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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

カテゴリー「シャングリラのし上がり日記」の記事一覧

マザー、看護師チームに転属しました。劇場支配人という肩書きはやはり「お飾り」だったようです。見習いが支配人だなんて変だと思ったのですが。医療の心得が無いので、この職場ではちょっと肩身が狭いです。サイオンで一通り習ったものの、実地が伴っていませんから。でも初仕事は容赦なく舞い込みました。

「ドクター、ちょいと手当てを頼むよ」
ブラウ様が左手にタオルを巻いて入ってらした時、先輩方は休憩中でドクターと私しかいませんでした。
「派手に噛まれちまってねえ…。唐辛子アイスは作ったけども、あたしが作ったってバレたんだろうか?」
「それは…ちょっとまずかったですね。あれで嗅覚はいいようですよ」
ドクターは手際よくブラウ様の袖をまくって傷の手当を始めました。
「あまり妙なアイスは作らない方がいいでしょう。変な菌は持っていないでしょうが、噛み傷は治りが遅いですし」
噛み傷に加えて手作りアイス。…またまた「そるじゃぁ・ぶるぅ」のようです。ブラウ様まで噛まれるなんて…。

「おや、今度は看護師やってるのかい。せっかくだから縫ってもらおうかねえ」
「えっ、私ですか?…そんなの無理です!」
いきなり話を振られた私は思わず叫んでしまいました。傷口の縫合なんて、まだできるわけありません。
「ぶきっちょでも全然かまやしないさ。…それに縫わないと困るじゃないか」
「で、でも…私、縫えません!配属になったばかりなんです。ドクター、無理だと言って下さい!」
「おやおや、ホントかわいい子だねえ。…これが縫うような傷に見えるかい?」
差し出された手には歯型がくっきりついていました。けれど裂けているようには見えません。
「あはは、縫ってほしいのは服の袖だよ。…こっちの方が重傷なんだ」
ブラウ様のお召し物の袖に大きな穴が開いていました。咥えたまま力任せに引っ張ったものと思われます。
「…ブラウ様、新人を苛めないで下さい。人手不足の昨今、一人でも定着して欲しいんです」
ドクターの溜息とブラウ様の笑い声に送られて、私は針箱を取りに行きました。

マザー、これが私の初仕事です。ちょっと「縫う」対象が違いましたが…。
「あ。唐辛子アイスじゃなくて、邪魔したのがいけなかったかねえ。熱心に本を見てたんだ」
「読書ですか?…それはまた…珍しいですな」
「だろ?あれは絶対ハーレイのだね」
お二人は「そるじゃぁ・ぶるぅ」が読んでいたらしい本を肴にとっても楽しそうでした。『王家の紋章』って、なんなのでしょう?タイトルからして歴史小説かミステリーだと思うのですが…。今度、図書館で調べてみます。『ガラスの仮面』を返しに行かねばなりませんから。とても読み応えのあるマンガでした、マザー。




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マザー、恐れていた「キャプテンの貸切」が入りました。劇場ポスト最後の夜にまた入るなんてツイていません。ですが見習いの身でサボれませんし、覚悟を決めて支配人室で待っているとキャプテンがいらっしゃいました。
「先日は酷い目に遭ったそうだな。安心しろ、今夜は私も一緒だ」
えっ、キャプテンもご一緒ですか?とっても心強いです!
「その代わり、もっと華やかな服を。…花束を渡してもらいたいからな」
キャプテンが持ってらしたのは、見事なバラの花束でした。
「私では絵にならんのだ。それに贈り主は私ではない、ということになっている」
「はぁ…」
「いいから早く着替えなさい。衣装部屋に何かあるだろう。ベルばら風のドレスでもいいぞ?」
キャプテン、ベルばらをご存知ですか…。私は花束に負けないドレスに着替えてキャプテンと一緒に出かけました。

劇場に入るとやはりシールドが張られ、キャプテンと私はその中です。
「大丈夫だ、落ち着いて自分の周りにシールドを張れ。これで三半規管の乱れはかなり防げる」
「はい、キャプテン」
「1曲終わる度に拍手だ。全部終わったらアンコールするのを忘れるな」
「分かりました。…でも、どうして今夜はキャプテンもいらしたのですか?」
もしや私を助けに来て下さった?…だったらちょっと嬉しいかも。
「…今日は新曲発表会だ。ギャラリーがいないと不機嫌になる」
なんだ。…つまらない、という思念はきっと漏れていなかったと思います。
間もなく派手なカクテル光線が舞台に飛び交い、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が自信たっぷりに登場しました。
「♪ねぇ、答えはないお~ん!!!♪」

新曲もやっぱり「おーん」ですか…。歌は延々と続きましたが、乗り切れたのはシールドのおかげです。拍手も忘れませんでした。そしてアンコールで十八番の「かみおーん♪」が終わり、いよいよ花束贈呈です。
「メッセージカードはくっついてるな?…いいか、落ち着いて言うんだぞ」
「は、はい…。頑張ってきます」
私は花束を抱え、緊張して舞台に上りました。「そるじゃぁ・ぶるぅ」に花束を渡し、笑ってしまいそうな棒読みで…
「紫のバラの人からです。伝言は…えっと…。いつもあなたを見守っています」。
大きな紫のバラの花束を抱え、「そるじゃぁ・ぶるぅ」は満足そうに退場しました。

マザー、なんという奇妙な出来事でしょう。…キャプテンと一緒に『そるじゃぁ・ぶるぅ独演会』、花束のオマケつき。あの紫のバラの花束、50本はあったと思います。それに、それに…不可解な謎のメッセージ!
「キャプテン、『紫のバラの人』ってなんなのですか?」
支配人室まで送って下さったキャプテンに聞かずにはいられませんでした。
「ぶるぅを陰から見守る熱烈なファンだ。長老全員で演じる架空の人物。…詳しいことは図書館で分かる」
「図書館、ですか?」
「美内すずえ作、『ガラスの仮面』。20世紀後半から21世紀初頭に描かれた少女マンガの名作だ」
少女マンガ…。えっ、少女マンガ!!?…先刻の『ベルばら』発言といい、キャプテンは実は少女マンガがお好きなのでしょうか?マザー、シャングリラはますます奥が深いです…。




マザー、阿波踊り勝手連の皆さんが今日も稽古にやってきました。シャングリラの甲板に描かれた鳥の絵の浴衣と法被姿が決まっています。それにしてもなぜ阿波踊りなのでしょう?あまつさえ「踊らないか」と誘われ、女踊りを習いました。この熱心さはいったい何処から?

「もしかして、シャングリラの皆さんは全員、これが踊れたりするんですか?」
なりゆきで男踊りまで稽古した後、息を切らして尋ねてみると…。
「いや、全員ってわけじゃないけど、長老方は踊れるな。…噂では、ソルジャーが上手いそうだよ」
は?…あのソルジャー・ブルー様が阿波踊り?こんな勇壮な男踊りを?…それとも粋でしなやかな女踊りを…?
「ごめん、ソルジャーの踊りは知らないんだ」
驚愕のあまり思念が漏れたらしく、勝手連の代表さんが答えました。
「まだ阿波踊り会場でお目にかかったことがない。でも凄く能力の高い方だし、多分両方踊れるだろう」
あぁ、なんてことを聞いたのでしょう。誰か嘘だと言って下さい!ソルジャー・ブルー様と阿波踊りなんてミスマッチです。似合いません、絶対に似合いません!!!

ショックで放心しかかった時、わっ、と歓声が聞こえました。キャプテンが劇場に入ってこられたのです。
「キャプテン、今日も見るだけですか?…ちょっと踊っていかれませんか?」
皆さんがワイワイ騒いでいます。この様子では、キャプテンは本当に踊れるのかも…。
「ああ、キャプテン…いいところへ。この子が信じてくれないんですよ、長老方は阿波踊りがすごく上手いってことを。ですから、一緒に踊って見せて頂けませんか?」
代表さんの言葉にキャプテンは暫し考えた後、ゆっくり近づいてらっしゃいました。
「…まぁいい、いつかは知れることだ。シーズンではないが、踊っていくか」

マザー…見てしまいました、キャプテンの見事な男踊りを。「長老方は全員踊れる」のも本当なのだそうです。阿波踊りのシーズンは夏で、その時期のシャングリラは実に熱いとキャプテンは教えて下さいました。
「どうして阿波踊りなのですか?…踊りは他にもいろいろあるのに」
「…竹宮恵子が徳島の出身なのだ。徳島といえば阿波踊りだ」
ああ、なるほど。…あれ?でも竹宮恵子って誰でしょう?…ストンと納得できた割には、未だに思い出せません。そして「ソルジャー・ブルー様も踊れるのか」と「踊れるなら、男踊りか女踊りか」は聞きそびれました。

マザー、シャングリラは本当に奥の深い艦です。今日は幻覚も見えました。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が楽しそうに阿波踊りの男踊りで廊下を進んでいく姿です。…ソルジャー・ブルー様の阿波踊りを見たい、という願望がなせる業でしょうか?

 

 

 

 

マザー、劇場支配人の大任を拝命しました。庭師だったのに大抜擢で大感激です。シャングリラの劇場はとても立派で、スタッフの皆さんも腕利きばかり。今日は午前中に子供たちがクリスマスの降誕劇と歌の練習をしに来ました。これはクリスマスまで毎日続くようです。午後は有志による阿波踊りの勝手連が踊りの稽古に来ただけでした。これは恵まれた職場かも…。支配人は音響も照明もタッチしなくていいですし。

夕食も済み、夜は予約も入ってないし…と部屋に戻ろうとしたら、副支配人という肩書きの大先輩が来て言いました。
「キャプテンの名前でお忍びの貸切が入った。音響機器とシールドは用意したから、観客席に座るように」。
え。…こんな時間からいったい何が?でも先輩は有無を言わさず、私を引っ張っていきました。劇場内の照明は暗く、客席には誰もいないようです。舞台の上にも人の気配はありません。
「この辺りでいいだろう。いいか、命が惜しかったら拍手するのを忘れるなよ」
意味深な言葉を残して先輩は消えてしまいました。そしてシールドが劇場を包み、私は閉じ込められたのです。

危険、キケン、キケン…。頭の中で警報が鳴り響きますが、何をどうすればいいのでしょう?その時、パッと舞台が明るくなりました。派手な照明とミラーボールの光の中に立っていたのは…。
「かみお~ん!」
忘れたくても忘れられない、あのフレーズが響きました。後のことはよく覚えていません。…『そるじゃぁ・ぶるぅ、オンステージ!』とばかりに歌いまくられるカラオケのヒットメドレーだか十八番だか、とにかく音の洪水でした。キャプテン…「カラオケ禁止」じゃないのですか?…禁止なのは「キャプテンの執務室でカラオケ」だけなのですか!?

気がつくと私は支配人室に寝かされておりました。
「拍手するのを忘れただろう?…だから忠告しておいたのに…。観客はそれが仕事なんだよ」
副支配人の先輩が覗き込んでいます。
「キャプテンの名で貸切が入ったら、くじ引きで負けたヤツが観客になる。他の連中はシールドを張って裏方に徹し、見ざる聞かざるだ。…あんたを支配人の座につけたのは…見習いだから後腐れがないし、支配人が観客だったらヤツも張り合いがあって喜ぶし、ってことなんだけど」
なんてことでしょう。これではまるで人柱です!
「あ、バレちゃった?…じゃ、まぁ、そういうことで。次回は拍手を忘れないでね、怒るとサイオンぶつけてくるから」
しゅたっ、と片手を上げて先輩は逃げていきました。

マザー…この職場、栄転ではなかったようです。在任中に「キャプテンの貸切」が入らないことを祈ります…。




 

マザー、庭師チームの見習い中に軍手を紛失してしまいました。その軍手がゼル様の芋焼酎の瓶に詰められていたそうで、先輩に「盗られたのは注意散漫だから」と叱られ、始末書を書く羽目に。提出先はシャングリラの艦長、キャプテン・ハーレイの執務室です。緊張しながら扉をノックし、深々と頭を下げました。

「キャプテン、お騒がせしてすみませんでした。…始末書を書いてきましたが、不注意、申し訳ありません」
「ああ、軍手の件か。…気にしなくても構わないのに。どうせ子供の悪戯だ」
キャプテンは優しく笑って下さり、ホッと安心した私の瞳に飛び込んできたのは実に奇妙なものでした。木目調の落ち着いた壁に場違いな張り紙がでかでかと貼られ、『カラオケ禁止』の文字が大書してあったのです。
『カラオケ禁止』?…禁酒とか禁煙ならともかく…カラオケ禁止?
キャプテンは意外にもカラオケ中毒で「カラオケ断ち」を決意されたというのでしょうか?失礼だとは分かっていますが張り紙から目を離せません。その間、5分?…それともほんの1分くらい?

「…やはり張り紙が気になる、か…」
溜息まじりのキャプテンの声で私は我に返りました。きっと頬が真っ赤に染まっていたことでしょう。
「カラオケ禁止は私ではない。…隣近所から苦情が出たのだ」
あのぅ…キャプテン?おっしゃる意味が分かりません…。
「分からないなら、忘れなさい。下がってよし」
私はしどろもどろに挨拶をして自分の部屋に戻りました。キャプテンは気を悪くされなかったでしょうか?

マザー、…部屋に戻ってしばらくしてから思い当たったことがあります。カラオケが好きで「眠る時もマイクを手放さない」と噂の「そるじゃぁ・ぶるぅ」。十八番は「かみおーん♪」だと聞いていますが、犬の遠吠えに聞こえないこともありません。「そるじゃぁ・ぶるぅ」に熱唱されたら、近隣の人は騒音に悩まされそうです。もしかしてキャプテンの部屋の『カラオケ禁止』
は「そるじゃぁ・ぶるぅ」対策用?…キャプテン、どこまで苦労なさるのでしょうか…。




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