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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

会長さんがハーレー製だとかいう白黒縞の海水パンツを披露しようかな、と言っていた水泳大会が迫ってきました。今日は大会に備えた健康診断。体操服を持って登校すると、A組の教室の一番後ろに机が一つ増えていて…座っていたのは会長さん。机の上には「そるじゃぁ・ぶるぅ」が座っています。グレイブ先生は入ってくるなり、二人に気付いて不機嫌な顔。
「諸君、おはよ…。またお前たちか!」
「またとは御挨拶だね、グレイブ。…水泳大会もちゃんと順位を決めるじゃないか。1位が大好きな君のために来たんだけれど、迷惑かな?」
「「「いいえ!!!」」」
クラス全員が叫びました。また会長さんが男子を引っ張り、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が女子に入ってくれるに違いありません。1位を取ってくれる助っ人たちが迷惑だなんてとんでもない!
「ふん、A組は他人に頼りっぱなしか。…それでは実力もつかんし、競争心も養えないと思うのだが」
「「「かまいませーん!!!」」」
クラス中の大合唱にグレイブ先生は舌打ちをして、水泳大会では問題を起こさないようにと釘を刺してから出て行きました。私たちは着替えを済ませ、あとは保健室に呼ばれるのを待つだけになっていたのですが…。
「あれ?…体操服、買ったんじゃなかったっけ」
ジョミー君が会長さんの服装に疑問を抱いているようです。前の健康診断の時と同じ水色の検査服なんですけど、言われてみれば検査服は「体操服を持ってないから」届けられた、と聞きましたっけ。でも球技大会の時の会長さんは学校指定の体操服。あの時、体操服を買っているのに、どうして検査服を着ているのでしょう?
「ハーレイの所に届いたんだよ。これを着て来いってことらしいね。…まりぃ先生の趣味なんだろう」
「「「まりぃ先生!?」」」
かなりの数の男子がワッと声を上げて会長さんの周りに殺到します。
「まりぃ先生、素敵ッスよねぇ!ご指名だなんて羨ましいっス!」
「よく保健室に行ってますよね。もしかして、いいコトしてるんですか?」
ワイワイと騒ぐ男子に「そるじゃぁ・ぶるぅ」が首を傾げて。
「いいコトって、なぁに?…ぼく、大きなベッドでトランポリンさせてもらうの大好きだけど、ブルーはあそこで寝るんだよねえ?」
「「「寝る!???」」」
ジュルッ、と涎が垂れそうな顔の男の子たちを会長さんが手を上げて制しました。
「シッ!君たち、声が大きすぎるよ。…ぼくを退学にしたいのかい?」
「い、いえ…。け、決してそんな…」
スゴスゴと自分の席に戻っていく男子生徒たち。女の子たちは真っ赤な顔で会長さんを見つめています。その中でアルトちゃんとrちゃんはお互いに肘でつつきあいながら、蕩けそうな顔をしていました。お守りの効果、絶大みたい。その内に女子から先に保健室に呼ばれ、私たちは当然のようにくっついてきた「そるじゃぁ・ぶるぅ」を連れてゾロゾロと…。

保健室の前の廊下で順番待ちをしている間、体操服の「そるじゃぁ・ぶるぅ」はスウェナちゃんと私の間に並んでワクワクしているようでした。健康診断ってそんなに楽しいかな?この前もやっている筈なのに。
「ねえねえ、今日は『せくはら』してくれるかな?」
いきなり爆弾発言をされて、私たちは目が点になりました。期待に溢れた顔をしていますから、本当にセクハラの意味を知らないようです。
「あ、あのね…。セクハラっていうのは、されない方がいいことなのよ?」
やっとのことでスウェナちゃんが言ったのですが、通じるわけがありません。
「ええっ、そんなの不公平だよ!ぼくだってちゃんと男の子なのに!キースもマツカもシロエもさ…柔道部の健康診断の度にセクハラだって言ってるし。…こないだの健康診断だって、クラスの男の子たち、セクハラだって言ってたよ。…嬉しそうな子、沢山いたよね」
恐るべし、子供の観察眼。「そるじゃぁ・ぶるぅ」の頭の中ではセクハラというのは『男の子だけが体験できる特別なこと』だと変換されているのでしょう。そりゃあ、確かに特別ですが…。
「だからね、ぼく、今日は頼んでみるつもりなんだ。『せくはら』してね、って♪」
あひゃあああ!とんでもないことになってきました。スウェナちゃんと私はもとより、アルトちゃんにrちゃん、話を聞きつけた他の子たちも必死になって止めるのですが、逆効果だったみたいです。
「ひどいや、みんなでダメ、ダメばっかり!…そんなにダメって言うんだったら、健康診断やめちゃうもんね。せっかく女の子の水着で水泳大会に出てあげようと思ったのにさ。いいもん、お部屋で昼寝するもん」
プゥッと膨れて立ち去ろうとした小さな背中にA組女子の必死の叫びが飛びました。
「「「待って、行かないでーっ!!!」」」
水泳大会で1位を取るには「そるじゃぁ・ぶるぅ」が必要不可欠。競技内容は知りませんけど、そうなのに違いありません。でなければA組に来てないでしょうし。「そるじゃぁ・ぶるぅ」はクルッと振り向きましたが、まだ拗ねた顔をしています。ここで機嫌を取らなかったら、ヒョイと姿を消しちゃうかも…。
「お願い、健康診断を受けて!」
「…でもでも…セクハラはやめといた方が…」
拝み倒しにかかった私たちがよほど憐れに見えたのでしょう。「そるじゃぁ・ぶるぅ」はコクンと頷き、スウェナちゃんと私の間に元通り並び直しました。
「まあいいや。ブルーも出てあげなさいって言ってたんだし、健康診断、受けてあげるね」
ああ、よかった…と胸をなでおろした時です。
「でも『せくはら』は注文するから。…止めたらその場で出て行っちゃうよ」
ひえええ!なんとか思いとどまらせようとジタバタしている間に、健康診断の列はどんどん進んで…。
「はい、お待たせ~。次の三人、中へどうぞぉ♪」
保健室の扉が開いて、スウェナちゃんと私と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は呼び込まれてしまったのでした。

「あらぁ、ぶるぅちゃん、今度も来たのねぇ。…また女の子になりに来たのかしら?」
まりぃ先生は今日もお色気たっぷりです。ウフン、と艶っぽいウインクをして、まずはスウェナちゃんと私の健康診断。身長や体重とかを測って、問診をして…てきぱきとお仕事を済ませ、それから「そるじゃぁ・ぶるぅ」の方を見ました。手元には一応、前回のデータがあるみたい。
「えっと、1年A組ね。今度も女の子として扱っとくけど、男の子は上半身を脱いでもらうことに…」
まりぃ先生がそう言いながらメジャーを用意した時です。
「ぼく、『せくはら』をしてほしいんだけど」
あちゃ~!スウェナちゃんと私は慌てて「そるじゃぁ・ぶるぅ」の口を押さえにかかりましたが。
「「あいたっ!!!」」
「あ、ごめん!…噛んじゃった…」
スウェナちゃんと私の手には見事な歯形がついていました。反射的に噛んでしまったのでしょう、「そるじゃぁ・ぶるぅ」はしょげています。
「どうしよう、ブルーに叱られちゃう…。噛んじゃダメって言われてたのに…」
「あらあら、噛み付いちゃったのねぇ。ちょっと見せて」
まりぃ先生は私たちの手についた歯形を調べ、血が出てないのを確認してから。
「大丈夫よ。ちょっと赤くなってるけれど、傷にはなっていないもの。しばらく経ったら消えちゃうわ。でも…今、教室に戻るのはマズイわねぇ?生徒会長は目ざといわよ」
そう言って、まりぃ先生は意味ありげな微笑を浮かべました。
「噛み付いちゃった痕が消えるまで、ここでゆっくりしていかない?…せっかくだからサービスしちゃう♪」
あ、あのぅ…。サービスって、いったい何を?スウェナちゃんと私がキョトンとしている間に、まりぃ先生は内線でヒルマン先生を呼び出して。
「すいませ~ん、保健室のまりぃですけど。…ちょっと急用ができまして…健康診断の代理をお願いできますか?…ええ、そうです。それじゃ、保健室の方へお願いしますぅ♪」
それから保健室の扉を開けて、廊下に並んでいたクラスメイトに言いました。
「あのね、スウェナちゃんたち、気分が悪くなっちゃったの。奥のお部屋で休ませるけど、私が付き添うことにするから…健康診断の続きはヒルマン先生にお願いしたわ。だからヒルマン先生がいらっしゃるまで待っててね。あ、それから…生徒会長はA組の男子に入っているのかしら?」
そうです、と誰かが答えると…。
「じゃ、生徒会長に伝えてくれる?健康診断は私が復帰してから来るように、って。…あの子は虚弱体質だから、正規の養護教師が診断しなくちゃいけないのよね」
クラスメイトはアッサリ納得してしまいました。伝えておきます、という声を聞いてから、まりぃ先生は扉を閉めて。
「じゃあ、奥の部屋へ行きましょう。ここは健康診断の続きに使うことになるから」
唖然としている私たちの前を横切り、まりぃ先生が「どうぞ」と開けたのは特別室への扉でした。

カチリ、と音がして扉に鍵がかかります。ど、どうしよう…。とんでもない所に連れ込まれちゃった…。休んでいる、と言われてしまった以上、逃げ出すわけにもいきません。青ざめている私たちを他所に「そるじゃぁ・ぶるぅ」は大きなベッドに大喜び。さっそく飛び乗って楽しそうにピョンピョン飛び跳ねましたが、そこに近づいたのは、獲物を狙う豹のような目をしたまりぃ先生。
「…ねぇ、ぶるぅちゃん。セクハラ、体験してみたい?」
「せくはら!?」
ピョーン、と大きく弾んで「そるじゃぁ・ぶるぅ」はフカフカの絨毯の上に飛び降りました。
「そうよ、せ・く・は・ら。…よかったら先生、一生懸命サービスしちゃうわ。どう?」
「ほんと?…ホントに『せくはら』してくれるの?」
「もっちろんよぉ♪…センセ、ぶるぅちゃんのこと、気に入っちゃった」
いらっしゃい、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」の手を引っ張って、まりぃ先生は特別室の奥へ歩いて行きます。そこには更に扉があって、二人は扉の向こう側へ…。固まっていたスウェナちゃんと私が我に返って駆けつけた時には、扉には鍵がかかってしまってビクとも動きませんでした。
「た、大変…。この向こうっていったい何なの?」
「わかんない…」
扉に耳を押し付けてみても、何の物音も聞こえません。私たちがついていながら「そるじゃぁ・ぶるぅ」に何かあったら…って、確実に今、何かが起こっているのです。それもセクハラという名の恐ろしいことが。
「…だ、大丈夫よね…。ぶるぅ、子供だし…」
「何かあったら、さっきみたいに噛み付くもんね…」
ベッドにもソファにも座れないまま、私たちはただ立ち尽くしていました。手に残っていた赤い歯形が少しずつ薄れ、時間の経過を教えます。もうどのくらい経ったのでしょう。ほんの少しの窪みを残して歯形は殆ど残っていません。いくら目ざとい会長さんでも気付かないほどになってきた頃、ようやく扉が開いたのです。
「「ぶるぅ!!!」」
同時に叫んだ私たちの前に「そるじゃぁ・ぶるぅ」がフワフワした足取りで現れました。頭のてっぺんから爪先まで真っ赤に染まって、なんだかとても幸せそう。幼児体型の身体はすっかり丸見え、フルヌードです。スッポンポンの「そるじゃぁ・ぶるぅ」はベッドの上にパタリと倒れてフニャフニャと顔を綻ばせました。
「気持ちよかったぁ~♪」
げげっ!気持ちよかった、って…スッポンポンで…。追い討ちをかけるように現れたまりぃ先生はバスローブしか着ていませんでした。わ、私たち、もうダメかも…。
「ぶるぅちゃん、お洋服を着ないと風邪引くわよん♪」
まりぃ先生が転がっている「そるじゃぁ・ぶるぅ」にパンツを履かせ、体操服をよいしょ、と着せて。
「さ、特別コースはおしまいよ。お次は生徒会長の番ね」
うふふ、と微笑むまりぃ先生に「何をしたのか」なんて聞けません。私たちはホカホカと上気している「そるじゃぁ・ぶるぅ」を抱えるようにして特別室を出ようとしたのですが…。ん?ホカホカ…?「そるじゃぁ・ぶるぅ」の温まった身体からはボディーソープの香りがしました。湿った髪はシャンプーの匂い。どちらも艶かしい香りですけど、もしかして、これは…。
「ぶるぅちゃん、お風呂に入れてあげたの」
まりぃ先生がソファに座ってチュッと投げキッスをして見せました。
「ぷにぷにのホヤホヤで可愛いのよ~。特に可愛かったのは、あ・そ・こ。…センセ、なんだかドキドキしちゃった。また一緒に入りましょうね、ぶるぅちゃん♪」
コクン、と頷いた「そるじゃぁ・ぶるぅ」はちょっとのぼせてしまったみたい。私たちはヒルマン先生がB組女子の健康診断をしている横をすり抜けるようにして、教室へ帰っていったのでした。

「お帰り。…やっと、ぼくの番だね」
検査服で座っていた会長さんが、私たちを見て立ち上がります。教室の中はまだ健康診断の名残で体操服と制服のクラスメイトが混在している状態でした。
「あ、あの…。ぶるぅが…」
大変なことになっちゃったんです、と言おうとした時、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が夢見心地で呟きました。
「…お風呂に入れてもらったよ。まりぃ先生、柔らかかった」
ひゃあああ!な、なんてことを…と思ったのですが。
「…ママってあんな感じなのかな。ねぇ、ブルー…?」
そして「そるじゃぁ・ぶるぅ」は会長さんの机に登ってクルンと丸まり、スヤスヤ寝息を立て始めたのでした。
「ママ、ねえ…。まりぃ先生、ショックで倒れてしまうかもね」
会長さんがクスクスと笑い、丸まった身体を撫でながら。
「うん、大丈夫。…ぶるぅは何もされていないよ。一緒にお風呂に入っただけさ。必要以上に念入りに洗われちゃったみたいだけどね」
よかったぁ…と座り込みそうになった私たち。会長さんは「そるじゃぁ・ぶるぅ」が風邪を引かないようにとキース君に借りたバスタオルを掛け、まりぃ先生が待つ保健室へ。
「ぶるぅがお世話になったようだし、今日は色々サービスしないといけないかな」
水色の検査服の裾を翻して去っていった会長さんが残した言葉は、やっぱり深~い意味なんでしょうか…?




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生徒会長さんの新学期恒例行事に付き合う羽目になった私たち。なにが悲しくて紅白縞のトランクスのお届けなんかに同行しなくちゃいけないんでしょう。しかも今まで散々な目に遭わされ続けた教頭室に。
「…本当に渡して帰るだけなのかな?」
「えーっと…自分用ってヤツを見せびらかしたら終わりじゃないか?」
ジョミー君とサム君がヒソヒソ話し合い、柔道部の三人組も似たようなことを話しています。スウェナちゃんと私はお届け物の中身が中身だけに、男の子たちの会話に入る勇気はありません。会長さんは臙脂色の大きな袱紗に包んだ贈り物を持って先頭を歩き、すぐ後ろに包装紙で包んだだけの小さな包みを持った「そるじゃぁ・ぶるぅ」。どっちの中身もトランクスだなんて、誰も気付きはしないでしょう。
「放課後で人が少なくてよかったわね」
「やっぱりちょっと恥ずかしいもんね…」
スウェナちゃんと私は最後尾。放課後とはいえ始業式とホームルームしかなかったわけで、部活が休みで人が少なくても…お日様はまだまだ高いわけで。悲しいことに時間の方は正午になる少し前でした。昼日中、しかも夏の明るい日差しの下をトランクスを持って練り歩くのはかなり悲しいものがあります。たまにすれ違う人が臙脂色の袱紗包みに目を向ける度に、スウェナちゃんと私の頬はちょっぴり赤くなりました。

教頭室はとても遠いように思えたのですが、そうでもなくて…実際には5分もかからなかったと思います。会長さんが重い扉をノックし、私たちは緊張の極み。だ、大丈夫かな、本当に…。中から「どうぞ」と返事があって、会長さんは扉をガチャリと開けました。
「失礼します」
「おお、ブルーか!」
教頭先生の顔が輝きましたが、後ろに並んでいる私たちに気付くと眉間の皺がみるみる深く…。明らかに招かざる客が来たのですから、嬉しいはずがありません。会長さんの訪問は大歓迎だったみたいですけど。
「露骨に嫌そうな顔をしないで欲しいな。この子たちは特別だって知ってるだろう?」
全員が部屋に入り終わると会長さんは扉を閉めて、教頭先生の机の上に袱紗包みを置きました。
「ぼくの新学期の恒例行事を教えておいても問題ないと思ったんだよ。はい、お待ちかねのプレゼント」
「……………」
複雑な表情の教頭先生の前で袱紗をほどき、特注品の大きな熨斗袋を差し出して。
「今度はお部屋見舞いにしてみた。一学期はクーラーが壊れたりして大変だったものねえ、色々と…」
「……うう……」
全部あんたのせいだろう!と叫びたいのは教頭先生も同じだったかもしれません。でも、会長さんに御執心だという教頭先生は惚れた弱みと言うのでしょうか、眉間の皺を深くしただけで文句は言いませんでした。
「…ありがたく頂戴しておこう」
特大熨斗袋を手にして御礼の言葉を口にするあたり、本当に会長さんからのプレゼントを待っていたものと思われますが…私たちの手前、感情を抑えているようです。こんなギャラリーさえいなかったなら、大感激で満面の笑みを浮かべていたかも。気の毒なことしちゃったかなぁ…。
「もっと素直に喜んだら?…開けてくれないっていうのも傷つくんだけど」
「いや、しかし…」
「熨斗袋を開けるのは失礼だ、って言うのかい?じゃあ、ラッピングだと思って開けて」
「し、しかし……そのぅ、中身が…」
「大丈夫。みゆもスウェナも中身は知ってる」
会長さんに追い詰められる教頭先生。いつもなら嬉しいはずのプレゼントが喜べないものに変わっていそう。
「要らないんなら持って帰るよ?…でもって二度と贈ってあげない」
この言葉は効いたようでした。教頭先生は熨斗袋を開け、包装紙を外して箱を開け……現れたのは綺麗に畳まれた紅白縞のトランクス。きちんと並べられていますが、全部で5枚あるのでしょうね。
「どう?…いつもの青月印だよ」
「…すまんな…」
やっとのことで笑顔を作った教頭先生。会長さんはニッコリ笑って一歩後ろに下がり、次の瞬間。
「「「!!!!!」」」
私たち7人と教頭先生は思い切り目をむき、声にならない悲鳴を上げていたのでした。

「…どうしたのさ?」
すました顔の会長さん。足元の床に制服のズボンとベルトが落っこちていて、スラリと伸びた白い両足が惜しげもなく曝け出されてて…その上に見えているのは白と黒。
「…ブルー!!…な、なんて格好を…」
会長さんは白黒縞のトランクスを履き、平然として立っていました。そ、そりゃ…上は制服のワイシャツですけど…海で水着姿も見てますけれど、それとこれとは別物で…。ど、どうしよう…目が離せない…。
「やめなさい、ブルー!…女の子たちの前だろう!!」
「…鼻血が出そうな顔で怒鳴られたって、説得力がないんだけど」
会長さんはズイ、と教頭先生の方に踏み出しながらトランクスの裾をちょっと摘んで。
「ほら、ちゃんと青月印なんだよ?…履いた所を見てみたいって思ってたんじゃなかったっけ?」
教頭先生が引き出しからティッシュを取り出し、鼻を押さえて横を向きます。本当に鼻血が出ちゃったみたい。
「…うわぁ…。ハーレイ、純情だね」
余裕の笑みの会長さんは白黒縞のトランクスの両端を持つと、左右に引っ張って見せました。
「ほらほら、鼻血なんか出していないで見てごらん?…この柄、何か連想しない?」
「……い、いや……。何も……」
鼻血を押さえて口ごもっている教頭先生に更に見せびらかすように会長さんは白黒縞をヒラヒラさせて。
「思い当たらないんだってさ、キース。…お寺の子として言ってあげれば?」
「…あんたが言え」
キース君は素っ気なく答えましたが。
「そう?じゃ、言っちゃおうかな、君の法名。えっと…」
「うわぁぁぁ!!!や、やめろ、それだけは言うな!!!」
絶叫して会長さんの口を押さえるキース君。よほど聞かれたくない名前なのに違いありません。珍念とか、珍来とか、満珍とか…?キース君はゼイゼイと肩で息をしながら、教頭先生に向かって叫びました。
「白黒縞は不祝儀なんです!…それだけだったら問題ないと思いますけど、紅白縞とセットというのは凄くまずいと思うんですが!!」
「…そ、そうか……」
教頭先生は愕然とした顔でキース君を眺め、それから会長さんの顔を見詰めて。
「…そうだったのか…。いつもわざわざ熨斗袋に入れて奇妙な表書きを書いてくるな、とは思っていたが…全く気付いていなかった…」
ガックリと肩を落とすと、教頭先生は床にへたり込んでしまいました。
「ブルー、すまない…。お前に葬式の色を履かせていたとは…。いつ気付くかと試していたのか?…ははは……担任失格だな…」
気の毒なほど落ち込んでしまった教頭先生。えっと…えっと、私たち、どうしたらいいんでしょう?会長さんを叱るべきなのか、それとも会長さんを引っ張って帰るべきなのか…。互いに顔を見合わせていると、会長さんがクスッと小さく笑いました。
「ふふ、思ったより…お灸、効きすぎ」
それからおもむろにズボンを履いてベルトを締めると、「そるじゃぁ・ぶるぅ」に言ったのです。
「ぶるぅ、その包みをこっちに持ってきて」
手渡された小さな包みをゆっくりと開け、パッと両手で広げたものは…。
「ハーレイ、ぼくは今度からこっちにするね。これも青月印だよ」
青と白の縞々トランクスを高々と掲げ、会長さんはご機嫌でした。教頭先生も立ち直ったようで、平謝りに謝りながらも嬉しそうな顔をしています。こういうのって、なんて言うんでしたっけ。…教頭先生が一方的に馬鹿にされてる上、一方的に熱を上げてるみたいですけど…バカップルって呼べばいいのかな?

「あーあ、またロクでもない目に遭っちゃった」
「まったくだ。…まさかズボンを脱ぐとは思わなかった」
教頭室から「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋に戻るなり、ジョミー君たちがぼやきます。会長さんの白黒縞は予想もしない出来事でした。
「…そんなに顰蹙だったかな?みゆとスウェナはともかく、君たちなら分かるかと思ったけれど」
「何がさ?」
口を尖らせたジョミー君。キース君たちも怪訝そうな顔をしています。会長さんはクスッと笑って…。
「あれ、青月印じゃないんだよ。HURLEY製のヤツなんだけど」
「「「ハーレー!!?」」」
「うん。ハーレイじゃなくて、ハーレーなのさ。ハーレイの綴りはH・A・R・L・E・Yだろう?AじゃなくってUなんだ。アメリカ西海岸のアパレルメーカーで、ナイキのグループカンパニー。サーフパンツで有名だから、ちょっと特注してみてね」
じゃあ…じゃあ、さっきの白黒縞はトランクスじゃなくて海水パンツ!?
「そう。もう一度脱いでみせてもいいけど、今度の水泳大会で披露するっていうのもいいかな」
それだけはやめてくれ!というのが全員の心の叫びでした。だってどう見てもトランクスでしたもの。いえ、思い込みが激しすぎただけかもしれませんけど。
「それじゃ、あんたは最初から…全て計画していたんだな!?」
キース君がブチ切れそうな顔で会長さんに詰め寄りました。
「ぶるぅに持たせた包みの中身と、ズボンの下の海水パンツと…。今学期からトランクスの柄を変えるつもりで最初っから!!」
「…いい加減飽きてきてたしね。熨斗袋の表書きネタだって、その内に底を尽きそうだろう?」
御出産御祝とかじゃあんまりだし、と言われてみればそのとおりですが…いったい何年くらい紅白縞のトランクスを贈り続けてきたのでしょう。内緒、と微笑む会長さんにそれ以上は聞けませんでした。
「キースが来たし、いいチャンスだと思ったんだ。お寺の子供が指摘するんなら、それほど角も立たないし」
「………。でも、教頭先生、へこんでたぞ?」
「浮上したからいいじゃないか。これからは青白縞でお揃いだと思って幸せに浸るのは間違いないさ。鼻血を出していただろう?…ぼくがお揃いを履いているだけで、ハーレイはとても幸せなんだよ」
クスクスクス。とても楽しそうな会長さんの前に「そるじゃぁ・ぶるぅ」がオムライスのお皿を置きました。そういえば、お昼をとっくに過ぎています。ケチャップでそれぞれの名前が書かれたオムライスがテーブルの上に並んで、いただきます。食べ始めてから少し経った時。
「…そうか、そういう意味だったのか…」
キース君がスプーンを置いて、会長さんが「筆ならしに」と書き散らして床に捨てていった漢文を拾い上げました。
「なになに?…風林火山がどうかした?」
スプーン片手のジョミー君。キース君はそれには構わず、会長さんの方を見て…。
「風林火山は関係ない。問題は孫子の兵法の方だ。…これを書いていたのは謎掛けだな?気付かなかった俺が馬鹿だった」
「あ!…確かに、孫子の兵法といえば…」
シロエ君が顔を上げ、キース君と同時に叫んだ言葉は。
「「敵を欺くにはまず味方から!!」」
えぇぇっ!?…それじゃ「そるじゃぁ・ぶるぅ」が教頭室に運んでいった小さな包みの中身が白黒縞のトランクスで、チラつかせるだけだと信じ込んでいた私たちは…まんまと会長さんの策略に乗せられたというわけですか!?
「そのとおり。…もし最初から知っていたなら、あそこまで驚いてくれないだろう?敵を欺くにはまず味方から。一応、ヒントは出してたんだよ」
そんなヒントで分かるくらいなら、騙されないような気がします。キース君は軽い自己嫌悪に陥り、私たちも振り回されてしまったことに気付いて茫然自失。せめて白黒縞が海水パンツと見抜けていれば、もう少し気分はマシだったかも。三百歳を超えている会長さんに、またまたやられてしまいました。…白黒縞の次は青白縞。青って英語でブルーだったかな…。




居残り掃除をさせられた後、サム君たちと合流した私たちは真っすぐ「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋へ行きました。キース君たちの部活は今日はお休みだそうです。いつものように壁を抜けると、なんだかちょっと変わった匂いが。お菓子の甘い匂いや美味しそうな匂いと違って、なんというか…古風で落ち着いた爽やかな香り。
「いい匂いだろう?」
生徒会長さんがテーブルに立派な硯を置いて、せっせと墨をすっていました。由緒ありげな大きな硯に立派な墨。キース君が近づいて硯を眺め、感心した様子で呟きます。
「端渓か。…あんた、いいのを使っているな」
「「「たんけい?」」」
「硯の種類の中の一つさ。さすがキースは目が高いね。お寺で育っただけのことはある」
「イヤでも書道をやらされるからな」
なるほど。お坊さんなら書道は必須かもしれません。卒塔婆とかの文字を墨で書かなきゃいけませんし。会長さんの硯もそっち方面から来たものなのかな?
「そうだよ。この硯は二百年ほど前に貰ったもので…」
教えてもらった故事来歴はサッパリ分かりませんでした。キース君だけが一々頷きながら聞いていましたから、お寺関係の人なら理解できるのでしょう。とにかく立派な硯だということだけは分かりました。大きさもさることながら形もお習字で使う四角い硯とは違っています。海って言うんでしたっけ…墨をする部分が楕円形みたいになってて、縁には立派な彫刻が。墨も表面が鈍い金色の大きな墨で、最近のものじゃないみたい。
「百年ほど前の墨なんだよ。松から採った煤だけを使っていてね、それだけでも値打ちがあるんだけども…」
またまた私たちには猫に小判な話になってしまいました。キース君も今度は分からない部分があるようでしたが、会長さんがとんでもなく立派な書道の道具を持っているのは確かです。横に置いてある筆とかも、さぞかし立派な故事来歴が…。
「ああ、筆はそんなに古くない。使っていると傷んでくるし…。でも、なかなか手に入らない筆なんだよ。最近は材料になる動物の毛が手に入りにくくなっているからね」
そう言いながら会長さんは筆の先に墨をたっぷりとつけ、白い紙にサラサラと漢詩を書き始めました。いや、漢詩だと思ってるだけで…もしかしたらお経かも…。
「残念、これは孫子の兵法。白文っていうのは古典で習わなかったかい?」
えっと…白文ってなんでしたっけ。ジョミー君たちと顔を見合わせていると、キース君が「返り点とかを打ってない漢文だ」と言い、シロエ君が「読み下しが難しいヤツのことですよ」と。なんとなく思い出してきましたけれど、なんでわざわざ孫子の兵法?
「筆ならし。…書きたいものは他にあるんだ」
そこへ「かみお~ん♪」と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が入ってきました。
「ブルー、お待たせ!買ってきたよ、トランクスと特注熨斗袋!」
風呂敷包みを抱えた姿に私たちは居残りの原因になった紅白縞を思い出し、ギロッと睨んだのですが…。
「ごめんね、途中で美味しそうなお店が幾つもあって…。寄り道してたら遅くなっちゃった」
いそいそと包みをほどく「そるじゃぁ・ぶるぅ」には全く通じていませんでした。

唐草模様の風呂敷の中から出てきたものは包装された平たい箱と、その箱がまるっと収まりそうな特大サイズの熨斗袋。紅白の蝶結びになった立派な水引がかかっています。会長さんは熨斗袋から水引を外し、テーブルの上に広げて置いて…筆に墨を含ませてから一息に『御部屋見舞』と書きました。満足そうにそれを眺めて、おもむろに硯や筆を片付け始めますけど、もしかしてこれだけのためにあんな立派な道具を…?
「決まってるじゃないか。人をからかうには手間ひまかけないと面白くない」
「ブルー、今度も前のと違うね」
しげしげと眺める「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「前は『寿』って書いてなかった?水引もちょっと違うみたい…」
「この前は結び切りだったからね。…毎回趣向を変えているけど、今度も気付いてくれないだろうな」
会長さんは平たい箱を手に取り、綺麗に包装された箱の中身をじっと見詰めているようです。私たちには見えませんけど、このままでも中が見えるんでしょうね。そして中身は紅白縞で…。
「うん、紅白縞のトランクスが5枚。ちゃんとメッセージカードもつけてあるんだ。ブルーより、ってね」
なるほど。それで熨斗袋には名前を書かなかったというわけですか。
「毛筆じゃ、今ひとつ決まらないんだよ。片仮名じゃ間抜けだし、平仮名だとぶるぅみたいだし。…アルファベットで書いたらもっと変だし、かといって法名は書きたくないし」
「ほうみょう?」
「…坊主の名前だ。戸籍に載ってる名前の他に坊主としての名前があるんだ」
首を傾げた私たちにキース君が教えてくれました。
「へえ。じゃあ、キースにも別の名前があるってことだよね…。なんて名前?」
興味津々のジョミー君の質問はサクッと無視され、キース君はムッツリ顔です。きっとパパのアドス和尚が捻りに捻った、恐ろしく凝った名前がついているに違いありません。会長さんの法名は…教えてくれっこないですよね。
「そうだねぇ…。君たちの内の誰かが死んだら、お葬式をやってあげるけど?その時は法名を名乗ってもいい」
私たちは慌てて首を左右に振りました。三百年以上も生きている人より先に死んでたまるもんですか!
「頼もしい心がけで嬉しいよ。それでこそ、ぼくたちの仲間に相応しい」
会長さんはニッコリと笑い、紅白縞のトランクス入りの箱を熨斗袋に包んで水引を掛けて。
「さあ、できた。立派なお部屋見舞いだろう?ハーレイ、喜んでくれるかな」
「ちょっと待て!お部屋見舞いってのは発表会とかじゃなかったか!?」
「あ、そうです、そうです。踊りの発表会とかのお祝いに持って行くんだったと思いますよ」
キース君とシロエ君が言いましたけど、会長さんは「よく知っていたね」と軽く流してしまいました。
「本当はそうなんだけど、今回は…部屋は部屋でも、控え室じゃなくて教頭室見舞い。そのくらいの感じでいってみようかと。…教頭先生も毎日お仕事で大変だから」
「あんたがちょっかい出さなかったら、もう少し楽に仕事ができると思うんだがな」
「気にしない、気にしない。新学期ごとに届くこのトランクス、とても楽しみにしてるようだし」
いそいそと大きな臙脂色の袱紗を取り出し、熨斗袋を包み始めた会長さんも見るからに楽しそうでした。これから届けに行くんでしょうか?
「うん、おやつを食べたらみんなで行こうか。ぼくが一人で行くのもいいけど、たまには賑やかなのもいいよね」
ああぁぁぁ。またまた教頭室ですか!今度は何も起こらなければ嬉しいんですが…。

「この前は熨斗袋に寿とだけ書いたんだけどね…。水引は紅白の結び切りで」
会長さんが「そるじゃぁ・ぶるぅ」が作ってくれた宇治金時をスプーンですくいながら言いました。
「誰がどう見ても結婚式のお祝いじゃないか、寿なんて。でもハーレイは気付かなかった」
ぼくがチラつかせた白黒縞の意味にもね、と溜息をつく会長さん。ちらつかせた、って…。履いたことはないと「そるじゃぁ・ぶるぅ」も会長さんも言いましたけど、お届け物に行く時だけは履くのかな?
「履かないよ。ぼくにだって美意識はあるし、第一、プライドが邪魔をして履けないさ。チラつかせるのはこっちの方」
風呂敷の中に小さな包みが残っていたことに私たちは気付いていませんでした。特大熨斗袋とトランクスの箱のインパクトが凄すぎて、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が風呂敷包みを畳み直した時はすっかり空だと思い込んでいたのです。
「これの中身が白黒縞。いつも紅白縞と一緒に同じメーカーのを1枚だけ、ね。で、教頭室へこれを持ってって、今度もお揃いで買ってきたよ、とチラつかせるわけ」
つくづく念の入った悪戯ですが、熨斗袋を書くのにあれだけの準備をしようという人ですから、これはもう仕方ないのかも。特大熨斗袋だって特注品だと「そるじゃぁ・ぶるぅ」が言いましたし。
「そうなんだ。ツテを頼って作ってもらって、いつも趣向を凝らしてるのに…いつになったら気付くんだろう、紅白と白黒はお祝い事と、真逆の事のセットものだってこと」
始業式の後で「そるじゃぁ・ぶるぅ」が言っていたことは本当でした。会長さんは徹底的にネタを楽しんでいるみたいです。教頭先生が気付く時まで、延々と続けるつもりでしょうか。
「決まってるじゃないか。今まで本当に色々とやってきたんだよ。三学期に御年賀と書いたのは失敗したけど、表書きだってあれこれ考えて書いているんだ。袴料は我ながら傑作だったと思っているよ」
「それは結納返しだろうが!」
「うん。でも単純に喜んでたし、袴とトランクスがイコールになってたんだと思うな、頭の中で」
突っ込んだのはキース君でした。そっか、袴料ってそうなんだ…。教頭先生を笑えないかも、と思いましたが、教頭先生は立派な大人です。私たちなんかよりずっと世の中の常識ってものを御存知なのではないでしょうか。
「もちろん知らないわけがない。…でも、ぼくが紅白縞を届けに行くと舞い上がってしまうみたいだね。常識なんか吹っ飛ぶらしい。寿福って書いても感激していた」
寿福って、なに?
「…長寿のお祝い。水引は紅白の蝶結び」
ぶぶっ。私たちは思わず吹き出し、しばらく笑い転げていました。きっと毎回、あの端渓の硯と立派な墨を使って見事な書を披露しているのでしょう。今回の『御部屋見舞』も実に素晴らしい字なんですから。さんざん笑って、宇治金時をしっかり食べて…冷たいお茶を飲んだ所で会長さんが立ち上がりました。
「それじゃ、そろそろ出発しようか。ぶるぅ、袱紗はぼくが持つから、いつものようにこっちを持って」
コクンと頷いた「そるじゃぁ・ぶるぅ」が受け取ったのは小さな包み。中身は例の白黒縞です。うーん、中身が分かっていると、なんだかちょっぴり恥ずかしいかも。じゃあ行こうか、と言った会長さんにキース君が…。
「さっきからずっと気になってたんだが、結局、あれはどういう意味だ」
キース君が指差したのは、会長さんが「筆ならしに」と書いていた謎の漢文でした。
「特に意味はないよ?…ぼくの座右の銘でもないし、ただ手すさびに書いてみただけ」
ふうん…と私たちはその紙を覗き込みました。『故兵以詐立 以利動 以分和為變者也 故其疾如風 其徐如林 侵掠如火 不動如山 難知如陰 動如雷震』…うーん、全く意味不明かも。
「これ、ひょっとして…風林火山?」
「ご名答」
「嘘!…まさか当たりだなんて思わなかったぁ!」
ジョミー君、凄い!…その程度なら分かるだろう、とキース君とシロエ君が笑いましたが、サム君もマツカ君もスウェナちゃんも私も、まるで分からなかったんですから…ジョミー君は冴えてます。凄いよねえ、と感心しながら私たちは「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋を出ました。行く先はもちろん教頭室です。どうか何事もありませんように!




楽しかった夏休みも終わり、今日から新学期の始まりです。「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋目当てに学校に通うのは苦になりませんでしたけど、新学期となると憂鬱かも。また退屈な授業を聞いたりしなくちゃいけませんし…って、学生の本分は勉強でしたっけ。全科目で満点を取れる生徒会長さんは相当勉強したのでしょう。ちょっとくらいは見習わないといけないかな?
「あ~あ、とうとう新学期だよ。次は冬休みまで勉強かぁ…」
「ジョミー、お前は部活もしてないだろうが!勉強くらいしてみたらどうだ」
ジョミー君とキース君の言い争いを聞いている内にグレイブ先生が入ってきました。会長さんは今日はA組には来ないようです。
「諸君、おはよう。長い休み中、特に問題もなかったようで嬉しく思う。…納涼お化け大会で見た顔もいるが、そうでない者もかなりいるな。一学期は新入生気分が抜けない者もいたかもしれん。しかし二学期からはしっかり頑張るように」
「「「はーい!」」」
みんな返事だけは元気一杯です。なにしろ1年A組には生徒会長さんという無敵の助っ人がついてるので、頑張らなくても楽勝、楽勝。えっ、期末テストで全員満点だったのはグレイブ先生のバンジージャンプのお蔭だろう、って?…あれは会長さんの遊び心だと思います。もしも先生が飛ばなくっても満点は取れたんじゃないでしょうか~。
「とにかく、まずは始業式だ。校長先生のお話がある」
グレイブ先生に連れられて行った会場で校長先生の長いお話を聞いて、教頭先生から二学期の行事の説明を聞いて…。教頭先生はスーツでしたが、どうしても頭に浮かんでくるのは夏休みに見たトンデモなもの。パレオに赤と青のベビードールに…。あのビッグサイズのベビードールはどうなったかな?
『紅白縞も忘れないで』
頭の中でいきなり声がしました。えっ、とキョロキョロ見回してみると、ジョミー君と目が合って…更にキース君、マツカ君、スウェナちゃんとも視線が合って。
「…今、誰かが紅白縞って言った?」
ジョミー君が小声で尋ねてきます。頷くとジョミー君がキース君をつつき、キース君がマツカ君をつつき…。どうやら私たち5人は同じ声を聞いたようでした。紅白縞ってやっぱりアレでしょうか?始業式が済んで教室に戻る途中でコソコソ集まり、謎の声について話していると。
「かみお~ん♪」
いきなり「そるじゃぁ・ぶるぅ」が現れ、ニコニコと話しかけてきました。
「ブルーのメッセージ、ちゃんと聞こえた?」
「「「紅白縞!?」」」
「うん。ちゃんと聞こえていたんだね」
嬉しそうに頷く「そるじゃぁ・ぶるぅ」。そこへ叫び声を聞いてしまったクラスメイトが「紅白縞」とは何のことか、と一斉に尋ねてきたので会話はしばらく中断です。いくらなんでも教頭先生のトランクスだとは言えません。どうしようかと焦っているとキース君がアッサリと。
「学園祭で使う幕の話だ。紅白縞だと言われたんでな、ちょっと定番すぎないか…と」
ああ、なるほど…とクラスメイトたちは納得して去って行きました。せっかくの学園祭ともなれば、紅白縞の幕の他にもあれこれ検討してみたい…と思う気持ちはありがちです。

「凄いや、キース!よく咄嗟にあんな言い訳、思いついたね」
「紅白にはあまり縁が無いんだが、白黒ならイヤというほど馴染みがある」
ジョミー君の賛辞にキース君はニコリともせずに答えました。そういえばキース君の家はお寺でしたっけ。白黒の幕はお葬式には欠かせません。…ん?白黒縞っていうのも何処かで聞いたような…?
「ブルーがハーレイにお揃いだよって言ってるヤツだよ」
即答したのは「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「ハーレイに赤と白の縞をプレゼントする時、ブルーのは白と黒の縞だってチラつかせてさ。…お揃いだよ、って騙してるんだ。ブルー、いっぺんも履いたことなんか無いんだけどね」
そういえば高原の別荘で会長さんがそんな話をしてましたっけ。教頭先生がまんまと騙されて赤と白の縞々トランクスを後生大事に履いてる…って。紅白縞と白黒縞。なかなかに派手なチョイスです。
「…今の今まで思わなかったが、もしかしてその選択は…祝儀と不祝儀のネタでやってるんじゃあないだろうな?」
キース君の目が険しく細められました。あ。紅白はおめでたいけど、白黒は…。
「しゅうぎ?…ぶしゅうぎ?…それっていったい、どういう意味?」
キョトンとしている「そるじゃぁ・ぶるぅ」にキース君は苦笑しながら説明します。
「祝い事とその反対。水引とか幕とか、そういう物の色を知ってるか?めでたい時には紅白を使うが、葬式には白と黒なんだ」
「あ、そういうのなら知ってるよ!ブルー、そのこと話してた。色の意味に気付かないなんてハーレイは凄くおめでたい、って」
えっと。…教頭先生の紅白はおめでたいかもしれませんけど、会長さんの白黒縞は全然おめでたくないですよねえ。それに気付かないのがおめでたいってことでしょうか…?
「そうだけど。だからブルーが笑うんだ。おめでたい色とそうでない色をセットにするなんて縁起でもないし、ブルーの方がお葬式の色になってて不吉なのにさ。ブルーのことばかり考えてるくせに、なんでそこまで気が回らないかな、ってブルーはいつも呆れてるんだ」
「確かに紅白と白黒をセットで出されりゃ、人によっては気がつくかもな」
「…トランクス限定なら気付かないかもしれませんけど…」
キース君とマツカ君が言うと「そるじゃぁ・ぶるぅ」はそうかもね、と頷きました。
「でも、ブルー、ハーレイが気付かないのはデリカシー…だっけ?それに欠けてるからだって言ってるよ。でね、ぼく、これからトランクスを買いに行くんだ」
へ?と驚いた私たちに「そるじゃぁ・ぶるぅ」はエヘンと胸を張りました。
「ハーレイの紅白縞はブルーが最初は冗談でプレゼントしたんだけれど、ハーレイ、凄く気に入っちゃって。とても大事に履いているから、新学期の度に新しいのをプレゼントして感激させるのがブルーの趣味」
「…新学期の度に1枚なわけ?…いつ見ても紅白縞だけど」
ジョミー君が尋ねたくなるのも、もっともです。あんなにしょっちゅう履いているとなると、かなりくたびれそうなんですけど…。
「えっとね、洗い替え用も入れて一度に5枚」
5枚!…柔道部で汗を流している教頭先生にこの枚数は妥当かどうか…ちょっと見当がつきません。そりゃ、他にもトランクスは沢山持っているでしょうけど、1学期ごとに5枚だと…かなり大事に履いてるのかな?
「お洗濯は手洗いだよ」
「「「手洗い!?」」」
「うん。おしゃれ着用洗剤で手洗いしてから陰干ししてる。たまにパリッと糊付けすることもあるけどね」
ひゃあああ!たかがトランクスを洗うのにそこまで…。しかもあの教頭先生が!?
「ホントに大切にしてるんだよ。古くなったヤツも捨てられなくて、ほどいて幾つも縫い合わせて…抱き枕のカバーにしてるんだけど」
「「「抱き枕!!?」」」
「うん。あれって寝相がよくなる…んだっけ?ぼくにはあんまり関係ないね」
危ない妄想が思い浮かんだ私たちと違って「そるじゃぁ・ぶるぅ」は純粋でした。土鍋で丸くなるのに抱き枕なんか邪魔なだけだし、と子供らしいことを言っています。しかし、教頭先生が…会長さんに貰ったトランクスのお古で手作りカバーの抱き枕とは。これは相当に危ない趣味の持ち主に違いありません。会長さん、いつも教頭先生で遊んでますけど、あんなことしてて大丈夫かなぁ?
「平気だよ。ブルーはタイプ・ブルーだからね」
「「「タイプ・ブルー!!!?」」」
それは納涼お化け大会の後で耳にした単語。「そるじゃぁ・ぶるぅ」のことだとばかり思ってましたが、会長さんもタイプ・ブルー?…タイプ・ブルーっていったい何?
「あっ、いけないっ…。えとえと、今の、取り消しだから。っていうか、教えられないから!」
わたわたと両手を振り回しながら「そるじゃぁ・ぶるぅ」はそう言って。
「じゃあ、ぼく、トランクスを買いに行くから。また後でね~!」
クルン、と宙返りをしたと思ったら姿は消え失せてしまっていました。

逃げられたか、とキース君が呟き、私たちは諦めて教室へ。そこで私たちを待っていたのは…。
「ホームルームを忘れたのか?…夏休みボケが酷いようだな」
グレイブ先生が教卓の前でイライラと歩き回っています。
「宿題免除の特権を持っているからといって、いつまで遊び呆けるつもりだ。宿題の提出時間はとっくに終わってしまったぞ。…同じ宿題免除とはいえ、アルトとrは素晴らしい。他の連中に遅れることなく教室に戻って座っている。さすがは数学同好会だ。私が見込んだ生徒に間違いは無い」
あちゃ~…。紅白縞のトランクスのせいでホームルームを忘れていました。教頭先生も罪作りです…って、この場合は変なメッセージを送って寄越した会長さんと、お使いに行った「そるじゃぁ・ぶるぅ」を恨むべきでしょうか?グレイブ先生は思い切りご機嫌斜めで、私たちは一人ずつ前に出て反省の言葉を言わされた上、掃除当番をすることに。
「始業式の日は掃除はしなくていいのだがな、お前たちの弛んだ精神を叩き直すにはもってこいだ」
終礼が済んでみんなが帰って行く中、私たち5人は机を全部どけて床を掃除し、机の上も綺麗に拭いて…。グレイブ先生はコツコツと教室中を歩き回りながらお掃除チェックをしています。
「その隅にホコリが残っているな。…ああ、机はキッチリ並べるように。勉学はきちんと整えられた教室ですることに意義がある」
あれこれ注意されながら掃除を終えてグレイブ先生が出て行った後、入れ替わるように入ってきたのはサム君とシロエ君でした。今まで廊下でじっと待ってくれていたみたいです。
「先輩らしくありませんね。居残りだなんて、どうしたんですか?」
シロエ君の問いにキース君は額を押さえて「紅白縞だ」と答えました。サム君とシロエ君は顔を見合わせてアッと声を上げ、殆ど同時に。
「あれ、空耳じゃなかったのかよ!」
「会長のメッセージだったんですか!?」
どうやら二人はメッセージの意味に全く気付かず、「そるじゃぁ・ぶるぅ」にも会わなかったので平和に過ごしていたようです。私たちは紅白縞のトランクスにまつわる怖い実話を二人に聞かせ、お使いに行った「そるじゃぁ・ぶるぅ」のことも話してしまいました。でも、話さなかったことが一つだけ。正確には忘れていたんですけど、「タイプ・ブルー」という言葉です。…あれってどういう意味なのかな?スパイのコードネームみたいで、ちょっと響きがいいですよねぇ?




ついこの間、想定外の教頭先生の艶姿を見せられてしまった私たち。もうこれ以上、会長さんの悪戯に巻き込まれるのは御免です。でも…やっぱり来てしまうんですよね、影の生徒会室に。夏休みももうすぐ終わりですけど、明日は『納涼お化け大会』なる肝試し大会があるのだとか。自由参加ということなので、どうしたものかと相談中。
「毎年、リタイヤが多いらしいけど…。そんなに怖いものなのかな?」
ジョミー君は乗り気でした。夏休み前に噂を聞いて楽しみにしていたみたいです。
「怖いらしいぜ。明らかに仕込みって分かるヤツの他に、ヤバイのが紛れ込むとかなんとか…」
サム君が肩を竦めると、スウェナちゃんが。
「あ、その話、私も聞いたわ。…予定にない場所に出るそうよ。白い着物の女の人とか、仕掛けが分からない人魂だとか」
「それって、ぶるぅとか会長さんなら出来そうですよね」
そう言ったのはシロエ君。確かに会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」の力なら謎の仕掛けが出来そうです。でも「そるじゃぁ・ぶるぅ」は首を左右に振りました。
「ぼく、そんなことしてないよ!…夜のお墓って怖いもの。お化け大会なんか行かないもん!…ブルーも何もやっていないよ」
納涼お化け大会の開催場所は学校から近い墓地でした。広いお寺の境内にあって、大木が周りを囲んでいるせいか昼でも気味の悪い場所です。男子寮の生徒が新入生歓迎の肝試しをすることで有名ですが、この肝試しがまたいわくつきで…。
「たまに神隠しがあるそうだな。…美形の新入生が消えてしまって、戻ってきた時には魂が抜けたように惚けているか、記憶が無いかのどちらからしい」
キース君の言葉にジョミー君が首を捻りました。
「そうだっけ?…ぼくが聞いた話じゃ、美形に限らないみたいだよ。ものすごく幸せそうな顔して、寮の物置で素っ裸で寝てるのを発見された人がいるんだってさ」
「「「素っ裸!?」」」
「うん」
素っ頓狂な声を上げた私たちにジョミー君は頷いて。
「狸か狐が化かすんだろう、って言ってたなぁ。素っ裸で寝てたって人、一晩中、凄い美形と…」
そこまで言ってジョミー君は真っ赤になりました。なるほど、一晩中、凄い美形とあ~んなことや、こ~んなことをしていたというわけですね。…ん?まさか、もしかして、その美形というのは…。

「呼んだかい?」
ヒョイ、と現れた会長さんに私たちはサーッと青ざめました。みんな同じことを考えていたみたいです。
「ふぅん、男子寮の肝試しか。神隠しのことなら知っているよ。…手癖の悪い寮生がいてね、可愛い子が来ると攫っちゃうんだ。上手いこと口説き落とせたら部屋に連れ込んで、失敗したら記憶を消す。それが真相なんだけど」
「……ひょっとして、あんた……」
キース君が会長さんを睨みましたが、会長さんはクスッと笑って。
「寮生だって言ったろう?…ぼくは寮には入ってないよ。それに男の子は趣味じゃない。寮生の中にも百年以上在籍している生徒が何人かいて、犯人はその中にいるんだけれど…特に問題にはなっていないね。…そうそう、ジョミーの話の美形っていうのも百年以上在籍してる。そっちは襲う方じゃなくって誘惑するのが得意技さ」
男子寮ってとんでもない所みたいです。無法地帯ではないんでしょうけど、かなり乱れているみたい。そういえば…アルトちゃんとrちゃんも寮に入ってるんでしたっけ。女子寮の方は大丈夫かな?
「ああ、女子寮は安全だよ。警備も厳重だし、男子禁制。…その分、忍び込むのはスリルがあって楽しいね」
ひゃあああ!い、言っちゃった…。呆然とする私とスウェナちゃんの前で会長さんは余裕の笑みです。
「アルトさんとrさんの寝顔、とても可愛くて素敵だったな。二人とも手紙をくれたんだけど、まだ寮に帰ってきていなくって。納涼お化け大会は欠席します、と書いてあったよ」
寝顔!?…会長さんがアルトちゃんとrちゃんの寝顔を見たということは…。ジョミー君たちも愕然とした顔で会長さんを見ていました。どうしよう、アルトちゃんとrちゃん…お守りを使っちゃったんだ!
「そんなに心配しなくてもいいよ。まりぃ先生と同じで、夢以上のことはしていないから」
「うん、大丈夫!ブルーはお料理して食べるんじゃない、ってアルトが言った!」
無邪気な「そるじゃぁ・ぶるぅ」が叫んだ言葉で、私たちはテーブルに突っ伏しました。つまり、アルトちゃんもrちゃんも、会長さんに食べられちゃったというわけで…。
「あんた、嘘をついているだろう」
一番先に復活したのは、やっぱりキース君でした。
「夢以上のことはしてないだなんて…どこまで本当か分かるものか。寝顔を見たって言うんだからな」
「…夢を見せたら眠るものだよ。寝顔を堪能するのもいいものだけどね」
「寝顔だけ見て帰るのか!?」
「そうだけど。…あ、そうか。据え膳食わぬはナントカ…ってこと?あいにく、ぼくはそんなに飢えてないから」
会長さんは軽く片目をつぶって見せました。
「ぼくに気がある女の子にいい夢を見せて、幸せそうな寝顔を見る。これだけで十分なんだよねえ。そこまで想ってくれる女の子がいるって素敵じゃないか。もちろん、ちゃんとフォローもするし」
絵葉書も出しておいたんだよ、と会長さん。更に続けて…。
「アルトさんもrさんも素敵な所に住んでいるんだ。観光案内もしてもらったし、お礼にちゃんと御馳走してきた。君たちと行った旅行も楽しかったけど、一人で旅に出るのもいいね」
うわわわ…。会長さん、帰省先まで行っちゃったんだ!アバンチュールがどうとか言ってましたけど、まさか旅先でも例のお守りを…?
「旅先でどう過ごしていたかは、ご想像にお任せするよ。…そんなことより、納涼お化け大会はどうするんだい?その話をしていたように思ったけれど」
そういえば、すっかり忘れていました。参加するかどうかを検討していて話がズレたんでしたっけ。私たちは最初に戻って話し合った結果、参加することに決めたのでした。

「や、やっぱりやめておこうかしら…」
その夜、会場の墓地の入り口で順番待ちをしながらスウェナちゃんが呟きました。真っ暗な木立の中でフクロウがホー、ホー、と気味悪い声で鳴いています。気のせいか風も生暖かいような…。肝試しのコースは墓地を回ってくるだけですが、途中で監視役を兼ねて立っている先生方からスタンプを貰わなくてはなりません。それが揃わなければリタイヤです。あ、また誰か戻ってきましたが…。
「スタンプ2個か」
ブラウ先生が3人グループの男子のカードをチェックし、ダメだねぇ、と笑っています。
「半分も回れていないじゃないか。1回だけならリベンジできる。チャレンジするなら一番後ろに並び直しな」
「…い、いえ…!もういいです!」
「っていうか、本当に出るみたいなんですけど!…これって事前にお祓いとか…」
ガタガタと震え始めた男子生徒たちの顔は真っ青になっていました。
「お祓い?…ああ、一応、頼んでおいたけどねぇ。何かっていうと芸者をあげて宴会ばかりの坊さんたちに法力とかが期待できると思うかい?」
「や、やっぱり…。し、失礼します~!!」
男子グループは凄い勢いで逃げていきます。あ、転んじゃった。転んだ人を見捨てて走り去るなんて、よほど怖い体験をしてきたに違いありません。わ、私もやめたくなってきたかも…。
「おっ!もう俺たちの番みたいだぜ。リタイヤ多いから早かったよな」
「うん、あまり待たされなくて助かったよね」
ジョミー君とサム君がカードを貰って墓地に入っていきました。しばらくするとキース君たち柔道部三人組がカードを貰って出発です。ど、どうしよう…。スウェナちゃんと私は次なんですが、「風紀が乱れるから男女は別グループ」なんて決まりのせいで、心強い男の子たちもいませんし…。
「や、やめちゃおっか…」
ギャーッという悲鳴が墓地の奥から響いてきます。ジョミー君たちより先に出発した男子グループがスタンプ3個でリタイヤしてきたのを見て、スウェナちゃんと私がやめようと決心をした時のこと。
「おやおや。…せっかくだから行けばいいのに」
悠然と現れたのは浴衣姿の会長さん。右手に団扇、左手で浴衣を着た「そるじゃぁ・ぶるぅ」の手を引いています。
「用心棒に貸してあげようと思ってね。ぶるぅは子供だし、グループに入れても大丈夫だよ。…ねえ、ブラウ先生?」
「そうだねぇ。あんたなら許可できないけども、ぶるぅは女子に混ぜてもいいよ」
「じゃ、そういうことで。…ぶるぅ、そんなに怖くないから。スウェナもみゆもいるんだしね」
え。怖くない?…よく見てみると「そるじゃぁ・ぶるぅ」は元気がありませんでした。帰りたい、と顔に書いてあります。ひょっとして用心棒はスウェナちゃんと私の方ですか!?
「うん、まあ…そんなところかな。でも怖がってるだけで役には立つから。騙されたと思って連れてってごらん」
「で、でも…私たちも棄権しようかなって…」
「かわいそうだわ、私たちでも怖いのに」
そこへブラウ先生がカードを取り出し、私たちの首から紐でぶら下げてくれました。
「さあ、行った、行った。早く行かないと後がつかえるよ!」
ドン、と背中を押されて踏み込んだ先は墓地の中。会長さんが「バイバイ」と手を振っています。こうなったらもう行くしかないか、と私たちは歩き始めました。「そるじゃぁ・ぶるぅ」はスウェナちゃんと私の間でしっかりと手を繋いでもらって歩いていますが、本当に役に立つんでしょうか…。

「あ、あそこ…。し、白いものが…」
スウェナちゃんが指差したのと、私たちの足を濡れたモノがスーッと擦ったのは同時でした。
「ひぃぃぃぃっ!!!」
ぬるりとした物体が引き摺るような音をさせて、私たちの足元から墓石の方へ。コンニャクとかではありません。猫なんかより遥かに大きい濡れた何かがズルズルと…。恐怖のあまり声も出なくなった私とスウェナちゃんの間から「そるじゃぁ・ぶるぅ」が飛び出していって墓石の裏に回りました。
「わぁい、やっぱりゴマちゃんだぁ!」
歓声を上げて抱えてきたのは、まりぃ先生のペットのゴマフアザラシ。役に立つかも、「そるじゃぁ・ぶるぅ」。スウェナちゃんが見つけた「白いもの」の正体は白衣のまりぃ先生でした。
「はい、1個目のスタンプね。ここから先は手ごわいわよぉ♪」
スタンプを押して貰う間に聞こえた悲鳴はジョミー君だった気がします。その後は仕掛けが本格的になってきました。井戸の蓋が開いて白い影が這い出してきたり、血まみれの女性が立っていたり。怖がって震え始めた「そるじゃぁ・ぶるぅ」の手を引っ張ったスウェナちゃんと私は勢いだけで進み、エラ先生に2個目のスタンプを貰い、シド先生に3個目のスタンプを貰って…。
「ここでちょうど半分だよ。女の子でここまで来たグループは今年は無いね」
ちょっと気をよくした時です。先の方でキース君たちの凄い悲鳴が聞こえて、シド先生が。
「あの声じゃリタイヤ確実だな。…ところで君たち、リタイヤする方法は知っているのかい?」
いいえ、と首を振ると先生は「カードを裏返しにすればいいんだよ」と親切に教えてくれました。
「この先は怖くなる一方だから、もうダメだと思ったら裏返しにするといい。そしたら誰も脅かさないしね。本当は絶叫して逃げるまで放置だけども、君たちは女の子なのに頑張ってるし…」
特別だよ、と奥の手を教えて貰って心強い気分です。いざとなったら首から下げたカードを裏返しにして歩いて帰ればいいんですから。仕掛けはどんどん手が込んできて、本物にしか見えないお化けや幽霊があちらこちらに潜んでいます。百鬼夜行とはこのことかも、と思いつつ「そるじゃぁ・ぶるぅ」を引っ張りながら進んでいくとグレイブ先生が4個目のスタンプを押してくれました。残りのスタンプは2個らしいです。
「その先でキースたちがリタイヤしたぞ。ジョミーたちもな」
グレイブ先生はわざわざ怖がらせるようなことを言ってクルリと背中を向けました。シド先生とは大違いです。紳士じゃないわね、と陰口を叩きつつ墓石の間を歩いていると…。
「きゃあああ!!!」
いきなり足首をガシッと掴まれ、続いて肩も。強い力が地面の中に引きずり込もうとしています。スウェナちゃんも「そるじゃぁ・ぶるぅ」も無数の白い手に掴まれてもがいていますが、これって…これって、本当に仕掛け!?地面が沼に変わったみたいに身体が沈んでいくなんて…。
「いやぁぁぁ!!!」
ママ助けて!と叫びそうになった瞬間、迸ったのは青い閃光。
「ぼくに触るなーっっっ!!!」
絶叫する「そるじゃぁ・ぶるぅ」が放った青い光に飲まれるように白い手も沼も消えていきます。青い光は墓地中を照らし、それからゆっくり収まりました。も、もしかして…助かった…?
「酷いよ、ブルー!…だからイヤだって言ったのに。ぼくが怖がりだってこと、知ってるくせに!」
泣きじゃくっている「そるじゃぁ・ぶるぅ」を交代でおんぶしながら私たちは先を目指しました。あれ?ゼル先生が立っています。5個目のスタンプ、貰っちゃった。…えっと…何も出ないんですけど…。ただ墓石があるだけで…って、教頭先生?服はベビードールではありませんでした。ホッとしたような、残念なような。
「これでスタンプ6個目だ。この先はもう何もない。よく頑張ったな」
教頭先生から6個目のスタンプを貰った後は出口を目指して歩くだけ。「そるじゃぁ・ぶるぅ」も背中から降りて元気一杯に歩いています。肝試しをクリアしたってことを皆にアピールしたいのでしょう。墓地から出るとブラウ先生が賞品の手拭いとお菓子の詰まった袋をくれて、「そるじゃぁ・ぶるぅ」は早速お菓子を食べ始めました。

今年の『納涼お化け大会』、クリアしたのは私たちの前に男子3組、私たちの後は殆どがクリア。この差は一体、何なのでしょう?ジョミー君やキース君たちはリタイヤ組に入っていました。とても恐ろしい思いをしたそうですが、クリアしてしまった私たちには何も話したくないそうです。
「ぶるぅが青く光ったのよ。そしたらお化けが出なくなったわ」
「ちぇっ、いいなあ…。絶対、何か秘密があるんだよ。みゆとスウェナが出てきた後に入ったグループ、誰もリタイヤしてないもの」
お化け大会の翌日、「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋でジョミー君がブツブツ文句を言い始めると、会長さんがニッコリ笑いました。
「…ぶるぅはタイプ・ブルーだからね」
「「「え?」」」
聞き慣れない言葉に私たちは首を傾げましたが、会長さんは微笑んだだけ。
「今、言えるのはそれだけだよ。ぶるぅは仕掛けより強かったのさ。物事を知るのに急ぐ必要は無い。まだ2学期も3学期もある。…瞬間移動も体験したろう?あまり欲張らずにゆっくりと…ね」
慌てていると早く老けるよ、とウインクしている会長さん。三百歳を超えているというこの人のことも謎だらけです。ま、いいか…。きっと卒業する頃までには色々分かってくるんでしょう。夏休み、残りあと僅か。よ~し、遊んで遊びまくるぞ! 

 


※rちゃんレポート
生徒会長さん、ホントに帰省先に遊びに来てくれました。
おいしい物を御馳走して下さって、観光案内出来て、ああ、楽しかったなあ...! 



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