なるもの。やはり木彫りの類だろうか、と考えていると。
「木彫りはねえ…。木が硬いからね、けっこう根気が要るらしいんだよ」
ぼくにはイマイチ向いてなくて、とソルジャーが。
「彫り上がる前に投げ出しちゃうのがオチってヤツだよ、木彫りの場合は」
「それじゃ別のを彫ってるのかい?」
柔らかい素材も色々あるしね、と会長さん。
「君の世界じゃそういう素材も多そうだ。簡単に彫れるけど、焼くとか薬品に浸けるとかしたら充分に丈夫になりそうなヤツが」
「ああ、あるねえ! 子供用の粘土なんかにもあるよ、作って乾かせば頑丈です、って」
保育セクションの子供がよく彫っている、とソルジャーは笑顔。なんでも粘土の塊を捏ねて、それをヘラで削っていったら立派な彫刻、乾かして置物を作れるそうで。
「同じ粘土で花瓶とかも出来ると聞いているねえ、丈夫で水漏れしないヤツをね」
「君も粘土を彫ってるわけ?」
「違うね、ぼくが彫っているのは実用品!」
彫る過程からして楽しめるのだ、とソルジャーは胸を張りました。
「削りクズも無駄にはならない上に、完成したヤツも食べて美味しく!」
「「「は?」」」
食べるって…。それじゃ野菜のカービングとか? 野菜を彫って花とかを作る細工は非常に有名です。ソルジャーはあれをやってるのでしょうか、ベジタブルカービングというヤツを?
「うーん…。あれも野菜と言うのかな? 青いヤツは料理に使うと聞いているけど…」
「パパイヤなの?」
青いパパイヤは野菜だよ! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「炒め物とかにしても美味しいし! 完熟した後は果物だよね!」
「うん、そんな感じ」
ぶるぅもカレーに使ってたよね、とソルジャーは大きく頷きました。
「なんか高級食材だって? 青い間は」
「「「へ?」」」
青い間は高級食材、なおかつカレーに使える何か。ついでに野菜と呼ぶかは微妙で、彫って食べられる何かって…。なに?
木彫りでは木が硬すぎるから、と別の素材に走ったソルジャー。食べられる何かを彫っていることは確かですけど、まるで見当がつきません。パパイヤの線だけは消え去ったものの、青い間は高級食材。それでカレーって…。私たちが顔を見合わせていると。
「あっ、分かったあ!」
ピョーンと飛び跳ねた「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「そっかあ、それでチョコバナナなんだね、まだまだだ、って!」
「「「えっ?」」」
何故にチョコバナナ、と思ったのですが、ソルジャーは。
「そうなんだよ! ぶるぅは分かってくれたんだ? チョコバナナは芸術性がないよね」
丸ごとのバナナにチョコを被せただけだから、と鼻でフフンと。
「ひと手間加えればバナナも芸術! バナナ彫刻!」
「「「バナナ彫刻!?」」」
なんじゃそりゃ、と声が引っくり返ってしまったものの、青いバナナは言われてみれば高級食材。普通のバナナならお安いところを、どう間違えたかグンと高くて専門店にしか無いと聞きます。その青バナナを使ったカレーを何度も御馳走になりましたっけ…。
それにしたって、バナナ彫刻。柔らかくって彫りやすいでしょうが、どうやって彫るの?
「知らないかなあ、バナナ彫刻! なんか職人さんもいるみたいだよ?」
一時期評判だったらしい、とソルジャーに教わった私たちの世界のバナナ彫刻なる芸術。ソルジャーはエロドクターから教えられたという話で。
「桜にはまだ少し早い時期にね、中華料理を御馳走になって…。デザートの一つが揚げたバナナの飴絡めだったものだから…」
そこから出て来たエロドクターの薀蓄、バナナ彫刻。文字通りバナナに彫刻を施し、それは見事に仕上げる人がいるのだそうです。けれども相手がバナナなだけに、どんなに見事なものを彫っても作品の寿命は当日限り。パックリもぐもぐ、食べておしまい。
「ほら、ぼくはハーレイの素敵なバナナが好物だしね?」
「その先、禁止!」
喋ったらその場で帰って貰う、と会長さんがイエローカードを出したのですけど、それで止まるようなソルジャーではなく。
「ハーレイのバナナと言えばもちろん分かるよねえ? 男なら誰でも、もれなく一本!」
「退場!!」
さっさと帰れ、とレッドカードが出たものの。ソルジャー、帰りはしないでしょうねえ…。
エロドクターからソルジャーが聞いた、バナナ彫刻なる芸術。そのソルジャーの好物のバナナ、やはりキャプテンのアソコのことで。そういえば「そるじゃぁ・ぶるぅ」がお花見の時にアヤシイ話を聞いたんだっけ、と揃って遠い目をしていれば…。
「とにかく、ぼくはハーレイのバナナが大好物! だけど、いつでも何処でも食べられるものではないからねえ!」
ぼくはともかくハーレイはキャプテン、と深い溜息。
「仕事でブリッジに出掛けてる時に食べたくなっても、ぼくは手も足も出ないから…」
「当然だろう!」
そんな所へ食べに行くな、と会長さんが怒鳴りました。
「君はよくても、君のハーレイにとっては最悪すぎる展開だから!」
「そうなんだよねえ、見られていると意気消沈なのがハーレイだしねえ…。おまけに、ぼくたちの仲はとっくにバレバレになっているのに、まだバレていないつもりだから…」
ブリッジでの熱いひと時は無理、と実に残念そうなソルジャー。
「ハーレイさえその気になってくれれば、ぼくはブリッジでも気にしないのに…」
「他のクルーにも迷惑だよ、それ! こっちの世界では犯罪だから!」
公衆の面前でやらかした場合はしょっ引かれるから、と会長さんが刑法とやらを並べ立てています。猥褻物がどうとかこうとか、刑法何条がどうのとか。
「いいかい、そういったことは人前でしない!」
「うーん…。ぼくは見られて燃えるってタチではないんだけれども、夢ではあるかな…」
ぼくとハーレイとの熱い時間を是非見て欲しい、と言われて固まってしまいましたが、見て欲しい相手はソルジャーのシャングリラのクルーだそうで。
「君たちはもう、見てると言ってもいいくらいだしね! 問題はぼくの世界なんだよ、どうにもハードル高くてねえ…」
いろんな意味で、と溜息再び。
「そんなわけでさ、ハーレイのバナナはブリッジとかでは食べられない。それをノルディに愚痴っていたらさ、バナナ彫刻を教わったわけ!」
ハーレイのアソコを食べてるつもりでバナナをパクリ、とソルジャー、ニコニコ。
「それだけでも充分にドキドキするけど、彫刻するならじっくり見るしね? このバナナから何が彫れるか、どんな作品が隠れているかとドキドキワクワク見られるんだよ!」
同じバナナでも見る目が変わる、と語るソルジャー。バナナ彫刻、本気でやってるみたいですけど、何が出来るの?
「えっ、バナナ彫刻? 色々彫れるよ?」
バナナの中から生まれる芸術、とソルジャーは今までに彫った作品を挙げました。最初はキャプテンのアソコを忠実に再現、美味しく齧ったらしいですが。
その後、木彫りが趣味のキャプテンからのアドバイスも受け、今では有名な彫刻をバナナで再現だとか、そういうレベル。
「ちなみに昨日はこんなのを彫った! どうかな、出来は?」
ぼくのシャングリラ! と思念で宙に浮かんだ映像はバナナに彫られたシャングリラでした。バナナの中に実に見事なシャングリラ。不器用なソルジャーの作品だとも思えませんが…。
「あっ、君たちもそう思う? ぼくって、意外な才能があったらしくて!」
バナナを彫らせたら一流なんだよ、と自慢したくなるのも無理のない出来。エロドクターが教えたというバナナ彫刻職人とやらにも負けない腕前らしくって。
「それでね、バナナ彫刻を更に極めるべく、新しい境地に挑もうかと!」
「もっと芸術性を高めるとか?」
会長さんの問いに、ソルジャーは。
「趣味と実益とを兼ねるんだよ! バナナ彫刻で!」
今は単なる趣味だから、と言われましても、既に実益を兼ねているような気がします。キャプテンのアソコを頬張る代わりに彫っているバナナ、空腹ならぬ欲望を満たしているのでは…。
「うん、欲望に関してはね。…彫る前にバナナをまじまじと眺めて、ハーレイのアソコを思い浮かべて熱い溜息! それからハーレイのアソコを扱うつもりで大切に!」
ドキドキしながらバナナを彫るのだ、とソルジャーはバナナ彫刻の心構えを披露しました。
「ハーレイのアソコで芸術なんだよ、バナナといえども粗末にしてはいけないってね! 彫った削りクズは必ず食べる! 口に入れてはアレのつもりで!」
ゴクンと美味しく飲み下すのだ、と唇をペロリ。
「ハーレイのアレは一滴残らず飲んでこそだし、バナナの削りクズだってね!」
「退場!!!」
もう本当に出て行ってくれ、と会長さんが眉を吊り上げてますが、ソルジャーは我関せずで。
「バナナを敬う気持ちが大切! そんなバナナを、より丁重に!」
もっと心をこめて彫るべし、とソルジャーはそれはウットリと。
「これを極めれば、きっと! ぼくとハーレイとの夜の時間も、今よりももっと!」
充実するのだ、と自信たっぷりですけれど。バナナ彫刻で夜が充実って、大人の時間のことなのでしょうか? バナナ彫刻なんかで充実しますか、そんな時間が…?
バナナ彫刻を極めて充実、ソルジャーとキャプテンの夜の時間とやら。どうやったら充実するのやら、と知りたくもない謎に捕まる思考。ソルジャーがそれに気付かない筈もないわけで…。
「君たちだって知りたいよねえ? ぼくの趣味の世界!」
バナナ彫刻を実演しなくちゃ、と満面の笑みを浮かべるソルジャー。
「だけど、お腹が減っていてはね…。ぼくのハーレイがいれば、食欲は二の次、三の次でさ…。まずは身体の欲望の方から満たすんだけれど、ここではねえ…」
「かみお~ん♪ お昼御飯も食べて行ってね!」
「いいのかい? 喜んで御馳走になることにするよ!」
自分から催促しておいて「いいのかい?」も何もないのですけど、それがソルジャー。バナナ彫刻の実演タイムは昼食の後ということになって…。
「お昼、海鮮ちらし寿司だよーっ!」
朝一番に仕入れて来たの! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が用意してくれ、豪華海鮮ちらし寿司。食べる間くらいはバナナ彫刻は忘れたい、とソルジャーの喋りを無視しまくってひたすら食べて。
「「「美味しかったー!」」」
御馳走様、と合掌したらソルジャーが。
「それじゃ、バナナ彫刻を始めようか! 丁度いいしね」
「「「は?」」」
「道具が揃っているんだよ、ここは」
「「「道具?」」」
ダイニングのテーブルを見回しましたが、テーブルの上には空になった海鮮ちらし寿司の器やお吸い物の器、食後に出て来た緑茶の湯呑み。後はお箸にお箸置きに、と食事関連のアイテムばかりのオンパレードで。
「何処に道具があるというんだ?」
刃物は無いが、とキース君。
「あんた、道具が揃ったと言うが、何か勘違いをしてないか?」
「してないねえ…。バナナ彫刻は食べるものだよ、ダイニングで彫るのが正しいよね」
まずはバナナ、とソルジャーの視線が「そるじゃぁ・ぶるぅ」に。
「ぶるぅ、バナナはあったよね?」
「うんっ! 朝御飯に便利なフルーツだしね!」
待っててねー! とキッチンに駆けて行った「そるじゃぁ・ぶるぅ」はバナナの房を抱えて戻って来ました。そっか、お菓子にもよく使いますし、房で買うのがお得ですよね…。
ダイニングのテーブルにドカンとバナナの大きな房が。そして食器は湯呑みを残して片付けられてしまいましたが、ソルジャーは止めもしなくって。
「…湯呑みしかないぞ?」
これで彫れるのか、とキース君の疑問が一層深まり、私たちだって。
「湯呑みでバナナが彫れますか?」
シロエ君が悩み、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「んとんと…。コンニャクを切るのに湯呑みを使うよ、その方が美味しく煮えるから!」
「そういえばコンニャクには湯呑みだったか…」
確かに使うな、とキース君も。柔道部の合宿で料理当番をやっていた頃、コンニャクを湯呑みで千切ったそうです。シロエ君とマツカ君も思い出したようで。
「湯呑みでしたね、コンニャクは…」
「でも、千切るのと彫るのとは…」
違いますよ、とマツカ君。
「コンニャクは切り口が均一でない方がいいから、と湯呑みだったんじゃないですか?」
「そうでしたね…。彫刻するなら断面は均一になる方が…」
湯呑みはちょっと、とシロエ君がバナナと湯呑みを見比べています。けれど道具とやらはテーブルの上に揃っていた筈、食器が消え失せた今となっては…。
「やっぱ、湯呑みかよ?」
それしかねえよな、とサム君が言って、ジョミー君が。
「他に無いよね、湯呑みなんだよね?」
だけど、どうやって彫るんだろう…、と答えは全く浮かばない模様。私だって立場は同じです。どう考えても湯呑み以外に道具らしきものは無いんですけど、湯呑みなんかでどう彫ると?
「頭が固いね、君たちは…」
もっと発想を柔軟に、とソルジャーがバナナを房からポキリと一本折り取りました。
「道具ならちゃんとあるんだよ。テーブルの上に、正統なのが」
始めようかな、とソルジャーの指がバナナの皮をスイスイと剥いて、半分くらいを覗かせて。
「ぶるぅ、レモン汁をくれるかな? バナナ彫刻には欠かせないんだ」
「かみお~ん♪ 色が変わるのを防ぐんだね!」
「ご名答! ぶるぅは料理の達人だしねえ、頼もしいよね」
レモン汁をよろしく、というソルジャーの注文に応えて手早く用意されたレモン汁入りのガラスの器。いよいよバナナ彫刻ですけど、彫るための道具はやっぱり湯呑み…?
どうなるのだろう、と固唾を飲んで見守る私たち。ソルジャーはバナナの白い実をじっと睨んでいるようでしたが…。
「このバナナにはぶるぅが入っているねえ、悪戯小僧の方のぶるぅが」
そんな感じだ、と一人前の彫刻家のような台詞を口にし、「さて」と伸ばされた手が掴んだものは爪楊枝。海鮮ちらし寿司、奥歯に何か挟まりましたか?
「失礼な! 年寄りみたいに言わないでくれる?」
これは道具、とソルジャーの指先が爪楊枝をしっかり固定すると。
「「「…えっ?」」」
爪楊枝の先がバナナにグッサリ。ぐりぐりと抉って、ヒョイと一部を取り出して、口へ。いわゆるバナナの削りクズらしく、ソルジャーは口をモグモグさせながら。
「こうやって彫っていくんだよ、バナナ! 爪楊枝で!」
「湯呑みじゃないのか?」
違ったのか、と訊くキース君に、「当たり前だろ」という返事。
「湯呑みなんかでグイとやったらバナナが折れてしまうだろ? バナナは繊細なんだから!」
ハーレイのアソコと同じでとってもデリケートなのだ、と爪楊枝の先がヒョイヒョイと。
「…なんか彫刻できてるみたい?」
爪楊枝で、とジョミー君が見詰めて、サム君が。
「ぶるぅの顔っぽくなってきたよな、丸っこくてよ」
「爪楊枝なんかで彫れるんですね…」
知りませんでした、とシロエ君。
「湯呑みだったら道具になるかと思いましたが、爪楊枝ですか…」
「知らないのかい? こっちの世界のバナナ彫刻職人だって爪楊枝らしいよ、ノルディに聞いた」
そして彫ったらレモン汁を…、と完成したらしい部分に指と爪楊枝でレモン汁を塗ってゆくソルジャー。バナナ彫刻を趣味にしただけあって、なかなか手際が良さそうです。
「こうやって彫って、もう彫らなくても大丈夫だな、という所はしっかりレモン汁をね…」
そうしないと黒くなっちゃうからね、と彫っては削りクズをモグモグ、レモン汁をペタペタ。そうこうする内、バナナは見事に彫り上がって…。
「はい、バナナからぶるぅが出来ましたー!」
ジャジャーン! とソルジャーが掲げるバナナに悪戯小僧な「ぶるぅ」の彫刻。ホントにバナナに彫れるんですねえ、ちゃんと「ぶるぅ」に見えますってば…。
バナナ彫刻の「ぶるぅ」は食べてもいいらしいですが、彫られた姿は悪戯小僧。齧ったら最後、祟りに見舞われるような気がしないでもありません。怖くて誰もが腰が引ける中、ソルジャーは。
「なんだ、誰も食べようとは思わないんだ? じゃあ、ぼくが」
あんぐりと口を開け、それは美味しそうにバナナ彫刻の「ぶるぅ」をモグモグモグ。食べてしまうと「今日のハーレイも美味しかった」と妙な台詞が。
「「「ハーレイ?」」」
「もちろん、ぼくの世界のハーレイだよ! バナナ彫刻の心得の一つ!」
バナナを彫る時と食べる時にはハーレイのアソコと心得るべし! とイヤンな掟が。
「でもって、この趣味を実益の方へと向けるためには! これから此処で初挑戦!」
もう一本バナナを貰っていいかな、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」にお尋ねが。「うんっ!」と元気な返事が返って、バナナがもう一本、ポキリと折られて房から外れて。
「さてと…。ホントのホントに初挑戦だし、上手く行くかどうか…」
バナナの中には何がいるかな、と黄色い皮を剥いて白い中身と向き合ったソルジャー、彫るべきものを見出したらしく。
「第一号はハーレイらしいね、是非彫ってくれ、という声がするよ」
バナナの中からハーレイの声が! と嬉しそうに。
「あっ、間違えたりしないでよ? ぼくのハーレイの声なんだからね!」
こっちのヘタレなハーレイじゃなくて、と失礼極まりない発言。とはいえ、教頭先生がヘタレなことは誰もが認める事実ですから、文句を言い出す人などいなくて…。
「それじゃ彫るから、ちょっと静かにしててよね」
ぼくは忙しくなるんだから、とソルジャーは再び爪楊枝を。けれど…。
「「「ええっ!?」」」
静かにしろ、と言われたことも忘れて叫んでしまった私たち。ソルジャーにギロリと睨み付けられて、慌てて肩を竦めましたが。
(((あ、有り得ない…)))
これは無いだろ、と唖然呆然。ソルジャーは爪楊枝を指で構える代わりに、口でしっかりと咥えていました。そしてバナナへと顔を近付け、爪楊枝の先でクイッと彫って…。
(((やっぱりそうかーっ!!)))
口で彫るのか、とビックリ仰天、まさかの口でのバナナ彫刻。爪楊枝はお口で使うものですが、口に咥えて使うようには出来ていません。ソルジャーお得意のバナナ彫刻、こんなやり方で彫れるんでしょうか…?
ソルジャーが咥えた爪楊枝。バナナ相手に頭をせっせと上下させては彫って、削って。削りクズは何回かに纏めてモグモグ、その間は爪楊枝が口から離れています。レモン汁を塗っている時も。
「うーん…。なかなか上手く行かないね、これは」
「まず無理だろうと思うけど?」
そんな方法、と会長さんが切って捨てると、ソルジャーは。
「ダメダメ、これを極めなくっちゃ! 趣味と実益!」
「どの辺が?」
「口で彫ろうというトコが!」
これで口の使い方が上達するに違いない! とグッと拳を握るソルジャー。
「爪楊枝を上手に操るためには、舌での操作も欠かせないんだ。舌の動きが細やかになるし、爪楊枝を咥えて彫ってる間に口の方だってより滑らかに!」
こうして鍛えて御奉仕あるのみ! とソルジャーが高らかに言って、会長さんの手がテーブルをダンッ! と。
「そんな練習、自分の世界でやりたまえ!」
「見学者がいないと張り合いが無いし!」
普通のバナナ彫刻と違って大変な作業になるんだから、とソルジャーは私たちをグルリと見回しました。
「これだけの数の見学者がいれば、ぼくも飽きずに作業が出来る。一日一本、バナナ彫刻! 今日から欠かさず、毎日一本!」
そして御奉仕の腕を上げるのだ! と燃えるソルジャーですけれど。その御奉仕とかいうヤツは大人の時間の何かですよね、今までに何度も聞いていますし…。
「もちろんだよ! ぼくがハーレイのアソコを口で刺激しようという時のことで!」
「退場!!!」
今度こそ出て行け、と会長さんが絶叫しているのに、ソルジャーは。
「御奉仕にはねえ、口と舌とが大切なんだよ! 同じバナナ彫刻をするんだったら趣味と実益!」
ハーレイのアソコに見立てたバナナを彫って、ついでに口と舌とを鍛えて、とソルジャーの背中に燃え上がるオーラ。退場どころか、爪楊枝をしっかり咥え直して…。
「んー…」
もうちょっと、とバナナ彫刻に挑むソルジャー。会長さんが顔を顰めてますから、よほど最悪な姿なんだと思いますけど、よく分かりません。万年十八歳未満お断りの団体様の前で熟練の技を披露したって、意味が全く無いんじゃあ…?
口に爪楊枝を咥えて、彫って。ソルジャーの渾身の作のバナナ彫刻、キャプテンの肖像は辛うじて完成したものの。
「…まだまだだよねえ…」
こんな出来では、とソルジャーが眺め、会長さんが。
「口で彫ったにしてはマシだし、初挑戦とも思えないけど?」
これ以上鍛えることもあるまい、と褒めちぎる姿は明らかにソルジャーの再訪を防ぐためのもの。私たちも懸命に「凄い」と讃える方向で。
「俺は見事だと思うがな? これだけ彫れればベテランの域だ」
キース君がバナナ彫刻の出来栄えを褒めて、シロエ君も。
「ええ、初心者とは思えませんよ! もう充分に熟練ですって!」
「ぼくも凄いと思うけどなあ、こんなの絶対、真似出来ないよ」
凄すぎるよね、とジョミー君も称賛を惜しみませんでした。サム君もマツカ君も、スウェナちゃんも私も、ありとあらゆる褒め言葉の限りを尽くしたのに…。
「駄目だね、趣味の世界は奥が深いんだよ。自分が納得しない限りは精進あるのみ!」
およそソルジャーの台詞とも思えぬ、精進なるもの。目指す所はバナナ彫刻の上達などではないのでしょうが…。
「決まってるじゃないか、バナナ彫刻の先にある御奉仕だよ!」
ぼくのハーレイがビンビンのガンガンになる御奉仕なのだ、とソルジャーはそれはキッパリと。
「そういう熟練の技を目指してバナナ彫刻! 毎日、一本!」
頑張って彫って彫りまくる、と決意を固めてしまったソルジャー、明日から毎日来そうです。休日の今日と明日はいいとして、もしかしなくても平日だって…?
「そうだよ、こういった道は日々の鍛錬が大切だしね!」
一日サボれば腕がなまって駄目になるのだ、とソルジャーが言えば、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が大真面目な顔で。
「うん、お稽古って大切らしいものね! ハーレイだって、よく言ってるし!」
「「「はあ?」」」
教頭先生が何の稽古を、と派手に飛び交う『?』マーク。けれども「そるじゃぁ・ぶるぅ」は純真無垢な瞳を輝かせて。
「えっ、柔道部の朝稽古とかで言ってない? 一日休めば自分に分かる、二日休めば先生に分かる、三日休めばみんなに分かる、って!」
だからお稽古、大切だよね! とエッヘンと。お稽古は大切なんでしょうけど、今、その言葉を言わないで~!
教頭先生の口癖らしい、稽古をサボるなという戒め。このタイミングで言われてしまうと私たちには逃げ場が無くなり、ソルジャーには大義名分が。
「ふうん…。こっちのハーレイ、いいこと言うねえ…!」
バナナ彫刻、頑張らないとね! とソルジャーが彫り上がったキャプテンのバナナ彫刻にチュッとキスをして。
「明日はバナナから何が生まれるかな、ぼくの技術も磨かなくっちゃ!」
そしてハーレイが大いに喜ぶ、と赤い瞳がキラキラと。
「ぼくのハーレイ、御奉仕は嫌いじゃないからね! やるぞって気持ちが高まるらしくて、ぼくにも大いに見返りってヤツがあるものだから!」
たとえ肩凝りが酷くなろうが、一日一本、バナナ彫刻! と迷惑な闘志は高まる一方。
「ぶるぅ、バナナは常備しといてよ? ぼくが毎日、彫りに来るから!」
「かみお~ん♪ 任せといてよ、バナナもレモンも新鮮なのを用意しとくね!」
「「「うわー…」」」
死んだ、と突っ伏す私たち。ソルジャーの御奉仕とやらの腕が存分に上達するまで、来る日も来る日もバナナ彫刻、それもアヤシイ語りがセット。黙って彫っててくれるだけならいいんですけど、口が塞がってても、爪楊枝を咥えていない時間は確実に何度も訪れるわけで…。
「えっ、黙ってたらつまらないかな、君たちは?」
もっと喋った方がいいかな、とソルジャーはバナナ彫刻片手にニンマリと。
「ぼくは思念波の方も得意だからねえ、口で彫ってる間も思念で喋れるってね!」
明日からはそっちのコースにしてみようか、と恐ろしすぎる提案が。
「君たちも退屈しなくていいだろ、思念で色々喋った方が!」
「要りませんから!」
誰も希望を出してませんから、とシロエ君が必死の反撃を。
「そういうのはですね、キャプテンの前でやって下さい、きっと喜ぶと思いますから!」
「何を言うかな、こういう努力は秘めてこそだよ!」
ハーレイが全く知らない所で地道な努力を積んでこそ! とソルジャーは譲りませんでした。
「いいね、明日から一日一本、バナナ彫刻! ぼくの素敵なトークつきで!」
御奉仕とは何か、口でヤることの素晴らしさと真髄とは何処にあるのか。それを思念でみっちりお届け、と宣言されて泣きの涙の私たち。バナナ彫刻、見た目は見事なんですけれど…。
「君たちの知識もきっと増えるよ、そしてぼくにはハーレイと過ごす素敵な時間!」
バナナ彫刻を始めて良かった、と感慨に耽っているソルジャー。迷惑すぎる趣味の世界は当分続いていきそうです。ソルジャーが道を極めるのが先か、私たちが討ち死にするのが先か。爪楊枝を咥えてバナナ彫刻、一日一本、彫るなと言っても彫るんでしょうねえ…。
バナナの達人・了
※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
ソルジャーが始めたバナナ彫刻ですけれど…。実は本当にあったりします。
爪楊枝で彫るというのも本当。ソルジャーは極められるんでしょうか、迷惑ですけどね…。
次回は 「第3月曜」 11月18日の更新となります、よろしくです~!
※毎日更新な 『シャングリラ学園生徒会室』 はスマホ・携帯にも対応しております。
こちらでの場外編、10月はマツカ君に脚光が。キース君が一日弟子入りで…。
←シャングリラ学園生徒会室は、こちらからv
※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。
新しい年が明け、今日は一月十五日。小正月とかいうヤツです。ちょうどお休み、会長さんの家でゆっくりしようと揃ってお出掛け。バス停からの道は雪もちらついて寒かったですが、マンションの中は暖房が効いてポカポカ、会長さんの家のリビングもポカポカで…。
「かみお~ん♪ 今日は十五日だしね!」
はいどうぞ、と出て来たものは熱い紅茶やコーヒーならぬ緑茶でした。何故に、と目を疑えば、お次は蓋つきの器が運ばれて来たからビックリです。これってスフレじゃないですよね?
「なに、これ?」
ジョミー君が指差すと、「そるじゃぁ・ぶるぅ」はニコニコと。
「小豆粥だよ、十五日だもん!」
「小豆粥?」
「えとえと、無病息災だったっけ?」
どうだっけ、と会長さんに視線が向けられ、会長さんが。
「邪気払いと一年間の健康を祈る行事だし、無病息災って所かな。キースは家で食べて来ていそうだけれど」
「ああ、おふくろに食わされたな」
此処で食ったら二回目だ、とキース君。
「ぶるぅ、アレンジしてくれてるのか? 中華風とか」
「ううん、普通に小豆粥だけど…。カボチャを入れて中華風のも美味しいよね、ってブルーに言ったら、今日のは普通に炊くべきだ、って…」
小正月だし、という答え。縁起物はアレンジするより正統に、とのことらしいですが、小豆粥かあ…。同じお粥なら中華風とか、アワビ粥とか…。
「ダメダメ、今日はこれの日だから!」
文句を言わずにキッチリ食べる! と会長さん。うーん、これって美味しいのかな? どうなんだろう、と一口、食べてみたら。
「「「美味しい!!!」」」
小豆しか入っていないお粥が、ふっくら、ホコホコ。小豆はホクホク、お米もトロリと蕩けそうです。何か工夫をしたお粥なのか、「そるじゃぁ・ぶるぅ」の腕なのか。
「あのね、小豆はきちんと浸けておくのがコツでね、それからね…」
しっかりと炊けば美味しいんだよ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。うん、この味なら小豆粥でも充分オッケー、立派に午前のおやつかも~!
驚いてしまった小豆粥ですが、美味しかったら誰も文句はありません。一週間ほど前に七草粥を御馳走になっていますし、新年早々、お粥、二回目。次に食べるならどんなお粥がいいだろう、とお粥談義に花が咲いたり。
「中華風が美味いぜ、粥といえばよ」
胡麻油が食欲をそそるんだよな、とサム君が言えば、シロエ君も。
「いろんなお粥がありますからねえ、中華風。鶏肉入りとか、干し貝柱とか…」
「中華もいいがだ、俺はアワビ粥も捨て難い」
隣の国の、とキース君。私も「それ、それ!」と叫んじゃったり。アワビ粥は「そるじゃぁ・ぶるぅ」が何度も作ってくれました。中華の国のお隣の名物らしいですけど。
「粥はあの辺りの国に限るな、ポリッジよりもな」
ポリッジは駄目だ、とキース君の眉間にちょっぴり皺が。ポリッジって確かお粥ですよね? そんなに駄目なの?
「ポリッジといえば不味いというほどの代物だぞ、あれは」
よくもあんなに不味いものを食えるもんだ、とブツブツブツ。キース君、ポリッジ、食べたんですか…? もしや本場で?
「いや、本場というわけじゃない。一種、トラウマと言うべきか…」
「「「トラウマ?」」」
「あっちの方の本にはよく出るからなあ、一度食いたいと思ってな…。それで、おふくろに」
シャングリラ学園に入るよりも前の話だが、と溜息が一つ。ポリッジなるものに興味津々だった中学時代のキース君。わざわざ街の輸入食料品店まで自分で出掛けて、オートミールなるものを買って帰って、「作ってくれ」とイライザさんにお願いしちゃったらしいのですが。
「…で、どうでした?」
ぼくもポリッジは未経験で、とシロエ君が訊けば。
「………。二度目は要らんな」
「そこまでですか!?」
「興味があるなら、お前も食え! ぶるぅに作って貰ってな!」
あれは体験しないと分からん、とキース君はそれは不快そうな顔。
「しかもだ、俺がウッカリ買ったばかりに、親父もおふくろも食い物を無駄にしてはいかんと言い出して…。それから暫く、俺の朝飯はオートミールのオンパレードだった!」
ポリッジだけでもクソ不味いのに、と嘆き節が。素材からして不味かったですか、噂に聞くポリッジなるお粥…。
キース君曰く、とてつもなく不味いらしいポリッジ。それに比べれば小豆粥でも天国のお粥と呼べそうなほどの勢いだそうで。
「坊主の俺なら極楽のお粥と呼ぶべきなのかもしれないが…。今日のぶるぅの小豆粥なら、もう間違いなく極楽だな。お前たちも是非、ポリッジを試してみてくれ」
「遠慮します!」
不味いと聞いたら誰でも嫌です、とシロエ君が即答しました。
「いくらぶるぅでも、不味いものを料理したなら、絶対、不味いに決まってますから!」
「うんうん、俺も死にたくはねえし」
同じ食うなら美味いものをよ、とサム君がすかさず相槌を。
「材料からして不味いんだろ、それ。キースがトラウマになったんだからよ」
「どう転んでも不味かったからな!」
あの朝飯は二度と御免だ、とキース君はそれこそ吐き捨てるように。
「腐ってもシリアルの一種だと言うから、俺なりに色々、試しはしたんだ! ミルクだけでは普通に不味いし、蜂蜜も砂糖も入れたんだが!」
レーズンなんかも入れたんだが、と苦々しい顔。
「どんなに工夫を凝らしてみてもだ、クソ不味いものは不味いんだ! あれだけは駄目だ!」
よくもあんなもので粥を作りやがって、とキース君がののしれば、会長さんがのんびりと。
「仕方ないねえ、元々が馬の餌だしね?」
「「「は?」」」
「オートミールはオーツ麦でさ、小麦が出来ない地域じゃ主食になってたけれど…。ちゃんと小麦が取れる場所では馬に食べさせる餌だったんだよ」
「だったら、俺は馬が食うものを食ったのか!?」
なんで馬の餌が粥になるんだ、とキース君は唖然としていますけれど。
「栄養だけは満点らしいよ、オートミールは」
それでポリッジで病人食にも…、と会長さん。
「お粥は病人食にもよく使うしね? 何処の国でも考えることは同じなんだよ。君たちだって小豆粥と聞いてあまり嬉しくなさそうだったし」
「「「うーん…」」」
病人食のお粥は確かに美味しくありません。ポリッジもそうだと言われれば納得なんですけれども、実に奥深いお粥の世界。同じお粥を病人食で食べるんだったら、中華風とかアワビ粥とかの国が断然いいですよね?
そういう話になるのを見越していたんでしょうか、お昼御飯はなんと参鶏湯。アワビ粥の国のお料理です。鶏肉と一緒にじっくり煮込んだ高麗ニンジン、クルミに松の実、それからニンニク。糯米が入ってお粥風と言えばお粥風で。
「「「いっただっきまーす!」」」
寒い冬だけに、トロトロの煮込みが美味しい季節。これもお粥の一種だよね、と舌鼓を打って、一緒に出されたチヂミもパクパク。こんなお昼が食べられるんなら小豆粥の日もいいものです。御馳走様、と食べ終えてリビングに移動して…。
「お粥の日も悪くなかったね」
当たりだよね、とジョミー君が言い、キース君も。
「そうだな、美味い粥なら文句は言わん。ポリッジだけは本当に勘弁だが…」
あれを美味しく食える人間がいたら尊敬する、と顔を顰めてますから、よっぽどなんでしょう、ポリッジとやら。ついでに材料のオートミールも。そんな感じでワイワイガヤガヤ、お粥や食べ物を語っていたら。
「かみお~ん♪ ちょっと早いけど、おやつにどうぞ!」
はい! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が長方形に切られた「おこし」のようなものをお皿に盛り付けて運んで来ました。他にもお菓子はあるそうですけど、ティータイムまでにスナック感覚でどうぞ、という趣向。
「おこしですか?」
シロエ君が手を伸ばし、私たちも遠慮なく取って、一口齧って。
「美味いぜ、これ! なんか蜂蜜が利いてるよな!」
「蜂蜜よりも濃い味じゃない? ちょっと美味しいわよ、このおこし」
サム君とスウェナちゃんが称賛するとおり、普通のおこしより甘さがあります。それに材料も、おこしとは少し違って見えるんですけど…。
「おこしじゃないよね、なんだろう?」
ジョミー君が首を捻って、キース君も。
「どちらかと言えば焼き菓子に分類されそうなんだが…。ナッツという味でもなさそうだな」
「えっとね、フラップジャックなんだけど…」
「「「フラップジャック?」」」
なんですか、それは? 名前からして、おこしと別物。クッキーとかの一種ですかね、それともビスケットに入りますかね…?
甘くてサクサク、食べ応えのあるフラップジャック。こんなお菓子は初めてかも、と齧りながらも正体が気になるところです。これってクッキー?
「んーとね、フラップジャックはフラップジャックだと思うんだけど…」
クッキーよりかはビスケットかな、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「お菓子の本だと、ビスケットとかショートブレッドの辺りに載ってることが多いしね」
「ショートブレッドか…。紅茶の国の菓子だな、それは」
キース君が返すと、「そるじゃぁ・ぶるぅ」は。
「そうなの! フラップジャックは紅茶の国だと調理実習で作るみたいだよ!」
「「「調理実習?」」」
「うんっ! 簡単だからね、ちょちょっと混ぜて焼くだけだしね!」
オーブンで、という返事。何をちょちょっと混ぜるんでしょうか、この舌触りは薄くスライスしたアーモンドとかに似てはいますが、味はナッツじゃないですし…。
「決め手はゴールデンシロップなの! お砂糖を作った残りの蜜で作るの、紅茶の国のシロップなんだよ!」
さっき急いで買いに行ったの! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」はエッヘンと。
「キースが美味しくないって言うから、美味しいのを作ってみようと思って!」
「なんだと!? すると、こいつの材料は…」
まさか、とキース君の顔色が変わって、会長さんがクスクス笑い出しました。
「そのまさかだよ。オートミールさ、フラップジャックの材料は」
「「「ええっ!?」」」
美味しいじゃないか、と改めて齧る私たち。これって普通に美味しいですよ?
「キース先輩、ポリッジは本当に不味いんですか?」
シロエ君が問い詰め、キース君は。
「ほ、本当に不味かったんだ! オートミールそのものも不味かったんだが!」
「そうですか? 料理の仕方がまずかったんじゃあ…?」
「俺はきちんとレシピを調べておふくろに渡した、本当だ!」
それにおふくろは料理上手だ、と言われても美味しいフラップジャック。こうなってくるとポリッジが不味い話も嘘くさいです。嘘だろう、と決め付けた私たちだったのですが…。
「「「…ごめん、悪かった…」」」
ホントに不味い、と揃って嘆いたおやつの時間。論より証拠、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が作ってくれたポリッジ、オートミールのミルク粥。もう最悪に不味いんですけど~!
不味いとしか言えない味のポリッジ。これに比べれば小豆粥は本当に天国だか極楽の味だった、とキース君に平謝りに謝っていたら。
「こんにちはー!」
「「「!!?」」」
誰だ、と振り返った先に私服のソルジャー。「珍しそうなものを食べてるね」と近付いて来て、空いていたソファにストンと座って、フラップジャックに手を伸ばして。
「うん、美味しい! 甘くてサクサク、こういうお菓子も好きだな、ぼくは」
「なら、ポリッジも是非、食ってくれ!」
美味いんだぞ、とキース君が自分の器を指差し、私たちも揃って「美味しい」と連呼。ソルジャーは興味をそそられたらしく、ポリッジを注文しましたが…。
「なんだい、これは? …ぶるぅの料理とも思えないけど…」
どっちかと言えばぼくの世界のぶるぅの料理、と絶妙な表現をしたソルジャー。悪戯小僧で大食漢な「ぶるぅ」は料理をしませんけれども、もしも作ったらこういう味かもしれません。「ぶるぅ」に悪意が無かったとしても。
「あんたでも無理な味か、やっぱり」
キース君が訊くと、ソルジャーは「うん」と。
「栄養剤なら多少不味くても我慢するけど、食べ物はねえ…。こういうのはちょっと」
地球の食べ物とも思えない、と不味さの表現、また一つ進化。
「これはいったい、何ものだい? ノルディと食べて来た美味しい食事も吹っ飛ぶじゃないか」
「ポリッジと言う名の粥なんだが」
俺のトラウマになった粥だ、とキース君。
「材料自体が不味いんだ、と言ったら、ぶるぅが同じ材料で美味い菓子を作ってきたもんでな…。俺が嘘つき呼ばわりをされて、気の毒に思ったぶるぅがポリッジをな」
「それをぼくにも食べさせたわけ!?」
不味かった、とソルジャーはペッペッと吐き出す真似をした後、フラップジャックをパックリと。
「でもって、こっちが美味しいお菓子の方だった、と…。これは美味しいから、まあいいけど」
それにノルディと食べたお粥も良かったし、と笑顔のソルジャー。中華粥でも食べましたか?
「ううん、今日はパルテノンの料亭で豪華な新春メニュー! 締めが小豆粥で!」
小豆粥を食べる日なんだってね、とソルジャーは至極御機嫌です。なるほど、小豆粥は縁起物だという話ですし、締めの御飯が小豆粥になったわけですか…。
美味しい小豆粥を食べて来たソルジャー、ポリッジの不味さも許せる模様。「そるじゃぁ・ぶるぅ」の小豆粥と同じでじっくりと炊いてあったのでしょう。テーブルのポリッジは片付けられて、代わりに冬ミカンのムースタルトが出て来ました。飲み物も紅茶にコーヒー、ココア。
「いいねえ、地球の食べ物はこうでなくっちゃ!」
ソルジャーは嬉々としてフォークを入れつつ、部屋をぐるりと見回して。
「…あれ? 小豆粥の日だけど、粥杖は?」
「「「は?」」」
「だから、粥杖! 小豆粥の日にはセットなんだろ?」
ノルディに聞いたよ、と言われましても…。粥杖って、なに?
「知らないわけ? ぼくでさえもノルディに教わったのに!」
そしてお尻を叩かれたのに、と妙な台詞が。
「「「お尻?」」」
ソルジャー、何か悪さをしたのでしょうか? 覚えが悪くてお尻を一発叩かれたのか、エロドクターだけにセクハラなのか。何故にお尻、と誰もが首を捻りましたが。
「え、粥杖はお尻を叩くものだと言われたよ? 騙されてはいないと思うんだけど…」
ちゃんと床の間に飾ってあったんだしね、と言葉はますます謎な方へと。何が床の間にあったんですって?
「粥杖だよ! こう、木の棒でさ、神社で配るとノルディは言ったよ」
そして神社の焼印があった、とソルジャーは両手で棒の大きさを示しました。四十センチくらいの長さらしくて、それが料亭の床の間にあったという話。
「何に使うんだろ、って眺めていたらさ、「こうですよ」ってノルディが握って、ぼくのお尻をパシンと一発! なんか、そういうものらしくって」
「「「…え?」」」
そんなの知らない、と会長さんの方に視線を向ければ、「嘘じゃないよ」という答えが。
「粥杖というのは嘘じゃない。小正月に小豆粥を炊いた木の燃え残りを使うって話もあるけど、今じゃ普通に作るかな。昔はメジャーな行事だったらしい」
「ノルディもそういう話をしてたね、小豆粥の日には粥杖でお尻を叩き合ってた、って」
「マジかよ、それ!?」
なんで尻なんかを叩くんだよ、というサム君の疑問は私たちにも共通の疑問。エロドクターのセクハラだったというわけじゃなくて、粥杖なるもの、ホントにお尻を叩くんですか…?
「叩いてたらしいよ、ずっと昔は」
会長さんがソルジャーの言葉を肯定したため、私たちは揃ってビックリ仰天。お尻なんかを叩き合うとか、叩くとか。それにどういう意味合いがあると?
「あれかよ、ケツを叩くってヤツかよ?」
急がせる時とかによく言うよな、とサム君が。そういえば「早く宿題をやってしまえ」とか、仕事を急げとか、そういう時には「尻を叩く」と言うような気が。しっかりやれ、と気合を入れる時なんかにも。
「ふうん…? お尻を叩くって、そういう意味もあったんだ…」
やる気を出させるためにお尻を…、とソルジャーが感心していますから、粥杖でお尻を叩く方にはまるで別の意味があるんでしょうか?
「そうだけど? ぼくがノルディに聞いた話じゃ、なんか子宝を授かるらしいよ」
「「「子宝?」」」
「うん。粥杖でお尻を叩いて貰うと妊娠するって話だったね。ついでに、女性が男性のお尻を叩けば、その男性の子供を授かるっていう話もあって」
つまりは子種を授かるのだ、とソルジャーは説明してますけれど…。本当にそれで正解ですか?
「正解だねえ、ブルーがノルディに聞いてきた話。もっとも、ブルーのお尻を叩いたところで子供なんかは生まれないけどね」
ノルディはいったい何を考えて叩いたのやら、と会長さん。するとソルジャーは大真面目に。
「夫婦和合に協力しますよ、って叩いてくれたよ?」
ぼくのハーレイがビンビンのガンガンになるようにという願いをこめて、とソルジャーの瞳がキラキラと。
「子宝を授かるくらいの勢いでヤッて貰えるといいですね、ってノルディがね!」
「はいはい、分かった」
勝手に好きなだけ授かってくれ、と会長さんが手をヒラヒラと。
「良かったねえ、粥杖を飾っているような老舗で小豆粥を食べられて。君の自慢話はちゃんと聞いたし、後は帰ってご自由にどうぞ」
夫婦で存分に楽しんでくれ、と追い出しにかかった会長さんですが。
「ちょっと待ってよ、それだけだったらとうの昔に帰っているから!」
食事が済んだらぼくの世界へ直行で…、とソルジャーは私たちの方へと向き直りました。
「ぼくは用事があって来たんだ、こっちへね」
「「「用事?」」」
不味いポリッジに引っ掛かってましたし、おやつ目当てではなさそうです。ソルジャー、いったい何の用事が…?
「粥杖だけどね…。ノルディに色々聞いたんだけどね」
詳しい話を、とソルジャーはソファに座り直すと。
「元々は小豆粥を炊くのに使った棒だけれども、今じゃ神社で授与するくらいで小豆粥には使ってないって話だったね」
「そうと決まったわけでもないから! 小豆粥用に授与する神社もあるから!」
そこを間違えないように、と会長さんが反論を。
「棒の先に御札が挟んである、って神社もあるんだ。無病息災、厄除け祈願の御札がね。粥杖を頂いて家に帰って、御札を玄関とかに貼るってわけだよ。そして粥杖の方は…」
お粥を炊くのかと思ったのですが、今の世の中、木を燃やしての調理は一般的ではありません。ゆえに粥杖、小豆粥を炊く時にお粥をかき混ぜるものらしくって。
「しっかり混ぜて無病息災、縁起物のお粥の出来上がりだから! そこの粥杖、お粥用だから!」
本来の意味で使っている、という話ですが、ソルジャーの方は。
「でもさ、その粥杖でお尻を叩けば子宝だろう?」
「そ、それは…。粥杖というのはそういうものだし、お尻を叩けばそうなるだろうね…」
「ほらね、神社で貰ったヤツでも子宝を授かる棒なんだよ! 粥杖は!」
そういう役目を担い続けて千年以上、と言うソルジャー。そこまでの歴史を背負ってましたか、粥杖とやら。
「らしいよ、ノルディが自信たっぷりに由緒を教えてくれたしねえ…。そして子宝を授かる棒っていうことで独自の進化を遂げた地域もあるんだってね?」
「「「進化?」」」
「そう! 子宝祈願に特化した粥杖、木で出来たアレの形なんだよ!」
男だったら誰でも持ってるアレの形、とソルジャーはそれは嬉しそうに。
「アレを象った、一メートル近い大きな棒でさ。そういう棒が粥杖な地域があるって言ったよ、ノルディはね! それで女性のお尻を叩けば、もれなく子宝!」
小豆粥の日の行事らしい、とソルジャーは膝を乗り出して。
「その粥杖を聞いた途端に閃いたんだ! これは使えると!」
「……何に?」
会長さんが嫌そうな顔で言っているのに、ソルジャーの方は気にも留めずに高らかに。
「ヘタレ直し!!」
「「「ヘタレ直し?」」」
なんですか、それは? 粥杖を使って何をすると?
「ヘタレ直しと言えば決まっているだろう!」
ヘタレと言えばたった一名! とソルジャーは胸を張りました。
「こっちのハーレイ、それはとんでもないヘタレだからねえ…。粥杖を使って直すべきだと!」
子宝と聞けば使うしかない、と解説が。
「あの棒で男性のお尻を叩けば、その男性の子種を授かるらしいしね? つまり、こっちのハーレイのお尻を粥杖で叩くと、子種を授けるパワーが伝わる!」
ヘタレなアソコにパワーが漲る筈なのだ、という凄い発想。私たちは声も出ませんでしたが、ソルジャーの喋りは滔々と。
「そういう風に使えそうだし、ヘタレ直しをしようと提案しに来たわけだよ。そしたらケツを叩くってサムの言葉が来ちゃって、グンと自信が深まっちゃって!」
やるっきゃない! とグッと拳を握るソルジャー。
「お尻を叩けばやる気が出るって言うんだろう? やる気、すなわちヤる気ってね!」
ガンガンと攻める方向で…、と粥杖の解釈はエライ方へと。
「こっちのハーレイのお尻を粥杖で叩けば、ヘタレが直ると思うんだ! もう叩くしか!」
「…それで直ると?」
あんなヘタレが、と会長さんが鼻で笑いましたが、ソルジャーは。
「やってみなくちゃ分からないってね! 叩くしかないと思うんだけど!」
ちょっと粥杖を借りて来て…、と本気でやる気。借りるって、何処で粥杖を?
「ノルディに連れて貰った店だよ、粥杖を飾っているからね! 夜の営業時間までの間に瞬間移動で杖を拝借、ハーレイのお尻を叩きに行こうと!」
君も来たまえ、と会長さんに矛先が。
「なんでぼくが!」
「ハーレイのヘタレが直れば色々とお世話になるだろ、ハーレイのアソコに!」
「そっちの趣味は全く無いから!」
「そう言わずに!」
ヘタレさえ直れば素晴らしい男になるんだから、と相変わらずの思い込み。会長さんにはその手の趣味は無いというのに、自分がキャプテンと夫婦なばかりに会長さんにも教頭先生との恋や結婚を押し付けがちなのがソルジャーです。
「ぼくがハーレイのお尻を叩いても効果は高いと思うけどねえ、君も叩いて!」
そして子種を貰ってくれ、と強引に。会長さんは教頭先生のヘタレ直しに興味も無ければ、子種なんかも要りはしないと思うんですが…?
粥杖を借りて教頭先生の家へ出掛けよう、とソルジャーは会長さんを口説きにかかりました。是非ともお尻を叩いてやろうと、ヘタレを直して素晴らしい男にしてやるべきだと。
「子種をガンガン授ける杖だよ、おまけにお尻を叩けばやる気も出てくるんだしね!」
「だから、そういう趣味なんか無いと!」
「食わず嫌いは良くないよ! 一度くらいは食べられてみる!」
ヘタレの直ったハーレイに、とソルジャーは譲らず、会長さんは仏頂面で聞いていたのですけど。
「…待てよ、ハーレイのお尻を叩けばいいわけか…」
これはいいかも、と顎に手を。
「分かってくれた? ハーレイのヘタレが直ればいいっていうことを!」
「うん。ヘタレ直しという名目があれば、お尻を叩き放題っていう事実にね」
思いっ切り引っぱたくチャンス! と会長さんの発想も斜め上でした。
「何かと言えば妄想ばっかりしている馬鹿のお尻を思いっ切り! ヘタレ直しは大義名分、その実態は単にお尻を叩きたいだけ!」
「ちょ、ちょっと待って! ぼくが言うのはそういうのじゃなくて!」
「君にもメリットはあると思うよ、粥杖ってヤツが欲しくないかい?」
借りるんじゃなくてマイ粥杖、と会長さん。
「マイ粥杖? …なんだい、それは?」
「そのものズバリさ、君専用の粥杖だってば!」
やる気が出てくる棒のことだ、と会長さんはニッコリと。
「君のハーレイのお尻を叩けば、君が子種を授かるわけだよ! パワーアップのためのアイテム、君の青の間に一本、粥杖!」
「…神社へ貰いに行くのかい?」
「それじゃイマイチ有難味がない。君のハーレイ、木彫りが趣味だろ? これぞ粥杖、っていう棒を彫って貰って、それを使って小豆粥を炊けばバッチリ粥杖!」
正真正銘の粥杖誕生、と会長さんの唇に笑みが。
「サイオンを使えば、粥杖が燃えないようにシールドしながら小豆粥を炊ける。そうやって出来た粥杖で君のハーレイのお尻を一発、こっちのハーレイには何十発と!」
ヘタレ直しで叩きまくれば場合によっては効くであろう、という見解。
「たとえハーレイには効かなくっても、君はマイ粥杖をゲット出来るし、悪い話じゃないと思うけど? 作るんだったら、その粥杖でハーレイのヘタレ直しもね!」
うんと立派な粥杖がいい、と言っていますが、その粥杖で教頭先生のお尻を何十発も…?
「えーっと…。今から作るって…。間に合うわけ?」
マイ粥杖は欲しいけれども、とソルジャーが首を捻りました。
「小豆粥の日、今日だろう? 今から帰ってぼくのハーレイに彫らせていたので間に合うかな?」
時間的にかなり厳しい気が、と真っ当な意見。けれど、会長さんは「大丈夫!」と。
「本物の粥杖にこだわるんなら、小豆粥の日は今日じゃない。一ヶ月ほど先のことだよ」
「一ヶ月?」
「今は暦が昔と違っているからねえ…。粥杖が始まった頃の暦で計算すると、一ヶ月ほどズレが出るわけ。えーっと、本物の小正月は、と…」
いつだったかな、と壁のカレンダーをチェックしに行った会長さんが戻って来て。
「うん、いい具合に週末と重なっていたよ。ぼくたちの学校もバッチリお休み! 屋上で小豆粥を炊こうよ、竈は用意しておくからさ」
「それはいいかも…。その日に小豆粥を炊くのに使えば、その粥杖は本物なんだね?」
ぼくのハーレイが彫ったヤツでも、とソルジャーが訊くと、会長さんは。
「小正月の日に小豆粥を炊きさえすれば粥杖だよ! 神社で授与して貰わなくても!」
「その話、乗った!」
マイ粥杖、とソルジャーが会長さんの手をガシッと握って。
「ぼくのハーレイのパワーアップが第一なんだね、マイ粥杖! それのオマケがこっちのハーレイのヘタレ直しで、粥杖はぼくが貰っていいと!」
「もちろんさ。ヘタレ直しはどうでもいいから、君が大いに活用したまえ」
「ありがとう! マイ粥杖を持てるだなんて…。言ってみるものだね、ヘタレ直しをしてみよう、っていう話も!」
こっちのハーレイのヘタレも見事に直るといいね、とソルジャーは嬉しくてたまらない様子。それはそうでしょう、マイ粥杖が貰えるというのですから。
「マイ粥杖かあ…。それはやっぱり、アレの形にすべきかな?」
「君の好みでいいと思うよ、それと君のハーレイの木彫りの腕次第だね」
「ハーレイに頑張って彫って貰うよ、来月までに! 材料の木は何でもいいわけ?」
ぼくの世界の木でいいのかな、という質問に、会長さんは。
「材料はこっちで用意するよ。一応、指定があるからね」
「そうなんだ?」
「柳の木っていうのが主流で、アレの形に彫るって地方は松なんだけど…。どっちがいい?」
「松に決まっているだろう!」
断然、松で! とソルジャーがマイ粥杖で目指す所はキャプテンのためのパワーアップのアイテムでした。教頭先生のヘタレ直しは既に二の次、三の次ですね…。
マイ粥杖を作って貰えると決まったソルジャーは上機嫌で夕食時まで居座り、寄せ鍋を食べて帰って行きましたけれど。
「お、おい…。粥杖って、あんた、本気なのか?」
本気でやる気か、とキース君が会長さんに問い掛け、シロエ君も。
「いいんですか、パワーアップのアイテムだなんて…。そんな迷惑なものを作らなくても…」
「平気だってば、アイテムの使用は向こうの世界に限られるしね?」
あっちのハーレイも充分にヘタレ、と会長さんが。
「ブルーがこっちに連れて来たって、バカップルくらいが限界なんだよ。粥杖でお尻を引っぱたいても人の目があれば大丈夫ってね!」
コトに及ぶだけの度胸は無い! と言われてみればそうでした。ソルジャー曰く、「見られていると意気消沈」。悪戯小僧の「ぶるぅ」が覗きをやっているだけで駄目だと噂のヘタレっぷり。たとえ粥杖でパワーアップしても、その辺りは直りそうになく…。
「なるほど、あっちは安心なわけか…。しかし教頭先生の方は…」
どうなんだ、というキース君の問いに、会長さんは「もっとヘタレだし!」とアッサリと。
「これでヘタレが直る筈だ、と叩いてやっても直るわけがない。だけどブルーは効くと信じてヘタレ直しを提案して来たし、この際、日頃の恨みをこめて思いっ切り!」
引っぱたく! と会長さんの決意は揺らぎなく。
「そのためにも立派な粥杖を作って貰わないとね、木彫りが得意なブルーの世界のハーレイに! ここはやっぱり一メートルで!」
ブルーもそういうタイプの粥杖が欲しいようだし…、と会長さん。
「松の木を用意しなくっちゃ。どう彫るかはあっちのブルーとハーレイ次第で!」
「「「………」」」
一メートルもの長さの粥杖が出来てくるのか、と溜息しか出ない私たち。しかもソルジャーのお好みはアレの形です。ロクでもないのが彫り上がるんだな、と遠い目になれば、会長さんが。
「そういう形をしているからこそ、こっちのハーレイが釣られるってね!」
「「「は?」」」
「粥杖を作るイベントに招待してから、お尻をガンガン叩くつもりでいるんだけれど…。普通だったら痛くなったら逃げるものだよ、黙って叩かれていいないでね」
けれどもヘタレ直しとなれば…、と会長さんはニンマリと。
「これで効くのだと、ヘタレが直ると信じて叩かれ続けるわけだよ、ハーレイは!」
たとえお尻が腫れ上がろうとも! と強烈な台詞。教頭先生、大丈夫かな…?
そうして二度めの小正月。旧暦の一月十五日の朝、私たちは会長さんのマンションに集合となりました。折からの寒波で寒いんですけど、小豆粥を炊く場所は屋上です。如何にも寒そう、とコートにマフラー、手袋なんかで重装備。会長さんの家の玄関に着いてチャイムを押すと。
「かみお~ん♪ ブルーも来ているよ!」
後はハーレイを待つだけなの! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお出迎え。暫くは暖かい所に居られそうだ、とホッと一息、リビングに案内されてみれば。
「やあ、おはよう。どうかな、ぼくのハーレイの腕は?」
ジャジャーン! とソルジャーが持ち上げて見せた、一メートルはあろうかという太い棒。アレの形だと言われればそうかな、と思いますけど、細長い松茸でも通りそうな感じ。
「こだわったのはね、この先っぽの辺りでさ…」
リアルに再現してみましたー! とか威張っていますが、松茸にしては妙な傘だという程度にしか見えません。万年十八歳未満お断りの団体様に自慢するだけ無駄なのでは…。
「うーん、やっぱり分かってくれない? でもねえ、もうすぐ値打ちの分かる人が来るからね!」
そっちに期待、と言い終わらない内にチャイムの音が。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が飛び跳ねて行って、「ハーレイ、来たよーっ!」という声がして。
「今、行くからーっ!」
会長さんが叫び、私たちはコートやマフラーを再び装備。玄関まで行くと、防寒スタイルの教頭先生が立っておられて。
「おはよう、今日は粥を御馳走してくれるとブルーに聞いたのだが…」
「そうだよ、小正月には小豆粥だしね」
古典の教師なら知ってるだろう、と会長さん。
「本格的に炊いてみたいし、屋上に竈を用意したんだ。もちろん薪で炊くんだよ」
「ほほう…。それはなかなか美味そうだな」
竈で炊いた飯は美味いものだし、と教頭先生は頷いておられます。どうやら粥杖を作る話はまるで御存知ないようで…。
「とにかく寒いし、小豆粥を炊きながら温まろう、っていうのもあるから!」
会長さんがエレベーターの方へと促し、「そるじゃぁ・ぶるぅ」も。
「小豆粥、準備、きちんとしてあるからね! 後は炊くだけ!」
「というわけでね、今日はよろしく」
ぼくも楽しみにしてたんだ、と言うソルジャーに教頭先生が「こちらこそ」と笑顔で挨拶を。言い出しっぺはソルジャーですけど、全く気付いておられませんね?
屋上に着くと、風が比較的マシな辺りに竈が据えてありました。種火は投入してあったらしく、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が薪を手際よく入れればボッと炎が。
「えとえと、炊けるまでお鍋に触らないでね!」
小豆粥が駄目になっちゃうから、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。大きな土鍋が竈にかけられ、薪をどんどん燃やせば煮えるという仕組みですが。
「これで薪をつつけばいいと?」
ソルジャーが例の棒をヒョイと取り出し、教頭先生に「見てよ」と笑顔を。
「粥杖なんだよ、この棒は! 小豆粥を炊くのに使えばパワーが宿ると聞いたから!」
「粥杖…ですか?」
「古典の教師なら知らないかな? これでお尻を叩いて貰えば子宝が!」
そういうパワフルなアイテムなのだ、とソルジャーがこだわりの先っぽとやらを教頭先生の鼻先に突き付け、教頭先生の目が真ん丸に。
「…こ、これは…!」
「見ての通りだよ、子宝祈願でパワーアップならこの形! ぼくのハーレイがこだわって彫って、これからパワーを入れるわけ!」
こうやって、と先っぽの方から竈の焚口にグッサリと。けれどもシールドされているだけあって、粥杖は焦げもしませんでした。ソルジャーは鼻歌まじりに薪を突き崩しながら。
「ぶるぅ、もっと空気を入れた方がいい?」
「そだね、火力は強い方がいいね!」
アヤシイ形の粥杖が薪をガサガサかき混ぜ、舞い上がる火の粉。やがてグツグツと鍋が煮え始め、小豆粥がしっかり炊き上がって…。
「はい、食べて、食べてー!」
寒いからしっかり温まってね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」がお椀に小豆粥を取り分け、お箸と一緒に全員に配ってくれました。うん、なかなかに美味しいです。竈の威力は大したものだ、と寒風の中で啜っていれば。
「はい、粥杖! 注目、注目ーっ!」
そしてハーレイはお尻を出して! とソルジャーが小豆粥を食べ終え、粥杖を高々と振り上げて。
「これでお尻を引っぱたいたら、子種がバッチリ! きっとヘタレも直るから!」
「…ヘタレ?」
なんのことですか、と尋ねた教頭先生、会長さんに「立って!」と立ち上がらされて。
「ヘタレ退散ーっ!」
バッシーン! とソルジャーの気合を込めた一撃。「うっ!」と呻いた教頭先生のお尻に向かって、今度は会長さんが粥杖を。
「ヘタレ直しーっ!」
ビシーッ! と激しい音が響いて、教頭先生は慌てて両手でお尻を庇われたのですが…。
「ダメダメ、粥杖は叩いてなんぼ! これでヘタレが直るんだし!」
ソルジャーが叩き、会長さんが。
「ブルーが考えてくれたアイデアなんだよ、ぐんぐんヘタレが直る筈だと!」
さあ、頑張っていってみよう! と粥杖攻撃、二人前。教頭先生はソルジャーからの「パワーアップのアイテムなんだよ、ぼくのマイ粥杖!」という囁きに負けて、逃げる代わりに耐え続けて。
「…ハーレイ、欠席だったって?」
週明けの放課後、ソルジャーが「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋を訪ねて来ました。
「そうなんだよねえ、ゼルたちの噂じゃ、なんか痔だとか」
そういうことになってるらしい、と会長さん。ソルジャーは深い溜息をついて。
「おかしいなあ…。あれだけ叩けばヘタレも直って万々歳だと思ったんだけど…」
「ほら、ヘタレのレベルが違うから! 君のハーレイの方はどうだった?」
「凄かったよ! 粥杖でポンとお尻を叩けば、グンとパワーが!」
実に素晴らしいアイテムが手に入ったものだ、とソルジャーは御満悦でした。キャプテンの場合は一発叩けばパワーが漲るらしいのですけど。
「…教頭先生、思いっ切り叩かれすぎたしね…」
帰りは車にも乗れなかったものね、とジョミー君。
「欠席なさるのも仕方ないだろう。ダメージはかなり大きいと見た」
当分は再起不能じゃないか、とキース君が頭を振っている横で、会長さんとソルジャーはヘタレ直しの次なるプランを練っていました。
「君のハーレイには効いたってトコを強調してやれば、まだまだいけるね」
「腰が痛くて欠席だなんて言っていないで、ヤリ過ぎで休んで欲しいものだねえ…」
マイ粥杖ならいつでも貸すよ、とソルジャーは気前がいいんですけど。ヘタレ直しに効くと信じているようですけど、会長さんの目的はそれじゃないですから! 教頭先生、ヘタレ直しだと思わずに逃げて下さいです。でないとお尻が壊れますよう~!
小正月のお粥・了
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小正月の粥杖の話は、本当です。平安時代には宮中でも女官たちがやっていたくらい。
マイ粥杖を作ったソルジャーですけど、教頭先生には受難だった日。お大事に、としか…。
次回は 「第3月曜」 10月21日の更新となります、よろしくです~!
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こちらでの場外編、9月とくれば、秋のお彼岸。当然、厄日になるわけですけど…。
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