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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

カテゴリー「シャングリラのし上がり日記」の記事一覧

マザー、青の間にソルジャー補佐として出勤する身になりました。副船長の就任挨拶で初めてソルジャーにお会いしたような私が大役を頂いた理由は「ミュウらしからぬ図太い神経」らしいです。夢見る乙女のつもりでしたが、何処で道を踏み誤ったのでしょう。でも、そのお蔭でソルジャー補佐になれたのですし、まぁ…いいかな、と。

非の打ち所のないミュウの長、ソルジャーはベッドで眠ってらっしゃらない時はコタツに座って過ごされます。『ソルジャー・ブルー様ファンクラブ』の会員さん達が御覧になったら、ショックのあまりサイオン・バーストを起こしかねない光景かも。今日もコタツの上には山盛りのミカンとソルジャー専用の湯飲み、そしてオヤツの塩煎餅が…。
「…君は味噌とトンコツ、どっちが好きだい?」
「は?」
いきなりソルジャーに問われた私は、キャプテンにお借りした少女マンガ『エロイカより愛をこめて』を閉じました。サボッていたわけではありません。「自分一人がコタツに座る」のはソルジャーのお気に召さないらしく、たまにリオさんも座っていきます。私は特に用の無い時はコタツで本を読むことにしていました。
「味噌とトンコツ、どっちが好きかと聞いたんだが」
「…どちらかといえば味噌でしょうか」
「分かった」
そうおっしゃってから10分くらい経った頃。コタツの上に突然ラーメン鉢が2個、現れました。中身は出来立ての味噌ラーメンとトンコツラーメン。レンゲと割り箸も添えてあります。もしかしてこれは「そるじゃぁ・ぶるぅ」が?
「食べたまえ。味噌は君の分だ」
ソルジャーはトンコツラーメンを前に馴れた手つきで割り箸を割っていらっしゃいます。
「ぶるぅが送ると言ってきたから、君の分も送ってもらった。一人で食べてもつまらないだろう」
「えっ、でも…私、お弁当が届きますし」
「リオは来ないよ」
青の間に出勤中の私の食事はお弁当。リオさんがソルジャーのお食事と一緒に届けて下さっています。
「ぶるぅが何か送ってくるのは分かっていたから、今日の昼食は断っておいた。…君の分もね」
ソルジャーは予知もお出来になるのでしたっけ?…「そるじゃぁ・ぶるぅ」お気に入りらしいラーメン店の味噌ラーメンはとても美味しいものでした。

空になったラーメン鉢とレンゲを洗って戻ってくると、ソルジャーが何処からかお金を取り出して鉢にお入れになりました。次の瞬間、鉢とレンゲはフッと消え失せ、お店に返却されたようです。
「本当に出前だったんですね…」
「器ごと送ってきた時はちゃんと支払うようにしている。…それ以外の時は、ぶるぅが払っている筈だ」
「お金を持っていたんですか!?」
「当然だろう。無銭飲食や万引きを覚えたのではたまらない。毎月、お小遣いを取りに来るよう言ってある」
以前、キャプテンにはぐらかされた「そるじゃぁ・ぶるぅ」の買い物の謎はアッサリと解けてしまいました。ソルジャーがお金を与えておられるのでは、一般のミュウには教えられなくて当然です。では、ソルジャーのお金の出処は?…通信士補佐の頃に耳にした「宝くじ」ではないでしょうね?
「…ぼくが買って当てた宝くじの一部を貰って使っている。ぶるぅが来るまでは使うことなどなかったのだが」
ソルジャーはおかしそうにお笑いになりました。
「ぶるぅと言えば…カードを用意しておかなければ。明日は劇場で新曲発表会だと張り切っていた。さっきのラーメンは『発表会の応援をよろしく』とアピールするための出前なんだよ」

えっ、劇場で新曲発表会?…劇場支配人だった時にキャプテンと出かけたアレでしょうか。「応援よろしく」とアピールがあったからには、明日はソルジャーがお出かけに?
「いや、ぼくは劇場には出かけられない。…行ってやりたいが、滅多にここから出ないぼくが…ぶるぅの応援のために出かけたりしたら、シャングリラの皆の気持ちはどうなると思う?」
そうでした。ソルジャーはお身体が弱っておられるのを隠すためなのか、青の間からお出になりません。でも…シャングリラの皆さんの気持ちの前に、ソルジャーご自身のお気持ちはどうなるのですか?
「…ぼくの個人的な感情はいい。ソルジャーとは…そういうものだ」
ふと寂しそうな笑みを見たと思ったのは気のせいでしょうか。ソルジャーはすぐに明るいお顔に戻られました。
「ぶるぅに渡してもらう花束の用意をハーレイに頼んできてくれたまえ。その間にカードを書いておくから」
ブリッジでキャプテンに伝言をお伝えして戻ると、ちょうどカードを封筒に入れておられるところでした。花束とカードの取り合わせには覚えがあります。「そるじゃぁ・ぶるぅ」の新曲発表会の時、私が手渡した花束にカードが添えてありましたっけ。キャプテンは「長老全員で演じる架空の人物」からの贈り物だとおっしゃいましたが…。
「紫の薔薇が50本と、カード。ぼくが本当の贈り主だと、ぶるぅはちゃんと気付いているよ。自分で渡してやりたいけれど、それはできないことだから…ハーレイたちに頼んだんだ」
そう言って見せて下さった封筒には『紫のバラの人より』という綺麗な文字が書かれていました。

マザー、「そるじゃぁ・ぶるぅ」の新曲発表会にはキャプテンが出席なさったようです。当日、紫の薔薇の花束を抱えてカードを取りにこられましたから。ソルジャーは「今日は早めに眠る」とお休みになられましたが、青の間のベッドで横たわりながら「そるじゃぁ・ぶるぅ」を『視て』おられたのでは…という気がします。そんなソルジャーが『ガラスの仮面』をお読みになったことがあるのか、知りたいと思うのは罪でしょうか…。




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マザー、副船長の重責からやっと解放されました。が、今度はソルジャー補佐だそうです。『ソルジャー・ブルー様ファンクラブ』の皆さんの恐ろしさを身をもって思い知った直後の人事だったので喜びよりも恐怖がこみ上げてきます。こんなことなら「そるじゃぁ補佐」の方がよほどマシかも、などと考えながら部屋を出ました。ええ、まだシャングリラに来た時の個室のままでお引越ししていないんです。無事に青の間まで行けるでしょうか…。

闇討ちに遭うかもしれないと覚悟していましたが、居住区域を抜けていく間、何事も起こりませんでした。後日、噂で聞いた話では『ソルジャー・ブルー様ファンクラブ』には「ソルジャー付きの人には手出し厳禁」という鉄則があるそうです。さて、青の間に着いたのはいいですけれど…ソルジャー補佐って今度こそ何かの間違いでは?副船長の就任挨拶の時と違って同行してくれる人もいないので、青の間に入る勇気が出てきません。扉の前で固まっていると…。
『…入りたまえ』
ソルジャーの思念が届きました。本当に入ってもいいんでしょうか?でもソルジャーのお言葉だし、と思い切って青の間に入りました。エレベーターに乗っている時間がお掃除に来ていた時の何十倍も長く感じられた気がします。
「…君は清掃員の方が気に入っていたのかい?」
笑いを含んだ声がしました。ソルジャーがベッドの縁に腰掛けていらっしゃいます。
「ソルジャー補佐では不満だろうか」
「い、いえ…そんなことは…。ただ、どうしてこんなお役を頂けるのかが分からなくて…」
「今度はぶるぅの部屋に閉じこもらなかったようだね。ぶるぅを信じてくれたのかな」
「…思いつきもしませんでした。私、化かされているんでしょうか?」
「まさか。…君の仕事は今日から正式にソルジャー補佐だ」

銀色の髪に赤い瞳。溜息が出そうなほど美しい整った顔立ちに、ミュウを率いる長の威厳。この方の補佐を務めるなんて、副船長どころの騒ぎではありません。シャングリラに来て日の浅い私なんかが何故こんな…?
「強いて言うなら、ぶるぅかな」
ソルジャーはとんでもない名前を口にされました。「そるじゃぁ・ぶるぅ」がなんですって?
「ぶるぅを通してずっと見ていた。何度噛まれてもへこたれないし、ぶるぅと関わる内に、ぼくのこともずいぶん知ったと思うが。…そんなミュウはあまり多くない。長老たちとフィシス、リオを除けば皆無と言っていいだろう」
え。私が「そるじゃぁ・ぶるぅ」に振り回される間に知ったことといえば、青の間に妙な出前が届くこととか、「そるじゃぁ・ぶるぅ」のグルメ日記をキャプテンが本に纏めてソルジャーに届けてらっしゃることとか、ソルジャー直筆の『南無阿弥陀仏』のお仕置き札とか…およそ役に立たないことばかりですが?
「普通のミュウはそういった事実に耐えられない。君もこの間、知ったはずだ。ぼくと会った時の記憶を見たミュウたちは信じようとはしなかっただろう?…ミュウたちが求めているのはソルジャー・ブルーで、ぼくじゃない」
だから、とソルジャーはおっしゃいました。
「だから君を選んだ。ぼく自身を知っても驚かないミュウをここに呼ぶには何か役目が必要だろう?」
これは…もしかしなくても大ラッキー!?感謝しちゃいます、「そるじゃぁ・ぶるぅ」!!回数も覚えてないほど噛まれましたし、散々な目にも遭わされましたが、全部チャラにして伏し拝みたいくらいです。
「ならば早速、拝んでみたまえ。…もうすぐ、ぶるぅがここに来る。君はまたひとつ、普通のミュウなら耐えられないものを見てしまうことになるだろうな」
あぁぁぁぁ。本当に拝みたいなんて言っていません。っていうか、私の思念はバレバレですか、ソルジャー…。

間もなくリオさんが台車を押して現れました。もちろん土鍋に入った「そるじゃぁ・ぶるぅ」が寝たふりをして乗っかっています。リオさんは私にニッコリ笑いかけてくれました。
『ようこそ。…ソルジャー補佐になられたんですね』
「リオさんもソルジャー補佐なんですか?」
『いいえ、ぼくは特に肩書きは無いんですけど…ソルジャーのお世話が仕事のひとつなのは本当です』
リオさんが土鍋をよいしょ、と降ろすと「そるじゃぁ・ぶるぅ」がゴソゴソ這い出しました。「そるじゃぁ・ぶるぅ」入りの土鍋を一人で動かせるなんて、リオさん、実は力持ちかも。
『ソルジャー、今日は含鉄泉だと言っていますが…どうも癖のある温泉のようです』
「癖がある、か。…どんなものなのか興味深いな。ぶるぅ、何処から運ぶつもりだ?」
「…エネルゲイア」
あ。この流れはもしかして…。「そるじゃぁ・ぶるぅ」はベッドを取り巻く溝に近づき、ブーツを脱いで両足を浸けました。澄んだ流れがアッという間に赤褐色に濁り、ほかほかと湯気が。
「…貧血に胃腸、筋・関節痛。湯加減はちょうどいいと思うな。気に入ったら後でバスタブにも入れてあげるよ」

マザー、今度の職場は青の間です。シャングリラ中のミュウが尊敬している神秘的な長、ソルジャー・ブルー。そのソルジャーが、私が補佐を拝命した日にいきなり足湯に入られ、更に奥のバスルーム(清掃員の時は見つけられなかったのに、確かに青の間に存在しました)で温泉浴を楽しまれるとは…。これは確かに並みのミュウなら卒倒するかもしれません。ミュウは本来、とても繊細だと聞いてます、マザー…。




マザー、副船長はとんでもなく恐ろしい職でした。今まで経験してきた中で最悪の目に遭ったかもしれません。シャングリラに救出されて日の浅い私が副船長に就任したのがそもそも間違いだったのかも?

その日、私はいつものように部屋を出てブリッジに向かっていました。キャプテンは長老方と同じエリアに立派なお部屋をお持ちですけど、私は副船長に任命された後も住み慣れた個室を使っています。ですからブリッジに行き着くまでには大多数のミュウたちが住む居住区を抜けて行くのですけど…。
「ちょっと、あなた」
いきなり後ろから呼びかけられて振り向いてみると、先輩格の女性が7人、立っていました。
「副船長になったっていうのはホント?…通達は来たけど、なんだか信じられないわ」
「…すみません。私にも事情が分からないんです」
「っていうことは…本当に副船長なわけ?」
「…はい…」
私の声は消え入りそうです。新参者の私が副船長という掟破りの人事が皆さんのお気に障ったのでしょうか?袋叩きにされるのかも、と怖い考えになってきました。

「ホントのホントに副船長ね?…もしかしてソルジャーにもお会いした?」
「…は、はい…就任挨拶の時に…」
「ラッキー!!!」
先輩たちは歓声を上げて飛び跳ねました。袋叩きではないみたいです。
「ね、ソルジャーにお会いした時の記憶を見せて?…名誉会員にしてあげるから!」
名誉会員?…ということは、この方たちは…「シャングリラで一年以上生活しないと入会資格が無い」と噂に高い『ソルジャー・ブルー様ファンクラブ』の会員さん?
「そうよ、私が会長、こっちが副会長。他の5人も会員ナンバー1桁なのよ」
会長と名乗った先輩は握手するように右手を差し出し、ニッコリ笑って言いました。
「ソルジャーにお会いした時の記憶を見せてほしいの。ね、差し支えのない部分だけでも」
他の先輩たちも先を争って手を出しました。接触テレパシーをお望みのようです。
「お願い、ソルジャーのお姿を見せてちょうだい!滅多にお姿を見られないの。じかにソルジャーにお会いしてお話できる立場の人って、こんなこと頼めない方ばかりなの~!!」
ファンクラブ会員さんたちは大騒ぎ。確かに長老方やリオさんがソルジャーと会った時の記憶を一般のミュウに見せるなんてことは無いでしょう。…じゃあ、私は?…副船長ですし、やっぱりダメかも?
「あっ、ダメかもって考えてる!」
「なんですって!?…だったら遮蔽されちゃう前に読んじゃいましょうよ」
次の瞬間、私はファンクラブ会員さんたちに取り囲まれて腕を掴まれ、動けなくなってしまいました。
「さぁ、ソルジャーの記憶を見せて!!!」
大変!私、遮蔽は下手なんです。もっと訓練しておけば…。すみません、ソルジャー…ああ、意識が…。

「なんなのよ、これは!」
ぼんやり意識が戻ってくると目の前に床がありました。廊下に倒れてしまったらしく、その原因の先輩たちは…。
「コタツにミカンに羊羹ですって!?…ソルジャーの記憶なんかじゃないわ!!」
「そうよ、こんなの「そるじゃぁ・ぶるぅ」よ!ソルジャーはコタツなんかお使いにならないわ!…この子、遮蔽が上手いのよ。ソルジャーの記憶の代わりにニセの情報を流したのよ!!」
全部本当なんですけれど…と思いましたが、流出させていい記憶ではなさそうですし、この勘違いは好都合かも。しかし先輩たちは「憧れのソルジャー」に泥を塗るような映像(?)を見せられたせいで怒り狂ってしまいました。
「とんでもないものを見せたわね。よくも私たちのソルジャーを!!!」
ヒステリーで増幅された怒りのサイオン、7人前。袋叩きより、ある意味、効くかも…。そういえば『ソルジャー・ブルー様ファンクラブ』の会員さんは過激だという噂がありましたっけ。…なんだか頭がクラクラします。先輩たちは立ち去りましたし、早くブリッジに行かなければ。でも目の前がチカチカして…。
「…大丈夫?」
不意に声がして顔を上げると、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が覗き込んでいました。
「これ、あげる」
食べかけのアイスキャンデーを差し出し、「そるじゃぁ・ぶるぅ」はまた何処かへ。貰ったアイスはとても美味しく、おかげで無事にブリッジへ行くことが出来ました。あれはソルジャーのお使いだったのか、それとも単なる通りすがり?…仕事の後でお礼に手作りアイスを届け、どっちだったのか尋ねましたが答えは返ってきませんでした。

マザー、副船長は私には荷が重かったです。『ソルジャー・ブルー様ファンクラブ』の会員さんの怒りのサイオン放出でダウンし、ソルジャーから「よろしく頼む」とお願いされた「そるじゃぁ・ぶるぅ」に助けられたのは一生の不覚。いったいどうして副船長なんていう職が回ってきたのでしょうね…?




マザー、副船長を拝命して初めてブリッジに出勤するのはとても勇気が必要でした。なにしろ「辞令を偽物だと思って初日から欠勤」という大失敗をやらかしています。ゼル様あたりに何を言われるかとビクビクしながら出かけましたが、長老方のお咎めは無し。副船長の肩書きも本当のようで、ブリッジクルーの皆さんに敬礼で迎えられました。…でも清掃員から副船長なんて、絶対、何かの冗談です。

着任挨拶の後はブリッジの様々なことを教わり、本当にここにいてもいいのかしらと一層不安になってきた頃…キャプテンが近づいてこられました。
「ブリッジはこのくらいにしておこう。ソルジャーが青の間で待っておられる」
「えっ?」
「副船長になったのだろう?…ソルジャーにも着任の挨拶をする必要がある」
えぇぇっ!?ソルジャーって…青の間って…ソルジャー・ブルー様の所へ、ですか!?今度こそ冗談だと思いましたが、歩き出されたキャプテンを追いかけていくと真っすぐ青の間の方向へ。これは夢ではありません。私はとりあえず本当に本物の副船長で、着任挨拶をしなければならないのです。
「あのぅ…キャプテン。私、ソルジャーにお会いしたこともないんですけど」
前を行かれるキャプテンに向かって一番の懸念を伝えました。
「なのにいきなり副船長だなんて、何かの間違いじゃないかと思うんですけど…」
「心配ない。ソルジャーは全てご存じだ」
キャプテンは振り返って「大丈夫」と軽く微笑んで下さいました。
「副船長に就任したのを信じなかったことも知っておられる。…そんなに緊張しなくてもいい」
あ。…ソルジャー・ブルー様に失敗談まで伝わっているみたいです。穴があったら入りたいかも…。

一昨日まで清掃員として通った青の間ですけど、ソルジャー・ブルー様はいつもお留守でした。その方が…憧れの方がおいでになると思うと、やはり緊張してしまいます。キャプテンと一緒にエレベーターに乗り、青い照明が灯る空間に出て、緩やかにカーブした通路を天蓋つきのベッドがある中心部へ…。
「…やっと来たね」
ベッドから立ち上がった人が優しい声で呼びかけてきました。銀色の髪、赤い瞳。映像で見たよりも遥かに美しく、この世のものとも思えない人。それがソルジャー・ブルー様でした。滅多にお姿をみることが出来ないと噂に高いミュウの長。幻の部屋とまで言われる青の間の主。本当にお会いできただなんて…!
「君に会うのは初めてか…。いきなり副船長とは大変だろうが」
「は、はいっ!副船長に就任しました。お会いできて感激です!!」
言ってしまってから気付きましたが、ここは「感激です」じゃなく「光栄です」と言うところでは…。ソルジャー・ブルー様にミーハーだと思われてしまったでしょうか?
「…ソルジャーでいい」
思念が漏れたのか、労せずともお読みになれるのか。ソルジャー・ブルー様…もといソルジャーは微笑を浮かべ、「青の間の雰囲気ブチ壊し」であるコタツの方に向かわれました。
「座りたまえ。シャングリラのこと、ミュウたちのこと…。話しておくことが沢山ある」

リオさんが運んできた渋茶と羊羹、それに山盛りのミカンが置かれたコタツに座って、私はソルジャーとキャプテンから様々なお話を伺いました。もちろん思念による情報伝達も。それにしてもソルジャーがコタツに馴染んでおられたのには驚きです。一通りの話が済んでソルジャーにミカンを勧められた時、私の目はもう真ん丸でした。冗談抜きにコタツでミカンなのですね…。ソルジャーはクスッと笑っておっしゃいました。
「ぶるぅが持ってきた時は驚いたけれど、使ってみると便利なものだ。来客の時にちょうどいい。…ベッドだけではお茶を出すのにもワゴンが要るし、椅子も無い。それでは長居しづらいだろう?」
そのとおりかもしれません。ここにコタツが持ち込まれてから、お客様の滞在時間が増えたかも?「そるじゃぁ・ぶるぅ」が言っていたとおり麻雀だって出来ますし。
「さぁ、麻雀はどうだろうね。ご想像にお任せするよ。…そうだろう、ハーレイ?」
ソルジャーはどこか楽しげです。キャプテンの名が出たことといい、麻雀もなさっているような気が…。あ、いけない。大切なことをお聞きするのを忘れていました。
「ソルジャー。…色々お話を伺いましたが、副船長の主な仕事は何ですか?」
キャプテンはソルジャーの右腕であると知らされた今、そんな重要な方を補佐する役目が私なんかに務まるものとは思えません。一昨日までの私は『青の間清掃員』だったのに…。

「…ハーレイを助けてやってくれ。彼の苦労はいつも目にしているだろう?…たとえば…」
ソルジャーはコタツに片手を差し入れ、中を探っておられました。コタツの中にいったい何が?と思っていると、やがてゴソゴソ出てきたものは眠そうな顔をした「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「ぶるぅのせいで胃薬の量がずいぶん増えているようだ。ハーレイになついているから仕方ないのだが、ハーレイが疲れていそうな時は代わりに相手をしてやってほしい」
「分かりました。私でお役に立てるのでしたら」
ソルジャー直々の仰せとあらば「そるじゃぁ・ぶるぅ」に噛まれようとも頑張れます。ええ、頑張ってみせますとも!たとえ「そるじゃぁ・ぶるぅ」の下僕になれ、とのご命令でも。
「ありがとう。…ハーレイとぶるぅをよろしく頼む」
リオさんが包んでくれた羊羹の残りとミカンを幾つかお土産に貰ってキャプテンと私は青の間を出ました。「そるじゃぁ・ぶるぅ」は再びコタツにもぐってしまい、ソルジャーはベッドに行かれたようです。

マザー、今日はとっても素敵な日でした。本物のソルジャーにお会いできた上、長時間お話できたのですから。ソルジャーがお疲れになっていないことを祈ります。お土産に頂いた羊羹とミカンは少しでも日持ちするよう冷蔵庫に入れてあるのですけど、今日の記念に永久保存するいい方法はありませんか…?




マザー、とんでもない職を拝命しました。副船長です。青の間とはいえ清掃員から副船長に転任なんてありえません。掃除から戻ると封書があって、宛名も本文も全て手書きで「副船長に任命する」と…。色々転属しましたけれど、手書き文書で転任の連絡が来たのは初めてです。夢か悪戯に決まっている、と早々にベッドに入りました。青の間清掃員の仕事はその日で終わりでしたし、次の仕事は改めて指示があると思ったのです。

「…お仕事がない…」
翌朝、私には何の連絡も来ませんでした。朝食を食べに食堂へ行っても「今日からよろしく」と声をかけてくる人がありません。昨夜の封書が頭をかすめましたが、副船長なんて絶対ないです。もしかして私、リストラですか?…いえ、このシャングリラで『働けるのに無職』なんてことは無いはずです。これは悪い夢に違いありません。思い切り頬を抓ってみました。でも状況は全く同じ。食堂を出てフラフラとあてもなく歩いていると…。
「かみお~ん♪」
上機嫌な声が聞こえてきました。そういえば「そるじゃぁ・ぶるぅ」は「人を化かせる」んでしたっけ。おまけに悪戯大好きです。無職な上に副船長という妙な現象は、ひょっとして…。早速「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋へ直行です。
「…また君か」
カラオケを中断された「そるじゃぁ・ぶるぅ」はジト目で睨みつけました。
「また、じゃなくて!…私に何かしたでしょう。お仕事が無くなっちゃったんです!おまけに『副船長に任命する』なんていう変な手紙は届くし、もうどうしたらいいんだか…。化かされてるのか悪戯なのか知りませんけど、さっさと元に戻して下さい!…アイス作ってあげますから!」
「…何もしてない。アイスは欲しいけど、何もしてないから何も出来ない」
それだけ言うと「そるじゃぁ・ぶるぅ」はマイクを握り直してカラオケの続き。ああ、どうしたらいいんでしょう。やっぱり悪い夢を見ているようです。抓っても目は覚めませんでしたし、噛まれたら目が覚めるかも?…恐る恐る「そるじゃぁ・ぶるぅ」の背中を撫でました。カラオケ中に触られるのは嫌いな筈です。しかし…。
「あと30分…」
気持ち良さそうに言った「そるじゃぁ・ぶるぅ」は噛み付くどころか笑顔でした。ますますもって悪夢です。何度撫でても、「もっと愛情込めて撫でてほしいな…」とそっぽを向く程度で噛まれることはありません。本格的にまずい事態になってます。それにいつも外出ばかりの「そるじゃぁ・ぶるぅ」が今日は一切、お出かけ無し。カラオケ、昼寝、窓の外を眺めてみたり、トイレに1時間も入ってみたり。何もかも変なことばかりです。

オロオロしている間に時間はどんどん過ぎました。「そるじゃぁ・ぶるぅ」はアイスを食べたりカップ麺を食べたりしていましたが、私はお腹が空いたのかどうかも分かりません。時計はもうすぐ午前0時。そういえば「午前0時を過ぎると魔法が解ける」有名な童話がありましたっけ。掃除ばかりさせられて灰まみれの女の子が魔法でドレスを着せてもらって舞踏会に行く話。清掃員から副船長、という今の私と似ていないこともありません。
「…日付が変わればいいのかな?…元に戻って普通の仕事が貰えるようになるのかも…」
土鍋で丸くなって寝ている「そるじゃぁ・ぶるぅ」を撫で、やはり噛まれないことを確認してから壁の時計を眺めました。あと5分で午前0時です。3分、1分、30秒…。その時、ドアが外から開けられました。
「いた!こんなところに籠もっていたのか!!」
えっ、キャプテン!?
「シャングリラ中、捜したんだぞ。何処に行ったかと思ったら…」
「キャプテン、「そるじゃぁ・ぶるぅ」は一度も外には出ていませんよ」
午前0時の魔法の話をすっかり忘れて、私は「そるじゃぁ・ぶるぅ」の今日の生活を報告しました。
「朝からカラオケ、それから昼寝…あとは窓の外を見て、トイレに行って」
「違う、捜していたのはぶるぅじゃない」
キャプテンは私を見つめておっしゃいました。
「辞令が届かなかったのか?…ブリッジに来るよう書いておいたのに」

マザー、副船長に任ぜられたのは本当でした。そういえばキャプテンは手書きにこだわる方でしたっけ。辞令がレトロな封書だったのも納得です。清掃員から副船長に転職だとは、シンデレラも真っ青の大出世。とんでもないオチが待ってなければいいのですけど。…夢でないことを確認した私は驚きのあまり倒れそうでした。今も頭の中で「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋で見たクリスマスツリーがグルグル回って見えてます、マザー…。




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