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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

カテゴリー「シャングリラ学園・本編」の記事一覧

今日は終業式!明日から楽しい夏休みです。ワクワク気分で登校すると校門の辺りに人だかりが。なんだろう、と近づいてみると校門の両脇に背丈よりも大きな信楽焼の狸が置いてありました。それだけじゃありません。構内にも信楽焼の狸が…ありとあらゆるサイズの狸が所狭しと並んでいます。校舎へ向かう途中にも、校舎の中にも狸がいっぱい。A組の教卓やロッカーの上にも狸がズラリと…。
「なんだろう、これ」
ジョミー君がロッカーの上の狸を1つ抱えてきました。他の男子も狸を持ち上げてみたり、ひっくり返して裏側を見たりしています。スウェナちゃんと私も、ジョミー君が持ってきた狸をしげしげ眺めましたが、どう見ても何の変哲もない信楽焼の狸でした。
「学校中、狸で一杯よ?…何かイベントでもあるのかしら」
「いつの間に並べたのかな、あんなに沢山…」
3人で悩んでいると柔道部の朝練を終えたキース君とマツカ君がやって来ました。柔道部の練習場所やロッカー室にも狸が溢れていたようです。
「俺たちが登校した時には既に狸が置かれていたな。まだ校門は閉まっていたが」
「ええ、鍵がかかっていましたよね」
「じゃあ、ものすごく早い時間か、夜中に並べたってことになるのか。…誰が?」
う~ん、と私たちは首を捻りました。もしかして「そるじゃぁ・ぶるぅ」が悪戯したのかな?でも、それを尋ねようにも、会長さんの机がありません。今日はA組に来ないってことですよね。クラス中が狸の話で持ちきりの中、グレイブ先生が登場しました。
「諸君、おはよう。いよいよ明日から夏休みだ。お楽しみの宿題を沢山プレゼントするぞ。A組の宿題はこれと…」
先生が取り出したのは山のように積まれたプリントとドリル。げげっ、と皆がのけぞった所へ更に追い討ちをかけるように…。
「諸君の自主性を尊重しての自由研究。学校指定のレポート用紙で二十枚以上が条件だ。いいな?」
いいわけない!と叫びたくなるのをグッと堪えて私たちは先生を睨みました。
「なんだ、何か言いたそうだな?…そんな諸君の心を汲んで、教員一同からスペシャルでゴージャスな提案がある」
グレイブ先生はニヤリと笑って眼鏡を指先で押し上げました。
「学校中に溢れる信楽焼の狸を見たかね?…昨日、諸君が下校した後、教職員が総出で並べた狸たちだ。もちろん、ただの狸ではないぞ。…いや、大部分は普通の狸なのだが…」
クッ、と先生の喉の奥が鳴って。
「金なら1体、銀なら5体。…金色の狸を1個か、銀色の狸を5個探し出して提出した者は夏休みの宿題が免除になる。これから終業式が始まるわけだが、狸は式が終了してから探すように。そんなものは必要ない、と思う者は式が終わり次第、帰ってよし」
夏休みの宿題免除。金なら1体、銀なら5体。これを探さない人がいるんでしょうか?
「そうそう、狸で宿題免除は全学年が対象になる。そして数にも限りがある。金でも銀でも早い者勝ちだ。ただし昼休みの間は探すのは禁止。終了時間は午後3時。…貴重な狸を上級生や他の生徒に取られたくなければ頑張るように」
A組一同は固い決意で頷きました。絶対、狸ゲットです。

終業式の会場では学校中の生徒が狸の話題に夢中でした。例年、夏休みの宿題免除の特典は出ていたらしいのですが、抽選だったり早食い競争だったり、方法は実に色々で…狸は初の登場だそうです。校長先生の訓示の間もあっちでヒソヒソ、こっちでヒソヒソ。会場にも狸があるのですから、気にならないはずがありません。終業式が終わった途端、全校生徒が会場の狸めがけて殺到しました。
「…ダメだ、ここには置いてないらしい」
床板まで剥がしかねない勢いで家捜しした後、収穫の無かった私たちは会場の外へ。後はそれぞれ思った場所へ狸探しに出発です。私も頑張って探しました。あっちこっちで血眼になった生徒が探しまくっていますが、金の狸も銀の狸も発見されたという噂すら聞かない内に昼休みに…。
「誰も見つけていないんでしょうか?」
食堂で買ってきたサンドイッチを手にしたマツカ君が首を傾げました。今日は終業式だけだと思っていたので、皆、お弁当を持っていません。食堂は上級生に占拠されてしまい、1年生はパンかサンドイッチしか買えなかったんです。こんな時に会長さんがいれば「そるじゃぁ・ぶるぅ」特製お弁当を分けて貰えたのに。
「…呼んだかい?」
教室の扉が開いて、入ってきたのは会長さん。
「はい、お待ちかねのお弁当だよ。サムとシロエにも届けてきた」
大きな風呂敷包みが机に置かれ、中から豪華なお弁当が!私たちは大喜びで割箸を割り、早速ぱくつき始めたのですが…。あれ?会長さんは食べないのかな?
「ぼくはもう食べてきたんだよ。ゆっくり食べてくれればいいから」
そう言った会長さんは少し離れた所で菓子パンを食べているアルトちゃんとrちゃんの所へ歩いていきました。
「…お守り、使ってくれなかったね。残念だな」
アルトちゃんとrちゃんが真っ赤になり、「お守りって何?」とジョミー君。なんと説明したものか…とスウェナちゃんと私は顔を見合わせましたが、次の瞬間、そんな心配など見事に吹っ飛ぶ出来事が…。
「これ、君たちにプレゼント」
会長さんがポケットに手を入れ、アルトちゃんたちの机の上にコトン、と何かを置きました。コトン、コトン…コトン。ビー玉を2つ並べたくらいの、とても小さな…小さなもの。
「金なら1体、銀なら5体。はい、金が1個と銀が5個だよ」
「「「えぇぇっ!!?」」」
教室中が総立ちになり、私たちもアルトちゃんたちの方を眺めて愕然。そこには金と銀の小さな狸が6体、燦然と輝いていたのです。感激のあまり「ありがとうございます」と言ったきり後が続かないアルトちゃんとrちゃん。会長さんは二人にニッコリ微笑みかけて私たちの所に戻ってきました。
「た、た、た…狸!な、な、なんで…」
「落ち着け、ジョミー!…で、会長。あんたは何処からアレを?なんでアルトとrにプレゼントした?」
キース君の問いに会長さんは…。
「まりぃ先生がくれたんだ。先生それぞれに割り当て分があったらしいよ。で、ぼくのために取っておいてくれたんだけど、ぼくに夏休みの宿題は出ない。だから誰かにあげようと思って…。あの二人ならちょうど人数が合う。君たちは7人グループだから喧嘩になってしまいそうだし」
会長さんに夏休みの宿題が出ないとは知りませんでした。確かに全科目満点を取れちゃう人に宿題なんか、出すだけ無駄かもしれませんけど…。いいなぁ、アルトちゃんとrちゃん。私も狸、欲しかったなぁ…。
「あんなに小さいなんて思わなかったよ。よ~し、午後は徹底的に探すぞ!」
ジョミー君が叫び、昼休み終了の鐘が鳴ると同時に私たちは狸探しに飛び出して必死に頑張ったのですが。

「…ダメだぁ…。もうすぐ2時になっちゃうよ。あと1時間じゃ、とても無理だよ」
学校中を探しまくっても成果は上がらず、ジョミー君が呟きました。
「見つからないものは仕方ない。諦めて宿題に取り組むことだ」
「キースには簡単なことだろうけど!…あんな量の宿題、見るのも嫌だ…」
「じゃあ、ぼくの家の別荘で勉強会をやりますか?みんなで手分けすれば早いかも…」
マツカ君の提案に頷きかけた私たち。でも自由研究はどうしましょう?
「あーっ、それがあるんだよ!やっぱり狸を探すしかないや」
「だが、未だに見つからないんだぞ?…これ以上、いったい何処を探せと…」
キース君が言うとおり、狸探しは絶望的な状況でした。合流してきたサム君とシロエ君なんかは金の狸も銀の狸も一度も目にしていないのです。もうダメかも…と座り込みかけた時、会長さんがやって来ました。
「どうだい、狸は見つかったかい?…見つけたいなら手を貸すけど」
「「「お願いします!!!」」」
声を揃えた私たちの姿に会長さんは即座に頷き、先に立ってスタスタ歩き出します。辿り着いたのは教頭室。もしかして教頭先生の割り当て分の狸を取り上げるつもりでしょうか?いえ、手に入るなら何だって構わないんですけれど。
「君たちは外で待っていて」
会長さんが扉の向こうに消え、しばらく廊下で待っていると。
『来てくれ、すぐに!!!』
頭の中に会長さんの声が響いて、教頭室に飛び込んでいった私たちが見たものは…。
「「「………!!!!!」」」
ソファに座った会長さんの前で教頭先生がベルトを外し、社会の窓を全開にしてズボンを下ろそうとしていました。えっと、えっと…。縞々トランクスなんですねぇ、なんて暢気に言ってる場合じゃない~っ!!! 




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焼肉パーティーから数日が経った、期末試験前日の朝。登校すると生徒会長さんがA組の教室に来ていました。一番後ろに置かれた会長さんの机の横には大きな土鍋が鎮座しています。土鍋はもちろん「そるじゃぁ・ぶるぅ」の寝床ですけど、中は空っぽ。教室中を見回してみても「そるじゃぁ・ぶるぅ」はいませんでした。
「ああ、ぶるぅ?…まだ朝ご飯を食べているんだよ。終わったら来ると言っていたけど」
会長さんが答えると、キース君が呆れたように土鍋を眺めて。
「あいつまで昼寝するつもりなのか?…土鍋なんかを用意して」
「いや。土鍋を運ばせたのには理由があってね」
「「理由?」」
珍しそうに土鍋を覗き込んでいたクラスメイトたちが首を傾げました。
「そう。楽しみにしているといい」
しばらくしてから現れた「そるじゃぁ・ぶるぅ」は朝から元気一杯です。重い土鍋を軽々と持ち上げ、どっこいしょ…と下ろした場所は。
「ブルー、この辺でいいのかな?」
「そうだね、そこが一番だろう。じゃあ、打ち合わせどおりにするんだよ」
「かみお~ん♪」
一声叫ぶと「そるじゃぁ・ぶるぅ」は土鍋にもぐり込みました。ゴソゴソゴソ…と丸まって目を閉じ、それっきり動かなくなりましたけど、いいんでしょうか。土鍋が置かれたのは教室の前の入り口付近。入ってくる人に蹴飛ばされそうな位置なんです。もう予鈴が鳴ってしまいましたから、生徒は全員、教室の中にいますけど…。
「おいおい、あれって邪魔じゃないのか?」
「だよなぁ?…なんであんな所に…」
ザワザワし始めたA組一同の耳に、会長さんの声が聞こえてきました。
「…あそこでなければいけないんだよ」
「「「えっ?」」」
「だって、ブービートラップだから」
問い返す前に扉が勢いよくガラリ!と引き開けられて…。
「諸君、おはよ……おわぁっ!!?」
カッカッと靴を鳴らして入ってきたグレイブ先生の足が思い切り土鍋を引っ掛け、先生は「そるじゃぁ・ぶるぅ」が入った土鍋の上にドスンと転んでしまったのでした。
「痛いーーーっ!!!」
悲鳴を上げた「そるじゃぁ・ぶるぅ」はグレイブ先生を土鍋の外に放り出し、何処からか取り出した土鍋の蓋を閉め、その中に。腰をしたたかに打ったグレイブ先生が起き上がった時には土鍋はピッチリ密封されて、先生の罵声にも悪態にも全く反応がありません。
「くそっ、なんという忌々しい朝だ。ブルー、この鍋をさっさと撤去しろ。見ているだけで不愉快になる」
「不愉快ねえ…。片付けるのは構わないけど、いいのかな?…ぶるぅ大明神はお怒りだよ」
「大明神?」
「うん、大明神。明日から五日間の期末テストでA組を学年1位に導いてくれる、無敵の神様。その神様を、君、寝床ごと蹴飛ばした上に…潰しちゃったよね、体重で。ぶるぅは物凄く怒っている。土鍋の蓋が閉まっているのがその証拠だ。…もし、ぶるぅの機嫌が直らなかったら…ぼくはみんなに満点を取らせてあげられない」
「「「えぇぇぇぇっ!!?」」」
クラス中に悲鳴が響きました。会長さんがいてくれるから、と安心していたA組の生徒はろくに勉強していません。実力で期末試験に挑むとなれば学年最下位は確実でしょう。
「聞いたかい、グレイブ?みんな自信が無いようだ。…ぼくが一緒に期末試験を受けているのにA組が学年1位どころか最下位だったら、君の立場は厳しいだろうね。ぶるぅは土鍋に引きこもったし、赤い手形も押すわけがない」
「そ、それは…。困る。非常に困る!」
1位大好きグレイブ先生は顔面蒼白になりました。会長さんはクスッと笑って。
「そうだね、本当に困るだろうねえ。じゃあ、選択肢は二つしか無い。ぼくがA組から姿を消せば、期末試験が学年最下位でも…君の指導力を問われるだけだ。これが1つ目。もう1つは、ぶるぅの機嫌を直して土鍋から出てきてもらうこと。さぁ、好きな方を選びたまえ」
「……うう……」
グレイブ先生は唇を噛み締め、懸命に考えを巡らしているようです。A組、どうなっちゃうのでしょう。もしかして赤点追試の嵐?ついでに夏休みはもれなく補習…?

「…止むを得ん…」
ガックリと肩を落としてグレイブ先生が呟きました。
「私のクラスが学年最下位などという悲惨なレッテルを貼られることはあってはならん。ブルー、土鍋の蓋を取れ。不本意だが頭を下げることにしよう」
「…取ってあげたいのは山々だけど…無理なんだよね」
会長さんが立ち上がって教室の前へ出て行き、ピッタリと蓋が閉まった土鍋をコンコン、と軽く叩いてみて。
「やっぱりダメだ。ぶるぅが一旦閉じこもったら、出す方法は無いんだよ。自分から出てくる気を起こすまで、ただひたすらに待つしかない。明日の試験までに出てきてもらおうというんだったら…」
土鍋のそばに膝をついた会長さんは土鍋の蓋に耳を押し当て、何かを聞いているようです。
「…そうか、うん、うん…。…そうだね、それは面白そうだね…」
ひとしきり頷いた後、会長さんは土鍋をゆっくりと撫でてグレイブ先生を見上げました。
「ぶるぅがね、土鍋から出てきてもいいと言ってるよ。…楽しいものを見せてくれたら」
「…楽しいもの?」
そう言ったグレイブ先生はかつてないほど不機嫌極まりない顔でした。
「あいにく、私に芸の心得は無い。他の条件を出してくれ」
「ダメ~ッって、ぶるぅが言ってるけど」
会長さんは土鍋に耳をつけた後、先生の提言を却下しました。
「それに、楽しいもの…ぶるぅの見たいものは決まってるんだ。君のバンジージャンプだよ」
「バンジージャンプ!?」
「そう。簡単なことだろう?…校舎の6階を結ぶ渡り廊下からバンジージャンプ。見せてくれるなら、ぶるぅは喜んで出てくるそうだ。ロープの用意もするってさ」
「…ば……バンジー……」
「バンバンジーじゃなくて、バンジージャンプ。答えは?…やらないのなら、ぶるぅは土鍋ごと部屋に帰ると言っている。もちろん期末試験に手は貸さない」
グレイブ先生の顔が引き攣っています。私たちはハラハラしながら「そるじゃぁ・ぶるぅ」が入った土鍋とグレイブ先生、それに会長さんを見つめることしかできません。
「そうそう、バンジージャンプをしてほしいのは昼休みだ。昼休みまでに決心をしてくれたまえ。渡り廊下に来てくれるのを待っているよ。…ただし、昼休み開始から5分だけね」
「……考えておこう……」
午前中、A組にグレイブ先生の授業はありません。重い足取りで出て行く先生の後姿はとても小さく感じられます。いつも自信に溢れているのに…よほど嫌なんでしょうか、バンジージャンプ。

グレイブ先生がいなくなった後、「そるじゃぁ・ぶるぅ」入りの土鍋は、会長さんの指図でキース君とマツカ君が教卓の横に移動させました。1時間目はブラウ先生の国語。先生は土鍋を眺め、バンジージャンプの話を聞いて。
「そりゃいいや。昼休みに渡り廊下だね?…どこで見物しようかねぇ…。みんなにも声をかけておくよ」
こんな調子で、昼休みが始まる頃には『グレイブ先生のバンジージャンプ』は学園中の話題の的になってしまっていたのです。4時間目を終えたA組一同は渡り廊下とその下、屋上や各階のベランダに散り、言い出しっぺの会長さんとジョミー君、キース君、マツカ君が「そるじゃぁ・ぶるぅ」入りの土鍋を御神輿のように掲げて渡り廊下の真ん中へ。スウェナちゃんと私は『祭』と書かれた大きな赤いウチワを振って先導役を務めました。学園中の先生や生徒が見物に押しかけ、屋上もベランダも校舎の下も満員です。
「…あと1分しかないんだけど。グレイブ先生、来ないのかな…」
ジョミー君が呟いた時、ワッと歓声が上がりました。渡り廊下にグレイブ先生とパイパー先生が現れたのです。
「かみお~ん!!!」
土鍋の蓋がパッと開いて、飛び出した「そるじゃぁ・ぶるぅ」がグレイブ先生の両足首と渡り廊下の手摺をロープでガッチリ結びました。会長さんが結び目を確認し、ロープを何度か引っ張ってみて。
「さぁ、やってみよう、バンジージャンプ。…ほら、あとは柵を越えて飛ぶだけだよ。…バンジー!」
会長さんの声に続いて学園中の生徒が一斉に…。
「「「バンジー!!!」」」
グレイブ先生の身体がガタガタと震え始めました。顔からすっかり血の気が失せて、歯がガチガチと鳴っています。
「…む、む、む…無理だ。わ、わ、私は……こ…」
するとパイパー先生がグレイブ先生に顔を近づけ、囁くように。
「高所恐怖症だなんて、情けないこと言わないで?…私は強い男が好きなの」
「……ミシェル……」
グレイブ先生はグッと拳を握り、それから震える手で眼鏡を外してパイパー先生に預け、渡り廊下の柵を乗り越え…。
「バンジーーーっ!!!」
大声で叫んで宙に飛び出したグレイブ先生はカッコ良かった…かもしれません。A組の期末試験の命運を賭けたバンジージャンプ。「そるじゃぁ・ぶるぅ」は大喜びし、A組の期末試験はもちろん学年1位でした。

「よかったね、みんな満点が取れて。ぶるぅが機嫌を直してくれたおかげだよ」
結果発表があった日の放課後、会長さんはA組の皆に囲まれて嬉しそう。でも、影の生徒会室に出入りする私たちは知っているんです。満点を取らせてくれたのは、ぶるぅじゃなくて会長さんの力だってこと。そんなこととは知らないみんなは…。
「ブービートラップは生徒会長さんのアイデアですか?それとも、ぶるぅ?」
「グレイブ先生が高所恐怖症だってこと、前からご存知だったんですよね。バンジージャンプ、最高でした!」
賑やかに騒ぐクラスメイトたち。グレイブ先生のバンジージャンプが自分たちの為だったかも…なんて、誰も思っていやしません。グレイブ先生は1位がお好き。学年1位キープのためのジャンプに決まっていますよね。
『どうだろうね?…パイパー先生のためのジャンプだったかもしれないよ』
頭の中で会長さんのクスクス笑いが響きました。
『求愛のダンスを踊る孔雀みたいに華麗にジャンプ。…ぼくにはそんな風に見えたけど?』
うーん、言われてみればそうかも。あのバンジージャンプがきっかけになってグレイブ先生とパイパー先生がゴールイン、なんてことになったら結婚式では二人でジャンプ?
『その時はスカイダイビングを薦めてみよう。…二人で大空に飛び出すっていうのも素敵じゃないか』
クスクスクス…。会長さんと私が声に出さずに交わした会話は、その後すぐに会長さんの思いつきとしてクラスメイトに伝えられました。もしもグレイブ先生とパイパー先生がウェディング・ベルを鳴らす日が来たら…A組一同からスカイダイビング結婚式がプレゼントされるかもしれません。先生、それまでに高所恐怖症を克服しといて下さいね~!




 クラブ活動はあったけど、セルジュ君にも先輩たちにも真実を聞けるはずもなく、気持ちが空回りしてるみたい。
 でもみんな本当に100歳以上なのかな? なんか信じられないけど。

 夕食を終えて部屋に戻ってrちゃんと二人、いつものお喋り会が始まる。
 最初は美味しいと思っていた寮の食事も、慣れてくると特別なものじゃなくなって、なんだかちょっと物足りなくなってきた。
 学食も食べ飽きてきたかな。
「もっとお料理教えてもらえばよかった」
「でも寮じゃ自炊できないよ?」
「そうだけどさ~。お料理クラブとか」
「そういうクラブなかった」
「何だか意外」
「そうだよね、ありそうだけど」
「じゃあさ、作っちゃおうか、クラブ」
「……アルト…数学同好会は? 苦手だからって逃げちゃ駄目」
「兼部で」
「まぁ…それなら……。でもあたし作る人、あなた食べる人じゃないでしょうね?」
「rちゃん、鋭い! 大アタリ!」
「もう、素敵なレディ計画はどこにいっちゃったの?」
「えっと……2時の方向に転がってます。船長!」
「何だ、諦めちゃったのか」
「諦めた訳じゃないけど。性に合わないし。ありのままの私でいいの」
「玉砕確定」
「もう~!」
 何だかんだとじゃれ合ってみる。
 刺激は作らないと、寮生活なんてやってられない。
「ねえ。私ね」
 床に座り込んでベッドを背もたれにしているあたしたち。
 口を開いたrちゃんは、今までじゃれていたのが嘘みたいに真剣な表情をしている。
「つるしてみようと思うんだけど」
「何を?」
 尋ねてからハッとした。
 お守りだ。
 生徒会長からもらったあのお守りを使おうとしているんだ。
 それにrちゃんも気付いたらしく、小さくうんと頷いた。
「こんなチャンス2度ないし、お守りを貰っただけなんて、ちょっと寂しい。思い続けるより玉砕もいいかなぁって」
「それは刺激的!」
「でしょ?」
 ニコ、とrちゃんが笑う。
 せっかくもらったんだし。
「それに『…お守り、使ってくれなかったね。残念だな』って生徒会長言ってたじゃない? やっぱり使うべきだと思う」
 それは一理あるかも。
 rちゃん、すごい!
「じゃあ今夜?」
「……う…うん」
 rちゃんの決心を羨ましく思いながらも、精一杯応援モードに突入した。




会長さんが立ち止まったのは教頭室の前でした。そういえば会長さんの担任は教頭先生でしたっけ。会長さんが扉をノックし、中から「どうぞ」と声がします。私たちは廊下で待っているつもりだったのですが、会長さんは「ついておいで」と言いました。教頭室って来たことないけど、まぁ、いいか。
「失礼します」
ガチャ、と扉を開いた会長さんに続いてゾロゾロ入っていくと、机で書き物をしていた教頭先生が顔を上げました。うわぁ、羽ペン使ってらっしゃるんだ!渋~い…。ちょっとステキかも。
「なんだ、ブルーか。どうした?」
「出張、お疲れ様でした。お帰りになったと伺ったので御挨拶に」
会長さんに続いて柔道部の三人が勢いよく頭を下げました。
「「「お疲れ様でした!また、御指導宜しくお願いします!」」」
「ああ、長いこと留守をしてすまなかったな。柔道部の方は期末試験が済んだら指導を始める。夏休みの強化合宿ではグッと力がつくはずだ」
教頭先生、出張してらしたとは知りませんでした。教頭先生が出張…。宇宙クジラの目撃談が新聞に小さく載っていたのは昨日の夕刊でしたっけ。教頭先生の長期出張と宇宙クジラの目撃情報が重なることが多い、と会長さんが言ってましたけど…本当だったみたいです。もしかして会長さんは、その件で私たちを連れて来たのかな?
「…ところで、ブルー。挨拶にしては少し人数が多いようだが…。柔道部の三人は分かるとしても、他の子たちはいったい何だ。ギャラリーか?」
「証人です」
「証人?」
怪訝な顔の教頭先生。私たちも寝耳に水です。証人って、なに?
「文字通りです。多ければ多いほどいいと思って」
そう言いながら会長さんはツカツカと教頭室を横切り、重厚な木製の戸棚の扉をバンッ!と開けました。
「あっ、こらっ!何をする、勝手に開けるんじゃない!」
「…今の言葉の前半部分、そっくりそのままお返ししますよ」
会長さんは戸棚の中をゴソゴソと探り、筒状に丸めたポスターのようなものを引っ張り出して。
「先生、これは何ですか?…みんな、これをよく見てほしい」
シュルッと広げられた『それ』は会長さんの写真でした。等身大に引き伸ばされた…親睦ダンスパーティーの時のウェディング・ドレス姿の写真。教頭先生が何故そんなものを!?
「さあ、なんでだろうね?…正直、ぼくもビックリしたよ。まさか学校にまで置いていたとは思わなかった。まりぃ先生から2枚受け取ったのは知っていたけど、保存用と観賞用ではなかったらしい」
か、観賞用?保存用?…私たちの頭が混乱する中、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が言いました。
「ぼく、1枚は知ってるよ。ハーレイの部屋に貼ってあるんだ。ね、ブルー?」
「よりにもよって寝室に…ね。もう1枚がここってことは、もしかして奥のベッドで仮眠する時…」
「ま、待て、ブルー!私はそんなつもりでは…」
「じゃあ、何?」
会長さんは教頭先生の机に近づき、大きな椅子の後ろに回って教頭先生を肩越しに覗き込みながら。
「…担任の生徒の等身大写真を持ってるなんて、どう考えても普通じゃないよね?それも男の先生が…男子生徒の女装写真をこっそり隠し持っているっていうのは…危ない趣味だと思われても仕方ないんじゃないのかな」
クスクスクス。教頭先生の額の皺が深くなったのを会長さんの指がツツーッとなぞりました。
「このことが学校中に知れ渡ったら…大変だねえ?単なる噂じゃないってことは、ぼくが連れてきた証人たちが立派に証言してくれるだろうし」
「……ブルー……」
教頭先生が困っているのが手に取るように分かります。脂汗だって浮かんでいるし。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が等身大写真をクルクルと巻いて机に載せると、会長さんはニッコリ笑って甘えるような口調で言いました。
「…ハーレイ。ぼくたち、焼肉を食べに行きたいんだ」
「……や…焼肉…?」
「うん、焼肉。でも、ぶるぅもいるし、人数も多いし。ずいぶん高くつきそうだなぁ…って」
ねえ?と首をかしげた会長さんの笑みは凄く艶っぽいものでした。
「わ、分かった!…焼肉だな?」
教頭先生は財布を取り出し、ありったけのお札を抜き出して会長さんの手に…。
「みんな、好きなだけ食べるといい。足りなかったら私の名前でツケにして帰ってくればいいから」
「ありがとう、ハーレイ。…大好きだよ」
会長さんが耳元でそう囁くと、教頭先生は頬を赤くして咳払い。
「…用が済んだなら行きなさい。私は出張中に溜まった仕事の処理で忙しいんだ」
「はいはい。それじゃ、邪魔したね、ハーレイ。遠慮なくご馳走になるよ。さぁ、みんな…教頭先生はお忙しいんだから、失礼しよう」
「は、はいっ!」
色々と謎が山積みのまま、教頭室を後にした私たち。挨拶をするのも忘れて出てしまった私やジョミー君と違って、柔道部のキース君、シロエ君、マツカ君がきちんと挨拶と礼をしたのは柔道部で礼儀作法を叩き込まれているからでしょうね。さぁて、いよいよ焼肉パーティーです。教頭先生のおごりだよ、と会長さんが言いましたけど…いいのかなぁ?

予算の心配が無くなった私たちは「そるじゃぁ・ぶるぅ」御推薦の高級そうな焼肉店に入りました。料理好きの「そるじゃぁ・ぶるぅ」は食べ歩きで舌を鍛えているのだそうです。確かにお店も綺麗でお肉も美味しい!個室だから騒いでも他のお客さんの迷惑にならないし…。
「で、あんたはなんで教頭先生の戸棚の中身を知っていたんだ?」
キース君の質問に会長さんはクスッと笑って。
「出張中に何度か昼寝しに行ったからね。保健室もなかなかだけど、ハーレイのベッドも寝心地がいい。身体が大きい分、ベッドもちゃんと大きいんだ。泊り込み用の仮眠室とは思えないほどさ」
「…勝手にベッドを借りた挙句に、部屋中、物色してたのか…」
「失礼だな。探検していた、と言ってくれたまえ」
焼肉でワイワイ盛り上がりながらも、話題にさっきの写真ネタは欠かせません。教頭先生は男の子の女装写真が好きなのかも、という流れになってジョミー君たちが青ざめました。
「ま、まさか…ぼくたちのウェディング・ドレスの写真も戸棚の中に…」
「それはないね」
会長さんはキッパリ否定し、心配ならまりぃ先生に確認するといい…とジョミー君たちを安心させて。
「困ったことに、ハーレイはぼくに御執心なんだよ。あんな写真をこっそり隠しているなんて…いじらしいね。寝室に貼ってる分はともかく」
「も、もしかして…あんた、教頭先生の家の寝室に!?」
キース君の声がひっくり返り、私たちもサーッと青ざめました。会長さん、まりぃ先生の特別室だけじゃなくて教頭先生のベッドにも!?
「人聞きが悪い言い方だね。ぶるぅも知っていただろう?入ってみただけだよ、入っただけ」
「そ、そうか…」
「ふふ、寝たのかと思ったんだ?」
会長さんの意味深な笑みに私たちがドキンとした時です。
「思い出したぁ!!!」
いきなり「そるじゃぁ・ぶるぅ」が叫びました。
「思い出したよ、ブルーのセリフ!…えっとね、寝顔!『また君の寝顔を見せてくれないか』って言うんだった!」
それはスウェナちゃんと私だけが聞いた「お守り袋でお試しコース」の時の会長さんの決めゼリフ。
「なになに、なんの話?」
「…寝顔って…あんたいったい、何処で何をやらかしたんだ」
集中砲火を浴びる会長さんの横で「ぐぉーっ」と突然、大きなイビキが。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が仰向けになって気持ち良さそうに寝ていました。
「あっ、こいつ、チューハイなんか頼んでやがる!」
「「「えぇぇっ!!?」」」
サム君が言うとおり、「そるじゃぁ・ぶるぅ」はチューハイを何杯も注文して一人で飲んでしまったようでした。私たちは真面目にジュースとウーロン茶なのに!
「ほらね、酔っ払いの言葉だよ。気にしない、気にしない」
会長さんがサラッとごまかし、寝顔発言と教頭先生の写真騒ぎは焼肉パーティーの話のネタに紛れ込んだまま流れ去ります。美味しい焼肉をお腹いっぱいになるまで食べて、デザートも食べて…満足した後は教頭先生のポケットマネーでお支払い。余ったお金は会長さんが爆睡している「そるじゃぁ・ぶるぅ」を連れて帰るためのタクシー代に使うことになりました。
「タクシー代の残りでぶるぅに食材を買わせよう。せっかく貰ったお小遣いだし、有効に利用しなくちゃね」
会長さん、残ったお金を教頭先生に返すつもりはないようです。
「当然だろう?」
タクシーに「そるじゃぁ・ぶるぅ」を押し込みながら会長さんがウインクしました。
「ツケにしてもいい、って言ってたじゃないか。でも、ツケにするほど食べなかったし…食費にするのに貰ったんだし。食費も食材費も似たようなものさ」
そうかな?…言われてみればそんなような気も…。
「じゃあ、帰り道に気をつけて。スウェナとみゆは家の人に途中まで迎えに来てもらうんだよ」
会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」を乗せたタクシーが夜の街に消え、私たちも最寄り駅で解散です。教頭先生には気の毒でしたが、思っていたより遙かに上等の焼肉が食べられたので満足、満足。こんな夕食会なら何度あっても大歓迎だね、と言い合いながら楽しく家路につきました。教頭先生、ご馳走様~! 




カレンダーが7月になり、夏休みもすぐそこ。その前に期末試験があるんですけど、我がA組は生徒会長さんがなんとかしてくれるだろうと危機感の無い日々を送っています。ええ、会長さんは相変わらず「気が向いたから」と言っては度々A組に現れますし、他のクラスには顔を出さないようですし…A組で期末試験を受けてくれるのは確かでしょう。グレイブ先生が気に入ったのか、会長さんの言う「仲間」が5人もいるからなのかは謎ですが。
「みゆちゃん、スウェナちゃん…。ちょっと、いい?」
放課後、掃除当番をしていた私たちに声をかけてきたのはアルトちゃんとrちゃんでした。
「教えて欲しいことがあって…」
二人は私たちが掃除を終えるまで残って待っていて、誰もいなくなってから声を潜めて言いました。
「あの…。生徒会長さんのことなんだけど。何処に住んでいるのか知ってる?」
え。会長さんの家って何処でしょう?そういえば全然、聞いたことないかも。
「やっぱり、みゆちゃんたちも知らないんだ…。ぶるぅっていう子と一緒に暮らしているのかなぁ」
「それは多分…そうだと思うけど…」
スウェナちゃんと私が知っているのは「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋までです。もしかしたら、あの部屋の奥に会長さんのお部屋があったりするのでしょうか?アルトちゃんとrちゃんは真剣な顔でこう尋ねました。
「本当は、家が何処かはどうでもいいの。…ぶるぅが手引きをしてくれる、って言ってたのは本当なのかなぁ、って。私たちの寮、とても警備が厳しいんだけど…会長さん、本当に忍び込めるのかな?忍び込むところを見つかったりしたら停学は確実だし、心配になって。それに…会長さんが私たちのことを好きだなんてことは…」
「好きかどうかはともかくとして、見つかるような人じゃないと思うわ」
スウェナちゃんが言い、私も即座に頷きました。
「うんうん、それだけは絶対ない!…だって会長さんだもん」
「そう?…そうなんだ…」
アルトちゃんたちが呟き、互いに顔を見合わせて。
「じゃあ、あとは私たちの心の問題なのね」
「うん。…会長さんに危険が及ばないなら、いつか試してみてもいいかも」
わわっ、まずい!…私たち、アルトちゃんたちに余計なことをしゃべったみたい。会長さんの身を案じて例のお守りを使わずにいたらしい二人に「心配いらない」とお墨付きを与えてしまったんです。だけど後悔先に立たず。アルトちゃんたちはお礼を言って教室を出ていき、その背中には恋する乙女のピンクのオーラが…。
「どうしよう。アルトちゃんたち、あのお守りを使っちゃうかも」
「使わないと思いたいけど…。一度は断念しかけたみたいだし」
「でも、今、うっかり後押ししちゃったのよね、私たち…」
私たちは深い溜息をついて「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋へ向かいました。

「かみお~ん♪どうしたの、二人とも?」
土鍋でくつろいでいた「そるじゃぁ・ぶるぅ」が元気に跳ね起き、冷蔵庫から特製あんみつを出してくれます。夏に土鍋というのは妙ですけども、ひんやりして気持ちがいいんですって。
「あら、ジョミーたちは?」
スウェナちゃんが言うとおり、先に来ているはずのジョミー君もサム君もいませんでした。会長さんの姿も見えません。
「ブルーと一緒に柔道部の練習を見に行ってるよ。みゆたちも行く?それとも、ぼくとおしゃべりする?…なんだか元気がないみたいだけど」
「そうね…。この際だから聞いちゃおうかな。ぶるぅ、赤いお守り袋を知ってる?」
あひゃあ!スウェナちゃん、いきなりそれを聞きますか!?
「ぼくの手形が入ってるヤツ?…ブルーが女の子に配るんだけど」
「それそれ!それ、本当に効き目があるの?ぶるぅ、それが使われた時は会長さんを手引きしてるの?」
「手引き?…ぼくは紙に手形を押すのと、お守り袋を作るだけだよ。その後のことはよく知らないや。何かの合図に使うみたいだね。お守りを使った人がいるから、って夜中に出かけていっちゃうことがたまにあるんだ」
なんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」はお守り袋を作ってるだけで、使い道を知りませんでした。すると全ては会長さんがやってることで、忍び込むのも夢を見せるのも単独犯ということです。
「単独犯?…ブルー、悪いことなんかしてないよ」
不快そうな顔の「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「ブルー、いつだって言ってるもん。お年寄りと女子供は大切にしなきゃ、って。だからお守り袋を渡した女の子のこと、とても大事に扱う筈だよ」
「たった一回しか使えないお守りでしょ?…本当に大事に扱うのなら無期限でなきゃ!」
スウェナちゃんも負けていません。ですよね、やっぱり1回限りは不実ですよね…。
「希望者には追加を渡すんだからいいと思うな。1回目はお試しコースらしいし」
「「お試しコース!?」」
私たちの声がハモりました。
「うん。何を試すのかは知らないけれど、そう言ってた。でね、その時に聞くんだって。君の……えっと、なんだっけ…えっと…えっと…。ごめん、忘れちゃった。とにかく『また君のナントカを見せてくれないか』って尋ねて、OKだったら新しいお守り袋を渡して帰って来るんだよ」
ナントカ!?…そこに入りそうな単語を瞬時にあれこれ想像しまくった私たちは真っ赤になってしまいました。いったいどんな口説き文句だか知りませんけど、きっととんでもない単語が…。もしかしなくても「そるじゃぁ・ぶるぅ」には理解できない伏字の世界かもしれません。あんな美形の会長さんにそう言われたら、誰も断りきれないんじゃあ…。アルトちゃんとrちゃん、大丈夫かな?
「そっか、友達だったんだよね…お守りを貰った人たち」
「そうなの。使っちゃうかもしれないし、気になって…」
「心配だもの、何かあったら…って」
「平気、平気!…ブルーに任せておけば大丈夫だよ。それに今、お守りを持っているのはその二人だけだし。でも、お試しコースってなんだろうね?」
無邪気に尋ねる「そるじゃぁ・ぶるぅ」は本当に何も知らないようです。そして私たちも1歳児相手に余計な知識を吹き込めるほど、悪いオトナではありませんでした。アルトちゃんとrちゃん…。お守り袋でお試しコースを体験したら、会長さんの虜になってしまいそう。かなり危険な香りがします。アルトちゃん、rちゃん、使っちゃダメ~!

「おやおや、来ないと思ったら…こんなところでおしゃべり中かい?」
会長さんの声が聞こえて、スウェナちゃんと私は飛び上がりました。ジョミー君とサム君、柔道部の三人も次々に壁を通り抜けて来ます。いつの間にか部活が終わる時間になっていたんですね。「そるじゃぁ・ぶるぅ」がいつものように特製オヤツを作ろうと割烹着に手を伸ばしましたが。
「ぶるぅ、今日はオヤツは作らなくていいよ」
そう言った会長さんは私たち全員にウインクをしてみせました。
「晩御飯は要らない、って家に連絡しておいて。みんなで何処かへ食べに行こうよ。何がいい?」
「焼肉!」
一番に叫んだのはジョミー君です。ラーメンとか豚カツとか、いろんな意見が飛び交って…結論は焼肉。
「それじゃ、そういうことで行こうか。ぶるぅも来るよね」
嬉しそうに頷く「そるじゃぁ・ぶるぅ」も加わり、私たちは影の生徒会室から本物の生徒会室に戻りました。今夜はみんなで焼肉パーティー!
「あ、その前に…ちょっと寄って行く所があるんだ。ついて来て」
スタスタと歩き出した会長さんを追う私たち。焼肉パーティーへの道はまだまだ遠いかな…? 




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