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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

カテゴリー「シャングリラ学園・本編」の記事一覧

球技大会の日の朝。体操服に着替えてグレイブ先生を待っていると、生徒会長さんが体操服で現れました。体操服は持っていない、と聞いていましたが…。
「買ったんだけど、やっぱり変かな?制服で応援に徹した方がいいだろうか」
「「「変じゃありません!!!」」」
切実な声で叫んだのは男子生徒、黄色い声は女子生徒です。会長さんは本気で球技大会に出場するつもりのようでした。会長さんの不思議な力のことを思うと、応援だけでも十分そうな気がするんですけどね。
「かみお~ん♪…ぼくもちゃんと来たよ!」
体操服の「そるじゃぁ・ぶるぅ」がトコトコ入ってきて、会長さんの机にちょこんと腰掛けました。A組を1位に導く助っ人が揃ったところへグレイブ先生の登場です。
「諸君、おはよう。今日の球技大会も頑張ってくれたまえ。1位を期待しているぞ。だが、ドッジボールは勉学ではないからな…頑張りはほどほどにしておくように。学年1位で十分だ。学園1位は必要ない。我がクラスが体育バカになる必要はないのだからな」
あれ?…グレイブ先生、なんだか変です。球技大会は学年1位のクラスで更に競って学園1位を決めると聞いているのに、学園1位は要らないだなんて…1位がお好きな先生の言葉とは思えません。確かに学力では1年生の私たちのクラスが学園1位は無理でしょうけど、だからといって球技大会で学園1位を取ったら『体育バカ』と認定される筈がないですよねえ?
「不審に思う者も多いようだが、球技大会で体力を使い果たして明日以降の授業に支障が出ては本末転倒。学年1位の座についたなら、後は適当に手を抜くように。早々にアウトになって内野を退くことを勧める」
なるほど。どちらかのチームの内野が0人になるまで試合が続くと聞いていますし、上級生のクラスと激しい試合をすれば消耗するのは確かです。さっさと全員アウトになってしまえば試合終了も早く、体力を温存しておけるというのがグレイブ先生の考えですか!学生の本分は勉強だという結論に私たちは素直に納得しました。

競技会場は男子はグランド、女子は体育館。午前中は学年ごとのトーナメント戦、午後は学年1位決定戦ということですが、トーナメント戦が午後にもつれ込む可能性もあると言われました。私たちA組女子は「そるじゃぁ・ぶるぅ」と一緒に体育館へ。くじ引きで決まった初戦の相手は運動部所属の生徒が多い優勝候補のD組でした。
「本当に勝てるのかしら…」
コートを前にして弱気のA組。でも「そるじゃぁ・ぶるぅ」はニコニコ笑って準備体操をしています。
「大丈夫だよ!ぼく、逃げるのもアウトを取るのも自信があるんだ。任せてくれていいからね♪」
ホイッスルが鳴って試合開始。「そるじゃぁ・ぶるぅ」は小さな身体でコートを駆け回り、飛んできたボールをキャッチしてはポイポイ投げ返しました。このボールがまた面白いように相手チームに当たるんです。見る見る内にD組の内野は空っぽに。コートをチェンジしての後半戦も結果はA組の圧勝でした。さて、次の相手は…って、まだ決着がついていないようです。
「あっちの試合、半時間くらいかかりそう。男子の方を見に行かない?」
私とスウェナちゃんは審判の先生に声をかけてからグランドの方に向かいました。ところが…。
「なんだ、女子の方も第一試合が終わったんだ?」
ジョミー君がジュース片手に座っています。キース君とマツカ君も。
「で、どうだった?女子は勝てたの?」
「うん、圧勝。そるじゃぁ・ぶるぅが頑張ったのよ」
スウェナちゃんが言うとジョミー君は拳を突き上げ、一緒に喜んでくれました。
「ぼくらの方も凄かったよ。…アウトを取ったの、殆ど会長。だけど体力が無いっていうのは本当みたい」
うんうん、とキース君たちが頷きながら指差した先は救護用のテントでした。簡易ベッドに会長さんが横たわっていて、まりぃ先生が世話をしているようです。
「次の試合まで休むそうだ。心配いらないと言ってはいたが」
キース君の言葉にホッとしながら私たちは体育館に戻り、第二試合に挑みました。もちろんアッという間に勝って「そるじゃぁ・ぶるぅ」は得意顔。この頼もしい助っ人のおかげでA組女子は見事に学年1位の栄冠を手にすることができたのでした。グランドで戦っていた男子の方も「救護テントとコートを往復」する会長さんの活躍で学年1位。全学年の1位が午前中で決定したので、午後は学年1位決定戦を残すのみですね。

昼食は今日は全員、お弁当持参。会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」は二人で1つの重箱でした。ジョミー君、キース君、マツカ君、スウェナちゃんと私は「そるじゃぁ・ぶるぅ」自慢のおかずが詰まった大きな重箱のお相伴に与りながらお弁当を食べていたのですが。
「…午後はどうするつもりなんだい?グレイブ先生の言葉に従うんなら、ぼくとぶるぅは抜けさせてもらうけど」
会長さんの言葉に私たちは顔を見合わせ、それで構わないと言いました。
「ふぅん…。グレイブ先生の思う壺だな」
えっ?思う壺って、いったい何が???
「やっぱり知らなかったのか。学園1位の座は長年3年生のものだったから…知らなくても無理はないけどね。学園1位の座の別名は『お礼参り』と言うんだよ」
「「「お礼参り!?」」」
私たちが叫んだ単語を聞きつけ、クラスのみんなが集まってきます。会長さんは悪戯っぽい笑みを浮かべて言いました。
「そう、お礼参り。学園1位になったクラスは全員で先生チームと対戦することができるんだ。対戦相手の先生を指名する権利は生徒にあって、先生側は内野2人と外野が1人。…生徒は制限時間一杯、アウトにならない頭を狙って攻撃する伝統になっている」
指名した先生をクラス総がかりでボコボコに!お礼参りと呼ばれるわけです。
「指名された先生は絶対に断れないが、もうひとつ。内野2人の先生の内、一人は1位を取ったクラスの担任というのが鉄則なんだ。お礼参りをされる先生に、クラス担任として身体を張ってのお詫びってこと」
「それじゃ、グレイブ先生が学園1位を取ってはいけないって言ってたのは…」
「お礼参り対策だろうね。ぼくとぶるぅが来てしまった以上、学園1位は実現可能だ」
ワッ、とクラス中が湧きました。グレイブ先生を学園公認でボコボコに出来るチャンスとあれば、やってみたくないわけがありません。やる気満々の私たちに向かって会長さんがつけた注文は…。
「君たちはグレイブを狙えれば満足なんだろう?…もう一人の内野を指名する権利をぼくにくれるかな」
もちろん否なんて有り得ません。会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」の力が無ければ学園1位は無理なんですから。
こうして学園1位決定戦の幕が切って落とされ、1年A組は男女揃って学園1位に輝きました。

「…諸君、私は君たちをとても誇りに思っている。だから友好的に親善試合といこうじゃないか」
「見苦しいよ、グレイブ。覚悟したまえ」
表彰式の後、グレイブ先生が言い出したのを撥ね付けたのは会長さん。
「それから、君と一緒に内野に入るのは……教頭先生でお願いしたいな」
げげっ!教頭先生って柔道十段だし、強いのでは?やってみないと分かりませんけど。外野の決定権は先生側にあるらしく、シド先生が選ばれました。シド先生はサッカー部顧問。お礼参りどころか返り討ちかも…。
「いいかい、制限時間は7分だ」
審判のブラウ先生が目を光らせる中、グランドの大きな特設コートにA組全員と会長さんが入り、外野に「そるじゃぁ・ぶるぅ」が立っています。相手コートにはジャージ姿のグレイブ先生と教頭先生、外野にシド先生。
「それじゃ、お楽しみのお礼参りの時間だよ!はじめっ!」
ブラウ先生の声を合図にジャンプボール。A組がボールをゲットし、その後の試合は一方的にA組からの『お礼参り』展開でした。でも、おかしいなぁ…。教頭先生に恨みがある人はいないんじゃないかと思うんですけど、グレイブ先生を上回る勢いで教頭先生の顔や頭にボールが激突しているような…?
「ハーレイはぼくの担任だからね」
そんな声が聞こえたような気がしましたが、空耳だったかもしれません。広いコートを軽やかに駆け抜ける会長さんの勇姿にギャラリーの女子から歓声が上がり、A組の生徒は教頭先生が投げたボールの直撃を受けたアルトちゃん以外は一人もアウトになることもなく無事に試合を終えたのでした。
「楽しかったね、球技大会♪」
終礼のために戻った教室で「そるじゃぁ・ぶるぅ」が飛び跳ねています。会長さんも満足そうに机に頬杖をついていました。グレイブ先生は腫れ上がった顔を見られないよう、私たちの方に背を向けて。
「諸君、私は担任だ。試験となれば諸君と戦う。だが、球技大会は試験ではない。これは余興だ。…お礼参り…。あれこそ馬鹿騒ぎだ!」
先生の肩が震えています。でも『お礼参り』は学園公認、先生は生徒を叱れません。もしかして会長さんは、これがやりたくて球技大会に出たのかも。…「ハーレイはぼくの担任だからね」…。あの声が今もハッキリ耳に残っているんです。教頭先生、まりぃ先生に顔を冷やしてもらってらっしゃるかな? 




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健康診断は1年生から順に保健室へ行くことになりました。まりぃ先生が一人でなさるので、まずはA組女子からだそうです。体操服に着替えて保健室前の廊下にズラッと並んでいると…。
「かみお~ん♪ぼくも一緒に並んでもいい?」
現れたのは体操服を着た「そるじゃぁ・ぶるぅ」。健康診断に興味を持っているのでしょう。でも今は女子の時間です。スウェナちゃんと私の間に並ぼうとした「そるじゃぁ・ぶるぅ」にスウェナちゃんが注意しました。
「あのね、今は女の子の時間なの。A組の教室でジョミーたちが順番を待っているから、そっちに混ざった方がいいわ」
「そう?…でも、球技大会は1位を取らなくていいの?取りたいんなら…ぼくが混ざってた方がいいと思うな」
「「「え?」」」
A組女子の視線が「そるじゃぁ・ぶるぅ」に集中します。グレイブ先生は1位がお好き。球技大会でも1位を望んでらっしゃいますが、取れなかった場合どうなるかを聞いていなかったので特に気に留めていませんでした。
「1位を取れなかったら、グレイブ、絶対怒ると思うよ。シャングリラ学園じゃ球技大会は男女別。種目はドッジボールに決まってて…どっちかのチームの内野が0人になるまで延々と試合が続くんだけど」
ひえええ!…それは根性が要りそうです。ついでに逃げ足も。
「ぼく、最後の一人になるまで逃げ回るくらい簡単だよ?みんなと一緒に健康診断を受けたら、ぼくの所属はA組女子になると思うな」
「「「ぜひ!!」」」
どうやって女子になるつもりかは分かりませんが、球技大会1位のためなら細かいことは言っていられません。私たちは大喜びで「そるじゃぁ・ぶるぅ」を順番待ちの列に加えたのでした。健康診断は順調に進み、スウェナちゃんと私も「そるじゃぁ・ぶるぅ」を連れて保健室の扉をくぐりましたが。
「あらぁ?…センセ、ちょっと疲れてきたのかしら。男の子が混じって見えるんだけど?」
まりぃ先生の指摘に「そるじゃぁ・ぶるぅ」はエヘンと胸を張りました。
「ぼく、A組女子に混ぜてもらいたいんだ。いいでしょ?まだ1歳にしかなってないもん」
「そうねぇ…。6歳未満の男の子は女湯に入れるんだっけ。許しちゃおうかな?どうしよっかな~?…えっと…まずはスウェナちゃんからね。身長を測るからここに立って」

計測と問診が終わると、次に呼ばれたのは私でした。「そるじゃぁ・ぶるぅ」は…ダメなんでしょうか?健康診断をして貰えなかったらA組女子にはなれません。球技大会1位のために助っ人はどうしても欲しいんですけど。
「はい、みゆちゃんも異常なし!…で、ぶるぅちゃんは…健康診断、受けたいのかな?」
「うん!…えっと、ぼく、男の子なんだけど…『せくはら』するの?」
まりぃ先生がゲホッ、と咳き込みましたが、「そるじゃぁ・ぶるぅ」は無邪気にニコニコ笑っています。セクハラという言葉の意味を知らないに違いありません。
「ゲホゲホ…。んまぁ、可愛いわねぇ。じゃ、センセが健康診断をして…あ・げ・る。はい、こっちで身長を測るわよ。次は体重ね♪」
身長、体重までは私たちと同じでした。ところが…。
「今度は胸囲を測るんだけど、男の子は上半身裸で測ることになってるの。脱いでくれるかしら♪」
あひゃあ!もしかして、これがセクハラもどき?息を飲んだ私たちでしたが、次の瞬間。
「かみお~ん!!」
パパパパパパッ!なんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」は体操服の上下ばかりか下着まですっかり脱いでしまいました。まりぃ先生の指示を勘違いしてしまったようです。スッポンポンの「そるじゃぁ・ぶるぅ」は幼児体型で可愛いですけど、えっと、えっと…どうなってしまうのでしょう?
「きゃぁぁあっ、なんて素直な子なの!センセ、嬉しくなっちゃうわ」
まりぃ先生は「そるじゃぁ・ぶるぅ」のスリーサイズを素早く測り、ついでに小さな身体をあちこちペタペタ触りまくって。
「いやぁん、ぷにぷにのぽやぽや~!うんうん、A組女子でオッケーよん♪あぁぁ、なんて幸先がいいのかしら!」
もしかしてショタの気もありますか、まりぃ先生?…でも「そるじゃぁ・ぶるぅ」は全く気にせず、服を着ていいと言われるまで裸のまま問診に答えていました。とりあえずA組女子は「そるじゃぁ・ぶるぅ」という心強いクラスメイトを見事にゲット。教室で待機している男子と入れ替わるためにクラスに戻ると…。

「やぁ、ぶるぅ。…無事にA組女子になれたようだね」
教室の一番後ろに机が増えていて、水色の検査服を着た生徒会長さんが座っていました。
「ぶるぅは机は要らないだろう?…ぼくも球技大会までA組にいることにしたんだ。1位を目指すクラスに貢献するのも悪くない。じゃ、ぼくは健康診断に行ってくるから」
会長さんはゾロゾロと出て行く男の子たちの列の最後尾に並び、まりぃ先生の待つ保健室へ。セクハラ疑惑を知っているのはスウェナちゃんと私だけですし、不安でも相談する人が…。
「大丈夫かしら、ジョミーたち」
「…そるじゃぁ・ぶるぅ相手でもアレだったもんね…」
その「そるじゃぁ・ぶるぅ」はとっくに部屋に帰ってしまって姿が見えませんでした。やがて男の子たちが教室に戻り始めましたけれど、女子の時より時間がかかっているのは確かです。中には明らかに気分が高揚していると分かる生徒や、落ち込み気味の生徒の姿も。ジョミー君は頬を赤らめて帰ってきましたし、マツカ君は暗い顔でした。キース君が不機嫌そうに戻ってきて、深い溜息をつきながら。
「まりぃ先生、やっぱり今日も燃えているぞ。会長がノコノコやって来てたが、今日ばかりはマジでヤバイんじゃないか?」
「…ですよね…。ぼく、いつも以上に触られまくった気がします」
そう言ったマツカ君の横でジョミー君が頷きました。
「ぼくなんか「全部脱いじゃったらどうかしら?」って言われたよ。脱いでくれるかしら、と言ったら素っ裸になったヤツがいるんだってさ。…誰だろうね?」
あちゃ~。「そるじゃぁ・ぶるぅ」のことに違いありません。まりぃ先生、そういえば「幸先がいい」とか言ってましたっけ。あぁぁ、会長さん、大丈夫かな…。まさか無理やり脱がされたりは…。

「脱がされたりはしてないよ?」
笑いを含んだ声が聞こえて会長さんが帰ってきました。ストン、と椅子に座ると検査服のまま足をゆったりと組んで。
「せっかくだから脱いでみようと思ったんだけど…ちょっと困ったことになってね。ほら」
見てごらん、と会長さんが指差したのは鎖骨のそばの白い肌にくっきりと浮かんだ赤い痕でした。こ、こ、これって…もしかしなくてもキスマーク!?
「まりぃ先生、仕事をすっかり忘れちゃってさ。ぼくは別に構わないけど、健康診断ができなくなると大変だし…また夢を見せて特別室に置いてきたよ。で、ハーレイ…いや、教頭先生を呼んで、健康診断の続きはヒルマン先生にバトンタッチして貰うよう頼んできたんだ」
ふぅ、と息をついた会長さんの肌に残された赤い痕から目を離せないまま、私たちは真っ赤になっていました。まりぃ先生が夢の世界に送られたってことは、会長さんの勝利でしょうけど…。会長さん、余裕ありすぎです。心臓がドキバクしてますよぅ~!
「ぼくを何歳だと思ってるんだい?…百年もすれば君たちだって平気になるさ」
クスクスクス。会長さんは検査服の襟元を閉めて赤い痕を隠し、教室をグルッと見渡しました。
「そんなことより、球技大会の心配をした方がいいと思うよ。女子はぶるぅが1位を勝ち取ってくれるだろうけど、男子はどうする?…ジョミー、キース、マツカ…君たちが希望するなら手を貸そう。ぼくもA組の生徒なんだし」
「「「お願いします!!!」」」
即答したのはジョミー君たちではなく、教室中の男子生徒でした。土下座している人までいます。会長さんは苦笑しながら申し出を受け入れ、A組男子も1位への道をゲットしました。よ~し、ドンと来い、球技大会!




見損ねてしまった親睦ダンスパーティーのワルツ。発売された公式録画を買った私は、帰宅するなり再生しました。本当は「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋で見ようとしたのですけど、ジョミー君たちが「照れるから家で見てよ」と言ったんです。うわぁ、流れるようなステップが素敵。「壁の花になりたい」発言をしたアルトちゃんは途中でまりぃ先生と入れ替わったんですね。それに…まりぃ先生、私たちが体育館に戻ってくる前に教頭先生とタンゴを踊っていたなんて!…そのまりぃ先生のお色気が5割増になった原因が、生徒会長さんの保健室通いだったとなると…なんだか心配になってきました。会長さんとまりぃ先生、まさか本当に大人の関係?

会長さんとまりぃ先生のことが気がかりで、私はろくに眠れませんでした。寝不足の頭で登校すると…。
「諸君、おはよう」
グレイブ先生が今日も軍人みたいにカッカッと靴音をさせて現れました。
「突然だが、明日は健康診断がある。まりぃ先生の意向で球技大会に備えて実施することになった。全員、体操服を用意して登校するように」
げげっ!そんな急に言われても心の準備がありません。今更ダイエットなんか間に合わないし。あちこちで女子のブーイングが上がりましたが、グレイブ先生は涼しい顔で。
「健康診断は抜き打ちだからこそ意味がある…のかもしれないな。いいか、明日、食事抜きで来て倒れるような輩が出たら容赦はしない。該当者には向こう1週間、特別に宿題を出すことにする。むろん数学だけではないぞ。各自の弱点克服のため、苦手科目を加えておく」
うわぁぁ!…こんなことを言われちゃったら、食事を抜いても無駄ですよね。いっそヤケ食いしてもいいかも…。そんなわけで私とスウェナちゃんは普段どおりに昼食を食べ、放課後は「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋へ。今日はカロリーが高そうなチーズケーキが待っていました。ジョミー君とサム君は早速パクつき始めましたけど、スウェナちゃんと私が一瞬ためらったのを「そるじゃぁ・ぶるぅ」は見逃しません。
「どうしたの?…チーズケーキは嫌いだった?」
「ううん、そうじゃなくて。…太るかなぁ、って」
「太る?…二人とも急にどうしたの?」
キョトンとしている「そるじゃぁ・ぶるぅ」。紅茶を飲んでいた会長さんがクスクスと笑い出しました。
「明日は健康診断だそうだよ。だから体重を気にしているのさ」
「そっか。…ぼく、検査票に手形を押してあげようか?」
検査票に手形。そりゃ、パーフェクトにはなるでしょうけど…。
「ぶるぅ、女の子に失礼だよ。乙女心は複雑…だよね?」
うう。ウェディング・ドレスが似合う超絶美形の会長さんには、私たちの悩みなんて分からないでしょう。スウェナちゃんと私はチーズケーキのお皿を引き寄せ、ヤケクソで食べ始めました。ああ、でも…悔しいけれど、とってもとっても美味しいですぅ…。おかわりっ!

チーズケーキが無くなった頃、部活を終えたキース君たちがやって来ました。お腹を空かせた3人のために「そるじゃぁ・ぶるぅ」がお好み焼きを焼き始めます。お決まりのコースで、いつもは私もスウェナちゃんも『おやつの追加』とばかりに食べるんですけど、さすがに今日は…。
「どうした、具合でも悪いのか?…それとも焼きソバ気分だったか?」
「今日は我慢してるんだよ。明日は健康診断だから」
キース君の言葉に即答したのはジョミー君です。
「なるほど、体重が気になる…か。俺に言わせれば体重なんか大したことではないんだがな」
「男の子には分からないわよ!とてもデリケートなことなんだから!!」
スウェナちゃんがブチ切れましたが、キース君は溜息をついて。
「…体重くらいで騒げる女子は幸せなんだぞ?…俺たちは明日はセクハラの危機だ」
「「セクハラ!?」」
見事にハモッた私たちの声に、柔道部の三人が頷きました。キース君、シロエ君、マツカ君。いったい何を知っていると…?
「…ぼくたち、運動部ですからね…。健康診断、よくあるんです…」
か細い声のマツカ君。
「そうなんです!…で、まりぃ先生の所に行くんですけど、まりぃ先生の好みに合った生徒の健康診断はいつだって特に念入りで!」
拳を握り締めたのはシロエ君。
「…筋肉の様子を調べるとか言って腕を撫で回すくらいは序の口だな。筋肉は腕だけに限ったわけではないし」
キース君が肩をすくめて言いました。
「そんなわけだから…ジョミーとサムも覚悟しておけ。俺の情報網によると生徒会長が一番ヤバイが、健康診断を受けずに済ませていると聞いたし、矛先は他に向くと思うぞ」
「ふぅん?…まりぃ先生がぼくを待ってるのか…」
のんびりとした口調で会長さんが呟いた時、フィシスさんが部屋に入って来ました。会長さんの隣に座ったフィシスさんに「そるじゃぁ・ぶるぅ」がお好み焼きのお皿を渡します。
「せっかく待ってくれているのに、行かないとガッカリされちゃうかな?…どう思う、フィシス。ぼくは健康診断に行くべきだろうか?」
「…健康診断は体操服で、と聞きましたわ。体育にはお出にならないのですし、体操服が無いではありませんか」
えっ、会長さんは体育の授業は不参加?虚弱体質っていう噂は本当だったのでしょうか。
「さぁ、どうだろうね?…体操服を持ってないのは事実だけど」
会長さんの顔に悪戯っぽい微笑が浮かびました。
「今日、ハーレイの所に検査服が届けられたみたいだよ。ハーレイはぼくの担任だけど、健康診断のことも検査服のことも…ぼくに伝えてはこなかったな。セクハラ疑惑も聞いたことだし、明日は検査服を着て健康診断に行ってみようか。ほら、こんなヤツ」

言い終わった途端、会長さんの制服は浴衣みたいな水色の検査服に変わっていました。バスローブほどではありませんけど、鎖骨とか…浴衣より短い裾からのぞいている白い足とか、胸がドキドキしてきます。こんな格好で出かけていったら、まりぃ先生の思うツボでは…。
「似合うかい?…体操服より検査っぽくていいだろう?」
「好きになさって下さいな。…よいではないか、と言われても私は知りませんわよ」
「大丈夫。帯はついてないから、帯回しなんてできっこないさ」
帯回しというと、もしかして時代劇で有名な…。まりぃ先生ならやりかねないような気がします。でも会長さんは健康診断に行く気満々で、フィシスさんも止めはしませんでした。どうか健康診断が無事に終了しますように!…あ、でも…その前に…。気がかりなことがあるんでしたっけ。セクハラ疑惑もあるという健康診断にわざわざ出かけようという生徒会長さんはやっぱり、まりぃ先生と…?
「…夢以上のサービスはしてないよ」
えっ?
「まりぃ先生には夢を見せてあげてただけなんだけど。…言っただろう、ぼくは昼寝がしたかったんだ。運動なんて面倒じゃないか」
パチン、とウインクする会長さん。私たち1年生はキース君を除いて全員真っ赤になってしまいましたが、フィシスさんは平然としています。会長さんの健康診断、まりぃ先生と会長さんのどちらが勝者になるのでしょうか…。 




明らかに乱れたベッドの上に寝転がっている会長さん。身体に巻きつけたシーツの下はバスローブ1枚で、少し離れたソファで爆睡中のまりぃ先生もバスローブ。私たち5人が踏み込んでしまったのはどう見ても大人の世界でした。
「し、失礼した!」
キース君が叫び、我に返った私たちは真っ赤になって部屋を飛び出そうとしたのですが。
「失礼って、何が?…ぼくは昼寝をしてただけだよ。君たちの純情さには感動するね」
会長さんはゆっくりと起き上がり、バスローブを肩から滑らせました。透き通るように白い肌が覗いた…と思った次の瞬間、目に入ったのは見慣れた制服。きっちりと着込んだ会長さんには一分の隙もありませんでした。惜しげもなく晒されていた足もしっかりズボンと靴で隠れています。
「「「え?えぇぇっ!?」」」
何が起こったのか把握できない私たち。制服は床に落ちていた筈なのに…。
「ぶるぅがダンスパーティーでやって見せただろう?…一瞬で着替え。ぶるぅに出来ることがぼくに出来ないなんて思っていたんじゃないだろうね?」
そういえばそんなことがありましたっけ。でも、一瞬で着替えはともかく…乱れたベッドとバスローブの理由は?昼寝だけだなんて、絶対変です。まりぃ先生もバスローブしか…着てらっしゃらないみたいですもん。キース君は懸命に平静を装っていますが頬がピクピク引き攣ってますし、ジョミー君とマツカ君の頬は赤いまま。スウェナちゃんも真っ赤な顔をして両手で口を覆っています。
「…ああ、バスローブ、ね。まりぃ先生が用意してくれていたんだよ。ぼくを保健室に連れてくるよう、アルトさんとrさんに頼んでるのを知っていたから…A組に入ったついでに連行されてみたんだけど」
「じゃあ、気分が悪くて倒れたんじゃなくて…わざと?」
ジョミー君の問いに会長さんは悪びれもせず頷きました。
「うん。いい加減、退屈していたし…ちょうどハーレイ…いや、教頭先生の授業だったし。教頭先生はまりぃ先生と親しいからね、特別室の存在を知っていたんだ。ぼくを保健室に近づけまいと思っている教頭先生の前で倒れて保健室行きっていうのは楽しいじゃないか」
あ。それで教頭先生は早退させようとなさってたんですね。会長さんはその裏をかいて…。
「そう。教頭先生は授業が終わってから慌てて様子を見に来たんだけど、とっくに手遅れ。『おでかけ中』の札を見つけて呆然とした後、入りもせずに帰っていった。入ってみればよかったのに。…ぶるぅがベッドをトランポリンにして跳ね回っていた時だったから、華麗な技が見られた筈だよ。ムーンサルトとか」
「「「トランポリン!?」」」
「せっかくの大きなベッドだからね、少し遊ばせてやろうと思って。よく弾むから喜んでいたよ。放っておくといつまでも跳ねていて、ぼくの寝る暇が無さそうだったから…半時間ほどで追い返しちゃったけど」
ベッドの上で「そるじゃぁ・ぶるぅ」がトランポリン。じゃあ、くしゃくしゃのシーツの原因は…。

「ぶるぅだよ。他にいったい何があると?」
「…何が、って…」
私たちはソファで寝ているまりぃ先生の方を見ました。バスローブ姿の会長さんと、まりぃ先生が特別室で二人きり。しかも大きなベッドつきで。
「あぁ、まりぃ先生の野望のことか。ぼくにシャワーを勧めてバスローブに着替えさせてから、先生もシャワー室に入って着替えてきたけどね…。ぼくは昼寝がしたかっただけで運動はしたくなかったんだ」
う…運動って…。会長さんがサラッと口にした言葉に、私たちの顔はボンッ!と真っ赤に。でも会長さんは全く気にしていませんでした。
「無理に運動するのは身体によくない。だから、まりぃ先生には夢を見てもらっているんだよ。目が覚めたら凄く満足してると思うな。…あ~んなことや、こ~んなことを楽しんだ後、シャワーを浴びてソファでぐっすり。理想だろう?」
あ~んなことや、こ~んなこと、って…。会長さんは耳まで赤くなった私たちを見てクスクスクスと笑いながら。
「この特別室、気に入ったよ。バスローブの肌触りもいいし、制服よりずっと昼寝向きだ。中間試験まで毎日、退屈だな…と思ってたけど。明日からここに来ることにしよう。好きな時に昼寝が出来るし、教頭先生を困らせて楽しむことも出来るしね」
「…そういえば、あんたの担任は…確か…」
キース君がハッと我に返って会長さんを見つめました。
「そのとおり。教頭先生はぼくだけを担当している担任だ。どこのクラスにも属さないとはいえ、担任もいないんじゃ学園生活に支障を来たす。…だから担任が必要らしいよ。教頭先生にはせいぜい心配してもらうさ」
そう言った会長さんは私たちを促し、まりぃ先生を残して保健室を後にしたのですが。翌日から中間試験前日までの間、会長さんの保健室通いは毎日のこと。そして、たまに見かけるまりぃ先生はとても充実した顔をしていて、色っぽさは普段の5割増でした。

ドキドキの中間試験は3日間。会長さんは約束どおりA組の全員にこっそり正解を教えてくれました。おかげでA組はぶっちぎりで学年1位をゲット。グレイブ先生も大満足です。
「諸君、私は君たちを誇りに思っている。この調子で球技大会も頑張ってくれたまえ!」
えっ、球技大会?…次はそんな催しが?
「そうだ、球技大会だ。A組が1位になるよう期待しているぞ。まあ、まだしばらく先のことだが…。その前に諸君には嬉しいお知らせがある。親睦ダンスパーティーの公式録画の発売日が明後日に決定した。希望する者は生徒会室で申込書を貰い、代金を添えて書記のリオに提出するように」
ワッ、と歓声が上がりました。スウェナちゃんと私も大喜びです。待ちに待ったワルツの録画、早速申し込まなくちゃ!…大騒ぎをしている間に、会長さんは机ごとA組から姿を消していました。A組の学年1位を確保した以上、もう私たちのクラスにいる必要はないですもんね。「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋に行ったのか、はたまた保健室なのか。…教頭先生を困らせたくて保健室かもしれません。まりぃ先生、今日も素敵な大人の夢を見ているのかな?




「試験試験…あぁ…」
 数学の教科書を開いて見るまでは出来るようになった。
 こうして昼休みも部室で特訓!を銘打たれて。イヤだったけど先輩たちもセルジュ君も、rちゃんも付き合うと言われてしまえば、当の私が逃げるわけにも行かず……。
 でも読み始めると途端に目眩が。
「眠くなるという人はよくいるけど…」
 セルジュ君が言えば、
「珍種だな」
 笑いながらパスカル先輩が答える。
「珍しい動物みたいに言わないで下さい!」
「でもねえ…」
 クスクスとパスカル先輩の笑い声は続く。
「でも、そんな状態で入学試験で1点も採れたのって、奇跡的だと思う」
 rちゃんの鋭い指摘にぐうの音も出ない。
「たぶんね…」
 急に真面目ぶったパスカル先輩が向き直り、
「選択式の回答欄があったろう?」
「あ!」
 問題用紙は伏せたままだったけど、記号を書いた記憶があった。
「それだよ」
 全部解凍を『a』にしたっけ。あれが一つ当たってたのかも。
「よかったね、0点じゃなくて」
「うん」
 思い切り返事したけど、後から考えたらよかったのかどうかアヤシイ。
「ところでね」
 rちゃんが思い出したように口を開き、
「クラスメイトが増えたの」
「へえ。入学直後に珍しい。可愛い女の子?」
「パスカル先輩は! 違う。生徒会長」
「え!?」
 パスカル先輩とボナール先輩は驚きの声をあげた後、力の抜けた表情をしてみせた。
「先輩、どういうことなんですか?」
 セルジュ君が一年代表で尋ねる。
「アルト、もう勉強しなくても大丈夫だよ。中間対策としては、だけど」
「え?」
「生徒会長がクラスメイトになったら、学年一位は間違いなしだ」
「嘘っ!?」
 じゃあこれで一位は安泰だねってみゆちゃんたちが言っていたのは本当だったんだ!
「でも、教科書が読める努力は続けないとね。」
「う……うん」
 まぁそれでも討ち死に覚悟で頑張る必要もなくなったんだ。
 でも本当かなぁ?

 昼休みが終わって教室に戻ると、教頭先生が教室に。
 慌てて席に着くと古典の授業が始まった。
 こっちは眠くなるんだよな…。
 ―――生徒会長も眠そうだね
 メモ書きしてrちゃんに投げる。
 と、こっちを向いて、うんうんと頷いてくれた。
 でも次の瞬間、ガタンと大きな音がした。
(えっ!?)
 倒れたのは生徒会長だった。
 教頭先生が走り寄ってきて腕を取っている。
 こ、これは…まりぃ先生にご恩返しするチャンスかも!
 グッと拳を握りしめてrちゃんを見る。
 思いは同じ。
「保健室へ行った方がいいと思います」
「私とrちゃんで責任を持って保健室まで送りますから」
「早退した方がいいだろう。今、リオかフィシスを呼びにやるから」
 えええっ。なんとか保健室に拉致する方法は……。
 必死に考えていると、
「…保健室でいいよ、ハーレイ。…アルトさんとrさん…だったね。すまないけど、保健室まで連れて行ってくれるかな?」
「「はいっ!!」」
 何という幸運!
 私たちは意気揚々と生徒会長を保健室に連れて行った。
「まりぃ先生。お願いします」
「あらぁ~、可愛い仔猫ちゃんたち、どうしたのかしら?」
 奥から出てきたまりぃ先生。今日も大人の色香が漂っていて素敵ですっ
「まぁ、倒れてしまったのかしら? ベッドに寝かせて差し上げて」
 あ…あれ? 特別室じゃなくて、普通のベッドでいいんですか? まりぃ先生。
「はい」
 辛そうな呼吸でベッドに横になると、生徒会長は襟を緩めた。
 その色っぽいことったら!
 顔だけじゃなくて全身真っ赤になりそうで慌てて保健室を飛び出した。
「に……任務完了」
 rちゃんと声を揃えて言った。


 あの後何があったかなんて、私たちには分からない。
 でもまりぃ先生の色気が5割増しになったことは学校中の評判になった。
 ……原因、生徒会長?
 rちゃんとこっそり話し合ったけど、結論は出なかった。 




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