シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
「あっ…!」
ブルーは小さな悲鳴を上げた。自分の部屋でハーレイと向かい合わせに座ってのティータイム。ハーレイが好きなパウンドケーキを母に強請って焼いて貰ったから、幸せ一杯で過ごしていた。
何でも美味しそうに食べるハーレイだけれど、中でもパウンドケーキは特別。ブルーの母が焼くパウンドケーキはハーレイの母の味と同じなのだそうだ。
「おふくろが焼いてコッソリ持って来たのかと思ったぞ」と前に言っていたくらい、ハーレイの母の味にそっくりらしい。そう聞いたから何度も母に頼んでいたし、今日も頼んだ。それを食べるハーレイを見ているだけで幸せになれる。もう幸せでたまらなくなる。
なんて美味しそうに食べるんだろうと、この味がハーレイの母の味なのかと考えながらの幸せな時間。幸せの味を噛み締めながらパウンドケーキをフォークで口に運んでいたら。
ふとしたはずみに手が滑ったのか、ケーキの欠片を床に落とした。ほんの小さな欠片だけれど、ハーレイの大好きなパウンドケーキ。落とすだなんて、とショックで残念。
(やっちゃった…)
拾い上げて口に入れようかとも思ったのだが、向かいにハーレイが座っている。いくら好物でも床に落ちたものを拾って食べれば「行儀が悪い」と思われそうだ。
(…掃除してあるから綺麗なんだけどな…)
しかし綺麗な床であっても、落とした食べ物を拾って食べればマナー違反。何処かの店でそれをしたなら呆れられるし、とても褒められたものではない。家族と一緒の食卓でしか許されはしない「拾って食べる」という行為。
ハーレイはブルーの前の生からの恋人なのだし、たとえブルーが拾って食べても叱ったりせずに笑ってくれるとは思う。「落としちまったな」と笑うだけなのだろうが、子供らしいと微笑ましく見守る目になっていそうで、それは悲しい。
子供扱いは嫌だったから、床に落ちた欠片は諦めた。一人前の大人ならば床から拾って食べたりしないし、此処は行儀よく振舞わなければ。
「…落っことしちゃった…」
失敗、と椅子から離れて掃除用のシートを取って来た。小さなロールになったシートの表側には細かい埃を貼り付かせるための仕掛けがしてあり、ケーキの欠片をそれにくっつけてからシートを破って屑籠に捨てれば掃除完了。
でも、ゴミにするには惜しいサイズのケーキの欠片。小さな欠片は仕方ないけれど、一番大きな大元の欠片は掃除用シートにくっつけるよりは…。
ブルーは欠片を指で摘むと、窓を開けて二階から庭へと放り投げた。
「はい、お裾分け!」
「お裾分け?」
なんだそれは、とハーレイが訊くから、「お裾分けだよ」と笑顔で答える。
「ハーレイの好きなパウンドケーキ、捨てたりしたらもったいないでしょ? 庭に出しておいたら誰か食べるよ、蟻とか、もしかしたら小鳥とかが」
「なるほどな…。確かにそいつは有意義かもな。食べ物を大切にするのはいいことだ」
遠い昔にシャングリラで食料の確保に苦労した記憶を持つハーレイは窓越しに下の庭を眺めた。
「蟻でも鳥でも、分けて貰ったら喜ぶだろう。美味いケーキだしな」
「でしょ? だけど、こっちはお裾分けは無理…。小さすぎだよ」
残った欠片をシートにくっつけ、零れていないか確認してからシートを千切って屑籠へ。欠片がついた側を中にして包むように丸めて捨てれば密閉状態、虫などは来ない。
「はい、おしまい。…ごめん、話の途中だったのに」
掃除用シートを元の場所に片付けて自分の椅子に戻ると、ハーレイが感心したように。
「慣れたもんだな、お前くらいの年頃の子なら放っておく方が多いと思うが」
「…らしいね、ハーレイも自分で掃除はしなかった?」
「掃除どころじゃなかったからなあ…。柔道と水泳に明け暮れてたから、そういうのはおふくろに任せっ放しの子供だったさ」
「あははっ、理由があるだけマシだよ」
絶対にマシ、とブルーはコロコロと笑う。ブルーの友達は自分で掃除をしない子ばかり。掃除をしろと叱られたってしないで放っておいた挙句に、大切なものをゴミと一緒に捨てられたりする。しかも子供時代のハーレイのように忙しかったわけではなくて、ただ面倒でやらないだけ。
「ぼくの友達、家でゴロゴロしてる日だって掃除はしないよ」
「お前の年ならそっちが普通だ。お前が綺麗好きなんだ」
分かる気はするが、とハーレイの鳶色の瞳が細められた。
「前のお前もそうだっただろ?」
ブルーの前世はソルジャー・ブルー。ミュウの初代の長だった。
アルタミラを脱出した直後は船の中も雑然としていて、ブルーもソルジャーの地位にはいなくて仲間たちの一員というだけのこと。その頃のブルーは自分に割り当てられた部屋を綺麗に掃除し、通路なども率先して片付けていった。
今のブルーと変わらない小さな身体だったブルーが頑張って掃除や片付けをしているのだから、と他の者たちも精神状態が安定した者から順に手伝いをするようになって、船内は予想以上に早く快適な居住環境となった。
そんなブルーだったから、ソルジャーとして青の間に住まうようになっても私的な部分の掃除は自分でしようとした。ベッドの周りや、奥にある小さなキッチンの掃除。部屋付きの掃除係が来てみれば既に掃除が終わった後ということも少なくなかった。
「お前、本当に綺麗好きだったしな。クルーの仕事を奪ってどうする」
「だけど自分の部屋だよ、ハーレイ? 出来ることは自分でしたかったもの」
「それはそうなんだが…」
そうなんだが、とハーレイの声が僅かな翳りを帯びて。
「…綺麗好きなのはいいことなんだが…。お前の言い分もよく分かるんだが、ただ、な……。そのせいで俺は悲しい思いをしたんだ」
「えっ、なんで?」
ブルーは心底、驚いた。前の自分が綺麗好きだったことで、何故ハーレイが悲しむのだろう?
青の間が常に散らかっていたならクルーの仕事が無駄に増えるし、キャプテンの所に苦情が届くこともあり得る。けれど実際は逆だったのだから、何も問題は無さそうなのに…。
遠い記憶を探ってみても答えらしきものは見付からない。いくら考えても分からない。仕方なく尋ねてみることにした。ハーレイに訊くのが一番早い。
「…なんでハーレイが悲しくなるの?」
首を傾げて問い掛けたブルーに、ハーレイは「お前のせいではないんだがな…」と呟いてから。
「お前が逝っちまった後のことさ。…メギドに向かって飛んだお前は二度と帰って来なかった」
「…うん…。そうだけど、それが…?」
悲しかった前世でのハーレイとの別れ。思い出しただけで涙が零れそうになるし、右の手が凍えそうになる。ハーレイの温もりを失くしてしまって、メギドで冷たく凍えた右の手。
その手をキュッと握ろうとしたら、ハーレイの手が伸びて来た。大きな褐色の手がブルーの手を包み、「ほら」と温もりを移してくれる。
両方の手でブルーの右手を包み込みながら、ハーレイは彼方に過ぎ去った時を語った。
「…お前が守ってくれたお蔭で、シャングリラはナスカから逃げることが出来た。だが、ナスカで死んじまった仲間たちもいたし、お前までいなくなっちまった」
シャングリラの中には悲しみと混乱とが渦を巻いていて、それが落ち着くまでハーレイの仕事は多忙を極めた。ジョミーがアルテメシアへの進攻を宣言したため、それに伴う会議や航路の設定もあって、ハーレイは自分のために時間を割けなかった。
「…ようやっとゴタゴタが片付いた後で青の間に行ったら、何があったかお前に分かるか?」
「……ぼくって、何か置いてったっけ?」
そんな記憶はブルーには無い。迫り来る災いから皆を守るため、これが最後だと長い年月を共にした部屋を見回して心で別れを告げた。ハーレイと眠った大きなベッドが何よりも別れ難かった。もう一度だけ其処に腰掛けたい、と願う自分を叱咤し、それきり二度と振り返らなかった。
もしかしたら何か落として行ったのだろうか?
振り向くことをしなかったから、落し物に気付かなかったのだろうか?
(…でも……)
落とすような物を持ってはいなかった。ソルジャーの衣装を纏ってしまえば、戦いに赴くために必要なものは何も無い。それを纏ってベッドを離れた自分に落とすような物は何ひとつ無い。
「…何も無かったと思うんだけど…」
考え込むブルーに、ハーレイは「そうさ」と答えを返した。
「青の間に行っても何も無かった。…綺麗に何も無かったんだ」
ハーレイの顔が苦しげに歪む。まるであの日に、あの場所に引き戻されたかのように。
「…俺はお前に会いたかった。お前がいないと分かってはいても、もう一度会いたかったんだ」
青の間に行けば会えると思った、とハーレイは小さなブルーの手を握り締めた。
「お前が確かに其処に居たんだ、という名残りでいいから会いたかった。お前が腰掛けたベッドの皺でも、出掛ける前に飲んで行った水のグラスでもな」
「…うん……」
何とハーレイを慰めたらいいのか、ブルーには見当もつかなくて。ただ頷いて、ハーレイの手をキュッと握り返すことしか出来なかった。
飛び去ってしまった前の自分を探し求めて青の間に行ったというハーレイ。
ハーレイは其処でブルーの欠片に出会えただろうか?
「…俺はお前に会いに出掛けたのに、綺麗さっぱり何も無かった」
無かったんだ、とハーレイは辛そうに頭を振った。
「…まさかああなるとは思っていなかったんだな、部屋付きのヤツも。…お前はかなり無理をしていたし、帰って来たら直ぐに寝られるように、と気遣って整えたんだろう」
ハーレイが足を踏み入れた部屋に、ブルーの痕跡は何も無かった。
大きなベッドはベッドメイクがすっかり済まされていて、ブルーが眠った跡すら無かった。皺の一つさえ残ってはおらず、枕カバーもシーツも何もかも、洗い立てのものと交換されていた。
枕元に置かれた水差しの水も新しいものと取り替えられて、被せられたグラスも綺麗に洗われてしまった後で。ブルーが最後に水を飲んだのか、飲まなかったのかすらも分からなかった。
「お前は片付いた部屋が好きだったからな…。お前が部屋を出て行って直ぐに、係のヤツが掃除をしたんだろう。…そのせいで何も残らなかった」
お前の髪の一筋さえも、俺には残らなかったんだ…。
項垂れるハーレイはそれを探しに行ったのだろう。ブルーが確かに生きていた証。
ベッドの上に一本くらいは落ちていそうなブルーの髪。銀色のそれを持っていたくて、青の間へ探しに出掛けて行った。それなのに…。
「……ごめん」
ごめん、とブルーは唇を噛んだ。
今と同じで綺麗好きだった前の生の自分、ソルジャー・ブルー。弱り切った身体で戦いの場へと向かった部屋の主が戻ったら心地よく眠れるようにと、部屋付きのクルーが掃除をした。ベッドを整え、水差しの水も新しいものを満たして、グラスを洗った。
もしもブルーが大雑把な性格であったなら。…整い過ぎた部屋は落ち着かないタイプで、部屋の掃除は一日に一度、眠る前のベッドメイクだけで充分な人間であったなら…。
戻ったブルーがリラックスして過ごせるようにと、部屋はそのままだっただろう。眠りの続きに入りやすいよう、ベッドはブルーが眠った痕跡を留め、水差しの水も減ったまま。
そうしておいて、戻ったブルーに尋ねただろう。今から部屋を整えますか、と。
けれどブルーは綺麗好きだったし、整った部屋を好んでいたから、何ひとつ残りはしなかった。ベッドは綺麗にされてしまって、ブルーが気付かずに残したであろう銀色の髪も無くなった。
ハーレイはそれが欲しかったのに。
生きていた間に髪の毛など渡しはしなかったから、青の間に知らず落としていった銀の髪だけがブルーの形見になったのだろうに…。
「…ごめん、ハーレイ…。ぼくのせいだ…」
ぼくが掃除が好きだったから、とブルーは謝る。
まさかそういうことになるとは夢にも思っていなかったから、整った部屋が好きだった。綺麗に掃除をすることが好きで、青の間でさえも自分で出来る部分は掃除してしまう習慣で…。
そのせいでハーレイの手にはブルーの形見が残らなかった。
ブルーがメギドへ飛び立った後に、青の間は掃除されてしまったから。落ちていたであろう髪も掃除されて何処かへ行ってしまって、ハーレイの手には入らなかった…。
「ごめん、ハーレイ…。本当に、ごめん……」
戻ろうにも戻れない、遠すぎる過去。あの日に戻ることが出来るというなら、青の間を出る時、部屋付きの者に「掃除はいいよ」と告げてゆきたい。「直ぐに戻るから、このままがいい」と。
それでも掃除されてしまうのかもしれないけれど、ハーレイのために残しておきたい。
自分が其処に生きた証を、ついさっきまで此処に居たのだとハーレイに教える様々なものを。
どうして気付かなかったのだろう。
ハーレイが自分を求めて来るであろうことに、どうして思い至らなかったのだろう…。
悔やんでも悔やみ切れない、前の生の自分が仕出かしたこと。
今更どうにもならないのだけれど、ブルーはハーレイに「ごめん」と謝る。他には何も出来ないから。謝るより他に何も出来ないから…。
「いや、俺も悪い」
泣くな、と言われて褐色の指がブルーの目元を優しく拭った。知らない間に泣いていたらしい。ハーレイはブルーの涙を拭うと、また右の手を握ってくれた。
「…俺も悪いんだから、もう泣くな。…お前が俺に残した言葉を聞いた後に、直ぐに青の間の係に「部屋をそのままに」と言えば良かった。そうすれば掃除はされなかったんだ」
キャプテンの命令なのだから、とハーレイもまた遠い日の自分の愚かさを悔やむ。
ブルーが二度と戻らないことに気付いていながら、出すべき指示を出さなかったと。
「あの時はそんな発想すらも無かった。お前はメギドへ飛んでっちまうし、ナスカに残った連中は回収し切れていないし、シャングリラの中も大混乱で…。俺の能力の限界をとうに超えてたな」
よくもキャプテンが務まったものだ、とハーレイの瞳に穏やかな色が戻って来た。
「お前のことは頭にあっても、青の間まで頭が回らなかった。すっかり掃除されちまった青の間が誰のせいかと尋ねられたら、俺にも責任の一部はあるんだ。…九割はお前のせいだがな」
綺麗好きめが、とブルーの額が褐色の指にピンと弾かれる。
「割合はともかく、共同責任らしい俺に言わせれば、だ。…俺もお前も自分のことだけで精一杯になっちまったような非常事態の真っ最中にだ、青の間を綺麗にしたヤツの方が余程凄いさ」
自分の責任をキッチリ果たしていたんだからな、とハーレイが笑い、ブルーも笑った。
ソルジャーもキャプテンも自分の責任を果たせたか否か自信が無いのに、青の間付きのクルーは普段と全く変わらず、自分の任務を全うしたと。
シャングリラがどうなるかも分からない中で、きちんと仕事をやり遂げたのだ…、と。
「…よく考えてみたらホントに凄いね、ぼくなら放って逃げていたかも…」
部屋の掃除くらい、とブルーはつくづく感心した。ソルジャーだった自分はともかく、ミュウは大抵、気が弱い。弱すぎて前面に出られない者が部屋係を務めることも多くて、青の間といえども例外ではない。
そういう気弱な部屋係があのナスカでの混乱の最中に仕事をしていた。安全な場所に閉じこもる代わりに青の間を掃除し、ブルーが帰って来る時に備えた。逃げ出したい気持ちを抑えてベッドを整え、水差しの水まできちんと替えて。
「誰だったのかな、あの日の係…」
「さあな? 俺は掃除をされたショックで調べるどころじゃなかったからなあ…」
誰だろうか、と思い当たる顔と名前を二人で挙げてみて、その中の誰であっても凄すぎるという結論に達した。まさに「火事場の馬鹿力」だと。
「…ぼくがメギドを沈めたくらいの勢いだよ、掃除」
「そうだな、そういう感じだな。…メギドと掃除じゃ月とスッポンどころじゃないがな」
そこまで死力を尽くした掃除を恨んでは悪い、と二人揃って笑い合う。
悪いのは自分たち二人であって、部屋係に罪などありはしない、と。
ブルーの綺麗好きが災いしたらしい、ブルー亡き後の青の間の事件。
今でこそ笑っていられるけれども、ハーレイにしてみれば前世での辛く悲しい記憶の一つ。
ブルーを喪い、その形見すらも手に入れられなかった苦しみの記憶。
だからハーレイはブルーに言う。
「おい、ブルー。…綺麗好きもいいが、今度は適当にしといてくれよ?」
「適当?」
「そうだ。ほどほどにしておいてくれ、という意味だ」
お前の気配が綺麗さっぱり無いのは困る、と注文をつければ、ブルーが小さく首を傾げる。
「…たとえば?」
「俺たちが一緒に暮らせるようになったら、ベッドメイクは二人でするとか。食器も二人で一緒に洗うとか、後片付けや掃除はとにかく二人だ」
お前が二人でやりたくないなら俺がやるさ、とハーレイはブルーの瞳を見詰めた。
「…お前の欠片が見当たらない生活は二度としたくはないんだ、俺は」
片付けは一緒に、少しでも欠片が残るように。綺麗に片付いていても、何処かに欠片。
「えーっと…」
ブルーは少し考えてから、「そうだ!」と顔を輝かせた。
「じゃあ、カップ! ぼくのカップを置いておけば? それがあったらぼくが居るんだよ」
「お前のカップか…。いいな、だったらセットで買うか?」
俺のカップと、お前のカップと。模様が違うカップでもいいし、サイズが違うカップでもいい。
洗う時はいつも二つ一緒で、出すのも一緒だ。
どうだ? と問われて、ブルーは笑顔で頷いた。
「うん。ぼくもハーレイのとセットのカップがいいよ。ハーレイが留守で片方だけを使う時でも、もう片方がちゃんと何処かに置いてあるカップ」
「そして使わなかった俺のカップまで洗うつもりか、綺麗好きのお前としては?」
「出して並べてたらちゃんと洗うよ、ハーレイの分のカップだもの」
ふふっ、とブルーは微笑んだけれど。
ハーレイが使ったカップを洗わずに置いておくのもいいな、と思った。
いつか一緒に暮らすようになって、ハーレイが仕事に出掛けた後に残されたハーレイのカップ。
カップの底に残ったコーヒーや紅茶の跡を眺めて、それを飲んでいたハーレイを想う。
(うん、いいかも…)
胸がじんわりと温かくなる。
綺麗好きの自分がカップを洗わずに置いておくなんて、なんだかとても不思議だけれど。
不思議だけれども、ハーレイが飲んでいた跡が残ったカップだと思うと愛おしい。
(…唇で触ってみたくなるかも…)
どんな飲み心地のカップなのかと、確かめたくなって唇で触れるかもしれない。
きっと唇が温かくなる。ハーレイの温もりが唇に触れる。
(そっか、ハーレイが言ってた欠片って、こういうのなんだ…)
其処に居なくても、欠片がハーレイを連れて来てくれる。
ハーレイはブルーの欠片が欲しいし、ブルーもハーレイの欠片があったら幸せになれる。
お互いがちゃんと生きていてさえ、欠片が欲しいと思ってしまう。
(…ハーレイが仕事に行ってる間だけでも、欠片があったら嬉しいんだから…)
…ごめんね、ぼくの青の間のこと……。
掃除されてしまって、ぼくの欠片が一つも残っていなかった部屋。
(ごめんね、ハーレイ…)
だけど今度は、ぼくは何処にも行かないから。
ずっとハーレイと一緒に居るから、出掛ける時にはハーレイの欠片を置いて行ってよ。
ぼくが寂しくならないように、ハーレイの温もりが分かる欠片を……。
無くなった欠片・了
※前と同じに綺麗好きなブルーですけど、綺麗好きだったせいで形見が無かった前のブルー。
今度はハーレイに悲しい思いをさせることなく、二人で幸せになれますように…。
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「ハーレイの写真、ちゃんとしたのが欲しいんだけどな…」
ブルーは勉強机の前に座って一枚のプリントを眺めていた。月に一回、学校から貰うお知らせを兼ねた学校便り。行事の写真なども載っているから、保存する価値は充分にあるのだけれど。この五月号だけはブルーにとっては特別だった。
貰ったその日がハーレイと出会った五月三日の月曜日。朝のホームルームで配られたそれを何も考えずに鞄に仕舞った。家に帰ってゆっくり読めばいいと思った。
ところがその後、古典の授業の新しい教師としてハーレイが現れ、ブルーは大量出血を起こす。聖痕現象と診断された、前の生での最期に負った傷と同じ場所からの大量出血。それと同時に前の生での記憶も戻って、ハーレイも前世の記憶を取り戻した。
慌ただしく日々が過ぎてゆく中で、忘れかけていた学校便り。ふと思い出して取り出してみて、其処にハーレイの写真を見付けた。転任教師の着任を知らせる小さな記事と小さな写真。
正面を向いたハーレイの写真はカラーではなくて、肌の色はもちろん、瞳の色さえ分からない。そうした記事に使う写真だから笑顔でもなく、スーツ姿で真面目な顔をしたハーレイ。
それでも一枚きりの大切な大切なハーレイの写真。学校便りの五月号はブルーの宝物になった。机の引き出しにきちんと入れて、こうして取り出してはハーレイを想う。
「…前のハーレイの写真も無いしね…」
十四歳になったばかりのブルーと違って、ハーレイはキャプテン・ハーレイだった頃とそっくり同じな姿だったから、前世の写真でもあれば良かった。
教科書に載っている写真は如何にもキャプテンといった風情で、ブルーが好きな表情ではない。ならば、とキャプテン・ハーレイの写真集を探しに出掛けたが、それは存在しなかった。仕方なく前世の自分の写真集を片っ端から調べたのに…。
(…どのハーレイにもソルジャー・ブルーがセットだなんて!)
ブルーが気に入った写真の中のキャプテン・ハーレイはソルジャー・ブルーと対だった。一目で恋人同士と分かる写真ではなかったけれども、ブルーには簡単に分かってしまう。
素敵な表情をしたキャプテン・ハーレイはソルジャー・ブルーのもので、小さな自分は手も足も出ない。見ているだけで腹立たしいから、写真集は一冊も買わずに帰った。
そんなわけで、ブルーが持っているハーレイの写真は学校便りの五月号だけ。歴史の教科書にもキャプテン・ハーレイは載っているけれど、それよりは断然、今のハーレイ。
(…学校便りでもいいんだけれど…)
無いよりは遙かにいいんだけれど、とブルーは深い溜息をつく。
同じ写真ならカラー写真のハーレイがいい。教師らしい顔のハーレイよりも普段の表情がずっといい。そういう写真が欲しかった。
「…失敗しちゃったんだよね…」
ハーレイと再会して直ぐに二人一緒に写せば良かった。再会記念の写真だったら二人で写すのが自然なのだし、両親もきっと快くカメラのシャッターを切ってくれただろう。
けれどもブルーは記念写真の撮影どころか、再会出来たハーレイに夢中で甘えっ放しで過ごしてしまって、気付けばとうに記念撮影に相応しい時期が過ぎ去っていた。
今となっては二人で写せる機会が無いし、かといってハーレイ単独の写真を撮らせて貰って机の上に飾っていたなら、それを見た両親に何事なのかと思われそうだ。学校便りのように引き出しに仕舞う手もあると言っても、写したのなら堂々と飾っておきたいし…。
(そうだ、ハーレイの誕生日!)
八月の二十八日で、まだ夏休みの真っ最中。両親にもちゃんと言ってあるから、夕食の席で皆でお祝いする予定。その時に記念撮影を…、と考えたけれど。
(…ひょっとして、パパとママも一緒に写っちゃう?)
誕生日祝いの席なのだから「みんな一緒に」と賑やかな写真になりそうだった。それはブルーが欲しい写真とは少し違うし、机の上に飾れはしても複雑な気分になるだろう。
(このまま、ずっとハーレイの写真は無しかも…)
いつかチャンスが巡って来るかもしれなかったが、それがいつだか分からない。
今のハーレイの写真が欲しいのに。自分が一緒に写っていたなら、もっといいのに…。
「…あいつの写真は無いからなあ…」
前のあいつなら、此処にあるのに。
ハーレイの書斎の机の引き出し。其処に一冊のソルジャー・ブルーの写真集。
真正面を向いたソルジャー・ブルーの一番有名な写真が表紙で、タイトルは『追憶』。
サイオンの青い尾を曳いてメギドへと飛ぶ前世のブルーの最後の飛翔で始まる最終章は、人類軍が撮影していた映像から起こした写真で埋められていた。爆発するメギドの閃光が最後の写真。
キャプテン・ハーレイだった頃には知りもしなかったブルーの最期。
小さなブルーが口にするまでは、キースに何発も撃たれたことさえ知らなかった。メギドを破壊しに飛んだブルーが何処を翔け、どんな光景の中で逝ったのかすらも。
ソルジャー・ブルーだったブルーの命が潰えるまでを記録した写真に、メギドの中へ入り込んだ後のブルーの姿は無いのだけれど。監視カメラごと失われたから無いのだけれども、最後に写ったメギドの爆発と共にブルーの身体はこの世から消えた。
その瞬間までブルーが生きていたのか、息絶えていたのか、それもハーレイには分からない。
分かることはただ、ブルーが独りきりで逝ってしまったこと。最期まで持っていたかったというハーレイの温もりを失くしてしまって、暗い宇宙でたった一人で、青い閃光に消えてしまった。
数々の写真が突き付けて来た事実があまりに悲しく、声を上げて泣いた。あの日の自分の記憶に囚われ、ブルーを失くしてしまったと泣いた。
それほどに辛い最終章を持った本だが、目に触れない場所に押し込めることはしたくなかった。前の生で守れなかった分を埋め合わせるかのように、こうして引き出しに仕舞ってある。
一日に一度は座る机と、其処で書く日記。引き出しを開けて日記を出せば、其処から『追憶』が姿を現す。ハーレイの日記を上掛けにして眠る写真集。それを開けば前の生でのブルーに会える。
「…前のあいつの写真だったら、此処に何枚もあるんだが…」
今のあいつの写真は一枚も無いな、と小さなブルーを思い浮かべた。
再会した時に記念に写すべきだった。しかし迂闊にもそれを忘れた。再会出来た喜びに酔って、甘えて来るブルーをただ抱き締めて。
小さなブルーの命の温もりを確かめ続けて、気付けば時が過ぎ去っていた。記念撮影をするのに相応しい時期を逃してしまった。もしも早くに気付いていたなら、二人一緒に写せたものを。
理由をつけてブルーの写真を撮るというのも考えたけれど、それではブルーが可哀相だ。きっとブルーもハーレイの写真を欲しがるだろうが、ブルーはそれを飾れない。一人暮らしの自分だけがブルーの写真を飾って、小さなブルーはハーレイの写真を隠し持つのが精一杯。
それでは本当に可哀相だし、堂々と飾れない写真を隠し持たせることはブルーの両親に対しても申し訳ない。いつかはブルーへの想いを打ち明けねば、と思ってはいるが、今は後ろめたいことをしたくはない。
(…学校のデータベースに写真はあるんだが…)
ブルーの在籍を示す証明写真。とはいえ、生徒の写真を引き出して持つのもどうかと思う。誰も気付きはしないのだろうが、教師としてすべきことではない。
けれど、ブルーの写真が欲しい。
十四歳の小さなブルーの写真が欲しい。出来ることなら、自分も一緒に写ったものが…。
お互い、知らずに同じ思いを抱き合って。
夏休みも今日で終わるという日に、ハーレイは普段通りにブルーの家へと向かった。二人一緒に過ごせる平日は八月三十一日で最後。次の機会は冬休みに入るまで訪れない。
ブルーが首を長くして待っているだろうと出掛けてゆけば、二階の部屋で迎えてくれたブルーは母の足音が階下に消えるなり、この世の終わりのような顔つきになった。
何ごとなのかと慌てたハーレイの耳に消え入りそうな声で届いた言葉は、マーマレード。
ハーレイの両親がブルーのためにと持たせてくれた、実家の庭で採れた夏ミカンの実で作られたマーマレードの大きな瓶。昨日、ブルーに渡してやった。
ハーレイがいずれブルーを伴侶に迎えるのだと話したからこそ、両親はマーマレードをブルーに贈ったのだけれど、その事実をブルーの両親には明かせない。だからブルーの母には日頃の礼だと言っておいたし、ブルーもそれは承知していた。
とはいえ、ブルーにしてみれば自分が貰った宝物にも等しいマーマレードだったのだろう。その大切なマーマレードを自分よりも先に両親が開けて食べ始めていたことがショックだったらしい。
ブルーの部屋から庭で一番大きな木の下の白いテーブルと椅子に移動してからも、悲しげな顔でマーマレードに関する悲劇を懸命に訴えるブルーが可愛らしくて、可笑しくて。
因縁のマーマレードが盛られたガラスの器に木漏れ日が降る中、焼き立てのスコーンをブルーと二人で食べながら話した。
ブルーのためのマーマレードなら、また実家から貰ってくるから、と。ハーレイの両親は小さなブルーがお気に入りだから、いくらでも分けてくれるだろう、と。
ブルーの機嫌がようやく直って、弾けるような笑顔になった頃。
「うん、いい笑顔になったな、お前。…それじゃ一枚、撮るとしようか」
「えっ?」
キョトンとするブルーに、ハーレイは片目をパチンと瞑ってみせた。
「記念写真さ、俺たちが初めての夏休みを一緒に過ごした記念だ。一枚も写真を撮ってないだろ、せっかく地球で再会したのに」
お母さんにシャッターをお願いしよう、と言ってから、とっておきの言葉を付け加える。
「俺の腕にしがみ付いて写してもいいぞ? ただし、恋人としてじゃないからな。あくまで憧れのハーレイ先生と、だ。そういう写真を撮った教え子なら大勢いるさ」
「ホント?」
「本当だ。柔道と水泳の教え子からすれば、俺はスポーツ選手並みの扱いになるらしい」
その感覚でなら腕にしがみ付くことを許可する、と聞かされたブルーの背中に翼があったなら、空に舞い上がっていたかもしれない。本当に飛んで行きそうなほどに、小さなブルーは狂喜した。
「ねえ、ハーレイ。しがみ付くのって、どっちの腕?」
「左腕だな。俺の利き手を封じてどうする、右腕は空けておいてくれ」
「分かった! ハーレイの左側に立てばいいんだね!」
持って来たカメラを取りに行こうと立ち上がったハーレイの腕に「ちょっと練習!」とブルーが飛び付いて来た。それを「こらっ!」と振り払ってハーレイは庭を横切り、玄関を入る。其処に居たブルーの母に声を掛けてから二階に上がり、置いてあった荷物の中からカメラを出して。
「すみません、お手数をお掛けしますが…」
シャッターをお願いします、と頼むとブルーの母は「ええ」と頷いて庭に出て来た。
日射しがまだまだ強い季節だから、撮るのなら木陰。白いテーブルと椅子のある木の下の日陰がちょうど良さそうで、ハーレイとブルーは其処に並んだ。
母がカメラ越しに光の加減などを確かめ、「その辺りかしら」とニッコリ微笑む。
「それじゃ、撮るわよ?」
「ママ、待って!」
ブルーがハーレイの左腕に両腕でギュッと抱き付き、「撮っていいよ」と笑顔で叫んだ。
憧れのスポーツ選手と記念写真を撮る少年のようなポーズで、身長の差もそれを思わせる。母は笑ってシャッターを切った。可愛い一人息子を撮る母の顔で、頼まれるままに何度も、何度も。
同じポーズで軽く十枚は撮っただろうか。ハーレイがカメラを受け取りに行って、ブルーの母も交えて三人でデータを調べて、いい写真だと確認した。
穏やかな笑顔で立つハーレイと、その左腕に抱き付いた明るい笑顔のブルー。
再会してから初めて二人で過ごした夏休みの記念にと撮った写真は、まさに最高傑作だった。
写真撮影を終えてブルーの部屋へ引き揚げ、昼食を食べて。ブルーの母が食後のお茶のセットを置いていった後で、ハーレイは再びカメラを出した。ブルーと二人で写した写真を詳細に調べて、「これにするか」と選んだ写真をその場で二枚、プリントしてテーブルの空いた所に並べる。
そして自分の荷物の中から二つの包みを取り出した。
「ほら、ブルー。好きな方を選べ。…まあ、どっちでも中身は同じなんだが」
四角くて平たい箱を包んだ包装紙とリボン。ブルーはそれに見覚えがあった。ハーレイの誕生日プレゼントに羽根ペンを買おうと出掛けて行った百貨店の包装紙とリボン。
羽根ペンはブルーの予算ではとても買えない値段で、それでも諦め切れなくて。悩んでいたのをハーレイに見抜かれ、ハーレイと二人で買うことになった。ブルーは予定していた金額を支払い、残りはハーレイが払った羽根ペン。
二人で選んだ白い羽根ペンをハーレイが買いに行き、誕生日に持って来て、ブルーがハーレイに羽根ペンの箱を手渡した。それが八月二十八日のこと。
ハーレイは羽根ペンを買うためにあの百貨店へ行ったわけだが、羽根ペンの箱を包んでいたのと同じ包装紙とリボンがかかった二つの箱は何なのだろう?
首を捻るブルーにハーレイが「いいから、一つ選んで開けろ」と箱を指差す。
「…うん」
手近な方の箱をブルーが選ぶと、もう一つをハーレイが手に取ったから。
(…開けていいんだよね?)
リボンをほどいて包装紙を剥がし、出て来た箱を開けてみた。
「あっ…!」
箱の中に、写真にぴったりのサイズのフォトフレーム。ハーレイの分は、と目をやれば同じ物が箱に収まっていた。飴色をした木製のフォトフレーム。如何にもハーレイが好みそうな、触れれば手に馴染む優しい素材。素朴だけれども温かみのある、木で作られたフォトフレーム。
「羽根ペンを買いに行った時にな、こいつも一緒に買って来たんだ」
ハーレイが自分の分のフォトフレームを示して言った。
「俺たちの写真ってヤツは無かったからな。…夏休みの記念に撮ろうと思った。そして二人で一枚ずつ持とうと思ったんだ」
同じデザインのフォトフレームに入れて、俺とお前とで一枚ずつ…な。
嫌だったか?
「…ううん」
問われたブルーは「ううん」と首を左右に振った。
「ハーレイの写真、持っていないし…。それにハーレイとお揃いの物って、シャングリラの写真集しか持っていないから…。お揃いの写真とフォトフレームなんて、ぼく、考えもしなかったよ」
とても嬉しい、とブルーが微笑むと、ハーレイは「そうか」と頷いて。
「…こいつは俺の我儘でもあるんだがな。お前の写真が欲しかったんだ。どうせだったら、お前と二人で写ったヤツが」
最高の写真が手に入った、と喜ぶハーレイにブルーは「ぼくも」と笑みを湛える。
「ぼくもこの写真が欲しかったよ。…ううん、ハーレイだけの写真でもいいから欲しかったんだ。それで前のハーレイの写真を探しに本屋さんまで行ったのに…。いいな、と思ったハーレイの写真には前のぼくが必ず一緒に居たから…」
腹が立ったから買わなかった、と白状した。ソルジャー・ブルーとセットのハーレイがどんなに素敵でも、其処に一緒に写っている前の自分が余計なのだ、と。
「でも、良かった…。この写真なら今のぼくだし、このハーレイはぼくのだよね」
「そりゃあ、俺はお前の恋人だしな? しかしだ、前の自分に腹が立つとは…。凄いな、お前」
ちょっとお前を見直したぞ、とハーレイが笑う。
小さな子供だとばかり思っていたのに、一人前に嫉妬もするのか、と。
「だがなあ、子供は子供だな? ソルジャー・ブルーもお前なんだぞ。そこで前世を懐かしまずに嫉妬して怒る所がなあ…。アレだ、鏡に映った自分に喧嘩を吹っかける子猫みたいだよな」
「子猫!?」
酷い、とブルーは唇を尖らせたけれど、その顔つきが子供だと更なる笑いを誘っただけだった。鏡の中の自分と喧嘩を始める銀色の毛皮の小さな子猫。一人前に毛を逆立てていても、鏡の相手は決して喧嘩を買ってくれない。傍目にはただ面白いだけで、写真を撮られるのが関の山だと。
「……子猫だなんて…」
膨れるブルーの頭をハーレイが「いいじゃないか」とポンポンと叩く。
「そういう所も俺は可愛いと思うがな? そして、此処に写ったお前も可愛い」
実にいい写真だ、とハーレイは庭で撮った写真を惚れぼれと眺め、一枚をブルーに手渡した。
「お前の分だ。フォトフレームが気に入ったんなら、入れてやってくれ」
「うん」
ブルーが木製のそれを裏返して写真を入れる間に、ハーレイも自分のフォトフレームを裏返し、もう一枚の写真をセットしてみて。
「よし、こうすると写真だけよりいい感じだな」
うん、とテーブルにフォトフレームを置いて眺めるハーレイ。ブルーも自分の分を隣に並べて、お揃いのフォトフレームに同じ写真が収まったものが二つ揃った。
背の高いハーレイと、その左腕にギュッと抱き付いた小さなブルーが写った写真。
「ねえ、ハーレイ。…こんな写真は今のぼくたちしか撮れないね。ぼくが小さいっていう意味じゃなくって、ぼくが大きくなってからでも」
「…そうだな、前の俺たちには無理だったな」
誰にも仲を明かせなかった秘密の恋人同士だったから。
けれど今度はいくらでも撮れる。今はまだ教師と生徒ということになっているから、記念写真も写しそびれたままで今日まで来てしまった二人だけれど。
憧れの先生と生徒で良ければ、これから先も何枚だって写せるだろう。
いつか結婚出来た時には、もっともっと沢山の写真を好きな時に写してゆけるだろう。
「ふふっ、フォトフレームまでお揃いだもんね」
貰っちゃった、と笑みを零すブルーにハーレイが「ああ」と頷き返して。
「お母さんにフォトフレームはどうしたんだ、と訊かれた時には記念に貰ったと言っておけ。俺がタダ飯を食わせて貰っている分、マーマレードくらいじゃ足りないからな。これはオマケだ」
「オマケなの?」
「そういうことにしておくだけだ。本音は俺からのプレゼントだがな、マーマレードがお前用だと言えないのと同じでコイツもマズイ」
まだ早過ぎる、とハーレイは困ったような笑顔になった。
「俺はお前と一緒に写った写真が欲しくて、フォトフレームも同じのにしたくてコソコソ計画していたわけだが、お前のお母さんたちには言えんだろうが。いいか、あくまでオマケだからな」
「うん、分かった。夏休みの記念写真とオマケなんだね」
「そういうことだ」
しかし本当はお揃いなんだぞ、と付け加えることをハーレイは忘れはしなかった。
「今日からは同じ写真とお揃いのフォトフレームを眺めて暮らすわけだな、お前も俺も」
「…うん。ありがとう、ハーレイ。…大事にするよ」
「そうしてくれると俺も嬉しい。そうだ、お前のマーマレードな。ちゃんとおふくろたちに言っておいてやるさ、お前が一番に食べ損なって悲しがってた、ってな」
そして貰って来てやるから、とブルーと「約束だぞ」と小指を絡める。
「俺の未来の結婚相手のお前用に山ほど貰って来てやるさ。だから惜しがらずにどんどん食べろ。でないと大きくなれないからな」
「うん。…うん、ハーレイ…」
大好きだよ、とブルーは小指を絡めたままで並んだ二つのフォトフレームをそっと見詰めた。
今日からはお揃いのフォトフレーム。
片方はハーレイの家に行ってしまうけれど、ブルーの部屋にも全く同じものがある。
フォトフレームの中の写真はこれから色々と変わっていくのか、またハーレイが理由を見付けてフォトフレームごと増やしてゆくのか。
幸せな写真が何枚も増えて、いつかフォトフレームは二人で一つしか要らなくなる。
一番最初のそういう写真は、きっと二人の結婚式。
二人で一つしか要らなくなったフォトフレームを家に飾って、ハーレイと二人で歩いてゆく。
前の生では叶わなかった幸せな未来へ、しっかりと手を繋ぎ、握り合って…。
二人の記念写真・了
※ブルーとハーレイの記念写真。前世では写すチャンスさえも無かったツーショットです。
今度は堂々と飾ってもかまわない世界。お揃いのフォトフレームに写真を入れて…。
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※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。
シャングリラ学園番外編は 「毎月第3月曜更新」 です。
第1月曜に「おまけ更新」をして2回更新の時は、前月に予告いたします。
お話の後の御挨拶などをチェックなさって下さいませv
学園祭も終わって秋が深まり、日暮れも早くなりました。放課後を「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋で過ごして帰る頃には暗くなっている有様です。え、下校時刻にそんなに暗くはならないだろうって? 特別生は時間厳守じゃありませんから六時過ぎでも無問題。
「今日も日が暮れたみたいだねえ…」
会長さんが壁の時計を眺めつつ。
「こんなに秋が深くなるとさ、鍋パーティーなんかがいいと思わないかい?」
「えっ、鍋パーティー?」
ジョミー君が即座に反応しました。
「いいよね、ちゃんことか寄せ鍋とか! 今度の週末?」
「うん。鍋をやるなら夜がいいかな、みんなでウチに泊まりにおいでよ」
「「「行く!」」」
私たちは一斉に手を挙げ、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「かみお~ん♪ お鍋は夜でも朝から来てくれていいからね! お昼も作るし!」
「やったあ、土曜は鍋パーティーだね!」
お昼も楽しみ、とジョミー君。私たちもワクワクです。学園祭までは準備で校内が賑やかでしたし、収穫祭などのイベントなんかも。けれど学園祭が終わってしまえば行事は何もありません。中間試験の後は期末試験で、クリスマスは終業式が済んでから。
「ふふ、少しお祭り気分になった?」
会長さんの問いに誰もがコクコク。特別生の日々に不満は無いですし、放課後は素敵なティータイムつき。それでもやっぱり一連のお祭りが終わってしまうと心が寂しくなるもので…。
「じゃあ、決まり。今度の週末はウチに泊まって鍋パーティーだね」
盛大にやろう、と会長さんが親指を立て、大歓声の私たち。お昼御飯も期待出来そうです。どんなお鍋が食べられるのかなぁ、お昼もとっても豪勢かも?
待ちに待った土曜日はいい天気でした。会長さんのマンションの近くのバス停で待ち合わせをして、お泊まり用の荷物持参で訪ねてゆくと。
「かみお~ん♪ いらっしゃい!」
どうぞ入って、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」がお出迎え。
「ブルーも待ってるし、すぐにお昼にするからね!」
それまで飲み物とお菓子で待ってて、と紅茶にコーヒー、柚子味のパウンドケーキなどが。食べ終わった頃合いでダイニングに呼ばれ、熱々のグラタンが焼き上がっています。サラダと栗のポタージュスープにキノコたっぷりのピラフなど。
「「「いっただっきまーす!」」」
グラタンはキノコとチキンが入ってスパイスとハーブがいい感じ。鍋パーティーもやっぱりキノコでしょうか?
「それはもちろん」
会長さんがスープを口に運びながら。
「キノコ鍋ってわけじゃないけど、季節の味覚は使わなきゃ! でもって今日は味噌仕立て! お酒が進む鍋がいいんだ」
「「「お酒?」」」
三百歳を軽く越えている会長さんは勿論お酒もいけるクチです。小さな子供の「そるじゃぁ・ぶるぅ」もチューハイなんかが大好きですけど、鍋パーティーでお酒って飲んでいたかなぁ?
「ああ、君たちは飲めないよね。キースが少し飲めるくらいか…。だから普段は飲まないんだけど、今夜のパーティーは特別だから」
「記念日か?」
キース君が尋ねましたが、会長さんは「ううん」と首を左右に。
「記念日とかでは全然ないけど、ちょっとゲストの関係で…ね」
「「「ゲスト?」」」
ゾゾゾゾゾ…と嫌な予感が背中を走り抜け、頭に浮かんだ会長さんのそっくりさん。それに加えて教頭先生のそっくりさんなキャプテンですね、またバカップルが来るわけですか…。
「あ、違う、違う! 今日のゲストはそっちじゃなくて」
あっちの二人は忙しいそうだ、と会長さん。
「特別休暇を取ってるらしいよ、鍋より二人の時間だってさ。一応、声はかけたんだけど」
でないと後が恐ろしいから、と言われなくても納得です。ソルジャーに内緒で鍋パーティーなんて、命知らずにも程がありますってば…。あれっ、それならゲストって……誰?
お酒が進む鍋パーティーに相応しいゲストとは誰を指すのか、首を傾げる私たち。ソルジャー夫妻が来ないんだったら該当する人が無さそうですが…。
「誰か忘れていないかい? バカップルを連想したなら、そのついででさ」
「「「…ついで?」」」
バカップルのついでとくれば、もしかして、もしかしなくても…。
「あんた、ぶるぅを呼んだのか!?」
キース君の叫びに誰からともなくギャッと悲鳴が。ソルジャー夫妻のおまけとくれば悪戯小僧で大食漢の「ぶるぅ」です。胃袋は底抜け、お酒も大好き。何もあんなのを呼ばなくっても…! それとも押し付けられたのでしょうか、特別休暇に邪魔だから、と?
「…なんでそっちの方に行くかな、ぶるぅだったら丁重にお断りさせて貰うよ」
鍋とお酒をデリバリーする羽目になろうとも、と会長さんはキッチリ否定。
「あんなのが来たらパーティー気分がブチ壊し! ブルーたちがいないと全く歯止めが利かないからねえ、食い散らかされて終わりってだけじゃなく、心身共にズタボロだってば」
おませな発言が炸裂しまくり、と指摘されればそのとおり。バカップルなソルジャー夫妻に育て上げられた「ぶるぅ」は大人の時間に興味津々、覗き見ばかりしています。特別休暇中に一人で来ちゃって酔っ払ったら口から何が飛び出すか…。
「ね、そういうのは御免だろう? 今日のゲストは人畜無害なチョイスなんだけど」
「「「へ?」」」
「そう、への字。思い切りヘタレなハーレイを呼んでみました…ってね」
「「「教頭先生!?」」」
なんでそういうことになるのだ、と私たちはビックリ仰天でしたが、会長さんはニコニコと。
「最近、とみに寂しいらしいんだよ。侘しい独身生活が…。秋は人肌恋しい季節で、日暮れも早くて家に帰れば真っ暗で…。こんな時に嫁がいてくれれば、と毎日溜息」
「で、嫁に行こうと決意したのか?」
止めないがな、とキース君が言えば、返った答えは。
「行くわけないだろ、そっちの趣味は無いんだから! だけど楽しく事情聴取をしたいんだ」
「「「事情聴取?」」」
「うん。たっぷり飲ませて、ぼくに対する本音をね…。そう簡単に酔わないことは分かってるから、お酒の方も特別製で」
「かみお~ん♪ ちゃんぽんブレンドなの!」
いろんなお酒を混ぜてみたよ、と自信たっぷりな「そるじゃぁ・ぶるぅ」。あれこれ飲むと酔いが回ると聞いていますが、ブレンドとしたとは凄すぎるかも…。
キノコたっぷりの昼食が済むと、リビングでまったりゲームやお喋り。鍋パーティーとゲストの話題は一切出て来ず、アップルチーズタルトや焼き立てクッキーを食べている間に日が暮れて…。
「さてと。ハーレイが下に着いたようだよ」
今日は車じゃないんだよね、と窓の下を見下ろす会長さん。横から覗くとマンションの入口に見慣れた大きな人影が。教頭先生、鍋パーティーはお酒つきだと招待されたため、路線バスでいらしたみたいです。間もなく玄関のチャイムが鳴って「そるじゃぁ・ぶるぅ」が駆けてゆき…。
「ハーレイが来たよ~!」
「すまん、遅れたか?」
バスが渋滞に引っ掛かって、と詫びながら教頭先生が入って来ました。
「紅葉シーズンなのを失念していた。日が暮れてからもライトアップで混むんだったな」
「週末だからねえ、仕方ないよ。マイカーだったら抜け道を走るって手もあるけれど」
でも飲酒運転はお勧めしない、と会長さんはニッコリと。
「今夜はゆっくりしていってよね。鍋もお酒もたっぷりあるんだ」
「ありがとう。何か手土産をと思ったんだが、手ぶらで来てくれと言われたし…」
「遠慮は無用さ、みんなで楽しく盛り上がれればいいんだよ」
早速鍋を始めよう、という声を合図にダイニングへと移動してゆけば大きなテーブルにコンロが据えられ、土鍋が既にセッティング済み。
「三、四人で一つの鍋ってトコかな、十人で三つの鍋だから。面子は特に固定しないし、ノリで自由に移動しながら好きに食べるのがルールなんだけど…」
固定したければ固定でもいい、と会長さんの視線が教頭先生の上に。
「ハーレイは大いに飲みたいだろうし、飲めない面子の鍋に行ったらイマイチだよね。どうかな、真ん中の鍋でぼくと飲む? ぶるぅも一緒に」
「…お前とか?」
頬を赤らめる教頭先生に、会長さんは「嫌だった?」と。
「嫌なら席は入れ替えってことで…」
「い、いや! いや、嫌ではなくて、そのぅ……なんだ……」
「ふふふ、嫌ではないってことだよね? それならぼくの向かいにどうぞ」
勧められた席に座った教頭先生は傍目にもドキドキときめきMAX。鍋パーティーに招かれただけでも嬉しいでしょうに、会長さんと同じ鍋です。ちゃんぽんブレンドで事情聴取が待っているなんて御存知無いですし、気分は極楽、天国ですよね!
味噌仕立ての鍋は予め煮込んであった様子で、どれもニンニクがたっぷりと。すりおろしではなく粒が丸ごと、柔らかく煮えたのを具材と一緒に掬って食べるという趣向。更に刻みニンニクを混ぜてレンジでチンした特製味噌を好みで添えるのが「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお勧めで。
「えとえと、お味噌は今日はちょっぴり甘めなの! お酒にとっても良く合うんだよ♪」
ハーレイがダメな甘さじゃないしね、と説明された教頭先生、キノコや肉や新鮮な魚介類がドカンと入った寄せ鍋の具を器に取って特製味噌をつけてみて…。
「なるほど、美味いな。酒が飲みたくなる味だ」
「でしょ? お酒も沢山飲んでってね!」
どうぞ、と大きめの徳利が。いわゆる熱燗を会長さんが教頭先生の盃になみなみと。
「はい、遠慮しないでグーッといってよ」
「すまんな、お前も一緒にやろう」
徳利を持とうとした教頭先生を会長さんは手で制して。
「あ、ぼくはワインでやりたいんだ。鍋には合わないって言われてるけど、長年生きてるとピッタリなワインも見付かるものでさ」
辛口の白がいいんだよね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が運んで来たボトルからグラスにトクトク。
「君も一杯、試してみるかい? なかなかいけるよ」
「そうなのか。是非、御馳走になろう」
「ちゃんぽんだけどね、それも良きかな!」
ぶるぅ、グラスを! と会長さんが頼み、出ました、教頭先生の前にもワイングラス。
「まあ飲んでみてよ。ここの白がね、寄せ鍋にはもう最高で」
「…ふむ…。これは確かに絶品だな」
味噌仕立ての鍋に実によく合う、と教頭先生、大絶賛。
「しかし、この熱燗の方もなかなか…。大吟醸ではないようだが」
「あっ、分かる? ぼくとぶるぅの自慢のヤツでさ…。泡盛を銘水で割って充分に寝かせてから熱燗にすると、凄く美味しくなるんだよね。そのまんま熱燗にしたらアウトで」
「ほほう…。それは知らなかったな」
「ひと手間かけるのが美味しく飲むコツ! ワインの方もどんどんやってよ」
食べたら飲んで、飲んだら食べて…、と勧め上手な会長さんにまんまと乗せられ、教頭先生は熱燗ちゃんぽんブレンドとやらと白ワインとを交互にグイグイ。流石の酒豪も飲み続ける内にすっかり出来上がり、普段よりもずっと饒舌に。うーん、そろそろ事情聴取かな?
ワハハと笑っては盃を、グラスを傾ける教頭先生。お鍋の方は締めのラーメンが投入されて各自の丼にドッカンと。教頭先生が御機嫌でズルズルと啜り、スープもすっかり飲み干した頃合いを見計らったように会長さんが。
「…ハーレイ、今日は泊まってく? もう遅いしさ」
「かまわないのか?」
「部屋は余っているからね。それともアレかな、ぼくと一緒の部屋がいいとか?」
ぼくのベッドは大きいから、と妖艶な笑みを向けられた教頭先生は酔った勢いで首をコックリと。普段のヘタレは何処へやらです。
「なるほど、ぼくのベッドを希望、と。…それじゃ好みのシチュエーションは?」
「シチュエーション?」
「脱がしたいとか、脱いで欲しいとか、その辺だけど」
うわわわわ…。会長さんったら、大人の時間な質問をぶつけるつもりですよ! これじゃ「ぶるぅ」が押し掛けて来ておませ発言をかましているのと特に変わりはないような…。でもでも、相手は教頭先生。悲惨な事にはならない筈、と高をくくった私たちですが。
「………。強いて言うなら騎乗位だろうか」
「「「…キジョーイ?」」」
なんじゃそりゃ、と頭上に飛び交う『?』マーク。洗剤のジョイとは違うんですよね?
「騎乗位ねえ…。ぼくにそれをやれと?」
「やはり男のロマンだろう。…お前が自分で乱れてくれれば最高の気分だと思うわけだな」
さぞかし美しいだろう、と教頭先生はウットリと。
「…私の上で乱れまくるお前を見ていられれば天国だ。もうそれだけで私の方も」
「何発でもヤれる自信がある、と」
「もちろんだ!」
それこそ徹夜で抜かず六発エンドレス! と鼻息も荒く盃を空にし、ワインを喉に流し込み…。教頭先生、絶好調に熱く語っておられますけど、ヌカズロッパツって何のこと?
「…なんか通じてないみたいだよ、そこの子たちに」
ねえ、ハーレイ? と会長さんが茶々を入れても教頭先生は気になさらずに。
「いや、私はだな…。お前さえいればもう充分で…。どうだ、今から試してみないか?」
「オッケー、騎乗位で朝までなんだね」
まあ一杯、と会長さんが熱燗を注ぎ、教頭先生がクイッと一気に。どうなるのやら、とハラハラしている私たちを他所にワインと熱燗を飲み続けた果てに…。
「ふん、騎乗位が聞いて呆れる」
酔っ払いめ、と会長さんの冷たい瞳。教頭先生はダイニングの床に仰向けに転がり、グオーッとイビキをかいておられました。
「ぼくに何処まで求めているのか事情聴取をしてみたけれど…。酔っ払った末に出た本音ってヤツが騎乗位ねえ…。まず絶対に無理っぽいよね」
「おい、キジョーイとやらは何なんだ?」
分からんぞ、とキース君がすかさず突っ込み、私たちも「教えて下さい」とお願い目線。会長さんはフウと溜息をついて。
「君たちに通じる筈もないけど、漢字で書くと騎馬戦の騎と乗るとで騎乗。それと位さ。大人の時間の楽しみ方の一つってヤツだね、上級者向けの」
「「「………」」」
意味はサッパリ不明でしたが、上級者向けと言われたことで教頭先生には無理だと分かります。酔った勢いで口には出来ても、その実態は鼻血三昧のヘタレ人生なわけですから。
「…さて、この思い上がりも甚だしいバカをどうしてくれよう…。お望みの騎乗位とやらを実現するなら騎馬戦かなぁ?」
ぼくが乗れればいいんだし、と会長さんはワインを一口。ちゃんぽんブレンドもちゃんぽんも無しにワイン一筋、酔っ払ってはいない模様で。
「だけどハーレイはこのガタイだし、騎馬戦しようにも組める人がね…」
「そうだな、かなりキツイと思うぞ」
やってやれないことは無さそうだが、とキース君が応じれば、会長さんが。
「無理やり騎馬戦をやらかしたって、ハーレイとぼくとの二人きりにはならないし…。二人きりでぼくが乗っかるとなると、肩車しか無いんだろうか?」
「「「肩車?」」」
「騎乗位はねえ、ぼくがハーレイの上に乗っかる所に意味がある。肩車でも乗ってはいるしね」
ただし少々問題が…、と考え込んでいる会長さん。
「ハーレイの肩に乗っかるとなると、この首の後ろにハーレイの喜ぶ部分がグッと密着! それじゃハーレイが喜ぶだけだし、ぼくだって気分がよろしくない」
そこを何とか出来ないものか、とブツブツ呟く会長さんに「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「んーと…。ハーレイがブルーのお馬さんになるの?」
「そんなトコかな、肩車だけど」
「お馬さんなら、鞍をつければいいんじゃないかと思うんだけど…」
お馬さんに乗るなら鞍が要るよね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は無邪気な笑顔。教頭先生に鞍ですか? それも肩車に乗るために?
教頭先生の夢の騎乗位を別の形で実現したいらしい会長さん。何も分からない「そるじゃぁ・ぶるぅ」の鞍発言にピンと何かが閃いたようで。
「馬には鞍かぁ…。これは使える」
何処だったかな、と壁の方を眺めていたかと思うと「あった、あった」と包帯みたいなモノが宙にポンッ! と。なんですか、それは?
「これかい? ノルディの診療所から失敬してきたギプス用包帯」
変形自由で固くて丈夫、と会長さんはイビキをかいている教頭先生の上体を起こせと柔道部三人組に指示を出しました。
「そうそう、そんな感じで暫く起こしといてよ。型を取るから」
「「「型?」」」
「ギプスで鞍を作るわけ。本来は水に浸して使うんだけど、その辺はサイオンでどうとでも」
まずは首の後ろ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」と二人がかりで包帯を当てて型取りを始めた会長さん。ギプス用包帯は固まるまでに時間がかかるそうなのですが、そこもサイオンで省略可能で。
「首の方はこれでOK、と…。次は肩だね、でもって後で組み立てて…」
とにかく採寸、と教頭先生の首から両肩の型をギプス包帯で取った会長さん。お次は強力な接着剤の出番で、首の部分と肩の部分をくっつけて…。
「これでよし、と。鞍の基本の形は出来た。問題は座り心地の方だね」
「かみお~ん♪ クッションみたいにする? それとも革張り?」
どっちでも作っちゃうけれど、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」はやる気満々。会長さんは再び床に転がされた教頭先生をゲシッと蹴飛ばし、「両方で」と「そるじゃぁ・ぶるぅ」に。
「座り心地が大切だから、クッションで衝撃を緩和だね。でもって仕上げは革張りで!」
「分かった! ハーレイ専用の鞍なんだね♪」
ぼく、頑張る! と「そるじゃぁ・ぶるぅ」がギプス包帯で組み上げられた型を小さな両手で確かめています。教頭先生の身体に当たる側にも革を張るとか言ってますけど、一晩じゃ流石に無理でしょうねえ…。
ちゃんぽんブレンドと白ワインのちゃんぽんで泥酔なさった教頭先生は型取りされた後、柔道部三人組に担がれてゲストルームへと運ばれました。翌朝、私たちが朝食を食べ終える頃にようやく目覚めて謝りまくって帰られたものの、記憶は一切無かったようで。
「つくづくバカだね、本音を暴露したというのに」
まるで気付いてないのが笑える、と会長さんがケラケラと。
「これは絶対、鞍を作って乗らなくちゃ! まずは校内一周からだね、罰ゲームとでも説明しとけばゼルたちだって気にしないから」
「「「………」」」
シャングリラ学園で乗ろうと言うのか、と私たちは絶句。しかし会長さんは鞍さえあれば肩車でも平気らしくて、鞍が完成した月曜日の放課後。
「見てよ、ぶるぅの力作を! 立派な鞍だろ?」
これでハーレイの首にも肩にも触れずに乗れる、と見せられた鞍は茶色の革張り。
「肩車だからね、ハーレイの頭は持つしかないわけだけど…。これで早速校内一周、騎乗位の旅に出掛けてこよう」
行くよ、と促されてカボチャのムースケーキを喉に押し込み、みんな揃って教頭室へ。問題の鞍は「そるじゃぁ・ぶるぅ」が大切そうに頭の上に掲げています。本館にある教頭室に着くと、会長さんが重厚な扉をノックして。
「…失礼します」
「なんだ?」
書類をチェックしていた教頭先生が顔を上げ、先日の醜態を思い出したらしく。
「…ああ、そのぅ…。なんだ、この間はすまなかった」
「どういたしまして。お蔭で君の夢ってヤツがよく分かったから来てみたよ」
ニッコリ微笑む会長さんに、教頭先生は首を捻って。
「…夢?」
「そうだよ、君が心の底に熱く秘めている男のロマンというヤツさ。…騎乗位だってね?」
「…な、な、な……!」
何故それを、とアタフタしている教頭先生の机の上から書類がバサバサ床に雪崩を。会長さんは散らばった書類を拾い集めて「はい」と机に纏めて置くと。
「君が自分で叫んだんだよ、ぼくとやるなら騎乗位がいい、と。…それで考えたんだけど…」
今からどう? と妖艶な瞳を向けられた教頭先生の鼻から毎度お馴染みの鼻血がブワッ。…騎乗位とやらは鼻血多めで噴出するほどヤバイ代物みたいですねえ?
それから十五分ほどが経ち、教頭先生の鼻血が治まった頃。逞しい肩に特製の鞍を乗っけた会長さんが教頭先生の肩に跨り、右手に持った鞭をピシッ! と鳴らして。
「さあ、ハーレイ。お望みどおり乗ってあげたよ、校内一周!」
「…こ、この格好で行けと言うのか?」
「君が願った騎乗位だ。まさに本望だと思うんだけど」
歩け、歩け! と会長さんの鞭がピシピシと。仕方なく歩き出された教頭先生、本館を出るなりゼル先生とバッタリ遭遇。ゼル先生は肩車な会長さんと教頭先生をジロジロ見比べた挙句。
「ハーレイ、それは新手のセクハラかのう?」
「ち、違う! こ、これはブルーが…」
決して私が乗せたわけでは、と冷汗三斗な教頭先生の肩の上から会長さんが。
「ぼくもセクハラは御免だからねえ、鞍を作って乗ってるよ。…実はさ、こないだの週末、みんなでパーティーしていた時にハーレイが酷く酔っちゃって…。思い切り場が白けちゃったし、罰ゲームってことで馬にしたわけ」
「なるほどのう…。馬か、こやつが」
「そうなんだ。だからね、君からも罰を与えたかったら餌やりタイムを設けるけれど」
「「「餌やりタイム?」」」
ゼル先生と私たちの声が見事にハモりました。教頭先生も怪訝そうですが、会長さんは。
「ぶるぅ、ニンジン!」
「かみお~ん♪ お馬さんの好物だよね!」
ニンジンたっぷり、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が背負っていたリュックの中身は大量の生のニンジンでした。そういえばリュックを背負ってたっけ、と今頃気付きましたけど。
「ここから好きなのを一本出してよ。それをハーレイが食べるから!」
生のまんまでボリボリと、と聞いたゼル先生はニヤリと笑って特大の一本を選び出し。
「ほれ食え、ハーレイ! 生徒の前で酔っ払うなぞ言語道断、馬にされるのも当然じゃて」
「…う、うう…」
生のニンジン、しかも皮つき。教頭先生の額に脂汗が滲みましたがゼル先生は手を引っ込めず、会長さんは鞭でビシバシと。
「ほら、食べるんだよ、ハーレイ号! とても美味しいニンジンだからね」
マザー農場の採れたてニンジン! と促されまくった教頭先生、退路を断たれて生ニンジンをバリバリと。そこから先の校内一周騎乗位の旅、噂を聞き付けたブラウ先生やエラ先生にヒルマン先生までがニンジンを食べさせたいと何度も現れ、リュックはすっかり空っぽでしたよ…。
「ふふ、生野菜は身体にいいって本当なんだねえ?」
あれからハーレイは毎日快調! と放課後の「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋で会長さんがクスクスと。
「植物繊維は便秘に効くって前から聞くけど、ドッサリ出ているみたいだし」
「出すぎだろうが!」
キース君が噛み付き、シロエ君も。
「どう考えても効きすぎです! あれは快調とは言いません!」
「ですよね、少しやつれてらっしゃいますよ」
マツカ君が頭を振るのも至極当然、生ニンジンを毎日リュック一杯食べさせられた教頭先生のお腹は連日下り気味。それでも会長さんに騎乗位をやめる気はさらさら無くて。
「さて、今日も楽しくお出掛けしようか。ハーレイ号が待っているからね」
「…それなんだけどさ」
もう一歩、踏み込んでみないかい? と背後から声が。
「「「!!?」」」
バッと振り返った先にフワリと紫のマントが翻り。
「こんにちは。なんか騎乗位の旅なんだってねえ?」
面白いじゃないか、と現れたソルジャーは「そるじゃぁ・ぶるぅ」が両手で持っていた特製の鞍を検分すると。
「この鞍はよく出来ているけど、乗ってる馬がイマイチかと…。騎乗位の達人のぼくからすれば中途半端もいいところだよ」
「退場!!」
すぐに出て行け、と会長さんが突き付けたレッドカードに怯みもせずにソルジャーは。
「誰も本気で騎乗位をやれとは言っていないさ、君にその手の趣味は無いしね。…だけど騎乗位を気取るんだったら裸馬! 鞍はともかく、服を着込んだ馬じゃ興ざめ!」
騎乗位はマッパの馬に跨ってなんぼなのだ、と自説を展開するソルジャー。なんのことだか分かりませんけど、服を着た馬……いえ、教頭先生に跨ったのでは気分が乗らないらしいです。
「せめてアレだね、褌一丁! それなら文句は無いだろう?」
「…褌かぁ…。確かに褌一丁で外を歩くには不向きな季節になっているけど…」
「褌だってば、裸馬でこそ騎乗位が本領を発揮するんだとぼくは思うな」
ついでにハーレイは今以上に晒し者度がアップ、と唆された会長さんが頷いたまでは良かったのですが…。
「なに、全力で走れだと?」
別に私は構わんが、と教頭先生。私たちに紛れ込んだソルジャーも込みで出掛けた教頭室で、会長さんは褌一丁での校内一周を命じた上で全力疾走のコマンドまでも。教頭先生は承諾したものの、いつもの鞍をまじまじ見詰めて。
「乗り手のお前は大丈夫なのか? 振り落とさないという自信が全く無いのだが…」
「ああ、そこは全く問題ないよ。暴れ馬は他の面子に試させる。キースたちが乗って大丈夫そうなら最後にぼくが……ね。逆に言うなら君の運かな、祭りの如く暴れまくって走りまくっても誰も落ちなきゃ騎乗位の栄誉」
ただし手加減したら騎乗位は終わり、と冷たい口調の会長さん。その一方ではキース君たちが真っ青な顔をしています。
「…お、俺たちに乗れと言うのか?」
「ぼくも乗るわけ? …走ってるヤツに?」
落馬するよ、と泣きの涙のジョミー君たち。なのに教頭先生は会長さんを最後に乗せる栄誉が欲しくて仮眠室に引っ込み、水泳用の赤褌だけをキリリと締めて戻って来て。
「誰が乗るのだ? 私とブルーの未来のためにもしっかり乗りこなして欲しいものだが…」
「「「…は、はいっ!」」」
落ちたら絶対に教頭先生に恨まれる、と怯える男子たちの思念がヒシヒシと。とはいえ、無事に乗りこなしても会長さんに恨まれそうで、どちらに転んでも針のむしろというヤツです。どうなるんだろう、とスウェナちゃんと私が顔を見合わせていると。
「かみお~ん♪ ぼく、乗りたい!」
乗ってもいいよね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が元気に右手を上げました。お子様なだけに私たち以上に事情が掴めず、お祭りという景気のいい言葉に反応しちゃったみたいです。
「そうか、ぶるぅが私に乗るのか。…落っこちるなよ?」
ではニンジンは他の誰かに預けておけ、と教頭先生が床に屈んで「そるじゃぁ・ぶるぅ」を肩車。ニンジン入りのリュックはサム君が預かり、教頭先生が立ち上がって。
「では行くぞ。ぶるぅ、しっかり掴まったな?」
「うんっ! しゅっぱぁ~つ!」
ハーレイ号、発進! と可愛らしくも高らかな声が号令、褌一丁の教頭先生は肌寒いを通り越した晩秋の校内一周へと旅立たれました。パカラッ、パカラッと効果音を入れたくなるような激しい走りで疾走中。今日のお供は男子に任せてギブアップしないとやってけません~!
右に左にと身体を揺すって走りまくった裸馬こと褌一丁な教頭先生。今日もゼル先生たちからニンジンを貰っていたそうですけど、それ以外の時間は全力で校内を駆け抜けて…。
「どうだ、ブルー! やり遂げたぞ!」
ぶるぅは肩から落ちなかったぞ、と教頭室に戻った教頭先生は満面の笑み。
「私は手加減していない。そうだな、ぶるぅ?」
「楽しかったぁ~! ブルーも乗ったらいいと思うよ、すっごく速くて面白いから!」
歩いてるのとは違うと思う、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」の瞳がキラキラ。体験してきた凄い走りを会長さんにも、と心の底から思い込んでいる瞳です。でも…。
「ぶ、ぶるぅ…。ぼくはそのう、お前ほど身体が軽くはないし…」
必死に逃げを打つ会長さんに、教頭先生が胸を張って。
「いや、お前が羽根のように軽いのは承知している。ぜひ乗ってくれ、せっかく祭りな気分なのだし…。そもそもお前を乗せるために馬になったのだしな」
肩車にももう慣れた、と自信溢れる教頭先生は褌一丁で校内を走らされて注目を浴びても晒し者というより祭りな気分が勝っているらしく。
「さあ、行こう! 最高の騎乗位を体験してくれ、今なら注目浴び放題だ!」
「そ、それはそうかもしれないけれど…」
ぼくの心は繊細で、と腰が引けている会長さん。まさか「そるじゃぁ・ぶるぅ」が乗るとも思わず、男子の誰かが乗せられて落馬と踏んでいたに違いありません。うかうかと乗る約束をしていたばかりにソルジャー言う所の裸馬に乗る羽目に陥りそうで…。
「乗らないのか、ブルー? いつもよりもスリルが増すと思うが…」
「そ、そういうのとは別の次元で嫌なんだってば!」
裸馬なんて、と会長さんが悲鳴を上げれば、ソルジャーがスイッと横から進み出て。
「どうやらブルーは乗る気を失くしたみたいだねえ? ぼくで良ければ喜んで乗せて貰うけど」
「…あなたがですか? まあ、それは…。誰も気付いていないようですが…」
ブルーそっくりのあなたが一緒に校内を走っていても、と教頭先生。校内一周暴走の旅にはソルジャーも同行したのです。会長さんも走ってましたし、瓜二つの人間がウロついていても誰にもバレていなかったことは事実。ということは…。
「ね、ぼくが乗ってもバレないってば! ブルーの代わりに是非乗りたいな」
スリル溢れる暴れ馬に、との申し出を教頭先生は快諾しました。そっくりさんとはいえ会長さんと見た目は同じです。騎乗位とやらに憧れる気持ち、ソルジャーにぶつけてみたいのでしょうね。
褌一丁の教頭先生は頑張りました。会長さんに乗っては貰えなくても、肩の上にはそっくりさん。もう夕方で冷え込む校内をくまなく駆け抜け、オマケ気分で校舎の階段も上り下り。付き添いで走った男子たちの方が息を切らす中、教頭室へと意気揚々と御帰還で…。
「如何でしたか、私の走りは?」
「良かったよ。ぼくのハーレイではちょっと無理かな、シャングリラの中で肩車なんて人目に立ち過ぎて無理だからねえ…」
楽しい経験をさせて貰った、と教頭先生の肩から滑り下りたソルジャーは会長さんの肩をポンと叩いて。
「最高だったよ、裸馬! やっぱり騎乗位はこうでないとね」
「シッ!」
余計なことを、と言わんばかりに会長さんが鋭く注意しましたが、時すでに遅し。教頭先生は聞こえた単語を復唱してみて。
「…裸馬……ですか?」
「そう! ぼくが提案したんだよ」
褌は最後の良心なんだ、とソルジャーが得意げな笑みを浮かべて。
「ブルーは君を晒し者にする方のチョイスで褌一丁と言ったけどねえ、騎乗位のエキスパートのぼくに言わせれば乗るなら馬は裸でなくっちゃ!」
「……はあ……」
教頭先生は腑に落ちない顔で、私たちもまたソルジャーの台詞は意味不明。エキスパートだと何故に裸馬、という問いが頭の中でグルングルンと回っています。
「分からないかな、君の憧れの騎乗位だよ? 肩車なんて遊びじゃなくって正真正銘、本番の方! ぼく……いや、君の夢ではブルーかな? 乗ってる方の気持ちにすればね、相手が服を着ていたんでは気分が出ないし、エロい気分にもなれないってば!」
すっぽんぽんの相手に跨るからこそ燃えるのだ、とソルジャーが言い放ち、教頭先生の鼻からツツーッと真っ赤な筋が。…えーっと、教頭先生には今の言い回しで通じたのかな?
「だからね、ハーレイ? 裸馬に乗る気分になれないブルーの代わりに、ぼくで良ければ乗ってあげるよ。ああ、勘違いしないでよ? 校内一周の旅じゃなくってホントの本番!」
遠慮しないで乗せてみて、とソルジャーは教頭先生の逞しい腕を掴みました。
「ぼくは鞍なんか使わなくっても裸馬には乗り慣れてるんだ、ホントの意味でね。…鞍なんか無しで乗せてみないかい? もちろんぼくも脱ぐからさ」
そっちの仮眠室で是非一発! と腕にしがみ付かれた教頭先生、ブワッと鼻血を噴きまして…。
「…ほ、本番……」
それはブルーと、と辛うじて言い終えるなりドオッと仰向けに倒れた身体。限界を突破したみたいですけど、裸馬とか本番って……なに?
「うーん…。やっぱり妄想の域を出ないか、こっちのハーレイ…」
今日はいけるかと思ったんだけど、と不満たらたらのソルジャーの頭を会長さんが拳でゴツン。
「なんだかんだで摘み食いする気で出て来ただろう!?」
「えっ? それはまあ…。そういう気持ちもゼロではないかな」
だけど最終目標は高く! とソルジャーは教頭室の天井に向かってブチ上げました。
「こっちのハーレイの夢は騎乗位、そこを叶えてあげないと! しかも最初から騎乗位だなんて素人さんには難しすぎるし、こう、色々と手順を踏んで! でもって見事に乗りこなすんだよ、君がこっちのハーレイを……ね」
「嫌だってば!」
肩車だけで充分なのだ、と会長さんは脹れっ面。
「そもそも本音が騎乗位だなんて、この秋限定かもしれないし! だから肩車でいいんだってば、それでもお釣りが来るレベル!」
「…この秋限定? 常に本気で騎乗位じゃなくて?」
その辺のランチやディナーのコースじゃあるまいし、と目を丸くするソルジャーですけど、会長さんはツンケンと。
「君はハーレイを分かっていないよ、妄想一筋で童貞一直線の寂しい独身男だよ? その時々の妄想加減で夢の本音はどうとでも変わる。たまたま今が騎乗位なだけ!」
「…そうなんだ…。それじゃ明日にはコロッと変わってシックスナインになったりも?」
「するだろうねえ、ハーレイだけに」
だから当分は乗馬とニンジンで苛めればいい、と会長さんは騎乗位とやらを継続する気らしいです。ソルジャーも呆れて物が言えないみたいですけど、騎乗位って実際、何なのでしょう? シックスナインとかヌカズロッパツとか、もう謎だらけ。大人の世界は分かりません~!
馬になりたい・了
※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
教頭先生の夢は叶うどころか、別の方向へと向かってしまったみたいですねえ?
肩車とはいえ、生徒会長に乗って貰って嬉しい気持ちはしたでしょうけど…。
9月の更新は第3月曜だと今回から1ヶ月以上空いてしまいますから、月2更新。
次回は 「第1月曜」 9月7日の更新となります、よろしくです~!
※毎日更新な 『シャングリラ学園生徒会室』 はスマホ・携帯にも対応しております。
こちらでの場外編、8月はお盆の棚経ですけど、問題はそれに留まらないようで…。
←シャングリラ学園生徒会室は、こちらからv
ハーレイが研修に出掛けて学校に来なかった日の帰り道。ブルーは家とは逆の方向へ行くバスに乗って、町の中心部に出て来ていた。
(…今日はハーレイ、来てくれないしね)
平日でも仕事が早く終わると家を訪ねて来てくれるハーレイ。しかし研修の日は遅くなることをブルーは知っていたし、今日がそうだと分かっていたため最初から寄り道を予定していた。母にもきちんと言って来たから時間の方は大丈夫だ。
(えーっと…)
目指す場所は書店。前にハーレイがシャングリラの写真集を見付けて買って来た店。本が好きなブルーも以前から何度も来ているけれども、前世の記憶を取り戻してからは初めてだった。ビルの入口を入って、真っ直ぐに歴史関連のコーナーへ。
其処へ向かう途中ですれ違った年上の女生徒のグループが肘でつつき合ってブルーを見ている。聞こえて来る「ソルジャー・ブルー」の名前。似ているだとか、そっくりだとか。
(…仕方ないよ、本人なんだもの!)
脹れっ面になりかかったら「可愛い!」と叫ぶ声まで聞こえた。
(見世物じゃないし!)
このせいだ、と辿り着いたコーナーの棚に並べられた写真集の表紙を睨む。売れ筋の本は表紙が見えるように陳列してあり、其処に諸悪の根源が居た。
一番有名な前の生でのブルーの写真。真正面を向いたソルジャー・ブルー。
ソルジャー・ブルーといえばこの写真、と誰もが知っている一枚なのだが、ブルー自身にはいつ撮られたのか記憶が無かった。こんな顔をしてカメラに向かった覚えは無いから、連続した映像の中の一瞬を抜き出したものなのだろうが…。
(…どうせ当分、こんな顔にはなれないし!)
前世の自分と同じくらいに育たなくては、こういう大人びた顔にはならない。この顔になるまでハーレイとキスも出来はしないし、見ているだけで恨めしくなる。こんな顔には用事は無い。
「えーっと…」
ぐるりと見渡した歴史書コーナー。写真集ばかりを集めた棚で一番目立つのが前の生のブルー。もちろんジョミーの写真集もあるし、キースのもある。トォニィのまでがあるというのに…。
(…やっぱり無いや…)
探している人の名前を冠した写真集は何処にも無かった。下調べをしたから出ていないらしいと知っていたけれど、自分の目で確認したかった。もしかしたら、と。
(…なんで無いわけ?)
写真集の棚から視線を移せば、其処にはズラリと航宙日誌が詰め込まれている。シャングリラのキャプテンだったハーレイが欠かさず付けていた毎日の日誌。超一級の歴史資料となった日誌は、文庫版からハーレイの筆跡をそっくり写し取った研究者向けの複製品まで揃っているのに。
(航宙日誌は山ほどあるのに、写真集は一冊も出てないなんて…)
片手落ちだよ、とブルーは深い溜息をついた。
(…ハーレイ、人気が無いのかな…)
ブルーにはそうは思えない。前の生でのブルーの恋人、キャプテン・ハーレイ。シャングリラの舵を握っていたハーレイは威厳があったし、人望もあった。それなのに何故、ハーレイの写真集は一冊も存在しないのか。
(出せば売れると思うんだけどな…)
真剣にそう考えるブルーは現実が見えていなかった。ハーレイよりは青年の姿のジョミーの方がモテただろうとは思うけれども、ブルーの認識はその程度。自分自身がハーレイを誰よりも好きで愛していたから、他の人の目にも素敵に映ると信じていた。
ゆえに全く気付いてはいない。そのハーレイには写真集を出して貰えるほどの華が無いことに。
(…ハーレイの写真集が欲しいのに…)
ハーレイの写真が欲しかった。
ブルーが持っているハーレイの写真はたった一枚。転任教師の着任を知らせる学校便りに載った小さなモノクロ写真しか無い、今のハーレイ。
キャプテン・ハーレイだった頃のハーレイなら教科書にあるが、それでは足りない。自分だけのハーレイの写真が欲しい。
前のハーレイの写真でもかまわないから。どうせハーレイは前とそっくりだから。
そう思ってやって来たというのに、ハーレイの写真集は無いなんて…。
航宙日誌に入っている写真は教科書のと同じ。如何にもキャプテンといった風情のお堅い表情。キャプテン・ハーレイの写真の定番中の定番。
(…どれもコレだよ…)
何冊もの航宙日誌を開いてみたが、ブルーの求めるハーレイの写真は其処には無かった。
(もしかしたらジョミーの写真集に入っているとか?)
ジョミーと一緒に写っていないか、と端から開いて探したけれども、相手はジョミーの写真集。其処に長老たちの姿は全く無かった。もっと年若い世代の者たちがジョミーと共に収まっている。どれを開いてみても同じで、ハーレイは参考写真のみ。定番中の定番の写真。
(…うーん……)
ジョミーの写真集に写っていない以上は、前の生での自分の名がついた写真集を開いてみるしか無かった。これならば確実にハーレイが写っているだろう。
例の真正面を向いた自分が表紙の一冊を取って、ページを捲った。何処かにきっと…。
(いた…!)
胸がドキンと高鳴ったけれど、穏やかな顔のハーレイの隣に余計な人物。ハーレイの視線を独占している前の生の自分、ソルジャー・ブルー。
いかめしい顔つきのハーレイではなくて、大好きな優しい表情なのに。定番中の定番の写真とは違うハーレイの本来の姿が其処に在るのに、鳶色の瞳は写真集を広げるブルーを見てはくれない。ハーレイの視線の先には別の人物が居る。
(うー……)
よりにもよって、前の生の自分が恋のライバル。
小さなブルーよりもずっと大人の、ハーレイと本物の恋人同士だったソルジャー・ブルー。どう頑張ってもブルーは勝てない。大好きなハーレイの鳶色の瞳はブルーの方を向いてはくれない。
(なんだか悔しい…)
悔しいというより腹が立つ。
ミュウの長、ソルジャーの貌をして涼しげに立つソルジャー・ブルー。けれど隣にはハーレイがいる。穏やかにブルーを見詰めるハーレイ。
誰も気付きはしないけれども、ブルーには分かる。並んだ二人は恋人同士。大好きでたまらないハーレイを我が物顔で一人占めしているソルジャー・ブルー。これは非常に腹立たしい。
(もっとマシな写真が欲しいんだけど…)
写真集のページをパラリと捲って、「あっ!」と思わず息を飲む。
柔和な笑顔のキャプテン・ハーレイ。横顔だけれど、この顔が好きだ。
それなのにハーレイの視線が向けられた先に、恋敵。しっかりと前の自分が居た。
(…あんまりだよ…)
どうして自分まで写っているのか、と文句を言っても始まらない。これはソルジャー・ブルーを収めた写真集であって、ハーレイの方が明らかにオマケなのだから。
(…もっと他のは?)
手にした写真集を最後まで調べたブルーは次の一冊を手に取った。ソルジャー・ブルーの写真集ならば呆れるほどに何冊もある。きっと何処かに自分の求めるハーレイが、と頑張ってみることにした。いくらなんでも全部探せば一枚くらいはあるだろう。
憎々しいソルジャー・ブルーがハーレイと一緒に写っていようが、それを帳消しに出来る一枚。ブルーの意に適うハーレイの写真が一枚くらいは、きっと何処かに…。
(これは合格…、っと)
心の中でそう呟いて、ハーレイが写っていなかった写真集を元の棚に戻す。片っぱしから調べる間にブルーの頭に妙な基準が出来つつあった。
探しているものはハーレイが写った写真なのだが、そうした写真にはもれなく前の自分がつく。ハーレイと本物の恋人同士だったソルジャー・ブルー。今のブルーには手が届かない大人の身体を持ったソルジャー・ブルーがハーレイと一緒に写っているのだ。
ハーレイの表情が好ましいものであればあるほど、沸々と怒りがこみ上げて来る。どうして隣に自分ではなくてソルジャー・ブルーが澄ました顔で写っているのか、と。大好きなハーレイを奪うソルジャー・ブルーに腹が立つから、写真集の中にハーレイの姿が一枚も無いとホッとした。
ハーレイを連れていないソルジャー・ブルーの写真集は怒りを覚えないから合格。連れていれば当然不合格だが、そのハーレイが良い表情なら購入するかどうかの検討の対象で補欠扱い。
合格、不合格、それから補欠。
そういう基準でソルジャー・ブルーの写真集を分類してゆく小さなブルーは記憶力が良く、特に目印を設けなくても補欠がどれかはしっかり覚えた。
ソルジャー・ブルーの写真集は数多いだけに、調べ終えるまでに一時間近くかかっただろうか。ようやく作業を済ませたブルーは補欠扱いの写真集を纏めて籠に丁寧に入れた。
(…重い……)
写真集は紙の質が良いから、並みの本より遙かに重い。それが何冊も詰まった籠はブルーの細い腕にズシリときたけれど、棚の前では比較しながら選べないから仕方ない。重たい籠を引っ提げて歩き、フロアの中央に設えられたテーブルへ。
其処は購入前の本を広げて読める場所。コーヒーや紅茶、ジュースといった飲み物を購入すれば誰でも座れて、本を買うべきか買わざるべきかを好きなだけ検討出来る場所。
もちろん買わずに帰っても良い。飲み物の代金が一種の立ち読み料金だから。
ソルジャー・ブルーの写真集を山のように詰めた籠を運んで行ったブルーは椅子を確保し、次にオレンジジュースを買った。冷たいジュースをストローで一口、腕の疲れが取れた気がする。籠の中身をテーブルに積み上げ、どれにしようかと広げては眺めた。
(こっちはコレで、こっちのがコレで…)
どの写真集にもハーレイが居る。キャプテンの制服を着た前の生のハーレイ。少し厳しい表情もいいし、柔らかな笑みも捨て難い。どのハーレイもブルーの目には魅力的だし、素敵に映る。
(…どれもいいよね…)
とてもハーレイらしい表情。そういうハーレイが写った本ばかりを選んだのだから、決め難い。どれか一冊、と思いはしても選べない。
(…こっちより、こっち? でも、さっきのとコレとなら…)
何冊ものソルジャー・ブルーの写真集をテーブルに並べ、検討を続ける小さなブルー。
買ったジュースも飲むのを忘れて見入っているブルーは格好の広告塔だった。なにしろ顔立ちがソルジャー・ブルーの少年時代にそっくりなのだし、人目を惹かない筈が無い。
「ソルジャー・ブルー」だの「凄く可愛い!」だのという声が交わされ、ソルジャー・ブルーの写真集を探しに歴史書のコーナーへ足を運ぶ客の多いこと。ブルーが合格と不合格に分類して棚に戻した写真集はもちろん、補欠扱いで検討中の本に代わって補充された本も次々と売れた。
しかし広告塔になっているブルーの頭の中では…。
(…なんで、ぼく抜きのハーレイって無いの!?)
素敵なハーレイの写真は一枚残らずソルジャー・ブルーだった自分がセット。ハーレイの表情がブルーの気に入れば入るほど、対になったソルジャー・ブルーの存在が目障りでたまらない。
今のハーレイが自分を見てくれるような瞳がソルジャー・ブルーに向いていることが気に障る。どうして自分を見てくれないのかと苛ついてしまう。
写真の中のハーレイがこちらを向くことは無いし、その視線の先のソルジャー・ブルーは前世の自分だと頭では分かっているのだけれども、感情がそれについていかない。
(ハーレイがぼくを見てくれないなんて…!)
ソルジャー・ブルーを見てるだなんて、と前の生の自分に対してこみ上げてくる理不尽な怒りを抑え切れない。
前の自分に嫉妬するだなんて、愚かにもほどがあるけれど。
馬鹿馬鹿しいにもほどがあるのだけれども、どうにもこうにも我慢がならない。
ハーレイがこういう表情を向ける相手が自分以外の人間だなんて、それが前世の自分であってもあんまりだ。この写真が自分の所有物ならハサミでジョキジョキと切ってしまって、余計な人間が写った部分を屑籠に放り込みたいくらいに。居なかったことにしたいくらいに…。
見れば見るほど腹が立ってくる、キャプテン・ハーレイと前世の自分のツーショット。ブルーが素敵だと思うハーレイの写真には必ず、ソルジャー・ブルーが写っている。ハーレイのいい表情を引き出せる恋人、ソルジャー・ブルー。前世の自分が居るからこそのハーレイの顔。
(…仕方ないんだけど…。本当に仕方ないんだけど…!)
恋敵なソルジャー・ブルーがくっついていてもいいから素敵なハーレイの写真が載った写真集を買うか、見る度に腹が立つだろうから買わずに帰るか。
散々悩んで、悩み続けて、ブルーはとうとう負けを認めざるを得なかった。ソルジャー・ブルーだった自分に今の小さな自分は勝てない。ハーレイと本物の恋人同士だったソルジャー・ブルーに敵う筈が無い。素敵な表情をしたハーレイの写真はどれもこれもソルジャー・ブルーのもので…。
(やっぱりやめた!)
買うもんか、とブルーは氷がとっくに溶けてしまったオレンジジュースをストローで一息に吸い上げ、写真集を全部、籠の中へと詰め直した。椅子から立ち上がり、係の店員に「買いません」と告げればそれでおしまい。重たい籠を運んで行かずとも、係員が棚に戻してくれる。
籠を運んでゆく係員が向かう歴史書コーナー。其処がソルジャー・ブルーの写真集の定位置。
ブルーには無い、ハーレイと本物の恋人同士になれる身体を持った忌々しくて憎い恋敵。あんなヤツの写真集なんか、と心の中で「ベーッ!」と舌を出す。
貴重なお小遣いを使って写真集なんか買ってやるもんか。
ハーレイの写真は欲しいけれども、あんなヤツの写真集なんか買ってやらない。
教科書に載ったキャプテン・ハーレイの写真があれば充分、それと学校便りの写真。モノクロの小さな写真でも今のハーレイの写真なのだし、そっちの方がよっぽど値打ちがあるってば…!
ぷりぷりと怒りながら書店を後にし、帰ってゆくブルーは夢にも思いはしなかった。
ハーレイの写真が一枚も載っていないから合格、とテーブルに持って行きもしないで棚に戻した写真集。その中の一冊、「もうこの先は見なくてもいいや」とメギドの写真で始まる章を開かずに終わった『追憶』というタイトルの写真集をハーレイが買って持っていることを。
自分が見ずに終わった章がソルジャー・ブルーの最後の飛翔からメギドの爆発までの写真で構成された悲しすぎる章で、ハーレイが夜更けの書斎で独り号泣したことを。
ソルジャー・ブルーの一番有名な写真が表紙になった『追憶』。
その『追憶』がハーレイの書斎の机の引き出しの中で、ハーレイの日記を上掛けのようにそっと被せられ、温かな想いに優しく守られていることを……。
家とは反対方向の町の中心部まで出掛けて行って、帰りがすっかり遅くなったブルー。寄り道の成果は無かったどころか、前世の自分に嫉妬した挙句に腹が立ったというだけだった。
ハーレイの写真は手に入らなくて、結局、今も学校便りの小さなモノクロ写真を見ている。学校便りは一人一枚、失くしたら二度と手に入らない。だから大切に仕舞ってあるのだけれど。
(なんでハーレイの写真集って一冊も無いんだろう……)
今のハーレイは古典の教師で、水泳と柔道の腕が凄くてもプロの選手になったわけではないから写真集が無いのも分かる。しかしキャプテン・ハーレイだったらシャングリラの初代のキャプテンなのだし、写真集があっても良さそうなのに…。
(…ソルジャーとか国家主席とか…。トップでないと写真集は売れないのかな?)
きっとそうだ、と小さなブルーは考える。
前世の自分も、ジョミーもトォニィもソルジャーであり、キースは国家主席。歴史書コーナーに写真集があった四人の共通項はトップの地位に立っていたこと。
(ハーレイはシャングリラのキャプテンだったけど、トップじゃなくて二番手だしね…)
いくら偉くても二番手では本が売れないのだろう、と理解し、納得する。そうでなければ沢山の航宙日誌が歴史書コーナーに並ぶキャプテン・ハーレイの写真集が出版されないわけがない。
(ハーレイ、かっこいいんだけどなあ…。かっこよくてもトップじゃないからダメなんだ…)
ハーレイの写真集が欲しかったのに、と溜息をつく十四歳の小さなブルー。
恋は盲目という有名な言葉を小さなブルーは思い付きさえしなかった。
キャプテン・ハーレイの写真集を作った所でニーズが無いことに気付きもしない。
写真集を出して貰うには華が無いことも、渋くはあっても地味に過ぎるということにも。
何故ならハーレイはブルーにとっては最高だから。
前の生でも今の生でも、誰よりも大好きなハーレイだから。
そしてブルーは今日も学校便りを見詰める。
一枚きりの小さな小さなモノクロ写真の、着任を知らせる記事に刷られたハーレイを…。
写真が欲しくて・了
※前の自分に嫉妬してしまって、前のハーレイの写真を手に入れられなかったブルーです。
可哀相ですけど、傍で見ている分には可愛い姿かも…?
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「…現代に生まれた君たちには想像も出来ないと思うのだが…」
この前置きで始まったハーレイの授業はクラス中の興味を引き付けた。
通信技術が発達した今の時代にも存在している手紙なるもの。投函用のポストに入れれば遠くの星にもちゃんと届くし、絵葉書だって旅の記念として人気。最先端の通信手段よりもかなり時間はかかるけれども、レトロな通信方法として愛されている手紙のシステム。
ところがSD体制以前どころか、もっと遠い遙かな昔のこと。
自分たちが住んでいる地域に日本という小さな島国があって、その国の固有の文字が出来てから間も無い頃。なんと其処では互いに手紙をやり取りするだけで恋が出来たと言うではないか。
顔も見ないで、ただ手紙だけ。それで恋など出来たのだろうか?
「先生! 思念を手紙に乗せておくんですね!」
したり顔で発言した生徒は「君は授業を聞いていたのか?」とハーレイに一笑されてしまった。
そんな時代にサイオンなど無い。手紙に思念を乗せる、すなわち残留思念として籠めることなど誰も出来はしない。籠められるものは、あくまで真心。それに…。
「香りだな。香りと言っても香水じゃないぞ? 香と言ってだ、香りの素になる自然素材で出来た香料を燃やして色々な香りを出していたんだ」
詳しく説明をするとこれだけで時間が終わりそうだから興味のある者は自分で調べろ、と授業は更に先へと進む。
手紙に籠められた香りで書き手の人柄が分かる。お洒落な人か、奥ゆかしい人か。
それから手紙が書かれた紙の色と種類。色は季節に応じて選ぶのが基本。違う色を重ねて意味を持たせたりも出来、どんな色かで教養が知れる。紙の種類にも人柄が出る。
手紙には花の枝なども添えて出すもので、これまた人柄と教養が知れる。
一番最後に、書き手の文字。書かれた文字と手紙の文面から、書いた人の姿を思い浮かべる。
「どんな趣味の持ち主か、どういう性格の人なのか。…どうだ、手紙だけで充分伝わるだろう?」
これだけあれば、とハーレイが教室の前にあるボードを示す。のびのびとしたハーレイの文字。
「いいか、紙の色と種類と、香りと花だ。それに書き手の文字と文章。これで伝わる」
「本当ですか?」
「もちろん、時には思い違いもあったわけだが…。味わい深い時代だろうが」
せっかく授業で習った知識。一世一代のラブレターを出す時にでも役立ててみろ、とハーレイは手紙の書き方をボードを指しながら繰り返した。熱心にノートを書く生徒たち。
「ちなみに、この授業をやった時には何処の学校でも色つきの紙のセットがよく売れるそうだ。ただし、実際にそいつを使ってラブレターを書き、成功した例は知らないからな」
十年以上も教師をしてるが一つも知らん、とオチがついたから、大爆笑の渦に包まれたけれど。
「…買って来ちゃった…」
その日の夜、ブルーの部屋の勉強机の上には、色とりどりの紙のセットがあった。学校の売店で買って来たセット。本来は美術の授業で使うためのもので、今のところ美術で使う予定など無い。
つまりは今日のハーレイの授業。色とりどりの紙のセットとはおよそ無縁な古典の授業が思わぬ所で購買意欲を刺激した。
ハーレイが授業で言ったとおりに、売店の本日の人気商品。ランチに出掛けた食堂の隣に売店があって、ブルーのクラスの生徒が挙って押し掛けていた。男子も女子も、次から次へと。
いつも昼食を一緒に食べるランチ仲間も買っていたから、ブルーも買った。ランチ仲間は食堂で「買ってはみたけど、いつ使うんだ、コレ」と笑い合っていたし、ブルーも笑った。
ラブレターを書くには早過ぎる年頃の自分たち。
十八歳で結婚することは出来るけれども、平均寿命が三百歳を軽く超える時代、十四歳といえばまだまだ幼い。SD体制の頃は十四歳で成人検査などと言ったらしいが、今の時代は成人どころか子供時代の延長線上だ。
「いやもう、ホントにいつ使うんだよ?」
「ハーレイ先生が言っていたのって、これじゃねえのか? 成功例は知らねえってヤツ」
「そ、そうか…。使う前にすっかり忘れちまって、出さないってこともあるよな、うんうん」
出さないのでは成功するわけがない、と大笑いした。
飛ぶように売れていた色紙セットは引き出しの中で忘れ去られるか、はたまた美術の授業で使うことになった時、「あった、あった」と引っ張り出されて本来の用途で使用されるか。ハーレイのお勧めのラブレターとやらには使われないまま終わるのだろう、と。
「…みんなは使い道、ホントに無さそうだったんだけど…」
クラスのみんなが我も我もと買い込んでいた色紙セット。ブルーが知る限り、買わなかった子は多分いないと思う。それほどに売れていたのだけれども、色紙セットを買ったクラスメイトたちにラブレターを書いて渡す相手はいないだろう。
恋に恋するお年頃とさえ呼べないクラスメイトたち。恋よりも先に遊びに夢中で、男子も女子も互いを意識してさえいない。子供が身体だけ大きくなった、と表現するのが相応しそうだ。身体が大きくなったと言っても、そちらもまだまだ大人になるには程遠いのだが…。
けれどブルーは皆とは違う。
名実共に学年で一番のチビだけれども、中身が皆とは全く違う。三百歳を超えるまで生きた前の生での記憶があったし、前世ではちゃんと恋人がいた。ラブレターを書いて渡すどころか、キスを交わして身も心も固く結ばれた正真正銘の恋人同士。
だからブルーは恋を知っているし、その恋人とも生まれ変わって出会うことが出来た。キスさえ出来ない仲だけれども、再会して今も恋人同士。
ラブレターを書いて渡したい人がブルーにはいる。
今日の授業でそのラブレターの話をしていた、褐色の肌の古典の教師。大好きでたまらない前の生からのブルーの恋人。
そう、ハーレイにラブレターを書いて届けてみたい。
習ったばかりの知識を使って、書き手の人柄が伝わると聞いた遠い昔のラブレターを…。
「んーと…」
まずはラブレターを書くための紙の色を選ぶ所から。
ハーレイの授業では紙の種類も大切なのだと教わったけれど、色つきの紙のセットに収められた紙は一種類だけ。色が違うだけで厚みも手触りもまるで同じだし、気にしなくても大丈夫だろう。ハーレイは自分がこの種の授業をした日は、これが売れると言ったのだから。
「季節に合わせて選ぶんだよね?」
基本は季節に応じた色。今の季節なら何色だろう、と考えたけれど。
(…ハーレイ、確か教養って言った…)
選んだ色で教養が知れるなら、細かい決まりがあるのだろう。ハーレイが挙げた例は桜だった。白と赤とを重ねれば、桜。同じ桜でも赤と緑や、赤と濃い赤、白と桃色もあったと思う。そんなに色々あるというのに、例に挙がったのは桜だけで。
「…今の季節って、何色なわけ?」
調べようにも、色の決まりの約束事を何と呼ぶのか習わなかった。これでは如何にブルーの頭が良くても手も足も出ない。季節に応じた色なるものが選べない。
(季節の色が分からないってことは…)
ラブレターの紙は自分らしい色にすべきだろう。手紙は人柄を表すものだし、ブルーが書いたと一目で分かって貰えそうな色。
「…やっぱり白と紫かな?」
今のブルーにシンボルカラーは存在しないが、前世なら白と紫だった。
ミュウの長だったソルジャー・ブルー。紫のマントと白い上着はブルーだけが着た組み合わせ。同じソルジャーでもジョミーのマントは赤であったし、白と紫がブルーの色だ。
「白と紫の紙に書いたら分かるよね、うん」
手紙を読むのはハーレイだから。
ソルジャー・ブルーだった頃のブルーを支えてくれたハーレイだから。
「えっと…」
白と紫の紙を一枚ずつ出して、眺めてみて。
紫よりも白い紙の方が書かれた文字が読みやすそうだ、とラブレターを書く紙は白に決定。白い紙の下に紫を添えて、ソルジャー・ブルーらしい色の取り合わせ。
(これで良し…、っと)
ラブレターを綴る紙は決まった。でも、直ぐに書くのは恥ずかしいから、他に必要なアイテムを全部決めてから書くことにしよう…。
今日のハーレイの授業で習った遠い昔のラブレター。
大切な要素は紙の色と種類、香りに花。紙が決まれば次は香りの出番だけれど。
「…香りで書き手が分かるんだよね?」
これは困った、とブルーは小さな頭を抱えた。
自分らしい香りなど思い付かない。それにソルジャー・ブルーだった自分と今の自分では違うと思う。ハーレイもそんなことを口にしていた。ハーレイの大きな身体に甘えている時、ハーレイはよく笑っている。同じ甘さでも全然違う、と。
ハーレイに言わせれば、ブルーの身体は甘い香りがするらしい。前の生でも、今の生でも。
ただ、甘い香りの種類が全く違うらしくて、今のブルーは「お菓子の匂い」。いつもハーレイと二人で食べているような、お菓子の香りがするのだと聞いた。ふんわりと甘いお菓子の香り。
(…前のぼくって、どんな甘さ?)
お菓子の香りでないことは確か。しかし、これという香りに心当たりが無い。香水の類はつけていなかったし、ボディーソープも甘い香りではなかったような気がするし…。
(ハーレイにきちんと訊けば良かった…)
まさに後悔先に立たず。あのラブレターの授業の後では、どんな香りかを訊けば目的が知れるというもの。ラブレターの書き手を匂わせるどころか、届ける前に知られてしまう。
(お菓子の匂いでも、ぼくだって分かる…?)
白と紫の手紙にお菓子の匂い。前の生のブルーを表す色に、今の自分の香りの取り合わせ。些か似合わない気もするけれども、どちらも自分には違いないのだし…。
「お菓子の匂いがいいのかな?」
子供っぽくても、それが今の生での自分の香り。この際、お菓子でいい気もしてきた。
(…お菓子も色々あるんだけれど…)
どれにしようか、と迷う暇もなく閃いた。ハーレイの大好きなパウンドケーキ。母が焼くそれがハーレイの一番好きなお菓子で、一度だけ家に招かれた時も焼いて貰って持って出掛けた。
(パウンドケーキの匂いがいいよね、ハーレイの好きなパウンドケーキ)
まさか本物のパウンドケーキの欠片を手紙に付けられはしないし、パウンドケーキを紙に包んで香りを移すわけにもいかない。仕方ないから、後で母に訊いてみることにした。
パウンドケーキに使うであろうエッセンス。それを訊き出して、手紙に一滴。
(うん、パウンドケーキの匂いになるよね)
今の自分の香りだというお菓子の香り。ハーレイの好きなお菓子が一番いい。
ここまで決まれば、残るは花だけ。けれども、これまた難問だった。
(今の季節で、ぼくらしい花…)
どういう意味で自分らしいと言えばいいのか。自分に似合う花という意味か、自分を連想させる花という意味か。どちらでも多分正解だろうが、それにしたって難しい。
(…白い花かな?)
ソルジャー・ブルーだった頃には白い花が似合うとよく言われた。マントの色は紫だったのに、白い花。シャングリラにいた子供たちが被せてくれる花冠も白いクローバーのことが多かった。
(アルビノだったから白だよね、きっと)
そうは思うが、今の自分に白い花が似合うという気がしない。白いクローバーの花冠なら今でも何とかなりそうだけれど、白い百合や薔薇を手にした姿が絵になるだろうか?
(…前のぼくなら「貰ったんだな」って感じだけれど…。今だと誰かにあげる前かな)
自分が貰った花ではなくて、誰かに贈るための花。どうもそういう気がしてならない。そうした気持ちを抱くからには、今の自分に似つかわしい花ではないということ。
(どうしよう…。今のぼく、白い花とは違うみたい…)
香りも前の生とは違って甘いお菓子の匂いなのだから、似合う花も違ってくるのだろう。前世の自分なら白だったけれど、今はいったい何色なのか。
(花なんか貰ったことないし…)
今の生では一度も貰った覚えが無い上、花に譬えられたことも無かった。
(…それに、ハーレイにも花は貰わなかったし…)
前の生で花を貰っていたなら、その花を添えればブルーが書いた手紙なのだと気付いてくれると思うけれども、生憎と花は貰っていない。誰にも内緒の仲だったから、花を貰えはしなかった。
「…花がこんなに難しいなんて…」
いっそ自分に似合わなくても白い花で、と考えてみた。手紙は白と紫なのだし、前の自分が着ていた色。それなら白い花でもいい。ソルジャー・ブルーだったら白い花が似合う。
「よし!」
白にしよう、と決断を下し、何の花にするかという段になって。
(…あれ?)
花を添えた白と紫の手紙。
選んだ花の種類によっては急がないと萎れてしまいそうなそれを、どうやってハーレイの家まで届ければいいというのだろうか?
(えーっと…)
手紙を送るなら投函用のポストに入れるか、配達員の人に託すか。そしてハーレイの家へと届くわけだが、花を添えた手紙なんて聞いたことがない。配達の対象になるかどうかも分からない。
(授業では、なんて言ってたっけ…)
SD体制の時代よりも遠い昔のラブレター。今のような配達制度が無かった時代。
(んーと、んーと…)
手紙を書いたら、花の枝を添えて、お使いの人が届けにゆく。専門の配達機関ではなく、自分の家だけの配達係。小さな男の子が持って行ったり、大人だったり。
ハーレイの授業ではそう言っていた。ということは、ブルーの場合は…。
(パパかママなの!?)
自分の家だけの配達係と呼べそうな人は両親だけしかいなかった。
頑張ってハーレイ宛のラブレターを書いて、花を添えて両親のどちらかに…?
(ダメダメダメ~~~っ!)
父も母も不思議な顔をしながら届けてくれるかもしれないけれども、もしもハーレイに教わったようなラブレターの書き方を両親が知っていたならば…。
ブルーが想いを籠めて書いた手紙がラブレターだと両親にバレる。ハーレイに恋していることがバレる。手紙を開いて中を読まずとも、ブルーはハーレイが好きなのだと。
(それは困るよ…!)
とっても困る、とブルーは泣きそうな気持ちになった。
(ママにもパパにも頼めないよ…!)
あれこれ考えて、何の花を添えるか決めたら後は書くだけだったラブレター。
文章はまだ練っていなかったけれど、出すつもりだったラブレター。
ハーレイに出したくて色とりどりの紙のセットを買ったのに…。
(この手紙、ハーレイに届けられないよ…!)
習ったばかりの遠い昔のラブレター。
大好きなハーレイに白と紫の紙で、パウンドケーキの香りをつけて、白い花を添えて。ブルーが書いたと分かる手紙をそっと届けたかったのに…。
(……送れないなんて……)
ガックリと項垂れる小さなブルーは、ラブレターを書けずに終わりそうだったけれど。
「…買っちまったな…」
俺としたことが、とハーレイが書斎で苦笑する。机の上には色とりどりの紙のセットがあった。
自分は授業で話したけれども、ブルーは果たして色紙のセットを買っただろうか?
(…どうなったんだかな?)
何かといえばキスを強請ってくる小さなブルー。
ハーレイと早く本物の恋人同士になりたいと願う小さなブルー。
小さな身体で心も幼いブルーだけれども、ラブレターと聞けば勇んで買いに行きそうだ。
(しかしだ、相手はブルーだしな?)
買っていたとしても、可愛い手紙はきっと届きはしないだろう。
ハーレイの家まで朝早い内に、ラブレターをポストに入れに来られるブルーじゃないから。
瞬間移動が出来たとしても、そんな度胸は無さそうだから。
(手紙を届けてくれる人が無い、と気付いてショックで終わるんだろうな)
ハーレイはクックッと喉を鳴らして笑った。
そのハーレイのラブレターもまた、書いたとしても届ける方法が無いのだけれど。
(…あいつのパパとママにバレちまったら大変だしな?)
それでもブルーが小さな頭を悩ませていそうな気がしてくるから、ハーレイも椅子に深く座ってラブレターの書き方を考えてみる。
自分が出すなら前の生での制服の色と、マントの色とを重ねてみようか。
香りは前世でも好きだった酒。合成だった酒の代わりに、今度は本物の酒を一滴。
(さて、添える花は何にするかな…)
今の季節なら…、と古典の教師としての知識と、前の生の記憶とを混ぜながらハーレイも悩む。
(…俺に相応しい花と言ってもなあ…)
前の生では木彫りをしていたし、この際、花より木の枝でもいい。
それもまたいい、とハーレイの唇に微笑みが浮かぶ。
ブルーに送ってやりたいけれども、送れはしないラブレター。
そしてブルーからもラブレターは来ない。来ないけれども、ブルーならきっと…。
(うん、絶対に考えていたな、大真面目にな)
どんなラブレターだったのか、訊いてみたいけれど。
ブルーは脹れっ面になるだろうから、尋ねる代わりに想像してみる。
選びそうな紙は白と紫。それだけは多分、間違いない。
小さくてもブルーはブルーだから。前の生から愛し続けた、白と紫が似合うブルーだから…。
恋文・了
※ブルーとハーレイ、お互い、書いてみたくても書けないものがラブレターです。
教師と生徒の間柄では、流石にちょっと…。素敵な恋文、いつか出せるといいですよね。
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