シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
気がつくと窓の外が明るかった。
「rちゃん!」
時計を見ると6時過ぎ。
何かあったとしてももう大丈夫だよね?
バタバタと着替えて隣の部屋をノックする。
でも返事がない。
「rちゃん?」
そっと呼んでみたけどやっぱり返事はないし、まさかと思ったけど当然ながら鍵は閉まってるし。
電話しよう!
携帯を取りに部屋に戻ろうとした時、ドアが開いた。
「rちゃん」
「……アルト~…」
駆け寄るときゅっと抱き締めてきて、そのまんま。ど…どうしよう…。じゃなくて、とりあえず部屋の中に入った。
rちゃんは窓際にフラフラと歩いていったかと思うと、ペタンとその場に座り込んじゃって、ぼーっとしてる。
手には吊したはずのお守りが握られている。
でも昨日のと違うもののような気がする…。 そして服は…パジャマ。
ということは着替えたんだよねと思うと顔が熱くなった。
いや、いや。まだ先に聞くことある。
「rちゃん……来たの?」
じーっとあたしの目を見て、ほんの少しだけだけどrちゃんは頷いた。
つ…次の質問は……。
よかった?はアレだよね。えっと楽しかった?もちょっと違うかなぁ…。
でもでも逆だったら、生徒会長だって許さないんだから!
「……アルト…」
「なに?」
「…今夜はアルトが吊しなよ、お守り」
……ということは、素敵な夜だったってこと? そうだよね?
「そうする!」
あたしは吊すつもりなかったんだけど、rちゃんを見てるととっても幸せそうで、羨ましくなって吊すことにした。
rちゃん、ありがとう。
あたしも勇気出すよ!
それから必死に掃除して、お茶菓子は違うものがいいよねと、唯一作れるブラウニーを作って。
いつもやらないからそれだけで夕方になっちゃった。
rちゃんはお部屋で一日幸せに浸っていた。
もう一方的な恋でもいい。
そんな素敵な経験が出来れば、っていうノリでお守りを吊して準備万端で待っていた。
と、ベランダでガタンという音がして、あたしの心臓はどきっと鳴った。
そして部屋が真っ暗になって…。
「かみお~ん♪」
「え?」
くるくるっと回りながらパッと現れたのはぶるぅ。
教室にやってきて楽しそうにみゆちゃんたちと話しているのは見たことあるけど、こんなに近くで、そして話すのは初めて。
「ねえねえ。僕のマカロン美味しかったって?」
「う…うん」
「ありがとう。美味しいって言ってくれるとうれしいな」
「そ、そうだよね。すっごく美味しかった。rちゃんと、どんなふうに作るんだろうって話してたんだよ」
「そうなの? 今度教えてあげようか?」
「ほんと?」
「うん。あ、これ、ブラウニー?」
「ああっ これしか作れなくて。バナナ入りだよ。食べる?」
「食べていいの?」
うん、って言う前にぶるぅは一口で全部食べちゃって、びっくりして息をするのも忘れちゃった。
「えとえとアルトだよね? 息しないと死んじゃうよ?」
言われて呼吸をしてないことに気付いて、はぁ~と深呼吸。
「バナナ味も美味しいね」
「ほんと? よかった」
「ねえねえ。お守り吊すとブルーがくるんだよね?」
「う…うん」
「それでねお守り持っていた子のこと、食べちゃうって言ってたんだよ。僕、そんなの嫌だから来たんだ。でも昨日は疲れて寝ちゃってて、ブルーが帰ってくるまで分からなくて。お友達、大丈夫?」
良く考えると凄い内容のような気がするけど、き…きっと食われて本望…だよね?
「大丈夫…だと思う。とっても幸せそうだったし。それにお料理して食べるわけじゃないし」
「そうなの? ブルーもほんとに食べたりしないって言ってたけど嘘じゃなかったんだ。よかった」
「心配して来てくれたんだ」
ありがとうって言いながらぶるぅをきゅっと抱き締めるて、ほっぺにチュってしたらとっても柔らかくて。1歳児って言ってたけど本当なんだなぁ。
でも本当の1歳児はホッペにチューで真っ赤にならないよね。
頭の先からつま先まで真っ赤になったぶるぅは照れ隠しするように「かみお~ん♪」と歌い始めて、色々な話をしてくれた。
一番笑ったのが、教頭先生は生徒会長から貰った紅白の縞柄パンツを大事に履いてるってことで。
その時、生徒会長は僕とお揃いだよって言って、白黒縞パンツをチラつかせたっていう話。
それからそれから……。
ちょっと寒くなって二人でお布団に入って、沢山話を聞いていたらいつの間にか眠ってた。
真夜中過ぎ、目が覚めるとぶるぅはぐっすり眠っていて、ちっちゃい子の体温はあったかくて、寝息も気持ちよくて。
頭を撫でながら目を閉じた。
その時、生徒会長の姿が見えた……ような気がしたのは夢かな? うんきっと夢。
翌朝起きると、ブラウニーがあったお皿は空っぽで、お茶も飲み尽くしていて、ベッドの隣に小さく丸まって寝ていたぶるぅの跡があった。
rちゃんとは違う夜だったけど、楽しかった。
朝ご飯を食べながら、縞パンのことを話して二人で笑おうっと。
あ、内緒って言っていたからこっそりね。
そうして久しぶりに家に帰って。
会長に手紙を出そう。ぶるぅにも。
でもきっとすぐに学校が恋しくなりそうだな。
※アルトちゃんレポート
rちゃんに何があったのか!?
それは本人のみぞ知る(笑)
聞きたいわ~♪
※rちゃんレポート
気がつくと窓の外が明るかった。
アルトちゃんの部屋の方向を見ているあたし。
アルトちゃん........どうなったのかなあ。
親友だから、アルトちゃんにも幸せな思いをして欲しい、でもやっぱり気になるよ...。(イヌかネコの鳴き声のようなのが聞こえた気がするけど...何だったんだろう..........)
ああ、でも今思い出しても夢の様だなあ...ホントに夢だったのかなあ...。
とは言ったものの、お守りを使うのは終業式の翌日の夜にしようということになった。
補習があって校舎に生徒はいても、寮生はほとんどが補習免除になり家に帰ってしまっているからだ。
やっぱり危険は少しでも減らしたい。
そう決めた日の朝。
rちゃんはずっと挙動不審で話しかけても上の空だった。
そうなっちゃうのも仕方ないなと思いながら一緒に時間を過ごす。
なんだかとっても長く感じる一日。
ほとんど食事も出来なくて。うん、あたしも食欲なくて、ずっとずっとドキドキしてる。
そして夕方。
rちゃんは意を決してお守りを吊した。
「……ね、ねぇ」
「…うん……」
「落ちないよね」
「大丈夫。ちゃんと結んだし確認したし」
「だよね。ところで、服、このままでいいと思う? それとも夜だからパジャマ?」
と口にした瞬間、rちゃんは叫んだ。
「ああああっ 可愛いネグリジェ買っておけばよかった!」
「そ、それなら可愛い洋服でいいんじゃない?」
「そ…そうか。洋服でも…いいよね?」
そう言ってクローゼットに向かうrちゃんの右手は右足と一緒に前に出てる。
ものすごっく緊張してるんだ。
「これ、どうかな?」
「それ初めて見る。可愛い♪」
「だって、着る機会なかったし」
「じゃお初だね」
「うん」
着替え始めたrちゃん。
でもその手が止まる。
「どうしたの?」
「夜に洋服じゃ変かな? やっぱり。っていうか、どこで待ってればいいのかな。……ベッドの中じゃ…さ……」
たしかにそれって……心臓に悪い気がする。もちろん自分たちの心臓。
「洋服着て、遊びに来てもらう感じで。お茶用意するとかの方が…」
「そ、そうだよね! あ、お茶菓子!」
「あたし持ってくるよ」
何だかもうどうしていいのか二人とも分からなくて、最後は二人で顔を見合わせて笑っちゃった。
昼間、二人で目一杯お掃除した。
お茶の用意をして、お茶菓子のクッキーも…ぶるぅのクレープには負けるけどね。手作りしてもよかったかもって話にもなって。
じゃあねってrちゃんの部屋を出たのは夜の8時過ぎだった。
rちゃんはドキドキしながら待ってるだろうな。
でもあたしもドキドキしてる。
rちゃんの部屋は隣。耳を澄ませて……なんていられなくてベッドに潜り込んですぐヘッドフォンをした。
大好きな音楽も耳に入らない。
どうしたかなぁ……。
思っていたけど、いつの間にか眠っていた。
※rちゃんレポート
ああっ、どうなる、あたし、頑張れあたし!
こんなチャンスは二度とない...。
生徒会長さんのお蔭でゲットできた金の狸をグレイブ先生に提出し、私たちは宿題免除になりました。アルトちゃんとrちゃんも金の狸と銀の狸をそれぞれ提出しています。クラスメイトの羨望の視線が突き刺さる中、終礼をして一学期にサヨウナラ。夏休みですよ!ワッと飛び出していく人たちと入れ違いに入ってきたのは会長さん。真っすぐアルトちゃんとrちゃんの席に近づき、ポケットから手帳を取り出しました。
「夏休みは家に帰るんだろう?よかったら住所を書いてほしいな」
えぇぇっ!?…お守り袋は実家に帰省中でも有効ですか!?アルトちゃんたちも同じことを思ったらしく、頬を赤らめてモジモジしています。
「あ、違う、違う。家にまで押しかけるつもりはないよ。長い休みだし、葉書でも出そうかと思ってね。綺麗な絵葉書が見つかったら」
なぁんだ…。アルトちゃんたちはホッとした顔で嬉しそうに住所を書き始めました。これでいいですか、と差し出された手帳を眺めた会長さんは…。
「いい所に住んでいるんだね。ちょっと旅心をくすぐられるな。…前言撤回。行ってもいい?」
アルトちゃんたちは真っ赤になりつつ、観光案内をすると答えています。
「観光案内も嬉しいけれど。…旅の醍醐味はアバンチュールだと思わないかい?」
わわわっ!会長さんは完全にナンパモードでした。あの様子では本当にアルトちゃんたちの帰省先まで押しかけちゃうかも…。放っとくしかないですけど。私とスウェナちゃんとジョミー君は、アルトちゃんたちと話し込んでいる会長さんを残して「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋へ行きました。キース君とマツカ君は柔道部。トランクス騒動の後だけに、どんな顔をして教頭先生に会うのか、ちょっと見てみたい気もしますよね。
「かみお~ん♪もうサムが来てるよ」
生徒会室の壁を抜けると、サム君がソファに座っていました。
「よう。お先に食べてるぜ」
サム君の前にはチョコレートパフェ。私たちの分も「そるじゃぁ・ぶるぅ」が手際よく作ってくれましたけど、テーブルの上の特大パフェは…どう見ても「そるじゃぁ・ぶるぅ」のです。溶けないように氷をたっぷり入れたバケツの中に、フルーツポンチ用とおぼしき巨大な器が…。
「どうせならお腹いっぱい食べたいもんね♪」
おたまで豪快に掬い取ったパフェを頬張りながら「そるじゃぁ・ぶるぅ」は御満悦。あ、夏休みってことは、もしかして…「そるじゃぁ・ぶるぅ」特製オヤツや超絶美形の会長さんとしばらくお別れなんでしょうか?
「ぼくのお部屋は夏休み中も開いてるよ。だからブルーにも多分会えると思うけど」
旅行に行ったりしてなければね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。アルトちゃんたちをナンパしていた会長さんを思い返すと、なんだか複雑な気分です。アルトちゃんとrちゃん…会長さんの好みのタイプなのかな?
「ぼくの好みがどうしたって?」
会長さんが壁を抜けて現れ、私はアイスクリームを喉に詰めそうになりました。咳き込んでいる間に「そるじゃぁ・ぶるぅ」が会長さんのパフェを作ってアイスティーと一緒に渡します。
「ありがとう、ぶるぅ。チョコレートパフェもいいけど、他のパフェも魅力的だよねぇ。せっかくの夏休みだし、いろんなパフェを味わいたいな。旅先で食べる御当地アイスも捨て難い」
うーん…。これは例え話というものでしょうか?夏休みだからナンパしまくって、アルトちゃんとrちゃんの帰省先でもひと夏の恋を語ってくると?…私は会長さんの瞳を見詰めましたが、答えは返ってきませんでした。パフェを食べ終え、いつものように皆でワイワイ話していると部活を終えたキース君たちもやって来て。
「一学期の打ち上げパーティーしたいな」
ジョミー君の提案で出かけることになりました。もちろん「そるじゃぁ・ぶるぅ」も一緒。
「君たち、パーティーもいいけど、その前に教頭先生に狸のお礼を言わなくっちゃね」
あ。それはすっかり忘れていました。誤解して変態扱いしちゃった上に、狸を強奪したんでしたっけ。お礼なんか一言も言っていません。学校を出る前にお礼を言わなきゃ、失礼にあたるというものです。私たちは「そるじゃぁ・ぶるぅ」を連れ、会長さんについて教頭室に向かいました。
「あれ?…ドアが開けっ放しだ。教頭先生、いないのかな?」
ジョミー君が言うとおり、廊下の奥にある教頭室の重い扉が全開です。
「出かけるなら施錠しているさ。何か事情があるんだろう」
そう言った会長さんに皆の視線が突き刺さりました。心の声は「あんたのせいだ!」で一致してたと思います。濡れ衣を着せられた教頭先生、今日は扉を開け放っておきたい気分なのでしょう。扉を全開にした状態で後ろめたい行為に及ぶ物好きはいませんから。…教頭室に近づいていくと…。
「暑っ!」
開け放たれた戸口から温風…いえ、熱風が吹き出してきていました。夏だとはいえ、これは暑すぎです。何事?と覗き込んだ私たちは既にウチワが欲しい気分でした。その部屋の中で教頭先生が涼しい顔をし、スーツ姿で書き物をしています。
「…なんだ?またお前たちか」
私たちに気付いた先生は苦笑いをして、クーラーが故障したのだと言いました。
「で、今度は何の用事で来たんだ?」
「「「狸、ありがとうございました!!!」」」
「なんだ、そんなことか。明日から長い夏休みだが、あんまり羽目を外さんようにな」
声を揃えて頭を下げると、先生はにこやかに笑っています。さすがは柔道十段の武道家、根に持つタイプじゃないんですね。よかった、よかった。それにしても暑いお部屋です。立ってるだけで汗が噴き出してきそう。
「ハーレイ、この暑いのにスーツなんか着てよく平気だね。ワイシャツ1枚のぼくでも辛いよ。…何か秘密兵器でもあるのかな?それとも鍛え方が違うとか?」
会長さんが教頭先生の机に近づき、机の下を覗き込んで。
「あっ、本当に秘密兵器だ!」
私たちの頭の中に、会長さんが見ているものがダイレクトに送り込まれてきました。教頭先生はズボンを膝までまくり上げ、裸足の足と脛を大きなバケツに張った水の中に突っ込んでいたのです。
「なるほど、威厳を保つバケツ…か。これが無くなっても平気かい?…よいしょ、と」
頭の中から画像が消えて、会長さんが机の下に潜り込もうとしています。
「あっ、こら!バケツを持っていくヤツがあるか!!」
ガッターン!会長さんを止めようとした教頭先生がバランスを崩して椅子から落っこち、宙を泳いだ手が会長さんのワイシャツを掴んだと思うと………ビリビリッと布を引き裂く音が。
「ジョミー!!!!!」
会長さんの声と、ジョミー君のケータイカメラのシャッター音が殆ど同時に響きました。ケータイカメラが激写したのは床に尻餅をついた会長さんと…会長さんを押し倒すようにのしかかっている教頭先生。会長さんのワイシャツは襟元からベルトで隠れる部分まで無残に裂けて、白いお肌が露出しています。裂けたシャツの端を握っているのは教頭先生のゴツい手で…。
「あ…。ぼ、…ぼ、ぼく…」
ジョミー君がケータイを構えた右手を呆然と見ていました。自分でも何をしたのか分かっていない、という感じです。
「すまない、ジョミー……君を選んで…」
教頭先生の身体の下から這い出した会長さんが胸元をかき合わせ、ジョミー君の隣に立って。
「君の立ち位置が一番良かったんだ。…とんでもない写真を撮影させて、心からすまなく思っている…」
え。じゃ、ジョミー君が自発的にシャッターを切ったわけではなくて、会長さんがジョミー君を操ったと…?
「ジョミー、ちょっと貸してくれるかな」
ケータイを受け取った会長さんは画像データを満足そうに眺め、倒れたバケツから広がった水溜りの真ん中にへたり込んでいる教頭先生に見せびらかすようにかざしました。
「この写真、誰に送ろうか?…校長先生?それとも警察?…ああ、ジョミーのアドレス帳に載ってる人に一斉送信するのもいいねえ」
「ブルー!!!」
悲痛な声の教頭先生。会長さんが私たちに写真を見せてくれましたけど、これはどう見ても…教頭先生が会長さんを襲う瞬間を捉えたとしか…。
「ねぇ、ハーレイ」
ケータイをジョミー君に返した会長さんは、教頭先生の横にしゃがみ込んで甘ったるい声を出しました。こ、このパターンは…ついこの間も教頭室で…。
「ぼくたち、一学期の打ち上げパーティーに行くんだよ。中華料理なんかいいかなぁ、って」
「…ちゅ、中華料理……」
「そう。ぶるぅが美味しいお店を見つけたんだけど、夜はコースしかなくて高くって…」
会長さんが言い終わる前に教頭先生は財布を取り出し、その後は…。
「ありがとう。足りなかったらツケにしてきていいんだよね?」
苦りきった顔で頷く教頭先生。会長さんはジョミー君からケータイを受け取り、パパッと操作して微笑みました。
「はい、消去完了。そうそう、クーラーはもうすぐ直ると思うよ、ハーレイ」
じゃあね、と出てゆく会長さんに続く私たち。背後でカチッと音がして涼しい風が吹き始めたのは、廊下へ踏み出した時でした。
一学期最後の夜は「そるじゃぁ・ぶるぅ」が開拓してきた中華料理の高級店。一番高いコースを頼み、個室のテーブルを囲んで大騒ぎです。
「…ひとつ聞きたい。教頭室のクーラーを故障させたのは、あんたなのか?」
「決まってるじゃないか」
キース君の質問に会長さんは悪びれもせずに答えました。
「熱風が吹き出すように細工し、電源を切ることもできないようにしておいたんだ。…ハーレイがスーツのままだったのは誤算だったけど」
「誤算って…」
「上半身は脱ぐと思っていたんだけどな。そしたらもっと凄い写真が…。まぁいいか、結果は似たようなことになったんだしね」
クスクスクス。笑い声を漏らす会長さんの向かいでジョミー君が思い出したようにケータイを取り出し、少し弄っていましたが…。
「なんだよ、これ!添付写真削除って…こんな写メなんか送った覚えは…」
「ぼくが送った」
会長さんが即答しました。
「添付写真はさっき消したアレ。…送信先はハーレイの学校専用のパソコンアドレス」
「…あ、あんた……」
キース君が会長さんを指差してワナワナと震え、誰もが心で叫んだ言葉は「あんたは鬼や!」の一言でした。お仕事でメーラーを立ち上げた教頭先生、倒れなければいいんですけど。っていうか、教頭先生、あの画像が他の所にも送信されているんじゃないか、と震え上がるような気がするんですけど~!
「構わないさ」
クスクスと会長さんが笑っています。
「震え上がらせておけばいい。…それに、もしかしたら自宅のパソコン用の壁紙に加工するかもしれないよ?なにしろぼくに御執心だからね」
唇をペロリと舐めた会長さんはゾッとするほど綺麗でした。打ち上げパーティーは賑やかにお開きになり、教頭先生に貰ったお金で支払って…残りは夏休み用にとっておくことに。「そるじゃぁ・ぶるぅ」は中華饅頭のテイクアウトを頼んでいました。「そるじゃぁ・ぶるぅ」の家って、あのお部屋の他にもあるのかな。そして会長さんが住んでる家は…いったい何処にあるのでしょうね?夏休み中に御招待とかしてくれないかな…。
生徒会長さんの目の前でズボンを下ろそうとしている教頭先生。信じられない光景を目にして、私たちは固まってしまいました。いつも冷静なキース君ですら、口をパクパクさせています。
「…ち、違う、誤解だ!!」
教頭先生が叫びましたが、この状況でそう言われても信じる人がいるでしょうか?それに教頭先生は戸棚の奥に会長さんのウェディング・ドレス姿の等身大写真を隠し持っていた過去があるのです。もしかしなくても教頭先生、割り当て分の狸をねだりに行った会長さんに…交換条件としてとんでもないことをさせようと?…それを察知した会長さんが助けを求めて私たちを…?
「………失礼します!」
一番最初に我に返ったキース君が教頭先生の右腕を掴み、続いてシロエ君とマツカ君が左腕と足を封じました。教頭先生はズボンが少しずり下がったまま、身動きが取れない状態です。見ちゃいけないと思うのですが、赤と白の縞々トランクスの方についつい目線が行ってしまうのはスウェナちゃんも同じみたい。
「…カッコ悪いね、ハーレイ。弟子に押さえ込まれた気分はどうだい?」
会長さんがソファからゆっくり立ち上がり、キース君たちに微笑みかけました。
「ありがとう、みんな。…助かったよ」
「ち、違う!だから誤解だと…!」
「…その格好で五階も六階もないと思うな」
柔道部の三人に取り押さえられた教頭先生に会長さんの冷たい視線が向けられます。
「驚いちゃったよ、狸を分けて下さいってお願いしたらズボンを脱ごうとするんだからね。…ぼくは自分を安売りするつもりはないんだけれど」
ひゃあああ!やっぱりそういうことですか!キース君たちの腕にギリッと力が籠められました。柔道部でお世話になっている先生といえども、容赦する気はないようです。
「…校長室に連行するか?それとも校長先生を呼ぶか?」
キース君が尋ねました。
「ち、違うんだ、信じてくれ!!…ブルー、人が来る前にみんなの誤解を…」
「…言い訳の前に、狸」
会長さんが教頭先生の顔を見つめ、右手をスッと差し出して。
「持ってないとは言わせないよ、学校中の狸の分布図。金の狸と銀の狸の在り処を書いた地図を渡すか、現物をぼくたちに引き渡すか。金なら七個、銀なら三十五個が必要なんだけど」
「に…人数分の狸か…」
「そう。狸の件が落着したら、いくらでも言い訳を聞かせて貰おう」
教頭先生は顔にびっしり汗を浮かべて、動けないまま答えました。
「…内ポケットだ。上着の内ポケットに入った地図に、金と銀の狸が置かれた場所が…」
「ありがとう」
地図を抜き取った会長さんが狸の隠し場所をジョミー君とサム君に伝え、二人はダッシュで回収に。ジョミー君たちが金の狸を七個集めて戻ってくるまで、教頭先生はズボンを上げることも出来ずに拘束されたままでした。
「間に合ったぁ!…やったよ、金の狸が全部で七個!!」
制限時間の午後3時まで残り十分余りという時、ジョミー君とサム君が両手に金の狸を握って教頭室に駆け込んで来ました。これで私たち七人は全員、夏休みの宿題免除です。プリントもドリルも自由研究も、何もやらずに遊び三昧の夏休み!天才の筈のキース君とシロエ君も悪くない気分のようでした。強制されて勉強するのは二人とも好きじゃないんです。
「良かったね、みんな。ハーレイ、ぼくからもお礼を言うよ」
「…ブルー…。礼なんかより、他に言うべきことがあるだろう」
縞々トランクスの教頭先生が眉間の皺を深くしました。
「あ、そうそう。そうだっけね」
会長さんはニコッと笑い、縞々トランクスを指差して…。
「…見てごらん。恥ずかしいだろう?後ろ前に履いてるんだよ、ハーレイったら」
「「「後ろ前!?」」」
思いも寄らないことを聞かされ、私たち七人はビックリ仰天。
「うん、後ろ前。これじゃトイレで困るだろうね」
「…本当だ…」
屈み込んだジョミー君が縞々トランクスを見つめています。スウェナちゃんと私は好奇心に負けてチラッと眺め、すぐに視線を逸らしました。
「前あきが無いや。トイレに行けないことはないけど…」
「かなり格好悪いと思うよ。他の人が入ってきたら、とても間抜けに見えるだろうし」
クスクスクス。会長さんに笑われ、ジョミー君やキース君たちにも笑われ、教頭先生の顔は真っ赤です。
「気付いたから注意してあげたんだ。で、履き直すように言ったんだけど…ね」
「あんた、まさか…」
キース君の顔がヒクッと引き攣りました。
「そう、その『まさか』さ。君たちが飛び込んで来たのは、ハーレイが履き直そうとしていたところ」
あちゃ~!じゃあ、誤解だという教頭先生の叫びの方が真実だったということですか。キース君たちは慌てて教頭先生の手足を放し、床に土下座してしまいました。
「も、申し訳ありません!…大変失礼いたしました!」
「…いい、いい。…君たちが謝る必要はない」
教頭先生は自由になった手でズボンを引き上げ、ベルトを締めてからキース君たちの手を取って順に立ち上がらせていきます。
「朝練の後、シャワーを浴びた時に間違えて履いてしまったようだ。ブルーに指摘されなかったら、そのまま気付いていなかったろう。後で奥の部屋で履き直す。…それにしても、ブルー…。女の子まで呼び込まなくてもいいだろうに」
「この程度で卒倒するような子たちじゃないよ。誤解されたとおりのコトをしている最中だった、というならともかく」
さ、最中!?…想像してボンッ!と赤くなったのはスウェナちゃんと私だけではありませんでした。
「じゃあ、金の狸は貰っていくよ。ありがとう、ハーレイ」
クルリと踵を返した会長さんを私たちは慌てて追いかけます。廊下へ出てから振り返ってみると、教頭先生は椅子に沈み込んで顔にハンカチを載せていました。もう少ししたら冷却シートがおでこに貼られているのかも…。
「…さっきの後ろ前の話だけどな」
会長さんと別れ、大切な金の狸を1個ずつ持って教室に戻っていく途中の廊下で口を開いたのはキース君。
「あの落ち着いたハーレイ先生が、間違えるとは思えない。いや、百歩譲って本当に間違えていたんだとしても、狸目当てで行った会長がトランクスなんか見ると思うか?いくら能力があったって」
言われてみれば確かに変です。ポケットの中身とかならともかく、トランクスに用はありません。
「そうだよねえ。じゃあ、もしかして…教頭先生は会長に…」
「ハメられたんだ、と俺は思うぞ。あいつの力なら地図くらい手も触れずに盗み出せるんじゃないか?狸の在り処も簡単に探し当てられそうだ。なのに、わざわざ教頭室に…。そして起こったのがあの騒ぎだ」
「焼肉パーティーの時も陥れてましたっけね」
シロエ君が顎に人差し指を当て、ヒュウと口笛を吹きました。
「トランクスは会長が後ろ前に入れ替えてしまった、とか?…そのくらいのことは出来そうですよ」
「恐らくそれが真相だろう。教頭先生に申し訳ないことをしてしまった…」
「いいって、いいって!…多分、そんなに気にしてないさ。悪巧みしたのは会長なんだし」
ジョミー君がお気楽に言い、私たちはそれもそうか、と納得しました。それに教頭先生だって、会長さんのウェディング・ドレス姿の等身大写真を戸棚に隠していたんですから…疑われても仕方ないかも。とにかく今は金の狸を提出するのが最優先です。宿題免除、バンザーイ!
今日は終業式!明日から楽しい夏休みです。ワクワク気分で登校すると校門の辺りに人だかりが。なんだろう、と近づいてみると校門の両脇に背丈よりも大きな信楽焼の狸が置いてありました。それだけじゃありません。構内にも信楽焼の狸が…ありとあらゆるサイズの狸が所狭しと並んでいます。校舎へ向かう途中にも、校舎の中にも狸がいっぱい。A組の教卓やロッカーの上にも狸がズラリと…。
「なんだろう、これ」
ジョミー君がロッカーの上の狸を1つ抱えてきました。他の男子も狸を持ち上げてみたり、ひっくり返して裏側を見たりしています。スウェナちゃんと私も、ジョミー君が持ってきた狸をしげしげ眺めましたが、どう見ても何の変哲もない信楽焼の狸でした。
「学校中、狸で一杯よ?…何かイベントでもあるのかしら」
「いつの間に並べたのかな、あんなに沢山…」
3人で悩んでいると柔道部の朝練を終えたキース君とマツカ君がやって来ました。柔道部の練習場所やロッカー室にも狸が溢れていたようです。
「俺たちが登校した時には既に狸が置かれていたな。まだ校門は閉まっていたが」
「ええ、鍵がかかっていましたよね」
「じゃあ、ものすごく早い時間か、夜中に並べたってことになるのか。…誰が?」
う~ん、と私たちは首を捻りました。もしかして「そるじゃぁ・ぶるぅ」が悪戯したのかな?でも、それを尋ねようにも、会長さんの机がありません。今日はA組に来ないってことですよね。クラス中が狸の話で持ちきりの中、グレイブ先生が登場しました。
「諸君、おはよう。いよいよ明日から夏休みだ。お楽しみの宿題を沢山プレゼントするぞ。A組の宿題はこれと…」
先生が取り出したのは山のように積まれたプリントとドリル。げげっ、と皆がのけぞった所へ更に追い討ちをかけるように…。
「諸君の自主性を尊重しての自由研究。学校指定のレポート用紙で二十枚以上が条件だ。いいな?」
いいわけない!と叫びたくなるのをグッと堪えて私たちは先生を睨みました。
「なんだ、何か言いたそうだな?…そんな諸君の心を汲んで、教員一同からスペシャルでゴージャスな提案がある」
グレイブ先生はニヤリと笑って眼鏡を指先で押し上げました。
「学校中に溢れる信楽焼の狸を見たかね?…昨日、諸君が下校した後、教職員が総出で並べた狸たちだ。もちろん、ただの狸ではないぞ。…いや、大部分は普通の狸なのだが…」
クッ、と先生の喉の奥が鳴って。
「金なら1体、銀なら5体。…金色の狸を1個か、銀色の狸を5個探し出して提出した者は夏休みの宿題が免除になる。これから終業式が始まるわけだが、狸は式が終了してから探すように。そんなものは必要ない、と思う者は式が終わり次第、帰ってよし」
夏休みの宿題免除。金なら1体、銀なら5体。これを探さない人がいるんでしょうか?
「そうそう、狸で宿題免除は全学年が対象になる。そして数にも限りがある。金でも銀でも早い者勝ちだ。ただし昼休みの間は探すのは禁止。終了時間は午後3時。…貴重な狸を上級生や他の生徒に取られたくなければ頑張るように」
A組一同は固い決意で頷きました。絶対、狸ゲットです。
終業式の会場では学校中の生徒が狸の話題に夢中でした。例年、夏休みの宿題免除の特典は出ていたらしいのですが、抽選だったり早食い競争だったり、方法は実に色々で…狸は初の登場だそうです。校長先生の訓示の間もあっちでヒソヒソ、こっちでヒソヒソ。会場にも狸があるのですから、気にならないはずがありません。終業式が終わった途端、全校生徒が会場の狸めがけて殺到しました。
「…ダメだ、ここには置いてないらしい」
床板まで剥がしかねない勢いで家捜しした後、収穫の無かった私たちは会場の外へ。後はそれぞれ思った場所へ狸探しに出発です。私も頑張って探しました。あっちこっちで血眼になった生徒が探しまくっていますが、金の狸も銀の狸も発見されたという噂すら聞かない内に昼休みに…。
「誰も見つけていないんでしょうか?」
食堂で買ってきたサンドイッチを手にしたマツカ君が首を傾げました。今日は終業式だけだと思っていたので、皆、お弁当を持っていません。食堂は上級生に占拠されてしまい、1年生はパンかサンドイッチしか買えなかったんです。こんな時に会長さんがいれば「そるじゃぁ・ぶるぅ」特製お弁当を分けて貰えたのに。
「…呼んだかい?」
教室の扉が開いて、入ってきたのは会長さん。
「はい、お待ちかねのお弁当だよ。サムとシロエにも届けてきた」
大きな風呂敷包みが机に置かれ、中から豪華なお弁当が!私たちは大喜びで割箸を割り、早速ぱくつき始めたのですが…。あれ?会長さんは食べないのかな?
「ぼくはもう食べてきたんだよ。ゆっくり食べてくれればいいから」
そう言った会長さんは少し離れた所で菓子パンを食べているアルトちゃんとrちゃんの所へ歩いていきました。
「…お守り、使ってくれなかったね。残念だな」
アルトちゃんとrちゃんが真っ赤になり、「お守りって何?」とジョミー君。なんと説明したものか…とスウェナちゃんと私は顔を見合わせましたが、次の瞬間、そんな心配など見事に吹っ飛ぶ出来事が…。
「これ、君たちにプレゼント」
会長さんがポケットに手を入れ、アルトちゃんたちの机の上にコトン、と何かを置きました。コトン、コトン…コトン。ビー玉を2つ並べたくらいの、とても小さな…小さなもの。
「金なら1体、銀なら5体。はい、金が1個と銀が5個だよ」
「「「えぇぇっ!!?」」」
教室中が総立ちになり、私たちもアルトちゃんたちの方を眺めて愕然。そこには金と銀の小さな狸が6体、燦然と輝いていたのです。感激のあまり「ありがとうございます」と言ったきり後が続かないアルトちゃんとrちゃん。会長さんは二人にニッコリ微笑みかけて私たちの所に戻ってきました。
「た、た、た…狸!な、な、なんで…」
「落ち着け、ジョミー!…で、会長。あんたは何処からアレを?なんでアルトとrにプレゼントした?」
キース君の問いに会長さんは…。
「まりぃ先生がくれたんだ。先生それぞれに割り当て分があったらしいよ。で、ぼくのために取っておいてくれたんだけど、ぼくに夏休みの宿題は出ない。だから誰かにあげようと思って…。あの二人ならちょうど人数が合う。君たちは7人グループだから喧嘩になってしまいそうだし」
会長さんに夏休みの宿題が出ないとは知りませんでした。確かに全科目満点を取れちゃう人に宿題なんか、出すだけ無駄かもしれませんけど…。いいなぁ、アルトちゃんとrちゃん。私も狸、欲しかったなぁ…。
「あんなに小さいなんて思わなかったよ。よ~し、午後は徹底的に探すぞ!」
ジョミー君が叫び、昼休み終了の鐘が鳴ると同時に私たちは狸探しに飛び出して必死に頑張ったのですが。
「…ダメだぁ…。もうすぐ2時になっちゃうよ。あと1時間じゃ、とても無理だよ」
学校中を探しまくっても成果は上がらず、ジョミー君が呟きました。
「見つからないものは仕方ない。諦めて宿題に取り組むことだ」
「キースには簡単なことだろうけど!…あんな量の宿題、見るのも嫌だ…」
「じゃあ、ぼくの家の別荘で勉強会をやりますか?みんなで手分けすれば早いかも…」
マツカ君の提案に頷きかけた私たち。でも自由研究はどうしましょう?
「あーっ、それがあるんだよ!やっぱり狸を探すしかないや」
「だが、未だに見つからないんだぞ?…これ以上、いったい何処を探せと…」
キース君が言うとおり、狸探しは絶望的な状況でした。合流してきたサム君とシロエ君なんかは金の狸も銀の狸も一度も目にしていないのです。もうダメかも…と座り込みかけた時、会長さんがやって来ました。
「どうだい、狸は見つかったかい?…見つけたいなら手を貸すけど」
「「「お願いします!!!」」」
声を揃えた私たちの姿に会長さんは即座に頷き、先に立ってスタスタ歩き出します。辿り着いたのは教頭室。もしかして教頭先生の割り当て分の狸を取り上げるつもりでしょうか?いえ、手に入るなら何だって構わないんですけれど。
「君たちは外で待っていて」
会長さんが扉の向こうに消え、しばらく廊下で待っていると。
『来てくれ、すぐに!!!』
頭の中に会長さんの声が響いて、教頭室に飛び込んでいった私たちが見たものは…。
「「「………!!!!!」」」
ソファに座った会長さんの前で教頭先生がベルトを外し、社会の窓を全開にしてズボンを下ろそうとしていました。えっと、えっと…。縞々トランクスなんですねぇ、なんて暢気に言ってる場合じゃない~っ!!!