シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。
シャングリラ学園番外編は 「毎月第3月曜更新」 です。
第1月曜に「おまけ更新」をして2回更新の時は、前月に予告いたします。
お話の後の御挨拶などをチェックなさって下さいませv
衣替えも終わって食欲の秋。もう少し経てば恒例のマザー農場での収穫祭です。その前に薪拾いなんていう面倒なイベントもありますけれど、収穫祭はやっぱり楽しみ。ジンギスカンの食べ放題などに思いを馳せつつ、今日は会長さんの家でピザパーティーというわけで。
「かみお~ん♪ 沢山あるから好きなだけ食べてね!」
ソースもトッピングも選び放題、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が張り切っています。
「俺はボリュームたっぷりで頼む。どうも疲れが抜けなくてな」
お彼岸以来、とキース君が注文すると会長さんがからかうように。
「お彼岸って…。あれから十日以上経つと思うけど? そろそろ年かな、副住職?」
「やかましい! 今年は大変だったんだ!」
ウッカリ連休になったせいで、とキース君は不満たらたら。
「お中日は祝日だなんて、何処のどいつが決めたんだ! そこへ土日が来やがったから、親父が盛大にやると言い出して…。いつもだったら俺はお中日だけでお役御免なのに」
しかも今年は暑かった、とキース君の不満は滔々と。
「暑さ寒さも彼岸までだと? とことんふざけた話だぜ。今でもセミがいるくらいだしな、墓回向に行っても汗だくだくだ。…俺は本当に疲れ果てたんだ」
なのに朝から境内の掃除、と立て板に水の文句三昧。キース君ったら、今日は遊びに行くというのでアドス和尚にみっちりしごかれたらしいです。それもその筈、元老寺では今頃は法事の真っ最中。出ないで済むだけマシと思え、と本堂の設えもさせられたそうで…。
「なるほどねえ…。まあ、仕方ないよね、副住職だし」
そのくらいのことはやって当然、と流す会長さんにキース君は「それはそうだが…」と力なく。
「しかしだな、俺は基本が高校生だ。法事に出てもだ、見た目は小坊主と変わらんぞ」
「見た目だけはね。でもさ、檀家さんには副住職だとバレてるんだし、アドス和尚と二人で出ればお布施の方もグンと増えるのに」
「…小遣い稼ぎは俺には合わんと言っただろう!」
主義に反する、とテーブルを叩くキース君。
「お布施目当てで法事に出るのは嫌なんだ! 御縁のある方の法事には出るが、それ以外は基本はパスなんだ、パス!」
「はいはい、分かった。お彼岸疲れね…」
お大事に、と会長さんが返した所で「そるじゃぁ・ぶるぅ」がピザをドカンと運んで来ました。ワゴンの上にお皿が一杯、注文の品が次々と。うわぁ、とってもゴージャスです。とりあえずキース君の文句はここまで、みんな揃って頂きまーっす!
トマトソースにクリームソース、カレーソースと盛りだくさん。トッピングの方もバラエティー豊かで何枚でもお代わり出来そうな感じ。男の子たちは豪快に手づかみ、スウェナちゃんと私にはナイフとフォークが。会長さんもナイフとフォークですけど…。
「おや? シロエはどうかしたのかい?」
気になることでも、と会長さんが訊くとシロエ君は「いえ、ちょっと…」と。
「大したことじゃないんです。気にしないで下さい」
「そう言われても…。さっきから視線が意味ありげだよね」
キースとサムとジョミーばっかり見ているけれど、と会長さん。
「プラスぼくかな、その四人。なんでそういう面子になるわけ? 特に変わったピザは食べていないと思うんだけど…」
選んだ種類は色々だけどね、と言われてみれば、会長さんが指摘した四人のピザには共通点がありませんでした。ソースはともかく、トッピングがまるで別物です。ジョミー君はソーセージたっぷり、キース君はカルビがメインのチョイス。サム君はチキンで会長さんがポテトとコーン。
「それともアレかな、次に食べたいピザの要素が含まれてるとか?」
「ち、違います!」
慌てて否定したシロエ君ですが、普段の言動からは考えられないうろたえぶり。一歳下とは思えないほどの落ち着きぶりがシロエ君の持ち味の一つなのに…? 会長さんも、すかさず其処を。
「らしくないねえ、何を慌てているんだい? なんだか後ろめたそうだねえ?」
「い、いえ、別に……」
そんなことは、と答えたものの、シロエ君の目は妙に落ち着きがありません。これは明らかに何か隠している顔です。会長さんが挙げた四人の共通点って何でしょう? ジョミー君たちも気になるようで。
「えーっと…。ぼくとキースと、サムとブルーって何だろう?」
「ズバリ坊主じゃねえのかよ?」
サム君の指摘にシロエ君はギクリ。坊主で間違いなさそうです。会長さんの瞳が好奇心に輝き、シロエ君の顔をじっと見詰めて。
「…ふうん……。君も仏道修行を希望かな? お盆にお彼岸と続いたからねえ、キースをライバル視している君としては黙っていられない気分だとか?」
一人前の坊主を目指すなら師僧になってあげてもいいよ、と持ちかけられたシロエ君の絶叫がダイニングに響き渡りました。
「お坊さんになる気はないですってば!!!」
ハアハアと肩で息をしてますけれども、お坊さん志願じゃないんだったら何故にお坊さん組ばかり見ていたわけ…?
仏弟子志願を全力で否定したシロエ君。しかし気になる対象がお坊さんな事実は疑いようもなく、ピザパーティーの肴はシロエ君になってしまいました。
「坊主になる気がねえんだったら、なんで俺たちを見てんだよ?」
今日は法衣も着てねえぜ、とサム君が言えばキース君が。
「どうせ顰蹙な発想だろう。俺がお彼岸だの法事だのと話していたから、坊主頭を想像中だな」
「あー…。それはあるかも!」
散々練習してたもんねえ、とジョミー君。坊主頭は住職の資格を取る道場の必須条件です。それを回避したかったキース君がサイオニック・ドリームで誤魔化すために努力していて、ジョミー君もその道連れに。挙句の果てに学園祭で坊主頭が売りの坊主カフェなんかもありましたっけ…。
「きっとそれだよ、でもってブルーの坊主頭を必死に想像してたんじゃないの?」
あれだけは誰も見たことないし、というジョミー君の意見に一斉に頷く私たち。会長さんも修行中には坊主頭に見せかけていたと聞いていますが、その姿は誰も知りません。ん? 誰も…?
「そうだ、ぶるぅは見ていた筈だぞ」
璃慕恩院に一緒に行ったんだしな、とキース君が声を上げました。
「どうだった、ぶるぅ? お前ももちろん覚えてるだろう、ぜひ見せてくれ」
「いいね、サイオンで一瞬で画像を共有ってね!」
この機会に是非、とジョミー君も瞳を輝かせましたが、「そるじゃぁ・ぶるぅ」は。
「えーと、えっとね…。ブルーの方が上手かったんだよ、企業秘密だし」
「「「は?」」」
企業秘密って何ですか? 会長さんの坊主頭が? 「そるじゃぁ・ぶるぅ」はコックリと。
「うんっ! ぼく、子供だから、何かのはずみにバラしちゃうかもしれないし…。それでね、ぼくにはサイオニック・ドリームをかけなかったの! だから一度も見たことないよ」
「「「えーーーっ!?」」」
そんな馬鹿な、と私たちは必死に問い詰めましたが「そるじゃぁ・ぶるぅ」は「見たことない」の一点張り。やがて会長さんが可笑しそうに。
「ぶるぅは嘘はつかないよ。ぼくのイメージは守りたいしねえ、身内にバラしたことはない。どうしても知りたかったら当時の知り合いを探すんだね。もれなくあの世に旅立ってるけど」
訊きに行くなら個人情報だけど戒名を…、と言われましても。極楽浄土にお住いの方にインタビューが出来る力の持ち主、私たちの中にはいませんってば…。
「戒名と来たか…。どうにもならんな」
残念だが、とキース君がピザを頬張り、ジョミー君も。
「サムの霊感でも無理そうだよねえ…。あれっ、シロエはどうしたわけ?」
「…い、いえ……」
ホントに何でもないんです、と答える割に俯き加減。そして視線はお坊さん組をチラチラと。
「なるほどね…。ぼくはキーワードは戒名と見たね」
会長さんの言葉にシロエ君の手からピザがお皿に落っこち、語るに落ちるとはまさにこのこと。
「やっぱり戒名だったんだ? もしかしなくても貰ったとか?」
気が早いねえ、と会長さんが呆れ、キース君も。
「お前、いつの間に貰ってきたんだ? どんなのだ、いい戒名か?」
「……そ、それが……。どちらかと言えばその逆で……」
「気に入らんのなら言った方がいいぞ」
死んでからでは手遅れだしな、とキース君。
「今の内ならまだ変えられる。和尚さんにきちんと相談しろ」
「そうだよ、気に入らない戒名を黙って受け入れなくてもねえ…。自分の主張は通すべきだよ」
きちんと意志を貫いてこそ、と会長さんも同意見です。
「戒名は生前の人となりとかを表すものだし、コレは違うと思うんだったらハッキリと! 生きてる間に貰った人間だけの特権だってば。ぼくなんかは最高に気に入ってるしね、銀青の名前」
「…俺は正直、微妙だが…。まあ、意味を考えれば悪くはないな」
休須だけどな、と語るキース君の法名は未来の戒名。須弥山で休むような器になれ、とアドス和尚が心をこめてつけたのですけど、読みが「きゅうす」でお茶を注ぐ急須に通じるからとキース君は長年伏せていました。サム君は作夢、ジョミー君は徐未。シロエ君がお坊さん組を見ていた理由は法名が羨ましかったからですか…。
「変えて貰えよ、早い内によ」
俺たちと違って変更可能、とサム君も。
「お師僧さんは絶対だしなぁ、俺たちは簡単に変えられねえけどよ…。お前は普通に一般人だし、頼めば変えて貰えるぜ」
「サムの言う通りさ。これがいい、って思う戒名があるなら書いていくのも一つの手だよ」
そのまんまOKが出るケースもあるし、と会長さん。戒名の上につく院号ってヤツまで個人の好みで決めたツワモノがいるそうです。その名もズバリ青春院。病気で若くして亡くなった青年らしいんですけど、青春院ってカッコイイかも…。
素晴らしい院号を聞いてしまうと、知りたくなるのがシロエ君が貰った戒名です。いい戒名どころか逆だったなんて、どんな戒名なんでしょう? 男の子たちと会長さんの集中攻撃に、シロエ君はついに白旗を。
「…分かりましたよ。白状しますから、絶対に笑わないで下さいよ?」
「そんな失礼なことはしないよ、君にも和尚さんにも悪いしね」
その辺はちゃんと心得ている、と会長さんが太鼓判を押し、キース君たちも神妙な顔。お坊さん組じゃないマツカ君とスウェナちゃん、そして私はイマイチ自信がありませんけど、それでも真剣に真正面から受け止める覚悟。シロエ君はスウッと息を吸い込んで…。
「……珍爆です」
「「「ち、珍爆…」」」
予想を遙かに上回る斜め上っぷりにオウム返しに復唱した後、ダイニングは爆笑の渦に包まれました。キース君は涙を流さんばかりに笑っていますし、会長さんもお腹を抱えて悶絶中です。
「さ、最高だぜ、それ…!」
どうにも笑いが止まらねえ、とサム君がテーブルをバンバンと叩き、シロエ君は仏頂面で。
「………。笑わないって言いましたよね? 会長だって」
「そ、そりゃあ……」
それがマトモな戒名ならね、と会長さんは必死に笑いを堪えながら。
「それ、本職がつけた戒名じゃないだろう?」
「本物ですよ! 戒名は欲しいけどお金が足りないという方に、って書いてありました!」
「「「は?」」」
シロエ君が戒名を頼んだ先は菩提寺ではなかったというわけですか? チラシを見たとか? どういうわけだ、と顔を見合わせる私たちに、会長さんが。
「あれだね、いわゆる戒名作成フリーサイト! シロエ、使い方をちゃんと読んだかい?」
「読みました! 希望の文字を入れて下さいと書いてありましたし、それもきちんと」
「入力したというわけだ? でもねえ、所詮は無料だしねえ…」
アレはとんでもないヤツが出る、と会長さんが端末を立ち上げ、シロエ君が使ったというフリーサイトを呼び出して。
「いいかい、ここにブルーにちなんで青と入れると…」
これで作成、と会長さんがクリックした後に表示された戒名はそれは壮絶なものでした。
「「「せ、青腐…」」」
あんまりと言うにも程がある、と愕然とする私たち。気に入らない人向けの「再作成」というボタンを押せば「眺青」だとか。青い地球へ行くのだと憧れているソルジャー向きの戒名かな?
お坊さんになる気はまるで無いものの、自分の戒名が気になったらしいシロエ君。好奇心から無料作成サイトを見付けてシロエにちなんで「白」と打ち込み、結果を見れば「珍爆」の名が。肝心の「白」は影も形も無かったそうで、会長さんは笑いを堪えながら。
「そういうケースもあるんだよ、これは。今は続けて青と出たけど…」
ほらね、とクリックで出て来た戒名、「鏡奪」。鏡を奪ってどうするんだ、という気もしますけれども会長さんの自慢は超絶美形なその美貌。世界中の鏡は会長さんのためにあるのかも…。
「えっ、それはないよ! 世界中の鏡はぼくの女神にこそ相応しいってね」
「「「………」」」
始まりましたよ、会長さんの惚気。ひとしきりフィシスさんの美しさについて聞かされた後に、会長さんは真面目な顔で。
「さっきの戒名サイトだけどねえ、本職向けの戒名ソフトだと全く違うよ? そしてそっちは値段も高い。キースなら知っていると思うな」
「あれは邪道だ。元老寺で戒名作成ソフトは使わん」
「そうだろうねえ、亡くなった人の人柄や趣味、生き方なんかをきちんと考えてつけなくちゃ。これは坊主の法名も同じさ、責任をもって命名するんだ。…で、シロエは戒名を希望なのかな?」
「要りません!」
貰ったら最後、坊主一直線ですから! とシロエ君が叫び、ピザパーティーはシロエ君が自分で作った戒名、珍爆を話題に大盛り上がり。機械いじりが大好きなだけに爆発とは無縁じゃないのかも、という見解から「それなりに相応しい」という結論が出たり…。
「酷いですよ、珍爆で決定なんですか!?」
「勝手に作った君が悪いね、人の噂も七十五日さ」
その内に忘れ去られるよ、と会長さん。
「まっとうな手順を踏んで依頼していれば普通の戒名がついたのに…。あ、いけない、忘れるとこだった。まっとうな手順で思い出したよ、大事なことを」
「「「えっ?」」」
今までの流れからして坊主絡みっぽい「大事なこと」。思わず身構えた私たちですが、会長さんはパチンと軽くウインクを。
「坊主絡みじゃないんだな、これが。ぶるぅ、アレを」
「かみお~ん♪ やっと出番だね!」
取って来るね、と駆け出して行った「そるじゃぁ・ぶるぅ」。アレっていったい何なのでしょう?
間もなく戻って来た「そるじゃぁ・ぶるぅ」はラッピングされた平たい箱を抱えていました。そのサイズといい包装紙といい、なんだか嫌な予感がします。かなり小ぶりではありますけれども、二学期の初日に似たような箱を目にした記憶が…。
「これが何だか分かるかい? 心当たりがある人は手を挙げて!」
会長さんがテーブルに置かれた箱を指差しましたが、挙手する人はいませんでした。代わりに私たちは顔を見合わせ、視線で「ヤバイかも?」と意見交換。えっ、思念波はどうしたって? 会長さんに筒抜けな手段を使うほどバカじゃないですってば…。
「その様子だと、見当はついてるみたいだねえ? だけど残念、いつものヤツじゃないんだな」
新学期恒例の紅白縞のトランクスかと思いましたが、どうやらハズレみたいです。それじゃアレかな、同じ下着売り場で売っていると聞く褌とか?
「下着って所は当たりさ、期待したまえ」
見て驚け! と箱の中身を瞬間移動でパッと取り出す会長さん。広げられたソレはトランクスではなくボクサーブリーフ。紅白縞でもありません。地味なグレーで……って、ええっ!?
「いいだろう? 一時期、話題を呼んだパンツさ。ちゃんと本場からお取り寄せ!」
得意げな会長さんが「ここに注目!」と示すパンツには何本もの点線が入っていました。それと似たような模様を見たことがあります。牛とか豚とかのイラストで…。そう、ロースとかヒレとか、食べられる部分を分けて描いてある解説図。な、なんですか、このパンツは?
「ご覧のとおりの可食部分がモチーフのパンツさ。ついでに切り分ける順番つきだよ」
一番、二番…、と数えながら辿ってゆく会長さんの指。最後に切るように振られた番号は大事な部分を三分割するように書かれていました。な、なんという悪趣味なパンツ…。
「これはね、肉屋のパンツと呼ばれてニュースにもなったパンツなんだな。本場じゃブッチャーズブリーフと言うらしい。広告写真だと生肉の塊と肉切り包丁を持ったマッチョな男が」
「「「………」」」
会長さんが思念で伝えて来た広告写真は、問題のパンツを履いた男性の腰の部分がメインでした。生肉の塊と肉切り包丁もさることながら、履いて見せられると牛だの豚だのの切り分け図解が頭の中にまざまざと…。
「素敵だろ? これをさ、是非ハーレイに履いて欲しくって! 食欲の秋だし」
「あんた、どういう発想なんだ!」
「えっ、コレを履いた男性は恐怖心をかき立てられる、と当時のニュースで話題だったしね」
切り取られる恐怖に怯えるがいい、と大事な所を三分割する部分を会長さんは指でトントンと。
「大事な部分を切られてしまえば妄想も何も…。ぼくとの結婚も夢のまた夢!」
収穫される悪夢にうなされていろ、と勝ち誇っている会長さん。そりゃあ確かに切り取られちゃえば結婚どころじゃありませんけど、あまりにも可哀相すぎませんか…?
手順を踏んで、という点については戒名の付け方も数字の順番での切り分け方も全く同じ。しかし、会長さんが持ち出した肉屋のパンツは、数字の順番で切り分けていけば流血の大惨事は必至な代物です。あまつさえ大事な部分を三分割して切り取るだなんて…。
「…教頭先生、こんなの、履くかな?」
却下されると思うけど、とジョミー君が言い、キース君が。
「そうだぞ、教頭先生にも選ぶ権利はある筈だ。…まず無理だな」
「履いてくれって言ったら履きそうだけど? ぼくのお願い」
それならハーレイは逆らえない、と会長さんはニヤニヤと。
「でもって壮大な勘違いをね…。数字の順番に食べるんだよ、って言えば誤解をする筈だ。大喜びで履いた所で肉切り包丁を出せば一気に地獄さ。ね、ぶるぅ?」
「かみお~ん♪ 包丁、研いでおいたよ!」
おっきなお肉も一発だもん、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が大きな肉切り包丁を。教頭先生のパニックぶりが頭を掠めて、私たちは心でお念仏を唱えそうになりましたが。
「へえ…。面白そうなパンツだねえ?」
「「「!!?」」」
ユラリと空間が揺れて紫のマントが優雅に翻り。
「こんにちは。ピザパーティーと戒名の後は食欲の秋の出番だってね?」
美味しそうだ、と艶やかな笑みを浮かべるソルジャー。美味しそうも何も、ピザは残っていないんですけど…。ソルジャーのお目当てはデザートですか? たらふくピザを詰め込みましたし、おやつの予定は無しですが?
「いらっしゃい! えとえと…。ピザの生地、もう無いんだけど…」
みんなで全部食べちゃったの、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「ソーセージとかも無くなっちゃったし…。おやつ兼用で食べていたから、おやつも無いし…」
昨日に焼いたパウンドケーキの残りなら、と小さな頭を悩ませている「そるじゃぁ・ぶるぅ」にソルジャーは。
「いいよ、美味しそうだって言っていたのはピザじゃないから! それにソーセージは特大のヤツがあるようだしねえ?」
「えっ? えぇっ?」
そんなチラシが入ってたっけ、とキョトンとしている「そるじゃぁ・ぶるぅ」ですが、ソルジャーの方は肉屋のパンツを赤い瞳で眺めながら。
「チラシじゃなくって、もうすぐ此処に入る予定さ。ここの番号」
三つ分だね、とアッと言う間に私服に着替えたソルジャーの白い指先が肉屋のパンツの真ん中を。
「こっちのハーレイに履かせるんだろ? 切り落とすなんて勿体ない。せっかく食欲の秋なんだ。美味しく食べてしかるべきだよ、ソーセージ」
「お、美味しくって……」
絶句している会長さんに、ソルジャーは。
「握って良し、しゃぶって良し、頬張って良し! でも最高に美味しく食べるんだったら…」
「その先、禁止!」
我に返った会長さんの制止も聞かずに言い放たれたソルジャーの台詞。
「やっぱり、お尻が一番だよね!」
そこが最高、と親指を立てるソルジャーの顔面に会長さんが投げたレッドカードが。
「退場!!」
「えっ、なんで? 食べなきゃ損だと思うんだけどなぁ、お尻から」
それが一番美味しいんだよ、とソルジャーが撫で擦っているボクサーブリーフのド真ん中。ソルジャーの言うソーセージとやらが何のことかは私たちにも分かりました。ところが、ここに正真正銘のお子様が一人。
「そっかぁ、サーロイン、美味しいもんね! お尻に一番近いロースだよねえ、お尻は牛刺しにしてもいけるし、ローストビーフに向いてるし♪」
ブルーもお肉に詳しいんだね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は尊敬の眼差しで見ています。
「うーん、ぼくはそれほど詳しくは…。強いて言うならハーレイ限定?」
「そんな種類の牛さんがいるの?」
「そう、褐色でとても美味しいよ。筋肉が発達していてね」
ミルクも沢山出せる品種で、とソルジャーが誇らしげに話す品種の牛は多分一頭しかいないでしょう。あちらの世界のシャングリラ号のブリッジをメインに放牧中の…。
会長さんの悪戯心から取り寄せられた肉屋のパンツ。教頭先生に履かせて脅すつもりが、余計な人が出て来たばかりに話は真逆の方向へ。美味しく食べろと囃すソルジャー、肉切り包丁を持っていた「そるじゃぁ・ぶるぅ」に滾々と。
「いいかい、ぼくの世界の美味しい牛には敵わないけど、こっちにもハーレイがいるだろう?」
「ハーレイはいるけど牛さんじゃないよ?」
「子供の君には分からないかもしれないけれどね、ブルー限定だと雄牛になれるさ」
そしてブルーが美味しく食べる、とソルジャーは笑顔。
「だけど切り分けたら肝心の牛が台無しで…。肉切り包丁は上手に使わなくっちゃ」
「でも…。ブルーがしっかり研ぎなさいって…」
「そりゃね、上手に使うためには切れ味も大切になってくるから」
使い物にならない肉なら切り落とされても仕方ないから、とニッコリ笑うソルジャー。
「頑張らないと三等分に切っちゃうぞ、と脅すためには必要だよ、うん。…ついでにその役、ぼくがやる方が効果的かもしれないねえ…」
「んとんと…。包丁、持ってくれるの? よく切れるから気を付けてね!」
「「「あーーーっ!!!」」」
イマイチ噛み合っていない会話に気を取られている間に、ソルジャーは首尾よく肉切り包丁を「そるじゃぁ・ぶるぅ」から奪ってしまいました。これは非常に危険です。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が持っていたなら、会長さんのシナリオどおりに脅しておしまいだったんでしょうが…。
「ん? ぼくの顔に何かついてるかい?」
何か言いたいなら御自由に、とギラリと光る肉切り包丁。ただでも怖いソルジャーの手にサイオンどころか刃物とくれば、誰も文句は言えませんでした。会長さんだって顔を引き攣らせていますけれども、怒鳴る度胸は無いらしく。
「…そ、それで…。君はいったい何をしたいわけ?」
震える声で尋ねた会長さんに、ソルジャーは。
「嫌だな、そんなに怯えなくっても…。君が美味しく最高の肉を味わえるように付き添うだけだよ、何も心配いらないってば!」
肉屋のパンツを届けるんだろ、とニコニコ笑っているソルジャー。
「ほら、早く! お届け物なら箱に戻して、グルメツアーに出発だよね!」
もちろん其処の君たちも、とグルリ見渡された私たちに逃げ道がある筈もなく。元通りに箱に納められた肉屋のパンツを会長さんが抱え、「そるじゃぁ・ぶるぅ」の元気な声が。
「かみお~ん♪ しゅっぱぁ~つ!」
フワリと身体が浮く感覚があって、教頭先生宅のリビングへ。大人数の乱入に驚愕の表情の教頭先生、これからどうなってしまうんでしょう?
「やあ、こんにちは。驚かせてしまって申し訳ない」
ブルーが行きたいと言うものだから、とソルジャーが頭を下げました。
「君にお届け物があるんだってさ、どうしても履いて欲しいパンツらしくて」
「…ぱ、パンツ……? 二学期の分は貰いましたが…」
いつものを五枚、と答えた教頭先生に、ソルジャーはチッチッと指を左右に振って。
「そんなパンツは目じゃないよ! ぼくは一目で感動したね。だからこっちに遊びに来たわけ。そうだよね、ぶるぅ?」
「うんっ! なんかね、ブルーを美味しく食べる…んだったかな? 凄い牛さんになれるパンツなんだよってブルーが言ったの!」
「…ブルーを…?」
どっちのブルーだ、と会長さんとソルジャーをキョロキョロ見比べている教頭先生。「そるじゃぁ・ぶるぅ」の言葉の中には二人のブルーが混在していたわけですけれども、其処まで見抜けるわけがなく…。
「…お気持ちは有難いですが…。私の相手はブルーだけだと昔から決めておりまして…」
「分かってないねえ、そっちのブルーを美味しく食べられるパンツだってば!」
論より証拠、とソルジャーが会長さんをグイと押し出し、箱ごと前へと。会長さんも既にヤケクソらしく、ラッピングされた箱を差し出して。
「ぼくを美味しく食べるかどうかは君次第だね。とにかく履けば分かるから!」
「なんだって?」
「履いて見せてって言ってるんだよ、その中身!」
早くしてよね、と会長さんにせっつかれても、下着の履き替えを衆人環視の下で行う度胸は教頭先生にはありません。もちろん箱を開けることも出来ずにオロオロと…。会長さんが舌打ちをして、一瞬キラリと光るサイオン。
「「「……!!!」」」
教頭先生の服の上下が消え失せ、逞しい身体にパンツ一丁。お馴染みの紅白縞ではなくてグレーの肉屋のパンツです。うーん、会長さんに見せられたモデルの画像さながら、切り取り用の点線クッキリ、切る順番を書いた数字もハッキリと…。
「…な、何なのだ、このパンツは!?」
自分の下半身を見下ろして驚く教頭先生に、会長さんが冷たい口調で。
「食欲の秋だし、食べる部分と切り取る順番! 履かされた男は焦るらしいねえ、相手を怒らせたら最後、大事な部分が三分割! ぼくも切りたい気分なんだな、妄想まみれの君のヤツをね」
「…そ、そんな……」
まさか切る気か、と後ずさりする教頭先生。そこへギラリとソルジャーが手にした大きな肉切り包丁が出たからたまりません。ギャーッ! と野太い悲鳴が響いて…。
「…おかしいなぁ…。どうしてこういう展開に……」
卒倒しちゃったら雄牛も何も、とブツブツ文句を垂れるソルジャー。
「切られないようにブルーを思い切り満足させて、と励ますつもりだったんだけど」
「先走りすぎだよ、君の発想!」
まあいいけどね、と仰向けに倒れた教頭先生を会長さんがゲシッと蹴飛ばして。
「ぼくは脅しだけで済ませるつもりだったし、卒倒までしたらバカバカしい妄想が少しはマシになるかもしれない。ぼくを怒らせたら切り取られるぞ、とね」
「それだとぼくが出て来た意味は!? 君にハーレイを美味しく食べて欲しかったのに…」
食べ方色々、とぼやくソルジャー、会長さんと教頭先生を何が何でも両想いにさせたい夢を諦め切れないようで。
「…食べられる部分がこんなに沢山あるんだよ? 最高に美味しい部分が三つと、他の部分もそれなりに…。数字の順番にキスを落とせば美味しい部分がもっと美味しく」
「そういう趣味は無いってば!!」
「食わず嫌いはよくないよ。ハーレイの気分をうんと高めて爆発させるのも素敵だよ?」
こんな風にね、とソルジャーは肉切り包丁を捨てて教頭先生の傍らに屈み込み、腰の辺りの「1」と書かれた部位の真ん中にキスを。
「…ん…。布越しだと風味がイマイチかな? こっちの方が向いているかも」
「「「えぇっ!?」」」
カプッと「2」の部位に歯を立てたソルジャー、満足そうに。
「ふふ、ハーレイもピクッと反応したから、甘噛みするのがいいみたいだね。こういう調子で攻めていくのがぼくのお勧め。ブルー、3番の部分で試してごらんよ」
「お断りだよ!」
「そう? だったら代わりに食べてもいいかな、ちょっとドキドキしてきちゃってさ」
ハーレイよりも前にぼくがイきそう、とソルジャーは頬を赤らめています。えーっと、行くって、どちらまで? 教頭先生が正気に返って鼻血を噴いて、救急搬送されるより前に病院へ…?
「そうじゃなくって…。ぼくが爆発しそうかなぁ…って。このシチュエーションは初めてだしねえ、ぼくとしたことがイッちゃいそうだ。あ、爆発って言えばシロエの戒名、それだった?」
「違いますーっ!!!」
ぼくの戒名は珍爆でした、と喚くシロエ君にソルジャーが。
「珍爆ね。…うん、何処が爆発するのかを思うと実にピッタリな感じかも…。その戒名、ぼくのハーレイに貰っていいかな」
でもって今夜からドカンと大爆発、とウットリしているソルジャーの首筋に会長さんがピタリと肉切り包丁を。
「…盛り上がってる所を悪いんだけどね、その先、本気で禁止だから!」
切られたいのか、と思い切り凄んだ所まではいいんですけど…。
「……もう懲りましたよ、戒名サイト……」
泣きの涙のシロエ君。私たちは会長さんの家のリビングで懸命にシロエ君を慰めていました。ソルジャーときたら、よりにもよってキャプテンの大事な部分に名付けるから、とシロエ君の情けない戒名、珍爆を失敬して行ったのです。強奪したと言うべきか…。
「盗られたんだから、もういいじゃないか。君の戒名は改めて付けてあげるよ」
御希望ならば、と会長さん。
「戒名泥棒なんて初耳だけれど、異文化だから仕方がない。肉屋のパンツも盗まれちゃったし、何処まで手癖が悪いんだか…」
「おまけに悪戯書きして帰ったぞ」
どうするんだ、とキース君が深い溜息をつけば、マツカ君が。
「油性ペンですし、除光液で拭けば落ちると思います。今の間に拭いて来ますか?」
「放置しとくよ、抑止力ってヤツになるだろう。誰が書いたか分からないから、肉屋のパンツより効果的かも…」
ぼくが肉切り包丁持参でぶった切りに行く可能性大、と会長さんは悪魔の微笑み。
「うっかりオカズでサカッた途端にバッサリやられたら大変だしねえ、消えるまで大人しくしてると思う。妄想男には切り取り線だよ、大事な部分を三分割!」
「かみお~ん♪ それで、牛さんはどこ?」
美味しい牛さんをお料理するんだぁ! と肉切り包丁を振り回している「そるじゃぁ・ぶるぅ」は未だに気付いていませんでした。牛といえば教頭先生、切り取る部位と順番はソルジャーが褐色の肌にマジックでじかに書いたのに…。
「ぶるぅ、牛肉はマザー農場で貰ってくるから! 幻の最高級のヤツをたっぷりね」
「ホント!? わぁーい、ステーキパーティーしようね!」
食欲の秋だし沢山食べなきゃ、と御機嫌で跳ねている「そるじゃぁ・ぶるぅ」。教頭先生の肉屋のパンツを奪って帰ったソルジャーの方はキャプテンと大人の時間でしょう。珍爆と名前がついた部分が大活躍だと思うのですけど、具体的なことは分かりません。
「……ぼくの戒名、どうなったでしょう……」
「多分、元気に活躍してるよ。肉屋のパンツとセットでね…」
その件はもう忘れたまえ、と会長さんがシロエ君の肩を叩いています。その一方で、切り取り線と切る順番とを肌に書かれた教頭先生は素っ裸で御自宅で卒倒したまま。早く気付いてお風呂に入って、落書きを落として下さいです。
えっ、会長さん、サイオンで落書きをコーティングした? それは鬼だと思いますけど、取れるまでに何日かかるんでしょう? お気の毒な教頭先生の可食部分に合掌です、はい~。
手順と順番と・了
※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
戒名作成サイトと肉屋のパンツは実在してます、本当です。
肉屋のパンツはインパクト大です、現物を見たわけじゃないですけどね(笑)
シャングリラ学園シリーズは4月2日で本編の連載開始から7周年になりました。
7周年記念に4月は月に2回の更新です。
次回は 「第3月曜」 4月20日の更新となります、よろしくです~!
そしてハレブル別館の更新ペースが上がりますが、シャン学の方は従来通り。
毎日シャン学があるほどですから、あくまでシャン学がメインです。
シャン学が止まることはありませんので、どうぞよろしくお願いしますv
※毎日更新な 『シャングリラ学園生徒会室』 はスマホ・携帯にも対応しております。
こちらでの場外編、4月は恒例のお花見に出掛けるようです、どうなりますやら…。
←シャングリラ学園生徒会室は、こちらからv
※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。
シャングリラ学園番外編は 「毎月第3月曜更新」 です。
第1月曜に「おまけ更新」をして2回更新の時は、前月に予告いたします。
お話の後の御挨拶などをチェックなさって下さいませv
今年の梅雨は雨が少なく、いわゆる空梅雨っぽい感じです。真面目に登校し続けている私たちは傘が要らない日が多くて嬉しいですけど、農家の人たちは困っているかもしれません。それでもやっぱり雨の日よりかは断然、曇りか晴れの日なわけで。
「今日もいい感じに降らなかったね、帰る時間まで大丈夫かな?」
放課後の中庭でジョミー君が曇り空を仰げば、シロエ君が。
「さっき調べたら明日の予報は曇り時々晴れでしたよ。梅雨前線も下がっていますし、今日は降らないと思います」
「やったぁ! 実はさ、傘を忘れて来ちゃってさ…。降ったら送って貰うしかないなぁ、と思ってたわけ」
「誰にだ?」
俺の家は反対方向だぞ、とキース君が眉を寄せると「俺だろ」とサム君。
「スウェナもおんなじ方向だけどよ、相合傘になっちまうしさ…。消去法で俺しか残らねえよな」
「男同士の相合傘か…。そいつは俺は御免蒙る」
どのみち反対方向だが、とキース君。
「大体、今朝の予報じゃ微妙な所だったんだ。折り畳み傘くらい鞄に入れておけ」
「そりゃそうだけどさ…。ママにも入口に置いといたわよ、と言われたんだけどさ…」
靴を履いたら忘れてしまった、と頭を掻いているジョミー君に、サム君もすっかり呆れ顔。
「そこまで言われて忘れたのかよ…。もしも降っても濡れて帰れよ、でなきゃ買うとか」
「同感だ。それが嫌なら降る前に帰れ」
今すぐ帰れば大丈夫だ、とキース君が校門の方向を示し、スウェナちゃんが。
「そうね、早く帰るのが一番よ。今日はキースたちも早かったのに残念だけど」
「酷いや、なんでぼくだけ!」
降ったらブルーかぶるぅに瞬間移動送って貰う、とジョミー君に帰る気はありません。え、なんでキース君たちが今日は早いのかって? 今日は柔道部がお休みなんです。この間の日曜日に大会があって遠征したため、代休と言うか、お疲れ休み。キース君たちは大会には出ていませんが…。
大会に出ない理由は特別生だからで、試合の代わりに応援のみ。高校一年生を何度も繰り返し続けているわけですし、出場しちゃったら実力が違いすぎるんです。
「キースたちもいるのに帰ったりなんかしないもんね! 今日は絶対、ぶるぅが凄いおやつを作ってそうだし!」
帰るもんか、とジョミー君は先頭に立ってスタスタと。いっそゲリラ豪雨に降られてしまえ、とも思いましたが、そうなっちゃったら一蓮托生でしたっけ。普通に曇りでいいです、はい…。
降る、降らないと揉めながら生徒会室のある校舎に入り、生徒会室の壁の奥に隠された「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋へと。壁の紋章に触れて入って行けば…。
「かみお~ん♪ いらっしゃい!」
フワンと漂う甘い香り。テーブルに大きなタルトが乗っかっています。わぁっ、桃がたっぷり豪華に並んでる~!
「今日のおやつは桃のタルトにしてみたよ♪」
シーズンだもんね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が切り分けてくれて、焼き立てのタルトに舌鼓。うん、美味しい! 帰らないとゴネていたジョミー君も満足そうです。
「ところで、ジョミー」
会長さんの声にハッと顔を上げるジョミー君。
「えっ、なに?」
「凄いおやつがありそうだから帰らないとか言っていたけど…。これは凄いわけ?」
普通に桃のタルトだけれど、と訊かれたジョミー君は暫し悩んで。
「ママはここまで大きいのは作ってくれないからね! 凄いんじゃないかな」
「…なんだ、予知能力に目覚めたってわけじゃなかったのか…」
「「「は?」」」
予知能力って何ですか? 目を丸くする私たちに、会長さんは。
「そのまんまだよ、予知能力さ。ぼくは全く得意じゃないけど、フィシスの占いは凄いよね? あんな感じでジョミーも予知に目覚めたかと…。一応、タイプ・ブルーだし」
「えーっと…。それって、ぼくのことだよね…。このタルト、ホントにスペシャルだとか?」
食べても分からなかったけれども、とジョミー君が尋ね、私たちもコクコクと。素材が変わっていたのでしょうか? それとも焼き方が特別だとか?
「違うね、桃は桃でもタルトじゃないんだ」
「「「へ?」」」
タルトじゃないって、どう見ても桃のタルトですよ? それに「そるじゃぁ・ぶるぅ」も確かに桃のタルトだと…。
「まあ、これだけで分かれば君たちも凄いわけだけど…。ぶるぅ、持ってきて」
「オッケー!!!」
キッチンに駆けてゆく「そるじゃぁ・ぶるぅ」。凄い粉でも出てくるのかな? それともこだわりのお砂糖だったり…?
間もなく戻って来た「そるじゃぁ・ぶるぅ」は立派な箱を頭の上に掲げていました。いわゆる桐箱というヤツです。桐箱入りのメロンとかサクランボとかは聞きますけれども、さっきの桃ももしかして…? なんか平たい桐箱ですし…。
「かみお~ん♪ 見て、見て!」
凄いんだから、とテーブルに置かれた桐箱の蓋が開けられ、中身はズラリと並んだ桃。綺麗に整列している上に減った形跡はありません。あれっ、だったら桃のタルトは?
「ふふ、タルトの桃は普通なんだよ」
ぶるぅが選んで買ってきたから立派な桃ではあるけどね、と会長さん。
「だけど、この箱の桃は特別なんだ。ジョミーはそれを予知したのかと思ったけれど、ただのまぐれか…。ちょっと残念」
「どうせ、まぐれだし!」
サイオンだってサッパリだし、と拗ねるジョミー君を他所に、キース君が。
「見事な桃だな。…特別と言うからには銀青様へのお届け物か?」
「それもハズレ。これはぼくへのお届け物だよ、マザー農場からソルジャーへのね」
「「「ソルジャー!?」」」
ソルジャーと言えば会長さんの肩書きです。そう呼ばれることを嫌っていたんじゃなかったっけ、と思いましたし、キース君もすかさず突っ込みましたが。
「いいんだよ、この桃は役得だから」
物を貰って悪い気分になるわけがない、と会長さんは上機嫌。
「特別も特別、もうスペシャルに特別ってね。正真正銘、初物なんだよ」
「初物を食べると寿命が延びるというアレか?」
まだ延ばす気か、と溜息をつくキース君ですけど、悪気なんかはありません。あくまで冗談、あくまでジョーク。会長さんにはいつまでも元気でいて欲しい、というのが私たちの共通の思いです。
「そう、それ! やっぱり寿命は延ばさなきゃ! 三百歳を超えたからには四百歳も超えてみたいし、四百まで行ったら五百歳超えを目指したいよね」
「……ついでに生涯現役なんだな?」
「もちろんさ。シャングリラ・ジゴロ・ブルーに定年は無いよ」
目指せ、元気な五百歳! と会長さんの夢は果てしなく…。縁起担ぎに初物を、と言いたいことは分かりました。でも、この桃の何処がスペシャル?
「マザー農場って言っただろう? そこが重要」
有難い桃を拝みたまえ、と桐箱を指差す会長さん。うーん、普通に桃なんですけど…?
しげしげと桐箱入りの桃を見詰める私たち。サイズも形も皮の色までも見事に揃った白桃です。初物と謳うからには今年最初の収穫でしょうが、その段階で数を揃えるのが難しいとか? あれこれと知恵を出し合ったものの、農作物のことは良く分かりません。
「…お手上げだ。この桃の何処が特別なんだ?」
俺には分からん、とキース君が代表で口を開きました。
「農業も果物も管轄外でな…。御本尊様へのお供え物のチェックはするが」
傷んだ果物をお供えしては失礼だから、とキース君。お供えの果物、普段は旬の物を供えてあるそうですけど、本堂で法要を行う時にはグレードアップするらしいです。法事なんかだと檀家さんの懐具合に合わせてメロンになったりすることも。
「このメロンが後で揉めるんだ。親父はメロンが好物でな。…ウカウカしてると食べ頃にササッと下げて来て冷蔵庫で冷やして一人メロンだ」
あれは許せん、とキース君の眉間に皺が。
「俺だって法事を手伝うんだし、おふくろも裏方で忙しいんだぞ? なのに一人でコソコソと…。普段は包丁も持たない親父がメロンを真っ二つに切ってガツガツとな」
スプーンで掬って食っているのを見付けた時の腹立たしさと言ったら…、と拳を震わせているキース君。けれど私たちの感想の方は違いました。
「…お供え物でもバレバレなんですか、法事のランク…」
袈裟でバレるとは聞きましたが、とシロエ君が呟き、スウェナちゃんが。
「なんだかシビアねえ…。うっかり法事も頼めないわね」
「お、おい! それはだな、そこは気にせず日頃からお寺との付き合いをだな…」
必死に菩提寺との御縁を説き始めるキース君。でも、所詮は袈裟とお供え物でバレるんですよね、法事のランク? お布施が少ないとモロバレなんだ…。
「仕方ないだろう、寺も色々と物入りなんだぞ!」
お供え物で赤字を出すわけには、と言われてみればそんな気も。袈裟だって洗濯機で洗える類のモノじゃないですし、必要経費というわけですか…。
「そんなトコだね、副住職ってヤツも大変なんだよ」
アドス和尚に言われて経理も手伝ってるし、と会長さん。なるほど、メロンの値段なんかにも詳しいのかもしれません。それでも目の前の桃は管轄外で…。
「分からないかな、マザー農場からソルジャー宛のお届け物って辺りでさ」
しかも桐箱、と会長さんは箱を示しています。そういえば会長さんの家で使う野菜はマザー農場の名前が入った段ボール箱入りだったような気も…。桐箱って所が大切ですか?
特別な桃のヒントは桐箱。桐箱入りの果物イコール高価な物のイメージですけど、桃は元々高い果物。桐箱入りだってあるでしょう。うーん、やっぱり分かりませんよ…。
「みんな揃ってお手上げかぁ…。この桃は今年初めて実った桃なんだよ。品種改良を重ねて生まれた新しい木から」
「「「えっ?」」」
「新種だってば、それの初物! もう究極の初物だよね」
それをこれだけ揃えてくるのは大変で…、と会長さんは得意げに。
「何本も育てている木の中から最高の実を選んでお届け! ソルジャーだけの特権さ」
「…ソルジャーだと何度も言ってるな? すると、この桃は宇宙用か?」
きっとそうだな、とキース君が訊けば、大きく頷く会長さん。
「流石、キースは察しがいいね。シャングリラ号で美味しい桃を提供するために改良したのさ、桃はクルーに人気だし…。今までのヤツでも充分に美味しい桃が採れるけど、これは実の数も多めなんだな。ついでに糖度もググンとアップ!」
地球で育てれば更に糖度が増している筈、と会長さんはウキウキと。
「せっかくだから君たちと食べようと思ってね。食べる直前に冷やすのが美味しく食べるコツだし、こうサイオンでいい感じにさ」
「かみお~ん♪ 一人一個ずつ食べるんだよね?」
よいしょ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」の小さな右手が人数分の桃を取り出し、テーブルの上へ。そこに会長さんが両手をかざすと青いサイオンの光がふうわりと。
「よし、出来た! ぶるぅ、剥いてよ」
「うんっ!」
涼しげなガラスのお皿に一人分ずつ盛られる桃。食べやすいサイズに切られてフォークつき。
「「「いっただっきまーす!」」」
さあ食べるぞ、と全員がフォークを握った所で。
「ちょっと待った! ジョミーは食べながら笑うんだね」
「「「へ?」」」
なんのこっちゃ、と奇妙な命令を出した会長さんを見れば、澄ました顔で。
「初物を食べると寿命が延びると昔から言うけど、その時に「笑いながら食べる」と言う人もいる。西を向くとか東を向くとか、そこは地域で変わるようだし…。とりあえず前を向いて笑いながら食べたまえ。傘を忘れたくせに食べ物目当てでやって来たんだ、そのくらいはやって貰おうか」
「えーーーっ!!!」
ヒドイ、と叫んだジョミー君の声は私たち全員に無視されました。人生、笑ってなんぼです。他人様の笑う姿を肴に食べる初物、さぞかし寿命が延びるかと~!
「…う、うう……。食べた気がしない…」
笑いながら食べるって無理すぎる、と突っ伏しているジョミー君。喉に詰めたり咳き込んだりと、ジョミー君と初物の桃の相性は最悪だったみたいです。それを見ていた私たちだって笑いが止まらなかったんですけど、桃はとっても美味しかったですよ?
「そりゃあ、みんなは笑う合間に食べてたし! ぼくのは笑いながらだし!」
逆に寿命が縮んだ気がする、とジョミー君はまだゲホゲホと。
「縮んだって? それはいけないねえ…。もう一個、普通に食べるかい?」
もう笑わなくていいからさ、と会長さんが差し出した桃にジョミー君はマッハの速さで飛び付きました。
「食べる!」
「はいはい、分かった。他のみんなは?」
「そうだな…。今度はしっかり味わいたいな」
さっきは笑い過ぎで味わう暇が、とキース君が手を挙げ、私たちも一斉にハイ、ハイと。桃はまだたっぷりと残っています。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が桐箱から数えて出していると。
「ぼくにも一個!」
「「「!!?」」」
誰だ、とバッと振り返った先で優雅に翻る紫のマント。来ちゃいましたよ、ソルジャーが…。
「桃だってねえ? しかも寿命が延びるって?」
これは絶対食べないと、とソファにストンと腰を下ろした会長さんのそっくりさん。
「こないだノルディの家で桃を御馳走になったんだけどさ、そんな話は無かったよ」
「……ノルディの家?」
また行ったのか、と会長さんはあからさまに嫌そうな顔。しかしソルジャーがその程度で怯む筈もなく…。
「そうなんだよね。いつもは外で食事だけれどさ、たまには家もいいでしょう、って! あそこのシェフも腕がいいから美味しかったな、デザートも特別に作ってくれたし」
ピーチメルバのブルー風、とソルジャーが宙に取り出したメニューには本当にその文字がありました。ソルジャー曰く、凝った外観で美味だったそうで。
「でね、その時にノルディが言ったわけ。「桃というチョイスに私の願望が入っているのですけどねえ」って! 初物の桃を使いました、とも言っていたけど寿命の話は…」
聞いてないなぁ、と呟くソルジャー。エロドクターは如何に高価な桃を取り寄せたかを熱く語っていたようですけど、その前に願望とやらが気になります。桃を選んだら何ですって?
降って湧いた災難ならぬ空間を超えて来たソルジャーは桐箱入りの桃に期待MAX。早く冷やせ、と会長さんにせっつき、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が剥いて器に盛り付けた後はもう夢中。
「うん、美味しい! 宇宙用に開発したんだっけ? ぼくのシャングリラにも欲しいくらいだ」
こっちの植物を持って帰れる環境だったら育てたいな、とパクパクと。
「これで寿命も延びるとなったらお得だよ。そうだ、ハーレイに…」
一切れお裾分けしておこう、とフォークの先から桃が瞬時に消え失せました。空間移動でソルジャーの世界のシャングリラに届けたみたいです。
「ふふ、ハーレイの笑顔もいいねえ…。ブリッジの空気も和むってね」
「「「は?」」」
「え、笑いながら食べるんだよ、って思念を送って口の中に放り込んだのさ。律儀に笑顔でモグモグやったし、ブリッジ中が笑いの渦! キャプテンが執務中に間食なんかをしてるんだから」
甘い果物とは誰も知らない、とソルジャーは楽しげにクスクスと。
「ゼルとブラウにガムを食べたと責められてるよ。もっとバレないモノにしろ、って説教されてる真っ最中。ガムの食べかすが残ってないのも証拠隠滅だと突っ込まれちゃって…。でも、ぼくからの差し入れだろ? それを思うだけで顔が緩むし、緊張感の欠片も無いよね」
あちらのキャプテン、反省の色が無いということで責め立てられているらしいです。それでもソルジャーからの桃の差し入れが嬉しくてたまらず、幸せ一杯、高鳴る鼓動。
「甘い桃の実を食べさせられても幸せ一杯って所が凄いよ。「寿命が延びる初物だってさ」とも伝えといたし、余計かな。あれで大して甘くなければホントに最高だったんだけど…」
ハーレイにはちょっと甘過ぎたかも、とソルジャーは甘い物が苦手なキャプテンの舌を気遣っています。昔は面白がって甘い物を無理やり食べさせたりもしていたくせに、すっかりバカップルになっちゃって…。結婚とはかくも偉大なものか、と感慨深く思っていると。
「ああ、それ、それ! ハーレイに桃を送った時点で忘れてたけど、ノルディの願望!」
その話をしていなかったっけ、とソルジャーがポンと手を叩いて。
「なんで桃をチョイスしてきたら願望なんだ、と思うだろ? だから当然、訊いてみたわけ。そしたらキッチンから生の桃を持って来させてさ…。そう、こんなの」
コレみたいに綺麗な桃だったよ、と桐箱を覗き込むソルジャー。
「で、ノルディが桃をこう指差して」
「触っちゃダメ~ッ!」
パッシーン! と弾ける青いサイオン。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が頬っぺたをプウッと膨らませています。そういえば桃って触ると傷むんでしたっけ…?
桃を触ろうとしたソルジャーに「そるじゃぁ・ぶるぅ」はおかんむり。
「あのね、食べる時しか触っちゃダメなの! 傷んじゃうから!」
「し、知らなかった…。だってノルディは触っていたし…」
こんな感じで、と手を伸ばしかけたソルジャーから「そるじゃぁ・ぶるぅ」が桐箱を抱えて遠ざけ、触れないように蓋をしようとするのを「ちょっと待って」と会長さん。
「なんだか嫌な予感がするから、この際、きちんと聞いとこう。…ノルディの願望が何だって? この桃で教えて貰おうか。ぼくがサイオンで傷まないようにガードしておく」
ほら、と会長さんがテーブルに一個だけ置いた桃はサイオンで表面がガードされている模様。ソルジャーは「分かった」とスッと右手を出して。
「ノルディは言ったよ、これは何かに似ていませんか、って。生憎とぼくには分からなくってね…。だって、どう見ても桃だろう? 似ているも何も、まるっきり思い付かなくて」
「それで?」
早く、と会長さんが先を促し、ソルジャーの指先が桃に触れ…。
「ノルディがさ、「分かりませんか?」と触ってみせて指でツツーッとね」
この部分を、とソルジャーの白い指がツツーッとなぞった桃の割れ目。私たちは首を傾げましたが、会長さんの頬が見る間に真っ赤に。
「も、もういいっ! もう分かった!」
「本当かい? それでさ、ノルディが言うには、ノルディが本当に食べてみたいのは君らしいよ? ぼくは結婚しちゃったからねえ、前みたいなわけにはいかないし…。でも、気が向いた時に食べさせてくれると嬉しいです、って気持ちをこめてのデザートが桃」
要するに君のお尻だよね、とソルジャーは桃を撫で撫で撫で。そっか、そういう意味だったんだ…。それでデザートにピーチメルバのブルー風か、と私たちは納得、会長さんはズーンと激しく落ち込み中。サイオンに影響しないんでしょうか?
「早い話が、ノルディは一度は突っ込みたいっていうメッセージをデザートに托して寄越したわけだよ、君の柔らかな桃にグッサリ!」
この辺に、とソルジャーが押し込んだ指が初物の桃の割れ目の端にグッサリと。
「「「あーーーっ!!!」」」
「…ご、ごめん……。ガード、緩んでしまってたんだ?」
本当にごめん、と謝りつつもソルジャーは指先を左右にグイグイグイ。
「やっぱり初物は優しく拡げて欲しいよね? そういうテクニックならノルディにお任せ!」
一度食べられてみないかい、と会長さんに微笑みかけたソルジャーですが。
「退場!!!」
その桃を持って今すぐ出て行け、と会長さんが大爆発。今の発言、マズすぎですよね…。
桃を会長さんのお尻に譬えたソルジャー。いえ、元々はエロドクターが始めた譬えのようですけれど、誰が言おうが結果は同じ。よりにもよってエロドクターに「食べたい」と言われ、ソルジャーからは「食べられてみたら」などと言われた会長さんは怒り心頭。
「よくも初物を傷めた上に、気持ち悪いことをベラベラと! 君が食べられてくればいいだろ、ノルディがダメなら君の世界のハーレイに!」
「うーん…。ぼくは食べられて当たり前だし……」
今更どうにも、とソルジャーは退場せずに居座っています。
「それに初物でもないからねえ? もう散々に食べ尽くされたよ、ハーレイにさ」
前も後ろも、と言われましても何のことやら意味不明です。会長さんがレッドカードをぶつけましたし、ヤバイ内容だとは分かるんですけど…。
「退場だってば、君の居場所はもう無いし!」
「そう言わずにさ。なんかこう…。何か無いかな、初物の桃で…」
丸齧りしたら思い付くかな、と自分の指が刺さった桃を皮ごと齧ろうとしたソルジャーですが。
「あっ、そうだ! 究極の初物があったじゃないか!」
初物のダブル、と何か閃いたらしいソルジャー。
「でも、その前に…。桃って温まっても傷むんだよね?」
「…もう傷んでると思うけど…」
思いっ切り、と会長さんが指摘し、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が大真面目に。
「傷んじゃうよぅ、食べるんだったら早く食べてね? 食べないんだったらシロップ煮にして…」
「あっ、シロップ煮は勿体ない! 美味しい桃だし、ここは生食!」
キィン! と青いサイオンが桃を包んで、一気に冷却。ソルジャーは「はい」と「そるじゃぁ・ぶるぅ」に手渡して。
「剥いてよ、ぼくが食べるから」
「うんっ! だけど他のは触らないでね」
桃はとってもデリケートなの、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は素直に剥き剥き。親切に切ってソルジャーのお皿に一切れずつ入れ、それをソルジャーがポイポイと口に。ああ、せっかくの初物が…。マザー農場の新種に実った最高の初物が勿体ないことに…。
「え、食べてるんだからいいだろう? すぐに食べたし、味は落ちてないよ」
多分ね、と言いつつフォークで刺しては口の中へと。このソルジャーに本当に味が分かるのかどうか、甚だ疑問ではありますが…。
こうしてソルジャーも二個目の桃を完食。そう、一個目の時はいませんでしたし、二個目です。それを考えれば私たちと同じ数だけ食べたのですから特に問題は無いような…。ただ、桃の扱いが最悪だったというだけで。
「美味しかった―! そうだよ、ぼくも君たちと同じで二個食べただけ!」
だから四の五の言わないで、とソルジャーは桃の果汁が付いていた指先を舌でペロリと。
「でもって、究極の初物だけどさ。初物を食べるのに相応しい人物を思い付いたよ、それだと初物のダブルになるんだ」
「「「???」」」
初物のダブルって何でしょう? 如何にも有難そうですが…。
「分からないかな、こっちのハーレイ! 初めての相手はブルーだけって決めているよね、そのハーレイがブルーを食べれば初物同士でダブルだってば!」
「お断りだよ!」
何故ハーレイに食べられなくてはいけないのだ、と会長さんは拳をブルブルと。
「ノルディも嫌だしハーレイも嫌だ! 大体、食べられたいなんて思ってないから!」
「…それは残念。初物のダブルで凄く寿命が延びそうなのに」
「だったら君が食べればいいだろ!」
ハーレイだけなら好きにしろ、と柳眉を吊り上げる会長さん。
「ぼくは絶対ご免だけどね、初物にこだわりたいならハーレイを食べてもかまわない。ただし許すのは食べる方だよ、食べられる方は許可しない!」
そっちだとぼくのリスクが上がる、と会長さんは厳しい声で。
「君がハーレイに食べられちゃったら、ハーレイは童貞喪失だ。開き直った上に経験値も上げたハーレイなんかに押し倒されるのは最悪すぎる。やるなら君が食べる方!」
「…それって、ぼくに襲えと言ってる?」
「そうだけど? 君のハーレイとそっくり同じのハーレイに突っ込む度胸があるなら、褐色の桃を食べてきたまえ。もちろんハーレイは初物だから!」
げげっ。なんてことを言い出すんですか、会長さん…! 私たちにはイマイチ分かっていませんけれども、ソルジャーに教頭先生を食べてしまえと唆していることは火を見るよりも明らかです。
「褐色の桃ねえ…。そりゃあ絶対、初物だろうね、褐色の桃も。…童貞なんだし」
「あんなのを食べたがる人はいないよ!」
いるわけがない、と怒鳴る会長さんに、ソルジャーはチッチッと指を左右に振って。
「それはどうだか…。蓼食う虫も好き好きだからさ、中にはそういう趣味の人も……ね。ぼくは違うけど、食べて食べられないことはない!」
褐色の桃にいざチャレンジ! とソルジャーは燃え上がってしまいました。初物を食べて寿命を延ばす魂胆なのか、単に食べたいだけなのか。どちらにしても理解不能な世界ですってば~!
マザー農場からのお届け物に端を発した初物騒動。白桃ならぬ褐色の桃、すなわち教頭先生のお尻を食べようと狙い定めてしまったソルジャーを止められる人はいませんでした。そもそも煽ったのが会長さんです、私たち如きでは手も足も…。
「じゃあ、明日の夜に食べに来てみるよ。土曜日だしね」
君たちもおいでよ、とソルジャーは心浮き立つ様子。
「見事食べたら拍手喝采! それにダメでも土曜の夜だし、帰ればぼくのハーレイがいるさ」
「…そっちは食べられる方のくせにさ」
それに初物でもないと思う、と会長さんが突っ込みを入れれば、ソルジャーは。
「うん。初物を食べる方は上手く行けばの話だからねえ、失敗した時は仕方ない。褐色の桃を食べ損なったらハーレイに慰めて貰うんだよ。土曜の夜の基本はヌカロク!」
ハーレイの方もそのつもりだし、とソルジャーは自慢していますけれど、未だにヌカロクは謎の言葉です。ソルジャーが喜ぶ大人の時間の内容なのだ、と漠然と掴んでいるだけで…。
「それじゃ、また明日! 行く時はちゃんと声を掛けるから!」
御馳走様~! とソルジャーが姿を消した直後に「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「あーーーっ!! 一個、減ってる!」
慌てて覗き込んだ桐箱の中身を数えてみると、一人二個ずつ食べた数より余分に一個、減っていました。初物にこだわっていたソルジャーが持って帰ったに違いありません。褐色の桃だけでは足りないのか、と会長さんが怒っていると。
『かみお~ん♪ 桃、美味しかったぁ~!』
一口でペロリと食べちゃった、と届いた思念は大食漢の「ぶるぅ」のもの。ソルジャー、「ぶるぅ」にも初物を食べさせたかったのか、と少し見直す私たちに「ぶるぅ」は「うんっ!」と元気に思念を送って寄越しました。
『種も飲み込んじゃったんだけど…。えとえと、お腹から桃が生えるってホント?』
『『『は?』』』
『ブルーが笑って言ってたの! 来年はお前のお腹の上で桃が採れるよ、って!』
そしたら食べ放題だよね、と食い気満々の「ぶるぅ」はソルジャーに似たらしいです。お腹から桃が生えて来ちゃったら食べるどころじゃなさそうですけど、あの「ぶるぅ」なら食べるかも…。でもってソルジャー、「ぶるぅ」が飲み込んだ種が排出されたら栽培しようとしていたりして?
そうこうする内に来ました、土曜日。自分の家から拉致されるよりは、と会長さんの家に集まっていた私たちの前に、夕方になってからソルジャーが。
「こんばんは……には少し早いかな? この間は桃、ありがとう。ぶるぅが一口で食べたお蔭で種は一応、手に入れた。あっちの世界のアルテメシアから持ち帰ったってことで検査中だよ」
問題無ければ育てるんだ、とソルジャーは自家製の桃を夢見ています。マザー農場で作った桃がお役に立つなら幸いですけど、褐色の桃は…?
「もちろん、そっちが今日の目的! ぼくのハーレイと仕切り直しになるケースも考えて早めに…ね。こっちのハーレイはちょうどお風呂に入っているし」
もうすぐ食べ頃、とソルジャーは私たちを見回して。
「寝室に隠れててくれるかな? シールドはブルーとぶるぅでいいだろ、モザイク係も」
「かみお~ん♪ みんなでお出掛けだね!」
わぁーい! と飛び跳ねる「そるじゃぁ・ぶるぅ」は何が何だか分かってはおらず、会長さんも野次馬根性。私たちは抵抗の声を上げる暇も無く瞬間移動で運ばれてしまい…。
「ふふ、来た、来た。行ってくるね~!」
食べてやる、とソルジャーがシールドから出てゆき、寝室に入って来た教頭先生と鉢合わせ。バスローブ姿の教頭先生、声も出ないほどビックリ仰天でらっしゃいますが。
「こんばんは、ハーレイ。実はね、君にお願いがあって」
「…は、はあ……」
「君のさ、此処に用事があるんだけどね」
バスローブの上からソルジャーの手が教頭先生のお尻をサワサワと。教頭先生、耳まで赤く染めつつ、それでも必死に。
「お、お気持ちは嬉しいのですが…。私は初めての相手はブルーだと決めておりまして…」
「分かってる。だからそっちの初めてじゃなくて、こっちのね」
初物を是非欲しいんだけど、とバスローブの下に手を突っ込まれた教頭先生がギャーッと悲鳴を。
「そ、そっちは…! わ、私にはそっちの趣味は全く…!」
「ぼくは初物を食べたいんだよ。ケチついてないで食べさせてってば、こっちなら別にかまわないだろう?」
将来に向けての勉強にもなるし、と反則技のサイオンでベッドに押し倒されて裸に剥かれた教頭先生に圧し掛かるソルジャー。これは本気でヤバそうです。教頭先生はバタバタと暴れ、ギャーギャー喚いておられましたが…。
「…うーん、ダテに古典の教師をやってはいなかったか…」
ああいうオチとは、と会長さんが自宅のリビングで大きく伸びを。私たちは瞬間移動で戻ったばかりで、ソルジャーだけが足りません。教頭先生の家へ置いてきたのかって? いいえ、とっくに自分の世界にお帰りで…。
「んとんと…。終わり初物だっけ?」
初めて聞いたよ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。初物狙いのソルジャーに向かって教頭先生が絶叫した言葉が「終わり初物」というヤツでした。曰く、「あなたの世界のハーレイこそ、立派な終わり初物だと思いますが!」。
「…旬を過ぎてから成熟したヤツのことを言うんだったか?」
俺も初耳だが、とキース君が確認すると、会長さんは。
「そうだよ、そう呼んで珍重される。でもってハーレイが叫んだとおり、あっちのハーレイはそれだろうねえ…」
「結婚した時点で旬が終わっています、って必死に叫んでらっしゃいましたね」
確かに結婚はゴールでしょうけど、とシロエ君。
「いいんじゃねえか? それで納得して帰ったんだしよ、あっちの世界に初物を食べに」
終わり初物でも初物だよな、とサム君が言えば、マツカ君が。
「そっちも寿命が延びるんでしょうか?」
「さあね」
そこまでは保証の限りではない、と会長さんが宙に目を凝らして。
「…少なくともこっちのハーレイの寿命は延びたね、終わり初物なあっちのハーレイに助けられたって感じかな? お風呂に入り直してホッと一息、丁寧にお尻を洗っているさ。命拾いした褐色の桃を」
「「「………」」」
ソルジャーが何処まで何をやらかしたのかは、モザイクサービスのお蔭で謎だらけ。ソルジャーがダメにしかかった白桃みたいな事態になったか、はたまた撫でられただけで済んだか、どっちでしょう? どちらにしても災難ですけど…。
「災難だって? あの程度で済んだら幸運だよ、うん」
もっと酷い目に遭っていれば、と会長さんは悔しそう。二度と会長さんの前に出られないほどの恥ずかしい目に遭わされてしまえば良かったのにとか言ってますけど、元凶のソルジャーは終わり初物を召し上がっている頃でしょう。ソルジャー、寿命は伸びそうですか? 末永くお元気で地球を目指して下さいね~!
初物が欲しい・了
※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
教頭先生受難の巻ですが、ソルジャーが召し上がった終わり初物はソルジャー受け。
受けであっても「自分が食べる方」だと認識するのがソルジャーです。
シャングリラ学園シリーズは4月2日に本編の連載開始から7周年を迎えます。
7周年記念の御挨拶を兼ねまして、4月は月に2回の更新です。
次回は 「第1月曜」 4月6日の更新となります、よろしくです~!
※毎日更新な 『シャングリラ学園生徒会室』 はスマホ・携帯にも対応しております。
こちらでの場外編、3月もドクツルタケことイングリッドさんを引き摺り中…。
←シャングリラ学園生徒会室は、こちらからv
※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。
シャングリラ学園番外編は 「毎月第3月曜更新」 です。
第1月曜に「おまけ更新」をして2回更新の時は、前月に予告いたします。
お話の後の御挨拶などをチェックなさって下さいませv
シャングリラ学園、今年も新年度を迎えました。桜が満開だった入学式には会長さんの思念波メッセージが流されましたけれども、新しい仲間は現れず。というわけで「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋は今年も貸し切りで行けそうです。
「かみお~ん♪ いらっしゃい!」
授業、どうだった? と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。校内見学やクラブ見学などが終わって今日から授業がスタートしました。グレイブ先生は相も変わらず絶好調で。
「ぼくたちは別にいいんだけどさあ…」
ねえ? とジョミー君が私たちを見回し、サム君が。
「他のヤツらは御愁傷様としか言えねえなあ…。補習になるヤツ、多そうだぜ」
「しかしだ、試験問題は中学までの範囲だぞ」
自己責任だと思うのだが、とキース君。それも一理はあるんですけど…。
「君から見ればそうかもね。だけど、普通はそうはいかない」
会長さんが紅茶のカップを傾けながら。
「念願の高校に合格したんだ、その段階で気が弛む。おまけに定期試験は全て満点になる1年A組の幸運つきだよ、自主学習なんて言葉と予習復習は綺麗サッパリ抜け落ちてるさ」
たまには実力を思い知るべき、と会長さんはシビアです。
「この一年間、遊んで暮らすクラスメイトの意識の下で知識をフォローするのはぼくだ。たまには楽をさせて欲しいし、出来れば自前で勉強を…ね」
そうして貰えば少し負担が軽くなる、と言われてみればもっともで。
「そっかぁ…。合格した後で吹っ飛んだ分は自分でやれってことなんだ?」
中学校の分だもんね、とジョミー君が溜息をつけば、会長さんは。
「あまり期待はしてないけどねえ…。毎年、吹っ飛んだ分も含めてフォローする羽目になっちゃってるしさ。でもまあ、1年A組で暮らすためには仕方ないかな」
年貢のようなものだと思おう、との言葉にプッと吹き出す私たち。どちらかと言えば年貢はグレイブ先生の方が納めてらっしゃる気がします。会長さんが出現する度に…。
「あっ、君たちもそう思うかい? 今年も沢山納めて欲しいね、お年貢を」
「あんた、鬼だな…。毎度のことだが」
キース君の台詞を会長さんはサラリと右から左へ。
「年貢というのは納めるためにあるんだよ。そしてグレイブよりも有望なのが一人」
「「「は?」」」
会長さんに年貢を納める有望株。グレイブ先生よりも有望だなんて、該当する人は多分、一人しかいないんじゃあ…?
グレイブ先生からの年貢を楽しみにしている会長さん。更に有望視される年貢のアテが誰なのか、ほぼ想像がつきました。つい先日も紅白縞をお届けに出掛けたばかりですけど、新年度早々、何かやらかすつもりでしょうか?
「君たちの顔を見る限りでは、誰か分かっているようだけど…。質問は?」
何でもどうぞ、と水を向けられても「ハイそうですか」と即座に返せるわけもなく。肘でつつき合い、譲り合っている内に「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「えとえと…。とくちゅうふぃぎゅあ、って言ったかなぁ?」
「「「ふぃぎゅあ?」」」
なんじゃそりゃ、とオウム返しな私たち。会長さんはお皿の上のケーキにデコレーションされたエディブルフラワーをフォークにヒョイと乗っけると。
「こんな感じで花びら一杯、メルヘンたっぷりな阿呆が一人さ」
「「「…メルヘンたっぷり?」」」
ますますもって話が謎です。質問は自由にと言われたものの、何処から突っ込めばいいのやら。会長さんもそこはしっかり承知のようで、淡いピンクの可憐な花をフォークの上で弄びつつ。
「ベッドが花びらなんだよねえ…」
「「「えぇっ!?」」」
なんて無茶な、とあちこちで悲鳴。教頭先生、御乱心ですか? 失礼ながら、あの御面相と立派なお身体に花びらベッドは似合っていないと思うんですけど~!
「違う、違う! ああ、でも、それは使えるねえ…。年貢はソレで行こうかな?」
「何のことだ? …教頭先生の話じゃないのか?」
おおっ、やりました、キース君! よくぞ訊いてくれた、と誰もが喝采。訊かれた方の会長さんは「それで合ってる」と微笑んで。
「花びらベッドはハーレイだけどさ、それに寝てるのはハーレイじゃない。ぶるぅが言ったろ、特注フィギュア! それが毎晩寝てるんだってば」
「…教頭先生にフィギュア集めの御趣味があるとは聞いていないが…」
知らないぞ、と首を傾げるキース君に「そるじゃぁ・ぶるぅ」がニコニコと。
「一個だけなの、特注品なの! 思い切りこだわって注文したの!」
「そういうこと。ただのフィギュアじゃないんだな、これが」
こんなのだけど、と会長さんの指が閃いて、ティーカップの縁にチョコンと腰掛ける小さな小さな会長さんが。マント無しのソルジャーの衣装ですけど、特注フィギュアってコレなんですか~!?
「「「……スゴイ……」」」
実に細かい、と私たちの目はフィギュアに釘付け。会長さんの姿形をそっくり再現してあります。カップの縁に座れるサイズとは思えないほど素晴らしい出来で。
「ね、なかなかの出来だろう? お値段の方も凄かったようだよ、なにしろ特注の一点モノ!」
この衣装にもこだわりが…、と会長さんは自分のフィギュアを摘み上げると。
「私服や制服ではダメだったらしいね、身体のラインが出ないから。こっちだと身体にフィットしてるし、妄想の余地があるみたいだよ」
ついでにポーズもこだわりアリ、とテーブルにコトリと置いてみせて。
「カップの縁に座ってる分には普通なんだけど、こう置くと…。足が少し開いてイイ感じなわけ、君たちには分からない次元でね。そそられるらしいよ、大人の時間な気分ってヤツが」
「…そうなのか?」
まるで分からん、とキース君が答え、私たちも一斉にコクコクと。でもまあ、少しなら分かる気もします。軽く開いた膝の奥には人間で言えば大事な部分があるわけですから、チラリズムとでも申しましょうか…。
「そうそう、それだよ、チラリズム! 誘ってるように見えないこともないらしい」
迷惑千万な話だけれど、と顔を顰める会長さん。
「ハーレイときたら、カップの縁に座らせた時も足の間をガン見してるねえ…。ついでに指先でチョイと触って、耳まで真っ赤になってみたりさ」
殆どビョーキ、と、教頭先生、身も蓋も無い言われようです。
「そして寝かせる時は花びらベッド! 妄想とメルヘンのごった煮なんだよ」
「「「ごった煮?」」」
「そう、ごった煮。妄想の方はハネムーンによくあるフラワーベッド、正しくはフラワーデコレーションベッド! 知っているかな、ベッドの上に花をたっぷり飾ってあるんだけれど」
こんな感じで、と思念波で伝えられたイメージは実に様々。無秩序に花を散らしたものから、整然と並べた幾何学模様までバリエーション豊かな世界です。ふむふむ、これが妄想、と…。
「ハーレイの夢はそういうベッドでハネムーンらしいね、そんな気持ちをたっぷりと込めてフィギュアに花びらを被せるわけ。メルヘンの方は親指姫だよ、あれは花びらのベッドだろ?」
その上に更に妄想が、と会長さんはフィギュアをカップの縁に戻すと。
「親指姫ならぬフィギュアのぼくを愛情こめて世話していれば、ぼくに気持ちが伝わるかも…と思っているわけ。いずれ目出度く花いっぱいのベッドでハネムーン、とね」
そのために花びらも惜しみなく、と嘲っている会長さんによれば、教頭先生は特注フィギュアのために毎日、とてもお高い薔薇を一輪買うそうです。その日の気分で真紅やピンク、べらぼうに高い青薔薇なんかも買うらしいですよ…。
メルヘンと妄想が混ざった世界で会長さんの特注フィギュアを愛でているという教頭先生。親指姫を育てる気分でせっせと世話をし、語り掛け…。
「なにしろ親指姫だからねえ、薔薇の花にも座らせてるよ。メルヘンちっくに夢を見ている時はウットリ、妄想タイムに入る時にはモッコリってね」
「「「…もっこり?」」」
「あ、ごめん。つまりアレだよ、大人の時間の準備段階!」
ここから先は保健体育の授業でどうぞ、と説明されれば分かります。大事な部分が変化しちゃうほど、会長さんのフィギュア相手に興奮なさっておられるようで。
「そうなんだよねえ、流石にフィギュアは押し倒せないからサカる時には抱き枕だけど。…こんなフィギュアを作った男には年貢を納めて貰いたい」
でないと気分が収まらない、と会長さんはブツブツと。
「コレを相手にはサカれないから、抱き枕と違って躊躇なくオーダーしたんだよ! 思い付いたら即、実行で…。ぼくの資料をキャプテン権限であらゆる角度から引き出して…ね」
シャングリラ号のデータベースから、と吐き捨てるように言う会長さん。
「データベースには地球からでもアクセス出来る。マントを外したぼくの映像を山ほどゲットして、ついでに座った姿もね…。そういう画像をドカンと渡せば精巧なフィギュアが作れるってわけ」
そして夜な夜な妄想の世界でお楽しみ、と会長さんの御機嫌は斜め。
「こういうコトをやらかす男をどうしようかと思ってたけど、君たちが考えた花びらベッドで閃いた。目には目をって言うし、花びらベッドには花びらベッド! 親指姫には親指姫だよ」
「「「は?」」」
「一方的に親指姫にされたぼくの気分をハーレイにも味わって貰うのさ。可愛らしくカップの縁に座って、花びらのベッドでお昼寝だよ、うん」
それに決めた、と会長さんは特注フィギュアを指でチョンとつついて。
「お前もお揃いがいいだろう? まずはカップの用意からだね、ドリームワールドのコーヒーカップの予備でも失敬しようかな。アレなら余裕で座れるからさ」
「あんた、本気でやるつもりなのか!?」
コーヒーカップと花びらベッド、とキース君が突っ込むと、会長さんの笑みが深くなり。
「決まってるじゃないか、年貢だよ? 納めて貰ってなんぼなんだよ、とりあえずフィギュアは戻しておこう」
此処が定位置、と瞬間移動で戻した先の映像が思念波で頭の中に。教頭先生が大事にしてらっしゃる夫婦茶碗の縁にチョコンと小さな小さな会長さん。うーん、とってもメルヘンチック…。
教頭先生に年貢がどうこうと恐ろしげな計画を口にした会長さんは早速動き始めました。私たちには「今日も順調」としか言いませんけど、着々と準備を進めている様子です。そして週末、会長さんの家に招かれて出掛けてみると。
「うっわー…。本気で用意したんだ?」
コーヒーカップ、とジョミー君。ドリームワールドで子供に人気の遊具、コーヒーカップの予備と思しき大きなカップがリビングに鎮座しています。
「素敵だろう? これならけっこう頑丈だしねえ、ハーレイが縁に座っても大丈夫! 傾かないように重石も入れたし、後は座って貰うだけさ」
縁にチョコンと可愛らしく、と会長さんはニヤニヤと。でも肝心の教頭先生に招待状は出したのでしょうか? 出したとしたら、どんなのが…。
「招待状? 出すわけないだろ、そんなもの! 親指姫だし」
「「「え?」」」
「親指姫は攫われるものだよ、これから拉致して連行するだけ!」
よし! と会長さんの声が響いて、教頭先生が瞬間移動でリビングに。家で寛いでらっしゃったらしく、ラフな格好をしておられます。
「やあ、ハーレイ。ぼくの家にようこそ」
「…ブ、ブルー!? これはいったい…?」
どうなっているのだ、とキョロキョロしている教頭先生に、会長さんはスッとコーヒーカップを指差して。
「あれに座ってくれるかな? 縁にチョコンと」
「…な、なんだ?」
ギクリと顔色を変える教頭先生、特注フィギュアがバレたとも知らず挙動不審になりながらも。
「そ、それは…。別にかまわないが、アレに座ってどうするのだ?」
「そりゃもう、可愛く座ってるだけでいいんだよ。ぼくたちがそれを愛でるから」
「……愛でる……?」
「うん。カップの縁に座る姿って可愛いじゃないか、こう、親指姫みたいでさ」
でもその服だとイマイチだよね、と会長さんが「そるじゃぁ・ぶるぅ」に合図を送ると。
「かみお~ん♪ はい、ハーレイのキャプテン服!」
コレに着替えて座ってみてね、と唐草模様の風呂敷包みが差し出されました。キャプテンの制服、教頭先生の家のクローゼットに山ほどあるとは聞いていますが、一着ゲット済みでしたか…。
「……なんかイマイチ可愛くないねえ……」
どう思う、と会長さんが尋ね、素直に頷く私たち。巨大カップの縁に腰掛けた教頭先生は全く可愛くありませんでした。シャングリラ号のブリッジでキャプテンシートに座っているのと殆ど変わらないような…。
「だよねえ、これじゃ親指姫どころか普通にキャプテンスタイルだってば…」
何処が違うと言うんだろう、と会長さんはコーヒーカップの縁に座らせた教頭先生をジロジロと。
「ポーズは全く同じなんだよ、キッチリ指定したんだからさ」
「……同じだと?」
何のポーズと同じなのだ、と教頭先生が訊き返し、会長さんが高らかに。
「君の御自慢の特注フィギュア!」
「!!!」
教頭先生の顔色がサーッと青ざめ、カップの縁で硬直中。会長さんは教頭先生の身体をツンツンつつき回して。
「…分からないねえ、君の趣味…。どう転んだらコレに萌えるのか、ぼくにはサッパリ謎なんだけど…。やっぱりアレかな、君が毎晩やっているようにココをつつくのが王道だとか?」
会長さんの指が教頭先生の股間を示してピタリと止まり、教頭先生の鼻からツツーッと鼻血が。
「なるほど、ココが大切、と…。でも触りたくもないからねえ…」
おまけにモッコリしてきちゃったし、と会長さんは冷たい口調。
「こんな所でモッコリしてもね、見た目に醜いだけなんだよ。さっさと萎えてくれないかな?」
「…………」
教頭先生、タラリ脂汗。これは一気に萎えそうです。しかし…。
「待たされるのは趣味じゃないんだ。すぐに萎えないなら隠すしかない。…ぶるぅ!」
「かみお~ん♪」
パァァッと迸る青いサイオン。教頭先生のキャプテン服は一瞬の内にピンクのドレスに変わっていました。フリルひらひら、レースたっぷり。
「このドレス、ぼくが作ったの! お花の国のお姫様だよ♪」
「ふふ、ぶるぅの力作のドレスはどうだい? そこに座るのに疲れてきたら言ってよね。花びらのベッドを用意したんだ、ゆっくり昼寝をしてくれていいよ」
ほらね、と瞬間移動でリビングに出現した大きなベッド。華やかな薔薇や香り高いジャスミン、他にも花がてんこ盛り。教頭先生がお休みになるには似合わなさすぎる気がするんですけど、ピンクのドレスのお姫様にはこのくらいで丁度いいのかな?
会長さんの特注フィギュアを作ったばかりに晒し者となった教頭先生。ピンクのドレスでコーヒーカップの縁に座って所在なさげに項垂れてらっしゃるのですけれど。
「…ふうん…。これが元ネタのヤツなんだ?」
「「「!!?」」」
あらぬ方から声が聞こえてフワリと翻る紫のマント。そこには手乗りの小鳥よろしく会長さんフィギュアを右手に座らせたソルジャーが笑顔で立っていました。
「ぼくの世界から眺めてたけど、手に取ってみると違うものだね。これならハーレイがサカるのも分かる。ついでに頑張って貢いでいたのも」
毎日一輪、高い薔薇! とソルジャーはフィギュアの頭にチュッとキスを。教頭先生の頬が赤らみ、会長さんは柳眉を吊り上げて。
「何しに来たのさ! それ、返してよ!」
「え、ハーレイのヤツだろう? 君に返してどうするのさ」
「処分するんだよ、存在自体が許せないから!」
さっさと寄越せ、と会長さんが伸ばした手からソルジャーがサッと身をかわすと。
「勿体ないじゃないか、よく出来てるのに…。こんなヤツならぼくも欲しいな」
「「「へ?」」」
ソルジャーが会長さんのフィギュアを……ですか? そりゃあ昔は会長さんを食べようとして騒ぎになったこともありましたけど、キャプテンと晴れて結婚してからはそんな話も無かったかと…。なのに今更フィギュアなのか、と思ったら。
「ううん、ブルーのフィギュアは別にどうでもいいんだよ。これと同じのをぼくで作ってハーレイにプレゼントしようかなぁ…って」
なんだ、そういうことですか! だったら問題ないんじゃあ…?
「だろ? だからね、これは暫く貸しといてよね」
ソルジャーの手からフィギュアが消え失せ、別の世界へと送られてしまった模様です。ソルジャー曰く、あちらの世界の優れた技術でポーズを自由に変えられるように作りたいらしく。
「出来上がったらモデルは返すよ。勿体ないような気もするけれど、処分するなら御自由に…。あ、そうだ。ぼくの世界のバージョンアップ版、こっちのハーレイにもあげようか?」
「却下!!」
モデルが君でもお断りだ、と会長さんが叫び、教頭先生がボソボソと。
「…そ、そのぅ…。分けて頂けると嬉しいのですが……」
あらららら。ついウッカリと本音が出ちゃったみたいですけど、会長さんにも聞こえてますよ?
特注フィギュアどころかバージョンアップ版のヤツが欲しい、と漏らしてしまった教頭先生を見詰める会長さんの視線は氷点下でした。それに気付いた教頭先生が取り繕っても後の祭りで。
「違うんだ、ブルー! 私はそういうつもりでは…!」
「そんなつもりでなきゃ言わないだろ、欲しいだなんて! しかもバージョンアップ版!」
よくもぼくの目の前でエロい世界に、と会長さんは怒りMAX。
「大人しく座って花びらベッドで寝てるようなら見逃そうかとも思ってたけど、もうその線は消えたから! 嫁に行くのかスイレンの葉っぱか、二つに一つで選びたまえ!」
「…よ、嫁…?」
私がなのか、と問い返す教頭先生に、フンと鼻を鳴らす会長さん。
「親指姫はお金持ちのモグラに嫁ぐものだと決まってる。幸か不幸かノルディがいるしね、嫁に行くならノルディの所だ」
「「「えぇっ!?」」」
エロドクターにも選ぶ権利があるだろう、と私たちはビックリ仰天ですけど、会長さんは。
「嫁に来たのがハーレイだってバレないように細工をするさ。もちろん花嫁はぼくってことで…。サイオニック・ドリームが通用しないのはぼくを相手にした時だけだし、対ハーレイなら引っ掛かる。ぼくだと思ってそりゃあ念入りに可愛がってくれると思うよ」
「ま、待ってくれ! そ、それは勘弁して欲しいのだが…!」
助けてくれ、と泣きの涙の教頭先生に、会長さんがピシッと指を突き付けて。
「じゃあ、スイレン!」
「…スイレン?」
「スイレンの葉っぱの上に捨てられるんだよ、後は野となれ山となれでさ」
どっちにする? とズイと迫られた教頭先生に選択の余地がある筈もなく…。
「……スイレンでいい…。いや、スイレンだ、是非スイレンの上に捨ててくれ!」
「了解。それじゃ、後悔しないようにね」
行ってらっしゃい、と会長さんが手を振り、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「かみお~ん♪ ハーレイ、元気でね~!」
青いサイオンが走ったかと思うと、教頭先生は何処にもいませんでした。残ったものはドリームワールドのコーヒーカップと、飾り立てられたフラワーベッドと。ソルジャーがフラワーベッドを興味津々で眺め、会長さんに。
「これも貰っていいのかな? ぼくのハーレイと楽しめそうだよ」
「…好きにしたら? ハーレイを寝かせたベッドなんかを再利用するつもりは無いから、格安の家具を買ったんだ。ベッドごと持って帰っていいよ」
「ありがとう! それじゃ有難く貰って行くね」
ソルジャーは大喜びで帰ってゆきましたけれど、教頭先生は何処なんでしょうねえ?
お金持ちのモグラならぬエロドクターへの嫁入り話をお断りになった教頭先生。スイレンの葉っぱを選んで何処かへ消えてしまわれましたが、そのスイレンって何ですか? まさか本物ではないのでしょうし…。
「ああ、スイレンの葉っぱかい? ちゃんと特注したんだよ」
浮かぶ素材で、とニッコリ微笑む会長さん。
「ハーレイが乗っても沈まないように作ってあるから大丈夫! プカプカ水に浮かんでいるさ」
「それって何処の池なんです?」
空港の敷地内にあるヤツですか、とシロエ君が質問しました。シャングリラ号に行くための専用空港を含む広大な土地には大小の池が幾つかあります。その中の一つか、あるいはマザー農場の溜池とかか。その辺だろうと思ったのですが…。
「池じゃないねえ、湖だよ」
「「「湖?」」」
「それに思いっ切りの観光名所! もちろんスイレンはシールドしてある」
観光客には発見されない、と会長さんは得意げです。
「発見されてすぐに救助じゃつまらないしねえ…。ハーレイはそんなこととは思ってないから、側を通って行く遊覧船とか漁船なんかに手を振っているよ。誰か助けてくれ、ってね」
「…あの格好で救助されても恥ずかしそうねえ…」
変態みたい、とスウェナちゃんが呟き、揃って笑い出す私たち。恥ずかしいのもさることながら、発見されたのが遊覧船なら一部始終を撮影している乗客とかがいそうです。うっかりネットに投稿されたりしようものなら恥ずかしいなんてレベルではなく…。
「それは確かにシールドの方がマシなようだな」
俺なら発見されない道を選ぶ、とキース君。
「いつかは救助するんだろう? まさか死ぬまで放置じゃあるまい」
「それはもちろん。あれでもシャングリラ学園の教頭な上に、シャングリラ号のキャプテンだしねえ? 湖の上で餓死された日には生徒会長とソルジャーの立場が無いってものでさ」
その辺はきちんと考慮している、との答えにホッと一息。スイレンの葉っぱで漂流中の教頭先生、餓死寸前まで行かなくっても月曜日の授業が始まるまでには救助して貰えることでしょう。それまでは湖の水でも飲みつつ、じっと我慢でいて下されば…。えっ、なんですって?
「ねえ、ブルー。…なんか、時間が来たみたいだけど」
大丈夫かなぁ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。ちょっと、時間が来たって、なに? 何の時間が来たんですか~!
スイレンの葉っぱに揺られて漂流中の教頭先生は観光名所の湖の上。自分の姿がシールドされて見えないとも知らず、遊覧船などに救助を要請中らしいですが。
「時間だって? そういえば…」
そんな時間か、と時計に目をやる会長さん。教頭先生がコーヒーカップの縁に座って親指姫をやってらっしゃる間に私たちは昼食を済ませていました。教頭先生を見物しながらワイワイと食べて、それからソルジャーがやって来て…。いつの間にやら午後三時です。
「時間がどうかしたのかよ?」
日が暮れるには早いよな、とサム君が訊くと「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「えとえと、滝の時間なの! 三時から滝が始まっちゃうの!」
「「「滝?」」」
滝が始まると言われましても、何のことやら意味不明です。滝っていわゆる滝ですよね? 始まるも何も、滝は年中無休なんじゃあ? ダム湖の放水じゃあるまいし…。
「違うんだな、これが」
世間は広い、と会長さんがチッチッと人差し指を左右に振って。
「ハーレイが漂流中の湖は火山活動で出来た堰止湖でねえ、そこから滝が流れ出してる。この滝がまた観光名所! ところがどっこい、水量不足だと滝の迫力が出ないものだから…。そういう時期には時間限定で水を流すのさ、それが今日だと三時からだね」
やってる、やってる…、とサイオンで見ているらしい会長さん。
「今年は水が少ないらしくて一日に三回、一時間ずつ流してるんだ。午前九時と正午と、午後三時。ハーレイが漂流し始めてからは本日初の放水ってことで」
どうなるかな、とワクワクしている会長さんの瞳の輝きっぷりと、「そるじゃぁ・ぶるぅ」の心配そうな顔つきからして、もしかしてスイレンの葉っぱが浮かんでいる場所は…。
「えっ、ハーレイのスイレンの場所? 運が悪けりゃ滝に行くねえ、そういう場所を選んで浮かべておいたし…。下手に暴れなきゃ安全だったけど、遊覧船とか漁船を追っかけて自力で漕いだりしちゃったからさ…」
かなりリスクは上がったかと、と会長さんの指がパチンと鳴って壁に映し出される中継画面。そこでは大きな緑のスイレンの葉っぱに腹ばいになったピンクのドレスの親指姫が懸命に水を掻いていました。なんだか焦っているようです。会長さんが悠然と。
「おやおや、流れに乗っかっちゃったか…。滝の存在にも気付いたようだね、ピンチとなったらサイオンが研ぎ澄まされてくるらしい」
流れの先には川があるってこともあるのに、とクスクス笑う会長さん。確かに川なら湖よりも脱出しやすい雰囲気です。けれど教頭先生が乗った流れの先は滝。教頭先生、大ピンチでは…?
「お、おい…。まさかと思うが、その滝とやらは…」
自殺の名所じゃないだろうな、とキース君が繰り出したトンデモ発言。自殺の名所で滝っていうのがありましたっけ? 三大名所は崖が二つと樹海だったと思うのですが…。
「ふうん? 流石は副住職だね、マイナーな場所も押さえていたとは」
そこで間違いないんだけれど、と会長さんがスッパリ言い切り、私たちの方は目が点で。
「あんた、教頭先生を殺す気か!」
キース君が噛み付き、ジョミー君が。
「じ、自殺の名所って、落ちたら死ぬほど凄いわけ? そんな滝なわけ?」
「そうなるねえ…。なにしろ落差が百メートル近く」
流されて落ちたら確実にアウト、と会長さんは中継画面に見入っています。
「でもさ、最近はあそこで自殺は無いみたいだよ? やっぱり時間限定の滝はウケないのかもね、水がそこそこある時期なんかも夜間は止めたりするものだから…」
「そんな寝言を言ってる場合じゃないだろうが!」
流れが速くなってるぞ、というキース君の指摘どおりにスイレンの葉っぱは加速中。必死の形相で水を掻き続ける教頭先生の努力も空しく滝の方へとグングン流されているわけで。
「平気だってば、殺しやしないよ。ちょーっと死にそうな気分になるだけ」
「かみお~ん♪ ブルーのシールド、完璧だもんね!」
真っ逆さまでも壊れないもん、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお墨付き。ということは、このまま落っことすんですね? 滝から真っ逆さまなんですね…?
「そりゃもう、そのくらいしなくちゃね。でないとホントに気が済まないんだ、あの特注のフィギュアの御礼! ノルディに一晩可愛がられるか、滝から真っ逆さまかって目に遭わせないと!」
派手にトラウマになるがいい、と会長さんに助ける気持ちは皆無でした。まあ、死ぬわけではなさそうですけど、教頭先生の苦手はスピード。それに加えて落下となれば一生モノのトラウマかもです。特注フィギュアを作ったばかりに、こんな末路になろうとは…。
「ヒントをくれたのは君たちだろう? 親指姫のさ」
実に素敵なアイデアだった、と上機嫌で鼻歌でも歌い出しそうな会長さんと、今や「助けてくれ」と絶叫しながら流される教頭先生と。親指姫ってこういう結末でしたっけ? これじゃ童話のラストというより世界残酷物語では…。
「うん。親指姫ではないよね、これは」
可哀相に、と聞こえた声と優雅に揺れる紫のマントが今日ほど頼もしく見えた日はありませんでした。ソルジャーだったら会長さんを止められそうです。止めて下さい、お願いします! 特注フィギュアは教頭先生の持ち物だったんですから、恩返しに~!
教頭先生を乗せたスイレンの葉っぱは滝に向かって一直線。もうダメだ、と私たちが両手で目を覆った時、部屋の空気がフッと揺らいで。
「あーーーっ!!!」
酷い、と会長さんが中継画面の向こうへと怒鳴り、「そるじゃぁ・ぶるぅ」はポカンと丸い目。そして私たちは見たのです。目もくらむ落差の滝を落っこちてゆくスイレンの葉っぱと、それと一緒に放り出されたピンクのドレスのお姫様を抱えて飛び去ってゆくソルジャーとを。
「と、飛んじゃったぁ…」
ビックリしたぁ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。会長さんも「そるじゃぁ・ぶるぅ」もサイオンの力で飛べますけれど、普段は瞬間移動です。それだけにソルジャーが見せた瞬間移動した先で空を飛ぶ技は歴戦の戦士ならではの凄いものとして映ったようで。
「凄い、凄いや、飛んでっちゃったぁ…。もうすぐ帰ってくるのかなぁ?」
おまけにシールドしていたよ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は感動中。ソルジャーが空を飛んだ姿は一般人に見られないようにシールドされていたみたいです。ソルジャー、特注フィギュアの御礼に華麗に活躍してくれましたよ、これで教頭先生も…。
「ただいま。親指姫を助けて来たよ」
「……あ、ありがとうございました……」
本当に死ぬかと思いました、とリビングに現れた教頭先生が濡れ鼠で土下座しています。瞬間移動で戻って来たソルジャーは教頭先生を抱えてはおらず、隣に立っていただけなのですが。
「………。助けた以上は結婚だよ?」
親指姫のラストはそういうものだ、と会長さんが恨みがましく。
「特注フィギュアも貰った仲だろ、この際、結婚するんだね」
「えぇっ? それは困るな、ぼくはこれでも既婚者なんだし…。重婚はちょっと」
「事実婚って手もあるだろう!」
確か三人でやりたがっていたと思うんだけど、と会長さんは親指姫な教頭先生をソルジャーに押し付けるつもり。えーっと、本当にそれでいいんですか? 教頭先生がソルジャーの世界に行くんでなければ、色々と面倒なことになっちゃうような…?
「そうだよ、その子たちが思っているとおりだよ? ハーレイがぼくで味を占めたら君もヤバイと思うけどねえ、それでも結婚がオススメなわけ?」
そこまで言われたら断れないな、とソルジャーは艶やかな笑みを浮かべて。
「聞いたかい、ハーレイ? ぼくたち、結婚しなくちゃいけないそうだ」
「…で、ですが、私は一生ブルーだけだと決めておりまして…」
助けて頂いたのは有難いですが、と頭を下げるピンクのドレスの教頭先生に、ソルジャーが。
「ぼくもブルーだ。…君がその気になるまで待つから、ここは結婚してみないかい?」
ブルーの許可も出ているんだし、と微笑んだソルジャーの手に例のフィギュアが。
「ぼくのハーレイには暫くコレで我慢して貰って、ぼくは君と……ね。悪い話じゃないと思うな、今日から色々教えてあげるよ」
こっちのブルーと大人の時間を過ごすためのコツとか過ごし方とか、と耳元で熱く囁かれた教頭先生がブワッと鼻血を噴いてしまわれ、会長さんが。
「退場! 結婚の話は無かったことに!!」
「嫌だね、ぼくはその気になったんだ。特注フィギュアを作るセンスはぼくのハーレイには無いからねえ…。この結婚から得るものは多い。だから結婚させて貰うよ」
親指姫のラストに相応しく…、と開き直ってしまったソルジャー、結婚する気満々です。教頭先生も滝から真っ逆さまのピンチからさほど時間が経っていないだけに、まだ冷静ではないらしく。
「こ、これも何かの御縁でしょうか…。不束者ですが、どうぞよろしく…」
「あっ、君もその気になってくれた? それじゃ早速、愛の巣へね」
君の家へお邪魔しようかな、とソルジャーが教頭先生の手を取った所へ。
「ま、待って下さい、ブルー!!!」
転げ込んで来たキャプテン服の人物が一人と、「そるじゃぁ・ぶるぅ」のそっくりさんと。
「け、結婚はぶるぅがするそうです! 親指姫のラストは姫を救ったツバメが王子様の所へ運ぶのですから、名乗りを上げてくれまして! あなたのパートナーは私一人でお願いします!」
「かみお~ん♪ ぼく、ハーレイに頼まれたの! ブルーの代わりに結婚しろって!」
一度結婚してみたかったの、と「ぶるぅ」の瞳がキラキラと。
「ハーレイ、ぼくと結婚しようね、それならいいでしょ?」
「ぶ、ぶるぅ…。そうか、お前もブルーの内だな……」
それもいいか、と教頭先生、アッサリ承諾してしまいました。おませな「ぶるぅ」は大喜びで。
「わーい、親指姫と結婚だぁ! お花の土鍋を特注しなくちゃ、ハーレイ用だよ♪」
「う、うむ…。特注は実にいいものだからな」
幸せになろう、と教頭先生、滝から真っ逆さまのショックで今も盛大に混乱中。えっと、特注はフィギュアです! 土鍋じゃなくってフィギュアなんです、教頭先生、落ち着いて! 会長さんも笑っていないで止めて下さい、絶対、何かが間違ってますぅ~!
可憐な親指姫・了
※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
教頭先生が落っこちて行った滝にはモデルがあります、日光の華厳の滝がそうです。
多少脚色してはいますが、いつも流れてはいないのでした…。
次回、3月は 「第3月曜」 3月16日の更新となります、よろしくです!
※毎日更新な 『シャングリラ学園生徒会室』 はスマホ・携帯にも対応しております。
こちらでの場外編、2月はドクツルタケことイングリッドさん、再登場…!
←シャングリラ学園生徒会室は、こちらからv
※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。
シャングリラ学園番外編は 「毎月第3月曜更新」 です。
第1月曜に「おまけ更新」をして2回更新の時は、前月に予告いたします。
お話の後の御挨拶などをチェックなさって下さいませv
色々とお騒がせだった今年も本日で終わり。寒波の中で大晦日到来、恒例となった元老寺での除夜の鐘撞きの日がやって来ました。私たちは午後からキース君の家にお邪魔し、会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」ともども庫裏のお座敷でのんびりと。しかし…。
「みんなはいいよね、思い切り暇でさ!」
失礼します、と入って来たジョミー君が開口一番、早速愚痴を。お茶菓子を届けに来たようですけど、顔いっぱいに「なんでぼくだけ」の文句がデカデカ。
「仕方ないだろう、ぼくの弟子だし…。それにサムは真面目にやっているしね」
見習いたまえ、とすげなく突っぱねる会長さん。ジョミー君とサム君は墨染の法衣でお手伝いをさせられているのです。
「アドス和尚の御好意でやらせて貰っているんだ、きちんとしないと叱られるよ?」
「もう叱られたし!」
「おやおや。何をやったんだい?」
「…蝋燭の扱いがなってないって…」
そんなの素人に出来るもんか、とジョミー君はブツブツと。
「そろそろ取り換える時間だから、って言われたんだよ! 短くなったのを消して新しいヤツと交換しろって…」
「それで?」
「古いのを消したらアドス和尚の雷が落ちた…」
え、なんで? 消せと言われて何故に雷? 正しい事をしたんじゃあ…。けれど会長さんは「ああ、なるほど…」と納得した様子。
「あれだろ、バースデーケーキの蝋燭の要領でフーッと消したね?」
「蝋燭ってそういうモンだと思うよ! まさか手で扇いで消すなんて!」
知るもんか、と喚くジョミー君。そっか、蝋燭を吹いて消したらダメなんだ? そんな話は初耳です。シロエ君たちも知らないようで。
「え、息で消すのはNGですか?」
「うん。神仏に関するものに息は厳禁。ニュースとかで見ないかな? マスクをしたり、紙を咥えて仏具なんかを扱ってるのを」
「「「あー…」」」
それは見覚えがありました。たかが蝋燭、されど蝋燭。御本尊様にお供えしてある以上は息はダメだというわけですか…。アドス和尚の雷が落ちるのももっともです。ジョミー君の仏弟子修行は今年の大晦日も大荒れかも?
そんなこんなで大晦日の午後はキース君たちもバタバタと。除夜の鐘撞きに来た人のお接待用のテントに椅子やストーブを運び込む係は出入りの業者さんですが、準備万端整っているかチェックをしたり、照明や看板を点検したり。一段落した夕食の時間はすっかりお疲れムードです。
「若くないねえ、しっかり食べておかないと」
これから先が本番だよ、と会長さんは年越し蕎麦をズルズルと。
「鐘撞きの後は修正会だしさ。文字通り休む暇も無い」
「そう言うあんたは元気そうだな、食っちゃ寝していたわけだからな」
よくも菓子まで運ばせやがって、とキース君が毒づきましたが、会長さんは知らん顔。
「アドス和尚の方針だろ? ぼくの役目は鐘撞きだけ! 緋色の衣で有難さアップ」
「く、くっそぉ…。見てろよ、俺もいずれは緋の衣を…」
「ダメダメ、年季が違うってね。ぼくの境地に達するためには三百年は必要かと」
君ではまだまだ迫力不足、と伝説の高僧、銀青様は右手をヒラヒラ。
「ブツブツ言ってる暇があったら食べたまえ。栄養をつけて、いざ年越し!」
「畜生め…。だが、蕎麦は確かに熱い内だ」
「かみお~ん♪ エビ天の衣も崩れちゃうよ?」
サクサクの間が美味しいんだもん、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」も。お座敷には暫し年越し蕎麦をすする音が響き、それからスタミナを補給するべくカツ丼などをパクパクと。精進料理じゃないのかって? その辺は建前と本音です。精進料理を食べていたんじゃハードな年越しはとてもとても…。
「ふふ、元老寺が厳しくなくて良かったねえ?」
精進料理のお寺もあるよ、と会長さんが海老フライのお皿に手を伸ばしながら。
「璃慕恩院でも、そこは厳しい。普通のお寺だから出来る贅沢、有難く頂戴しないとね。まあ、一般家庭でも侘しい夕食ってケースもあるけど…。酒の肴がつくだけマシかな」
「「「は?」」」
「ハーレイの家だよ。おせちはたっぷり用意したものの、今夜は年越し蕎麦で晩酌みたいだ。毎年おせちが余るからねえ、メタボ防止に今夜は軽めに」
「…俺たちのために用意して下さっている分か…」
御馳走になった年は殆ど無いな、とキース君。教頭先生は会長さんの突然の年始の訪問に備えて毎年おせちをドカンと注文。なのにお目当ての年始客は無く、一人で食べるのが定番で。
「いいじゃないか、正月早々あれこれ食べられてさ。今年も妙な期待をこめて沢山注文しちゃったようだよ、豪華版をね」
馬鹿じゃなかろうか、と嘲っている会長さん。和洋中と揃ったおせちとやらは、今回も無駄になるのでしょう…。
除夜の鐘撞きに出掛けるまでは束の間の自由時間です。緋色の衣に着替えた会長さんと萌黄の衣のキース君、墨染の衣のサム君とジョミー君も「外は寒いし」と暖房の効いたお座敷でまったりと。とはいえ、間もなく出陣ですが…。そんな間も会長さんは教頭先生を覗き見中。
「晩酌は終わってバスタイムらしい。来年こそは姫はじめだとか言ってるよ」
「「「姫はじめ?」」」
「ごめん、君たちには通じなかったか。とにかくエッチな妄想さ」
そんな願望が叶うものか、と吐き捨てるような会長さん。
「除夜の鐘を撞いて祓うべきだね、あの手の煩悩! まったくもう…。あれ?」
「どうかしたか?」
そろそろ行くぞ、とキース君が声を掛けると。
「ちょっと待った! ハーレイの様子がおかしいんだよ」
こんな感じで、と思念波で伝えられた映像。お風呂から上がった教頭先生、洗面所の鏡の前で歯ブラシ片手に固まっています。バスローブではなく腰タオル一丁、何をなさっているんでしょう?
「「「???」」」
眉間の皺がググッと深くなってるような? それに前屈みで歯ブラシすらも動かさないで硬直中とはこれ如何に? ややあって「ううう…」と呻き声が。
「やっちゃったか…」
これは暫く立ち直れないね、と会長さん。
「ギックリ腰だよ、どうなるのかな? ふとしたはずみで出るとは聞くけど、お風呂上がりとは情けない。この体勢で立っているのも辛いだろうから、いずれは床にバッタリかと」
「おい、どうするんだ! ゼル先生とかに連絡を…」
このままじゃマズイぞ、とキース君が声を上げたのですけど。
「別にいいだろ、呼びたきゃ自分で呼べばいい。思念波という手もあるしね? ぼくたちはこれから忙しいんだ。ハーレイは放置でいいってば」
覗き見してなきゃ気付かないんだし、と会長さんは立ち上がりました。思念波で伝えられていた教頭先生の様子も分からなくなり、今は御無事を祈るしか…。
「さあ、行くよ。除夜の鐘撞きと修正会ってね」
ハーレイの煩悩も祓っておこう、と会長さんが袂から出した数珠をジャラッと。煩悩を祓う除夜の鐘撞き、病魔は祓えないのでしょうか? 教頭先生のギックリ腰を祓ってあげたら、喜ばれると思うんですけど…。
元老寺の除夜の鐘撞きは回数制限無しで午前一時まで。会長さんが最初と最後の鐘を担当します。大勢の檀家さんや一般の人がつめかけて来て、お接待のテントは大賑わい。晴れ渡った空からたまにチラホラと雪が舞う中、サム君とジョミー君も頑張りました。
「おぜんざいのお接待、如何ですかー?」
「お代わりもどうぞ!」
宿坊に勤める人たちに交じって声を張り上げ、おぜんざいのお椀を手渡したりも。無関係な私たちはテントに居座り、ストーブで温まりつつ高みの見物。除夜の鐘はもちろん撞きましたよ? 新しい年も平和になりますように、と心をこめて。やがて会長さんが最後の鐘をゴーン…と撞いて。
「皆さん、お疲れ様でした。いい年になるといいですな」
アドス和尚は満面の笑み。超絶美形の会長さんのお蔭で除夜の鐘は毎年満員御礼、続く修正会にも檀家さん以外の人が訪れる盛況ぶりです。さあ、この後は本堂へ。あらら、今年も椅子席は却下? 若人は黙って畳に正座でお勤めですか、そうですか…。
『先輩、ぼくたちいつになったら椅子席を貰えるんでしょう?』
シロエ君の思念の嘆き節。御本尊様の前では導師を勤める会長さんが読経しています。
『当分は無理じゃないですか? 七十歳を越えたら考慮されるかもしれません』
頑張りましょう、とマツカ君。でも、シロエ君とマツカ君はまだいいんです。柔道部でも正座はしますし、マツカ君はお茶やお花の心得もある正座の達人。問題はスウェナちゃんと私で、今年も足が痺れて痺れて…。
『なにさ、そのくらい我慢しなよ!』
ぼくなんか、と飛んで来たジョミー君の思念。なんだなんだ、と眺めてみれば五体投地の真っ最中。スクワットにも匹敵すると噂のハードな所作だけに不満な気分は分かりますけど、気を散らしてるとアドス和尚に叱られますよ? あーあ、やっぱり思い切りテンポがズレてるし…。
『ジョミー先輩、また雷が落ちそうですね』
『そうねえ、自業自得だけれど』
放っときましょ、とスウェナちゃん。案の定、修正会がつつがなく終了した後、ジョミー君はアドス和尚の直々の命令で御本尊様の前で罰礼百回。南無阿弥陀仏を唱えながらの五体投地を百回です。膝が笑うと評判の刑、ダメージはさぞかし大きいかと…。
ジョミー君の罰礼が済み、庫裏に引き揚げた私たちには慰労の宴会が待っていました。会長さんを除いたお坊さん組は明日の朝9時から檀家さんの初詣のお相手ですし、その前に初日の出も拝みますから徹夜騒ぎとはいきませんけど…。
「ふふふ、ジョミーは派手にやられたね」
膝はどうだい、と会長さんがからかい、ジョミー君がブツブツと。
「見りゃ分かるだろ! 体育座りもキツイんだよ!」
「親父はトコトンやるからなぁ…。ほれ、塗っとけ。修行道場では使えんがな」
シャバの強みだ、とキース君が筋肉痛の薬を手渡し、膝を捲り上げたジョミー君がせっせと塗り塗り。プーンと薬の匂いが漂ってきます。あれ? 筋肉痛で思い出しましたが、教頭先生、どうなったのかな?
「ああ、ハーレイ! …すっかりキッパリ忘れていたよ」
どうしただろう、と覗き見モードで瞳を凝らした会長さんが。
「………信じられない…。遭難中だ」
「「「遭難中?」」」
「そう、遭難。立ってる限界が来たらしくって、洗面所の床に転がってるよ。歯ブラシを持ったまま呻いているさ」
しかもタオルは落っこちたようだ、と会長さんの指がパチンと鳴って中継画面が現れました。大事な部分にモザイクつきの教頭先生が真っ裸で仰向けに倒れています。右手に歯ブラシ、眉間に皺。これはまさしく遭難中で。
「あれから何時間経ったっけ?」
会長さんが時計に目をやり、キース君が。
「軽く二時間以上だな。下手すれば三時間近いだろう。これは救助に出掛けた方が…」
「猥褻物を陳列中のハーレイをかい? ぼくは触りたくないんだけれど」
「しょっちゅう悪戯してるだろうが! こんな時くらい、お役に立て!」
正月早々見捨てるな、とキース君に怒鳴られた会長さんは渋々と。
「…仕方ないねえ、せっかく宴会してたのに…。明日の朝も早いというのに、救助活動か…」
せめて一蓮托生で、と言われた意味を把握する前にパァァッと迸る青いサイオン。もしかして私たち、道連れですか? 教頭先生を救助するべく、出動させられるんですか~?
暖かい照明に照らされた教頭先生の家の洗面所。その照明は歯ブラシしか持たない教頭先生を容赦なく照らし、股間にしっかりモザイクが。間抜けな姿を取り囲むように出現した私たちを把握するにはギックリ腰は酷な状態で。
「う、うう…。ブルー、なんでお前が?」
私服に着替えた会長さんに覗き込まれた教頭先生、腰の痛みで脂汗。
「他のみんなも来ているよ。ぶるぅもね」
「かみお~ん♪ ハーレイ、ベッドに運ぶ?」
「う、うむ…。私一人ではどうにもこうにも…」
動けんのだ、と呻く教頭先生に会長さんは呆れ顔で。
「ゼルを呼んだら良かったのに…。でなきゃヒルマンとか、色々いるだろ」
「そ、それが…。年越しで宴会中なのだ。飲酒運転は出来んと断られた。エラとブラウは旅行中だし、他の連中にはこんな姿は見せられん…」
「やれやれ…。医者ならプロがいるのにねえ? ノルディは飲んではいないようだよ」
「あ、あいつに借りが出来るのは…。ううっ、いたたた…」
助けてくれ、と泣きの涙の教頭先生の腰に「そるじゃぁ・ぶるぅ」がヒョイとタオルを。
「えとえと…。なんでノルディはダメなの?」
「こ、腰は男の命でな…。ギックリ腰でこの有様だと知れたら最後、何を言われるか…」
「うーん…。君って、つくづく…」
馬鹿なんだねえ、と冷たく見下ろす会長さん。
「確かに、腰は男の命だけどさ。…肝心の時にギックリ腰になる心配は無いそうだよ? 使う筋肉が違うとかなんとか、そんな話を聞いたけど…。騎乗位で下からズンズンやっても平気らしいね、ぼくはギックリ腰になったことが無いから体験談ではないんだけどさ」
「き、騎乗位……」
ツツーッと教頭先生の鼻から溢れる鼻血。騎乗位って何か分かりませんけど、妄想が爆発したらしいです。会長さんは教頭先生を激しく罵り、柔道部三人組が大きな身体を抱え上げて二階の寝室へ。下着やパジャマも柔道部にお任せ、最後に「そるじゃぁ・ぶるぅ」が患部に大きな湿布を貼って。
「んーと…。貼り替えに来なきゃダメだよねえ…。ぼくでいい?」
「で、出来ればブルー……。いや、なんでもない!」
会長さんの氷点下の視線に震え上がった教頭先生は湿布の貼り替えを「そるじゃぁ・ぶるぅ」に、身の回りの世話は柔道部三人組に依頼しました。お正月で何かと忙しいだけに、お世話係の送迎だけは会長さんが瞬間移動でするようです。教頭先生、お大事に~。
ギックリ腰で寝込み正月になってしまった教頭先生。会長さんや私たちのために用意していた豪華おせちは、お世話係の「そるじゃぁ・ぶるぅ」と柔道部三人組が美味しく賞味。ある意味、無駄にはならなかったようで良かったです。会長さんも送迎ついでに失敬していたらしいですし…。
「いやはや、とんだお正月だったねえ…」
冬休みまで終わっちゃったよ、と放課後の「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋で零す会長さん。今日は始業式、闇鍋大会も開催されました。出席が危ぶまれた教頭先生の復帰で闇鍋は大いに盛り上がり、会長さんも満足だった筈なのですけど。
「…闇鍋だけでは、こう、イマイチで…。何か無いかな、ギックリ腰のリベンジ」
「まだ寸劇もあるだろうが! かるた大会の!」
どうせ良からぬ計画が、とキース君が突っ込むと、会長さんは。
「アレはもう決まっているんだよ。それに日も無い。ハーレイが欠席しないだけでも御の字でさ」
もっと他に…、と考え込んでいる会長さん。
「ギックリ腰を逆手に取りたい。腰を強調する方向で」
「コルセットとか?」
腰痛の時に嵌めるよね、とジョミー君。お父さんが腰を傷めた時にゴルフコンペがあり、コルセットを二重に嵌めて出たのだそうです。うん、コルセットは使えるかも! 腰痛用のヤツじゃなくって、ウエストを強調するためにグイグイ締め付けるあのタイプ!
「コルセットねえ…。ハーレイの体型で効果あるかな、余ってる肉は無さそうだよ」
筋肉ビッチリ、と会長さんは想像している模様です。私たちも考えたものの、教頭先生のガッチリした腰にコルセットを嵌めても締め付ける余地は無さそうな…。くびれが出来たら笑えるんですけど、残念無念…。
「そうなんだよねえ、くびれが出来たら立派な笑いものになるんだけどな」
あの御面相でウエストほっそり、と視覚の暴力に夢を馳せている会長さんですが、出来ないものは仕方なく…。ウエストがくびれた教頭先生、見てみたいですけど夢は夢。
「あの体型が邪魔するんだよね、ウエストを強調したくても…。それに冬だし、くびれを作っても意味なさそうだ。服ですっかり隠れてしまうよ」
だけどくびれは捨て難い、と会長さんは未練たらたら。そりゃまあ、見たい気持ちは充分に理解の範疇内です。教頭先生にほっそりウエスト、似合わないことこの上なし…。
会長さんの頭に叩き込まれた教頭先生のウエストのくびれ。紅茶を飲んでもケーキを食べても、そこから離れられないようです。今日のおやつはナツメヤシと蜂蜜のシフォンケーキ。ナツメヤシのドライフルーツ入りで、ふわふわのシフォンケーキに濃厚な甘さがよく合っていたり。
「うーん、ハーレイのウエストかぁ…。コルセット以外で強調ねえ…」
何かある筈、とケーキを頬張った会長さんの手がピタリと止まって。
「そうか、ナツメヤシ!!」
「「「は?」」」
教頭先生のウエストとナツメヤシがどう重なると? ヤシの実ってくびれてましたっけ?
「違う、違う、ナツメヤシの産地だよ! あっちの方にはベリーダンスがあるじゃないか!」
「「「ベリーダンス?」」」
「あの踊りはウエストを激しくくねらせるしねえ、ハーレイにはまさにピッタリかと」
いいアイデアを思い付いた、と会長さんの瞳がキラキラ。でも、あのぅ…。ギックリ腰をやったような人にベリーダンスは無理なんじゃあ?
「ああ、その点は大丈夫! ベリーダンスは腰痛の予防にいいんだよ。フラダンスと同じで」
「そういえば…」
シロエ君が人差し指を顎に当てて。
「家の近くのフィットネスクラブにフラダンスの教室がありましたっけ。たまにチラシが入るんですけど、腰を鍛えて腰痛予防と書いてあったような気がします」
「それで正解。腰を振ってるように見えるから腰痛になりそうな感じだけどねえ、腰痛になるのは基本の動きを守らない人! 腰を動かさずにステップを踏むのが本来の形。腰回りの筋肉が鍛えられるって聞いてるよ」
それと同じでベリーダンスも、と会長さんはニヤニヤと。
「あれこそ腰を傷めそうな踊りに見えるよね? でも動かすのは太股とか腹筋とかなんだ。そういう筋肉を使っていると腰の筋肉もしっかりフォロー! ギックリ腰の予防に役立つ」
ハーレイに是非やって貰おう、と乗り気になった会長さんですが…。ベリーダンスって女性の踊りじゃないですか? そもそも衣装もそういうヤツで…。
「甘いね、男のベリーダンサーもけっこういるんだよ。ハーレムパンツって言うのかな? 女性と似たようなズボンを履いてさ、上は裸かベスト一丁!」
これがなかなか素晴らしくって、と会長さんが見せてくれた動画では男性が腰をくねらせて踊っていました。いかついオジサンから美少年まで、けっこうダンサーいるんですねえ…。
こうして教頭先生のウエスト強調は腰の筋肉の強化を兼ねたベリーダンスということに。ギックリ腰が完治しないと激しい運動は出来ませんから、かるた大会が済んだ数日後に会長さんが招待状を。曰く、「君の腰の運動に協力したい」。うん、間違ってはいないですねえ、その通りですし。
「さて、ハーレイはどう出るかな?」
楽しみだねえ、と会長さんは自宅のリビングでソファに座って足を組んでいます。
「ぼくの家に来て、と書いておいたし、そろそろ来ると思うんだけど…」
「いいねえ、ついに決心したんだって?」
「「「!!?」」」
あらぬ方から声が聞こえて優雅に翻る紫のマント。な、なんでソルジャーが来るんですか~!
「え、だって。ブルーがとうとう決意したんだ、お祝いを言わなきゃどうするのさ」
「「「お祝い?」」」
なんのこっちゃ、と顔を見合わせる私たち。教頭先生にベリーダンスの稽古をつけるって、お祝いするようなことなんでしょうか? ソルジャーは「分かってないねえ」と首を振って。
「ハーレイの腰の運動に協力したい、と招待状を送ってるんだよ? ベリーダンスはその前段階! まずはしっかり腰を鍛えて、それからブルーとお楽しみ…ってね」
大人の時間に腰の動きは大切だから、とパチンとウインクするソルジャー。
「ブルーは今まで何を言っても却下の一言で済ませて来たけど、とうとうハーレイとヤる気になってくれたんだ。ここは盛大にお祝いしないと…。まずは決心、おめでとう」
「なんでそういうことになるのさ!」
「あ、もしかして気が早すぎた? 無事に結ばれてからシャンパンとかの方が良かったかな、それともお赤飯がいい?」
「どっちも思い切りお断りだよ!!」
ぼくはそんなモノは求めていない、と会長さんは怒り心頭。
「どの辺から覗き見してたのか知らないけどね、招待状は釣りだから! ああ書いておけば君と同じような勘違いをしたハーレイが来るし、それを餌にしてベリーダンスを叩き込もうと思っただけだし!」
馬鹿を踊らせるには餌が要るのだ、とツンケンと言い放つ会長さん。そっか、教頭先生宛の招待状は深読み可能な文章でしたか…。教頭先生、派手に勘違いをしちゃったかも?
何故かソルジャーまで乱入してきた会長さんの家のリビング。間もなく玄関のチャイムが鳴って、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が出迎えに。
「かみお~ん♪ ハーレイが来たよ!」
ピョンピョン跳ねる「そるじゃぁ・ぶるぅ」に続いて現れた教頭先生、心なしか頬を赤らめて。
「…すまん、遅れたか? そのぅ…。なんだ、色々と心の準備が…」
「そりゃ要るだろうね、ギックリ腰で大騒ぎだった後ではねえ…。それで自信はあるのかい?」
そこを確認しておきたい、と会長さんに訊かれた教頭先生は。
「う、うむ…。正直、あまり自信が無いのだが…。お前も協力してくれるそうだし、精一杯励む所存ではある」
「それは結構。君にマスターして欲しいのは腰遣いでさ」
「……こ、腰遣い……」
ウッと呻いて鼻を押さえる教頭先生。なるほど、ソルジャーが勘違いをしてだけあって腰の動きとやらは鼻血に直結するようです。会長さんはフフンと笑って。
「君はいわゆるド素人だけど、腰の遣い方は大切だ。なのに男の命と言える腰をさ、ギックリ腰で壊しているようではねえ…。真っ最中にギックリ腰になられてごらんよ、悲劇だよ? ならないと世間では言われてるけど、君の場合は腰遣いも知らない初心者だから!」
ぼくの立場はどうなるんだい、と突っ込まれた教頭先生はタジタジと。
「そ、それは大変かもしれないな…」
「大変なんてレベルじゃなくて! 天国から地獄へ真っ逆様だよ、中断した上に君の手当てと介護の日々! ブルーだったらどうするだろうね、ねえ、ブルー?」
いきなり話を振られたソルジャー、そこは流石の回転の速さ。
「えっ、ぼくかい? そりゃもう、介護はメディカル・ルームのスタッフに任せてトンズラだね。ついでにハーレイが完治した暁にはお詫びをこめてヌカロク超えをして貰おうかと…。もちろん特別休暇つき! キャプテン権限で最低一週間は欲しいね」
その間、基本はヌカロク超えでオプションも、と怪しげで意味が不明な単語をズラズラと羅列。つまり大人の時間の真っ最中にギックリ腰とは言語道断、罪を償うには身を持ってせよ、と強烈なジャブをかましたわけです。腰はそこまで大事なのか、と絶句する私たちを他所に、会長さんは。
「…ということでね、君には腰をしっかり鍛えて貰いたい。腰の遣い方もマスター出来るし、その道の達人になれるかも…。君もノルディを越えたいだろう?」
「もちろんだ!」
教頭先生は即答でした。テクニシャンとして名高いエロドクターことドクター・ノルディ。それを越えようとは、望みは高く果てしなく……ですね。
ベリーダンスが待つとも知らず、腰の運動と遣い方の勉強に来た教頭先生。鼻息も荒く闘志満々でいらっしゃいますが、会長さんから最初の指示が。
「それじゃ早速始めようか。まず、脱いで」
「…こ、此処でか? そ、そのぅ……」
人が大勢いるようなのだが、と教頭先生は私たちを見回してオロオロと。しかし会長さんは艶やかに微笑みながら。
「脱いでくれなきゃ始まらないし…ね。腰の動きが見えないだろう?」
「そ、それは分からないでもないのだが…。お前はそれで構わないのか?」
「構わないよ? むしろ歓迎」
「…そ、そうか…。ヘタレている場合ではなさそうだな…」
努力しよう、と教頭先生は脱ぎ始めました。まずは上着で、続いてシャツ。アンダーシャツも脱ぎ、ズボンのベルトを外した所で。
「…ブルー、お前は脱がないのか?」
「ぼくにも恥じらいってものがあってさ…。後で脱がせて」
「うっ…!」
教頭先生、鼻血、決壊。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が渡したティッシュを引っ掴むなり鼻に詰め込み、ズボンを脱いでステテコも脱ぎ捨て、残るは紅白縞だけとなりましたが。
「…御苦労様。紅白縞はちょっとアレかな、サイズ的に向いてなさそうだねえ…」
失礼、と会長さんが教頭先生の前に跪き、紅白縞のウエスト部分をクイと折り返し、更にクイクイ折り返して。
「…この辺までかな、これ以上折ると下の毛がはみ出しちゃうしね…」
「ブ、ブルー?」
何の真似だ、と耳まで真っ赤にして尋ねる教頭先生に「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「はい、ハーレイ! これを履いてね、ベリーダンスのズボンなの!」
「……ベリーダンス……?」
なんだそれは、と顔色を変えた教頭先生ですが、会長さんはニッコリと。
「腰の運動って言っただろ? それから腰の遣い方! 腰痛予防に最適なんだよ、ベリーダンスというヤツはね。見事に踊れるようになったら君の腰にも自信がつくだろ」
腰を見せるのがポイントだからズボンは腰骨の高さにね、と紅白縞を折り返した理由を説明された教頭先生、返す言葉も無いようです。ハーレムパンツは黒ですけれど、腰の周りに動きに合わせて揺れる金色のフリンジがキラキラと。会長さんのセンス、天晴れとしか…。
この日から始まったベリーダンスのハードな練習。教頭先生は平日の夜も会長さんの家に呼び付けられて踊らされまくり、土日は朝からみっちりと。入試期間中も容赦はなくて、バレンタインデーもお構いなし。当然のように私たちも練習見学でお付き合いです。
「もっとしっかり! 本場のダンサーはもっと滑らかに激しく踊るし!」
「…が、頑張ってはいるのだが…」
なかなか身体がついていかない、と悲鳴を上げていた教頭先生の踊りも見られるレベルになってきました。いい感じに腰がくねっています。もう何枚目か分からないズボンについたフリンジが妖しく揺れて、ガタイの良さと顔のゴツささえ気にしなければ妖艶とも言える雰囲気で。
「凄いね、完成されてくるとさ」
見学中のソルジャーが溜息を洩らしました。
「あの腰遣いで攻め立てられたら最高かもねえ、ヌカロクなんて目じゃないかも…」
ウットリ見詰めているソルジャー。
「最初は笑って見ていたんだけど、これはなかなか侮れないよ。ねえ、ブルー?」
「そこの外野は黙っていたまえ!」
あくまでギックリ腰の予防なのだ、と会長さんは釘を刺しましたが。
「ううん、やっぱりもったいない! 役立てない手は無いってね」
ちょっと待ってて、と言うなり消えたソルジャーが戻った時には何故か隣にキャプテンが。
「すみません。突然お邪魔いたしまして…」
そこでキャプテンの言葉は途切れ、視線は教頭先生の踊りに釘付け。上半身裸で腰をくねらせ、腕もくねらせての激しいダンスにキャプテンの口は開いたまま。それをソルジャーが肘でグイグイつつきながら。
「ね、セクシーな踊りだろ? セックスアピールって感じでさ…。もう見てるだけでも堪らないんだ、あの腰遣いで貫かれたら感じるだろうとドキドキなんだよ」
ベッドに誘いたい気持ちで一杯、と教頭先生に見入るソルジャーにキャプテンは顔面蒼白で。
「ま、待って下さい! こ、こちらのハーレイはあなたを満足させるには…」
「うん、現時点では童貞だけど…。あれだけ腰が遣えるんなら、初めてでもけっこうイイ線いけるかも、って思わないかい?」
「それは私が困ります!」
「…だったら、アレ」
マスターしてよ、とソルジャーはキャプテンに囁きました。あの腰遣いをマスターしなけりゃ浮気するんですか、そう来ましたか…。
ギックリ腰の予防なベリーダンスは想定外の方向へと。くねりまくる腰に欲望を掻き立てられたソルジャー、その腰遣いを大人の時間に導入したくなったのです。笑いものだった教頭先生、今やキャプテンを指導する立場。
「いいですか。上のお腹を突き出しましてね、下のお腹を引っ込めるんです」
「…こ、こうですか?」
「そうです、そうです。次は逆にですね、下を突き出して上を引っ込め…。ええ、お上手です」
こればっかりはサイオンで技をコピーは出来ませんので、と教頭先生。
「それでは筋肉の動きがついていきません。柔軟性も必要ですから、日々の鍛錬が重要ですよ」
今日から一緒に頑張りましょう、と教頭先生は燃えていました。ギックリ腰の予防だとばかり思ってらっしゃるみたいです。えーっと、キャプテンはギックリ腰になりましたっけ?
「ううん、ぼくのハーレイはやってないねえ…」
腰に関しては自信アリで、とソルジャーは至極満足そうに。
「ヘタレな部分はあったけれどね、腰を壊したことは無かった。ベリーダンスで更に鍛えて、腰の遣い方もググンと上達! 何日ほどでモノになるかなぁ、毎日レベルアップかな?」
楽しみだねえ、とゴクリと生唾を飲み込んだソルジャー、大声で。
「ハーレイ、うんと頑張ってよ!? 腰は男の命だからね!」
それに応えてキャプテンが腰を振りながら。
「分かっております、強くなれそうな気がします! この動きなら奥の奥まで!」
「ありがとう、狙って突いてきて! 感じる所を思いっ切り!」
「もちろんです!!!」
任せて下さい、とキャプテンは腰をクイクイと。教頭先生の顔が真っ赤に染まり、会長さんの方を振り返って。
「ブルー、どうなっているのだ、これは? ギックリ腰の予防じゃなかったのか?」
「ん? 君の場合は予防だってば、それ以上の何を望むんだい? ああ、そういえば…」
腰の運動に協力すると言ったっけか、と会長さんの妖しい笑みが。
「ベリーダンスの腕も上がったし、どうやら弟子もついたようだし…。御褒美に一発、やってみるかい? ぼくで良ければ」
「…い、一発……?」
「そう、一発!」
初志貫徹で行ってみよう! と会長さんがセーターを脱ぎ捨て、シャツのボタンを外し始めて…。
「………。上達したのは腰遣いだけだったみたいだねえ…」
ヘタレの方は直らなかったか、と仰向けに倒れた教頭先生を見下ろしている会長さん。ハーレムパンツを履いた逞しい身体は会長さんのストリップの前にあえなく昏倒、鼻血ダラダラ。
「当然だろうが、どう考えても!」
あんた知っててやっただろう、とキース君が噛み付き、ソルジャーが。
「大事な師匠が倒れちゃったよ、ぼくのハーレイはどうなるわけ?」
困るんだけど、とソルジャーは心底、残念そう。会長さんがクイと顎をしゃくって。
「君が勝手にレッスンに連れて来たんだろう! これからは家庭教師にしたら?」
「「家庭教師?」」
ソルジャーとキャプテンの声がハモッて、会長さんはクスクスと。
「ぼくの家を貸す義理は無い。君の世界が暇な時にさ、連行してって教えを請えば?」
「それ、いいね! こっちのハーレイの興が乗ったら3Pだって夢じゃないかも!」
ぼくのベッドは広いんだから、とソルジャーの瞳が輝いています。えーっと、3Pって何ですか?
「えっ、3P? 三人で楽しむことなんだけど…。今日はハーレイが倒れちゃったし…」
明日からお願いしようかな、とソルジャーが口にし、キャプテンが。
「そうですねえ…。3Pはどうかと思うのですが、腰遣いはマスターしたいですね」
頑張ります、とグッと拳を握るキャプテン。ギックリ腰の予防のためのダンスは大人の時間にとても役立つようですが…。教頭先生、あちらの世界への出張レッスン、無事に終える事が出来るでしょうか? 3Pとやらも気になりますけど、会長さんが止めない以上は放置でいいかと思いますです~!
腰には筋トレ・了
※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
男のベリーダンサーは実在しているんですよ、凄い美少年ダンサーもいます。
一見の価値がありますよ! …オジサンの方はイマイチですけど。
次回、2月は 「第3月曜」 2月16日の更新となります、よろしくです!
毎日更新の『シャングリラ学園生徒会室』では、作者の間抜けな日常を公開。
お気軽にお越し下さいです。ペットのウィリアム君もお待ちしてますv
実はウィリアム君、公式絵のキャプテン・ハーレイを使用…。
※毎日更新な 『シャングリラ学園生徒会室』 はスマホ・携帯にも対応しております。
こちらでの場外編、1月は駅伝中継の話で盛り上がっているようですが…。
←シャングリラ学園生徒会室は、こちらからv
※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。
シャングリラ学園番外編は 「毎月第3月曜更新」 です。
第1月曜に「おまけ更新」をして2回更新の時は、前月に予告いたします。
お話の後の御挨拶などをチェックなさって下さいませv
お騒がせだった水泳大会も済んで、シャングリラ学園は秋に向かってまっしぐら…と言いたいところですけど、まだまだ残暑で教室の窓は全開です。そんな中、1年A組に流行るもの。それはスーパーボールというヤツ。
スーパーボウルじゃないですよ? 海の向こうで熱狂的な人気を誇るスポーツイベントは季節違いの2月がシーズン。こちらはスーパーボールですってば…。
「おーい、行ったぞー!!」
「おうっ、任せろ!」
そりゃあっ、と卓球よろしく打ち返される小さなゴムボール。露店のスーパーボールすくいで男子たちが沢山掬ったそうで、朝の教室はスーパーボールが乱舞しています。あちこちへ飛んだり、壁や机で弾んだり。イレギュラーに跳ね返るボールにクラス全体が熱狂中。
「きゃあっ、また来たー!」
「そっちじゃねえってば、ちゃんと飛ばせよ!」
「無理、無理! 急に来るんだもん! キャーッ!」
男子も女子も入り乱れてのスーパーボール天国、誰が呼んだかスーパーボウル。朝のホームルーム前の予鈴が鳴ってもボールが飛び交い、グレイブ先生の靴音と共にピタリと止むのが毎日のお約束……だった筈なのですが。
「諸君、おはよう」
ガラリと教室の扉が開いた時、幾つかのボールがまだ宙に。ヤバイ、と証拠隠滅とばかりにパスする代わりに窓の外へと放り出されて…。
(ん?)
目で追っていたボールの一つが景気良く飛び、向かいの校舎で跳ね返りました。その勢いで隣にあった木の幹にぶつかり、再び校舎の壁にポーンと。あらら、ポンポン跳ね返ってる…。もっと勢いがつかないかな、と見詰めているとスポポポポーン! と弾んで私たちの教室がある校舎の壁へと。
(んんん?)
これは面白い、と眺めていればボールは二つの校舎の間を行ったり来たりで跳ねています。もしかしたら元の窓から戻ってきたりしちゃうかも? あらっ、あららら…。
「サム・ヒューストン!」
「………」
出欠を取っているグレイブ先生ですが、サム君も窓の外のボールを見ていて。
「サム・ヒューストン、欠席か!?」
「い、いえ、いますっ!」
すいません、とサム君が叫んだ瞬間、窓の向こうから飛び込んで来たスーパーボールがスッコーン! とグレイブ先生の眼鏡に当たって見事に吹っ飛ばしたのでした。
「………。諸君、これはどういうことかね?」
眼鏡を拾い上げたグレイブ先生、神経質そうにポケットから取り出したクロスで拭き拭き。怒りゲージがMAXなことは間違いなくて、1年A組、お通夜状態。問題のボールを投げたのが誰かは知りませんけど、心臓が止まりそうになっているに違いありません。
「…これは夜店で人気のスーパーボールというヤツらしいが…。何故これが此処にあるかは問題ではない。そこの特別生、七人組!」
へ? なんで話がそっちへ飛ぶの? キース君たちもキョロキョロしています。
「聞こえなかったか、お前たちだ! アルトとrは関係ない!」
「「「……え……」」」
どうなってるの、と互いに顔を見合わせる内に、グレイブ先生、ついに爆発。
「お前たち、ボールを見ていたな? ということは、ぶるぅの仕業に違いない。そるじゃぁ・ぶるぅの御利益パワーというヤツだ。ふざけるのも大概にしておきたまえ!」
肉声と同時に思念波での本音メッセージも飛んで来ました。
『無意識かどうかは知らんがね。サイオンでボールを操っていたな、お前たち!』
あちゃー…。そんなオチでしたか、さっきの弾むスーパーボール。と、いうことは、私たち…。
「全員、廊下で起立を命じる! 1時間目は私の数学だ。それが終わるまで、お前たち七人、廊下で直立不動。ついでに私語は厳禁だ!」
男子には水の入ったバケツも付ける、とグレイブ先生はカンカンで。朝のホームルームが終わらない内に私たち七人グループは廊下に立たされ、男の子たちは両手に水を満杯にしたバケツを提げる羽目になってしまいました。
『…なんでこういうコトになるわけ?』
晒し者だよ、と思念波で嘆くジョミー君。クラスメイトは気の毒がって来ませんけれども、他のクラスの生徒が授業前に廊下を移動しながら私たち七人を横目でチラチラ見てゆきます。特別生への遠慮も敬意もあったものではなく、噂を聞き付けて見に来る生徒も。
『俺たちの自業自得ってことになるんだろう。…残念ながら』
スーパーボールに気を取られていたことは間違いないし、とキース君が項垂れ、シロエ君も。
『…失敗でしたね。ぼくたちのサイオン、未だにヒヨコレベルですから…』
無意識にボールを操っていたか、と今頃気付いても後の祭りというヤツです。スウェナちゃんと私には視線が痛く、男子五人は両腕も痛く…。とんだスタートを切ってしまいましたよ、早く放課後にならないかなぁ…。
しっかり、がっつり晒し者になった涙の1時間目の授業。自分の授業が無かったらしいゼル先生が来て百面相をやらかして笑わせにかかり、ウッカリ吹き出してしまったばかりに男子のバケツに重石が追加。スウェナちゃんと私は首に『ごめんなさい』と大書した札を下げられました。
『…うう…。これって体罰……』
酷すぎるよ、とジョミー君が思念で呻けば、ゼル先生がニヤニヤと。
『お前たちは特別生じゃでな。普通の生徒と同じ基準を適用せんでも問題ないんじゃ、体罰、大いに結構じゃ! で、こんな顔はどうかと思うんじゃが?』
ほれ、と右手の人差指と中指を鼻の穴に一本ずつ突っ込み、左手で顎を掴んでグイと引き下げるゼル先生。こ、この顔は面白すぎです。でも笑ったら大変ですから、ここは耐えねば!
『…ちと、インパクトが足りんかったか…。やはりポーズも必要かのう?』
これでどうじゃ、とクイクイと腰を左右にくねらせ、『いやぁ~ん、ア・タ・シ!』とオカマっぽい響きの思念波が来たからたまりません。私たちはブハッと吹き出し、もう笑うしかなくなって…。
「まだ懲りないのか、馬鹿者ども!」
ガラリと教室の扉を開けてグレイブ先生がカツカツと。ゼル先生は大真面目な顔で「担任稼業も大変じゃのう」と首を振っています。グレイブ先生、騙されないで! 何もかも全部、ゼル先生が悪いんです~!
「何やら文句を言いたいようだが、心頭滅却すれば火もまた涼しという言葉がある。諸君はまだまだ我慢が足りない。…追加だな」
重石一丁、と男子のバケツに漬物石の追加。そんなモノ、何処から湧くのかって? シャングリラ学園には立派な調理実習室がありますからねえ、漬物石も沢山あるのです。スウェナちゃんと私が下げた札には『私が馬鹿でした』の文字が書き足され…。
「授業が終わったら刑も終わりだ。しかし、お前たちの刑が追加になる度に授業が中断したからな。幸い、次の時間は教室移動の予定が無い。休み時間まで授業を延長とする」
えーーー!!! それじゃ晒し者の刑も休み時間分の延長ですか! 他のクラスの生徒が来ちゃうし、男子の両腕もヤバイことになると思うんですけど~!
というわけで、朝っぱらから体罰1時間プラス休み時間分。心身共にダメージ大だった私たちは昼休みいっぱい食堂でグチり、午後の授業と終礼が終わるなり「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に直行しました。柔道部三人組も今日の部活はサボリだとか。
「かみお~ん♪ いらっしゃい!」
「やあ、今日は朝から散々だったねえ?」
見てる分には楽しかったよ、と高みの見物をしていたらしい会長さん。まさかあの時のスーパーボールに細工してたりしないでしょうね? 私たちが一斉に睨み付けると。
「何さ、その目は? 誓って何もしてないよ。君たちもサイオンを上手に使うようになったな、と感慨深く見ていただけで」
「うんっ! グレイブの眼鏡が飛んでいったの、凄かったぁ~♪」
面白かったよ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」も御機嫌です。
「それとね、ゼルの百面相も最高だったの! また見たいなぁ…」
「すまん、俺たちはもう勘弁だ。個人的に頼んで見てくれ」
両手にバケツで筋肉痛が、とキース君。普段から柔道部で鍛えていても、使う筋肉が別物だったらしいです。今日の男子は両腕プルプル、カップを持つのも辛いそうで。
「…なんでコーヒーをストローで飲まにゃならんのだ…」
だが持てん、とぼやくキース君の手はパウンドケーキを鷲掴み。フォークも持ちたくない気分だとか。それを見越してリンゴのパウンドケーキを用意していた「そるじゃぁ・ぶるぅ」は流石ですけど。
「くっそぉ…。こんな調子だと、夜も親父に怒鳴られそうだ」
「ああ、お勤めでヘマをするかもねえ…」
所作が色々と変になりそう、と会長さんはまるで他人事。
「それよりスーパーボールだけどさ。あれって応用が効きそうだよ」
「「「は?」」」
「グレイブの眼鏡が吹っ飛んでったろ、ああいう仕掛けで遊べないかなぁ…って」
「二度と御免だ!」
勝手にやれ、とキース君が怒鳴り付け、コクコク頷く私たち。ゼル先生の百面相と同じで、そういう遊びは個人的にお願いしたいです。しかし…。
「誰がグレイブでやると言った?」
もっと笑える人材が、と会長さんはニコニコと。待って下さい、体罰はもう御免です。他の先生でやるにしたって、一人で遊んで下さいってば~!
逃げ腰になる私たちを全く気にせず、会長さんが右手を閃かせると宙に一個のスーパーボールが。
「これをね、ハーレイの家の玄関を入った所にね…」
「「「え?」」」
教頭先生の家ですか? それでどうすると?
「浮かべとくのさ、ドアを開けたら当たる範囲に! 当たった弾みでボールが飛ぶ。それを君たちがやったのと同じ要領で床とか壁とかでバウンドさせてね、最終的にはハーレイの顔面を直撃ってわけ」
これなら体罰も無関係、と会長さん。
「ついでに顔面直撃の直後にメッセージカードを投げ込むんだ。ブルー参上、って」
「あんた、悪戯したいわけだな?」
要するに教頭先生に、とキース君が問えば、会長さんはパチンとウインク。
「もちろんさ。そしてカードにはこう書いておく。「今日はスーパーボールだけれど、ボールのサイズはどんどん大きくなっていく。レシーブするも良し、受け止めるも良し。頑張って、とね」
「れ、レシーブって…」
バレーボール? とジョミー君が尋ね、ニッコリ笑う会長さん。
「そりゃあもう! バスケットボールくらいまでグレードアップしなくちゃね。ハーレイの反射神経に期待だよ。君たちの筋肉痛が治った頃からスタートしようか」
今日のところは作戦会議、とポーンと飛んでゆくスーパーボール。壁で跳ね返って天井に飛び、テーブルに並んだカップやお皿を避けてポンと弾んで、また天井へ。
「ぼくにかかればボールくらいは自由自在だ。ハーレイも最初の顔面直撃は不意打ちだから無理だとしてもね、次の球からはキャッチするとか蹴り返すとか、それなりのパフォーマンスをね…」
トスを上げて思い切りスパイクとか、と会長さんの夢は膨らむ一方。バスケットボールが飛び出す頃には教頭先生の家の玄関脇にゴールネットが仕掛けられたり…?
「あ、それいいね! ボールに合わせて細工しようか、サッカー用とかバレー用とか」
見事キメたら拍手喝采、と会長さん。あのぅ……キメた場合は御褒美も出ますか?
「御褒美かい? そんなの必要無いってば! 毎日ぼくと遊べるんだよ、それで充分!」
なにしろ相手はあのハーレイ、と言われてみればそんな気も。教頭先生は会長さんにベタ惚れでらっしゃいますから、毎日遊んで貰えるだけで嬉しくなるかもしれませんねえ…。
1年A組で流行していたスーパーボウルは、私たちの体罰事件の翌日からピタリと鳴りをひそめました。グレイブ先生に見付かったが最後、廊下で処刑と恐ろしい噂が立ったからです。その一方でウキウキとスーパーボールを操っているのが会長さんで。
「ハーレイの家の構造からして、レシーブもトスもスパイクもいける。ネットでゴールというのもいいけど、ゴールネットを揺らした瞬間、花瓶が砕け散るのもいいよね」
ゴールに花瓶を置いておいても普段の調子で叩き込みそうだ、と会長さんは悪魔の微笑み。男の子たちの筋肉痛は順調に癒えて、今日はもう痛まないらしく。
「ふふ、いよいよ今日からボール作戦スタートだよ」
メッセージカードもちゃんと書いた、と会長さんがスーパーボールをポーンと「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋の壁へ。跳ね返ってポンと床で弾んで天井に飛んで…。いつ見ても鮮やかな飛跡です。
「ハーレイの帰りは下校時間より遅いしねえ…。作戦中はぼくの家で夕食ってことでどうかな? 御馳走するよ」
「「「さんせーい!!!」」」
御馳走と聞いて反対する人がいる筈も無く、私たちは早速家へ連絡を。遅くなっても瞬間移動で家まで送って貰えますから、こんな残業なら大歓迎です。
「それじゃ、こっちの片付けが済んだらぼくの家へね」
「かみお~ん♪ 今日はシーフードカレーを仕込んで来たの!」
海老もホタテもたっぷりだよ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」も嬉しそう。これから当分の間、毎日お客様が来るわけですから、おもてなし大好きだけに腕が鳴るというヤツでしょう。腕が鳴るとくれば教頭先生。スーパーボールの顔面直撃を食らった後にはどんな名プレーが飛び出すか…。
「珍プレーかもしれないよ? バレーボールを足で蹴り飛ばして、サッカーボールをドッジボールよろしく手でキャッチとかね」
その辺は見てのお楽しみ、とワクワクしている会長さん。まずは顔面直撃からです。教頭先生、きっとビックリ仰天でしょうね。
会長さんの家へ瞬間移動し、カレーの夕食。教頭先生の帰宅は七時すぎになり、私たちが「そるじゃぁ・ぶるぅ」のサイオン中継画面に見入っている中、愛車をガレージに入れて玄関の鍵をカチャリと開けて。
「ふう…。今日も孤独な食卓か…」
早くブルーを嫁に欲しいものだ、と独り言を呟いて家の中に足を踏み入れた途端。
「なんだ!?」
暗い家の中でポンっ! と音がし、ポンポンポーン…と弾む音が。音は天井へ、壁へ、床へと飛んで、最後に教頭先生の顔面にビシッ! と激突。
「うわっ!!!」
ポン、コロコロコロ…と転がる音で我に返った教頭先生、玄関ホールの明かりを点けました。会長さんのサイオン・カラーと同じ青のスーパーボールが上がってすぐの床で揺れていて、天井からヒラヒラと一枚の紙が。
「……???」
それを手に取った教頭先生の顔がパアッと明るく。
「そうか、ブルーの悪戯だったか…。明日からボールのサイズがグレードアップしていくのだな? ふむ…。暗くても見えるようサイオンで行くか、明かりを点けっぱなしにしておくか…」
自動点灯にするのもいいな、と教頭先生は思案中。会長さんと遊ぶためには電気工事とか電気代とかも気にしないということですか! なんと天晴れな根性なのか、と中継画面を見詰めていると、会長さんが。
「電気工事は今日すぐってわけにはいかないしねえ? これは点けっぱなしコースかな。明日は卓球の球でいくから、ハーレイが帰りつく前にネットを張ろうね」
玄関先の廊下の所に、と会長さんの方も教頭先生に負けず劣らず楽しげな笑顔。あの教頭先生にしてこの会長さん有りなのか、会長さんあっての健気な教頭先生か。いずれにしてもいいコンビでは、と思わないでもないですが…。
「誰だい、名コンビだなんて考えたのは!?」
「「「!!!」」」
すみません、と私以外のみんなもペコリと。…つまり名コンビだということですよね、誰から見ても…。いえ、ごめんなさい、会長さん! ワタクシが悪うございましたぁ~!
卓球の球の次の日は、それよりも一回り大きいゴムボール。お次が軟式テニスボールで…、といった具合にボールは大きくなってゆきます。毎日、玄関ホールの明かりを点けっぱなしにして出掛ける教頭先生、帰宅直後に飛び込んでくるボールを受け止めるのがお楽しみで。
「「「おおっ!」」」
今日は華麗にサッカーボールを蹴り飛ばしました、教頭先生。廊下の奥に張られたゴールネットにバスッと決まってナイスシュート! 会長さんとの遊びの時間が待っているとあって、教頭先生、ゼル先生から「最近、毎日楽しそうじゃの」と言われたりしてらっしゃるそうです。
「ふふ、ハーレイもすっかりボールに馴染んだようだね、明日は花瓶割りをして貰おうか」
目標があれば叩き込む筈、とニヤニヤしている会長さん。その翌日はバレーボールの出番でした。留守宅に瞬間移動で入り込んだ会長さんがネットを張って、少し向こうの廊下の真ん中に水を満たした大きな花瓶を。会長さん曰く、たまに教頭先生が貰う花束用だとか。
「あれでも一応、教頭だしねえ? 節目には大きな花束を貰うこともあるのさ、卒業生一同かとか、そういうヤツを。…それ以外で花束を貰うことなんて、まず無いね」
だから普段は納戸の奥に、と戻って来た会長さんがクスクスと。やがて帰宅した教頭先生、猛スピードで飛んで来たバレーボールをレシーブした上に素早くジャンプし、勢いをつけてスパイクを。ボールはネットの向こうへと飛び、花瓶が見事にガッシャーン! と…。
「「「うわぁ…」」」
やっちゃった、と肩を竦める私たちと時を同じくして、教頭先生の方も愕然と。流れ出す大量の水と、砕けて散らばる花瓶の破片。お片付けはかなり大変そうです。御愁傷様です、教頭先生…。
そうやって遊び続けたボール合戦も今日のバスケットボールでフィナーレの予定。ゴールネットを仕掛けてきた会長さんが鼻歌交じりに。
「ハーレイの顔が見ものだねえ…。シュートを決めたら大変なことになっちゃうものね」
「…あんた、相当悪辣だよな」
アレはないぜ、とキース君。ゴールネットの真下に教頭先生が大切にしている会長さんの写真入りの額が置かれているのです。シュートを決めれば、写真とはいえ会長さんの顔にバスケットボールを叩き付けてしまうというわけで。
「ぼくへの愛はその程度か、と思い切り責めてボール遊びはおしまいだよ、うん」
「「「………」」」
気の毒すぎる、と思いましたが、会長さんが延々とボール遊びを続けるわけがありません。こういうラストが待っていたのか、と中継画面を見守る内に教頭先生の御帰宅です。勢いをつけて飛んで来たバスケットボールを真上にトスしてジャンプ、脇の壁に取り付けられたゴールネットに叩き込み…。
「うわぁぁぁぁ!!!」
すまん、と会長さんの額に平謝りする教頭先生。額の前面はアクリルガラスだったらしく割れも砕けもしなかったものの、中で微笑む会長さんの写真にバスケットボールを叩き付けたことは事実。申し訳ない、と泣きの涙の教頭先生に向かって会長さんが思念波で。
『見ちゃったよ、今の。…何のためらいも無く叩き込んだね、ぼくにボールを』
「ち、違う! まさかお前の写真があるとは…。知らなかったんだ、本当だ!」
信じてくれ、と叫ぶ教頭先生ですけれど。
『さあ、どうだか…。君の反射神経の良さは毎日見せて貰っていたしね? ぼくの写真が置いてあることに気付かないとは思えないな』
「き、気付いた時には手遅れだったんだ、ゴールの下に見えたんだ!」
『見苦しいねえ、君のぼくへの愛の深さはバスケットボールをお見舞い出来る程度ってね。よく分かったから、遊びはおしまい。明日から電気代が安く上がるよ』
「待ってくれ、ブルー!」
このとおりだ、と教頭先生はバスケットボールを拾って天井に叩き付けました。跳ね返って来たボールの真下でキッと上を睨み、バスケットボールがボカン! と顔に。今の一撃は痛そうです。しかしボールをサッと拾うと、また天井へ、そして顔へと。
「ブルー、お前の気が済むまでボールを顔で受け止めよう。百発か? それとも二百発か?」
返事してくれ、とボールを投げては顔にぶつける教頭先生は既に鼻血が出ています。怪我が原因な教頭先生の鼻血はこれが初めてかも…。止めないんですか、会長さん? 止める気、全然無いんですか?
天井と顔面を往復するバスケットボールに身を晒し続けた教頭先生は結局、昏倒。いくら頑丈でも、やはり限界はあるものです。次の日、腫れ上がった顔で学校に現れた教頭先生、会長さんとのボール遊びが打ち切りになったショックも重なり、悄然とした御様子で。
「馬鹿だねえ、あそこまでしなくってもさ」
呆れ果てる、と放課後の「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋で笑い転げる会長さん。
「御面相がアレだろう? ゼルとブラウにあらぬ噂を立てられていたよ、ぼくの家を電撃訪問してフライパンで殴りまくられた、って」
「「「……フライパン……」」」
「信憑性の高い情報源だしね、ゼルもブラウも。…もうフライパンで決定だと思うよ、事実は名誉の負傷なのにさ」
庇う気は毛頭ないけれど、と会長さんはケラケラと。
「バスケットボールよりも音はいいだろうね、フライパン! クヮーン、グヮーンって響き渡って、読経のお供に丁度いいかも」
機会があったらフライパンをお見舞いしてみるか、と会長さんが指を一本立てた時です。
「響くっていうのはいいかもねえ…」
「「「!!?」」」
会長さんそっくりの声が聞こえて、優雅に翻る紫のマント。空間を越えて現れたソルジャーがソファにストンと腰を下ろすと。
「ぶるぅ、ぼくにも紅茶とケーキ」
「オッケー! 今日はね、かぼちゃプリンのタルトなの!」
ちょっと待ってね、とサッと出てくるタルトと紅茶。ソルジャーは早速タルトを頬張りながら。
「昨日のハーレイは可哀相だったねえ、あんなに必死に謝ってたのに…。二度と遊んであげないんだって?」
「最初からそういう予定なんだよ、顔面バスケットボールが予定外なだけ! それにあの程度の芸、オットセイでもやるからね」
鼻先でこうヒョイヒョイと、と会長さんが返すとソルジャーは。
「オットセイかぁ…。アレも効くよね、これはますますやらないと」
「「「は?」」」
何をやろうと言うのでしょう? そもそもオットセイが何に効くと?
「あ、知らない? たまにノルディにお小遣いを貰って買うんだよ。ぼくのハーレイが疲れが溜まった時なんかに飲ませてあげると、もうビンビンのガンガンで…」
「退場!!!」
さっさと帰れ、と眉を吊り上げる会長さん。そっか、オットセイって精力剤かぁ…。
会長さんが怒ったくらいでは帰らないのがソルジャーです。かぼちゃプリンのタルトをのんびり食べつつ、紅茶も飲んで。
「ホント、ハーレイが気の毒でさ…。なんとか浮上させる手は無いものかな、って昨日から考えていたんだよ。で、フライパンの音でピンときたんだ」
「何に?」
どうせロクでもないことだろう、と冷たい口調の会長さんですが、ソルジャーの方は得意げに。
「凄い名案だと思うけどなぁ…。こっちのハーレイは感謝感激、君は高みの見物ってね」
「どんな名案?」
「ボールがあちこち弾んでたのと、フライパンの響きの合わせ技! こう、刺激を与えると鳴く床なんだよ」
「なんだ、アレか…」
つまらない、と会長さん。
「鴬張りの廊下だろ? なんでハーレイが感激するわけ?」
「「「ウグイスばり?」」」
なんのこっちゃ、と首を捻ると、キース君が。
「知らないのか? マツカは知っていそうだが…。床板に仕掛けがしてあってだな、歩くとキュッキュッと音が鳴る。鴬の鳴き声に似ているから、と鴬張りだ。璃慕恩院にもあるんだぞ」
「へえ…。そんなのがあるのかい? ぼくはそっちは知らなかったな」
初耳だ、と言いつつ、ソルジャーは。
「鴬張りがあるんだったら、ぼくが言うのはブルー張りかな」
「「「ブルー張り???」」」
それこそ謎な言葉です。青い床板を張るんでしょうか? あれ、でも刺激がどうとかって…。
「分からないかな、鴬じゃなくてブルーの声で鳴く床のこと! キュッキュッの代わりにイイ声で…ね」
「ちょ、ちょっと…」
会長さんが青ざめてますが、イイ声って歌でも歌うんですか? 会長さんの声で歌う床?
「そうだね、歌うと言う人もいるね。だけど普通は啼くとかかな? つまりベッドの中でブルーが出す声のことで」
ベッドの中? それって寝言とかイビキなんじゃあ? いくら会長さんの声と言っても、教頭先生が喜びますか?
頭の中が『?』だらけの私たち。鴬張りは分かりましたが、ブルー張りの良さが分かりません。教頭先生が感謝感激って、会長さんのイビキや寝言でも…?
「うーん、とことん分かってないなぁ…。万年十八歳未満お断りだとこんなものかな」
「当たり前だよ!」
この子たちに分かるわけがない、と噛み付く会長さん。
「でも、よく考えたら使えそうだねえ、ブルー張り。…歩く度にぼくの声なんだ?」
「そう、絶品のよがり声! もう踏んだだけでイきそうな感じで」
絶対やってみる価値がある、とソルジャーは強気。なんのことやらサッパリですけど、会長さんも乗り気みたいです。
「ボールを散々受け止めまくった御褒美に、家中の床をブルー張りかぁ…。鼻血で失血死しそうだよ、それ。でなきゃ床を転げ回って大感激かな、右に左に」
「いいだろう? いいと思うよ、ぼくのお勧め! 鳴く床の仕掛けはサイオンでいけると思うんだ。残留思念を応用してさ、君の声を仕込んでおけばいいかと」
「その話、乗った!」
ブルー張りの床でハーレイに薔薇色の日々を再び、とブチ上げている会長さん。そんなにいいかな、ブルー張り…。寝言とイビキのオンパレードが? 私たちが顔を見合わせていると、ソルジャーがクスッと笑みを零して。
「違うね、そういう声じゃない。早い話が、ぼくがハーレイとベッドで過ごす時に出てる声! 君たちには理解不能だろうけど…。具体例で言えば、イイとか、イクとか」
「「「…イク…???」」」
その声の何処がいいというのだ、と謎は増えるばかり。教頭先生の夢と言ったら、会長さんがエプロンを着けて「行ってらっしゃい」「お帰りなさい」ってヤツですよ? 相当はしょりまくりだと言うか、言葉足らずと言うべきか…。
「分からないなら結果だけを見て楽しみたまえ。ねえ、ブルー?」
「そうだね、ブルー張りを仕掛けた家に踏み込んだハーレイを見学するのが一番かと」
どういう声を仕込もうか、と瞳を悪戯っぽく煌めかせている会長さんに、ソルジャーが。
「その前に君に演技指導かな、その手の声は出せないだろう? 万年十八歳未満とお子様がいるけど、ここは一発、気にせずに! まずは「イイ」から行ってみようか」
始めっ! とパン、と両手を叩くソルジャー。それから延々と始まった時間は妙な音声のオンパレードでした。もっと色っぽく、とか、艶っぽくとか熱い指導が飛んでますけど、これってどういう演技なのかなぁ?
ソルジャーも納得の演技が完成するまでに要した期間は三日間。満足の出来に仕上がったらしい会長さんの声を仕込むべく、ソルジャーと会長さんは教頭先生がお留守の家に二人で忍び込んでせっせと作業を。そして…。
「かみお~ん♪ ハーレイ、帰ってきたみたい!」
中継する? と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。会長さんが「頼むよ」と声を掛け、サイオンでリビングの壁に映し出された教頭先生のお宅では…。
「……孤独だ……。秋は独り身の侘しさが身にしみるな……」
この間まではブルーが仕掛けたボールが迎えてくれたのに、と背中を丸めて玄関の鍵を開ける教頭先生。バスケットボールを受け止めまくった顔はまだ少し腫れが残っています。
「ゼルとブラウにフライパンだなどと噂を流されたせいで、エラには不潔と言われるし…。ヒルマンは自分の立場をよく弁えろと説教をするし、ほとほと疲れた…」
こんな時にブルーが居てくれれば、と「お帰りなさい」の妄想を繰り広げているらしいのが分かります。大丈夫ですよ、教頭先生! 今日からはブルー張りとやらを施した家が暖かく迎えてくれると会長さんが言っていますし、ソルジャーも自信満々ですし!
「…ふう…。今日もボールは飛んで来なかったか…」
残念だ、と玄関ホールの明かりを点けた教頭先生が靴を脱ぎ、片足を床に乗せた時。
「あっ…!」
「?? …今、ブルーの声が聞こえたような気がしたが…」
気のせいか、と上がり込んだ教頭先生の足元から。
「あんっ!」
鼻にかかったような会長さんの甘い声。教頭先生の身体がビクッと震え、右足を恐る恐る一歩前へと踏み出すと。
「い、イイッ…!」
「…ブルー? なんだ、何の悪戯だ?」
いったい何処に隠れているのだ、と進めば更に会長さんの声が。
「あっ、ああっ、も、もう…」
「…??? どうなっているのだ、何処から声が…」
「や、やめ…! ひあぁぁぁぁっ!」
「ブルー???」
何処だ、と混乱しつつも教頭先生の顔は真っ赤でした。この意味不明な言葉の羅列に何か秘密があるのでしょうけど…。
耳の先まで赤く染めながら、教頭先生は会長さんを探しています。その間にもブルー張りとやらの床は鳴り続け、家の奥へと向かうに従って響く言葉もそれっぽく。
「き、来て…!」
「…何処なんだ、ブルー!?」
返事をしろ、とズンズン奥に進む間も床はアンアン声を上げたり、喘いだり。
「あっ、あんっ…。そ、そこ…」
「此処か!?」
バンッ! と扉を開いた部屋に会長さんはおらず、代わりに床がひときわ高く。
「ひあぁっ! き、来て、ハーレイ…!」
「ブルー、今、行く!」
ダッと駆け出す教頭先生にブルー張りの床は。
「やっ、やあぁぁぁっ! も、もっと……もっと奥まで…」
「???」
もっと奥まで、と指示されたものの、その先が無い教頭先生。現場は御自宅の一番奥の部屋、それ以上奥はありません。
「…シールド……なのか? それにしても…」
この声はどうにも堪らんな、と教頭先生の手が下に下がりかけ、ピタリと止まって。
「いや待て、何処かでブルーが見ていたら…。こんな姿を目にされていたら、この前のボールの二の舞で…」
「ふふ、ちゃんと分かっているんじゃないか」
その程度の理性はまだあったか、と会長さんが呟き、ソルジャーが。
「そりゃね、ブルー張りとは気付いてないし? だけどそろそろキツそうだよ」
ズボンの前が、とソルジャーの指摘。面妖な台詞を喋りまくる床は教頭先生の大事な所を直撃しているらしいです。えーっと、これがブルー張りの効果とやらというヤツですか?
「うん。今に耐え切れなくなって鼻血を噴くかと」
時間の問題、と会長さんが笑い、教頭先生の足がブルー張りの床をズンッ! と踏んで。
「い、イクッ…! ひ、ひあっ…。あぁぁぁぁぁぁっ!!」
ブワッと噴き出す鼻血の滝を私たちの目は確かに見ました。教頭先生は仰向けに倒れ、受け止めた床が艶っぽい声で。
「ああ…。んん……。ハー…レ…イ…。も、もっと……」
もっと愛して、と床が囁いた声は教頭先生には多分、届いていないと思います。それどころか明日の朝までに意識が戻るか、危ういトコだと思うんですけど~!
「やったね、ブルー張り、効果バッチリ!」
「ね、ぼくのお勧めは外れないよ」
これで当分楽しめそうだ、と手を取り合って喜ぶ会長さんとソルジャーと。罪作りなブルー張りの床が発する言葉は謎だらけですが、教頭先生にとってボール遊びよりも刺激的な仕掛けだということだけは分かりました。でも…。
「おい、あの床をどうする気だ?」
仕掛けの解除はしないのか、と問うキース君に、会長さんが。
「せっかく仕掛けたんだしねえ…。演技指導でしごかれまくった大事な声だよ、そう簡単に消したくないな。…ハーレイが出血多量で死にそうだとか貧血だとか、そうなってきたら考えようかと」
「それからでいいと思うよ、ぼくも。もっと仕掛けを増やすというのもいいかもねえ…」
いっそ壁とか扉とかにも、とソルジャーが唆し、会長さんの瞳も輝いています。教頭先生、こんな改造を施された家で明日の朝日を拝めるでしょうか? 家を出る前に再び失神、無断欠勤で厳重注意とか、そういう展開になりそうな気が…。
「別にいいだろ、君たちだって廊下に立ってたんだし」
「そうそう、あれが全ての始まりだったね」
スーパーボールの弾みすぎ、と笑い合っている会長さんとソルジャーに罪の意識は皆無でした。恐るべし、ブルー張りの床。甘い声やら喘ぐ声やら、踏めば踏むほど喋りまくる床が黙る時まで、教頭先生、鼻血を堪えて戦い続けて下さいね~!
建物で遊ぼう・了
※新年あけましておめでとうございます。
シャングリラ学園番外編、本年もよろしくお願い申し上げます。
ブルー張りのモデルの鴬張りは御存知でしょうか、歩くと床がキュッキュと鳴ります。
忍者対策って話ですけど、作者の耳には「軋んでるだけじゃあ?」という音にしか…。
鴬張りの床にするには高度な技術が要るそうですけどね!
このお話はオマケ更新ですので、今月の更新はもう一度あります。
次回は 「第3月曜」 1月19日の更新となります、よろしくお願いいたします。
そしてシャン学を始めて以来6年以上、私語を一切してこなかった作者ですが。
昨年末に心を入れ替えました、6年間もの沈黙を破って喋ってやろうと!
毎日更新のシャングリラ学園生徒会室にて喋っております、バカ全開な気がします。
『大いなる沈黙へ』って映画ありましたね、沈黙の方がマシだったかな…。
作者の日常を覗きたい方はお気軽にお越し下さいませ~v
※毎日更新な 『シャングリラ学園生徒会室』 はスマホ・携帯にも対応しております。
こちらでの場外編、1月は新年早々、煩悩ゲットのイベントとやらに怯え中…?
←シャングリラ学園生徒会室は、こちらからv